精神医療に関する条文・審議(その42)

前回(id:kokekokko:20050607)のつづき。初回は2004/10/28。
ひきつづき、昭和62年での精神衛生法改正です。

社会労働委員会会議録第11号(109衆昭和62年9月10日)
【前回のつづき】
○堀内委員長 沼川洋一君。
○沼川委員 今回の改正案は二十二年ぶりの改正ということで、各界から非常に注目を集めておるわけでございますけれども、まず最初に大臣にお尋ねをしたいと思います。
 昭和五十九年三月に例の宇都宮病院の問題が起こりまして、患者の人権無視事件というものが国民に強い衝撃を与えたわけでございます。これが契機になって国の内外から精神医療の現状についての批判が巻き起こってまいりまして、国際法律家委員会などから調査団が来日し、そして六十一年九月には「日本における人権と精神病患者」と題する報告書が出されております。この内容を見ますと、日本の精神医療の現状では、国際人権規約で規定している精神病患者の人権保護の条件が満たされていないとする警告が出されておるわけでございます。そういう意味で、精神衛生法の不備が特に外国から指摘をされてきたという経緯がございます。また最近では、国際法律家委員会のジュネーブ本部のニール・マグダーモット事務局長から日本の精神衛生法改正案に対して斎藤厚生大臣にあてて、先ほどもちょっと問題にされておりましたが、どうも非常に厳しい内容の書簡が送られてきておるようでございます。さらに来春は調査団を日本に送るなどの計画もあるやにも聞いております。
 そこで、大臣にお尋ねしたいのは、今回のこの改正案がもし成立したとするならば、このような国際的批判に耐え得るものなのかどうか、その中身について、まず大臣の率直な所見をお聞かせいただきたいと思います。
○斎藤国務大臣 今回の精神衛生法の改正案は、精神病院における入院患者の人権擁護の推進、そして精神障害者の社会復帰の促進を図ることを主要な内容といたしておるわけであります。これはかねてより国際的にも国内の有識者からも日本の精神医療を取り巻く状況の立ちおくれというものが指摘されておったわけでありますが、こういった指摘されておる事項に幅広く対応いたしてまいるものであると考えております。
 また、今般の改正案では、障害者の定義、またいわゆる保護義務者にかかわる問題等については、なお引き続き検討することとなっておりますが、入院患者の人権の擁護と社会復帰の推進に向けて着実な推進を図っておりまして、この意味では十分諸外国からの批判にこたえ得るものと考えさせていただいております。
○沼川委員 特に今回の改正で、今もおっしゃった患者の人権を尊重しつつ精神医療の進歩に従った適切な医療を行うとともに、患者の社会復帰、社会参加を実現していくことを目指したもの、そう私も理解をしておるわけでございますが、その意味では中身にはまだまだいろいろと問題があるわけでございますけれども、現行法より一歩前進したものと一応の評価はできるのじゃないかと実は思っております。問題は、そのためには地域に根差した医療と福祉が行われるということ、これが極めて重要かと思います。地域精神医療の充実に関してどのような施策を持っていらっしゃるのか、お聞かせいただきたいと思います。
○仲村政府委員 精神障害者の社会復帰のための地域での受け皿の問題でございますけれども、先ほどからの答弁の中でもお触れ申し上げましたように、地域社会に十分受け入れられる素地が一番の基盤になろうかと思いますので、そういう点で国民の「理解」と「協力」という条項も入れさせていただいているわけでございますが、具体的にそのような施設がどうなるかという問題でございますとかあるいはその仕組みをどうするかということにつきましては、これからさらに努力をしなければいけないものもたくさんあるわけでございます。
 数学的なことで申し上げてみますと、社会復帰が可能と考えられる患者さんが、入院患者のうちの約二〇%と推定いたしますと六万八千人の方々。そのうち約三〇%は居住型の精神障害者の援護寮でございますとか精神障害者の福祉ホームを御利用なさるのではないか、あるいはそのうちの約一〇%が精神障害者通所授産施設を利用するというふうなことで予想しておるわけでございまして、このような数字を目途といたしまして、今後施設整備を図ってまいりたいと考えておりますが、同時に小規模保護作業所に対します助成でございますとか、通院患者のリハビリテーション事業等につきましても、さらにその充実を図るように努めてまいりたいと考えております。
○沼川委員 精神病院における人員及び施設の基準というのは、医療法の特例によりまして一般病院に比べますと低い水準でよい、こういうふうになっておりますが、こういう問題こそやはり抜本的に改めるべきじゃないかと考えますが、いかがでしょうか。
○竹中政府委員 精神病院におきます職員配置の基準でございますけれども、精神病の多くが慢性疾患であるあるいは病状が急変することが少ないということで、従来一般病院より緩和をされていたところでございます。これまで精神病院を含めまして病院の職員の配置基準につきましては、法制定以来基本的な変更がなかったわけでございますが、最近の精神医療をめぐる状況の変化でございますとか現場におきます業務量あるいは人員配置の実態等を踏まえまして、今後検討してまいりたいと考えております。
○沼川委員 きょうずっと先ほどから伺っておりまして、検討検討という言葉が何かにつけて非常に出てきます。厚生省はボクシング協会じゃないわけですから、もっと前向きの御答弁をひとついただきたいと思います。
 そこで、これは一つの具体的な事例ですけれども、六十年五月に千葉市で千葉県精神科医療センターというのがオープンしております。ここを見ますと、特に短期集中治療、一カ月以内の退院というのを一つの大きな命題として掲げてありますが、早期退院を実現するために、わずか四十床の病床に対して医師が七人、看護職員四十人などのスタッフで、総勢七十人に上るわけです。これが民間の病院だと大体二百床の病院に匹敵する体制じゃないか、こう言われておりますが、このような手厚いスタッフがあって初めて前進があるのじゃないか。ですから、確かに医療法には特例がありますけれども、先ほどから私が言いますように、患者の社会復帰ということを大きく掲げるならば、こういう問題に早速取り組んでいくという姿勢が大事じゃないかと思いますが、重ねてお尋ねいたします。
○仲村政府委員 確かに我が国におきます精神障害者の社会復帰対策というのは必ずしも進んでおったというふうに私ども考えておらないわけでございまして、そういう観点からも、今回の法律改正の中にそのような趣旨を一部入れさせていただいているわけでございまして、先ほど申し上げましたようなことでのハードの部分としての社会復帰施設の整備、それに対します助成も大事でございますし、退院された患者さんが医療を継続するようにするためのいろいろの工夫、例えば継続医療するための訪問看護でありますとか、それに対する診療報酬の設定でございますとかあるいは地域社会の方々の十分なる御理解、御協力をいただくということだとか、さらに職業訓練的なものも含めましていろいろ社会復帰に資するための施策が今後とも大いに進展される必要があるわけでございますので、私どもといたしましては、このような関連の事業も含めまして、御指摘のような意を体しまして、さらに努力を重ねたいと考えております。
○沼川委員 この社会復帰施設に関連して、さらにお尋ねしたいと思います。
 この精神衛生法では、第二条で「国及び地方公共団体の義務」として社会復帰施設の充実というのを掲げてあるわけでございます。この精神医療の分野に社会復帰の促進が位置づけられたということは、先ほどから申し上げますように、私も高く評価しておるわけでございますけれども、精神薄弱、身体障害者に比べますと、施設が大幅におくれているところのこの精神医療の分野の福祉を前進させ、患者の退院を促進し、社会復帰、社会参加を促進するためには、これはより充実したものとしていかなければならぬことは当然でございます。
 そういう面から見ますと、この本法の第九条、第十条に、精神障害者の社会復帰の促進を図るため都道府県、市町村、社会福祉法人その他の者は社会復帰施設を設置することができる、このようになっております。これははっきり申し上げて「設置することができる。」と、社会復帰対策に力を入れると言いながら、この文言というのは極めて消極的で、国の責任というのが何か回避されるような気がいたします。言ってみれば、これはつくりたければつくりなさいということですね。「設置することができる。」その意味ちょっと教えてください。
○仲村政府委員 精神障害者の社会復帰の促進のために、地方公共団体が積極的にお取り組みいただくということは非常に必要なことだということでございまして、法律に条文化いたしました精神障害者社会復帰施設の整備についても、地方公共団体の積極的な取り組みが求められるということでございますが、すべての市町村に一律的に必要かどうかというふうな需要と申しますかニーズの方からの問題もございますし、各市町村の行財政能力の観点から見ても、設置の困難なところもあり得るということの御意見がございました。そういう観点で一律的に義務づけるということをしなかったわけでございます。
 他方、社会福祉事業法を改正いたしまして、社会福祉法人等でも民間の主導による整備ができる場合もあり得るということから、そういうものと両々相まって社会復帰の促進をできるだけ図ってまいりたいということで、法文上は一律に義務化をしなかったということで御理解をいただきたいと思います。
○沼川委員 私は市町村を設置主体にしたということはむしろ評価したいと思います。もちろん、これは財政的な問題もあっての考え方だと思いますけれども、要はこの設置すべき責任が一体どこにあるのか。どうも国の責任が明確にされていない、この点が私どうも問題だと思うわけでございます。やはり推進するんでしたら、はっきり国にその責任があるということをもっと明確にすべきじゃないか、このように思いますが、この点いかがでしょう。
 さらにまた、市町村といいますと財政的な面もございますけれども、都道府県ぐらいは、やはり設置すべきであると、もっと明確にしたっていいんじゃないでしょうか。いかがでしょうか。
○仲村政府委員 国の責任全体については二条に、私どもとしても国全体としてそのような努力をすべきだということでの条文が加えられておるわけでございます。
 それから、御意見といたしまして、都道府県が設置しなければからないということも議論としてはございましたけれども、先ほどのような議論の末に、今お願いしておるような、一律的に義務化をしなかったということで法文上は整理をさせていただいております。もちろん国、地方公共団体を通じて社会復帰の促進になお努力するということは、この法律の精神全体からも、私どもとしては努力を重ねるようなことで、法の精神にその中身が盛られているというふうに考えているわけでございます。
○沼川委員 どうもちょっと大事なところになると御答弁がよくわからぬわけでございますが、確かに第二条には「国及び地方公共団体の義務」として、この社会復帰施設の設置というのがうたわれておりますが、実際の中身になりますと、先ほどから私が指摘いたしますように、「設置することができる。」と極めて消極的で、つくりたければつくりなさいというような考え方で果たしてこういう施設が進むだろうか、本当に心配いたします。
 ですから、先ほど聞きました、市町村はいろいろ財政的な問題があるとしても、都道府県ぐらいについてはもっと明らかに設置すべきである、そういう姿勢を打ち出すべきだという点でお聞きしました点をもっと明確にお答えいただきたいと思います。
○佐々木(喜)政府委員 先生御指摘のように、病院につきましては、都道府県の設置義務というのはあるわけでございます。社会復帰施設につきましては、都道府県のみならず市町村、社会福祉法人その他の方々についても、私どもの気持ちとしては、できるだけ設置をしていただくことによりまして施設の普及を図っていきたい、こういう気持ちがございます。
 都道府県に設置義務を課します場合には、それではそのほかのところはどうなんだ、こういうようなことも出てくるということも考えられますので、その辺も考慮に入れまして、規定としては「できる。」という規定にさせていただいたということがございますので、申し上げておきます。
○沼川委員 実は私がこれにこだわりますのは、今回の内容の大きな柱が患者の人権尊重、それから社会復帰、ここに大きな意味があると思います。だから社会復帰をうたうんだったら、その受け皿を、それをうたうに見合うだけの施策というのをもっと前向きにぜひとも取り組んでいただきたい。そういう点で、これは非常に不満でございます。
 また、さらにお尋ねしたいと思いますが、社会復帰施設の設置運営に関する費用負担は、国、地方自治体の関係ではどういうふうになるんでしょうか。
○仲村政府委員 社会復帰施設の設立運営に要する費用につきましては、国及び都道府県が補助することができるという旨を規定しておるわけでございまして、国と地方公共団体の間の具体的な費用負担につきましては、なお細部について検討を要するわけでございますけれども、既に本年度、六十二年度中に実施することとしております社会復帰施設の施設整備を例に挙げますと、国がその費用の二分の一を負担いたしまして、都道府県と市町村等の設置主体がそれぞれ四分の一を負担する、こういうことで実施をしておるところでございます。
○沼川委員 この社会復帰施設の経営を社会福祉事業法に定める第二種社会福祉事業、このようにしてありますけれども、その理由はどういうわけでしょうか。
○佐々木(喜)政府委員 社会福祉事業法におきますところの第一種社会福祉事業と第二種社会福祉事業の区分けでございますが、概括的に申し上げまして、社会的に極めて弱い立場に置かれている方々の収容施設でございますとかあるいは経済的な搾取を防ぐための措置とか、そういうようなものが第一種社会福祉事業で、したがって規制も大変厳しくしてある。それから社会福祉の増進のためのそのほかの事業を第二種社会福祉事業、このような区分けになっているというふうに理解しております。
 今回法案に盛り込みました精神障害者の社会復帰施設は、主として退院者を対象にいたしまして職場なり家庭なりという社会復帰の過程にある方の施設でございますので、第二種社会福祉事業としての位置づけがしかるべきか、こういう考え方で整理をしたわけでございます。
○沼川委員 この第二種施設というのは、許可が要らなくて届け出だけでいいという施設ですね。
○佐々木(喜)政府委員 届け出で設置をできるということになっております。
○沼川委員 ですから、私が心配いたしますのは、施設基準も満たない低い水準の施設でよい、どうもそういうものがあるような感じもいたします。ですから、そういうものであるならば、これは国から若干の補助を受けたって、余りにもお粗末なものができるのじゃどうしようもありませんので、その点心配ありませんか。
○佐々木(喜)政府委員 もう一つは、精神障害者の方の社会復帰施設という場合には、病院からの移行ということがございますので、医療法人の設立ということも一つは期待してよろしいのではないか。社会福祉事業法によりますと、第一種社会福祉事業は、原則は社会福祉法人の設置というようなことになっております。そういう観点も考慮しております。
 それから、ただいまお尋ねの、それによって施設の内容が粗末なものになる心配はないかという点でございますが、その点につきましては、国の方も予算措置等を講じまして、その場合には一定の基準を設けるなど、劣悪な施設というようなことにならないように十分注意をしてまいりたいというふうに考えております。
○沼川委員 私は、この社会復帰施設の中心問題となりますと、患者の生活に密着した援助と差別の撤廃にある、これが根幹だと思うわけです。したがって、その援助というのは、経済的援助、居住、就労の確保、在宅看護の体制の確立など非常に多岐にわたらなければならぬと思うわけです。今回の法案では、結局社会復帰対策として掲げてあるのは、生活訓練施設と授産施設、この施設だけしか掲げてございません。何か上辺だけぱっと並べであるような感じがいたします。もっと幅広い見地から検討を進めるべきじゃないか、そういう点から考えますと、その点ちょっと不満でございます。
 こうした社会復帰が現実的に推進されるためには、やはり精神科ソーシャルワーカーなどの医療スタッフの充実が不可欠であると思うわけでございますけれども、そうした点が本法では何ら規定がございませんが、どうでしょうか。
○竹中政府委員 精神病院におきますマンパワーの確保の問題、特にPSWの問題につきましては、先ほども御答弁申し上げましたように、私どもとして資格法制化の方向で意見調整に努めたわけでございますが、関係者のコンセンサスが現在得られていないということでございます。
 それから、看護婦の問題につきましては、これも先ほど医療法上の配置基準の問題でお答えを申し上げました。私どもといたしましては、実情を十分把握しながら今後検討を進めてまいりたいと考えておるわけでございます。
○沼川委員 労働省からお見えになっていると思いますが、この精神障害者の社会復帰に関して、雇用対策という面でどのようにお考えになっているかをお聞かせください。
○根本説明員 お答え申し上げます。
 精神障害者につきましては、精神薄弱者の方と異なりまして手帳制度というものがございませんので、そういった方々の判定あるいは確認につきましていろいろと問題があるのではないか、あるいはまたプライバシーを侵害するような事態を招いた場合には、かえって障害者の方々の職業的な面でもマイナスになるんではないかという問題もあるわけでございます。しかしながら、精神障害者につきましては、これまでも公共職業安定所におきましてきめ細かな職業相談、職業紹介を行ってきたところであり、また昭和六十一年度から精神分裂症あるいはまた躁うつ病にかかっている者に対しましての職場適応訓練という制度を実施いたしております。
 また、先般身体障害者雇用促進法の改正があったわけでありますが、精神障害者に対しましても、職業リハビリテーションを推進するとともに、その雇用の促進のために必要な調査研究に努める、こういった内容が盛られております。今後はこういった調査研究に努めるとともに、いろんな助成措置がございますので、こういった助成措置を含めた雇用対策のあり方についての検討を進めていきたい、このように考えております。
○沼川委員 特に雇用という面ではいろいろと難しい面があるかと思いますけれども、今回の改正のスタートに当たって今までと違った観点からひとつしっかり取り組んでいただきたい、このことをぜひ申し上げておきたいと思います。
 さらに、これは何回も申し上げますけれども、今回の改正は、今までどちらかというと精神障害者に対して施設に収容するという施設中心主義であったのが、今度はやはり社会復帰ということを目的として地域に帰す、こういうことでございます。ですから、二十二年前を振り返ってみますと、今のこの地域医療が今日大きく進んでおる現状とはるかな隔たりがあるわけです。そういうことを考えますと、当然これは地域の中でも、先ほども指摘されておりましたけれども、地域精神医療ネットワークといいますか、医療、福祉、保健という、そういう立場からの体制づくり、これは当然必要だろうと思います。
 またさらに、入院患者がどうしても多い。しかも長期入院が多い。アメリカやヨーロッパと比べて日本は減るどころかだんだんふえる傾向にある。その問題点を突き詰めていきますと、やはり中間施設的なものがない。そういうことで、言ってみれば、先ほど言いました生活訓練施設とか授産施設というものも中間施設というふうな意味で考えていらっしゃるんでしょうか。大臣、この点いかがでしょうか。
○仲村政府委員 先ほどから申し上げておりますように、社会復帰施設につきましては、居住型のものとかいろいろあるわけでございますが、今お尋ねのような医療との関連において社会復帰をどう考えるかということだと思いますが、医療施設におきましても、精神科のデイケア施設というのが従前からもあるわけでございますし、今後も、例えば独立施設型でございますとか病院に付設する形でございますとかあるいは診療所に付設する形でのより医療に近い方のリハビリテーションということもあるわけでございますので、そういう福祉型の施設と同時に医療型の機能も、デイケア等の機能も発揮していただいて、それができるだけ地域の中で活用されるということで考えたらいかがかということでございます。
○沼川委員 私もいろいろとこういった精神障害関係の相談を受けるわけですけれども、そのたびに感じますのが、病院はもう退院してよろしい、じゃあ自宅でさっとその方を引き受けられるかというと、最近のケースとして、御両親が非常に高齢化されている、足が悪い、体のぐあいも悪い、息子を引き取りたいんだけれども、家庭の事情でどうにもならない、そういうケースの話を非常に多く聞くわけでございます。
 ですから、言ってみれば、そういう病院と家庭の中間、こういう施設づくり、やはりこれは受け皿としてぜひとも力を入れていただきたいと思いますし、こういう問題が整備されない限り、長期入院あるいは病院収容中心主義の体制というのは何年たっても変わらないじゃないか、そういう気が私はいたします。これはお答えは結構でございますので、ぜひひとつそういう方面に力を入れていただきたいと思います。
 時間が余りありませんので、ちょっと先に進みたいと思います。これは本会議でも問題になった件でございますが、国公立病院のあり方について再度お尋ねをしておきたいと思います。
 精神病院を開設者別に見ますと、総数千六百十施設の約八割、千三百十三施設が私立病院でございます。そのためか世論の一部に、国公立病院は本来の設置目的に立ち返って、今よりさらに精神医療を担当し地域医療に貢献すべきである、こういう批判があるわけでございます。すなわち、人的にも施設面においても整備が不十分な私的病院にいわば重度の措置入院患者が比較的に多いという傾向もございますし、そういうところから宇都宮病院事件みたいな問題も起こるのではないか。言ってみれば、本来そういう措置入院に値するような患者は、国とか公的医療機関がきちっと対応しなければならないのに、実際にはそういう患者は全部私立病院に送り込んでしまう。あの宇都宮事件のときのあの内容は、これは確かに大きな問題でございます。しかし、いろいろ聞いていて私も一つ感じたのは、何でもかんでも宇都宮、とにかくあの病院に患者が集中して来た。いわば県境を越えて、都合の悪い病人はみんな送り込まれてきた。そして事件が起こるとたたかれる、そういう不満をちょっと漏らしておられましたけれども、あの事件は社会的に本当にけしからぬ問題でございますけれども、その辺考えますと、もっとこの精神医療という問題に対して力を入れなければならない国が余り力が入ってない、全部私立病院にしりぬぐいさせている、そういう体制では、これは本当に精神医療というのは進まないんじゃないかという感じがいたします。病院は私立が非常に多い、そこにゆだねている問題が多過ぎる、こういう点について、国公立の病院の今後のあり方、どのようにお考えになっていらっしゃるか、お答えいただきたいと思います。
○斎藤国務大臣 措置入院患者の入院につきましては、その医療、保護、人権確保といったような観点から、できるだけ国公立病院でこれを受け入れることが望ましいと考えております。今後とも国立病院・療養所、また都道府県立の精神病院等において、これの受け入れを促進できるよう努力をいたしてまいる覚悟でございます。
○沼川委員 時間がありませんので進みたいと思います。
 具体的な問題点としまして指定医制度、先ほどもいろいろ問題になっておりましたが、お伺いをしたいと思います。
 精神医療が患者本人の意思に反して医療行為を行わざるを得ない局面がある以上、法的に資格制限を行うことは最小限度必要であるかと考えます。ただし指定医の認定が恣意的なものとならないように、指定医認定の方法、具体的基準について関係団体等の意見を十分配慮する必要があるかと思うわけでございます。そういう点から、一つには、指定医が現在の患者数から見て何名程度必要なのか、またこの数は確保される見通しがあるのかどうか、お尋ねしたいと思います。
○仲村政府委員 指定医が何名程度必要かというお尋ねでございますが、先ほどおっしゃいましたように、現在約千六百の精神病院がございまして、一病院当たり二名以上の指定医が常勤することが望ましいとすれば、最低三千二百人程度ということになるわけでございますが、六十二年九月の時点で精神衛生鑑定医が四千四百十三人おられるわけでございまして、施行後の経過措置によりまして、その方たちが精神保健指定医になるとすれば、それぞれの病院において、その管理運営に当たっていただくわけでございますし、現在その資格が十分おありになりながら鑑定医の資格を取っておらない方が約二千人程度おられるわけでございますので、私どもとしては、この指定医の確保という点につきましては、そう問題はないのではないかと考えております。
○沼川委員 精神科医師の不足というのをいろいろ聞きますが、実態はどうなっているのか、またこの不足の原因は何なのか、さらに今後増加させるためにどういう施策を考えていらっしゃるのか、お聞かせください。
○仲村政府委員 診療科別にその科のお医者さんが充足しておるかしておらないかという問題は非常に難しい問題でございまして、このことは精神科についても同様だと考えております。精神科を標榜されるお医者さんは、五十九年の年末で七千三百人程度おられるわけでございまして、精神障害者の診断、治療に三年以上の実務経験を有する精神鑑定医の数は、先ほど申し上げましたように、四千四百人ということでございまして、我が国の人口十万人当たりの精神科標榜医師数は六・八人でございますが、例えばアメリカ合衆国におきましては十二・〇人ということでございまして、そういう点からいいますと、精神科医の数が必ずしも十分でないというふうに考えられるわけでございます。
 その原因というのは非常に難しいわけでございまして、医学部へ行きますれば、すべての診療科についての講義を受けて、あとは御本人の希望で診療科を選択されるわけでございますので、そういう点で役所がどうこうすればふえるという面がなかなかない部分もあるわけでございまして、そういう点では、お尋ねのようなことに対してどう対策をとるかということは非常に難しいわけでございますけれども、近年の精神医学の進歩、例えば診断とか治療技術の進歩ということもございまして、昭和五十六年には六千二百人でございましたものが五十七年には六千五百人、さらに五十九年には七千三百人ということで、だんだん精神科を標榜するお医者さん自体は毎年数百名程度ずつふえておるというのが現状でございますので、このような傾向につきまして、私どもとしても持続させていきたいと考えておりますし、種々の施策によりまして、精神科の精神医療の質を確保する優秀なお医者さんが精神科においでいただくことを希望しておるところでございます。
○沼川委員 任意入院の規定でございますけれども、入院治療の基本形態として、今回任意入院が明記された、これは私ども非常に評価したいと思います。今回の改正の中でこれが入れられたということが、今申し上げますように、私ども評価するところでございますけれども、今後任意入院を促進していくために、次の点をぜひともこれは明らかにしておく必要があると思ってお尋ねするわけでございます。
 この二十二条の三の二項は、入院者から退院の申し出があった場合に、その者を退院させなければならないということを規定しておりますけれども、入院中の処遇について非強制的処遇が原則であることが明記されていないわけですね。この原則がなぜ明記されなかったのか。これは当然同項の趣旨から見て非強制的処遇すなわち開放処遇が原則である、私はこのように理解をするわけでございますけれども、法文上これが明記してなかったのはどういうわけでございますか。
○仲村政府委員 任意入院にかかわりませず、一般的に言いまして、精神科の入院医療はできるだけ開放的な治療環境で行われるということが望ましいと私ども考えておるわけでございますが、その開放的な処遇を行うべきであるといった内容の規定を設けることは、やはり個々の患者の症状に応じて判断されるべき部分があるというふうなこともございまして、法的な仕組みとしては不適当ではないかということで考えまして、むしろ運用面で種々考慮してまいりたいということで対応したいと考えております。
○沼川委員 強制的な手段によらないで任意入院者をケアするためには、強制的処遇に比べてより多くのマンパワーが必要であると私は考えます。ひいてはより多くの費用を要することになるのじゃないか。このような負担の増加に対して、やはり医療費の裏づけがなければ、かけ声だけの任意入院促進ということに終わってしまうのじゃないか、こういうおそれが十分考えられます。医療現場の負担増に見合った形で、例えば任意入院加算、こういった医療費サイドの手当てがされることになるのかどうか、この辺をお尋ねしておきたいと思います。
○下村政府委員 精神科の診療報酬につきましては、これまでも各種の点数の新設等で精神医療の推進を図ってまいったわけでございますが、ただいまお話しになりました入院に係る問題につきましては、現在は基準看護制度で対応しておるわけでございます。精神医療については、その特殊性にかんがみてより緩やかな要件での基準看護を認めるというふうな形でやっておるわけでございます。問題は、私どもとしては、その任意入院という形によって、そういう患者さんに対してどういう医療をやっていくのかあるいはどういう配置が必要なのかというふうな、むしろ医療の内容の問題ではなかろうかというふうに考えているわけでございますが、今回の改正を契機にいたしまして、さらに具体的な議論を展開していくということになるのではないかと思っておりますので、中医協における議論等を見ながら、そのあり方について考えてまいりたい、このように思っております。
○沼川委員 まだまだお聞きしたい点がたくさんあるわけでございますが、時間がありませんので、最後のまとめの意味で、さらに大臣に最後にお尋ねしたいと思います。
 特に、私も何回も申し上げましたように、今回の改正案は、一つは、入院が必要なときでもできる限り患者の意思による入院に努めるよう医師に義務づけて任意入院を基本とする、この点が一つ。それから強制入院、行動制限などの強制医療に対する患者の不服申し立て権を認めて、入院時にこれらの権利を患者に書面告知する。三番目に患者の不服申し立てを精神医療審査会が審査し、これに基づき知事が退院や処遇改善を命令できることとし、命令違反には罰則を設けるなどの規定を提案しているわけでございます。
 この改正案の新しい規定は、まだまだ不十分な点がたくさんございますけれども、現行法から見れば一歩前進と私も評価したいと思います。そういう点で、今回の改正案はまず一つのステップとして、これで決して十分ではありません。今後国際世論の批判を今のままではますます浴びるんではないか。日本の歴史というのを振り返ってみますと、日本が民主化する場合、必ず外圧でないとだめだという歴史をどうも持っているようです。黒船以来、何か外圧がないと日本の民主化は進まない。私はそういうことでは困ると思います。大臣は、今国際世論の批判、いろいろな問題が指摘されておることも十分御承知であると思いますけれども、これを一つのステップとして、国際批判に耐えられる、むしろ胸を張って日本の精神医療法はこうだと言えるような法律づくりに、今後ともいろいろな指摘された問題点を改善しつつ努力をしていただきたい。その意味での決意を最後に伺って、終わりたいと思います。
○斎藤国務大臣 今回御提案をいたしております改正は、精神病院におきます入院、そしてまた入院中の処遇また退院、こういった時点におきます改善を施し、人権の一層の擁護を促進してまいる、同時にまたできるだけ在宅なり地域において、この方々が十分なる生活をしていけるような社会復帰に努めてまいる、こういう内容でございまして、これまで置かれておりました精神衛生を取り巻く環境等から見ますと、相当な前進になるものと思うわけでございます。同時にまた、そういったことを踏まえますと、これを実効を上げていくということについては、現在もなおいろいろな問題点なり障害もあろうかと思うわけでございますが、こういったものを乗り越えて、今回の法の改正の趣旨にのっとってこの法を運用し、徹底いたしてまいるということが第一である。そしてその上に立ってさらなる改善を行ってまいるということが必要である。このような考えに立ってこれからも精神保健対策について積極的に取り組んでまいりたいと考えております。
○沼川委員 以上で終わります。
○堀内委員長 田中慶秋君。
○田中(慶)委員 今回の精神衛生法の改正は、患者の人権尊重をしつつ精神医療の進歩に従って適切な医療を行うということを前提とし、さらに患者の社会復帰、社会参加が実現していくことを目指したもの、こういう形であると思います。もう一つは、そのための地域医療や福祉という観点が大切であろう。こういうことが重要視される中で、今回の法改正は、少なくとも二十数年ぶりに外国のいろいろな批判あるいはまた今日における社会的なニーズにこたえて改正されたものと思います。こういう一連の考え方について、冒頭に大臣の所信をお伺いしたいと思います。
○斎藤国務大臣 今御指摘がございましたように、今回の改正が精神障害者の入院等人権の擁護を一層促進してまいる、同時に社会復帰を促進いたしてまいるということにおいて精神保健対策を一層向上していく。これまでいろいろと御指摘なり、また御批判もあったことに対して対応していけるものであると考えております。
    〔委員長退席、長野委員長代理着席〕
○田中(慶)委員 そこでお伺いしたいわけでありますが、厚生省では、精神障害者と言われる人たちの数をどのように把握し、さらにまたその中でも入院を必要とする人あるいはまた在宅のまま医療指導を受けられる、また受けることを必要とする人がどのぐらいおられるか、把握をしていたらお伺いしたいと思います。
○仲村政府委員 精神障害者全体の数の推計でございますが、精神衛生実態調査、三十八年に行われたものがございますけれども、この有病率、人口千対十二・九という数字を使って推計いたしますと、精神障害者の推計数は約百五十五万人ということになるわけでございます。なお、この中には約五十万人の精神薄弱者も含まれているわけでございます。現在どの程度の患者さんが入院しておるかということで申し上げますと、六十一年六月末現在の入院患者数は約三十四万人でございます。それから外来患者さんでございますが、通院患者は五十八年の患者調査から推計をしてみますと約七十万人ということでございまして、これらのことから医療を受けている精神障害者の数は約百万人程度ということで推計しております。
○田中(慶)委員 今、厚生省で昭和三十八年度に調査をされ、そしてそのパーセンテージを出されて推計で百五十五万人と言われたわけであります。私はその基本的な考え方は理解できますけれども、昭和三十八年代の社会的な条件と今日の社会条件では大変大きく変わってきております。特にここ五年、十年というのは精神的にも大変負担増になる社会傾向が出ているわけであります。そういうことを考えたときに、昭和三十八年の数値、基礎データでよろしいかどうか。この辺が厚生省としては余りにも漠然としたデータに基づいてそれぞれの資料をつくられているのではないか。そういう点で、これらに対してどのようにお考えになっておるか。
○仲村政府委員 おっしゃいますように、三十八年の精神衛生実態調査の有病率をもって推計しておりますことは、まことに古いではないかという御指摘だと思います。御指摘のとおりだと私ども考えておりますが、こういう形の精神衛生実態調査というものが最近諸般の事情から非常に行いにくいということもございまして、この数字を使わさせていただいておるわけでございます。
 御指摘のように、他の一般の疾病構造が変化しているのと同様に、精神疾患についても恐らくいろいろな形での変貌が起きておるということは、私ども想像にかたくないわけでございますが、まことに申しわけないのですけれども、確固たる数字をお答えできないわけでございます。しかし、今御指摘のような、近来の変化でございますとかあるいは高齢化というふうな要素も考えますと、中身的にもあるいは数字的にも変わっておる部分があろうかと思いますけれども、残念ながら現在のところ確たる数字は申し上げられないわけでございますので、先ほどのようなことでお答えさせていただいたわけでございます。
○田中(慶)委員 確かに精神障害というのは幅広いと思います。心の病という前提に立ちますと、精神障害者を特定し、その数の正確な把握というのはなかなか困難だと思いますけれども、今日の科学技術の進展や社会環境は大変複雑になっております。少なくとも産業構造の変化を見ただけでも、従来までの製造業が第三次産業に移行する、また管理職やいろいろな職場環境も大きく変わっている、こういうことを考えただけでも、現業にいた人がある日突然営業にかわり、自分たちの会社の命一つでそれぞれ単身赴任をされていく、そんな環境の中で精神的負担というのが大変大きくなっているわけであります。その数は少なくともますますふえている傾向にあると私は思います。そういう点で、今局長が言われておりますけれども、把握しにくい、三十八年のデータを使っている、こういうところにこれからの対策やいろいろな問題点が起きやしないか、そういう点の心配があるわけであります。恐らくこれは日本だけの問題ではなく、先進国と言われるアメリカやヨーロッパの中においても同じことが言えるのではないかと思います。そういう点では、三十八年のデータを基礎にしながらも、先進諸国のデータを踏まえて全体的な把握というものが必要であろう、こんなふうに私は考えておりますけれども、厚生省としてこれらに対してどのようにお考えになっているのか、お伺いしたい。
○仲村政府委員 おっしゃいますように、対策を立てる場合に、その対象となる患者さんなり疾患像を的確に把握するというのは非常に大事なことだと考えておりますので、いろいろな角度から工夫をしてみたいわけでございますが、御指摘のように、同じ精神疾患の中でも、質の変貌と申しますか、そういうのが起きておるということをおっしゃるお医者さんもおられるわけでございますしいテクノストレスとかいろいろな形で、こういう社会でのストレスに対応する形での疾患というものは別な形であるわけでございますし、先ほども申し上げました高齢化によります痴呆の問題とかいろいろ中身は変わっておるわけだと思いますので、専門の先生方ともよく相談をさせていただきまして、できるだけ的確な数字を把握するような努力を重ねてみたいと思います。
○田中(慶)委員 私はなぜこの数字にこだわっているかというと、これからの医療全般にわたる整備の問題やあるいはまた医師の問題、先ほども言われておりますけれども、医師不足と言われながらも、現実には全体的な数の把握とかいろいろなことがなければ、不足であるかあるいはまた充足されているか、そういうことははっきりできないわけであります。あるいはまたそれぞれの施設にしても、当然そのことが言えると思うのです。ですから、ある程度の全体的な把握をすることは、予算を措置をする場合においても大切なことであろう。今のような把握の形の中では、きめの細かい医療やきめの細かい福祉というのは私はできないと思う。ですから、こういうことを含めて、すべての問題というものは、この数値が基礎になるのではないか。せっかく今回法律の改正をするにしても、やはりそういうことが根本になければいかぬであろう。こんなことで申し上げているわけでありますから、できるだけ正確なデータを把握できるように、またそのことによってこれからの対策が十二分に行われるであろう、私はこんなふうに考えております。この辺について大臣、ひとつ明確に答弁をいただきたい。
○斎藤国務大臣 社会の複雑化、多様化等により心の病いを持たれる方も非常に多くなってまいります。精神保健対策の推進ということは非常に重要なことであり、これの根底になるべき基礎的データを把握していくということがその前提になるということもお説のとおりだと思います。しかしながら、具体的に調査をさせていただくということになりますと、さまざまな御意見やらまた障害もあるわけでございまして、関係の皆様方に十分な御理解を得るべく努力をし、そして実態の把握ができるよう前向きに努力を重ねてまいりたいと思います。
○田中(慶)委員 確かにいろいろな日本の今日までの歴史の中で、精神障害者という形の中で、その家族の大多数は、古くから社会等の偏見により自己の立場を主張することもはばかられてきたわけです。こういうことからしても大変難しい問題があろうと思います。しかし私は、今の社会構造からして、全般的に、よその国の例も見ながら、できるだけ近似値のものが出るであろう、こんなふうに信じておりますし、ぜひこれからもそのことを含めて、全般の対策に重点を置かなければいけないということでこのことを申し上げているわけであります。
 そこで、実は今申し上げたように精神障害者の家族というもの、あるいはまたその障害者もそうでありますけれども、肩身の狭い思いをして悩み、苦しみ、そして厳しい社会の現実に直面しながら病いとの闘いをし、懸命に生きているわけであります。今回の改正は、法律の名称は精神衛生法から精神保健法に改め、目的規定についても改正が行われているわけでありますけれども、精神衛生法が真に憲法で規定する基本的人権を保障する改正となるかどうか、大変疑問であります。その辺について、基本的には個人の基本的人権を保障するということ、これが大切ではないか、こんなふうに考えておりますけれども、今回の法律、その中身、その背景等々を含めて、この辺についてどのような形で位置づけられているのか、お伺いしたいと思います。
○斎藤国務大臣 今回の精神衛生法の改正は、入院患者の一層の人権の擁護、また社会復帰ということに重点を置いて改正をさしていただきました。
 特に、入院患者の処遇につきましては、第一に、本人の同意による任意入院という新しい制度を初め入院の形態等について整備をいたしました。
 そして第二点といたしましては、精神保健指定医という制度を新たに創設をし、任意入院以外の入院等についてこの判定を行い、また行動制限等についても、この指定医によって判断をするということにいたしたところであります。
 また第三点といたしましては、都道府県に精神医療審査会というものを設置をいたしまして、入院の状況を把握をする、そしてまたその退院の適否等について審査をするということといたしたわけであります。
 このような主な点を申し上げさせていただいたわけでございますが、このようにいたしまして、入院患者の皆様方の人権を一層擁護し、そして憲法に定められる基本的人権をこれまでにも増して推進、充実をさしてまいることになるというふうに考えております。
 また、社会復帰を推進をいたしてまいるということにおいて、病院から家庭へ、そして地域へということをスムーズにしていく。そのためにはいろいろな相談事業やまた指導事業、そしてその社会復帰のための施設を充実をしていく。また地域における精神保健センターというようなものを充実をいたしていくことによりまして、地域において障害を持たれる方も伸び伸びと生活をしていただけるような、そしてそれが、裏返せば地域の方々が精神障害者に対しての理解を深めていくということにもつながってまいると思うわけであります。
 こういったことを総合的に見てみますと、基本的人権の一層の推進に資するものであるというふうに私どもは考えております。
○田中(慶)委員 大臣からの今の答弁を聞くと、今回の改正はまさしくすばらしい、バラ色のような形で受け取られるわけでありますけれども、そのような精神でぜひこれはやっていただきたいし、またこれからもいろいろな指導をしていただきたい、こんなふうに思います。
 例えば、今までの中においても問題の一つであります措置入院も、都道府県別に比較しても、それぞれがばらばらであった、こんなこともデータで出ているわけであります。ですから、今回の一つの法の改正、これがやはり長い日本の精神障害者に対する歴史を変える一ページになってほしい、こんなことを含めて、ぜひ今の考え方をこれからも定着、推進をしていただきたい、これを要望しておきます。
 そこで、今回改正が行われるようになったきっかけというものは、一つには昭和五十九年三月のいわゆる宇都宮病院事件であると思います。この事件発生からこれまで、法律改正の準備と並行して、厚生省では指導監督強化、事件の再発防止等の策を講じてこられたと思います。具体的にはどのようなことをやられてきましたか、この辺についてまず一点お伺いしたい。
 さらにまた、その効果がどのような形で出ているか、同様の告訴事件等々が発生しているかどうか、これらについてお伺いをしたいと思います。
○仲村政府委員 いわゆる宇都宮病院事件でございますが、五十九年三月十四日の看護職員による患者への暴行致死の新聞報道を発端といたしまして、無資格者診療でございますとか入院の必要のない方が入院しておられるというふうな種々の問題点が指摘されたところでございまして、この宇都宮病院に対しましては、事件後栃木県を通じまして数回にわたりまして立入調査及び実地審査を行いまして、関係者からの事情聴取も行ったわけでございますが、医療従事者の不足、無資格者の診療行為、患者の病室外収容、入院不要者がいたこと等の問題点が確認されたわけでございます。
 これらに基づきまして、栃木県において、同病院に対しまして、医療従事者の充足等について努めること、それから病院管理者を変更させること、入院不要者を退院させること等各般の指導を行ってまいったわけでございますが、厚生省といたしましては、事件後の五十九年六月二十二日にそれを契機といたしましたいわゆる三局長通知を各都道府県に出しまして、精神病院に対します実地指導、実地審査、医療監視等の徹底を図って、このようなことが再び起きないようにということで指示をさせていただいたところでございます。
 なお、宇都宮病院につきましては、先ほど申し上げましたこれらの指導によりまして、入院が必要ないとされた患者さんについては全部一度退院をしていただいて、現在、再度医療が必要な方で一部入っておる方がおられるようでございますけれども、当時の判定で入院不要とされた者については、すべて他の施設へ移転をしていただいたということで、当時の状況から見て私どもとしては改善が見られたというふうに考えております。
 それから、後段でお尋ねの宇都宮病院事件以降類似の訴訟事件はどの程度かということでございますが、宇都宮病院事件に関しましては、元院長その他看護職員等に対する刑事事件と同時に、病院関係者、国、栃木県、宇都宮市に対しまして民事の損害賠償訴訟が提起されております。
 それから、その他の訴訟事件でございますが、全体として私ども直接把握していない部分もあろうかと思いますが、国が被告とされております訴訟事件は、同意入院にかかわります八王子市長の同意が遡及して行われたことが問題とされた民事の損害賠償請求事件として、現在東京地裁で係争中のいわゆる成田病院事件というのがあるわけでございます。
○田中(慶)委員 今のような背景のもとに昭和五十九年と六十年八月に国連の国際人権連盟、障害者インターナショナル、すなわちNGOが日本の精神医療に対して、不当な入院措置を防ぐための手段がない、あるいはまた入院患者に対しての扱いそのものが動物並みの扱いをしている、あるいはまた政府は改善のための努力を怠っている、精神衛生法は国際人権B規約に違反しているなどの批判が行われ、当時は宇都宮病院事件の直後であり、感情的な面もあったかと思いますけれども、すぐにこれらに対して厚生省は反論されたわけであります。
 しかし、今これらの批判を振り返ってみて、当たらずとも遠からず、こういう感があるわけでありますが、当時のNGOの批判について、現時点では厚生省はどのように考えられておるのか、お伺いしたいと思います。
○仲村政府委員 当時確かに幾つかのNGOから指摘がございました。それに対しまして、当時といたしまして、不当な入院を防ぐための各種のチェックがなされておって、同時に司法的救済手続をとることもできる、あるいは大部分の病院は健全で最善のケアで治療をしておる、三局長通知、先ほど申し上げました三局長通知を出すなどして政府としても対策を実施してきておる、それから精神衛生法は国際人権B規約に違反してないというようなことを私ども主張したわけでございます。
 基本的には、私ども現在も同様な理解でございますが、精神医療を取り巻く諸状況を勘案いたしまして、精神障害者の人権擁護をさらに推進する必要があるということから、通信・面会に関しますガイドラインをお示ししますとともに、その延長線上と申しますか、今回の法律の改正まで参ったわけでございまして、国際的な批判にもたえるように、日本の精神医療の質の向上、さらには社会復帰の促進ということ、あるいは入院患者さんの人権擁護という点で、国の施策をさらに飛躍させたいということで法律改正をお願いしているわけでございます。
○田中(慶)委員 批判は批判として率直に受けとめ、新たな次の発展のための大きなエネルギーにしていただく、弁解であってはより充実はできないと私は思います。
 そこで、さらに国際法律家委員会、ICJの訪日調査団の報告書、昭和六十一年九月にまとめているこの報告書についてはどのようにお考えになっているのか、今改正に盛られている点、盛られていない点、さらにはまた今後これに基づいてどのように進められていくのか、これらについてお伺いをしたいと思います。
○斎藤国務大臣 ICJによる訪日調査は、法律と精神医療に関する専門家によって、我が国の精神保健医療制度、実際の地域医療体制等各般の分野について行われたものでございますが、昭和六十一年九月の報告書はそれぞれの専門的見地から取りまとめられたものと考えております。
 今回の法改正作業につきましても、各界から寄せられた御意見とともに、この国際的な人権団体でありますICJ勧告についても十分参酌させていただいたところでございます。
 具体的な点につきましては、局長から答弁いたします。
    〔長野委員長代理退席、委員長着席〕
○仲村政府委員 ICJの勧告について、今回の法改正に盛られている点、盛られていない点、その理由ということでのお尋ねだと思いますが、ICJ勧告におきましては、我が国の精神医療につきまして、入院患者に係る人権擁護についての法的保護が不十分である、それから二番目に、リハビリテーション等社会復帰施策が不十分であって、長期にわたる入院が常態化しておること等の基本的な問題認識に立って、その是正のための指摘が行われたわけでございまして、もう少し具体的に申し上げますと、自分の意思にかかわらず入院している患者さんについては、都道府県レベルの中立機関による審査システムを確立する、職員配置チェックや患者個人の苦情を受け付けるため定期的な精神病院調査を実施する、入院患者の信書、通信の自由を完全に保障する、精神障害者を対象とする広範な地域ケアと社会復帰プログラムの整備に対する財源措置をとるということを提言しておりまして、今回の改正におきましては、本人の意思にかかわらない入院形態では、患者の人権の擁護に必要な一定の資質を持つ精神保健指定医の判断を必要とする仕組みをとったこと、それから本人の同意に基づく任意入院制度を法律に明記したこと、入院継続の必要性の有無や処遇の適否について、専門的かつ中立、公正な審査を行う精神医療審査会を設置したこと、厚生大臣が定める一定の行動制限については行うことができないこととしたこと、厚生大臣または都道府県知事は、必要に応じて精神病院に対する報告徴収、立入検査等を行うことができること、精神障害者社会復帰施設等法文上明記して、地方公共団体がこれを設置することができる等、ICJの勧告の趣旨に沿った形で、入院患者の人権とともに、社会復帰の促進を図る規定を設けたところでございまして、ICJ勧告のうち、精神病院に生じたすべての死亡例の剖検、高齢精神障害者に対するホステルの整備など、我が国の医療福祉制度との関連でさらに検討が必要な点につきましては、今回の法改正では盛り込んでおりません。
 以上でございます。
○田中(慶)委員 私は、このICJの勧告というものが今回一部入れられておるわけですけれども、その勧告がまだ不十分であると思います。そういう点で、これからどうするかという問題について御答弁いただけなかった。
 さらに、ICJから厚生大臣、あなたに手紙が来ていると思います。私のところにもその写しをちょうだいしておりますし、また勧告の内容も来ているのです。しかし、今回の改正に当たって、趣旨は生かされておりますけれども、生かされていない部分も大分あるような気がいたします。
 そこで、今後、時間がない、質疑も余りできませんでした。そういう中で、政省令の通達、指導、あるいはまた今回できなかった部分について速やかな見直しとかいうことについて大臣の見解をお伺いして、私の質問を終わりたいと思います。
○斎藤国務大臣 ICJから八月十八日に私あての書簡が送られてまいりました。これによりますと、今回の法改正を歓迎する、しかしながら、さらなる人権擁護に向けての指摘がございました。今回の改正におきまして、御指摘の事項が十分全面的に盛り込まれたとは申し上げられない点があるわけでございますが、今先生が御指摘のように、この法律を成立さしていただきましたならば、その政省令の制定、また法改正後の制度運用の面において、御指摘の趣旨が十分生かされるように最善の努力をいたしてまいります。
 また、今回の法改正に当たりまして、なお残っておる問題といたしまして、障害者の定義の問題、いわゆる保護義務者にかかわる問題等もございますが、この法律を運用いたしてまいります段階においていろいろと常に見直しを行いながら、改善をすべき点は改善をするという姿勢に立って、必要に応じて必要な措置を今後ともとってまいりだいと考えております。
○田中(慶)委員 時間が参りましたので、以上で終わります。ありがとうございました。
【次回へつづく】