法改正の話

id:navix:20050622さまのところで、組織犯罪処罰法での組織的殺人罪の法定刑に関する疑問についての記事がありました。

組織的殺人罪の法定刑は平成16年法律第156号によって改正され、死刑又は無期若しくは6年以上の懲役になっているのですが、ところが条文を掲載しているサイトではどれも改正前の法定刑(6年ではなく5年)になっています。これについて、私は、単に改正が反映されていないだけだと思っていました。
たとえば「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(裁判員法:平成16年法律第63号)」附則第7条では、組織犯罪処罰法第7条が改正されていますが、裁判員法がまだ施行されていないせいか、これらサイトではこの改正は反映されていません。
 
ところが、今回の問題は、もう少しややこしいようです。
平成16年法律第156号の第3条では、殺人罪等の法定刑が引き上げられていますが、組織的殺人罪の法定刑引き上げについては、以下のような文言になっています。

組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律の一部改正)
第三条 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(平成十一年法律第百三十六号)の一部を次のように改正する。
  第三条第一項第七号中「五年」を「六年」に改める。

でもって、組織犯罪処罰法の該当部分(改正前)はこうなっています。

第三条 次の各号に掲げる罪に当たる行為が、団体の活動(団体の意思決定に基づく行為であって、その効果又はこれによる利益が当該団体に帰属するものをいう。以下同じ。)として、当該罪に当たる行為を実行するための組織により行われたときは、その罪を犯した者は、当該各号に定める刑に処する。
 三 刑法第百九十九条(殺人)の罪 死刑又は無期若しくは五年以上の懲役
 【4号から6号まで略】
 七 刑法第二百三十三条(信用毀損及び業務妨害)の罪 五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金

というわけで、これを機械的に書き換えると、組織的信用毀損罪のほうが改正されてしまうことになります。

ですが、平成16年法律第156号には附則があって、そこの第2条1項ではこうなっています。

第二条 この法律の施行の日が犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律(平成十六年法律第▼▼▼号)の施行の日前である場合には、第三条のうち組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律第三条第一項第七号の改正規定中「第三条第一項第七号」とあるのは、「第三条第一項第三号」とする。

というわけで、改正されるべきは組織犯罪処罰法3条1項の第7号ではなく第3号になる、というわけです。
 
この改正が反映されている書籍である「六法全書」を見ると、確かに組織的殺人罪は「死刑又は無期若しくは6年以上の懲役」となっていて、組織的信用毀損等罪は「5年以下の懲役又は50万円以下の罰金」となっています。
この改正では、刑法199条の殺人罪の法定刑が引き上げられ、それに伴って組織的殺人罪の法定刑も同時に引き上げられました。法案提出時に示された理由に

理由
 凶悪犯罪を中心とする重大犯罪に関する最近の情勢等にかんがみ、これらの犯罪に適正に対処するため、有期刑の上限並びにこれらの犯罪に係る法定刑等及び公訴時効の期間を改める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

とあるとおりです。
というわけで、navixさまの記述で

法律専門の3サイトが揃って、殺人の処罰を(刑法199条と同じ)「死刑又は無期若しくは5年以上の懲役」のままにし、信用毀損及び業務妨害のほうの量刑を“改正”しているのはなんでだ? いいのそれで?

とありますが、「法律専門の3サイトが揃って」間違っているのでしょう。
組織犯罪処罰法と「犯罪の国際化及び組織化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」との関係については、以前(id:kokekokko:20050617)ちょっと書きました。組織犯罪処罰法の改正はややこしいので、こういう混乱は時々あるようです。