精神医療に関する条文・審議(その70)

前回(id:kokekokko:20051014)のつづき。初回は2004/10/28。
ひきつづき、平成7年法律第94号(精神保健法の一部を改正する法律)での議論をみてみます。

第132回衆議院 厚生委員会会議録第9号(平成7年4月26日)
【前回のつづき】
○山本(孝)委員 次の問題に行きたいと思います。
 診療報酬の点数が余りにも低いのじゃないかという点について御指摘をしたいと思うのですけれども、私の友人も国立大学の大学院を出て精神病院で心理の仕事をさせていただいて、それでその後国立療養所で心理判定士の仕事をさせていただいていました。ただ、御案内のように、国立系のところは定員法があるものですから職員の採用ができないということで、実は普通のアルバイトベースというのでしょうか、雑役のような形の枠をもらって、そこで仕事をさせていただいている。そういう意味で、極めて身分が保障されづらい人たちがおられるわけですね。
 臨床心理技術者あるいはPSWという部分の資格化の問題については、残念ながら今回法律には盛り込むことができませんでした。次回の改正にこれも持ち越しということで附帯決議でその点は触れさせていただいていますけれども、こういう資格を持っていながら、結局こうした方たちを中心にしてチーム医療を進めていこうというふうに各病院も思っておられるわけで、ぜひこの資格化の話はしていただきたいのです。
 診療報酬が、例えば通院精神医療の場合、患者さんと一対一でやります。病院で行うと三百二十点、三千二百円という点数になるわけですね。一対一で話を聞く、これは時間の制限がありませんので、いい医療をしようとすればじっくりとお話を聞く。お話を聞いた後でそれをカルテに書き起こしをしていくということになれば、一日にそう何人もできるわけではない。それぞれの患者さんがいろいろな問題を抱えておられるわけですから、話をゆっくり聞いていると聞いている方も実はかなり疲労こんぱいという状況になってくるという意味で、数でこなせる話じゃないわけですね。
 そうなってくると、やはり三百二十点というのは低いのじゃないか。特に、入院医療から通院医療に変えていこうというふうに考えているならば、この通院医療の保険点数というものをもう少し検討していくべきではないかというふうに思うのですけれども、その点はどうでしょうか。
○岡光政府委員 御指摘のような趣旨で、通院精神療法の点数につきましては、平成六年の四月、それから十月の改定で、実は一〇%を超える改定を行いました。そういう意味では、委員から御指摘がありました、その通院について重視をするというつもりで、点数については改定をしておるつもりでございます。
 それから、御指摘がありました、じっくりと一人の患者さんの指導をしてしっかりとした精神療法を行う必要があるわけでございまして、そういう意味では、時間に応じた評価という点が、その可能性がないかどうか、こういうことになるんだと思います。実態上は非常にその点は、どういうふうな測定ができるんだとか、どういう区分をすればいいんだとか、いろいろ御議論のあるところでございます。これは精神療法ばかりではなくて、小児の場合にもそんなふうな指摘もあるわけでございまして、そういう、時間をかけてじっくりと対応すべき分野というのはたくさんございますので、そういったことを全体的に議論をすべきではないか、こう私ども考えております。
 これについては、中医協でも大分前からも議論になっておりますので、先生御指摘の点も踏まえながら、中医協の議論を踏まえて適切に対応してまいりたいと思っております。
○山本(孝)委員 本当によい医療をしようとするとお金がかかるというか、手間もかかるということですね。人の配置もきっちりとやっていかなければいけない。臨床心理技術者あるいはPSWというのも資格化されれば、そこにまた点数をつけていただいて、そういう方たちがしっかりと活動できるような条件を整備していただけるんだとは思いますけれども、確かに、時間でというのはなかなかチェックしづらいという部分があるんだとは思います。しかし、だからといって、薬だったら何ぼでも評価できるからといって薬にいくわけにもいかないわけで、そういう意味で、乱脈経営というのは恐らく、レセプト内容をチェックする、あるいはちゃんとした立ち入りを時折すれば、その辺のチェックはできるんだと思うのですね。
 だから、いい病院にはちゃんとした点数を上げたいけれども、同じように悪い病院もそれで稼ぎに走っちゃ困るからというお考えがあってなかなかそこに踏み込めないんだと思いますけれども、こういうチェックという機能は別に考えることにして、本当に理想とされるというか、よい医療ができるような保険点数のつけ方というものをぜひ考えていただきたいと思うのです。
 本当に、いろいろ友人からも話を聞きますと、やっぱりこれは聞く方もかなりつらいお仕事で、それをきっちりと書き起こしながらというところがありますので、今回も、今の診療報酬のつけ方も、六カ月以内は何回までだとかということで、回数制限されていますよね。この辺の回数制限というのはやっぱり必要なんでしょうか。あるいは、この回数というものをもう少し現場の裁量に任せて、本当にいい医療をしようとしている人たちがやりやすい状況というものにこの辺の配慮というのはできないものなんでしょうか。その辺はどういう検討がなされているんでしょうか。
○岡光政府委員 精神医療につきまして、より充実をすることが必要でございますので、今御指摘いただいたような観点から十分議論をしていきたいと思っております。まさに来年の四月、その診療報酬改定もあるわけでございますので、その辺も十分関係の審議会等において御議論をいただきたいと思っております。
○山本(孝)委員 それから、これも前回からの積み残しになっています、いわゆる保護者制度ですね。いろいろ考えていくと、やはり明治の時代につくられた民法の扶養義務制度にずっと根底を持っていて、しかもこの日本の社会の中で、今福祉の流れはどうしても家族が面倒見るべきだという、老人もそうです、それから障害者もそうですけれども、家族がきちっとした面倒を見るべきだという話になる。そうすると、この精神障害者の場合も、いろいろ事件を起こすということがあったりして、どうしても家族が、そばにいる人がよくわかるんだから、その家族が、そういうことの行為のないように面倒見ろという法の建前になっているわけですね。
 しかし、実際に考えていけば、もう子供が成人しているにもかかわらずその家族が面倒見るということが前提になっていて、そうすると、家族の方も実は高齢化が進んでいく、家族自身もやはり低所得化の中に入ってくる。そうすると、所得も少ない、高齢になっているにもかかわらず、裁判所の命令によっていつまでも面倒見ていかなければいけない。しかも、何か問題が起きると家族の責任だというふうに問われるというものはどうなんですかということ。
 これはもう前から審議があって、実は積み残しになっている議題の一つなわけですけれども、この辺、どういうふうにその後検討されているのか、どういうふうなお考えでいらっしゃるのか、そこをお聞かせをいただきたいと思います。
○松村政府委員 保護者制度についての御質問でございますが、何と申しましても保護者という方は精神障害者の身近にいらっしゃる方でございまして、精神障害者の権利、利益を擁護し、適切な医療あるいは保護の機会を確保するということでは非常に重要な方であることは間違いないことだと思います。
 一方で、保護者制度につきましては、御指摘のようないろいろな社会的な変化もございます。核家族の進展でございますとか、親の高齢化というようなことを背景にいたしまして、保護者の負担の軽減という意見も出されているところでございます。このため、公的後見人を含めまして、保護者制度のあり方につきましては、現在、厚生科学研究の精神保健医療研究において研究を継続中でございます。
 しかしながら、この後見というような問題につきましては、民法の後見人制度との関係があるなど、いろいろな難しい論点を含んでいるところでございまして、私どもといたしましては、今後、関係者の御意見も十分に聞きながら、引き続き慎重に研究、検討を進めていきたいというところでございます。
○山本(孝)委員 十年ごとに精神障害者の実態調査がなされてきています。九三年が実施予定だったわけですけれども、いろいろ、一部の反対があって今まだ調査ができない状況にあります。今回も、精神保健法が改正をされていくわけですね。最近に、申し上げたように、この精神障害者あるいは全部の障害者を取り巻く医療あるいは保健、そして福祉という問題からの取り組みがあって、日本の福祉全体についてもかなり抜本的な見直しをしていかなければいけない流れがあると思います。そういう意味でも、患者団体の、家族の声も聞くことも大切ですけれども、患者本人の声も聞く、障害者みずからの声も聞くということも含めて実態調査をしていかなければいけないんじゃないかと思うわけです。
 もちろん、プライバシーの保護という点については十分な配慮も必要ですし、家族の皆さんあるいは関係団体の協力も必要だと思いますけれども、この新しい法律をつくっていくということも含めて実態調査を計画をなさってはいかがかと思うのですけれども、この点はどうでしょうか。
○松村政府委員 精神障害者の実態調査につきましては、もちろんこういった私どもいろいろな施策を実施するための基礎資料でございますので、このニーズの把握ということは非常に重要なことだと考えております。しかしながら、これまで十年ごとに実態調査ということを企画したこともあったわけでございますが、いろいろな御意見、特にプライバシーの問題というようなことからなかなか進まないという状況が現在あることは、皆さん御承知のとおりでございます。
 しかしながら、私ども、そのニーズの把握ということはいろいろな機会をとらまえてできるというふうにも思われますので、この実態把握についてはさらに努めてまいりたいと思いますが、実態調査ということにつきましては、諸般の状況を十分検討して対応したいと考えております。
○山本(孝)委員 いろいろお伺いしたいことがあるのですけれども、時間になりましたので終わらせていただきますけれども、前回の法改正で、附帯決議にいろいろ書き込みがされていて、見直しの附則もつきましたということで、今回、五年先が見直したと思っていたら急に出てきたという声がちまたに多いのは事実なんですね。そういう意味でも、積み残しをされている問題は、今回の法律改正では残念ながら解消はしていない。大臣もうなずいておられるとおり、そういうことなので、きっちりと、そういった今触れていきましたような諸問題について、ぜひ次の改正と目されている平成十一年からの施行に向かって全力でお取り組みをいただきたいというふうに思います。
 障害者福祉法というものを考えていくというのも一つの流れかなというふうに私も思いますし、福祉施設の整備について、保健医制度、医療審査会委員の問題、臨床心理技術者、PSWの国家資格化の問題、そして病院の診療報酬でもう少しよい医療ができるような環境整備等をする、きっちりとした精神障害者のための予算の確保というものもこれでおざなりにしないでいただきたい、そういうふうに思います。
 欠格条項があるために資格が取れないというのも、運転免許証を初めとして、たくさんまだ残っている。厚生省の中でも理容、美容という部分の方はまだ欠格条項でありますので、精神障害者の人たちは免許が取れません。そんな点も含めてまだまだ検討しなければいけない問題、公的後見人も含めて保護者制度を検討するとおっしゃっていただいているので、この点もやはり積み残しの議題でございますので、最後にもう一度大臣に、時間を余りかけているわけにはいかないのですけれども、この前の法改正でうたわれている五年を目途としての改正に向かってきっちりと検討をして、よりよい精神障害者のための法律をつくっていく、あるいは障害者全体のための法律をつくっていくという御決意をお聞かせいただいて、質問を終わりたいと思います。
○井出国務大臣 今、山本委員それぞれ列挙されましたような、平成五年の法改正のときの附帯決議に盛られたこともまだ十分今回収り入れられたとは考えておりません。そういった問題も含めまして、先ほども申し上げました、平成十一年になりましょうか、その抜本的改正を目指してまた努力してまいりたいと思います。
○山本(孝)委員 ありがとうございました。
○岩垂委員長 鴨下一郎君。
○鴨下委員 大臣、お疲れさまでございます。
 きょうは、精神保健法それから結核予防法の一部を改正する法律案についての関連の質問をさせていただきたいのですが、まず初めに大臣に、今ちまたでは阪神大震災地下鉄サリン事件、それからオウムの一連の事件など社会的な不安、それから不況、円高、雇用不安などの経済的な不安、それからさらに高齢化社会に伴う介護や医療への不安といったぐあいに、今やさまざまな不安の時代だろうというふうに言えると思います。
 このような時代背景の中で情報化が進み、テレビやさまざまなメディアから、例えば犯罪や、それから特異なというか、特殊な事象が繰り返し繰り返し何のフィルターもなく家庭の中に流れ込んでくるというような状況があります。特殊な事件や事故が、あたかも日本に普遍的なごどのように解釈されたり、まれな出来事が繰り返し報道されることによって情報が増幅されてしまう、こういうような結果になっています。
 このように、情報化によって不安が再生産されるような社会的状況を私は強く危惧をしているわけですが、現実に地下鉄サリン事件後に電車に乗るのが不安になってしまったとか、少しの異臭にも過剰に反応して過換気症候群のような状態になってしまったとか、それから、私が診ていた患者さんの中に、グリコ・森永事件以来チョコレートが食べられなくなってしまった、こういうような方もいらっしゃるくらいです。これは、不安を助長するような情報過多と、受け手側の過剰な心配ということが相まって心の健康を損なってしまう、こういうようなことになっているのだろうと思います。
 また、子供のことで言いますと、成長過程にある無防備な、どちらかというと被暗示性の高いようなやわらかな子供の心の中に、例えばある妄想的な宗教観や終末思想的な時代認識が入っていくということそのことも非常に悪影響があるのではないかと心配しているわけですけれども、こういったような疾病の原因や、その後の自我の形成なんかに悪影響を及ぼすような情報社会というようなことに関しまして、国民の心の健康を所管する大臣がどのようにお考えになり、厚生省として国民に安心を与えるためにどのような対応をしようとしているかということについてお伺いしたいと思います。
○井出国務大臣 過般の阪神・淡路大震災で大変な方々が被害を受けられて、この皆さんの心理面に与えられた影響等、今後いろいろな面で心配な面がございますし、そういった心のケアをしていかなければならぬ、こう思っているやさきに、また今回のサリンで、この影響も大変思いやられるわけであります。
 過剰な報道という問題、私は、報道が不足するよりは過剰の方がいいとは思うのですが、ただ、その報道のされ方が大変考えていただかなくてはならぬことのあることも事実だと思います。今、鴨下さん指摘されたようなテレビの一こまを私もたまたま見て、こんなことを何度も同じところを繰り返して、しかもとめてというようなのには少しおかしいじゃないかという感じは当然持っております。
 いずれにいたしましても、大変なもろもろの社会的な不安、そこへもってきて経済的な不安も大変深刻になってきました。これがまた、下手をすると政治不信につながるというようなことも当然考えられるわけですから、よほど政治がしっかりしていかなければならぬ、こんなふうに思っております。国民の皆様が安心して生活できるような体制を一日も早くつくり直すといいましょうか、取り戻すというか、そういうことをしなければならぬなと感じておるところでございます。
【略】
○土肥委員 精神衛生法から精神保健法、そして精神保健及び精神障害者福祉法というのが出てまいりまして、私はやはり、待望久しいこの精神障害者への福祉事業が本格的に始まったという意味で大変喜んでおります。しかし、なお精神を病む患者さんのことを思うときに、単に喜んでおられない、次のステップを考えなければならない、そういうふうに思います。
 どうも日本の精神保健、外国のことをよく知らないのでありますけれども、絶えず福祉というのは社会復帰事業、こういうふうに読んでくるわけです。例えば身障者であれば、あるいは精神薄弱者であればそれぞれ福祉法を持っておりまして、福祉施設をきっちり持っておるわけですが、精神障害者の場合はいつも、精神障害者といいながらその裏にある福祉的施策は社会復帰事業ということになります。つまり、精神病というのは常に、その病を背負った障害者、そして医療抜きでは考えられない、福祉単独では包み切れないというふうにおっしゃるんだろうと、また考えているんだろうというように思うのであります。
 しかし、私は若干精神病の患者さんと接しておりまして、いつも自分のセルフコントロールというか自分の病をコントロールしながら一生懸命生きていらっしゃる。そうした中でどうもやはり落ちつかない、いつも何か社会復帰だあるいは自立だというふうな声が絶えず寄せられておりまして、患者さんも頑張っているんですけれども、頑張るということ自体が一種の圧迫を、あるいはストレスを与えるわけでございます。
 今後も複雑な社会状況の中でいろんな精神を病む患者さんがふえてくる、これはもう明らかでございまして、そういう意味では本格的な精神障害者の福祉というものを考えないと、単なる医療の範疇でやりますとやはり十分のものを、そして安定したものを提供することができないというふうに思います。
 また、精神保健費などを見ておりますと財政規模が非常に小そうございまして、この範疇で福祉を十分展開しようと思えばやはり予算上もいろいろ問題があるというふうに考えておりまして、今後この法改正を契機にいたしまして、この保健福祉医療、保健福祉と、こうくっついておりますけれども、医療との間にはポツが入って、保健と福祉の間にはまだポツも入ってない、保健福祉、こういう並びで並びますので、やはり私は医療、保健、福祉と、もう少し幅を持って見るような政策をとっていかなければならないんじゃないかというふうに思っております。
 そういう意味も込めまして、今回の法改正について若干の確認をしておきたいと思うのであります。
 精神保健費のお金の出ぐあい、使い方をずっと昭和三十八年度から平成七年度までの五年刻みの資料を私はいただいておるわけでありますけれども、御承知のように、昭和五十年度というのは物すごい勢いで患者さんがふえた時代であります。これは措置入院の関係でございまして、そして病院は大混雑ということでございます。医療費も大変な額を刻んだわけであります。
 しかし、その中身が、だんだん反省とともに、一体膨大な入院患者さんをどうするのか、措置入院をどうするのかというようなことが問題になったようでありまして、そのころから社会復帰施設というようなものが考えられてきた。けれども、極めて少ない額でございます。そして、それから十年後、昭和六十年度に入りまして、昭和五十九年に例の宇都宮病院事件なども起きまして、精神病院の実態調査なども行われたようでございまして、昭和六十二年の精神保健法へと変わってまいりまして、そこから一挙に社会復帰関係の予算もふえていくということになります。
 一つお聞きしておきたいのですが、昭和五十年度をピークにいたしまして措置入院の患者さんが激減していくわけです。それに伴って国庫負担も減っていくわけでありますけれども、ここでやはりどうしても聞いておかなきゃならないのは、措置入院に対する医療上の政策的な大変更があったというふうに思うのでありますが、それをかいつまんでお述べいただきたいと思います。
○松村政府委員 措置入院患者の数でございますが、昭和四十六年には七万六千七百名でございましたが、年々減少してまいりまして、平成六年には六千四百人、こういう数字になってございます。
 この理由といたしまして私どもが考えておりますのは、近年の精神科医療の進歩であるとか地域精神保健体制の整備に伴いまして、精神障害者の早期受診あるいは症状の再発防止が促進されたということがあると思います。こうしたことを通じまして、自傷他害というような措置の症状を呈するに至らない精神障害者の方々が増加してきた、こういうことも減少の要因となっているのではないかと考えております。
 また一方で、措置入院と申しますものは御本人や御家族の意思にかかわりなく行われる入院の形態でございまして、人権擁護の考え方が普及をしてきたというようなこともございまして、措置入院の決定であるとか措置の解除が適正に行われるようになってきたもの、こういったことが原因で措置入院患者が減少を見ておる、このように考えております。
○土肥委員 それは結構なんですけれども、そうすると急速に措置患者さんが減っていく。ではどこに行ったらいいんだろうという話になるわけでございまして、そのときにたちどころに、本当を言えばまさに第一の受け皿は社会復帰施設でありますし、あるいはさまざまなデイケアサービスだというふうに思うのでありますが、そこが追いついていないということでございます。
 これは厚生省の資料を見ましても、社会復帰施設は絶対量が不足しているということを正直におっしゃっておるわけでありまして、そういう医療政策の大きな変更に見合った形で社会復帰施設が用意されなかったということを考えますと、やはり今後このおくれを取り戻すというか、もっと積極的にお金も使っていかなければならない、積極的な社会復帰事業を展開していかなければならないというふうに思うのであります。
 そういういわば出おくれた社会福祉、精神病患者さんに対する出おくれた社会福祉政策の中で、ことし平成七年度から保険優先化という、保険から治療費を払ってもらおうということの合意を得たわけでございまして、資料によりますと、国レベルで精神で七十一億円、結核で七十六億円が浮いたということになるわけです。そして、その七十一億円のうち四十億円を今度の平成七年度の社会復帰対策事業費及び施設整備事業費に上乗せいたしまして、合計二百五十四億円の予算が組めた、四十億円増、一一八・七%の増だというわけでございます。
 私は、精神保健費でお金が浮いたというのはいいことだと思うのですね。私の希望を言えば、そっくり七十一億円、社会復帰費に回してほしい、それくらいしないと追いつかない。四十億円というようなお金は、施設が今土地代も含めれば二十億ぐらいかかる、特養一つ建てれば二十億ぐらいかかるわけでありまして、二戸分というような程度の額でございますけれども、私は社会復帰関係でいえば画期的な額だというふうに思うのであります。それを上乗せなさるのは大変結構でございます。
 しかし、ことしは保険優先化のお土産として大蔵も七十一億円みんな使っていいよ、こう言ってくれたのでしょうが、来年度からはどうなるのでしょうか。一体、四十億円ごとし積み上げることができた、そのペースで八年度、九年度、十年度といくのでしょうか。その辺のもくろみを局長、御答弁いただきたいと思います。
○松村政府委員 平成七年度の精神保健福祉関係予算につきましては、社会復帰施設あるいはグループホーム小規模作業所、通院患者リハビリテーション事業の整備を積極的に進めますとともに、新たに都道府県及び市町村が地域の実情に即した各種の事業を実施するための地域精神保健対策促進事業、さらにはまた精神科の救急医療システム体制の整備、また精神障害者のための手帳の交付事業等を行うことによりまして、精神障害者に対します保健福祉施策の充実強化を図ることとしたところでございます。この結果、今先生の御指摘のように、平成七年度予算におきます関係予算は前年度に比べて四十億円という、私どもとすれば相当大幅な増を確保したところでございます。
 さて、来年度以降のことについてその見通しということでございますが、現在この時点で申し上げられることは、法律も改正されるならば、そういったものを基礎にして、私ども、これまで以上に一生懸命予算の確保に努力をしてまいりたいと思います。しかし、予算の確保のことにつきましては、毎年のいろいろ事情等もございますので、現在は私ども、御指摘のような点も十分に考えまして一生懸命努力する、こういうことを申し上げたいと思います。
○土肥委員 局長としてはそういうことだろうと思いますが、一一八・七%というのはゴチックで印刷してあるのですね。やはり一一五%ぐらいは我々も頑張らなきゃいけないと思いますが、それくらいの気持ちで頑張っていただきたいと思うのであります。
 社会福祉施設関係費を上げようとすると、結局、見通しといいましょうか、目標値というのがないから、何かそのときそのときの状況で施設整備なり事業費を出していくということになるんじゃないかなと思うのです。もちろん、精神障害者の皆さんは百八万人、今厚生省の数字で出ております。これはもう相当な患者さんの数でございまして、目標がないと言ったらうそでありまして、百八万の患者さんがいるんだというのが大目標でございます。その人たちにいろいろな施設や事業の援助をしたい、サービスを提供したいと思っても、やはり整備目標というものがないといけないんじゃないでしょうか。
 例えば、社会福祉施設などはどんどん民間も手を挙げるのですけれども、精神障害関係はなかなか施設整備も難しい。援護寮などを持ってくるとすれば地域のいろいろな反対もあったりして難しいわけでありますけれども、やはり厚生省としても、国としても、患者さんの団体なり地域の皆さんが手を挙げたい、そういう意欲を持ってもらうような、あるいは手を挙げた人にはお金をつけますよというのじゃなくて、もっと積極的な働きかけもしなきゃならない。
 そういう中で、積極性を出すためには、百八万の患者さんがおり、そしてそれにはどういう社会復帰関係の施設が必要かというような目標値を出さないと、あるいはどの程度のボリュームのものが必要かということを出さないと、これはやはり大蔵に対しても説得力ある説明はできないわけでございまして、その辺で、そろそろ手挙げ方式から、目標値を決めて整備目標をお進めになったらどうかというふうに思うのでありますが、その点どうですか。
○松村政府委員 昭和六十二年の精神保健法の成立以来、精神障害者の方々の社会復帰の促進を精神保健対策の最重点課題の一つとして位置づけまして、今申し上げました昭和六十二年の制度創設以来平成六年度までに全国で二百四十五カ所の整備を行ったところでございます。
 しかしながら、今先生御指摘の、具体的な数値目標を入れた計画を立てるべきだ、こういう御指摘でございますが、社会復帰施設の必要数につきまして現時点で具体的な数字を示すことはなかなか難しいというふうに考えられまして、こうした点も含めまして、昨年九月に厚生省内に設置をいたしました障害者保健福祉施策推進本部におきまして、障害者施策のあり方について幅広い観点から検討を行っておるところでございます。
 そういう検討の途中にあるということをひとつ御理解いただきたいわけでありますが、いずれにいたしましても、私どもも、社会復帰施設が現在必ずしも十分に整備されているとは言えない、そういう状態にあるという認識では同じでございまして、今後ともその積極的整備に一層努めてまいりたいと考えております。
○土肥委員 その社会復帰施設が大幅に伸びない、あるいは伸ばせない理由のもう一つに、つまり福祉という部門についてのやはり共通理解を持っておかなきゃならないのじゃないかというふうに思うのであります。
 冒頭申しましたように、すべて、保健と福祉あるいは医療と保健と福祉が一緒になっているのがこの精神障害者の施策の特徴でございまして、これは学問上、医学上の問題かもしれませんけれども、精神障害者の医療と福祉というものは本当に全く一体でなきゃならないのか。
 もちろん精神科の先生のケアも受けながら独立した福祉の分野で生活していっていいわけでありまして、患者さんにとってはそんな不便はない。例えば、精神薄弱者が精神薄弱者福祉法に基づく福祉施設に入ったからといって従前かかっておりました精神科の先生との縁が切れるわけでもないわけでありまして、そういう意味で、この保健と福祉、あるいは医療と福祉が分かちがたく、これはもう百八万人全部そうなんだというふうな概念でいきますとやはり医療の範疇でやるわけでありまして、医療費というような範疇でこれをやっていくということは、これはおのずから限界があると私は思うのであります。
 したがって、精神障害者にはいつも医療の目を離すことはできないけれども、しかしそれはいろいろな程度の人がいらっしゃるわけで、まさに精神病院を出て社会にいらっしゃる方は二十四時間医者のケアを受けているわけじゃございません。そういう意味で、理論的に医療と福祉を分離する、そして医療は精神病院あるいは精神病外来で受けていただいて、あとは生活の面については福祉で囲むということは理論上できないことでしょうか。その辺の見解をお聞きしたいと思います。
○松村政府委員 精神障害者の方々は、精神疾患を現に有する患者さんであるとともに、また精神障害を持っておられる障害者という面もあるわけでございまして、医療と福祉というものは非常に密接に関連をしておる、こんなふうに考えております。
 ただ、医療と福祉ということは、文字どおり医療は医療という面もありますし、福祉はまだその福祉特有な面があるということで、それが全く密接不可分であるとは考えませんが、密接であることはそのとおりではないかと思っております。
 そういうことで、現在の精神保健法、昭和六十二年に改正された精神保健法におきましても、既に社会復帰施設など福祉的な施策を実質的に含んでおるわけでございます。これを別法に切り離すよりも、医療と福祉の二本の柱から成る保健福祉法をつくりまして総合的に施策を推進していこう、こういう考えのもとに今回この法案を提出したところであります。
○土肥委員 これはまた少し議論をしなきゃいけない問題だと思います。
 それじゃ、もう一つ提案したいのですが、この社会復帰という言い方、これはもう変えたらどうかと思うのですね。あなた今おるところは正常な位置じゃないのよ、正常な居場所は社会ですよ、早く社会へ行きなさい、自立しなさい、こういう言い方で、社会復帰施策というのは一種の中間施設、通過点みたいな非常に落ちつかない部分、そういうサービスじゃないか。
 もちろんいろいろと工夫していらっしゃいまして、生活援助などもしていらっしゃるわけですから、地域生活援助事業などもあるわけでありますから、それはそれで法律上もちゃんとうたわれているという意味では歓迎するのですが、そういう気がいたしまして、やはり社会復帰というのはどうもいただけない。あんな恐ろしい社会に、ひっくり返せば会社ですね、あの会社に、あの厚生省に帰らなければいけないのですかと言われれば、これはちょっと無理だというふうに思うのですね。そういう言い方からすれば、何かやはり社会復帰施設あるいは関連施策というのはいただけない。名前を変えてみる気はありませんか。
○松村政府委員 現在私ども実施しております精神障害者の社会復帰対策につきましては、精神障害者の方々の中で、何らかの支援策を講ずれば地域社会で自立して生活を営める、そういう能力が見出せる方々に対してさまざまな支援を行って、いわゆる福祉の目的でございます自立と社会参加、こういうことができるようなそういう状況をつくり出していきたい、こういうふうに考えているところでございます。
 したがって、今ちょっと委員の御指摘のような、社会復帰が困難な方々、あるいは大変ヘジテートされておられるような方々に、ちょっと言葉はいかがかと思いますが社会復帰を強制するというようなものではなく、進んで自立をされて社会に参加をされていく、こういうことではないかと考えております。
 それで、福祉の考え方というか、意味を変えるつもりはないかという御質問でございますが、これは非常に大きな問題でございまして、私がその答弁を申し上げるにふさわしいかどうかわかりませんが、私どもとすれば、この福祉ということが特に精神障害者の場合は緒についたばかりでございますから、こういった方向で努力をしてまいりたいと考えています。
【次回へつづく】