精神医療に関する条文・審議(その74)

前回(id:kokekokko:20051018)のつづき。初回は2004/10/28。
ひきつづき、平成7年法律第94号(精神保健法の一部を改正する法律)での議論をみてみます。

第132回参議院 厚生委員会会議録第11号(平成7年5月11日)
【前回のつづき】
【略】
○木暮山人君 平成会の木暮が、精神保健法及び結核予防法の一部を改正する法律案に関しまして質問をさせていただきます。
 まず第一に、保険優先の問題につきまして質問をさせていただきます。
 今回の改正は、障害者基本法の成立やそれに基づく障害者基本計画の策定あるいは地域保健法の成立などを背景に行うものとのことでありますが、国の財政が厳しい中で公費負担医療の保険優先化を行うこともその緊急の必要性の一つだったのではないでしょうか。
 精神保健法の公費負担医療について、これまでの公費優先の仕組みから保険優先の仕組みに改める趣旨を、改めてひとつ御説明いただきたいと思います。
○政府委員(松村明仁君) 精神保健法の公費負担医療は、実は昭和二十年代、三十年代の医療保険制度がまだ脆弱な時期に制度化されたものでございます。これは当時のさまざまな事情のもとで、精神医療を確実に行わせるために公費優先による公費負担医療の仕組みをとったものでございます。
 今日、医療保険制度が国民皆保険制度として整備を見ております。給付率の改善など普及、充実するとともに、一方で精神医療の治療技術の進歩、精神障害者の社会復帰の進展などの状況変化を踏まえまして、一般の疾病の場合と同様にまず医療保険制度を適用していただいて、その基盤の上に公費による負担を組み合わせた保険優先の仕組みとするものでございます。またこれは、これまでの医療費の公費負担を中心とした施策から、精神障害者の社会復帰対策、福祉対策等の一層の充実に、限られた公費財源を重点化してより有効に活用するように改めたものでございます。
○木暮山人君 昨年八月の公衆衛生審議会の意見書で、精神の公費負担医療の保険優先化の方向が示されて以来、全国の精神科医の間から保険優先化の考え方にはさまざまな疑問の声もありました。それは、精神医療が公費優先で行われているということについて、精神科医は国からの付託を受けて特別な医療を担っているという自負心がありました。それが保険優先化により精神医療の役割が低下してしまう、あるいは国の責任が後退してしまうという不安感を覚えさせられたのではないかと考えております。
 そういう点から見まして、ただいまの説明も結構でありますが、保険優先化は精神医療の役割や精神医療に対する国の責任の後退ではないという厚生大臣の明確な確認等の御説明をちょうだいできればと思います。
国務大臣井出正一君) 保険優先化の趣旨につきましては、ただいま局長の方からお答えを申し上げたとおりであります。
 したがいまして、今回の改正は公費と医療保険財源との調整方法を改めるものでございまして、先生今御指摘のように、精神医療の役割とかあるいは精神医療に関する国や都道府県の公的責任につきましては従来と全く同様でございまして、何ら変更を与えるものでないということをはっきり申し上げられますし、またそう御理解いただきたいと思います。
○木暮山人君 大臣のそういうお考えがあるとすれば、担当医も非常に安心して今までどおり精励できることと考えております。
 次に、指定医に関しましての質問をさせていただきます。
 我が国の制度では、医師の資格は一つの資格を持つことにより、内科医、外科医、産科婦人科医、眼科医、耳鼻咽喉科医、精神科医などすべての診療科について行う資格が与えられる仕組みであります。それぞれの診療科の専門医として力を発揮していくために努力と研さんと経験を積み重ねていくものであります。
 精神医療においては、強制的な入院や行動制限を行うなど人権抑制的なことも行うために、精神科医は医学附な知識においても深いものを持っていることが必要であるとともに、人権擁護のためのさまざまなルールや、精神障害者の社会復帰や生活の自立を援助するための保健福祉の制度についても最新の知識を持っていることが必要であります。このため、精神医療の一定の知識と経験を有する医師を精神保健指定医として厚生大臣が指定し、強制的な入院や一定の行動の制限を行うためには指定医の診察がなければできないこととしているのであります。
 今回の、五年ごとの研修を受けなければ指定が失効するという研修の受講促進の措置の趣旨については、その意義自体は認めますが、研修の意義を一層明確にするためには研修の内容をもっと充実させ、受講する医師にも魅力的なものとすべきではないかと思われますが、いかがなものでしょうか、御所見をお伺いしたいと思います。
○政府委員(松村明仁君) 研修につきましては、御指摘のような問題があることは私どもも承知をしております。現在、この研修につきましては、初めて指定を受ける方もあるいはまた更新の方も同一の研修内容となっておりますが、初めての方と更新の方とで研修内容に変化を設ける等によりまして研修内容の充実を図る、さらには御指摘のように受講者に魅力的なものとなるように十分検討してまいりたいと思います。
○木暮山人君 指定医については、五年ごとの研修を受けなかった場合は、研修を受けられなかったことについてやむを得ない理由がある場合を除きその指定は失効することとなるが、余り硬直的ではよりよい精神医療のため日夜努力している医師にとって困るし、逆に何でも認めてしまうのではこの改正の意味を失ってしまいます。
 研修を受けなかった場合でも指定が失効しないこととするやむを得ない理由として、これからのことについて具体的にどんなことが考えられるか、ひとつ御所見等をお伺いしたいと思います。
○政府委員(松村明仁君) 今話題になっております研修でございますが、この研修は年六回開催されておるわけでございますが、研修を受けられなかったことについてやむを得ない理由がある場合を除いてその指定は効力を失う、こういうことになっておるわけでございます。
 そこで、このやむを得ない理由ということでございますが、これは私どもは、例えば病気で療養中であるとかあるいは長期の海外出張であるとか、こういった真にやむを得ない理由がある場合につきましては、翌年の研修を受けていただくことによりまして引き続き指定が有効なものになるような、そういう柔軟な対応は考えてまいりたいと考えております。
○木暮山人君 ひとつそのようにお願いしたいと思います。
 次に、精神科救急の問題に関しましての質問をさせていただきたいと思います。
 改正により新たに設ける第四十七条二項では、「都道府県等は、必要に応じて、医療を必要とする精神障害者に対し、その精神障害の状態に応じた適切な医療施設を紹介しなければならない。」とありますが、夜間でも日曜休日でも、緊急の場合に医療機関の紹介、あっせんが受けられる仕組みを整備することが必要であり、このためには二十四時間対応の電話相談や二十四時間対応の精神病院側の受け入れ体制の確保が必要であります。
 精神科救急医療体制の整備にもう少し積極的に取り組むべきと考えますが、いかがなものですか、またその推進方策はいかがなものでしょうか、お考えをひとつ御説明願いたいと思います。
○政府委員(松村明仁君) 緊急時に適切な精神科医療が提供できるような精神科救急医療体制の整備は急務であると考えております。このため、平成七年度予算におきまして精神科救急医療システム整備事業というものを計上しているところでございます。この事業を順次推進していくことによりまして、都道府県におきます精神障害者の緊急時における適切な医療及び保護の機会を確保することとしております。
 この精神科救急医療システム整備事業におきましては、今委員御指摘のような問題につきまして、例えば精神科救急医療相談あるいは情報センターというものを設置し個別の事例の相談に応じますとともに、精神科救急病院の利用の案内なども行おうと考えておるところでございます。このためには、常時受け入れ可能な当番病院を確保するというような問題もございますが、何よりもその地域におきましてこの精神科救急医療システムがうまく動くように連絡調整をしていただく連絡調整委員会というようなものも設けまして事業を行うこととしておるところでございます。
○木暮山人君 精神病院の入院患者の三割は十年以上の長期の患者であります。しかも、この中には症状が重くない患者も少なからずおります。この長期入院患者の社会復帰や医療ケアを今後どうしていくおつもりか、その対応を御説明願いたいと思います。
○政府委員(松村明仁君) 現在、入院中の精神障害者の方は約三十三万人ほどいらっしゃるというように考えておりますが、このうち数万人の方は、社会復帰施設やグループホームあるいは相談援助体制などが整備されることによって退院が可能だと言われておるところでございます。
 したがいまして、長期入院者の社会復帰対策といたしましては、社会復帰施設やグループホーム等の整備を鋭意進めてまいりますとともに、精神病院におきます医療についても、生活訓練や作業療法など社会復帰を促すような医療ケアの推進を図ってまいりたいと考えております。
○木暮山人君 社会復帰施設やグループホームの整備がなかなか進まない理由の一つとしては、住民の反対運動があり、老人福祉の施設ならばよいが精神障害者の施設は危ないから困るという、いわば迷惑施設として住民が反対するという事実がありますが、施設などできちんとした生活指導がされ適切な通院医療を受けている場合、精神症状も薬などで抑えられ、いわゆる凶悪な事件を起こしたりする危険はないし、またそのような実情を住民に精神障害についての正しい知識の普及を図ることが大切であり、普及啓発を含めた地域精神保健福祉活動の充実を図るべきではないかと考えられますが、いかがなものでしょうか、御所見等をお伺いしたいと思います。
○政府委員(松村明仁君) 社会復帰施設の整備がなかなか進まないということでございますが、相当数の施設の整備が行われてきたのも事実ではございますが、御指摘のように、全体的に見ますと現在十分な整備が行われているとは言えないような状態にあることは承知をしております。
 また、なぜこういうことになるのかということにつきましては、まず何と申しましても、精神障害者の社会復帰対策が他の障害者施策に比べて歴史が浅いこと、こういうこともあろうかと思います。また、精神障害者社会復帰施設につきましては、当初、運営費の四分の一が設置者の負担とされておりましたために、施設設置者の費用負担が大変重いものになっておりました。これも大きな理由として考えられております。またこのほか、御指摘にもございましたが、精神障害者に対する地域住民の方々の御理解が必ずしも十分ではない、施設の設置につきまして周辺住民の方々の御理解を得ることが容易でないということも課題の一つとして指摘をされているところでございます。
 こういった理由が考えられますために、平成五年度には、これまでございました運営費の設置者負担の解消を行うとともに、平成六年度以降も運営費の補助額の改善を図ったところでございますが、今後とも、こうした改善に加えまして地域の関係の方々の理解と協力が得られ、社会復帰施設等の積極的な整備が進むように努力をしてまいりたいと思っております。
○木暮山人君 よろしくお願いします。
 次に、よりよい精神医療に関しましての質問をいたしたいと思います。
 精神病院の中には、職員が少なく十分な医療ができなかったり、病院の施設が貧弱であったりするものもあり、時に問題を起こす病院もあります。よりよい精神医療を求めていくためには、国が基準を定め、立入検査などを行って監督していくことも一つの方法であります。また、よい医療を行っている病院にはそれ相応の診療報酬を与えることも一つの方法であると思います。しかし、このほか精神医療界における自主的な取り組みとして、医療担当者がお互いに医療内容を評価し合い高め合っていくような努力を進めていくことも重要であります。
 近年、病院の機能評価やピアレビューの重要性が指摘されており、日本精神病院協会などでもその推進に着手しておりますが、国としてもこのような動きを推進し、よりよい精神医療の確保のために努めるべきではないかと考えますが、お考えをお伺いしたいと思います。
○政府委員(松村明仁君) 病院の機能評価でありますとか、あるいは医療の担当者みずからがお互いに医療の質の評価を行いますいわゆるピアレビューということを推進いたしますことは、御指摘のとおり精神医療の質の向上のために大変意義のあることだと考えております。私どもも、日本精神病院協会などの専門医療団体がみずから精神医療の向上を図るためにこうした努力を傾けられることは大変好ましいことであると考えております。
 厚生省といたしましても、このような取り組みに対しましては必要な協力をしてまいりたいと考えております。
○木暮山人君 今回の精神保健法改正は、我が国の精神医療と精神障害者福祉に新たな枠組みをつくるものであり、新しい時代の始まりとなるものでもあります。これを今後どのように生かして実効あるものとしていくかが重要なことであります。
 この法律を踏まえまして、よりよい精神医療と精神障害者福祉を実現していくための努力を行っていくことについて大臣の御決意等がございましたら、ひとつお伺いさせていただきたいと思います。
国務大臣井出正一君) 御指摘のとおり、よりよい精神医療と精神障害者福祉の実現は極めて重要な課題でありまして、今回の精神保健法の改正によって精神障害者の福祉の法的枠組みが初めて整えられましたし、またよりよい精神医療の確保を図るための措置も講じられたところでございます。
 したがいまして、今回の改正を契機としまして、厚生省といたしましてもよりよい精神医療の確保や精神障害者の社会復帰対策、福祉施策の一層の推進を図ってまいりたいと考えております。
○木暮山人君 どうもありがとうございました。
【略】
萩野浩基君 新緑風会の萩野でございます。
 今回の精神保健法の一部を改正する法律案の提案理由を見てみますと、「平成五年十二月に障害者基本法が成立し、精神障害者基本法の対象として明確に位置付けられたこと等を踏まえ、これまでの保健医療対策に加え、福祉施策の充実を図ることが求められております。」、こうした旨のことが出ておりますけれども、平成七年度の予算を見るときに、何か私はちょっとまだ足らないんじゃないかと思いますけれども、どの程度の充実ができると考えていらっしゃいますでしょうか。
○政府委員(松村明仁君) 今回の精神保健法の改正は、平成五年の十二月に障害者基本法が成立いたしまして精神障害者基本法の対象として明記されたこと、御指摘のとおりでございます。
 また、平成六年七月に地域保健法が成立をいたしまして、地域保健対策の枠組みが改められたこと等を背景にいたしまして、精神障害者の社会復帰の促進や自立と社会参加の促進を図るために、精神障害者保健福祉手帳制度の創設あるいは社会復帰施設や事業の充実、相談指導の充実等を行いまして、精神障害者の福祉施策を法律に位置づけるとともに、地域精神保健対策の充実を図ることとしているところでございます。
 このため、平成七年度の精神保健福祉関係予算におきましては、社会復帰施設やグループホームあるいは小規模作業所、通院患者リハビリテーション事業の整備を積極的に進めますとともに、新たに都道府県及び市町村が地域の実情に即しました各種の事業を実施するための地域精神保健対策促進事業、あるいは精神障害者の緊急時における適切な医療と保護を確保するための精神科救急医療システムの整備、さらに精神障害者のための手帳交付事業等を行うことによりまして、精神障害者に対する保健福祉施策の充実強化を図ることとしておるところでございます。
萩野浩基君 最初申し上げたとおりに、予算はこれは見ればわかるとおりでございますけれども、今もろもろのことを挙げられまして、確かにそれが充実していけば立派と思いますけれども、もう一応平成七年度の予算というのはそのとおりになっているわけですから、今後こうしたものを推し進めるためには十分考えていっていただきたいと思います。
 また、この目的や責務規定等に自立と社会参加の促進ということが特に強調されておりますが、この理念を実現するために、私は特に現代医学の進歩とあわせて精神障害者の今後の社会復帰ということが非常に大事な点だろうと思います。これは一つの理念にかかわることでありますので、大臣、簡単で結構でございますから、一言御答弁お願いします。
国務大臣井出正一君) 先生御指摘のように、確かに医薬を含めた医学の進歩の結果でしょうか、かつては収容医療みたいなものが普通だったのが通院医療が主になり、さらに自立あるいは社会参加ということがむしろ大変大事なテーマになってきたわけでございます。
 今回の法律の改正もまさにその点にございまして、精神障害者が地域の中で自立して生活し、社会のさまざまな分野に参加していけるよう社会復帰対策を進めていくことが極めて重要な課題だと考えております。予算につきましては決して十分とは思いませんが、ただいま局長の方から御答弁をしたところであります。
 この法の改正を契機に、今後ともより一層こうした施策の推進を図ることによりまして、精神障害者の皆さんの社会復帰対策の一層の促進を図ってまいりたいと思います。
萩野浩基君 ぜひそのようによろしくお願いいたします。
 次に、これは同僚の委員の方からもいろいろな角度から質問されておりましたけれども、手帳の問題です。改正案の四十五条の精神障害者保健福祉手帳の問題でございますが、特に大事な点は、いろいろ御配慮されておるというのは、私は政府の方からこの法案作成の経緯も聞いておりますが、どうしても人権とのかかわりというのに非常にみんな関心を持っております。
 そこで、その人権とのかかわりと手帳の交付基準ということについて、くどいようですが、質問いたしたいと思います。
○政府委員(松村明仁君) 精神障害者保健福祉手帳につきましては、精神障害者に対する福祉の枠組みをつくり、手帳の交付を受けた方に対して各方面の御協力をいただいて各種の支援策を講じやすくすることにより精神障害者の社会復帰を促進いたしまして、その自立と社会参加の促進を図ることを目的としておるところでございます。
 この手帳制度につきましては、これまでプライバシーの観点などから、手帳は御本人の申請により交付する制度にしてほしいとか、顔写真は張らないこととしてほしいなどの御意見が出されているところでございます。このため、今御指摘のような点にも配慮いたしまして、今回の改正におきましては手帳は申請に基づいて交付をするという制度としておるところでございます。
 また、手帳の内容でございますが、別途専門家による検討会を設けて検討していただくこととしておりますが、今御指摘のような点に十分配慮をして、この手帳がうまく受け入れていただけるように考えてまいりたいと思っております。
萩野浩基君 ぜひその辺よろしくお願いいたします。
 以前、私は法務委員会におりまして、そういうところで指紋押捺の問題とかこういう点について、もうかんかんがくがくの議論をいたしました。非常に大事な点でありますので、人権とのかかわり合いということを十分御配慮の上、お願いいたしたいと思います。
 次に、ちょっと角度を変えますけれども、こういう機会ですので、精神科ソーシャルワーカーの問題が話題になりながらどうも消えておるという点についてちょっとお尋ねさせていただきたいと思います。
 公衆衛生審議会の答申の中に附帯意見というのが出ておるのを御案内と思いますが、このソーシャルワーカーをどうしても国家資格制度というものに変えていかなければならない、私もそのように思っている一人であります。今回の法改正にできれば盛り込んでほしいというようなことであったと思いますが、資格制度そのものについては意見の一致を見ているようにも聞いております。
 だけれども、これは大変手厳しいことを言うようですけれども、厚生省の方を見ますと、私も福祉の方をやっておりますからいろんな問題にぶつかるときに、どうも縦割りが強いんですね。だから、せっかくソーシャルワーカーの国家資格制度創設というのにも、お医者さんの方からとかまた看護婦さんの方からとか、いろんな業務関係などでなかなか意見の一致を見ない。そうしたところからいまだに先送りされておる。
 私は、やっぱりこの辺で厚生省の方が、何も強引にするのではなくてそれぞれコーディネートしながら、もうこの辺のところである程度結論を出さなきゃならないんじゃないかと思いますが、いかがでしょうか。
○政府委員(松村明仁君) 今御指摘の精神科ソーシャルワーカーでありますが、精神科の医療と精神障害者の福祉に関する知識を持たれて、医療機関や保健所、社会復帰施設等におきまして、精神障害者に対する適正な医療の確保や社会復帰の促進及び自立と社会参加の援助のために働く専門家でございます。
 この精神科ソーシャルワーカー、PSWの国家資格制度の創設につきましては、平成六年の十月に専門家による研究会の研究報告が取りまとめられたところでありますし、またその報告書を踏まえて、今御指摘のように、公衆衛生審議会において今回の精神保健法の改正に向けて新しい資格の制度化を盛り込むことをも含めて検討をいただいたところでございます。
 資格制度をつくるべきであるということについては審議会の意見の一致を見たところでございますけれども、関係する方々、いろいろ医療関係の方々がございますが、そういった方々、すなわち資格を持っておられる方々の団体との間で意見の一致を見ていないという状況で、今回この法案に盛り込むことができなかったところでございます。
 いずれにいたしましても、厚生省といたしましては、今後関係団体を含めた検討の場を設けまして、国家資格のあり方について関係団体の御意向も十分に調整しながら結論を得るように努めてまいりたいと思っております。
萩野浩基君 御案内のとおりに、複雑多岐な現代社会の中で我々生きていく中においては、いつ何とき我々がいろんな心の悩みそれからそれが障害になっていく、そういうようなことが起こらないとは限りません。
 そういうので、このPSWに関して日本が遅々として進まないというのは、これは私さっきも言いましたからもう余りくどく言いたくはないんですが、どうも縦割りでいっている、そこをやっぱり厚生省の方が、ある程度の意見の一致は見ているんで、私も経過はずっと読みましたけれども、少し進んでいるんです。だから、これをもう一歩、公衆衛生のこういう見地からぜひともこれを前向きに推し進めていくというぐらいの姿勢は、ひとつ大臣、ちょっとここで言っていただきたいんですが、いかがでしょうか。
国務大臣井出正一君) 今、局長から御答弁申し上げたような経緯で、資格制度化につきましては意見の一致を見ながら、具体的な問題になるとまだなかなかそれぞれのお立場の皆さんのあれが一致を見ないわけですが、これをほうっておいてはいつまでも見ないということになっちゃいますから、少し厚生省の方で積極的にお願いをするというか、それぞれに理解していただかなくちゃならぬとは思っております。
 ただいま局長から申し上げましたように、検討の場をできるだけ早くつくって、もう大目標は一致しているんですから、それぞれのお立場のあれはあるでしょうが、それに向かってやはりある程度それぞれが譲り合っていただかないとどうしてもできないことじゃないかなと思っておりますから、そんな方向で努力したいと思います。
萩野浩基君 それぞれがかなり今譲り合ってきているというのは私も議事録等を見まして感じておりますので、大臣、ぜひともその辺ひとつ、大変なPSWの実現に向けてよろしくお願いいたしたいと思います。
 次に、精神科の今話題になっておりますデイナイトケアの問題についてちょっと触れてみたいと思いますが、福祉福祉と言われておりますが、この精神科のデイナイトケアの場合、同じ患者でも入院させるよりもデイナイトケアの方がより高い収入を得るケースが出てくるんじゃないかというような場合も考えられます。
 つまり、本来であれば入院の必要な患者が、例えば病院の都合でデイナイトケアに移されるというケースが起こる可能性があると思います。また起こっておるとも聞いておりますけれども、厚生省はこれにどのような方向で臨む姿勢でいらっしゃるんでしょうか。
○政府委員(岡光序治君) 今回の法改正の趣旨でございますが、やはり自立と社会参加の促進というふうなことが目指されているわけでございまし
て、そういういわば社会復帰の促進ということを大いに心がけるべきではないだろうかと思っております。そういう意味では、御指摘がありました精神科のデイナイトケアというふうなこういう方策は非常に有効なんじゃないだろうかと思っております。
 この点数は平成六年十月、昨年の十月に設定をしたものでございまして、入院治療を必要とするほどではない精神病の患者を社会生活に順応できるように訓練を行うということでございまして、あくまでも入院の必要な患者さんは入院治療をしていただかなきゃならぬので、そこのところはしっかり区分けをしているつもりでございます。
 先生御指摘のようないろんな精神科の入院のケースもありますので、点数を端的に一つのことで言えませんが、例えば精神分裂病で長期入院しているような人は、確かにこのデイナイトケア、これが一日につきまして千百三十点になりますので、それよりも低い点数の入院の患者のケースもあることはあります。しかし、それは結果としてそうなっておるのでありまして、あくまでも入院の必要のない人を念頭に置いているわけでございます。
 そういう意味で、病院の都合で入院の必要な人なのにこのデイナイトケアの方に渡してしまう、そんなふうなケースがありましたらこれはちょっと問題でございまして、その点は個別に適切に指導していかなきゃいけない。そこは考え方が違っておりますので、あくまでも区分けをして対応していくべきではないかと思っております。
萩野浩基君 わかりました。その点を特に御注意いただきたいと思います。こういう制度はいい方向に使われないと意味がないので、よろしくお願いいたします。
【略】
西山登紀子君 まず最初に、大臣にお伺いをいたします。
 本改正の二法案については、関係する患者や家族の皆さん、医師の間でも後退ではないかという指摘がございます。つまり、現行法では医療費は公費を優先する方式であったものが、改正案では医療保険を優先するものとなるわけです。その結果、精神、結核の両方で合わせまして国費の負担が七月以降で百四十七億円、満年度で百九十六億円削減をされると医療保険の負担がふえることになるのではないか、ですから国の医療に対する姿勢の後退ではないかという主張です。
 これは確かに、私はこの法案の提出されましたルーツをさかのぼって考えてみますと、この法案が提出されました動機が、言葉は少し悪いですけれども不純ではないかというふうに思うわけです。昭和五十四年、一九七九年の財政制度審議会の報告がございますけれども、その中に「歳出の節減合理化に関する報告」という部分がございます。その検討する項目の中で、「結核の医療費については、現行の公費負担制度から、保険を優先して適用する制度にできるだけ早期に改めるのが適当である。」、こういう指摘があるわけです。昭和五十四年ですから一九七九年、かなり前に報告がされているものです。
 ですから、今回の法改正というのが歳出の削減合理化、これを目的とした改正ではないか、したがって国の姿勢の後退だと見る意見には私は根拠があるというふうに思うわけです。我が党はこうした点も踏まえながら、患者負担が軽減されるという点に着目をいたしまして衆議院では賛成をいたしました。
 そこで、確認をしておきたいと思うんですけれども、精神障害者措置入院結核患者の命令入所などの強制措置に関しては患者負担がほとんどなくなり、それ以外の外来については、国保の場合は加入者負担は一五%から五%へと軽減されるわけですが、こういう患者さんから歓迎をされている点を、今後、財政不足などを理由にして運用上の今回の措置を変えて患者負担を重くするなどということが絶対ないようにしていただきたい、約束をしていただきたいと思うんですけれども、いかがでしょうか。
国務大臣井出正一君) 最初の方の御指摘、むしろ後退じゃないかという点につきましては、午前中の御論議でも御答弁申し上げましたように、今回の改正は公費と医療保険財源との調整方法を改めるものでございまして、精神医療の役割とかあるいは障害者についても同じですが、国や都道府県の公的責任というものについては全く従来と同様である、何ら変更なされるものではないということを申し上げておきたいと思います。
 それから、今後自己負担がふえるようなことは絶対ないと言えという命令みたいな御質問でありますが、私もふやしたいとは思っておりません。しかし、患者負担のあり方につきましては、今後とも必要な医療を確保するという観点から、社会経済情勢を踏まえた適正なものであるべきだと考えますから、この場で絶対にないというお約束は残念ながらいたしかねます。
西山登紀子君 患者の方々から歓迎をされている点ですから、大臣の方から絶対やらないというお答えをぜひいただきたいと思ったんですけれども、ぜひ今後こういう点は努力をしていただかなければならないと思います。
 次に、精神障害者措置入院の場合ですが、公費負担医療になっているわけですが、これは入院患者のわずか一・九%です。それ以外の医療保護入院、任意入院については公費負担とはなっておりません。そこで、我が党は衆議院の段階では、精神障害者措置入院以外の入院についても結核患者の場合と同じように公費負担の対象に加えるように修正案を提出したわけでございます。障害者医療につきましては、やはり国庫負担を削減する方向ではなくて公費負担の医療を拡大する、これが国の基本姿勢として求められている点だと思いますけれども、精神障害者の場合の医療保護入院、任意入院についても公費負担の方向にしていく、こういう努力についてぜひ要望をしたいと思いますが、どうでしょう。
○政府委員(松村明仁君) 精神保健法に基づきます措置入院制度は、自傷他害のおそれのある方を強制的に入院させる制度でございまして、確実に医療を受けさせる必要が特に高いことから公費負担医療を行って自己負担の軽減を図ろうとするものでございます。
 これに対しまして医療保護入院あるいは任意入院は、措置入院とは異なりまして自傷他害のおそれのない方について保護者あるいは御本人の同意を得て入院させる制度であることから、一般の医療と同様に取り扱うことが適当ではないかと考えておりまして、特別な公費負担を行うことは考えておりません。
西山登紀子君 入退院を繰り返している精神障害者の医療費の負担は非常に高いというようなアンケート結果もありますので、ぜひ御検討をしていただきたいと重ねて要望しておきたいと思います。
 次に、全国精神障害者家族会連合会、いわゆる全家連が行われた調査がございます。九一年から九二年にかけて行われた調査です。これはこういう冊子にもなっておりまして、大変立派なものです。しかも、この調査というのは八五年に行った調査に次ぐものでありまして、継続的にそして定期的に時間的経過も踏まえ、しかも全国的なデータを積み重ねたという点で精神障害者と家族の置かれた実態を正確に把握することを目的としたものですけれども、大変貴重な調査だと思います。厚生省ももちろん御存じのことだと思います。
 そこで、その置かれている実態はどうかということで少し御紹介をしたいと思いますが、一つは本人の高齢化の問題があります。発病の時期が大体二十歳代前後というのが圧倒的に多く、入院の継続も二十年以上経過しておられる方が五七%、こういうふうな率からも御本人自身の高齢化、そしてまた世話をする方々の高齢化、これが問題になっているわけです。
 中高年齢の精神障害者をお世話する親御さんは老父母世帯、それは入院していらっしゃる方の三五%、在宅していらっしゃる方の五七%に上ります。生活の収入は何によっているかといえば、御本人の場合は年金の依存率が非常に高くて六一%です。そして、本人を支える家計の中心者は父親が多いわけですけれども、その収入源は無職、年金ですね、これが四一%というように年金で支えられている家庭が非常に多くございます。
   〔委員長退席、理事菅野寿君着席〕
 家族の生活の困難度の中で、先ほども言いましたが、出費の中でも繰り返しの入院費が三四%で、困難度の中では最も高く出ております。最近一年間の生活上の苦労は、最も多いのは将来の見通しが立てられない不安や焦りが七一%も占めております。病気が回復しても働く場や訓練の場所がない、これが五一%を占めているわけです。あとは、家族員の結婚の問題の気苦労、いろいろあります。そして、近い将来の生活の場としてどこで住みたいかという問いの一番多い答えは、やはり家族とともに暮らしたいが四〇%、病院が二五%、福祉施設は二二%、こういうふうになっているわけです。
 そして重要なことは、精神保健法の後に医療や福祉がよい方向に改善されたと評価する者は四八%ありますけれども、変化がない、むしろ悪くなった、どちらとも言えないというのを合計いたしますと二五%ある、こういうような実態であります。
 私は京都ですけれども、精神障害者を抱えていらっしゃる御家庭を訪ねてまいりました。十八歳で発病されて今四十二歳の息子さんを抱えながら、御両親は相当高齢です。お店をしながら見ていらっしゃる。やはり兄弟の結婚の問題、本人の就労の問題、救急の問題、そして最後には親が病気あるいは親亡き後の対策が本当に心配だ、こういう声を聞いてまいりました。
 こういうような実態についてはもちろん厚生省は御存じだと思いますけれども、こういう全家運のアンケート調査結果なども踏まえまして、精神障害者の置かれている実態についてのまず認識をお聞きしたい。
 そしてあわせて、今回の改正では法律の名前に福祉というのが入ったわけですけれども、今回の改正は、収入が低い、家族が高齢化している、将来に対する不安が大きい、こういう精神障害者の生活の実態に政治の光といいますか、福祉の光を当てる、そういう決意を示したものだと理解をしてよろしいかどうか、確認をしておきたいと思います。
○政府委員(松村明仁君) 全国精神障害者家族会連合会の調査によりますと、精神障害者御本人については日々の生活に精いっぱいであるということで経済的にも苦しい方が単身者を中心にして多くいらっしゃる、また実際の生活においては食事づくりや掃除、洗濯が苦手であるというような日常生活に困難を抱えておられる、また対人関係が苦手であるため社会生活上の困難があり、また将来設計に対して多くの方が自信を持ち得ない状況にある、こういう調査の結果があることにつきましては私どももよく承知をしておるところでございます。
 また、今御指摘の御家族との関係につきましても、精神障害者のお世話に心身ともに疲れると訴えられる方が多く、さらに家族の方々が高齢化をされまして将来の見通しが立てられないことに不安や焦りを抱えていらっしゃるという実態にあるということも認識をしております。
 私どもは、今回の精神保健法の改正は、精神障害者御本人あるいは御家族についてこのような認識をした上で、その生活実態に光を当て、さらに精神障害者の自立と社会参加の促進を図るための福祉の施策を明確に位置づけるものでございまして、今後の社会福祉の充実のための第一歩というふうに認識しておるところでございます。
 決して十分とは申せないとは思います。これを契機に、精神障害者の保健福祉施策の一層の充実を図ってまいる所存でございます。
【次回へつづく】