精神医療に関する条文・審議(その103)

前回(id:kokekokko:20051117)のつづき。初回は2004/10/28。
平成11年法律第151号による改正をみてみます。高齢者や精神障害者などの保護のために、従来の禁治産者制度にかわり成年後見制度が制定されました。従来は禁治産者保護の側面が強かったためにかえって障害者の権利行使が妨げられたという側面があり、これを改めるために民法改正がなされました。
この制度じたいは民法で制定されるために、精神保健福祉法への影響はそれほど大きくはないのですが、しかし「精神医療と法」というテーマにとっては重要な論点であるので、ここでやや詳しくみていきます。

民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案【第45条と附則第1条】
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部改正)
第四十五条 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和二十五年法律第百二十三号)の一部を次のように改正する。
 
 目次中「第五十一条の十二」を「第五十一条の十一の二・第五十一条の十二」に改める。
 
 第二十条第一項中「各号の一」を「各号のいずれか」に改め、同項第三号中「又は保佐人」を「、保佐人又は補助人」に改め、同項第五号を次のように改める。
 五 成年被後見人又は被保佐人
 
 第三十五条を次のように改める。
 第三十五条 削除
 
 第五十一条の二第一項中「民法」の下に「(明治二十九年法律第八十九号)」を加える。
 
 第八章中第五十一条の十二の前に次の一条を加える。
 (審判の請求)
 第五十一条の十一の二 市町村長は、精神障害者につき、その福祉を図るため特に必要があると認めるときは、民法第七条、第十一条、第十二条第二項、第十四条第一項、第十六条第一項、第八百七十六条の四第一項又は第八百七十六条の九第一項に規定する審判の請求をすることができる。
 
附則
(施行期日)
第一条 この法律は、平成十二年四月一日から施行する。ただし、第百十一条の規定は、この法律の公布の日又は核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律の一部を改正する法律の公布の日のいずれか遅い日から施行する。

第145回衆議院 法務委員会会議録第19号(平成11年6月11日)
○杉浦委員長 内閣提出、民法の一部を改正する法律案、任意後見契約に関する法律案、民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案及び後見登記等に関する法律案の各案を一括して議題といたします。
 趣旨の説明を聴取いたします。陣内法務大臣
○陣内国務大臣 最初に、民法の一部を改正する法律案につきまして、その趣旨を御説明いたします。
 この法律案は、高齢社会への対応及び障害者福祉の充実の観点から、痴呆性高齢者、知的障害者精神障害者等の判断能力の不十分な者の保護を図るため、禁治産及び準禁治産の制度を後見及び保佐の制度に改め、これに加えて補助の制度を創設するとともに、聴覚または言語機能に障害がある者が手話通訳等により公正証書遺言をすることができるようにするため、遺言の方式を改める等の目的から、民法の一部を改正しようとするものでありまして、その要点は、次のとおりであります。
 まず、禁治産及び準禁治産の制度の改正等につきましては、第一に、禁治産及び準禁治産の制度を後見及び保佐の制度に改め、本人の行為のうち日常生活に関する行為を成年後見人等の取り消し権の対象から除外するとともに、新たに保佐人に取り消し権及び代理権を付与することとしております。
 第二に、軽度の精神上の障害がある者を対象とする補助の制度を新設し、本人の申し立てまたは同意を要件として、当事者が申し立てた特定の法律行為について、補助人に同意権・取り消し権または代理権を付与することができることとしております。
 第三に、家庭裁判所が適任者を成年後見人等に選任することができるようにするため、配偶者が当然に後見人等となる旨を定める現行の規定を削除し、成年後見人等に複数の者または法人を選任することができるようにするための所要の規定の整備を行うとともに、その選任に当たり家庭裁判所が考慮すべき事情を明記することとしております。
 第四に、成年後見人等は、その事務を行うに当たり、本人の意思を尊重し、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならないこととしております。
 第五に、成年後見監督人に加えて、保佐監督人及び補助監督人の制度を新設することとしております。
 次に、遺言の方式の改正につきましては、現行の公正証書遺言の方式を改め、聴覚または言語機能に障害がある者が手話通訳または筆談により公正証書遺言をすることができるようにするとともに、秘密証書遺言、死亡危急者遺言及び船舶遭難者遺言についても、手話通訳によりこれらの方式の遺言をすることができるようにするため、所要の規定の整備を行うこととしております。
 続いて、任意後見契約に関する法律案につきまして、その趣旨を御説明いたします。
 この法律案は、高齢社会への対応及び障害者福祉の充実の観点から、痴呆性高齢者、知的障害者精神障害者等の判断能力の不十分な者の保護を図るため、任意後見契約の方式、効力等に関し特別の定めをするとともに、任意後見人に対する監督に関し必要な事項を定めることにより、任意後見制度を創設することを目的とするものでありまして、その要点は、次のとおりであります。
 第一に、任意後見契約において、本人は、任意後見人に対し、精神上の障害により判断能力が不十分な状況における自己の生活、療養看護または財産の管理に関する事務について代理権を付与することができ、この契約は、家庭裁判所が任意後見監督人を選任したときからその効力が生ずることとしております。また、任意後見契約は、公証人の作成する公正証書によることを要することとしております。
 第二に、任意後見契約が登記されている場合において、精神上の障害により本人の判断能力が不十分な状況にあるときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族または任意後見契約の受任者の請求により、任意後見監督人を選任し、任意後見契約の効力を生じさせることとしております。
 第三に、任意後見人は、その事務を行うに当たり、本人の意思を尊重し、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならないこととしております。
 第四に、任意後見監督人は、任意後見人の事務を監督し、その事務に関して家庭裁判所に定期的に報告をするとともに、随時、任意後見人の事務について調査すること等を職務とし、家庭裁判所は、任意後見人に不正な行為その他不適任な事由があるときは、任意後見監督人等からの請求により、任意後見人を解任することができることとしております。
 第五に、任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができることとしております。
 第六に、任意後見人の代理権の消滅は、登記をしなければ、善意の第三者に対抗することができないこととしております。
 次に、民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案につきまして、その趣旨を御説明いたします。
 この法律案は、民法の一部を改正する法律の施行に伴い、公示催告手続及ビ仲裁手続ニ関スル法律ほか百八十の関係法律について規定の整備等を行おうとするものであります。
 最後に、後見登記等に関する法律案につきまして、その趣旨を御説明いたします。
 この法律案は、民法禁治産及び準禁治産の制度を後見、保佐及び補助の制度に改め、新たに任意後見制度を創設することに伴い、禁治産及び準禁治産の宣告を戸籍に記載する公示方法にかわる新たな登記制度を創設し、その登記手続、登記事項の開示方法等を定めるものであります。
 以上が、これらの法律案の趣旨であります。
 何とぞ、慎重御審議の上、速やかに御可決くださいますようお願いいたします。
○杉浦委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。
○杉浦委員長 この際、参考人出頭要求に関する件についてお諮りいたします。
 ただいま議題となっております各案審査のため、来る十五日火曜日午前九時三十分から参考人の出席を求め、意見を聴取することとし、その人選等につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○杉浦委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
○杉浦委員長 この際、お諮りいたします。
 本日、最高裁判所浜野総務局長、白木刑事局長、安倍家庭局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ございませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○杉浦委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
○杉浦委員長 これより質疑に入ります。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。石毛えい子君。
○石毛委員 民主党石毛えい子でございます。よろしくお願いいたします。
 それでは、質問をさせていただきます。
 ただいま提案理由説明がされました成年後見制度の制度設計に際しましては、法案の内容にありますように、障害当事者と後見人等との関係のほかにも、例えば費用補償のあり方ですとか後見人等の養成確保など、そうした内容を含む総合的な権利擁護法として制定する見解もあり得たのかとも思いますが、今回、民法の一部改正として成案がなされましたのはどのような理由か、その点をまずお尋ねいたします。
○細川政府委員 お答え申し上げます。
 今回の改正におきまして、御指摘のように民法の改正の立法形式となった理由でございますが、第一に、成年後見制度の改正に関する規定の内容は、判断能力の不十分な人一般を広く適用対象といたしまして、民法全般の通則的な制度である行為能力制度に変更を加えるというものでございます。したがいまして、その適用範囲は一般的であって、規定の内容も一般諸法規の性質を有するということで、民法の一部である性質を有するということでございます。
 第二点でございますが、判断能力の不十分な方としては成年者と未成年者があり得るわけですが、この成年後見と未成年後見民法典の中に一括して規定されておるわけでございまして、今回、その改正は、その中の成年者に関する規定のみを整備するものでございますので、未成年者に関する規定については基本的に現行の規定を維持するということになります。
 そうしますと、こういうことを考えますと、法制的な体系、立法技術の双方の観点から、成年者の保護に関する規定のみを民法典から外すのは適当ではないんではないか、そういう判断に至ったわけでございます。
 なお、我が国の民法の母法の一部とされておりますフランス法においても、同様な考え方がとられて改正がなされたというふうに聞いております。
    〔委員長退席、山本(有)委員長代理着席〕
○石毛委員 経緯については御説明いただいた点で理解いたしました。
 私は、後ほども具体的に質問させていただきますけれども、この制度を利用する際の費用補償の問題ですとか、あるいはこれから後見人等になられる方が拡大していくということでございますので、その養成確保という点ですとか、総合的な制度として機能するように、ぜひそういう観点からもこれからの展開をよろしくお願いいたします。
 それでは、具体的な少し細かい質問になりますけれども、この法案の中で、後見、保佐、補助の対象になる障害者の方は、それぞれ、「精神上ノ障害ニ因リ事理ヲ弁識スル能力ヲ欠ク常況ニ在ル者」、それから「能力ガ著シク不十分ナル者」、「能力ガ不十分ナル者」というふうに三つに分類されているわけですけれども、具体的に、それぞれの、痴呆をお持ちの高齢者の方やあるいは精神障害者知的障害者の方々が、この「常況ニ在ル者」ですとか「不十分ナル者」というような適用をされますときに、実際にどのような手続によって、だれがどのような判断基準に基づいて決めていくのかという、細かいことでございますけれども、そこのところをお示しいただきたいと思います。
○細川政府委員 まず、申し立ての手続でございますが、これは、御本人がたまたま申し立てに必要な能力を持っている場合には御本人も申し立てられますが、そのほか、配偶者、四親等内の親族あるいは市町村長等が申し立てをすることができるということになっておりまして、その申し立てがありますと、家庭裁判所におきまして、家庭裁判所の調査官等が調査された上で、さらに裁判官が関係者からいろいろ調査をされたりなどして、最終的に、裁判官である家事審判官が審判という形で決定をするということになるわけでございます。
○石毛委員 枠組み的な手続といいますか、それについては今お示しいただいたと思いますけれども、具体的にこの制度の対象になる障害者の方々は、御自分がどのように判断されるのかということについて非常に関心をお寄せになるところだと思いますので、もう少し具体的な姿が見えますように御説明いただければと思います。
○安倍最高裁判所長官代理者 御説明申し上げます。
 このような事件につきましては、一般的な取り扱いといたしまして、まず医学的な観点の判断、これがかなめをなすということでございます。そういった観点から、現在の禁治産、準禁治産制度におきましては、鑑定を使って、そういう医学的な観点から御本人の判断力の状況を調査するという点が一点ございます。
 さらに、必要に応じまして、その御本人の現実の生活でございますとか、あるいは行動の状況でございますとか、こういった観点についても、これは主として家裁調査官によるものでございますけれども、調査を重ねまして、これらの事情を総合判断した上で、その要件に達しているかどうかの判断をしていく、こういう仕組みになっておるところでございます。
 そして、今回の制度におきましては、御本人の意思を確認する必要があるといった要請もございますので、これについては十分な手当てを考えていきたい、このように考えておる次第でございます。
○石毛委員 この成年後見制度の策定過程の議論では、医学的判断というところに属することかと思いますけれども、例えばIQをはかるというような、そういう客観的なスケールを中心にするのか、あるいはそれぞれの障害をお持ちの方が具体的にどんな支援を必要とするのかという、そういう状態といいますでしょうか、そうしたところから判断していくかというようなことが議論されたとも伺っておりますけれども、その辺については少し御説明いただくことはよろしいでしょうか。
○細川政府委員 その点につきましては、この法案のもとになるものをつくった法制審議会でもいろいろ御議論があったところでございますが、基本的には、法律要件となります法律的な判断をする能力があるかどうかということが基準になるわけでございます。例えば保佐でございますと、重要な財産行為自身をみずからできるのか、あるいは他の人から信用を受けなければできないのかということが判断の基準になるわけでございます。
○石毛委員 それでは、次の質問でございますけれども、法案を拝見しておりますと、本人の同意ということが、例えば補助制度などでは大変重要な意味を持つものとして位置づけられているわけですけれども、後見、保佐の制度におきましても、先ほど局長御説明いただきました中にもございましたように、例えば審判開始の請求者のうち、配偶者や親族のほかに本人を位置づけてございます。
 ここに本人が位置づけられているということは、私は、後見や保佐の制度においても本人が能力がある者としてとらえられているというふうに理解しているところでございますけれども、そうであるとすれば、この後見、保佐の制度で、本人以外からの請求がされた場合に、私は、法案の中に本人の同意を義務づけていただきたかったという、そうした考え方を持っております。これは、例えば先ほど来御説明いただいております手続の中で、本人の意向をきちっと聞き、確かめるという、そういう手だてが具体的に保障されているのかどうか、これからのことでございますけれども、その点についてお尋ねしたいと思います。
○細川政府委員 審判の申し立てには意思能力が必要であるということになっております。例えば、後見の申し立ての場合ですと、一般的には御本人は申し立ての能力がないのではないかと思われますけれども、こういう方々でもたまたま一時的に能力を回復されている場合があるわけです。そういう場合にまで本人の申し立てを排除するのは適当ではないという趣旨で、一時的にでも申し立ての能力があるときには申し立てを許容すべきであるという考え方でございます。
 他方、これを一般的にすべての場合に同意が必要だということにいたしますと、多くの場合には判断能力がないわけですので、そういう要件にいたしますと、制度自体が機能しなくなる、あるいは御本人の保護に欠けるところが出てくるのではないかということで、法律上は同意ということを要件としなかったわけでございます。手続上、御本人の意思を可能な限り可能な範囲で反映されるようにするというのは当然であろうかというふうに思っておりますが、その点は、これから最高裁におかれまして具体的に手続等をさらに検討されるものではないかというふうに思っております。
○石毛委員 非常に微妙なところなのかなというふうに思います。本当に植物状態がずっと長く続いておられる方で、なかなか本人の御意思を確認するというのはできかねるような状態の方もいらっしゃいますでしょうし、後見や保佐に該当する方でも、例えば精神障害の方の場合には、そのお人によっては、状況が非常に厳しい状態のときと、それから回復したときというようなことを考えますと、回復されたときというところに着目しますと、ぜひともやはり御本人の意思確認というのはしていただきたいという考え方が当然出てくるのだと思います。その辺で、意思確認をどういうふうに考えていくかということが重要なことなのかなというふうに私は考えるところでございます。
 そこで、少し抽象的な質問になりますけれども、この新しい成年後見制度は、ずっと御説明いただいている過程で、絶えず、障害者の方の自己決定の尊重と保護を両立させる、この観点を法案の中に具体化していく、そうした御説明がございました。その自己決定の尊重という点にかかわりまして、少し質問したいわけです。
 自己決定できる能力ということをどういうふうにとらえておられるのであろうか。最近、WHOが精神保健ケアに関する法基本十原則、一九九六年に出されましたものですけれども、その中には、自己決定の過程を援助される権利というのが明記されております。それで、幾つかそのための指針があるわけですけれども、例えばこういう指針が挙げられております。患者が援助を必要とするまさにそのときに、この権利、つまり自己決定できるというこの権利があることを告げる、そういう指針がこのWHOの基本十原則の中の一原則として挙げられております。
 援助つき自己決定ということかと思いますけれども、この法案全体の中に貫かれております自己決定についての基本的な位置づけの仕方について御説明をいただければと思います。
    〔山本(有)委員長代理退席、委員長着席〕
○細川政府委員 ただいま御指摘のWHOの原則は、医療に関する援助の同意ということだと思いますので、財産面に関する成年後見制度とは若干色彩を異にする面もあると思います。
 いずれにいたしましても、新しい成年後見制度は、ただいま御指摘のとおり、自己決定の尊重と本人の保護の調和の観点から、成年後見人等が本人の判断能力の不十分なところを補いつつ、本人がみずから御判断できることは自分で行うように支援することによって、必要かつ適切な援助を受けながら自分の意思で決定できるようにすることを目的とする制度でございます。
 具体的に申し上げますと、例えば、補助の制度においては、手続が本人がよくわからないということであれば、本人のために家族等が申し立てという援助を行うことになりますし、最終的に補助による保護を受けるかどうかは本人の意思と判断によるわけでございます。
 また、同意権付与の審判を受けた本人が補助人の同意を得ずに自己に不利益な契約をした場合には、補助人はその契約を取り消して被害を回復するという援助をすることになりますが、そもそも同意権の付与の審判を受けるかどうかということも御本人の選択にゆだねられているということでございます。また、同意権付与の審判を受けた場合であっても、御本人は、自己の利益を害さない契約について補助人が同意をしないという場合には、家庭裁判所の許可を得て、みずから当該契約をすることができるということになっております。
 また、保佐人におきましても、保佐人の同意権、取り消し権による援助を法律で定めておりますが、保佐人への代理権の付与は本人の選択にゆだねることとしておりますし、また、後見においても、成年後見人の広範な代理権、取り消し権ということで、援助を与えつつも日常生活に関する行為については御本人みずからの判断にゆだねるということにしているわけでございます。
 このように、ただいま御指摘の援助つきの自己決定という考え方は、自己決定の尊重と本人の保護の調和という観点から、新しい成年後見制度の随所に具体的にあらわれているというふうに考えております。
○石毛委員 ただいま援助つき自己決定ということで御説明いただいたわけですけれども、少し抽象的な話になりますけれども、自己決定できる能力と保護というのは、私は、並行する概念ではないのではないか。例えば、一人の人が、一回目に物事を聞いたときにわからなくても、二回目、三回目と説明を受けていくと理解することができる。だから、自己決定というのは、その過程の中で育つといいましょうか、獲得される。ですから、スタティスティックに自己決定できるかできないかということではなくて、自己決定できるように援助する、そこのところが非常に大事なところなのかというふうに考えております。
 そういう意味では、例えば、審判の請求をするときに自己決定できるわけですけれども、そのときに、御本人に、そういうことができますというような、あるいは、補助人の請求をするというのはどういうことなのですという、理解を得るような支援、そこが自己決定という行為が具体化できるかできないかという非常に大きなポイントになるところの一つなのだろうというふうに思うわけです。
 突然、人がここにいて、それで、さあ自己決定ですよと言われたって、そうそう簡単に自分で決められることではないというのは当然のことだと思います。障害をお持ちの方、丁寧に説明をされれば理解できるということがとても多いというふうに私は考えておりますので、今御説明いただきましたけれども、私は、そこにきちっと説明をするということが援助つき自己決定の中でも大変大事な要素であるということを申し上げさせていただいて、次の質問につなげたいと思います。
 法案では、ただいま局長がお触れになりました中にも含まれておりましたが、特定の法律行為に関する保佐人への代理権の付与ですとか補助開始審判請求が本人以外によってされた場合に本人の同意を得るとか、たしか四つ、もう少しあったかと思いますが、六項目ぐらいですか、もっとありますかしら、本人の同意を法案の中に規定をしております。
 そこで、本人の同意につきまして、少し具体的に教えていただきたいと思いますけれども、まず、本人の同意を得るというのは、どのような手続によって行うのかということ。それから、これは後見や保佐の場合にも共通することかと思いますけれども、本人の同意を得るということは、必ず本人に面接するのかどうかということです。
 それから、よく説明することが必要ではないかと先ほど私は申し上げたのですけれども、一度だけの面接で審判内容を決めてしまうのではなくて、場合によっては二度、三度というような、そうした繰り返しの事情聴取といいますか、必要な場合にはそれをするというようなことを義務づけていくのかどうかというようなこと。
 それから、細部にわたる質問でございますけれども、本人の同意といいましても、返事に何か窮するといいますか、なかなか回答ができない場合も多々あるというふうに思います。そこで、そうした場合、本人が拒否しなければ同意とみなすのか。同意を得るということの確認の仕方ということで、今いろいろお伺いいたしましたけれども、細かい質問になりますけれども、そこのところを御説明いただければと思います。
○安倍最高裁判所長官代理者 御説明申し上げます。
 本人の同意、そしてさらに、委員御指摘のような、補助の場合に限らない、後見、保佐の場合の本人の意思確認ということにつきましては、御指摘のように、今回の法案がまさに自己決定を尊重するという考え方に立っているところを踏まえて、十分慎重に対処をしてまいりたいと考えておる次第でございます。
 家庭裁判所の運用の一般的なことを申し上げさせていただきますと、本人の同意を得る方法といたしましては、家事審判官による審問でございますとか、あるいは家裁調査官による面接調査、そして、場合によっては同意書等を活用する場面があるわけでございます。
 そして、今回問題になっております成年後見制度の関係でございますけれども、このような事案の特性を考えますると、基本的には、家事審判官による審問、あるいは調査官による面接、こういったものが中心になろうかと思うわけでございますが、事案に応じて、先ほど申し上げたようなことを踏まえて、どのような方法をとるかを考えていくことになろうかと考えている次第でございます。
 その同意をとる際の具体的な運用でございますけれども、これは、先ほど来委員御指摘のように、本人が自己決定をできるに至るような援助も必要であると御指摘でございまして、おっしゃるとおりだろうと思っております。具体的な面接の中で、この同意をすることの意味がどこにあるのかということを十分御説明をしながら意思確認をしていくことは当然だろうと考えているわけでございますし、また、その一回だけで御本人の意思が確認できない場合には、必要に応じて再度お目にかかるということも考えていかなければいけないだろう、こう考えているところでございます。
 なお、最後に御指摘になりました、真意の確認は、拒否をしない限りは同意ありと見るのかどうかという点でございます。具体的事案ではなかなか微妙な問題はあろうかと思いますけれども、しかし、私どもの考えているところでは、拒否をしないから同意とみなすこととはせずに、やはり、御本人の同意の意思を、前向きな意思表示があることを確認するという方向で考えてまいりたい、このように考えておる次第でございます。
○石毛委員 ありがとうございます。
 今御答弁いただきました内容は、これは具体的には家事審判規則の中に規定されていくことになるのでしょうか、あるいは、もう少し具体的な方法が何らかの形で明示されるということになりますでしょうか。そこのところをお教えください。
○安倍最高裁判所長官代理者 私ども、まだ家事審判規則については検討の過程にあるわけでございまして、その過程での議論を御紹介することはお許しいただきたいと思いますけれども、基本的には、御本人の陳述を伺うということについては、その枠組みについては、何らかの形で規則の上で明記することをしてはどうだろうか、こんな方向で考えております。
 ただ、それを超えた部分につきましては、極めて具体的な場面に応じた対応になるものでございますので、規則という形で明記することがなかなか難しい面があろうかと思いますので、これは、運用の中での積み重ね、その周知徹底の方向で考えていきたい、このように考えておる次第でございます。
○石毛委員 ありがとうございました。
 今までの御答弁を伺っておりまして、私はこういうふうに理解いたしました。後見、保佐、補助の制度、ともに、継続的に植物状態におありになるような方は別としまして、ある時点で判断する力のある方につきましては、本人が知らないところで後見制度が適用になるということはないというふうに基本的に理解してよろしいということでございますね。そういうふうに私は今までの御答弁を伺いましたけれども、それでよろしいでしょうか。
○安倍最高裁判所長官代理者 私どもとしても、委員御指摘のとおりのものとして考えているところでございます。
○石毛委員 それでは、次の質問に移らせていただきます。
 実際の運用に関する具体的な質問を続けさせていただきますけれども、後見人、保佐人、補助人の選任ということにかかわりまして、法案では、利益相反がないことというふうに規定されております。この規定をされる際の、実際の運用ということに関しまして、まず、どのような手続ですとか基準に基づいて選任されるのかということ。
 それから、ちょっと細かい点になってしまいますが、質問を続けさせていただきます。
 現在の禁治産制度や準禁治産制度では、実態としてどのような方が後見人に選任されておられるのか。そして、新しい制度が機能し始めますと、後見人等になる方はどういう方が多くなるというふうに制度の運用を予測されておられるのかということ。
 それから、後見人等になられる方にその役割や責任等についてどういうふうに御説明をされるのかということ。それから、その役割や責任が的確に遂行されているのかどうかの確認というのはどのようにされるのかということ。
 細かい質問が続きますけれども、後見人は、決まった時点での役割についての説明というようなことだけではなく、その後も定期的な研修の実施というようなことをされるお考えはあるのかどうかということ。さらにはまた、これからこの制度が有効に活用されていきますと、多数の後見人の方が必要になってくると思いますけれども、後見人を養成する公的な機関というようなものを設けていくお考えがおありかどうかというようなこと。
 大変具体的になりましたけれども、この辺についてお答えいただければと思います。
○細川政府委員 まず、今回の改正案におきましては、家庭裁判所は、本人の心身の状態、生活状況及び財産の状況、成年後見人となる者の職業及び経歴、本人との利害関係、本人の意見、その他の事情を総合的に考慮して、適任者を成年後見人等として選任することとされているわけでございます。
 現在、裁判所が禁治産、準禁治産の制度を運用しているわけですが、現在の法律のもとでは、後見人、保佐人には、まず配偶者がいる場合には配偶者が当然その後見人、保佐人になるということは民法の定めているところでございますし、そうでない場合には、本人の親族が選ばれる場合が圧倒的に多数でございます。
 今回の改正案では、配偶者が当然に後見人になるという制度を廃止いたしまして、家庭裁判所が個々の事案で最も適任な方を成年後見人に選任することができることとしているわけでございます。改正後も、現実には配偶者の方が最も適任である場合が多いと思われます。
 また、配偶者が適任でない場合には、御本人の親とかお子さんとか、そういった親族の中から選ばれる場合が多いのではないかと思われますが、例えば、本人の財産の管理をめぐって親族間に争いがあるような場合には、中立公平な立場にある第三者が後見等の事務を行う必要がありますので、そういう場合には、法律の専門家である弁護士、司法書士等が後見人に選ばれる場合がありましょうし、また本人の心身の状態、生活状況によっては、社会福祉士や福祉の専門家、あるいは社会福祉協議会、福祉関係の公益法人等が成年後見人に選任されることもあるのではないかというふうに思っております。
 次に、利害関係の問題でございますが、これは先ほど申しましたように、後見人と本人との利益が相反する場合には後見人に選ぶには適当ではないということになっているわけですが、例えば、本人が入所している施設を経営する法人は本人に対して入所の費用を請求する立場にあるわけです。したがいまして、当該の法人が入所契約の点に関して後見人になるということについては、これは適当じゃない、そうすべきではないということでございます。
 しかし、本人が入所の施設の経営法人であるからという理由だけで、常にすべての事項について成年後見人から排除されるというものではないわけでして、例えば、金銭管理に関係ないこと、無償のヘルパーの派遣契約というようなことになりましたらば、場合によっては、他に適任者がいなければ選ばれる場合もあるであろうということでございます。
 それから、後見人の研修でございます。これにつきましては、現在、弁護士会司法書士会等の法律家の団体あるいは社会福祉協議会等の社会福祉関係の法人におかれまして、成年後見に備えてさまざまな準備をされておられるというふうに聞いております。したがいまして、私どもといたしましては、こういった方々に対するいろいろな資料の送付等、あるいはいろいろな御協議に応じるというようなことで、そういった団体の後見人候補者の養成について協力をしてまいりたいというふうに思っているわけでございます。
 あと、具体的な選任の方法につきましては、家庭裁判所の手続でございますので、最高裁からお答えいただきたいと思います。
○安倍最高裁判所長官代理者 家裁の実務の実情という観点から、多少御説明させていただきたいと思います。
 お尋ねの、実情は現在どういう人が後見人になっているのかという点でございますけれども、これは詳しい統計が手元にないわけでございますが、平成八年にある調査をした結果を踏まえて見ますと、今法務省から説明があった法定後見人がなっているケースが一七%で、残りの八三%は選定後見人からなっているという実情がございます。そして、その選定後見人にどういう方がなっているかということでございますけれども、親がなっているケースが一五%、子供が二五%、兄弟姉妹が三二%、弁護士さんの場合は三%、あとはその他二五%、大体こういう分布状況にあるというのが実情のようでございます。
 具体的な後見人の選任の方法でございますけれども、通常家裁に申し立てがされる場合には、多くのケースは後見人の候補者を挙げてこられるケースがございます。候補者を挙げてくる場合には、その候補者を一つのポイントに考えていくわけでございますが、ただ、事案によっては、利害関係がふくそうしている場合には、他の候補者を他の親族が出してくるというケースもございまして、そのような場合に、候補者間どちらが適任かということを考えていかなきゃいけないという問題がございますし、候補者が挙がってこない場合には、家庭裁判所が身分関係あるいはその他の支援機関等を考えて選任を考えていく、こういうことになろうかと考えております。
 具体的な基準は、法律に規定されている基準をまさに個々具体的な事案を見ながら考えていくしかないということでございまして、今明確にこれを基本線にするということを申し上げることは適当じゃないように考えているわけでございます。具体的には、家裁調査官がその候補者たる方にお目にかかるなどして、その候補者の実情でございますとか、被後見人になろうとしている御本人との利害関係でございますとか、御本人の意思でございますとか、そして根本的な点では、御本人の生活状況、財産状況等を調査して適任者を考えていく、こういったことになろうかと考えております。
 さらに、後見人になる人に対してどういう説明をするのかという点でございますけれども、これは現在でも行われていることでございますけれども、やはり御本人に対しての後見人の役割の重要性、特に財産管理面の重要性、また財産管理を的確に行っていく上でのポイント、注意事項でございますとか、あるいは何らかの問題が生じた場合に、家裁とどういう連絡をとって対処していくかということについての具体的な御説明をさせていただいておりますし、裁判所によっては説明書をつくりまして、これをお渡ししてその点の御理解を深めるための方法にしているところもあるように承知しているところでございます。今後も、この制度が具体化された場合には、その面については特段の工夫をしていきたい、このように考えているところでございます。
 それから、後見事務が適正に行われているかどうかをどう確認するのかということでございますけれども、これは現在の運用でも同じ問題があるわけでございますが、現在の後見事務につきましては、事案によっていろいろな確認の方法があるわけでございます。定期的に後見人から報告をもらう方法、あるいは最初の段階から後見人に対して家裁が相当指導的な立場で関与していく方法等があるわけでございますが、基本的には、財産についての目録とか、その処理状況の帳簿を出してもらう、そして後見状況についての説明を口頭で伺う、こういったことを中心にして実情把握をしているということになろうかと考えております。
 また、研修の実施という観点でございますけれども、家庭裁判所の立場から申しますと、個々の事件における後見人の仕事ぶりを家庭裁判所として逐次フォローしていきながら、その中で必要な指導を申し上げる、こういった形で後見事務の適正な運営を担保していきたい、このように考えている次第でございます。
 なお、最後に御指摘のございました、多数の後見人を確保する観点からどういうことを考えているかということでございますけれども、委員御指摘のとおり、この制度改正によって、親族のみならず、社会がいわば後見人の給源として期待されている、こういった面があるわけでございまして、その意味では、地域社会の関係諸機関の御協力なしではできないことだろうと思っております。家裁といたしましては、こういった社会に対しての働きかけを行っていきたいと考えている次第でございます。
 以上でございます。
○石毛委員 たくさんの御説明ありがとうございました。
 私は、御説明を伺っておりましても、やはり利益相反の確認というのは非常に難しいことなのかなという思いがいたしました。私は、障害者関係の方との出会いの中で、しばしば遺産相続をめぐって御兄弟が障害者の方の相続権を妨げるというようなことをたくさん聞くチャンスがありますし、それから、施設に入所の方の、例えば障害基礎年金というようなものが、行動半径が狭ければ、生活圏域が狭ければ、基礎年金を使うこともできずにたまっていって、その手帳の管理を施設側がしていてというようなことで、具体的に利益相反が起こるというようなことを間々聞くことがあります。
 今、局長の御答弁の中で、例えば入所している施設が法人施設の場合に、財産管理についてはなさらないというようなお話がございましたけれども、例えば、財産管理以外で、施設に入所している方が入院されるようなときはどういうふうに判断されるのかしら。もしかしたら、施設にいていただかない方がいろいろな意味でいいかもしれない方に入院を勧めるというようなことも起こり得るのではないか。そういうようなときに、生活面まで含めて施設が法定後見人になっていた場合に、利益相反が起こることもあるだろうというふうに思います。
 それから、家庭裁判所の細かい規定を伺っておりましても、実際に後見人になる方の候補者というのは親族を言ってこられることが多いということになりますと、親族が利益相反しないというのはどこまで詰めていけるのだろうか。それから、親族よりも、社会的な後見人、例えば社会福祉士会の方ですとかいろいろな方がいらっしゃると思いますけれども、そういう方の方がいいんじゃないかという判断もあるんだと思いますけれども、具体的にどんなふうに御本人の確認をいただきながら詰めていくかというのは大変困難な作業のように思いますが、もう少しこの点で御説明いただくことは可能でしょうか。
○細川政府委員 御指摘のように、利益相反という概念は非常に広い概念でございますし、場合によって適用がいろいろあるわけでございます。例えば、夫婦とか兄弟姉妹という親族関係の方々は、通常は、これは家族間の愛情に基づいて本人のための利益を図ろうということでございますので、利益相反ということは考えられないわけですが、そこに遺産の相続ということが絡んできますと、まさに重大な利益の相反ということになるわけでございます。
 それから、施設について御質問でございましたが、施設についても、例えば、御指摘のように、施設から出すために入院契約をするということがあるとすれば、それは重大な利益相反ということになるわけでございます。ですから、これは選任のときに、御本人の状況をよくよく裁判所で勘案されて、利益相反にならないような方を、裁判所の能力と英知を活用して選任していただくことがぜひとも必要であるというふうに思っておりますし、場合によっては、複数の後見人を選任して利益相反にならないように分担するということも考えられるわけでございます。
 今回の改正では、そういうことができますように、法人が後見人になられる、あるいは複数の方が後見人になられる、それから、当然に配偶者が後見人になるという法定後見人制度を改めて、裁判所が最も適当と認める方を後見人に選任するようにという配慮がされているつもりでございまして、この点については、家庭裁判所による適切な運用ということを私どもとしても期待いたしたいと思っているところでございます。
○石毛委員 安倍局長さんの方から何か御説明いただけることがございましたら、お願いいたします。
○安倍最高裁判所長官代理者 具体的な事案を前にした場合、なかなか難しい判断を迫られるだろうということは、委員御指摘のとおりだろうと思っております。施設の場合もありますし、より日常的には、親族間の利害の対立という場面が少なからず見られるところでございますので、この点については、関係者、相当広い範囲で調査をすることも必要になってくる場合があろうかと思います。
 その中でどういう人を選任していくのか。最善の選択をしていくということになろうかと思いますけれども、その点については、家庭裁判所としても、利益相反の問題が起きないように十分配慮していきたいと考えている次第でございます。
○石毛委員 利益相反の問題が起きないように後見人を選定する、そのことは、わかりやすい具体的な事柄として当然に御本人、被補助人になられる方、被保佐人になられる方にも説明をされて、そして後見人を決定していくということになるわけでございますね。
○安倍最高裁判所長官代理者 後見人の選任につきましても、できるだけ御本人に意思を確認した上で、その御本人の意思に沿う形を踏まえて、さらに適正な選任をするという観点で運用されていくものと承知しておるところでございます。
○石毛委員 利益相反になるかならないかという、後見内容にかかわる、そのことが具体的に被補助人等になられる方にきちっと理解されることが大変重要なことなんだというふうに思います。
 あなたの補助人はこの方ですよというようなことで、あとは利益相反がないという抽象的な論では、とてもこの制度はきちっとした権利保障にはならないんだと思いますので、あくまでも当事者の、障害をお持ちの方が理解し得る最善の説明をしていただくということが大変重要なポイントになるのではないかと、今伺っていて思いました。
 それから、この後見人の選任にかかわりまして、今細川民事局長さんからは施設の法人について触れられましたけれども、これから在宅で暮らす方が大変ふえていくと思います。在宅で暮らす障害者の方につきまして、法人後見というのはどういう場合が考えられますでしょうか。少し御紹介いただければと思います。
○細川政府委員 現在、いろいろな団体が事実上の支援活動をされておられるわけですが、そういう中で、例えば財産的な面について弁護士さんに頼むとか、あるいはいろいろな公益法人に頼むということをされておられます。ですから、そういう面につきましては、施設に入っておられない方でも団体にお願いするということはあるんではないかと思っております。
 私が今聞いておりますところでは、例えば司法書士会は、そういった財産の管理を支援するために新しく法人を設立して、そういった財産管理についての後見の事務ができるように現在準備しているというように聞いておりますので、そういうことが一つの例として挙げられるんではないかと思います。
○石毛委員 次の質問でございますけれども、この後見制度は、例えば後見事務に要する費用は本人が負担するということになっております。多くの障害者の方から伺います声では、この制度を活用しようと思っても、費用を負担する能力が乏しい場合には実際には役に立たないというような声もあるわけでございますけれども、国が費用補助をしていくというようなお考えは、これから先具体的にはどのようでございますか。
○細川政府委員 費用の点でございますが、まず、審判の申し立てに要する費用でございますが、これにつきましては、資力の要件等の所定の要件を満たしている場合には法律扶助の対象となるわけでございます。
 それから次に、後見事務に要する費用とか報酬の問題でございます。よい後見人等を得るためにはそれなりの報酬を払う必要があるということでございましょうし、また、その後見は、基本的には御本人の財産等の利益を守るために行われるものですから、民法の原則としては、本人がその財産の中から支弁すべきものとしているわけでございます。
 しかし、他方、社会福祉分野においては、低所得者も含めて、日常生活に必要な援助を行うための利用者の支援の取り組みについて、成年後見制度との連携、補完を視野に入れながら検討が進められていく必要があると考えておりまして、今般厚生省で御検討中の社会福祉基礎構造改革において、判断能力の不十分な方に対する無料または低額の料金による福祉サービスの利用援助等を行う社会福祉事業の創設と、そのための全国的な体制の整備を進めることとされておりますので、その厚生省での検討に大変期待いたしたいと思っているところでございます。
○石毛委員 ぜひとも、厚生省ともよく協議をされて、心配のない費用の負担ができるようになればと要望いたします。
 次の質問でございますけれども、後見事務の規定のうち、しばしば財産管理に関して注目がいくわけでございますけれども、法案の第八百五十八条では、成年被後見人の生活ですとか療養看護に関する規定も含まれております。具体的に、生活ですとか療養看護といいますのはどのような内容を指すのかということをお示しいただきたいと思います。
○細川政府委員 新しい八百五十八条では、御指摘のような定めがあるわけでございまして、そこに定めております生活または療養看護と申しますのは、身上監護に関する法律行為を指すわけでして、具体的には、介護契約、施設入所契約、リハビリに関する契約、病院入院契約等を意味するわけでございます。
 したがいまして、成年後見人は、介護契約の相手方が給付する介護サービスの質、内容が、本人の保護にとって適切なものであるかどうか等を判断して介護契約をするということになるわけでございます。
○石毛委員 御答弁いただきました内容の中には、契約の後、例えば施設に入所されまして、その後の施設の中での生活状況の点検、評価というような継続した具体的な行為は含まれるのでしょうか。よく、御説明を伺いますと、おむつをかえるような具体的なケアは含まない、入所契約や入院契約、その契約というふうに御説明を伺うのです。そこも質の判断を含めてとても重要ですけれども、入所した施設の中で安心して安全な生活ができているか、入院している医療機関の中で安心できる医療を受領できているかという、そこのところも非常に重要なポイントになると思います。継続するサービスの質の点検というところはいかがでございますでしょうか。
○細川政府委員 先ほど御指摘の新しい第八百五十八条では、「成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。」ということになっているわけでございまして、一たん介護契約をすればそれで事足れりというわけではございませんでして、その介護契約が適切に実施されているかどうかということを見守っていくということも、当然、後見人の職務でございます。それが適切でなければ、その契約を解除して、新しい適切な介護契約を結び直すということも、当然、成年後見人の職務の範囲ということになるわけでございます。
○石毛委員 ありがとうございました。
 この法案は往々にして財産管理のところが非常に注目されておりまして、ケアの部分というのはなかなか具体的なイメージがわいてこなかったというようなことがあったと思いますけれども、今の御説明、大変ありがたかったと思います。
 最後に、大臣に御所見をお伺いしたいと思います。
 私は、きょうずっと質問をさせていただいておりまして、この法律の非常に大切なポイントは、障害を持つ当事者の方がこの制度をよく理解されて活用していかれ、そして安心できる生活を営んでいくことができるようにという、そこがとても大事なポイントだというふうにずっとお伺いしておりました。
 そこで、ぜひ御所見をと思いますのは、今世界的にセルフアドボカシーという、権利は自分たちで守っていくというような動き、流れができてきておりまして、障害者の方みずからがNPO活動として権利擁護機関をつくるというようなことが広がってきております。障害当事者の方たちが、相談に乗り合うとか、こういう権利があるとか、このことはこういうふうに考えたらいいとかいうことをお互いに情報交換し合うということは、力を発揮していく上で非常に大事な社会的な要素だというふうに私は思っているところでございます。
 この成年後見制度がこれから社会的に機能していく場合に、その一翼として、障害者の方々の民間活動として、権利の相談、あるいは権利を学ぶ、みずから権利を擁護する活動、こうした取り組みが広がっていくことがとても大事じゃないかと私は考えているところでございます。成年後見制度のインフラ整備という意味もあるかと思います。こうしたことに対しまして、大臣は、どのようにお考えになられますでしょうか。
○陣内国務大臣 ずっと委員のお考え方を伺ってまいりまして、私もまさにそのとおりだと思っております。
 今回の成年後見制度についての改正というのは、自己決定の尊重、それから、ノーマライゼーション等の新しい理念と従来の本人の保護の理念との調和をどう図るかということでございまして、障害者の方々の意思を十分に尊重した支援の仕組みを制度化していく必要があるということだと思います。したがって、本人の自己決定に基づく主体的、積極的な制度の活用が大変期待されるところだというふうに考えておるわけでございます。
 法務省といたしましては、利用者に対する助言、情報提供等を行う相談、広報等の充実、あるいは成年後見人等の制度の担い手の確保等につきまして、各種の福祉関係機関・団体、地方自治体、弁護士会司法書士会等を初めとする関係方面との緊密な連絡、協力を図りながら、障害者による成年後見制度の主体的、積極的利用が促進されるように取り組んでまいりたいと考えております。
○石毛委員 ぜひとも、障害者の方たち自身の権利擁護にかかわる活動に新しい御支援の仕組みをお考えいただきたいと思います。
 質問を終わります。どうもありがとうございました。
【次回へつづく】