精神医療に関する条文・審議(その95)

前回(id:kokekokko:20051109)のつづき。初回は2004/10/28。
ひきつづき、平成11年の精神保健福祉法改正についてみてみます。

第145回衆議院 厚生委員会会議録第10号(平成11年5月19日)
【前回のつづき】
○木村委員長 福島豊君。
○福島委員 参考人の皆様には、大変お忙しい中、本日は衆議院においでいただきまして本当にありがとうございます。先ほどから大変貴重な御意見をお伺いすることができまして、感謝を申し上げる次第でございます。
 公明党改革クラブを代表いたしまして、何点か御質問させていただきたいと思います。
 まず初めに、医師と患者の信頼関係という話で、先ほど小林参考人からは、実際に申し立てをする患者さんというのは非常に少ない、それは例えば申し立てをすることによって不利益なことが入院中に起こるのではないかという懸念があるとか、それからまた、実際にそういうことができるということも告知をされていないというようなことがあるのだという御説明がございました。
 そこで、西島参考人と伊藤参考人にお伺いしたいのですが、両先生のところは決してこういう状況ではないというふうに私は思います。ただ、一般論として、これは実際どういう状況なのか、先生方の御意見をまずお聞かせいただきたいと思います。西島先生の方から。
○西島参考人 医師と患者の信頼関係、精神医療というのはこの信頼関係がなければ成り立たないというふうに思います。導入の部分で、最初はなかなか信頼関係がつくれないわけでございますが、ある程度の期間の中で信頼関係ができ上がって、ようやく安定して患者さんたちが治療を受けることができるというふうに私は考えております。
 そこで、先ほどの告知等々の問題でございますが、これに関しましては、実地指導等でかなり厳しく民間病院は指導を受けているわけでございます。カルテを持っていって、そういう告知をしているかどうかはかなり厳しくされております。ですから、こういう指導がきちんと効果を発すれば、私は何も法そのものをもっと厳しくする必要性はないのではないかというふうに考えております。
 私どものところもいろいろと指摘を受けます。例えば、入院のときに告知を延期した、その告知を延期したということを何で書いていないのかというようなことも言われます。当然それは私どものミスでございますが、しかし、それほど厳しく実は指導を受けているという現状がございます。これをそれぞれの指導をされる方々がもう少し認識をされていけば、効果が上がるのではないかと私は思います。
 ただ、病院にもいろいろございますし、医師にもいろいろな医師がございます。すべてがすべてそのとおりいくかどうかというのは疑問がございます。しかし、法で規制すればそれが成り立つものでもないというふうに私自身は考えておるところでございます。
○伊藤参考人 病名の告知とかあるいは入院時のときの説明というのは、精神科の場合には非常に難しい時期はあります。しかし、原則としては、それを目指していくべきだと思います。
 そのために医師がそれに割く時間というのは、恐らくほかの診療科におけるよりも精神科においては、きちっと説明と同意とかあるいは入院してからの治療計画を説明するのは非常に時間のかかる行為だというふうに思います。
 しかし、診療報酬制度上、入院時の治療計画加算というのが何年か前にできましたが、残念ながら精神科では初めそれは不必要だということで診療報酬制度上認められませんでした。ところが、昨年だったと思いますけれども、ようやく治療計画加算というのが診療報酬制度上認められるようになりましたが、一方、他の診療科の場合はたしか三千五百円、ところが精神科に関しては二千五百円ということで、なぜ精神科の診療報酬が、しかも懇切丁寧にしなければならない入院時のときの説明への診療報酬が低いのか、私にはそれはいまだに納得できないところであります。
 そういうようなことで、やはりまだまだ精神科の患者さんと職員との信頼関係を築くための基盤づくりは少ないのではないかということがそういうことからも言えるのではないかと思います。
 それから、もし時間がありましたら後ほどお話ししたいと思いますが、病院の情報公開、病院の透明性を日常的にどのように築くかということも非常に重要なことだと思っております。そのことによって、患者さんと治療者側の信頼関係をより一層築くことができるのではないかというふうに思っております。
○福島委員 そこで、小林参考人にお尋ねをしたいのです。
 先ほどこの「東京精神病院事情 ありのまま」というのを大変興味深く拝見させていただきました。こういう形での外部評価というのはやはり必要だなというふうに私は思います。また、拝見しておりますと、経時的にどうも点数が改善しているところがほとんどだというふうに私は思うのです。こういう形で評価されるということが逆にその医療機関の側にとっては励みになるといいますか、もうちょっと努力しなければいかぬという話になると思うのですが、ずっとこのお仕事に携わってこられまして、そのあたりはどのようにお感じなのか、参考人にお聞きしたいと思います。
○小林参考人 「東京精神病院事情」をそのようにとらえていただきまして、大変ありがとうございます。
 これは私たちセンターそのものがやっているわけではなくて、我々の仲間が、特に医療従事者を中心としましてずっとやってきているわけで、これは第三版目となっております。ただ、こういう厚い冊子です。それは情報公開の一つですけれども、これを一般の方々が、大変な患者さんを抱えている家族の方が簡単に利用できるのかというと、ある面では大変専門的な興味がないとできない問題で、そのことに関しては苦労しております。
 ただ、やはり医療でも広告規制とかいろいろありまして、自分の病院のキャッチフレーズ、ここが売りなのだということを宣伝していただくのも、もちろんそれは結構です。と同時に、行政が行う定期監査とかそういうものの結果を簡単に見られるように、インターネットで流してもいいし、保健所に置いてもいいし、図書館に置いてもいい、もっともっと簡便な形で手にして病院を選べるように、悪い病院には行かないように、そして自分のニーズに合った地域と医療の質をもって病院を選べるようになれば、精神医療も精神病院も違ってくると思います。
 というのは、とにかくこれほど精神病院の多い先進国はないんです。多過ぎます。私は精神病院があればそれは人権侵害になると何度も繰り返しましたけれども、とにかく病床を減らすことを絶対に考えなければいけないわけです。行政的に大変難しければ、精神医療を利用する人が本当の意味で消費者となって病院をこういうように評価して、悪い病院に行かなくすれば、それはある程度の淘汰はできると思います。でも、それでは十分ではなく、やはり行政的な、政治的な解決が必要だと思っています。
 ともかく、患者さんの団体とかがもしこういうことをしたい――患者さんはたくさん情報を持っています。我々はこれをつくるときに患者さんからも情報をいただきました、全家連からも情報をいただきました。ですけれども、もっと何か手軽につくれる方法を。それから、これは余りケアの質がわかりません。数はいても、数が多ければよいケア、よい質の病院とは言えないことが精神医療にとって大変な問題なわけです。我々はそれをはかるメジャーを何とかして工夫しなければいけないとは思っているんですけれども、やはりこういうものは最低限必要だと思っております。
○福島委員 ぜひ今後も積極的に取り組んでいただきたいと私は思っております。
 今回の法改正の中では社会復帰の充実ということが一つのポイントになっているわけでございますが、ただ、医療の場から社会復帰をしていくのに、その連携というかネットワークというんですか、それが非常に大切だろうというふうに私は思っております。
 この点については、西島参考人精神障害者地域生活支援センターが追加されたということについて評価しておられるわけですが、実際に精神科医療に携わっておられて、社会復帰ということで医療と福祉の連携というのが現実として今どうなっているのか、どこが改められるべきなのか、問題点はどこなのかということについての御見解をお聞きしたいと思います。この点については新保参考人にもぜひ御意見をお聞かせいただきたいと思います。
○西島参考人 社会復帰のネットワーク等々でございますけれども、医療と福祉の連携が言われてもうかなりの歴史があるわけでございますが、ほとんど連携がなされていなかったというのも現実かというふうに思っております。
 特に、福祉の部分を行政が持っていたというところにも一つの問題があるかなというふうに私は思うんですね。それはどうしてかと申しますと、行政の担当の方はころころかわるんですね、要するに異動されるわけでございます。異動されますと、また一からのスタートでございますので、そういう意味でなかなか整備が進まないということも一つの原因かなというふうに私自身は思っているわけでございます。
 それからもう一つは、地域の住民への理解の問題でございます。地域の住民との連携をきちんとすれば、それはいいことはわかっているわけでございますけれども、社会復帰施設をつくろうとするときに地域住民の意見を聞かなければならないようになっているわけでございますね。これは総論賛成、各論反対でございまして、幾ら意見を聞いても、それはノーと言われるのが私ども当たり前だと思っております。実際、私もグループホームを幾つか持っておりますが、はっきり申し上げまして、地域住民の意見を聞かずにつくりました。要は、実績の中で御理解をいただくしかないかなということでつくりました。そのかわり、私ども、非常に慎重にこの運営を進めております。何か事件があれば、これはすぐポシャってしまうことでございますので。
 そういう意味では、このあたりもある意味では、理解を示さなければいけないの裏に地域住民の意見を聞かなければいけないというのは一つの差別かなというふうには考えております。
 以上でございます。
○新保参考人 医療と福祉の連携がどうなっているのかと言われますと、当事者として戸惑います。
 なぜかといいますと、本来は連携はきっちりあるべきだという建前でございますし、また、そのために私どもは一生懸命努力をしているつもりなんですが、なかなか実を結ばない現実があるということです。それは、いわば医療と福祉の役割の明確化というものが精神医療の中ではきちんとなされていないという部分があるんだろうというふうに思います。
 これまで精神医療の枠の中で福祉を担ってきた精神科ソーシャルワーカー、今般国家資格として精神保健福祉士という資格が誕生いたしました。この人たちが福祉の役割を担う立場にありはするんですが、その方々が勤務する病院の院長先生のお考えで使われ方が違うとか役割が違うとかということが現実にあるわけです。そして、今日もまだそういったことが続いているというふうに思われます。したがいまして、なかなかきっちりといかないジレンマがある、こういうことでございます。
 いずれにしましても、今般精神保健福祉士法という法律が成立いたしましたので、病院内福祉あるいは病院内医療の中での福祉のあり方について、当然のように、精神保健福祉士の業務のあり方を通してこれからはきちんとした連携が図られる体制ができるようになるだろうというふうに思いますし、そのことに大きな期待を込めております。
 できることであれば、いわば精神保健福祉士の仕事を、ソーシャルワークというような言葉を使いますけれども、ソーシャルワーク・イン・ホスピタル、要するに病院の中における福祉ではなくて、いわばソーシャルワーク・オブ・ホスピタル、病院の福祉ということにきちんと位置づけられるようなことを今期待しているということだけお話し申し上げたいと思います。
○福島委員 次に、西島参考人にお聞きしたいんですが、任意入院の場合に閉鎖病棟に入れるというのはやはり避けるべきだということが午前中の審議の中でも繰り返し指摘されまして、大臣を初めとしてなかなか歯切れの悪い答弁であったわけでございます。
 この点は、実際に医療機関を経営しておられる立場として、構造的な問題もあるというふうにこちらに書かれておりますけれども、そういう物理的な問題をある程度変えていく、改める、そういうものが進めば今よりもはるかに状況はよくなるというふうに理解してよろしいのか。また、現行の厚生省の補助の制度もございますけれども、そういうものの対象にはなっていないというふうに理解していいのか、その点をちょっとお聞きしたいと思います。
○西島参考人 今回の、先生方のお手元に、厚生省といいますか事務局がつくられた資料の中で、任意入院でも四六・七%が閉鎖処遇を受けているというデータが出ておりますが、私どもは決してそうは思っていないわけでございまして、当然、基本的には開放処遇がいいことは間違いないことでございます。
 ただ、私どもはそう思っていないというのはどういうことかと申しますと、患者さんが開放病棟に入っているか閉鎖病棟に入っているかという形でそれぞれの病院に聞いているように私は思うんですね。ですから、そうなりますと、閉鎖病棟に任意入院の患者さんが入っているというふうに当然答えるだろうというふうに私は思います。でも、実態はどうなのかと申しますと、任意入院の患者さんたちは出たいときには出られるようになっていると私は思います。ですから、実態は任意入院であるがゆえに完全に閉じ込めてしまっているということではないだろうというふうに私は思うんです。
 ただ、もう一つの問題は、重度の患者さんが数人いらっしゃいますと、どうしても病棟全体を閉鎖的な対応をせざるを得ない。そういう意味で先ほど私は構造上の問題を言ったわけでございますが、そういう患者さんを診られるための、例えば十床、二十床でも経営ができるような財政的な措置、そういう補助があれば、その方々のための病棟をつくって、それ以外の方々は開放病棟で診ていく、これは私は理想的だろうというふうには考えております。
 ですから、きょう私は資料の中で申し上げましたけれども、そういう対応が今後できるかどうかということにかかっているのかなというふうに思います。
 以上でございます。
○福島委員 荒井参考人にお聞きしたいんですが、保護者規定を今回部分的に廃止をするという形になったわけですが、同時に、単身の精神障害者の方も非常にふえているというふうにお聞きしておりますし、地域において生活を営んでいく、そしてまた病気が悪くなったときには時期を外さずにきちっと医療機関で治療を受ける、そういうことが具体的に可能となるためには、そのサポートシステムというのは極めてしっかりしたものがなければ将来的に動いていかないのではないかと、特に保護者の方も高齢化しておられるということもありますし、大変懸念をいたしております。
 現実には、都道府県でそれなりの成年後見制度を目指しての制度もありますけれども、それほどきめの細かい対応ということでは恐らくないだろうというふうに思います。この点について政府として今後どういうふうに取り組んでいったらいいのか、また現状についてどのように御認識なのか、お聞かせいただきたいと思います。
○荒井参考人 私ども、先ほどお配りしました資料に、作業所とか地域の実践活動は千四百ですからすべての地区を網羅するわけにはいきませんけれども、大体十万ぐらいの都市なり単位には作業所ができつつあると思います。
 厚生省は、今度の法改正の中で生活支援センターをいわゆる相談、援助事業という形で市町村に委託をし、市町村がまた法人に委託ができるというような制度をこれから立ち上げます。そういう意味では、今保健所が半数ぐらいに減ってしまいました。そうすると、市町村がそういう精神障害者に関する地域ケアの援助をせざるを得ないというのが非常に出てきておりますし、また、そういう手もふえてきております。
 そういう意味では、生活支援センターの作業所が、非常に難しい条件がありますけれども、作業所等を事業として認知していただいて、そして相談、援助事業、それからモニタリング等が機能できれば非常に有効ではないかと思います。専門性とかそういうものには非常に問題があると思います。ただ、やはり保健所とか行政機関、医療機関の御指導があれば連携してできるのではないかなというふうに思っております。
○福島委員 以上で持ち時間が終わりましたので、質問を終わりにしますが、本日は、大変皆様ありがとうございました。今後の審議、そしてまた見直しもございますので、皆様の御意見をしっかりと踏まえまして頑張ってまいりたいと思います。
 ありがとうございました。
○木村委員長 児玉健次君。
○児玉委員 日本共産党の児玉健次です。きょうはありがとうございます。
 私たちのこの間の審議の中で、精神医療が果たすべき社会的な役割の大きさという点でかなりはっきりしたコンセンサスが生まれつつある、こういうふうに思います。
 私の時間は十五分ですので、恐縮ですけれども、五人の参考人の方に最初に伺いたいことを申し上げて、そして順次御意見をいただきたい、こう思います。
 最初に、伊藤先生にお伺いしたいのですが、随分議論されたことではありますけれども、私は、日本において、精神科特例と精神科の診療報酬、点数の低さと内容の不適切さ、この二つが相乗的に働いて精神医療を非常に困難にしていると考えております。これをどうやって改善していくのか。その点で伊藤先生の御意見をできれば具体的にいただきたいと思いますし、その中で、今、精神医療のスタッフの配置と関連して、臨床心理士が果たす役割、貢献の可能性、持っている豊かな可能性、そういう点について伊藤先生はどうお考えか、それが私の質問でございます。
 次に、西島参考人にお伺いしたいのですが、先ほどお配りくださったレジュメの中で、「五年以上は中等度以上の医療必要群が多く、これらの入院者の対策が重要である。」一枚目の一番下に書いてあります。つい午前中の質疑でも論議した点でございますが、長期在院重症者、急性増悪の再現された方も含めて、こういう方々に対する適切な医療、対応のあり方。高齢化されてもおるし、合併症の問題もある、そういう方々に対する精神医療の今後と、そしてこの領域で国立病院、あえて私は大学病院を入れたいと思うのですが、国立病院と大学病院がどのような役割を果たすべきだと先生はお考えか。
 次に、小林さんにお伺いしたいのですが、任意入院の多数が閉鎖病棟に入っている現状をどうやって打開していくか。もちろん社会的な力が必要ですが、そして保護室、隔離室が今患者さんの人権を非常に抑えつけておりますけれども、保護室、隔離室の構造、設備を含めてどのように改善していくことが今必要だとお考えか。
 それから、新保さんにはグループホームの問題で、今、グループホームは何らかの形で就労していることが条件になっています、これをそのまま放置しておいていいのかどうか、この点で御意見をいただきたいと思います。
 最後に荒井さんですが、お配りくださった資料の横式さんとは、先週日曜日、私は札幌でゆっくりお会いしました。荒井さんにお伺いしたいのは、精神科病床の今後のあり方に関連して、一般病床に倣って急性期と慢性期に区分する、そういうことを検討する動きがあります。私は、初発の段階で必要な治療を大いにやるということは必要だし、だれしもそれは否定しないと思いますけれども、もしこれを十分な留意なしに進めていけば、日本の精神科の病床が急性期に対応する部分と、精神科特例をさらに手薄にする、医療機関というよりは施設に近いものに二分化していくのではないか、こういう懸念を持っておりますが、その点について荒井参考人の御意見をいただきたい。
 以上でございます。
○伊藤参考人 まず、診療報酬制度と職員配置の問題ですけれども、これは歴史的に不幸な歩みがありまして、精神病院に関しては多くの患者さんを病院に入れなきゃならないという時期がありまして、そのときに医師は少なくても構わない、それでも運営できる、しかも経営的にもそれでも十分やれるという時代が長く続きました。そういう背景がありまして、薄いサービスで、薄い利益で病院を経営するということがずっとやられてきたような気がします。それは、やはりこの辺で方向を変えるべきだというふうに思っております。
 現在、一般病床の病床利用率は八〇%台だったというふうに記憶しております。一方、精神病床の病床利用率は九五%を超えているのじゃないかというふうに記憶しております。結局、できるだけ多くの患者さんを入院させなければ、例えば八〇%台での病床利用率では病院経営ができない。つまり、一人当たりの患者さんの収益が非常に少ないということで、どうしても数多くの方を入院させなければならぬ。現実に病床が非常にたくさんある。そういう事態の中で悪循環がなかなか断ち切れないということがありますので、やはり病床利用率がそれほど高くなくても経営できるような、回転していけるような施策をとるべきだと思います。
 救急がうまく行かないのも、病床利用率が高いとなかなか動きが悪くて本当に必要な方が救急で入院できないということもあるわけです。
 そういうことですから、私は、今の日本の精神病床の数は多過ぎますので、私どもの地域の経験からいえば、人口万対二十以下で十分地域の医療は保障できるというふうに考えております。現在、人口万対二十七の在院患者さんがおりますが、まず診療報酬制度の方もそういうことを加味しまして、急性期の患者さんを一生懸命やる病院には経営がやりやすいということでやっていただければと思います。そして、全体の病床数が減って、その分だけ最近入院した方に手厚い看護と医療をというふうにしていただければと思います。
 それから、臨床心理士については非常に難しい問題があります。というのは、医師の果たす役割と臨床心理士が果たす役割はかなり重複しているところがありますので、そこの切り分けがなかなか今難しくて進まないということがあると思います。しかし、実際には、私どもは児童病棟を持っていますけれども、子供の病棟で子供の精神科的な治療あるいはケアをするには臨床心理士というのは非常に大切であります。ぜひ資格化を進めて、そういう領域でも活躍するような職種をつくっていただきたい、そういうふうに思っております。
○西島参考人 先ほどの御質問にお答えさせていただきますが、当然、五年以上の医療必要群というのは、治療困難な患者さんたちがどうしてもいらっしゃいます、そういう患者さんたちをどうするかということでございまして、地域ケアでやれない患者さんたちがいるんだということでございますね。これは何も、先ほどのお話にありましたような触法の患者とか粗暴な患者とか、そういうことではございません。どうしても波が非常に多い患者さんたちがいらっしゃいます。こういう方々はやはり医療施設で対応すべきだろうというふうに私は思っております。長期の入院で、その入院医療そのものが悪という見方はぜひしていただきたくないというふうに思います。
 ただ、そうなりましたときに、今一般病床でも問題になっておりますが、例えばがんの患者さんとか、ほかの病気で長期の医療が必要である患者さんをどうするのかという問題も含めてこれは検討すべきであろうというふうに思っております。
 それから、国立と大学病院のあり方についてでございますが、国立は政策医療的なものをしていくべきではないかというふうに私は考えております。また、それなりの資金も投入して当然であろうというふうに思っております。それから、大学病院に関しましては、重度な患者さんを民間病院との連携の中でやりまして、ある程度の治療が済めばまた民間病院でさらに治療をして、そして地域へというような流れをつくる役割が大学病院にあるのではないかなというふうに私は思っておりますので、このあり方も一つございます。
 以上でございます。
○小林参考人 任意入院のことですけれども、実は任意入院というのは、精神保健福祉法の中で全くあいまいな法律の一つの典型だと思っております。みずからの意思を持って入院をするということだけで、ほかに何の規定もございません。これは非常にある面では人権侵害の温床になっているというのは事実です。その方たちの半数以上、六〇%近くが閉鎖で処遇されているというのも当然わかるような気がいたします。
 というのは、みずから意思を持って入院したい、精神病院で休みたいという方だけが任意入院ではないわけです。ノーと言わない人を入れるとか、そういうふうに病院にとって大変逃げ道がある手段が任意入院なわけです。
 これは、例えば精神医療審査会における定期審査のチェックから免れております。何もしないで構わないわけです。そして閉鎖に入れておく。ですから、先ほど閉鎖処遇に入っていても出たい人は出られるだろうという御意見が参考人の方からありましたけれども、精神病院というのは収容所ですから、大体個別処遇というのはほとんどありません。大体がグループとして、一団として処遇をすることがとても多いと思っています。もちろん個別処遇があるところがありますけれども、原則として開放処遇をするべきだと思っています。
 ですから、任意入院で病院に入ってぐあいが悪くなったときには、それは大変でも手続をして、ちゃんと医療保護入院にして法律の網をかけるというか、審査会なりなんなりに不服申し立てができるようなものにしていかなければならないと思います。
 私たちのところに相談に来るのは、任意入院だけれども精神医療審査会に申し立てたいという相談が随分あります。それは、自分たちが閉鎖処遇されているからです。ところが、今の法律では、任意入院の患者さんたちの訴えは精神医療審査会は受け付けないことになっております。ですから、何もできないということです。
 もう一つ、保護室の問題ですけれども、保護室があればあるほど利用されるというのは事実です。それからもう一つ恐ろしいことに、私は医療者ではありませんから保護室がどういう役割をとってきたのかよくわかりませんが、確かに、暴れた患者さんを静めるという作用が精神医療の中において必要だとは思いますけれども、今余りにも保護室が安易に活用されています。自分が納得して入ったはずなのに医療保護入院にさせられて、注射を打たれてともかく保護室に入れられる。保護室を通過することが一つのルートになっている、一つの治療のルーチンになっているという病院が私たちの方には随分寄せられております。
 保護室というのは本来そういう役割を持つべきものではないでしょうし、私はよくわかりませんが、保護室がない病院というのもあります。ですから、保護室の数とか何かを最低限にして、できるだけ保護室を使わない、そのためにはマンパワーとよい質の医療の提供が不可欠だと思っております。
○新保参考人 先生から御指摘いただきましたのは、グループホームに何らかの形で就労条件が定められていることを放置していてよろしいのか、こういうことでございますが、放置しておいてよろしいのかと言われると撤廃せよということにもなりかねないわけですが、どうしてこういう御意見が出るかといえば、グループホームはいわば生活の場としてとらえられているわけですね。そして、その生活とは一体何かといえば、日々のなりわいでございまして、その日々のなりわいは人さまざまであってよろしいという前提に立てば、何も就労を義務づける必要はないじゃないかという御意見だというふうに思います。まさにそのとおりだというふうに思います。ただ、現行で撤廃をしてそれで済むかといえば、それだけの問題ではないというふうにも思っております。
 精神障害者の方々の多くが働きたいと願っております。就労を希望している方々の数値はおよそ七五%と想定されます。この方々の願いをかなえるという一つの施策のあり方として、就労あるいは何らかの形で働くという条件をつけた居住形態があってもよろしいかというふうに思っています。
 大事なことは、働きたいと思っても障害ゆえに働けない人たちがいるわけです。すなわち、人には働く権利と、障害ゆえに働かなくてもあるいは働けなくても、それでも生活ができる権利があるんだということを保障するための居住システムが必要だということです。そのための制度としては現況では不足だということが指摘されているというふうに思います。
 この意味では、精神障害者に対する居住プログラムをもっともっと多様化していって、そして、一生懸命働きたくても傷病によって生じる働けない人たちに対する生活保障システムとしての居住形態をつくることによって、どんな障害を持っても自分たちが自分たちなりに生きられるんだという希望を与えてあげることが大事だというふうに思いますので、そういった居住プログラムの多様化について先生方にもよろしく御協力をお願いしたいというふうに思います。
○荒井参考人 大変難しい問題を投げかけられました。
 高齢の親の子供ということでまた高齢であります。そういう意味では、ほうっておけば一生精神病院のある部屋で終わってしまう。それで、本当にふやしてほしいと思いつつ、十年運動しても、私どもだけがやったわけじゃないわけですけれども、非常に進まないという中でございます。
 一つ参考までに皆さんに御紹介したいんですけれども、私ども十年前にやった調査の中で、どうして引き取れないのかというようなところがありました。一番高いのは、やはり病気が治っていない、再発するというようなところであります。家族の高齢化が著しい、特に保護者が六十一歳以上に達するというところです。入院期間がこの人たちで平均で大体十三年です、発病してから十五年になります。
 そうすると、十年以上病気が治っていないから引き取れないということはどういうことかということは、我々は厳然たる事実として考えるべきだと思います。それは、私は福祉だというふうに思います。福祉的な対応をきちっとして、彼らが生活環境がいい中で障害者として暮らせるというような体制をつくるのが必要であると思います。
 厚生省の大勇断で、精神障害も障害保健福祉部に入りました。障害者プランの対象であります。社会復帰のその部分だけが障害者プランの対象だというふうに言われていますけれども、私は、本当の重度の人たちも障害者であり、クオリティーライフを含めた障害者プランのサービスを受けるべきだというふうに思います。ここまでは一番理想なんですけれども。
 そんな中で、やはり短期の精神的な対応というのは医療ですべきであるし、そういうケアなり、いい環境の中で福祉的な措置で生活できる環境というのは福祉のレベルでやるべきである。それから、医療関係者も福祉という形で経営を考えていただきたい、収益事業なり経営ということの福祉ではなくて。そういう意味では、本当に福祉事業という形で、ほかの福祉法人をつくってそういう環境をつくるということも含めてお考えいただきたいというふうに思います。
○児玉委員 あと一分ぐらいあるようですから、伊藤先生に一問だけお願いしたいのです。
 この精神科特例を私たちが乗り越えていくときに一番大きなネックの一つは、精神科の医師の養成だと思うんです。この点について御意見をいただきたいと思います。
○伊藤参考人 私も、差し当たりはそれが大きな障害になるだろうと考えております。
 そこで、とりあえずは、先ほど言いましたように、非常に難しい症例を扱うような病棟についてだけ少しずつマンパワーを上げて、それに対して手当てをしていくという方策をとらざるを得ないと思います。そして、それを進めるうちに、次第に病床が必要でなくなることを期待しております。そうしますと、相対的には医師の数が足りるはずなんです。今は医師が足りないということもありますが、病床が多過ぎて相対的に少ないのじゃないかという問題もあります。そういうことを総合的に判断して施策に反映させるべきだと思っております。
○児玉委員 ありがとうございました。
○木村委員長 中川智子さん。
○中川(智)委員 社会民主党市民連合中川智子です。着席のままでの質問をお許しいただきたいと思います。
 きょうは、参考人の方々の御意見、本当に貴重なものとして重く受けとめさせていただいて、今後の審議にしっかりと生かしたいと思っております。
 まず最初に、西島参考人にお伺いしたいのですが、今の伊藤参考人への児玉先生の質問と重なるのですが、地域の中で地域の人々とともに生きていくもう一つの要件としては、本当に身近なところに精神科のお医者様がいて、退院した後、その身近なところに通院してケアをしていくというふうなことです。私の町に暮らしていてもとても感じるのですが、精神科のお医者様が少ない。そして、割と相性が合えばびっくりするほど早く治癒していくわけですけれども、相性が合わなくてはしごしてしまうというか、結局遠いところまで通わざるを得ない、その間にまた悪化して再入院という友人たちを見ております。
 それで、お医者様の中でいわゆる精神科に対する偏見のようなものが、実際本音で伺いたいのですけれども、医療機関の中で、お医者様の中で精神科のお医者さんが少ない。数的なものではそうではないと今おっしゃいましたけれども、やはり育つところが、私の目から見ましたら余りいらっしゃらない。
 そこで、制度的なものやいわゆる大学などの教育の中で何か直していかなければいけない部分があるのではないかと思うんですけれども、西島先生、いかがでしょう。
○西島参考人 大変難しい問題でございます。
 ただ、一時精神科医がブームになったことがございまして、百名の卒業生の中で十名が精神科の医局に入るというようなことが一時期的に起きたことがございます。最近、また少なくなったようでございますけれども。ですから、決して精神科になろうという数が少ないというわけではなかろうというふうには思っております。
 ただ、ほかの科の医師との関係で申し上げますと、やはり精神科の医師に対しての、精神科の医師というよりは精神科に対する偏見というのがあって、そのあたりで病院内での連携もなかなかできない、そして、ある意味では精神科医師が一般医師とのかかわりが少ないという部分もあろうかというふうに思います。そういうところから、医師の資質というものが精神科医にも問われているのかなというふうに思っております。
 先ほど先生がおっしゃいました、合う、合わないの問題は、その人の人間性にかなり大きく寄与するのかなというふうに思いますので、今そのお話を申し上げたわけでございます。
 そして、地域の中で医師と出会って、その地域の中で済む、これは本当にそのとおりでございまして、そうするようにどうしたらいいのか考えなきゃいけないと思うんですが、やはり地域の身近なところになかなか行けない、これは、先ほどから何回も申し上げております偏見の問題なんですね。この偏見がなかなか直らない。きょうも御意見の中で申し上げたマスコミ報道のあり方、それから理解の問題。
 例えばうつ病とか老人痴呆にかかわっていきますと、実はそういう患者さんたちは非常に身近なものになってこられます。この精神保健福祉法の審議も、ずっとお聞きしておりますと、精神分裂病の患者さんを中心にした対策をどうするのかというようなお話になっておりますので、そうなりますと、なかなかこの偏見というのは縮まらないのかなという気がいたしておりまして、今後、精神科病院がもっと幅広くいろいろな患者さんが診られるような精神保健福祉法にしていただくように、この定義の問題もぜひ御検討いただければというふうに思います。
 以上でございます。
○中川(智)委員 ありがとうございました。
 続きまして、小林参考人に伺いたいのですけれども、この審議の中でも精神病院内のスキャンダルの問題が種々取り上げられました。小林参考人は、精神病院のスキャンダルの原因、日本で起きるスキャンダルの原因ということに対してどのような御見解、御意見をお持ちか、お伺いしたいと思います。
○小林参考人 患者の権利擁護者という立場で、気楽な立場なんですけれども、言わせていただきますと、一言では言えませんけれども、一番はスタッフの質だと思います。
 看護婦さんになるにしろお医者さんになるにしろ、まず人権教育というものが全くされていないわけですね。人権意識というのは生まれながらにして持ってくるわけではなくて、それは教育なわけです。教育をする機関というものが看護学校においてもないということがわかっておりまして、このごろ少し看護学校から講義をしてくれという呼びかけがあります。それから、精神科のお医者さんの場合には、指定医の講習の中で多分倫理とか人権という時間が設けられているとは思いますけれども、やはりそういうものがないわけです。
 それと、あとは患者さんたちを取り巻く偏見です。一対一の市民であれば当然尊重すべき礼儀とかマナーがあると思いますけれども、例えば、長いこと家族にも友人にも見捨てられて病院にいる人はだれも助けてはくれないし、外へも情報が見えないわけですから、この人は、私たちが何をしても行くところがないんだというような患者さんたちに対する意識がスキャンダルを引き起こすことはあると思います。
 その中で一番の問題は、そうはいいながらもスタッフのトレーニングが問題だと思います。余りにも経験がなくて、いきなり精神科に来たとか、ほかで働く場所がないから精神科に来たという看護婦さんたちもおります。そういう方が、確かに暴れたりすることはあるわけですけれども、経験がないし知識もないから、暴れたことに対して過剰に反応して患者さんにけがをさせたり殺しちゃったというような事件が、例えば、おととしですか、高知県の山本病院で起きております。
 ですから、そういう病院で働く人たちのトレーニングと経験を積ませるようなしっかりとしたプログラムというものをぜひつくっていただきたい。そして、人権教育というものも、人権教育と医療というものは決して相反するものではなくて、相乗効果を持つものだと思っていますので、ぜひそのようなスタッフの質の確保というもののトレーニングを国を挙げてやっていただきたいと思っています。
○中川(智)委員 ありがとうございました。
 続きまして新保参考人にお伺いしたいんですが、居住施策のことを先ほど意見陳述のところでおっしゃいました。私も午前中の質疑の中で、福祉摩擦といいますか、何か施設をつくるときに反対運動が起きましたら地域住民と当事者が対決せざるを得ない、こういうふうに当事者に任せておいて厚生省なり行政は外から見ているだけというのではいけないのではないか、地域の中でともに生きていくのならば、しっかりとそれに介入してもっとスムーズに地域の中に施設がつくれるような手だてはないものか、みんなで力を寄せ合っていける手だてはないものかということで質問いたしました。
 これに対して、これまでの参考人の経験、先ほどビデオを撮られたとかいろいろおっしゃいましたけれども、そういうふうなほかのところの実態ですとか、そして、行政がやはりうまくこれにかんでいって、福祉摩擦のようなことが起きないようにするにはどうすればいいかという御意見を賜ればありがたいと思います。
○新保参考人 施設摩擦、コンフリクトというふうな言い方をいたしますが、施設摩擦の問題の根には偏見とか差別という目が当然のようにあるわけです。そして、この偏見や差別を解消していくためには、その前提になる誤解、大体誤解が差別とかというものを生じさせてまいりますので、誤解を解くことが最も重要だというふうに思います。
 その誤解を解く大きな手だては、基本的には、精神病という病気が治るということを市民理解として得られるとすれば、これが一番です。すなわち、精神疾患に対する治癒の方法をできるだけ向上させていただきたい。
 次は、病気が仮に十分に治らないとしても、他の慢性疾患と同様に、例えば難病等と同様に、病気を抱えながらもみずからの生活を十分に営んでいけるような体制をつくらなきゃいけない、こういうことになると思うんです。
 この体制をつくっていくためには、現在、精神障害者が他障害と対比しましてなお誤解や偏見のまなざしがきついというのは、施策の中で市町村の施策になり得ていない、すなわち身近な施策になり得ていないということがあります。したがいまして、市町村職員でさえも精神障害者はおれたちの管轄ではないというぐらいのことを言うわけですし、精神障害者に対する対応のマニュアルを持っていないということも言います。ということは、精神保健福祉センターが全国に設置されて、市町村も社会復帰施設等と連携を図るようにというふうに法文で述べられておりますが、このことが実態化しないということであります。したがいまして、このことを実態化させていくためには、市町村の条例を改正する程度でもかなり大きく変わるんじゃないかというふうに私は思っています。
 たまたま昨日、茨城のひたちなかというところで通所授産施設が開設いたしました。この施設に四分の一設置者負担という、その施設をつくるときに設置者が負担をする金額がございます、これをひたちなか市東海村が負担したんですね。これは、実は他障害の場合は当該の市町村、地方自治体が負担をするような条例ができているんです。ところが、精神の場合は大概のところはありません、あれは私たちの仕事じゃないんだ、県の仕事だということで。障害者基本法ができて以降もそういった条例改正がなされておりません。
 これがもし市町村で、障害者や老人等でもあれなんですが、福祉施設に対してそういった補助を他障害や老人と同じように行いますという条例改正さえ行われれば、市町村の担当者は、ああ、そうなのか、精神障害者も病者じゃなくて障害者だったんだという認識に簡単に変わっていくと思いますし、そういう条例があれば、地域の方々との話を進めるというか、理解を求めていくのにも求めやすい一つのバックボーンになります。したがいまして、市町村窓口に精神障害者を移行する今般の法改正は大変重要だというふうに思っております。
 なお、コンフリクトの問題というのはもっともっとさまざまな要因が働いております。さまざまな要因が働いておりますが、基本的には、そういったところを解消しながら、そして、行政当事者がまさに地域で動けるようなシステムづくり、いわば法制度の整備づくりを進めていくのとあわせて理解を求めていくしかないんじゃないかと思っています。
 日精協さん、日本精神病院協会さんが、昨年、コンフリクトに対してというか、精神障害者に対する意識に関して全国およそ八百幾つかの報道機関にアンケート調査をいたしました。その結果の数値からいきましても、報道機関の方々は、建前論では精神障害者の施設ができるときには反対だと言わないはずなのに、十数%の人たちが反対だと述べている数値がございます。まさに、我が国の国民の意識はそれ以上に反対だという意識であることの実証でございます。
 それもこれも、先ほど申し上げましたように、精神障害者を隔離してきた法制度の中で起きるいわば反対というか精神障害者に対するわからなさというか、精神障害者ってどんな人か見えないという、形までも隔離してしまっていることが大きな要因だというふうに思いますので、ぜひとも地域で物事が進めていけるような施策づくりに御協力を願いたいというふうに思います。
○中川(智)委員 時間が来ました。児玉委員のように最初に質問を全部出しておけばよかったなと思いますが、失敗しました。
 本当にきょうはありがとうございました。一生懸命頑張りますので、今後ともよろしくお願いします。
○木村委員長 武山百合子さん。
○武山委員 自由党武山百合子でございます。きょうは、参考人の皆様、お忙しい中おいでいただきましてありがとうございます。
 早速質問に入りたいと思います。
 北海道からお見えになってくださいました伊藤参考人にお伺いしたいと思います。
 まず最初に、伊藤参考人が、日本は精神障害者の医療、保健、福祉は貧しい水準にあるとおっしゃられたわけですが、私も事実は本当にそのとおりだと思います。先ほどのお話で、時間的になかったわけですけれども、ぜひその状態を話してください。
○伊藤参考人 短い時間で述べるのは非常に難しい問題なんですが、私が配付いたしました資料の三、三枚つづりのものですが、見ていただければと思います。
 まず、精神病床が外国と比べて非常に多いということがあります。そして、この精神病床が多いということは、本来なら病院の数が多くて、患者さんにいいサービスを差し上げているということで高く評価されるべきだと思うのですが、残念なことに、その三の一の下の表を見ていただけばわかりますように、平均在院日数が非常に長いということであります。
 日本の場合は四百九十二・一、これは年度がちょっとずれて正確なデータではありませんけれども、アメリカの十二・七日、イギリスの二百十六・七日、ドイツの三十五日というのに比べて非常に長い期間患者さんが入院しているということがあります。
 これは、必ずしも患者さんにとっては好ましいことではない。いわゆる社会的な入院が多いということですので、病院の数だけ多くて、患者さんが地域で生活するための支援が十分なされていないということの証拠になるのだろうと思います。
 次の資料の三の二にもそのことが書いてありますが、いわゆる社会的入院と言われる方がどのぐらいいるのかというデータは、データのとり方によってまちまちですが、一番多いところで五六・九%、条件が整えば社会で生活できるという数が出ております。一番少ないところでは三三・〇%。あるいは、厚生科学研究班の統計では九万床、二五%が退院可能だろうという数字が出ています。
 このデータのとり方によって少し差が出てきますが、私の経験からも、やはり二〇から三〇%は、貧しい精神保健福祉施策が少しでも改善されれば退院できる時代が来るのじゃないかなというふうに思っております。
 それから、実際に私たちが医療をやっておりまして、本当にいい医療を提供できているのかどうか、日ごろ疑問に思いながらやっております。
 医療法の特例で、四十八人の入院患者さんを一人の医師が診るということは、確かに慢性期の、長い、十年も入院している方であれば看護婦さんにかなりの部分をお任せできるのですが、だんだん急性期の患者さんを救急あたりで診ていかなければなりませんと、患者さんに十分に説明と同意、あるいは入院についての計画をきちっと説明する、あるいは人権についての告知をきちっと行いながら医療をする、そういうことを考えますと、今の医療法の特例の中では貧しい医療しか提供できませんと言わざるを得ない。そういうようなことを含めて貧しいという言葉。
 もちろん、これは医療だけに限ってお話ししましたけれども、先ほどから出ておりますように、患者さんを地域で支える施策自体も貧しいということ、これは相乗的にこういう状況を招いているということだと思います。
○武山委員 このたびの大幅な改正によって、その第一歩かと思いますけれども、お話を聞いていると、日本の医療体制というのは本当に胸の痛くなるような実情だと私は思うのですよね。
 それで、今回の法改正におきましてどのくらいのパーセンテージで、伊藤さんが病院経営をされてきた今までの自分の経験から見まして、法改正はどのくらい進歩したと思いますか。
○伊藤参考人 これは非常に難しい。
 長い間の歴史を見ますと、私どもの意識自体は変わったことは事実です。
 私は昭和四十六年から精神病院に勤めておりますけれども、私自身の意識は、当時と今とでは随分違います。当時は、私に任せておけという気持ちで医療をやっていました。ですから、一人でケースワーカーの仕事もやりましたし、それから、人権という意識は昔はありませんでした。病気が悪いんだからおれに任せておけという形で、医療をどんどんパターナリスティックといいましょうか、親みたいな感じでやってきました。
 ですから、患者さんの方から見れば、子供扱いにされているという形で医療を受けているのだろうと思いますけれども、何度か精神保健福祉法が改正していく中で、やはり患者さんも一人の主張を持った方たちだというふうに、その主張を少しでも生かす形での医療を展開しなければならない、そういう意識が私自身でも随分変わってきたということはあります。
 これは、やはり精神保健福祉法という法律の改正があったということもあります。もちろん、国民の医療を受ける権利意識というのも変わってきた、そういう背景も当然あるわけですが、私は、少しずつ進んできている、もっと進んでほしいというふうに評価はしております。
○武山委員 何%なんて言ったら非常にお答えにくいかと思いますので、それ以上は追及しませんけれども、次に移りたいと思います。今後ともぜひ頑張っていただきたいと思います。
 情報公開ですけれども、精神病院の透明性を高めるという意味で、情報公開は大事なことだと思うのですね。精神病院だけではなく、医療に対する情報公開は、日本の医療全般に言えると思いますけれども、ところで、先生の病院は情報公開を行っておりますか。
○伊藤参考人 情報公開にもいろいろな方法があると思いますが、私どもの病院では、まず、十年前から病院の年報というのをつくって、病院の職員、入院している患者さんの数、あるいは回転率。それから最近では、その年報には、電気けいれん療法、これは患者さんが非常に嫌がるといいますか、当然、できたらそういう治療はしてほしくない治療ですけれども、一部にせざるを得ない場合がありますが、年間何名そういう治療をしたか。それから、最近二、三年は、患者さんに対する投薬という行為がありますけれども、入院患者さんに薬を渡すときに、看護婦さんが間違って、誤投薬と言うわけですけれども、どのぐらいの件数、間違って患者さんに渡してしまったことがあるかというデータも年報の方には載せて公開しております。それが一つのやり方だと思います。
 それからもう一つは、病院の中にできるだけ多くの方に入っていただきたいということで、ボランティアの方に、閉鎖病棟の患者さんあるいは開放病棟の患者さんにも、卓球を一定の時間おつき合いしていただく。これは市民といいますか、住民の方が週に一遍来て卓球をやっていただいたり、あるいは喫茶店の経営を一緒にやっていく、病院の中の喫茶店ですけれども。ということで、できるだけ多くの方が病院に入っていただくということ。
 それから、昨年は、これは初めての試みですけれども、五人の方に一泊ずつ入院をしていただきました、閉鎖病棟も含めまして。これは地元の新聞記者、福祉関係の方、家族会の方、それから道庁の職員の方も含めて、とにかく病院の中身を知っていただきたいということで一泊体験入院をしていただきました。
 これは、非常に私ども勇気のある、勇気というか心配しながらの企画だったのですけれども、非常に好評でした。病院を誤解していたというふうに言っていた方もおりました。そういう意味で、やはりまだまだやれることはあるのじゃないか、情報公開、病院の透明性を高めるということでは。
 そういうことであります。
○武山委員 どうもありがとうございました。
 その情報公開の中の一つで、診療録の開示ということが言われておりますけれども、これは家族の方には詳しく説明も、開示もされているのでしょうか。
○伊藤参考人 私の病院では、残念ですが、まだそこまで踏み切っておりません。これは、医者の教育も一つしなければならないのですが、自分の行為がすべて患者さんに公開されてしかるべきである、そういう前提で診療を進めるという、まだ習慣といいましょうか、患者さんとの関係といいましょうか、それがまだまだできていないということです。
 確かに、精神科の特殊性で、一般科とは少し異なった例外規定は設けなければならぬとは思いますけれども、基本的には、一般診療科でやれることはカルテの開示も含めて精神科でも進めるのが原則だと思っております。どこまでやれるかはもう少し時間はかかるとは思いますけれども、将来、そういう時代は来るのではないかというふうに思っております。
○武山委員 家族の方がお見えになりましたら、説明は十分していただけるのですか。見せられないとしましても、説明は十分していただけるのでしょうか、診療録の内容。
○伊藤参考人 診療録そのものについて患者さんの方からどんな内容になっているか聞かれたことはありませんけれども、できるだけ家族の方には実際に診療に即した情報をお伝えするように努力しております。
 それから、最近は、亡くなった患者さんの家族が、診療録の公開をしてほしいという方も出てき始めました。それについては、もし可能であれば、できるだけそのままお見せするように努力したいと思って、今検討中でありますが、実は、カルテがそういうふうになっていません。というのは、ほかの患者さんの情報が入っているのです、カルテの中に。ほかの患者さんとこういうトラブルが入院中にあったとか。
 それを公開すると、別な患者さんのプライバシーの問題がどこかで起こってくるということもありまして、ちょっと頭が痛いのですけれども、公開されるべきだという前提でカルテをつくっていくということができてくれば、かなりの部分できるようになるのではないかと思っておりますけれども、実際にはまだちょっと自信がない段階であります。
○武山委員 先生の病院は、先生のほかに何人いらっしゃるのか。それから、あと何年ぐらいで意識が変わって、実際に公開の青写真、予測で結構ですので、医師会の西島参考人に聞いた方がいいのかわかりませんけれども、お二人に同時の質問をしたいと思います。
○伊藤参考人 公開がどういうふうに進むか、カルテの開示も。これは、医者はもちろん努力しなければならぬのですが、医療を受ける当事者の方のそういう要求が強いかどうかによっても随分スピードが変わってくると思うのですね。
 それで、私は、まだそれほどスピードは上がらないのではないか、十年ぐらいはかかるのではないかな、そのぐらい少しじっくり構えざるを得ないのではないかというふうには思っております。ほかの科よりはおくれる可能性の方が強いのではないでしょうか。それでよろしいでしょうか。
○西島参考人 診療録の開示に関しましては、精神というのは非常に難しい場面がございますけれども、少なくとも、私どもは、カルテを患者さんと一緒に見ながら診療を進めていっております。
 それはなぜかといいますと、それが信頼関係だろうというふうに私は思っておりますので、あなたの情報はこういう形でカルテに書かれているよという中で、お薬も含めて説明をし、家族にも説明をしております。そういう意味では、カルテの開示というのは十分にやっているつもりでございます。
 ただ、昨今言われておりますカルテの開示の法制化に関しましては、ある意味では信頼関係を損なう面もあるというところで、臨床の立場から、診療録、カルテの開示をぜひ進めていきたいというところで、先日、日本医師会としましてもガイドラインをつくりまして、今、周知徹底させるため、全国医師会に対して研修と申しますか、それも含めてやり始めているところでございます。来年からそれを本格的にスタートしようとしております。
 ただ、この中で問題なのは、医師会員以外はどうするのかというふうに言われておりますが、もしこの対応がうまくいけば、当然これがほかの医師にも波及していくだろうというふうに思いますし、そのときに法制化をどうしていけばいいのかということを私は考えればいいのではないかというふうには思っております。
 以上でございます。
○武山委員 医師会の方から来られている西島参考人にもう一度お伺いしたいのですけれども、公的病院と私的病院がありますね。その中で、先ほど北海道の伊藤参考人がおっしゃられたような部分開示、それは、全体を一〇〇とした場合、どのくらい部分開示されているのでしょうか。
○西島参考人 開示というのも、情報には非常に幅が広うございますから、どこの部分で考えるのかということでございますが、少なくとも医師が書く診療録に関しましては、ほとんど患者さんの横で診療録を書いておりますので、患者さんはそれを見ながら精神療法等を実は受けているわけでございます。
 そういう意味では、一〇〇%とは申しませんが、九〇%近くは患者さんに対しては開示されているのではないかなというふうに思っております。精神療法のやり方というのは、結構カルテを書きながらその横で患者さんと話をしているというのが現状でございますので。
○武山委員 私は、皆さんのお話を聞いておりまして、余り開示されていないのではなかろうかと思っておりましたけれども、医師会の方のお話ですと、結構開示されている。
 そうしますと、カルテの方は今のお話でわかりましたけれども、施設の方の開示はどのくらい進んでおりますでしょうか。医師会の西島さん、お答えいただきたいと思います。
○西島参考人 施設の情報の開示というのも、これも幅広うございますが、どこまでということもあろうかと思います。
 先ほど、国公立の病院に関しましては、結構年報をつくっていらっしゃいますね。これは、きちんとした事務方がいらっしゃいまして、そういう年報をつくらなければならないようになっているかなと私は思っているのでございますが、民間病院がなかなかそこまでは対応できないというふうに思っております。
 ただ、これは、今、日本医療機能評価機構というところが日本全国の精神病院も含めまして評価をしておりますが、その中に日本精神病院協会も入っておりまして、その中でも議論のあるところでございますけれども、例えば治癒の、精神科の場合は治癒とは言わないわけでございますけれども、どれだけの治療成績を上げられているのか、そういうことも含めて評価をしていかなければ本来の評価にならないのではないかという議論が最近始まっております。
 私も当然そう思いますので、今後、そういう方向も含めて開示というのは必要かなというふうに思いますが、どれだけ開示をしているかと言われますと、そのデータは持っておりません。
○武山委員 最後の質問になりますけれども、西島参考人にちょっと締めていただきたいのです。
 そうしますと、あとどのくらいたちましたら情報公開というものが医師の間に意識として根づいて、それで患者にきちっと自信を持ってある程度知らせられるというのが、先ほど伊藤参考人から十年ぐらいとお聞きしましたけれども、医師会の方ではどのくらいの青写真を描いておりますでしょうか。
○西島参考人 期間的なことを言われますと非常に難しゅうございますが、これは、これから先の医師に対する教育の問題もあろうかというふうに思います、カルテの書き方等も含めまして。そういう教育を大学も含めましてどういう形でやるのかというところから進めなければいけないと思うのです。
 私自身は十年は長過ぎると思います。このスピード化の中で、人権が言われている中で、やはりもう少し短縮した形の中で早急にこの対応はしていかなければいけないというふうに思っております。
○武山委員 どうもありがとうございました。私たちは国政で頑張りますので、皆さんもぜひ頑張っていただきたいと思います。
 どうもありがとうございます。
○木村委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。
 この際、一言ごあいさつを申し上げます。
 参考人の皆様方におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。大変熱心な議論ゆえ、予定時刻を二十分もオーバーをしてしまいました。委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。(拍手)