精神医療に関する条文・審議(その79)

前回(id:kokekokko:20051023)のつづき。初回は2004/10/28。
平成10年から16年までの精神保健福祉法の改正についてみてみます。
改正経過は次のとおりです。
 
平成10年9月28日法律第110号 〔精神薄弱の用語の整理のための関係法律の一部を改正する法律〕
平成11年6月4日法律第74号 〔精神保健及び精神障害者福祉に関する法律等の一部を改正する法律〕
平成11年7月16日法律第87号 〔地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律
平成11年12月8日法律第151号 〔民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律〕
平成11年12月22日法律第160号 〔中央省庁等改革関係法施行法〕
平成12年6月7日法律第111号 〔社会福祉の増進のための社会福祉事業法等の一部を改正する等の法律〕
平成14年2月8日法律第1号 〔日本電信電話株式会社の株式の売払収入の活用による社会資本の整備の促進に関する特別措置法等の一部を改正する法律〕
平成14年8月2日法律第102号 〔健康保険法等の一部を改正する法律〕
平成15年7月2日法律第102号 〔公益法人に係る改革を推進するための厚生労働省関係法律の整備に関する法律〕
平成15年7月16日法律第110号 〔心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律〕
平成15年7月16日法律第119号 〔地方独立行政法人法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律〕
平成16年12月1日法律第147号 〔民法の一部を改正する法律〕
平成16年12月1日法律第150号 〔民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律〕
 
今回は、平成10年9月28日法律第110号についてみてみます。法律の内容は、「精神薄弱」の用語を「知的障害」に替えるというものです。それ自体はシンプルな法律であり、採決でも反対はまったくありませんでした。それでも、いくつかの点について議論がありました。
とくに、用語置換えについての問題については、置換えは必要としてもそれで解決する問題ではない、という指摘がなされました。法令に「精神薄弱」の用語が登場したのが昭和16年国民学校令施行細則であり、それ以後57年にわたって使用しつづけてきたという点、そして「知的障害」の用語のほうも、「知的」と「障害」のそれぞれの語にまだ問題を含んでいるという点が指摘がされました。
現在でも、「精神病院」の用語を「精神科病院」に置き換える法案が予定されています。これについても、当時の指摘が示唆に富みます。「精神病院」の用語は、「精神薄弱」よりも歴史が古く、明治33年の精神病者監護法において既にその文言がみられます。それ自体中立的なはずの「精神病院」の用語が、以後の精神障害者政策の結果、強いネガティブイメージを付着されました。
また、平成10年当時の議論で指摘された、障害者福祉の不十分さによって障害者や家族への負担が過大なものになっているという点は、現在の障害者自立支援法案でも問題となっているところです。

精神薄弱の用語の整理のための関係法律の一部を改正する法律案【第四条、附則】
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部改正)
第四条 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和二十五年法律第百二十三号)の一部を次のように改正する。
  第五条中「精神薄弱」を「知的障害」に改める。
  第四十五条第一項中「精神薄弱者」を「知的障害者」に改める。
 
 附則
 この法律は、平成十一年四月一日から施行する。

第142回参議院 国民福祉委員会会議録第16号(平成10年5月26日)
○委員長(山本正和君) 社会保障等に関する調査のうち、精神薄弱の用語の整理のための関係法律の一部を改正する法律案に関する件を議題といたします。
 本件につきましては、尾辻秀久君から委員長の手元に精神薄弱の用語の整理のための関係法律の一部を改正する法律案の草案が提出されております。内容はお手元に配付のとおりでございます。
 この際、まず提案者から草案の趣旨について説明を聴取いたします。尾辻君。
尾辻秀久君 ただいま議題となりました精神薄弱の用語の整理のための関係法律の一部を改正する法律案の草案につきまして、その趣旨及び内容の概要を御説明申し上げます。
 現在、精神薄弱者福祉法などの法律において使用されている「精神薄弱」という用語につきましては、知的な発達に係る障害の実態を的確に表していない、あるいは、精神・人格全般を否定するかのような響きがあり障害者に対する差別や偏見を助長しかねないといった問題点が指摘されております。このため、関係団体等からも不適切な用語であるとしてその見直しが強く求められてきており、平成七年十二月に策定された障害者プランにおいても、「関係者の意見を踏まえ、見直しを行う。」こととされております。
 この「精神薄弱」にかわる用語につきましては、関係団体等から、障害の状態を価値中立的に表現することができる「知的障害」とすべきであるとの強い意見が表明されております。また、この「知的障害」という用語は、現在、社会的に広く使われるようになってきており、医学界を含めた関係者においてもこの用語を用いることについて了解が得られているところであります。
 本案は、こうした経緯を踏まえ、精神薄弱者福祉法、障害者基本法等三十二の法律において用いられている「精神薄弱」という用語を「知的障害」という用語に改めようとするものであります。
 なお、この法律の施行日は、平成十一年四月一日としております。
 以上が、この法律案の草案の趣旨及びその内容の概要であります。
 「精神薄弱」という用語の見直しは、関係者の長年の悲願であり、障害のあるなしにかかわらず、すべての人が同様に暮らせる社会づくり、すなわちノーマライゼーションの理念の実現のための重要な一歩となるものと考えます。そして、この改正により知的障害のある方々に対する国民の理解が深まり、障害者の福祉が向上するものと確信するものであります。
 何とぞ、委員各位の御賛同をお願い申し上げます。
○委員長(山本正和君) 本草案に対し、質疑、御意見等がございましたら、御発言願います。別に御発言もなければ、本草案を精神薄弱の用語の整理のための関係法律の一部を改正する法律案として本委員会から提出することに御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○委員長(山本正和君) 御異議ないと認めます。よって、さよう決定いたしました。

第142回参議院 本会議会議録第30号(平成10年5月27日)
○議長(斎藤十朗君) 日程第三 精神薄弱の用語の整理のための関係法律の一部を改正する法律案(国民福祉委員長提出)を議題といたします。
 まず、提出者の趣旨説明を求めます。国民福祉委員長山本正和君。
   〔山本正和君登壇、拍手〕
○山本正和君 ただいま議題となりました精神薄弱の用語の整理のための関係法律の一部を改正する法律案につきまして、国民福祉委員会を代表して、その提案の理由及び内容の概要を御説明申し上げます。
 現在、精神薄弱者福祉法などの法律において使用されている「精神薄弱」という用語につきましては、知的な発達に係る障害の実態を的確にあらわしていない、あるいは精神、人格全般を否定するかのような響きがあり、障害者に対する差別や偏見を助長しかねないといった問題点が指摘されております。このため、関係団体等からも不適切な用語であるとして、その見直しが強く求められてきており、平成七年十二月に策定された障害者プランにおいても「関係者の意見を踏まえ、見直しを行う。」こととされております。
 この「精神薄弱」にかわる用語につきましては、関係団体等から、障害の状態を価値中立的に表現することができる「知的障害」とすべきであるとの強い意見が表明されております。また、この「知的障害」という用語は、現在、社会的に広く使われるようになってきており、医学界を含めた関係者においても、この用語を用いることについて了解が得られているところであります。
 本法律案は、こうした経緯を踏まえ、精神薄弱者福祉法、障害者基本法等三十二の法律において用いられている「精神薄弱」という用語を「知的障害」という用語に改めようとするものであります。
 なお、この法律の施行日は、平成十一年四月一日としております。
 以上がこの法律案の提案の理由及びその内容の概要であります。
 「精神薄弱」という用語の見直しは、関係者の長年の悲願であり、障害のあるなしにかかわらず、すべての人が同様に暮らせる社会づくり、すなわち、ノーマライゼーションの理念の実現のための重要な一歩となるものと考えます。そしてこの改正により、知的障害のある方々に対する国民の理解が深まり、障害者の福祉が向上するものと確信するものであります。
 何とぞ、慎重に御審議の上、速やかに御可決あらんことをお願い申し上げます。(拍手)
○議長(斎藤十朗君) これより採決をいたします。
 本案の賛否について、投票ボタンをお押し願います。
   〔投票開始〕
○議長(斎藤十朗君) 間もなく投票を終了いたします。──これにて投票を終了いたします。
   〔投票終了〕
○議長(斎藤十朗君) 投票の結果を報告いたします。
  投票総数          百九十三
  賛成            百九十三
  反対               〇
 よって、本案は全会一致をもって可決されました。(拍手)

第143回衆議院 厚生委員会会議録第4号(平成10年9月9日)
○木村委員長 これより会議を開きます。
 第百四十二回国会、参議院提出、精神薄弱の用語の整理のための関係法律の一部を改正する法律案を議題といたします。
 趣旨の説明を聴取いたします。参議院国民福祉委員長尾辻秀久君。
○尾辻参議院議員 ただいま議題となりました精神薄弱の用語の整理のための関係法律の一部を改正する法律案につきまして、その提案の理由及び内容の概要を御説明申し上げます。
 現在、精神薄弱者福祉法などの法律において使用されております精神薄弱という用語につきましては、知的な発達に係る障害の実態を的確にあらわしていない、あるいは、精神、人格全般を否定するかのような響きがあり、障害者に対する差別や偏見を助長しかねないといった問題点が指摘されております。このため、関係団体等からも不適切な用語であるとしてその見直しが強く求められてきており、平成七年十二月に策定されました障害者プランにおいても「関係者の意見を踏まえ、見直しを行う。」こととされております。
 この精神薄弱にかわる用語につきましては、関係団体等から、障害の状態を価値中立的に表現することができる知的障害とすべきであるとの強い意見が表明されております。また、この知的障害という用語は、現在、社会的に広く使われるようになってきており、医学界を含めた関係者においてもこの用語を用いることについて了解が得られているところであります。
 本法律案は、こうした経緯を踏まえ、精神薄弱者福祉法、障害者基本法等三十二の法律において用いられている精神薄弱という用語を知的障害という用語に改めようとするものであります。
 なお、この法律の施行日は、平成十一年四月一日としております。
 以上が、この法律案の提案の理由及びその内容の概要であります。
 精神薄弱という用語の見直しは、関係者の長年の悲願であり、障害のあるなしにかかわらず、すべての人が同様に暮らせる社会づくり、すなわちノーマライゼーションの理念の実現のための重要な一歩となるものと考えます。そして、この改正により知的障害のある方々に対する国民の理解が深まり、障害者の福祉が向上するものと確信するものであります。
 何とぞ、慎重に御審議の上、速やかに御可決あらんことをお願い申し上げます。
○木村委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。
○木村委員長 これより質疑に入ります。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。土肥隆一君。
○土肥委員 民主党土肥隆一でございます。
 きょうは、短時間で一つの名称、精神薄弱者の名称変更の法律を上げようというわけでございますが、若干の質問をさせていただきます。
 言ってみれば、長年にわたるこの精神薄弱という言葉をもうやめようというわけでございますから、やはり院で十分な審議をする必要があるかというふうに思うのでございます。
 まず、提案者の尾辻先生、御苦労さまでございます。
 前国会では参議院で議決されまして衆議院の方に回ってまいりましたが、継続審議ということになりました。しかしながら、今回、このような法案が衆議院の厚生委員会にもかかりまして、この法案を審議しようとしているわけでございますけれども、この法案の名前を見ますと、表題を見ますと、精神薄弱の用語の整理のための関係法律の一部を改正する法律案、こうなっております。
 この法案、この用語改正の問題が参議院で先に提案されたわけでございますが、その経過あるいはどういう議論がなされたか、ごく簡単に御説明いただきたいと思います。
○尾辻参議院議員 まず、本法律案の提出の経過と審議の経過についてお尋ねでございますので、お答えを申し上げます。
 先ほどの提案理由説明でも申し上げましたけれども、精神薄弱という用語につきましては、精神、人格全般を否定するかのような響きがございますし、障害者に対する差別や偏見を助長しかねないといった問題点がかねてより指摘されておるところでございます。そのため、関係団体等から、障害の状態を価値中立的に表現することのできる知的障害という用語にすべきであるという強い意見が表明をされてきておりました。
 こうした経緯がございましたので、本年五月二十六日に参議院国民福祉委員会におきまして、私尾辻秀久が本法案の草案を提出いたしまして、その趣旨について御説明を申し上げました。国民福祉委員会では、その草案を全会一致で委員会提出法案とすることを決定いたしました。そして、翌五月二十七日に参議院本会議において、当時の山本正和国民福祉委員長が本法律案の趣旨説明を行いまして、全会一致で可決をされたところでございます。
 以上のような経過でございますので、委員会及び本会議においての質疑はございませんでした。
 ただ、法律案の草案を提出するに当たりましては、民主党・新緑風会、公明、社会民主党・護憲連合、日本共産党自由党二院クラブの各会派に対しまして、この草案の作成に至る経緯、草案の内容等については御説明をいたしまして、御賛同いただいて委員会提出法案といたすことにしたわけでございます。
 以上が簡単な経過でございます。
○土肥委員 それでは再度お尋ねいたしますが、要するに、これは用語を整理しようというだけの法案というふうに理解していいのでしょうか。
○尾辻参議院議員 提案理由でも申し上げましたように、私どもといたしましても、この改正によりまして、知的障害のある方々に対する国民の理解が深まり、障害者の福祉が向上することを強く願っておりますけれども、ただ、長い間の関係団体の皆様方の、まず用語を変えてほしいという強い御要望に一刻も早くおこたえするということで、今回は用語を変えるということだけの内容になっております。
○土肥委員 衆議院ではこのようにして、短い時間でございますけれどもやはり用語変更についても議論しようということになったのは、私は当たり前だというふうに思うのであります。
 しかし、精神薄弱者のこれまで置かれてきた長い歴史、日本の福祉行政の中に、福祉のみならず国の行政の中に置かれてきたこの精神薄弱あるいは薄弱者、薄弱児という言葉の長い間の歴史を振り返らないで、用語だけ変えればいいということにはならないというふうに私は思っておりまして、その点について、きょうは厚生省並びに大臣にお尋ねしたいと思っております。
 今回、用語が改正される。実は、歴史を調べますと、この精神薄弱という言葉は、日本では一九二〇年代までさかのぼるわけでございます。そして、一九三〇年代にドイツ語や英語の直訳として精神薄弱という言葉が用いられるようになります。そして、一九四一年、昭和十六年に国民学校令施行細則において初めて精神薄弱という言葉が表に登場してまいりまして、実は、それ以来五十七年間にわたってこの用語は使われてきたわけでございます。
 したがいまして、今回用語を変えようというふうにいいましても、用語だけ変えて事が済むわけじゃございませんで、やはり、この用語を使ってきた行政あるいは国、そしてまた私ども立法府にある者も、これについて十分な関心を持ち、変えるに当たっては、今まで精神薄弱という言葉を使ってきたことの大きな反省がなければいけない、このように思っております。
 今回の用語の改正は、実は、精神薄弱というのはいわば日本に定着した言葉なんですね、五十七年間使ってきたわけですから定着してしまっている。行政も、あるいは福祉関係者も、あるいは我々国会議員も、精神薄弱者というようなことを、今でこそ知的障害というふうに変わってきておりますけれども、ずっと使ってきたわけであります。そして、各施設には、精神薄弱者施設何々園、こう書いて、堂々とリーフレットにも刷り込んでやってきたという経過があるわけであります。
 まず、厚生省にお尋ねいたしますが、今回の法改正に当たって、厚生省、政府当局のお考え、御感想をお聞きしたいと思います。
○今田説明員 精神薄弱という用語につきましての経緯は御指摘のとおりでございますが、この用語につきましては、平成七年に策定をいたしました障害者プランにおきまして、保護者団体あるいはその他の関係者の意見を踏まえて見直しを行うということが示されているわけでございます。
 その後、知的障害者関係団体の連合組織でございます日本知的障害福祉連盟、それから知的障害児あるいは者の保護者の団体でございます全日本手をつなぐ育成会など主要な関係団体の意見といたしまして、精神薄弱を知的障害に改正すべきだということで御意見がまとまったと聞いております。
 また、知的障害という用語につきましては、障害者の人格を否定する響きを持たず、障害の状態を価値中立的に表現できる、また、新聞あるいはテレビ等で既に知的障害というのは非常に深く普及をして定着がなされているのではないか。
 このような状況を踏まえますと、厚生省といたしまして、このたび精神薄弱を知的障害に改正するというお考えにつきましては、適切なものであろうというふうに考えております。
○土肥委員 それでは、ちょっと踏み込んでお伺いしたいと思うのでありますけれども、この趣旨説明の中で、先ほど尾辻国民福祉委員長がお読みになりましたように、関係者の長年の悲願と書いてあるんですね。関係者というのは知的障害者及びその家族あるいは福祉関係者ということでございましょうけれども、五十七年間そのままにしてきて、今回、関係者の長年の悲願の結実だというふうに言うのでありまして、私は、行政としてもあるいは我々国会にある者も、恥ずかしい限りでございます。うっすらとというか、困った言葉だなとは思いながら、何も手をつけてこなかったということでございます。
 そういう意味では、その後に、障害のあるなしにかかわらず、すべての人が同様に暮らせる社会、すなわちノーマライゼーションの実現が求められています、こう書いてありますけれども、厚かましい限りだなと私は思うのであります。いきなりそこへ飛んでいくわけですね。五十七年間使った言葉をいきなり忘れて、入れかえて、そして、ノーマライゼーションだ何だと言うわけでありまして、やはりここには深い溝があるなというふうに私は感じます。
 それで、この精神薄弱という言葉が、実は今回の法案によりますと三十二本で、調査室の方に精神薄弱という言葉が幾つありますかと聞いたら、四百二十四カ所精神薄弱という言葉がちりばめられているわけです。それは、法律三十二本の中に、学校教育法から社会福祉事業法から全部ちりばめられている。そういう意味では、この精神薄弱者という言葉は社会のあらゆる部門に行き渡っている言葉だ。
 その名前を今変えようとするわけで、結構です。だけれども、一体精神薄弱という言葉を使ってきた五十七年の歴史はどうなるんですかということをやはり深刻に考えないと、このまま名前を四百二十四カ所変えれば済むということにはならないと私は思うのであります。
 これからは知的障害者と使わせていただきますけれども、やはり一番問題なのは親亡き後であります。親亡き後は自分でどうして暮らしていくか。その知的障害者を社会がどういう眼で見、支えていくか。これから最も必要なのは、言葉もさることながら、知的障害者のためにどういうサポートを我々の社会がしていくかということでございます。
 私は、その中でも特に大事だと思っている二点を取り上げるわけでございますが、一つは、地域生活援助事業、いわゆるグループホームというものでございます。ここに厚生省からいただいた資料がございますけれども、十年度補正後で八千五百三十六人というふうに言っております。そして、これはもう一つございますが、福祉ホームが千九百二人。障害者プランが終わる十四年度目標値で、グループホームが一万五千八百六十人、それから福祉ホームが四千二百人。一体これで足りるのかどうかです。その辺の厚生省の考えをお聞きします。
○今田説明員 グループホームにつきましては、地域社会でアパートあるいはマンションなどを使って少人数で共同して生活をして、同居あるいは近隣にいらっしゃる専任のお世話をしていただく方、こうした人たちによって日常生活の援助が行われるということで、知的障害者それから精神障害者に対しまして実施をしている制度でございます。
 これにつきましては、障害者プランによりまして、十四年までに一万八百人分の、つまり二千七百カ所になるわけですが、整備目標をお示ししているところでございます。
 これらについて、この計画をまず達成するということが第一義的に私たちの願いでございますので、その達成をした時点で、さらにどのようなニードがあるかという点につきましては、改めてまた検討するべき課題ではないかというふうに思っております。
○土肥委員 今補助金グループホームに幾ら出していらして、その補助金の額の算定根拠は何なんでしょうか。
○今田説明員 平成十年度におきましての予算でございますが、一カ所当たり年間三百十一万八千円の運営費補助、それから、重障者が入居していらっしゃる場合には一人当たり年額七十七万九千円を加算いたしております。
 その内訳につきましては、グループホームにおきまして食事の世話あるいは金銭管理など、日常のお世話をいただく方の人件費、それから支援いただく施設がそのホームをバックアップするための経費というものが含まれております。
○土肥委員 結局、それは民間の人が自分で家も提供し、土地も提供し、そして部屋もつくりかえてあるいは新築して、何もかもそのホームを支えている人がお金を出しまして、その後、三百十一万八千円が人件費とかそれをサポートしている施設への多少の援助だというわけですが、こういう腰の引けたことでは私は困るのです。例えば家をつくるときの融資でありますとか家賃の補助とか――人件費といったって、一年間ずっとこのグループホームのお世話をする方が一人は必要なわけでありまして、三百万円少々でやっていらっしゃる。
 今後、このグループホームというのはどういう発展を考えていらっしゃるのか、もう一度お聞きします。
○今田説明員 グループホームにつきましては、障害をお持ちの方々の地域での生活という意味ではノーマライゼーションの実現に非常に有効な手だてであるというふうに思っております。
 現在、この現状も含めて、障害者関係審議会、三審議会ございますけれども、これらの合同の委員会を設けまして、それぞれの障害者に対しまして福祉全般の審議をしているところでございますので、御指摘の点につきまして、そのような観点からこれらの御審議を踏まえて努力をしていきたい、このように考えております。
○土肥委員 日々刻々、彼らの生活はあるわけでありますから、本当に本腰を入れてやることが今回の五十七年ぶりの名称変更にふさわしい結実だと思うのであります。ですから、ノーマライゼーションというのであるならば、ぜひとも、この部分について我々委員会もこれを推進して、立派なグループホームシステムというものをつくっていかなければならないというふうに思うわけでございます。
 最後に、大臣にお尋ねいたします。
 今回の、名称変更法案と私は呼んでおるわけですけれども、障害の状態を価値中立的に表現することができるには知的障害がいい、こういうふうになっております。知的というのはそうだろうと思いますが、障害という言葉がなお残るわけです。障害のある用語自身がまた価値中立的ではないわけであります。そして、何か制度あるいは法律をつくろうとすると、必ず今までは精神薄弱児とか者とかいうふうに、学校教育法から全部にわたってその言葉が出てくるというわけでございまして、やはり法律の用語の不適切な部分というのは時々刻々変更していかなければならないというふうに思うわけであります。
 ちょっと私のことを言いますと、私は聖書を読みますけれども、聖書の中には、二千年、三千年前の言葉ですから、やはり差別用語があるわけですね。そのたびに翻訳を変えていくわけです。そして、今度はこういう差別用語の訂正をしましたよという案内が聖書に挟み込まれているわけであります。
 そういう意味では、こんな五十七年間も精神薄弱なんという言葉を使い続けたことの鈍感さを反省する上で、今後何らかの行政的な措置が必要ではないかというふうに思うのですが、大臣どういうふうにお考えでしょうか。
○宮下国務大臣 委員のおっしゃるとおり、五十七年間もそのことが放置されてきたということは、私どもとして反省しなければならないと思います。
 ただし、用語については、時代の変化とともにやはり受け取り方も違ってまいりますので、最近における事情を勘案して委員長提案として提案されたことでございまして、私どもとしては時宜にかなったものというように思っております。
 なお、ほかの用語で改めるべきものがあるかどうかという点については、授産でありますとか、盲というような言葉あるいは聾というような言葉等もございます。それから、委員の御指摘のように、障害という言葉自体についても一部に議論のあることも承知いたしております。これらの用語につきましては、現在のところ、適切な代替用語に関する関係者の合意が得られておりませんし、改正のための条件はまだ整っていないように思います。
 そんなことで、厚生省としましては、法令等で使用されている用語につきまして、その妥当性あるいは正当性を不断に検討して、関係者からの要望や代替用語に関する関係者等の合意の状況を踏まえながら、必要に応じて見直しを進めてまいりたい、このように思っております。
○土肥委員 どうもありがとうございました。
 これで質問を終わります。
○木村委員長 青山二三さん。
○青山(二)委員 平和・改革の青山二三でございます。大変短い時間でございますので、早速質問に入らせていただきますが、御答弁の方も明快に、簡潔にお願いしたいと思います。
 この法案は、平成七年策定の障害者プランにおいて「「精神薄弱」用語の見直し」が明記されたことと、さらに、昨年の十二月、厚生省の身体障害者福祉審議会より出されました「今後の障害保健福祉施策の在り方について」の中間報告におきまして、「障害者は、様々な面で不利な条件下に置かれており、人権尊重の観点から、」「社会全体の取組が必要である。」との指摘から、その具体策の一つとして、このたび精神薄弱という言葉から知的障害へという用語の見直しが行われたものと理解をいたしております。
 また、この中間報告の中では、障害者の地域生活支援や重度化あるいは高齢化対策の充実、職場や施設での虐待に迅速に対応できる体制づくり、相談事業の充実など、障害者施策のあり方についてはさまざまな指摘があり、障害者の権利擁護の観点からもこれらの指摘について対応できる施策が求められております。
 その中で、今回、精神薄弱の用語の見直しを取り上げたのはいかなる理由があったのでしょうか。また、提案理由説明でも少し触れておりますけれども、精神薄弱という言葉の問題点についてもあわせてお答えいただきたいと思います。
○尾辻参議院議員 この精神薄弱という用語は、先ほどの土肥先生が御質問の中でもお述べになったわけでありますが、英語の直訳のようでございます。したがいまして、薄弱という言葉になっておるようでございますが、どうしても薄弱という文言は否定的なニュアンスが強いですし、それから障害の実態を必ずしも正しく表現しておる用語とは言えない、こう思いましたので、精神薄弱という用語を変えるということにさせていただくということを御提案申し上げたところでございます。
○青山(二)委員 この知的障害という用語は、知的な発達に係る障害の実態を的確にあらわしていると言えるのかどうか、この辺が疑問が残るわけでございます。また、今、精神薄弱という言葉には人格全般を否定するような響きがあるという指摘でございましたけれども、それにかわる用語としてなぜ知的障害という言葉を選ばれたのか、その理由もお伺いしたいと思います。
○尾辻参議院議員 知的障害という言葉が完全なる用語といいましょうか、そうであるかどうかについてはまたいろいろ御議論もあろうかと思いますけれども、今日では、関係団体等の御意見など含めまして、知的障害という言葉がより適切な言葉である、用語であるということについては一致した御意見だと思いますし、一般的に普及、定着しておる用語だとも思いましたので、この言葉を使わせていただいたところでございます。
○青山(二)委員 ただいまの御答弁では、関係団体から知的障害とすべきであるという強い意見が出されたということでございますけれども、また一方で、知的障害では知的にハンディキャップを負う方々の人権は絶対に守れない、あるいは、障害という言葉自体が邪魔者とか取り除くべきものということを意味しておりまして、基本的人権を無視しているということで、この知的障害という言葉も差別的ではないのか、こういうことでございまして、知的求援という言葉を提案しているボランティア団体もございます。この団体では、知的求援という用語も含めまして、もっと広く市民の提案を聞いて新しい用語を求めてほしい、こんな要望もされておりますけれども、こうした声に対してはどのようにお考えでしょうか。
○尾辻参議院議員 そういう御意見があることは、率直に申し上げまして、私、最近になりまして知りました。御提案申し上げたときには、実はそうした御意見については、正直に申し上げるのですが、承知をしておりませんでした。
 障害という用語につきましては、これにかわるべき用語、適切な用語が、どういう言葉があるのかどうか、まだなかなか社会的な合意が形成されているとは私も考えませんので、どういう言葉があるのか、そうした御意見も踏まえて、私自身も今後勉強させていただきたいとは存じております。
○青山(二)委員 いずれにいたしましても、障害者の方々の人権が守られるためには、何よりも障害を持つことを意識しないで生きていけるような、そんな社会をつくることが必要であると考えております。障害者である前に人間としての立場を尊重する第一歩として今回の改正が行われるべきであると考えます。私も、障害者に対する幅広い理解と社会的な受け皿の拡大へ、障害者の福祉の向上が図られるための施策を推進していきたいと常々考えております。
 あすは我が身と申しますけれども、私たちだって、年をとりますとやがていろいろなところに障害も出てまいります。また、いつ交通事故に遭って障害者となるかもわかりません。ですから、障害があるなしにかかわらず、すべての人々が同じように暮らしていける社会の実現について、大臣はどのような御所見をお持ちなのか、お伺いいたしまして、時間が参りましたので質問を終わらせていただきます。
○宮下国務大臣 障害者の方々が障害者である以前に人間である、それを踏まえよということは全く同感で、大変基本になる考え方だと存じます。
 そういう意味で、障害者の方々が人生のあらゆる段階において能力を最大限に発揮する、そして自立した生活を目指すことを支援していくということでなければなりませんし、それから、障害者が障害のない者と同様な生活ができ、活動する社会を築くことが必要であると考えています。そういった意味で、いろいろ、障害者プランを策定したりして障害者の自立と社会参加を促進するための施策を推進しておりますが、今後とも、より一層その趣旨に基づきまして努力を重ねていきたい、かように思っております。
○青山(二)委員 これを機会に障害者の福祉がしっかりと前進していけるようになりますことを心から願いまして、時間が参りましたので質問を終わらせていただきます。きょうは、大変にありがとうございました。
○木村委員長 久保哲司君。
○久保委員 自由党の久保哲司でございます。
 冒頭、尾辻参議院委員長の方からお話がございましたように、通常、委員会提案法案というのは、審議なしで賛成か反対かということで済んでいるようでございますけれども、当衆議院厚生委員会にありましては、とはいえ、別に算数の答えじゃあるまいし、一足す一は二やという状況でないので、そこは一定の議論をしようではないか、また質疑もしようではないかということで、きょう、このような場面になったこと、僕はある意味で大事な方向かな。そういう意味では、関係者には時間をとらせて恐縮な部分もございますけれども、それぞれに言うべきは言い、そして、より目指す方向というものをはっきりさせていくというのが大事なことではないかな、こんなふうに思っておるところであります。
 そこで、何点か確認の意味も含めて質問させていただきたいのですけれども、まず、今趣旨説明の中にもありましたけれども、精神薄弱者福祉法を初め三十二の法律で精神薄弱という用語が使われているということでありますけれども、先ほど来の御質問の中でも出てまいりましたけれども、この精神薄弱という言葉が定着したというか、使用されるに至った経緯というか、五十七年間というお話もございましたけれども、これについてもう一度厚生省の方で知り得る範囲で御説明をいただければと思います。
○今田説明員 精神薄弱に該当する障害ということで、かつては能力が低いという意味で白痴でありますとかあるいは低能といったような非常に差別的な用語が使われていたという経緯がございまして、一九二〇年代には医学界の方でこれに対する見直しを、あるいは教育界の方におきましては一九三〇年代ぐらいからこれを直していこうということになりまして、当時欧米で使われておりました言葉を直訳いたしまして精神薄弱というような用語が用いられるようになったというふうに聞いております。
 なお、法令用語としての精神薄弱でございますが、そのような流れでございましたけれども、昭和十六年の国民学校令施行規則におきまして初めて使用されております。その後、昭和二十二年に学校教育法に改正され、また児童福祉法が制定をされておりますが、その時点でもこの精神薄弱という言葉が使用されております。
 なお、昭和三十五年に精神薄弱者福祉法が制定されておりますけれども、その法律にも、法のタイトルにもございますように、この用語が用いられているという状況で今日に至っているということでございます。
○久保委員 経緯の方はわかりました。
 確かに、私も資料等を見させていただくと、いわゆる直訳をしたということが随所で出てまいります。いわゆる知的な側面が弱いというようなニュアンスの言葉を日本語に置きかえたときに精神薄弱という言葉になったということは、私も多少書物を読んで知ったところでございますけれども、しかし、これを今回知的障害という言葉に変えようということであります。
 先ほども申し上げましたけれども、学問の世界でも、いわゆる自然科学といいますか、算数、数学あるいは科学といった分野というのは必ず答えは一つなのでしょうけれども、社会科学的な分野に関することというのは、これは山ほど答えはあるわけで、十人おったら答えが十個あるかもわからぬ、こういう状況でもございます。
 そういう意味で、先ほども尾辻委員長が答弁なさっておられましたけれども、知的障害が一〇〇%ベストかといえば、必ずしもそうでないとお考えの方もおいでかとも思います。我々が置かれている選挙制度も同じようなものでありますけれども、よりいいものにということでは私もこの点賛成するわけでありますけれども、厚生省として、今日まで精神薄弱という用語をある意味でずっと当たり前のごとく使ってこられた。それこそ法を制定されて、昭和三十五年以来でも約四十年近くなるわけですけれども、むしろこれは、一つは、親御さんたち、また関係者の声を聞いて議員が提案をするというのも大事なことでしょうけれども、厚生省にあっても当然その仕事に携わっておられる直接の当事者みずからが、やはりこれはまずいぜ、変えようや、こういう発案があってもいいのではないのかな、むしろそんな思いもします。
 そういう意味では、人間の弱い部分といいますか、どっぷりつかってしまうと何か異常なことでも当たり前みたいに思ってしまう、そういう部分というのは今後関係者すべてが留意すべき点だろうというふうに思うのですけれども、そんなことも踏まえまして、今まで使ってこられた精神薄弱という言葉について、厚生省として率直なところどういうイメージをお持ちであったのか、今回この法律が通りましたならば知的障害という言葉になるわけでありますけれども、この言葉についてどのような評価といいますか、お持ちなのか、お聞かせいただければと思います。
○今田説明員 先ほど、精神薄弱の言葉の日本語訳といたしまして欧米の言葉を直訳したということで、例えば英語でございますとフィーブルマインド、ドイツ語でいきますとシュバッハジン、それぞれ精神が弱いというかそういう表現を訳したわけでありますが、その後国際的にはインテレクチュアルディスアビリティー、知的障害、日本語に直せばそうなるんだと思いますが、そのインテレクチュアルディスアビリティーという言葉が多く使われるようになったという、まず国際的流れが一つございました。
 それから、御指摘のように、この用語につきましては、そういった意味での反省の言というものは、関係団体から長く御指摘を受けておったわけでありますが、平成七年に障害者プランをつくりましたときに、関係者の意見を踏まえて見直しを行うということを申し上げたわけでございますし、その後関係団体からの意見といたしましても、知的障害というのがふさわしいという意見でまとまったように聞いております。
 知的障害という言葉につきましては、私どもも、その状態を中立的に表現できる言葉として、またマスコミ等で使われているその普及の度合いというものを考えれば、適切な表現ではないかというふうに理解をいたしております。
○久保委員 今答弁の中で、世界的にも今こうなりつつあるというお話がございましたけれども、今、別のところでは金融問題等もやっておりますけれども、大体、どこかよそがやってそれを日本がまねしておるというのが余りにも多いのと違うかな。ある意味では、この狭い国土に一億二千五百万人の人間がおる日本でありますし、厚生省、むしろよそについていくというよりは日本が発信基地になるような、そういう発想を持って仕事をしていただければ、そんなふうに思います。
 時間もほとんど残っておりませんので、最後に大臣に決意をお尋ねしたいんです。
 名は体をあらわす、そういう意味では名前を変えることも大事でありますし、今回の法案については、先ほども申し上げましたように、私は進めるべきであるというふうに思っておるわけでありますけれども、むしろその中身、実態といいますか、名前が変わっただけで施策が変わらぬというのであればこれは何しているこっちゃわからぬわけですから、そういう意味では、「今後の障害保健福祉施策の在り方について」ということで昨年の十二月に中間報告が出され、今年内ということをお聞きしておりますけれども、できるだけ早くこれを最終報告にまとめたい、身体障害をお持ちの方、精神薄弱の方、また精神障害の方々を含めた総合的な施策をまとめ上げるんだということで今取り組んでいただいているようでありますけれども、厚生大臣として、厚生省として、この施策の充実という点についてどのように御決意なさっておられるのか、またどのような方向で進もうとしておられるのか、そのことについて厚生大臣にお尋ねをしたいと思います。
○宮下国務大臣 障害者の方々の自立と社会経済活動への参加を促進するためには、施設あるいは在宅両面にわたって障害者の保健福祉施策を充実していくことが極めて重要であると思っております。
 このために、障害者プランに基づきまして、施設、在宅両面にわたるサービスの整備を現在着実に計画的に実施しておりますが、さらにそれを一層促進を図ってまいりたいと思います。
 また、障害保健福祉施策を全般的に見直すために、現在、障害者関係三審議会、これは身体障害者福祉審議会、中央児童福祉審議会、あるいは公衆衛生審議会の三つの審議会の合同によります会議を持って審議中でございます。
 この審議は、市町村における障害者サービスの一元化を図ろうとか、あるいは新しいサービスの利用の仕組みを考えようとか、障害種別間の在宅保健福祉サービスの整合性の確保を図ろうとか、さまざまなそういう重要な視点で今審議が行われておりますので、この審議を踏まえながら、障害者保健福祉施策の一層の充実に取り組んでまいりたいと思います。
○久保委員 今厚生大臣の決意をお聞かせいただきましたけれども、実は今週の初めに、私、こちらへ来る前に、地元で、まだ現場を見ていないのですが、二十六歳の子供を抱えたお母さんから、障害者手帳を持っている、体が動かない、言葉も発せられない、多分精神薄弱という部分もあわせ持っておられるんだろうと思いますけれども、ずっと面倒見てこられて、もう自分の体自体がついていかない、できればこの子供を殺して自分もその後を追おうか、こう思っているんだというような、こんな電話がかかってまいりました。ちょっと待て、週末にもう一回、帰ったらすぐ行くから、こんなことで話をしたのですけれども、現場の声というものを大事にしていただきながら、今の決意をよりテンポを速めて進めていただきたいことを最後に申し上げまして、質問を終わります。
 以上です。
○木村委員長 児玉健次君。
○児玉委員 日本共産党の児玉健次です。
 一九七九年に第三十四回国連総会で採択された国際障害者年行動計画に関する決議、皆さん覚えていらっしゃると思うけれども、全面参加と平等を高く旗印として掲げて十年間の取り組みが行われた。そのことに関する国連総会の決議は、今私たちが審議している用語問題に関連しても非常に示唆に富んでいる、私はそのように考えます。
 この決議は、身体的、精神的不全、インペアメントという言葉を日本では訳しておりますが、それによって引き起こされる機能的な支障、障害、ディスアビリティー、その社会的結果である不利、ハンディキャップ、それぞれについては区別がある、区別があることについて認識を促進すべきである、このように提起をしております。
 私は、この障害者、障害児をめぐる御本人や家族の皆さんや多くの関係者が進める運動の今後の前進、広がりの中で、だれもがその用語でよしと同意し得る用語が生み出されるだろう、そのように考えております。私は、そのために今後積極的かつ弾力的に努力をしていきたい、こう決意をしております。
 そこで、この機会に厚生大臣に一、二御質問したいと思います。
 先ほどの国連決議は、今の提起に引き続いてこう言っています。「ある社会がその構成員のいくらかの人々を閉め出すような場合、それは弱くもろい社会なのである。障害者は、その社会の他の者と異なったニーズを持つ特別な集団と考えられるべきではなく、その通常の人間的なニーズを充たすのに特別の困難を持つ普通の市民と考えられるべきなのである。」普通の市民と考えられるべきである、私はこれは見事な説明だと思うのです。
 そこでお尋ねしたいわけですが、国連が提起した国際障害者年の取り組みには、もちろん日本政府は参加し、一定の努力をしました。多くの国民がこれに加わりました。しかし、今の国連決議で言う、構成員の幾らかの人々を締め出すような場合、それは弱くもろい社会である、この指摘は、残念ながら現在の日本に当てはまるんじゃないか、そう私は思います。そして、通常の人間的なニーズを満たすのに特別の困難を持つ普通の市民、この人たちの困難を取り除くという点でも、国と社会の努力はいまだ不十分だと考えます。
 この点について、国連決議に積極的にこたえていくために今何が急務になっているか、この点で、宮下大臣の端的なお考えを聞かせていただきたい。これが質問の一つです。
 もう一つ言います。二つ目は、障害者基本法の制定、これは、すべての会派が力を合わせて共同して努力したという点では非常に貴重なものだったと思います。そのとき、多くの関係者から、日本では障害別になっている法律、障害別縦割りの福祉制度、これらを一元化することが今必要だ、アメリカで一九九〇年に成立したアメリカ障害者法、これは、アメリカンズ・ウイズ・ディスアビリティーズ・アクト、こういう言い方をしておりますが、このアメリカ障害者法のようにすべての障害に対する包括的な法律が日本で必要である、こういう意見が出されました。
 私たち日本共産党も、毎年このことについて政府に申し入れをしてきて、ことしも六月十六日、当時の村岡官房長官に直接お会いして、この点について要請をしました。このことについて厚生省はどうお考えか。まず、以上二つのことについて御質問いたします。
○宮下国務大臣 委員御指摘の、国連の国際障害者年行動計画の中の今お述べになりました考え方は、大変私どもにとってプリンシプルな考え方でございまして、これは尊重していかなければならないと思っています。そういう角度から、障害者が人生のあらゆる段階におきまして能力を最大限に発揮して、自立した生活ができるようにしていくというようなこと、あるいは、障害者が障害のない者と同様な生活をできるように活動する社会を築いていくことが極めて重要であると存じております。
 そんな点で、厚生省として、これからも障害者福祉のためには万全の努力をしてまいりたいと思いますが、現在も審議会等でその問題を検討中でございますので、その精神のもとにこれらをさらに充実強化すべく努力をしていきたいと思っております。
 それから二番目の、障害者のための福祉法は各障害別になっておるという、それは御指摘のとおりでございますが、これらを一元化した法律にできるかどうか。制定することにつきましては、当面、各制度の中でも充実強化が求められている課題がそれぞれございます。その特性に応じてその需要があるわけですが、しかし、今御指摘のような点もございますから、制度体系のあり方の検討や関係者の合意には時間を要しますけれども、そういった視点も必要だろうと感じております。障害者関係の三審議会の合同審議会におきましても、そのような一元化した法律の制定につきましては中長期的な課題であるというように認識をして取り組んでおられますので、その長所とされるような点は、当面、現行制度の中でも十分可能な限り取り込んでいきたいというように思っております。
 障害者の種別間での整合性のとれたサービスの提供ということは極めて重要でございますから、障害者施策の総合的な施策という観点で、さらにその推進を図ってまいりたいと思っております。
○児玉委員 今、宮下大臣がおっしゃった、この国連決議の中の、幾らかの人々をその社会が締め出すようなことがあれば、それは弱くもろい社会だ、それは重要なプリンシプルだ、そうおっしゃったことを私は高く評価したいのです。
 その点について、どうやって実態をそぐわせていくか。その面でいえば、これは労働省の所管ではありますけれども、障害者雇用促進法の中で、身体的な障害については人数の中に数え込まれて義務化されていますけれども、それ以外の部分については別な扱いになっている、これらは改めるべきだと思っています。それから、厚生省がお進めになっている障害者プラン、これも、いろいろの努力はされていますけれども、幾つかの分野は、先ほど土肥先生が御指摘のようにおくれていますね。そこのところの急速な努力が必要だ。それから、包括的な法律については中長期的と言われたら、それは余りに先の話過ぎる。もっと手繰り寄せて御検討いただきたい。いかがでしょう。
○宮下国務大臣 委員の御指摘はごもっともな点が多いわけで、そうした方向で検討を続けてまいりたいと思います。
○児玉委員 終わります。
○木村委員長 中川智子さん。
○中川(智)委員 社会民主党市民連合中川智子です。
 今回のこの用語変更に関しまして、ある団体の方からのお手紙の最後のところの、長年偏見と差別により侵害され続けている、いわゆる今まで五十七年間精神薄弱者と呼ばれてきた人たちの人権が尊重される当たり前の世の中にしてほしいという言葉が痛切に物語っていると思いますが、単に用語変更、これは知的障害という、この障害という言葉が取り除かれない限り、本当に、みんなとともに生きていく、一人一人が互いを大切にしながら生きていく世の中、ノーマライゼーションの世の中は実現できないだろうと思います。ですから、早く知的障害の障害という言葉が取り除かれるような、そしてまた一人一人にレッテルを張ることのないような、みんながともに支え合って生きていける世の中をつくる、この第一歩になることを希望してやみません。
 その中で、きょうは特に労働省と厚生省にお伺いしたいのですけれども、今回改定される知的障害者の方たちの施策が圧倒的に立ちおくれているということを痛感しております。
 まず、私の友人なども、高校を卒業したときに、卒業おめでとうという言葉を投げかけたときに、彼女たちは、おめでとうと言われるのは健常な子供を持っている人たちだ、私たちは学校を卒業した後が大変だ、今までは学校で守られてきたけれども、社会にほうり出されていく、その後の生きるすべがとても不安だ、卒業おめでとうという言葉が私たちが素直に喜べるような、そんな時代に早くなってほしいということを言われていました。そしてまた、いつも話すときに、親が生きているときはまだ安心だけれども、私たちが死んだ後この子たちが心配、それは皆さんが同様におっしゃいます。
 なぜそのような施策しかできないのでしょう、なぜおくれているのでしょう。知的障害者がなぜおくれているのかということで、一つには、今質問させていただく中身として、社会全体で支え合う、それは今、企業も障害者の方を雇わなければいけないということになっておりますが、罰金を五万円払えば雇わなくていいということで、どんどん障害者が企業の中に入っていけるという状況がありません。
 労働省にお伺いしたいのですが、この三年間で、いわゆる障害者の方たちの就職の状況、そのデータをお示しいただきたい。同時に、今回のこの質疑でぜひともと言われたのですけれども、一人で普通の職場に入っていったときに、就職はできたけれども長く続かない、やはりみんなと適応できない、ですからケアが必要だし、複数で就職したいという声もたくさん聞きました。労働省にその点を御質問いたします。
○長谷川説明員 障害者の雇用率の御質問でございますが、この三年の状況ということでございます。
 平成九年の六月、一番新しい数字でございますが、身体障害者雇用率一・六%が適用されます一般の民間企業におきます実雇用率は一・四七%ということになっております。また、過去三年の実雇用率を見ますと、平成六年六月が一・四四%、平成七年六月が一・四五%、平成八年六月が一・四七%という状況でございます。
 知的障害者の関係でございますけれども、実雇用率は徐々に改善されておりますが、平成九年では〇・一五%ということでございます。これにつきましては、ことしの七月一日から知的障害者を含みます新たな障害者雇用率を設定いたしましたところでございまして、この法定雇用率の達成指導等によりまして、一層の知的障害者の雇用の促進に努めてまいりたいというふうに考えております。
 先生御指摘の知的障害者につきましての職場定着を図るということは、非常に大切な課題であるというふうに認識をいたしております。公共職業安定所におきまして職業を紹介いたしますときも、障害者各人につきましてケースワーク的に入念な職業相談などを行いまして、その人にできるだけ適合した職業を見つけて就職に結びつけるということをいたしております。また、就職後も事業所に出向くなどいたしまして、助言指導を行っているところでございます。
 また、本年度におきまして、先ほど申しましたような新たな雇用率の設定等も踏まえまして、知的障害者の雇用についての理解の促進を図りますとともに、知的障害者に対して実際の職場環境の中で基本的な労働習慣を習得していただくという観点から、事業所をリハビリテーションの場として活用する就業体験支援事業というものを拡充したり、あるいは企業におきまして、知的障害者の業務遂行に必要な援助者を配置するための助成金を拡充するというような方策を充実いたしまして、雇用の促進に努めてまいっているところでございます。
○中川(智)委員 今は養護学校の先生たちが走り回って走り回って就職先を探しているという状況です。やはり国の後押しがなければ――この〇・何%というのは、私、今初めて聞きましたが、本当に驚くべき数字だと思います。こちらから、労働省の方からどんどん企業に働きかけに行くということも今後やっていただきたいし、それに対する補助ということで、やはりお金もかけていただきたいと要望をいたします。
 時間がありませんので、厚生省に移ります。
 今小規模作業所が各地域で結構、本当に皆さんの努力でできているんですが、皆さんのというのは、ここにいらっしゃる皆さんの努力ではなくて、障害を持つ子供たちを抱える親たちの努力でできているということです。
 小規模作業所に整備費というのがきっちりと出されているか、作業所を建てるときのお金というのは出されているかどうかということを厚生省に伺います。そして、維持費は幾らなのか、その二つを端的にお答えください。
○今田説明員 御指摘の知的障害者が通所しております小規模作業所でございますが、これは、保護者団体などの地域に根差した、いろいろな方々の自主的取り組み、そして創意工夫をされながら、いろいろな形で運営されているという状況にございます。
 そのような施設に対しまして、現在運営につきましては、障害者団体を通じまして一カ所に百十万円の国庫補助を行っております。ただ、そのほかに、地方単独助成のための財政措置といたしまして地方交付税措置が講じられております。平成十年度の場合、標準団体当たりになりますけれども、県については三千九百万、市町村については四百九十万円が計上されているところでございます。
 なお、施設整備費につきましては、それ自体に対する国庫補助はございませんけれども、社会福祉法人が行います事業として、授産施設の分場などの工夫をいただければ国庫補助を受けられるものもあるという状況でございます。
○中川(智)委員 今のお答えでしっかりわかったのは、ほとんどお金をかけてないということがよくわかりました。障害を持っている親はそれだけでも本当に大変な状況に置かれている。お金をバザーですとか、いろいろなところに頭を下げて寄附をもらって、そして作業所をつくって、そこで子供たちの働き場をつくっているというような現状です。
 それに、維持費が年間百十万円です。人一人も雇えません。その地域の御努力とおっしゃいましたけれども、みんな人任せにして、障害を持つ子供たちの親任せにしてやっているという状況です。このようなことでは、言葉だけ変わったって全く中身が伴わなければ意味がないということを実感いたします。
 最後に質問いたします。
 やはりノーマライゼーションの世の中をつくっていくには、地域の学校に障害を持っている子供たちも入りたいと言えば入れていくということを基本的にやっていかなければ、隔てた壁があるのに、言葉だけノーマライゼーションというのはむなしいというのを実感しています。
 この間も熊本で、双子の子供の一人の子は健常で生まれて、一人が障害を持って生まれましたが、同じ学校に行きたいという声を無視して、教育委員会は障害を持っている子供を地域の小学校に入れませんでした。今なおその子は家にいる。そして兄弟は学校に行っているという状況があります。
 文部省は、いわゆる就学前健診を基礎にして、障害のある子供たちが学校に行くのに対して、地域に、学校の設置者にその判断を任せていますけれども、文部省として、障害を持っている子供たちも地域の普通の学級に行きたいということを今後推し進めていくという考えはあられるかどうか、そこだけ最後に質問して、終わります。
○辻村政府委員 今先生の御指摘のように、障害のある子供たちあるいはない子供たち、さまざまな機会で活動をともにする、そういう場が十分に与えられるということ、このことは大変大切なことだと思います。
 ただ、障害を持った子供たちにつきましては、将来の社会自立あるいは社会参加ということを考えますと、そのための必要な教育、力を培う、そういうことも小中高の段階でしっかりと行わなければならないということも一方で大切なことだと思うのです。
 そういたしますと、障害の種類とか程度というものにもよるわけでございますけれども、そういった種類、程度に関係なく、ただ通常の学級で学べばいい、そういうことではないんだろうと思います。障害の種類、程度に応じて社会参加、自立を促すような教育が一方で施されるということ、このことを押さえながら、そうした障害を持った子供と障害のない子供のさまざまな機会における活動をともにする教育、このことも大事だ。
 では具体的にどこかということにつきましては、やはり専門家の委員の方々で構成されるそういった委員会等の御判断によってこれは決められていく、こういうことなのではないか、こんなふうに思っております。
○中川(智)委員 もう時間になりましたので終わりますが、今の文部省のお答えに対しては、また文教委員会で、別途、差しかえなどで質問させていただきます。
 やはり親が、自分が死んだらこの子たちはどうなるんだろうという不安を抱えている、それが切実だという国に生まれたことが悲しいと思わなくて済むような、そのような施策をお願いしたい。心からお願いして、終わります。ありがとうございました。
○木村委員長 これにて本案に対する質疑は終局いたしました。
○木村委員長 これより討論に入るのでありますが、その申し出がありませんので、直ちに採決に入ります。
 参議院提出、精神薄弱の用語の整理のための関係法律の一部を改正する法律案について採決いたします。
 本案に賛成の諸君の起立を求めます。
    〔賛成者起立〕
○木村委員長 起立総員。よって、本案は原案のとおり可決すべきものと決しました。

【次回へつづく】