精神医療に関する条文・審議(その58)

前回(id:kokekokko:20050719)のつづき。初回は2004/10/28。
平成5年改正の審議のつづき。

第126回衆議院 厚生委員会会議録第14号(平成5年6月2日)
【前回のつづき】
○山口(俊)委員長代理 児玉健次君。
○児玉委員 日本共産党の児玉健次です。
 現行法の第四十八条、「精神障害者を収容することのできる施設以外の場所に収容してはならない。」今度の改正でこの部分が削除されることになりました。
 厚生省に端的に聞くのですが、古い時代における精神障害者座敷牢、そしてその後、保護義務者というか、親が精神障害にかかった子供を自宅で監置する、こういったことは一九五〇年、昭和二十五年まで法的に求められていたと思うのですが、違いありませんか。
○谷政府委員 今お触れになりました施設外収容禁止規定というのは、旧精神病者監護法における私宅監置制度、あるいは旧精神衛生法における保護拘束制度というものを受け継いでおるものだというふうに理解をしております。
○児玉委員 そこで、今回の改正に対して私が期待していたことの一つに、保護義務者の問題があります。午前中来かなり論議がありました。
 重ならないように伺いたいのですが、今回、それが保護者と言い方は変わったのですが、保護義務者に対して過大な監督義務を負わせてきたことが精神障害者の社会復帰を社会の公的責任において進めることを困難にし、おくらせてきた一つの要因だ、そのように私は考えます。この部分は、端的に言えば、多少旧憲法下における古い家族制度をそのまま踏襲する、古い時代のやり方の誤判を引きずっている、こういうふうに思います。精神障害者に対する家族の支えは極めて重要だ。そして、それは本来家族間の愛情に任せるべき問題であって、法律によって強制すべきものではない、そう考えます。
 そこで伺うのですが、第二十一条で、保護者がないとき、またはその義務を果たせないときにおいては市町村長が保護者となるとあります。この市町村長が保護者となった事例が全国でどのくらいあるか、そして保護者となった市町村長はどのような役割を果たしているか、お伺いします。
○谷政府委員 保護義務者についての内訳ということで、市町村長がなった例ということでございますが、平成四年の六月現在でございますけれども、六頁二十七件、全体の約四・四%が市町村長が選任をされているということでございまして、役割としては、他の保護義務者と同じ役割だというふうに理解をしております。
○児玉委員 それは、措置入院のときに保護義務者にかわった事例を述べていらっしゃるのじゃないですか。
○谷政府委員 私、今申し上げましたのは、医療保護入院の場合でございます。
○児玉委員 そこで、けさからの厚生省の答弁の中では、精神障害者にはみずからが病気であるということの自覚がない、それから身近にいる家族が一番よく状態をキャッチできる、こういう趣旨のことが繰り返されましたが、そのような説明というのは、恐らく自宅における監置制度において最も理由になってきたものですね。それが一九五〇年に廃止されて四十三年、そろそろ半世紀近くたちます。
 全体として、精神障害者に対する社会の責任というのが国民的なコンセンサスを得つつある時期ですから、とりあえず私は、今回の改正される法第二十二条における自傷他害のないように監督する義務、それから精神障害者が治療を継続して受け、服薬管理などをきちんとして行う、そういったことに対する監督義務については、市町村長や保健所等社会の公的な義務にゆだねる方向を明らかにしていくことが今極めて重要ではないかと思うのです。すぐ二十二条を削除しろとは申しませんが、その方向を社会的に進めていくことが今必要ではないかと考えるのですが、いかがですか。
○谷政府委員 先生今おっしゃいました保護義務者についての役割のうち、自傷他害の監督規定のことでございますが、これは先ほど来申しているようなこの疾病の特殊性ということから、病識を欠く。その結果、医療を受ける機会を逸するというようなことから、精神障害者の利益を擁護するという観点からは、身近にあって適切に医療なり保護の機会を確保する役割を果たす者が必要であるというふうに考えておりますし、また服薬についても、やはり同様な観点から必要なことではないかというふうに思っているわけでございます。
 そういうことからいって、この保護者が持っております自傷他害防止の役割規定を削除するということは、私ども現時点では考えてないわけでございますが、ただ、保護者の負担を軽減するという観点から、社会復帰施設の整備を推進していくということのほかに、今回の法改正におきましても、入院措置が解除されました精神障害者を引き取る保護者について、精神病院や社会復帰施設に対する相談や援助を求めることができるという規定を新たに設けましたほかに、入院措置の解除をされました精神障害者と同居をする保護者につきまして、保健所が行います訪問指導の対象とするといったような規定を新たに盛り込んだところでございます。
○児玉委員 この点は今回の改正においても積み残しになるという点、非常に残念だと思います。五年を目途に見直すという方向で今議論が進んでいるわけですが、それを待つこともなく、さっき言ったように、少なくとも自傷他害、そして治療の継続、服薬、こういったことについては社会の責任へと、その方向を厚生省が前進させることを強く求めたいと思います。
 次の問題ですが、これも午前中の論議になりました精神科医療の特質の問題です。
 私、今度の改正に向けて、何人かの臨床で努力されている精神科の医師や研究者、その他から意見を聞きました。午前中、厚生省は、一九八六年から外来患者に対する集団精神療法が診療報酬で評価されることになった、それを前進の一つとしてみずからお述べになった。私も全くそれに同感です。今日、外来患者のデイケアにおける主要な治療法として、すぐれた効果を上げることが実証されつつあります。
 ただ、幾つかの点を含んでいる。アルコール依存症と児童・思春期の感情障害に最初は限定されていて、その後、精神分裂症についても追加されたわけですが、現場で苦労されている医師が申しますのは、躁うつ病、そして対人恐怖症、こういった人格障害にも非常に顕著な効果を発揮するので、そこに向けての拡大が今必要ではないのかというのが一点です。
 二点目は、現在三月を限度として算定されるとなっておりますが、これは短期間に過ぎる。実際に全国の精神病院でやっている努力を見れば、最低とりあえず一年を限度に算定していく、こういうふうに改善すべきではないのか、こういう意見が私に届けられているのですが、いかがでしょうか。
○古川政府委員 現状二点ございますが、まず現在の考え方を申し上げますと、御指摘のうつ病とかあるいは神経症等に対しまして集団精神療法が有効である、こういった専門家の御指摘がある一方で、これらの疾患に対する集団精神療法の有用性に関しては、現時点では必ずしも明確な成績が出てないというふうな御指摘もあるわけでございまして、現在はそういったうつ病あるいは神経症等に対しては適用がないという状況が一つあるわけです。
 それから二点目の、通院患者に対しまして集団精神療法を行った場合には、三カ月に限りまして診療報酬上の点数を算定することができることとしておりますのは、この集団精神療法を長期漫然と行っても必ずしも治療効果が上がるものではなくて、ある一定の期限をもちまして治療効果が上がらないという患者さん方に対しましては、他の治療、例えば通院精神療法などを行った方が適切であるというふうに考えられたことによるものであります。
 これは今の現状でございますが、いずれにいたしましても、先ほどもちょっと申し上げましたが、この精神療法に関する診療報酬上の評価というものにつきましては、関係学会の御意見とかあるいは中医協の御議論を踏まえまして、次回改定の際に適切に対応してまいりたい、かように考えているところでございます。
○児玉委員 厚生省はこの問題についての検討をされるようですから、余り繰り返しませんが、今局長が言われたことについて研究者から聞いたことを申しますと、対人恐怖症だとか拒食症だとか不登校だとか、そういった患者と医師との一対一の精神療法というのは相当な困難に逢着している。そういう患者を対象にして集団精神療法をやると、一対一の緊張感から解除されて、そして厚生省が言われている集団内の対人関係の相互作用を用いて自己洞察の深化、社会適応技術の習得、そっちの方に進む、こういう研究と、それから取りまとめが今進んでいますね。この点での検討を私は求めたいのです。
 もう一つは、これは通院に対してのみしか適用されてないけれども、そもそもこの集団精神療法というのは、国際的に言えば入院患者を対象にして始まったものだ。釈迦に説法で多くを言いませんが、一九〇五年に内科の医師が、不治の病とされた結核の患者が社会から隔離されてうつ状態になる、そういう患者に対して集団療法を行ったら非常に大きな効果を発揮して、そのメソッドを精神療法においても適用するようになってきた。
 だから、起源からいっても、これは国際的に言えば入院患者を対象にして進んできたものであって、そういう面でいえば、私はこの際入院患者に対して適用を拡大するということが求められていると思うのです。いかがでしょうか。
○古川政府委員 お答えします。
 これは先ほど遠藤委員の御質問に対してお答えしたことでございますが、集団精神療法というのは、御指摘のように集団内の対人関係の相互作用を用いまして、先ほどおっしゃったように自己洞察を深めるとか社会適応技術を習得する、あるいは対人関係の学習等をもたらすことにより病状の改善を図ろうということで、いろいろと専門的に研究されている問題でございます。
 現在、通院ということで、精神科医と臨床心理技術者とがグループごとに一定の治療計画で通院患者さんに対しまして治療をやっているわけでございますけれども、これを入院に適用するかどうかということについては、先ほども遠藤委員にお答え申し上げましたが、関係学会とかあるいは中医協の御意見を踏まえまして対応してまいりたい、かように考えているわけであります。
○児玉委員 積極的な対応を求めます。
 三つ目の問題ですが、今度の改正案の中で特に私たちが注目しているのは、この第二条の三の二項ですね。
  国、地方公共団体、医療施設又は社会復帰施設の設置者及び地域生活援助事業を行う者は、精神障害者等の社会復帰の促進を図るため、相互に連携を図りながら協力するよう努めなければならない。
ここのところが実際の効果を発揮するようになれば、日本の在宅における精神障害者の状態というのは確実に改善されていくだろうと思うのです。そういう点で、現在全国で試みられている幾らかの積極的、先駆的な教訓をどうやって全体のものにしていくか、このことが求められていると思います。
 そういう面で私は一例だけ挙げたいのですが、千葉県精神科医療センター、そこが果たしている役割に注目したい。
 御承知のとおり、このセンターは、本来は精神科救急医療の提供を主目的にして設置された病院です。入院期間は原則として三カ月を限度としています。このセンターでは、短期入院の補完と早期リハビリテーションの二つの機能をあわせ持つデイホスピタルが精力的に進められています。相当厚い職員の配置ですね。そしてそこでは、家族の面接、家庭訪問、電話連絡、精神障害者が速やかに就労、復学するための援助を行って、かなり注目すべき実績を上げています。
 例えば、一九八五年七月から八九年三月、百十二名を対象にした場合、治療の継続三十六人、自宅療養二十七人、復職を含む就労二十六人、復学を含む就学九人、こういう結果を、中間的にですがもたらしています。集団アルバイトその他、大変意欲的な努力をしている。こういった試み、同様のことが川崎市リハビリテーション医療センターや都立世田谷リハビリテーションセンターでも行われています。こういった努力について厚生省はどのように評価しているか、まず伺います。
○谷政府委員 今お話のございました千葉の精神科医療センターにつきましては、私も一回見させていただいたことがございますけれども、精神医療における新しい試みだというふうに私どもは理解しております。
 今回の法案を作成するに当たりましての審議会の意見書におきましても、「通院医療が適切な者については、入院医療から通院医療への転換を推進する」というような御意見も出されているわけでございまして、さらに今お話にございましたような退院した精神障害者に対してデイケアを含めた通院医療を確保する、あるいは社会復帰のためのサービスを提供していくということは非常に重要なことであるというふうに思いますので、そういったような試みは、今後の対応を考える上でも非常に望ましいものの一つではないかというふうに考えております。
○児玉委員 今例示的に述べたケースでいえば、例えば千葉のセンターの場合、ベッド数は四十ですが、ドクターが九名、看護職が四十一名、保健婦三名、PSW七名、OT一名、非常に手厚い配置になっていますね。今局長からは積極的な経験として注目している、評価しているということが率直に述べられたのですが、精神保健法の第七条において精神保健センターについて厚生省が提起して、やっとそれが全国の都道府県に行き渡る一歩手前まで来ています。
 そのことを一つのステップにしながら、今度の改正の一つの重要な趣旨である国、自治体、医療施設、社会復帰施設の相互連携、そして地域社会に精神障害者を参加させていく、そのための重要な役割を果たすべき医療機関として今述べたようなセンターが全国で広がっていく、それを設置者の責任にゆだねずに国としても制度として評価していく、その方向が求められていると思うのですが、いかがでしょうか。
○谷政府委員 都道府県によっては、精神保健センターに幾つかの機能を持たせているといったようなところがあることは承知をしております。
 いずれにしましても、精神医療対策あるいは社会復帰対策につきましては、地域の実情あるいは地域の自主性に基づいて展開をしていくことが必要だというふうに考えておりまして、今お話がございましたような一つの施設を基盤として、地域精神保健対策を推進していくということも一つの方法だと思います。また一方、地域におきます精神保健センターやあるいは保健所、医療機関、社会復帰施設等が、相互に連携を持ちながら体制を整備していくというやり方もあるのではないかというふうに思っております。
 したがいまして、今回提案させていただいております法律案におきましても、先ほど先生お触れになりましたように「精神障害者等の社会復帰の促進を図るため、相互に連携を図りながら協力する」という努力規定を入れさせていただいているところでございまして、私どもとしては、こういったような連携規定を契機にして、地域の実情に合った対応というものをそれぞれの地域で考えていく一つのきっかけにしていきたいというふうに思っている次第でございます。
○児玉委員 終わります。
○山口(俊)委員長代理 柳田稔君。
○柳田委員 まず、社会復帰対策の推進についてお尋ねをいたします。
 精神病院、これは精神障害者を非自発的に入院させ、拘束する場合があります。こういうことから、精神障害者の人権を擁護する、そういう目的のためには、医学的に入院の必要のない精神障害者については速やかに退院させることが必要であろうというふうに思います。
 一方、精神病院から退院した精神障害者の方がいきなり社会生活に適応していくということは、困難な場合があると思います。ということで、必要に応じて適切な生活訓練、指導等のサービスを提供していくことが必要であろうと思います。
 また、精神病院から退院されました精神障害者を引き取る家族は、生活上多くの負担を伴う、そういう現状にあるのではないかと思います。このため、精神病院から退院した精神障害者を一定期間入所させ、生活訓練や指導等を行う社会復帰施設の整備を積極的に促進することが大変重要なことであろうと私は思っております。
 そこで、厚生省として、今後とも十分な予算をとらなければできないことでありますけれども、予算の獲得を図りつつ、社会復帰施設等の整備を積極的に促進していかなければならないと思うわけでありますが、どのように考えていらっしゃいますでしょうか。
○谷政府委員 今お示しございましたように、精神障害者の社会復帰対策は、精神保健対策の中の重要課題として取り組んでいかなければいけないというふうに考えております。
 社会復帰施設の整備につきましては、けさ古来いろいろ御議論いただいておりますように、まだまだ不足でございまして、十分ではございません。六十二年度は五十カ所でございましたけれども、平成四年度には百六十カ所まで整備が進んできたところでございまして、今後とも施設の種類の増加あるいは施設の数をふやしていくことはやっていかなければいけない。
 また、本年度から、従来非常に大きなネックの一つでございました運営費の設置者負担というものが解消されたわけでございますので、これを契機として、より一層社会復帰施設の整備が促進されるということを期待いたしております。
 今お話がございましたように、社会復帰施設の整備の促進につきましては、必要な予算を確保するために最大限の努力を払ってまいりたいというふうに考えております。
○柳田委員 最近税収が減ったという話も聞くわけでありまして、十分な予算の獲得は難しくなりつつあるのかなと一方では思うわけでありますけれども、我々としても精いっぱいバックアップをしながら、また何としても予算を十分つけていただくように、厚生省も努力をしていただきたいと思っております。
 次に、小規模作業所についてお尋ねをいたします。
 この小規模作業所、先ほど質問いたしました社会復帰施設の一部といえば考えられないわけでもないのですけれども、いろいろなところでこの小規模作業所はいろいろな役目を果たしております。ただ、お尋ねしますと、大分厳しい状況に今置かれておるのではないか。予算のつくところもあれば、ないところもある。お金もないわけですが、父兄の皆様が中心になって、一生懸命地域の方が努力をされておる。そういうところを考えますと、やはり小規模作業所をさらに安定して、適正な運営ができるような状況をつくっていかなきゃならないのではないかと思う次第であります。
 この小規模作業所にさらなる積極的な支援をしていただきたいと思うのでありますけれども、いかがでございましょうか。
○谷政府委員 小規模作業所につきましても、昭和六十二年度からその運営費に対する補助を実施してきたところでございまして、本年度においては二百九十四カ所の作業所に対する補助を行うこととしておりますが、今お話ございましたように、まだ現在ある小規模作業所全体に対する補助にはなっていないわけでございまして、今後とも小規模作業所に対する補助が適正に行われるよう、私たちとしては努めてまいりたいというふうに考えております。
○柳田委員 全体的にどれくらいの数があるものなのでしょうか。
○谷政府委員 約六百カ所というふうに承知しています。
○柳田委員 ということは、今半分くらいはどうにか支援ができておるということであります。できれば残った半分にも同じような支援ができることが望ましいであろうというふうに思いますので、まあこれもお金にかかわることになるかと思いますけれども、すべての作業所に同じレベルでも結構でありますから、できるだけ早い段階で支援ができるようにお願いしたいと思うのです。厚生省としてどの辺のめどぐらいには全部に支援ができるというようなお考えがあれば、お示し願いたいと思うのです。
○谷政府委員 今後とも箇所数の増については努力をしていきたいと思っております。
○柳田委員 では、できるだけ早くやっていただければと思います。額も相当少ないようでありますが、その額の増額を言いますとすべてにも回らないようになりますので、まずは全部の箇所に回るということを早急にしていただきたいということを要望したいと思います。
 次に、啓発広報活動についてお尋ねをいたします。
 去る三月に厚生省の公衆衛生審議会から提出されました意見、「今後における精神保健対策について」というものでありますけれども、この中におきまして、今後の精神障害者対策は、障害者が障害を持たない者と同等に生活し、活動する社会を目指すノーマライゼーションの理念に基づいて、その実現に向けて施策を一層充実強化することが必要であるとされております。今後精神障害者の真のノーマライゼーションを実現していくためには、社会復帰施設の整備等、行政による社会復帰対策の充実に加えまして、地域社会全体の理解と協力を得ていくことも不可欠であろうと思うわけであります。
 こういうことで、厚生省として、今後とも地域住民に対し、きめ細かく精神障害者の社会復帰等に関する啓発広報活動を積極的に推進していくべきであると思いますけれども、いかがでございましょうか。
○谷政府委員 精神障害者の社会復帰を促進する上で、国民の理解あるいは地域の方の御協力を得るということは不可欠であるというふうに思っておりまして、社会復帰施設がなかなかふえないことの理由の一部に、やはりなかなか理解が得られにくいということがあるというふうに考えております。
 そういう意味におきまして、精神障害者の社会復帰に関する啓発活動あるいは広報活動ということは、従来から、精神保健に関する全国大会を行いますとか、あるいは保健所、精神保健センターにおきます正しい知識の普及といったようなことに努めてきたわけでございます。
 さらに、ことしの八月には、千葉の幕張メッセにおいて日本で初めて精神保健に関する世界会議、世界精神保健連盟の会議を開催をすることにいたしておりまして、これにつきましても本年度の予算の中から厚生省としても助成をするといったようなことをやることにいたしているわけでございます。こういったようなことを通じて、さらに我が国における精神保健に対する正しい知識の普及ということが図られることを期待をいたしております。
 また、今回の法律改正におきましては、精神障害者の社会復帰の促進に資する啓発広報等を行う民法法人を、精神障害者社会復帰促進センターとして厚生大臣が指定できることとしているところでございまして、これらの事業を通じまして地域住民等の一層の理解が得られるよう努めてまいりたいと考えております。
○柳田委員 精神障害者に対する認識というものはまだまだ大変古いといいますか、厳しいといいますか、進んでいない面も多いかと思います。軽度の人が、軽度という言葉が適切かどうかわかりませんけれども、地域社会に入って仕事をしていく。そうなりますと、地域住民、それ以外にも企業の方にも理解がなければならないのではないかと思うのですけれども、この企業に対しての理解、協力というものは厚生省としては何か考えていらっしゃるのでしょうか。
 要するに、住民に対してはやられる。となれば、これから多分大分症状の軽い方は会社にも入って、勤めなければならなくなると思うのです。この啓発広報活動の中で、住民だけではなくて、企業にも何か働きかけを厚生省としてすべきではないかと思うのですけれども、その辺は何か考えていらっしゃいますでしょうか。
○谷政府委員 もちろん、住民に対することもやるわけでございますが、ただ、精神障害者の社会復帰の一環として、例えば授産施設ですとかあるいは福祉工場とか、今回平成五年度から新しい事業として取り入れることにいたしたわけでございまして、そういうことの御理解をいただくためには、どうしても企業あるいは作業所等の方の御理解をいただかなければいけないわけでございますので、私どもとしては、そういう事業を進めるために、保健所なり精神保健センターを通じた企業に対する啓発活動、あるいは御理解をいただくための運動と申しますか、そういうことはこれからもやっていくつもりでございます。
○柳田委員 ほかの省庁に対してこういうお願いというものは何かありませんか。というのは、企業を統括している省庁もどこかあるでしょうけれども、その辺とのタイアップというのはまだ計画としてはないのでしょうか。
○谷政府委員 現在、通院患者のリハビリテーション等につきましては、事業所の協力を得てやらせていただいております。昭和六十二年度で四百七十事業所でスタートいたしましたけれども、現在、平成四年度では千七百七十の事業所の協力をいただいているというようなことでございます。
 こういったような事業を進めるに当たって、今後必要に応じて関係省庁にも働きかけていきたいと思っております。
○柳田委員 先日、厚生委員会で視察に参りましてお話を聞きましたら、好況のときにはよかったのですが、今回大変厳しい不況に陥りまして、真っ先に職がなくなりましたというお話も出ておりました。これは他の省庁のことだとおっしゃればそれまででありますけれども、やはり理解をしていただいて、他の省庁の協力も必要になるのではないかなと思う次第でありますから、ちょっと質問させていただきました。
 そこで、労働省の方にお尋ねをしたいのでありますけれども、身体障害者については相当の仕組みができておるように思います。企業規模に応じまして何%採用しなさいというふうなのがあるようでありますけれども、今回この精神障害者についても、地域社会に戻っていろいろな仕事をしていただこうというふうにも考えております。雇用の機会をふやさなければならないというふうに思うわけでありますが、労働省として精神障害者の雇用の確保についてどのようにお考えになってこれからお取り組みになるのか、御説明を願いたいと思います。
○坂本説明員 精神障害者の方で働くことを希望する方に対しましては、これまでも公共職業安定所におきまして、求職登録制度等を活用して、専門の職員がケースワーク方式という形をとりましてきめ細かな職業指導、職業紹介を行ってまいりました。特に、精神分裂病躁うつ病てんかんにかかっている方につきましては、雇用に当たりまして、事前に事業所で職場適応訓練というものを行いまして、職場にスムーズに適応できるようにというようなことをやってきております。
 昨年、障害者の雇用の促進に関する法律が改正をされまして、この中で、精神障害者に対しましても納付金制度に基づく各種の助成金の対象とすることとされたところであります。また、特定求職者雇用開発助成金の支給対象ともいたしました。
 加えまして、昨年度からは、各都道府県の職業能力開発校におきまして精神障害者を対象とした職業訓練を行っておりますほか、各地域の障害者職業センターにおきまして、職域開発援助事業というきめ細かな職業リハビリテーションを本格的に実施をしたところであります。本年度からは、各県の公共職業安定所精神障害者担当の職業相談員を新たに配置をすることにいたしております。
 先生御指摘のとおり、身体障害者に比べますと精神障害者の雇用対策はまだ内容的にも十分充実していないという嫌いはございますが、労働省におきましては、精神障害者の雇用促進を図るために、医療や福祉機関との連携を含めた条件整備が不可欠であると考えまして、昨年度、本年度と二年間で調査研究を実施いたしております。この研究の結果も踏まえまして、今後ともさらに必要な条件整備を図る等施策の充実に努めまして、精神障害者の方の雇用の促進に努力をしてまいりたいというふうに考えております。

第126回衆議院 厚生委員会会議録第15号(平成5年6月4日)
○浦野委員長 これより会議を開きます。
 内閣提出、精神保健法等の一部を改正する法律案を議題といたします。
 これより質疑に入ります。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。外口玉子君。
○外口委員 精神を病むことが即社会からの隔離につながり、必要以上に長期間にわたって閉鎖的な環境にとどめ置かれるといった従来の精神医療のあり方を、私たちは一刻も早く変えていかなければなりません。日本における精神障害者の人権擁護の圧倒的な立ちおくれは国際的にも大きな批判を浴び、今、私たちの社会の責任がここに象徴的に問われております。
 五年前、精神衛生法から精神保健法へと法改正が行われましたが、依然として精神障害者の医療及び保護を行うという古典的な精神病対策をぬぐえず、精神障害者及びその家族に大きな犠牲を強いている現実に対し、私もまた責任と憤りとを覚えているものでございます。今回の精神保健法改正案においてもまた、精神障害者の医療、保護が中心的な課題となったままにあるのは極めて遺憾に思います。
 私は、この法が目指すべきは、今や医療、保健、福祉のみならず、社会全体で支えるシステムをつくり出していくことであると考えます。しかし、定義を見ても、病理的な基準でのみとらえられております。ハンディキャップを負いながら社会生活を継続していく人としての社会的な視点が全く欠けています。精神保健の概念ともいうべき問題について一体どのようにお考えなのか、まず基本的な見解をお伺いいたします。
○谷政府委員 現在の精神保健法は、前回、五年前の法改正の際に、新たに広く国民の精神的健康の保持向上を法律の目的に加えたということもございまして、名称についても精神保健法としたわけでございます。
 この現在の精神保健法におきます精神保健というものの考え方でございますけれども、国民の精神的健康の保持向上、精神障害者に対する医療及び保護並びにリハビリテーションとしての社会復帰の促進、そういったようなものを包括する概念だというふうに私どもは理解をいたしております。
○外口委員 さて、総理府が本年三月に「障害者対策に関する新長期計画 全員参加の社会づくりをめざして」を決定いたしましたことは既に御承知のことと思います。
 そこでは「障害者の主体性、自立性の確立」「全ての人の参加による全ての人のための平等な社会づくり」などがうたわれています。また「分野別施策の基本的方向と具体的方策」においては、特に精神保健対策について「精神障害者の人権に配慮した医療を確保するとともに、社会復帰対策及び地域精神保健対策の推進を図る。」とあります。今回の精神保健法の改正は、この政府の新長期計画を当然受けているものと考えられますが、精神障害者の完全参加と平等においてどのように法改正に反映されているのでしょうか、お答えください。
○谷政府委員 障害者対策本部がまとめました障害者対策に関する新長期計画におきましては、障害者対策がリハビリテーションの理念並びにノーマライゼーションの理念のもとに、完全参加と平等という目標に向けて推進すべきことがうたわれているというふうに承知いたしております。
 こういったような趣旨も踏まえまして、今回の改正におきましては、従来の、前回の改正の際に社会復帰施設を法定化したわけでございますが、その際の考え方でございます精神病院から社会復帰施設へという流れに加えまして、社会復帰施設から地域社会へという新しい流れの形成を図りたい、そういったようなことから、今回の法改正におきましても精神障害者地域生活援助事業、いわゆるグループホームを法定化をしたところでございます。
 また、精神障害者の社会参加を促進するという観点から、精神障害者であることを絶対的な欠格事由といたしておりました栄養士あるいは調理師等の五つの資格につきまして、これを相対的な欠格事由に改めたということもございます。
 また、この新長期計画ということに関連いたしましては、精神障害者の社会復帰の促進を図るために、国、地方公共団体、医療施設、社会復帰施設等の連携に関する規定、また社会復帰促進センターに関する規定並びに地方精神保健審議会の委員構成に関する規定等を設けることにしたところでございます。
○外口委員 先ほど来、社会復帰、社会参加の促進ということを強調しておっしゃっておりますが、今度こそはこれらを実現していくための具体的な施策を責任を持って推進していかれる決意をお持ちなのでしょうか。
 といいますのは、実は五年前の改正法施行のときの保健医療局長通知「精神衛生法等の一部を改正する法律の施行について」には、「精神障害者社会復帰施設に関する事項」として、改正により直ちに地方公共団体が社会復帰施設を設置することを意味するものではないこと、特に市町村については画一的に施設の設置を求めるものではないことと、社会復帰について前向きな取り組みとは言えない内容のものを通知として出しております。
 この通達は、当時困難な状況の中で取り組んでいた現場の先駆者たちに大きな落胆を与えたものでした。その影響が大きかったのかどうかはわかりませんが、この五年間で地方公共団体による社会復帰施設の整備が進んだとは決して言えません。前回の改正の大きな柱である社会復帰施策を積極的に進めてこなかった政府の責任は重大なものがあります。
 新長期計画においても、ことしより、国連障害者の十年の灯を消さずに、完全参加と平等を目標としてアジア太平洋障害者の十年への対応を行うとされています。今回の改正後は、当然その実現を図るための積極的な通知を出し、精神障害者の社会参加のための施策を周知徹底することを求めるものです。責任ある答弁をお聞かせください。
○谷政府委員 この五年間、社会復帰対策を重点項目の一つとして推進をしてきたつもりでございますが、具体的には、前回の改正も含めまして、社会復帰施設を精神保健法において法定化をするとともに社会福祉事業として位置づけたこと、また、社会復帰施設に対する施設整備費、運営費に対する補助を充実をする等その整備を充実してきたこと、また、精神障害者の社会復帰の多様なニーズにこたえるため、精神障害者福祉工場あるいはショートステイ等の新しい施策をメニューに加えるといったようなことをやってきたわけでございます。
 また一方、精神障害者の社会復帰施設につきましては、これまで運営費に係る設置者負担があった、また国民の理解が十分でない部分があったというようなことから、この五年間、必ずしも整備が進んでこなかったことも私ども大変反省をし、また改めてこの問題について取り組んでいかなければいけないという考えを持っているわけでございます。
 今お触れになりました、前回の法改正におきまして都道府県に対して通知を出しているわけでございますけれども、この趣旨は、社会復帰施設の
整備については、地方公共団体の自主性あるいは自立性を尊重して、地域の実情に応じて適切に推進する必要があるということを示したものでございます。
 また一方、地方公共団体においては、地域におきます社会復帰施設の整備の状況や精神障害者の社会復帰に関するニーズ等を勘案いたしまして、みずから施設を整備し、または民間の施設の整備を支援するといったようなこと等により、社会復帰施設の整備を推進すべきものであるというふうに考えております。
 本年度からは、先ほど申しました施設に関する運営費の設置者の自己負担が解消されたということもございまして、これによって社会復帰施設の経営の改善が図られ、その整備が促進されるものと期待しておりますが、また一方、さらに国民の御理解を得ますよう、本改正の趣旨等の周知徹底を図ってまいりたいというふうに考えておりますし、特に社会復帰施設の未設置県に対しましては、この設置を今後強く求めてまいりたいというふうに考えております。
○外口委員 今の御答弁では、困難な理由等について述べておりますが、その点については後ほど一つずつ見解を伺うことにして、社会復帰、社会参加推進のための施策をどういう段取りで進めていくのかをもう少し明らかにすべきであると考えます。
 すなわち、医療体制の充実、社会復帰の促進など、精神保健施策全般にわたっての具体的な計画を明示することが必要ではないのでしょうか。例えば、地域老人保健福祉計画などに試みられているように、精神障害者の保健医療・福祉に関する年次計画の策定を地方公共団体に義務づけて推進を図るべきと考えますが、前向きの答弁を求めます。
○谷政府委員 社会復帰施設の整備につきましては、先ほども申しましたように、基本的には、地方公共団体の自主性あるいは自立性というものを尊重し、地域の実情に応じて適切に推進する必要があると考えております。
 それで、先ほど来申しておりますが、そういう意味で、地方公共団体が地域のニーズに応じて判断していくことが基本だというふうに考えているわけでございますが、一方、他の障害者の福祉施設についても、基本的には施設設置についての義務づけがなされていないというようなこともございまして、地方公共団体に社会復帰施設の設置を義務づけることは現在考えていないわけでございます。
 ただ、地域におきます社会復帰対策のあり方ということにつきましては、これまで、いわゆる地域保健医療計画の中に二次医療圏ごとにそういう考え方、あり方について盛り込むように各都道府県を指導してきたところでございまして、そういうことも含めまして、今後とも、地域の実情に応じたきめ細かな社会復帰対策の推進が図れますよう指導を徹底してまいる所存でございます。
○外口委員 続いて、社会復帰、社会参加を推進していく上で基本的な、必要な点について、すなわち、研究体制、広報活動、緊急時対応、相談事業の四つに限って質問してまいります。
 まず、研究体制についてです。
 日本においては、いわゆる生物医学的な研究以外の精神障害者の人権や福祉に配慮した、社会復帰、社会参加を促進していく基盤となるような研究活動は大幅に立ちおくれてきております。例えば、精神障害者の生活支援に関する研究、家族のニード調査による援助方法に関する研究、広報活動が市民に及ぼす影響の研究などなど、事例検討を通じた関係論や社会学などを通じた研究活動の充実を図る必要があります。
 そこでお聞きしますが、従来の精神保健、福祉に関する研究は、どのような課題でどこで行われてきたのでしょうか、また、今後どのようにその充実を図っていこうとしているのでしょうか。国としての責任においても、当事者の人権に十分配慮して進めていくべきと考えますが、その点についてお伺いいたします。
○谷政府委員 社会復帰の促進方策あるいは啓発活動のあり方に関する研究につきましては、これまでも国立の機関、例えば国立精神・神経センターとか、あるいは地方公共団体におきます精神保健センター等において実施してきたわけでございますが、今後、今御指摘のございましたようなことも含めて、これらの研究の促進を図りたいというふうに考えております。
 なお、具体的には、昭和六十二年度以降でございますが、特に社会復帰施設におきます適所事業等の事業展開に関する研究とか通院患者リハビリテーション事業の効果的な推進に関する研究、あるいは精神障害者及びその家族の生活上のニーズに関する調査といったような課題で研究に取り組んできたわけでございますけれども、今回の法律改正におきましては、今お話のございましたようなことも含めて、精神障害者の社会復帰の促進を図るための訓練及び指導等に関する研究開発等を一層促進するために、精神障害者社会復帰促進センターを設けるということにしたところでございまして、こういったような施策も含めまして、精神障害者の社会復帰の促進に関するいわゆる社会学的な、医学的な面ということに限らず、研究の推進ということに努めてまいりたいと思っております。
○外口委員 次に、精神障害者の地域生活の定着にとって大変重要な普及啓発活動についてお伺いいたします。
 まず、今までの局長の答弁の中でも、設置者負担の問題と、国民の理解を得られないということが今まで社会復帰施設の充実に非常にネックになってきたというような答弁がございました。この設置者負担については本年度から解除されたということで、一定の成果があらわれてくることを期待するところですけれども、いま一つの国民の理解に関しては、各都道府県に指導していくとの答弁が同僚議員の質問に対してもありましたが、ある研究報告によりますと、身近に精神障害者と触れ合う機会の多い人の方が精神障害者への偏見が少ないということが明らかになっています。
 このように普及啓発活動は、障害者と身近なところでともに生活するという体験が、一般社会の中での理解を得ることにとって極めて重要なことがわかります。これまで国民の理解を高めるために、広く教育をも含めた、適切な情報提供のあり方なども含めて、行政努力が大変に不足していたと私は考えます。本年度の精神保健対策関係予算を見ましても、普及啓発活動に対しては予算がほとんど組まれておりません。この点に関して取り組みを要望するとともに、今後の姿勢を問いたいと思います。
○谷政府委員 ただいま先生おっしゃいました国民に対する普及啓発活動につきましては、私も先ほど申しましたように、今後の精神障害者の社会復帰を進める上で不可欠なものだというふうに認識しております。
 それで、精神障害者の社会復帰に関するあるいは精神障害者に対して国民の理解を得るための啓発広報活動につきましては、御承知のように、精神保健普及運動の実施ですとか精神保健の全国大会の開催、あるいは保健所、精神保健センターにおきます知識の普及等を実施してまいりました。また、ことしの八月には、我が国で初めて精神保健の知識の普及等に資すると思われます世界精神保健連盟の世界会議が開催をされることになっておりまして、厚生省におきましては、平成五年度の予算におきまして、この会議の開催の経費の一部として三千万円の助成を予定いたしております。
 こういったようなことを通じましても、精神障害者に対する正しい理解というものの普及あるいは促進を図っていきたいというふうに思っておりますし、また、先ほども申し上げたことでございますけれども、精神障害者の社会復帰の促進に資する啓発広報等を行う民法法人を、今回の法律改正において厚生大臣が指定できるということにしたわけでございます。
 いずれにいたしましても、こういったような施策を通じまして、また今回の改正をしていただいた後に、この改正の趣旨あるいは今までの考え方、そういうものを含めまして、改めて関係方面にその周知徹底を図ってまいりたいというふうに考えております。
    〔委員長退席、持永委員長代理着席〕
○外口委員 そのような国民の理解を得るための対応としましては、やはり当事者が生き生きとした生き方を、暮らし方をしていることを実際に見聞きする、身近に触れる、そういうようなことが極めて大事であり、当事者の活動への支援策というものを今後積極的に進めていただきたいということを要望して、次の課題に移ります。
 緊急体制についてですが、社会復帰、社会参加を進めていく裏づけの重要なものの一つとして、緊急時に対応できるシステムの確立を挙げることができます。つまり、精神科救急診療あるいは外来診療体制、あるいはまた一時宿泊施設、一時入院などのシステムが不可欠だと考えます。また、精神医療における開放処遇をさらに拡大するためにも、総合病院に精神科または神経科を必置することが極めて重要であると考えます。この点に関してもどのように計画的に進めていこうとされているのか、お答えください。
○谷政府委員 精神疾患の場合に、精神症状が非常に短期間の間に発生をするとかあるいは悪化をするという場合が往々にしてあるわけでございまして、そういう場合に速やかに専門医の診断等がなされて、適切な医療あるいは保護が行われるということが必要でございます。
 前回の改正におきましては、このような精神医療における急性期の対応というものを確保するために応急入院制度というものを設けまして、各都道府県に対してその設置促進を指導しているところでございます。
 一方、今先生お話にございました精神科の救急医療あるいは緊急対応ということに関連いたしましては、受け入れの医療機関を確保するということももちろん大事でございますし、また、急性期を過ぎた後の治療体制といいますか、治療を行う医療機関との連係をどういうふうにするかといったようなことについて全体として少し検討し、その結果で対策を講じていきたいというふうに考えておりまして、とりあえず私どもといたしましては、この問題に対して研究をして、検討をしてまいりたいというふうに考えております。
    〔持永委員長代理退席、委員長着席〕
○寺松政府委員 今先生の御質問の中に、総合病院に精神科とか神経科というものを必置させたらどうかとかいうようなお話がございましたので、その点につきまして私の方からお答えを申し上げたいと存じます。
 私ども、一般的には、地域におきます精神医療のニーズというふうなものに対しましては、地域の医療機関と精神科の専門的な機能を持っております病院や診療所というものが相連係をとりましてそういうニーズに対応していくということ、基本的にはそれでいいのではないかと思うわけでございます。
 しかし、今先生御指摘の総合病院の話が出ましたので、特に申し上げたいと思っておりますが、現在総合病院は千百ちょっとぐらいございますけれども、そのうちの四割を超える病院が精神科、神経科というものを標榜いたしておりまして、それぞれ地域の精神医療のニーズに対して非常に重要な役割を果たしておると承知しております。
 そこで、実は医療機能の体系化というものを進めていきます中で、総合病院のあり方ということがいろいろと言われておるわけでございます。そこで私どもは、総合病院の件につきましては幅広い観点から御議論をいただこうと考えておりまして、その際、精神科及び神経科を必置するかどうかも含めましてその中で御議論をお願いしてみたい、このように考えております。
○外口委員 ただいまの御答弁は検討、研究を進めていくという非常に漠然とした答えで、大変不満足なのですが、例えば英国などでは、二十年ほど前に全国の総合病院に必置をして、精神科医療の開放化の拡大を図ったという大きな転換点を、イギリスだけではなく多くの欧米の国々でそういう時期を持っています。今それが日本で行われなければならない緊急な課題だと思いますので、どのように検討、研究をしていくのかということを具体的に簡潔に述べてください。
○寺松政府委員 今先生の御指摘で、具体的にというお話でございますが、私ども医療法の改正につきまして、今度は第三次目になるわけでございますけれども、昨年の医療法の改正の際に、医療供給体制の問題につきまして議論を進めていくように、そして医療機能の体系化を図れというふうなお話がございました。
 そこで私どもは、今その次の医療法の改正のためのいろいろな準備、勉強とか研究とかを始めておるわけでございますが、その中で、先ほども申し上げましたように、医療資源を効率的に活用するというのが非常に大事なのではないか。と申しますのは、今、日本におきます医療の施設等につきましては、今の先進国並みの水準を持っておるというふうに思っております。したがいまして、あとはその中の活用をどうするかというようなことだろうと存じます。そこで、どんどん何でも必要に応じてつくればいいというわけではございませんで、今の資源あるいは連係とか、そういうような仕掛けをつくりまして対応してまいりたい、このように考えております。
 その際、総合病院自身につきましても、どうあるべきかということがいろいろと御議論がございます。そこで、今のようなままでいいのかどうかというようなことでございますので、私どもは、その中で今の地域の精神医療のニーズといいますか、そういうようなものに対します対応をどう考えるかということをやってまいりたい、このように考えておるわけでございます。
○谷政府委員 いわゆる救急対応ということについてどういうふうに検討していくのかということでございます。
 今先生お触れになりました問題につきましては、今回の法改正を行うに当たりまして基本的な御意見をまとめていただきました公衆衛生審議会の意見の中でも、精神医療におきます急性期対応のニーズに的確に対応できる体制を地域において確保するということの必要性が指摘をされております。そういうようなことも受けまして、また先ほど申しましたように、結局この受け入れ機関の確保ということと、その後の体制を受け持つ医療機関との連係という問題もあるわけでございます。このことは、いわゆる精神障害者の合併症の治療ということにも関係をするわけでございます。そういったようなことで、どういう仕組みをつくるかということについて研究班をつくりまして、検討をしていただくということを具体的に考えております。
○外口委員 積極的に進めていかれることを要望して、次に移ります。
 もう一つ極めて大事なものとして、医療から相対的に独立した相談事業の位置づけと充実の問題がございます。
 心の病気の場合、精神科治療を受けることに抵抗やためらいが現行では特に強いのは当然でもあります。そうした観点から、気軽にしかも常時相談できるような窓口づくり、あるいはまた身近に出向いていける相談所などが不可欠だと思います。また、生活上の困り事や人間関係の悩みが引き金となって再発しやすいという場合もございますので、早目に心の負担を軽くするために、医療とは相対的に独立した形で提供される相談活動の場や人が重要だと考えます。このような相談を事業として精神保健システムの中にきちんと位置づけ、充実させていくための条件整備について、政府の具体的な見解をお伺いいたします。
○谷政府委員 精神保健対策におきます相談事業につきましては、今おっしゃいましたような精神疾患の予防あるいは再発の防止を図る上で極めて重要な役割を果たすというふうに考えておりまして、今御指摘がございましたように、気楽に受けられる体制を確保するということは大変重要だというふうに私どもも考えております。
 このために、これまで保健所におきます精神保健相談あるいは社会復帰に関する相談事業等を行ってきておりますが、保健所におきましては、平成三年度で、そういったような相談に関しましては、全国の保健所で約八十万件を超える相談を受けております。また、精神保健センターにおきましても、保健所とは違った意味で、やや複雑なあるいは困難なケースについての相談、また電話相談も含めました心の健康問題についての相談といったようなことを実施しておりますし、また、社会復帰施設におきます社会復帰相談の実施等を行ってきております。精神保健センターにつきましても、平成三年度で約十万件を超える、こういったような件数が一応報告をされております。
 また一方、今回の改正におきましては、診療所に通院をする精神障害者に対して、その社会復帰を促進するため、日常生活上の注意あるいは社会復帰施設の紹介などに関する相談の機会が確保されるよう、規定の整備を行ったところでございます。これにつきましては、従来は病院についてはこういう規定があったわけでございますが、精神科の診療所についてはそういう規定が盛り込まれていなかったというようなこともございまして、今回の改正の中に入れさせていただいております。
 そういったようなことも含めて、あるいはまたこの相談が適切に行われるための職員といいますか、スタッフの資質の向上を図るといったようなこともございますので、医師、看護婦等に対する研修を実施しておりますが、今後とも、こういった精神保健に関する相談体制の充実ということについては努めていきたいというふうに考えております。
○外口委員 相談活動が付随したものではなく、精神保健サービスのあらゆるものの基盤としてあるという、そういう相談サービスの評価をきちっとして、それが独立して成り立つような方向に施策を積極的に進めていかれることを要望して、次に移りたいと思います。
 また、今の担い手の問題なども、後のマンパワー、ヒューマンパワーの問題のところで検討し、答弁をいただきたいと思います。
 次に、社会復帰施設、先ほどから義務化の問題について申し上げておりますけれども、このことについては、先ほどの答弁で、地方公共団体の自主性を尊重するあるいは他の障害者には義務づけがないなどの理由で、極めて消極的な姿勢をお示しになったと受けとめております。しかし、大幅に立ちおくれている社会復帰施策の推進のためには、前回の改正のときにも、地方公共団体に社会復帰施設の設置を義務化すべきだという意見は各方面からも指摘されていたのは御承知のとおりです。したがって、今必要なことは、施設整備、関連事業の開発と位置づけ、その担い手の確保と育成について、年次計画の策定を行うことによって飛躍的な推進を図ることだと考えます。
 まず、公的なサービスを基本的に整備することによって、それが呼び水となって民間の力を高め、バックアップしていくことが行政責任だと考えます。将来の方向として、地方公共団体のこの点に関する義務化について、取り組みを含めてお聞かせください。
○谷政府委員 先ほどもちょっと触れさせていただきましたけれども、私どもといたしましては、社会復帰施設の整備というものは、基本的に地方公共団体の自主性あるいは自立性というものを尊重しつつ、地方公共団体において、地域の実情に応じて適切に推進をする必要があるというのが基本でございます。
 その点について、他の社会復帰施設とのことも先ほど申したとおりでございますが、そういう基本に立って、しかしながら、精神障害者についての社会復帰施設の整備が他の障害者に比較して確かにおくれているということは、私どももその認識を持っております。したがって、今回の改正におきましても、新たにグループホームの法定化を行う等の社会復帰施設ないしは社会復帰対策の促進ということをできるだけ図ってきたつもりでございます。
 また、先ほど来申しておりますように、また先生もお触れをいただきましたように、従来大変大きなネックの一つになっておりました運営費の設置者負担の解消ということも、地方交付税の措置によりまして解消がされたということでございます。そういうふうなことで、私どもとしては、そういう施策を通じまして、社会復帰施設の促進ということには前向きに取り組んでいく決意であることをぜひ御理解をいただきたいと思います。
【次回へつづく】