精神医療に関する条文・審議(その73)

前回(id:kokekokko:20051017)のつづき。初回は2004/10/28。
ひきつづき、平成7年法律第94号(精神保健法の一部を改正する法律)での議論をみてみます。

第132回参議院 厚生委員会会議録第11号(平成7年5月11日)
【前回のつづき】
○宮崎秀樹君 大臣、WHOは御苦労さまでございました。お休みいただいて結構ですから、局長答弁でいろいろお伺いします。
 まず第一点は精神保健法、今度、社会復帰そして社会におけるケア、福祉ということで、大変画期的なことで私は大いに結構なことだと思います。そこで、現場におきましてはそういうフォローをきちっとしなきゃならないということで、PSWとかいろいろな問題が今出てきております。そこで、看護職員の問題につきまして衆議院でも質問が出たそうですけれども、確認しておきたいんです。
 現場におきましては、准看護婦、准看護士それから看護士、看護婦というようないろいろなコースによって養成された方々がお働きいただいておるわけであります。そこで、准看護婦制度を廃止するんだというような話が既に一部出るような状況もあるんですが、しかし現況においては、文部省の管轄では既に高等学校の中で准看課程というのがございますし、大学もあっても結構ですし、いろんな養成コースというのがあってそして需要をきちっと満たしていく、と同時に、やはり教育内容はカリキュラムをしっかり改正して質を高める、内容をよくすると、これは私は異論ございません。
 しかし、現状において准看護婦制度を廃止するということは非常に混乱を招くということでありますので、その辺のことにつきまして厚生省はどんな考えをお持ちか、確認しておきたいと思います。
○政府委員(谷修一君) この准看護婦問題につきましては、長年各方面から議論をされてきているわけでございます。昨年暮れにまとめられました少子・高齢社会看護問題検討会の報告書におきましても、准看護婦の養成を停止すべきという意見と、制度の改善を図りつつ継続をすべきであるという両方の意見がございました。結論といたしましては、この報告書におきましては「この問題については、現在准看護婦免許を有する者の将来や今後の看護職員全体の需給状況等を勘案しながら、准看護婦学校養成所等の実態の全体的把握を行い、関係者や有識者、国民の参加を得て速やかに検討し結論を得るべきである。」というふうにまとめられているところでございます。
 私どもといたしましては、この報告書を受けまして、今後、准看護婦養成所の実態の把握ということについてまず取り組んでまいりたいというふうに考えております。
○宮崎秀樹君 結構でございます。そのような方向でひとつ進めていただきたいと思います。
【略】
○堀利和君 私は、精神保健法について取り上げたいと思います。よろしくお願いします。
 法律では、精神疾患を有する者から始まって精神障害者、雇用では精神障害回復者と、イギリスではみずからをユーザーなどとも言っておりますけれども、そういう点で医療、保健、病院の問題、それから地域生活としての福祉の問題、そしてさらには雇用の問題ということで、この辺のところはやっぱり総合的、そして連携を持って施策を推進しなければならないんだろうと思っております。
 そこで、今回の法改正の意義と、法律の題名も福祉というのが盛り込まれましたので、その辺の福祉の充実についてどうお考えか、まず大臣にお伺いしたいと思います。
国務大臣井出正一君) 今回の精神保健法の改正でございますが、障害者基本法地域保健法の成立を踏まえまして、精神障害者の社会復帰の促進やその自立と社会参加の促進を図るために、精神障害者保健福祉手帳制度の創設とかあるいは社会復帰施設の充実等を行いまして、精神障害者の福祉施策を法律にきちっと位置づけるということとともに、精神保健指定医制度の充実などを図りまして、よりよい精神医療の確保を図るための所要の措置を講じることによりまして精神保健福祉対策の推進を図ろうとしているものでございます。
 そして、今回の改正によりまして精神障害者の福祉が法制上明確に位置づけられるわけでございますから、この改正を契機として、精神障害者の社会復帰あるいは福祉施策の一層の推進に努めてまいりたいと考えておるところでございます。
○堀利和君 福祉のことで申し上げても、身体あるいは知的障害、精神薄弱者の場合はマラソンで例えれば折り返し地点ぐらいを走っているんですが、精神障害者の場合はスタートして五キロか十キロぐらいだというふうに思うんですね、まあ三十キロぐらいで一緒になるのかなということも感じるんですが。
 そこで、今回の法改正を通しても福祉の充実が求められるわけですが、昨年九月に省内に障害者保健福祉施策推進本部が設置されて、ここでどんなふうに精神障害者の福祉、保健が位置づけられ、検討されているのかお伺いしたいし、同時に、私は予算委員会などでも繰り返し申し上げているのは、やはり三局三課に障害者行政が分かれていることは大変不幸なことで、子供と大人も分かれている、これはやはりどうしても一本化、いわば障害者の保健福祉局という形をとるべきだろうと。これが、後でも取り上げますが、最も身近な自治体においても障害者の総合的な保健福祉対策を組むということも、やはりまず上の厚生省から一本化すべきだろうと思うんです。
 今回の法改正を契機に少しは近づいたんではないかという感触もあるんですが、その辺大臣、あわせてお伺いしたいと思いますが、どうでしょうか。
国務大臣井出正一君) 今回の精神保健法の改正は、精神障害者の福祉を初めて法体系上明確に位置づけるものでございまして、これによって精神障害者についても、身体障害者やあるいは精神薄弱者に対する福祉施策と連携しながら、総合的な施策を展開していくための前提となる枠組みは整えられたと、こう考えております。
 障害者施策につきましては、これまで身体障害あるいは精神薄弱、精神障害といったおのおのの障害の種別や年齢に応じた適切なサービスが講じられるよう対応に努めてきたところでございますが、今後、ノーマライゼーションの理念を踏まえまして、地域における障害者の生活を支えるための総合的な施策展開が大きな課題だと考えております。
 先生、昨年の予算委員会でも御質問くださいましたし、また先ほど前島先生も最後に御意見としてお触れになられましたが、厚生省の三局三課体制を一本化できないかと、こういった問題につきましても、省内に設置しております障害者保健福祉施策推進本部の主要な検討項目として今検討を行っておるところでございます。効果的な施策推進が可能となるような体制のあり方、具体的に申し上げますれば、今申し上げましたような三局三課体制の一本化もここに含まれると思いますが、検討を進めておるところでございます。
 可能なものについては夏ごろまでに中間的な取りまとめが行われると、こう聞いておりますから、夏までに結論がもし出るようでしたら、それからさらに一歩を進めていきたい、こう思っておるところであります。
○堀利和君 ぜひその辺を強力に推し進めていただきたいと思うんですね。地域、市町村レベルで総合的な障害者施策を講じるにも、もちろん下から進めるという手もあるんですが、やはり何といっても上の厚生省の方からやるのが早いのかなというふうにも感じます。そういう点で、後発部隊としての精神障害者の保健福祉をぜひもう強力に推し進めていただきたいということを重ねて要望申し上げたいと思います。
 次に、障害者基本法に基づく都道府県及び市町村の地方障害者計画についてお伺いしますけれども、今総理府の方でガイドラインを策定しているというふうにお聞きしております。この辺の進捗状況がどうなっているのか、そしてその際に、やはり今まで身体障害あるいは精神薄弱、知的障害が主でしたけれども、精神障害者の問題についてどんなふうに位置づけようとしているのかについてお伺いしたいと思います。
 さらに、既に三百ぐらいの都道府県なり市町村で計画を立てているわけですけれども、この計画にはそういった精神障害者の問題が盛り込まれているのか、反映されているのかお伺いしたいと思いますし、もしそうでなければ、私はやはりこれから十年それでいくというんではなくて見直すべきとも思うんですけれども、その辺の見解もお伺いしたいと思います。
○政府委員(松村明仁君) 障害者基本法に基づきます地方における障害者計画につきましては、現在都道府県レベルで計画が策定されていると伺っておりますが、市町村レベルでは、総理府の調査によりますと、平成六年五月末現在で全市町村の一割程度が策定済みという状況である、このように伺っております。
 こうした状況を見ますと、大半の市町村は今後計画を策定していくことになるわけでございますが、精神障害者対策につきましては確かにこれまで都道府県を中心に取り組まれてきておりまして、市町村はなじみが薄いという面がある点は否定できないと思います。しかしながら、障害者基本法におきまして精神障害者が障害者として明確に位置づけられまして、市町村においても福祉の増進の役割が明確化されたところでもあり、また昨年成立いたしました地域保健法に基づく基本指針においても、精神障害者の社会復帰施策等について、身近で利用頻度の高いサービスは市町村保健センター等において実施することが望ましい、こういうふうにされているところでございます。
 こういうような一連の流れに沿いまして、今回の精神保健法の改正では、正しい知識の普及や相談指導につきまして、都道府県のみならず市町村もその推進に努めますようその役割を明示したところでございますので、障害者基本法に基づきます市町村計画の策定におきましても、精神障害者対策が適切に位置づけられますよう関係省庁と連絡を図りつつ、必要な指導、援助を行ってまいりたいと考えております。
○堀利和君 よろしくお願いいたします。
 次に、医療費の問題ですけれども、公費優先から保険優先へということ、これは私はもう基本的に賛成でございますけれども、ただいつも指摘されるように、措置入院というのはこれ強制入院ですね、本人の意思とはかかわりなく入院させられるわけです。そうなりますと、これはやはり公費というのが私は当然の考え方ではないかと思うんですけれども、その辺のことをまずお伺いしたいと思います。
 そしてさらに、保険においては個人負担が当然あるわけですけれども、これについて東京都なり神奈川県では、精神科の通院の医療費の負担に補助が出されているんですね。これはもう地方公共団体の単独事業ですから難しいところですけれども、やはりその辺のところの配慮ということも当事者の皆さんからの御要望も強いわけですけれども、厚生省としてどのようなお考えか、お伺いしたいと思います。
○政府委員(松村明仁君) 精神保健法に基づきます措置入院制度につきましては、自傷他害のおそれのある方を強制的に入院させる制度であるわけでありますが、これは御自分の病状について認識に欠ける場合が多い精神障害者の方々に確実に医療を受けていただくという本人保護の側面と、さらに他人への危害の防止という側面をあわせ持つ制度になっておるわけでございます。
 したがいまして、この制度について、制度が創設されました昭和二十五年におきましては医療保険制度が来成熟でございまして、公費優先の仕組みとすることが患者に確実に医療を受けさせるために必要である、こういう考えによってこのような制度になったものと考えております。
   〔委員長退席、理事菅野寿君着席〕
 したがいまして、国民皆保険という制度が既に定着して久しい現在におきましては、他の疾病の場合と同じように公的医療保険制度をまず適用していただいて、その上で自己負担部分に引き続き公費による負担を行うことによりまして患者の方が確実に医療を受けられるようにしていくこと、これが大事なことではないか、このように考えておるところであります。
 また、医療保護入院とかあるいは任意入院につきましては、措置入院とは異なりまして自傷他害のおそれのない方でございます。また、保護者や本人の同意を得て入院させる制度でもございますので、一般の医療と同様に取り扱うことが適当であると考えております。したがいまして、特別な公費負担を行うことは考えていないという状況でございます。
○堀利和君 次に、今回の法改正のもとで精神障害者にも手帳が交付されるわけですけれども、その点についてお伺いしたいと思います。
 精神障害者保健福祉手帳というのが保健所で交付される。私としてはやはり福祉事務所で交付されるのが望ましいんではないかと思うんですけれども、この辺について、なぜ保健所なのかについてお伺いしたいと思います。
 さらには、手帳を申請して手帳を持つ側からすると、ややもすると身体障害者と違ってまだまだ非常に偏見、差別が強いのがまた精神障害者に対する現状ですから、その辺が非常に心配されるわけで、私が持っている身障手帳は写真がついているわけですけれども、写真の問題とかあるいは医療機関の記入の問題などその辺もかなり心配しているわけですけれども、この法律が成立した後にどんなふうになるのかについてもお伺いしたいと思います。
 そして、手帳を受けた場合のメリット、これはどんなものがあるのかについてもお伺いしたいと思います。
 さらに、福祉対策の充実に当たって手帳の交付が言ってみればどんなふうな役割といいますか推進役といいますか、というものになるのか、その辺もあわせてお伺いしたいと思います。
 さらには、現段階では不可能だと思いますけれども、やはり障害者手帳という一つにして、その中にそれぞれ身体があり知的障害の精薄がありあるいは精神障害があるということで、そういう意味では手帳がやっぱり一つになるべきだと思うんです。
 今、都道府県でもばらばらになっているんですが、将来そういう点ではまさに障害者保健福祉局というふうに総合化される、法律もかなり整備されて体系的になるんだろうと思いますけれども、その辺の将来に向かっての見通しも含めて、手帳のあり方についてお伺いしたいと思います。
○政府委員(松村明仁君) 精神障害者保健福祉手帳の交付の窓口は保健所ではなくて福祉事務所でも行うべきではないかという意見があることは私どもも存じておりますが、現段階におきましては、残念ながら多くの市町村では精神保健福祉に対する体制が整っているとは申せないような状態ではないかと思います。したがって、相談指導をこれまでも行ってきております保健所でこういった事業と一体的に実施する方が適切だと、こんなふうに考えておりまして、当面保健所で行うこととしておるところでございます。
 また、手帳の問題でございますが、手帳の様式等については別途専門家による検討会で御検討いただくこととしておりますが、御指摘の写真や医療機関名の取り扱いにつきましては、当事者団体の中で意見の一致が現在見られないところでもございますので、これらについては写真についても当面張らないというような形でスタートしていくのかなと、こんなふうに考えているところでございます。
 さらに、精神障害者手帳の効力といいましょうか、これについての御質問でございますが、現在の法令上の仕組みといたしましては、通院医療費公費負担の事務手続の一部省略、あるいは所得税や住民税の障害者控除等がこの手帳をもとに行われることになります。
 また、将来の役割というような御質問もありましたが、これにつきましては、現在、先発でございます身体障害者手帳あるいは療育手帳につきましてはいろいろな特典というようなものもあるわけでございます。例えば公共交通機関の運賃割引等が行われておる、こういうことがございますが、今後、この精神障害者の手帳の交付を受けた方についてもひとつ同様な配慮が行われるように私どもといたしましても関係各方面に協力を依頼してまいりたい、このように考えておるところでございます。
 また、障害者手帳の将来の像ということの御質問でございますが、これについて一本化というようなお話もあるわけですが、身体障害者身体障害者手帳、それから精神薄弱者の療育手帳、こういったものほかなり先発の制度でございまして既に定着を見ておるわけであります。また、こういった手帳は普通は更新ということがなく一生涯の手帳というような性格を有しておるものでございますが、精神障害者手帳の場合には、精神障害の状態が変動するということもございまして一定の期間に有効期間を定めるというようなことも考えられるところでございまして必ずしも同一でない、したがいましてこれを一本化するということについてはかなり難しいんではないかなと、こんなふうに考えております。
○堀利和君 手帳の一本化については私なりに異論もありますけれども、時間がありませんので次に行きます。
 これからいわば福祉が進んでいくわけですけれども、そうなりますと、生活者としての精神障害者にとって自治体における福祉の窓口といいますか、福祉行政とのかかわりというとこれはどういうふうになるのか、具体的にお教え願いたいと思います。
 さらに、福祉サービスは精神障害者の場合とんなものになっているのか。例えばホームヘルプサービスはないわけですけれども、こういった見通しも含めてどのようにお考えでしょうか。
○政府委員(松村明仁君) 窓口の御質問でございますが、先ほども申し上げましたように窓口ということにつきましては、保健所において福祉業務を保健と一体的に行うのが総合的な施策を行うために好都合であり、また精神障害者にとっても便利ではないかということで、保健所におきまして精神保健の業務と一体的に行われるようにすることとしておるところでございますが、さらに全国の市町村の機能が充実をしてまいりまして、例えば市町村の保健センターというようなところでも十分に相談対応ができるようになれば、こういったところも窓口として機能していただけるようになるのではないかなと考えておりますが、当面は保健所を窓口と、こういうことでスタートさせていただきたいと考えております。
 また、精神障害者に対しますグループホームの問題でございますが、こういった問題あるいは社会適応訓練事業、小規模作業所などいろいろ行うわけでございますが、お尋ねのホームヘルプサービスにつきましては当面直ちに実施することは考えておりませんが、今後とも都道府県や市町村におきます施策の取り組み状況を踏まえまして、精神障害者の福祉施策の充実を図るようさらに努めてまいりたいと思っております。
○堀利和君 保健所の問題については当面と言われましたけれども、法律では当面と言って十年から長いのは四十年も当面という条文があるんですけれども、これはやはり一日も早く福祉事務所なり地域保健センターなり、きちっとした窓口を開いていただくことをお願いします。
 そして、ホームヘルプの問題も、体が不自由だから家事介護が必要だというのはもちろんですけれども、精神障害者の場合も非常に状態が悪くなったとき食事をつくることができないということがあるんですね。そういう観点からも、今後その辺を強く要望したいと思います。
 次に、自治省にお伺いしますけれども、地域での福祉保健対策がこう進んでいくわけですから、当然そうなりますと市町村レベルではマンパワーといいますか職員配置が必要ですけれども、この辺については市町村の独自の対策といいますか人員配置だというふうに逃げないで、自治省としてそこのところを十分な指導といいますか対策というものを考えていただきたいと思いますが、どうでしょうか。
○説明員(犬塚英則君) 市町村の職員の充実確保の問題でございますけれども、最近の地方公務員の総数につきましては増加傾向にございます。その中でも福祉関係の職員につきましてはふえておる状況にありまして、それだけ人員の手当ても行われてきておるというふうに考えております。
   〔理事菅野寿君退席、委員長着席〕
 自治省といたしましては、社会経済情勢の変化に伴いまして増大する行政需要に対しましては、基本的にはスクラップ・アンド・ビルドの徹底、それから事務事業や組織、機構の見直しなどを行って、効率的な執行体制の確保を図りながら対応していくということが大切であろうと考えております。
 ただ、職員をそれぞれの自治体で具体的にどのような部門にどのように配置していくのかにつきましては、やはり各地方公共団体の地域の実情を踏まえまして、それから今御指摘のございましたような行政需要等を考慮して、みずからの責任と権限において適正に行われるべきものであろうと考えております。
○堀利和君 やはり福祉は箱物から人的、人手のサービスの方に移ってきているわけですから、そういう点では十分職員の確保について自治省としての行政指導をお願いしたいと思います。
 次に、地域精神保健対策促進事業、これが先ほど大臣も答弁の中でおっしゃっておりましたけれども、八億円、市町村百カ所ですね、なかなか社会復帰を含めた福祉対策が進まないんですけれども、この辺の見通しをお伺いしておきたいと思います。
○政府委員(松村明仁君) 本年度創設いたしました地域精神保健対策促進事業は、精神障害者の社会復帰、自立や社会参加等の促進を図るために、都道府県を中心といたしまして、市町村、社会福祉事務所、医療機関、社会復帰施設等、関係各方面と連携をいたしまして各種の事業に地域ぐるみで取り組むことによりまして、精神障害者の社会復帰、自立や社会参加等を促進しようとするものでございます。
 この事業におきましては、市町村につきましても都道府県の協力、指導のもとに、モデル的な事業として全国百カ所の市町村に対し地域の創意工夫を生かした精神保健福祉施策を行うこととしたところでございます。精神障害者の地域交流のための事業でありますとか、社会復帰促進等のための学習会、それから精神障害者及び家族の教室、心の健康相談、地域精神保健福祉に関する情報提供等、地域の実情に合わせて必要な事業を実施していただきたい、このように考えておるところでございます。
○堀利和君 それでは次に、労働省から来ていただいていると思いますが、精神障害者の雇用についてはやはりこれも大変おくれている分野です。
 ILOの戦後の勧告でも、本来障害者と訳すべき、また対策を組むべきところを、我が国では勧告の仮釈といえどもディスエーブルトピープルを身体障害者と訳して、身体障害者雇用促進法でずっと来てしまって、ようやく八〇年代になって障害者の雇用促進法というふうになったわけですけれども、非常に立ちおくれている精神障害者の雇用の状況、現状がどういうものなのか、さらにはそういう点で、一層進めるためにもどんなふうなきめ細やかな対策が組まれているのか、お伺いしたいと思います。
○説明員(後藤光義君) 労働省におきましては、平成五年十一月に従業員規模五人以上の事業所を対象にいたしまして、精神分裂病躁うつ病てんかんにかかっておりまして、症状が安定し就労可能な方々の雇用状況について調査を行っておりますが、その結果によりますと、約二万三千人の方が雇用されているという状況にございます。しかし一方で、先生御指摘のように就職を希望しながらいまだ雇用の場につくことができない方も多く見られる状況でございます。
 私どもといたしましては、精神障害を有する方に対しまして、公共職業安定所が中心となってきめ細かな職業相談指導を行うと同時に、職場適応訓練制度の適用、あるいは特定求職者雇用開発助成金の支給、さらには納付金制度に基づく各種助成金の支給等によりまして雇用の促進に努めているところでございます。
 また、平成四年から平成六年にかけて開催しました精神障害者の雇用に関する調査研究会におきます指摘を踏まえまして、精神障害者雇用のための環境条件整備について必要な検討を行っている状況でございます。
 今後におきましても、精神障害者の障害特性に応じた職業リハビリテーションの充実、事業主に対する援助、労働機関と医療・保健・福祉機関の連携のあり方等につきまして具体的な施策を検討し、精神障害者の雇用の促進に努めてまいりたいと考えております。
○堀利和君 それでは最後に、精神薄弱者、知的障害者の方々の授産施設におけるいわゆる重度加算についてお伺いしたいと思います。
 更生施設と並んで適所授産については適所特別指導費というのがあるわけですけれども、実態から見ると、本来重度の方がいないはずの通過施設としての授産所でありますけれども、実態はやはり重度の方も入ってきているわけです。そういう点では本来の姿に、更生施設と授産施設という形に戻すべきなのか。あるいは、実態に着目していわゆる重度加算があるわけですけれども、現場の方々から聞くととてもこれではやれない、県によっては県単事業として職員配置の補助も出て何とかやっているところもあるんですが、国の補助ではとてもやれないと。実際に多くの重度の方が授産所にいるということから大変困っているわけです。
 確かに、財政当局、大蔵からこういった予算を引き出すというのは大変苦労されたし、その点は高く評価するんですが、今日の現状から見て、ある施設では更生施設よりも授産施設の方が重度が多いということもありますので、ぜひその点は実態に合わせて、いわゆる重度加算というものを厚くしていただきたい、このことを要望申し上げたいと思いますが、御見解を伺いたいと思います。
○政府委員(佐々木典夫君) 適所の授産施設における精神薄弱者の重度の方がふえていることへの対応で、具体的に運営費の助成の面でどうするか、先生は率直にもう実態をよく御承知の上でのお尋ねでございます。私も御質問の趣旨をよく検討させていただきました。
 今もお話がございましたが、建前としまして基本的に更生施設と授産施設とがある。授産施設の方は、基本的にはなかなか通常の職業自立はできないけれども自立に必要な職業を与えるというようなことで、建前としては相対的に軽い方々が入っている。一方、更生施設の方は、どちらかというと保護、指導が中心で、重いというような建前でございます。
 そんなわけですが、適所の更生施設、授産施設、いずれも直接処遇職員、指導職員は、例えば三十人のところですと四人置いてございますが、授産施設の方は授産活動をやるということで、それを担当する職員を多く置いているというようなところでございます。そんなようなわけですが、更生施設の方については、重度化が進んだということで、平成三年度から三年ほどかけまして非常勤の介助職員を一人多く置けるような対応をしてまいったところでございます。
 今お尋ねの問題点でございますが、私ども平成六年度から、適所の授産の方におきましても、半分以上、五割以上重度と判定される方々が入っている施設につきましては更生施設に準じた扱いをしたわけでございますが、実際の実情から見ますとそのままでいいのかどうかというお尋ねでございます。
 ただ、制度の建前から申しまして、授産施設では授産の担当職員も置いた上で、特に重い人が入っているところに限ってとりあえず平成六年度からこういうふうに踏み切ったところでございますので、しばらくは今の姿で運営をしてみたいと思っております。ただ、御指摘のございました点はそのとおりでございますので、制度の基本的なそれぞれの施設のあり方あるいは実情をどう考えていくか、なお問題意識を持った上でこれを見てまいりたいというふうに思っております。
○堀利和君 時間が来ましたから終わりますけれども、医療、保健、福祉、雇用、全体的な総合的な対策を、もちろん精神障害者の問題もそうですけれども、組んでいただきたいということをお願いして、終わりたいと思います。
○今井澄君 それでは、まず精神保健法に関連して数点御質問したいと思います。
 阪神・淡路大震災はあらゆる分野で大きな教訓を残してくれたと思いますが、特に精神科における救急医療体制の整備、これの重要性はかねてから指摘されていたところでありますが、この大震災でも改めて認識されたと思います。このことに関しましては地元の公私のスタッフに大変頑張っていただき、またこれに対しては厚生省も相当力を入れて、まあ十分とは言えませんけれども頑張っていただいたことを評価し、敬意を表したいと思うわけです。
 厚生省としては、今年度予算で予算措置をしていわゆる精神科救急医療システム整備事業というのを行うわけで、今年度は十二都道府県等で行うことになっているわけですが、これが順調に進みそうかどうかという見通しの問題と、それから特に今度の兵庫県の場合には県立光風病院というのが非常に頑張り、兵精協の方もそういう病院を中心に救急医療システムを組んでほしいという希望を持っていると聞いているわけですけれども、この辺、厚生省として光風病院を中心としたこの整備事業をやっていくことについての考え方、姿勢をお伺いしたいと思います。
○政府委員(松村明仁君) 精神障害者の社会復帰や地域ケアを進めるためにも、緊急時におきます適切な精神科医療が提供できるような精神科の救急医療体制の整備は急務と、このように考えておるところでございます。
 このため、平成七年度予算におきまして精神科救急医療システム整備事業というものを計上したところでございます。この事業の推進によりまして、都道府県におきます精神障害者の緊急時における適切な医療の機会を確保するための精神科救急医療体制を順次整備していくことにしておりますが、その見通しということでございますが、本年初めての事業でございますので、私どもも大いに努力を傾けてまいりたいと考えております。
 また、兵庫県におけるこのシステムの整備をどうするかという御質問でございますが、これは精神科だけではないと思うんですが、医療の救急体制ということにつきましては、その体制を実施する地域の実情に合わせて構築していく必要があることは当然のことでございます。特に精神医療の場合はそういう面が強いのではないかと考えておるわけでございますが、兵庫県におきましても県内の事情をよく分析していただいて、適切なシステムがつくられますように県を指導してまいりたいと考えております。
○今井澄君 この災害後、夜間の入院患者が大変ふえて、ピーク時では平常時の二倍あった。現在でも、減ってきたもののまだ一・五倍ぐらいあるようですね。そしてまた、こういう大災害の状況の中で一時的に入院した患者さんも、退院して帰るところがない、避難所にしか行くことができない、そしてまた再入院も少なくないということなわけで、まだまだ心配されるわけです。
 一時は、多くの人々の御協力で県外からの派遣医師など応援体制が続いて、救護所、避難所等における精神科救急医療や巡回診療なんかもまあまあうまくいっていたようですが、この応援体制がなくなると同時に夜間救急体制が解除されてしまったということで、今非常にこれが問題となっている、空白が生じていると思うんですね。確かに数は減ってきたとはいうものの非常に問題じゃないかと思うんですが、これに対しては一体どうしようと考えておられるのかということが一点。
 それからまた、災害後の問題としては退院患者の受け皿づくり、これは一般的にもそうですが、急がれているわけですが、仮設住宅公営住宅の受け入れが十分ではない。特に、これは先ほどから縦割りの弊害が指摘されていることにも関係するんですが、第一次の仮設住宅の入居のときには障害者の中に精神障害者が含まれていなかったんですね。それで、それに気がついて第二次から入った。
 ところが、これが一級ということになりますと、身体障害や精薄の場合には何か千人から万の規模でいるようですね、手帳を持った方が。ところが、精神障害一級というのはわずか十九人しかいないんですよ。しかも、その人たちはほとんど入院している人で、在宅の人が実質は全然入れないんですね。そういう状況で、対策をやっているとはちょっと言えないんじゃないか。
 また、単身の公営住宅への入居も非常に困難だというのは、これは神戸だけではなくいろいろあるわけですが、そういう点についてどういう対策を今後とられるのか、あるいは現にとられつつあるのかということです。
 それと、こういう住居などのハード的な面だけではなくソフト面やスタッフ面が大事なんですね。今、仮設住宅であいているところがあるけれども、これは遠いとか生活基盤がない、近くにお店がないというので行かないわけですよ。せっかくあいているんですから、こういうところへ例えば指導員なりPSWなりをつけて精神障害者の方に入っていただければ、あるいは食事の宅配サービスをやるとかいうソフト面のサービスを付加すれば、十分に病院からも退院できるし、それから救護所からもそういうところへ障害者に入ってもらえるんですね。こういうことについてはどうかということをちょっとお尋ねしたいと思います。
○政府委員(松村明仁君) たくさんの御質問でございます。現在の兵庫県の状況でございますが、震災後約四カ月を経過いたしまして、災害対策も応急期の対策から復興期の対策へと転換していることは御承知のとおりだと思うんですが、精神保健の医療体制につきましても、被害を受けられた医療機関の診療再開等によりまして平時の体制が徐々に確保されつつあると聞いておるところでございます。夜間の対応につきましても、それぞれが必要な対応を行う震災前のシステムに戻ってきているのではないか、こんなふうに聞いております。
 それから、精神障害者仮設住宅あるいは公営住宅への入居につきましては、当初、委員御指摘のような状況がございましたが、これを改善いたしまして、精神障害者の方も優先的に仮設住宅公営住宅へ入居していただけるように指導を申し上げたところでございます。
 また、そういうところに入られた方あるいはまた病院から今後退院をしていかれる方々についても、兵庫県におきましては本年度より、被災者や精神障害者の心のケアを担うためにこころのケアセンターというのを開設いたしまして、被災地十二カ所にも地域ケアセンターというようなものを設置し、それぞれ精神科の医師等三名の専門スタッフにより相談、援助を行う、こういうことにしております。また、グループホームですとか小規模作業所もここのところに併設されることとしておりまして、国といたしましても、社会復帰対策予算等を活用いたしましてこうした取り組みを支援してまいりたいと思います。
 こういったことを通じて、今委員御指摘のような点には総合的に対応していきたいと考えております。
○今井澄君 平常時に戻りつつある、確かに傾向としてはそうですけれども、まだ戻っていないというこの空白がちょっと心配されるということと、今のこころのケアセンター等についても急いでいただきたい。
 それから、特に神戸については、よその市のことを批判しちゃいけませんけれども、町づくり、箱物づくりはよくやってきたけれども、福祉がおくれているというとかくの批判があるわけですから、この復興対策の中に十分福祉対策というのを盛り込んで、ある意味ではモデル的な福祉地域にするために頑張っていただきたいと思いますし、またそういう熱意は地元にあるあるいは支援体制があるという好条件ですので、ぜひ厚生省のお力をお願いしたいと思います。
 時間がありませんので次に行きたいと思います。
 この神戸でも先頭に立って大活躍をしたPSWの皆さんたちがおられるわけですが、精神科医療に不可欠であり、同時に社会復帰のためにはもう絶対に欠かせないPSW、精神科ソーシャルワーカーについてその国家資格化が急がれるべきだというのはほぼ常識になっていると思うんです。そして、本委員会で私を初め大勢の方が取り上げ、また附帯決議までしているわけです。それで、厚生省もこれに真剣に取り組んできたということを私は信じております。
 しかしながら、今回の法改正にこれが入っていないということ、これは非常に問題だと思いますが、その見送られた理由と、あと国家資格化へ向けての厚生省としての、厚生大臣としての御決意について、簡単で結構です、大臣御みずからちょっとお答えを願いたいと思います。
国務大臣井出正一君) PSWの国家資格化につきましては、公衆衛生審議会におきましても資格制度をつくるべきだという意見の一致は見ているところでございますが、ただ残念なことに、まだ医師や看護婦の業務との関係とか、あるいは医師の指示、さらには社会福祉士等との関係、さらには資格の名称など、その資格のあり方についてはさまざまな意見がございまして、今回この問題の結論を出せなかったわけでございます。
 今後、関係団体の間でさらに意見の調整をしていただいて、できるだけ早く結論を得るよう努力してまいりたいと思っております。
○今井澄君 ちょっと個別の問題に移りますが、大阪の大和川病院の問題ですが、これは前にも私取り上げたことがございますが、患者さんが別の病院に転送されて急死をする、院内暴力によるあれだということで裁判も始まっておりまして、私の友人の医師がつい最近家族側の証人で出て、次は反対尋問だという話であります。その後も急死している例があるといううわさもあるんですが、まあこれはいろいろあります。確かに、こういう問題は何も病院側だけの責任ではなく、家族にもそういう病院に預けたがる家族がいるとか、いろいろ周囲の問題もあると思いますが、しかしやはり今の時代にこういう問題のある病院があってはならないと思います。
 そこで、最近私がいろいろ聞きましたところでは、家庭にいる精神障害の患者さんが状態が変わる、家族から病院側に依頼があると病院から救急車が行くわけですが、そのときに乗っていくのは看護士とそれからあとガードマンとおぼしい人たちだけなんですね。それで行って、保護衣を着せて連れてきちゃうんです。医者は行っていないんですね、精神保健医の方は乗っていっていない。そういうスタッフだけで、しかも保護衣を着せて連れてきちゃう。
 これは果たして合法なのかどうかということですね。しかも、保護衣を着せて連れてきて入院させた患者を任意入院として届けているんですね、扱っている。これはおかしいんじゃないかと思うんですけれども、いかがでしょうか。
○政府委員(松村明仁君) 任意入院の患者さんに保護衣を着せて体の自由を拘束した状態で搬送するといった事例がもしあるとすれば、これは任意入院制度の趣旨からして不適当な事例であると考えます。
【次回へつづく】