精神医療に関する条文・審議(その104)

前回(id:kokekokko:20051118)のつづき。初回は2004/10/28。
ひきつづき、平成11年の成年後見制度制定・精神保健福祉法改正についてみてみます。

第145回衆議院 法務委員会会議録第19号(平成11年6月11日)
【前回のつづき】
○杉浦委員長 次に、坂上富男君。
坂上委員 坂上でございます。
 民法の一部を改正する法律案、私はこれは大賛成でございます。できるならばもっと早く審議すべきであると理事会等で主張してきたのでございますが、きょうようよう審議に入るわけでございます。
 この法律は、この国会で成立をさせたいと思っておるのでございますが、会期の十七日までには成立はいたしません。そうだといたしますと、これはまた大変残念なことでもあるわけでございます。ましてや、参議院があるわけでございまして、本当に私たちは渇望して待っておった法案でなかろうかと思っておるわけでございますので、私たちはこの成立を一日も早く実現しなければならないと思っておるわけでございます。
 今お話がありましたとおり、この法律案は、高齢社会への対応と障害者福祉の充実の観点から、判断能力の不十分な方々の保護の目的を持っておるわけでございます。また、手話通訳等による公正証書遺言、これも新しい創設でございまして、まさに我が日本の民法におきましては画期的なことを今なし遂げようといたしておるんじゃなかろうか、こう思っておるわけであります。
 しかしまた、一面、私は、介護保険成年後見法は車の両輪じゃなかろうか、こう思っておるわけであります。これがまさに、これからの日本の高齢者社会の福祉対応に対しまして大事な役割を演ずるんだろうと私は思います。
 今、石毛委員のお話も聞いておりまして、なるほどなと思ったのでございますが、いわゆる介護保険も、保険あって介護なしと言われております。そして、四月前に選挙をしないと与党の方が不利だとか言われております。あるいは、これの実施を延ばそうとか、こういうようなことも言われておるわけであります。確かに、これを充実させるには、なかなか介護保険も容易でないと私は思っておるわけであります。
 同じく、この成年後見法もまさにそうなんじゃなかろうか。資力のある人だけは利用できるけれども、資力のない人がどうも利用が遠慮がちになっちゃって、実質的な効果が生まれないんじゃなかろうか。せっかく仏つくって魂入れずというような実態になるんじゃなかろうか。私は、これを勉強しながらそんなようなことを考えておるわけでございまして、そういう観点に立ちながらこの問題は論議されなければならない問題だろうと思っておるわけでございます。
 そんな観点からひとつ質問をさせていただきますし、この法案は、我が党にとりましては賛成でございまして、一日も早い成立を期待いたしておるわけであります。しかしまた、新しい条文でございまするから、有権的解釈は的確になされておらなければならぬと思うわけでございますものですから、できるだけ慎重な審議も必要になってくるんだろう、こんなように私たちは思っておるわけでございます。
 そこで、まず第一に、本案が後見、保佐、補助の三類型をとっておりますが、ヨーロッパの立法の動向を見てみますると、ドイツの一九九〇年のいわゆる世話法が現在の到達点でなかろうかと言われておりますが、この世話法は、一つの後見制度という枠組みの中で、本人が必要とする範囲で援助の範囲を決めるという一元的構成をとっておるようでございます。
 そこで、本改正案が、今申しましたような一元的構成を採用しなかったのはなぜなんだろうかということ。それから二番目に、将来的に一元的な構成を採用する考えはないんでございましょうか。そして、これに対する見直しについてはどのように立法者側ではお考えになっておるのか、簡単で結構でございますが、御答弁いただきます。
○細川政府委員 お尋ねの成年後見制度の制度的枠組みでございますが、これには、大別いたしまして、フランスのような多元的制度をとっている上で各類型の内容を弾力化する枠組みと、ただいま坂上先生御指摘のドイツの世話人法のように、法定の類型を設けずに、個別具体的な措置の内容を全面的に裁判所の裁量的判断にゆだねるという一元的仕組みと、二つあるわけでございます。これについては、法制審議会でも相当議論されましたが、最終的には、一元的ではなくて、多元的制度をとりつつ、各人の個別的な状況に即した柔軟かつ弾力的な措置の設定を保障するという一元的制度の趣旨も取り入れるということがよろしいのではないかということになったわけです。
 理由は三点ほどございまして、まず、先ほど来指摘がございますように、精神上の障害のある方の財産をめぐる親族間の紛争というのがございまして、これがふえているという実情にあります。そこで、重度の精神上の障害を有する方については、やはり本人保護の観点から、一定の範囲の代理権、取り消し権等による保護をあらかじめ法律で定めておくことが必要であるということでございまして、そういった方について、申立人の請求に応じて特定の法律行為のみについて代理権を付与するということでは、本人の保護としては十分でない場合があるだろうということでございます。
 それから、仮に一元的な制度をとりましても、裁判所の実務的な運用面ではある程度の類型化が当然必要になってまいりますので、多元的制度をとった場合と実際の運用においては大差はないんではないかということでございます。
 それから、多元的制度のもとで幾つかの法定の類型と基準が示されている方が制度の利用者としても予測可能性があって利用しやすいし、自己決定が容易であり実務的にも運用しやすいんではないか、そういうような観点から、現在の多元的制度にされたわけでございます。
 以上のとおりでございまして、本人保護の観点から、本人の判断能力の程度に応じて保護措置の内容を法定する多元的制度をとりつつも、弾力的な措置の選択を保障して一元的制度の長所を生かしていくということが妥当であろうということでございます。
 次に、制度の見直しについてお尋ねでございますが、今回の改正は、実体法、手続法の全般にわたる抜本的な改正を内容とするものでございまして、新制度の運用が実務として定着し、その状況を客観的に分析し判断できるまでには相当の期間を要するんではないかと思われます。しかしながら、人間がつくる制度でございますから、将来にわたって常に正しいというわけではありませんので、私どもといたしましても、今後、そういった運用の状況を注視していく必要があるというふうに考えているわけでございます。
坂上委員 以下の質問は結論だけで結構でございます。
 まず、利用者についてでございますが、本改正案は、制度の利用者として、判断能力が十分でない人のみを対象としております。身体に障害を持つ人を対象としておりません。身体的な障害を持つ人も、契約を行うのに支障があり、かつ自分自身で代理人を選任し監督することが困難な場合も考えられるんじゃなかろうかと思いますが、身体障害者にも後見制度の利用の道を開くという考えはございますか。
○細川政府委員 御指摘の点は、昨年四月に要綱試案を発表したときに問題点として載せまして、意見照会を行いました。その結果、実は、身体障害者の関係団体の大多数の方が消極の意見であったわけでございます。それから、昭和五十四年の民法改正前は、古い言葉でございますが、準禁治産者の対象として、聾者、唖者、盲者というものが対象となっていたんですが、それを身体障害者の団体の皆様方からの強い要望があって削除したという経緯がございます。こういった理由から、身体障害者のそのことのみを理由として後見制度の対象にするのは適当ではないという判断に至ったものでございます。
坂上委員 それから、補助についてですが、補助の利用者、対象者は、精神上の障害によりて事理を弁識する能力が不十分な者とされている一方、明文で後見、保佐の対象者を除外しております。
 そこでまず第一でございますが、補助は、本人の意思に基づいて本人が選択する範囲で援助の範囲を決める制度であります。本人の意思を尊重して、柔軟な制度でもあります。また、後見のように全面的な代理権を認めると後見人の権限濫用の温床ともなりますので、補助は大変望ましい制度とも私は考えております。殊さら後見、保佐の対象者を除外する必要はないと思われるのでございますが、これはなぜ除外をしているんでございましょうか。
 それから第二問でございますが、最高裁または法務省でも結構ですが、保佐、後見の対象者を必ず除外しなければならないとしますと、補助開始の審判の申し立てがなされた場合、高額の費用を払って保佐、後見の対象者でないという鑑定をしなければならないのではないかという心配がないわけではないと思います。このような厳格な扱いにせず、補助の必要があれば補助を開始するという柔軟な運用が期待をされているんじゃなかろうかと思いますが、この点についてはいかがでございますか。簡単で結構です。
○細川政府委員 我が国の現状では、精神上の障害のある方の財産をめぐる親族間の紛争を背景とする禁治産、準禁治産の申し立てが急増している実情にございまして、重度の精神上の障害を有する方については、本人の保護の観点から、一定の範囲の代理権、取り消し権による保護をあらかじめ法律で定めておくことが必要であるというふうに考えられたわけでございます。そういう方に対して一定の範囲の代理権だけを与える補助ということでは、ちょっと本人の保護のために不十分であるということを判断されたわけでございます。
 次に、鑑定の問題でございます。これについては後ほど詳細に最高裁から御答弁があると思いますが、要するに、補助の申し立てがあった場合に、その過程で保佐や後見でなければこの方たちの保護を図れないという事情がわかってくれば、そういう疑いが出てくれば、そこで鑑定等が必要があればするということになるんではなかろうかと思っております。
○安倍最高裁判所長官代理者 御説明申し上げます。
 補助の申し立てがあった場合の扱いでございますけれども、この補助については、本人の申し立てあるいは同意を要件とするということで制度設計されている関係もございまして、また、関係各界の御意見の中には、補助については鑑定を要するものとしない方がよい、こういう御意見もあるところでございます。
 現在、私どもといたしましては、この運用についてどうするか検討している段階にございますけれども、補助の件については、後見類型、保佐類型に当たらないという点も含めて、診断で処理することは差し支えないものとする、こういう扱いができないものだろうかという観点で検討を進めている段階にございます。
坂上委員 それから、今度は、日常生活に関する行為の範囲についてでございますが、日用品の購入その他の日常生活に関する行為は取り消し権の対象から除外されております。取り消し権を認めると、かえって取引を拒絶される場合もあるので、本人がみずから取引をすることを可能とするこの規定は、本人の社会参加、自律に資するものとして、これは評価していいのでなかろうかと思っておるわけでございます。
 そこで、まず第一の質問は、日用品の購入その他の日常生活に関する行為というのは、必ずしもその概念は明確でありません。具体的にはどのような行為をいうのか、明らかにしてほしいと思います。特に、被補助者、被保佐人のように比較的判断能力が高い人には年金程度は自由処分を認めるのが相当と思われますが、日常生活に関する行為について、そのように自由処分を可能とする解釈はこれで可能なんでございましょうか。
○細川政府委員 日常生活に関する行為については、基本的には民法七百六十一条の日常の家事に関する法律行為の解釈が参考になると思いまして、本人が生活を営む上において通常必要な法律行為を指すものと解されます。
 具体的には、各人の職業、資産、収入、生活の状況や当該行為の個別的な目的等の事情等のほか、法律行為の種類、性質等の客観的事情も総合して判断することになりますが、典型的な例といたしまして、明文で例示として挙げました日用品、食料品、衣料品等の購入のほか、電気、ガス代、水道料等の支払い、それらの経費の支払いに必要な範囲の預金の引き出し等が挙げられると思います。
 御指摘の年金の問題でございますが、自己決定の尊重の観点から、本人の資産の状況に大きな変動が生じない限り、年金等の管理、処分を本人の日常生活に関する行為と認めることができる場合があり得るものではないかと考えております。
坂上委員 それから、今度は、身上配慮義務でございます。
 成年後見等の義務として、本人の心身の状況及び生活状況を配慮する義務でございます。
八百七十六条の十第一項が想定しておるのは、本人の身上、生活の平穏、安定に資するもの、こういうものでございまして、評価していいのでなかろうかと思うのであります。
 そこで、まず第一問でございますが、これらの規定によって、成年後見人等は具体的にどのような義務を負うのか、少しお話しをいただきたいと思います。
 二番目に、福祉の面からは、要保護者に対する、いわゆる見守りが重要であると言われておりますが、このような見守りがこの義務の中に含まれるのでありましょうか、どうでしょうか。
 それから、三番目の一でございますが、医療行為に対する同意がこの義務の中に含まれるかどうか。含まれるとした場合は、本人、いわゆる成年被後見人等に対して不当な医療行為等が行われることを防止するために、この法律の中にどのような手当てがなされておるのか、お話しをいただきたいと思います。
 そして三番目でございますが、厚生省にお聞きをいたしますが、将来的に、医療同意法というような、一般的な同意に関する法律整備の考え方は今お持ちになっておるのかどうか、これもお答えをいただきたいと思います。
○細川政府委員 御質問の第一点目の、成年後見人等は具体的にどのような義務を負うのかという点でございます。
 この義務には、例えば、介護契約の締結等のように身上監護に関する法律行為や、居住用不動産の管理、処分等のような財産管理に関する法律行為を遂行するに当たって、金銭面の得失だけを考慮しないで、本人の健康状態や生活環境等を配慮して、本人の保護により資するような事務処理を行う、そういう義務が含まれているわけでございます。
 二番目の見守りの点でございますが、これは、本人の状況を随時確認して、状況の変化に応じて介護契約等の内容を見直すということだと思いますが、この成年後見人の権限の対象に、当然介護契約が含まれておりますので、そういった場合には、見守りもこれは身上配慮義務の中に含まれ得るというふうに考えております。
 それから、手術に関する同意でございます。これは、財産上等のいわゆる民法上の契約に関するものではございませんので、これは、法定後見人等の身上配慮義務の中には含まれないというふうに考えております。この問題は、医療の一般の問題として、一般的な法理にゆだねられるべきであろうというふうに考えられておるところでございます。
 以上でございます。
○小林(秀)政府委員 今、先生、医療のことについておただしでございますが、医療は、医師など医療従事者が、患者の状況、立場を十分尊重しながら、信頼関係に基づきまして提供されることを基本として、医療従事者が、個々の医療内容等について、医療を受ける者に対して適切な説明を行い、理解を得ながら行われることが重要であるというふうに認識をいたしております。
 こうしたことから、平成九年の医療法改正におきまして、医療従事者が「適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない。」という努力義務規定を設けたところでございます。
 この被後見人等の治療行為に関しましては、今、先生が御発言されましたように、将来的な問題としてとおっしゃられたのでありますが、そういう考え方もあろうかとは存じますけれども、当面は、社会通念があることと、それから緊急性がある場合には緊急避難等の法理にゆだねられることが相当としているということが一般的に理解をされているところである、このように思っておりまして、こうした医療法の規定の趣旨も踏まえ適切に対応されることでいいのではないか、このように今のところは思っておるところでございます。
坂上委員 この段階でちょっと聞いておきますが、補助制度というのは新しい非常にいい制度だと思っていますが、この適用、被補助人になった場合、これは国会議員になるとか、あるいは地方議員になるとか、こういうのは欠格条項になるんでございますか、どうですか。
○細川政府委員 これは公職選挙法の問題ですが、現行法上は、禁治産宣告を受けた方は公職選挙法上の被選挙資格がないということになっているのですが、準禁治産者はそれに入っておりません。
 したがいまして、補助につきましても当然にそういう欠格条項にならないわけでございまして、さらに申し上げますと、今回の改正で補助が新設されましたが、これが欠格条項とされる法律は一つもございません。
坂上委員 補助を受けた方々でも国会に出て活動されることはあり得ると思いますし、これが欠格条項になっても私は大変影響が大きいと思いますので、今の答弁を了といたしたいと思っておるところでございます。
 それから、さっきも、この問題は非常に重要な問題でございますが、費用の負担についてでございます。
 財産の乏しい人も成年後見制度を利用できるようにすべきでありますが、例えば、費用や報酬を賄えぬ人のためにこれらの費用を国庫で負担する考えがなければ、私はこれは充実できないと思っておるわけであります。それから、不動産は持っているけれども現金がないという人のためには、費用の立てかえを国庫でやらなければならないのじゃなかろうか、こう思っておるわけでございます。これは大蔵省とのこれからの大事な問題なのでございますが、これを本当に、私たち、魂のあるものにするには、こういうようなことが全くよく実現できなければならぬと思っているのでございますが、これはひとつ大臣、まず一般的で結構ですから、何か御答弁いただけますか。
○細川政府委員 成年後見制度は、御本人の利益を守るために御本人の財産等を管理するということでございますので、民法上は、成年後見人等の後見事務に関する費用、報酬というものは御本人が負担、支弁するというふうにならざるを得ないわけでございます。
 ただ、手続の費用につきましては、要件がある場合には法律扶助の対象となりますし、また、それ以外のものにつきましては、これは社会福祉との連携が非常に大切でございまして、現在、厚生省におかれまして社会福祉基礎構造改革ということで取り組んでおられます。その中で、低廉で良質なサービスということを御検討されておりますので、それについて、私どもは検討を期待いたしたいということでございます。
坂上委員 大臣、今ので御所感ありますか。
○陣内国務大臣 今御答弁申し上げたとおりでございますが、委員のおっしゃるような問題意識は私も持っております。
坂上委員 ぜひ、これは本当に形骸化するおそれがありますので、皆さん方からも、またそれこそ大蔵省とのかかわりも出てくるのだろうと思いますし、我々も努力しなければならぬなということを審議しながら痛感をしているわけでございますので、関係者の一層の努力を期待いたしたい、こう思っておるわけでございます。
 それから、申し立て権者と職権による開始でございますが、後見の開始等の審判の申し立て権者として検察官があり、精神保健福祉法等で市町村長に申し立て権を認めている改正案でもありますが、これらのものに民生、児童、病院等が通報しても申し立てをしてくれないことがよくあります。そこで、直接家庭裁判所に通報して、裁判所の職権で開始する制度が必要なのじゃなかろうかと思っておりますが、この点はどうでございますか。
○細川政府委員 御指摘のとおり、職権で開始するという制度とはいたしていないわけでございます。
 これは、やはり私的自治の尊重の観点から、本人の行為能力等に一定の制限を加えることとなる手続を中立的な判断機関である裁判所が職権で開始することには問題がある、あるいは、司法機関としての性質上、積極的な情報の探知がその事務になじまないということでございます。
 したがいまして、今回の改正では、老人福祉法、知的障害者福祉法、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律を改正して、市町村長に後見開始の審判等の申し立て権を付与することといたしたわけでございます。これは、現に市町村が各種の福祉サービスを行っておりますので、その過程において、身寄りのない痴呆性高齢者、知的障害者精神障害者に対する必要性を把握できるのではないかという考えに立ったものでございます。この点については、自治省、厚生省とも十分御議論した上でこういうふうにさせていただきましたので、今後は、運用について適切になされるものと期待しているところでございます。
坂上委員 任意後見契約についてでございますが、これは公正証書によらなければならないとされておるわけでございます。しかし、作成の費用が余り高額になりますと利用の妨げにもなるということが心配されておりますが、この点については、私は、特段の配慮をなされてしかるべきだと思っておるのでございますが、こういう点に対する御見解はいかがでございますか。
 それからいま一つ、任意後見人の権限でございますが、任意後見人が受任をした事務を行う上で、その事務に関して裁判を起こしたり登記の申請をしなければならない場合も想定されますが、任意後見人にそのような権限が認められているのでしょうか、どうでしょうか。
○細川政府委員 まず第一点目の、公正証書の作成の費用でございますが、これは委任契約でございまして、現在の手数料令では一万一千円ということになるわけでございます。いろいろな団体の方々にお聞きしますと、この程度ならば利用可能であろうというふうに伺っております。
 それから、裁判の提起の問題でございますが、本人が任意後見人に委託することができる事務の中には訴訟行為や登記の申請も含まれるわけですが、訴訟行為について任意後見人が自分でやるという委託をするには、当然、これは弁護士代理の原則がございますから、任意後見人が弁護士である場合に限られるということになると思います。それから、弁護士でない任意後見人が本人のために裁判を起こす必要が生じた場合には、弁護士に対して訴訟行為を委任することになりますが、その権限を任意後見契約上に与えていく必要があるということになるわけでございます。
坂上委員 それから、任意後見人の適性についてでございますが、事件屋のような任意後見人が出てきた場合は大変不適当でございます。任意後見人にこういうような人たちがなることを防止する手だて、どのようなことをお考えになっておるのか。
 それから、本人が入所している施設が、入所者に無理に当該施設、例えば法人等がその役職員を任意後見人とする任意後見契約を締結させようとするような事態を防ぐ手だてとしてどのような方法を考えられているのか、この点の認識についてもお聞かせをいただきたいと思っております。
 それから、任意後見人に対する監督でございますが、任意後見人に対する監督は専ら任意後見監督人が行って、家庭裁判所は、解任を除いて、任意後見監督人を介して間接的に関与するだけでございます。果たしてそのような監督の仕組みで実効性があるのだろうかということでございます。少なくとも、家庭裁判所が直接に任意後見人から報告を受け、任意後見人に一定の事項を命ずることができるという道筋を用意しておくことも必要なのじゃなかろうかと思っておりますが、いかがでございますか。
○細川政府委員 まず第一点の、任意後見人が事件屋のような不適当な者がなることを防ぐ手だてを講ずるべきであるということは、全く御指摘のとおりだと思います。
 本人がどの方を任意後見人にするかということは本人の自由意思にゆだねられているわけでございますが、この契約をするには公正証書にしなければなりません。そこでまず、契約の締結段階で、公証人が、本人の意思能力や真意を確認するということで、不当な契約を結ばれることを防止することができるということは言えます。
 それから、任意後見契約が効力を発生するためには、裁判所が任意後見監督人を選任することが必要でございます。その段階で、家庭裁判所は、御本人の意思を再度確認し、任意後見人とされた者が本当に問題がないかどうかということを再度審判されるわけでございます。そういった手だてによりまして、不適当な者が任意後見人になることを防止することができると考えております。
 それから、次に任意後見監督人の監督の問題でございますが、任意後見監督人は任意後見人の事務を監督し、家庭裁判所に定期的に報告することを職務といたしておりますとともに、随時、任意後見人に対して事務の報告を求め、任意後見人の事務等を調査する権限を有するものでございますので、常設の監督機関としては実効性を期待することができるものと考えております。家庭裁判所は、必要があるときは、任意後見監督人に対して、任意後見人の事務に関する報告を求め、本人の財産状況の調査を命じ、その他監督に係る必要な処分を命ずる権限がございますので、実質的に裁判所の監督権というものが実効性があるものになっているというふうに考えております。
坂上委員 では先に進みましょう。
 まず後見登記制度についてでございます。
 まず登記でございますが、戸籍の記載が現行の禁治産宣告等の利用をちゅうちょされる要因の一つとなったと言われておるわけでございます。そこで、戸籍の記載を廃止して後見登記制度を創設されるということでございまして、これも私は大賛成でございます。
 そこで、法務省からいただいた参考例でございますが、これは戸籍の写しでございます。この戸籍に、いわゆる禁治産宣告の裁判確定、妻、後見人に就任、ばあんとこう書いてあります。これはこのとおりですね、今の禁治産制度は、戸籍の記載というのは。
 それで、今度は登記でされるということで、登記の証明書のイメージをひとつ出していただきたいということで、書面をいただきました。これによりますと、まず「登記事項証明書(案)」こう書いてあります。後見という例でございます。一、成年被後見人、氏名、出生年月日、住所、それから、(四)本籍、(五)後見開始の審判、裁判所、東京家裁、事件の表示、平成何年何月第何号、審判の確定の年月日、平成十三年何月、二、成年後見人、氏名それから住所、登記番号、こういうような、これもこのようなイメージを受け持っておればいいのでございますか。いただいた書面でございます。
 それから、任意後見契約についてもこんなふうにイメージとして出されております。任意後見契約、それで、公正証書をつくった公証役場、その名前、それから委任者、あるいは任意後見人の住所、登記番号。そこで、この中に大事なのは、代理権の範囲についても登記があるわけでございます。どこまで代理権の範囲を委任するかということで、(一)預貯金に関する取引、(二)家賃・地代の領収、(三)遺産分割、(四)介護契約の締結、変更、解除及び費用の支払、以上の各事項に関して生ずる紛争の処理に関する事項、こういうふうな登記なのでございますが、大体こんなイメージが登記事項になるのでございますか。
○細川政府委員 登記事項は後見等登記に関する法律で定められておりまして、坂上先生が今御指摘なされた証明書のイメージの案は、その法律で記載すべきものとされている事項を拾い上げたものでございます。ただ、具体的にレイアウトはどうするかというのはもう少し検討を要しますが、中身的には基本的にはこういうことになります。
 それから、任意後見契約についても同じでございますが、代理権の範囲は、これは任意後見をしようとする御本人が、任意後見人の受任者との間で契約でするものですから、これはさまざまなものがございまして、これはほんの一例でございます。
坂上委員 そこで、要請をしておきますが、聞くところによりますと、後見登記の登記所は法務大臣が指定する法務局とされております。聞くところによりますと、東京では一カ所のみ指定されるとのことでございますが、一体、一カ所のみの指定で利用者に不便をかけないかどうか、それから登記の申請、登記事項証明の交付申請、交付は郵送によることは可能なのか、将来的にオンライン化する考えはないのか、こういう点でございます。
 私は新潟ですが、例えば、新潟の場合、新潟登記所、法務局だけになるのでございますか。その辺、各県一つずつみたいな感じで、非常に不便なのではなかろうかと思っていますが、どうですか、これは。
○細川政府委員 後見登記は、電子情報処理組織、すなわちコンピューターで運用することとされております。これには当然経費がかかるものですから、全国で一カ所、法務大臣の指定した登記所でその登記は扱うということにいたしたいと思っていますが、後見の登記は、まず、家庭裁判所で審判があった場合は、家庭裁判所から嘱託で登記所に書類が送られてきて登記されるわけでして、また、任意後見契約の場合は、公証人が嘱託をするわけでございます。ですから、御本人がお手を煩わすことなく、当然に登記がされるということになります。あと、住所等が変更になったならば、御本人が届けていただくことになりますが、それは郵送でも結構だということになりますし、また事項証明書等はすべて郵送で御請求くださればお送りすることができるということにするつもりでございます。
 したがいまして、現時点では、費用等の関係で全国で一カ所にせざるを得ないのですが、利用者が大変ふえたということになれば、将来的には、御指摘のように、もっと扱える場所をふやすとか、あるいはオンラインで請求することができるかどうかということを検討しなければならないと思っているところでございます。
坂上委員 ああ、そうですか。では、全国で一つということね。それでいいのでしょうか。
 大体、禁治産者準禁治産者は年間どれくらいあったのですか。それから、この制度を利用すると、どれくらいを想定なさっているのですか、ちょっと。
○細川政府委員 従来の禁治産の利用宣告の数は、年間千数百件だったと思います。
 今後どうなるかということなのですが、これは予測の問題で大変難しいのですが、ある研究所の調査の結果によると、痴呆性高齢者というのは百万を超えた数があるということになりますので、今後は次第に利用者がふえる可能性が大きいというふうに思っているわけでございます。
坂上委員 この問題、きっとまたほかの先生からも議論があると思いますから、時間の都合で私はもうやめますが、果たして東京一局だけでいいのかどうかということ、大変問題なのではなかろうか、私はこう思っております。裁判所が手続をやるのだ、公証人が手続をやればいいのだから、一般の人はそれほどかかわりがないというようなお話でございますが、果たしてそうだろうかというのをちょっと疑問に感じておりますが、議論する時間が余りありませんので、後見制度はこの程度にいたしまして、今度は遺言の関係についていたしたいと思います。
 これは私にとりましては本当にありがたいことでございますし、また関係者の皆様方は本当に喜んでおられるわけでございます。そこで、まずお聞きをいたしたいのは、簡単でいいですが、聴覚障害者の公正証書遺言作成の嘱託を、実質上、民法は拒んでいたわけでございますが、まさに百年でございますが、この放置された理由というのは一体どういう理由によるのでございましょうか。
    〔委員長退席、橘委員長代理着席〕
○細川政府委員 現行法は、ただいま坂上先生の御指摘のとおりでございまして、これは民法制定当時、母法であるフランス民法と同様に、遺言の意思の真正と正確性の担保から、遺言の方式について、特に厳格な口頭主義を採用したものだと言われております。その当時の手話の未発達の状況や、聴覚・言語機能障害者の方々も自筆証書遺言や秘密証書遺言の方によって遺言することができるということになっておりましたので、そういうことで、全体としてみれば、合理的な理由があったというふうに言えたと思うわけです。しかし、最近では、非常に手話が発達してまいりまして、聴覚・言語機能障害者の方々についても公証人の関与による遺言をされたいという希望が大変多くなっておられまして、中でも、国会で坂上先生を初め石毛先生もいろいろ御指摘がありまして、私どもとしてもそれを真摯に受けとめまして、この改正案を今度の成年後見と一緒に入れさせていただいたというわけでございます。
坂上委員 わかりました。
 そこで、まず今回の改正によりまして、嘱託、本人それから証人となり得るであろうところの聴覚障害者及び言語障害者は、すべて公正証書遺言作成に嘱託関与なし得ると理解していいのでしょうか。特に、証人でございますが、いわゆる聴覚障害者の方が証人になり得るのかどうか、こういうことでございます。
○細川政府委員 御指摘のとおり、遺言をすることもできますし、証人となることもできます。
坂上委員 それから、通訳人の具体例をお聞きしたいのでございます。
 手話通訳、筆記通訳のほかに、指点字というのでしょうか、それから触読、これも入るのでございましょうか。これはいかがですか。
○細川政府委員 手話通訳、筆談のほかに、触読の通訳、それから指点字も含まれます。
坂上委員 結構でございます。
 それから、障害者が自己に適した通訳の人を自由に選定できるのでございましょうか。それから、外国の法制はこういう点、どうなっておるのでございましょうか。それからもう一つですが、障害者のための通訳と外国語通訳とパラレルに考えてよいのでございましょうか。
○細川政府委員 まず第一点でございますが、この通訳の方の資格については、法律上制限を設けておりませんので、障害者が自己に適した通訳人を選ぶことが可能でございます。
 外国の法制でございますが、ドイツ、オーストリア、イギリス、アメリカ等におきましては、手話通訳人の資格について、実務による運用にゆだねられており、特に法律上の制限は設けられていないというふうに聞いております。
 それから、外国語通訳とパラレルに考えてよいかということでございます。
 手話通訳も外国語通訳も一定の技能を有する第三者を介して意思疎通を図る手段であるということで全く同様でございますし、現在は手話通訳におきましても語彙が非常に豊富になっております。指文字を補完的にすることによって、手話による多様かつ正確な表現が可能だというふうに考えられているわけでございます。したがいまして、手話通訳については、外国語通訳同様の正確かつ普及度の高い意思疎通の方法であるというふうに言えると思います。
坂上委員 ちょっとまとめて質問いたします。
 通訳なしで、公証人がみずからの筆談または手話で障害者と話すことも考えられるのでございましょうか。それから、通訳の要否はだれが決めるのでございましょうか。それから、実際は障害者と公証人のどっちが通訳を決めることになるのでございましょうか。それから、通訳に資格等の制限はないのでございましょうか。以上。
○細川政府委員 まず筆談につきましては、公証人みずからが筆談することは何ら差し支えないわけでございます。
 それから、通訳の場合には、法律上は、「遺言者は、公証人及び証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述し、」というふうに規定しておりますので、原則として、公証人みずからが手話通訳をすることは許されないというべきだと思います。特に、証人の方が全然何をやっているかわからないということになりましては意味がないわけでございます。ただし、これは例外的に、遺言者、公証人、証人と、関係者のすべての方が手話通訳等を理解することができる場合には、公証人みずからが手話通訳することも許されるというふうに考えております。
 通訳の要否はだれが決めるかという問題でございますが、これは公証人が遺言者のお話を聞いて、その発語能力を確認した上で、公証人が最終的に判断するということになります。
 それから、障害者と公証人のうち、どちらが通訳を決めることになるかということになりますが、法律上には制限がないわけで、どちらが通訳人を選んでも構わないわけでございます。実際上は、障害者が自己に適した通訳人を選んで公証人のところに一緒に行くということが多いのではなかろうかというふうに思っております。
 通訳人の資格に制限はないのかということですが、これは法律上は制限は設けられておりません。厚生大臣認定の手話通訳士試験に合格した人は千人ほど現在おられます。そのほかに、手話通訳者、手話奉仕員の養成、設置、派遣事業というものを国が行っておりまして、これには通訳士を含めて三千人の手話通訳の能力を有する者が登録されているということでございます。手話通訳士の資格のない方でも能力がある方がございますので、これを排除する必要はないということになりますし、現に民事訴訟法や刑事訴訟法上、法廷での手話通訳についても資格の制限は設けられていないところでございます。
坂上委員 通訳人の通訳を障害者が理解したかどうかはだれが判定することになるのでしょうか。
○細川政府委員 これは、最終的には公証人がみずから判断するということになります。そのために、必要に応じて、適宜確認の問いを発したり、みずから障害者と筆談をするというような手段をとる必要があると思いますし、また手話通訳を解する方を証人として立ち会わせることが一つの有効な方法であるというふうに考えております。
坂上委員 まさにこれは障害のある方の差別が民法の中にあったと言っても私は言い過ぎではないと思うわけであります。これを皆様方の御理解で直して、本当に公正証書遺言を手話によって有効にさせよう、こういう試みでございますので、大変よいことだと私は思っておるわけでございます。
 これに関連をいたしまして、いろいろ私が調べてみたところが、障害のある方の差別規定というのは物すごくあるのですね、今の法律の中で。
 そこで、まず一例でございますが、公示催告仲裁法の七百九十二条、それから検察審査会法第五条、これも改正をされるそうでございますが、その趣旨についてひとつお聞かせをいただきたいと思います。
○細川政府委員 初めに御質問の、公示催告手続及ビ仲裁手続ニ関スル法律の問題でございますが、御指摘の七百九十二条第三項では、仲裁契約の当事者は、仲裁人が聴覚、視覚等の障害者の場合には忌避することができるという規定があるわけでございます。これは、聴覚・言語機能に障害を有する方でも、手話通訳等により、仲裁人としての職務を十分に行えることと考えられますので、したがって、これは削除するのが適当であるという判断に達しまして、削除の御提案をしているところでございます。
○松尾政府委員 先生御指摘のように、検察審査会法第五条第三号でございますが、「耳の聞えない者、口のきけない者及び目の見えない者」を検察審査員の欠格事由としてきたところでございます。
 しかしながら、障害者対策推進本部が策定しました障害者対策に関する新長期計画などにおきまして、障害を理由とする各種の資格制限が障害者の社会参加を不当に阻む障害要因となっている、そうした障害要因とならないよう、必要な見直しを検討するとされたことなどから、この条項につきましても、検討を行ったところでございます。手話通訳や読み聞かせ等を行うことによりまして、視聴覚・言語機能に障害を有する人も審査等を十分に行うことができると考えられましたことから、障害者の権利擁護を目的とする遺言制度等の改正を行う今回の民法改正にあわせまして、この条項をも削除するということにいたしたものでございます。
坂上委員 大変結構でございます。
 そこで、障害者が検察審査員に選任をされたときはどういうような手当てを今お考えになっておられますか。
○白木最高裁判所長官代理者 結論だけ申し上げますと、目の見えない方につきましては、点字文書を作成したり、資料の音読を行うことを考えております。また、耳の聞こえない方につきましては、手話通訳を用いるなどの配慮をすることを予定いたしているところでございます。
    〔橘委員長代理退席、委員長着席〕
坂上委員 今改善をしていただくということ、大変結構でございますが、いろいろ調べさせていただきましたら、障害者に係る欠格条項とでも申しましょうか、随分あるのですね。人事院から始まりまして建設省まで七十九、対象の省庁が、こういう身障者あるいは精神障害者の皆様に欠格条項としてしておるようでございます。
 そこで、まずこれに対する概要、今御指摘をしたものに対して、総理府でございましょうか、こういう点についてどのような考え方でおられるか、これからどう対応されようとしておるのか、お答えをいただきたいと思います。
○冨澤説明員 お答えいたします。
 先生御指摘のように、資格免許制度等におきまして、障害者であることを理由に免許を与えないといった制限、取り扱いを定めている制度が、平成九年度に私どもが調査いたしましたところでは、七十九の事項が挙げられてございます。
 先ほど刑事局長さんからの答弁にもございましたけれども、こういった制度につきましては、障害者対策推進本部で平成五年から十四年までの十年計画として策定をいたしました障害者対策に関する新長期計画におきまして、障害者の社会参加を不当に阻む障害要因とならないよう、見直しについて検討するということにされております。この方針に従いまして、現在、私ども総理府を中心に、政府としての統一的な対処方針を定めて、これに従って見直しを促進しようということで、検討を進めてございます。
 現在検討を進めているわけでございますが、今後、厚生省に設置されております中央障害者施策推進協議会の審議を経まして、障害者対策推進本部において対処の方針を定め、制度を所管いたします各関係省庁におきまして早急に見直しを推進していただくという考えでございます。
坂上委員 これはぜひ、こういうことはできるだけ速やかに是正できるものは是正、改善をすべきだと私は思っておるわけでございますので、強く総理府に要請をしておきたいと思います。
 そこで、いま一つちょっと具体的に申し上げますと、著作権法第二十条第一項、これはどういう条文かと申しますと、同一保護権とでも申すのでございますか、いわゆる著作権については、同一性を保持する権利を有する、そのとき、この意に反してそれらの変更、切除その他改変を受けないものとする、こう書いてあるのですね。
 しかしこれは、私は、解釈の仕方によりましては、見ることができない人、聞くことができない人、そういうような障害のある人たちはこういう著作権について知ることができないというような条項になるのじゃなかろうか。そうだとすると、どうも差別問題にもなるのじゃなかろうか。こういうのは、国民の立場から見ますと、こういう障害の皆様方も相当おられますが、これらの人に対する差別になるのじゃなかろうか。もっと著作権法は、こういう観点から――いわゆる著作権を持っておる人の立場からこれをつくってあるのだろうと思うんですね。国民はこれを利用し、それから見たりあるいは知ったりするという権利もあるわけでございますが、それは、正常な人は可能でございますが、少し障害のある皆様方はこれを知ることができないというような状況になるわけでございます。
 こういう点、文化庁などはどういうふうにお考えになっておりますのでございましょうか。これはこれからどんなふうにお考えになる方針でございますか。突然の質問でございますが、お答えをいただきたいと思います。
○結城説明員 御指摘の著作権法第二十条第一項でございますけれども、これは、著作者の人格的権利といたしまして同一性保持権を規定しておりますが、この規定は広く一般に適用されるものでございまして、障害者を差別するような表現は含んでおりません。
 同一性保持権は、著作者がつくり出した表現を改変などから保護するものでございます。例えば、聴覚障害者のために放送番組や映画に字幕を入れる、いわゆる字幕ビデオをつくる場合を考えてみますと、音声内容の要約や省略が行われるのが通例でございますので、そのやり方によっては、この同一性保持権が働く可能性がございます。
 このような字幕ビデオの作成につきましては、著作者の権利の保護との調整などの問題がございまして、文化庁といたしましては、権利を制限して、関係する著作者の了解を一切とらなくてもよいとするような制度改正については慎重に考えてきたところでございますが、一方では、文化庁といたしまして、字幕ビデオ作成にかかわる簡便な許諾システムの確立によりまして円滑な字幕ビデオの提供を増進することが重要であるということで、関係団体などの協力を求めまして、社会福祉法人聴力障害者情報文化センターを窓口といたしまして、劇場用映画などの権利処理ルールの形成を推進してまいったところでございます。これまでも、相当に成果は上がってきたと思っております。
 これからでございますけれども、文化庁といたしましては、障害のある方々への配慮と著作権の保護という二つのバランスを図るという視点に立ちまして、今後とも、障害者の著作物の利用に配慮した適切なルールの一層の整備について適宜権利者団体にも働きかけを行いますし、障害者の団体の意見も十分にお聞きするということで適切な対応をとってまいりたいと考えております。
坂上委員 ぜひこれを、見る人、知る人の立場から御配慮いただかなければならぬと思っております。
 今度は自治省でございますが、公職選挙法の差別問題です。
 百五十条第一項に政見放送があります。これは、読んでみますとこう書いてあるのですね。その政見を録音し、または録画し、これをそのまま放送しなければならない、こう書いてあるのです。だから、字幕にすること、手話ですることは、どうもこの条文を見るとできないみたいになっているのですね。これも、本当にたくさんの障害のある皆様方から見ると、どうも差別的な対応になっているのじゃなかろうか、我々もこういう点に余りにも無関心だったのじゃなかろうかと私は思っているわけでございますが、自治省、どんなようなお考えですか。
○片木政府委員 お答え申し上げます。
 ただいま御指摘ありましたとおり、公職選挙法第百五十条におきまして、「政見を録音し又は録画し、これをそのまま放送しなければならない。」と規定しておるところでございますが、手話通訳あるいは字幕スーパーを付した政見を放送することはこれに抵触するものではないと解釈をいたしておるところでございます。
 実際の取り扱いにおきましても、政見放送の手話通訳につきましては、平成七年の参議院議員比例代表選挙から導入されております。また、衆議院議員選挙におきましても、小選挙区選挙の政見放送にいわゆる持ち込みビデオ方式が採用されましたことによりまして、手話通訳を付すことができることとなったところでございます。
 参議院選挙区選挙など、その他の選挙の政見放送につきましては、手話通訳士の資格を持った方々が地域的に偏在しておりまして確保が難しいということなどから、今直ちに法制化することは困難でございますが、いずれにいたしましても、聴覚障害者の方々の貴重な参政権の行使にかかわる課題でございますので、これらにつきましても今後とも検討を進めてまいりたいというふうに考えております。
坂上委員 時間が参りましたので終わりますが、私は前にも申し上げたことがございます。
 私の選挙区のいわゆる聴覚障害のある子供たちが、衆議院の見学をしたいという申し出がありました。こういう子供たちでございますから、疎漏のないようにと思いまして、私は院内を全部回ってみました。それでふと気がついたのが、手話通訳はどうなるのだろうということ。院の方に聞いてみたら、先生、自分で連れてくることは結構でございます、しかし院の方ではつけるわけにはまいりませんということでございましたものですから、私は慌てて各党の要人にお願いをいたしまして、ぜひこれは子供たちのために国費でつけるべきじゃないか、金額としても幾らでもないのじゃないか、こういうようなことを申し上げまして、皆様方の御賛同を得て、手話通訳を障害のある子供たちにつけてやったことがございます。まさに私は駆け出し時代のことでございまして、私にとりましては非常に感銘の深い出来事でもあったわけでございます。
 それで、私はその後、社会的弱者の立場に立ちながらと思いながらもそのままずっと来ておったのでございますが、今回のいわゆる手話による公正証書遺言でございますが、今から二、三年前でございましたでしょうか、ある地方紙に、四十万の人が公正証書遺言ができないで困っておるというようなことが書いてありまして、私、これを読みまして、がくんといたしたわけでございます。
 たまたま法務委員会の籍があったものでございますから、このことを御指摘をいたしましたら、法務省の方も必死になりまして、確かに口述ということが要件だから聴覚障害の方々は公正証書遺言はできませんけれども、死因贈与という公正証書を使えばできるのでございますがと、こうおっしゃっているのですが、これは財産のことだけであって、身分上のことに対する遺言なんかできっこないわけでございます。
 そんなようなことで、早くつくるべきだということを御指摘いたしてずっと来たわけでございますが、それで昨年の一月、下稲葉法務大臣が、手話による公正証書遺言の民法改正をいたしたいと思いますという発表をされまして、非常にうれしかったことを覚えているわけでございます。そういうような、非常に私にとりましては意義深いこと。
 しかし、私らも本当に心身に障害がないものでございまするから、なかなか、それらの人たちと思いながら、まだ見落としがたくさんあることを今回また知ったわけでございまして、ぜひひとつ、法務省を初めといたしまして、人権擁護の立場からも、こういう問題はできるだけ改善、是正をされてしかるべき問題だろう、こう思っておるわけでございます。
 今回の民法改正、まさに成年後見制度は先刻申したとおりでありますし、手話による公正証書遺言も、今言ったような差別条項で、百年来これらのことのために利用できなかった皆さんがおられるということに思いをいたしまして、私はこれに大賛成をしておるわけでございますが、法務大臣とされましても、今後本当に実のあるものにするには、私たちの大変な努力をもっともっと必要とすると思うのでございますが、御決意なり御感想なりをお述べいただいて私の質問の最後としたいと思いますが、いかがでございますか。
○陣内国務大臣 これまでの審議を伺いながら、委員が、手話による公正証書遺言の作成ができるような道を開かれたということに大変感銘を受けております。
 法務省といたしましては、今回の改正の理念であるノーマライゼーションの観点から、今後とも基本法のあり方について絶えず意を配してまいりたいと考えております。
坂上委員 どうもありがとうございました。終わります。
【次回へつづく】