精神医療に関する条文・審議(その72)

前回(id:kokekokko:20051016)のつづき。初回は2004/10/28。
ひきつづき、平成7年法律第94号(精神保健法の一部を改正する法律)での議論をみてみます。

第132回衆議院 厚生委員会会議録第9号(平成7年4月26日)
【前回のつづき】
○岩垂委員長 この際、精神保健法の一部を改正する法律案に対し、岩佐恵美君から、日本共産党の提案による修正案が提出されております。
 提出者より趣旨の説明を求めます。岩佐恵美君。
○岩佐委員 私は、日本共産党を代表して、ただいま議題になりました精神保健法の一部を改正する法律案の修正案の趣旨を御説明いたします。
 今改正で措置入院及び通院医療を「公費優先」から「保険優先」の仕組みに改めることによって国庫負担が七十億円減ることになり、そのうち社会復帰対策事業等で四十億円が増額になっているだけです。国庫負担を削減するのではなく、公費負担医療の範囲を拡大すべきです。
 結核予防法第三十四条の一般患者に対する医療は入院を排除していませんが、精神保健法第三十二条の一般患者に対する医療は、「収容しないで」と入院を排除し、今改正で「通院医療」と改定することになっています。結核の場合、入院したら大部分が公費負担の対象となりますが、精神障害者が入院した場合、公費負担医療となるのは措置入院だけであり、入院している者のうちわずか一・九%にしかすぎません。本人の同意がなく、保護者等の同意で入院させる医療保護入院でさえ公費負担医療となっていません。病院給食の有料化によって、患者・家族の負担がいよいよ重くなっています。
 本修正は、精神医療に要する費用の公費負担の範囲を拡大し、任意入院等措置入院以外の入院に要する費用についても、通院医療と同様の公費負担を行うこととしております。
 以上が修正提案の理由及び内容です。
 何とぞ御賛同くださるようお願いいたします。
○岩垂委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。
 この際、本修正案について、国会法第五十七条の三の規定により、内閣の意見を聴取いたします。井出厚生大臣
○井出国務大臣 ただいまの日本共産党の御提案による修正案については、政府としては、反対であります。
○岩垂委員長 これより両法律案及び修正案を一括して討論に入るのでありますが、その申し出がありませんので、直ちに採決に入ります。
 精神保健法の一部を改正する法律案及びこれに対する修正案について採決いたします。
 まず、岩佐恵美君提出の修正案について採決いたします。
 本修正案に賛成の諸君の起立を求めます。
    〔賛成者起立〕
○岩垂委員長 起立少数。よって、本修正案は否決いたしました。
 次に、原案について採決いたします。
 これに賛成の諸君の起立を求めます。
    〔賛成者起立〕
○岩垂委員長 起立総員。よって、本案は原案のとおり可決すべきものと決しました。
○岩垂委員長 この際、本案に対し、鈴木俊一君外四名から、自由民主党自由連合新進党日本社会党・護憲民主連合、新党さきがけ及び日本共産党の五派共同提案による附帯決議を付すべしとの動議が提出されております。
 提出者より趣旨の説明を求めます。山本孝史君。
○山本(孝)委員 私は、自由民主党自由連合新進党日本社会党・護憲民主連合、新党さきがけ及び日本共産党を代表いたしまして、本動議について御説明申し上げます。
 前回及び今回の法案改正審議において、いわゆる積み残された課題がたくさんございます。それらを附帯決議に盛り込ませていただきました。七つと多うございますけれども、案文を朗読して説明にかえさせていただきます。
 
精神保健法の一部を改正する法律案に対する附帯決議(案)
  政府は、精神障害者ノーマライゼーションを推進する見地から、次の事項につき適切な措置を講ずるべきである。
 一 精神障害者手帳制度の創設に当たっては、障害者のプライバシー保護に最大限の配慮を図ると同時に、手帳の有無にかかわらず、社会復帰施設の利用などができるようにすること。
   また、手帳制度に基づく福祉的措置の充実が図られるよう努めること。
 二 精神障害者の社会復帰と自立と社会参加を促進するため、社会復帰施設等の積極的な整備に努力すること。
   また、今回法定化が見送られた小規模作業所の制度的位置付けに向けて検討を進めるとともに、精神障害者の地域における生活の支援のための拠点の整備に努めること。
 三 精神保健におけるチーム医療を確立するため、精神科ソーシャルワーカー及び臨床心理技術者の国家資格制度の創設について検討を進め、速やかに結論を得ること。
 四 より良い精神医療の確保や精神障害者の社会復帰を促進するという観点から、精神保健を担う職員の確保に努めるとともに、社会保険診療報酬の改定に当たっては、必要に応じ、所要の措置を講じること。
   また、精神医療審査会が、患者権利擁護機関として機能できるよう、運営等について検討すること。
 五 精神障害者を抱える保護者に対する支援体制を充実するとともに、今後とも公的後見人を含めて保護者制度の在り方について検討すること。
 六 精神障害者の定義については、障害と疾患の区別を明確にしながら、その趣旨の徹底を図ること。
   また、精神障害者に関する各種資格制限及び利用制限について、精神疾患を有する者が全て適格性を欠くというものではないことから、その緩和や撤廃について引き続き検討すること。
 七 精神科救急医療の体制の整備を一層推進するとともに、阪神・淡路大震災における被災者・精神障害者が通常の生活に復帰できるよう万全の相談と診療の体制をとること。
 
以上であります。
 何とぞ委員各位の御賛同をお願いいたします。
○岩垂委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。
 採決いたします。
 本動議に賛成の諸君の起立を求めます。
    〔賛成者起立〕
○岩垂委員長 起立総員。よって、本案に対し附帯決議を付することに決しました。
 この際、井出厚生大臣から発言を求められておりますので、これを許します。井出厚生大臣
○井出国務大臣 ただいま御決議のありました附帯決議につきましては、その御趣旨を十分尊重いたしまして、努力をいたす所存でございます。

第132回衆議院 本会議会議録第23号(平成7年4月27日)
○議長(土井たか子君) 日程第五、精神保健法の一部を改正する法律案、日程第六、結核予防法の一部を改正する法律案、右両案を一括して議題といたします。
 委員長の報告を求めます。厚生委員長岩垂寿喜男さん。
    〔岩垂寿喜男君登壇〕
○岩垂寿喜男君 ただいま議題となりました二法案について、厚生委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。
 まず、精神保健法の一部を改正する法律案について申し上げます。
 本案は、障害者基本法及び地域保健法の成立など、最近における精神障害者の福祉及び医療をめぐる状況を勘案して、精神障害者の社会復帰の促進及びその自立と社会経済活動への参加の促進等を図ろうとするもので、その主な内容は、
 第一に、法律の題名を精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に改めるとともに、目的等に自立と社会参加の促進を位置づけること、また、新たに精神障害者保健福祉手帳制度を創設するほか、精神障害についての正しい知識の普及、精神障害者及びその家族等に対する相談指導など、地域精神保健福祉施策に関する規定を整備するとともに、福祉ホーム、福祉工場などの社会復帰施設や社会適応訓練事業等を法定化すること、
 第二に、適正な精神医療の確保のための措置として、精神保健指定医の五年ごとの研修受講促進措置を講ずるとともに、医療保護入院等を行う精神病院における常勤指定医の必置制等について規定すること、
 第三に、措置入院及び通院医療に係る公費負担制度における公費優先の仕組みを保険優先の仕組みに改めること等であります。
【略】
 両案は、去る二月十日付託となり、四月十九日井出厚生大臣から提案理由の説明を聴取し、昨日の委員会において質疑を終了いたしましたところ、精神保健法の一部を改正する法律案に対し、日本共産党より、任意入院等措置入院以外の入院に要する費用について通院医療と同様の公費負担を行うことを内容とする修正案が提出され、採決の結果、修正案は賛成少数で否決され、両案はそれぞれ全会一致をもって原案のとおり可決すべきものと議決した次第であります。
 なお、精神保健法の一部を改正する法律案に対し附帯決議を付することに決しました。
 以上、御報告申し上げます。(拍手)
○議長(土井たか子君) 両案を一括して採決いたします。
 両案は委員長報告のとおり決するに御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○議長(土井たか子君) 御異議なしと認めます。よって、両案とも委員長報告のとおり可決いたしました。

第132回参議院 厚生委員会会議録第10号(平成7年5月9日)
○委員長(種田誠君) 精神保健法の一部を改正する法律案及び結核予防法の一部を改正する法律案を便宜一括して議題とし、政府から順次趣旨説明を聴取いたします。井出厚生大臣
国務大臣井出正一君) ただいま議題となりました二法案につきまして、その提案の理由及び内容の概要を御説明申し上げます。
 まず、精神保健法の一部を改正する法律案について申し上げます。
 精神保健の施策につきましては、これまで、昭和六十二年及び平成五年の法律改正等により、精神障害者の人権に配意した適正な精神医療の確保や社会復帰の促進を図るための所要の措置を講じてまいりましたが、平成五年十二月に障害者基本法が成立し、精神障害者基本法の対象として明確に位置づけられたこと等を踏まえ、これまでの保健医療対策に加え、福祉施策の充実を図ることが求められております。
 また、昨年七月には地域保健法が成立し、国、都道府県及び市町村の役割分担を初め、地域保健対策の枠組みの見直しが行われており、地域精神保健の施策の一層の充実が求められております。
 こうした状況を踏まえ、今般、精神障害者の福祉施策や地域精神保健の施策の充実を図るとともに、適正な精神医療の確保を図るための所要の措置を講じ、あわせて医療保険制度の充実等の諸状況の変化を踏まえ、精神医療に係る公費負担医療を保険優先の仕組みに改めることとし、この法律案を提出した次第であります。
 以下、この法律案の主な内容につきまして御説明申し上げます。
 第一は、精神障害者の保健福祉施策の充実であります。まず、この法律の題名を精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に改めるとともに、目的や責務規定等に自立と社会参加の促進という福祉の理念を盛り込むこととしております。
 また、新たに精神障害者保健福祉手帳制度を創設するとともに、精神障害についての正しい知識の普及、精神障害者及びその家族等に対する相談指導など、地域精神保健福祉施策の規定を整備し、あわせて市町村の役割を位置づけることとしております。さらに、福祉ホーム、福祉工場等の社会復帰施設や社会適応訓練事業などを法定化することにより、これまでの社会復帰の促進のための訓練に加え、自立や社会参加の促進を図るための援助を推進していくこととしております。
 第二に、適正な精神医療の確保等のための措置であります。精神保健指定医の五年ごとの研修の受講促進の措置を講ずるとともに、医療保護入院等を行う精神病院には常勤の指定医を置かなければならないこととし、また、医療保護入院の際の告知義務の徹底、通院医療の公費負担の認定期間の延長等を行うこととしております。
 第三に、措置入院及び通院医療に要する費用について、その全部または一部について公費により負担し、公費負担がなされない部分について社会保険各法等による医療給付として行う、いわゆる公費優先の仕組みを、社会保険各法等による医療給付の自己負担分について公費により負担する、いわゆる保険優先の仕組みに改めることとしております。
 なお、この法律の施行期日は、一部を除き、平成七年七月一日からとしております。
 以上がこの法律案の提案の理由及びその内容の概要であります。
【略】
 以上がこの法律案の提案の理由及びその内容の概要であります。
 何とぞ、慎重に御審議の上、速やかに御可決あらんことをお願い申し上げます。
○委員長(種田誠君) 以上で両案の趣旨説明の聴取は終わりました。
 両案に対する質疑は後日に譲ることといたします。

第132回参議院 厚生委員会会議録第11号(平成7年5月11日)
○委員長(種田誠君) ただいまから厚生委員会を開会いたします。
 精神保健法の一部を改正する法律案及び結核予防法の一部を改正する法律案を便宜一括して議題といたします。
 両案の趣旨説明は既に聴取しておりますので、これより質疑に入ります。
 質疑のある方は順次御発言願います。
○前島英三郎君 おはようございます。どうぞよろしくお願いいたします。
 ただいま議題となりました二法案のうち、精神保健法の一部を改正する法律案に関しまして私は質問させていただきます。結核予防法改正案につきましてはベテランの宮崎先生に我が党はお任せすることにいたしまして、前半を私が担当させていただきます。
 精神保健法は、前回の改正が平成五年でありましたのでまだ二年しかたっていないわけでございますが、さらにその改正法の施行が平成六年、去年の四月でございましたので、実質的には約一年で再改正ということになるわけでございます。このため、今回の法案の提出に対しましてやや唐突な印象を受けた人も中にはおられるんじゃないかというふうに思うのでありますが、私の方は逆に、前回改正でもう少しでできたと言えるような中身をいわば二年おくれで提出することができた、こういう受けとめ方をいたしておりまして、大歓迎でございます。
 しかしといいますか、だからこそといいますか、制度改正の大きな流れにつきまして国民にわかりやすく、十分な説明、PRをする必要があるんじゃないかというふうに思っております。なぜ今このような改正が必要なのか、まず冒頭伺っておきたいと思います。
○政府委員(松村明仁君) 今回の精神保健法の改正は、第一に、精神障害者の社会復帰の促進やその自立と社会参加の促進を図るため、精神障害者保健福祉手帳制度の創設、あるいは社会復帰施設や事業の充実、相談指導の充実等を行いまして精神障害者の福祉施策を法律的に位置づけるとともに、地域精神保健福祉施策の充実を図ること。第二に、精神保健指定医制度の充実など、よりよい精神医療の確保を図るための所要の措置を講ずること。第三に、精神医療を取り巻く諸状況の変化を踏まえまして、これまでの公費負担医療の公費優先の仕組みを保険優先の仕組みに改めることを内容とする改正を行うものでございます。
 なぜ今かということにつきましては、精神保健法につきまして今御指摘のように平成五年に改正が行われたところでございますが、その後平成五年十二月に障害者基本法が成立いたしまして精神障害者基本法の対象として明記されましたこと、また平成六年七月に地域保健法が成立いたしまして地域保健対策の枠組みが改められたことなど、精神保健を取り巻く状況に変化が生じましたために、こうした変化を踏まえまして、御指摘のように、従来からの課題でございました精神障害者の福祉施策の位置づけや公費負担医療制度の見直し等について関係審議会の御意見もいただきながら、今回御提案している改正法案を取りまとめたものでございます。
○前島英三郎君 障害者基本法ができた、あるいはまた精神障害者に対する施策のいろんな声が満ちあふれているというようなことで、決して唐突なものではなく、むしろそうした声を背景としてやるべきは早くやる、こういう姿勢のように思うんです。我が国の精神保健とかあるいは精神障害者の福祉施策というのが近年かなりダイナミックに変わりつつあるというような状況もその背景にあるというふうに思っているわけでありますが、ある人は、法体系は動いているという表現をした方もおりますし、私もそんなふうに感ずるわけですね。
 ところが、今回中身をいろいろ、いいことなんだけれども、公費負担医療の保険優先化を行うということ、どうもそこにスポットが当たってしまいまして、このためこれが本目的でそれ以外の改正、例えば福祉の法制化を何かついでに行うかのように思っている人がなきにしもあらずだというようなことも言われております。
 それは一つには、公費負担の予算が減少する分が一般財源などに消えてしまいまして精神障害者の社会復帰と福祉に余り回ってこないんじゃないか、こういう印象、あるいは精神医療に対する国の責務が何だか薄まってしまうんじゃないかという心配、こういうふうなことがそういう声になっているんじゃないかという印象を持つわけでありますが、これらが絡み合ってそういう声の中に釈然としないものもあるんじゃないかというふうに思うんです。
 保険優先化を図るに当たって、こうした釈然としない印象を残さないようにしっかりしなきゃならぬと思いますし、厚生省に頑張ってもらわなきゃならぬわけでありますが、制度改正で十分な配慮をしたのか、また予算確保のために十分な努力を行ったのか、今後、そういう釈然としないものもあるとしたならばどういう努力をするつもりなのか、頑張るつもりなのか、局長、この際ひとつ明快にお答えいただけますか。
○政府委員(松村明仁君) 現在の精神保健法の公費負担医療は公費優先の仕組みをとっているわけでございますが、これはこれらの制度が昭和二十年代から昭和三十年代の医療保険制度が脆弱な時期に制度化されたこと等のために、公費優先の仕組みによらなければ患者が確実に医療を受けることを期待することが困難であった、こういう状況によるものでございます。
 しかしながら、現在国民皆保険が定着して久しいこのときに当たりましては、一般の疾病の場合と同じように公的医療保険制度をまず適用いたしまして、その上で、自己負担部分に引き続き公費による負担を行うことによりまして患者が確実に医療を受けられるようにしていくことが適当であると考えているところでございます。
 したがいまして、今回の改正は公費と医療保険財源との調整方法を改めるものでございまして、精神医療の役割や精神医療に関する国や都道府県の公的責任につきましては従来と同様であり、何ら変更を与えるものではないことを御理解いただきたいと思います。
 また、今後どのような展開をしていくのかという御質問でございますが、平成七年度の精神保健福祉関係予算におきましては、社会復帰施設やグループホーム小規模作業所、通院患者リハビリテーション事業の整備を積極的に進めますとともに、新たに都道府県及び市町村が地域の実情に即した各種の事業を実施するための地域精神保健対策促進事業、さらに精神障害者の緊急時におきます適切な医療と保護を確保するための精神科救急医療システムの整備、また精神障害者のための手帳の交付事業等を行うことによりまして、精神障害者に対する保健福祉施策の充実強化を図ることとしているところでございます。
 今回の改正を契機といたしまして、厚生省としてもよりよい精神医療の確保や精神障害者の社会復帰対策、福祉施策の一層の推進に努めてまいりたいと思います。
○前島英三郎君 そういう意味では大蔵のペースなんかに乗らずに、やっぱりそういうものはしっかりとまた新たな政策の中に予算化していくように、保険優先化になったことは決して予算を大蔵省に戻すんじゃありませんよというような強い姿勢でやってもらわなければ、この精神障害者の問題というものはまだまだ非常に谷間の位置にいるわけですから、その辺は頑張ってもらいたいと思います。
 テンポの速い制度改正の流れに対してもう一つの心配の声が聞かれるのは、これですべてが打ちどめになって精神障害者の問題はもう終わりなんじゃないかというような心配をする家族会の人や当事者の方々もおるわけであります。
 前回の改正、これは精神保健法なんですが、附則で、政府は施行後五年を目途として見直しを図ることと定めてあるわけですね。今からですと四年後の平成十一年を目途にということになるんですが、今回一部改正を行ったとしてもこの規定はなお生きていると私どもは理解をしているわけですが、厚生省はどのように考えているか、また今後に残された課題として、何と何はこれは次の改正の一つの目途にしたいという思いがあるのか、その辺の一端を聞かせてほしいと思うんです。
○政府委員(松村明仁君) 精神保健法につきましては、平成五年の法改正の際に附則で、改正法の施行後五年を目途といたしまして法施行の状況等を踏まえて検討を加え、所要の措置を講ずることとされているところでございますが、この規定は引き続き効力を有するものと考えております。
 また、今後に残された問題という御質問でございますが、課題といたしましては、保護者制度の見直しあるいは資格制限のあり方など、前回の法律改正の際の国会の附帯決議に盛り込まれている事項に関し、今後とも法改正の施行の状況や精神保健を取り巻く環境の変化を勘案しつつ、関係審議会や関係団体等の意見を伺いながら引き続き検討してまいりたいと考えております。
○前島英三郎君 さて、今回の改正によりまして法律の中に精神障害者の福祉、福祉ということは重要な柱ができることになったわけでありますが、私は前回の精神保健法改正の段階で精神保健福祉法という題名にすべきだということを考えましたし、自由民主党の中の社会部会におきましてもその辺は随分主張してきたわけでありますが、初めてこの精神障害者の福祉の芽が出たということは大変すばらしいことだというふうに思っているわけであります。
 しかし、当時はまだ障害者基本法も成立しておりませんでしたので法律の定義上の困難があったようでありますけれども、今回は法律の目的規定に自立と社会参加への援助という内容を盛り込むとともに、法律全体の組み立てを大きく変えまして、第六章には「保健及び福祉」という新しい章が設けられているわけですね。これは、精神障害者の福祉とは何かという概念をあらわす上で非常に重要なポイントであろう、このように思っているわけであります。
 福祉の概念は精神障害者の障害に対するものであって、その疾病に対するものではありません。医療が終わり、リハビリテーションが終わり、その次に福祉がやっとやってくるということでもないわけでありまして、医療、保健というレールがあって、それと並行してもう一本の福祉というレールを今回敷いたんだということだというふうに思うんですね。二本の矢じゃ折れてしまうけれども、そこへ福祉というもう一本の矢が入って、例の故事の三本の矢というような強力な形になって、精神障害者の保健福祉というものが推進されるということだろうというふうに私は理解しているんです。
 将来に向けて最も大切なポイントであると考えるので、この福祉の概念をどのようにとらえたのか、今回提出の法案に照らしながらひとつわかりやすく説明していただければと思います。
○政府委員(松村明仁君) 精神障害者の福祉といいますのは、精神障害者精神疾患があることによりまして生活能力に障害がある、これによりまして日常生活または社会生活を営む上でハンディキャップが生ずることになります。これを補うための援助を行ってノーマライゼーションを図る、こう考えるものでございます。
 精神保健は、精神障害者精神疾患を有する方としてとらえまして、精神障害の予防、治療、リハビリテーションを行うものでございますが、精神障害者の福祉は、生活能力の障害、ここに着目をいたしまして必要な援助を行うものでございます。
 これまでの精神保健法におきましても、社会復帰の促進という福祉的な概念は含まれていたのでございますが、今回の改正ではさらに、退院して地域で自立して生活する方に対する生活の援助や社会参加の促進のための援助という幅広い要素も加えまして、福祉の理念を明記したものでございます。今回の改正は、初めて精神障害者の福祉を法体系上位置づけまして、福祉施策の推進の枠組みを整えるものでございます。今後、これに基づいて一層の福祉の推進を図ってまいりたいと考えております。
○前島英三郎君 一層の福祉の推進、ぜひそう願いたいと思っております。
 さて、その障害者の福祉を具体的に展開していくためには、やっぱり計画の段階から当事者が参加して、個々の場面においても当事者の意思を最も尊重しながら進めていくということが極めて重要なんですね。精神障害者の場合においては、これまでどうしても家族とかあるいは家族会などが主体となることが多かったわけであります。精神障害者に対する社会の偏見という一つの暗い歴史がありましたので、家族会の皆さん方の大変な頑張りで今日まで日の当たるところにいろんな要求あるいは活動も出てきたということはすばらしいことだと思うんですが、やはり突き詰めて考えていきますと、本人でなければわからない痛みというものがあるはずであります。
 他の障害を持った仲間の組織というのはかなりもう充実してきまして、それぞれがボイス・オブ・アワ・オウンじゃありませんが、我ら自身が声を出してみずからの人生をみずからが決定をするんだと、こういう組織化ということも大変顕著になっているわけであります。しかし、厚生省もその辺は、昨年暮れあたりから精神障害者自身による団体の方々といろいろと取り組みを始めだということを聞いております。四月十六日でしたかの新聞報道では、新設を予定している手帳制度の具体的な進め方について、当事者に参加を呼びかけて勉強会をしたというふうなことも報道されているので、私も大変いいことだと思っているんですね。
 障害者自身の声を聞くためには、一方では障害者の組織づくりというものを支援する必要があるというふうに思うんです。まだ精神障害者の当事者の組織というのは脆弱なところもあろうと思いますし、今、芽は出つつありますが、組織化が一体化しているというようなまだそういう状況ではないというんで、家族会とのチャンネルあるいは当事者とのチャンネル、その当事者の組織づくりをどうバックアップするかということをやって、その声を吸収して福祉の推進ということに結びついていくんじゃないかと思うんで、今回の手帳についてはもちろん、次の見直しの機会に向けて精神障害者自身の声を聞く努力をぜひ厚生省に継続的にやっていただきたい、こんなふうに思うんですが、厚生省のお考えも聞いておきましょう。
○政府委員(松村明仁君) 障害者施策の推進に当たりまして、障害者の方々の御自身の意見を聞くということは極めて重要だと私どもも認識しておるところでございます。今回の法改正によりまして新設されます手帳制度につきましても、その内容については専門家の検討会に検討していただくことにしておりますが、その過程で障害者の方々の意見を反映させていくこととしております。
 今後とも、精神障害者施策の推進において可能な限り障害者の方々の声を聞いていくように努力してまいりたいと思います。
○前島英三郎君 手帳だけにとどまらないと思いますがね。手帳を別に持たせるわけじゃなくて、持つ側の意見がないと、何を持たせられるかわからないというところがあるわけですから、やっぱり持つ人の意見を聞いてということが大変重要じゃないかというように思います。法律名に福祉を入れて、保健及び福祉という新しい章を設けるといいましても、本当の実体をつくっていくのはまさにこれからだというふうに思っております。
 精神保健法を制定したときに、市町村も社会復帰施設を設置することができるように規定されましたが、これまでの精神保健対策の仕事というのは実際にはもうほとんど都道府県が軸に推進が図られてきたように思っております。しかし、精神障害者の福祉まで施策の幅が広がっていくわけでありますから、これからは市町村に期待される役割というのは従来とは比較にならないほど大きなものになってきております。障害者基本法でも、国、都道府県、三千三百の市町村、いわばそういうものは向こう三軒両隣から声がやがて国に上がってくるんだという基本的な考え方が盛り込まれているわけですから、これからは市町村が非常に重要になる。
 しかし、その市町村が精神障害者についてどれだけ理解しているかというと、この辺は非常にまだ私は幼いところがあるんじゃないかというふうに思うんで、それには市町村に十分な力量をつけていくということも厚生省はやっていかなければならぬことだと思います。そのノウハウを早急に蓄積させるということが大切だというふうに思うんです。
 地域保健法もできて地域保健のあり方も今後変わっていくわけでありますから、それらとあわせて市町村がしっかりした体制を整えられるように、国として計画的に系統的にこれを支援、指導していく必要があると考えますが、厚生大臣、まだ一言もお言葉を伺っておりませんから、どうぞひとつその辺の御決意を。
国務大臣井出正一君) 精神障害者の保健福祉施策は、先生御指摘のとおりこれまで都道府県を中心に取り組まれてきたところでございますが、障害者基本法においては精神障害者が障害者として明確に位置づけられるとともに、市町村の福祉の増進の役割についても明確化されたところでございます。さらに、地域保健法に基づく基本方針では、専門的、技術的な役割は都道府県の保健所が担う一方、精神障害者の社会復帰施策等のうち、身近な利用頻度の高いサービスについては市町村の保健センター等において実施することが望ましいとされたところでございます。
 このような流れに沿って今回の精神保健法の改正では、正しい知識の普及とかあるいは相談指導などについては都道府県だけじゃなくて身近な市町村もその推進に努めるようその役割を明らかにしたところでございます。そのために今年度の予算におきましても、都道府県とともに全国約百カ所の市町村で地域の実情に合わせた精神保健福祉施策を推進する事業を新たに創設したところでございます。予算は八億円だったと思いますが、一応これでモデルの市町村を創設したい、こう考えておるところでございます。
 こんな予算も活用しながら、市町村が精神障害者の保健福祉施策の推進に積極的に取り組めるよう、そして確かにまだ今まで経験は浅いものですから、そういった面で頼りになれるような市町村であってもらえるように支援をしていきたい、こう考えております。
○前島英三郎君 ぜひその辺を期待しております。
 社会復帰施設について伺っておきますが、本法案では新たに二種類の施設を追加するわけでありますが、いずれも予算措置としては既に認められているものですから特に問題はないと思うんですが、問題となるのは社会復帰施設の全体としての数量であると思うんですね。精神障害者関係ではあんなに多くの要望や必要性を叫ぶ声があったのに、どうも伸び悩んでいるように思えてなりません。
 ほかの障害者関係ではもう施設はいいと、それよりも自立する、社会復帰する、そういうもろもろの周りの法体系をノーマライゼーションに沿って完全参加の方向へというような声が強いわけでありますが、やっぱり精神障害者の場合には病院から一遍に家庭へというわけにはいかないところもある。病院からワンクッションあるいはツークッションぐらい置かなければというところもある。その辺で施設というものはどうしてもいろんな意味で必要になってくるものだというふうに思うんですね。
 そこで、何が施設の増加を阻んでいるのかということですが、原因の一つとしては設置運営基準や補助要綱が弾力性に欠けるという問題点があるんじゃないかと思います。例えば施設の定員にしましても、身体障害者知的障害者の施設では多様な定員が認められましてそれに応じた補助金が支払われるのに対して、精神障害者の施設では一律に決められているんです。入所期間も原則二年、延長一年などと一律に決められちゃっている。もう少し弾力的なものにこの際見直すべきではないかと思うんですが、その辺お考えがありますか、どうですか。
○政府委員(松村明仁君) 今御指摘のように、精神障害者の社会復帰施設の整備ということでございますが、なぜ整備が十分に行われていると言えない状態にあるかということの理由といたしまして、精神障害者の社会復帰対策が他の障害者施策に比べて歴史が浅いことに加えまして、精神障害者社会復帰施設につきましては、当初、運営費の四分の一が設置者の負担、こういうふうなことになっておりました。施設設置者の費用負担が大変重いものになっていたというようなことも一つの理由と考えているところでございます。
 こういったことのために、平成五年度には、これまでございました運営費の設置者負担の解消を行いました。また平成六年度では、職員の業務省力化等勤務条件の改善に必要な経費を新たに運営費に加算するなど、その運営の安定化を図ってきておるところでございます。また平成七年度予算におきましては、勤務条件の一層の改善に必要な経費の拡充でございますとか、年休、代替要員の確保に必要な経費の新設等の改善策を行ってきておりまして、運営費の補助額の引き上げを図ってきたところでございます。
 また、今委員御指摘のように運営の弾力的な運用ということにつきましても、今後必要な検討を行いつつ社会復帰施設の積極的な整備を進めてまいりたいと思います。
○前島英三郎君 ぜひその辺は弾力的な運用を図ってもらいたい。
 例えば小規模作業所がありますね。地域に開かれたということでこれ大変重要で、小規模作業所の存在というのは精神障害者の社会復帰には非常に重要な位置づけとなっているんですが、国の助成対象となっているのは平成七年度予算では四百カ所ということになって、これも近年四百カ所だっと設置をしてきた。実際には、精神障害者を対象にしているものだけでこの倍以上現実はつくられているわけです。この数はどうですか、大体倍以上、千カ所ぐらいになっているんじゃないですか、どうです。
○政府委員(松村明仁君) 国が補助しているものは現在三百六十カ所でございまして、平成七年度におきましては四百カ所程度にこれを伸ばす考えでございます。
 また、今御指摘の全体の数ということであるかと思うんですが、これは約九百カ所です。
○前島英三郎君 そこで、この小規模作業所、いわば共同作業所、精神障害者にとって総合的、多面的な意味で有益というか、非常に有効であるということがわかってきていると思うんです。社会復帰施設などが不足しているから共同作業所ができるというんじゃなくて、共同作業所だからこそ社会復帰や福祉的支援になるという面を見なければならないと思っているんです。小規模作業所を今のままで直ちに法定化できるとは考えませんが、こういうことにも多くを学んで弾力的な運用を図って、その特質を政策、制度に取り入れるという姿勢がこれからは必要だというふうに思うんです。
 これはことし七年度で四百カ所になりましたが、恐らく来年度予算も六百、七百、八百という要求が来ると思いますよ、恐らく来るはずです。ですから、こういう法律を改正したときを一つのばねとして、保険優先化になって一般財源がどうも大蔵省に持っていかれちゃうんじゃないかという心配を払拭するためにも、この際は精神障害者の社会復帰のためのいろんな施設づくりには弾力的なことを検討していくけれども、当面は小規模作業所、共同作業所という向こう三軒両隣型の中で、精神障害者も他の障害を持った人たちも一緒に作業所の中でもって社会復帰のための、社会参加への基礎的な訓練をやっていくんだというものの法定化も含めて、そういう要求も四百カ所をもう一気に倍増するぐらい、国が補助しているのは百万ちょっとですからこれだって問題がありますよ、もう何百万、何千万ということなら四百カ所というと大変な予算になるんですけれども、例えばそれを倍にしたって大した予算じゃないと思います。そのくらいの、法律の中に福祉という文言を入れるならば、それをやっぱり一つのばねとして、来年度予算にはしっかりとその辺の形はつくってもらいたいと思う。
 精神障害者のための小規模作業所に対する厚生省の認識あるいはその制度化という面に取り組む姿勢を、もう時間がなくなってしまいましたね、ぜひひとつ大臣その辺を、非常にこれからは地域に根差したものが大切だということに照らして、この小規模作業所に対する思い切った助成措置あるいは法定的な立場、そういうようなものに対する御決意を伺いたいと思います。
国務大臣井出正一君) 小規模作業所の大変重要な役割は私も認識をしておるつもりでございます。そして、例えば過般の阪神大震災のときにも、被害を受けた小規模作業所の方へ国として何か援助ができないかという御質問を随分ちょうだいいたしました。授産所みたいな規模になりますとある程度できるんですが、残念ながらその要件に該当しておらなかったものですから、あの阪神地域に関しましては、例えば某新聞社とか某生命保険会社の厚生事業団みたいなところから工面していただいたわけでございますが、大変大事なことは確かでありますし、先生がおっしゃったように一カ所当たり百万円でございますから、国であれしている場合でもふやすこともそんなに大きなお金を必要とはいたしません。
 したがいまして、今厚生省の中に設けでございます障害者保健福祉施策推進本部で精神障害者小規模作業所に対する制度化等のあり方についても検討をしておりますから、今回の改正事項には含めておりませんが、この検討結果を踏まえて必要な措置を講じていきたいと考えております。
○前島英三郎君 最後に意見だけ述べさせてもらいますが、精神障害者の福祉はこれから始まるわけであります。身体障害者知的障害者の福祉施策とは大きな格差がございますから、この格差を埋めるためにも積極的な御努力をいただきたいと思います。疾病を有するという他の障害分野と異なる側面を持つとはいえ、福祉という原則的に共通のベースの上に乗り、早期に肩を並べられるようにしていく必要があると考えております。
 昨年の九月、厚生省の中に推進本部をつくって検討していただいておるわけでありますが、局あって省なしなどとも言われるように、組織の壁がバランスのとれた施策の推進を阻むという要素は否定できないだろうと思うんですね。福祉は厚生省の時代は終わったというように、身体障害、知的障害、精神障害者に関しては、これはもう三局が一緒になって障害者局というような感じでやっていく、ただ精神障害者の問題は保健医療局だけでというような時代はもう終わったと、こういう意識をやっぱり持ってこれから取り組んでいただきたいと思います。
 ゴールドプランのようにこれからの数値目標も、精神障害者の一つの法律の改正をきっかけとして次の予算には形としてあらわしてもらいたいというように思いますし、精神障害者の福祉を早く育てるためにも、同時にまた、身体障害者やあるいは知的障害者の福祉をよりよくしていくためにもこれからぜひ頑張っていただくことを心からお願い申し上げまして、後は宮崎議員にバトンタッチをいたします。
 どうもありがとうございました。
【次回へつづく】