精神医療に関する条文・審議(その56)

前回(id:kokekokko:20050715)のつづき。初回は2004/10/28。
平成5年改正の審議のつづき。

第126回衆議院 厚生委員会会議録第14号(平成5年6月2日)
【前回のつづき】
○網岡委員 それでは、次に移ります。
 次は、精神病院に入院しておる患者の実態でございます。これは五年前の改正の中で大変問題になったところでございますが、依然として長期入院状態にある患者がかなり多いという実態がございます。私が得た資料によりますと、五年以上入院の長期在院の患者は全体の約五〇%を占めているという状態でございます。私は、これはある意味でいきますと異常な状態だというふうに思うわけでございます。
 この原因は、社会復帰施設、それから小規模作業所といったような整備がおくれている。先ほど指摘をいたしましたような内容のものが現実にあることが、結局この精神病院における五年以上の長期入院を抱えている、実態を引きずっているというふうに私ども思うわけでございます。それらの点について認識をどう持っておられるのか、そしてどういうものが原因と考えておみえになるのか、厚生省のお考えを示していただきたいと思います。
○谷政府委員 私どもが承知をしておりますデータでも、精神病院におきます五年以上の入院患者は約五〇%ぐらいというふうに承知をしております。
 精神疾患は、他の疾患と異なって、まだ原因とか治療法等が十分解明されていない部分もあるというようなことで、多くは慢性疾患として、あるいは慢性的な疾患として長期の治療を必要とする部分があるというふうに理解をしております。そのことが長期入院患者の存在する原因というふうに考えているわけでございます。
 一方、先生御指摘ございましたように、社会復帰施設の整備がおくれている。社会復帰施設の整備あるいは社会復帰対策を促進することによって、一層退院が促進をされるという面もあるというふうに考えられます。そういう意味で、先ほど来お話ございます社会復帰対策の促進ということには、一層努めてまいりたいというふうに思っております。
○網岡委員 それでは、次に御質問を申し上げますけれども、結局、私どもが考えておりますことは、社会復帰施設の設置に対して、地方公共団体が設置の義務を負っていくような規定を設けるというところが大事なところだというふうに思うわけでございます。
 その申し上げたい根拠というのは、老人福祉法で、痴呆老人などの入る福祉施設や在宅福祉サービスの権限を市町村に移譲、一元化されておみえになるのでございます。もし精神保健法も社会復帰その他の施設の整備に関して地方公共団体に設置義務規定というものを設けるならば、私は、例えば先ほど指摘しました京都とかあるいは愛知とかいったような財政的に余裕を持った県は、この法律によってかなり前進するという状況が出てくると思うのでございます。地方公共団体にこういう設置義務規定を設ける必要があると思うのですが、これについて厚生省はどうお考えになっているか。
 それからもう一つは、地域サポートシステムの一環として二次医療圏ごとに社会復帰施設をつくる、こういう必要があると思いますが、この点について厚生省が今後どういう強力な指導をされていくのか、この辺についてもお答えいただきたいと思います。
○谷政府委員 社会復帰施設の整備につきましては、私ども、基本的には地方公共団体の自主性というものを尊重し、地域の実情に応じて適切に処置される必要があるというふうに考えております。また、他の障害者の福祉施設につきましても、基本的には施設設置の義務づけはなされていないということでございますので、現時点で地方公共団体に社会復帰施設の設置を義務づけるということは考えていないわけでございます。
 ただ、先ほど来お触れございますように、社会復帰施設全体がまだ非常に不足をしているということでございますし、設置がされていない県もある。また、二次医療圏ごとのお話もございましたが、そういう実態を踏まえて、各都道府県に対しましては、今後社会復帰施設の設置について積極的に対応するよう指導をしてまいりたいと考えております。
○網岡委員 指導もさることながら、設置義務規定を入れるとすれば、当然国の方が財政支出を覚悟しなければいかぬことになるわけですから、その両面を考えながら、しかし、一方においては、我が国における精神保健対策が先進国であるヨーロッパとかいったような国々におくれないよう、経済大国である日本は一日も早く人権擁護という立場で、かなりスピードを上げて整備をしなければいかぬときでございますので、ぜひそういう方向でこれは検討してもらいたいということを申し上げておきます。
 次に、大臣にお尋ねをいたします。
 先ほど申しましたが、五年前に精神病院から社会復帰施設へという方針が打ち出されました。そして今回の法律改正に当たりましては、さらに一歩前進をいたしまして、社会復帰施設から地域社会へという目標を実は掲げておるわけでございます。
 このことからいきまして、精神障害者の真のノーマライゼーションを実現してまいりますためには、公衆衛生審議会が進むべき方向として示唆をいたしておるところでございますが、しかし、それにもかかわらず、今私が質問いたしましたように、例えば社会復帰施設は二次医療圏でわずかに四分の一しか設置されていない。小規模作業所は数においてはやや伸びておりますけれども、全体から見ればまだまだ整備の状況は不十分だ、こういう現状があるわけでございますが、これに対する厚生省の認識と、この認識の上に立って今後どういう方針を掲げてこの精神保健対策を進められていくか、厚生大臣にお尋ねをいたします。
○丹羽国務大臣 先生から御指摘をいただきましたように、前回の改正におきましては精神病院から社会復帰施設へ、そして今回の改正からさらに一歩進めまして、社会復帰施設から地域社会へということを私どもは標榜いたしておるわけでございますけれども、先ほどから御指摘を賜っておりますように、社会復帰施設がなかなか思うように進んでおらないことも紛れもない事実でございます。
 なぜ社会復帰施設が進まないかということでございますが、先ほどから保健医療局長からも御答弁を申し上げておるわけでございますけれども、一つには、運営費に係る設置者負担がこれまで四分の一あったことであります。
 それから二番目といたしましては、精神障害者に対する、国民、特に地域住民の皆さん方が、いざとなると社会復帰施設をつくるということに対しましてまだまだ根強い反発があることも紛れもない事実であります。こういった観点から、国民の理解がまだ十分に進んでおらないのじゃないかというふうに私は考えておるわけでございます。
 そこで、今後の対策でございますけれども、平成五年度からは、社会復帰施設の運営費の設置者負担は、これは地方交付税の方に措置をお願いいたしまして、解消をすることができたわけでございます。と同時に、いわゆる地域保健医療計画の中に盛り込んでおるわけでございますので、これにつきましても各都道府県を指導いたしまして、とにかく地域の実情に応じたきめ細かな社会復帰対策の推進を行っていかなければならないと考えておるわけでございます。
 今回の法改正におきましては、さらに地域に即した創意と工夫、地域住民などの理解と協力による訓示規定の創設、こういうものを新たに設けさせていただいておるわけでございますし、また精神障害者社会復帰促進センター、これは機構でございますが、全家連を念頭に置いておるわけでございます。これの創設ということも今回の改正の位置づけの中に織り込まさせていただいておるわけでございます。こういうような施策を通じまして、今御指摘の問題について一歩一歩前進を図っていく決意でございます。
○網岡委員 ぜひさらなる精神保健対策の推進を図っていただくように要望いたします。
 それでは、時間があと十五分くらいしかないので、少し早めますけれども、次は、地方精神保健審議会の委員に「精神障害者の社会復帰の促進を図るための事業に従事する者」を加えた理由は一体何か、これは簡単でいいですから、明瞭にお答えいただきたいと思います。
○谷政府委員 精神障害者の社会復帰を一層促進をしたい、すべきであるということから、地方精神保健審議会において社会復帰に関する事業の現場の意見を反映するといった多角的な審議を行う必要があるのではないか、そういうことから、社会復帰に関する事業に従事する方を委員として加えることにしたものでございます。
○網岡委員 それでは、今局長が御答弁になられた同様な趣旨で考えていきますならば、公衆衛生審議会の委員に患者の家族及び家族を代表する法律家を入れることが、今後の精神保健行政を進める上で大きな役割を果たすと私は思うのでございます。
 今の御答弁にありました考え方をさらに一歩前進をさせて、今度は公衆衛生審議会の委員の中に患者の家族及び家族を代表する法律家をぜひ一枚加えていただくことによって、我が国における精神保健衛生が一層の進展を図られるようにしていただきたいということを考えるわけでございますが、この点についての厚生省のお考えはどうでしょうか。
○谷政府委員 現在、公衆衛生審議会の精神保健部会におきましては、精神保健に関する業務に従事する方あるいは司法関係者などによって組織をされておるわけでございますが、精神保健部会の地域精神保健に関する専門委員会におきましては、家族会の代表の方あるいは家族会で研究をされている方にもお入りをいただいておるわけでございまして、今後ともそういったような家族会の意見が反映されるよう、審議会の運営ということには心がけていきたいと考えております。
○網岡委員 これは正式な委員としてのいすが与えられませんと、公衆衛生審議会の中における患者の家族の権利が、じかにその必要性を伝えるということにはならぬと思いますので、ぜひ今後早急に御検討いただきたいというふうに思います。
 それでは、次に移りますけれども、中医協の診療報酬基本問題小委員会におきまして今審議が続けられていると聞いておるわけでございますが、その検討課題及びその進捗状況についてはどのようになっているのか、御答弁いただきたい。そして、技術料について取り上げられているのかどうか、この点について御答弁いただけませんでしょうか。
○古川政府委員 お答えいたします。
 診療報酬に関する多岐にわたる基本的な諸問題につきまして中長期的な観点から論点整理を行おう、こういうために、御案内のように平成三年の七月に中医協に診療報酬基本問題小委員会が設置されまして、現在まで十三回にわたりまして委員会が開催されているという状況でございます。
 検討項目といたしましては、御指摘のございました技術料評価のあり方、こういったものを初めといたしまして、医療機関の機能、特質に応じた診療報酬のあり方、あるいは患者ニーズの高度化、多様化への対応、そういったこと等六項目が取り上げられておりまして、精力的に御審議をいただいているということでございます。
 今後の日程でございますけれども、この夏ごろには検討項目につきまして一通りの御議論を終えていただきまして、その後何らかの取りまとめをいただきたい、こういう予定でございます。
○網岡委員 状況につきましてはわかりました。それでは、そういう作業の進行状況でございますから、この際、精神保健衛生の重要性からいきまして、ぜひひとつ診療報酬のあり方について検討していただきたいというふうに思うわけです。
 先ほどちょっと資料をお手元に送っておきましたが、まず一般病院と精神科病院の一カ月の収入のあれを言いますと、一般科の医療費は一人四十五万円、こういうことでございます。しかし、精神科医療費というのはその半分である二十四万円程度というのが実態でございます。したがって、一般科から比較をいたしますと約半分という状況でございます。
 そして、資料を今そこへ出しましたけれども、これは平成三年度の自治体病院患者の一人一日当たりの収入を甲表、乙表に分けまして提示がしてあるわけでございます。その中で、結核病床はもうやめまして、一般病床と精神病床というものを比較をいたしていきますと、一般病床の場合は、投薬、注射、それから処置・手術、検査、放射線といったものを合計をいたしますと、ざっと一万四千七十三、こういうことになると思うのです。
 そして精神病床の場合は、同じ放射線まで合計をいたしましても、わずかに十二分の一か十三分の一ぐらいになると思いますが千八十三、こういうことになるわけでございます。これはもう圧倒的な格差でございます。これでは幾ら病院経営を合理化をしたりやりましても、とても追っつかない状況にございます。結局のところ、精神病院における技術評価というものが、きちっと精神医療の実態というものを踏まえた評価が行われていない、こういうことに私は起因すると思うのでございます。そこで、ぜひひとつこういう実態を踏まえていただきまして検討していただきたい。
 特に私が付言をしておきたい点は、重要なところでございますが、要するに一般診療、一般科の場合は、例えば放射線にしても検査にしても、全部これは目に映るわけです。はっきりわかるわけです。だから診療報酬にきちっと積算をされていくことになるわけですが、精神医療の場合には、さっき言ったように、わずかであるということと同時に、医師なりあるいは臨床心理技師といった精神病院におけるあらゆる従業員が患者と一対一でじっくり話をしながら、何か現場の医師に聞きますと、一時間から二時間ぐらいかかるというような実態だそうでございますが、こういうような問診を通じて精神状態を診断していくその作業というものがほとんど診療報酬に加算されていない。その現状が表で出ているような実態になっているというふうに思うわけでございます。
 こういう点について今検討されているというふうに御答弁がございまして、夏ごろにはその方向が出るということでございますが、その一定の方向が出る前に、今私が指摘しましたような精神病床における目に見えない、心の関係で一対一で会いながら診断をしていくという、これもやりようによっては、検査なんかはもうちゃんとメーターが出るわけです。だから、すっとわかるわけですが、その心の診断というものは極めて難しいところでございます。より高度な技術が必要なところでございます。
 だから、こういう点をぜひひとつ診療報酬の中にきちっと盛り込んでいただくような検討を厚生省の立場からやってもらうように努力をしていただきたいと考えるわけですが、この辺について厚生省はどう考えているか。
○古川政府委員 今後の方針といいましょうか考え方の前に、ただいまいろいろ資料をいただきまして見させていただきましたが、現状について一言触れてみたいと思うのでございます。
 基本的には、こういった一般病床あるいは精神病床の間で非常に大きな格差があるということについては、疾病に対する治療の特性によるものであるということでございまして、収支の状況でいいますと、平成三年の医療経済実態調査によりますと、精神病院の百床当たりの医業収入というのは二千七百七十六万円、一般病院の場合は七千五百八十四万円ということで、三七%の額であるわけでございます。
 他方、医業コストの方を見ますと、精神病院が二千六百九十六万円、これに対して一般病院は七千五百六十八万円という状況で、両者の差額である医業収支差額は、精神病院が八十万五千円、これに対しまして一般病院は十六万二千円ということで、精神病院の方が一般病院に比較して医業収支差額は大きくなっている。これはそういった事実があるわけでございます。
 ところで、今先生の御指摘のような、いわゆる精神医療の特性といいましょうか、そういったことを評価すべきではないか、これは御指摘のとおりだと思うわけでございまして、私どもも従来から、適切な医学的判断のもとで、患者さんの病状に応じまして患者の早期退院、社会復帰を促進していく、そして患者の福祉の向上を図るという観点から、精神医療の専門性を評価する、通院精神療法等そういった評価をしてきたわけでございますが、さらに御指摘のような精神医療の特性を踏まえて、技術料重視という考え方に立ちまして現在医療経済実態調査も実施しておりますし、今後そういったことで検討してまいりたい、かように考えておる次第でございます。
○網岡委員 最後に、三十秒でやめますけれども、目に見えない技術の評価というのは、やはり目盛りがないわけですからなかなか難しいのですよ。だから、厚生省の方から中医協のそれぞれのポストのところに、精神病院の実態をきちっと調査をして、そして現場の意見というものをじかに聞いてもらって対応するようなことを、夏の時期に結論をつける、見通しをつける前にぜひひとつ実行に移してもらいたいということを要望しておきますが、その点についてどうでしょうか。
○古川政府委員 ただいまの御指摘につきましては、これは中医協で御議論をいただいておるわけでございますので、中医協の方にそういった御指摘の趣旨を申し上げたいと思っておるわけでございます。
○網岡委員 終わります。
【略】
○浦野委員長 質疑を続行いたします。土肥隆一君。
○土肥委員 冒頭、委員長にお願いしたいのでありますが、一枚の資料を委員及び政府委員の皆さんにお渡しいただきたいと思いますが、いいでしょうか。
○浦野委員長 どうぞ。配付をしていただいて結構です。
○土肥委員 それではお配りくださいますように。
 質問をさせていただきます。
 一九八四年、例の宇都宮病院事件が起きました。そして前回、二十二年ぶりに精神保健法の改正が行われまして、五年後の見直しをするべく今精神保健法の改正を審議しているところでございます。
 昨年、平成四年六月の厚生省の調査では、いわゆる任意入院、これは自発的な入院でありますけれども、六〇・三%となったと報告されております。大変この率が高くなることは精神保健上好ましいことと考えますが、一方で、病院の閉鎖病棟は依然として五八・二%。前回決められました閉鎖病棟の中に公衆電話を置くということですけれども、まだ八七・八%しか置いていない。それから、任意入院でありますからほぼ自由に開放病棟で移動ができるはずなのに、現在任意入院の患者さんが五五%も閉鎖病棟に入っているというふうな統計が出ています。
 私は、宇都宮病院事件以来、日本の精神病院は処遇やらあるいは治療が今日どの程度改善、改良されたのかということに興味があるわけであります。しかしながら、どうも今日でもなお通信とか面会の自由が十分でなく、また入院時に当然行われなければならない告知のあり方、あるいは指定医が少のうございまして、任意入院の患者さんが保護室に入れられるというようなときも指定医が診ないで、とりあえず任意入院で入れておいて後で医療保護入院に切りかえるなど、さまざまな具体例、問題があるようでございます。
 そういう観点から、私はある大阪の病院を訪れたわけでございます。それを少し紹介させていただきますけれども、期日はことし一九九三年五月八日の土曜日でございました。大阪に大阪精神医療人権センターというのがございまして、これは弁護士さんたちが中心にやっております、任意の精神病の患者さんたちの人権を守るセンターでございますけれども、そこに所属する弁護士さん三名、それからこのセンターに出入りしていらっしゃるその病院以外の精神科の医者二名、その他数名と、それに参議院議員の三石久江先生、そして私、土肥隆一が同行いたしました。
 そして、五名の患者さんの面会を申し入れたわけでございます。この人権センターに事前に電話で、あるいは友達を介して、この人権センターの訪問を受けたいという申し出がございましたので、人権センターでは面会申込書という書面をつくりまして、昭和六十三年四月厚生省告示第百二十八号第三号規定に基づく代理人であるというふうに言いまして、弁護士の名前を挙げ、そして所属は大阪弁護士会である、患者名はかくかくである、患者本人に会いたい、そして五月八日の日付を入れて病院の窓口に提出をいたしました。
 病院では女の方がいらっしゃいまして、その患者さんの名前をメモに控えまして、そして、ちょっとお待ちくださいと言って裏の方へ行ったわけであります。しばらく待っておりましたら、大体それが十三時二十分ごろでありますけれども、二十分ほどしましたら、ここの川井院長、それから春日医局長がちょうどそのあたりを歩いていらして、たまたま外来の診察室に入られるのを見ましたので、私は名刺を差し出してごあいさつをしたわけであります。そして、一緒に参りました者がその外来の診察室に入りまして、いろいろとやりとりを始めたわけであります。
 それは、まずは面会に来たわけでありますから、面会の手続をしてもらっている間だけ少しお話を聞かせてくださいと申しまして、特にその中では、実は二月二十二日にこの病院である事故が起きまして、患者さんが救急病院に入って、そこで亡くなられるという事件がございました。そのことについて、これも後で少し申し上げますけれども、いろいろとお聞きをしたわけであります。
 新聞報道等あるいはこの人権センターが調べた範囲ではいろいろと問題点があるので、その点を主治医であります川井院長、ここでは名前を挙げさせていただきますけれども、そして内科の先生である春日医局長、このお二人と私の三者が座りまして、その周りで連れの者が話を聞くということになりました。そして、いろいろその患者さんの死亡事件について聞いていったわけであります。
 この事件の内容についてはいろいろと疑問がございますので、その当時の実情がどうだったのかということをいろいろお聞きいたしました。しかし、これはもう既に告訴されておりまして、刑事事件として警察が入っておりますので、その内容について多くを申し上げる必要、また申し上げることもできないというふうに思いますが、その面会をしている間にいろいろお聞きして、なかなか面会の手続が進まないわけですね。まあかれこれ二時間ぐらい、そこでその二人のお医者さんと話をしていたわけです。
 そして、いよいよ面会が成るのかなと思いましたら、この春日という内科の先生ですけれども、今現在、私どもが訪問した直後にこの院長がかわりまして、この春日医局長が院長にかわっておりますので、ある意味では更迭人事がなというふうにも思ったわけでありますけれども、この春日医師がやってまいりまして、面会は保護義務者の依頼でしかできない、保護義務者あるいは本人の承諾書があれば面会できます、こういうふうに言って、我々の面会はできないということを言ってきたわけです。
 御承知のように、この精神保健法では、弁護士の面会はあらゆる場合を通じて制限されないというのが原則でございまして、我々は面会をする権利があるし、また患者さんも面会を受けていいはずだというふうなやりとりをいたしました。それでもだめだと、こう言うわけです。
 この春日医師はこの外来の診察室からしきりに入ったり出たり入ったり出たりするわけでありまして、何をするのかなと思いましたら、どうやら某所、どこかわからないのですが、私ども大体推測はつきますけれども電話をいたしまして、一々どうしたらいいかということを聞いているようであります。三度ほど電話を入れておりました。そして、その都度何かを言ってくるわけです。
 最初にやりましたのは、面会を申し入れた患者さんのメモ書きを持ってまいりました。そして、メモ書きは何が書いてあるかというと、患者さん自体が会いたくないと言っているからあなたたちは会えません、こういうふうに言うわけです。それはここに写しを持っております。この春日医師が自分でも言いましたけれども、私が指揮して書かせた、例文を出して書かせた、こういうふうにおっしゃいましたので、これはもう間違いないことでありまして、面会人に会いたくない、こういうふうに患者が言っていますよと、ちらちらしながら持ってきまして、そして私どもにそれをくれたのですね。
 こう書いてあります。患者名は伏せます。「大和川病院長どの 平成五年五月八日」名前が書いてありまして、「今後入院ちりょうについてはそうき退院をお願いします つきましては弁ごし等に一切いらいしません」拇印が押してあるのです。もう一人の方は「今後の入院退院に付いては病院側の指示にしたがい弁護士等いらいは一切致しません」「こんどのりょうようおよびたいいんについてはいっさい病院がわのちりょうにしたがいます べんごしはりよういたしません」「今后、早期の転院をお願い致します。つきましては今后弁護士等いらい面会することはありません。よろしくお願い致します。」こうなっております。こんなものをなぜ書かせるんだということでまた一悶着あったわけであります。
 しかし、後にこの春日ドクターが報告書というのを書いておりまして、だれにあてた報告書がわからないのですが、そのファクスの写しが私の方にも回ってまいりまして、とにかく人権センターと国会議員がやってきて、脅迫をもって面会を強要したというふうに書いてありますので、もし議員の皆さんや厚生省当局にそういう文書が入りましたら、いつでも私の面会の記録と照らし合わせて読んでいただきたいと思うのであります。
 そして、こういうことを書かせるというのは、これはもうまさに医者としての越権行為である、こういうことをやるべきではない、面会をさせてほしいということをたびたび申し上げました。
 それで、電話で何度もまた連絡をいたしまして、やっぱりだめだと。例えば二名だけ、一人退院してもらいましたから四名残っているのですが、そのうちの二名だけでいいから会わせてくれと、私が政治家みたいな交渉を始めたわけでありますが、そうしたらまた電話をするわけです。それで、だめだと。では一名だけということで依頼いたしましたら、この春日ドクターもさすがに、まあそれくらいしょうがないだろうなというような気分になってきたので、やれやれと思っておりましたら、またもやまずい、だめだ、こういうふうに言うわけです。
 三回目の電話の後でこういうふうに言いました。僕が言ったんじゃないぞ、これは僕が言ったんじゃないけれども、僕にとってはちょっとなと。私が、これは管理上の問題ですから、あなたが責任者であるから、あなたの権限で判断したらどうですかと言ったら、それはできないんだ、私には権限がないんだ、こういうふうに言いまして、とうとうその場を我々は引き下がらざるを得なかったというのが実態でございます。この病院の面会を私、経験いたしまして、まだこんな病院があるのかということを痛切に感じました。
 そこで、少しこの病院の中身に入ってお聞きしたいのですが、まず、どうでしょうか、厚生省当局の方の見解として、この弁護士が持参しました面会申込書は、精神保健法的にもあるいは面接の通知や告知上も適切なものであるのかどうか、お答えいただきたいと思います。
○谷政府委員 ただいま先生からるる御説明のございました件につきましては、先生が病院に行かれた際の弁護士の面会申込書については、私ども内容を見させていただいておりますので、そのものについては適切なものであるというふうに判断をしております。
○土肥委員 それでは、この患者さんたちに弁護人には会いたくないという文章を書かせた、こういうことを医師が指導するということでございますけれども、これは一種の面会制限に当たると病院側は言うでしょう。現行制度上、こういうものが日常的に書かれているような病院なんですが、そのことについてどういうふうな考えを持ち、今後どういうふうな指導をなさろうとしていらっしゃるのか、お答えいただきたいと思います。
○谷政府委員 まず御指摘の、弁護人には会いたくない旨の文章が書かれたかどうかということについては、現在この問題全体を含めて大阪府の方で調査中でございますので、今お話しのことについて具体的なコメントはちょっと差し控えさせていただきたいと思いますが、一般論として申しますと、先ほど先生もお触れになりましたように、現行の精神保健法上、精神病院の管理者は、患者または保護義務者の依頼によって患者の代理人になろうとする弁護士との面会の制限を行うことはできないということになっておりまして、たとえ管理者が患者による面会を希望しない旨の文書を有していたといたしましても、この取り扱いは同様だというふうに考えております。
 入院患者との面会につきまして不適切な運用がなされている場合につきましては、そういうことがないよう都道府県が病院を指導すべきものというふうに考えておりますし、また、特に必要がある場合におきましては、精神保健法第三十八条の七に基づきまして、精神病院の管理者に対して改善命令をすることができるということになっております。
○土肥委員 その三十八条の七、改善命令についてはまだ後でお聞きいたしますが、この病院に参りますと全くの閉鎖状態、閉鎖病院、これはもう病院全体が閉鎖病棟と言っていいくらいで、中に準開放病棟開放病棟もあるのですけれども、感じとしては患者さんががんじがらめにされているんじゃないかということです。
 実はもっと大事なことは、私どもが面会しました患者さんが、五月八日に私どもが面会依頼をしたのですが、五月の十日に突如退院をさせられているわけであります。この退院をさせられた患者さんは今もってどこにいらっしゃるかわからない。中には内部疾患、肝臓とか膵臓の病気を持っていらっしゃる方、あるいは行路病者として行き倒れのようになっていた方が入院されていたわけでありますが、それが突然退院を余儀なくされている。つまり、いなくなっているわけです。
 こういうことが行われますと、私どもが、あるいは弁護士さんたちが面会に行く。面会に行ったらその都度いわばほうり出されるということでございまして、例えば、その日のNさん、三十七歳、五月十日退院をするわけです。この人はアルコール治療を受けていたわけですが、今日でも幾ら調べましても住所不定でわかりません。どこにいるのかわかりません。それからKさん、五十歳代の方で、年齢ははっきりわからないのですけれども、この人もどこに行ったかわかりません。連絡先不明であります。Uさん、この人は二十一歳ですけれども、この人もどこに行ったかわからないし、どういう暮らしをしているか一切わからない。この三名が退院をさせられました。
 お世話をしていらっしゃる人権センターの方によると、恐らくまた路上生活者に戻ったり、それから、生活保護を打ち切られますからその日の生活にも困るようなことで、大阪府の福祉事務所に聞いてもわからない。わからないならば、それは生活保護の対象者から外されるわけであります。実は五月八日の後も、二十二日などに面会をしたら、早速六月五日にはおまえとおまえとおまえは退院させるというような情報も入っております。
 この病院で、とにかく非常に制限された中で、電話や人づてに弁護士との関係を持った者は次から次に追い出されるというような格好になりまして、この人権センターでも、面会が患者さんを非常に不利にするんじゃないかというふうな状態になりますので、こういうことが行われているということについてはもう厳重な注意をこの病院にしていただかないと、今後患者さんが弁護士と会おうとしたときには、その都度追い出されるようでは困るのであります。この点についてどういうふうに対処なさるか、お答えをいただきたいと思います。
○谷政府委員 現在、具体的な事例については大阪府で調査をしているわけでございますが、一般論として申しますと、精神病院の管理者は、例えば医療保護入院患者を退院させたときには、十日以内に都道府県知事に届け出なければならないということにされているわけでございまして、こういうことが適切になされていない場合には、都道府県を通じて病院を指導するということになると思います。
○土肥委員 どうでしょうか、五月八日の三名は大阪府の方に確認なさったのでしょうか。
○谷政府委員 まだ現時点で、私ども退院届が出されたかどうかについては把握をしておりません。
○土肥委員 もう十日を過ぎているわけでありますから、これはまさに精神保健法上の瑕疵であるというふうに思いますね。
 それから、十日以上もさることながら、病院が退院のときには保護義務者あるいは扶養義務者に通告をして、そして退院させなきゃならないということも書かれておりますね。そのことも行われていないということも指摘しておきたい、このように思います。
 さて、そういうことでございまして、この病院は調べれば調べるほど不可解きわまりない病院でございまして、例えば診療の実態もどうなのかということは、いろいろと患者さんの訴えがあるわけでございます。中身については、いわばカルテを押さえなきゃならないとか、あるいは診療報酬の請求上のいろいろな手続からしかわからないという面もあろうと思いますので、一つ例を挙げて申し上げますと、入院の手続のときにやらなきゃならない告知義務というのがあるわけでありますが、皆さんのお手元にこの大和川病院の告知義務の文書をお渡ししております。
 厚生省は丁寧に任意入院あるいは医療保護入院の場合の「入院に際してのお知らせ」、つまり告知についてモデルを示しまして、様式七とかそういうふうにして示してありますが、これを今局長ごらんになりまして、どんなところが問題だとお考えでしょうか、お聞きしたいと思います。
○谷政府委員 精神病院への入院に際しましては、精神保健法に基づいて、その入院形態に応じて所定の事項を患者本人に対して書面で知らせるということにされているわけでございますが、医療保護入院の場合には、精神病院の管理者は、その入院措置をとる旨、それから治療上必要な場合には行動制限をすることがある旨、また、都道府県知事に対しまして退院等の請求ができる旨を書面で示すことにされております。
 また、任意入院の場合には、これに加えまして、本人の退院の申し出によって退院ができるということ、それから、指定医が必要と認めた場合には退院制限をすることがあるという旨を書面で知らせ、患者から入院に同意する旨を記載した書面を受け取ることになっているわけでございます。
 先ほどお示しなされましたこの病院の「入院に際してのお知らせ」ということでございますが、仮にこれが医療保護入院について用いられた場合を考えますと、入院形態が医療保護入院である旨が示されていないのではないか。それから、都道府県知事に対しまして退院請求及び処遇改善請求ができる旨が示されていないのではないか。
 それから、仮に同じ書面が任意入院で用いられましたと仮定した場合には、入院形態が任意入院であるということが示されていない。それから、先ほど申しました退院の申し出によって退院ができる、あるいは指定医が必要と認めた場合には退院制限をすることがあるということが記されていないというようなことが指摘されるのではないかと思います。
○土肥委員 今、七つ、八つ御指摘になったと思いますが、例えば都道府県の連絡先の電話であるとかそういうものも記載されておりませんし、あるいは福祉事務所など書いてありますから、その福祉事務所の電話番号なども書くべきだというように思います。
 これは、局長は仮に任意入院とおっしゃいましたけれども、医療保護入院にも使われているというふうに我々は考えておりまして、この「入院に際してのお知らせ」を見ますと、巧妙に、例えば第一番目に「あなたの入院はあなたの( )の同意と医師の診察の結果入院と成りました」、ここにだれが同意したかということを書かせるというふうになっております。
 私は、これもおかしいと思うのですね。患者さんが、自分が非常に不当な入院をさせられたというふうな意識を持った場合に、それが親であるとか子供であるとかというようなときに、その人に対して敵意を持つということもあるわけでありまして、これはもう明らかに書いてはならない、そういう関係を書いてはならないというふうに思うのであります。
 それから、割り印を押しまして、下に「告知を受けました」といって自分の名前と判を押すというようなこと、これは必要ないことであります。告知を受けなければ入れないわけでありますから。そこだけを切り取って、いかにもあなたはもう文句が言えないのですよというふうな気分にさせる。それから、大和川病院の管理者氏名、それから主治医氏名、印などが全部抜け落ちている。
 これはどうなんでしょうか、大阪府が定期検査、監査で、この書面については指導は行われたのでしょうか。
○谷政府委員 現在大阪府において全体的な調査をし、かつ六月に入ってから再度調査をするというふうに聞いておりますので、その調査の過程の中で、こういったような問題についても当然指摘がされるものだというふうに理解をしております。
○土肥委員 あえて申しますけれども、定期的な監査で当然目に触れる、また見なきゃならない項目ではなかろうかと思うのですが、これが何入院かもわからない形で全患者に使われているというようなこと、これがもう日常的であって、春日医師はこれを私にくれまして、まあこんなものですよというような平気な話であります。精神保健法も通知も通達もあったものじゃないというふうに強く感じております。ぜひとも徹底的な監査をしていただきたい、このように思うわけであります。
 細かいことになりますけれども、例えば病院の中に電話が置かれている。公衆電話を置かなきゃならない。どうも置かれているようであります。ところが、朝夕三十分だけ許可をする。そして、五百円分十円玉を用意して、それぞれかけさせて、本人の生活費の中から差っ引く。つまり、三十分の間に五百円分かけるということで、非常な制約の中で電話を使っている。電話を置いていますよ。だけれども使用時間を極めて短くする。
 あるいは、ここは日曜祭日は面会をさせないのです。日曜祭日こそ患者さんとその親たち、家族が面会すべきときに面会はさせない。あるいは、面会もなるべく短くして十五分ぐらいでやってくれ、こう書いてあるのです。表に堂々と面会の案内が出ております。それから、食事の時間が、夕食が三時三十分ごろにあるとかいろいろ言われておりますし、あるいはいろいろなカルテの記入の問題、あるいは薬の調剤の問題、投与の問題、さまざまあるようでございます。
 どうでしょうか、県の監査というのは、こうした病院の職員あるいは医者、看護婦、看護人等の配置、あるいは生活時間、あるいは電話、あるいは医薬品の投与、管理、そういう総合的な病院の監査があるのでしょうか。どういう監査をなさっているのか、ちょっと突然の質問で申しわけないのですが、お答えいただきたいと思います。
○谷政府委員 精神保健法の上では、病院管理者というのは入院患者に対する適切な処遇を確保すべき責任があるわけでございまして、そういう意味において、そういうことについて十分やられていない場合には、県の職員が報告を徴収するなりあるいは診療録を立ち入って見るなり、そういうことが県の職員の権限として与えられているわけでございまして、今回の事例について現在、先ほど来申しておりますように、大阪府が具体的な調査を行っているという段階でございます。
○土肥委員 一般論とか、都道府県の係が適切にやっているだろう、やっているはずだという答弁がございますけれども、これはちょっと納得いきませんですね。
 これはもう医療法人は定期的な監査、検査があるわけでありまして、その都度その監査項目が記載されているはずでありますし、その監査項目に基づいてどんな改善がなされたかということが報告なされているはずでありますし、それに基づいて次の年はどうかということを重ねていけば、例えばこんな「入院に際してのお知らせ」みたいなわけのわからない文書が今もすっかり残っているなんということは到底考えられないというふうに思うのです。その点はどうなんでしょうか、本当に徹底してやっていただいているのでしょうか、お聞きしたいと思います。
○谷政府委員 こういったような病院の調査につきましては、精神障害者の問題については年に四回病院の調査をするということになっております。また、先ほど来申し上げておりますように、六月には改めて調査をするというようなことになっているわけでございまして、私どもその調査の結果を待って、この病院に対する適切な対応をとってまいりたいと考えております。
○土肥委員 私どもいろいろ調べてまいりますと、何もかも病院に問題があるということがわかりますので、きちっとやっていただきたい。
 例えば六十年六月十九日、保険局の第六十八号を見ますと、昭和六十年ですからかなり古いのですが、そのときに実地調査のことをかなり言っておりますね。最近「看護要員数の不正申請の疑いで保険医療機関関係者が逮捕・送検されるという事態が生じた」ということが書いてありまして、そして「実地調査を確実に実施する」とか「実態の確実な把握に努める」とか、看護要員数の把握をきちんとしなさい、「看護婦名簿、出勤簿、勤務割表、賃金台帳、病棟日誌、看護婦免許証の写し等の提出を求め相互に点検を行うこと。」とか、あるいは「保険医療機関の開設者、管理者のほか、必要に応じ、事務責任者、看護責任者等からも状況聴取を行うこと。」こういうふうに六十年の「基準看護の承認に関する取扱いについて」というところに出ているわけであります。
 こういうものが繰り返し繰り返し出ながら、なおかつこういう病院があるということは不思議でしょうがない。そこでは行政にどこか手落ちがあるんじゃないかと言わざるを得ないぐらいのものであります。
 そこで、大和川病院のことをよく調べていきますといろいろなことが疑問点として出てまいりますので、お尋ねしたいのでありますけれども、この医療法人はさまざまな事業をやっておりまして、その事業の中身もさることながら、今日も、これからもいろいろと問題を引っ張り出していくんじゃないかというふうに思うんです。
 先ほどちょっと申し落としましたが、この二月二十一日に大和川病院で死亡事件が起きました。これは新聞を読みますと、ここに入院していた患者さんが急に容体が悪くなって、近所の救急病院、八尾病院に送致するわけです。そして、転院した後に亡くなっていくわけでありますが、実は最近の新聞で、この事件に関して大和川病院が逆に救急病院を告訴したというわけですね。搬送先の病院長を訴える。訴えた事件は、自分たちの病院、大和川病院の信用を失墜せしめるような診察をしたからだ、所見をしたからだというふうに言うわけです。
 この病院の特徴は、何もかもすぐに告訴に訴えるという病院でございまして、顧問にいる弁護士が悪いんじゃないかなと思うのですが、経営者も含めて、これはやはりはっきりさせていただかなきゃいけないと思うのです。特に医療法人でありますから、医療法人についての監査をきっちりしていただかないと困るんです。
 この大和川病院は元安田病院といいまして、安田という名前がまさに象徴的な名前でありますけれども、一九六九年四月に看護人による患者撲殺事件が起きまして、三人の看護人がバットで患者を殴り殺したんですね。これは刑事告訴を受けまして処分されている。行政処分が出ております。一九七九年にも、寝てはならない時間に寝ていたといって、患者さんを規則違反だというので、トイレに引っ張り込みまして撲殺しているわけです。これも行政処分を受けております。
 そして今回二月二十二日、もう既にこの患者さんの親戚の方が告訴しておりますから、中身は刑事事件としての結果を待たなければならないわけでありますが、これを告訴した。そして、その告訴の理由として、大和川病院に問題があるんじゃないかと言った途端に、救急先の八尾病院がそういう判断をして、これは不審な死に方であるから警察を呼んだということ自体がおかしいといって、一億三百万円の損害賠償の要求をしているわけです。こういうことが日常的に行われている。これはもうまさに一大和川病院の問題ではなくて医療法人の問題ではないか。法人自体はやはり厚生省によってきっちりと把握していただかなければならない、こういうふうに思うのです。
 そこで、この医療法人の登記上は、いわば私どもが御本尊と呼んでいるんですけれども、安田基隆という人、もともと大和川病院は安田病院と言っていたんです。このお医者さんは、理事長は三つの病院を経営しているんですが、それぞれの病院の登記上の理事長には挙がっていなくて、彼は安田記念医学財団というものをつくっております。それだけではなくて、この人はいろいろな商売もしていらっしゃいます。
 その辺についてちょっと明らかにさせていただきたいと思うのでありますが、まず、安田記念医学財団というものが平成四年十二月二十一日に大阪府の所管でありました財団から厚生省に所管がえをいたしました。どうして所管がえをなさったんでしょうか。
○谷政府委員 これは、従来は大阪府の認可の財団法人だったわけでございますが、六十三年九月に大阪府下において医学の研究助成、主としてがんの予防並びに治療、それから医療技術者の育成を図り、医療の向上に寄与することを目的に大阪府知事から設立を許可され、事業活動を行ってきた財団でございます。
 平成四年度におきまして、当財団から大阪府知事に対しまして、全国からの助成要望等にこたえるため、二つ以上の都道府県にまたがる活動を行う財団として寄附行為を変更したい旨の申請が出されまして、大阪府知事より厚生大臣に対して変更認可の進達がなされました。審査をいたしまして、厚生大臣所管の財団法人として平成四年の十二月二十一日付で認可がされたものでございます。
○土肥委員 もう一つ聞いておきます。
 先ほどの刑事事件は、これは警察の手に渡っておりますけれども、厚生省としてはどういうふうな関心をお持ちか、お話しください。
○谷政府委員 先ほど先生がおっしゃいましたように、現在刑事事件として捜査中でございますので、私どもが現在のコメントをすることは差し控えたいと思います。
○土肥委員 いや、これはこれから訴訟が起きていろいろ問題になりますし、こんなことが精神病院で起こるということですね。
 私、いわゆる主治医である川井元院長にお会いしましたときに、気軽なものですよ。いやいや、肺炎ですよ、ちょっと重体になりましたから送りました。そうしたら、あなたの所見では、こんな肋骨が四本折れているとか脳挫傷があるというのはわからなかったか。所見上わかりませんでした。なぜレントゲンを撮らないかと言いましたら、いや、ちょうどポータブルレントゲンが壊れていましてねというような話なんですね。そして結局逆訴訟しまして、受け入れた八尾病院が落としたんじゃないかとか、そんなことを言いまして、とにかく院長みずから、しかも主治医である院長みずからいいかげんだということを強調しておきたいと思います。
 私がなぜこんなに怒っているかといいますと、もう一人の医局長でありました現院長の春日ドクターが、私が来たことを、いいですか、自称衆議院議員土肥隆一が来たと書いてあるのですね。名刺を渡したわけですね。国会議員の名刺がこんなに信用がないのかと私は初めて知ったわけでありまして、国会議員はあちこちで名刺を配りますから、やはり信用がないのだな、こう思ったのです。
 そういう書き方で、そして最後は、どうやら票集めに来たらしいなんていうのです。私、大阪まで行って票集めする必要はないわけでありまして、そういうことをぬけぬけと言う医者なんですね。自称衆議院議員、自称参議院議員の思想的な行動であって、選挙票絡みの嫌がらせの一環であると思われる、こう書いてあるのですね。これは個人的な文書ですから、当局の皆さんにはお尋ねしません。
 さて、この安田記念医学財団というのは、要するにがんの研究をした人に金を渡そう、お金をやろうというわけです。私のこの資料では二十七億七千万円の定期預金を持っている。あるいは土地建物もありますけれども、基本財産といたしました。これはどうやってつくったのでしょうか。おわかりでしたらお答えください。
○谷政府委員 現在の安田記念医学財団の基本財産でございますが、平成四年の十一月現在で三十億というふうに承知をしております。寄附額の大部分は今お話しの安田氏によるものだということでございますが、その集めた経緯等については特に把握をしておりません。
○土肥委員 これは安田さんのお金ですね。局長命そうおっしゃいましたね。ですから、安田さん個人の寄附ですね。大変なお金でございまして、どうやっておつくりになったのかなと貧乏人の私も勘ぐりたくなるところであります。この財団の目的は研究助成及び人材育成ということで、いろいろな資料を見ますと、高度なあるいは先進的ながん研究の研究者に最高五百万円からのいわば助成金を渡すという大変気前のいい事業でございます。
 それはそれで結構だと思うのです。しかし、厚生省は都道府県管轄から国管轄に、全国的な法人の運動を展開するために必要なわけでありますから、そういう格上げをした。それはやはりいい財団だ、財団法人を与えるにふさわしい財団だとお考えになった、こういうふうに思っていいと思います。
 ところが、いろいろ中身を調べてまいりますと、この理事の中に、別に理事がいいとか悪いとかいうわけじゃありませんが、府会議員という人が元府会議員も入れれば五名ですね。それから安田基隆さんが理事長でありますけれども、顧問弁護士の中藤幸太郎さんという方が常務理事でおります。あとは大学の先生だとか国立がんセンターの研究所長なども挙がっております。
 どうでしょうか、この理事構成を見て、どうも私は、別に府会議員が悪いとは言わないのですけれども、少し多過ぎるのじゃないか。あるいは国立がんセンターの研究所長だとか、大阪大学微生物病研究所の所長あるいは札幌医科大学の学長などが名前を連ねていらっしゃいますが、これはこれでいいとお考えでしょうか。
○谷政府委員 理事あるいは評議員の選任というのは、財団の寄附行為に規定をいたします理事選任手続に従って選任をされたものだと考えておりますので、この財団そのものの構成、理事あるいは評議員の構成について、私どもがコメントをする立場にないのではないかと思っております。
○土肥委員 そうすると公務員でも構わないということですね、局長。
○谷政府委員 公務員につきましても、財団法人の理事に就任することについては、先ほど申しました財団の寄附行為に規定する選任手続に従って選任され、かつその方の所属長の承認があれば問題はないと思っております。
○土肥委員 安田基隆さんは、財団法人としては大変気前のいいというか、ある意味でがん研究にも寄与していらっしゃるのだろう、こういうふうに思います。
 ところが、安田さんはこのほかにいろいろなことをしていらっしゃるのです。それは何かといいますと、いろいろな商売をしていらっしゃるのですね。恐らく安田病院の実質的な経営者、法人上の理事長は別になっておりますが、実際上のオーナー、こう申し上げていいと思うのであります。この安田さんの医療法人、これは北錦会といいますが、そこに住所を置いて、医療法人と同じ住所のところにさまざまな看板が上がっております。まず、安田開発興業株式会社、安田もとだかビル株式会社、株式会社安進、安心して進むという意味ですね。株式会社エイトアンドエイト、株式会社豊生殿、株式会社チャーム、こうなっております。
 役員名簿を見ますと、すべてに安田基隆さんが取締役ないしは社長ないしは顧問にも名前が挙がっておりまして、そして弟さんであるとか奥さんであるとかも役員に名を連ねていらっしゃいます。
 聞くところによりますと、これは全部安田さんが起こした会社というふうに理解されます。そこで特徴的なのは、医薬品の販売であるとかあるいは食品の取り扱いであるとか、不動産業もやっているわけでありますが、病院の経営に関する業務であるとか、これはよくわからないのですけれども、毒物劇物の販売に関する業務であるとか、飲食、喫茶業、日用雑貨、臨床検査受託、寝具の管理、リース業、そして総合結婚式場、サウナぶろも経営していらっしゃいます。
 これを見てまいりますと、何か安田さんというのはよくわからなくなってくるのですね。お医者さんです。そして三つの病院を実質上運営していらっしゃる。このことについて厚生省の局長に一つ一つああだこうだと言うわけにはいかないでしょうけれども、法人を監査していただくということにおいて何をしているのかということをはっきりと調査していただきまして、報告していただきたい。
 特にこれは厚生省の監査になるかどうかということは、医療法人ができましても、同じビルのその窓に今の会社がべたっと全部張ってあるのです。写真を見たらもうすぐわかるわけですね。そして、彼はこうした会社を経営しながら三つの病院を動かし、大和川病院の一々の指示もしています。先ほどの春日ドクターが電話していたのは、恐らくこの安田さんか中藤弁護士であるというふうに思います。
 なお、聞くところによりますと、要するにこういう会社は一種のトンネル会社でありまして、例えば食品を病院に納入するといって食品会社をつくってあるわけですね。それから、おむつだとか医薬品、医薬品と言ったらいいでしょうか医療用具品でしょうか、そういうものを納める会社があるのです。ビル管理といえば、病院の掃除や何かにビル管理といって入れる。つまり、病院も経営し、その上になおこういう経営をしているということでありまして、相当忙しい経営者で、これで本当に三つの病院を管理することができるのかどうかということを強く強く申し上げておきたいと思うのであります。
 大臣、今私がるる申し上げましたけれども、それは裏がとれないとか憶測というふうなことを言われても、我々はそれなりの資料を集めておりますから、なお今後の皆さん行政当局の指導を期待するわけであります。
 日本にはまだこういう病院があって、しかもこの大和川病院には五百二十四ベッドの人が本当に何か胸が張り裂けるような思いで入院しており、何か事を起こせば殴られ、そして追い出されるというふうなことが実際にあるということを考えたときに、一体日本の精神保健の行政というのはどうなっているのかということを考えざるを得ない。
 そういうことを思うときに、今回この精神保健法の改正に当たって、こういう病院がまだあるということについて大臣は一体どういうお気持ちで今のやりとりをお聞きになったのか、そして、今後どういうふうにしたらこの精神病院の指導や改善、改良が行われると考えられるのか、大臣の所見をお伺いしたいと思います。
○丹羽国務大臣 まず、今回の法改正でございますが、先ほどから御指摘を賜っておりますように、いわゆる社会復帰施設から地域社会へと一歩きもに前進を図っていくことをねらいといたしまして、特に患者さんを尊重した医療、さらに社会復帰を促進することを目指しておる、こういうことで法案の御審議を賜っておるわけでございます。
 特に、精神病院においてはさまざまなケースがあると思います。いろいろなケースによって異なっていると思いますけれども、いずれにいたしましても、精神障害者に対しまして、きめの細かな医療サービスというものが提供されるということが当然のことながら大変重要なことであります。
 さきの公衆衛生審議会の意見書におきましても、今後の精神医療に関しまして「より良い環境において質の高い医療を受けること」を目指していく、こういうことが強調されておるわけでありますが、先生に先ほどから御指摘いただいておりますような、非常に実態とかけ離れているではないか、こういうことだと思います。この病院につきましては現在調査中でございまして、今後の調査の経緯を見守って私どもは判断をしなければならないと思っておるわけでございます。
 大部分の医療機関においては、私どもが目指していることに対しまして十分な御理解を賜り、また地域の住民の皆さん方の御理解を賜りながら、一歩一歩改善に向かって進んでいると思いますけれども、もし先ほどから委員が御指摘のようなことが現に起こったとすれば、この問題は一個人病院の問題ではなくて、いわゆる精神医療学界全体へ影響を及ぼしかねないような大きな問題であるというふうに、大変厳粛に受けとめております。
 いずれにいたしましても、私どもは、先ほどから申し上げましたように、患者の人権を十分尊重した精神病院のあり方を今後一層徹底していく考えに立つものでございます。
○土肥委員 あと一分残っておりますから、どうでしょうか、厚生省はこの法人監査をなさる決意でいらっしゃいますか。
○谷政府委員 現在、大阪府が調査をしておりますので、その結果を見て、私どもとして対応しなければならない状況であれば、そのような必要な措置をとりたいと思っております。
○土肥委員 終わります。ありがとうございました。
○浦野委員長 五島正規君。
○五島委員 今、同僚の土肥議員から、現実に起こり、そして患者さんが亡くなり、それが司法で争われている、裁判所で争われているという具体的な事例についてお話がございました。私も医療に携わってきた一員として、こういう日本の精神医療の現状に対し、本当に腹の底から恥ずかしいという気持ちと無念だという気持ちでいっぱいでございます。
 その意味におきまして、今回提出されております精神保健法、この法案は言うまでもなく、法案の名前のとおり、精神障害者の医療、障害者に対する福祉の諸施策、障害を持つ者に対する疾病のコントロールとかリハビリテーションあるいは障害防止の対策を含む保健、ヘルスというこの三側面をあわせて持っている法案でございまして、この法案によりこうした日本の精神障害者に対する対策が一歩でも前進することを願いたい、その気持ちは先ほど大臣おっしゃった気持ちと全く一緒でございます。その意味におきまして、今回提出されておりますこの法案の内容について具体的にお伺いしていきたいと考えます。
 まず最初に、この法案の精神障害者の定義の問題についてでございます。
 精神障害者の定義につきまして、「精神病質その他の精神疾患を有する者」というふうな形で書かれているわけでございますが、この精神病状態を欠いている者も対象とする、いわゆる従来の問題というのは解決されておりません。精神病質といったような状態あるいは精神薄弱といったような状態、場合によってはパーソナルディスオーダーと言われる部分までがこの問題に含まれるわけでございますが、これがいわゆる福祉の部分で含まれていくのか、ヘルスの部分で含まれていくのか、医療の部分にまでそれが含まれるのか、その仕分けが全くできておりません。
 したがいまして、従前の精神科医療におきまして、そうしたものまでが医療の範囲の中で含まれ、そして数々の混乱あるいは問題点を起こしてまいりました。今回の改定につきましては、「その他の精神疾患を有する者」ということで、「疾患」という形で一つ強調されているわけでございますが、逆にこうした一般状態、精神症状を欠いている者も漠然ととじ込んでいるというような状況の中でこの定義が入ってまいりますと、むしろ精神障害者の定義の拡大解釈が生まれてくる危険があるのではないか、そのように心配するわけでございます。なぜ一部だけの病名や状態名を例示として残されたのか、その理由をお伺いしたいと存じます。
 時間も一時間でございますので、あわせてそれに関連してお伺いしておきますが、精神障害者の範囲については、先ほども申しましたが、人権や保健、福祉といった側面では可能な限り広義であって、そういうふうな人たちに対して対応ができるということが望ましいことは言うまでもございません。しかし、強制入院という問題との関連において、被強制入院者の人権の側面に関係する診断名と状態名ということについては、あいまいさが排除された厳格な定義が必要であると考えます。
 国際的にはWHOの国際疾病分類、ICDによって統一されているわけでございます。我が国の疾病分類、厚生省がお出しの疾病分類におきましてもこの国際疾病分類が使われております。
 しかし、依然として我が国の医療の現場の中においては、病名であるのかパーソナルディスオーダーであるのか、一体どういう根拠でその病名が出てきたのか、あるいはその病名はどういう精神症状を指しているのか、極めてあいまいな病名のままで処理されているということが非常に多いわけでございまして、そういう意味において、今後この法の具体的な運用に際しては拡大解釈がないように厳重に指導し、我が国でもWHOのICDを使用していく、普及させていくということについて一層努力する必要があると考えるわけでございますが、その点についてどのようにお考えか、お伺いしたいと思います。
   〔委員長退席、山口(俊)委員長代理着席〕
○谷政府委員 精神保健法におきます精神障害者の定義は、精神病院への入院のほか、いわゆる通院医療あるいは社会復帰対策を含む精神保健対策全般の対象者の範囲を規定するものでございます。
 今回、この定義の変更をしたわけでございますが、これは従来の精神障害者の範囲を変更するものではなく、用語の適正化等を図るためのものでありまして、その対象者の範囲は拡大をしたわけでもありませんし、狭まったわけでもなく、全く同じであると私どもは考えております。
 今回、「精神疾患を有する者」という表現を用いることによりまして、精神医学上の用語との整合性のとれた表現となったと考えておりますし、また、国際疾病分類との間においても、それに合わせたというふうに考えているわけでございます。ただ、今回あえてそういう前提の中で疾患名を例示いたしましたのは、従来の対象範囲に変更がないということを法文上明らかにするためでございまして、そのため、従来の定義規定にあった疾患名を例示として使用したものでございます。
 それで、今回の定義の変更によりまして関係者の間に誤解や混乱が生ずることがないように、法律が施行されるまでの間におきまして、十分周知徹底を図ってまいりたいと考えております。また、先ほど先生お触れになりましたが、この運用に当たっての取り扱いについては、従来の考え方と変わらないということをあわせて周知徹底をしてまいりたいと考えております。
○五島委員 従来の考え方、範囲と変わらないということ自身が実は大変問題があるわけです。精神病質と言われている人たちあるいは精神薄弱者と言われている人たち、それらの中に多くの場合精神症状を持っているケースがあることは事実でございますが、逆に言えば、そうした精神病あるいは精神症状というものを欠いているケースがあり、いわゆるパーソナルディスオーダーとして考えられるケースが含まれていることは局長は御案内のとおりでございます。
 そうした人たちも同じように精神疾患、精神医療の対象として対応されてきているところに非常に問題がある。治療の対象でないものを、あたかも治療により何らかの対応ができるかのようなそういう問題というのは、非常に問題があるわけでございます。
 また逆に、従来の範囲から変わらないと言うけれども、疾病構造自身がやはり精神科医療の範囲においても随分変わってきております。例えば、精神分裂病というものを代表例として出されているわけですが、今日非常に問題があって、社会的にも非常にふえてきている疾患名としてのいわゆる躁うつ病の問題であったり、いわゆる神経症の問題であったり、そういうふうなものが随分とふえてきている。したがって、治療だけでなくて、保健、予防、福祉という立場から考えるならば、従来の範囲と考え方は全く変わらないということでは精神科医療は整理できないであろう。
 だからこそ、現実に医療機関がそれぞれ病名として使っておられる疾病をそのまま疾病分類として使っているわけではなくて、厚生省自身が、疾病分類としては、WHOの国際疾病分類というものに依拠して疾病分類をやっておられるのではないか。そういう意味では、精神科領域における疾病の整理、そしてそれに対応した治療という面から考えた場合に、もっと厚生省は国際分類というものを厳格に運用の中において広げていく、その努力をすべきでないかというふうに考えるわけですが、いかがでしょう。
○谷政府委員 先ほど、今回の定義規定の改正によって、従来の精神障害者の範囲を変更するものではないということを申し上げました。精神保健法による精神障害者というのは、先ほど申しましたような病院への入院のほかに、通院なりあるいは社会復帰対策を含む対象者の範囲を言っているわけでございまして、その限りにおいて、私どもは、従来使っておりましたこの定義規定と今回新たに設けました「精神疾患を有する者」という定義については、考え方としては、国際疾病分類との関係においても変わっていないという考え方をとっているわけでございます。
 ただ、先ほどちょっとお触れになりましたいわゆる強制入院についての病名の問題でございますが、これは従来から状態像、病態像について示し、それの原因となる疾患名を告示によって示しているということによって、いわゆる精神障害者の人権を束縛をするという部分については厳格な運営をしているところでございます。
○五島委員 従来のとおりでうまくいっているんだということで局長は頑張られるわけですが、やはり国際的には非常に合意されている疾病分類に日本も従って、そしてとりわけ治療の場において、この疾病分類の中においての治療の対応、あるいは患者さんのカルテの記載、あるいは治療方針の確立ということが、今後精神科医療がただ収容ではなくて本当に治療の場となっていく上においては、私は避けられない問題だろうというふうに考えます。そういう意味で、精神科学会へ対する働きかけも含めて、ぜひそのような努力をしていただきたい。
 WHOの国際分類をそういう形で普及することについて、谷さんはそういうふうな努力をする気がないというふうにおっしゃっておられるのか、あくまでこの法の範囲の上において、現行法の定義規定において問題はないと言っておられるのか、いま一つわからないわけですが、その辺、国際疾病分類を広げていく、普及をしていく、それに基づく診断名と治療、カルテの記載というふうな形を進めていくということについて厚生省はどう考えていられるか、その点に限って返答してください。
○谷政府委員 今回定義が変わったことに関しましては、特に医学界の方の御理解を得る必要がありますので、今おっしゃったような趣旨も含めて、また、先ほど私が申し上げておりますような現場での混乱を避けるという意味においても、指定医の研修、そういうときにおきましては、この問題について積極的に取り上げて御理解をいただくようにしたいと思っております。
○五島委員 ぜひそのような方向で、医療の面においても、この精神科医療というものを本当に医学的な合理性のある内容に変えていただきたい、そのために厚生省も努力していただきたい、お願いしておきたいと思います。
 いま一つ、今回の法律の改定の中におきまして、いわゆる保護義務者の名称が保護者というふうに改められました。受ける印象としては、これまでいわゆる自傷他害といったような問題も含めて、患者の家族にその義務が課せられたかのような保護義務者という名称が変えられた。それは名称の上での印象からいえば、少しはまともかなというイメージも受けます。しかし問題は、こういう保護義務者の名称を保護者というふうに改めたことで、具体的にどのような点で家族に課せられた義務において相違があるのか、お伺いしたいと思います。
○谷政府委員 現在の保護義務者制度と申しますか、保護義務者に課せられた義務というものにつきましては、個々の義務の履行に関しまして、特に行政上の命令とか罰則がないわけでございます。そういう意味で、あえて名称の上で義務という側面を強調すべき理由がないのではないか。また、他の命令や罰則が存在するような立法例におきましても保護者という名称がつけられているというようなことから、今回保護者という形にさせていただいているものでございます。
 したがいまして、今先生がおっしゃいました意味合いにおきまして、現行の保護義務者の役割についての変更というものを伴うものではございません。
○五島委員 具体的内容の変更ではなくて、文章上の表現の変更であるということでございます。
 それにしても、保護義務者というふうに過大な義務を押しつけたかのような表現が変えられること自身はいいわけでございますが、いずれにいたしましても、患者さんに対するさまざまな保護あるいは社会復帰、そういうふうな分野におきまして、それぞれの御家庭の中において障害者に対して保護していくその能力を超えたものが障害者に対して提供されなければならないということは言うまでもないわけでございます。
 したがいまして、保護者は、保健、医療、福祉の各分野において必要な援助を受けることができるというふうになっているわけで、援助を与えるのは国、県、市町村、どこかが与えなければならないわけでございます。これは障害者に対して、直接そうした福祉施設の推進あるいは福祉制度の確立という形でもって国や地方自治体が進めていくのは当然でございますが、家族に対する保護者の立場においてその保護者の過大な義務を支援していくその責任は、言いかえればその義務は国にあるのですか、それとも県ですか、市町村ですか、どこにあるのでしょうか。
○谷政府委員 今回の改正におきましては保護義務者、新たな保護者に対する支援策ということを規定させていただいているわけでございますが、具体的には、入院措置が解除されました精神障害者を引き取る保護者に対しまして支援をしていくという観点から、精神病院や社会復帰施設に対しまして相談や援助が求められる、そういったような保護者の権利規定を整えだということが一つでございます。
 それから、精神障害者と同居する保護者に対しまして保健所が行います訪問指導の対象とするということを明確にしたわけでございまして、今先生がおっしゃいました意味合いにおきましては、都道府県あるいは精神病院あるいは社会復帰施設がそういう保護者に対する支援策というものを講じていくということでございますので、厚生省といたしましては、精神病院あるいは社会復帰施設に対しまして、可能な限り保護者に対する相談、援助が行われるような指導というものを行っていきたいというふうに考えています。
   〔山口(俊)委員長代理退席、委員長着席〕
○五島委員 もちろん医療機関、社会復帰施設、社会福祉法人等々が家族に対してもあるいは障害者に対しても支援をしていく義務を持つことは言うまでもないわけですが、やはりそれらの保護あるいは援助というものを具体的に推進させ、実効あらすという役割を国あるいは県、市町村というところが具体的に持っていかないと、それぞれの医療機関に任じ、それぞれの民間の社協に任じていくということで、自然に家族に課せられた過大な保護義務というものが軽減するものではないだろうというふうに思います。そういう意味では、家族に対する支援という立場からの問題の取り組みというものを一層進めていただきたいというふうに考えます。
 それとの関連の中におきましてお伺いしておきたいわけでございますが、例えば今、各局長の方から保健所という名前が出ました。保健所がこうした家族や障害者御本人に対してさまざまなアドバイスを行い、支援をしていく、これは非常に重要な役割であり、また課せられた重大な任務だというふうに考えていますが、いま一つ、それぞれの都道府県において精神保健センターが建設されております。
 ただ、精神保健センター、現在のところ各都道府県に一つしかつくられていないということでございまして、現実にはその機能あるいはその中における業務が非常に過大になっているという問題がございます。そういう意味におきましては、この精神保健センターをもっともっとふやしていくべきではないかというふうに考えます。
 とりわけ今回の改定の中におきまして、大都市特例の設置によりまして、現在実施されている県の役割というものが大都市に対して、政令市に対しておろされることになりました。現在、県の設置義務としてある一つの問題としては、精神病院の設置あるいは精神保健センターの設置というふうなものがあるわけですが、これらもすべて大都市特例におろしまして、大都市においては独自にこうしたものをつくらせていこうというお考えなのかどうか、お伺いしておきたいと思います。
○谷政府委員 今回、大都市特例を設けることにしたわけでございますが、具体的にどの事務を指定都市に委譲するかということについては、現在提案させていただいております法律では政令によって定めるということになっておりまして、今後大都市特例の施行までの間、平成八年を予定しているわけでございますが、各都市の状況あるいは御意見を伺いながら決定をしていきたいというふうに考えております。
○五島委員 この精神保健センターは、先ほども言いましたように、その役割は非常に重要になってきている。そういう中でこれから政令の策定にお入りになるわけでございますが、これを具体的に広げていくという役割においても、大都市において精神保健センターの設置というものができるというふうな形で政令も整備される必要があると思うわけです。
 ただ、そういうふうに進めてまいりますと、実は地域医療計画との間で非常に矛盾ができてくる。現在都道府県が持っておられますそれぞれの精神保健センター、これは大体県都を中心とした大都市に一カ所つくられております。そして、大都市特例でもし精神保健センターをそれぞれの政令市がつくっていい、大都市でつくっていいということになりますと、大都市においては精神保健センターのようなサービスが非常に集中する。しかし、地方や郡部というところにおいては全くそれは遠隔の地に集中して、非常に利便性に問題が生まれてくるというふうな矛盾が生まれてくるわけでございます。
 そういう意味では、大都市特例とあわせて、現在の地域医療計画も非常に問題があるわけでございます。それとの整合性を持った精神保健センター、あるいは精神保健活動を極めて強化した保健所の育成というふうなことに取り組むべきではないかというふうに考えるわけですが、いかがでございましょう。
○谷政府委員 大都市特例の導入というのは、前回の改正時からの宿題の一つだったわけでございますが、大都市の住民の精神的な健康を取り巻く状況の変化、あるいは地域の実情に即したきめ細かな対策をやっていくということを一応念頭に置いて、今回こういう措置をとったわけでございます。
 具体的な委譲の事務につきましては、先ほど申しましたように、今後地方自治体の御意見も伺いながら決めていくわけでございますけれども、その際、今先生お話ございました地域医療計画との整合性ということについては、十分配慮しながら考えていかなければいけないというふうに考えております。
 また一方、大都市以外の地域の問題でございますが、これは精神保健センターの例を挙げて御意見をいただいたわけでございますけれども、やはり保健所における精神保健活動といいますか、そういうものの充実ということを図っていかなければいけないのじゃないか。保健所を中心にして、精神保健相談ですとか訪問指導というものをやっていく必要があるというふうに考えておりますので、そういう点におきましてはぜひ都道府県を通じた指導というものをやっていきたいというふうに考えております。
【次回へつづく】