精神医療に関する条文・審議(その61)

前回(id:kokekokko:20051005)のつづき。初回は2004/10/28。
平成5年改正の審議のつづきです。

第126回参議院 厚生委員会会議録第13号(平成5年6月10日)
【前回のつづき】
○日下部禧代子君 文部省の方、ありがとうございました。結構でございます。
 厚生大臣にお伺いします。社会にある根強い差別観、それから偏見、そういったものに対しては大臣どのようにお考えでいらっしゃいますか。
国務大臣丹羽雄哉君) 率直に申し上げて、それがいろいろな面において、いわゆる社会復帰施設のみならず精神病院の経営そのもののあり方に大変大きな影を落としているのではないかと思っています。
 基本的には、私どもは今回のこの法改正の位置づけの中でも明らかにいたしておるわけでございますが、社会復帰施設から地域社会へと一歩先に進めていく中において、現に国民の皆さん方の中にまだまだいろいろな意見が十分あるわけでございまして、この問題につきましてもさまざまな意
見が実はあったことは御承知だと思います。しかし、基本的な立場からは、私どもは、そういうような差別や偏見をなくして人権というものに十分に配慮したいわゆる精神障害者の対策というものをさらに進めていかなければならない、このように考えているような次第であります。
○日下部禧代子君 確かに社会復帰の問題というのは、さまざまな要因を含んでおりますので、これは一概に言えるほど簡単ではない、理想どおりというのはなかなか難しいということも承知しております。他の先進国の場合には、かなり早い時期からそういう問題に挑戦しているというふうに私はとらえております。
 例えば、イギリスにおきましては、自由入院というのを法制化いたしましたのが一九三〇年でございました。これは英国法におきまして自由入院を法制化したわけでございます。コミュニティーケアという言葉あるいは概念というものが最初にあらわれたのが二十世紀の初頭、今世紀の初頭でございまして、まず精神障害者の分野でコミュニティーケアが進められ、それが児童福祉、そしてさらに老人福祉というふうに流れていったという歴史的な過程、これは日本とかなり違っているなという感じが私はしております。
 一九八七年でございましたが、イギリスの世界的に有名な医学誌でございます「ランセット」、大臣御承知だと思いますが、この「ランセット」の一九八七年の三月二十一日号に、「フォーゴトンミリオンス」、つまり忘れられた多くの人々というタイトルで我が国に非常に多い、いわゆる拘禁者が二十五万人いるという記事が出ております。当時一九八〇年の初めで、イギリスではいわゆる拘禁されている精神障害者の患者というのは七千人ぐらいでございました。その当時日本が二十五万人だったわけです。そのことが、セントラルテレビの「ビューポイント87」という番組で放映されております。また、そういうことを受けとめまして、「インディペンデント」という新聞が「ぺーシェント・オア・プリスナー」、患者か受刑者かというタイトルで大きく取り上げております。
 そういう歴史がある国でございます。私が議員になる前、研究者の端くれでおりますときからも、イギリスの精神障害者の社会復帰の実態調査は数を重ねております。今回、また四月二十三日から五月十日までイギリスとドイツを訪問いたしました。そこで、私はイギリスのシャドーキャビネットの大臣、そしてまた与党の大臣にもお会いいたしましたが、その際、イギリスの精神障害者に対するコミュニティーケアの実態を再度見てまいりました。
 私にとって非常に印象的だったのは、各自治体によりまして精神障害者の社会復帰についての計画ができていることでした。そこで使われている言葉にはいわゆる患者という言葉はございませんし、クライアントという言葉もございませんでした。そのかわりにどういう言葉が使われているかというと、コンシューマー、日本語に訳すと消費者というのでしょうか、そういう言葉が使われておりました。言葉というのはいろいろと重要な意味を持っていると思いますが、その点が私は印象的でございました。計画書の中の至るところに、コンシューマー、つまり消費者の人権、人間としての尊厳、そしてプライド、プライバシーという言葉が至るところに出ている計画書を見まして、私は非常に印象的でございました。
 社会復帰ということをそのように早くからずっとやっております。特にデイセンターというのは全国に普及しており、今世紀の終わりまでにはいわゆる閉鎖病棟をなくすという計画で各自治体が取り組んでおりました。私は、ロンドン市のハマースミス地区に参りました。ここは、エイズのデイセンターもきちんとしており、精神障害者のデイセンターも整備されておりました。
 また、ケント州というところに参りました。ここの精神障害者のコミュニティーケアというのはもっと徹底しておりまして、地域の衛生局が住宅を民間から買いまして、それをいわゆる公社に運営を委託するという形になっておりました。そこで入居なさっている方の家庭を訪問させていただいたんですが、一人はもう八十歳の女性でした。ほとんどその方の生涯というのは施設と精神病院を行ったり来たりということだったんですけれども、やっとケント州の計画の中で社会復帰ということが可能になり、人生の最後の部分において、地域社会の一人の住民として生活をしていらっしゃる。その家庭を見てまいりました。
 その場合、当然のことながら、生涯のほとんどを病院とかあるいは施設でお過ごしになっていらっしゃるので、社会的生活というのはなかなか難しい。したがいまして、その方につくケアをする人々というのが六人あるいは八人もいらっしゃった。何もその方々は一緒に住んでいるわけではございませんで、彼女は本当に独立して、グループハウジングでなく一つの家に住んでいらっしゃいました。その場合、必要なときに必要な担当の方が来ていただけるように、ケアをする方の顔写真と同時にその下に番号がちゃんと置いてある。だから、ボタンを押せばちゃんと応答してくださるという方式がきちんと彼女の家庭にできておりました。
 そういう形で地域の受け皿というのをきちっとつくっているわけであります。家賃は無料というのではなくて、障害者年金あるいは老齢年金で賄える家賃でございます。そういういわゆる地域復帰のためのさまざまな施策、地域の受け皿というものができておりました。
 そういう受け皿が必要なことは先ほどから申し上げておりますけれども、その受け皿の重要なものの一つにやはり住宅があると思います。私が見てまいりましたケント州の場合ですと、衛生局が住宅を買い上げていく、それをいわゆるもと患者だった方に退院した後に貸すという形になっております。そういうふうな住宅をどのように供給するか、利用する側からいくとどのように住宅が供給されるかということでございます。
 ここで建設省にお尋ねしたいのでございますが、入院なさった方が退院なさった、その受け皿として住宅が必要なわけでございますが、建設省といたしまして、公営住宅への優先入居制度、そういったことは全くお考えの中にございませんでしょうか。これからはそれを考えていくというふうな対応の御方針を持っていらっしゃるでしょうか、お伺いいたします。
○説明員(吉野洋一君) お答え申し上げます。
 精神障害退院患者の公営住宅への入居制度につきましてのおただしでございます。精神障害者世帯につきましては、特に住宅困窮度が高いと考えられますので、心身障害者向け公営住宅の優先入居の対象として位置づけまして、入居者の選考に当たりましては、福祉部局との連携のもと優先的に取り扱うように各地方公共団体を指導してきているところでございます。
 ただ、公営住宅法におきましては同居の親族が必要だということが原則となっておりまして、単身の方につきましては特例の場合にしか認めておらぬところでございます。単身の精神障害者の方につきましては、どの程度の障害がございますと単身での生活が可能かどうかという判断が困難でございます。それから、住宅の規模あるいは構造、福祉施設との連携等の配慮が必要であるというようなこと等の検討すべき課題がございまして、現状におきましては単身の精神障害者の優先入居を認めることは難しいと考えております。
 ただし現在、先ほどもお話しございましたグループホームでの入居につきましては、公営住宅の目的外使用によりまして試行的に行っておる段階でございまして、今後の課題といたしまして関係機関とも協議しつつ検討してまいりたい、こういうふうに考えております。
○日下部禧代子君 今、実際にはどの程度グループハウジングというふうなことで公営住宅への入居者がいらっしゃるんでしょうか。
○説明員(吉野洋一君) グループホームの例でございますが、これは具体的には北海道の上磯町の町営住宅におきまして平成四年四月一日から実施をいたしているほか、静岡県袋井市の県営住宅におきましても平成五年四月一日から実施をしておるところでございます。
 入居者が何名かは、グループホームにつきまして今申し上げた二例につきましては、四人ずつ八名入っておるところでございます。
○日下部禧代子君 今後、どの程度増加させていくというお考え、具体的な御計画がおありでしょうか。
○説明員(吉野洋一君) 今申し上げましたグループホーム地方自治法に基づく目的外使用でございますが、これは地方公共団体の要望がございましてその公共団体が実施をする、そういうことにつきまして、私どもとしてはもし必要でございましたらば支援をしていく、そういった考えでございます。
○日下部禧代子君 ぜひとも、物をつくる、建物をつくるというだけではなくて、ソフトという面でも建設省がいろいろとそういった御尽力をいただくということがこれからの社会にとってますます必要になってくるのではないかと思いますので、その点ぜひ御考慮に入れた計画をつくっていただくことをお願い申し上げておきます。どうもありがとうございました。
 ところで、厚生省にはイギリスでやっているような衛生局が住宅を買い上げてそれを賃貸するというふうな発想、これは全く厚生省の管轄ではないということになるんでしょうか。これは建設省の管轄ということになってしまうのでしょうか。――厚生省の方にお伺いしています。日本にはそういう発想はございませんか。
○政府委員(谷修一君) 今、先生がお話しになりましたイギリスの例でございますが、イギリスの衛生局が、恐らく日本では厚生省に当たるということだろうと思いますが、現時点で厚生省が、あるいは厚生省が関係するといいますか地方自治体において住宅を買い上げるあるいは借り上げるということは当面考えておりませんが、先ほど来御議論のありますこのグループホームというものがやはりそういうことの一つの比較的類似をした事業ではないかというふうに先ほど来お話を伺っていて感じた次第でございまして、そういう意味で今回の改正の中でもこのグループホームを法定化いたしまして、今後積極的にこの事業は伸ばしていくという所存でございます。
○日下部禧代子君 住宅の次に重要なことは、やはりケアをする方々の問題でございます。
 先ほど申し上げましたように、イギリスのケント州におきましては、一人の八十歳の女性が社会生活をするために八人の人手を直接的にかけているわけでございます。
 ところで、日本の場合には、例えば高齢者の場合にはショートステイ、デイサービス、ホームヘルプサービスというものを在宅サービスの三本柱として整備が進められております。精神障害者の場合に、ホームヘルプサービスが高齢者の場合とはまた形を違って必要ではないかと思うわけでございます。
 そういうことを考えますと、精神障害者の家庭生活指導員、あるいはホームヘルパー派遣事業の実態というのはどのくらい厚生省で把握なさっているのでございましょうか。
○政府委員(谷修一君) お話のございました精神障害者に対する家庭指導員といいますか、あるいはホームヘルパーの派遣事業を自治体でやっているところがあるということは承知しておりますが、必ずしも全国的な実施状況等は掌握をいたしておりません。
 私ども、岡山県の事例として、岡山県の精神病院協会と岡山県が中心になって事業を実施しているということは承知をいたしておりますが、その他の自治体においてどの程度あるかということは把握いたしておりません。
○日下部禧代子君 把握なさっていないということは、これはどういう意味でしょうか、例が少ないということなんでしょうか。それとも、余りこれ必要性がないととらえていらっしゃるのでしょうか。
○政府委員(谷修一君) 私どもが知っている範囲においては、岡山県以外にはほとんどないんじゃないか。今申し上げた事例以外には、現在我が国の中で、先生がおっしゃったような意味での事業、精神障害者を対象にした事業をやっているところはないんではないかというふうに承知をしています。
○日下部禧代子君 では、今後こういう事業というのは必要であると思っていらっしゃいますか。
○政府委員(谷修一君) 精神障害者が地域の中で生活をしていくということを進めていくためには、こういったような事業はやはり一つのやり方というか必要なことかなというふうには考えておりますが、具体的に今後どうするかこれは今申し上げましたような実施をしている県の状況なども聞きながら研究をしていかなければいけない課題だというふうに思っております。
○日下部禧代子君 では、早急に実態を把握していただきまして、またニーズ調査などもしていただきまして、これをまた制度化するという方向で検討していただきたいということを強くお願いしておきます。
 精神障害者の方が地域で生活するためにも、どこに相談したらいいのか非常にお困りになることが多いと思うんです。例えば精神保健相談員、これは昨年の六月末現在で千八百四十五人と私把握しておりますが、それらの方々の実態、それから将来どのようにこういった方々の確保をしていくのかということをお伺いしておきたいと思うんです。
 今申し上げました精神保健相談員、これは半分以上が保健婦の方あるいは医師、福祉関係というふうに私は把握しておりますが、この方々の実態あるいはまたその処遇というのはどうなっておりますでしょうか。
○政府委員(谷修一君) 精神保健相談員につきましては、精神保健センターあるいは保健所に配置をされているわけでございますが、職種としては、今先生お触れになりましたように、大部分の人が保健婦だというふうに承知をしております。
 また一方、精神保健センターには精神科ソーシャルワーカーですとか臨床心理技術者、これは先ほど来御議論ありますように身分法としては確立をされていないわけでございますが、そういうことをやっておられる方がそれぞれ平成四年度で約百名配置をされているというふうに承知をしております。
 これらの方々の身分といいますか待遇は、もちろんこれは保健所職員あるいは精神保健センター職員でございますから、他の職種同様地方公務員として処遇をされているわけでございますが、こういったような方の人員の確保ということについては、先ほどの身分化、国家資格化ということの検討と同時に、確保については地方自治体に対して十分確保できるよう指導はしているところでございます。
○日下部禧代子君 病院から退院した方々が地域で実際に生活なさるためには、量的には少ないのですがさまざまな施設があり、そしてまたさまざまな形で生活をなさると思うんです。それぞれの医療サービス機関あるいは福祉サービス、どこにどうすればいいのか、どこに何があるのかというふうなことも含めまして、一人の方が病院から退院なさって生活を地域でなさるためには、安心して生活がなされるためには、さまざまなそういったサービスを連携していくコーディネーターのような職種の方がどうしても必要になるのではないかと思うわけであります。
 ばらばらでございますと、退院した方がどのサービスがどこにあるのかさえわからない、そのサービスをどのように連携して自分が利用していいのかわからない、これはやはり不安ということにつながると思うんです。一番退院した方たちがお感じになることは不安だと思うんです。退院しても、こういうときにはここに行けばいいんだ、こういう方に相談すればいいんだということになれば非常に安心していらっしゃられる。この安心ということは非常に重要なことだと思うんです。
 そのためには、さまざまなサービスが今乱立している状況にございます。これは精神障害者の方のためのサービスに限らないわけでございますが、特に精神障害者の方々の場合には、退院後地域で安心してお過ごしになるためにそういったさまざまなサービスをコーディネートする、そういう役割の方が必要だと思うんですが、この点につきましてどのようにお考えでいらっしゃいますでしょうか。
○政府委員(谷修一君) 私どもは、そういう先生お話のありましたようなことをやる職種といいますか方としては、やはり精神保健相談員というものが保健所あるいは精神保健センターを中心にして活動していただくということではないかと思っておりますし、またそういうことを期待しているわけでございます。
 また、今回の法改正の中で、精神障害者を引き取る保護義務者に対しまして、社会復帰施設あるいは医療施設が保護者からの相談あるいは援助に応ずるといった規定を新たに設けたわけでございますが、そういったようなことによりまして、地域に出ていく精神障害者の方に対する指導とか助言ということは今までよりはやりやすくなったのではないかというふうに考えております。
 いずれにしましても、今先生がおっしゃったような意味でのコーディネーターという新しい職種というものを私どもは率直に申し上げて考えてはおりませんが、精神保健相談員というようなものを充実する、活用することによってそういう役割を果たしていただきたいというふうに思っております。
○日下部禧代子君 そういう重要な役割を精神保健相談員の方が担っていらっしゃるということになりますと、私の把握しております昨年六月末現在での千八百四十五人という数は非常に少な過ぎると思うわけでございますが、いかがでございますか。
○政府委員(谷修一君) 精神保健相談員につきましては、主として保健所に配置をされているわけでございますが、今後とも必要な人員がそこに配置をされるように、都道府県には改めて今回の改正の趣旨も含めて指導をしてまいりたいと思っております。
○日下部禧代子君 その具体的な御計画がおありでしょうか。
○政府委員(谷修一君) いずれにいたしましても、今回の改正が成立をして施行をする段階で、いろいろ国会で御議論があったようなこと、あるいは審議会からいただいた意見も含めて、新しい精神保健制度の運用ということについては関係自治体あるいは関係団体に通知をし、またお願いをするわけでございますから、そういうことの中でこの精神保健相談員の役割というものについても当然触れなければならないというふうに認識をしております。
○日下部禧代子君 私は、そういった精神障害者の方が退院なさったときに、地域社会で生活をなさるためにはやはりそういうケアをする方の人材確保というのが非常に重要だと思います。そうでなければ、さまざまな理念的なことというのがどうしても絵にかいたもちになってしまいがちだということをぜひとも御認識いただきたいと思います。
 次に、精神科の救急医療体制ということについて少しお伺いしたいと思うんですが、精神科の医療救急センターというのは今どの程度全国にございますでしょうか。
○政府委員(谷修一君) 精神障害者に対するいわゆる応急入院といいますか、救急医療ということについては、前回の改正の際に応急入院制度というものを設けまして、各都道府県に対してその設置の促進を指導してきたところでございますが、本年の四月現在で、全国で二十九都道府県、四十二施設が応急入院指定病院として指定をされております。
 したがいまして、まだ幾つかの県においては未設置県があるということでございますので、この応急入院指定病院の設置ということについては各県に強く指導をしていくつもりでございます。
○日下部禧代子君 応急入院指定病院というのは、これはいわゆる救急のためで、必ずしも入院するだけではなくて、普通の一般の救急と同じような形で対応されている病院のことでしょうか。
○政府委員(谷修一君) いわゆる精神医療の場合には、症状が急に激変をするといいますか、そういう場合があるということから応急入院制度というものが設けられているわけでございます。
 先生がおっしゃっておられるのは、いわゆる精神科に関係した救急医療という意味だというふうに理解をしておりますが、精神障害者の救急医療ということに関しましては、受け入れの医療機関の確保と、先ほど申しました応急入院指定病院ということのほかに、それでは急性期を過ぎた場合にどういうふうな医療体制をするのかというような問題がございまして、公衆衛生審議会の中でもいろいろ議論があったところでございますけれども、私どもとしては、そういう受け入れの問題とそれから急性期を過ぎた後の体制の医療の確保といいますか、そういうことを全体として少し議論して対策を考える必要があるんではないかということから、この問題について研究会を設けて研究するということにいたしております。
○日下部禧代子君 その研究会というのは、どのような形でいつごろ発足するわけでございますか。
○政府委員(谷修一君) 今年度の厚生省の厚生科学研究の中でこの課題を取り上げることにいたしております。
○日下部禧代子君 いつごろその結果がまとめられる御予定でございますか。
○政府委員(谷修一君) 当面、研究なり議論をどういうふうに進めるかということはこれからでございますが、いつごろということはちょっとまだそこまで実は詰めておりませんので、ただ、いずれにしても今年度からそういう研究を始めるということは明確になっております。
○日下部禧代子君 やはり地域で退院後安心して生活できるという、そういった観点から見ますと、精神科の救急医療ということは大変に重要な意味をこれから持っていくのではないかと思いますので、その点に関係しまして今研究会を発足させるということでございましたが、その研究会はぜひとも実のあるものにしていただきたいということをお願いしておきます。
 そして、未設置の県につきましてはどのような形で設置を促進する方策を考えていらっしゃいますか。
○政府委員(谷修一君) 先ほどお話のありました社会復帰施設の未設置の問題とは若干性質は違いますが、やはり今御議論ありました救急体制ということとも関連して非常に重要な施設だというふうに思っておりますので、私どもとしては、あらゆる機会を通じて、この施設が未設置のところについては都道府県並びに病院団体等も含めまして関係者にその設置をお願いしてまいりたいと思っております。
○日下部禧代子君 それから、入院の場合には社会的入院がかなり多いのではないかなというふうに思います。つまり、地域の受け皿というものが、きょう私いろいろお話を承っている中でやはり大変に不足しているということを改めて実感させていただいたわけでございますが、そういうことも含めまして、社会的入院ということが日本の場合非常に多いと思うんです。その社会的入院を減らさなきゃなりませんが、その指導あるいはまた診療報酬上の方策、そういったことは考えていらっしゃるんでしょうか。
○政府委員(谷修一君) 社会的入院という意味は、恐らく、精神障害者の中で入院が必要なくなった、だけれどもまだ入院しているという意味だろうと思いますが、ただ精神病院におきましては、精神医療審査会における入院の要否の審査で
すとかそういうことをやっておりますし、もう一つ、そういうような意味では社会復帰体制、施設の整備等によります退院後の受け入れ体制の整備ということによってその解消に努めていかなければいけないというふうに考えております。
 一方、そういうようなことを、診療報酬の面では精神科デイケアといったようなことが診療報酬上評価をされているわけでございまして、そういうこととあわせて、やはり社会的入院の減少ということに努力をしていく所存でございます。
○日下部禧代子君 先ほどからお話も出ておりますが、また公衆衛生審議会の意見書にもございますが、精神科にはやはりチーム医療ということがどうしても確立されなければならないと思います。このチーム医療の確立のために、予算措置、診療報酬上の措置、そういったものについてこれからどのように確立のための方策を考えていらっしゃいますでしょうか。
○政府委員(谷修一君) 精神医療サービスを個々の精神障害者のニーズといいますか、そういうものに応じて提供していくということのためには、医師だけではなくて、看護職員ですとか作業療法士あるいは臨床心理技術者あるいはソーシャルワーカー、そういう方々が連携をして医療に当たるというチーム医療を確立することが必要であるということを公衆衛生審議会の意見書の中でも言われております。
 そのための一つの検討事項としては、先ほど来いろいろお話のございます臨床心理技術者それからソーシャルワーカーの国家資格化の問題があるわけでございまして、これについては現在関係者の間での意見調整といいますか、そういうものがやられているということでございますので、その結果を待って私どもとしては対応していかなければいけないというふうに思っております。
 チーム医療というものを、今私ちょっとそういう幾つかの職種の方を挙げてそういう方が一緒にやっていくということで一言で申しましたけれども、現実問題としてのチーム医療というものを精神医療の現場においてどういうふうにやっていくかということについては、各職種の役割ですとかそれから精神医療という現場における連携のやり方、そういうようなことを少し明確にしなければいけないんではないかということで、今申し上げたようなことについて具体的な研究をしていきたいというふうに思っております。
○日下部禧代子君 そういたしますと、精神科のチーム医療のスタッフの養成計画というものはまだないということでございますか。
○政府委員(谷修一君) 今申しましたチーム医療ということとの関係でスタッフのことをお尋ねいただいたわけでございますが、スタッフの養成ということについては、もちろんこれは精神医療のことだけではなくて医師その他の職種全体の問題だというふうに思っておりますが、ただ、精神医療に携わる職員の資質を向上させていくという意味においては各職種を対象にした研修ということは従来から実施をしてきているところでございます。
○日下部禧代子君 研修だけではなく、本当に養成計画というものを立てていかねばならないというふうに私は思うわけでございますので、ぜひとも養成計画をきちっと早急にしていただきたいと思います。
 それでは最後に、大臣にお伺いさせていただきます。
 やはり地域の受け皿ということは、これは今九十分の論議でいかに重要であるかということを再確認したわけでございますが、地域づくりをどう進めるのか、また精神障害者対策を進める上で残された課題を本当に誠実に実施していく、そして行政間の垣根を取り払う、精神障害を持った方の社会参加と社会復帰、そういったことに対してのお取り組みを大臣はどのようにしていこうとしていらっしゃるのか、その御決意を伺いまして、私の質問を終わりたいと存じます。
国務大臣丹羽雄哉君) 御議論を通しましてさまざまな問題点を提起されたわけでございます。私ども厳粛に受けとめまして、いずれにいたしましても、今回の法改正の趣旨でございます社会復帰施設から地域社会へさらに一歩を進めていくよう最善の努力をする決意でございます。
 その中で、精神障害者の社会復帰、社会参加の促進というものは、先ほどから申し上げておりますように、精神保健対策の最重要課題の一つとしてまず考えておるわけであります。今回の法改正におきましても、グループホームの法定化やあるいは各種の資格制限の緩和措置などを講ずることにより、これまでの精神病院から社会復帰施設へという流れに加えまして、さらに先ほど申し上げました社会復帰施設から地域社会へという新しい流れを形成していかなければならない、こう考えておるわけでございます。
 精神障害者の方々の社会参加を推進していくためには、先ほどから各省の方にも委員の方から御指摘をなさったわけでございますけれども、単にいわゆる私どもの分野だけではなく、雇用、住宅などそのほかの施策の分野、これも十分に配意をしていかなければならない、このように考えておる次第でございます。
 政府といたしましても、障害者対策全体でございますけれども、昨年で国連障害者の十年が終わりましたので、さらにことしから新たに政府の障害者対策推進本部で長期行動計画というものを策定いたしまして、これには身体障害者、精神薄弱者、精神障害者の対策を充実していくことになっておるわけでございます。こういった中において、いわゆる障害者の自立と参加、こういったものもひとつ前進ができますようあらゆる施策を通じまして今後努力をしていく決意でございます。
○委員長(細谷昭雄君) 本案に対する午前の質疑はこの程度にとどめ、午後一時十分まで休憩いたします。
【略】
○委員長(細谷昭雄君) ただいまから厚生委員会を再開いたします。
 休憩前に引き続き、精神保健法等の一部を改正する法律案を議題といたします。
 質疑のある方は順次御発言願います。
本岡昭次君 時のたつのは非常に早いもので、一九八七年九月十八日、本院社会労働委員会で、長年の努力の結果として制定された精神保健法について私が質問しましてからはや五年と九カ月が経過をいたしました。今回、五年後見直しに従って本改正案が提出され、かつ、衆議院でさらに五年後の必要な見直しの修正がなされたことを何よりもうれしく思っております。そして、これを可能にした関係各位の御努力に心から敬意を表するものであります。
 さて私は、まだ多くの問題点を持ち、精神障害者の人権擁護と社会復帰の促進について国際連合の最低基準に照らしても不十分な内容でしかない本改正案でありますが、五年後の再改正に期待をつなぎながら、賛成の立場で若干の質問をいたします。
 私は、一九八七年九月の本委員会で、当時の斎藤十朗厚生大臣に次のように決意を求めました。そのときの会議録を読ませていただきますと、「まだまだ多くの弱点を持つ改正案でありますが、厚生省が精神障害者の人権に光を当てて国際的な人権水準に一歩でも近づけようとしたその方向性を評価し、今後の改革に大きな期待を寄せつつ」「厚生大臣のこの法改正に当たっての明確な決意を求めたい」ということで、私は当時の斎藤厚生大臣の決意を求めました。斎藤厚生大臣は次のように答弁いたしました。「私は今回の精神衛生法等の一部改正の法律を契機として、本年を日本の精神保健元年、こういうふうにいたしたい、」、こう言いました。そしてまた、「今回の法改正を契機といたしまして、我が国の国情に応じた施策を展開いたしてまいり、そして国際的にも精神保健、精神医療の分野においてモデル的な国としてこれから評価されるように努力をいたしてまいりたい、」、このように決意を述べられたのであります。
 今日、日本の精神保健、精神医療の国際レベルは一体どうなっていますか。世界のモデル国として評価される実態に近づきつつあるのですか。大臣の率直な所見をまず伺っておきたいと思います。
国務大臣丹羽雄哉君) 精神医療対策につきましては、前回の改正によりまして精神医療審査会制度、任意入院制度、さらに精神保健指定医制度などの各種制度が医療現場で着実に定着をいたしております。また、強制入院である措置入院及び医療保護入院が減少する傾向にあり、それにかわりまして、本人の自由意思に基づく任意入院や通院医療などが増加いたしております。基本的には、この五年間において人権を配慮した精神医療に向かって着実に前進をいたしておる、このように考えておるわけでございます。今後とも、この改正を契機に、さらに適正な精神医療を確保するため、よりよい環境において質の高い医療を提供するよう努めてまいりたいと思っております。
 また、社会復帰対策につきましては、前回の改正によって初めて社会復帰施設というものが法定化されたわけであります。精神障害者の社会復帰の促進を図るための貴重な第一歩となったわけでございますけれども、率直に申し上げまして、社会復帰施設につきましては現在までのところ必ずしも十分に進んではおらないというのが現実ではないか、こう認めざるを得ないわけでございますが、今後とも社会復帰施設の充実が大変必要だ、このように考えておるわけでございます。前回の法改正におきましては、精神病院から社会復帰施設へ、こういうような位置づけでありましたけれども、今回の法改正に当たりましては、社会復帰施設から地域社会へと一歩進めたわけでございます。
 いずれにいたしましても、積極的に人権というものに十分に配慮しながら、開放的な精神医療の確保のために努めていく決意でございます。
本岡昭次君 大臣の率直な所見を私は伺いたいんです。
 それは、国際レベルで一体どういうふうに日本の立場が位置づけられているのか。また、モデル国に近づくと言いましたけれども、日本は今努力されておるようです。しかし、それ以上に国際的なレベルの方がどんどんと先行していっているんじゃないかと思うんです。どうですか、モデル国にふさわしいような実態に近づいておりますか、それとも国際水準というものに近づいた、最低基準を突破して中ぐらいになった、こうお考えですか。
国務大臣丹羽雄哉君) 世界的にモデル国になったかどうかというあれは避けましても、御案内のような国連原則のいわゆる精神保健対策に関する世界各国の共通のガイドラインというものがあるわけでございますが、我が国の精神保健の諸制度につきましては、基本的には原則に沿ったものとして運用していく必要があると考えております。今回の改正でも、先ほど申し上げましたような位置づけに立ちましてもろもろな法改正を行っておるわけでございますが、例えば人権への配慮、適正な医療の確保、社会復帰促進、こういうものを念頭に置きながら、国連原則との関連におきましては非自発的入院の対象は精神障害者に限られるべきである、こういうような原則がありますけれども、この趣旨を踏まえまして仮入院の期間を三週間から一週間に減らすなど、世界的な水準に向かって近づきつつある、こういうふうに認識いたしております。
本岡昭次君 国連原則の問題にお触れになりましたので、それではそこに入ってまいります。
 私ははっきり言いまして、一九九一年十二月十二日に、国連において国連総会第四十六回総会決議として上げられた「精神病者の保護および精神保健ケアの改善」及びそれに付された二十五カ条の原則に照らしてかなりかけ離れている、日本は低い水準にあるというふうに言わねばならぬと思います。そしてまた、附属文書として国連事務総長の文章があるわけですが、そこにはこう書いてあります。「新たな関連法規を導入するにあたっては、諸原則に従った規定を採用すべきである。諸原則は患者保護に対する国際連合の最低基準を設けたのである。」、こういうふうに書かれてあるんです。
 それで、私はつぶさにこれを読みました、この諸原則なるもの二十五カ条。そしてこの改正法案と比べてみました。残念ながら、この国際連合の最低基準という問題に照らしてもまだまだほど遠いものがあると私は結論づけざるを得ないのであります。
 これからその問題について私は質問で触れていきますが、大臣は、この国連原則に照らしても恥ずかしくないとここで言い切られますか。もし言い切られるなら、私はこれはどうだこれはどうだと質問してまいりますが、恥ずかしいけれどもまだそこまで到達していないとおっしゃるなら、私はそういう立場で質問します。どちらの立場で質問したらいいか。大臣、国連原則と日本の精神医療の関係をはっきりさせてください。
国務大臣丹羽雄哉君) 恥ずかしいか恥ずかしくないかということは大変難しい御質問でございますけれども、基本的には国連原則に沿ったものとして運用していく必要がある、こういう認識に立って少しでも国連の原則に近づくように、もろもろの我が国の実情というものを十分に踏まえながらもそうした方向に向かって進んでいっている、このように考えております。
本岡昭次君 ということは、現在まだ到達をしていないというふうに大臣が認識されているというふうに判断していいですね。
国務大臣丹羽雄哉君) 私どもといたしましては、一方的に決めつけられますと、ああそうでございますかとは言いにくいわけでございますけれども、先ほどから私が申し上げておりますように、我が国は五年前ああいうような大変不幸な事件を契機にいたしまして、精神衛生法の抜本的な改正を行って、さらに今回また今度は位置づけにおきましても、当初の精神病院から社会復帰施設へ、あるいは社会復帰施設から地域社会へと一歩一歩前進をしておる、このように考えておるような次第であります。
本岡昭次君 一歩一歩前進していますが、国際的な水準は二歩三歩と前へ行っておるんですよ。私は具体的にそのことをこれから言ってまいりますから、ひとつ十分考えてください。
 まず、国連原則の八、それから十四の項目でありますが、国連原則の八にはこういう言葉があります。「すべての患者は、自らの健康上のニーズに適した医療的・社会的ケアを受ける権利を持ち、また、他の疾病を持つの者と同一の基準に則してケアおよび治療を受ける権利を持つ。」、「他の疾病を持つの者と同一の基準に則してケアおよび治療を受ける権利を持つ。」、こう書いてある。原則十四には、「精神保健施設は、他の保健施設と同一水準の資源を備えねばならない。特に、(a)資格を持つ医学的、その他の適切な専門職員の十分な員数」ということがございます。このことと、一九五八年の厚生次官通知、あるいはまたその後すぐ出されました厚生省医務局長の通知、いずれもが「特殊病院に置くべき医師その他の従業員の定数について」というのがありまして、これが現在もなおかつ三十五年間にわたって精神病院を拘束し続けているのであります。医師の数は他の診療科に対して三分の一、看護者の定数は三分の二以下でよい、こうされている。大臣、これは、原則八、原則十四に従ってこの次官通知、局長通知をこの際廃止するということでなければこの原則と大きく異なってまいります。これは大臣の判断、決断でなされるべきだと思います。いかがですか。
国務大臣丹羽雄哉君) 率直に申し上げて、委員も我が国の精神医療学界あるいは取り巻く環境について十分に御認識を賜っておると思いますけれども、やはり理想と現実とのギャップ、乖離というものが現にあることは私ども認めざるを得ません。しかし要は、私どもが大切なことは、理想
に向かって一歩一歩進めていくことである。
 特に、今お話がございました中で、インフォームド・コンセントの問題であるとかあるいは人員配置の問題であるとか、これは現場のお話を聞いておりますと大変なかなか難しい問題がありまして、こういうような現場の意向なり現場の立場というものを無視して一方的に推し進めていくことが、果たして我が国の実情に合った真の意味での精神医療のあり方かどうかということも十分に踏まえながら、とにかく基本的には先ほどから申し上げましたように一歩一歩前進を図っていきたい、こう考えているような次第であります。
本岡昭次君 いや、一歩一歩もいいですが、三十五年間同じ通知で縛り上げているんです。しかも、医師の数が一般病院と比べて精神病院は他の三分の一でいい、看護婦の定数が三分の二以下でいいということを、精神病院のお医者さん、看護婦さんが納得されて、経営者もこれでよいとされてずっといるならいいですよ、それはあなたがおっしゃったように現場の御意見に従って。現場はこれを何とかしてくれ、こう言っているんじゃないですか。
国務大臣丹羽雄哉君) 精神医療の現状から見て、今お話しのような人員配置の特例でございますか、こういうものを廃止するということは、まだ大変残念なことでありますけれども非常に差別と偏見というものが根強く残っている中において、実際問題としてなかなか人員を確保しにくい点があるということも、私どもは現場からいろいろな点でお聞きをいたしておるわけでございます。
 そういう中において、私どもは、今後チーム医療を確立していくことが必要だ、いわゆる精神科医ソーシャルワーカー、先ほど午前中から御指摘を賜っておるわけでございますが、こういった問題の資格化もあわせまして、全体的の中において今申し上げたような人員配置のあり方、こういうものを検討していくことがより現実的な施策ではないかこう考えているようま次第であります。
本岡昭次君 昭和五十九年七月三十一日、私は社労委員会で当時の渡部恒三大臣とこういうやりとりをしているんです。今の問題なんです。そのときに渡部恒三大臣はこう答弁している。
 
 一般病院と精神病院とで、その基準等について精神病院に対して緩和といいますか、弾力的な措置をとっておったというのは、それなりに恐らく医学的な事由があったのだろうと考えられますので、今すぐそれを私がここで廃止するとかしないとか、即答をするのはお許しをいただきたいと思いますが、先生御指摘のように、精神病院のみならずこれはすべての問題にも通ずるかもしれませんが、時代が十年前、二十年前より豊かにもなってまいりましたし、そういう問題に対する考え方もどんどん変わってきておりますし、新しい時代にそういう通達がなお生き続けなければならないのかどうかという点について、先生の今の御指摘を十分に頭に入れて、事務当局と相談してみたいと思いますので、その時間的余裕はお与えいただきたいと思います。
 
 八年間も待っておるんです。一体幾ら時間的余裕があればいいんですか。私は本当に腹が立ってくるんです、そのときそのとき大臣が言い逃れをしているのかと。三十五年間も一つの法律で縛り上げて、そして現場の医療従事者、お医者さんや看護婦さんやそういう人たちに大変な御苦労だけを与えている。後ほどずっと詳しく言いますが、経営そのものにもそのことが大きく作用してきているんでしょう。これは大臣の決断です。何で三十五年前のものがいまだに生き続けるんですか、これだけ世の中大きく変わっているのに。大臣、これは早急に検討して廃止する方向でということをここで言ってください。そうでなければ私は厚生省を信頼できない。
国務大臣丹羽雄哉君) 御趣旨はよく理解いたしております。しかし、委員も私が申し上げていることも十分に、ある意味において現場の実態という点から言うと、決して私の話が非常に後ろ向きであって全く話にならぬということじゃなくて、私は現実の問題として先ほどから申し上げておりまして、要はいかにして人権というものを配慮しながらよりよき運営を行っていくかという観点に立ちまして、私は今チーム医療の必要性というものを強く訴えておるわけであります。
 現に、私の地元などでも、率直に申し上げていわゆる精神医療を行っている医療機関においてはなかなか差別と偏見が根強く残っている中において、看護職員であるとかそのほかの医療従事者というのは非常に集まりにくい。それでなくても、今現在各医療機関においては大変なマンパワーが不足している中において、これもまた先生も御理解を賜りたいと思っております。
 要は、そういうことを現実に踏まえながら、いかにして今申し上げたような、私どもが理想としているいわゆるチーム医療、人権というものを十分に配慮した精神医療、こういうものを目指していくか、こういうことに尽きるのではないかこのように考えております。
本岡昭次君 私は、大臣を責めて、個人を責めているわけじゃないんです。よくわかるんです。ただ厚生大臣ですから、厚生省の責任者だからあなたに今いろいろと声を大きくして申し上げております。本来、これは歴代の厚生省の担当者の怠慢ですよ。大臣にそれだけ言わせておいて後は知りませんと、恐らくそういうことですよ。歴代の大臣がずっとそのことで苦しい立場に追い込まれる。だから、大臣は大臣として、大臣も政治家なんですから、やはり三十五年前のこの問題について本当に必要なのかどうかということを、ここで一遍ちゃんと検討しますということを言うのが私は政治家だと思うんです。
 それで、あなたがおっしゃったように、人が得られない、得られないからその三十五年前のが生き続けるというのは、それは実態はそうだと思うんですが、理屈に少し合いにくいと思うんです。やっぱり、大臣は政治家としてこの問題に対する対処をここで言っていただきたい。そうしたら、私も質問したいことがたくさんありますので。
国務大臣丹羽雄哉君) 先生の御主張は、十分謙虚に承りまして今後の検討課題にさせていただきます。
本岡昭次君 いや、今後の検討といっても、これ時間的余裕といって八年間私はずっと待ちぼうけ食うてますねん。だから、厚生大臣の責任においてこの一年間に検討するとか、きっちりいつまでにこのことについて答えを出しますと、それを言ってください。
○政府委員(寺松尚君) 今の先生の御質問にちょっと事務当局の方からお答えをいたしたいと思います。
 と申しますのは、一つは精神病院の実態でございますけれども、確かに先生御指摘のように、昭和三十三年に出ました事務次官通知というものが現在も生きておるわけでございますが、それによっていろいろと人員等の配置はされております。しかし、実態が現在どうなっているかといいますと、実は千四十六の精神病院を調査した平成三年の数字がございますが、その中で、医療法の標準と言われるものをさらに上回っておるというふうなものが四〇%を超えております。と申しますのは、一般の病院におきましてたくさんの看護婦さんを配置しておる基準がございますが、それに合わせました基準でやっておるような基準看護を採用しておる病院が精神病院の中にもございます。したがいまして、先ほど申し上げましたように全体的には四〇%が医療法の標準を超えている、こういうことでございます。
 それから、医師とか看護婦につきましての一般病院との差でございますが、実はこれは、もう私どもも医療監視等で非常に十分なチェックをしていろいろと指導はいたしておるのでございますけれども、なかなかその医療関係者の配置の増員が図られておりません。現在のところでは、医師につきましては、医療監視の遵守率というものは精神病院の方が一般病院よりも高くございまして五二%程度遵守しておる。それから、看護婦につきましては、これも一般病院と比べておりますが、一般病院が八二%ぐらいでございますけれども、精神病院が六五%と看護婦の問題は確かに遵守率が低うございます。
 しかし、各県でいろいろと調べてみますと、こちらの医療法の標準を非常に満足しておるところもございますし、非常に悪いところもございます。したがいまして、私ども、医療の標準をできるだけふえるように、先ほど申し上げた基準看護をとるなりする形で増員を図ってもらうようにいろいろと指導をいたしておるところでございます。
本岡昭次君 いや、そうなっておるんやったら要らぬやないですかこんな古証文みたいなものは。これを廃止して、新しい対応をさせたらどうなんですか。どうしても、またこれをこれから何年も先、十年二十年と生かし続けるおつもりなんですか。それで、今おっしゃった実態は四〇%は上回っておる、こういうことなんでしょう。しかし、それは現場の努力でそうなってきよるんでしょう。それにもかかわらず、いつまでこういう通知を生かし続けるんですか。
 それなら聞きますけれども、厚生省の統計報告を見ると、平成元年で一般病院の看護者数は全国平均で百床当たり三十八・四名、これに対して精神病院は全国平均で百床当たり二十・二名、これ間違いないと思うんです。しかし、精神病院といっても自治体立の精神病院は、百床当たり平均して三十四・九名の看護者が配置されているんです。私たちが問題にしたいのは、一般の精神病院の全国平均の百床当たりは二十・二ということなんです。自治体病院の三十四・九というのは後ほど別の観点から私は議論します。要するに、そういう状態であってもそれは昭和三十二年の通知によって何ら問題がない、こういうことになってくるわけでしょう。そこはどうなんですか。
○政府委員(寺松尚君) これも先生御承知のとおりでおっしゃっておるんだと思いますが、精神病院の医師、看護婦等の配置標準と言っておりますが、これにつきましては、精神病の特性からいろいろと数字的には一般病院よりも低くなっておるのが普通でございますが、先ほど申し上げたように、一般病院のいわゆる基準看護等と同じように、非常に看護婦等を重装備しておるところもそれは病状に合わせてあるわけでございます。したがいまして、そういうふうな精神疾患の特性で、いろいろな症状の重い軽いに応じまして人員を配置したり、いろいろ工夫をしておるところであろうかと存じます。
 そこで、今このままほっておくのかという御質問でございますが、大臣からも御答弁がありましたけれども、私ども、これから二十一世紀の超高齢化社会に向かいまして今いろいろと考えております中に、良質な医療を効率的に提供するシステムを構築する、こういうようなことでいろいろな病院の医療機能の体系化を図りつつございます。したがいまして、私どもは精神病院も含めましてその辺の人員配置等も考えてまいりたい。そのときに、この国連の原則にもございますけれども、やはりその国その国の実情も十分考えてやるような努力目標という形で設定されておりますが、そういうような形でやってまいりたい、このように考えております。
本岡昭次君 あなたの話を聞けば聞くほど、昭和三十三年のこれは不要になってきている。特殊病院とかいう形ですね、結核とそれから精神病院を置いて。それで良質な医療を全体にと、こうなったときはこの通達の趣旨そのものが不必要になってきている。それだけ我が国の医療のあり方、あるいはまた患者の人権とか医療を受ける権利とか、そういうようなものがやっぱり年を追って拡大してきておるんでしょう。その中で、昭和三十三年のこうしたものが、もはや死文化したという状態になってもなおかつ生き続けているというこの不合理、これはやはり僕はこの質問の中ではっきりさせていただきたいと思います。
 それで、自治体病院はあなたがおっしゃったように重厚ないろいろな体制をとっていっておりますよ。しかしながら、病床数を見ると、平成二年度で、自治体立の精神病院では一万七千二百六十一床でしょう。それに対して、私立の精神病院の病床数は三十一万五千三百十床でしょう。これは圧倒的に私立の精神病院のところで治療を多くの患者が受けておられる、こうなっています。要するに、入院を要する精神患者のほとんどは私立の精神病院で治療を受けるんです。ところが、それが百床に対して二十・二、二十人そこそこという看護者の手で治療を受けているというこの実態。公立の自治体病院に行くと三十四・九という倍に近い形のところで治療を受けられる。精神病院一つとっても、個人と法人化された病院と自治体病院で非常に差があるわけです。こうした不平等が現にこうして非常に大きく存在をしているんです。
 しかも、先ほど今井委員の質問の中で答弁されましたけれども、平成三年度の病床百床当たり一カ月の収支について精神病院だけ取り上げてみると、個人の場合は三百七十五万円の利益、法人が百十一万六千円の利益、公立が赤字で千四十二万円、こういうふうになっておるんです。これはなるほどとわかるんですよ、何で自治体病院が千四十二万円も赤字になるのか。これは、百床当たり三十四・九、そういう看護体制を維持しておるからこれだけの赤字が出るんですよ。自治体病院がなぜそういう赤字を出してでもそれだけのを維持するかというと、そうでなければ良質な医療が保障できないから自治体病院は赤字覚悟でやっているんでしょう。となれば患者にとって、自治体病院に入った人とそうでない人とは医療の部分で大変な不平等を受けることになります。患者の治療を受ける平等の権利が受けられなくなる、こういう実態が私はここではっきりしたと思うんです。
 自治体病院の方は、赤字は税金の中から補ってやるという仕組みなんでしょう。個人とか法人の病院ではそれはできない。できないから人件費を抑制する、それで辛うじて経営をするための利益を出していく。その根拠になっているのは何かというと、この三十三年の通達というものがそういうものを認めていっているということなんです。
 経営者の立場からすれば、個人であろうと法人の私立の病院であろうと、やはりこれは経済的に成り立たなければならぬですよ。病院を経営しているんだから、経営の安定というものが当然そこに出てくる。だから、こういう格差を生まないように、経営の安定が図れるようなやはり精神医療の面での診療報酬の問題とかさまざまな手を打たなければ一般病院との間に大変な格差がある、さらにまた、精神病院の中にこういう格差が存在しているという矛盾をどう解決していくかということが私は極めて大事だと思います。
 その中の一つに、その三十二年の、他の病院よりも人員配置は少なくてもいいというこの物の考え方、考え方の問題ですよ、これをやはりなくす。それと診療報酬の問題で、こうした病院の経営の主体ごとにこんな格差が出ないようにやる対応の仕方、こういうものが私は必要ではないか、こう思うんです。だから、いろいろとここで議論をしたいんですが、きょうはその三十三年の次官通知、局長通知、それをこの際もうはっきり廃止も含めて見直します、考え直しますということを、私は政治家としての厚生大臣にぜひともそれだけはお願いしたい、こう思います。
国務大臣丹羽雄哉君) 私は政治家としてというか厚生大臣として、今民間の医療機関の経営が極めて悪化をしておる、こういうことを私どもたびたび予算委員会なりあるいはこの厚生委員会なりで御指摘を賜っておるわけであります。その中におきまして、精神病院の経営の悪化ということも強く指摘されておるわけであります。
 なかんずく、当然のことながら民間の医療機関の問題でありますし、この人員の配置の問題はまさにその経営悪化の大きな根本にかかわる問題で
ございますので、この点は十分な、賢明なる委員でございますので、ひとつ今後の検討課題にさせていただきたいと思います。
本岡昭次君 だんだん平行線になりそうなんですが、それは検討していただくのはいいんですが、やっぱり渡部恒三大臣がおっしゃってから八年たってもまだ同じ議論を厚生省が展開しておるということが私は不思議でたまらぬのですよ。これだけ世の中が変わり新しい時代が生まれ、こういう国連原則がきちっとして、日本は国際的なモデルになろうとこう言い、この国連原則の最低基準、これは最低限クリアせにゃいかぬ、そういう強い決意と覚悟を持っておられるのに、依然としてそういう論理というのはどうもそこに一貫せぬものがあると思うんです。
 そういう先のめどのない検討じゃなしに、いつまでにこれはこうやって結論を出しますということをぜひとも言い切っていただきたいと思います。そうおっしゃらないからといって審議をとめるわけにもいきませんから、ぜひともそれはやってくださいよ。
国務大臣丹羽雄哉君) やはりこういう問題、人員配置の問題につきましては総合的な観点から判断をしなければならない。先ほどから御指摘を賜っておりますような診療報酬も含めまして、いわゆる精神病院の経営の安定化、こういったものと密接不可分の問題でありますし、こういう中において先生の御趣旨、御指摘は十分に私も私なりに理解はしないわけではないのでございます。
 元の閣僚がそのような答弁を申し上げたことについて現在と全く変わっていないではないか、こういうことがありますけれども、問題にはやはり変わるものもあれば変わらないものもあるし非常にいろいろな面があるわけでありますもので、現在においては率直に申し上げて、今この人員配置の問題の特例なるものを廃止したならば、ほとんどの民間病院が大変なさらに経営悪化していわゆる精神の病棟あるいは精神治療そのものが大混乱する、こういうような高度の政治的判断におきまして、私はあえて申し上げて先生の御理解を賜っておるような次第であります。
本岡昭次君 そうですか、現場が大混乱をいたしますか。そうおっしゃるなら、それでは精神病院を経営されておられる方々に、昭和三十三年のこれは今でもなおかつ必要だと思っておられるのかどうか。もしそのために厚生省がこれを置いているとすればこれはまた別の――私は逆だ、こう思ったものですから、逆だと思ったんですよ。だから、これを変えることによって診療報酬の問題もまた一般病院と並んでいくんですから、特殊病院ということで別枠に置かれているということがすべての根幹だ、こう思うからですよ。
 それは、経営者の方々も物の考え方が余りにも後ろ向きじゃないんですかね。やっぱり特殊病院という枠を外してもらって、一般病院と同じような形で良質な治療をやっていく、そして病人、患者という立場で差別がないんだということをこの国連原則が示しているようになぜ一歩を踏み出せないのか私はちょっと理解ができないんです。ここまで自分の主張を言ってしもうて、大臣のおっしゃるのをそうですかといって引き下がるわけにいかへんですね。
国務大臣丹羽雄哉君) 先ほど来、先生からの御意見を賜っておるわけでございます。私ども、十分にその言葉を重く受けとめまして、今後の検討課題にさせていただきたいと思います。
本岡昭次君 それでは私は、これから毎月といったら余りなんですが、三カ月に一遍ぐらい、どう検討されましたかどう検討されましたかということで月参させていただいて、今の大臣の答弁をきっちりと厚生省の中で受けとめて作業が進むように、再び私がこういう質問に立ったときに同じことを言わぬでもいいようにやりたいと思いますので、大臣もよろしくその点お願いいたします。――うなずいていただきましたので、次に入ります。
 同じ国連原則の九項というのがあるんですが、ここにも治療の問題で次のような表現がございます。
  すべての患者は、最も制限の少ない環境で、最も制約が少なく、もしくは最も侵襲的でない治療によって、自らの健康的ニーズと他の者の身体的安全を保護する必要性にふさわしく、治癖を受ける権利を持つ。
要するに、精神障害者、精神病院に入院している患者は「最も制限の少ない環境で、最も制約が少なく、」、そういうことが書いてあるんですね。
 そこで、前回の法改正のときに、これは「精神保健法第三十七条第一項の規定に基づく厚生大臣が定める処遇の基準」というものが告示されておりますね。これも読ませていただきましたが、その文章の中に、入院患者の処遇に当たっては、患者の自由の制限が必要とされる場合でも患者の症状に応じて最も制限の少ない方法によらなければならないというふうに書いてあるんです。
 また、公衆衛生審議会の答申もそうした立場の言葉が出されておりまして、ほぼ国連のこの原則と一致しているようにも思うんですが、これは要するにこの精神病院における開放処遇の問題だと思うんですね。開放処遇、開放治療というんですか、それを一体どういうふうにするのかということであろう、このように思います。
 それで、話はまたもとへ戻るんですが、開放治療をするという場合に、一体どれだけの人手があればできるのかという問題ですね。今までのように病院に収容して、かぎをかけて鉄格子をはめて、そこで管理監督というんですか、そういうもとでやる場合と、開放処遇というふうになった場合とこれは人員配置の上でさらに大きな相違が出てくる、私はこう思うんです。
 それで、先ほど厚生大臣も五年前とおっしゃいましたが、私は宇都宮病院という問題をここで頭に思い浮かべるんです。私も二度にわたって調査をして、宇都宮病院が一体何であったかということを体験してきました。今でも貴重な体験だと思っています。
 この病院では、入院患者九百四十四名に対して、常勤医は三名。看護者は正看、准看合わせて六十七名。つまり、看護者は患者百名に対して六名、こういう状態でこの病院が経営される、なぜか。これは鉄格子のはまった、かぎのかかった中に患者を入れた。騒ぐ者があればリンチをして静める。そして、独房のようなとても非人間的な耐えられないようなところに押し込んで処罰をする。そういう本当に重大人権侵害を地でいくような形の病院だったから、これだけの人数で済んだんです。
 だから、こうした病院も含めて開放処遇をするとなれば、これは私は大変なことだと思うんです。しかし、その点については先ほど言いましたように、きちっと公衆衛生審議会の答申でも出されておるし、先ほど言いましたように厚生大臣の告示の中に、そういうふうにしなさいということが述べられている。また、国連原則もそうしたことを明示している。とすれば、一体これはどうしていったらいいのかということなんです。
 先ほど大臣も、しかし人手がない、病院の経営が大変になってくるとおっしゃいました。おっしゃるとおりです。この経営、経済基盤の脆弱な土壌の中では、これはとてもそういう開放処遇はできないでしょう。人権侵害を前面に押し出してやるような病院でなければ、私はそれは成り立っていかないと思います。だから、経済基盤が脆弱であれば、そこに人権侵害が起こる。逆に経済的に経営が安定すれば、そうした人権侵害の土壌がなくなっていく。こういう関係にあると思うんです。だから、宇都宮病院のような轍を踏まないためにどうするかということで、前回精神衛生法精神保健法として改正されて、この法案が新しく精神障害者の人権と社会復帰というものを前面にうたってスタートしたんであります。
 そういう意味で、私は先ほど言いましたように、この開放処遇という面から見ても、また話はもとに戻りますけれども、そうした開放処遇を十分やり切るだけの人員配置というものが果たして可能なのか。それをやらないで厚生大臣の告示というところで幾らそれを書いたって、これは仏をつくって魂を入れずというふうな例えと全く同じようなことになってしまうと思うんです。やはり、これだけのことを大臣告示でやり、そして法律にもうたい、公衆衛生審議会も出したら、私はそれを裏づける体制を組まにゃいかぬと思うんです。厚生大臣、いかがですか。
○政府委員(谷修一君) 前回の改正の際に、制度として導入されましたのは任意入院、特にこの任意入院については、みずからの同意による入院であるということから、できるだけ開放病棟での処遇が望ましいということは先生お話しのございましたように指導をしてきたところであります。また一方、入院患者の処遇というものはその症状に応じてなされるべきということから、一律に開放的な環境ですべて処遇をするということは、医療上から必ずしも適切でないということもまた私ども考えているところでございます。
 先ほどお触れになりました公衆衛生審議会の意見書の中でも、精神病院において開放処遇を適当とする者については開放処遇とするということを改めて意見として述べられているわけでございまして、そういう意味で、私どもは今回の改正を契機にして、この開放処遇あるいは開放的な処遇ということについての指導は徹底をしてまいりたいと思っております。
 一方、審議会の意見の中でも、開放処遇というのは一体いかなることを言うのかと。これは、少なくとも私は開放処遇という言葉で言っておりますが、じゃどういうことが開放処遇なのか。これは前回の改正の際の通知におきましても、例えば二十四時間出入り口を錠で囲っている病棟の中においても、そういう患者さんでも、場合によっては一時的に外へ出て開放的処遇をやるべきだということも言われているわけでございます。
 そういう意味で、開放処遇というものの概念といいますか定義というんでしょうか、そういうものを私どもとしては明確にしなければいけないというふうに考えております。これは、今回の改正法が施行する前に、そういう概念をきっちりと整理したい。これは、審議会におきます精神医療の関係者の中からもかなりそういう意見が出されていたことでございますので、そういうことも含めて対応をしていきたいというふうに思っています。
本岡昭次君 時間がありませんので、深く立ち入るのはまた別の機会にさせていただきます。
 それで、結局マンパワーという問題を私たちがどういうふうに認識して、その仕組みをどう確立していくかということになろうかと思います。そして、このことを法的に裏づけをして経営主体の病院経営の安定をどう図っていくのかということにもなってこようと思うんです。
 そこで、マンパワーの中の一つとして、PSWの問題を少し議論していきたいんです。午前中も今井さんの方から質問がありましたが、私はPSWに限りますから、このPSWの資格問題、これも先ほどの議論じゃありませんが、前回の法律改正のときにこういうやりとりをしております。
 私は、向こう一年の間にいろんな問題を解決して、この資格問題について、ソーシャルワーカーでつくられる一つの制度としてこれを処理するという約束をしてくださいと。一年間でひとつつくりあげてくださいという要請をしました。当時の竹中局長さんの答弁は、
 
 厚生省といたしまして医療福祉士として資格法制化をするという方向でこれまで医療関係者間の意見調整に大変努力をいたしてまいったわけでございますが、現在の時点ではなかなか関係者のコンセンサスが得られない状況でございます。
 私どもといたしましては、できるだけ関係者の方々の御意見の調整、コンセンサスをつくるということに努めてまいりたいわけでございますが、今申し上げましたような一番基本のところで食い違っておりますので、大いに努力はいたしますが、なかなか一年というのはお約束をいたしかねるのが現状でございます。
 
 これは六年前の答弁なんです。私は、大いに努力をしていただいた結果が何であったのかということをお伺いしたいんです。
 それで、コンセンサスを得る、調整をする、五年間やって調整のつかないものというのは一体何なんですか。これから先十年やっても二十年やっても調整のつかないことを当てもなく厚生省はやっておられるということではないんでしょうか。もしこういうことをやっておられると、一方で実態的にPSWを必要とする現場が大変な混乱を起こしてくるんではないかと私は見ています。どうですかいつまでに結論を出すんですか。そして、そのPSWにはどのような方法でどんな資格を与えようとされているんですか。六年前の竹中局長のような答弁じゃなくて、五年間大いに努力してもらったんですから、その結果としてここではっきりとお答えをいただきたい。
○政府委員(寺松尚君) はっきりした答弁をというお話でございますけれども、事態は余り変わっておりません。
 この精神科ソーシャルワーカーの必要性につきましては、先生も御指摘なさいましたように、地域や家庭におきまして充実した生活を送るために、こういうふうな患者さんが抱えます経済的、心理的、社会的問題の解決あるいは調整、こういうものを援助するということはこれは重要なことだ、そういうふうに私どもも認識はいたしております。したがいまして、各関係団体にいろいろ話をしておるわけでございますが、非常に基本的なことで幾つか論争点がございます。
 御承知のように、二つの大きなグループがあるんじゃないかと思います。一つは日本精神医学ソーシャルワーカー協会あるいは全国ソーシャルワーカー連盟という方々、会員数が約千二、三百人両方でおられるようでございます。それからもう一つは日本医療社会事業協会、これは二千人ぐらいおられるようでございます。そういうふうな方々の団体がございまして、資格化についてはどちらも賛成なんでございますけれども、その資格化の考え方の中でいろいろございますのは、一つは、前者の方でございますが、医師の指示のもとに業務を行う医療関係職種、こういうふうに主張されておるわけでございます。ところが後者の方のグループでは、社会福祉の実践を行う福祉関係職種だ、こういうふうに言っておられるわけでございます。
 したがいまして、ばらばらに申し上げて恐縮でございますが、業務内容の方でも、前者の方は、医療行為との関係ということを非常に大事にしておられまして医師の指示のもとに行うと。ところが後者の方は、いわゆる社会福祉の実践におきましては医行為性のものではないというような御指摘でございます。したがいまして、養成の過程におきましても、前者の方は社会福祉科目と保健医療科目と両方やる、後者の方は社会福祉科目でもう基礎は十分だ、こういうふうなお話でございます。
 そういうふうに、大きく言いますと医療関係職種だというのと社会福祉関係職種、こういうことになるんだと思いますが、そこらで一致して話がなかなか進まないというのが実情でございます。私どもも関係団体には関係各課を通じましていろいろとお話をしておるわけでございますけれども、まだそういうことで残念ながら一致を見ておりません。
 以上でございます。
本岡昭次君 どうもわからぬですね。関係団体の意向を聞くということはもちろん大事ですよ。それは尊重せにゃいかぬです。しかしその一方で、この五年間、精神保健法が成立して、精神病院の先ほど言った開放化の問題、開放処遇と言うのですかあるいはまた精神障害者の社会復帰施設がどんどん増加していく、そこで働く精神科ソーシャルワーカーの必要性というものはどんどんと増大してきているんでしょう。現にその人たちが無資格でいろいろ働いているんでしょう。通常は、私は精神科ソーシャルワーカーですと言えば、はいそうですかと言ってそれは受け入れざるを得ぬのでしょう。
 また、厚生省はPSWを精神保健法第三十八条の担い手として考えているんだと前回の法改正のときにおっしゃいました。また先ほどもチーム医療ということもおっしゃった。お医者さんに看護婦さんに臨床心理技術者、それから作業療法士ですか、こういう方々と一緒になって精神科ソーシャルワーカーが一つのチーム要員、そういう仕事がふえてきた。あるいはまた、精神障害者が社会復帰して地域社会の中で生活をする、働く、そうした場合の権利を擁護するという立場からのPSWの任務、こういうものもどんどん増大してくるんでしょう。
 このことは、PSWの資格をどうするかということ、関係者のああだこうだという議論の調整をするということ以上に精神保健法上要請される中身がどんどんふえてきておるんでしょう。これは国が必要としておるんでしょう。患者が必要としておるんでしょう。地方自治体が必要としておるんでしょう。にもかかわらず、いつまで両者の調整のところに、居眠りしておるとは言わぬけれども、ただそこでああでもないこうでもないということをおっしゃっているんですか。そんなことは、私はわからぬですよ。
 だから結論として言いたいのは、PSWのところが医療を必要とすると言うなら、医師の指示のもとにというところの中でくくって精神科ソーシャルワーカーとしてきちっとした資格を単独で与えなさいよ。何かしなければ五年たってもこの状態です。また、今言ったように国の責任でやらなければならぬことが一方でいっぱいありながらそのことをほっておくというのは、これはあなた、精神科ソーシャルワーカーの質の問題ですよ。そして、現場にその人たちの仕事をたくさん要請しておいて、こんな無責任なことはないと思う。こんなことではだめです。はっきりと決断をして、そこまでもう十年近くああでもないこうでもないと議論したんだから、ここでちゃんとした結論を出しなさいよ。
 双方の意見が譲らぬなら、厚生省としてこうすべきだ、こうすることが必要だという立場に立って、精神保健、精神医療のためにPSWの資格を確保して、そして四年制大学を出て資格を取って他のチーム要員と肩を並べて現場でしっかり誇りを持って働き、質のよい医療、具体的な活動を提供できるようにしてください。
○政府委員(寺松尚君) 今先生の御指摘のようにすっきりと割り切れれば非常に楽なんでありますが、いろいろと各団体がそう言っておりますので、今おっしゃっておるようにそれを分けてやっていいかどうか、その辺も改めて聞くつもりでございますけれども、今までも何回かその話は出ております。したがいまして、医療のもとでの医療関係職種としてやっていいかどうかというようなことをもう具体的に決断しなければならぬというような先生の御指摘でございますが、私どももそのような点につきましてはひとつ努力してみたいと思います。
 ただ実際、今関係職種の中でほとんど医療の基礎科目を受けていない方々もいらっしゃるわけでございます。それが医療施設におられる場合もございますし、その他のいろんな施設にお勤めでございます。そういうようなこともございますので、その辺はまた各論になりますけれども、いろいろと手当てをしなければならぬところもあるかと存じます。十分なお答えになっておりませんが、そのような努力をさせていただきたいと思います。
本岡昭次君 大臣、ぜひともこれも伺いたい点なんです。
 なぜこんなに長くすっと続けているのか、どの省庁もこんな状態かなと思うときがあるんですよ。現場の当事者の御意見、これは大事です。しかし、そこのところで時間を費やしているうちに、一方で大事な精神障害者のさまざまな問題がどんどん先行していくんでしょう。そして、これから社会復帰施設もふやすと言うのでしょう。しかも、精神障害者だという障害を持ちながら社会復帰していくんでしょう。そのときに一体どうするんやという問題ですよ。PSWの活動の範囲はどんどん広がる。
 このことは、私は非常に高いレベルの人を要すると思うんです。私は学校教員の出身ですが、そんなことを言ったら教員が怒るかもしれぬけれども、教員以上のやはり高い質の者が要る。精神障害を持っている方の社会復帰、社会参加、そして平等な差別のない社会の中で暮らしていかせるというのは並み大抵のことじゃないですよ。しかしそれをやろうとする、高い理想に燃えて頑張ろうとする人を養成し、きちっとした資格のもとに、その人の身分と生活を安定させていくということをやらなければ私は不十分もいいところじゃないか、こう思うんです。
 大臣、これはひとつ何とか厚生大臣が五年も六年もやっていただいたらもっとこういう事態は早く進むと思うんですが、そういうわけにもいきませんので、大臣の在任中にこの問題はひとつけりをつけてください。お願いします。
国務大臣丹羽雄哉君) 先ほど健康政策局長から御答弁申し上げましたように、さまざまな難しい問題を抱えてここまで長引いてきておるわけでございますけれども、今先生御指摘のように、いわゆる資格化というのは一日も早く望まれるわけでございますので、私どもといたしましても全力でこの問題に取り組んでいく決意であります。
【次回へつづく】