精神医療に関する条文・審議(その82)

前回(id:kokekokko:20051026)のつづき。初回は2004/10/28。
ひきつづき、平成11年の精神保健福祉法改正についてみてみます。法案などはid:kokekokko:20051026にあります。

第145回参議院 国民福祉委員会会議録第8号(平成11年4月15日)
○委員長(尾辻秀久君) 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律等の一部を改正する法律案を議題といたします。
 本案につきましては既に趣旨説明を聴取しておりますので、これより質疑に入ります。
 質疑のある方は順次御発言願います。
久野恒一君 自由民主党久野恒一でございます。
 余り質問に立ったことがございませんので、なれておりません。そういう意味では的が外れるかもわかりませんけれども、御容赦願いたいと思います。
 本日は、精神保健福祉法の一部を改正する法律案の質疑でございます。確かに、精神障害者が温かく家庭に迎えられ、そして社会に戻される、いわゆる障害の垣根を越えて生活をエンジョイできるということは、ノーマライゼーションの精神に基づき非常に理想的であると私は思うわけでございます。確かに、精神障害者にとりましては、そういう治療法というのが一番いい治療法ではないかなと思うわけでございます。
 来年はこの法律案を施行する年でございますので、それについて五年ごとに改正するとはいいましても、そのときの社会情勢によっていろいろとニュアンスが変わってくるのではないかなと思うわけでございます。いわゆる不況の問題とかあるいは社会環境の変化、それから国際情勢の変化、いろいろ要素がある中で法律を改正していくわけでございます。
 来年から介護保険が導入されます。そうなりますと、在宅福祉が始まるわけでございますので、今回の改正でもって在宅福祉がより拡充すると私は解釈するわけでございます。
 今後の障害者プランもやはり視野に入れて改正していかないと、将来はにっちもさっちもいかないような状況になるのではないか、そういうことを念頭に置いてこの改正をしていかなければならない、そういうふうに思うわけでございます。したがって、より詳細な改正を願うものであります。
 そこで、質問に入らせていただきます。
 まず、配付した表をごらん願いたいと思います。
 これは、出典はこういう厚い本で、診療報酬点数の早見表からとってございます。入院時医学管理料でございますが、三番目に精神病棟、二番目に結核病棟が書いてございます。参考として病院及び一般病棟です。そういう大学病院とか高次機能病院が三〇%以上の紹介率でもって二十日以内に大体帰るというような保険医療機関でございます。
 これを併記して書いたのは、平成十年の四月に改定されたわけでございますが、ごらんのように二週間以内、二週間から一カ月以内、一カ月から三カ月以内、三カ月から六カ月以内、六カ月以上というふうに書いてございます。そのような中でもって、この精神病院というのは、平成九年は平均して四百二十四日間であった。ところが、点数早見表で見ますとこのように区分されているわけでございます。全く一般病院と同じような区分でございます。二週間で治る、あるいは二週間以上一カ月の間に治るというような結核とか精神病というのは数が少ないのではないかなと思うわけでございます。
 そこで、この点数表に基づいて早く患者さんを出してしまう、一カ月過ぎてしまうと五〇%以下の医学管理料になってしまうので、したがって病院が赤字になるから出してしまう、余りにも早く患者さんを出すということは、余りいい結果が得られないのではないか、そういうふうに危惧するわけでございます。
 私は、そういう意味で、早く出せばよいという問題ではないと思うわけでございますが、そういう点を保険局長にお伺い申し上げます。
○政府委員(羽毛田信吾君) 先生御指摘のように、確かに精神病院に在院をされる方の在院日数が長くなっているということでございますが、これは言われているように、諸外国と比較しても我が国の精神病院の平均在院日数が長い、こういうふうに言われております。
 ただ、そうした中でも退院された方を入院期間別で見ますと、十四日以内に退院という形に結びついたものが一五・三%、それから三十日以内に退院に結びついたものが二七%、あるいは三月以内に退院に結びついたものが五六・九%、退院された方自体のあれを見ますというとそういうようなことになっております。実態として、多くの方が長期入院しておられることは否めない事実でございますけれども、すべての患者の方が必ずしも長期入院しておられるわけではないようであります。
 しかし、この精神科医療の分野におけるあり方につきましても、一般医療の分野だけではなくて、できるだけ入院早期、いわば急性期に濃厚な治療を実施することによりまして患者の方々の早期退院につなげていくという考え方は、やはり精神科医療の領域においても大事ではないかなというふうに考えます。
 そうした観点から、診療報酬の評価に当たりましての一つのめり張りの問題といたしましていえば、精神病棟におきましても一般病棟と同様に個々の患者の入院期間に着目をいたしまして入院早期の入院時医学管理料を高く評価する、そのことによって早期退院にできるだけつなげていくようなインセンティブを働かせていこうということを考えておるわけであります。そうした観点から御指摘のような診療報酬体系にいたしておるわけでございます。
 もちろん、精神科医療と一般医療ということになれば、精神科医療の場合に長期入院が必要であるケースが一般医療よりも多いだろうというような点につきましては、先生お挙げいただきました資料でもおわかりのとおり、いわゆる入院期間によります逓減制というもの、一般病棟のものよりも徐々に下げていくという意味での緩やかな段階的な逓減ということには配慮をいたしておるところでございます。
 今後とも、各医療機関の機能あるいはそれぞれの入っておられる患者さんの病態、あるいはどういうふうに今後政策的に医療を持っていくかという観点から診療報酬のあり方につきまして全体的に検討していく中で、この点についてもさらに今後どういうふうに持っていくのが患者さんにとってあるいは今後の精神医療のあり方にとって最もいいかという観点については不断に検討していかなければならない、こんなふうに考えておるところでございます。
久野恒一君 ありがとうございました。
 こういう方法でもって患者さんは二分化してきていると思います。確かに、短期でもって帰る患者さんと長期滞在型の患者さん、これは後でもって触れさせていただきますけれども、なかなか家へ帰れない環境にある患者さんもおるわけでございまして、これは論外でございますけれども、そういう状況にあろうかと思います。
 そこで、このグラフをちょっと見ていただきたいのでございますが、入院時のこっち側のグラフでございます。これで見ますと、最初の、病棟・病院別に見てみますと、これが大学病院とか一般病院。それから、療養型病床群ではないんですけれども介護力強化病院、これが白の枠で囲ってある棒グラフでございます。バツ印が結核病棟。それから精神病棟ということでございまして、初めのうちは点数はいいんですけれども、大体一カ月から三カ月の間が段階的にまとまっている、そういうことであると思います。そういう中身が違うわけでございまして、お医者さんの張りつけ人数が違うから、同じ高さでもお医者さんの数がこの中で十人いるのか一人いるのか、これの差はあると思います。ただ、表現上でもって大体この辺に、三カ月ぐらいまでに収れんしているのかな、そういう意味で保険局長の御答弁のようにこれが二分化していくんじゃないかなというふうに思うわけでございます。ありがとうございました。
 次に移らせていただきますけれども、精神保健福祉法に関する専門委員会の報告書で示されておりましたように、社会福祉資源が不足している、地域偏在が甚だしい、また現行制度での人権問題にかかわる対応不足の具体的な内容など四点ばかり挙げているわけでございますけれども、そのうち社会福祉資源の不足、それから地域偏在、また現行制度での人権の問題、そういう具体的な内容を障害保健福祉部長にお伺いいたしたいと思います。
○説明員(今田寛睦君) 御指摘のように、特に社会復帰施設につきましては、総体として必ずしも十分な量が整備されていないという状況もございまして、全国の市町村のうち大体一割の市町村に集中して設置されているという意味では、偏在もかなり強くあるというふうに私ども認識しております。これらを踏まえまして、すべての障害者にとって身近な地域で福祉サービスが利用できるようにするべきだというような御意見がこの報告書で述べられているところでございます。
 また、人権問題に関しましては、一つは精神医療審査会の活動が必ずしも十分に活動していないのではないかというような御指摘。あるいは、行動制限などの判定を行う精神保健指定医、この指定医が院内における役割として必ずしも明確になっていないのではないか、処遇の確保のための責任の所在が不明確ではないかといった点。それから第三点といたしまして、医療保護入院の要件が不明確であるために、家族の要望などに応じまして、同意能力があるにもかかわらず、医療保護入院がなされている場合があるのではないか。四点目といたしまして、現在の精神保健福祉法におきましては改善命令に従わないような精神病院をそもそも想定しておりませんので、こういったことをちゃんと担保する形での方策を設けるべきではないか。このような人権にかかわる改善の必要性が指摘されているところでございます。
久野恒一君 そこで、今いろいろ説明を受けたわけでございますけれども、今回の法改正におきまして、社会福祉資源の偏在、それから人権問題についてどのような対策を講じようとしているのか、大臣にぜひお伺いいたしたいと思います。
国務大臣宮下創平君) 現在の状況につきましては、今、部長が説明したとおりでございまして、それらの諸問題に今回の法改正において必要な措置を講じようというものでございます。
 具体的に申し上げますと、社会福祉資源というのは生活訓練施設、授産施設、福祉ホームあるいは福祉工場等でございますが、今回はそれらの整備を図るということをやっております。今回の法改正におきましては、まずその実施主体を市町村に移すということをいたしております。市町村が責任主体となって身近な地域で必要な在宅福祉サービスが受けられるようにするということが大きな特色でございます。
 それから、障害者の福祉施策の利用に関する助言あるいは調整、あっせん等についても市町村に実施責任を負っていただく、実施主体になっていただく。それから、従来県がやっておりましたが、市町村が行いますこうした助言、調整、あっせんについての広域的な調整を保健所で行うようにいたしまして、身近な地域で福祉サービスを利用できる体制を整備したところでございます。
 また、第二点の人権に配慮した施策につきましては、今、部長が原因は言われましたが、その裏返しとして精神医療審査会の報告徴収権限の付与等審査機能を強化する。これも患者の人権に配慮したものと言えましょう。
 それから、精神保健指定医につきましては、診療録を記載する義務を拡充いたしますと同時に、その役割を強化することによって患者への配慮その他も行われるということになると存じます。
 それから第三番目に、医療保護入院の要件を明確化いたしまして、精神障害者により同意が得られない場合でも保護入院という措置がとられることを明記いたしております。
 それから、改善命令に従わない悪質な病院に対する指導監督の強化等を図ることとしておりまして、今言った社会復帰施設対策を通じて精神障害者の社会復帰を促すと同時にその援護を行うということと、人権に配慮する、地域対策も進めていくというようなことが今回の法律改正の主要な点でございます。
久野恒一君 ただいま市町村への移譲と患者への配慮という点で申されました。
 次に、家族の高齢化の問題、それから単身障害者の増加についてちょっとお尋ねしたいと思います。
 この問題は、高齢化社会の到来とともに既に予測されていたんではないかなというふうに思うわけでございますが、今までの施策展開に際しまして、障害者側を主体と考えるのか、あるいは家族、介護人、近所の人、そういう人たちについてはどういう配慮をしているのか。そして介護保険が導入されてまいります。それによって患者側がどのような介護保険の負担をこうむるのか。障害保健福祉部長にこの二点についてあわせてお伺い申し上げます。
○説明員(今田寛睦君) まず第一点目でございますが、御指摘のように、年々精神障害者の家族の方々が高齢化をしている、あるいは単身者が増加をしているという傾向にあるわけでございますが、そういった意味では精神障害者の生活支援というものを家族に依存するということがだんだん難しくなってきているというふうに言えようかと思います。そういう意味では、地域社会全体で精神障害者の生活を支えていける、そういう体制づくりというものが必要なのではないかと考えております。
 このために、今回の改正におきましては、障害者の地域生活を支援する、つまり、何はともあれ障害者のためにということではありますけれども、それを支えていただいている家族のことも視野に置きながら幾つかの点につきまして改正を行うことといたしております。
 まず第一点は、精神障害者の生活支援にかかわるいろんな相談、こういったものをしていただく施設として精神障害者地域生活支援センターを設けておりますが、これを法定化して、障害者本人はもちろんのこと、家族への支援強化を図りたい。
 第二点は居宅介護等事業、ホームヘルパーの派遣でありますとか、それから短期入所事業、ショートステイといういわば臨時的に施設の方でケアができるような仕組み、あるいは自宅にケアのために人を派遣する、こういった地域での生活支援、それから一時的な家族の支援といったものを視野に置きつつ、これらの制度の創設を図るということが第二点でございます。
 それから第三点といたしまして、保護義務者の自傷他害防止監督義務を含めて義務の軽減を図っているという点、こういった点もあわせて患者の自主性の尊重と家族の負担の軽減という両面において一つの意義あるものとして今回提案をさせていただいている次第でございます。
 それから、第二点目の介護との関係でございます。
 精神保健福祉施策と介護保険の仕切りの問題でありますけれども、当然、精神障害者であっても介護保険の被保険者でありますし、介護サービスが必要となった場合には要介護認定を受けた上でふさわしい介護サービスは当然受けられる。
 精神科医療におきましては、介護保険がどの部分までを適用対象とするかという点についてはまだ検討中のところもございますが、適用されるところにおいては介護保険、適用されなければ医療保険から医療の分野としては支給されるということになろうかと思います。
 したがって、負担という意味ではそれぞれのルールに従った負担が課せられるものというふうに思います。
久野恒一君 どうもありがとうございました。
 何となくまだ言い尽くせない部分が私にはございますけれども、時間の関係でもって次に進ませていただきます。
 先ほどの精神福祉対策を市町村におろすということについてでございますけれども、報告書では、具体的な考え方として、まず地域に密着した精神保健福祉施策の充実を掲げ、医療施策については、精神科救急等地域での即応体制の整備、また市町村を中心とする福祉施策の体制整備などを明示しております。
 そこで、市町村を中心とする福祉対策の体制整備について、人員とかノウハウとか予算が自治体には余りない、こういうことでございますので、具体的にどのような体制整備を進めていくのか、また現在まで保健所で積み上げたノウハウというものをどのように市町村に移譲していくのか、これを福祉部長にお伺いいたします。
○説明員(今田寛睦君) このたび、身近な行政主体であります市町村においてできるだけきめ細かなサービスが提供をされるようにという観点から、一つは市町村に居宅介護等事業、ホームヘルプ事業あるいはショートステイなどを法定化いたしまして、さらにはグループホームについても同様に市町村の事業とするということで、サービスの提供主体を市町村におろすという考え方で制度を組み立てているわけであります。
 ところが、市町村はこれまで精神障害者に関する施策につきまして十分な経験を有しているわけではございません。従来は都道府県がそれを多く担っていたわけでありますが、それにつきましては今度新たに法定化いたします精神障害者地域生活支援センターに対しまして市町村が相談、助言を委託してそのノウハウを使っていただくということもできますし、またさらに御指摘の保健所が精神障害者対策に非常に大きな力と経験を持っているわけでございますが、市町村での受け皿、受けられる体制というものに保健所の力をおかりして、研修をする、あるいはマニュアルをつくっていただくということで、予定をしております十四年までに十分な体制をとりたい、このように考えております。
久野恒一君 そういう施策がまだ未経験の市町村におりるわけでございます。
 そこでもって、地域生活支援センターにこういうものがおりるとすると、市町村はそれなりの施設をつくらなければならない、そういう面でもって資金が足らなくなるんではないか。そういう意味を含めまして、大臣、ちょっと温かい御答弁をお願い申し上げます。
国務大臣宮下創平君) 今お話しのように、これから市町村を中心にやっていただくわけでございまして、施設につきましても従来のグループホームのほかに、今お話しのようにホームヘルプサービスとかショートステイ等の機能も法定化いたしまして、市町村を中心に行わせることになります。
 したがって、保健所は、都道府県が今までやっておりましたけれども、指導等は行いますけれども、市町村を主体にやるということになりますれば、今御指摘のように市町村の施設運営その他施設整備等について財政措置が必要でございます。
 この点は法律にも今回明記をされておりますが、国、地方公共団体の補助に関する事項として指定されておりまして、市町村が精神障害者の居宅支援事業を行う者に対して補助した場合は都道府県が市町村に対して補助できる、そして都道府県がやった場合には国はその費用の一部を補助することができるということで明定をしてございます。
 我々としては、この社会復帰施設対策及び地域対策としてのいろいろの諸問題については今後予算的にも充実を図ってまいりたい、こう思っております。
久野恒一君 持ち時間が大分迫ってまいりましたので、五番の問題は割愛させていただきたいと思います。
 次に六番の問題でございますけれども、身体障害者知的障害者精神障害者に関する福祉施策をそれぞれどこの課が担当しているのか。担当が分かれることによって縦割り行政の弊害というものが出てこないか、その辺のところを簡単で結構でございますから福祉部長にお願い申し上げます。
○説明員(今田寛睦君) 知的障害、身体障害、精神障害、それぞれの所掌につきましては、従来厚生省におきましても三局にまたがっていたわけでありますが、平成八年から組織を改めまして、現在の障害保健福祉部を設置して、これらの総合的な施策の推進ということで発足をしたわけであります。それらも反映いたしまして、都道府県も現在そういった意味では所管が分かれておりましたところが徐々に一緒になっていこうということで、現在三十九県が同一の局でやっているというふうになってまいりました。
 いずれにいたしましても、組織が一本化すればそれで足りるわけじゃありませんけれども、やはり連携がとりやすいことによって総合的な障害者施策が進められるように今後とも指導等を進めていきたいと考えております。
久野恒一君 ありがとうございました。ぜひ、そうお願いいたしたいと思います。
 最後の質問になりますけれども、医療費をこれからうんと有効に節約して使わなければならない、こういう状態にあろうかと思いますが、どうしても長期入院が必要な患者さんがいるわけでございます。
 そういう意味では、病院を類型化、もちろん今類型化されつつあると思いますけれども、民間病院と高次機能病院、いわゆるそういう機能を整えた国立病院、そういうものの機能分化というものをしっかりとやっていただきたい。相当な料金体系を整わせることによって、そういう民間病院と国立病院の役割分担というものをもう少ししっかりとやっていただきたい。そして、国民が安心して住みやすい地域づくりというものをつくっていただきたいという大臣の心強い決意のほどをお伺いいたしまして、私の質問を終わらせていただきたいと思います。ぜひよろしくお願いいたします。
国務大臣宮下創平君) まず、長期入院患者の療養環境の整備でございますけれども、これは今御指摘のように、病院の類型化を進めてはどうかという御意見、これは私どももその療養にふさわしい施設設備を整備するという観点からいたしまして、例えば病棟単位で区分するとかいろいろな方法があり得るかと思いますが、検討してまいります。
 なお、医療法におきまして、病床機能の見直し論も今議論をされておりますので、そうしたことを背景としながら、精神科医療における効率的な医療提供体制のあり方についても鋭意努力をしていい方向を出したいと思っております。
 今御指摘の民間と国立病院との問題でございますが、確かに統計を見ますと国立病院の精神障害者の利用率は非常に少ないです。したがって、それはいろいろの原因があるかと存じますけれども、やはり国立病院というのは、ある意味で基幹的な病院でありますと同時に先導的な役割も果たしておるわけですから、もうちょっと国立病院の機能もそういった面で充実強化すべきものではないのかなというような感じを持っております。
久野恒一君 ありがとうございました。
 以上で質問を終わらせていただきます。
○櫻井充君 民主党・新緑風会の櫻井充です。
 今回の法改正におきまして、患者さん、そして家族の方々にとっては一歩前進かなというふうに見ております。基本的に賛成なんですが、少し足りない点がありますので、その点について御質問させていただきます。
 まず最初に、趣旨説明の中で「精神障害者の人権に配慮した適正な医療の確保」というふうにうたっておりますけれども、今回のこの法律の本文中で人権ということに全く触れておりません。人権という言葉が一つも出てきていません。総則の中に人権の尊重ということを明記すべきではないかと思いますが、その点について厚生大臣の御所見をお伺いしたいと思います。
国務大臣宮下創平君) 私ども、今回の改正点の実体的な意味は、先ほど申しましたように、人権への配慮と地域福祉の充実、支援体制の充実が大きな柱であると存じております。
 御指摘のように、法律条文を私も見ましたが、一条、二条、三条、それぞれ義務的なことあるいはあるべき方向性は書いてあります。人権という言葉は使われていないのは事実でございますが、それぞれの条文をよく読んでいただきますと、この背景にはやはり人権への配慮ということがなければこういう表現になってこないということもございますので、今回の改正で特に人権への配慮と、表向きそういう言葉はございませんが、この規定全般にわたってそういう配慮はなされているものというのが私どもの判断でございます。
○櫻井充君 今回の法改正においても、要するに基本理念が見えてこない、見えにくいというところがあるかと思います。つまり、大臣がおっしゃっていますように、確かに配慮しているというところは見えますけれども、はっきりこの法律はこういうふうな形でつくっているんだということを示すためには、やはり人権に対して、僕らは尊重だと思っておりますけれども、そういうふうなことをきちんと明記すべきだと思います。そういうふうに考えてもこれは明記する必要がないというふうにお考えなんでしょうか。
国務大臣宮下創平君) 先ほど申しました点を補足いたしますと、例えば第一条では、精神障害者の医療、保護ということでその援助の規定を明確に打ち出しております。二条でも、国や地方公共団体の義務として精神障害者の自立と社会経済活動への参加ということを明確にいたしております。第三条におきましても、国民の義務として精神障害者に対する理解を深めるとか、あるいは精神障害者がその障害を克服して社会復帰ができるように協力しなければならない等、まさに人権への配慮を精神障害者を中心に記述されて一条、二条、三条は構築されております。
 そして、それを展開する意味で、いろいろの施策が今回も改正されておりますので、私どもとしては人権への配慮は十分なされているというように考えております。
○櫻井充君 昨年、法改正されました感染症予防法に関してですが、感染症予防法に関しては基本理念が第二条にございます。その第二条では、人権への配慮ということをきちんとした形でうたっております。そして、第三条の国、地方公共団体の責務のところにも人権を保護しなければいけないと、それから国民の責務のところにもそのようなことが書かれています。
 これまでの経緯を見たときに、感染症の患者さん方が隔離される、強制入院させられなければいけない、そしていろんな形で差別を受けてきた。そういう意味でいいますと、感染症の患者さん方も精神疾患の患者さんたちも今までずっと同じような経過を歩んできたんではないかというふうに私は思っています。
 昨年の法改正で感染症予防法ではきちんとした形で法文の中に明記しているにもかかわらず、今回の法文に関して明記しない、この点に関してはいかがなんでしょうか。
国務大臣宮下創平君) 昨年改正いただきました感染症予防法におきましては、これは厚生省の当初案ではそういう表現は乏しかったわけでございますが、当院の議論を踏まえてそのような修正がなされております。
 私どもとしては、感染症の問題がこれと全く同一かどうかという視点の検証も必要でございますが、しかし今、委員のおっしゃられるように、精神障害者といえどもやはり感染症患者と同様なシチュエーションにある場合も多いわけですから、当然人権への配慮は必要でございます。
 しかし、現行法の体系において、先ほど申しましたように十分裏づけがなされておるということで、私も頭の中ではかすめました。去年の議員立法でやられたことも思い起こしながらどうかなという検証も自分自身では考えましたけれども、やはりこれは実体的に保障措置をきちっとしておいた方がよりいいんではないかという感じで、今回はそういう言葉自体は挿入をいたさなかった次第でございます。
○櫻井充君 今、大臣がおっしゃった中で、最初の感染症予防法に関しても厚生省案の中にはそういうことがなかった、そしてこういう討論の中で人権に対しての配慮という言葉がここの中に盛り込まれたというお話がございました。
 それとぜひ同じようなことを今この場でお願いできないか。つまり、厚生省の案には、確かに今回の改正の中に人権に対する配慮、僕らは尊重と思っています。その言葉がございませんが、こういう討論を含めてここの部分を明確にした方がこの法律の理念もはっきりすると思います。再度くどいようですけれども、それでも大臣、ここの中には明示してはいただけないんでしょうか。
国務大臣宮下創平君) 私どもは、この法律を政府案として出している以上、責任を持って御提出申し上げておりますので、これで御審議を十分尽くしていただきたいなと思います。一方、院の方でどういう御議論をなさるか、それはまた院の問題としてこうした委員会等の機会があるわけでございますから、御議論をいただくことはもう十分いただいてしかるべきだと思いますけれども、今、私の方でそういうことを申し上げる立場にもございません。
○櫻井充君 それではお願いなんですけれども、五年後に法改正がございます。そのときにはもう一度、一条から三条について人権の尊重なり人権への配慮という言葉を明示するということを御検討願えればというふうに思いますが、それは御検討願えますでしょうか。
国務大臣宮下創平君) この法案を今御審議を始めていただいたばかりのときに、五年後には必要だから見直すということは自己矛盾みたいに感じます。したがって、この法律でよく御審議をしていただいて、実体的な意味をよくお酌み取りいただくと言うしかないと思います。
○櫻井充君 確かにおっしゃるとおりだと思います。
 なぜこんなにしつこく言うかといいますと、いろいろ不祥事がございました。例えば、平成七年十一月の神奈川県の福井記念病院の患者預金無断引き出し事件、平成九年二月の高知県の山本病院の院内暴力事件、昨年五月の新潟の犀潟病院の事件など、要するに医師とか医療機関従事者による不祥事が後を絶たないわけでございます。ですから、人権に関してきちんと明示すべきではないかということをしつこく申したんです。
 それと同時に、感染症予防法のところには「医師等の責務」というのがございます。今回の総則の中には医師もしくは医療従事者に関しての責務というのがございません。こういういろいろな不祥事がございますので、この総則の中に医師、医療従事者の責務を加えるべきではないかというふうに思いますけれども、厚生省の御見解をお伺いしたいと思います。
○説明員(今田寛睦君) 精神科の医師あるいはいわゆるコメディカル、医療に従事される有資格者の皆さん方、看護婦さんもそうだと思いますが、それぞれ身分法を持っておられて、その身分法の中で責務が規定されているという意味であれば、ここであえて重ねてその旨を書くべきかどうかという点については、少し検討してみなければちょっと今即お答えすることができないという状況でございます。
国務大臣宮下創平君) 今、部長の言われたように、一般的に医師である以上、精神科医であれ外科医であれみんなそれだけの責務を負っておると存じます。それはその基盤にあるわけです。
 しかし、精神障害の問題につきましては、精神保健福祉法としてその医師の特殊な領域というものをきちっと守っていただく、つまり指定医の制度です。これが本当に機能していないから今御指摘のような不祥事件等々も起きている一因にもなっておりますので、今回は指定医の義務その他をきちっとして精神障害者の患者本位の体制をつくり上げようというところに主眼がございます。
 そういった点で御理解いただければ、医師の責務が書いてないからこれは軽く扱っているんだと、そういうことではないと私は思います。
○櫻井充君 大臣の発言の内容に関しては重々承知しております。ただ、今指定医という医者のことに関して大臣もおっしゃいましたけれども、こういう不祥事を起こしているのは医者だけではございません。看護婦さんの場合もございますし、それからそこの中の管理者の方々の場合もございました。
 ですから、指定医に関していろいろあるかもしれません。しかし、そのほかの人たちに関してきちんとした形で明示されていないのではないかというふうに思いますが、その点に関していかがでしょうか。
○説明員(今田寛睦君) まず、今回の改正で、精神保健の指定医につきましては、まさに精神科の病院の中で一人あるいは二人の設置を義務づけてあるわけでありますけれども、その意味というのは、医療機関の中で患者さんの人権というものを指定医という資格を持って全体を見ていただくという観点から、このたびの改正におきまして病院において不都合な人権侵害等があったらそれを管理者に報告するなどの改善について努めなければならないということで、一つは指定医の目で見て従業員の方々を通しての人権侵害の防止というものに努めていただくという形で改善を図ったところでございます。
 なお、個々の職種、いろんな方がいらっしゃると思いますけれども、個々の方々の人権上の問題というのは、一般的には当然のことでありますけれども、まさに精神病院は指定医によって身体の拘束も含めて人権上の制限を加えることができる非常に重要な立場にあるという意味から、とりわけ指定医に対して病院全体で人権を守っていただく責任者としての義務を今回新たに創設させていただいたという趣旨でございます。
○櫻井充君 今の話を聞いていますと、そうするとほとんど指定医が責任を負わなければいけないというような感じになりますが、何か不祥事があった場合はすべて指定医の責任になるんでしょうか。
国務大臣宮下創平君) 今、部長が説明したのは、今回の改正の非常に主要なポイントを御説明申し上げました。病院管理の全体は病院管理者に責任があります。病院管理者というのは病院長です。したがって、病院長の傘下にある看護婦さんでありますとか事務職員その他を含めて、あるいは給食に従事する方々を含めて管理者の責任は今回の改正でもより強めておりますので、病院の従事者一人一人の職種の態様に応じて、それぞれを記述してございませんけれども、全体として病院の体制をきちっとするように管理責任をより明確化しているという点はございます。
 ただ、今部長が言いましたように、直接的に精神障害者を管理というか医療行為をやるのは資格者でございます。資格者は直接的に接触がございますから、きちっとした報告義務を課したりなんかして、いいかげんな、また暗やみの中の治療みたいなことで不明瞭であってはなりませんから、報告義務を課すとか明快に審査会にも報告するとか、いろいろの義務を課しているわけです。
 そういうことによって人権を擁護する立場を担保しているというように思いますので、今御指摘のように資格者だけを中心にしたものでもない。しかし、資格者が非常に中心的な役割を果たすという点に着目して改正をお願いしてあります。
○櫻井充君 私も十数年医療の現場におりました。最近の医療で本当に大事なのは、看護婦さんとかいろんな方々を初めコメディカルスタッフの協力がなければ今の医療はやっていけないということになってまいります。しかし一方で、この間の横浜市立病院の事件のように患者さんを取り違える等、やはりコメディカルスタッフの問題点というふうなものもございます。ですから、一概にすべてが医者の責任、それから管理者だけの責任が問われるものではないというふうに思っています。
 ですから、その病院、患者さんたちにかかわってくるスタッフの方々の義務なりなんなりというふうなもの、特に精神疾患の患者さんたちというのは医療法でも特別な枠を設けられているわけですから、この精神保健福祉法があるんだとすれば、そこの中で医療従事者についても人権を擁護するなりなんなりというような責務をきちんとした形で明示すべきではないかと思っているわけです。
国務大臣宮下創平君) おっしゃる点は趣旨としては私も賛成です。病院全体が、従事者全体が精神障害者の立場を考えながら人権に配慮し保険医療を給付していくというのは当然のことでございます。そういう体制になっていない事例があることは残念でございますが、それは運用上、実行上の問題もかなりあると思います。
 それから、今、横浜市立病院のお話が出ましたが、ああした問題はやはり病院の運営システムの問題だと私も考えます。それが大きな要因だと思います。極めて単純なミスです。しかし、その単純なミスが流れ作業の中で疎外されている。単純であるだけに、気のつかない間に、流れ作業といっては人間を扱う病院の表現としては非常にまずいんですけれども、実際は大量に扱う場合にそういう単純なミスが生じておりますから、システムをきちっとすることは、精神病院であると一般病院であるとを問わず重要な視点であろうと思っております。
○櫻井充君 今、システムという言葉が出ました。今回の人権問題にしても不祥事に関してもですけれども、結局この法律、今回の精神保健福祉法だけを改正すれば済む問題ではないというふうに考えています。
 システムを確立するためには何といっても人の力が必要でございます。ちょっとこれは医療法の話になってしまいますが、現在、精神科病院では医者一人に対して患者さん四十八人、そして看護婦さん一人に対して患者さん六人と非常に劣悪な条件で働かされているし、患者さんたちもそこで診療を受けているという事実がございます。この点について今後改正する予定というのはおありなんでしょうか。
国務大臣宮下創平君) この問題は、私も多少個人的には大臣になる前から疑問を持っていました。つまり、四十八人に一人の医師、その三分の一が一般医療機関では定数化されているわけです。
 どうしてかということを尋ねてみましたところ、戦後、病院が非常に不足しておって、特に精神病患者は慢性期の問題が多いものですから収容施設もない。とにかくとりあえず収容して治療しようということから、医師の配置その他も非常に一般病院との差が大きかったと思います。ところが、最近においては精神障害者の医療行為もかなり高度化してきておりますので、そこの差が多少縮まってきているんじゃないかと私は思うんです。
 したがって、この定数配置の問題は医療の提供体制の問題として今検討中でございますから、精神科医の配置とそれ以外の一般病院の医師の配置の問題は今後改めて検討させていただこうかなと思っておるところでございます。
○櫻井充君 世界と比較したときに、患者さんに対しての医師の定数それから看護婦さんたちの定数というのはかなり低いんです。一般の医療の中と比較しても、精神病院の医師それから看護婦さんたちの数が非常に少なくなっています。もしわかればの範囲なんですけれども、ほかの国のデータがございましたら教えていただきたいんです。
○説明員(今田寛睦君) 今、手元にございませんけれども、一般的に言われておりますのは、我が国の入院期間が長いことの一つの理由として、それへの従事者が少ないということが関係しているのではないかというふうな御指摘をいただいているのは事実でございます。
○櫻井充君 これは手元にないだけであって、厚生省の中にはあるんでしょうか。あれば後で教えていただきたいと思います。
○説明員(今田寛睦君) ないと言っておりますが、ともかく一応当たりまして、御返事を申し上げたいと思います。
○櫻井充君 今やグローバル化といいますか、もう島国ではないんですから、世界のほかの国々で果たしてどういうふうなことが行われているかということはやはりきちんと調べるべきではないでしょうか。
 クロイツフェルト・ヤコブが起こったのも、一九八七年にもうアメリカのJAMAの方では、人の硬膜を移植すればクロイツフェルト・ヤコブが発症するかもしれないという情報がございました。残念ながら厚生省はそれを知らないで十年間過ごしてきて、日本ではクロイツフェルト・ヤコブの患者さんが多かったということもございます。ですから、世界の情報というふうなものはきちんと早くに入手すべきだというふうに私は考えております。
 さて、今度は移送についてお伺いしたいんですけれども、患者さんの同意を得ない、そしてなおかつ保護者の同意も得ないで入院が必要となる場合に、今度は移送というシステムをつくることになりました。これは救急医療とはまた別ものなんでしょうか、救急医療の一環としてこの移送というシステムが使われることになるんでしょうか。
○説明員(今田寛睦君) このたび移送の仕組みをつくりましたのは、先ほどの御質問の中にもございましたけれども、一つは保護者の同意は当然必要だという仕組みの中でこれを機能させることといたしております。
 改めて全体を申し上げますと、精神障害があって本人に医療の必要性が十分判断できない、そういう場合に当然家族の説得とかあるいは主治医の協力とかを得ることになるわけでありますが、それでもなおかつ努力を尽くしても本人が受診に同意しない、しかも医療はどうしても必要なんだということについて指定医が判断した場合に、保護者の同意を条件に適切な医療機関にこれを移送する、こういう仕組みでございます。
 したがいまして、一般の救急というところで物を考えますと、もちろん休日とか夜間とかといういろんな意味での救急はあろうかと思います。何はともあれみずからの意思で救急的なケアを受けるという意味では一般の救急もこれに十分活用できるというふうに思いますけれども、今回は本人がそれを同意しないということがあるために、法的にこれに責任を持って、人権に配慮した仕組みを持って、しかも適切な医療機関に送るというような仕組みで提案をさせていただいているという内容でございます。
○櫻井充君 済みません、移送というのは応急入院ということで考えてよろしいんですか。移送していくというのは応急入院ということですか。
○説明員(今田寛睦君) 応急入院というのは保護者の同意が直ちに得られない、扶養義務者がいるけれども、扶養義務者の場合は家庭裁判所の選任を受けなければなりませんので、そういった意味でしばらく時間がかかるので応急に入院する、保護者がいないという意味において一つの入院手続が応急入院であります。
 今回の移送と申し上げますのは、これは一つの医療保護入院に至る入り口として一定の手続に基づいて医療機関にこれを移送する、その移送先が従来応急入院を受け入れることができる施設として指定していたものを活用しよう、こういうことで応急入院を受け入れる指定病院をこの移送の受け入れ病院として位置づけた、このような構成になっております。
○櫻井充君 要するに、応急入院と移送で入院させるそこのシステムの違いは、そうすると保護者の同意があるかないかという一点でしょうか。
○説明員(今田寛睦君) 応急入院というのは一つの入院形態でありますから、移送ということとは直接は関係ないわけです。医療保護入院で入院するのか、あるいは医療保護入院の場合には保護者の同意が要るけれども、保護者がいないという場合には七十二時間を限度に保護者のいない状態であっても入院することができるということを規定しているのが応急入院であります。
 移送は、その病院に至るまで、そこの病院に行こうとする段階の間に、その適切な医療を受ける医療機関までどうしても連れていってさしあげないと医療が確保できないということに係る手続を定めたものが移送であります。したがって、意味は違うというふうに思います。
○櫻井充君 そうしますと、移送する場合の手段といいますか、それは救急車ということになるんですか。
○説明員(今田寛睦君) 通例の流れから申し上げますと、家族が治療を受けさせたいんだけれども本人が同意してくれないというときには県、つまり保健所にこれが通報される。保健所は、県としてこの方が本当に移送するにふさわしい人か、あるいはどういう形でそういう状態になっているのかを把握し指導して、やはり診察が必要だということになると指定医のお医者さんをそこに呼ぶ。そこで診断をして、確かにこれは医療保護入院するような状態にあるという判断をされたところで県の責任で医療施設まで運びます。
 ただ、そのときに、県の責任で運ぶわけですから、例えば保健所の車である場合もありましょうし、あるいは消防の皆さんにその機能をお願いする、つまり委託をするといういろんな選択肢はあろうかと思いますが、実施主体者はあくまでも県でこれを担保する、こういう運用を考えております。
○櫻井充君 その移送先は応急病院ということになるわけですね。そうすると、今応急病院というのは全国で六十二カ所しかありません。我が宮城県はゼロでございます。こういうふうな場合、どうすることになるんでしょうか。
○説明員(今田寛睦君) 御指摘のように、応急指定病院というのは一定の要件がございまして、例えば指定医の数でありますとか備えるべき機械とかいうのがあります。ただ、この応急指定病院につきましては、もともと応急入院を想定して制度ができ上がっている。そうすると、応急入院を適用しているケースというのは年間全国で百八十件ぐらいが現在あります。そういう意味では、必ずしも多くの需要を見込んで制度を走らせている状況にないということ、それから今申し上げたように施設に一定の基準がありますから、それに該当をしない場合もこれありということも多少影響していたのではないかと思います。
 今回、そういう応急指定病院の仕組みを移送先として改めて位置づけようとするわけでありますから、今度は移送先としてふさわしい基準あるいは条件というものとしてこの指定の基準を見直す必要があります。
 これにつきましては、公衆衛生審議会にお諮りをして、どういう基準がいいかという点についても御議論いただいて、施行に間に合わせるように見直して、その地域配置それから絶対量、こういったものが確実に確保できるような形で準備を整えていきたい、このように考えております。
○櫻井充君 大体全国で何カ所ぐらいを予定しているんでしょうか、もしくはどのぐらいの数がなければシステムとして稼働しないというふうにお考えでしょうか。
○説明員(今田寛睦君) 全体どの程度の方が利用されるかという点はなかなか予測しがたいところもございますが、かといって搬送距離というものが、延々と長いリーチでやると事実上機能しないということからすれば、二次医療圏を一つの単位として、その中にやはり複数は必要になるのではないか、このように考えております。
○櫻井充君 先ほども申しましたように、精神病院というのは劣悪な条件となっています。医師の定数にしてもです。その中で、二次医療圏の中に幾つかを設ける。そうすると、当然のことながらこれまでの応急病院と全く違って、質がと言ったら怒られるんですけれども、救急を受け入れられるかどうかわからないという状況になるのではないでしょうか。
 先日、仙台市の消防局の方が私のところにお見えになったときにちょっと話をしたんですが、現状でも精神病の患者さんが救急車に乗り込まれて病院を見つけるのに本当に苦労するというふうに申しておりました。
 再度お伺いしますが、今のような条件で果たしてそれを確保することができるんでしょうか。
○説明員(今田寛睦君) もちろん精神科の医療機関の御協力というものを仰ぐ必要があろうかと思いますが、今回の移送という観点から二次医療圏にできるだけ複数の施設を用意したいということで準備をいたしますし、そのための要件というものについても見直しを図るということであります。
 目的は、そういう制度がなぜ必要だったかというと、そのことによって家族が非常に困っていたという問題もある一方で、例えば搬送業者が無理やり身体を拘束して病院に運んでいるという実態に対する批判等があって、何はともあれ患者さんの人権というものを今よりもより丁寧に扱うということを一つの目的として制度をつくっている。それを支えるために応急指定病院というものについて運用が滞ることがないように精いっぱいの努力をさせていただきたい、このように思います。
○櫻井充君 今の一般救急の中でも受け入れ先はできているんですけれども、受け入れ先で必ずしもその専門の医者に当たっていないという場合もございます。ですから、昔は救急車の中でよく、よくと言ったら怒られますけれども、たどり着いたときには患者さんが亡くなるケースもございました。最近はそうではなくて、専門外の人が、例えば本当ならば循環器に診てほしい、心臓を診てほしかったといった場合に、脳外科の医者が救急であった、たまたま引き受けてしまったときに心臓の病気であった、そういう格好で亡くなっているケースというのも最近見られております。
 そうしますと、移送というシステムに関しては確かに必要だと思いますが、その受け入れ先で十分な医療が行われないようなところを応急病院に指定されたのでは、今度は運ばれた患者さん自体がたまらないことになると思います。
 その点に関して、その数を確保するためには相当レベルを下げないと数は確保できないと思います。レベルを下げるということになれば今のようなことが起こってくると思います。ですから、根本的な改革をしていかなければこのシステムというのは稼働できないんじゃないでしょうか。
○説明員(今田寛睦君) 現在の応急入院の指定病院の基準につきましては、精神科の指定医が一名以上いる、常時入院に対しては応需体制が整っている、あるいは一床以上の空床を確保しておく、こういう幾つかの基準も設けております。
 先ほど申し上げましたように、このことは応急入院という一つの視点に立っての基準でありますが、今回移送というものに着目をして、その移送を受け入れるべき施設としてどういう基準がいいのかという点については、審議会等の御意見をお聞きし、その条件をまず定めた上でその確保方について、先ほど申し上げましたようにそれにふさわしい施設として努力をさせていただきたい、このように申し上げたわけであります。
○櫻井充君 移送するというシステムをまずつくった、ほかに場所があるかどうかというのはわからないけれども、とりあえずシステムだけつくった。逆じゃないですか。つまり、移送先の病院がある程度確保できるということをきちんと踏まえた上でこのシステムをつくらなければ何の意味もないんじゃないですか。
○説明員(今田寛睦君) 審議会の審議の経過におきましても、病院関係者は、個々に応急入院の指定基準、こういったものを念頭に置いて、一定の条件を定めるという意味において、医療関係者あるいはその他の皆さん方もこれに協力をして実現するべきであるという形で報告書がまとめられ、我々もその御趣旨に従い、関係者の理解を得ながら、より人権に配慮できる適切な移送体制というものを構築していきたい、このように思っておるわけであります。
○櫻井充君 病院のことに関してなぜこんなことを言っているかといいますと、八割が私立の病院でございます。しかも、診療報酬点数は物すごく低いわけです。そういう中で人員を確保しろということ自体がまず難しい状況ではないでしょうか。ですから、何度もそれができるのかどうかということを問うているわけです。それができないんだとすれば、国公立でそういうものをつくっていかなければいけないんじゃないかと思います。
 例えば、この法律の第二節「精神病院」の第十九条の七のところに「都道府県は、精神病院を設置しなければならない。」というふうに明示しております。ですから、これこれに見合っただけの応急病院を都道府県は幾つか持たなければいけないとか、そういうような形で、都道府県単位である程度公的なところでやっていただけるような法律をつくるべきではないですか。
○説明員(今田寛睦君) 審議会の御意見の中にも、移送も含めて救急医療について、公的な医療機関の役割については御指摘があったわけでありますし、今回の移送システムの導入に当たっても、それを法定するということではございませんけれども、少なくとも都道府県立あるいは公的なあるいは国立の医療機関にこの制度に最大限の御協力をいただくようにお願いをしてしかるべきである、このように思っております。
○櫻井充君 そうしますと、応急病院に関してですが、我々の宮城県の中には今まで一個もなかったわけです。こういう場合、応急入院する場合はどうしていたんでしょうか。
○説明員(今田寛睦君) 手元にちょっと資料がございませんけれども、応急入院の施設がないということは、その病院は応急入院のケースの対象とならなかったということとして理解せざるを得ないわけでありますが、ただ、現実的には、ゼロの県でも数県計上されている場合に県を越えてこれが運用されているということもあるのかもしれません。いずれにしても、その実態につきましては調査をしてみないとよくわからない分野ではないかと思います。
○櫻井充君 今のは全然違うんじゃないですか。患者さんが出なければその病院がないなんて、そういう話じゃないんじゃないですか。それは全くおかしいんじゃないですか。そういう患者さんが出たときに困るから病院があるのであって、病院がないから今までなかったなんて、そんなばかな答弁はないでしょう。
国務大臣宮下創平君) 今の櫻井先生の御質問と御議論を承っておりまして、全国で千七百近くの精神病院がありまして、三十三万人くらいが入院しています。したがって、応急指定病院だけが精神障害者のある一定水準以上の医療給付ができるというようには私どもは考えておりません。
 これはさっき部長が言いましたように、一定の基準をきちっとして拡充していかないと、宮城県の患者が出た場合に岩手県まで持っていかなけりゃだめだというようなことであっては現実的でありません。今六十何カ所というのは、確かに一県に一つあるかないかの話でございますから、こういう移送制度を設ける以上は、どんな病院でもいいというわけにもまいりませんから、一定の基準をきちっと定めて、そして指定を拡充していかなければこの移送制度というものは本当に実効性が上がらないというように考えておりますことを申し上げておきます。
○櫻井充君 しつこく言っているのは、要するに十分な設備とか医師、看護婦さんたちが配置されている精神病院がかなり少ないということ、そこはやはり御理解いただきたいと思います。そして、くどいようですけれども、そういうために患者さんたちの人権が損なわれていたということがございますので、その点についてはまた今後御検討願いたいというふうに思います。
 あと、保護者に関してなんですけれども、今回は自傷他害防止監督義務の規定を削除いたしました。基本的には、今後保護者の監督は不要というふうに考えていいんでしょうか。そして、もうこの患者さんに関して監督は不要なんだというふうなこと、これはだれが下すんでしょうか。もしくは、監督が必要と考えられる場合には、保護者に協力を要請することは可能なんでしょうか。
○説明員(今田寛睦君) 今回の自傷他害防止監督義務の廃止の流れを申し上げますと、まず、実際に自傷他害を防止するというのはどういうことをすればいいのかということになりますと、具体的には、保護者が日ごろから患者の病状に注意し、病状が悪化して、あるいは自傷他害のおそれがある状態になった場合には速やかに医師あるいは保健所に相談をして適切な医療が確保できるように、こういうことが家族にできる、そういうことをやってもらいたい、こういうことで自傷他害防止義務があるわけであります。
 これは同じく保護者の義務の中に治療を受けさせる義務がございます。この治療を受けさせるということは、まさにそういった自傷他害の状態になったときに、すぐにでも医療機関あるいは保健所に相談して治療をとにかく受けていただくという行動をとってほしいということにおいて事実上担保されるという観点からこれを削除したわけでございます。
 したがって、この自傷他害防止監督義務そのものは保護者の義務から完全に削除されるということでございますので、今後治療を受けさせる義務ということ、これだと具体的な行動がとれますので、こういったことをもって適切な治療の確保の手だてとして有効に機能するのではないかと思っております。
○櫻井充君 済みません、もう時間になりました。警察庁の方に来ていただいているので、最後に。
 現在、精神障害者によって害を及ぼされている被害者の方々に対して犯罪被害給付制度があります。しかしながら、必ずしも十分な補償制度とは言えません。
 例えば、両親が殺害された場合には孤児になってしまうという方々もいらっしゃるわけで、この方々に対しての生活の保障というのが全くできていません。保護者の制度が外されるから、義務が外されるからというわけではございませんが、これまで被害を受けてきた方々に対してやはり国として十分な補償をするシステムを確立していくべきではないかというふうに考えますが、いかがでしょうか。
○説明員(岡弘文君) 犯罪の被害に遭われまして不慮の死を遂げられた方の御遺族や重障害が残った方に対しまして、社会の連帯共助の精神に基づきまして見舞金的性格の給付金を支給する制度といたしまして、現在、犯罪被害給付制度がございます。この制度は、精神障害者により危害を加えられた被害者に対します補償を直接の目的とはいたしておりませんけれども、精神障害等によりまして心神喪失状態にあったため、刑事、民事、両責任を問われない加害者による犯罪の被害者に対しましても給付金が支給されるというものでございます。
 この制度につきましては、昭和五十六年の犯罪被害者等給付金支給法の施行以来、経済情勢や犯罪被害者への支援を拡充すべきであるという要請に応じまして、三回にわたって支給金額を増額してまいりましたとともに、平成九年におきましては支給対象となります重障害の範囲の拡大を行ったところでございます。
 今後、さらにどこまで拡充していくかにつきましては、犯罪被害者等給付金のみならず、犯罪の被害に遭われた方々にどのような支援の手を差し伸べていくかという観点から、さらにもっと幅広い議論が必要なのではないかというふうに考えております。
○櫻井充君 時間が参りました。どうもありがとうございました。
【次回へつづく】