精神医療に関する条文・審議(その69)

前回(id:kokekokko:20051013)のつづき。初回は2004/10/28。
ひきつづき、平成7年法律第94号(精神保健法の一部を改正する法律)での議論をみてみます。

第132回衆議院 厚生委員会会議録第9号(平成7年4月26日)
【前回のつづき】
○佐藤(静)委員 今、准看の養成学校でどういうカリキュラムで教えているかということはまだわからないのですか、厚生省は。それは医師会か何かに任されたままですか。それはちょっとおかしな話じゃないですか。ちょっともう一回答えてください。
○谷(修)政府委員 カリキュラムの問題についても検討会を設置して検討していくというようなことでもございますので、もちろん、准看護婦養成所についてのカリキュラムは決まっているわけでございますが、そのカリキュラムの実態等についてもあわせて調査をしていきたいということでございます。
○佐藤(静)委員 これは准看の方々、看護協会そのものが准看を廃止しようということでずっとやってきているのですね。平成二年には会員を中心として二百余万人の廃止の署名を集めた。御承知のとおりです。当時の社労委員会でそれは否決されてしまったからそのままになってしまいましたけれども、二百余万人の署名を集めて、そして、准看を廃止してほしい、看護制度は一本化してほしいという願いがずっと続いてきているのですよ、四十四年間。それを今さらどういう検討をするのか。今聞きましたら、准看制度は継続するのか廃止するのか、そういうことも含めて検討する、どうもちょっと私よくわからないのですけれども、どういう方向に向けて検討しようとしているのですか。
○谷(修)政府委員 この検討会の中でも、先ほども御説明をさせていただきました二つの御意見があったということでございます。そういう意味で、現在の准看護婦学校、養成所で行われている教育の実態、それから施設等の実態、そういうものも把握をした上で、改めてこの問題についてどういうふうに考えていくかということを検討してまいりたいというふうに考えております。
○佐藤(静)委員 よく医師会なんかから言われるのですけれども、看護婦の養成は本来国がやるべきものだ、それを医師会に押しつけているのは国の怠慢だ。これは医師会側から言っているのですよ、医師会側から。そういうような意見があるのですけれども、それについて局長とう思いますか。
○谷(修)政府委員 看護職員を初めといたします保健医療従事者を確保していくということは極めて重要なわけでございますが、ただ、看護婦さんも含めまして、医療関係職種の養成につきましては、国が直接すべてをやっているわけではございません。ただ、看護婦の養成につきましては、医師会を含む民間による看護婦養成ということに対しましては、厚生省におきましては、これまで施設整備費、あるいは設備あるいは運営費等の助成を行ってきたわけでございまして、こういったような助成につきましては、今後充実を図っていきたいと考えております。
○佐藤(静)委員 私は、そこに一つ大きな問題があるように思いますね。准看の養成は確かに医師会がやっているわけでありますけれども、今さらそのカリキュラムの内容がどうだ、施設がどうだということを調べなくてはならぬぐらいに厚生省は准看の養成というものをわかっていない。そして、それはなぜかというと、医師会に任せてしまっている。そして医師会はどういうことを言っているかというと、国がやるべきものを自分たちが引き受けてやっていたじゃないかという意見を持っている。ですから、それに甘えて厚生省は准看の養成というものを任せてしまっていた。私はそこに大きな問題があるように思うのですよ。
 要するに、戦後できた看護婦不足を補う手段として准看制度ができ上がってきた、それを何の改善もしないで、厚生省はその教育内容すらも余りよく知らないでずっと今までやってきた。そしてついに、准看制度を持っているのは日本と中国しか残っていない。ほかの国々は全部どんどん看護婦は一本化してきた。そこが私は大変問題だと思うのですね。
 ですから、昨年の報告書においても二つの意見があるわけでありますけれども、報告書を見ても、准看を廃止するのか、それとも継続するのか、両論併記になってどうもよくわからない。わからないからもう一回何か厚生省は調査してみる、検討してみる、どうも、それじゃいつまでたってもこれは改善されないんじゃないですか。いつまでたっても、准看の皆さんが四十四年間願っていることが解決できないんじゃないですか。ちょっとそれについてもう一回認識を言ってみてください。
○谷(修)政府委員 先ほど申しましたように、確かにこの検討会の中でも二つの意見があって、どちらかという一方の意見にはならなかったわけでございます。そういう意味では、関係者の中での意見の一致が見られなかったということでございます。そういうことを踏まえて私どもとしては、先ほど申しました実態的な調査を行うと同時に、それの結果を踏まえて改めてこの問題について検討してまいりたいというふうに考えております。
○佐藤(静)委員 本当にこれは真剣に、前向きに、准看を廃止して看護婦は一本にするんだ、そういう方向に向けて検討を始めてほしい、そう私は思っているのです。
 今、医師以外の医療スタッフというのはほとんど国家資格になりましたね。柔道整復師だとか鍼灸、あんま、マッサージ師、指圧師だとか、みんな国家資格になってきました。しかし、准看だけは依然として知事の認定のような状態になってしまっている。これが非常にやる気をそいでいる面があるのですね。今審議している精神保健法においても、精神科のソーシャルワーカー、これも国家資格にしてほしいという陳情を私たちも受けたりなんかしていますけれども、これも皆さん、実態を見てみると、本当に地位が安定しない。地位が安定しないから結局給料なんかも安定しない、そういう面があるわけですよ。
 ですから、今度の精神科のソーシャルワーカーにつきましても、いろいろな関係団体の調整がうまくいかなかったためにこうなってしまっているわけですから、これをぜひとも、いい人材を確保するためにしてほしいと思っているのですけれども、これはお願いしておきますけれども、同じように准看の国家資格に向けて、一本化に向けてぜひともひとつお願いしたいと思っています。
 先ほどから局長、需給問題というお話が出ていますけれども、需給問題、なぜいつまでもこういう問題があるかというと、養成しても養成しても、需給問題は深刻な問題として残っているわけですよ。看護婦さんは、大体結婚したらもう病院に出てこないのですね。せっかくの資格を取ったとしても、大体平均六年か七年しか勤めない。後はみんな家にいる。特に准看の皆さんはなぜ出てこないかというと、なかなか看護婦との差が、差というか差別がある。もう結婚したら二度と病院には戻りたくない、差別を受けることはしたくない、そういうことがあって出てこない実態があるのです。
 ですから私は、きょうはもう時間がありませんから、これから今後どうするかという問題に対しましては、時期を見てまだ議論をしたいと思っていますけれども、きょうは看護婦さんの実態というものをもう一回再認識して、そしてこれからこの看護婦制度というのをどうしたらよいのか、どうやって一本化していったらいいのか、そのことをこれから真剣になってひとつ考えていただきたい。特に、これは医師側に立ってではなくして患者側に立ってしなければならない。
 そして、この間も看護婦さんが制服を着て国会内を歩き回っていましたけれども、四十四年間運動しても運動しても、ちっとも前に向いてくれない、二百余万名の署名を集めたけれども、それは全然相手にされなかった、それは幾ら何でもひど過ぎると私は思っています。せっかく昨年の十二月の報告書において厚生省がこれから検討し始めるというならば、ぜひとも准看の廃止に向けて、看護婦の一本化に向けて、それを前提にしていろいろな検討を始めていただきたい。そのことを要望いたしまして、終わらせていただきます。
○岩垂委員長 山本孝史君。
○山本(孝)委員 新進党山本孝史でございます。議題になっております精神保健法について質問をさせていただきたいと思います。たくさんございますので、ひとつよろしくお願いをします。
 まず最初の問題ですけれども、今回精神保健法の改正が議題になっているわけですが、これまでの法の改正を見てみますと、例えば宇都宮病院ですとかそういう大きな問題が起きると法律の改正にそれが反映されてくるという流れがあります。前回改正をされたわけですけれども、その後再び九四年、去年の春、越川記念病院というところで同じような患者さんの問題がやはり出ているわけですね。結局、精神保健指定医を置かずに患者を強制入院をさせたりあるいは定期病状報告を偽装する、看護婦さんの水増し工作をする、診療報酬の不正な請求をする、電話の盗聴をするというようなことで、新聞に随分大きく取り上げられているわけです。
 まず最初に大臣にお伺いをしたいのですけれども、法律が改正されながらも同じような問題が繰り返し起こってくる、これは一体どういうことなんだ、どういう問題があるのかということで、大臣の御認識をお伺いをしたいと思います。
○井出国務大臣 お答えを申し上げます前に、きょう十時から参議院の本会議がありまして遅参をしてまいりましたこと、おわびを申し上げます。佐藤さん、済みませんでした。
 御指摘のような、越川記念病院のような不祥事でございますが、入院患者の人権の尊重や適切な処遇という観点から見て、精神医療に対する国民の信頼を著しく損ねることにもなりかねない、というよりはもうなっていると言ってもいい重大な問題だと考えております。このような事態を生じた背景には、全国の精神病院の中のごく一部とはいえ、常勤の指定医が置かれていないなど、患者の人権を尊重して適切な医療を行うといった点について、病院管理者としての基本的な自覚に欠ける面があったと言わざるを得ません。
 患者の人権の確保については、昭和六十二年の法改正によりまして、精神医療審査会や精神保健指定医の制度を設けるとともに、精神病院における入院患者の処遇の基準等を定めたところでありますが、今回の改正ではさらに医療保護入院等を行う精神病院については精神保健指定医の必置化を図る等の改正を盛り込むなど、より適正な医療と人権の確保の徹底を図ることとしているところでございまして、今後とも、こうした事件が繰り返されることのないよう、都道府県やあるいは関係団体を厳正に指導していかなければならぬ、こう考えております。
○山本(孝)委員 重ねてお伺いをさせていただきますけれども、そういう意味で今回も法律改正をしているのだというお話でございます。この法律改正で十分なのかという点と、今後指導していくとおっしゃっているわけですけれども、今回の越川記念病院のお話でも、結局、県は六回も立入検査に入っている。しかも、患者さんといいますか、職員の側の退職問題とかがいろいろあって、そこでいわば内部通報が県の方になされている。そういう意味で、県はかなり早い段階から物事を知っていたというふうに私は新聞記事を見ながら思うのですね。どうも医療に対する行政側の及び腰が、越川記念病院の話を見ていても感じられる。
 また、今回、この新聞が出ました後に、私の病院の方もそうなんだということで、随分たくさん新聞社の方にも同じような通報があったそうです。ということで、氷山の一角である、そういうふうに思うのですけれども、これで十分だとお考えなのか、あるいは県に対しての厚生省の指導はどういうふうにお考えなのか、その辺はどうですか。
○松村政府委員 精神医療につきましては人権の問題が非常に重要な問題でございまして、私ども、繰り返し注意を喚起しておるところでございます。また、法制的にもいろいろな手当てといいましょうか、人権侵害にわたることのないようないろいろなシステムを組み込むように努力をしておるところでございまして、今回の法律改正におきましても、いい医療を提供するためのいろいろなシステム、こういったものをお願いすることにしておるところでございます。
○山本(孝)委員 改善が十分ですかとお伺いをさせていただいているのは、多分厚生省の方もまだまだやるべきことはあるというふうな御認識じゃないかと思うのですね。
 というのは、前回の法律改正のときに附則がつきまして、施行後五年を目途に抜本的な改正を精神保健法については行うのだということになっています。今回の改正案が出てきて、関係者の皆さんあるいは関係団体の皆さんにお聞きすると、急に改正案が出てきたのでというふうにおっしゃっている方が多いのですね。内容についても実は余りよく知らないのでむしろ教えてくださいと言われて、私も随分質問を受けたりしました。
 そういう意味で、前回の改正で五年を目途に抜本的な改正をする、あるいは附帯決議もたくさんな項目がついておりまして、積み残しの検討事項がかなり多いのだと理解をしています。それが今回の改正案で全部解消されるかというと、やはりそうではないと思うのですね。その点についてはこの後質問で確認をさせていただく点が多々ありますけれども、そういう意味で、この改正ではまだ足りないと認識されておられて、五年を目途に、すなわち平成十一年から新しい精神保健法あるいはまた別の法体系でもって精神衛生あるいは精神障害者の問題についての法律を出していく、改正をしていくことをお考えなのかどうか。この附則の精神は生きているのかというところを確認をさせていただきたいと思います。
○井出国務大臣 平成五年の法改正の際の附則は引き続き効力を有するものと考えております。精神保健福祉制度のあり方につきましては、この規定を踏まえて、改正法の施行の状況や精神保健を取り巻く環境の変化等を勘案しながら、公衆衛生審議会や関係団体等の御意見も伺いながら、今後とも引き続き検討してまいりたいと考えております。
○山本(孝)委員 引き続き検討していただいて、ぜひよりよい法律に変えていっていただきたいと思います。
 今回いろいろとこれまでの法律の審議の内容も読ませていただいて、実はこういう本を送っていただきました。ごらんになっているかどうか知りませんが、「東京精神病院事情」という東京都地域精神医療業務研究会というところがつくっている本ですけれども、各精神病院についてどういう内容になっていて、そしてどういう医療が行われていて、死亡退院率がどうだ、あるいはどのぐらい長期に入院している人がいてというような割合が、全部の病院について実は書かれています。東京都が病院から出てくる調査報告書でもってつくったのですが、東京都の公開条例に基づいて患者団体の皆さんが請求したら、東京都はそれの提出を拒否した。したがって、行政訴訟を起こして実は東京都から手に入れた調査資料なのですね。同じものが厚生省の方も恐らくお手元に、そういう調査はとろうとすれば東京都から、あるのだと思います。
 これを読ませていただくと、随分と精神病院が老健施設やあるいは老人病院に転換をしてきているという実態があるとか、それから死なないと退院できない病院だとか施設化した病院、それからたばこは一銘柄しか許されないとか全閉鎖でありながら任意入院率九〇・五%というような病院もあるとかというようなことで、各病院についていろいろなことが書いてあります。個々の病院がどうだこうだという話ではなくて、今の精神病院の実態というものが非常によくわかる本だなというふうに思いました。
 おもしろいなと思ったのは、ある自治体の精神保健のガイドブックによると、「豊かな自然の中で、患者さんと職員が一体となって心身ともに健康を一日も早く取り戻すよう励んでおります」というふうな、非常に明るいイメージで評価されている病院にもかかわらず、今申し上げたように、全閉鎖で任意入院率九〇・五%というような、どうなっているのだというような感じの病院もあるという話が実はこれでよくわかりますので、お暇な折にはぜひ皆さんもお読みをいただけるといい本だと思います。
 そんなことも思いながら法律を読んでいますと、やはりこの今あります精神保健法の根底に精神病院管理法の域を出ないような、そういう色彩の非常に強いものだというふうに思いますね。精神障害者をやはり保護する、あるいは拘禁をするという形の思想がもともと一番昔の明治の時代につくられた法律のところにあって、その流れをくんでいる部分が多分にある。
 今回、保健と福祉ということで章を別立てにされて、これまでの審議会の答申どおりに入院型から地域へという形にどんどん変えていこうという流れに沿っている。それから、医療から福祉という方向に流れを持っていこうという精神は見えるのですけれども、逆に医療と福祉が混然としているような法律、ちょっと変な法律になっているなという気も私は実はするのですね。
 今ストレス社会になってきて、中年のうつ病の方たちとか、あるいはアルコール中毒の人たちもふえてきている。先ほど御指摘申し上げたように、老人性痴呆の方たちが精神病院にたくさん入院をしていくという実態もある。社会の状況が随分変わってきていると思います。予防と教育ということもやはり必要だというふうに思うのですけれども、そういうことも含めて、この精神医療と、それから保健と福祉を通覧できるような、国民全体の精神保健を支える法律というものをきちっとひとつつくらないといけないのではないか。精神障害者のための医療、それからその福祉、そして精神衛生、こういうものが混然としているものではちょっと法律の性格がわかりにくくなってきているのではないかというふうに思うのですね。
 別途にきちっと精神障害者福祉法というものをつくれという御意見の方たちもあります。それから逆に、身体障害者福祉法あるいは精神薄弱者福祉法とあわせて障害者福祉法というものをこっちにきっちりつくるべきだ、障害者基本法ができましたのでそれを受けてそういうものをつくれという御意見もあるのです。
 もう少しやはり、次の抜本改正に向かって、この法律の性格、内容あるいは国全体の精神医療、保健福祉というものについて、法律の中でも体系づけていくべきではないかというふうに思うのですけれども、大臣、どんなふうにお考えでしょう。
○井出国務大臣 これまで精神保健法に基づいて精神医療、精神保健対策が推進されてきたわけでございますが、今回のこの改正によって、精神障害者の皆さんの自立と社会参加を促進するための福祉施策についても明確に位置づけ、精神医療、精神保健、精神障害者福祉を一体的に行うための法的枠組みを整えることとしたものでございます。
 この三分野はそれぞれいずれも重要なものでありまして、改正後の新しい精神保健福祉法のもとで連携を図りながら推進を図ってまいりたいと考えますし、今山本さんお述べになられましたような問題も、これからこの法律の施行状況を見たり、いろいろな社会の変化を見ながら、先ほど申し上げましたような五年後の見直しというあれのときにまた検討をさせていただきたいと思っております。
○山本(孝)委員 福祉と医療というものについてのもっと根本的な議論をしないといけない材料の一つだというふうに思いますので、時間は短いかもしれませんが、審議会なりいろいろな場で議論をしていただいて、国の精神保健それから精神衛生あるいは障害者に対する福祉というものの体系を、はっきりこういう方向に行くんだということを、この法律を審議する中で、改正を考える中で、ぜひ検討していただきたいというふうに思います。
 精神保健法そのものに対してのいろいろ検討項目、先ほど申し上げたように積み残しかありますので、その点について確認をさせていただきます。
 まず、今回の法律改正で、保健が公費負担から保険優先という形になって、財源がある意味ではできるというか、浮いてくるという形になるわけです。保険優先化によって国庫予算全体への影響額七十一億円の減額で、これを精神障害者関連施策の充実に四十億円充てようという形になっているわけです。
 そこで一つお聞きしていたのは、精神障害者保健福祉施設整備、いわゆるセミナーハウス、これの建設補助に十億円支出されますね。四十億のうちの十億がこのお金になっている。この十億はことし平成七年度限りの予算となっているわけですから、考えようによっては平成八年度以降はそれがなくなると三十億になってしまうのではないか。そうすると、従来から精神障害者医療福祉という部分に対する予算が極めて低いという批判を受けながら、またどんどん、今回は公費負担を保険優先にすることで国の実際的な公的責任が薄くなるのではないかという批判もされているわけです。
 せめてその予算の枠を確保する中でしっかりとした姿勢を見せていただきたいということで、八年度以降も少なくともことしの予算額を減額することなく、さらにきちっとした医療のシステムあるいは社会福祉、社会復帰施設を整備することも必要なわけですから、この予算の確保をきちっとやるということを確約していただきたいのです。あるいはもっととるということを言っていただきたいというふうに思いますが、大臣どんなふうに思われますか。
○松村政府委員 平成七年度の精神保健関係予算につきましては、社会復帰施設やグループホーム、さらに小規模作業所あるいは通院患者リハビリテーション事業の整備を積極的に進めるとともに、新たに都道府県及び市町村が地域の実情に即しました各種の事業を実施するための地域精神保健対策促進事業、精神障害者の緊急時における適切な医療と保護を確保するための精神科救急医療システム体制の整備、さらにまた精神障害者のための手帳交付事業等を行う、いろいろな角度から事業を計画いたしまして、精神障害者に対します保健福祉施策の充実強化を図ることとしておるところでございます。
 今御指摘のように、今後とも精神保健福祉関係の予算の確保につきましては、所要額が確保されるように引き続き一層の努力をしてまいりたいと思います。
○山本(孝)委員 申し上げたように、公費負担を保険優先にする、国民側からすれば税金で負担をするのか保険で負担をするのかということになろうかと思いますけれども、シーリングのある中でここの予算を削ってこういう形で財源を生み出して、それで精神障害者の福祉がまたまたおくれていくような形になっては困るわけで、きっちりとした予算の確保をお願いしたいというふうに思います。
 それから、これはもう前回の改正のときにも議論になりました社会復帰施設の整備についてですけれども、残念ながら、この改正後も余り進んでいない、あるいは全く進んでいないと言った方がいいかもしれないと思います。御承知の援護寮あるいは福祉ホームが平成六年十月一日現在で一つもないという県が全国で十県もある。前回の改正案審議のときにも何県はありませんというようなことが指摘されて、きょうもどこにありませんというお話をしてもいいのですけれども、ある県とない県と差がほとんどないぐらいにしか施設がないというのがこの現状ですね。
 障害者基本法の第七条で、都道府県、市町村は障害者基本計画を策定するよう努めなければならないということになりました。したがって、本当はやらなければいけないのだけれども、なかなかこれは進まない。地元の反対がある、あるいはやりたいという人がいないというようなこともあるのかもしれません。したがって、この法律の中で、こういう社会復帰施設は都道府県が設置すべきだという義務事項にぜひすべきだというふうに思うのですけれども、その点はいかがでしょうか。
○松村政府委員 精神保健法第二条におきましては、地方公共団体等が社会復帰施設を充実すべきことが規定をされておるところでございます。地方公共団体におきまして、その地域内の精神障害者の社会復帰の促進に努めることはこうした条項からも当然のことである、こういうふうに考えております。
 しかしながら、この社会復帰施設の整備につきましては、地方公共団体の自主性というようなものもありますし、また自律性等も尊重しなければならないというふうに、地域の実情に応じまして適切に推進する必要があると考えられます。
 また、他の障害者の福祉施設も基本的に施設設置の義務づけまでなされているものは少ないということで、現在のところ、地方公共団体に社会復帰施設の整備を義務づけるところまでは考えていないところでございますが、なお今後とも社会復帰施設の整備の推進をする、これは非常に重要なことでございます。そのように努力をいたしまして、必要な予算の確保等に努めてまいりたいと考えております。
○山本(孝)委員 施設が整備できれば入院患者のうちの十万人ぐらいの人たちが施設じゃなくて地域で生活できるのにという、これは厚生省みずからが前の審議でもお話しになっている数字ですね。
 今もこのコミュニティーケアというか、地域で障害者の皆さんと一緒に住んでいこうというノーマライゼーションの話がどんどん進んできている中で、やはり今精神病院がかなり偏在している、本当に人里離れたところにしかないという状況が多分にある。そんな中で、どうしても社会生活の中で実際にこの治療というのも行われていかない
と、精神障害者の社会復帰というのは極めて難しいわけですね。
 そういう意味でも、隔離された状況の中ではなくて、地域でこの人たちへの対応をしていくという意味では社会復帰施設の一層の充実が望まれるわけで、これはやはり義務づけをするというところぐらいまでいかないと、それぐらいの強い意思で臨まないと、この施設整備というのは進まないのではないか。
 ぜひその辺、今の努力しますという話でここ二、三年来て、ほとんど数字が上がっていかないので、今度予算もある意味では確保できる道ができてきたわけですから、その辺、もう少し強い姿勢で臨まないといけないと思うのですけれども、その辺はどうですか、もう一度お願いします。
○松村政府委員 御指摘のようにさらに一層強い決意で臨んでまいりたいと思います。
○山本(孝)委員 それで、建てたいという人がいれば補助金は出しましょうというふうな、実は補助金の枠の方が残るという状況もあろうかと思いますね。でも、建つと今度はまた建ったで赤字に苦しんでいる施設が多いというのもこれまた事実なんですね。やはり実際に職員数を確保しないときちんとしたお世話ができないからということで職員数が多くなると、この辺も施設が苦しくなってしまう。それで赤字に苦しむ施設が多いと思うのですけれども、どんなふうにその状況を把握されていて、どんなふうに対応していこうと考えておられるのか、その点はどうですか。
○松村政府委員 昭和六十二年の法改正のときに創設されました精神障害者社会復帰施設につきましては、スタートの当初には運営費に四分の一の設置者負担がございました。それで、この問題が指摘をされておったところでございますが、このため平成五年度には、これまでございました運営費の設置者の負担の解消を図ったところでございます。また、さらに平成六年度には、職員の業務省力化等勤務条件の改善に必要な経費を新たに運営費に加算をしたところでございます。
 このようなことを通じまして、私どもも社会復帰施設の経営の安定化に努力をしてまいりましたが、平成七年度予算におきましては、今申し上げました勤務条件の一層の改善に必要な経費の拡充を図ることにしております。また、さらに年休代替要員の確保に必要な経費の新設等の改善策を図ることによりまして、運営費の補助額の引き上げを図ってきておるところでございます。
 このように私どもも、御指摘のような点の解消に向けて今一生懸命努力をしておるところでございます。
○山本(孝)委員 ぜひ実態をよくつかんでいただいて、そして補助も手厚くしていただきたいし、この施設をつくるということについても、県の方もなかなか大変だと思うのですけれども、国の方も力をかしてあげて、できるだけこういう施設がふえていくようにしていただきたいと思うのです。
 それで、同列に論ずるわけにはいかないかもしれませんが、小規模作業所で今訓練を受けておられる方たちもたくさんおられるわけですね。今度阪神大震災で随分壊れて、その辺も大変だというふうにもお話をお伺いしていますけれども、今までは、どうなんでしょう、いわゆる団体補助という形でこの小規模作業所、一カ所百万円という単位だったと思いますけれども、かなり基準が高いところで、しかも団体補助でということで補助対象から外れる小規模作業所がたくさんあるように聞いています。そういう意味でももう少し、小規模作業所という、地域で頑張っておられる方たちに国の方も少ない金額ながら応援をしていますよという意味も込めて、もう少しこの辺の予算の確保あるいは予算のつけ方ということについて御検討いただけないかなというふうに思うのですけれども。
○松村政府委員 御指摘の小規模作業所と申しますものが非常に有効なものであるということは、私どもも承知をしております。この小規模作業所もたくさんあるということも、今御指摘のとおりでございます。
 この精神障害者小規模作業所に対します運営費の助成につきましては、御指摘のように、現在全国精神障害者家族会連合会への団体補助という形をとっております。また、現在の仕組みのあり方を地方自治体を通じた助成に変更してほしいというような御意向もあることは、承知しております。それで、このことにつきましては、身体障害者、精神薄弱者の小規模作業所との関係を含めまして、現在厚生省の障害者保健福祉推進本部で検討をしておる最中でございます。
 このため、今回の改正事項には含めていないところでございますが、今後、今申しました障害者保健福祉推進本部の検討結果等を見まして、必要な措置を講じてまいりたい、このように考えております。
○山本(孝)委員 続いて、冒頭で触れました越川記念病院のときにも問題になりました精神保健指定医制度についてのお伺いでございますけれども、これは機能していないのじゃないか、ざる同然だという声もいろいろな方面から聞こえてまいります。
 越川記念病院の事件の後で全国の病院を対象に調査をしていただいたら、二十六の病院にこの精神保健指定医がいないということがわかったという新聞記事あるいは御報告がありましたけれども、現在もいない病院があるのではないかと思いますけれども、現在の状況はどうなっているでしょうか。
○松村政府委員 現在私どもの手元にございますデータによりますと、常勤の指定医がいない病院というのはまだ全国で二十五病院あるという数字を持っております。
○山本(孝)委員 越川記念病院の後に一つ減りました。その減ったのが越川記念病院だったというお話ですよね。
 それで、常勤とは、週四日以上で一日八時間以上の人を常勤というという話になっているわけで、そうすると、週四日ですから、一週間七日ありますので、常勤が三日いないという病院もあるのではないかというふうにいろいろと思うわけです。
 平成六年の数字で見ますと、病院の数が千六百七十二、指定医の数が九千二十四という数字を見ました。今回の法案審議がありますので、私も地元の精神病院を御訪問していろいろお話を聞きました。先生のところは何人おられますかと言ったら、うちの病院は十人いますというふうにおっしゃいましたので、そうすると、ゼロという病院もあるけれども、たくさんおられる病院もあるということになれば、病院によって精神保健指定医がかなり偏在しているんだなというふうに思うわけですね。さっき御紹介したこの本の中にもいろいろとそのあたりが書いてあります。
 という意味で、一人しかいない病院というのも結構あるのじゃないか。一人もいないのが二十五ですね。じゃ、一人しかいないという病院もあるのじゃないかと思うのですけれども、これは全国の精神病院の中で何病院ぐらいが一人しかいないのでしょうか。
○松村政府委員 これは、今私どもの手元にあるデータによりますと、常勤の精神保健指定医が一人しかいないというところは三百十八病院というふうな数字を持っております。
○山本(孝)委員 結局、五分の一の病院には一人もしくは一人もいないという状態が今あるということが今の数字の御報告でわかるわけですけれども、いろいろな患者さんの人権問題が批判の的になって、その対応策として精神保健指定医というのが設定をされた。しかし、そこがなかなかうまく機能していないのじゃないかと思う。
 特に、今回任意の入院だけを扱う病院にはこの精神保健指定医は置く必要がないということになるわけですね。そうしますと、かなり任意入院率の高い病院もあって、そこがいわゆる悪名高い病院であったりするということもさっき御指摘を申し上げたとおりなので、そうすると、任意入院だけしか扱わないと言っている病院でも、実際には中で入院形態が変わることもあり得るわけでしょうから、この任意入院だけを扱う病院もこの精神保健指定医を必置、必ず置くようにすべきじゃないかというふうに思うのですけれども、その点はどうでしょうか。
○松村政府委員 今回の法改正におきまして、常勤の精神保健指定医の必置の義務化を行いますのは、措置入院それから医療保護入院等を行う精神病院を対象としておるところでございます。
 今御指摘のように、任意入院のみを行う病院につきましても精神保健指定医を置くことは、よりよい精神医療の確保という点から見れば望ましいことではあると思いますが、任意入院につきましては、指定医の診察等を要件としておりません。したがいまして、任意入院のみを行う精神病院について法律上の必置義務までを課すことはしなかったわけでございます。
○山本(孝)委員 一くくりに精神病院といってもいろいろなタイプの病院がある。処遇の格差の非常に甚だしい病院もある。そのことは厚生省自身がよく御存じなところで、そこでいろいろな人権侵害問題が起きる。それに対応して法を改正しているにもかかわらず、申し上げたように越川記念病院のような話が起きてくる。
 これはシステムとして整備をするんだというふうにおっしゃった、そのシステムの一つなわけですね。何か必ず行政が入っていける手だてがないと入りにくいんじゃないですか。だから、この指定医がどういう活動をしているかと、指定医という一つの枠でくぐっておかないと病院に入っていく手だてになりにくいんじゃないですか。
○松村政府委員 任意入院というのは、御自分でこの病院に入院をしたい、するということを前提に医療が行われるものでありまして、そのときに指定医の診察ということは必要ない、こういうふうに法制上はなっておるわけでございまして、そこまで義務づけるということについては法制上対応をしていない。しかしながら、いい精神医療を供給するためには、専門の医師が、より高い技術を持った医師がいることは望ましいことでございますが、法制の問題と望ましいということを今回は分けて考えているということでございます。
○山本(孝)委員 望ましいという対応の中で、またおぞましい同じような事件が起きないようにひたすら望むばかりというのもちょっと能がない話だなというふうに思うのですね。
 同じような人権擁護の観点から、精神医療審査会という会もあります。こちらの方も本当の人権擁護機関として機能していないんじゃないかという声が、あちらこちら雑誌、論文等にも出てくるわけですけれども、患者さんから退院請求あるいは処遇改善請求というものがこの審査会に対してなされるというシステムになっているわけですけれども、全国で実際に退院請求あるいは処遇改善請求がどのぐらいなされているのでしょうか。
○松村政府委員 精神医療審査会と申しますのは、その役目をちょっと申しますと、医療保護入院の入院展の審査あるいは措置入院者及び医療保護入院者の定期病状報告の審査、それから今御指摘の精神病院の入院者等からの退院請求または処遇改善請求の審査、こういうことを行うことになっております。
 それで、私の手元にございますのは、平成五年の一年間でございますが、退院請求を審査をした件数は六百九十八件となっております。それから処遇の請求が二十九件、こういうことになっております。その他医療保護入院者の定期病状報告というのは八万五千件余り、それから措置入院者の定期病状報告では一万三千九百件余り、こういうふうな活動を行っておるところでございます。
○山本(孝)委員 平成五年の一年間で全国で退院請求が六百九十八件ですけれども、県別の表をいただきましたら、随分ばらつきがあります。一番多いところで九十一件、一番少ないところで一件もない、ゼロ件という県があるわけですね。随分県別にばらつきがある。何でこんなにばらつきがあるのでしょうか。
○松村政府委員 御指摘のように、精神医療審査会に対します退院請求や処遇改善請求の件数につきましては、都道府県によってある程度の差があるということは事実でございます。しかしながら、そのことだけで精神医療審査会の機能そのものに格差が生じているとは考えていないところであります。
 この審査会は、精神障害者の人権に配慮をいたしました適正な医療を確保するという観点から設置されているものでございます。私どもも、今後ともこの審査会が所期の目的を十分に達成できるように指導してまいりたいと思っております。
○山本(孝)委員 この審査会の事務局は県庁職員ですね。したがって、患者さんから電話がかかってきて最初に電話を受けるのは、審査会の委員ではなくて県庁の職員が実は受ける。また同じ人からかかってきたといって電話を切られてしまう、ある程度そこで整理をされてしまうという実態もあるのですよという話を聞きました。そういう意味で、審査会の独立の事務局をきちっと設けるべきではないだろうか。
 法律の中では、この審査会、五人以上十五人の委員で構成をするという形になっています。五人ごとで一つのグループをつくって三グループで対応するということになっているのですわ。十五人なんです。これは各県とも一緒なんです。東京都も十五人なんです。東京都の場合でも、この大きな人口でたくさん精神病院が集まっている東京都も十五人、あるいは非常に少ないところも上限が十五人という形になっているのですね。
 したがって、十五人という枠を精神障害者の数に応じて撤廃をするというか、対応するためにはこの十五人という枠を撤廃することが必要じゃないかと思うし、独立した審査会の事務局を設けないと本当にこの審査会は機能しないのじゃないかというふうに思うのですけれども、その辺は御認識はいかがでしょうか。
○松村政府委員 審査会につきまして幾つかの御指摘でございますが、まず審査会の事務局の問題でございます。これは御指摘のように都道府県の精神保健担当課にございます。これは、御承知のように精神保健の事務が主として都道府県で行われている、こういうことがございまして、審査会の事務もこうした事務の関連の中で運営されるのが適切ではないか、こんなふうに考えて現在のシステムになったものでございます。
 したがいまして、今委員の御指摘のようなケースがあることは、仮にそういうことがあるとすれば大変残念なことでございまして、今後とも、引き続き適正な事務処理が行われますように都道府県を指導してまいりたいと思います。
 また、審査会の委員の数の御指摘でございましたが、確かに委員は十五名以内ということになっておりまして、都道府県それぞれ十五名以内ということで運営されておると思います。この数が少ないのではないかという御指摘でございますが、実は、これまで私ども、都道府県から今のような御指摘を強く受けたことがなかったものでございますので、それぞれの都道府県で工夫をして適正に運営しておられるだろう、こういうふうに考えておったのですが、今の御指摘もありますので、実情についてはよく調べてみたいと思います。
○山本(孝)委員 審査会に直接連絡ができない、あるいは退院請求ができない人たちというのもたくさんおられるわけで、その方たちのためにといいましょうか、その方たちと連絡をとりながら人権センターというようなところがいろいろ活動しているわけですね。
 前回の審議でもいろいろと議論なされていますけれども、例えば福岡なんかでは、弁護士会と精神病院協会が協力しながらいろいろ新たな患者の権利擁護制度というのでしょうか、そういうものを検討されているという話も聞くわけですけれども、もう少しこの審査会の内容について実効のあるものにできないものだろうか。
 平成六年の数字で、任意入院率六四・三%、大体の人たちが今任意入院という形で行くわけですね。実際のところでも、病棟の開放率を聞きましたら閉鎖病棟が五一・四%です。すなわち六割五分の人たちは任意入院、自分の意思で行くということになっているのですね。ところが、実際には半分は閉鎖病棟ですから、任意で入院したにもかかわらず閉鎖病棟に閉じ込められてしまうという人たちも結構数字上ではいるという話になるわけです。
 そういうことを考えると、人権を守るということからしても、今の病院の実態がやはりあるわけで、そうすると、もう少し権利の擁護ができるシステムというものを、各都道府県いろいろ試行錯誤されているようですけれども、していく必要があるのじゃないかと思うのですね。次の改正に向かってぜひこの辺、もう少し検討を加えていただける項目として検討していくという姿勢を示していただきたいと思うのです。
○松村政府委員 精神医療審査会には先ほど五名という委員がいらっしゃると申し上げましたが、この中には医療関係者のみならず法律の関係の方々にもお入りをいただいておりまして、人権の面からの配慮も十分にできるようにしておるところであります。
 また、閉鎖病棟の数が半分ぐらい、こういうことを御指摘いただきましたが、私どももそのように承知しております。ただ、閉鎖病棟の中にも公衆電話等を設置することになっておりますし、そういった面でいろいろそれぞれが工夫をしておるところでございますが、なお今委員の御指摘のような点につきましては十分検討を続けてまいりたいと思います。
【次回へつづく】