精神医療に関する条文・審議(その86)

前回(id:kokekokko:20051030)のつづき。初回は2004/10/28。
ひきつづき、平成11年の精神保健福祉法改正についてみてみます。法案などはid:kokekokko:20051026にあります。

第145回参議院 国民福祉委員会会議録第9号(平成11年4月20日
○委員長(尾辻秀久君) 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律等の一部を改正する法律案を議題といたします。
 本日は、本案について四名の参考人の方々から意見を聴取することといたしております。
 参考人の方々を御紹介いたします。
 財団法人全国精神障害者家族会連合会常務理事・弁護士池原毅和君、社団法人日本精神病院協会会長河崎茂君、社会福祉法人全国精神障害者社会復帰施設協会会長谷中輝雄君、大阪精神医療人権センター事務局長山本深雪君、以上の方々でございます。
 この際、参考人の方々に一言ごあいさつを申し上げます。
 本日は、御多忙中のところ、当委員会に御出席をいただき、まことにありがとうございます。
 参考人の皆様から忌憚のない御意見をいただきまして、本案の審査の参考にさせていただきたいと存じますので、よろしくお願い申し上げます。
 次に、議事の進め方でございますが、まず参考人の皆様からお一人十五分で順次御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑にお答えいただきたいと存じます。
 なお、意見の陳述、委員の質疑及び参考人の答弁とも発言は着席のままで行うことといたします。
 それでは、まず池原参考人から御意見をお述べいただきます。池原参考人
参考人(池原毅和君) 精神保健福祉法等の一部改正の御審議に当たり、意見を述べさせていただく機会を賜りましてありがとうございます。
 私は、財団法人全国精神障害者家族会連合会、略称全家連と申しておりますけれども、その団体の常務理事をしておりまして、今回の法改正に当たりましては、公衆衛生審議会精神保健福祉部会に設置されました精神保健福祉法に関する専門委員会の委員として、昨年、精神保健福祉法の問題点をいろいろと議論させていただき、ことし二月十七日付の公衆衛生審議会の答申には、審議会の委員としてかかわらせていただいております。
 今回の法改正は、精神病者監護法ができましてからおおむね百年、精神衛生法がつくられましてから約五十年、さらに精神保健法になりましてから十年目という大きな節目に当たる法改正でありまして、内容的にも大変歴史的な意義を多く含んだ改正が行われるものと期待をしております。
 今回の法改正の全体につきましては、今後とも、より望ましい精神医療、福祉のあり方を目指した法改正の努力を継続していく必要があると考えますけれども、二十一世紀に向けてあるべき方向を示す法改正の第一歩として、全体的には評価できる改正内容であるというふうに考えております。
 私どもが第一に評価したいと思いますのは、保護者制度に初めて実質的な手直しが加えられたという点であります。
 全家連の家族の生活実態調査は、お手元にお配りしたレジュメに統計数字が示されておりますけれども、保護者をしている人の約八割は父または母でありまして、その年齢は、六十歳以上が六三・八%、七十歳を超える人が約三割、年収三百万円以下の方が半数を超え、年金生活者が約四〇%、健康状態が良好でないという人が三割を超えているという状況であります。
 現行法は、病に悩み、障害に苦しむ精神障害のある人を、こうした高齢で、経済的基盤も十分ではなく、健康状態もすぐれない老父母に対して、老いてもなお障害のある子をみずから支えよと命じてまいりました。こうした旧来の保護者制度のあり方は過酷であり、障害者家族の共倒れを招き、精神障害者の自立を支える方法としては極めて不十分で、前近代的な方法であったと評価するしかありませんでした。
 こうしたことから、全家連では、保護者制度を廃止し、地域医療、地域福祉あるいは公的な後見制度の支えのもとで、本当の意味での精神障害者の自立の支援を図り、精神障害も特別な病気や障害ではなく、家族のだれかが一般の病気や障害になってしまった場合と同じように、法による強制や法による義務ではなくして、家族が本来持っている愛情によって接することができるようになることを実現していただきたいとお願いしてまいりました。
 保護者制度の廃止は、精神障害者に対する法制度のあり方を、一般医療と一般の障害者福祉施策の通常の取り扱い方と同等にしていただくという意味で、ノーマライゼーションの実現という意味も持っていると申し上げてよいかと思います。
 法改正案では、保護者制度の廃止までは実現されておりませんが、保護義務を果たすべき時期が限定され、自傷他害防止義務を削除するとしております。これは、保護者制度廃止への第一歩として評価できるものでありますし、殊に精神障害者御本人の自己決定権の保障という観点から見たとき、今回の保護義務の限定は重要な意義があると考えます。
 レジュメの「精神障害者の実像」というところの数字をごらんいただきながらお聞きいただきたいと思いますが、精神障害者数二百十七万人に対して、医療保護入院になっている方は十万人弱、措置入院になっている方は五千人弱であります。医療保護入院者を、自主的に治療を受け入れることが困難な方々、つまり判断能力が損なわれている状態にある方々と見ますと、その割合は全体の五%以下であります。また、措置入院者を自傷他害の危険のある方々と見れば、その割合は全体の約〇・二%にすぎません。精神保健福祉法第二十二条の保護者の治療を受けさせる義務というのは、本人に判断能力が損なわれているために、自主的な治療が成り立たないときに必要になるわけですから、それは精神障害者全体の五%で足りるということになります。また、自傷他害防止義務については、〇・二%の可能性のために精神障害者全体を危険視し、保護者に監督義務を課すことで、どれほど多くの精神障害者に偏見とスティグマを課すことになるか、立法政策上、その弊害を知らなければならないと思います。
 こうした点から、保護義務を主として医療保護入院措置入院の場合に必要なものと限定し、自傷他害防止義務を削除した改正案は高く評価すべきものと思います。
 第二に、家族会として注目しておりますのは、改正案三十四条の医療保護入院のための移送の規定と、三十三条医療保護入院の要件であります。
 移送につきましては、精神障害の方が適時に適切な医療を受ける権利をどのように保障すべきかという難しい問題がございます。国民に適時に適切な医療を受ける権利を保障するためには、一般的には、医療資源を十分に確保しておけば、医療資源へのアクセスは各自が自主的に、いわば自己決定をすればよいということになります。しかし、精神障害の場合、先ほども申しましたように五%以下程度ではありますけれども、自己決定が困難な状態に陥る場合が想定されます。ここで九五%以上の精神障害の人には自主的な治療が成立することを強調してし過ぎることはありませんけれども、自主的な治療を成立させることが困難な事態が、少数ではありますが存在することは否定することができません。
 一九九一年の国連の精神障害者の保護及びメンタルヘルスケア改善のための原則においても、精神障害者に対してインフォームド・コンセントを行うべきことを強調した上で、しかし例外的にインフォームド・コンセントが行えない場合について規定をしております。
 私は、現行法で問題だったのは、この原則と例外を区別する基準を法が責任を持って明示していなかった点にあると考えております。そのために、熱心さから、あるいは思い余って、民間警備業者などを使って精神障害者を強制的に病院に搬送させる事態や、逆に医療にアクセスできないままに病状が悪化している人を、責任追及を恐れて放置してしまう、関係機関の職員の事なかれ主義とも見える姿勢などが見られないではありませんでした。こうしたむやみな強制や無責任な放置を防ぐためには、法律が責任を持って適時に適切な医療を保障するためには、どのような基準で本人の自己決定を保障していくのかということを示すべきであると私は考えます。この点で、移送の規定を新設したことは評価できると思います。
 また、改正法案が、医療保護入院について、本人に同意能力がなく自己決定ができない場合であることを示す趣旨で、任意入院が行われる状態にない場合という要件を加えることにしている点も、インフォームド・コンセントの原則と例外を基準化するものとして評価できるものと考えます。
 ただ、これらの規定には残された課題もございます。
 まず、移送も医療保護入院も、保護者制度を前提とし、保護者の同意を要件にしております。しかし、入院を拒否し家族と葛藤関係にある本人に対して、家族が保護者として強制権限の発動にいわばゴーサインを出すということが、家族関係に深い心の傷を残すことは容易に想像できるところです。また、入院について利害が対立する関係もあり、葛藤関係にもある一方の者に強制権限発動のイニシアチブを持たせるということは、精神障害者の人権を守る上で適切な方法とは言えません。さらに、医療保護入院については、入院を強制できる根拠がどこにあるのかも実ははっきりしておりません。こうした点では、これらの規定は、将来的にはよりよいものにしていく努力が必要であろうと思います。
 こうした観点から、レジュメでは一ページ目の下の方の「残された課題」というところでございますが、六点ほど、今後の課題としてお願いしたいことを列挙しております。
 第三に、改正法案が、精神障害者の地域福祉の面において、市町村という身近な行政単位にその業務を担っていただく方向を示したこと、また精神障害者居宅生活支援事業等を定めたことなど、ようやく精神障害者も一般の障害者と同じように、地域の福祉資源を使って地域社会で自立生活を営んでいく兆しが見えてきたように思います。精神障害者の地域福祉の促進という面では、法制度上のメニューはほぼ出そろってきたものと言えると思われますが、量的な少なさに問題の要点があると思います。
 三十万人を超える入院者の数は、精神衛生法精神保健法に、そして精神保健福祉法に変わっても、相変わらずほとんど変化していません。その大きな原因の一つが地域の社会資源の不足にあることは疑いのないところです。精神障害者数二百十七万人に対して、身体障害の方と知的障害の方を合わせた数は約三百六十万人になります。他の二障害者の数は精神障害者の数の一・六五倍ですが、法定施設の種類では七倍、箇所数では十倍、定員数では四十倍を超えるという報告もございます。
 ちなみに、レジュメの二枚目に、施設について障害者白書から抜き書きをしたものをお示ししましたが、ほかの障害と比べて精神障害の方に対する福祉施策がまだまだ量的に不十分なことは明白と言ってよろしいかと思います。
 精神障害者が障害者として法的に認知されましたのは平成五年の障害者基本法によることを思いますと、精神障害者の問題が余りにも長く医療だけで解決されるべき問題であるとされ、福祉的な援助の必要性に対する認識が遅かったことが、長期入院者を残存させ、社会的入院の解消をおくらせている原因であったと言っても過言ではないと思います。
 また、地域で自立した生活を果たしていくためには、所得保障という面も極めて重要な課題であります。精神障害の場合は、初診時のカルテが保存期間を経過して廃棄されてしまっていたり、年金払い込み前の二十歳を過ぎた学生時に発病する場合も少なくないなどの理由から、障害年金を受給できないいわゆる無年金者問題も存在しております。
 年金問題は、精神保健福祉法それ自体の問題ではありませんが、こうした福祉的側面を総合的に御勘案いただき、精神障害者の地域自立生活を支える医療と福祉の法としてよりよい精神保健福祉法となりますよう御審議をいただき、また、附帯決議等で将来、再度、法見直しの機会をお与えいただいて、よりよい精神保健福祉法の実現を果たしていただきますようお願いいたしまして、私の意見を終わらせていただきます。
 ありがとうございました。
○委員長(尾辻秀久君) ありがとうございました。
 次に、河崎参考人にお願いいたします。河崎参考人
参考人(河崎茂君) こういう機会を与えていただいて、ありがとうございます。
 私は、日本精神病院協会の会長を現在しております。このたびの精神保健福祉法の一部改正に当たりまして、専門委員としてその審議の場にも加わらせていただきました。
 現在、約二百十七万名の精神障害者と称する方が国民の中におるということで、そのうちで約三十四万名は入院しております。外来として医療を受けておる方が一日平均六万八千名、そのうちで公費負担の制度を利用されておる外来患者が約四十七万名。考えてみますと、人口と精神障害者と称される方との比率は、他の疾患に比べて決して少ない数ではないというように思っております。
 日本には、現在、国立、県立あるいは市町村立の公的な精神病院、もちろんその中には大学の精神科あるいは総合病院も含まれておりますけれども、それと法人、個人の精神病院等で約千六百八十の医療機関がありまして、法人、個人は約千四百が現在精神科の医療機関として許可を受けて医療に携わっております。
 日本精神病院協会の会員が現在千二百五病院。考えてみますと、北海道から沖縄までに、約人口十万に一カ所ずつ民間の病院が配置されており、各都道府県に一カ所あるいは二カ所の公的医療機関があるというのは、これは世界に類を見ない、日本だけが持っておる一つの精神科の医療資源ではないかと思っております。三十四万床のうちで約三十万床は民間の医療機関が担当しており、それがうまく全国に配置されておる。この医療資源がよくならなければ日本の精神科医療がよくならないんだというような一つの自覚を持っております。
 ただ、悲しいことに、十年、十五年前から毎年起きる民間の精神病院における人権問題あるいは医療の場における不祥事件に対しては、我々自身が挙げてお互いのピアレビューをやりながら、再びこういうことが起こらないよう努力は重ねておりますが、まことに遺憾なことであるとみずから反省をしております。
 ただ、そこに精神科医療の一つの問題点の、日本の人口との割合のベッド数、もう一点の在院日数の長さ。十年前と比べて、五百何十日が現在四百日前後になった。十年かかって在院日数が百日短縮された。でも一方、三十四万という入院患者の数が、人口と比較して十年たって約一万のベッドが少なくなった。これだけで今後のことを考えていった場合に、やはり日本の精神科医療の大きな問題点として、社会復帰の推進ということにより一層努力をしていかなければ決して精神障害者の方々の人権は守られていかないんだという気持ちは、日精協挙げて持っております。
 ただ、いかにして社会復帰を推進していくか。何年かかかって努力をしてもいまだに遅々として進まない。これには幾多の原因があり、その原因を一つ一つ打破していかなければ、先ほどの参考人のお話のように、身体障害あるいは知的障害者の方々と比べて日本の精神障害者の方々に対する生活援助、福祉の分野が大きなおくれを持っておったということも、これも一つであります。
 また一点、我々千二百五病院のそれぞれの地域における社会復帰の推進の場合に、社会復帰施設を病院の外に、例えば援護寮、福祉ホーム、グループホームを建設しようとしたときに、地域住民の方々が挙げて総論賛成であり各論反対である、精神障害者の方々が退院してこられてここに何人かが生活すること自身が、やはり我々が怖いんだというようなことが現実あるわけなので、これをどうして打破し、そして地域住民の方々との話し合いにおいてようよう話がついて社会復帰施設を病院外に設立したというその努力を一方においてやりながらも、なかなか思うようには進んでいかないのが現状であります。
 もう一点、いわゆる公と民との比較において、あるいは公民をなべて、他科との比較において、現在、精神科の特例と称して四十八人に対して一名の医師、あるいは六対一の看護体制、これ自身が今後どうあるべきか、これも日精協の大きな課題として、先ほどの長期在院者の社会復帰に対する手段、そして今の在院日数を少なくし、ベッドが社会復帰に回っていくその方法をどうするかということは、現在我々自身も、また厚生省においてもそのことを考えながら、特別委員会を組んで検討はしております。
 ただ、現在、いわゆる精神保健指定医が約一万名を超しました。でも、実質は、日本精神病院協会の三十万床、千二百五病院で勤務している指定医の数は約四千名。そして、指定医がふえていくのが年間約三百二、三十名。十年かかっても三千人しかふえていかない。そして、現在の人権尊重の第一歩の指定医制度、大きい義務、任務を負わされておる指定医自身がそれだけしかおらないところに我々の一つの悩みもあります。
 またもう一方、高齢化社会における老人性痴呆疾患のうちで、特別養護老人ホームあるいは老人病院あるいは老健施設で対応でき得る痴呆疾患の方々、それが対応できない夜間徘回、妄想、そして問題行動のある痴呆性老人、人権を尊重しながら指定医または専門の精神科医が対応をしていかなければいけない方が約七万五千名、その中で現在、老人性痴呆疾患で精神病院に入院しておる方が約二万名余り。いまだに約五万名の方が、これはそれだけの設備とそれだけの人間がおるところの精神病院で医療を行わなければいけないにもかかわらず、思うようにはいっておらないのも現状であります。
 あれやこれや検討して現在、日本精神病院協会の会員自身で、この十二月末で約六〇%の病院がハードの面において明るく、そして格子を取り、そしてかつては、昔はどうしたって精神病院にだけは入院したくない、あるいはさせたくないと国民から言われたものを、もっと親しみのある精神病院にまず姿形から変えていこうということで、現在約六〇%の病院が大改装なり、ちょうど二十何年間の時期も来ておる病院が建てかえなりをして、新しい精神病院のイメージチェンジに努力をしておるところであります。
 もう一方、男子の看護士、これも、日本の看護というのは看護婦さんに限られておったのを、男子は学校がなかった、教育機関がなかったのを、これも日精協で十何年前から取り組んで、現在、約一万六千名の男子の免許証を持った看護士が精神病院において勤務しておる。これは、やはり男子でなければいけないということではないんだけれども、三十何万名の入院患者の中には触法、法を犯した方もおりますし、また強制入院、措置入院患者の中でどうしたってやはり夜間勤務が男子でなければというような場合もあり、また男子が精神科看護という面に自分の生涯の働き場を求めて資格を取ってというような強い希望もありまして、約一万六千名の有資格者と、五千七百から八百名の現在学校に通っておる、今は無資格なんだけれども、近い将来有資格者になる男子が現在精神病院で勤務しているというのも実態であります。
 このたびの法改正において、きょうお手元に日精協の要望書と称してお配りさせていただいております。我々としては、何回かの試練を受けて、また日本の国民だけではなしに国際的にも調査団を受けて、そして調査を受け、試練の場をくぐり抜けてきた現在の日本の精神科医療の人権という問題に関しては、頭の中に強く我々自身が守っていかなければいけないんだということが徹底しておりますし、いわゆる人権を尊重した日本の精神科医療というものにお互いに励まし調査をし合いながら、いわゆるピアレビューと称して日精協ブロックごとに、また支部ごとに現在行っております。
 その中で、一番に社会復帰対策の推進という問題を取り上げまして、二番目に精神障害者に対する偏見、差別の撤廃というのは、これは我々も、現場においてそれぞれの伝統を持っておる病院、もう古い病院は三代目の院長が出てきております。ほとんどが二代目にかわってきております。精神病院の中で生まれて、子供のときから精神障害者の方々と病院の中で遊び戯れた連中は、現在、二代目、三代目の院長としておるんだということも、これもいろいろと長短あるにしても、これはやはりその土地の文化と伝統を重んじながら、その土地で生まれて育って、そして子供のときから精神障害者のよき遊び相手として育った連中が医師になり、指定医になり、院長になりしておるというところで、地域の偏見、差別については身をもって撤廃をしようと努力はしておりますが、国を挙げての一つの施策としてよろしくお願いしたいと思います。
 三番目の救急医療、四番の公と民との機能分化、その他、保護者の自傷他害防止義務、これもよくわかるんですけれども、やはり本人と家族と我々とで三位一体となってやっていきたい。あと、精神科医療の適正なる診療報酬確立という面で、特別な今の二二%のベッド数を持ちながら医療費は五・一%にすぎない、技術料というものの評価をお願いしたい。
 最後に、触法精神障害者の対応というのは、厚生省だけではいかないと思うんですけれども、法務省警察庁と相まってよろしく先生方にお願いをして、今後の触法精神障害者の対策というものについての御配慮もお願いしたいということであります。
 時間を超過して済みません。終わらせていただきます。ありがとうございました。
○委員長(尾辻秀久君) ありがとうございました。
 次に、谷中参考人にお願いいたします。谷中参考人
参考人(谷中輝雄君) 今回の法改正に当たりまして、意見を述べる機会を与えてくださいまして感謝いたします。
 私は、全国にあります社会復帰施設、これを束ねている会長として、それからもう一つの立場は埼玉県大宮市にありますやどかりの里、創設してことしで三十年目になります、現在も精神保健領域におけるソーシャル・サポート・ネットワーク、地域の中に在宅される方々を支え続けている活動を続けていますが、その立場から、すなわち社会復帰促進の面から意見を述べさせていただこうと思っております。
 三十年目になりましたやどかりの里のことについて少し触れさせていただきますと、活動を開始した年は一九七〇年、昭和四十五年のことであります。まだ精神衛生法の時代でありまして、専ら精神障害者を入院させるという法律のもとに、社会復帰促進すなわち社会復帰活動が十分になされていなかった時代のことです。ですから、私は今振り返ってみますと、昭和の時代は、我々並びに精神障害者の社会復帰促進に関しましてはもう冬の時代であった。やどかりのことで申すならば、十八年間、無認可施設、補助金なしで社会復帰促進を続けてまいりました。
 平成になりましてから、すなわち精神保健法の時代になりましてから、社会復帰施設が認可され、グループホーム、生活支援センター等、少しずつではありますが地域で活動の基盤をつくることができるようになりました。私は、平成の時代は春が来たと。とはいうものの、現実に社会復帰施設をつくるのは容易でございませんでした。何といっても地域住民の協力と理解を得ることが大変困難だったからです。加えて、施設を建設する際の財源の問題が私たちの法人を大変圧迫いたしました。思ったようになかなか社会復帰施設が進まない。少し焦りました。
 しかし、平成七年に障害者プラン、平成十四年までにこれだけの施設の数の目標を達成しようと。既に資料がお手元にあるかと思いますが、これが立てられたとき、私の率直な感想を申し上げますと、いや、こんなにできるのかなと。例えば、援護寮が三百カ所、さらには授産施設が四百カ所。その当時は、この数を達成するなんというのはもう本当に夢のまた夢と思いました。しかし現在、私たちの仲間たちが各地で施設建設をしまして、ひょっとするといい線いくのではないかなという希望が持ててまいりました。相変わらず地域住民の方々の協力、理解を取りつけるのは困難でありますし、財源も十分ではございませんが、現在、精神病院に入院している方々を何とか地域社会に迎えようという努力が少しずつ実を結んできたのではないかというふうに考えております。
 加えて、精神保健福祉士が誕生いたしました。私はここに期待をかけております。精神病院の中で長いこと入院している方々を地域に出すべく努力をする傍ら、地域の中に、精神保健福祉士が彼らをサポートする人としてその役割を期待しております。
 振り返って考えてみますと、私は自分が社会復帰活動を推進してきた身でありますから、お金のないこと、地域住民の理解のないこと、なかなか医療との連携が図れなかったこと、いっぱい問題を抱えて、もうとても諸外国と比べますと日本の精神保健は絶望だ、こんなふうに長いこと思っていましたが、少し時間を置いて考えますと、この十年間の社会復帰促進はすばらしいものがあると。こんなふうに立ちどまってみますと、これは結構いい線いけるぞというふうな気もしてまいりました。
 そこで、今回の法改正の重要なポイントは、その点から考えてみますと私はこんなふうに考えております。従来、精神病院から社会復帰施設へという流れをつけて、さらに社会復帰施設から地域の中へという流れをつけていきましょう、これが公衆衛生審議会における大方の御意見でした。今回の法改正は、この地域ケア並びに在宅ケアを可能にするための第一歩だというふうに評価しております。
 これはどういう点から評価したかと申しますと、まず地域生活支援センターを社会復帰施設の体系の中に位置づけてくれたことです。私は、これから在宅ケアを進める際の中枢の働きはこの生活支援センターが重要な役割を担っているというふうに思っております。
 そして、精神障害者居宅生活支援事業が始まります。ホームヘルプ制度やホームヘルパーの導入やショートステイ、これらを市町村で取り組むということが一つの方向として出てまいりました。さらに、これらのサービス利用のための相談、助言が生活支援センターに委託できる。となりますと、今後、市町村に、サービスの利用に関する相談、助言、したがって市町村の中にケアマネジャーのような役割を持った方の配置が必然的に必要になってくるのではないかというふうに思われます。
 さらには、精神障害者保健福祉手帳並びに通院医療公費負担の窓口を市町村にし、徐々に市町村を中心にしたケアシステムを目指していこうという、そういう基礎を今回の法律がつくられたというふうに私の目からは見えてまいります。
 しかし、課題も多くあります。各委員会の中で一つの問題になったのは、今、市町村は、母子に始まって老人のことで大変だ、とても精神保健を受け入れる余地はありません、さらには精神保健のスペシャリストを養成するのには十年、二十年かかる、なかなかその体制づくりができません、こういう意見がかなり中心を占めました。私はもっともだろうなというふうに思いました。
 しかし、ここで重要なことは、この地域生活支援センターを市町村は第三セクター、すなわち民間あるいは社会福祉法人格を持ったところに委託しながら、すなわち民間の力を活用しながらこの支援システムをつくっていくということが可能になってきたということであります。そして、今後これは、既に先行しておる老人の施策、さらには他の障害、身体障害や知的な障害者と精神障害者が統合した施策を目指して、市町村単位にこの支援システムをつくっていくべきであろうというふうに考えます。先ほども申しましたように、このことで市町村にケアマネジャーの導入を図る必要があろうかと思います。
 私は、小さな市町村ではこれらの障害並びに老人も視野に入れて一本化した方がよろしいと思いますが、大都市におけるケアマネジメントを考えますと、それぞれ、老人、身体、知的、精神、これらを専門とした方々のネットワークをつくり、相談の窓口を一本化する、こういう努力が今後必要ではなかろうかと思います。
 さらに、社会復帰施設のことでありますが、なかなか建設が思うように進まなかったのは、民間の手にこれをゆだねてあったからだと思います。むしろ市町村の役割を明確にして、社会復帰施設の設置、運営、査察、これらも市町村の役割、こういうふうに明記することによって中核の施設としての役割を担うことができるのではないかというふうに思います。
 私は、各国と日本の施策とを比較しますと、いろいろとまだおくれている部分は十分あるのですが、一番貧弱なのは住宅政策だと思います。
 いろいろなメニュー、すなわちいろんな居住プログラムが用意されております。例えばグループホームにつきましても、ケアつきであるとか、仲間だけで生活をするとか、幾通りもの多様なメニューが用意されていて在宅ケアを可能にしております。
 私どものメニューは随分そろったんですが、この住宅、すなわち公営住宅に優先入居する、あるいはさまざまな住宅に住むことができるようなサポーターを用意する、こういったマンパワーの配置がまだ地域の中に十分でないような気がしてなりません。
 そこで、私は第二次障害者プランとも言われるべきものを平成十四年度以降に用意する必要があるのではないかと思っております。すなわち、これは社会復帰施設を中心にした施設の整備に加えて、マンパワーの配置だと思います。地域の中に精神障害者のもろもろの生活を支援する方々をもっと配置することが在宅ケアを真に可能にさせることだと思っておりますので、今後の計画の中に第二次障害者プランなるものをつくり、十万人の方々を精神病院から地域に迎えるべく準備に入る必要があるのではないかと思います。
 私は、社会復帰施設をつくるだけでは、なかなか社会復帰促進が進むとは思いません。ここは、精神病院のベッドをカットして、その分で地域の中にきちっとサポートシステムをつくる、こういう思い切った政策がない限り、現行の精神病院のベッド数は今のままずっと行くのではないかと思います。
 しかし、現実には、何らかのケアがあれば、精神病院の中でなくて地域の中で暮らすことが可能な方々が八万とか十万とか精神病院の中にいるということであるとするならば、早急にこれらの方々が町で住めるような施策を具体的に立てるべきときが来ているのではないかと思います。
 この最後のお願いを申し上げまして、私の意見を終わります。
○委員長(尾辻秀久君) ありがとうございました。
 次に、山本参考人にお願いいたします。山本参考人
参考人(山本深雪君) 山本深雪です。
 本日の意見提供の場をつくっていただきましたこと、ありがとうございます。
 私は、大阪での精神医療人権センターの事務局長の仕事をしています。片方で、大阪精神障害者連絡会のネットワーク委員もしておりまして、大阪府下の府の精神保健福祉審議会のお仕事もしています。その両方の立場から本日は意見提起をさせていただきたいと思っています。
 まず初めに、先日の委員会で西川先生の方から取り上げていただきましたが、九三年二月に大阪の大和川病院の中でIさんが死亡するという事件が発生しました。病院の転院後ですね。その事件が報道されたことを受けて、私たちは中の医療の質がどうなっているのか非常に心配しました。それで、中からの訴え、職員さんからの訴え、遺族からの訴え、それらを一つ一つ丁寧に聞き集めていく作業を今まで積み重ねてきております。
 その中で、できたこと、わかってきたこと、見えてきたこと、そういう大きく気になることが何点かあります。それらを整理して申し上げたいと思います。
 まず一つは、大和川病院という病院は、精神科全体にそうだというふうに言えばそうなんですが、任意入院の患者さんが約八五%を占めていたにもかかわらず、全員が門の外に出ることはできていませんでした。私たちが当初面会に訪れた九三年の二月のときにも、病棟の外に出ることのできる、かぎのかかっていない病棟は一病棟しかありませんでした。事件の発生した病棟は終日完全閉鎖病棟でした。
 入院患者が百人いるにもかかわらず、時には夜勤の職員が女性一名しかいない、そういうふうな日もあって、特にそういう夜勤の時間帯は怖い、そういうふうな職員からの訴えも多く聞きました。
 つまり、精神科の特色というのは閉じ込められているということです。中に入ったときに、片方で利用者とか精神医療の消費者であるというふうに思いながら取り組みをしていきたいと私自身も思いますが、でも現実には閉じ込められている、そう思うしかないという現実があります。任意入院という入院形態で入っているにしろ、自分の意思で入ったという、その部分がきちんと担保されるような現在の法制度ではありません。
 ですから、結局、医療機関の中で起こってしまった暗やみ、それが死亡、患者同士のけんかや、あるいは職員が目で合図することが患者への指示につながるというふうな、非常に時代錯誤のような空間がこの日本の中にもまだ残っている、そういうことが明らかになったということだと思います。
 何があればそうした事態を防ぐことができたのか、一生懸命考えました。一番大切なのは、あの病棟の中に第三者が日常的に入り込むことができていれば、まるっきりあのような病棟構造、病棟の中の人間関係にはならなかったはずです。閉鎖され切った空間が成立していたことに対して、やはり一番重要だったのは人が入っていくこと、それによって中の実態を知っていくこと、そういう取り組みを日常的にする人がいたかというところの問題点を一番目に強く感じました。
 二番目には、精神医療審査会という制度があって、電話相談窓口の電話番号が掲示されているわけですけれども、大和川病院の中に入っている患者さんたちは百人で五百円を使うしかない状態でした。つまり、小遣い銭が本人に渡されていません。そういう病棟は今もたくさん見受けられます。そういう中では、審査会という制度が片方でありながら、実態においては、みずからの気持ちでかけたいと思ったときに電話がかけられない状況が今も現場にはあるということです。決して大和川病院だけが特別ひどい状態であったというふうには私たちは認識していません。
 確かに、日曜、祭日の面会をさせないとか、あるいは電話できる時間帯が夜の七時から八時の一時間に限られるとか、そういう非常に恣意的な、通信・面会の自由を奪い取るような行為をする医療機関というのは数が多いわけではありませんが、でもやはり今の現状においても、そういう職員サイドあるいは医療機関の経営者サイドにおいて恣意的に電話すら使えない状態が発生しているという訴えは今も届いています。
 ですから、法文上明記されている通信・面会の自由、通知、通達で明記されていることと、現場において発生しているずれとをきちんと見抜いていく力、仕事、そういう業務をきちんとしていくことが大切だろうというふうに感じました。
 そして三点目には、中の入院している患者さんたちが病棟の内部で発生して目の前で起こったことを、あるいは自分が体験したことを訴えても、そのことをきちんと聞こうとする外部の方が非常に少ないという事実です。それは、中に入院している患者さんなんだから、精神異常の方の話をまともに聞けますかという当初の柏原警察の担当課長の発言にも私たちは非常にショックを受けました。
 世間がこのようにして、中に入院している人のせりふを、言葉を無効化してしまう、訴えを聞こうとしない。本当に本人は見たと言っているにもかかわらず、本当のことであるとはキャッチしてくれない。そうした壁が、閉鎖病棟の中に入院している者と外で暮らしている者との関係性の中に目に見えないバリアとしてはっきりと今も存在していることは事実であります。
 ですから、私たちは、片方で人間の自由を奪って身柄を閉じ込めるのであれば、その人たちが一生懸命に中から発信している声を聞きとめる力と熱意を持った人間を、権利擁護をするための委員として制度化していくことが、今回のようなことを未然に防いでいくために一番必要だったのではないか、そういうふうに痛感しました。
 今現在、審査会制度というのが明記されておりますけれども、行政からの独立性であったり、あるいは中に働く委員の質の部分の問題として、私は今後も十分検討の余地があることだというふうに思っています。
 人権センターが中の患者さんたちから信頼されたのは、夜の十時であろうが十一時であろうが、訴えがあるときにはきちんと話を聞きました。時間が来たからといって帰ることはしませんでした。職員であろうが、遺族であろうが、家族であろうが、退院した患者さんであろうが、病院の中の実情を教えたい、情報提供したい、そういう意思を持っている方のお話は全部丁寧に時間外であろうと聞き取りをさせていただきました。そうした蓄積が結果的に、医療の中で行われているやみの部分を明らかにしていく作業に流れていったというふうに思っています。
 お手元に配付させていただきました九七年九月二十二日作成の「大和川病院問題の経過」というのがあります。九三年に事件が発生してから九七年十月に医療機関としての取り消しに至るまでの間、なぜこのような長い時間が経過せざるを得なかったのか、片方で非常に悩みました。
 その一つとして、私が私たちの取り組みの中で思った一点は、まず今の法の規定の中には死亡に関する報告件数の報告徴収義務がありません。ですから、大阪府の方にA病院の中において今年度一年間で死亡された方の人数を把握されていますかという質問をしたときに、していません、できませんという回答でした。
 私は、いやしくも人の命ということをお預かりしている場では、その方が退院であったのか施設入所だったのか、あるいは死亡であったのか事故であったのか、そういう最低限死亡に関する報告件数と事故に関する報告件数は、報告徴収義務として行政側が把握しておくようなシステムが必要であろうということを思いました。行政側ですら知らないということではなかなか話が前に行きませんでした。
 もう一つは、お手元の四十九ページのところにもありますが、当初大阪府の方も、私たち民間団体や退院患者の話を聞きながら、医療法人の方に改善計画の提出を求めていました。ところが、そのことを拒んだときに、平成五年九月の段階で大阪府の方は改善命令を出すべく準備をしていました。それがなぜ結果的に改善命令という形でそのときに下せなかったのかという疑問がずっと残っていました。
 それらが少しずつ九七年になって明らかにされてきたものの一つに、お手元の五十ページ記載に、厚生省保健医療局長が安田系三病院に対する調査の延期を打診したということが書かれています。あるいは五十七ページの中にも、安田系三病院の同系列である安田記念医学財団という財団において厚生省の天下りの職員が二名入っていました。そうした非常に密接な関係づくりをしてきたこと。
 系列病院である三病院の立入調査をしようとしていたやさきに、それを延期してほしいということが、厚生省の保健医療局長というポジション、ポストを使ったというふうに私たちには見えるわけですが、厚生省内部の部局やあるいは大阪府の担当部局の方に日程変更の問い合わせをするというふうなことがあっていいのでしょうか。これは、厚生省の中にあろうと行政の中にあろうと、許認可権を持って仕事をしている方と、指導や処分を下すお仕事をしている部局の方とは明確に区別されてあるはずですし、そうしたことが薬害エイズの反省の中で厚生省内部においてもきちんと議論されてきたというふうに思っていましたが、ここら辺がうやむやにされたままですと、私たち市民、国民の側からすれば、やはり厚生省の中にはまだ見えない部分があるなというふうに思っている実感があります。
 ここは、九八年四月十四日の安田氏に対する刑事事件の判決の中でも触れられておりまして、遅くとも昭和五十三年以降から発生していた職員不足の指導を逃れるための道具として安田記念医学財団を使用してきた、そのように断罪しています。しかも、患者を道具にした不正請求、不正行為であった、そういうふうに裁判官も厳しく断罪しました。けれど、このことは、世間においてはこれ以上問題にされていないなというのが、私たちから見ればすごく不思議だなという気がします。できましたら、行政の中においてもう少し、何があったのか、財団法人からの寄附金が余りにも多額であったのかとか、あるいはそのことによってどのような力が発生してこのようなおかしなことになったのかという調査をきちんとしていただきたいというふうに思っています。
 そうした行政と医療機関とが癒着をしてしまえば、医療機関の中で発生している事実を職員や患者や市民団体が訴えていっても非常にむなしいものがありました。私たちは、現場がそういう事態であっていいのかということに、これではよくないというふうに痛感させられました。
 ですから、今、精神保健福祉審議会の仕事の中においても、大阪ではユーザー委員として私は入っていますが、全国の各都道府県レベルにおいても、消費者サイドの意見をきちんと反映できるシステムを取り入れていただきたいものだというふうに思っております。そうでない限り、絶大なる権限を持っている医療機関との関係の中では、お願いするしかない関係の家族、そして黙っているしかない立場の患者、そういう構図が変わっていく可能性というのがなかなか見えづらいものがあるからです。
 そういう意味では、長期的な視点に立って物を考えれば、私はやはり、患者の権利をきちんと守れるための権利擁護法というものを長期的には考えていかない限り、こうした事件の再発防止にはつながっていかないだろう、そのように思っています。
 そして、宇都宮病院の事件の反省を受けてつくられたはずの任意入院制度を形骸化させないためにも、医療保護入院との違いとか、御本人自身がここに入ります、ここで治療を受けますといって夜間にタクシーでその病院に乗り込んで任意入院になったのであれば、その方の、何時から何時までは散歩したい、何時から何時まではポストに郵便物を投函してきたい、そういう気持ちを十分に反映することのできるような処遇基準を明記していただきたい、そういうふうに思います。そうでなければ、精神科医療を受ける者が安心してかかれる医療との関係というふうに見えてこないからです。
 私たちが望むものは、拘禁ではなくて、安心してかかれる医療、治療です。そのためには、医療機関との信頼関係が非常に重要ですし、医師と患者が信頼関係をいかにしてつくることができるのかという視点をきちっと持っていただいて、その上で、情報公開であるとか、病院を見学したいという方にはオープンに開きますよという病院との関係づくりであるとか、今回の、少なくとも大和川病院等で失われてしまった医療機関との関係の信頼回復に向けて、何があればもう一度こうした繰り返しがないというふうに私たちが安心できるのかということを長期的な視点に立って考えていく必要があるなというふうに思っております。
 それは、先ほどからほかの方からも提案がありましたけれども、一つはやはり、地域で安心して暮らせる場の確保に向けた障害者の総合的な福祉法の確立でしょうし、一つは中に患者として入っている際の権利擁護法の確立でしょうし、もう一つには地域全体を考えた障害者差別禁止法というふうな関係を明確にすることだというふうに私は思っています。そういうことの中から、口先だけではないノーマライゼーションの関係を本当の意味で地域においてもつくり出していくことができるようになっていけば、閉鎖空間である病棟の中においても対等な関係、ノーマライゼーションの守られた関係ということに向けた追求が可能になるというふうに考えています。
 時間が来ているようですので、この辺で終わります。
○委員長(尾辻秀久君) ありがとうございました。
 以上で参考人の方々からの意見の聴取は終わりました。
 これより参考人に対する質疑を行います。
 質疑のある方は順次御発言願います。
久野恒一君 自由民主党久野恒一でございます。
 きょうは、四人の先生方の貴重なそれぞれの立場に立った意見を聞かせていただきまして、私も茨城県でもって病院を経営する者の一人として、特に山本先生の御発言、身につまされるような感じで聞いておりました。
 きょうは、四人の先生方、それぞれお忙しいところを当委員会に御出席賜りまして、我々に御教示くださったいろんな問題点とか、あるいはこれからのあるべき姿とか、そういうものを示唆していただいて、本当にありがたく思う次第でございます。
 今申し上げましたように、山本先生からは大和川病院の悲惨な状態、そして厚生省の対応の悪さ、これを直していくのにはやはり地域が重要であると、そういう御指摘もございました。
 また、河崎先生の方からも、医療の現状と問題点、具体的な数字を上げていただいて、二二%のベッドを持ちながら五・一%の医療費しかない、こういう現状について、非常に病院経営も苦しいというお話もございました。
 いずれにいたしましても、これからのノーマライゼーションを進めていくためには、市町村が大切であるということを谷中輝雄先生から教えていただいたわけでございます。地域ケアとか、平成七年度に障害者プランがつくられ、そういう中で今後の課題として市町村はどうあるべきなのか、そういうものも教えていただいて、本当にありがとうございます。
 最後になりましたけれども、池原先生の方から、保護者の問題でもって、地域でもって保護、介護する人が高齢化している、あるいは病弱である、あるいは年金受給者が四〇%近くもいると、そういうお話もいただき、それに対しての御意見もちょうだいしたわけでございます。
 立場が変わるといろんな問題が出てくる、そういうふうにつくづく拝聴した次第でございます。
 そういう中で、私は違った視点でもってお尋ねしたい問題がございます。その問題と申しますのは、現在、社会保障費、年金とか医療、福祉、こういう問題が実に七十兆円にも上っているわけでございます。厚生省の統計では、二〇二五年ですか、恐らく三百兆円にも達するだろうと。また、現在国民の貯蓄金額は千二百兆もある。そういう中でもっていろいろと施策をしているわけでございますが、現状の問題は現状の問題として私は受けとめてこれから活動の中に生かしていきたい、そう思いますけれども、三百兆に達する、七十兆から四倍強に達するこの財源はこれからいかにして出てくるんだろうか。今の経済成長率、そういうものの中で四倍強になる三百兆という社会保障制度、これが予測されています。また一方では、貯蓄も、一千二百兆から恐らく二〇二五年には約半分になってしまうだろうと。そういう社会保障制度も我々は確立していかなければならない問題だと思います。
 時間が非常に短いので、十五分でございますので端的にお話をさせていただきますけれども、いろいろなノーマライゼーションに基づく施策が講じられようとしておるわけでございます。ゴールドプランとか障害者プランとかエンゼルプランとか、いろいろ厚生省の中にもプランがございます。私は、そういうプランに合わせていろいろと物事をつくっていくのではなくて、もっと根本的に大きく、法の一部改正じゃなくて、法を大きくつくり直していく、にわかにはできませんけれども、そういうものも必要ではなかろうかな、そういうふうに思うわけでございます。
 現状のような景気低迷の中、低迷している社会情勢の中で、しっかりとしたかじ取りをやっていかなければならないのが我々国会議員の使命であろう、そういうふうにも思っているわけでございます。
 そういう意味で、我々国会議員としては、事例を挙げて教えていただくのも結構でございますけれども、こうせよというものを、社会保障費が上がる、預金が下がっていく、こういう中で、先生方に御意見がございましたら教えていただければ、私のライフワークとしてそれをやっていきたいなと思うわけでございます。
 時間が短いので、短くてもよろしかったら四先生全員にこのことを、ちょっとずつで結構でございます、お答え願えればありがたいなというふうに思うわけでございます。
○委員長(尾辻秀久君) それでは、各参考人、御指名申し上げますので、お一人ずつお答えいただきたいと存じます。
参考人(池原毅和君) 大変難しい御質問で、すぐにどうお答えしていいか、必ずしも適切でないかもしれませんけれども、一つは、私が本日申し上げた部分というのは、比較的予算の裏づけというものの必要が少ない部分であったというふうには思います。ある意味では、精神障害の方の能力といいますか、自活力といいますか、そういうみずから人生を切り開いていく力というのを、あるいは精神保健福祉法は過小評価し過ぎていなかったかという点を考えております。
 そういう意味では、もちろん、福祉の対象になる精神障害の方がおられないという意見ではありませんけれども、かなりの方が比較的ソフトなといいますか、経費的にもそれほど大きな費用のかからない援助をすることによって、例えば一般雇用でみずから収入を上げるという方法も、現在のところはいかにも不可能のように見えておりますけれども、例えばアメリカのADA法なんかを見ますと、障害があってもそれなりの所得を得る、就労の機会というものが得られる方法がある。そういうもともとお力をお持ちの障害のある方、これは精神障害の方もそれ以外の障害の方も含めてですが、そういう方にももっと広く社会でその能力を発揮していただくというような方向性を広げていくということは、費用の面でもある意味では経費がかかりませんし、また本人が社会の中でともに生きるといいますか、自分の生きる生きがいを見つけていくという意味でも非常にいい効果があると思っております。
 まずは、障害があるから何もできないんじゃないか、あるいは福祉で保護してあげなければいけないのではないかというふうに最初から決めてしまわないで、やはり引き出せる能力は可能な限り引き出すような手だてをして、そしてどうしても支えが必要なところに限定して充実した支えをしていく、抽象的なことですけれども、そのような考え方がこれから必要なのではないかというふうには思っております。
久野恒一君 ありがとうございました。
 私の持ち時間が二十九分まででございますので、あと四分足らずでございます。
参考人(河崎茂君) 久野先生の御意見にそのままそっくりいくのかどうかはわかりませんけれども、我々の考え方の一つとして、現在、精神障害者になった方に対してのいろいろな治療とか、あるいは社会生活、福祉の面を考えておりますけれども、もう一つ、予防というのか早期発見、早期治療、あるいは六五%を占めておる分裂病の方々に対する治療というもの、研究というものにもう少し予算をとってもらえないかという希望があるわけですけれども、よろしく。
参考人(谷中輝雄君) 財政の問題ということから考えますと、私はイタリアであるとかイギリスに見習うべきではなかろうかというふうに思っております。それは、精神病院の五十床のベッドを減らすにつきまして、五十床減らしたその予算を地域にそのまま振り分けながら、その精神病院のドクターやナースも地域の中で働くという形で在宅ケアを促進してきました。
 ただ、日本においてこれができづらいのは、八〇%強の民間精神病院にこのことをお任せしているので、なかなか仕組み上できづらいです。しかし、例えばバンクーバー。五千床を二十五年かかって七百五十床に減らし、さらに二〇〇〇年には五百床に減らすという。こういう病床を減らす、すなわち医療費を福祉費の方に転ずるという、このことを通じてやはり私は地域ケアを促進すべきだというふうに思っております。
 地域ケアというと比較的安上がり政策というふうに思われがちですが、医療費との案分で考えるとするならば、多少医療費よりも安くて済むということも事実ですが、財源の問題はこのようなことで、一歩も早く在宅ケアを実現すべく、そういう流れの中で努力すべきだというふうに思っております。
参考人(山本深雪君) 答えがそのまま合うのかどうかよくわかりませんが、大阪では、身体障害者の介護をするお仕事であったり、高齢者の紙おむつを運ぶ宅配サービスであったり、入浴介助サービスであったりを、地域で暮らしている精神障害者が横の連携をとり合いながら一緒に取り組んでいます。そういう形で、地域で暮らしている障害を持つ者自身が自信をつけていくような取り組み、そして新たな視点からの地域をつくり出していこうという歩みを、陽だまりであったり、松原市の方において行っています。
 要は、そうした大切な部分さえ見失わなければ、一番そこが重要なのではないか、そういうふうに思っています。
久野恒一君 どうもありがとうございました。
 終わります。
○朝日俊弘君 民主党・新緑風会の朝日でございます。
 きょうは、四人の参考人の皆さん、御出席いただきまして大変ありがとうございました。私もかつて精神科の臨床に身を置いたことがある者として、今回の法改正については、いささか戸惑いながら、半歩あるいは一歩前進なのかなというふうに受けとめているところでございます。
 限られた時間ですので、すべての参考人の皆さんにお尋ねすることができないかもしれませんが、あらかじめお許しをいただきたいと思います。
 まず最初に、大阪からわざわざおいでになった山本参考人にお尋ねしたいと思います。
 強調された、精神障害者あるいは患者さんのための権利擁護制度をぜひつくっていく必要があるという御意見については私も全く同感です。民法の改正で成年後見制度の創設が検討され、あるいは一方で社会福祉事業法の改正で障害者の権利擁護制度がつくられようという動きがあるわけですので、ぜひその中で、どの法律でどういうふうに位置づけたらいいのか、精神障害者のための権利擁護制度をつくっていく、できれば今回の改正がその第一歩になればいいなというふうに思っているわけです。
 お尋ねしたいのは、そのこととは別に、今回の法改正の中で、任意入院の患者さんについては開放処遇とするんだと。これはある意味では当たり前のことなんですが、その基準を法律に基づいてちゃんとはっきりしましょうと、こういうふうに法律が変わるわけです。ただ、これは意外と開放処遇といっても何を開放処遇と言うのか、開放処遇と開放病棟とは違うのかどうなのか、結構難しいというか、定め方が現実をちゃんと踏まえて定めないと何のことを言っているのかわからない、あるいは逆に、言葉は悪いんですが、しり抜けになって何らの意味も持たないような規定になりかねない。先ほどのお話の冒頭で、閉ざされた空間に閉じ込められていることの問題というのを強調されたわけで、任意入院患者さんは開放処遇とするということの基準の定め方について御意見があればぜひお聞かせいただきたいと思います。
参考人(山本深雪君) 最近見た資料によれば、任意入院の方で、二十四時間、終日閉鎖病棟に入っている方が五四%いるというふうなデータがありました。
 私は、こういう終日閉鎖病棟の中に任意入院の方が入れられてしまっているという現実はあってはならないというふうに思っています。
 具体的には、開放処遇というのは、扉があいていることという現状の規定を超えて、例えば時間を一時間半という形で詰所に書き門の外に買い物に行ける、そういう行動範囲を含めて、開放処遇だと入院した御本人が思える内実にしていただく必要があるだろうというふうに思っています。
○朝日俊弘君 その点について、ちょっと立場は違いますけれども、河崎参考人の方にお尋ねをしたいと思います。
 精神病院における開放化についてはいろんな形でかなり努力をされているし、少なくとも十年、十五年前に比べると少しずつ開放化に向かって進められていると思います。ただ、実際の病棟の運営の実態といいますか、あるいは患者さんの処遇の実態ということになるとかなりばらつきというか、それぞれ違いがあって、なかなか任意入院患者さんは開放処遇とするんだよというふうに決めるとしても、さあ一体どこをどう決めたらいいのか結構難しい面が現実にはあるんじゃないかと思うんですが、御意見があればお聞かせいただければと思います。
参考人(河崎茂君) 朝日先生のおっしゃるとおりで、例えば任意入院専用の病棟あるいは医療保護の病棟というふうに病棟別になれば開放が物すごく楽なんですけれども、まだそこまで行っておらないんであって、今でも一つの病棟の中に医療保護の方も任意入院の方も同居しているような感じなんです。任意入院の方が一日に大体八時間が本人の意思によって開放されるという、希望があればというようなことなんです。
 もう一つは、病院の病棟の配置によっては、全部の病棟が朝の九時から夕方の五時までは運動場を取り囲んだ病棟配置であれば全部出られるわけなんですけれども、そうではなしに、病院外に自由に出ていくということについては一戸病棟、病棟全体をそのようにするわけにはいかないところに我々の悩みがあるわけなんです。
 今後、病棟のつくり方、配置の仕方なんかを工夫して、できるだけ任意入院の方は任意入院病棟、閉鎖病棟に入られる医療保護の方は医療保護病棟というような、病棟のつくり方から我々も検討していかなければいけないというように思っております。
 今のところ十分に満足するような開放状態にはなっておらないのが事実なんです。
○朝日俊弘君 今お話がありましたけれども、私も今からもう三十年ぐらい前になるんですが、ある病院にいて、明らかにかぎが二十四時間かかっていて閉鎖病棟なんですけれども、中庭に向けてオープンになっているのでこれは開放病棟だという説明を聞いてびっくりしたことがあるんです。
 やっぱりポイントは、先ほど山本参考人もおっしゃったように、外とのコミュニケーション、第三者がどの程度出入り自由となるのかという、あるいは中の情報が外へ、外の情報が中へどの程度入ることができるのかというその度合いなんだろうと思います。
 そういう意味では、今回法律で任意入院の患者さんは開放処遇とするんだよと、その基準についてはいろいろ明確に概念を決めたいと、こういうふうになっているわけで、そこは一歩評価をしたいと思うんですが、実際にこれを運用するとなるとかなり現場での御努力も必要になると思いますので、ぜひ河崎参考人にはそのことについても御尽力いただければと思います。
 せっかくの機会ですから、あと一つだけ河崎参考人にお尋ねします。
 先ほどの冒頭のお話の中で、平均在院日数もかなり短くなってきている、あるいは病床数も右肩上がりではなくて、やや減少方向を向いているというような大きなトレンドについてお話がありました。私は、今から十五年前もそうでしたし、今でも改めてそう思うんですが、日本の精神病床数はやはり多い、あるいは多過ぎるのではないかとどうしても考えざるを得ないんです。これはきょう改めていろいろ資料を、数字はお示ししませんけれども、OECD各国における人口千人当たりの精神病床数というのはどう考えても日本は多い。さまざまな社会復帰への努力で少しずつ少なくなっていくのかなというふうに大いに一時は期待をしたんですが、残念ながら必ずしもその期待したとおりには進まなくて、現在やっぱり三十四万床あるんですか、平均在院日数にしてもまだ四百何日あると。一体どうなんだろうかと。
 先ほどお隣の谷中参考人もおっしゃったように、相当病院、病床数を削減して、社会復帰にコストをシフトした方がいいんじゃないかという御指摘があったんですが、その点について参考人の御意見をお伺いしたいと思います。
参考人(河崎茂君) 病棟の三十五万床あるいは実質三十四万というのは、なかなか十年かかっても同じようなところでおるんじゃないか、在院日数が十年のうちに百日短縮したってそれも大して影響を及ぼしておらないんじゃないかと思います。
 日精協の調査によりますと、ごく最近入院しておる、ここ二、三年前からの入院は、六カ月ぐらいで約七〇%ぐらいは一たんは退院できるわけなんです。一年余りで九〇%ぐらいは一応退院はしているわけなんです。でも、五年以上の入院患者が約半数、五〇%いるわけなんです。
 この長期在院者をどうするか、これが一つの命題になっておるわけです。そのために厚生省で委員会をつくって長期在院者の対応をどうするのかという研究班で現在やっておるわけなんです。この四月、五月ごろには結論は出るだろうと思うんですけれども、一応社会復帰の中間施設的なもの、例えば日精協が唱えておる心のケアホームという中間施設的なもの、あるいは老人保健施設と同じような精神保健施設のようなもので、一応百床に対して医者が一人か二人で、長期在院者で二十四時間、三百六十五日入院の必要のないような方を精神保健施設というような施設に病床を転換して、そこに持っていったらどうかというような案、幾つかのメニューは現在出ておるわけなんです。
 我々としては、ここ十年間、中間施設という援護寮、福祉ホームあるいはグループホームがなかなか遅々として進まない現状であるから、思い切って病棟の一部を変更して、そして中間施設的なものに持っていったらどうかというようなところで検討を加えておるわけなんです。検討ばっかりやっておっても実質なかなか進まないから、早く結論を出して、幾つかのメニューで食えるものは食っていけというような状態に持っていくべく現在最終的なところに来ておるわけなんで、いましばらく経過を見ていただきたいと思います。
○朝日俊弘君 時間ですので。ありがとうございました。
【次回へつづく】