精神医療に関する条文・審議(その101)

前回(id:kokekokko:20051115)のつづき。初回は2004/10/28。
平成11年改正の新旧条文をまとめてみました
 
今回は、平成11年改正精神保健福祉法が施行される際の厚生労働省の通達をみてみます。法改正のポイントがわかりやすくまとめられているのと同時に、厚生労働省の立場があらわれています。

精神保健及び精神障害者福祉に関する法律等の一部を改正する法律の施行について(平成12年3月28日障第二〇八号)(各都道府県知事・各指定都市市長あて厚生省大臣官房障害保健福祉部長通知)
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律等の一部を改正する法律」は、平成一一年六月四日法律第六五号をもって公布されたところであるが、同法の施行に当たっては、特に左記に掲げる事項に十分留意の上、関係制度の円滑な実施につき遺憾なきを期されるとともに、貴管下市町村を含め関係者、関係団体に対する周知方につき配慮されたい。
 
 記
第一 精神医療審査会の機能強化に関する事項
1 地域における精神病床数等の実情に対応した適切な審査体制の整備に資する観点から、精神医療審査会について「五人以上一五人以内」としていた委員定数の規定を削除した。これにより直ちに委員の定数増が求められるものではないが、審査案件の数等都道府県又は指定都市(以下「都道府県等」という。)それぞれにおける実状に応じて委員の増員等を行い、審査が迅速かつ適切に行われるよう所要の合議体数を整備する必要があること。
2 精神医療審査会は、定期病状報告、退院請求等の審査を行うに当たって、必要があると認めるときは、委員による診察、関係者に対して報告や意見を求めること、診療録その他の帳簿書類の提出、出頭を命じて審問することができ、これらの調査権を担保するために当該報告聴取に協力しない場合等の罰則を設けるものとしたこと。精神医療審査会においては、与えられたこれらの調査権を行使し、適正な審査の実施に努められたい。
3 精神医療審査会の運営上の取り扱いについては、別途、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第一二条に規定する精神医療審査会について(平成一二年三月二八日障第二〇九号当職通知)を通知したこと。
 
第二 精神保健指定医に関する事項
1 精神保健指定医精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和二五年法律第一二三号。以下「精神保健福祉法」という。)に違反したとき又はその職務に関し不当な行為を行ったときその他指定医として著しく不適当と認められる場合において、精神保健指定医に対する中間的な処分として、期間を定めて指定医としての業務を停止する職務停止処分を創設したこと。
また、指定の取消し及び職務停止処分の適正な運用を図るため、都道府県知事(指定都市においては、その長。以下同じ。)は、精神保健指定医が指定の取消し等の処分事由に該当すると認めるときは、その旨を厚生大臣に通知することができることに留意されたい。
2 精神保健指定医は、第一九条の四に規定されている職務のうち、公務員として行う職務を除く指定医の職務(措置入院者の退院の判定、医療保護入院の判定等)を行った際には、精神保健指定医の氏名その他厚生省令で定める事項を、遅滞なく、診療録に記載しなければならないものとしたこと。
3 精神保健指定医は、その勤務する精神病院において入院患者の処遇等に関し精神保健福祉法に違反する事例を発見した場合には、その旨を病院内の処遇について責任を有する病院管理者に報告すること等により、当該管理者により入院患者の処遇の改善のために必要な措置が講じられるよう努めなければならないものとしたこと。
 
第三 医療保護入院等に関する事項
1 精神障害者であり、かつ、医療及び保護のために入院の必要がある者であって当該精神障害のため本人の同意に基づいた入院が行われる状態にないと精神保健指定医が判定したものを医療保護入院及び応急入院の対象とし、同意能力の有無という条件により、任意入院の対象者との区分の明確化を図ったこと。
2 仮入院制度は、精神疾患を有するかどうかが判定される以前に、本人の同意に基づくことなく非自発的に入院が行われるものであるため、制度の運用によっては精神障害者の人権の侵害につながるおそれがあり、かつ、精神障害者の定義規定の明確化、精神医学における診断技術の進歩等により仮入院制度の必要性が薄らいでいることから、本制度を廃止したこと。
 
第四 厚生大臣及び都道府県知事の改善命令等に関する事項
1 厚生大臣又は都道府県知事は、入院中の者の処遇が厚生大臣が定める基準に違反していると認める場合その他入院中の患者の処遇が著しく適当でないと認めるときには、精神病院の管理者に対し、その処遇の改善のために必要な措置を採ることを命ずることができることとされているが、今回、新たに、措置を講ずべき事項及び期限を示して、改善計画の提出又は提出された改善計画の変更を求めることができることを追加したこと。
2 厚生大臣又は都道府県知事は、精神病院の管理者が改善命令等に従わないときは、期間を定めて精神障害者に対する入院医療の提供の全部又は一部を制限することを命ずることができるものとした。なお、入院医療の提供の制限とは、新規患者の入院の制限及び既に入院している患者を転退院させることをいう。また、こうした制限についてその効果を担保し、重大な人権侵害の解消を図るため、当該命令違反について罰則を設けたことに留意されたい。
 
第五 緊急に入院が必要となる精神障害者の移送に関する事項
1 医療保護入院のための移送について
都道府県知事は、その指定する指定医による診察の結果、直ちに入院させなければ医療及び保護を図る上で著しく支障がある精神障害者であってその精神障害のため本人の同意に基づく入院が行われる状態にないと判断されたものにつき、保護者の同意のあるときは、本人の同意がなくても、医療保護入院をさせるため、都道府県知事が応急入院を行うために指定した病院(以下「応急入院指定病院」という。)に移送することができるものとしたこと。
2 応急入院のための移送について
都道府県知事は、1の要件に該当する者について、急速を要する等、保護者の同意を得ることができない場合であっても応急入院させるため、応急入院指定病院に移送することができるものとしたこと。
3 措置入院のための移送について
措置入院のための移送は、措置入院に付随するものとして、従来から都道府県知事の業務として行ってきたが、今回の改正によって医療保護入院等のための移送制度が創設されたことに伴い、措置入院のための移送についても、行動の制限に関する事項等とともに、新たに法律上位置づけられたものである。また、法第二七条の規定による一回目の診察又は第二九条の二の規定による診察のために行う当該診察の場所までの移送についても、従来どおり、当該移送業務を都道府県知事の責務として適切に実施するようその徹底を図られたいこと。
4 移送の際の告知及び行動の制限について
都道府県知事は、移送を行う場合、当該精神障害者に対して移送を行う旨その他厚生省令で定める事項を書面で知らせることとされたとともに、精神保健指定医が必要であると認めたときには、必要最小限の行動の制限(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第二九条の二の二第三項の規定に基づき厚生大臣が定める行動の制限を定める件(平成一二年三月厚生省告示第九六号)において、身体的拘束を定めている。)を行うことができること。移送に際しては、精神障害者の人権に特段の配慮をされたいこと。
5 移送に関する留意事項について
 (1) 移送の実施に当たっては、予算措置を講じて必要な体制整備を図られたいこと。特に、夜間、休日においても迅速に対応するために必要な人員及び車両の確保に万全を期されたいこと。
なお、「精神科救急医療システム整備事業」について、積極的に取り組まれたいこと。
 (2) 移送の実施については、別途、本職通知「精神障害者の移送に関する事務処理基準について」を通知することとしているので参照されたいこと。
 (3) 医療保護入院及び応急入院のための移送は、家族等が説得の努力を尽くしても本人の理解が得られない場合に限り緊急避難的に行うものであるため、都道府県知事は、地域保健活動や事前の調査を十分行ったうえで、精神障害者の人権に配慮し、制度の適用について適切に判断することが必要であること。
 
第六 保護者に関する事項
1 精神障害者の自己決定権を尊重する趣旨から、任意入院者や通院医療を継続して受けている精神障害者といった自らの意思で医療を受けている者に対する医療の強制等に関する規定を保護者の保護義務から除外した。なお、「精神障害者の診断が正しく行われるよう医師に協力する義務」については、患者の生活環境についての情報提供といった、患者の治療に関する意思とは無関係な、保護者自身に課せられた義務であることから引き続き保護者の義務とされていることに留意されたい。
2 保護者に課せられていた精神障害者が自身を傷つけ又は他人に害を及ぼさないように監督する義務については、精神障害者の症状が悪化した場合に医療保護入院の同意を行うなど適切に「治療を受けさせる義務」が課せられれば十分であること等から、当該規定を削除したこと。
3 民法の一部を改正する法律(平成一一年法律第一四九号)の施行に伴い、実施される新しい成年後見制度では、本人による申立てや行政機関による申立ても認められることとされ、成年後見人は精神障害者の生活の支援を図る最適な存在となることから、保護者となることができる範囲を拡大して、保佐人を後見人の場合と同様に優先的に保護者となることができるものとしたこと。
 
第七 精神保健福祉センターに関する事項
1 精神保健福祉センターについて、その名称を弾力化するとともに、都道府県等に当該機能を有する機関を置かなければならないものとしたこと。
精神保健福祉センター未設置の自治体にあっては、早急に当該機能を有する機関の設置のための作業を進められたいこと。
2 精神医療審査会の審査に関する事務の専門性に配慮するとともに、審査の客観性、独立性の一層の確保を図るため、精神医療審査会の事務を都道府県等の本庁ではなく精神保健福祉センターに行わせることとしたこと。各都道府県等は、請求の受付、開催事務、審査の遂行上必要な調査その他精神医療審査会の審査に関する事務を精神保健福祉センターで取り扱うことができる体制を整備する必要があること。
3 精神保健福祉センターの専門性を有効に活用するため、精神障害者保健福祉手帳の交付の際の判定業務や通院医療費の公費負担の判定の業務を精神保健福祉センターに行わせることとしたこと。各都道府県等においては、これらの業務の実施に支障が生じないよう精神保健福祉センターの体制整備に努められたい。
 
第八 施設及び事業の利用の調整等に関する事項
1 精神障害者の社会復帰施設等の利用に関する相談、助言、あっせん等の業務については、保健所長が行ってきたところであるが、これを市町村が行うものとしたこと。
2 利用のあっせん、調整については、
(1)精神障害者の相談に応じ、本人の希望やその障害の状況に応じた適正なサービスについて助言を行う段階
(2)前記(1)の結果を受けて、市町村が利用のあっせん、調整等を行う段階
の二段階が想定されるが、(1)の段階については、できるだけ民間の専門家の能力を活用することが効率的であることから、市町村は、精神障害者地域生活支援センターに委託できるものとしたこと。
3 精神障害者社会復帰施設等については、障害保健福祉圏域単位でその整備を図ることになっており、広域的な調整が必要となるため、都道府県等は、1のあっせん等に関し、保健所による技術的事項についての協力、市町村相互間の連絡調整等の必要な援助を行うものとしたこと。
4 精神障害者の身近な機関で行うことが望ましく、かつ、比較的専門性を必要としない事務である通院医療費の公費負担に係る都道府県知事への申請は、市町村を経由して行うものとしたこと。また、精神障害者保健福祉手帳の申請手続に係る窓口業務についても同様に市町村に改めることとしたこと。
 
第九 精神障害者社会復帰施設に関する事項
1 精神障害者地域生活支援センター(地域の精神保健及び精神障害者の福祉に関する問題全般についての相談、指導及び助言、精神障害者の福祉サービスの利用に関する助言、保健所、福祉事務所、精神障害者社会復帰施設等との連絡調整その他厚生省令で定める援助を総合的に行うことを目的とする施設)を精神障害者社会復帰施設の一つとして位置付けたこと。これは、これまで予算事業として行ってきた精神障害者地域生活支援事業を法定施設化したものであること。
また、精神障害者地域生活支援センターの業務が、利用者のプライバシーに関わるものが多いことに鑑み、その職員が職務を遂行するに当たっては、個人の身上に関する秘密を守らなければならないことを特に規定したことに留意されたい。
2 精神障害者社会復帰施設については、ともすれば障害特性等から人権侵害を受けやすい精神障害者を対象とするものであることに鑑み、施設の設置に先立って届出をさせるとともに、施設の休止又は廃止についても同様の手続によること。
3 精神障害者社会復帰施設の設備及び運営について、法令に基づく明確な基準を定めることとし、その適正な運営を図ることとしたこと。また、この基準に沿った適正な運用を担保するため、精神保健福祉法に基づき、都道府県知事が精神障害者社会復帰施設に対して、報告徴収、立入検査、最低基準に合致しない場合の改善命令、事業の制限、停止命令といった措置が行えるよう、都道府県知事による指導監督規定を設けたこと。
なお、精神障害者社会復帰施設の設備及び運営に関する基準は、別途、厚生省令により定めることとしている。
 
第一〇 精神障害者居宅生活支援に関する事項
1 国及び都道府県等以外の者は、あらかじめ都道府県知事に届け出て、精神障害者居宅生活支援事業を行うことができるものとしたこと。
2 精神障害者居宅介護等事業(ホームヘルプサービス)及び精神障害者短期入所事業(ショートステイサービス)の二事業を、従来の精神障害者地域生活援助事業(グループホーム)とともに新たな在宅福祉事業として位置付けることとし、他の福祉諸法とも整合を図り、これら在宅事業の総称として精神障害者居宅生活支援事業としたこと。
3 精神障害者居宅生活支援事業の内容が、精神障害者の援助に直接関わるものであることから、事業の開始及び休止若しくは廃止の際の事前の届出、立入権限を含めた報告徴収、処遇に問題がある場合の事業停止命令等の規定を設け、指導監督の充実を図ったこと。
 
第一一 国及び地方公共団体の補助に関する事項
1 精神障害者の在宅福祉事業については、地域できめ細かく実施されることが必要であることから、市町村が自ら実施し、又は事業者に費用の補助を行うことにより推進することとするため、新たに、市町村が、精神障害者居宅生活支援事業を行う者に対し、当該事業に要する費用の一部を補助することができるものとしたこと。
2 都道府県等は、市町村に対し、市町村が自ら居宅生活支援事業を実施する場合の費用の一部及び居宅生活支援事業を行う者に対し補助を行う場合の費用の一部を補助することができるものとした。また、都道府県等は、精神障害者社会復帰施設の設置者に対し、当該施設の設置及び運営に要する費用の一部を補助することができるものとしたこと。
3 国は、予算の範囲内において、都道府県等に対し、都道府県等が設置する精神障害者社会復帰施設の設置及び運営に要する費用の一部、都道府県等が行う精神障害者社会適応訓練事業に要する費用の一部及び2による補助に要した費用の一部を補助することができるものとしたこと。
 
第一二 覚せい剤の慢性中毒者に関する準用規定の廃止等に関する事項
第四四条の覚せい剤の慢性中毒者に係る準用規定を廃止し、第五条において、精神作用物質による急性中毒又はその依存症を本法の対象となる精神障害者の例示として明記した。
これは、第四四条の削除に伴い、新たに精神障害者の定義に覚せい剤を含む精神作用物質の依存症を有する者が含まれることを明確にしたものである。従って、覚せい剤の慢性中毒者については、引き続き、精神症状に関わらず、措置入院医療保護入院等の入院措置を講じることとし、覚せい剤の慢性中毒者を精神障害者の保健・医療・福祉の施策の対象として取り扱うこと。
 
第一三 精神障害者保健福祉手帳に関する事項
都道府県知事は、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けた者が、政令で定める精神障害の状態になくなったときには、その者に当該手帳の返還を命ずることができることとしたこと。
 
第一四 その他の関係事項
1 応急入院指定病院の基準に関する事項
昭和六三年四月厚生省告示第一二七号(精神保健法第三三条の四第一項の規定に基づき、厚生大臣の定める基準を定める件)の一部を改正することとしているので、都道府県知事は、地域の実情を踏まえ管内の関係医療機関等と協議の上、当該基準を満たす精神病院を選定し、応急入院者及び医療保護入院のために移送された者の受け入れのために応急入院指定病院を確保するよう努められたい。
2 任意入院者の開放処遇の制限に関する事項
任意入院者は、原則として、開放的な環境での処遇(本人の求めに応じ、夜間を除いて病院の出入りが自由に可能な処遇をいう。以下「開放処遇」という。)を受けるものであること、精神病院の管理者は任意入院者に対して開放処遇を受けることを書面により伝えること、開放処遇の制限は、当該患者の症状からみて、開放処遇を制限しなければその医療又は保護を図ることが著しく困難であると判断する場合にのみ行われるものであって、制裁や懲罰あるいは見せしめのために行われるようなことは厳にあってはならないものとすること等が、精神保健法第三七条第一項の規定に基づき、厚生大臣が定める処遇の基準を定める件の一部を改正する件(平成一二年三月厚生省告示第九七号)により精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第三七条第一項の規定に基づき厚生大臣が定める基準(昭和六三年四月厚生省告示第一三〇号)の一部を改正し、新たに規定されたことに留意されたい。