精神医療に関する条文・審議(その93)

前回(id:kokekokko:20051107)のつづき。初回は2004/10/28。
ひきつづき、平成11年の精神保健福祉法改正についてみてみます。

第145回衆議院 厚生委員会会議録第10号(平成11年5月19日)
【前回のつづき】
○鈴木(俊)委員長代理 次に、児玉健次君。
○児玉委員 日本共産党の児玉健次です。
 私は、日本の精神医療において、あしき典型の一つとして多くの国民の関心を集めた三重県多度病院の問題についてまず質問します。
 この病院は、二百八十六床、医師六名、うち非常勤二名、精神科特例にも医師は一名不足しています。五十の病室のうち、開放病室は男子の八室のみです。女性の病室はすべて閉鎖病室です。病室の七割が畳またはビニールシートが敷かれた部屋であって、保護室は五つ、板の間で、五つとも常に患者が入っている状況でした。
 この病院でことしの初めインフルエンザが流行し、インフルエンザによると考えられる方が八名、判断困難者七名、インフルエンザの関与とは考えられない方四名、計十九名が短期間のうちに亡くなられた。
 皆さんに資料をお配りしておりますが、ちょっと見てください。女子の方は全部閉鎖病室ですから比較のしようがないんですが、男子の場合、ごらんのとおり、閉鎖病室で先行してインフルエンザが発症して、そして少しおくれて開放病室に移る。患者数の多少がありますから単純に比較はしにくいけれども、冬も窓が閉め切られている閉鎖病室をインフルエンザが文字どおり直撃したということはこの資料からもおわかりだろうと思います。
 厚生省に伺いたい。多度病院の場合、この時期、任意入院、医療保護入院措置入院はそれぞれ何人だったでしょうか。
○今田説明員 厚生省の方からの問い合わせによりますと、平成十一年の二月の十五日に実施をしたものがございますが、これによりますと、三重県の多度病院におきます任意入院患者が百五十九名、医療保護入院患者が百十一名、措置入院患者が一名の計二百七十七名でございます。
○児玉委員 その二百七十七名の患者さんの入院期間はいかがでしょう。
○今田説明員 その時点での入院期間別の患者数でございますが、三カ月未満が二%、三から六カ月が六%、六から一年が六%、一番多いのが一年から五年未満というところで二九%、それから五年から十年で一七%、十年から二十年で二四%、二十年以上で一六%という状況になっております。
○児玉委員 今、パーセンテージでお答えになったので余りぴんとこないのだけれども、事前に私が調べたのでは、十年から二十年未満が六十七名ですね。それから、二十年以上の入院者が四十三名です。そういう状況であった。
 そこで、私は、大臣にこの点は率直に要望したいわけですが、精神障害者の社会復帰を主眼とする今回の法改正を契機にして、今の例からもわかるように、任意入院の多数が閉鎖病室に入っていたということは明らかですから、閉鎖病棟、閉鎖病室は基本的には廃止の方向で、そして当面、少なくとも任意入院の患者が閉鎖病棟、閉鎖病室に入るような状況は速やかに解消していく。そして、保護室についていえば、患者の人権に十分配慮して抜本的な改善をする。
 それを、単なる方針とかなんとかでなく、法三十七条にこう書いてあります、「精神病院に入院中の者の処遇について必要な基準を定めることができる。」こうなっていますから、法三十七条に基づいて、病棟、病室の構造、設備を含めて処遇の改善を明確に定めていただきたい。今、青山議員が御質問になったことと重なりはしますけれども、三十七条との関係でお答えをいただきたいと思います。
○宮下国務大臣 先ほどもお答え申し上げましたが、任意入院患者につきましては、原則として開放処遇を行うべきものと考えております。
 そして、今、三十七条の第一項の御指摘がございましたが、精神病院入院中の処遇につきまして必要な基準を定めることができるという規定がございますので、閉鎖処遇を行う際の基準につきましては、隔離などと同様に行動制限の一種として位置づけまして、一定の要件及び手続を明確にすることにより、不適切な処遇がなされないように対応してまいりたいと考えております。
○児玉委員 次の問題ですが、多度病院のことをいろいろ見ておりますと、朝日新聞の九九年の二月二十三日にこういう報道がありました。「死亡した患者の一人は病室で体調が急変し、助けを求めて自力で廊下に出た。しかし、力尽きて看護婦の詰め所の前で倒れていたところを、別の患者が発見した」。本当に痛ましいことですね。
 先ほどお話があったように、入院患者四十八人に医師一名、入院患者六人に看護婦一名、精神科特例の問題がこのような事態の背景にあると私は考えます。
 参議院参考人としておいでになった日本精神病院協会長の河崎茂氏は、精神科特例に触れて次のようにおっしゃっている。「終戦までの日本の一つの考え方というのか国の考え方、それが精神障害者対策に影響しておったんではないか。」「格子を入れて社会から隔離して、医療というよりも隔離というようなことで来た、そのこと自身がやはりいまだに尾を引いておる。」私はこの御指摘に全く同感です。
 実は、私自身がこの問題を最初に取り上げたのは、一九八七年九月の衆議院の社会労働委員会の場でした。それで、当時の厚生省の竹中浩治健康政策局長は私にこう答えました。「最近におきます精神医療をめぐる状況の変化あるいは現場におきます業務量、人員配置の実態等を十分踏まえまして、今後検討してまいりたい」。
 それからもう十二年たっています。精神医療をめぐる状況の変化というのは、この審議以来、非常に今は日本の精神医療が大きく前進しつつあるという点で、かなり展望を持ってきているように私は思います。そういう中で、この法改正を契機にして精神科特例の抜本是正を行うことが避けて通れない課題だと考えます。この点についても大臣のお考えを聞きたいと思います。
○宮下国務大臣 精神科特例は昭和三十三年につくられました。当時のスタッフの充足状況とか慢性的な精神障害者が多かったこと等でこういうものがつくられたようにお聞きしておりますが、現在、一般医療につきましても、医療の基準の問題、医者の配置の人数、あるいは看護婦さんの問題等を検討中でございまして、そういった中の一環として精神科特例のあり方についても議論し、改善をしていきたいと思っております。
○児玉委員 それはぜひそうしてもらいたい。まさか十二年たつようなことがあっては決してならない、極めて速やかにやっていただきたいと思います。
 次に、精神医療における診療報酬についてでございます。
 もちろん、これはこの法案の一部改正と直接結びつくものではありませんが、しかし、日本の精神医療の重要な土台、支えになっております。私はこういうふうに思うんですね。精神科における診療報酬の劣悪さと先ほどの精神科特例が相乗的に働き合って日本の精神医療を困難にしているんじゃないか、それが私の感じです。
 そして、精神科の診療報酬は、低い水準に抑制されていることが問題であるだけでなく、その内容についても大きな問題を含んでいる。いろいろ例を挙げたいんですが、ほんの一例を挙げましょう。
 入院精神療法、これが、入院三月以内は、週三回を限度に指定医が行う場合、三百六十点。この三百六十点が低きに過ぎるという点については、参議院の審議の中でも何人かの方が指摘されておりました。私もそう思う。
 それで、この機会に言いたいのは、同じく指定医が入院精神療法を行う場合に、三月を超えたらどうなるかという問題です。三月を超えたら、週二回を限度に、三百六十点が一挙に百五十点に減じられてしまう。そして、六月を超えると八十点になる。三月、六月を経過したら入院精神療法の必要がなくなるのか。
 私は、この点で何人かの精神医療の専門家の御意見を伺い、かつ、精神病院にも行ってまいりました。ある専門家は、病状が不安定で回復期にある患者に対して、急性期というところと慢性期との間に亜急性期を設定することが重要だ、こういうふうに述べられて、精神療法が百五十点、八十点と急減するのはまさしくその時期と重なっている、病状が不安定で回復期にある、適切な医療がそこで保障されたら確実に症状が軽減し、そして社会復帰に向けて、初発の段階に比べて若干おくればせではあるが、確実にその方向に向かうと。
 私が訪問した病院の指定医のあるお医者さんは、この百五十点、八十点と急減される時期、しかも回数が制限されているわけだけれども、たとえ診療報酬の対象とならなくても週二回を超えて精神療法を行っている、効果が確かめられている、こういうふうにお話しになっているのですね。
 これは全くの一例ですが、精神科の診療報酬を、点数と内容をあわせて精神医療の前進に寄与するよう改善していただきたいと思うのですが、いかがでしょうか。
○羽毛田政府委員 精神科の技術料の診療報酬上の評価についてのお尋ねでございますけれども、私ども、今日まで、入院精神療法あるいは通院精神療法、標準型精神分析療法等の精神科の技術料につきまして、逐次点数の引き上げを行うなど、段階的にその充実を図ってきたつもりでございます。
 今日、十分かどうかということについての御議論、あるいは、今お話のございましたように、急性期についてはある程度集中的な医療を行うということを評価して高く設定をするというような形についての御議論、診療報酬をめぐりましては、精神領域のみならず、いろいろな議論もございますし、今、診療報酬上における技術評価のあり方ということにつきましては、現在の診療報酬の抜本改正の中におきましても議題として俎上に上がっている重要な課題でございます。
 そうした中で、精神科の技術料につきましても、お話しのような視点も含めまして、どのような形で技術料評価をしていくのがいいかということにつきまして、中央社会保険医療協議会を中心に具体的に検討をお願いいたしておりますので、その結果を見まして、今のような技術料の問題を今後の一つの大きな課題として取り組んでまいりたいというふうに考えるところでございます。
○児玉委員 今羽毛田局長のお話のように、私が指摘した内容をも踏まえてこの点の是正の検討をする、そのようにしていただきたいのです。
 そこで、次にもう一つ、長期入院の問題です。
 先ほどの三重のケースを見ても、長期入院が大変な状況にある。そこで、その対策の焦点の一つは、長期在院重症者、急性増悪の再現の方も含めて、こういう方に対する適切な医療をどのように保障するか、ここが今問われていると思います。長期入院というのは症状の軽い患者であって、即社会的入院、こういう理解には問題があると私は考えます。長期在院重症者、そしてその方たちが苦しんでいる合併症の問題を含めて、国公立病院、とりわけ国立病院が果たすべき役割の大きさが今求められているし、問われているのではないか。こういった最も困難を抱える精神医療の領域において国立病院が指導的な役割を果たす、その点について厚生省のお考えを聞きたいと思います。
○伊藤(雅)政府委員 お答えいたします。
 国立病院・療養所におきましては、平成八年の国立病院・療養所の再編成・合理化の基本方針、及びことしの一月十四日に公衆衛生審議会の意見書をいただいております。特に、この公衆衛生審議会の意見書におきましては、国立病院・療養所につきましては、再編成・合理化の基本方針に基づき、精神科救急への対応、薬物依存や合併症を有する患者への対応に重点を置くこと、こういう御意見をいただいております。
 私どもといたしましても、国立病院・療養所におきましては、他の設立主体では対応が困難な精神科救急への対応、薬物依存と並びまして合併症を有する患者への対応など、その役割を真に国として担うべきものに特化していくという方針で対応しておりまして、先生御指摘の点を踏まえまして国立病院・療養所としての役割を果たしていきたいと考えております。
○児玉委員 一言言っておかなければいけないのだけれども、国立病院・療養所が政策的医療に特化するという点については私たちは強い異論を持っておりますので、そのことは述べた上で、しかし、今言った点についてはその方向を強めていただきたい、私はこう思います。
 次の問題ですが、昨年九月、精神保健福祉法に関する専門委員会報告書、これが出されました。読ませていただきました。その中で、精神科の病床を一般病床に倣って急性期と慢性期に区分することの検討が提起されています。初発の段階で必要な医療を十分に保障することの重要性はだれしも認めるところです。しかし、長期入院については、先ほど若干私が述べたことからも明らかなように、慢性というふうに一般化できるようなものはそう多くはありません。むしろそこに精神医療のあり方が問われている。
 それで、専門委員会の報告書が出された後、ことしの一月に、精神病床等の在り方に関する検討部会報告書が出されて、その中でこういうふうに述べていらっしゃる。急性期や慢性期といった時間軸のみによる区分、これはどんなものかという指摘がそこでされていますね。まさにこれは重要な指摘だと私は思うのです。精神科の入院医療が、急性期に対応する部分と、そしてもう一つは、現在よりも医療のスタッフの配置をさらに手薄にする、現在の精神科特例の人員配置をさらに手薄にして、例えば入院患者百人に対して医師一人、そういった形で施設化する。急性期と施設の二極分化に向かいはしないか、そういう懸念を持つのですが、この点いかがでしょうか。
○今田説明員 御指摘のように、病床のあり方についてはこれまでさまざまな議論もございまして、例えば医療法の見直し議論の中で、急性期と慢性期をどう考えていくか、その中で精神医療というものをもう一度とらまえ直したときにどうあるべきかという意味において御意見も賜りましたし、今御指摘のように、それを単に期間だけで把握することが的確な対応になり得るのかどうか、こういった御意見もございました。
 片や、一般医療におきましては、療養型病床群という制度もございます。あるいは老人保健施設もあります。いろいろな施設体系がそれぞれの制度の中で構築されている中で、精神医療が結局は精神病院という一くくりの中で位置づけられているという点について、これは何らかの形で見直さなければならないという視点に立った形でこういった御意見を伺ってまいったつもりでございます。
 ただ、今言った幾つかの御指摘される問題点も含めて、今長期入院のあり方も含めた施設のあり方について、医療法の議論を念頭に置きながら公衆衛生審議会の方で鋭意御議論をいただいて、最もふさわしい施設類型というものについての結論をいただければというふうに思っております。
○児玉委員 時間ですから、最後に大臣にお伺いしたいのです。
 宮下厚生大臣は、この法案の提案理由の中で、「より適正な精神医療の確保を図るための所要の措置を講ずる」、こういうふうにお述べになりました。まさに今それが必要だと思うのですね。これまでの日本のどっちかというと隔離を主体とした精神医療から、適切な、時には集中的、濃厚な治療もやって全体として社会復帰を図っていく、その方向での日本の精神医療の言ってみれば大きな改善を図るべき時期に来ていると思うのです。この点について大臣の考えを聞いて、終わりにしたいと思います。
○宮下国務大臣 いろいろ貴重な意見を承りました。特に、適正な精神医療の確保ということが今回の法律改正の主眼でもございますから、御意見をよく留意いたしまして、今後運用を期してまいりたいと思います。
○児玉委員 終わります。
○鈴木(俊)委員長代理 中川智子君。
○中川(智)委員 社会民主党市民連合中川智子です。
 まず、私、二年ほど、こころの電話というボランティアをしておりました。地域の中で心にいろいろ悩みを持っている人たちが、気楽にというか、病院に行く前に本当にすがるような気持ちで電話をしてくるこころの電話のボランティアをしておりましたときに、本当に心を病んでいる人たちがいる、しかし、社会の偏見の中でなかなか病院の戸をたたくことができない、そのつなぎとめがほとんどボランティアによってなされているという実態があります。
 そこの経験などを踏まえましてきょう質問をしたいと思うのですけれども、今回の法改正、十年間でたびたびの見直しということがありまして、三度目の法改正になるわけですけれども、いわゆる根っこの部分、社会の偏見、またマスコミなども、事件を起こしたときにそのような精神疾患の病歴があるということを書かれること、それによって社会不安を生み出し、なかなか偏見が取り除かれない。ですから、基本的にこの日本の政策というのは、社会防衛に立ってきた、人権よりも社会を防衛するという形で進んできたことが大きな不幸を生み出してきたというふうに思っております。
 そして、最近でも精神病院のスキャンダルというのは後を絶ちません。また、このように新聞に載るのは本当に氷山の一角ではないか、もっともっと実態は悲惨な状況がなおありつつ、新聞報道されるのは氷山の一角ではないかと思っております。
 そこで、なぜこんなに精神病院のスキャンダル、事件というのがたびたび起こるのだろうか、この原因は一体どこにあるとお考えかということを、最初に大臣にお伺いしたいと思います。
○宮下国務大臣 委員の御指摘のように、二十五年に法律がつくられて以来、たび重なる改正が行われておりますが、初期には確かに社会防衛的な色彩が強かったと思います。しかし、特に六十二年の改正を契機といたしまして、人権への配慮その他が強くにじみ出て、そういった視点の対策がとられるようになってきたように私は承知しております。
 ただ、今いろいろの事件、人権侵害の事件とか精神病院をめぐる事件等が報道されているという実態が存在しておるわけでありますが、これは、人権侵害を防ぐための法制度の不備もあるのではないかということもございます。そのさらに基本には、身体障害者あるいは精神障害者、そういった障害者に対する人間としての尊厳性、価値観を認める社会全体の風潮が乏しいのではないかと私は思っておるのですが、こうしたことは直していかなければなりません。
 しかし、直接的に法改正と関連いたしまして、病院が改善命令に従わない、さっきの大阪の病院の例もございましたし、また、精神保健指定医が必ずしも十分な機能を果たしていないという御指摘もございました。そしてまた、精神医療審査会も、これらの弱い者の人権を擁護する立場の機能が十分果たされていないというような問題もございました。
 そういった視点を踏まえまして、改正の一々については申しませんが、審査会の権限強化を図るとか、精神保健指定医の役割を強化させていくとか、保護入院制度の要件を明確にするとか、改善命令に従わない場合の実効性については先ほどいろいろ疑問が提示されましたが、精神医療に対しての指揮監督を強化していくとか、万般の法律的な改正は今回そういう点に視点を置いて改正をいたすようにしておりますので、この点を踏まえまして、あとはこの改正によって実効性をいかに確保するかということではないかと思いますから、この改正の精神に基づいて、単なる法文上の修文ではなくして、実効性の上がるような指導監督なりをしていきたい、このように思っております。
○中川(智)委員 それでは次に、私も今入院して、抜け出てきて質問しているわけですけれども、たった二週間の入院です。そして、入院中にいろいろな方とお友達になる機会がありましたけれども、一カ月も入院していればやはり社会に出ていくのが怖くなる。本当に一カ月でも社会に復帰していくというのが怖い。
 なのに、五年も十年も、そうしたら病院の外の生活というのは怖い場所でしかない。長期入院というのは、精神的にも、生きる力、そして自分が出た後、社会の中でどれだけの受け入れがあるのかということで、本当に怖くなる。長期入院がそのように社会に出ていく本人の、そして家族の思いさえなくしていく、力さえそいでいくということがあると思います。ですから、やはり社会復帰の施策というのは物すごくきめ細かく、ありとあらゆる手段を使ってやっていくべきだと思っております。
 私は、きょうは小規模作業所について一点質問したいと思うのです。私自身が議員になる前にやっていました仕事を、ちょっとした食品の袋詰めを小規模作業所にお願いしていました。そうしたら、小規模作業所では、割りばし一本を袋に入れるのに何銭という、一円ではないのです、本当に五十銭ぐらいの仕事。一生懸命一カ月間小規模作業所で仕事をしても、今までは五千円とか六千円のお給料を月の末にもらって、ああ、これでももらえてよかった、そんなふうなことでした。とても悲惨な状況でした。私の仕事をお願いしてから、お母さんが泣きながら、私の家に来て、中川さん、初めて一万円札が入っていたわ、一生懸命働いてやっと一万円札が入っていた。
 そのときに、私は作業所に仕事で行くたびに職員の方のお話とかいろいろ聞きました。実際、国で小規模作業所補助金というのは年間百十万円です。百十万円というのは一人の職員さえ雇えない。地方自治体で手当てをしているところもありますけれども、百十万円ではたった一人の職員さえ雇えません、国のお金だけでは。ですから、皆さん必死で、バザーをやったり、五銭でも十銭でもいいからいろいろな仕事をとってきて、そして一生懸命働いてそれを施設の運営に当てている。
 私は、百十万の小規模作業所補助金で地域の中で社会復帰を目指していくというのは、これは全く矛盾した話だと思います。大臣、年間百十万の補助金というのはどのようにお考えでしょうか。
○宮下国務大臣 ただいまの法制整備によりますと、社会福祉法人として認可された、あるいは二十人以上とかいろいろ外形標準を設けまして助成をやっておるわけでございまして、小規模作業所はその要件に該当しない、しかしながら、必要性に応じて百十万円という定額と地方財政措置を講じておるわけでございます。
 しかし、今委員の御指摘のように、考えてみると、きめ細かなこういう障害者の対応というのは極めて重要であると存じます。したがって、今回私どもは、きめ細かな障害者対策を行うためにはもう少し基準を下げてもいいのではないか、社会福祉法人の基準も見直そうと考えております。そしてまた、二十人というような基準もずっと下げて、地域の実情に細かく対応できるようなものにしていきたい。
 そういたしますと、百十万円の今の定額補助から、事情がそれぞれ異なるとはいえ、年間二千万円程度補助できるとか、いろいろそういったことになる可能性がありますので、そういったことを頭に置きながら、小規模作業所の位置づけとその改善。それから、私も私の選挙区でそういう事情を承知しております。そういう人たちが善意に満ちてやっているボランティアだけに頼っているような施設でございますから、ぜひともこの位置づけを明確にして助成も図っていきたい、このように考えております。
○中川(智)委員 先立つものがなければということと同時に、雇用の場が本当にありません。就職先が今は健常な人もない、このような景気不安の中で、特に精神障害の方たち、社会復帰しようとしても雇用の場がない、働く場がない中で、小規模作業所というのは、みんなの一つの大きな力になり、そこがまた生きがいになって、自分が必要とされている、その中でいろいろな人たちと交わって初めて社会復帰というのができていく、その原点だと思いますので、ぜひともお願いしたいと思います。
 それと同時に、作業所とかをつくるときに、新聞報道なんかにも何回かありましたが、福祉摩擦というふうにマスコミでは書かれていますけれども、作業所なりグループホームなりをつくるときに、地域の方たちの反対、そこの地価が下がるとかそういう偏見がまだまだあるわけなんです。ですから施設がつくれない。そんなときにはその当事者と地域住民が敵対してしまうという状況になっております。このときに厚生省なりが、行政が、その中で理解を求めて施設がつくれるような働き方、手助けというのはできないものでしょうか。今やっているかやっていないか、今後していくおつもりがあるかどうか、それを最後にお伺いして、終わりたいと思います。
○今田説明員 先ほども偏見に対する対応ということで御質問がございましたが、やはり偏見というものが、単純に理屈だけで解決するということにうまくつながらない場合が多いというふうに思います。
 私ども、先ほど申し上げましたように、結局は、うまくいっているケース、そういったものを御紹介して、そこでどういういい仕組みができ上がっているかということを、現地の困っていらっしゃる方々あるいは地元の保健所あるいは精神保健福祉センターにそういう情報を集めていただく、あるいは我々が知り得ればそれを流してさしあげるということで、現実を見ていただくことも一つの重要な役割ではないかというふうに思っております。
 したがって、そういう意味での情報をバックアップしていくということについては、厚生省としても今後努力していかなければならない、このように考えております。
○中川(智)委員 時間になりました。大臣、社会復帰というのはきめ細かな施策が大事ですので、ぜひともよろしくお願いいたします。ありがとうございました。
○鈴木(俊)委員長代理 午後一時から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。
【略】
○木村委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。
 本日の午後は、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律等の一部を改正する法律案の審査のため、参考人として日本医師会常任理事西島英利君、北海道立緑ヶ丘病院長伊藤哲寛君、東京精神医療人権センターコーディネーター小林信子さん、全国精神障害者社会復帰施設協会専務理事・事務局長新保祐元君、全国精神障害者家族会連合会常務理事・事務局長荒井元傳君、以上五名の方々の御出席を願っております。
 参考人の方々には、御多用中にもかかわらず御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。本案につきまして、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただき、審査の参考にいたしたいと存じます。
 次に、議事の順序について申し上げます。
 最初に、参考人の皆様方から御意見をそれぞれ十二分以内でお述べいただき、その後、委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。
 なお、発言する際は委員長の許可を受けることになっております。また、参考人は委員に対して質疑することはできないことになっておりますので、あらかじめ御承知おき願いたいと存じます。
 それでは、まず、西島参考人にお願い申し上げます。
○西島参考人 本日は、意見を述べさせていただく時間をお与えいただきまして、ありがとうございました。
 私は、先ほど御紹介いただきましたように、日本医師会の常任理事でございまして、実際には精神保健指定医でもございます。精神科の病院も経営をいたしております。そういう観点から、臨床の専門医としての立場から意見を述べさせていただきたいというふうに思っております。
 レジュメに従いましてお話を進めさせていただきます。
 今回の一部改正案についてでございます。
 今回の法改正につきましては、精神障害者の人権の尊重を一歩推進するという形で、さらに、ここは非常に重要なところでございましたけれども、医師と患者さんの信頼関係を保たれるように考慮していただいたということが一点ございます。それから二点目が、ノーマライゼーションの理念のもとで、精神障害者社会復帰施設に精神障害者地域生活支援センターが追加されまして、患者さんたちや家族の方々が非常に相談をしやすくなったということでございます。こういうことで地域ケアの一層の推進体制がなされるようになったということで、全体的には私自身高く評価をさせていただいております。
 参議院の議事録を読みますと、五年後の見直しということが言われておりますけれども、今後の見直しに当たりまして御検討いただきたいことを幾つか述べさせていただきたいと思います。
 まず一点目でございますが、精神障害者の定義についてでございます。これは、資料一と二に従いましてお話をさせていただきたいと思います。
 現行法の第五条におきまして、精神障害者精神疾患を有する者と定義されておりまして、その例示として精神分裂症、中毒性精神病、知的障害、精神病質が挙げられております。今回、中毒性精神病が精神作用物質による急性中毒またはその依存症に改められましたことは非常に評価できるわけでございますが、この件は覚せい剤の問題だろうというふうに思います。
 こういう例示を見ますと、社会的にも家族的にも問題とされる患者さんたちをこの精神障害というふうに見て、精神科病院に入院をという形ではないかというふうに私は考えるわけでございます。しかし、現実的に、精神科病院を運営いたしておりますと、最近はこのストレス社会の中でうつ病の患者さんが非常にふえてきております。
 そういう形の中で、資料一の図でございますけれども、気分障害躁うつ病を含むというのが実に外来で二一・三%もいらっしゃいます。それから入院に関しましても、六・七%の患者さんが躁うつ病として入院されております。さらに、ストレス関連障害等々を加えていきますと、外来では実に四五・六%、入院に関しましても九%近い患者さんたちが精神科に入院されている、こういう現状がございます。
 資料二を読んでいただきますと、これは平成十年度の警察白書からとってきた資料でございますが、実に自殺の患者さんが二万四千三百九十一人、一年間にこれだけの自殺の方がいらっしゃるということでございます。この表の下の方を見ますとさまざまな原因が書いてございますが、私ども専門家から見ていきますと、これはかなりの部分がうつ病の患者さんであろうというふうに考えております。もしうつ病の患者さんであれば、きちんとした治療をすればうつ病はよくなるわけでございまして、自殺まで至らないということも十分に言えるかというふうに思います。
 最近、さまざまな問題の中で自殺がよく社会問題化されておりますけれども、やはりこういう問題も含め、しかも、最近非常にふえてまいりました高齢社会の中での老年痴呆の問題、これも非常に増加をしております。入院の患者さんというのは非常にふえておりまして、私どもの病院でも重度痴呆の病棟を持っておりますけれども、かなりの患者さんが入ってこられます。しかも、この患者さんたちを面会にお孫さんたちまでおいでになるということでございまして、精神科病院に対する見方というのがかなり大きく変化をしてきているということでございます。
 そういう意味で、この時代の変化に対応すべく、例示の方法についてぜひ見直しをしていただきたいと思います。この見直しをしていただくことによって、私は、なかなか進まない偏見という問題がかなり速いスピードで変わってくるのではないかというふうに思うわけでございます。
 二番目に、長期入院の問題でございます。
 これは資料三、四、五を見ていただければと思いますが、必ずしも長期入院の患者さんたちが社会的入院とは限らないと私どもは思っております。資料三によりますと、一年間に実に二十八万人の方が新しい入院として入院をされております。
 そして、最近のこういう患者さんたちは、残留率といいまして、どのくらいの期間入院されるだろうかということでございますが、この残留率を見ますと、入院後一カ月で七六%、ですから、二四%の患者さんが退院をされているということでございます。三カ月で四七%、六カ月で三〇・二%、一年で一九・八%、一年六カ月で一五・六%というふうに、かなりの患者さんが早期に退院をされているという現状がございます。ぜひこれも御理解をいただきまして、長期入院されている患者さんたちは中等度以上の患者さんが非常に多いんだということも御理解をしていただきたいというふうに思います。
 三番目に、任意入院における閉鎖処遇の問題でございます。
 基本的には、開放的な処遇がなされるよう私どもは積極的に努力をすべきであるというふうには考えております。しかし、入院を必要とするほどの患者さんたちは、病状が不安定だったり、また一部重度の患者さんたちが入院されていることにより、建築構造上、開放的な処遇はしておりますけれども、閉鎖病棟に入院をということをとらざるを得ない場合もございます。今後、開放処遇を推進するためにも病床の機能分化というものが必要だと考えておりますし、また、少病床でも運営できるように、つまり十床、二十床の病棟でも運営できるように、財政面も含めた環境整備の支援策を御検討いただきたいと考えます。
 四番目が、重大な犯罪を繰り返す精神障害者についてでございます。
 非常に悲惨な事件がたくさん起きておりますが、これらの精神障害者の方々は数としてはまれだというふうに私は思っておりますけれども、しかし、こういう患者さんたちを民間病院で診るということは非常に対応困難でございます。ぜひ公的病院の責任であることを明確にしていただきまして、患者さんのQOLの面からも、そのための施設設備、職員配置を早急に御検討いただきたいというふうに思います。
 資料六を見ていただきますと、平成五年から九年に措置入院をされた方が二千三百六名いらっしゃいます。殺人が五百四十五名いらっしゃるわけでございますが、こういう患者さんたちをどこで治療しているかといいますと、資料七に公的病院と民間病院の措置入院患者の比率が書いてございますが、実に公立病院はこれだけの患者さんしか診ていないということでございます。平成九年度に至りましては、百五十六病院の中で三百三十八名の措置入院しか診ていない、つまり一病院二名でございます。しかし、民間の指定病院では、千百二十二の病院数の中で措置患者数が三千九百五十四名、つまり一病院が四名近く患者さんを診ているという現状がございます。
 しかし、指定病院というのは、本来は公的病院が足りない部分を補うというのが目的だろうというふうに私どもは思っておりまして、ぜひ公的病院がしっかりとした責任を持ってこういう患者さんたちを診ていただくよう、そういう義務を明確にしていただきたいと思うわけでございます。
 さらに、警察庁法務省、厚生省を含めまして、ぜひ幅広い視点から御検討をいただきたいというふうに思います。厚生省に聞きますと、警察庁法務省はなかなかお話し合いに乗ってくれないというようなこともちらっと聞いておりますので、ぜひそのあたりもよろしくお願いをしたいと思います。
 次が、公的病院と民間病院の機能分化の明確化でございます。
 先ほどと同じようなことでございますが、重大な犯罪を繰り返すには至らなくても、民間病院では対応が非常に困難な粗暴な行動が顕著な患者さんを受け入れております。しかし、民間病院にはマンパワー等も限られておりますし、こういう患者さんたちをきちんと受け入れていただくよう、公的病院の後方支援体制の整備をぜひお願いしたいというふうに思います。
 次が、社会復帰対策の推進でございます。
 当然、これから先は地域ケアが中心になるだろうと私どもは考えております。そういう意味で、それぞれの病院も、地域ケアを進めていくためにグループホームをつくったり、さまざまな社会復帰施設をつくっているわけでございますが、なかなか運営も厳しいようでございます。法を見ますと、社会復帰施設をつくることができるというふうになっております。ぜひこれを義務規定というふうにしていただきまして、都道府県、市町村はつくらなければならないというふうに五年後の見直しでしていただきますと、社会復帰対策がかなりのスピードで進むようになるのではないかなというふうに思います。障害者基本法の中で、たしか平成七年だったと思いますが、精神障害者をようやく含めていただきまして、今その対策が進んでいるところだろうというふうに思っております。
 次が、精神障害者に対する偏見についてでございます。
 法三条で国民の義務として精神障害者等に対する理解を深めることが昭和六十二年の改正で加えられましたけれども、精神障害者の方々がトラブルを起こしますと、必ず精神病院入院歴があるとか、通院歴があるということがマスコミにより報道をされます。そうしますと、確実に外泊ができなくなります。家族の方が周囲の近所のことをお考えになり、ちょっと外泊はしばらくやめてくれというようなこともよくございます。ぜひこういう偏見を増長すると思われるような報道のあり方も、これは言論の自由等もございますけれども、何らかの形で解決をしていただくようにお考えいただけないだろうかと私どもは思うわけでございます。
 最後でございますが、精神医療の適正なる診療報酬体系の確立についてでございます。
 よりよい精神医療を提供するためには、当然のことでございますけれども、適正なる診療報酬体系の確立が不可欠でございます。
 しかし、資料八を見ていただきますと、ちょうど網かけをいたしておりますけれども、公立病院と医療法人、ですから民間病院との比較をしております。これは平成九年九月の中央社会保険医療協議会の医療経済実態調査の資料でございますので、公的な資料でございます。給与を見ていきますと、一番右側でございますが、常勤一人当たり、実に公立は七十三万三千円、民間は四十四万二千九百円という形で、大きな格差がございます。三番目の医業収支差額を見ていただきますと、これは九月でございますからボーナスは入っておりませんけれども、公立は実に四千九百四十四万の赤字でございます。民間は赤字にしたら倒産いたしますので黒字にしなければいけません、三百十八万の黒字が出ているということでございます。これだけの公民の格差があるということでございます。
 さらに、「国家公務員に係る俸給月額の調整について」というところがございますが、これによりますと、一件、危険手当と言われるような調整給がついております。三十五万五千円の俸給をもらっている新任の医師に関しましては、三万一千八百円の調整給がついているということでございます。また、民間にはこういうことがないというところで、やはりこういう格差も出てくるのかなというふうに思っております。
 いろいろ述べてまいりましたが、時間も参りました。きょうは、本当にこういう意見を述べさせていただく機会をお与えいただきましてありがとうございました。
 昭和五十九年に宇都宮病院の事件が起きまして、精神衛生法から精神保健法に変わったわけでございますが、そのときにさまざまな問題が分析をされております。しかし、その負の部分がほとんど解決をされないまま現行に至ってきたことが今回の大きな不祥事を招いたことにもなっているのではないかというふうに思っております。これを正すのは私は先生方の力しかないというふうに考えておりますので、どうぞ今後ともよろしく御検討いただきまして、患者さんたちが明るく療養生活を送られるようにしていただければというふうに思っております。
 ありがとうございました。(拍手)
○木村委員長 どうもありがとうございました。
 次に、伊藤参考人にお願いいたします。
○伊藤参考人 お招きいただきありがとうございます。
 私は、北海道立緑ヶ丘病院の院長ということでありますが、同時に全国自治体病院協議会の精神病院特別部会の部会長をさせていただいております。また、昨年三月からは精神保健福祉法に関する専門委員会の委員として、ことしの二月からは公衆衛生審議会の委員として、この法改正についての論議に参加させていただいております。
 本日は、精神病院で精神障害者の治療を担当している立場から、主として医療に関連した事項についてだけ意見を述べさせていただきます。
 ほかの病気やほかの障害の対策に比較して、また国際的な基準に照らし合わせて、日本の精神障害者の医療、保健、福祉は貧しいと言われております。どのように貧しいかということは、ここで詳しく述べる時間がありませんので省略させていただきますが、お手元に配付した緑色の小冊子、「安心して利用できる精神科医療を実現するために」ということの中でさまざまな提言をさせていただいております。その中でも、特に精神保健福祉法の改正、そして医療法の改正というのが大切であると認識しております。
 今回の法改正案は幾つかの課題を残しておりますが、日本における精神障害者処遇の歴史的、文化的背景を考慮しますと、あるべき姿に一歩近づいたものとして評価してよいのではないかと考えております。
 次に、少し具体的な要項について私の意見を述べさせていただきます。
 まず、人権を尊重した医療の確保についてです。
 改正案では、精神医療審査会の機能強化と独立性の確保、強制入院の一つであります医療保護入院の対象要件を新たに規定すること、精神保健指定医の責務を明確にすること、自分の意思で入院した任意入院の患者さんは原則として開放的な処遇を受けるべきであること、精神病院への指導監督義務などが改正点として挙げられ、精神科に入院する患者さんの立場を考えますと、当然の改正だろうというふうに考えております。
 この改正案に対して、厳し過ぎる、規制緩和の時代に精神科医裁量権を狭める方向は望ましくないという意見もありますが、本人の同意なしで行う非自発的入院では、多くの場合病院の選択権の行使ができませんので、どこの病院に入院しても安心して医療が受けられるように、このような担保は必要なものと考えます。
 また、このような規制とは別に、情報公開によって精神病院の透明性を高めることが、当事者の病院選択権を広げ、同時に精神病院に対する誤解を解消するために重要なことと思います。情報公開については公衆衛生審議会の答申でも触れられたところであります。
 次に、今回の法改正で初めて提案されている、受診を拒否する患者さんの移送制度についてであります。
 本人の同意がなくても受診させなければ病気が重くなる、そういう患者さんに対して何らかの手だてがなければならないわけですが、これまで法的な規定がありませんので、家族が病院に連れていきたくてもなかなか連れていけなかった、いかれなかった。あるいは逆に、本来ならきちっと診断、面接などをして指定医が判断した上で精神病院に移送すべき者を、この規定がないばかりに、安易に精神病院に収容するということもありました。この二つの課題がある中で、今回、移送制度が創設されるということは一歩前進になるだろうと期待しております。
 しかし、移送すべき患者さんの状態の判定、それから、移送途中で行動制限をどの程度できるのか、あるいは注射など医学的処置をどの程度できるようにするのか、それから、運ばれた病院の医療の質をどういうふうに担保するのか、これらの点を十分検討しなければ、この制度が患者さんにとって信頼される制度として生かされない可能性もあります。
 この制度を有効に生かすためには、精神病院あるいは精神科の医療機関が日常的に地域医療活動を行っていること、また、保健所や市町村の地域精神保健福祉活動が活発であること、それから、当事者自身で活動する自助活動が盛んであること、それから、ボランティアが地域の患者さんを支えるために活動していること、このように地域の中での精神医療保健福祉対策が十分なされて、その上でこういう移送制度が生きてくるということになると思います。そうでなければ、ただ、困った患者さんがいた、はい、入院という、安易にこの移送制度が使われる可能性もなきにしもあらずです。
 次に、今改正の中で大きなポイントとなっております保護者の義務の軽減についてです。
 これについては、私どももやはり保護者の義務は次第に軽減していくべきだと考えます。今回は自傷他害防止監督義務だけが外されましたけれども、家族の方あるいは兄弟の方が安心して身内の方を見守り、支援してあげるためには、法的な規制はできるだけない方がよろしい。自然な感情でもって助けていく、応援してあげるということが本当だろうと思います。将来は、治療を受けさせる義務、医師の指示に従う義務という過重な家族の義務は外すべきではないかと考えております。
 次に、精神障害者の福祉の充実です。
 今回、社会復帰施設は都道府県の業務として残りましたけれども、精神障害者地域生活援助事業とか居宅介護支援事業とか短期入所事業などの福祉サービスについては市町村で行うこととされました。精神障害者を身近な地域の人々が支える、そういうようなシステムをつくるということは非常に重要なことだと思います。地域の人々と精神障害者の間の交流がそのことによってふえ、精神障害者差別を解消し、精神障害者の自立を促進することにも役立つのではないかと期待しております。
 次に医療の面について、この改正法案が通ったとしまして、そのときにどういう配慮が必要かということを、少し細かなことになりますが、お話しさせていただきたいと思います。
 一つは人権に関してですが、政省令への委任事項の中には細かな規定をこれからしなければならないところがあります。
 例えば、任意入院の要件は、昭和六十三年の通知で、患者がみずからの入院について積極的に拒んでいない状態をいうものであることと解釈されております。しかし、痴呆患者さんなど自分の意思の表明が困難な患者さんについては、渋々という形で同意する可能性が強いわけですから、任意入院という形で多くの場合閉鎖病棟に入院させられる可能性が出てきます。これは、患者さんの権利擁護という観点から好ましいことではありません。
 任意入院する場合の本人の同意のあり方について厳密に規定し直し、同時に、任意入院の患者さんについては閉鎖処遇は原則として行わないという規定を設けるべきだと考えております。やむを得ず任意入院の方を閉鎖病棟に入院させる場合には、精神医療審査会に届けるなど、人権が適切に守られるようにすべきだと考えております。
 次に、この法律が有効に生かされるためには、患者さんが最初に精神障害者として立ちあらわれてくる医療機関がどうあるべきかということが非常に重要な条件になってまいります。
 まず、医療法の改正ということについてですが、今、医療法の改正が盛んに論議されておりますが、残念ながら精神科の医療についてはこれまでの医療法の改正の中でも取り残されて、医療法ができてから一度も精神科の医療のあり方というのが論議されていない。論議はあったのでしょうが、法として改正が行われていなかったというのが現実であります。特に、これまでも法改正のたびに問題になったのは、医療法の特例の問題であります。
 精神科の患者さんのための救急医療、急性期医療、あるいは非自発的入院患者さんの医療、これは医療保護入院措置入院ですが、あるいは子供の精神科の医療、薬物依存の医療、あるいは合併症の医療など、非常に高度なあるいは手のかかる医療があります。これらについては、ぜひ一般病床並みの人員配置をしていただきたいというふうに考えます。患者さんの人権を確保し適正な医療を提供するためには、ぜひ必要なことと考えます。
 もう一つは、医療計画の問題であります。地域医療計画というのは二次医療圏ごとに立てられるはずになっておりますけれども、精神科医療については都道府県ごとになっております。やはり地域に適切な病床配置がされて初めてさまざまなサービスが有効にいくんだろうと考えております。
 次に、重要なことですが、総合病院の精神科が日本では少ないということであります。外国では単科の精神病院を少しずつ縮小して、総合病院で精神科の患者さんを診るようになってきております。それは、かかりやすいということ、合併症が生じても適切な治療が受けられるということであります。私は単科の精神病院の院長でありますが、できたら総合病院の方に少しずつ力点を移していただきたいという願いを持っております。
 それから、国公立病院の役割ですが、国立病院あるいは私どもの公立病院は、民間病院が担うことのできない難しい患者さんあるいは児童、あるいは薬物依存の患者さん、あるいは先ほど言いましたような身体的な合併症を持っている患者さんの医療、このような役割を今後ますます担うべきだと思っております。そのための国公立病院の機能の充実が患者さんの適正な医療を守るための一つの条件だろうというふうに考えておりますので、よろしくお願いいたします。
 最後になりますけれども、最初に述べましたように、この法改正は一歩進んだものというふうに評価いたします。
 しかし、私どもが長年お願いしてきたことの一つがまだ入っておりません。それは、法文の中に「すべての精神障害者は、個人の尊厳が重んじられ、障害をもって差別されることなく、その尊厳にふさわしい治療と保護を受ける権利を有する」、こういう条文を入れていただきたいということをお願いしてありました。しかし、今回は入りませんでした。いつか、今までの精神障害者施策が誤っていたということを謙虚に認めた上で、この法律を抜本的に見直す時期が来ていただきたい、そういうふうに願って、私の意見とさせていただきます。(拍手)
○木村委員長 どうもありがとうございました。
 次に、小林参考人にお願いいたします。
○小林参考人 初めまして、私は、御紹介にありましたように、東京精神医療人権センターの小林信子と申します。コーディネーターという役割を担っております。
 本日は、患者の権利擁護者として、そして私たちに寄せられた相談の中から患者さんの声を皆様にお伝えする機会をいただきまして、大変感謝しております。ありがとうございました。
 私たち東京精神医療人権センターは、一九八六年に、さきの西島先生がおっしゃった宇都宮病院の事件をきっかけとして、患者さんを守っていく、患者さんの権利を擁護する団体として発足いたしました。患者の権利擁護団体ですから、今のところは入院中の患者さんを中心に、こういうようなパンフレットを無料で配布しております。この中には、精神医療審査会の利用の仕方とかそういうことが書いてあります。
 私たちの活動は、一九八八年から施行されました精神保健法に大いに恩恵を受けています。
 というのは、精神衛生法の時代は、たとえ弁護士さんでも面会ができなかったというような、すごく閉鎖された空間が精神病院でした。ところが、八八年の精神保健法になってから、一応通信、面会の自由が保障されましたので、我々も患者さんへの訪問活動、面会活動ができるようになり、それが私たちの活動を広げていってくれたと思っています。そのことにより、法律が変わることの重要さというものを一番よく痛感している団体の一人だと私は思っております。
 しかしながら、精神保健法になってから二度、三度の改正がありました。しかし、精神病院に関するスキャンダルは後を絶ちません。これはどうしてなのかと私たちはいつも考えております。やはり原因があるわけです。
 それで、精神保健法の改革というのは、今までの保健法から随分変わったものだと評価はいたしますけれども、そこのところに人権擁護ということで精神医療審査会というものが創設されました。当時は何もなかった状態ですから、精神医療審査会の存在自身はもろ手を挙げて賛成したわけです。
 ところが、我々がその後十年、十一年と実践を重ねる上において、やはりこれではだめなんじゃないかというような思いをしてまいりました。これは参議院の中でも論議されていたと思いますけれども、申し立て件数がどんどん低下しているわけです。例えば平成八年で、入院患者がその当時は多分三十五万人ぐらいいたと思いますけれども、退院請求なんかは八百六十二件、処遇改善請求に至っては四十八件という、本当にごくごくわずかな、針の穴を通すようなものとしてしか機能されていないわけです。
 なぜこの精神医療審査会が機能していないのかということは、いろいろな原因がたくさんあると思います。皆さんによく知られているのは、精神医療審査会というものがあるということすら知らない患者さんが入院しているんじゃないか、入院のときの告知が不十分で、そういう権利のことが患者さんに十分わかっていないのじゃないかということが言われております。それはそのとおりです。それをだれも否定はいたしません。
 今回の法改正におきましても、精神医療審査会の委員の制限、今までは十五人という上限がどういうわけか決められていたわけですから、東京都のような多数の人口を抱える県も人口の少ない県も上限が決められているという不思議な法文だったわけですけれども、それが廃止されました。それから、審査会に少し権限を持たせて、報告書の提出とか出頭命令の追加とかいうものが加わったことは大変プラスに評価してもいいことだと思います。
 しかしながら、それはあくまでも審査を申請した人、審査会に届いた人が利用できる機能でありまして、実際には、例えば権利を知っている人、審査会があるのだといっても、そこに審査を申し立てられない雰囲気が実は精神病院にあるんだということが、私たちの活動からも多くの患者さんからも寄せられているわけです。
 それはなぜかというと、お医者さんが思うほど精神科においては医者と患者は信頼関係にはありません。精神病の患者さんたちというのは人質だと思っています。もし自分が退院請求をするというようなことは、病院に対して盾を突くことです。盾を突いたらいじめられるのではないか、スタッフに虐待されるのじゃないか、薬がふやされるのじゃないか、保護室に入れられるのじゃないか、果ては電気ショックをやられるのじゃないかと、本当に考えている人が多いのです。ですから、権利があってもそれを行使できない環境をどうにか変える方策をしなければ、精神医療審査会への申し立て件数が決してふえるわけはないのです。
 じゃ、どのように安全に申し立てをしていくのかといえば、いわゆる精神病院の外部から第三者を常駐させるなり定期的に訪問させて、大丈夫なんですよ、あなたが申し立てをしてください、そういうふうに申し立てをしても決してあなたに不利な状況をつくらないようにしますからというような、安全な環境をつくるような制度を創設しなければ、精神医療審査会自体は絵にかいたもちになったままだと思います。
 そして、その第三者機関というのが何なのかといいますと、権利擁護者とか、私たちはペーシェントアドボケートと英語を使ってしまっているのですけれども、オンブズマンという形で導入されているわけです。その待っている審査会に比べて、これらのことは外国ではたくさん実践されておりますので、後で述べる機会を与えていただきたいと思います。
 そして、患者さんの権利を守るには、先ほどもほかの先生からも出ました情報公開と、それからもう一つ監視機関の創設をぜひお願いしたいと思います。監視機関といっても、厚生省が提案しているような、お医者さん一人が出かけていくということではなくて、やはり国際的な基準を意識した、国際的な基準をクリアするようなものを創設していただきたいと思います。
 ICJが、新法になってから、八八年の法律になってから、八八年と九二年と二回調査に参りました。そこではたくさんの提言が出ております。それから、九一年には国連原則も出ております。いろいろな国際的な基準があるわけですけれども、それと整合性を持った抜本的な精神保健法の改革をぜひしていただきたい。人権小国・後進国と言われている日本ですけれども、その汚名を晴らすためにも、ぜひ国際的な基準をクリアした、名前だけではない、実効性のある患者の権利擁護のシステムを創設していただきたいと思います。それを先生方にこの場をかりてお願いしたいと思います。
 長くなりましたが、どうもありがとうございました。(拍手)
○木村委員長 どうもありがとうございました。
 次に、新保参考人にお願いいたします。
○新保参考人 精神保健福祉法一部改正の審議に際しまして、意見を述べさせていただく機会を与えていただき、感謝しております。
 私は、全国精神障害者社会復帰施設協会の専務理事兼事務局長の職をお預かりしている立場から、公衆衛生審議会精神保健福祉部会に設置されました精神保健福祉法改正に関する専門委員として本日の議題にかかわらせていただきました。
 既に御承知のことと存じますが、精神障害者問題を考えるとき、我が国における精神障害者の置かれた状況は、精神医療黎明期、すなわち明治初頭でございますが、呉秀三先生が、精神病になりたる不幸とともにこの国日本に生まれたる不幸をあわせ持つと言われた言葉を忘れることは片時もございません。こうした状況の改善を図るために、精神障害者施策にかかわる法制度の改正や見直しが行われることに関しまして、うれしく思っているところでございます。
 その理由は、法が有する要素といたしまして、法の持つ物理的強制力が挙げられます。法は、究極におきまして、社会秩序を維持し発展させるものでなければならないということは私が申し上げるまでもないことでございます。したがいまして、法が何を理念とするとき、安定した社会となるのかということを考え続ける必要があります。
 このことを精神障害者の立場で考えたときに、精神障害者が市民ないし他障害者との間で法に負の格差を持つ者であるとすれば、そうした法は人と人との間に差別を認める法律だということになります。この見方で現行法を見てまいりますと、精神障害者にかかわる法は、残念ながら市民と他障害者にかかわる法と対比して負の格差がございます。
 このことは、まさに、市民と対比いたしまして精神障害者には欠格条項等があるなどといったことを自然に周知せしめる強制力になっておりますし、結果としてこういった事柄が偏見や差別を生じさせていると言えます。それは、ノーマライゼーション理念を達成することが困難になることはもちろんのことですが、我が国の法制度が精神障害者を含めた社会秩序の維持を行う法になり得ていないと言えるのではないかと思います。
 言いかえれば、物理的強制力を持つ法が、精神障害者の人権や生活権を強固に示すものであるとすれば、精神障害者に対する偏見の解消や生活権の獲得に向けて市民社会も協力的に動き出すということは明らかだと思います。
 法が誤解や偏見を助長してきた一例を挙げますと、精神衛生法時代の精神病院が担ってきた法制度上の役割といたしまして、医療と保護が結果として精神障害者を社会から隔離し、社会的入院の固定化によって市民に対し精神病は治らない危険な病気といった観念を助長し、誤解や偏見あるいは差別を拡大深化させ、市民の理解を得ることが困難な対象者とさせてしまっていることは明らかでございます。
 このような社会状況がいかに精神障害者の社会復帰を阻害しているかについては、諸先生方には御理解いただけるところだというふうに思います。
 したがいまして、今般提出されました改正法案の推進が、少しでも精神障害者の生活権や当たり前の医療受給権につながるであろうことを前段で強調させていただきたいというふうに思います。
 次に、具体的な事柄についてでございますが、精神障害者問題の根幹が人権問題に触れることは、多くの識者が指摘しているとおりです。
 こうした問題を解決する手だてといたしまして、一つは、医療機関による閉鎖、拘束性を是正し、なかなかなくならない宇都宮病院事件あるいは大和川病院のような患者さんに対する虐待による死亡等の不祥事を解決していくこと。
 二つ目には、現在、全国の精神病院に入院しております三十四万人余りの患者さんのうち、社会的入院と目されている七ないし十万人の生活権を保障するため、社会復帰促進にかかわる受け皿づくりを進めていくこと。
 三つ目には、在宅精神障害者が入院医療を必要とするときに、まさに速やかに医療を受給できる医療機関の受け入れ体制と機能を充実していくこと。
 四番目に、家族、すなわち保護者責任の軽減ないし解消。
 そして五番目に、他障害者と同様の福祉サービスを受けられるようにするため、市町村を中心にした障害者施策推進窓口の一本化が挙げられます。
 今般提出されました改正法案は、これらの事柄を網羅した形で示されておりますことは、衆議院調査局の厚生調査室が作成いたしました本法案に関します参考資料六ないし十ページに「主な論点」として改正の趣旨が述べられているとおりでございます。
 わかりやすくこのことを申し上げますと、精神障害者も他の傷病を有する人たちと同様に、一人の地域住民が精神病ないし精神障害という傷病を有しながら地域で生活しているわけでございますから、住民が生活を営む中で傷病によって医療を受ける、治れば退院してきてもとの生活に戻るといった構図は、精神病を有する人であっても当たり前のはずだということです。精神障害者に対してもこうした状況を形成することで、市民や他の障害者との負の格差を減らしていってもらいたいと思っております。
 そのためには、医療が必要なときには当事者にとって必要な医療が提供されること、すなわち、救急医療の整備や医療機関の情報開示等を改善していくことが求められます。情報開示によって得られる適切な医療の受給は、施療機関の目安などによって社会的入院の形成を是正させるだけではなく、病状が安定したら退院しかつての生活の場に戻る、そういったことで、精神病は治らないといった誤解やその延長線上での偏見、差別等を解消できるものと思います。
 精神障害者の社会復帰促進を図るためには、その前提としてあるいは車の両輪のように、社会生活を維持する上での傷病に対する社会的基盤としての精神医療の改善、整備拡充が不可欠だと言えます。並行いたしまして、生活権を保障するということは、障害者の種別を超えて法制度が一本化されることが望まれます。
 加えて、地域社会が、どのような傷病を持とうとも、すべての人々との共生を可能にする社会にしていかなければなりません。共生といったかかわりの関係を構築していく上で市町村の役割は重要です。精神障害者福祉手帳の交付や通院医療費公費負担等の窓口を市町村に移行し、少しずつ市町村を中心とした精神障害者ケアシステムを実態化していってもらいたいと思います。このことによって、精神障害者の生活も当たり前のものにしていく必要があります。
 これまで申し上げてまいりましたことは、精神障害者社会復帰施設の整備の進捗に欠かせない事柄でございます。
 私は、全国精神障害者社会復帰施設協会の事務局長として、精神障害者施設が他の障害者施設並みに整備され、施設運営にかかわる貧しい補助金を他障害者施設並みにしてほしいと願っておりますが、それ以前に精神障害者も一人の人間であり、傷病を抱えながら生活を営む権利があることをみんなが理解し、そのことを可能にする状況をつくりたいということが第一の願いであります。
 このことを抜きにいたしまして、精神障害者の生活を支援することはできません。とはいえ、社会復帰施策の充実を抜きにして今日の精神障害者問題は解決し得ないとの思いは大変強いものがございます。それは、私が精神障害者の社会復帰問題にかかわり続けるきっかけに由来いたします。
 私が大学三年のときでございますが、ある精神病院に行って実習をさせていただいた折、多くの社会的入院と目される患者さんたちが、みずからの責任で犯罪を犯しても刑期があるからいつかは社会復帰できる、でも、私たちは病気という理由だけでその目安さえなく、多くが、がんばこ、すなわち棺おけ退院だとあきらめていると言うのです。すなわち、病気が改善しても死ぬまで病院にいるしかないというわけです。
 人間の営みは希望によって生存の価値が生まれるものと言えますが、精神障害者と言われる人たちには希望すら与えられていないという実態をかいま見たとき、この人たちのことを考えずに人はともに生きるなどと言えるのだろうかというふうに思えました。
 人は共生を図る上で、仲間のうちに最も弱い立場の人のことを忘れてしまったときに、あるいはその人たちを疎外したとき、決して差別の根はなくならないということを学んでいるときでもございましたので、私は、精神障害者の社会復帰問題から目をそらすことがそれ以降できなくなりました。
 今日なお、このような状況にある社会的入院の患者さんの存在は皆無ではございません。こうした思いからも、精神障害者の社会復帰施策の充実を図っていただきたいと強く要望するものであります。
 したがいまして、精神障害者地域生活支援事業を社会復帰施設体系に組み込み、在宅福祉事業を他障害と同列に位置づけようとしております本法案は、精神障害者の社会復帰促進のみならず、精神障害者の生活権保障に踏み出す一里塚と考えておりますことから、諸先生方には本法案に対する特段の御高配をお願いいたしまして、私の意見とさせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)
【次回へつづく】