精神医療に関する条文・審議(その71)

前回(id:kokekokko:20051015)のつづき。初回は2004/10/28。
ひきつづき、平成7年法律第94号(精神保健法の一部を改正する法律)での議論をみてみます。

第132回衆議院 厚生委員会会議録第9号(平成7年4月26日)
【前回のつづき】
○土肥委員 やっぱり課題が大きいですね。もう少し名前も中身もゆったりとしたものじゃない限り、精神病の患者さんが回復しょうがないわけでありまして、ぜひともそういう配慮をお願いしたい、今後も考えていきたい、このように思います。
 最後に、時間をちょっと短縮しますので、精神病院のあり方についてお尋ねしようと思うのです。
 依然として、精神病院で入院していらっしやる患者さんの処遇が本当に患者本位になっていないということを私は目の当たりにしているわけでございまして、いろいろな、精神保健法、今回は法の名前が変わりますけれども、ありとあらゆる、監督やあるいは調査やあるいは管理だとかいう言葉が出てくるわけでありますが、どうも先へ進まない、そして都道府県もなかなか踏み込んだ指導ができていない、厚生省もできていないんじゃないか、こういうふうに思うわけですが、最後に、どうしたら精神病院のあり方が本当に患者本位に変わっていくんだろうかということで、ちょっと当局の御意見を聞いておきたいと思います。
○松村政府委員 入院患者さんの人権の確保につきましては、昭和六十二年の法改正によりまして精神医療審査会あるいは精神保健指定医の制度を設けるとともに、精神病院におきます入院患者の処遇の基準等を定めまして、また退院等の請求、あるいは定期病状報告の審査の制度などを設けたところでございます。
 また、今回の改正ではさらに、医療保護入院等を行います精神病院につきましては、精神保健指定医の必置化を図る、必ず置いていただく、こういうことを改正に盛り込むなど、適正な医療と人権の擁護、確保の徹底を図ることとしているところでございます。
 こうした制度が設けられまして以来、精神病院の状況と申しますものは少なからず改善した部分もあると考えておるわけでございますが、御指摘のように、まことに残念ながら、現在においてもなおごく一部には、入院患者の処遇について、精神医療に対する国民の信頼を損ねることにもなりかねない問題が生じておることもまた事実でございます。このようなケースにつきましては、患者の人権を尊重して適切な医療を行うといった点について、病院管理者としての基本的な自覚に欠ける面がある場合もございます。
 今後とも、入院患者の人権の確保を図るために、精神病院の管理者の方々、あるいは精神医療の従事者の方々にもその趣旨の徹底が図られまして、新しい制度の一層の適正な運用が図られますよう、直接この制度の運用を行います都道府県あるいは精神病院、精神保健指定医等に対しまして、厳正な指導を行ってまいりたいと考えております。
○土肥委員 終わります。ありがとうございました。
○岩垂委員長 枝野幸男君。
○枝野委員 さきがけの枝野でございます。通告をいたしました順番と違いますが、通告をいたしました後の方の話から、重要な問題だと思いますので。
 今回の精神保健法の改正に関連をいたしまして、精神障害者の皆さんの人権という観点から、若干の質問をさせていただきたいと思います。
 まず、そもそも確認的な質問といたしまして、現状、この改正法のもとで患者さんの御本人の同意なく入院をさせる制度について、特にその人権保障とのかかわりを中心にして概略を簡単に御説明いただけますか。
○松村政府委員 精神保健法に基づきます入院形態につきましては、患者本人の同意に基づきます任意入院が原則でございますが、本人の同意を得ずして行います入院形態といたしましては、次のような入院形態がございます。
 まず措置入院についてでございますが、これは都道府県知事の権限で行われます強制的な入院でございます。これは、都道府県知事が指定をいたします二名以上の精神保健指定医の診察の結果、医療及び保護のために入院をさせなければその精神障害のために自身を傷つけまたは他人に害を及ぼすおそれがあると認められる場合に行われるものでございます。
 次に、医療保護入院という制度がございますが、これは医療及び保護のため入院が必要である精神障害者に対して行われる入院でございまして、精神保健指定医の診断及び保護者の同意を要件とするものであります。
 第三に、応急入院についてでございますが、これは、急速を要しまして、急いで対処しなければならない、急速を要し、保護者の同意を得ることができない場合におきまして、七十二時間以内に限って行われる入院でございます。精神保健指定医の診察の結果、直ちに入院させなければ医療及び保護を図る上で著しく支障があると認められる精神障害者に対して行われるものでございます。
○枝野委員 私は人権とのかかわりでということでお尋ねをしましたので、できれば、本人の意に反して、そして本人が不服を言いたいときにどういうことになるのかというようなことをお話をしていただきたかったのですが、時間もありませんので、先へ進んで、その段階で改めてお尋ねしますが、いずれにしても、今の、特に措置入院、それから医療保護入院をさせる場合というのには、指定医の方の判断というのが非常に大きなポイントになってくる。
 今回の改正法の中で、指定医の研修について、十九条で「やむを得ない理由が存すると厚生大臣が認めたとき」を除き、研修を受けなければ指定医の指定を取り消されるということになっております。この「やむを得ない理由」というのが余り幅広くては困るわけですが、どういったことを想定しているのかをお答えください。
○松村政府委員 今回の法改正におきまして、五年ごとの研修を受けなかった場合に、やむを得ない理由がある場合を除き、その指定は効力を失うということといたしまして、研修の受講を促進しょう、こういう考えでございます。
 この研修は年六回程度開催されておりますが、やむを得ない場合というものは、例えば病気で療養中であるとかあるいは長期の海外出張などで研修を受けられないということが本当にやむを得ないと考えられる場合にこれを認める、こういう考えでございます。
○枝野委員 今のような場合であればまさに妥当だと思いますが、ここのところを緩やかにしてしまったらこの条文をつくった意味がありませんので、そのあたりのところの判断というものは厳格にやっていただきたいとお願いを申し上げます。
 それでは、この指定医の研修でございますが、初めに指定を受ける段階と五年ごとにやっていくということになりますが、最初に指定を受ける段階の研修と五年ごとの研修というのは内容は違うのでしょうか、一緒なんでしょうか。
○松村政府委員 五年ごとの研修でございまして、その時点その時点での重要な情報を研修していただくということでございまして、新しくなられる方も、またこれまで指定医であった方も同じ研修を受けていただくことになっております。
○枝野委員 それでは、その研修の内容についてお聞かせいただきたいのですが、どういった目的意識で研修を行っているのでありましょうか。特に、患者さんの身柄を拘束するという側面がある認定をされるわけでございますから、人権意識あるいは憲法の知識等についての研修をきちんとしていただかないと困ると思います。そのあたりのところをどの程度全体のカリキュラムの中でなさっているのかということをお教えください。
○松村政府委員 研修のカリキュラムのお尋ねでございますが、現在行っております研修の内容は、精神保健法及び精神保健行政の概論、医療と法、人権と法などにつきまして七時間、それから、最近の精神医学の動向及び地域精神保健につきまして三時間、さらに事例研究が四時間、こういうことで、合計十四時間でございます。
 また、特に人権に関する講義でございますが、これは人権問題にお詳しい法学関係の方や弁護士さん等を講師に迎えまして、法律家としてのお立場から精神医療を論じていただき、精神障害者の人権に対する理解を深められるようにしておるところでございます。
○枝野委員 もちろんお医者様でございますし、お医者様としての専門的な知識として間違いのない診断をしていただくということは大変重要でございますが、それと同時に、特に医療保護入院につきましてはお医者さんの判断というのが、保護者の同意というものが入りますが事実上非常に重要な意味を持つ。しかも、それは本人の意に反して身柄を拘束するということがございますが、そこで間違いがあってはとんでもないことになってしまう。
 その人権意識、これは私も弁護士でございますが、法律を勉強している人間であっても人権意識というのは、相当時間をかけてさまざまな深いところから勉強して初めて身についてくるものであるというふうに思っております。そういった意味では、そこまでのことを要求することはできませんが、こういった点というのを重視をしていただく、さらに充実をさせていっていただくということをぜひお願いを申し上げます。
 さてそこで、医療保護入院あるいは措置入院に関しまして、本人あるいはその家族等が、その措置はおかしいのじゃないか、例えば医療保護入院をさせること、それから措置入院をさせるという処分、これに対して患者本人が異議を申し立てる、あるいは家族が異議を申し立てるという手続はどういった手続になりますでしょうか。
○松村政府委員 都道府県には精神保健法に基づきまして、独立の第三者機関といたしまして精神医療審査会が設置をされております。精神保健法第三十八条の四に基づきまして、精神病院に入院中の方あるいはその保護者の方は、都道府県知事に対しまして退院等の命令を求めることができます。この場合には精神医療審査会による審査を受けることになろうかと思います。
○枝野委員 そこで、例えばこういった場合に患者さん御本人がそういった法的な手続をとるというのは、なかなか現実問題としては困難であろうと思います。そして、現実問題として、かつての問題はともかくとして、今後そもそも患者さんの人権がこういった措置等で侵害をされること自体あってはいけないと思いますし、ないために努力をしていただいているという認識をいたしておりますが、制度というものは万が一の場合というものを予期してつくっておかなければならない、予定をしておかなければならないというふうに思っております。
 そうした観点から、御本人はなかなか事実上、何か不服があっても異議はやりにくいだろう。そうした中で家族、保護者が申し立てをする、これもいろいろな家族がございますから、必ずしも家族が本人の意を、本人の状況を見てこれはおかしいのじゃないかとなかなか不服を言いにくい、あるいは言っていただけないような状況というのは決してないとは言えないだろう。
 そうした中で、例えば第三者が後見的な立場から、見地から、いや、あそこでやっているあの措置入院はおかしいのじゃないか、あるいはあそこでやっている医療保護入院の中でのあの処遇はおかしいのじゃないかというようなことを言える窓口といいますか、言える手段というのをつくっておく必要があるのではないだろうか。
 もちろんさまざまな検討が要ると思います。だれにやらせるかという問題があると思います。例えば、私は弁護士という立場から言わせていただければ、各地の単位弁護士会人権擁護委員会というものがございます。そういったところにそういった責任、何かあったときにはあなたが責任を持って患者さんに成りかわってそうした申し立てをしなさいというような責任を負わせてもいいのじゃないかなと思っておるのですが、それは厚生省限りではできることではありませんし、時間をかけて検討していただくことだと思うのです。
 患者さんあるいは事実上その家族等だけが当事者になるという制度をさらに充実をさせるということで、万が一ということがあってはいけませんが、万が一というときでもちゃんと制度としては人権保障がされるのですよという仕組みをさらに充実させるというようなことはいかがでございましょうか。
○松村政府委員 現在のところ、退院の請求ができるのは御本人それから保護者あるいはまた御本人の委託を受けた代理の方ができることになっておりまして、全くの第三者が退院等の請求はできない、こういうことになっております。
 それから、措置入院につきましては、これは都道府県知事が行います行政処分でございまして、その取り消し等につきましては裁判所に訴えを提起することができますが、これも患者本人あるいは保護者など利害関係人に限って行えるものでございまして、これらの方から当該の請求が委任された代理の方であればこれを行うことができることになっておりますが、全くの第三者が訴えを出すということについてはなかなか難しいのではないかな、このように考えております。
 いずれにいたしましても、精神医療審査会というものは独立した第三者機関でございまして、定期病状報告でありますとか、あるいは患者御本人の人権に配慮した適正な医療が行われるような仕組みはできておる、このように考えておりまして、私どもといたしましては、まずこの仕組みを適正に運用してまいりたい、いろいろな機会を通じて各都道府県も指導いたしまして、せっかくつくっておりますこの第三者機関が有効に機能するように指導をしてまいりたい、こう考えております。
○枝野委員 すぐにできる話だとは思っていませんし、議論のテーマを出させていただいているという意識でございますので、その程度の御回答でやむを得ないのかなと思っております。
 繰り返しになるかもしれませんが、あくまでも仕組みというものは、何かがあったときに、もちろん行政の立場というのはおかしなことがあってはいけない、おかしなことがないように中立、公平、公正な仕組みを行政の内部としてつくっていただいてそれを運用していただくわけですが、人権とかという問題については、これはもう憲法あるいは仕組みそのものが、行政も間違えるかもしれないから最後の最後は司法の場にのっけて公開の法廷で決めましょう、これで人権を守りましょうというのが基本的なスタンスでございます。
 そうしたところにのりやすい仕組みをつくればつくるほど、逆に言えば厚生省あるいは都道府県の行う措置に対する信頼というものが高まってくるという絵になってくるというふうに思っておりますので、そういった視点というものをぜひこれからの政策に少しずつでも組み込んでいっていただければと思います。
 それではもう一点だけお伺いさせていただきます。
 今度の法律で、正式には精神障害者保健福祉手帳という制度ができるということになりますが、これは、法律上のメリットというのはまた別問題として、これからこの手帳を持っている人にはこういった行政上の、あるいは事実上のサービスをしてくださいよ、例えば交通機関の割引とかそういったことをこれからお願いをしていって充実させていくのだろうと思います。
 そして、同様の手帳制度というのは、ハンディキャップを持った方に対する手帳制度、それによって例えば交通機関の割引等のサービスを受けられる手帳というのは、ほかにもさまざまあるというふうに理解をしております。
 さてそこで、これもすぐにできる話だろうとは思いませんが、ハンディキャップを持っている方がこうしたサービスを受けられるという手帳制度をせっかくつくるのであれば、できるだけ共通化をするという方向、外から見る限りは、一見する限りは共通している。ですから、例えば精神障害者の方の手帳なのか、あるいは目の不自由な方の手帳なのか、耳の不自由な方の手帳なのか、さまざまなことはあり得るわけですけれども、とにかく一つの、一見遠くから見ればこの方はハンディキャップを持っていらっしゃるから、そこで何らかのサービスが受けられますよというのは外目でぱっとわかる。ただその具体的な内容については中身をちゃんと見てもらうというような形で、統一ができる範囲はしていただければ、これは例えば教育の場などでも、そういったハンディキャップを持っていらっしゃる方にはこれこれこういうふうな配慮をしましょうよとかそういったこともできると思いますし、あるいは例えば交通機関等でサービスを受けるとか割引を受けるとかなんとかというときに、交通機関の窓口の皆さんがわかりやすい、覚えやすい。
 いろいろな手帳が何種類もあるし、これから福祉を充実させていけばどんどんこの手のものがふえていくだろう。そうした中でそのいろいろな種類、この手帳ではどういうサービスを受けられる、この手帳ではどういう割引をするだなんて、個別に一々駅の窓口のおじさんに覚えてくれとか、そんなものを一々検証してくれだなんというのはこれは酷じゃないかな。
 こういう手帳をせっかくつくるのであれば、できるだけ外から見たところでも様式を統一をする、なおかつ、それによって受けられる直接ではない例えば交通機関等の割引等の仕組みというのも統一をしていくというような視点というのはありませんでしょうか。
○松村政府委員 精神障害者の手帳を今回交付するわけですが、法律上の仕組みといたしましては、この手帳をお持ちになることによりまして、通院医療費の公費負担の事務手続の一部省略とか、あるいは所得税、住民税の障害者控除等もこの手帳に基づいて行われる、こういうことでございます。
 それから今御指摘の、例えば公共交通機関における運賃の割引というような問題でございますが、こういった問題、先発しております身体障害者手帳あるいは療育手帳にはそういったものもあるようでございますが、現在のところ、精神障害者手帳をお持ちになれば自動的にこういったものが同じように受けられる、そういう状況には残念ながらないわけでございます。
 これらの事業は各事業主体にそれぞれ自主的に御協力いただいておるわけでございまして、今後我々といたしましても、精神障害者の手帳の交付を受けられた方々が各事業主体に同様な配慮を行ってもらえるように関係各方面に協力を依頼してまいりたい、このように考えております。
○枝野委員 様式を全部そろえるのがいいことかどうか自体にはいろいろ逆の方向での問題もあるだろうと思っておりますので断定的には言えませんけれども、そういった厚生省内部での組織を超えた、横並びというものをきちんとどこかで検討していただくというような視点はぜひ考えていただければと思います。
 時間が若干残っておりますが、時間が押しておりますので、私の質問は以上にさせていただきます。ありがとうございました。
○岩垂委員長 岩佐恵美君。
○岩佐委員 今回の法改正によって、精神保健法では措置入院及び通院医療、結核予防法では命令入所と適正医療費、これが公費優先から保険優先になるわけですけれども、精神及び結核医療に対する国の責任が後退する、そういうことになるのではありませんか。その点について大臣のお考えを伺いたいと思います。
○松村政府委員 現在、精神及び結核の公費負担医療制度は公費優先という仕組みをとっております。これは、これらの制度が昭和二十年代から三十年代の医療保険制度がまだ脆弱な時期に制度化されたことによりまして、公費優先の仕組みをつくっておかなければ患者さんが確実に医療を受けることを期待することがなかなか困難だというような状態にあったからでございます。
 しかしながら、現在は国民皆保険という制度が定着をしております。また、他の疾病と同じように公的医療保険制度をまずこれらの疾病にも適用いたしまして、その上で、引き続きこれまでと同様に自己負担部分につきましては公費による負担を行うこととしておるわけでございます。
 したがいまして、今回の改正は、公費とそれから医療保険財源との調整方法を改めたものでございまして、精神医療でありますとか結核医療につきまして、御指摘のような公的責任のあり方について変更をしたものではないということをひとつ御理解をいただきたいと思います。
○岩佐委員 確かに、今度の改正では、精神、結核とも医療費の本人負担は削減をされるわけです。しかし、保険優先とすることによって国庫負担が百四十七億円減ります。そのうち、精神保健で社会復帰対策事業費等が十九億円、施設整備事業が二十一億円、計四十億円が増額になっているだけなわけです。国庫負担を削減する、このこと自身が国の責任の後退ではないか。その点についてはどうでしょうか。
○松村政府委員 国の責任というのはどういうふうに考えるかということでありますが、私どもといたしましては、まず必要な方に必要な医療を確保する、これが国の責任ではないか、このように考えておるわけでございます。
○岩佐委員 結核予防法第三十四条の「一般患者に対する医療」、これは入院を排除していないわけですが、精神保健法の第三十二条では入院を排除しています。今度の改正では「通院医療」と改定をすることになっています。なぜ精神と結核が異なっているのでしょうか。また「通院医療」とする必要があったのでしょうか。その点についてお答えをいただきたいと思います。
○松村政府委員 精神の場合に通院医療を公費負担しておるその理由は何かということだと思いますが、私どもは、精神の場合通院医療を公費負担している、いろいろ理由があるかと思いますが、主なものは、精神障害者の方々がなるべく早く社会復帰を遂げていただきたいということで通院医療を受けやすくする、こういうことで公費負担をしておるものと考えております。
○岩佐委員 しかし、結核の場合、入院したら大部分が公費負担の対象となるわけですが、精神障害者が入院した場合、公費負担医療となるのは措置入院だけですね。入院している方々のうち措置入院の方というのはわずか一・九%にしかすぎないわけですね。ちなみに、精神障害者のうち入院患者は三十三万人、患者の三割を占めるわけです。本人の同意がなく保護者等の同意で入院させる医療保護入院でさえ、こういう方が十万人を超えるわけですけれども、こういう方も公費負担医療となっていないわけです。病院給食の有料化によって患者、家族の負担がいよいよ重くなっているわけです。なぜ公費負担医療となっていないのか。その点が、先ほどの説明もわからないわけではないのですけれども、しかし現実にそれだけの患者さんがおられるわけだし、それだけ実態的に言っても、医療保護入院でさえそういう事態であるというのは解せないわけですね。
 実は、昭和四十年の精神保健法の改正で第三十二条の「一般患者に対する医療」が設けられることになったわけですけれども、当時精神衛生課におられた北村和夫さんが法改正の解説の中で「今回の改正では、通院医療のみに止まり、措置入院以外の入院に関する医療費までは及んでいない。当然近い将来の問題として、その具体化を検討すべきではなかろうか」、こう言っておられるわけであります。一体その点について検討されたのかどうか、伺いたいと思います。
○松村政府委員 四十年代の例を引かれました。それからその当時の考え方をお示しいただいたわけなのですが、当時は精神病院というか、精神病床の不足という形でたくさんの病床がふえた、そういう時代でございました。その当時から見れば、現在保険制度等の充実、それからまた精神障害に対する社会的な考え方の変化、こういうふうなことによりまして今回の保険優先の考えをとっておるところであります。
○岩佐委員 精神保健法第三十二条の「一般患者に対する医療」を通院医療に限定するのではなくて、結核予防法のように入院も含むものとして、医療保護入院や任意入院も対象にすべきだというのは、現在医療費が非常にかさんで患者さんの生活も脅かされている、そういう実態を踏まえて、本当に必要ではなかろうかというふうに私たちは思っています。今度の法改正に当たっても、そういう観点からの修正を提案しているわけでありますけれども、かつて検討すると言っていたものがその後きちっと検討されたのかどうか、検討もされないで今度の改正に至ったということであれば、その点は再度患者の実態というのをきちっと踏まえて対応していかなければいけないというふうに思いますけれども、その点いかがですか。
○松村政府委員 入院医療をしておられる方々をすべて公費負担の対象とすべきではないかというような御意見が前段にございましたので、これについてお答えを申し上げますが、精神保健法に基づきます措置入院制度といいますのは、御承知のとおり自傷他害のおそれのある方を強制的に入院させる制度でございます。この場合に、確実に医療を受けていただくことが何にも増して必要でございますので、こういった方々には公費負担医療を行って自己負担の軽減を図ろう、こういうふうに考えております。
 これに対しまして、医療保護入院の例も挙げられました。また任意入院の例も挙げられましたが、これらは措置入院とは異なりまして自傷他害のおそれはないということで、保護者あるいはまた御本人の同意を得て入院をしていただく制度でございますので、これは他の医療でも大体同じことでございますので、一般の医療と同様に取り扱うことが適当であり、特別な公費負担を行うことは考えていない、こういうことでございます。
 また、昭和四十年代に今後検討をすべきであるということについてまた重ねて御指摘がございましたが、私どもの考えといたしましては、当時から考えてみて、現在は何より精神障害者の方々の自立と社会参加という、社会復帰を図っていただきたい、こういうことがあるわけでございまして、こう言ってはなんですが、限られた予算をこういった方に使うことが今求められていることではないか、このように考えて、まあ四十年代から見れば方向が変わっておるのかもしれませんけれども、現在はそういう考えでこれを進めておるところでございます。
○岩佐委員 入院の必要があるけれども本人の同意が得られない精神障害者に対する入院、これが医療保護入院ですが、こういう人たちの中にも非常に生活が大変というような実態があるわけですね。今も言われたように、限られた財源の中でどうしていくかということが先に立つようなそういう感じがいたします。
 そうではなくて、本当に患者の立場に立って、きちっと対応をされていく必要があるというふうに思います。きちっと入院してケアをされればよくなって退院するという可能性も開けてくる場合だってあるわけですから、お金がなくて我慢をしてしまうとより悪くなってしまうということだってあるわけですから、そういう点で、私は、そのことはしっかりと今後も、お金の問題で言わないで、検討されていくべきだというふうに思いますが、この点のやりとりをしていると先に行かれませんので、ちょっと先に質問を進めたいと思います。
【略】
○岩佐委員 また精神保健法に戻りますが、障害者基本法を受けて福祉施策研究会は中間まとめをことし一月十二日に出しました。その中で、精神障害者の福祉の法制上の位置づけについて三つの案、つまり一つ目は、精神障害者福祉法を精神保健法とは別個のものとして位置づける、二つ目に、身体障害者福祉法や精神薄弱者福祉法をも統合する形での障害者総合福祉法を目指す、三つ目に、精神保健法精神保健福祉法に改め、「福祉」の章立てを置く、こういう案が示されているわけです。これらの案については、長所、短所を踏まえつつ十分な検討が必要であるというふうにされていました。
 ところが、吉田精神保健課長は、「精神保健法から精神保健福祉法へ」と題した論文で、精神障害者は、障害を有するとともに、疾患を有する者であることから、医療と福祉との関係は密接不可分である。別法に切り離すよりも、精神保健法に福祉的な施策をさらに強化して、保健福祉法をつくることが適切であると言い切っておられ、本改正案もその内容に沿ったものになっているわけです。
 研究会の報告が三案について十分検討すべきであるというふうにしていたのに対して、法案提出がことしの二月でありますから、十分検討したとは当然言えないわけであります。一体十分検討したと言えるのかどうか、その点確認をしたいと思います。
○松村政府委員 今回の法改正につきまして、障害者基本法及び地域保健法の成立を背景といたしまして、実は平成六年八月十日付で公衆衛生審議会から「当面の精神保健対策について」という意見具申もいただいたところでございます。
 この意見具申の内容に基づきまして、厚生省におきましては、昨年の秋ごろから、精神保健法の改正につきまして、精神医療関係団体あるいは障害者団体等の関係団体の御意見も伺いながら検討を行ってきたところでございます。
 特に、今回の法改正の重点事項でございます精神障害者の福祉対策の今後のあり方につきましては、厚生大臣の指定法人でございます社会復帰促進センターに設置いたしました精神障害者の福祉施策研究会においても並行して御検討をいただいていたところでございまして、私どもといたしますと、関係者の方々の御意見も、どこまでが十分かというとなかなかあれですが、できるだけ私どもは、可能な限り御意見を伺った、このように考えておるところでございます。
○岩佐委員 大臣にちょっと確認をさせていただきたいと思いますけれども、この福祉施策研究会の中間まとめで、「障害者の三区分を超えて障害者総合福祉法を作るという議論は、これまでとかく縦割行政の弊に陥りやすかった現状に対し、先進的な考え方を含むものである。」と評価をしています。障害者団体の中にも、障害者基本法を受けて障害者総合福祉法を制定してほしい、こういう強い要望があるわけであります。こういう制定についてどう考え、どう受けとめておられるのか、大臣のお考えを伺いたいと思います。
○井出国務大臣 身体障害者、精神薄弱者、精神障害者の全体にまたがる統合的な福祉法として障害者総合福祉法を立法したらどうだという御意見のあることは私も承知をしておりますが、障害者施策につきましては、障害種別を超えた基本的事項を定める障害者基本法が一昨年暮れに法律として既に設けられているところでございますし、また、身体障害者、精神薄弱者、精神障害者といった障害の種別や状況に応じて、それぞれきめ細かく対応をしていくことが必要であるという面もあることから、障害者基本法の基本理念のもとに、身体障害者福祉法、精神薄弱者福祉法、このたび御審議いただいております精神保健及び精神障害者福祉に関する法律などのおのおのの法律を、相互に連携を図りながら適切に運用していくことによって、障害者の皆様方の多様なニーズに的確に対応した施策の推進がより可能になるのではないかな、こんなふうに考えておるところでございます。
○岩佐委員 この中間まとめにありますように、総合的なという面も、この法律をして一本にまとめていくというようなそういう点も指摘をされているわけですから、しっかりとそこら辺も見ていただいて検討していただきたいということを申し上げておきたいと思います。
 精神障害者の手帳の問題です。この必要性については、阪神・淡路大震災の際に証明書を急速発行しなければならなかった、こういうことを見てもはっきりしていると思います。その内容をどうするかについては、顔写真だとか医療機関名、この記載をどうするかとかなど、多くの意見があるというふうに聞いています。福祉施策研究会中間まとめで試案が出されているわけですけれども、精神障害者やその家族の意見を十分今まで聞いてきているのかどうか、その点の確認をしたいと思います。
 そして、今後についても検討を続けていくということでありますけれども、十分精神障害者本人やあるいはその家族の意見を聞くために検討会などが設けられるのかどうか、設けられれば、そういう検討会に本人も加えるべきだと思います。
 また、全体の障害者を統合していく障害者手帳、これは先ほど議論がありましたけれども、そういう要望なども出ています。こういうようなことについてしっかりと御本人やあるいは家族の意見を踏まえて検討されていくというふうに思いますが、その点、再度確認をしたいと思います。
○松村政府委員 現在、身体障害者の方には身体障害者手帳が出されておりますし、精神薄弱者の方には療育手帳というものがあることは御承知のとおりでございます。こういったものと同じように今回私どもが制度を設けようといたしましたこの手帳につきましては、精神障害者の団体からも、同様な手帳を設けて福祉的措置が講じられるようにしてほしいという声がございましたので、これを制度化しようとするものでございます。
 今後の方向という御質問でございますが、今委員の御指摘のように、手帳の様式あるいは手帳の中にどんなことを記載するかというようなことにつきましては、いろいろな御意見があることは存じております。写真をどうしようかとか、いろいろな御意見があることも承知しております。したがいまして、手帳の様式やこの判定基準につきまして、別途検討会を設けて検討を行ってもらうこととしておりますが、ここに関係者を初めといたしまして障害者団体の代表者の参加を得る等により、その意見を十分に反映させていきたいと考えております。
○岩佐委員 阪神・淡路大震災の被害を受けた長田区の保健所に参りました。そこでは、精神科の医師及び精神科のソーシャルワーカーの方が、震災で心の傷を負った精神障害者やお年寄りあるいは被災者の治療や相談に乗って、てきぱきと活動しておられました。この精神科ソーシャルワーカーの方にいろいろお話を伺ったわけですけれども、日ごろ保健所として精神保健の相談事業等の体制をとっていたので、それが震災時にすぐ役に立った、そう言っておられました。
 しかし、阪神・淡路大震災で見ると、厚生省や自治体が心の傷の処置にきちんと対応したとは言いがたいと思います。これは、医療全体のおくれも私はあったと思いますし、その中の一環だとも思いますけれども、そういう意味で、こういう重要なことが震災対策に組み込まれていなかった、これが非常に大きな問題であったというふうに思います。
 ロサンゼルス地震では、心のケアの相談、診療のために三千五百億円使われ、そして六百人の心理学者が動員された、こう伝えられております。災害時の、震災時のメンタルヘルスケア、この確立が非常に求められているというふうに思いますが、その点どうお考えでしょうか。
○松村政府委員 阪神・淡路大震災の場合のように、災害体験は被災者の心の健康に大きな影響を及ぼす場合もあります。今回の震災に際しましては、精神科の救護所の設置や巡回相談の実施等、各方面の協力をいただいて実施したところでございますが、私どもは、今回、この被災者のメンタルヘルス対策が非常に重要であるということを改めて認識したわけでございます。
 そこで、今後、震災時に適切な精神保健医療対策が確保されますように、厚生省としても防災体制の見直しを行うとともに、必要な指導、支援を行ってまいりたいと考えております。
○岩佐委員 そして、心のケアが平常時でも一般化していない中で、災害時に一般化することは非常に困難と強く感じたと、平時の体制強化の必要性を精神保健の関係者の方々が訴えられています。
 阪神・淡路大震災では、PSWの方が活躍をしておられましたし、病院、診療所あるいは精神保健センターや保健所などでも重要な役割を果たされました。これは前もこの委員会で取り上げたのですが、PSWの配置と資格化を早期に促進すべきだというふうに思いますけれども、その点、いかがでしょうか。
○井出国務大臣 精神科ソーシャルワーカーの皆様方が今般の阪神・淡路大震災で大変な活躍をしていただいたことは私もお聞きしておりますし、大変感謝を申し上げているところでございます。
 その精神科ソーシャルワーカーの国家資格化につきましては、公衆衛生審議会におきましても資格制度をつくるべきであるということについては意見の一致を見ております。しかしながら、医師や看護婦の業務との関係、あるいは医師の指示、社会福祉士等との関係、資格の名称など、その資格のあり方については、依然、まださまざまな意見がございます。したがいまして、今後、関係団体の間でさらに意見の調整を図っていただき、結論を得るよう努力してまいりたいと考えております。
○岩佐委員 早く決断をしていただきたいと思います。
 次に、精神保健センターや保健所の相談事業の拡充が必要だと思います。
 提案理由説明でも、昨年地域保健法が成立し、地域保健対策の枠組みの見直しか行われており、地域精神保健の施策の一層の充実が求められているというふうに述べていますけれども、実際は、平成七年度の保健所業務費補助金というのは三千六百九十四万円もマイナスとなっています。これでは充実とは到底言えません。ここにも私は阪神・淡路大震災の教訓が生かされていないなというふうに思います。平時の、いわゆる平常時の体制強化こそが緊急に求められていると思います。
 今保健所の統廃合によって、保健所の数が減りますと、精神障害者が身近に相談やケアを受けられなくなってしまう。県に一カ所しかない精神保健センターや、あるいは啓蒙、教育を主体とした市町村の保健センターでは、そのかわりができるとは思えません。これらの問題を解決しないまま、統廃合だけが先に行ってしまうということになると大混乱になると思います。私は統廃合はやめるべきだというふうに改めて思います。この点について、どうでしょうか。
○谷(修)政府委員 まず、平成七年度の保健所業務費補助金について一部減額をいたしておりますが、これは保健所の業務として定着しているというような理由から一般財源化を行ったものでございまして、いずれもこの財源は地方交付税で措置されるということになっております。
 昨年成立をさせていただきました地域保健法ということに関連いたしましてお尋ねがございましたけれども、平成六年の地域保健に関する制度改正ということにつきましては、都道府県の保健所と、それから市町村の役割というものを見直しまして、住民に身近なサービスについては市町村を実施主体とするとしたわけでございます。
 そういうことを前提といたしました上で、都道府県の保健所については、保健医療に係る施策あるいは社会福祉に係る施策との有機的な連携を図るということのために、既に設けられております二次医療圏ですとか、あるいは老人保健福祉圏といったようなものを参考にいたしまして、保健所の所轄区域を見直す。あわせてその機能あるいは規模を拡大するということによって、都道府県の保健所として専門的、技術的あるいは広域的な機能を確保する、あるいは強化をしていくということをねらいといたしております。
 これの全面施行は再来年の四月ということでございまして、こうした市町村と都道府県の保健所がそれぞれにふさわしい役割を担おうとするということで、現在各県において、それぞれの県の保健所の機能強化計画というものを作成をしていただいているわけでございまして、そういう意味で、私どもとしては、昨年成立をさせていただきました地域保健法の考え方に沿って地域保健対策あるいはそれぞれの業務の強化を図っていきたいと考えております。
○岩佐委員 私は、実態からいって非常に危惧をするわけであります。その点は指摘をしておきたいと思います。
 最後になりますが、精神障害者の社会復帰施設は、種類だけ多くて、施設数が少なくて、厚生省自身が絶対量の不足と言わざるを得ない状況にあります。例えば、社会復帰対策の当面の目標は、全国千二百の病院に五十大規模の社会復帰施設をつくることですと、吉田精神保健課長が地方紙で語っておられて、そういうことに対して、今度はその関係者が一体これはどうなっているのだというような意見も出ているわけであります。
 ですから、こういう整備計画というのは、整備目標を持って、医療と福祉、雇用、所得保障等の施策を本当に総合的に見ながら、計画的に整備を進めていく必要があるというふうに思います。その点について、最後に大臣にお伺いをしたいと思います。
○井出国務大臣 先ほど土肥委員からも同様の御質問をちょうだいしたわけでございますが、昭和六十二年、精神保健法の成立を踏まえ、精神障害者の社会復帰の促進を精神保健対策の最重点課題の一つとして位置づけ、六十二年の制度創設以来平成六年度までに全国で二百四十五カ所の整備を行うなど、社会復帰施設の整備を推進してきたところでございます。しかし、まだ決して十分だとは考えておりません。
 精神障害者の社会復帰施設の必要数については、なかなか現時点で具体的な数値を示すということは難しいところでございますが、昨年九月に厚生省内に設置いたしました障害者保健福祉施策推進本部において、こうした点も含めて、障害者施策のあり方について幅広い観点から検討を行っておるところでございます。今後ともその積極的な整備に一層努めてまいるつもりでおります。
○岩佐委員 関係者の意見をしっかりと聞いて進めていただきたい。そのことを申し上げて終わりたいと思います。
○岩垂委員長 これにて両案に対する質疑は終局いたしました。
【次回へつづく】