精神医療に関する条文・審議(その83)

前回(id:kokekokko:20051027)のつづき。初回は2004/10/28。
ひきつづき、平成11年の精神保健福祉法改正についてみてみます。法案などはid:kokekokko:20051026にあります。

第145回参議院 国民福祉委員会会議録第8号(平成11年4月15日)
【前回のつづき】
千葉景子君 この精神保健福祉法でございますが、一九八七年に実は精神衛生法から精神保健法に大きく改正をされまして、今日に至るまで既に十年余り経過をいたしております。その間に、一九九三年、九五年と順次改正が積み重ねられてまいりまして、そして今回のまた改正ということになろうかというふうに思います。
 この一九八七年、振り返ってみますと、私もこの改正時に多少議論に加わらせていただきました。あの有名になりました宇都宮病院事件などに私も弁護士の一人として多少かかわらせていただいていた。そういうこともございまして、このときの精神衛生法から精神保健法への改正というのは、ある意味では本当に精神医療に対する大きな転換期でもあっただろうというふうに思っています。その際は、やはり人権擁護そして適切な医療の提供、また社会復帰の促進、こういうことが大きな柱になりまして、その後の改正も含めて今日に至っているということであろうかというふうに思います。その都度、厚生省を含め、あるいは医療従事者、それぞれの関係者の努力というものが今日に至っているということは私も十分理解いたしておりますし、今回の改正がさらにそれを前進させるものであることを大変切に期待している一人でもございます。
 ただ、この間を振り返ってみますと、この十年余で根本的なところが本当に変わったのだろうかというじくじたる思いもあるわけです。というのも、先ほども触れられたところでもありますけれども、この間も本当にたび重なる精神病院の不祥事件、こういうものが生じているところでもございます。
 幾つか挙げさせていただければ、既にもう皆さんが御承知のところでございますけれども、長野県の栗田病院事件、これは病院長が入院患者から預かっていた預金通帳などを無断で引き出していた事件でございます。あるいは大阪府大和川病院事件、これは他の入院患者から暴行を受けたと思われる入院患者が亡くなった、そして調べた結果、入院患者の処遇などにいろいろな問題があったのではないかということが明らかになってきたということもございます。それから、先ほどもありました新潟県犀潟病院、大変残念なことではございますけれども、これは国立療養所でございます。ここでもやはり患者の死亡事例がございまして、調査の結果は、隔離や身体的拘束等について著しく適切でないことが存在していた、こういうようなことがございます。
 これだけではございませんで、まだまだ問題点はあるんですけれども、この間いろいろな努力は重ねてきた、あるいは法律の整備というものも進められてきたにもかかわらず、こういう不祥事も相変わらず起きている。一体どういうところに根本的な問題があるのだろうか。やっぱりそういうことをきちっと押さえた上で改正、法整備あるいはシステムのありようというものを考えていきませんと、制度は進んでいく、しかし結局実態は変わっていかない、こういうことにもなりかねない。
 こういう残念なことを繰り返していることは、私たちにとっても本当に願うところでは当然ないわけですから、そういう意味でこの構造的、根本的な問題点というのは一体どういうところにあるというふうに大臣は御認識なさっていらっしゃいますでしょうか。まずそれをお聞きいたします。
国務大臣宮下創平君) 栗田病院とか大和川病院、それから犀潟病院は私が大臣に就任して以降に扱っておりますが、精神障害者というのは、要するに精神の障害があるわけですから、判断能力が乏しいとかないとかいろいろそういう現象が多いと思うんです。それだけにその配慮が行われませんと、経営管理者あるいは患者間においてもいろいろのトラブルが生ずる可能性が基本的にあると私は考えます。一般病院でももちろんそれは否定できない点でありますが、より確度の高い形が精神障害者を扱う病院であるだけにあるのではないかと基本的にまずは考えております。
 そのことだけちょっと申し上げた上で、現行制度でそういう点をコントロールするメカニズムは本当にあるのかどうかという点になりますと、今度の改正点に及ぶわけでございますけれども、まず病院が行政の改善命令に従わないようなケースの是正措置が必ずしもはっきりしなかったというような点がありますので、今回は監督義務をきちっと担保できるようにしようということでございます。
 それからまた、今まで議論されております精神保健指定医の院内における役割というものが不明確であったように思いますし、責任の所在が不明確である。特に、犀潟病院なんか指定医の取り消しを処分としていたしましたけれども、これもそういった本当の責任体制が行われておるかどうか、指定医が看護婦さんに包括的な授権を与える与え方がいいのかどうかとか、そういう指定医のあり方が非常に大きく影響していると思います。
 それからもう一つは、精神医療審査会というのがございますが、これが本当に十分機能していたのかどうか。つまり、精神障害者のそういった事件を未然に防止するためには、指定医が自分の診察したことを国民に報告するなり、ある程度情報を伝達しておかなければいけないと思うんですが、そういう義務を今度課することになりますので、審査会の機能を拡充しようと。
 例えば、審査会の法定人員は五人から十五人と掲げておられますけれども、大きな県で一つというような場合に、それは東京都でも東京都が一つの単位ですから十五人では処理し切れないと思うんです。五人単位でチームを組んでやるようでございますけれども、それはもっともっと拡充しないとその保護に欠けると思います。そういった審査機能の拡充強化が非常に重要ではないか。
 そのほか、医療保護入院のあり方とか、それから先ほど来御議論にありました移送の問題とかみんな関係はしておりますけれども、いずれにいたしましても、そういう精神障害者を対象にした病院であるということを基本的に踏まえて、それを補うべく公正な医療給付が行われ、そしてまた病院管理者もそういう誘惑に駆られないようなきちんとしたシステムあるいは管理者意識の高揚等も必要だと思います。特に大和川病院なんかは、患者間の問題であると言いながら、よく調べてみたら管理者のでたらめさが多かったというようなこともございます。
 全体としてそんな感じで私どもは見ておりますので、今回の改正点によってただ法文を改正すればいいというのではなくて、本当に実効性が上がるように、やはりアフターケアといいますか、その法律の実効性を私どもは見届けていかなけりゃならぬなというように思っております。
千葉景子君 個々の改正点についてはこれから触れさせていただきますが、今、大臣も触れられましたけれども、やはり精神医療というのがどうしても御本人の意思確認あるいは自立性というのを十分に担保しにくい部分がある、それからこれまでの社会的なさまざまな偏見、こういうものも含めてどうしても隔離された、閉鎖された中で行われがちであるというところに問題点がなかなか外に出てこない、あるいはチェックの目がききにくいということが私は根本にあるだろうと思うんです。
 この間の実情をちょっと拝見しますと、例えば入院されている年数、これがほとんど変わらないんです。私の手元のあれですので大きく誤ったらまた後ほど指摘をいただきたいと思いますけれども、一九八三年で十年以上の入院というのが三〇%以上、これが一九九六年になりましてもやはり三〇%以上なんです。五年以上でとれば約半数ぐらいはそれだけの長期入院ということになっているようです。
 それから、入院の形態それから処遇の状況なんですけれども、これも非常に閉鎖処遇が多いんですね。長期にわたって一つのところに処遇をされている、しかも閉鎖状態というのがかなり中心になっている、こういうところに、制度を変えたり努力をしても根本的なところが解消しにくいという問題点があるというふうに思います。
 そこで、この開放と閉鎖処遇というのがよくわからないんです。というのは、任意入院の場合でも非常に閉鎖処遇が多い。それから、閉鎖病棟といいながら開放処遇なんだと。外出などが許されて、これが開放処遇だと言われていたり、どこまでが本当に自由な開放的な処遇でありどういうことが閉鎖処遇なんだというのがどうもいま一つはっきりしていないんじゃないか。閉鎖処遇というものについて厳格に基準なりあるいは処遇のあり方というのを決めて、それででき得る限り限られた場合にそういう閉鎖処遇を行うという方向は私はやっぱりつくっていくべきだというふうに思うんですけれども、その点についてはいかがでしょうか。
 何をもって閉鎖処遇といい、その基準というのを今後さらに明確にされていくというところについてはどう考えておられるでしょうか。
○説明員(今田寛睦君) 御指摘のように、閉鎖処遇につきましては統一的な基準がございません。その結果、必ずしも治療上の必要性がない場合も含めて閉鎖処遇が行われているというような実態があるものと認識をしております。
 この一月の公衆衛生審議会からいただきました意見具申の中でも、閉鎖処遇の手続それから概念を明確にするために、精神保健福祉法第三十七条の第一項に処遇の基準があるわけでありますけれども、この処遇の基準として位置づけるということが提言をされました。しかしながら、この閉鎖処遇ということについての具体的な基準となりますと、一日何時間以上施錠されていれば閉鎖なのかといったような御意見だとか、あるいは施錠されていても自由に出入りできるんだから閉鎖じゃないんじゃないかとか、今御指摘のようなことも含めて、関係者の間で必ずしも意見が統一されているという状況にはございません。
 しかし、委員御指摘のように、この基準というものにつきましては、公衆衛生審議会の意見を聞きまして具体的な内容を決めたい、このように考えております。
千葉景子君 これまでも、例えば一日何時間ということもあるんですけれども、開放処遇がなかなか進まない、それから施錠の中で一部、外出をさせながらそれを開放処遇的に位置づけている。開放処遇が進まない原因には施設面での不足とか病院側の体制整備のおくれとかこういうものが当然あるんだと思うんですけれども、そういうものはかなりネックになっているんですか。
○説明員(今田寛睦君) 医療保護入院、自由入院がうまく病棟構成で分かれるのであれば、またそれは一つの対応は可能だと思うんです。例えば、五十床五十床の病院に七十五対二十五で入院されていらっしゃるような場合には、どうしてもそのあたりの管理上の問題として、病棟の構造上の対応として困難を訴えられている医療機関の方もいらっしゃいます。
 したがって、今回、具体的に閉鎖はどういうことか、開放はどういうことかということにつきまして明確に基準を定めることによって、それを目指して各医療機関がその方向で御努力いただければということを期待しているところでございます。
千葉景子君 これは財政的なことにもかかわる問題ですね。本当に十分な広さなりそういうものが確保できていれば、任意入院と医療保護入院の方がいたりしても十分にそれを分けて、あるいはそれに適切に対応できるということになるわけですから、なかなかこれは一気にいかないというふうには思います。ぜひ閉鎖医療の基準をきちっと位置づけていただいて、できるだけ開放医療を目指して進めていただきたいというふうに思っております。
 ところで、今回、これまでの問題を踏まえて幾つかの改正点がございますが、その中で精神医療審査会についてお尋ねをさせていただきたいと思います。
 今回、人数の制約、規制を廃止いたしましてこの審査会についてさらに拡充をしていくという方向がとられたことは、私も評価をさせていただくところでございます。しかしながら、この審査会の構成についてどのようにお考えになっているのか。今後、従来の構成のままいくのか、あるいは現状などを踏まえて構成についていろいろな検討をされようというのか、その点についてはいかがでしょうか。
○説明員(今田寛睦君) 精神医療審査会委員の上限の撤廃ということで、一つの審査が五人という単位、これはこのまま維持するわけであります。その単位を幾つつくるかという意味においては、これは四つつくっても五つつくっても、そこは都道府県の実情にお任せをしようということであります。
 その五人の構成につきましては、現在、医師が三名、法律にかかわる方が一名、それからその他の学識経験者、こういうふうな構成になっておりますけれども、審査会で審査される内容というのは主として医学的な判断、これに基づいてなされる部分が非常に多いということから、審査会の委員構成としては、どうしても精神保健指定医である医師というものの役割が大変重要なものになるというふうに考えております。
 なお、委員のうちでその他の学識経験者という規定もあるわけでありますが、その場合には、社会福祉協議会の役員その他の公職経験者などであって精神障害の保健、福祉に関して理解のある者ということで規定されておりますので、都道府県知事の判断によっていろいろと御工夫いただけるのではないか、このように思っております。
千葉景子君 審査会の委員の構成ですが、やはり医師がきちっとした判断をする中心になることは私もよくわかります。しかしながら、この精神保健福祉法の大きな精神としては、適切な医療と同時に、できるだけ社会復帰とか社会的なケア、こういうことも含めてサポートをしていく、そういう必要があるわけですね。
 例えば、そこに法律の専門家が入っているというのは、適切な手続がとられているか、あるいは人権に問題がないかというチェックができようかというふうに思うんですが、社会復帰や社会的なサポート、こういうことを考えると、医師が今三名ですから、そのうち一名を例えばPSWとかそういう専門職を入れるというようなことも一つの考え方ではないかというふうに思うんです。社会復帰したい、しかし家族もなかなか受け入れる余地がない。本当はもう退院できるんだけれども、またやむなく病院に帰らざるを得なくなってしまう、こういうようなこともこれまではたびたび存在をしておりました。
 こういうことをできるだけ調整したり、社会の受け入れ体制などを全体に眺めて調整するというようなことを含めて考えると、審査会の直接の役割ではないというにしろ、そういうものにも目配りができるという意味でこういう専門職を入れるなども一つの考え方にもなろうかというふうに思うんですが、その点についてはいかがですか。今回そうせいとは言いませんが、そういう方向なども頭の中に置いてもよろしいんじゃないかと思いますが、いかがですか。
○説明員(今田寛睦君) 先ほども御説明申し上げましたように、入院を継続する必要性があるかないか、それから処遇の適否が、要するに処遇がいいのか悪いのか、そういう審査に係ります部分がメーンでございまして、それはまさに精神的な患者の症状に応じた判断というものが大変重要だという意味で、医師が三名という仕組みをつくって構成されているわけでございます。
 社会復帰のために努力をいただく方々の役割につきましては、御指摘のように非常に重要な役割をいただいていると思いますが、その場合には、先ほど申し上げましたように、その他の学識経験者の要件として社会福祉協議会の役員等精神障害者の保健、福祉に関して理解のある人、こういう人たちを充てるというふうにされておるところでございますので、これらを大いに活用いただければというふうに思います。
千葉景子君 今回はこの審査会の事務局が精神保健福祉センターに置かれるということになりました。これまでの自治体の中に置かれているということに比較いたしますと、一定の自立性といいますか、独立性が担保できるのではないか。あるいは、こういうところで今、審査会の構成メンバーとしてPSWなどどうかというふうに申し上げましたけれども、この事務局体制という中で、そういう機能を補てんするということが多少可能なのかなという気はいたします。
 この精神医療が、先ほどからいろいろお話があり、櫻井委員の冒頭にもありましたけれども、人権の尊重というようなことが本当に基本になければいけないわけですから、そういう意味では審査会もその医療の側面を見るのは当然のことであります。そういうもっと全体のきちっとした審査ができるような体制を充実していくような、そういう方向性をぜひ今後念頭に置いていただきたいというふうに思っています。
 そうなりますと、この審査会というのはやはり患者さんの人権あるいは医療の適正さを担保するという意味では非常に重要な責任を帯びた役割ということになってこようかというふうに思います。その点では、やはり改めてこの機関が十分な中立性、独立性を持って、いわば第三者的機関、準司法的な機関としての役割も機能していただかなければいけないというふうに私は考えております。
 ただ、現在の審査会、そして今回その権限がさらに重くなるわけですけれども、これで十分なんだろうかという気がいたします。国際的な規定に照らしてみると、いわば人権B規約でも、あるいは国連で採択された精神病者の保護及び精神保健ケアの改善のための原則、こういうことから見ても、今回の改正で本当にまだ十分とまではちょっと言いがたいのではないかというふうに思います。
 本来は独立した第三者的な機関として、またその審査会の決定に対して不服申し立て、異議申し立てができるような、そういう機能を持った機関として、今後さらに検討を続けていっていただきたいというふうに思っております。その点についてどうお考えになっておられるか、お聞きをしておきたいと思います。
○説明員(今田寛睦君) 御指摘のように、精神医療審査会の事務局を精神保健福祉センターに置くということで、従来本庁の一つの課の中で措置入院の事務をする方と、それからそれに対して審査会が不服等を受け付ける事務とが同居しているという点については、いささか見直しをする必要があるのではないかということで、精神保健福祉センターの方にその事務を移させていただいたわけであります。精神保健福祉センターにつきましては、本庁に比べてもやや独立性が高くて、かつ福祉に関する専門家がたくさんいらっしゃるということもあって、センターに事務局機能をお願いすることにした次第であります。
 今後の審査会のあり方についての御意見でございましたけれども、審議会でも同様な意見があって、今後引き続いて検討していくというような御意見もございますので、そういった面も含めて今後対応していきたいというふうに思っております。
千葉景子君 実はこういうことを申し上げるのは、この審査会はこれまで人数も制限をされておりましたのでなかなか全体に機能しにくいというところはあったかというふうに思うんですけれども、この審査状況が極めて少ないんです。平成九年度で見ますと全国ベースで退院請求の審査件数が九百六十八件、それから処遇改善請求の審査件数は五十件なんです。しかも、全国的に非常にばらつきもありまして、これはどういう原因なのかというのもちょっとお聞きしたいんですけれども、年間審査件数が全くゼロというところもあるんですね。
 先ほどからも出ていますように、全国で三十万人以上、三十四万人ほどの方が入院されているという状況の中で審査件数、本当にこんなものなのか。もしこれが本当であれば、不祥事なんかが出るはずがないし、適切な医療が行われていてもう私たちが心配することはないということになるんだろうけれども、どうもその審査会の機能が十分に発揮されていないのではないか。
 これは、今回その人数をふやすということがありますけれども、これまでの原因とか、あるいは何が問題だったのか、どう考えておられますか。
○説明員(今田寛睦君) 精神医療審査会の活動状況について、特に退院請求等について請求件数が少ない、あるいはばらつきが大きい、こういう御指摘でございますが、その件数だけで活動状況をはかるということが適切かどうかということは別といたしましても、やはり自治体間で格差は大きいというふうに思われます。
 そういう意味からいたしましても、今回、委員数の制限の撤廃等で審査会の機能を強化するということから、それを受け入れやすくする審査会のありようというものも変えることにいたしますし、それからそもそも精神病院に入院する場合に現在障害者に対して退院とか処遇改善の請求ができるんだということを書面で知らせることが法律で義務づけられております。
 また、退院請求等を受け付ける都道府県の部局への通信、面会の制限は行ってはならない、それから電話機は自由に使えるところに置く、あるいは都道府県の精神保健主管部局でありますとか法務局の人権擁護主管部局等の電話番号を見やすいところに掲げるとか、こういったことで入院の患者さんに極力情報をお伝えするようにしておるわけでありますけれども、それが必ずしも十分に理解されているかどうかという点におきまして、今後、医療機関はもとより、患者それから家族の皆さんにこの制度の趣旨というものがもっと周知されるということで、この審査会の制度が有効に活用されるように努めていきたい、このように思っております。
千葉景子君 その点についても確かにもっと周知をすることは必要なんですが、その審査会自体に、問題を積極的に受けとめる、そしてできる限り患者の立場に立って人権をきちっと適切に守り、そして本当に病気に対して医療を適切に施そう、そういう積極的な意思、それからあるいは先ほど言いましたような構成、そういうものも含めてもっと厚生省も指導監督に努めていただきたい、そういう環境整備に努めていただきたいというふうに思います。
 今、先におっしゃいましたけれども、さらにそれにプラスして周知徹底ということも当然必要だというふうに思います。精神疾患で入院されたりする際に、書面で云々といっても、あるいは、確かに電話も設置をするというようなことになりました。ただ、電話といってもその施設の中にあって、周りには人もいるというようなことにもなりかねない。そういうような状況を考えますと、なかなか自分で申し立てるという格好にはなりにくいですよね。そういう意味では、できるだけ簡易にそしてどこにでもすぐに伝えられるというようなことを大いに周知していただきたい。
 例えば、精神医療人権センターとか障害者一一〇番というようなことで、一般市民の中でもいろいろな受け皿というものもございます。そういうことも含めて情報をきちっと伝える、そして電話などもできるだけ個人で余りだれにも左右されずにかけられるというような環境整備もするとか、そういうことを含めて総合的に対応していく必要が当然あろうかというふうに思いますが、改めまして周知徹底を含めてその点についていかがでしょうか。
○説明員(今田寛睦君) 現実場面として御指摘のようなことがあるということも踏まえて、この制度の周知徹底には改めて努力していきたいと考えております。
千葉景子君 時間がなくなってまいりましたので、最後に医療保護入院についてお尋ねをしておきたいというふうに思います。
 医療保護入院というのは本人の意思によらない強制入院でございますので、その運用はより厳密に行われる必要があろうかというふうに思います。その意味では、昨年九月の精神保健福祉法に関する専門委員会の報告書では、判定基準を作成することについて検討すべきと、こういうことが指摘をされております。
 そういう意味では、この医療保護入院の要件については、指定医による診察の結果、精神障害者であること、それに入院、治療がないとさらに病状が悪くなるというような要件などをプラスするなど、より明確、厳格な対応というものが必要になってくるのではないかというふうに思います。
 こういう問題点も含め、今回の改正でも一歩前進ということは当然評価をさせていただきますが、先ほどの審査会の問題、閉鎖処遇のあり方、それから医療保護入院の要件のさらなる明確化、そして人権保障に対する基本的な法の理念、こういうことも含めて今後まだまだ積み残した問題、あるいは将来に向けてさらに深めていかなければいけない問題点が多々あろうというふうに思いますが、今の医療保護入院の要件の問題なども含めて、大臣どうでしょうか。
 先ほど、今この法律を審議しているんだから、なかなかその先はというお話ではございましたけれども、これが終着点ではなくて、これを踏まえてさらにその先もあるんだよというお考えに立っておられるのか、その将来について大臣の御見解をお伺いして終わりたいと思います。
国務大臣宮下創平君) 精神保健福祉対策につきまして、審査会のあり方等貴重な御意見をちょうだいいたしました。
 私ども、これですべて完結しておるというようにも思っておりません。しかし、今回提出したのは現在の情勢下において最善の選択をしたものでございますが、なお引き続き今後適正な精神医療を確保していくとか、あるいは社会復帰を一層進めていくとか、精神障害者の福祉の増進対策を拡充していくことはもうもとより重要なことでございますから、今後といえどもそういう方向性で検討はさせていただきます。
 とりあえず今回の改革案は、こういうことで一歩前進ということで評価もいただいておるようでございますので、何とぞ御了承いただきたいと思います。なお、引き続き私どもとしても努力させていただきます。
千葉景子君 終わります。ありがとうございました。
【略】
渡辺孝男君 公明党渡辺孝男でございます。
 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律等の一部を改正する法律案について質問させていただきます。
 まず最初に、精神障害者の動向についてお伺いしたいと思います。
 我が国の精神病院等に入院、通院する精神障害者は、平成五年患者調査によると推計で百五十七万人でありましたけれども、平成八年調査では二百十七万人となっております。三年間で六十万人増となっておりますけれども、どうもこれは自然増とは考えにくいのでありますけれども、この急増の原因は何なのか、厚生省のお考えをお聞きしたいと思います。
○説明員(今田寛睦君) 御指摘のように、平成五年から八年にかけまして六十万人が患者調査によって増加した、このようなデータがございます。
 この増加の内容でございますけれども、この多くは外来患者が増加したものであるということであります。しかも、その主な疾患といたしまして、中高年のうつ病患者、それから青壮年のアルコール性精神障害、高齢者の神経症などが増加しておるという傾向がございます。
 それに加えまして、精神科の診療所が平成五年は二千六百四十四でございましたけれども、平成八年には三千百九十八と大変増加をしておりまして、精神科の外来にかかりやすくなったということも一つの要因ではないかと考えております。
渡辺孝男君 景気低迷による生活不安あるいは社会的ストレスの増大は精神疾患患者の増加と関連しているというふうに分析されているのかどうか、その点に関してお伺いしたいと思います。
○説明員(今田寛睦君) 先ほど申し上げました中高年のうつ病でありますとかあるいは高齢者の神経症といった点につきましては、高齢化が進んでいるという意味で精神障害の患者そのものもある程度ふえているのではないかというふうに考えられます。
渡辺孝男君 景気低迷との関係をちょっとお聞きしたんでしたけれども、その点に関しましてはどうでしょうか。
○説明員(今田寛睦君) 景気がどのような形でストレスにつながるかということにつきましては、ケース、ケースによって違おうかと思いますけれども、ただストレスが加わるとどういう疾患がふえるかというと、うつ病それからアルコール性の精神障害神経症、こういったものにかかりやすいというふうに言われております。
 先ほど申し上げましたように、患者調査でもそのような傾向があるということは、やはりストレスと関連のある疾患が増加している、つまり社会のストレスの増加による影響が出ているとも言えるのではないかと思います。
渡辺孝男君 今お答えになったように、社会情勢の変化の激しさや複雑さが精神的なストレスの要因を増大させている、そのような認識から昭和六十年度より心の健康づくり推進事業が精神保健福祉センターで行われております。
 この中で、職場不適応の調査もしていると思うんですけれども、最近の動向とそれに対する政府の対策についてお伺いしたいと思います。
○政府委員(伊藤雅治君) 今御指摘の職場におきます出社拒否、また学校等におきます不登校など、いわゆる不適応といいますか、これが大きな問題になっているというふうに認識しております。しかしながら、実態把握が必ずしも十分ではないというふうにも考えておりまして、これらの実態を把握するとともに、私どもとしましては心の健康づくりを進めていく必要があると考えております。
 健康・体力づくり事業財団の調査によりますと、平成八年に調査したものでございますが、二十歳以上の人の半数以上、五四・六%が一カ月間に不満、悩み、苦労等のストレスを感じているということでございます。
 したがいまして、心の健康づくり対策といたしまして、従来から都道府県の精神保健福祉センターや保健所などにおきまして、一般住民に対する啓発普及やストレスや悩みを抱える住民への各種相談を行っているところでございます。
 さらに、厚生省といたしましては、平成十年度からストレスや睡眠障害に対しまして保健医療従事者が必要な相談、指導、訪問などを行うことができるように現在このマニュアルの作成をやっているところでございます。
 今後とも、心の健康づくり対策の一層の充実強化に努めてまいりたいと考えております。
渡辺孝男君 やはり精神疾患の場合の病因に関しましては、個人的な要因ばかりでなく社会的要因も関係するものであり、社会全体として総合的に精神疾患の発生予防、治療あるいは社会復帰を考えていかなければならない、そのように考えるわけでございます。
 続きまして、法案に即して質問させていただきたいと思います。
 今回の法改正を行う理由としまして「精神障害者の人権に配意しつつその適正な医療及び保護を確保し、及び精神障害者の社会復帰の一層の推進を図る」ことが挙げられております。本法の目的を定めた第一条では「精神障害者等の医療及び保護を行い、」とありますけれども、この医療については単に「医療」とのみ表現されております。今回の改正の趣旨では人権に配慮した適正な医療の確保を目指していると思います。
 この改正案で「医療」を、人権に配慮した適正な医療もしくはそれと同様の趣旨の表現に改めなかった理由について厚生大臣にお伺いしたいと思います。
国務大臣宮下創平君) 午前中の御議論でもその点に触れられたわけでございますけれども、私どもとしては精神障害者の方々の人権に配慮するというのは極めて重要なことであると考えておりまして、今回もそのような措置が審査会の拡充強化とか、いろいろの面にあらわれております。
 現行の法律の一条、二条、三条の御説明も先ほど申し上げたわけでありますが、これらはすべて精神障害者を中心にその医療と保護あるいは社会復帰というようなことで国及び国民の責務等も記述されておりまして、私どもは十分精神障害者の人権に配慮するということが読み取れる内容になっていると存じますので、あえてここで明文化する必要もなかろうという判断のもとに現行法どおりにさせていただいたわけであります。
渡辺孝男君 また、今回の改正案では精神障害者の定義を定めた本法第五条の一部が改正されることになっております。すなわち「中毒性精神病」が「精神作用物質による急性中毒又はその依存症」に改正されることになっているわけであります。
 この点に関しましては、現代の医療用語から見てもより適切な表現になっておりますので異存のないところであります。既に、以前から用いられておりました「精神薄弱」の用語も昨年九月の第百四十二回国会で「知的障害」に改められました。
 しかし、まだ本条の「精神病質」という用語は今回の改正でもそのままとなっており、問題であると思います。この精神病質という病名は厚生省の精神障害者の医療統計でもそのままの表現では用いられていないようですが、どのような疾患を意味しているのか、またなぜ今回の改正で削除あるいはより適切な疾患名に見直されなかったのか、その点に関しましてお伺いしたいと思います。
○説明員(今田寛睦君) 今回の定義規定におきましては、「精神作用物質による急性中毒又はその依存症」ということで明記を行ったわけであります。これは、現在現場で運用上の疑義が生じております現行法第四十四条、覚せい剤の依存者に関する準用規定を削除することにしたわけでありますが、それを削除するということで逆に覚せい剤などの依存症の者が法の対象から外れるのではないか、このような誤解を招かないためにこの覚せい剤を含む精神作用物質の依存症を例示として明確化した、こういう趣旨でございます。
 御指摘の精神病質でありますけれども、現在国際疾病分類で用いられております言葉にはこの言葉はございません。ただ、非社会的人格障害ということで、国際分類上これに含まれるのではないか、このように言われております。これが代表的な精神疾患とは言えないということから、この定義規定の例示として不適切であるというような御意見もございました。
 また一方で、精神病質についてそもそも精神科医療の対象足り得ないのではないか、こういうことから精神障害者の定義から除外するべきだ、こういう意見もございました。しかしながら、これらにつきまして見解がまとまらなかったわけでございまして、現段階でこれらの例示を変更するということはいたしませんで、審議会としても引き続き検討していくということにされたところでございます。
渡辺孝男君 シュナイダーという人の定義では、精神病質とは人格の異常性のために自分自身が悩み、あるいは社会が悩むものを指しているというふうに言われておりますけれども、社会が悩むという基準は医学的概念ではなくて社会的概念である、その社会の価値観によって異なる場合もあることから、精神病質という言葉を精神医学用語として用いることには批判もあるということであります。
 特に、英語圏では精神病質といった言葉の場合には犯罪など社会病理的な現象と関連して用いられることが多いと言われておりますので、国際的に標準化された現代の疾患分類によるより適切な言葉、用語に変わることが望ましいのではないか、あるいはまた例示として取り上げることをやめるということも一つの方法ではないかなというふうに考えますので、今後早急な対応をしていただきたい、そのように思います。
 次に、精神保健指定医に関して質問させていただきたいと思います。
 人権に配慮した適正な医療を提供するに当たりまして、指定医の果たすべき役割は非常に重要であると思います。その役割を担うにふさわしくない場合には精神保健指定医の指定が取り消されるわけでありますが、これまで精神保健指定医の取り消しというものが行われたのかどうか、それからまたその取り消しの要件はどのようなものか、それについてお答えいただきたいと思います。
○説明員(今田寛睦君) 精神保健指定医の取り消しにつきましては、法第十九条の二に基づいて行われるわけでありますが、その取り消しの要件につきましては、まず指定医が医師免許を取り消される、または期間を定めて医業の停止を命ぜられたとき、このときにあわせて指定医の取り消しが行われます。それから精神保健福祉法もしくは同法に基づく命令に違反したとき、それから三点目といたしまして職務に関し著しく不当な行為を行ったとき、四つ目にその他指定医として不適当と認められたとき、このようになっているわけでございます。
 これまで十八名の精神保健指定医が取り消されておりますけれども、このうち医師免許の取り消しにあわせて指定が取り消されたケースを除きますと、つまり精神保健福祉法上の問題によって取り消された者は三名ということになっております。
渡辺孝男君 三名というわずかな人数であるということでありますけれども、指定医の取り消し処分と今回新たに設けた職務の一時停止処分との処分実施の要件の違いはどういうものなのか、お伺いしたいと思います。厚生大臣にお答えいただければと思います。
国務大臣宮下創平君) 指定医の取り消し処分と今回新たに設けました停止処分の要件の違いということであろうかと存じますが、私どもとしては、精神保健指定医の重要性にかんがみまして、取り消し処分というのは厳正でなくちゃならないということでございますが、実際上は取り消し処分をいたしますと五年以上の取り消し処分になるということ等もございまして、それに至らない、軽微なと言っては言い過ぎかもしれませんが、指定医の義務違反その他精神障害者に害を及ぼすような行為をやった場合は、その及ぼす影響の度合いに応じて処分も考えていいのではないかなというのが率直なところでございまして、一々指定医の五年をそれでは一カ月までするかどうかというようなやり方もあるいはあるかもしれませんが、これはこれとしてやっぱり職務の停止処分ということで取り消し処分と範疇を異にしたペナルティーの課し方をやった方が、より弾力的で現実的ではないかというように考えてこのような対応にさせていただいたものでございます。
渡辺孝男君 そのほかに、精神科診療が不適切な病院に対する改善命令があると思うんですけれども、これまでの改善命令が行われた状況と、その改善命令に従わなかった病院というのはあるのかどうか、その点に関しましてお伺いしたいと思います。
○説明員(今田寛睦君) 改善命令につきましては、精神保健福祉法第三十八条の七に基づきまして、精神病院に入院中の者の処遇、それからその処遇基準が適合していない場合、こういった場合に厚生大臣または都道府県知事がその改善について命ずることとされているわけでございます。
 これまで六件の改善命令がなされております。この六件のうちで大和川病院につきましては、改善命令にもかかわらず指定医の確保がなされなかったことから大阪府医療保護入院の患者を退院させることとしたところであります。その後、大和川病院につきましては開設許可が取り消されましたので廃院ということになりました。
 その他の病院につきましては、任意に改善計画を策定されまして都道府県知事等からの指導等を受け、適正な改善がなされているものと認識しております。
渡辺孝男君 これは大臣にお伺いしたいんですけれども、今回の法改正によりましてこのような不適切な病院に対しましての改善命令が無視されるというようなことがないことになるのかどうか、その点に関しましてお伺いしたいと思います。
国務大臣宮下創平君) 現在の精神保健福祉法におきます指導監督制度としては改善命令がございますけれども、従わない場合の罰則規定等もございません。したがって、各方面から実効性についての疑問も提示されておったところであります。
 今回の改正では、改善計画の提出命令というものを明定いたしまして、きめ細かい指導監督を行うようにしたということ、それから改善命令に従わない病院管理者等に対しましては、入院医療の提供の制限命令を創設し、さらに制限命令に違反した場合には三年以下の懲役または百万円以下の罰金ということで実刑を改めて創設いたしまして、その実効性を確保するようにいたしております。
渡辺孝男君 少し厳しい法律ができるということでありまして、今もときどきいろんなそういう不適切な病院も指摘されているところでありますので、きちんと適切な医療が提供できるようにしていただきたい、そのように思うわけであります。
 次の質問に入らせていただきます。
 これまで地域での精神保健体制の不備によりまして、あるいは在宅医療が十分でない、そのような理由におきまして医療保護入院が行われる、あるいは保護者の個人的な都合と言うとちょっと言い過ぎかもしれませんが、個人的な理由でいわゆる社会的入院の一種として医療保護入院が行われるというようなことがあったのかどうか、その点に関しましてお伺いしたいと思います。
○説明員(今田寛睦君) 最近の病院の不祥事件におきまして申し上げますと、同意能力のある患者さんが医療保護入院になっているというような問題事例がございました。そういうこともございまして、今回の法改正におきましてその要件を明確にし、精神保健指定医の診察の結果、法第二十二条の三、任意入院でありますけれども、この規定による入院が行われるべき状態にないとされた者といたしまして、任意入院と明確に区別することといたしたところであります。
渡辺孝男君 これは大臣にお伺いしたいんですけれども、医療保護入院は本人の同意に基づかない強制入院の一種でありまして、その運用はやはり限定的になされるべきである、そのように思います。
 精神障害者の人権に配慮した適正な医療を提供するためには、医療保護入院の客観的な指標としての指定基準、そういうものをやはり作成する必要があるのではないか、そのように私は思うんですけれども、厚生大臣のお考えをお聞きしたいと思います。
国務大臣宮下創平君) 保護入院もやはり強制措置の一種でございますので、私どもとしては、本人の同意がなくても保護者の同意ないしは指定医の診断ということによって強制的に保護入院をしていただくということにいたしておりますが、一方、人権にも配慮していかなければなりませんので、そういった点は慎重な取り扱いが必要だと存じます。
 したがって、明確な基準は今はないようでございますけれども、一定のこういう場合はどうだというようなことがあってもいいのではないかと思いますので、運用上の問題として今後検討させていただきたいと思います。
渡辺孝男君 指定医の方はある程度きちんと研修を受けて指定医になっておられるので、主観的な判断だけでは保護入院を行わないと思うんですけれども、やはり客観的な指標としての判定基準があった方がよろしいのではないか、そのように思いますので検討を進めていただきたいと思います。
 入院の形態にはいろいろあるわけでありますけれども、入院当時、医療保護入院で入院された患者さんが、その後で同意が得られた任意入院に変わられるというようなこともあると思うんですけれども、そのような実態というのはどのようになっているのかお伺いしたいと思います。
○説明員(今田寛睦君) 医療保護入院から引き続いて任意入院に変更になったケースの総数については把握をしておりませんけれども、現時点で把握しております三十三都道府県、五指定都市に関して申し上げますと、平成九年度に退院もしくは入院形態の変更を行って退院届を出された患者のうちで医療保護入院の退院届があったのが四万一千六百三十九件でございました。そのうち任意入院に変更されておりますのが九千四百九十五件で、大体二割程度というふうになっております。
渡辺孝男君 患者本人の同意に基づかない医療保護入院の比率が今後とも少なくなって患者本人の同意に基づく任意入院が主流になるように、精神医療の面での治療の向上ないし国民の理解を進めるような形で政府の方もいろんな情報提供をしたり、精神医療、福祉の環境の整備に努力していただきたい、そのように思います。
 次の質問に移らせていただきたいと思います。
 救急搬送システムでありますけれども、措置入院医療保護入院、あるいは応急入院等で本人の同意に基づかない強制入院でありますけれども、その場合の病院への搬送手段としましては、やはり患者さんの状態によりまして、保護者がそのまま病院に入院させる場合もありますでしょうし、保健所の方が絡む場合もありますでしょうし、救急車とかあるいは警察の力をかりて入院という場合も今まではあったのではないかと思います。この厚生省の調査の結果によりますと、やはり各県あるいは各自治体でもさまざまな搬送手段で行われているということであります。しかし、そういう中で、しばしば患者さんあるいは家族と指定医あるいは搬送者との間でやはりさまざまな問題が起こっている、そのように聞いてもおります。
 今回の法改正では、緊急に入院が必要となる場合、精神障害のため本人の同意に基づいた入院を行う状態にないと精神保健指定医が判定した精神障害者都道府県知事が応急指定病院に移送する制度を創設することにしたわけでありますけれども、この搬送手段としましては、やはり一般の救急患者と同じように原則として救急車を利用できないかなというふうに思っているわけでありますけれども、その点に関しまして大臣のお考えをお聞きしたいと思います。
国務大臣宮下創平君) 公衆衛生審議会の意見具申におきましても、今、委員の御指摘のような精神科の救急医療につきまして、医療計画に規定する救急医療の中で精神科の救急医療体制の確保が必要ではないかという御指摘もございます。
 一方、今、精神科だけの救急指定ということはいたしておりませんが、現実には、精神科の救急医療につきましても医療計画の一般の救急医療体制の中へ組み込んでいきたい、そして一般の救急医療体制における精神科治療への適応能力を充実していきたいというような方向で今考えております。
 今後、総合病院の精神科の救急医療への参加の促進とか、あるいは夜間や休日を含めての緊急な精神科対応が可能な医療機関の確保を推進する等、そういうことは非常に重要なことでございますから、そういった視点から精神障害者への緊急の医療体制の確保は推進してまいりたいというように思っております。
渡辺孝男君 何か消防法では患者さんの求めがないと救急車を使えないというようなお話も聞いております。実際に救急搬送する場合にその患者さんの同意ということが得られなくて救急車を使えないというような事態が今までもあったわけでありますので、その点もこれから関係省庁と協議をされて、なるべく一般の疾患の患者さんと同じように救急車が使われて病院に行けるというような形にしていただきたいなというふうに思うわけであります。よろしく御努力をお願いしたいと思います。
 次に、保護者のことにつきまして質問させていただきたいと思います。
 今回の法改正案では保護者の自傷他害監督義務の廃止を打ち出しておりますが、これは、今日の保護者の負担過重の現状より考えまして妥当ではないかなというふうに思っております。
 保護者の自傷他害監督義務が廃止された後はこの自傷他害監督義務の第一次的な責任の所在というのはどこになるのか、この点に関しまして厚生大臣よりお答えをいただきたいと思います。
国務大臣宮下創平君) 保護者の自傷他害監督義務を今回外しましたけれども、病院に行って受診をさせる義務は存置しておりますので、その範囲内で十分可能ではないかということで、保護者の義務の中からこの自傷他害監督義務だけは外させていただきました。
 この背景はいろいろございますけれども、保護者の重圧とかいろいろな点も指摘されておりまして、いろいろ具体的なケースでなかなか容易でない事態もお聞きしておりますけれども、とにかく病院に届ける義務が保護者にありますので、そうしたことで十分対応が可能ではないかということで自傷他害監督義務については今回外させていただきましたが、その他は全部保護者の形で存置させていただいております。
渡辺孝男君 保護者からは自傷他害監督義務が外れたということでありますので、そうなりますと、地域とか医療機関とかがやはり患者さんに対して適切な治療を行うことができるのかどうか。例えば、在宅の患者さんになった場合にきちんと病院に来ていただけるのかとか、そういう点でも心配があるわけですが、家族が受療させる義務は残していらっしゃるということでありますのでその点は安心するわけでありますけれども、やはりいろいろな原因で自傷他害というのは完璧にゼロにするというのがなかなか難しいことでもあるので、そこは十分、地域社会あるいは行政の責任としてそういう自傷他害のことが起こらないようにしっかり環境づくりをしていく必要があるのではないかというふうに思います。
 それから、この保護者の責任に関してもう一点。
 現代は、少子化あるいは核家族化、あるいは人によっては家族でなくて個々ばらばらの個族だというふうに表現されるように個人を中心とした家族形態に変化しているわけでありますけれども、そのことを考えますと、今後、引き取り義務を保護者に求めることが難しい場合も多くなってくるのではないかというように心配するわけであります。
 家族の引き取り義務を努力義務というような形にすることができないのかどうか。その分、社会全体として受け入れ体制を早急に整える必要があるということになるわけですが、この保護者の引き取り義務を努力義務にするという考えが厚生省の方にあるのかどうか、その点をお伺いしたいと思います。
国務大臣宮下創平君) 精神保健福祉法の四十一条に規定しております保護者の引き取り義務というのは、措置入院を解除した場合等におきましても医療と保護が中断されることのないようにしたいという趣旨であろうかと存じます。具体的には、現実に精神障害者を引き取ることのほかに、医療保護入院等への移行を考え対応するというようなこととか、社会復帰施設へ入所させることも含んでおると存じます。
 引き取り義務の対象となっている措置入院解除者につきましては引き続き医療等を必要とする場合が多いようでございますので、このような場合におきましては保護者による支援を確実に担保する必要がございます。そして、引き取り義務について、現行の規定を維持し、法律上も引き続き具体的な義務を課す必要がございますので、この引き取り義務規定はそのままこれを有効なものとして運用していきたい、こう思っております。
渡辺孝男君 引き取り義務も、家族も高齢になってきて引き取っても義務を果たすことができないとか、今後、高齢社会に伴いましていろいろな事情で引き取り義務を果たせないような方も出てくるのではないかと心配しているわけであります。そういう面では、社会的にそういう方のかわりをするシステムをつくることが大切なのかなと思いますので、この点も十分考慮しながら、今後の精神障害者の在宅医療に関しましてきちんと医療が受けられるような体制を組んでいただきたい、そのように考えるわけであります。
 次に、触法精神障害者に対する今後の対応についてお伺いしたいと思います。
 アメリカとかイギリスあるいはカナダなどの諸外国では、精神障害者の長期入院を解消するため、入院ケアから地域ケアへと精神障害者施策を転換し、居住施設等の整備を行ってまいりました。それと並行して、触法精神障害者に対しては司法精神医療システムも整備しているというふうに聞いております。
 今回の法改正の趣旨である精神障害者の人権に配慮した適正な精神医療の確保、あるいは精神障害者の社会復帰の一層の推進、そのような考え方を踏まえまして、厚生省としては今後触法精神障害者に対する適正な医療の提供と社会復帰に関しましてどのような方針で改善を図っていくのか、お伺いしたいと思います。
国務大臣宮下創平君) 精神保健福祉法は、もう言うまでもなく犯罪予防ということを目的とする法律ではございませんけれども、自傷他害のおそれのある患者に対しましては措置入院制度等において適切な医療の確保を図ると、強制力を持たせてもおります。
 しかし、いわゆる犯罪を繰り返す精神障害者に対する犯罪予防の観点からの対応につきましては、従来から、これは保安処分問題として、刑法体系にかかわる重要な問題として議論がなされてまいりました。現に、昭和四十九年、改正刑法草案が出されて保安処分を位置づけしておりますし、また五十年代にも同様な検討がなされておりますが、いずれにいたしましても人権上の問題その他意見が非常に多うございまして、これは実現を見るに至っておりません。
 こうした精神障害者につきましては、他の精神障害者と異なる処遇が必要であるという御意見もあることは承知いたしておりますが、しかし一方、刑法体系との関係も含めて、今後幅広い観点からの議論が必要であると考えておりますので、なお引き続きこうした問題を大所高所から判断して検討を続けていきたいと思っております。
渡辺孝男君 今の問題は、保安という問題からではなくて、そういう触法、たまたま法を犯してしまったというふうな障害者に対しまして、その病状に応じて適切な医療を提供できるようなシステムがやはり日本にまだ欠けているのではないかというような指摘もいろいろあるわけであります。外国の例、よい悪い、いろいろ評価はあると思うんですけれども、それもタブー視をしないできちんと検討していって、より日本に合ったスタイルでそういう触法精神障害者の方に対してもきちんとした医療が提供できるようにしていただきたい、そういう旨での私の質問でありました。
 ここは今までのいろんな歴史上の観点からさまざまな難しい問題もはらんでいることを私も知っておりますけれども、やはりタブー視をしないできちんと検討をしていただきたい、そのように考えるわけであります。
 もう少し時間があるんですが、次の質問のときにも引き続きやりたいと思うんですが、今回、いろいろ入院形態によって在宅精神医療を行う場合にさまざまな障害があるということでございます。各県、地方によってその受け入れ体制が異なると。
 例えば、精神障害者の社会復帰施設等の受け入れ可能率というのが資料で出ておりますけれども、この中では、受け入れ可能率が六%以上の県が六県あるのに対しまして、二%未満の県もまだ九県も残っているということで、県によって格差があるということであります。この格差是正をどのようにしていく方針なのか、厚生省のお考えをお聞きしたいと思います。
○説明員(今田寛睦君) 御指摘の入院形態、措置入院あるいは医療保護入院、任意入院におきましても各県によってばらつきがございますし、また平均在院日数あるいは社会復帰施設の受け入れ率についても、今御指摘のように差がございます。
 これらの格差でございますけれども、これは一つには、病院あるいは社会復帰施設などの医療福祉資源そのものの整備状況にばらつきがあるということ、これが大きく影響しているのではないかと思いますが、それに加えまして、その地域のそれまでの経緯みたいなものにも多少関係しているのではないかと思います。
 現在、医療資源や社会復帰施設、こういった福祉資源の効率的な活用ということ、それから施設の相互の連携といったことを進めるために、医療計画でありますとかあるいは障害者プランに基づきます障害保健福祉計画というものを作成することになっておりますけれども、特に都道府県域で作成するというのではなくて、二次医療圏などのより身近な圏域でこれを策定するというようなこと。さらに、これらの計画策定を促進するということをあわせて、極力地域間の格差が縮まるような努力をしていきたいと考えております。
渡辺孝男君 以上で質問を終わります。
【次回へつづく】