精神医療に関する条文・審議(その41)

前回(id:kokekokko:20050603)のつづき。初回は2004/10/28。
ひきつづき、昭和62年での精神衛生法改正です。

本会議会議録第4号(109衆昭和62年7月16日)
【前回のつづき】
また、いわゆる中間施設の問題につきましては、必要以上の長期入院の解消のための方策としての御提案であると存じますが、医療機関と家庭との間をつなぐ施設としては、今般の改正法案に盛り込んでおります精神障害者社会復帰施設を考えているところでございます。
 また、精神科ソーシャルワーカー臨床心理士等の資格制度化につきましては、他の医療関係職種との業務分野の調整、関係団体岡の合意形成等が十分図られることが必要でございます。精神科ソーシャルワーカーにつきましては、医療福祉士として資格法制化する方向で現在関係者の間で意見調整を図っているところでございますが、合意が得られれば法制化に努める所存でございます。
 また、保護義務者制度につきましては、監督義務、財産上の利益保護義務等を課した保護義務の内容、市町村長が保護義務者になることの適否等、種々御意見があることは十分承知をいたしておるところでございますが、我が国における家族制度とも密接に関連する事柄でもございまして、また、公衆衛生審議会においても引き続き検討を要すべき問題とされているところでございますことから、今回の改正では見直しを行わず、政府として引き続き検討に努めてまいることといたしておるところでございます。
 以上でございます。(拍手)

社会労働委員会会議録第11号(109衆昭和62年9月10日)
○斎藤国務大臣 ただいま議題となりました精神衛生法等の一部を改正する法律案について、その提案の理由及び内容の概要を御説明申し上げます。
 近時の精神医療、精神保健をめぐる状況には種々の変化が見られるところであり、精神医学の進歩等に伴い入院中心の治療体制からできるだけ地域中心の体制を整備していくとともに、多様化し、複雑化する現代社会において、広く国民の精神保健の向上を図ることが重要な課題となってきております。
 こうした諸状況の変化を踏まえ、国民の精神保健の向上を図るとともに、精神障害者の人権に配意しつつ適正な精神医療を確保し、かつ、その社会復帰の促進を図るため、今般、精神衛生法その他の関係法律を見直すこととし、この法律案を提出した次第であります。
 以下、この法律案の主な内容につきまして御説明申し上げます。
 第一に、精神保健の向上に関する事項についてでありますが、「精神衛生法」の題名を「精神保健法」に改めるとともに、その目的や国及び地方公共団体並びに国民の義務として精神的健康の保持及び増進その他の精神保健の向上に関する事項を盛り込むこととしております。
 第二は、精神障害者の人権の擁護並びにその適正な医療及び保護の実施のための措置に関する事項についてであります。
 まず、精神保健指定医についてであります。
 従来の精神衛生鑑定医制度を見直して精神保健指定医制度を導入することとし、精神医療についての一定の実務経験のほか厚生大臣等が行う研修の修了を新たにその指定の要件として加えるとともに、五年ごとに研修を受けることとする等の措置を講ずることとしております。
 次に、入院制度に関する事項についてであります。
 本人の同意に基づく入院を推進する見地から、これを「任意入院」として新たに法律上規定するとともに、保護義務者の同意によるいわゆる同意入院については「医療保護入院」として位置づけ、入院に当たって精神保健指定医の診察を要件とする等その適正な実施を確保するための措置を講ずることとしております。また、措置入院の解除につき精神保健指定医の診察を要件とする措置を講ずることとしているほか、精神科救急に対応するため「応急入院」を新設する等入院制度に関して必要な整備を図ることとしております。
 次に、入院患者の処遇に関する事項についてであります。
 入院の際には必要な事項を患者本人に告知することとするとともに、都道府県に新たに精神医療審査会を設け、入院患者の病状に関する定期の報告等に基づきその入院の要否等に関する審査を行うこととしております。また、入院患者に対する行動制限のうち、特に人権上重要な一定のものについてはこれを行うことができないこととするとともに、精神保健指定医の認める場合でなければ一定の著しい行動制限は行うことができないこととする等の措置を講ずることとしております。
 第三は、精神障害者の社会復帰の促進に関する事項についてであります。
 法律の目的等において、精神障害者の社会復帰の促進に関する事項を盛り込むとともに、日常生活に適応するために必要な訓練及び指導を行う生活訓練施設並びに自活のために必要な訓練と職業を与えるための授産施設精神障害者社会復帰施設として法律上規定し、都道府県、市町村、社会福祉法人その他の者がこれを設置することができることとしております。また、その設置の促進を図るため、国及び都道府県は施設の設置及び運営に要する費用を補助することができることとしております。あわせて、社会福祉法人、医療法人等が精神障害者社会復帰施設を設置することができるよう社会福祉事業法及び医療法の改正も行うこととしております。
 以上のほか、精神病者に係る公衆浴場の利用規制を見直すこととし、公衆浴場法の改正もあわせて行うこととしております。
 なお、この法律の施行期日は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日からとしておりますが、公衆衛生審議会への諮問に関する事項は公布の日からとしております。
 以上がこの法律案の提案理由及びその内容の概要であります。
 何とぞ慎重に御審議の上、速やかに御可決あらんことをお願い申し上げます。
○堀内委員長 以上で趣旨の説明は終わりました。
○堀内委員長 これより質疑に入ります。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。長野祐也君。
○長野委員 今回の精神衛生法の改正案において、精神障害者の人権問題が大きく取り上げられております。このことは私は大変大事なことであると思います。そしてそれ以上に大事なことは、その精神障害者にとって何が幸せかということであります。そしてこの原点を感情論でなくて、私は現実論として冷静に考える必要があると思います。精神障害者に対する十分な医療の確保、偏見の是正、ケアのための十分な社会復帰の施策の充実が今一番必要なことであると考える次第であります。
 そのような前提のもとに、自由民主党を代表して七点、厚生省の見解をただしたいと思います。
 まず第一は、患者にとってどの入院形式が適当かは、患者の病状に応じ、医師の判断により認めるべきであると考えますが、いかがでしょうか。
○斎藤国務大臣 精神医療については、患者が病識を有しない場合がある等の特殊性があり、そのため、任意入院のほか医療保護入院措置入院等の入院形態が規定されているところであります。患者の病状等に応じ、患者本人の医療及び保護を確保するため、最も適切な形態の入院が行われるよう改正法の運用に当たり十分留意していく所存でございます。
○長野委員 精神障害者の人権が必要であることは論をまちません。しかし、警察庁の調べでもわかりますように、一般国民の犯罪に比べまして、その数は必ずしも多くはないわけでありますが、その犯罪の内容を見てみますと、極めて悲惨なものが多いこともまた事実であります。したがって、精神障害者の人権を守るとともに、地域社会の人権もまた守られなければならないと私は考えます。
 今回の改正の要点の一つとして挙げられております任意入院につきまして、患者の要求があれば退院をさせなければならないこととしております。これによって起こる事故、事件等について厚生省はどう考えておられるのか。また病院管理者の責任があるかないかについて関係者は一様に危惧をしているわけでありますが、不幸にしてそのような事故があった場合の病院管理者の責任についてどのように考えておられるか、御見解を伺いたいと思います。
○斎藤国務大臣 精神障害者にかかわる痛ましい事件は、社会にとってもまた精神障害者やその家族にとっても極めて不幸なことであり、ぜひとも回避されるべきものと考えております。
 改正案におきましては、法律に措置入院の判定基準を置く等措置入院の適正な運用を図ることに加え、応急入院制度を新設するなど、入院制度の整備を図るとともに、精神障害者社会復帰施設の促進等社会復帰体制の整備を図ることとしているところでございます。今後ともそのような事態が生ずることのないよう厚生省としてもできる限りの努力をしてまいる所存でございます。
 また、病院管理者の責任についてでございますが、司法の問題であり、精神衛生法上の問題ではないと存じますが、一般論として言えば、任意入院は本人の意思により入退院するものであり、申し出による退院後に発生した事故につきましては、病院側によほどの落ち度がない限り事故について病院の開設者が責任を問われることはないものと考えております。
○長野委員 今回の改正案におきまして、入院患者に対する告知が義務づけられております。患者の人権に配慮したものとして望ましいものであると私は考えますけれども、関係者のお話を伺いますと、入院時、患者の中には全く病識がなくて、診察の時点で不安や興奮状態にある人もいるということであります。こういう場合に告知をすることでかえって患者の病状の悪化を招くことが懸念をされます。そこで、このような場合には、本人の病状回復を待って適当な時期に告知をすることが適当だと思いますが、見解を伺いたいと思います。
 また、今回の改正案において精神病院管理者に対する罰則の強化、新設が多く見られるわけであります。今回の改正案で新設をされます罰則は、すべて事務手続上のものでありまして、医療法、医師法等の例を見ましても、このような事務手続上のものまで罰則を新設する必要はないと私は考えます。病院関係者の間では、医師が日常患者の医療と保護に専念をできるようにもっと医師の良識を信用してほしいという声が強いようであります。これらの不適切と思われる罰則を削除すべきだと思いますが、いかがでしょうか。
 さらに、現行精神衛生法では、措置入院患者を入院させるための病院をあらかじめ知事が指定をすることとし、その取り消しは専ら知事の権限で行われることになっております。この際、今回の改正案において各都道府県に精神保健審議会が設置をされたことでもありますので、取り消しの事案が生じたときは、指定病院の設置者に十分弁明の機会を与えた後、改正案第十三条の地方精神保健審議会の意見を徴した結果に基づき措置すべきものだと考えますが、以上三点についてまとめて大臣の御見解を伺います。
○斎藤国務大臣 告知義務、罰則、指定取り消しの三点についての御提案の趣旨は、傾聴に値する考えであると思います。
○長野委員 時間の関係で、あと四点まとめて伺います。
 質問の第四は、措置入院の入院基準を国が策定する必要はないのではないかと思います。仮にあるとしましても、ガイドラインで十分ではないかと思いますが、御見解を伺います。
 質問の第五は、改正案検討の段階において、公衆衛生審議会の精神衛生部会の審議が重要な役割を担ったと思いますが、この精神衛生部会のメンバー構成におきまして、民間精神病院の委員が十七名の委員のうちわずかに一名であります。大学、国立、公立病院からは精神科医師が六名入っていることを見ましても、委員構成が不均衡であると私は思います。今後さらに政令、省令策定の段階で精神衛生部会の意見を聞くことも多いと思われますが、この際、委員構成について再検討をされるべきだと思いますけれども、いかがでしょうか。
 今回の改正により、精神科医療においてマンパワー養成及び施設改善、社会復帰施設等負担が大きくなるわけでありますが、これについて財政上特別な措置を配慮すべきであると思いますが、御見解を伺います。
 最後に、今回の精神衛生法の改正案には、すべての関係者において多くの意見があります。したがって、本法案を施行した後に再検討を必要とするもの及び今回の改正に間に合わなかった事項もあることでありますから、数年後見直しを行い、よりよい精神衛生法にしていく必要があると思いますが、大臣の御見解をまとめて伺います。
○斎藤国務大臣 まず、措置入院の判定基準でございますが、精神障害者の人権確保及び医療保護の確保の観点から知事が行政処分として行う入院措置が自傷他害のおそれという要件に関する一定の基準のもとに適正に行われる必要があること、またさらに、全国の措置傘のばらつきを是正することが必要であること等の理由から策定することとしたものでございまして、御理解をいただきたいと思います。
 判定基準の策定に当たりましては、公衆衛生審議会の意見を聞くこととされておりますが、その際、精神医療の現場の意見を十分聴取し、適切なものといたしたいと考えます。
 二番目の公衆衛生審議会の委員構成でございますが、精神障害者の多くは民間病院に入院している現状を踏まえ、御指摘の点については前向きに十分検討をいたしたいと思います。
 社会復帰施設等に対する財政上の措置でございますが、今般の法改正に合わせて、今年度予算においても、精神障害者関係予算の充実を図る等必要な予算措置を講じているところでございます。今後も、今般の改正の趣旨を実現すべく、財政面においても厚生省としてできるだけの努力をしていきたいと考えます。
 最後に、法律の見直しの件でございますが、改正法施行後においても、精神障害者の定義の問題、いわゆる保護義務者にかかわる問題等今後に残された問題もあり、改正法施行の状況を見ながら、さらに検討を加え、必要に応じ所要の措置を講じていく必要があると考えております。
○長野委員 どうもありがとうございました。
○堀内委員長 村山富市君。
○村山(富)委員 今回の精神衛生法の改正は実に二十二年ぶりに改正されるのでありますが、今回の改正がなされるようになりました背景は、今さら申し上げるまでもないと思いますが、八四年三月の宇都宮病院事件が契機となっている。これが国連の人権小委員会などでも取り上げられ、国際的な批判を浴びるようになったというところにあろうかと思うのです。
 繰り返して申し上げるまでもないのですけれども、八三年の十月、我が党は、宇都宮病院に五年三カ月の長きにわたり拘禁をされてきた方から、同年四月二十五日、同病院新二病棟における無資格の看護人など四名による患者さん、当時三十二歳に対するリンチ殺害事件、この事実に関する生々しい訴えを受けたのであります。
 この訴えの中で我が党が最も衝撃を受けましたのは、この惨劇が当時の新二病棟の全患者と職員約六十名目撃のもとで行われたことであり、かつこれだけの目撃者がありながら、事件発生後六カ月が経過しているにもかかわらず、この人によって一報がもたらされたのみであり、また我が党のその後の半年にわたる事実確認作業によらなければ、これが宇都宮病院事件として公にされることがなかったということであります。
 さらに、この確認作業の最中の同年十二月三十日に、今度は当時三十五歳の患者さんが、これまた無資格の看護人などによりリンチ殺害されていたということであります。法治国と言われ、治安のよい国、裁判所、司法のしっかりした国としてすぐれている我が国でなぜかかることが起こったのか。その原因を明らかにし、制度的に二度とこういうことが起こらないようにする、これが今回の改正の大きな目的だと思いますが、大臣はどのように考えておりますか。
○仲村政府委員 精神病院に入院されている患者さんの人権侵害が生ずることは、まことに遺憾なことでございまして、このような不祥事件が発生する要因といたしましては、我が国の精神病院が従来伝統的に閉鎖病棟が多い、あるいはそのために入院患者の通信、面会の自由が必ずしも保証されていないというような閉鎖的な処遇の問題、あるいは入院患者からの調査請求制度等、人権確保のために機能する制度が十分に整備運営されていないこと、さらには入院患者に対します外部からの病状審査、実地審査等適正な医療及び保護の確保を図るための手だてが十分に行われていないこと等が今御指摘のような事件が起こった背景として私ども考えております。
○村山(富)委員 今日の日本における精神衛生行政の問題点として、例えば措置入院、同意入院など強制入院を主体に収容と隔離を中心とした制度であること。この結果、地域医療、社会復帰などがまともに問題にされてこなかったこと。精神障害者に対する差別と偏見が強く平等な人格としての扱いがなかった。したがって、医療法上も特例などにより差別をされ、例外規定によって処理されてきたこと。また入院に当たっても、本人の意思が無視され、入院中の生活についても医師の裁量権に基づく無制限の行動制限が許されることになったこと。病院の経営についても、国と地方自治体によらぬ圧倒的多数を民間の精神病院にゆだねられてきたこと。予算の措置についても、入院費が大半を占めることになり、この面からも社会復帰の可能性がはばまれてきたこと。地域医療についても同様であります。
    〔委員長退席、浜田(卓)委員長代理着席〕
 このようなことがバックになって、大部分の患者がかぎのかかった閉鎖病棟に入れられ、通信、面会の自由が奪われ、弁護士に依頼する道も断たれ、密室化が促進された。この結果、精神病院内部における不祥事が続発する土壌がつくられてきたというふうに私は考えるのであります。私どもは、精神病院の不祥事件はこのような極めて構造的なものであり、宇都宮事件はその氷山の一角であるというふうに、これまで指摘してきたところでありますが、今回の改正でこのような不祥事が再び起こることがないかどうか。人が殺されたりけがをさせられる、少なくともこういう不祥事がなくなる、この点責任を持って答弁ができるのか、大臣の見解をお聞きしたいと思うのです。
○斎藤国務大臣 今回の改正案では、患者の人権の擁護を図りつつ適正な医療と保護を行うという観点からの改正を行ったわけでございます。
 その主な点を申し上げさせていただきますと、第一点は、本人の同意による任意入院という制度を新たに法定化いたしたものが一点であります。
 第二点といたしましては、精神保健指定医制度を設けまして、任意入院以外の本人の意思によらない入院につきましての入院の適否、また著しい行動制限等について、この指定医の判断によらなければならないことといたした点であります。
 第三点といたしましては、すべての入院患者に退院や処遇改善の請求権を認め、措置入院及び医療保護入院中の症状についての定期報告を義務づける、これらを審査するために都道府県に精神医療審査会というものを設置することといたしました。
    〔浜田(卓)委員長代理退席、委員長着席〕
 第四点といたしましては、信書の発受の制限や行政機関職員との面会の制限等厚生大臣の定める行動制限については、これを行うことができないということといたしたところであります。
 これらの改正を行いまして、精神障害者の人権の確保を推進し、今後このような事件を防止するよう配意いたしておるところでございます。
○村山(富)委員 私は先ほど申し上げましたけれども、やはりいろいろな構造的要因がある。そういうところをお互いに厳しく受けとめて、正しい認識をしておかないと、せっかく改正しても効果がないと思われますので、あえて申し上げるわけでありますが、少なくともこの宇都宮事件というのは大変センセーショナルな事件であったと思うのです。それだけに、こういう事件は恐らくなくなるだろうと私どもは期待しておりましたけれども、その後もこうしたような事件に関する訴えが後を絶たない。死亡事件の原因となる患者への看護人などによる暴行事件などもあるやに聞いております。
 昨年二月、愛媛県大洲市における静心園大洲精神病院の患者死亡事件に関し、地元警察署が現場検証並びにES器具などの検査を行ったと聞いているわけです。この事件は、警察は院長初め関係者からも事情聴取をしているようでありますが、警察庁からこの事件の内容や現場検証の状況、その結果等についてお聞きしたいと思うのです。
○古川説明員 お答えいたします。
 ただいまお尋ねの件につきましては、愛媛県警からの報告によりますと、昭和六十一年二月八日、愛媛県大洲市内所在の静心園大洲精神病院に入院中の当時三十六歳の男性が同病院内において死亡したというものでありますが、本件につきましては、大洲の精神病院で電気ショック治療中に患者が死亡したという情報がありまして、所轄の大洲警察署が承知したわけであります。
 同署で調査した結果、先ほど申しましたように、同病院に入院中の三十六歳の男性が死亡しているということが確認されたわけであります。通報内容等から医療過誤の疑いもあるのではないかということで司法解剖に付しましたところ、死因は頭蓋骨骨折によるクモ膜下出血等に基づく脳機能麻痺によるものと認められたところから、自傷による可能性と同時に他為による可能性もあると判断しまして、カルテ等の捜索、差し押さえ、病室等の検証並びに病院関係者等からの事情聴取等所要の捜査を推進してきたところであります。しかし、他為によるものか、自傷によるものかを断定するに至らず、現在なお引き続き捜査中であると聞いております。
○村山(富)委員 この病院は、聞くところによりますと、数年前にもESにより二人の患者が死亡したと言われておるわけでありますが、そういう事実はあったのかどうか。
 それから、具体的な内容については、私は時間の関係もありますから省略しますが、伝え聞くところによりますと、先ほど申し上げましたように、この病院ではESが乱用されておると訴えられておるわけです。普通一般の精神病院なんかでは、今日よほどのことがなければESは使用しないと聞いていますし、外国では第三者機関に相談をしてでなければ、主治医による判断ではESは使えないというふうになっている国もあるように聞いておるわけです。厚生省の方でこの病院のそうした状況についてもし承知をしておれば、お聞かせいただきたいと思います。
○仲村政府委員 お尋ねの死亡事件については、私ども残念ながら承知しておりませんが、電気ショック療法につきましては、治療指針にも認められている治療法でございますけれども、これの乱用ということがあるとすれば、やはり適正な医療という観点からも問題ではないかと考えられます。したがいまして、御指摘の病院につきまして、今後都道府県とも協議いたしまして、実態の把握に努力してみたいと考えております。
○村山(富)委員 また、大阪にあります桐葉会木島病院では、これはもう事件になって解決しているわけですが、福祉事務所の職員がこの病院から車や金をもらって患者を回したり、患者の保護者や支払い能力の有無を十分に調べることをせずに、生活保護扱いとして病院側にとって取りはぐれのない医療扶助を支給する便宜を図った、こういう事件もございまして、これはもう裁判も終わり、医師としてあるまじき行為として有罪判決が出ているわけです。こうまでして患者を病院に回してもらわなければならぬというようなところに今の精神病院の置かれている体質があるのではないか、こういうところにまた問題があるのではないかと私は思うのです。また、この病院では必要以上に点滴がなされたといったような訴えもいろいろ来ていますけれども、まあ時間の関係もあって私は触れませんが、少なくともこういう事件が後を絶たないということは、先ほどから指摘しておりますように、今持っておるいろいろな構造的要因、原因がある、そういう構造的要因を直していかなければ、私は直っていかないだろうと思うのです。こういう現状置かれている問題点をお互いに正しく厳しく認識し合う、そこから出発していかないと、この改正案というものは本当に効力を生んでいかないというふうに思うので、そういう問題についての大臣の見解を聞いておきたいと思います。
○斎藤国務大臣 確かにこれまでの精神医療における入院措置というものが拘束的な部分が非常に多うございます。これに対して、今回の法改正によりまして、人権の擁護という点に重点を置いて、これらについても適正な措置が行えるよう、そしてまた本人の入院に対する自由な意思もしくは同意による任意入院というようなものを創設をし、できるだけ開放的な入院の状況というものが生まれることが望ましいというふうに考えております。
○村山(富)委員 今幾つかの病院の問題点について私は述べたわけでありますが、すべての病院がこういうことをしているとは私は決して思いません。いろいろな悪条件を乗り越えて、一生懸命苦労されて良心的にやられておる病院もたくさんあると思うのです。しかし、先ほど来申し上げておりますように、やはり今持っておる問題の中にこういう事件が起こってくる要因がある。そこらをやはりきちっととらえておかないと、なかなか問題が残っていくのではないかというふうに私は思いますから、その点を強調して申し上げておきたいと思うのです。
 そこで、私どもはこの法案の審議に際して、全家連の皆さんやあるいは法律関係者の皆さん、それからまた精神病院で働いている皆さんの意見等々たくさんいろいろ聞かせてもらったわけです。そういう意見を総体的に見て、私は、今度の改正案が先ほど来申し上げておりますように、人権を尊重するとかあるいは社会復帰のための前向きの姿勢を示すとかいうような面で、今持っておる精神衛生法の体質の殻を破って前向きに進んでいこう、こういう姿勢であることについては一定の評価をしながら、我が党としてこの法案には賛成をしたいと思うのです。しかしこの法案が、今申し上げましたような意味で、皆さんの期待にこたえて本当に前向きに効果の上がるような運営ができるかというようなことから考えますと、若干の問題点もあると思いますので、そういう点に関連をして、幾つかの問題を提起をしながらお尋ねをしたいと思うのです。
 第一に、今回の改正の一つの大きな柱としては、任意入院についての問題があると思うのです。この任意入院というのは患者を開放処遇することが原則であります。日精協の五十八年度の調査によって見ましても、開放処遇のできるものが三〇%、病院・地域精神医学会の調査では、入院時六〇%が自由入院が可能である、その他の四〇%についても、一カ月後には大部分が自由入院に移行が可能であるというふうに言われているわけです。私はこういう実態に照らして考えますと、開放病棟の拡大等については、計画的にやっぱり進めていく必要があるというふうに思うのですが、こういう問題についての見解を承りたいと思います。
○仲村政府委員 精神病院の入院患者さんに対しまして開放的処遇を行うということは、治療効果の上からも好ましいわけでございますし、患者さんの社会復帰を促進させるという点からもよろしい。特に患者さんの人権を確保するという観点からも望ましいということで、御指摘のとおりだと思うわけでございます。
 しかし、御承知のように、入院患者さんの処遇の開放化というのは、病院職員の質量両面にわたります充実を図るという必要もございますし、病院の所在いたします地域社会の御理解も十分に得ていく必要があるというふうに考えておりますので、直ちにこれを行うというのは非常に難しい面もあると考えられます。しかし、私どもとしては、その必要性を認めるわけでございますので、関係者の御理解を十分にいただいて、開放化に伴う困難を軽減させながら、御指摘のような開放化につきまして着実にその推進を図ってまいりたいと考えております。
○村山(富)委員 今度の改正は、先ほど申しましたように、任意入院による患者の人格を尊重する、人権を尊重する。それからもう一つは社会復帰の道を開く。この社会復帰につきましては、口で言うほど簡単なものではなく、やっぱりいろいろな悪条件があると思うのですね。
 例えば、まだまだ社会には正しい理解を持たれておらない。したがって、差別や偏見のある中で、家族が退院した者を引き取りたくとも引き取れないという状況もあるのではないか。あるいはまた親たちが高齢になって引き取ることが不可能である、こういったようなこともあろうかと思うのです。したがって、社会復帰を本当に実現させるためには、やっぱり公的に対応していくことが大事ではないかというふうに思うのですが、この社会復帰と、これに必要な施設づくりを国及び地方公共団体が積極的にみずからやっていくということが必要だと思うのですが、そういうことについての見解を聞いておきたいと思うのです。
○仲村政府委員 精神障害者の社会復帰の促進のために、地方公共団体が積極的に取り組んでいただくということは、おっしゃるように不可欠でございますし、法制化を行いたいとしております精神障害者の社会復帰施設の整備につきましても、地方公共団体の積極的な取り組みが求められるわけでございますけれども、地方公共団体につきましては、例えば人口の少ない地域でございますとか行財政能力の点もございますし、そういう観点で一律的に設置を義務化するというのは問題のところもあろうかという御意見もございました。同時に、社会福祉法人でございますとか医療法人等の民間の主導による整備も望ましい面があるということも御指摘がございましたことで、法律では一律的に義務づけることはしなかったわけでございますけれども、御指摘のような趣旨は、私どもとしても今後さらに必要だということで、いろいろな面から私どもとしても努力を重ねたいと考えております。
○村山(富)委員 私は、やっぱり精神病院なんかに入院した患者さんが長期入院しなければならぬということになるのは、もちろんその人の病状もあるかもしれませんけれども、しかし社会復帰をするにしても、受け入れる施設がないとか、あるいは社会復帰してもなかなか生活ができないとか、あるいは家庭的にいろいろな問題があるとか、いろいろな要因があろうかと思うのです。そこで、そういう患者さんが退院した後、地域社会で生活を営みつつ医療が受けられる、こういう地域医療の体制をつくることも、また必要ではないかと思うのです。しかし、日本の場合は精神衛生対策費を見れば明白なように、その九〇%以上が医療になっているわけです。これまで社会復帰や地域医療対策費は皆無に等しいわけです。世界の先進国では、この地域医療が主流になっておる。二十年前日本に来られたWHOのクラーク博士は、既に二十年前にそういう勧告をされているというようなことも聞いているわけですが、入院中心主義から地域ケア、地域医療への移行を図る、このために地域ケア、地域医療、福祉ネットなどの社会復帰のための整備五カ年計画といったようなものをつくって積極的に推進をしていくということが大事ではないかと思うのですが、こういう問題についてどのような見解を持っているか、お尋ねしたいと思うのです。
○仲村政府委員 御指摘のとおり、社会復帰施策を推進するに当たりまして、長期的な展望に立った計画というのがあれば非常によろしいかと考えるわけでございますが、今も御指摘ございましたように、精神医療の医学的な側面が進展すると同時に、入院から外来中心の医療へ流れが変わりつつあるという一方の流れと同時に、御指摘のように、地域サイドの問題、地域ケアでございますとか地域医療でございますとか福祉サイドとの連携、そういう点で確かに私ども日本の社会がおくれをとっておったということも事実でございます。したがって、私どもといたしましては、いろいろの側面から御理解を得ながら、この社会復帰施策を進展させてまいりたいわけでございますけれども、地域住民の理解をいただく問題でございますとかマンパワーの不足の問題といういろいろの要素があるわけでございまして、現在直ちに計画的整備というわけにはまいりません。いろいろの施策、それは予算面に限らず、国民の責務でございますとか理解度を高めていただくというふうなことでのソフトの部分も含めまして、いろいろ地域で地域精神保健対策として展開させるようなことも含めながら考えてまいりたいと思います。
○村山(富)委員 同時に、病院を退院されて、そしてどこかで集団で住宅に住むとかあるいはまた授産場に通うとかいろいろあるわけでしょうけれども、そういう方々のために、病院の外来あるいは診療所の機能等々を高めてもらって、夜間診療所などを地域的に増加することがまた必要である。家庭に帰っても必要があれば外来で診てもらえるとか診療所に行けるとかあるいは相談に応じてもらえる、そういうことがやはり必要ではないかと思うのです。通院者が通院を中断するようなことのないように、やはり退院後の医療保障というものも、今申しましたように、しっかり考える必要があるし、同時に訪問看護なんかも欠かせない大事なことではないかというふうに思うのです。私は、外来診療費あるいは訪問看護料なんかの思い切った引き上げをやって、そういうことが十分可能になるような手だてを講ずる必要があるというふうに思うのです。
 そこで、外来診療及び訪問看護体制の強化を図ることが必要だというふうに私は思いますもので、そのために有効な措置を講すべきである。今申し上げましたように、例えば外来診療費や訪問看護料などの思い切った引き上げといったような措置も講じて、そういうことが可能になるような手だてを講じていくということが当面大事なことではないかというふうに思うのですが、こういう点についての見解も、この際聞いておきたいと思うのです。
○仲村政府委員 先ほども申し上げましたように、精神医療は、従来の入院中心の治療体制からできるだけ地域中心の体制に整備を図るということで、今後変えていく必要があるわけでございますので、精神障害者の社会復帰を促進するという観点からも、同時に重要な課題だと私ども考えております。
 外来診療をその地域で気軽に受けられるということ、あるいは訪問看護の体制が整備されるということは、まことに必要なことだと考えておるわけでございまして、例えば集団精神療法でございますとか精神科のナイトケア等、従来から診療報酬面の配慮によっても外来診療に対する経済的裏づけを行ってきたわけでございますが、引き続きそのような方向での努力を保険当局にお願いすると同時に、今ございました訪問看護の実施の問題でございますとか保健所によります訪問指導などを含めまして、地域精神医療の拡充に努めてまいりたいと考えております。
○村山(富)委員 社会復帰あるいは退院後家庭におって治療を受けるとかいろいろなことが必要だと思うのです。
 そういうことと関連をして、さっきもちょっと触れましたけれども、患者さんがいろいろな問題について相談相手になってもらえる、こういう意味の精神科のケースワーカーというものの役割も大変大きくなっておるのじゃないかと思うのです。しかし、現状を見ますと、その精神科のケースワーカーの身分がまだ不確定である、しかも診療報酬は全然見てもらえない、こういうような事情もあって、ほとんどの精神病院では、精神科のケースワーカーというものは置かれてないところが多い。こういうところにやはり問題点があるんじゃないかというふうに思うのです。
 それで、これからますます精神科のケースワーカーの役割というものは大変大きくなっていく、しかも患者さんにとって絶対に必要な、心の頼りになるというふうにも思われますので、この際、こうしたケースワーカーの身分なんかについてもはっきり位置づけをし、確立をして、そして診療報酬の点数化を図るというようなことも当然考えでいいのではないか、また考える必要があるのではないかというふうに私は思うのですが、こういう点についてはどういうふうにお考えでしょうか。
○竹中政府委員 精神科ソーシャルワーカー身分制度の問題でございますが、医療福祉士、つまりメディカルソーシャルワーカーでございますが、医療福祉士として資格法制化をするという方向でこれまで医療関係者間の意見調整に極力努めてまいったわけでございますが、関係者のコンセンサスがなかなか得られないというのが現在の状況でございます。私ども厚生省といたしましては、身分制度身分制度としながら、当面講習会等を通じまして、精神科ソーシャルワーカーを含め医療ソーシャルワーカーの資質の向上に努めてまいりたいと考えております。
○村山(富)委員 今精神科のケースワーカーというのはどれくらいおりますか。同時に、精神科のケースワーカーが配置されている病院というのはどれくらいあるのですか。
○竹中政府委員 PSWとして従事をしておられる従事者数でございますが、全国で約千三百人と推定されております。このうち精神病院に従事しておられる方々は九百七十人でございます。
○村山(富)委員 大臣、今お聞きになったと思うのですけれども、私は、いろいろな意味で精神科のケースワーカーの役割というものが、先ほど来申し上げておりますように、これからますます大きくなっていくと思うのです。しかも、社会復帰をしたり、その人が人間として、社会人として生活ができるように手だてをしていくというような意味において、精神科のケースワーカーというものは大変欠かせないものになっていく、またそうなってもらわなければ困るというふうに思うのです。しかし、先ほど来申し上げておりますように、実際には診療報酬なんかでも全然見てもらえないわけですから、したがって、置こうといったって置けない状況にあるというふうに言われているわけです。
 そこで、こういう精神科のケースワーカーの役割というものを位置づけて、やはり診療報酬なんかでも当然それに見合うものは見るべきだというふうに私は思うのですが、そういう点についてはどういうふうに考えられますか。
○下村政府委員 精神医療に係る診療報酬につきましては、精神科のデイケア、ナイトケアというふうな格好で点数を創設いたしまして、在宅精神医療の推進を図っているわけでございます。
 ただいまのPSWに関係する問題につきましては、身分上の問題等もまだ解決してないというふうな状況でございますけれども、今申し上げましたデイケア、ナイトケアの実施に当たるチームの一員として位置づけるという格好で、現在はその評価を行っており、業務の重要性については十分認識しているつもりでございます。今回の制度改正を契機といたしまして、精神医療の領域における医療のあり方について、さらに議論を深めてまいるということになろうかと考えております。
 診療報酬の問題につきましても、当然中医協で今回の改正に沿っていろいろ議論を展開していくということになろうかと思いますが、その中で、議論の推移を踏まえながら、さらに検討を進めてまいりたい、このように考えております。
○斎藤国務大臣 いわゆる精神医療のソーシャルワーカー、PSWの件でございますけれども、さきの国会で幾つかの身分法を提出させていただき、これをお認めいただいたわけでございますが、その際にはいわゆるSW、社会福祉士として身分制度をつくらせていただいたわけであります。あの際に、PSWにつきましても、医療ソーシャルワーカー、MSWの一つとしてこの身分制度も確立をいたしたいということで相当な努力をいたしたわけでございますが、何分、こういった身分制度を確立いたします場合には、当該の方々の御意向また関係者の御意向というようなものがコンセンサスが得られませんとなかなかできにくいものでございまして、私どもといたしましても相当努力をいたしたわけでございますが、その合意が得られない状況に現在あるわけでございます。先ほども健康政策局長から答弁をいたしましたように、いわゆるPSWとして存在される方々について、その資質の向上のために努めてまいる、また診療報酬の点につきましても、社会復帰とか、またそれにかかわる必要な診療報酬上の評価を今後検討していくというような、実態に合わせたところで進めてまいるのが現状のところではないかというふうに考えております。
○村山(富)委員 先般、国会で社会福祉士の資格をつくりましたね。私はその際に、医療福祉士と社会福祉士と区別をして設ける必要はないのではないか、そういう意味における役割というのは、診療施設面におけようと社会的な立場におけようと同じようなことをするわけですから、したがって、そういうものを総括して身分の確立を図ることが大事ではないかというふうに申し上げたのですが、そういう点とも関連をして十分ひとつ検討いただいて、いずれにいたしましても、こういう方々が身分的にもはっきり位置づけられて、しかも診療報酬も受けられて、病院が活用できるような、そういう手だてをしっかり講じていただきたいということを重ねて申し上げておきたいと思います。
 私は、総体的に見て一番大事なことは、こういう精神障害者に対して社会的にやはりお互いが理解を持つということが何より大事だと思うのです。まだまだその理解が不徹底である。そのためにつまらないトラブルが起きたり、なかなか社会の中に入れなかったり、社会復帰ができなかったりするような要因にもなっていると思うのです。しかし、この啓発というのは、やはり行政が積極的にそういう対応をしていかないとなかなか難しいことじゃないかと思うのです。これは例に聞いたのですけれども、イギリスなんかでは年間を通じて、例えば「目の日」、「歯の日」といったようなものが、日本にもありますが、こういうものが設けてある。「精神分裂者のための日」というようなものまで設けて、テレビやラジオや新聞等を通じて偏見をなくすような啓蒙、広報活動を常時やっておるというようなことも聞いておるわけです。私は、方法は幾らでもあると思うし、工夫をしてもらいたいと思うのですが、いずれにいたしましても、公的に社会がこういうものに対して正しい理解を持つということの啓発は必要であるし、啓蒙が必要であるというふうに思うのですが、この点についてどういうふうにお考えであるか、見解を聞いておきたいと思うのです。
○斎藤国務大臣 お話のように、社会全体が精神障害者に対して正しい理解を持つということは大変重要なことであると考えております。今回の改正案におきましても、第二条の二項におきましては、国民の精神保健に対する義務、そしてまた精神障害者に対する理解、また障害者の社会復帰に対する協力というような点について規定をさせていただいておるところでございまして、今後とも今回の法改正の趣旨にのっとって、あらゆる機会を通じて障害者に対する正しい理解を国民全体が持ってもらうように努力をいたし、また医療関係者を初めその他の関係者等にも強く働きかけてまいりたいというふうに考えております。
○村山(富)委員 重ねて申しますけれども、関係者だけでなくて社会全体が正しい理解を持つということが、社会復帰を可能にしたり、それから精神病患者を立ち直らせたり、そういうことにとって大事なことだというように私は思いますから、これは積極的に取り組んでいただきたいと思うのです。
 それから、次にお尋ねしたいと思うのですが、精神医療に携わっておるお医者さんあるいは看護婦さん等に関する医療法上の特例措置があるわけですね。この点について私は承りたいと思うのですが、この特例を見ますと、一般科の基準看護よりもはるかに医療スタッフが少ない三類、無類を精神病院に認めている。これはどういう経過でこういうことになったのか、できればお尋ねしたいと思うのです。
○竹中政府委員 精神病院におきます医師、看護婦等の職員配置の標準でございますが、御承知のように、精神病の多くが慢性疾患でございますし、病状の急変することが少ないというようなことから一般病院よりも緩和されておるということでございます。
○村山(富)委員 私はそういうところにも構造的ないろいろな問題が起こってくる背景があると思うのです。これはある人が調べた調査を見ますと、全国の精神病院千六百一カ所のうちおよそ半数が三類と無類であると聞いておるわけです。そうした病院の多くは、スタッフが少ないために必要以上に閉鎖病棟に収容しなければならぬというようなことも起こり得るのではないか。これが先ほど来申し上げておりますようないろいろなまた問題が起こる要因にもなっておるというふうにも思われるのですが、この際、任意入院を認めて開放病棟をどんどんふやしていくということになれば、こういう特例があったのではなかなかそれに対応し切れないのではないか。私は、この際、こういう特例というものは廃止して、一般科と同じようなスタッフ、陣容が整えられるような体系にする必要があるのではないかというように思うのですが、この点はどうでしょうか。
    〔委員長退席、戸井田委員長代理着席〕
○竹中政府委員 精神病院を含めまして病院の職員配置の標準でございますが、医療法制定時以来、基本的な変更はこれまでなかったわけでございます。しかしながら、お話しのような最近の精神医療をめぐる状況の変化でございますとか、現場におきます業務量あるいは人員配置の実態等を踏まえまして、今後検討してまいる必要があろうかと考えております。
○村山(富)委員 私は幾つかの実態を調査していますけれども、もう詳しくは申しませんが、むしろこういう病院の方がよりスタッフを充実して行き届いた配慮ができるようなことが必要ではないかというふうにも私は思われますので、この点は、今すぐ撤廃しなさいと言ったってなかなかそうは簡単にいかぬでしょうけれども、そうした実態を踏まえて、また今後のことも考えて十分検討していただきたい。そしてそごのないようにきちっと整備してもらいたいということを強く要請しておきたいと思うのです。
 それから、今度のこの改正案を見ますと、政令、省令にゆだねられる事項が大変多いのです。ざっと見ただけでも二十二項目ぐらいあるわけです。この二十二項目の政省令がどういう立場でつくられるかというつくる側の立場によって大変大きく左右されてくるのじゃないか。この政省令の考え方や中身がある程度明確にならないと、なかなか審議がしにくい面もあるのですけれども、今ここでそんなことを申し上げてもなかなか間に合いませんから、私は特にこういう点について承っておきたいと思うのです。
 例えば、行動制限をする具体的な内容あるいは処遇に関する基準等々は政省令でつくられるわけですが、こういう行動制限や処遇に関する基準などというものはどういう考え方でおつくりになるつもりなのか、その考え方だけを聞いておきたいと思うのです。
○仲村政府委員 入院中の患者の処遇の基準とか行動制限等に関するものにつきましては、御指摘のとおり、最終的には政省令、告示など今後の検討にゆだねられておる部分も多いわけでございますが、御指摘のような、例えば三十六条の第二項に掲げておりますような、行うことができない行動制限として定められておるのは、法律でも例示されておりますように、「信書の発受の制限、都道府県その他の行政機関の職員との面会の制限」等、内容的には六十年十月にお出しいたしました通信・面会のガイドラインの内容に沿って定めてまいりたいと考えておりますし、三十六条の第三項に指定医の認める場合でなければ行うことができない行動制限として定めることを予定しておるものにつきましては、「患者の隔離」等人権侵害につながるおそれのある著しい行動制限でございまして、具体的には保護室の使用でございますとか拘束具の使用等を念頭に置いておるところでございます。
○村山(富)委員 これまた政省令はこれからおつくりになるわけですけれども、やはりこの改正案が提出された背景やら、こういうことになってきた要因というものを十分踏まえた上で、その改正の趣旨が十分生かされるような、そういう運用がされるような政省令というものをしっかりつくっていただきたいというふうに期待をいたしておきます。
 それから次に、もう一つの柱は、指定医を設けることですね。私は専門家ではありませんから、専門家の皆さんの意見をいろいろ聞いてみますと、例えば夜間、休日に患者の病状が非常に悪くなった、指定医でなければ行動制限ができないといったような事態も起こり得るのではないか、あるいはまた退院の一時的制限をしなければならないような事態が起こり得ると仮定します。こうした場合に、指定医の数、あらゆる精神病院で夜間、休日に十分の指定医が配置できるという見通しがあるのだろうかという不安を持っておる方もおられるわけです。そういう点についてはどうなんでしょうか。
○仲村政府委員 指定医の役割というものは、従来の鑑定医制度をさらに拡大したものでございまして、精神医療の質を高めると同時に、患者の人権についても配慮するような形で指定医制度というものを設けさせていただきたいわけでございますけれども、お尋ねのように、指定医が不足するのではないかという危惧も一部に言われているようでございますが、私どもの推計で申し上げますと、六十一年の九月現在で鑑定医、現在の制度でございます鑑定医が四千四百十三人でございます。それから精神衛生鑑定医の要件を既に満足している精神科の実務経験を持っておられながらまだ鑑定医となる手続をとっておられない方々が約二千人ぐらいおられると私どもは考えておりますので、こういう方たちがこの改正法施行前に鑑定医の指定を受けますれば、経過規定によりまして精神保健指定医となるわけでございまして、そういう方たちを全部カウントいたしますと約六千人の指定医が確保できるのではないかというふうに想定しております。したがいまして、精神病院は約千六百ぐらいございますので、それで割りますと、単純でございますけれども、平均いたしますと、精神病院一施設当たり三・七人という数字が出てくるわけでございまして、運営に関しましてそう大きな支障を生じないのではないかというふうに考えております。
○村山(富)委員 今お話がありましたように、今の精神衛生法で言う鑑定医が指定医に変わるということになるわけですね。そうすると、鑑定医が指定医と名称が変わっただけなのか、あるいはその役割や権限が具体的にどう変わってきたのか、御説明いただきたいと思うのです。
○仲村政府委員 現在は鑑定医制度ということで行われているわけでございますが、その方たちは、措置入院をする際の行政的な判断をするために鑑定が必要となった場合に、その都度鑑定医としてお願いをするというふうなことでございましたが、今後の指定医制度というのは、もちろん鑑定医業務もおやりいただくわけでございますが、それに加えまして、先ほどから申し上げておりますような、専門的な医療にかかわる部分で指定医が判断しなければ、例えば入院が許可されないとか行動制限ができないとかいうふうなことでの業務の幅と申しますか、二種類の業務があって、それがつけ加わったという形だと考えております。
○村山(富)委員 そうすると、鑑定医よりも指定医の方が、権限と言ってはなになんですけれども、影響する範囲が非常に広がってきたというふうに解釈していいわけですね。
 それで、いろいろな意見があるわけですけれども、特に、お医者さんの中にもいろいろありますし、例えば行政に厳しい批判をするようなお医者さんもあるわけですね。そういう批判をするようなお医者さんはなかなか指定医には指定されないのじゃないか、こういう危惧を持っておられる向きもありますし、心配している向きもあります。
 私はここでお聞きしたいと思うのですけれども、指定医というのはどういう基準でお決めになるのか、お尋ねしておきたいと思います。
○仲村政府委員 指定医の指定の問題でございますが、一定の実務経験を有し、かつ厚生大臣が行う研修を修了したお医者さんでございまして、その職務を行うに必要な知識及び技能を有すると認められる方々に対しまして、その内容は細かくは公衆衛生審議会の御意見を聞いて行うものでございます。思想、信条につきましては、その自由が憲法においても保障されておるわけでございまして、私どもといたしましては、指定医の指定に当たってそのようなことについて考慮するつもりはございませんで、内容的には、先ほど申し上げましたような知識及び技能を有する者ということで考えたいと思っております。
○村山(富)委員 もう繰り返し申しませんけれども、今お話がございましたように、指定医の役割というものは、やはり大変大きくなっていくわけですから、それだけに指定医の数やらあるいは現状で十分対応できるようになっているかどうかといったら問題もあると思いますから、そういう点も十分配慮しながら、少なくともそごを来さないような方向で体制を整備していただくということを特にお願いしておきたいと思うのです。
 続いて大臣に伺っておきたいと思うのですが、去る八月十八日付で国際法律家委員会、ICJと称されておりますが、そのマクダーモット事務局長より大臣あてに書簡が寄せられているはずでありますが、大臣はその書簡をごらんになっておられますか。
○斎藤国務大臣 御指摘の書簡は、八月十八日付でICJの事務局長から私にあてられたものでございます。これによりますと、今回の法改正を歓迎するとともに、さらなる人権擁護についての御指摘があったところでございまして、私といたしましても、十分に参考にさせていただいておるところでございます。
    〔戸井田委員長代理退席、委員長着席〕
○村山(富)委員 参考にされるという御意見でございましたけれども、私は重ねて指摘をしておきたいと思います。今大臣からも答弁がございましたように、今回の改正を心から歓迎する、患者の保護をさらに強化するために、国際人権規約の条項を満たしてほしいと述べているわけですね。今後どう対応されるつもりかということについてお尋ねしたいと思うのです。
 この書簡の中の第一点は、適正手続に従って、非公式の裁決機関で拘束手続がとられること。それから第二には、この裁決機関である審査会は、法律家委員が議長を務めること。患者及び扶養義務者が審理への出席が認められるべきこと。また、その代理人や証人についても審査会に参加の道をつけること。第三に、審査会による六カ月―一年を超えない間隔での再審査。第四に、審査会委員は中央政府より任命される独立のものとすること。医師と弁護士が平等に参加すること。第五に、精神病者に対する差別不平等条項が公衆浴場法以外の法律についても廃止されるべきこと。精神障害者社会保障について身体障害者と同等の権利を持つべきこと。などの要請があるわけですね。
 こういう具体的な要請事項に対して、今後どのように対応していくつもりなのか、そういう見解についても、この際承っておきたいと思うのです。
○佐々木(喜)政府委員 厚生省といたしましては、現行法をもって国際人権B規約の要件を満たしておるという基本的な考えでございますが、ただいま先生御指摘になりました大臣あての書簡、これは十分承知をしております。今回の改正法案におきまして、審査会の設置その他人権面におきましていろいろな改正点を盛り込ましていただいておりますので、今回の改正によりまして、国際人権規約の目的とするところ、その精神に沿って一層人権の擁護が図られると考えております。
 今先生御指摘の具体的な項目については、一部この法案に盛り込まれたものもございますし、なおさらに検討を進めなければならないものもあろうかと考えておりますが、例えば、今おっしゃいました中で、定期の審査でございますが、本人の意思によらない入院については、定期的に患者の病状等を徴しまして審査会で審査をするというような点につきましては、今回の改正の中に盛り込まれております。それからまた中央政府の任命の問題、こういった点につきましては、審査会を都道府県に置くというようなことからして、その委員を中央で任命する、この辺はなかなか日本の国情から困難な点もあろうかと思います。そのほかいろいろ具体的に御指摘の点につきましては、今後さらに検討いたしまして、一層の前進が図られるものであるかどうか検討の上、措置をする際に考えてまいりたいと考えております。
○村山(富)委員 最後に申し上げましたが、今回の法改正の中で、特に公衆浴場法については是正されるように対応されておるわけです。この点、私はある意味で評価したいと思うのですが、ほかに三十数本同様の差別条項があるというふうに私は承知しておるわけです。こういうものについても、やはりあってはならぬことだと思いますから、関係各省庁と十分連携をしながら是正をしていくための努力をする必要があるんじゃないかというふうに思うのですけれども、具体的にどのようになさるつもりか、この際お聞きしておきたいと思うのです。
○佐々木(喜)政府委員 公衆浴場法の改正につきましては、今回の法案の中に盛り込ませていただいております。そのほか、各種法令におきまして、いわゆる欠格条項を持っているものが多数に上るではないかということでございまして、私どもの方も大変大きな関心を持ってこれに取り組んでまいっております。個別の制度の目的、趣旨からいいまして、いろいろそちらの方の御要請もあろうかという点はございますが、精神障害者の人権擁護でありますとか社会復帰、社会参加という観点から申しますれば、この欠格条件の見直しというのは大変重要な問題でございます。政府といたしましては、本年六月に取りまとめられました障害者対策推進本部の「「障害者対策に関する長期計画」後期重点施策」の中に、その一項目として、精神障害者の資格制限等の検討という事項が盛り込まれているわけでございまして、こういう方針を受けまして、各省において検討を進められていくようにということで期待をしているわけでございます。
 それから、地方公共団体におきますところの問題がございます。地方公共団体の条例によるものとかあるいは設置している施設の利用とか、こういった点もいろいろあろうかと思いますので、この点につきましては、先ごろ保健医療局長より各都道府県知事に対しまして通知を発しまして、地方自治体におきますところの精神障害者に係る利用制限等につきましてのそれぞれのレベルでの検討をお願いをしたということでございまして、中央地方それぞれそのように措置をしていただくように推進をしてまいりたいと考えております。
○村山(富)委員 今御説明がございましたが、右から左へ直ちにできるものもあるし、できないものもあろうかと思うのです。その点は十分精査をしながら、必要なものから漸次是正をしていくということも大事なことと思いますから、今後各省庁と十分連携をとりながら、そういう点についても御努力を願いたいということを心から御期待を申し上げておきます。
 できるだけ質問時間を縮めてくれという要請もございますから、この法案を通すために、全体の動向とにらみ合わせて協力をしなければならぬと思いますので、これで質問を終わりたいと思うのですが、私はやはりさっきからるる申し上げておりますように、今の精神医療の置かれておる実態を考えた場合に、本当の意味で良心的に今の法律制度を踏まえた上で病院経営をするということは大変困難があるし、いろいろな障害もあるし、問題点もあると思うのですね。だから、そういう点は是正をしていく必要がある。しかし、先ほど指摘したような事件が起こる要因も、いろいろな構造の欠陥の中にはやむを得ない原因もあるのではないかという点も、先ほど来指摘しておりますように、例えば特例の問題とかいろいろあろうかと思うのです。そういう点を十分見直して検討をしてもらう必要があると思いますし、今度新しくつくられたいろいろな改正の問題点についても、いろいろな角度から危惧される向きもあるのです。また同時に、これではまだまだ不徹底だ、もう少し社会復帰の問題等についても、公に義務づけてやってもらう必要があるのじゃないか、こういったようないろいろな要求もあると思うのですね。こういういろいろな角度からこの法案に対する注文もあるわけです。そういう注文を考えた場合に、私はやはり先ほど自民党の長野さんからも御意見がありましたけれども、言われる意味は違う面もあるかもしれませんが、いろいろな角度から考えてみて、一定の期間を置いて見直しをする時期があってもいいのではないか、また見直しをする必要があるのではないか、そしてさらによりいいものをつくっていくということが必要ではないかというように思うのです。
 そういう点について最後に大臣の見解を聞いて、私の質問を終わりたいと思うのです。
○斎藤国務大臣 今回の改正案を御提出するに当たりまして、公衆衛生審議会等におきましていろいろ御検討いただきました中にも、精神障害者の定義の問題、またいわゆる保護義務者に係る問題等についてなお引き続き検討をするようにということも言われており、私どもといたしましても、引き続きこれについて検討をいたしてまいりたいと考えておりまするし、またただいま御指摘がございましたように、今回の改正の内容と関係する問題等につきましても、この改正法の施行の状況を見ながら、さらに検討を加えて、必要に応じて所要の措置を講じていく必要があると考えております。
○村山(富)委員 これで終わります。
【この日つづく】