精神医療に関する条文・審議(その105)

前回(id:kokekokko:20051119)のつづき。初回は2004/10/28。
ひきつづき、平成11年の成年後見制度制定・精神保健福祉法改正についてみてみます。

第145回衆議院 法務委員会会議録第19号(平成11年6月11日)
【前回のつづき】
○杉浦委員長 次に、漆原良夫君。
○漆原委員 公明党改革クラブの漆原でございます。
 まず、成年後見制度についてお尋ねしたいと思うのですが、判断能力が十分でない人のための制度として、現行法では禁治産、準禁治産の制度があるわけでございますが、この制度、なかなか利用度も少ない、問題点も多いということで、十分な機能を果たしていない。今回、新しく成年後見制度が法案として審議されているわけでございますが、利用度の少ない原因は何だったのか。現行法の今までの総括と今後の改正への意図、この辺をお聞かせ願いたい、こう思います。
○細川政府委員 現行の禁治産、準禁治産制度につきましては、人口に比べて余り利用されていないということは御指摘のとおりでございます。これについては、さまざまな点が指摘されていたわけですが、やはりこれについての負のイメージがあるということが一番大きかったのではないかと思います。
 そもそも名前自体が、財産を治めることを禁止する、そういう宣告だということになっておりましたし、それがまた戸籍に載せられるということで御家族の方々にも影響がある。それから、制度が非常に硬直化しておりまして、禁治産と準禁治産しかないものですから、それ以下の軽度な精神上の障害がある方にはそれを保護するための制度がなかったということ。あるいはもっと言えば、本人の保護の理念が強過ぎて、ちょっと制限が強過ぎた面もあるのではないかというようなことがいろいろ指摘されておりまして、そういったことにも対処するために、柔軟で弾力的で利用しやすい成年後見制度に改めたいというのが今回の改正の眼目でございます。
○漆原委員 現行の禁治産宣告の申し立てをしたり、あるいは準禁治産の申し立てを家裁にした場合には必ず医師の鑑定を受けなければならない、こういう規則になっておるわけでございますが、これに数十万円のお金がかかるわけですね、この鑑定費用として。そしてまた、鑑定結果が出るまで半年ぐらいかかるケースが多いという、私の経験からもそんな感じがいたしております。
 そんなことも利用度の少ない理由になっていたのかなというふうに感じておるのですが、もう一方では、被後見人の行為能力、法理上の行為能力を制限することになるわけですから、ある意味ではきちっと厳密な手続も必要だろうな、こう思うのです。まさに、その必要性と、行為能力を制限される側との調整をどうするかというところが非常に難しい問題になってこようかと思うのですが、今までいろいろな審議会だとか、あるいは成年後見問題研究会ですか、こういうところで、この鑑定の件に関してどのような議論がなされてきたのか、お答えいただきたい。
 それからもう一つは、最高裁は、この規則のたしか二十四条だと思うのですが、必ず医師の鑑定をしなければならないというこの条文の関連で、今後ここをどのようにしていかれるつもりなのか。その二点をお尋ねしたいと思います。
○細川政府委員 鑑定に関する法制審議会の議論の状況について私から御説明申し上げますと、この点については漆原先生御指摘のとおり、費用が非常に高いのではないか、すべての場合に鑑定が本当に必要なのかといった点、あるいは期間がかかるのではないか、あるいは鑑定人の適切な候補者を選ぶのが難しいのではないかとかいろいろ指摘がございまして、その点は、そういった議論を踏まえて、現在最高裁判所におきまして規則の改正をどうするかということを検討中と聞いておりますので、詳細については家庭局長から御答弁いただけると思います。
○安倍最高裁判所長官代理者 御説明申し上げます。
 委員御指摘のとおり、この能力の判断につきましては、一方では、利用しやすくするという観点の要請があり、他方では、やはり能力の制限になることでございますから、慎重に判断をしなければいけない、この二つの要請をどう満たしていくのかという大変難しい問題であるわけでございます。
 私どもといたしましては、今回の法改正の成立を踏まえた上になるわけでございますが、現在のところ、規則改正の検討を進めている段階にあるわけでございます。
 その過程におきましては、一つは補助類型でございますとか任意後見類型、いわば本人の意思を非常に尊重して、本人の自己決定を大事に考えていこう、こういう制度でございますけれども、これについては、鑑定を要することなく、診断において判断することも差し支えない、このようなことを導入してはどうだろうかということを考えている段階にございます。
 一方、後見あるいは保佐類型でございますけれども、これは現在、必要的鑑定と定められているわけでございます。これをどうするか、なかなか難しい問題はございますけれども、すべての場合に必ず鑑定によらなければいけないとする必要があるかどうかという点についても十分吟味、検討したいと考えている次第でございます。
○漆原委員 ただ、後見だとか保佐の場合は本人の意思と関係なく、特に後見の場合、本人の意思と関係なく申し立てられて、行為能力は全面的に制限されるわけですから、これはやはりきちっとした鑑定が必要だろうなというふうに思うのですが、この辺はどうでしょうか、最高裁
○安倍最高裁判所長官代理者 御指摘のとおり、後見の場合についてはやはりきちっとした判断が必要だろうと考えているわけでございます。
 ただ、例えて申しますと、植物状態にある方についてどのように扱うかという問題などを含めて、すべての場合に鑑定を要するという形を維持するのがいいかどうか、この点は検討したいと考えている次第でございます。
○漆原委員 わかりました。
 この改正案では、成年後見等に法人を選任することが明文上認められておるわけでございます。現行法では明文はないわけで、多分認められないというふうに解釈されている方が多いのじゃないかと思うのですが、これをこの改正案では法人の後見も認める、条文上明確に、はっきりはしていないのだけれども、認める場合にはいろいろな事情を考慮してやりなさいという、裏から認めたという法律構成になっておるのですが、まず、法人による後見を認めた理由はどこにあるのでしょうか。
○細川政府委員 民法は、人という場合に、自然人と法人両方含むのが原則でございますので、特定の場合だけ法人を含むと書くことができないものですから、裏から書いたわけでございます。
 それで、法人が後見人になれることを明らかにした理由でございますが、関係の団体の方々からいろいろヒアリングいたしました結果、後見事務のニーズというのは非常にさまざまなものがあって、個々の人の生活の状況、財産状況により非常に異なっている。こういった多様なニーズにこたえるためには、例えば福祉の事務に関して専門的な知識、能力、体制を備えている福祉関係の公益法人とか社会福祉協議会とか、そういったところを成年後見に選任した方がより適切であるというような意見も大変ございまして、要するに、多様なニーズにこたえることができるように法人もこれに加えさせていただいたということでございます。
○漆原委員 成年後見人には、ドイツなんかだと世話協会というのがあるのですね。世話協会があって、世話人をそこで出して、その人が世話していく、あるいは世話協会そのものが法人として後見人になる、こういう制度。あるいは、カナダの公的後見人のような制度がある。
 こういう成年後見人の供給団体みたいなものを日本でも基盤整備という観点から推進していくべきではないかという意見がいろいろなところであるわけですが、この方向性については、今回はそういうものは採用されていなかったわけですけれども、将来の方向性として、そういう後見人の専門家団体あるいは専門的に供給する団体を我が国としても基盤整備していくべきではないか。こういう考えに対してはどのようなお考えを持っておられますでしょうか。
○細川政府委員 後見人となられる方の専門性のある団体というものを援助していくあるいは促進していくということの御指摘でございますが、それは非常にそのとおりだと思っております。
 現在、社会福祉協議会とか、あるいは自治体でつくっている福祉関係の公益法人、これは往々にして福祉公社という名前がついておりますが、そういったところ、あるいは弁護士さんそれから司法書士さん、あるいは社会福祉士の皆さん方が団体をつくってそういうことをされておられるところがございまして、そういうところでは、今回の法律が制定されれば正式に後見人になることができるということで、現在さまざまに協議されておられるところでございます。
 したがいまして、私どもといたしましても、そういうところに対して極力応援してまいりたいというふうに思っているわけでございます。
○漆原委員 現在、そういう専門的な供給団体が日本では存在しないということですけれども、そういう現状において、この法が予定している法人というのは、法人は会社から何からいっぱいあるわけですけれども、こういう法人をイメージしたという法人があるのかないのか、それともどんな法人でもいいというふうにお考えになっているのか。その辺はどうでしょうか。
○細川政府委員 まず、財産管理の面につきましては、私が聞いておりますのは、司法書士さんたちが基金を拠出して財団法人をつくって、特に財産管理の面で後見人の候補者を推薦し、あるいは後見監督人になるということを団体自身が検討されているというふうに聞いております。
 また、身上監護の面につきましては、やはり社会福祉士あるいは社会福祉士会とか、あるいは社会福祉協議会といったところがそういった後見人の仕事をされる法人の中心になるのではないかというふうに思っておりまして、ニーズに応じてさまざまな職能の団体の方がこれを担当していただくということがよろしいのではないかというふうに思っております。
○漆原委員 多分今おっしゃったようなことがイメージされているのじゃないかと思うのですが、そうであるとすれば、法文上この法人を制限するべきではないのかな、一般の株式会社とかそういうものを除いて、福祉法人だとか公益法人に限るというふうな限定をつけるべきではないのかな、こう思っている。また、そういうことも可能なはずなんだけれども、それを限定をつけなかった、法人なら何でもいいというふうにした、この辺の理由は何かあるのでしょうか。
○細川政府委員 これはさまざまなニーズがあるわけでございまして、実に多額の財産を持っておられる方ですと、信託会社がそういうことを担当することもあり得るのじゃないかというふうに言われておるのですが、そういうことを考えますと、最終的には裁判所が諸般の事情を判断して決定されるということでございますので、無理に法律で資格を限定するよりも、裁判所の適切な判断に期待すべきではないかということで、特に制限を設ける必要はないというふうにこの改正案ではなっているわけでございます。
○漆原委員 裁判所の話が出ましたので、法八百四十三条では、家庭裁判所が法人を成年後見人に選任する際には、法人及び代表者と成年被後見人との利害関係の有無を考慮して決めなさい、そういうふうな条文になって、まさに裏から法人を認めたというところの条文でございます。成年被後見人と法人との、そして代表者との関係性、利害関係を考慮しなさいという条文になっておりますが、どういう場合をこれは予想しているのか、一般的な例でございますが、事例を挙げていただければありがたいと思います。
○細川政府委員 法人の場合は、例えば施設に御本人が入所している場合、その入所契約というものの当事者になっておりまして、お金を徴収する立場にございます。そういう方々が本人の後見人になりますと利益が相反するということになりますし、また、法人自体じゃなくても、法人の代表者が個人的に利害が対立するということがあると思いますから、そういった場合を、利益相反ということを考えまして、通常の場合にはそういう方を後見人として選ぶことは適切ではないという判断でございます。
○漆原委員 老人ホームなり施設に入所している方とホーム、施設は利害相反だ、そういうことをこの条文が言っているんだ、したがって、それは排斥されるんだというふうに考えていいんですか。
○細川政府委員 ですから、それは一例でございまして、一般的に、そういう利害の対立がある場合には後見人に選任するのは適当でないということを言っているわけでございまして、ただ、そういう関係のある人でも、そういう金銭面の関係ではなくて、全然別個の関係で身上監護の点であれば、場合によってはそれは選んでも利害が対立しない場合もある。ですから、そこの点を裁判所はよく検討して判断するようにという意味の条文でございます。
○漆原委員 もう一度ちょっとはっきりさせたいんですが、まさに金銭面の関係で、財産の管理を後見人がするというふうな場合に限定しまして、その被後見人が入所をしている、入所している施設の法人がその後見人になれるかどうか。なれないというふうに聞いてよろしいんでしょうか。
○細川政府委員 その入所契約に関しては、まさに利害が対立するわけですから、後見人を選任することは適当でないということでございます。裁判所が最終的にお決めになりますが、私はそういうふうに思っているわけです。立法もそういうつもりでできております。
○漆原委員 私の言っているのは、入所契約そのものではなくて、入所契約に基づいて入所をしている被後見人と、その後、入所させているホーム、施設、法人が後見人になるという場合は、一般的に利害相反と考えていいんじゃないか、その場合も排斥される趣旨の条文じゃないかと読めるかどうかなんですね。そういうふうな指針としてお聞きしていいかどうかということをお尋ねしているんです。
○細川政府委員 原則としては御指摘のとおりでございますが、例えば、無料の介護ヘルパーの派遣というサービスがあるわけですが、そういう契約を施設が後見人としてするということになると、必ずしも利害が対立しないということになります。
 ですから、ここで言っておりますのは、原則としては問題がありますが、そうじゃない場合も、よくよく法律を詰めて考えてみるとそういう場合もあるということでございます。したがいまして、そういう場合には、例えば後見人を二人選んで職務を分担してもらうとか、そういうこともあり得るわけで、ここの解釈の指針としてこういう条文になっているわけでございます。
○漆原委員 昔、私が担当した相続の事件で、相続人から依頼を受けて入所ホームに行ったわけなんですが、既に生前贈与という格好で全部入所施設の方に財産が移転をしておったという、大変つらい思いをした。それも、亡くなる前に契約したやつですから、意思能力があったのかどうかもわからないで全部移転されてしまったという事案になって非常に苦しい思いをしたんです。
 そんな施設があるかないか、今後出てくるかどうかわかりませんけれども、入所して面倒を見てもらっている人と入所させている法人、施設というのは、やはり力関係が全然違うわけですから、御老人にとって最後まで面倒を見てもらえるかどうかは大事なことなんですよね。そういう意味では、ある意味では言いなりになりかねないという状況にあるわけです。そういう人が、そういう立場で後見人になっていいのかなという、本当の後見の役割を果たせるのかなという心配が非常に強いんです。
 したがって、先ほどから何回もお聞きしているように、そういう場合は利害相反の一般的ケースとして排斥すべきではないのかなということをお尋ねしているんですが、もう一度。
○細川政府委員 私の答弁が、やや法律論に傾いたといいますか、条文の解釈論に傾いたことを申し上げたかと思うんですが、一般論としては、漆原先生の御指摘のとおり、そういった影響力がある人がいろいろやりますと本人の利益が害される場合がありますから、一般的には適当でないということになります。
 だから、最終的には、裁判所が個別的事案で御判断なされますので、解釈の指針としてはこういうことになっておりますということでございます。繰り返しになりますが、一般的には適当でないということは言えると思います。
○漆原委員 その辺はよくわかりました。
 それでは次に、後見登記についてお尋ねしたいと思うんです。
 後見等の登記や任意後見契約の登記は嘱託または申請によって行う、こうなっておりますが、嘱託の場合は、これは公証人だとか裁判所の書記官が嘱託手続をされるわけですけれども、申請で行う場合というのはどんなケースがあるのか教えていただきたい。
○細川政府委員 後見の審判があった場合、あるいは任意後見契約があった場合には、いずれも、裁判所なり公証人から嘱託がありますので、基本的には登記は嘱託で出されるわけです。
 登記で出される場合はどういう場合かといいますと、仮に、御本人の住所が変わった、それから後見人の住所が変わった、あるいは御本人が亡くなられたというときには当然にはわかりませんので、御本人なり周りの利害関係の方に申請していただきたいということでございます。
○漆原委員 後見登記等に関する事務は指定法務局が登記所として行う、こうなっていますが、この指定法務局は今どこをお考えなのか教えてもらいたい。
○細川政府委員 法律上は、大臣の指定する登記所はどこでもよろしいんですが、現時点では東京法務局を考えているところでございます。
○漆原委員 全国が対象となった事務について、東京法務局だけを指定法務局として一応考えている、こういうことなんでしょうが、嘱託の場合はともかくとして、自分で申請しなければならないケースがある。先ほどおっしゃったようにあるわけですから、そういう場合に、東京法務局以外のところに住んでいらっしゃる方、北海道にしても新潟にしても富山にしても九州にしても、そういう方は、例えば、申請する場合に、あるいは登記事項証明書あるいは閉鎖登記事項証明書または記録のないことの証明書、こういう交付申請をする場合は、一々東京にまで申請しなくちゃならぬということになるんじゃないですか。
○細川政府委員 申請の先はおっしゃるとおりなんですが、これは当然、利用しやすくするために郵送で申請もしていただきまして、登記事項証明書の交付の手続も、それから、いろいろな住所の変更等の手続も郵送でできるようにいたしたいと思っております。
 それで、それについては、利用者が利用しやすい用紙に、登記事項証明書の交付請求書の書式とか、交付請求の方法等をわかりやすく説明した一般的なパンフレットを作成して、これを各法務局、地方法務局の窓口に置いておくとか、関係団体に御配布するとか、あるいは法務省のホームページに掲載するとか、そういうことで周知徹底を図りたいというふうに思っております。
 もっとも、利用者が大変ふえまして、ほかのところでやっても経費倒れにならない、多額の経費が総体的にかからないということであれば、将来的にはその数をふやすことも当然考えられるわけで、法律上も、法務大臣が指定する登記所、法務局となっておりますから、一つに限ると言っているわけではありませんので、将来的には、運用の状況を見ながらいろいろ考えてまいりたいと思っておるところでございます。
○漆原委員 利用する方からすれば、全国に登記所、法務局の出張所があるわけですから、そこで全部コンピューターでやっていただければこれほど楽なことはない、こう思うんですが、今おっしゃったように、多分費用の観点なんだろうな、だから、とりあえず東京一つにして、たくさん需要があれば少しずつふやしていってその利便に供するというふうにお考えなんだなと思うんですが、そういう考えでよろしいですか。
○細川政府委員 そのとおりでございます。
 実は、昨年国会で成立しました債権譲渡登記についても同じでございまして、現在東京法務局だけでやっているわけですが、将来的にはいろいろ考えていかなきゃならないというふうに思っているところでございます。
○漆原委員 この登記制度の導入というのは、一つは取引の安全という観点から導入されたわけでございますけれども、他方、もう一方は、成年被後見人等から見ると、秘密の保護の問題があるわけですね。したがって、この登記事項証明書の交付について、一方では取引の安全という観点、一方では秘密の保護という観点、どのような調整を図られているのか、教えてもらいたいと思います。
○細川政府委員 この法律では、登記事項証明書の請求できる人を一定の範囲の人に限っているわけです。これはやはり、人の判断能力という極めてプライバシーの高い情報が記録されておりますのでそうせざるを得ないということでそうしたわけでございます。
 したがいまして、登記事項証明書の交付請求の際には、その成年被後見人の氏名等のほかに、請求者がどういう立場の人かということをはっきりさせていただいて、その資料をつけていただいて、それで法律上の要件を満たしている人だということを判断してから登記事項証明書を送付するということにいたしているところでございます。
○漆原委員 私が一番心配しているのは、これからその成年被後見人と取引をしようという方が、この人は場合によっては行為能力が制限された人ではないのかなという心配で、法務局にその被後見人であろうと思われる人の登記事項証明書の交付を申請する、そしてこの人に行為能力があるかどうか確認をする、こういうことをされたんでは非常に秘密の保護に欠けるのではないか、こう思います。
 したがって、そういうふうにならないというふうな法制になっているのか、場合によってはそういうふうになるということになっているのか、その辺はどうでしょうか。
○細川政府委員 この法律では、これから取引するという理由で登記事項証明書等を請求することはできないということになっているわけでございます。法律に定めておりますように、自分が成年後見の本人であるとか成年後見人であるとか配偶者であるとか、そういう特定の関係を持っておる人だけが請求できるということにしているわけです。
 それでは、取引の安全はどうやって確保できるかという問題につきましては、まず、これは法制審議会でもいろいろ御議論いたしまして、銀行協会ともお話ししたんですが、その結果は、やはり落ちつくところは、取引の相手方の人が、通常の取引の過程で何か不審がある、そういう不正があるのではないかという疑問が生じたらまず本人に直接尋ねる、そのことを明らかにしておくということです。それで、お聞きして、御本人が、私は制限を受けていますとか受けていませんとか言うんだったらば、その証明書を御本人が出してくださいということにしたらいいんじゃないかということでございます。
 ぎりぎり法律論として詰めてまいりますと、そのときに聞かれてうそを言ったらどうなるかということなんですが、これについては現行法の民法二十条が当たりまして、そういう場合には取り消し権を行使することはできないということになるんで、そういうことを全体で考えれば、取引の安全とプライバシーの保護は調和できるんではないかというのが最終に到達した結論でございます。
○漆原委員 そうすると、後見人だとかその配偶者だとかあるいは御本人だとかいう立場の人しか請求できない、これから取引をしようとするいわゆる第三者の人はこの登記事項証明書の交付は一切請求できないというふうに理解してよろしいわけですね。
○細川政府委員 御指摘のとおりでございます。
○漆原委員 以上で終わります。どうもありがとうございました。
【略】
○八代委員 自由民主党八代英太でございます。
 いよいよ成年後見制度に関する関連法案の、民法の一部改正という形で審議に入りました。午前中も、石毛さんは女性のまた専門家としての立場から、また、坂上先生、漆原先生はそれぞれ法律家の立場から、この成年後見制度にいろいろな角度から審議していただきました。全国の障害を持った皆さんにとっては待ちに待った法律、こういう思いもございますし、また、日本は急速な高齢化社会を迎えてまいりますと、こういうものがしっかり社会基盤の中に法整備されるということは大変すばらしいことだというふうに思っております。
 特に、そういう社会的な要請の高まりを踏まえてということで、私たちも平成八年から自由民主党の中に小委員会を設けまして、成年後見制度に関する小委員会、参議院阿部正俊君がその小委員長を務めまして何回か議論をしてきたところでございます。
 私は、初めて参議院に当選させていただいた昭和五十二年、一九七七年、ノーマライゼーションの理念というものを国会で発表させていただきました。つまり、障害を持った人が何%かいる社会が強く温かい社会である、こういうことでございます。
 ともすれば、歩けない人がいるにもかかわらず、歩ける人の社会であり、目の見える人の社会であり、言葉の話せる人の社会であり、それから、いろいろな意味で心に障害を持った人とかというものは、大きな差別ということではなく、偏見の中に古今東西を問わず人間の歴史はあったように思います。
 私たちの国には、健康な人しかいません、寝たきりの人はだれもいません、目の見えない人もおりません、精神に障害がある人はいませんと。格好よく聞こえますけれども、そういう社会の到来は非常に怖い社会の到来であり、現に、コソボ紛争の根底にも民族浄化などという、指導者のあらわれ方によってはかつてのヒトラーのようなそういう状況も考えますと、やはり民主主義という中において、憲法十四条に保障されておりますように、すべての国民は法のもとに平等である、この基本的な考え方に立って、民法の改正等々がこうした形で、成年後見制度という一つのまとまりの中でしっかり法制化されるということは大変すばらしいというふうに思うのです。
 そこで、総論として、成年後見制度の改正というのは、これは高齢者のみならず知的障害者及び精神障害者等の福祉にも十分重点を置いたものでなければならないと思っておるわけでありますが、今回の改正の理念、趣旨につきまして、もう既にお答えをしておりますけれども、もう一度伺っておきたいと思っております。
○北岡政府委員 八代委員御指摘の、現行の禁治産制度を初めとした成年後見制度、基本的な枠組みが明治三十一年、今から百一年前に創設をされたということで、ややもするとマイナスイメージを持たれてきておった、さらには、時代の流れの中で十分に合わないのじゃなかろうかというような指摘がございます。
 そこで、高齢化社会に対応していろいろな問題が指摘をされております。そのあたりの対応、さらには委員御指摘の、障害者福祉に対する理念も時代の流れとともにかなり変わってまいっております。そのあたりの充実を図っていかなければならないという双方の観点から、痴呆性高齢者のみならず知的障害者精神障害者等の、判断能力の不十分な方々の保護を図るためには、現行の制度を改正し、柔軟かつ弾力的で利用しやすい成年後見制度とすべきではなかろうかという社会的な要請に基づいて改正に手をつけたということでございます。
 法務省といたしましては、このような要請に応じまして、まず第一に自己決定の尊重、そして、八代先生常日ごろ御指摘をされていらっしゃいますノーマライゼーション等の新しい理念、そしてさらには、従来の本人の保護の理念という、この三つの理念の調和を旨といたしまして、それらの利用者の方々にとりまして利用しやすい成年後見制度の立案に努めてまいりました。
 本日御議論いただいております民法の一部改正法案等の四法案を国会に提出をさせていただいたというような状況でございます。
○八代委員 ありがとうございました。
 そこで、世界的に見ますと、人口の大体一割が何らかの障害を持つであろう、こういうことを言われております。また、戦争が起きますと、戦争による多くの障害者が生まれるというようなこと。また、いろいろな疾病が蔓延しますと、そういう意味での障害を持つ。また、新しい時代が目まぐるしくなればなるほど、交通災害とか労務災害とか、いろいろなことの障害を持つ人たちもたくさんいるわけであります。
 何よりも、日本におきますと高齢化時代でありますから、男性も平均が七十八歳、九歳、女性は八十三歳。百歳以上の人も、二十年前は三千人ぐらいだったものが、もう一万人を超えた。しかし、元気で高齢化時代を迎えて、ばたっと人生が終わるならいいんですけれども、いろいろな障害を持ちながら人生を終えるということを考えていきますと、特にこの痴呆性の高齢者の問題というものも、この成年後見制度の一つの意義の中では大変重要だというふうに思うんです。
 そうした資産を、いろいろな意味でトラブルなんかもあるわけでありますから、しっかりその人の考え方というものが、もちろん、本人の尊重ということも当然でありますが、そこに、周りにおられる人たちが時として妙な形で群がりを見せたり、あるいは精神障害だということで、いろいろな意味で疎外をされたり、知的障害者だということで、本人は何もわからないんだからおれたちが決めるんだという、また家族の問題等々もいろいろ山積をしていたり、これは大変だと思いますね。
 しかし、一人一人は、私も含めてそうなんですが、だれ一人、みずから障害になりたいとか寝たきり老人になりたいとか痴呆老人になりたいなんて思う人はだれもいないと思うんです。思いますがゆえに、やはりそういうものを社会がしっかりと法整備をして、この安全なネットをしっかり持っているというのがまたこの法の趣旨でなければならないと思うんですが、さて、いよいよこれから運用していきますと、利用対象ということになるわけでございます。
 痴呆性高齢者というのがざっと百万人とも言われておりますし、知的障害者が四十万人ぐらい、これも推測でしょうが、精神障害者は百五十万人ぐらいいるというようなことも言われているんですが、どれくらいの方々がこの成年後見制度を利用する、この人全部じゃないと思いますね。そういう意味での予想は法務省としてしっかり把握しているのか、あるいはどのくらいを見込んでの今日の法の成立への一つの目途としているか、その辺をちょっと伺いたいと思います。
○細川政府委員 利用対象者の見込みでございますが、ただいま八代先生御指摘のとおり、痴呆性高齢者の数についてある研究所が行った推計では、平成七年の時点では全国に約百三十万人の方がおられる。それから、厚生省の調査によりますと、知的障害者の数は平成七年の時点で三十万人、それから精神障害者の数は平成八年の時点で二百十七万人というふうに言われております。
 したがいまして、成年後見潜在的対象者と考えられる方は相当多数おられるわけですが、他方、現行の禁治産、準禁治産の制度ですと、利用件数は極めてわずかでして、禁治産宣告が一番最近の数字で千四百六十二件、準禁治産宣告は二百六十三件ということにとどまっているわけです。フランスで法律を改正した場合には、年間数百件しか利用されていなかったのが、今度の改正と同じような改正をしたんですが、十年後には二万件ぐらいの審判があったということになっております。
 したがいまして、こういった制度が利用しやすくなりますと、相当大きな数の方が利用されるようになるんではないかというふうに推定しているところでございます。
○八代委員 そういう障害を持った人たちの数と現実には大きなギャップがありますんで、これから法律を的確に運用していくには、いろいろと法務省も大変な努力をしてもらわなければならないということをまず申し上げておきたいと思うんです。
 新しい成年後見制度が真に利用しやすい制度になるためには、いろいろな意味で、痴呆性高齢者だけではなく、知的障害者精神障害者の現実的なニーズに十分こたえていく内容でなくてはならないというふうに思っております。
 そこで、今回の法案は、高齢者の高額な取引にとどまらず、あるいは知的障害者精神障害者等の障害年金等の管理というような日常生活上の金銭管理を支援するために、この法律が支援体制をとるような形ができるのかどうかということです。また、本人のいろいろな身の上のケア及びそれに要する申し立て及び支援に関する経費の援助制度みたいなものを考えているのかとか、これに付随する、いろいろなやり方があるだろうと思いますが、どのような制度を考えているのか、ちょっと伺っておきたいと思います。
○細川政府委員 御指摘の、知的障害者精神障害者の方々の日常生活上の財産管理の支援についての問題でございますが、新しく改正点を申し上げますと、まず補助と保佐の制度において、本人の申し立てまたは同意を要件として、特定の法律行為に限定して、補助人、保佐人に代理権を付与することができることといたしております。したがいまして、年金等の管理も当然できることになるわけでございます。また、新たに創設することといたしました任意後見制度におきましても、みずから指名した任意後見人に日常生活上の財産管理をしてもらうということも可能になるわけでございます。
 それから、身上面の保護につきましては、新しく条文をつくりまして、後見人、保佐人、補助人、任意後見人のいずれにつきましても、その事務を行うに当たっては、本人の意思を尊重し、かつ、本人の心身の状態及び生活の状況に配慮しなきゃならないという明文の規定を置いたわけでございます。
 それから、費用の点についてでございますが、審判に要する費用につきましては、これは要件が満たされれば法律扶助の申し立てができるわけでございます。それから、後見に実際に要する費用、それから、後見人に支払うべき報酬でございますが、これは、良質の後見人を確保するためにはそれなりの報酬を与えることが必要なんですが、では、御本人に資力がない場合はどういうふうになるかという問題になります。
 その点につきましては、これは社会福祉の分野での大きな問題になるわけで、現在、厚生省におかれまして、社会福祉基礎構造改革において、判断能力の不十分な方に対する無料または低額の料金による福祉サービスの利用援助等を行う社会福祉事業の創設とそのための全国的な体制の整備を進めるということとされておりますので、それの検討の中で手当てがなされるんではないかというふうに期待しているところでございます。
○八代委員 まさにこれは、法務省は一つの法律をつくるにいたしましても、運用面ではそのノウハウは恐らく厚生省の方がはるかに持っているだろうと思いますね。
 それからまた、今、日本は少子化時代ということになってきますと、身寄りのない痴呆性高齢者とか知的障害者とか精神障害者等も大変ふえていますよね。そういうときに、民法のこの改正案を見ると、家庭裁判所に、補助、保佐、後見の開始を申し立てるのは、配偶者とかあるいは四親等以内とか親族等とかと、いろいろな決まりがあるんですけれども、本人に身寄りがない、そういう社会環境ということを考えていきますと、申し立ての事務を行うのには、私は、やはり地域の福祉事務所とか、そこがまさに厚生省とのこれからのいろいろなタイアップだろうと思いますが、きょう議論がありました保健所とか、施設に入っていればその施設長さんとか、あるいは民生委員の人とか、あるいは弁護士さんとか、いわば保佐人というのか後見、いろいろな立場で代弁をする人たちは、むしろ地域のいろいろな人たちの声を結集して、法律では区割りのできない、かなり広い範囲のものが必要とされるのじゃないだろうか。
 それは、さっきおっしゃったように、痴呆老人が百二十万いるとか、だんだんふえこそすれ、減ることはないわけですから、そういう体制づくりというものも法務省の中では検討されているのでしょうか。その辺はどうでしょうか。
○細川政府委員 これは、御指摘のとおりに、法務省だけでできる問題ではございませんので、例えば後見人あるいは保佐人や補助人になる人たちが、適切な候補者を探すということが非常に大事なことでございます。そういう中で、いろいろ地域で、自治体で、例えば福祉公社というものをつくっているとか、社会福祉協議会とか社会福祉士の団体の方々等いろいろありますので、そういった現に支援を行っている方々と私どもも協力してまいりながら、この制度が適切に運営されるような努力をしてまいりたいと思っているところでございます。
○八代委員 そこで、鑑定とか診断ということになるのですが、個々の痴呆性高齢者や知的障害者精神障害者等について、その判断能力やあるいはケアの必要性に応じた適切な支援をしていくためには、各人の判断能力というものの判定が適切に行われなければならないと思います。
 そこで、個々の高齢者や障害者の判断能力を的確に判定するために、これは家庭裁判所における鑑定、診断ということになるのですか。家庭裁判所における鑑定、診断というものをもしやるとしたら、どんなふうにやるのか、あるいは鑑定医の確保というようなものもしっかり持っておられるのか、あるいは裁判所が独自に判断基準とかそういうスケールなんかを考えているのか、この辺はどんなふうに考えをお持ちなんでしょうか。
○細川政府委員 この成年後見の制度を運用するにつきましては、今八代先生御指摘のとおり、御本人の判断能力をどのように判断するかということが非常に大切な問題でございます。
 これは主として医療面の判断ということになりますので、従来の制度では、禁治産、準禁治産の判断をするためには、裁判所は必ず鑑定に付さなければならないということになっていたわけですが、それが、例えば補助について、鑑定まで必要ないのではないか、あるいは主治医の判断でよろしいのではないかとか、あるいは完全な植物状態にあるということを主治医が判断すれば、鑑定までする必要はないのじゃないかとか、そういった鑑定の実際の仕方について、さまざまな点が指摘されております。
 この点につきましては、従来は最高裁判所の規則でそれが定められておりましたので、現在、最高裁判所におきまして、この規則について、鑑定に関する点につきまして、どのようにするかということを検討されているというふうに聞いております。
○八代委員 そうすると、補助制度とでもいいますか、そういうものの徹底が必要になっていくでしょうし、それを育てることが大切だと思いますし、そういう意味で、補助の制度に対する期待というものも実は大変高まっているわけです。もちろん、自己決定を尊重するのは当然なんですけれども、最小限の支援が可能な制度として、福祉の現場のいろいろな声を聞きますと、やはりこれには補助制度みたいなものが必要だろう。つまり、本人の自己決定に行くまでに足らざるところを補うような、ただそろばん的にぽんぽんと切り刻むというわけにはいかない段階的ないろいろな障害があるだろうと思います。そういう意味での補助制度というものについて、もう少し説明をしていただければと思うのです。
○細川政府委員 従来の制度では禁治産と準禁治産の二つの制度しかなかったわけですが、これは相当程度判断能力が減退している方が対象になるわけで、軽度の痴呆性高齢者とか知的障害者精神障害者の方には補助をする制度がなかったわけでございまして、そこのところが従来の制度が非常に硬直的だと言われていたゆえんでございます。
 そこで、この改正案では、事理を弁識する能力が不十分な方について、要するに保佐や後見の対象に至らない人につきまして補助という制度を新たに設けまして、そして、これは軽度の障害の方でございますので、御本人の自己決定を尊重いたしまして、その補助に付す制度を利用するかどうかも本人の御判断にゆだねるということが一つ。それから、どういう補助を与えるか。例えば代理権を与えるのか取り消し権を与えるのか、あるいは双方を与えるのか、それともどういう項目について代理権を与えるのか。そういう点についても御本人の選択ができるようにいたしまして、柔軟に対応できるようにという制度が、今度新設を考えております補助の制度でございます。
○八代委員 その補助の制度も大変大切だ、このように思うのです。そこで、新しい補助、保佐、後見の制度が実効性のある制度として機能するためには、制度の担い手の役割が非常に重要であるというのは当然なんですけれども、他方で、補助人とか保佐人とか成年後見人の権限が拡充されるのに伴って、今度は裏の言い方をしますと、権限の濫用を防止するために、適正なチェックのシステムを確立するということが大変重要になってくると思うのです。
 通信傍受法案でも濫用の問題がかなり議論をされましたけれども、まさにこういう法律ができると、その裏側を見ておかなければいけないという思いが大変強くするのです。その辺で、成年後見人の権限濫用の防止策といいますか、そういうようなものはどのような形になっているのか、ちょっと伺いましょう。
○細川政府委員 御指摘のように、成年後見人等の権限濫用を防止する策を考えておくのは非常に大事なことでございます。
 そこで、改正案では、まず権限を濫用する可能性がある人が選ばれない、選ばれることを防止することが大事だという観点から、成年後見人等となる者と御本人との利害関係の有無というものを十分考慮して、要するに利益の相反のある人については成年後見人等に選ばないということから、そういう考慮すべき事項を定めた規定を置いております。
 それから、監督を充実させる点でございますが、従来は後見人についてのみ後見監督人というのがあったのですが、今回の法案では新たに保佐監督人あるいは補助の監督人等も新設し、それから専門的な法人もこれらの監督人になれるようにしているわけでございます。また、家庭裁判所の職権で、こういった問題がある場合には監督人を選任することができるものとしております。
 そのほか、改正案では、成年後見人等の解任の請求権を後見監督人あるいは御本人、それから親族等に与える、あるいは、家庭裁判所の後見事務等に関する必要な処分の請求権を本人にも付与するということ等の改正をいたしまして、家庭裁判所の監督機能を一層充実させるための改正も加えているところでございます。
○八代委員 よくいろいろなところでいろいろな障害を持った親御さんの話を聞きますと、また精神障害を持った家族の人の話を聞きますと、大概最後に言う言葉は、この子よりも先に死ねないという言葉です。この姉よりも先に死ねない、この親よりも先に死ねないという思いが非常に深刻に伝わってくる。私はよく、親が死に、子が死に、そして孫が死ぬ、そういう社会が一番いい社会なんだ、こういうことを言うことがあるのですが、そういう視点から、つまり親亡き後の問題です。
 そういう意味では、東京、大阪等で社会福祉協議会における財産保全管理サービスとか、あるいは全国精神障害者家族会連合会が先駆的に試みています「さぽーと」のような、契約によって本人の後見のあり方なんかを決める方法をいろいろ考えているのですが、こういう法制化した制度の中で、やはりこういうものとも絡み合いながら重要な役割を果たしていくべきだというふうに私は思っているのですね。
 そこで、任意後見制度は、知的障害者精神障害者等の御両親の老後、死後、すなわち親亡き後の本人の生活を支援するためにどのように役立てることができるのか。
 そして、やはりもう一つ最後にお伺いしておきたいのは、痴呆性高齢者、知的障害者精神障害者の後見人は、万一彼らに事故があったとき、または事故が発生したときに民事上の損害賠償責任が生ずると思うのですけれども、もし責任を課したものだと後見人のなり手がなくなってしまう、こういうおそれもなきにしもあらずなので、免責にして、なお各種の事故被害者を総合して、事故被害者総合救済保険制度みたいなものをつくったらどうかなんというような意見もあるのですが、あわせて最後に御答弁をいただいて、質問を終わりたいと思います。
○細川政府委員 御指摘の、親亡き後の御本人の支援のために、任意後見制度がどういうふうに使えるかという点でございますが、まず、子供本人が意思能力がある限り、みずから任意後見契約を締結することはできまして、親の死後に任意後見受任者が任意後見監督人の選任を申し立てて、その任意後見人の保護を受けるということが可能でございます。
 それから、子に意思能力がない場合は、子本人が未成年者の間に限って言えば、親権者が子にかわって任意後見契約を締結することも可能でございます。
 それから、二つともできないという場合には、今度は、親御さん自身が自分について任意後見契約を締結しておくということは考えられまして、それにあわせて、遺産の管理方法を指定する遺言とか信託とか、第三者に介護を頼んでおくとか契約をするとか、そういうことは考えられるわけでございます。
 それから、二番目の御質問の、事故があった場合の問題でございます。
 みずから不注意で御本人が事故に遭ったという場合には、そういう場合ですと、後見人等は善良な管理者の注意義務を負っていることになっているのですが、それに違反がなければ後見人等が責任を負うということはないわけでございます。他人を傷つけた場合はどうなるかということは、これは場合によりまして、後見人等が監督義務を怠ったということがありますと、それは損害賠償責任を負う場合があるわけでございます。
 最後に御指摘の、事故被害者総合救済保険制度でございます。
 これは保険制度でございますし、事柄の性質上、当然には法務省の所管ではないわけですけれども、私どもといたしましてもそういった問題の重要性は理解しているつもりでございますので、今後、議論の動向を見守って、法務省としてできることがあれば協力してまいりたいと考えているところでございます。
○八代委員 どうもありがとうございました。
○杉浦委員長 次に、達増拓也君。
○達増委員 自己決定ということは個人の尊厳の核心でありまして、それは自由の本質、デモクラシーの基盤であります。しかし、自己決定ということには能力の問題というものがつきまといます。
 一つには、よりよい自己決定、よりよい決定をするため自己の能力を高めていく、そういう自分に対する責任というものをきちんと持った上でなければ自由というものに価値を置くことはできないわけでありまして、自由と責任というものが常に対になるゆえんであります。
 また一方では、身体的といいましょうか、あるいは医学的といいましょうか、自己決定をするための能力を著しく低下させたり、さらにはそうした能力を失ってしまう場合もある。そのとき、いかに個人の尊厳を保ち続けるか、これはデモクラシーのあり方が問われる重大局面であります。しかも、それが、高齢社会ということで、例外的な問題としてあらわれてくるのではなく、すべての人について高い潜在的可能性を持つ問題として迫ってきているわけであります。したがいまして、成年後見の問題というのは、決して一部の人の問題ではなくて、すべての人々の問題であるという認識で取り組まなければならないわけであります。
 最近、多重人格が一種ブームになっておりまして、最初はドキュメンタリーで紹介され、その後我が国においても、小説やあるいはテレビ、漫画等々、多重人格ものがはやっているわけであります。これは、高齢社会がどんどん超高齢社会というようになってきて、痴呆等の問題で、いつ自分が自分でなくなってしまうかわからない、また自分の周りにいる人が突然その人じゃなくなってしまう、そういう危機感が非常にリアルなものとして社会全体に広がっている、そういう状況に対応してこういう多重人格の物語がブームになっているのかなというような気がいたします。
 もともと欧米でブームになったものなんですけれども、これは、レーガン元大統領がアルツハイマー宣言をしたことは記憶に新しいのでありますけれども、そういう高齢社会における自己決定の問題、アイデンティティーの確保の問題、そうしたことが欧米で先駆けて深刻に問題となり、それで多重人格ブームなども欧米で先に問題になったのかなというふうに考えております。
 欧米諸国では、成年後見制度についてさまざまな改革が行われてきたわけでありますけれども、今般、ついに我が国におきましても、法制度を整備して社会全体としてこの問題に取り組もうということで、民法改正等によります成年後見制度の改革ということになったわけであります。個人の能力の問題を制度的に補うことで個人の自由をできるだけ確保していく、日本のデモクラシーがまた新たな高度化、高い段階に入っていくのかなということで、非常に期待も高いのでありますけれども、まず最初に質問いたします。
 今般の、民法改正等によります成年後見制度の改革の趣旨、特に現行制度の問題点ということを踏まえてどう改善していくのか、これをまず最初に伺いたいと思います。
    〔委員長退席、山本(幸)委員長代理着席〕
○細川政府委員 現行の禁治産、準禁治産の制度につきましては、さまざまな問題点が指摘されております。
 まず第一に、禁治産、準禁治産という二つの類型しかなくて、軽度の精神障害により判断能力が不十分な方については対象とされていないということが第一点でございます。
 それから、現在の保佐人に取り消し権、代理権がなくて、御本人がみずからしない限りは取り消し権が行使されない、それから、保佐人が本人にかわって行為をすることはできない、これが制度の欠陥であるということが言われております。
 それから、後見人、保佐人になる方にも、配偶者がある場合は必ず配偶者がならなければならないとなっているのですが、例えば痴呆性高齢者の場合には、配偶者の方も大変お年寄りだという場合がありまして、法定後見人制度だと実際には機能しない場合があるということが指摘されております。複数の後見人も選べないということになっていますし、法人についても疑問があったわけでございます。
 それから、禁治産、準禁治産についてはマイナスのイメージがあると言われていまして、例えば準禁治産とか禁治産という言葉自体、財産を治めることを禁止する宣告ということになっていまして、それが戸籍に記載されるということで、利用者の非常に強い心理的抵抗があるということで、そういった点がいろいろ利用しがたい原因として指摘されておりましたので、今回の改正案では、そういう点を改めるということで改正案ができているわけでございます。
○達増委員 今の指摘された問題点の中で、まず最初に、現行制度が硬直的な二元的制度だという点、指摘がありましたけれども、もう少し具体的に、どのような点で使い勝手が悪く、またどういうふうに改革、改善していくのかを伺いたいと思います。
○細川政府委員 まず、現行の禁治産では、禁治産宣告を受けた方は、すべての行為について行為能力がないということにされております。したがいまして、日常生活に必要な物の購入とか、ガス代、電気代の支払い、そういったものまで法律上は後見人がしなければならなくて、本人ができないということになっていたわけですが、それを今回の改正案では改めまして、日常生活に必要な行為については御本人みずからができるようにしたということが一点ございます。
 それから二点目は、先ほどもちょっと申し上げましたが、保佐人の権限が同意権に限られておりまして、その同意を与えるか、与えないかだけしか権限がないということでございました。それで、今回の改正案では、まず保佐人について、同意をしていないことがあって、それが本人の不利益になる場合には、保佐人自身がその行為を取り消すことができるということにいたしました。
 それからもう一つは、御本人がみずからできない場合には、保佐人に代理権を与えることを可能とする、そういう改正も含んでいるわけでございます。
 それから三番目については、先ほど申しましたけれども、軽度の障害者に対する補助の制度がないということで、非常に多くの方々が利用できない制度になっていたということで、新たに軽度の障害のある人を対象とする補助という制度をつくりまして、補助人は、御本人の選択により、特定の事項について代理権を与えられ、あるいは同意権、取り消し権を与えることができるということになっておりまして、柔軟な対応ができるようにということで改正をしたわけでございます。
○達増委員 現行の準禁治産者と保佐人の制度については利用件数がわずかであり、ここ数年、禁治産者と後見人の制度については数年間で倍増するぐらい伸びがあるにもかかわらず、準禁治産者と保佐人の制度についてはそういう伸びもなく、利用件数もわずかということを聞いているのですけれども、そこはやはり今答弁にあったような問題点があったということでしょうか。
○細川政府委員 事件の動向それから原因等について、御指摘のとおりだと思います。
○達増委員 次に、任意後見制度について伺いたいと思います。
 これは、今回の改革によりまして新規に創設された制度ということであります。これは、自己決定という観点から、成年後見制度に新たな地平を切り開く制度で、大変いいと思うのですけれども、現行制度でも、代理契約の契約の仕方によっては、類似の効果のあるものも不可能ではなかったわけなのでありますけれども、今般の諸改正により、新たに制度としてきちっと体制整備することによってどのようなメリットが出てくるのかを質問したいと思います。
○細川政府委員 ただいま御指摘のとおり、現行法でも、自分が判断能力がなくなった後の代理人を定めておくということはできるわけでございます。日本の民法では、本人が判断能力がなくなっても、委任契約で与えられた代理権はなくならないということになっていますから、それは可能なのですが、御本人が判断能力がなくなった後にだれがその代理人を監督するかという問題がございました。したがいまして、従来、この現行の制度では任意後見人的なものを利用しにくかったのは、要するに、その制度に対する公的な監督の制度がなかったからでございます。
 そこで、今回御提案申し上げております新しい任意後見制度におきましては、御本人が、自己が判断能力がなくなる事態に備えて、あらかじめ任意後見人となるべき者を契約で定めておくわけですが、その効力が発生するのは、家庭裁判所が後見監督人を選任し、その公的な監督がなされるという担保ができてから任意後見契約というものが効力を生ずるということにいたしたわけでございます。こういったことによって、本人の自己決定の尊重と本人の保護ということ等の調和を図ろうとしたものでございます。
○達増委員 先ほど現行制度の問題点として答弁あった中に、戸籍という形で公示することによる弊害という点がありました。今回の改正で、登記による公示に変えるということで、これは、利用する側からすれば利用しやすくなるということだと思います。取引の相手方からすれば、戸籍の場合、だれでも確認作業、チェックしやすさという点はあったと思うわけですけれども、それが登記になることによって、後見人の名をかたって勝手に財産処分をする人とか、うがった見方をすれば、いろいろ制度を悪用する人も出てくるおそれがあると思うのですけれども、そうした弊害をどう防いでいくのか、この点はいかがでしょう。
○細川政府委員 確かに、成年後見の制度は、御本人の行為能力を制限する制度で、そして、第三者に代理権を与えるという制度でございますから、権限の濫用というものは特に問題になりますし、また、取引の安全等が問題になるわけでございます。
 そこで、成年後見人等であるあるいは保佐人等であるといったことをどうやって確認するかという問題でございますが、まず、取引の場合に、私はだれだれの成年後見人であるというふうに言って取引を申し込んできた場合には、それは成年後見人と称している人にその旨の登記事項証明書を提出するように、権限を証明する文書を提出するようにと要求することによって権限の範囲を確認することができるわけでございます。
 次に、それではその証明書はだれが請求できるかという問題でございますが、これは、今回の法案では、本人、後見人、そのほかに配偶者、特定の親族という方が請求できることになっていまして、第三者は請求できないということになっております。したがいまして、その証明書を持っている方はそういう権限のある人だということが確認できるわけでございまして、そういう面でも取引の安全が図られるのではないかというふうに考えておるところでございます。
○達増委員 次に、今回の改正で、後見人は、今までは一人とされていたものを複数にすることができるようになったということで、これは運用上といいますか実態上、利用する側からすれば非常に柔軟にいろいろ工夫ができる余地が出たということでありましょうけれども、他方、本人にかわって財産処分などの意思決定を行う後見人が複数ということでありますから、その中でうまく整理しなければ、だれが最終的に決めるのかとか、そういう混乱が生じるおそれもあると思うのですけれども、後見人が複数になった場合に混乱を防ぐための手だてというのはどのようになっているのでしょう。
○細川政府委員 御本人のさまざまなニーズにかんがみますと、場合によっては後見人が複数選任できるようにしておいた方がいいということが、私どものしたヒアリングでの大多数の意見でございました。そこで、複数選任することができるような案にいたしたわけでございますが、問題は、ただいま御指摘のような場合に、権限の重複とか衝突をどう調整するかというものが出てくるわけでございます。
 そこで、この改正案では、基本的には各成年後見人が単独で後見事務に関する権限を行使することもできることとしておりますが、裁判所は、矛盾抵触の可能性を防止するために、事案に応じて家庭裁判所の職権で、成年後見人の権限の共同行使とか、あるいは分掌の定めをすることができるわけです。例えば、財産管理については法律家たる弁護士さんが後見人になる、それから、身上監護については社会福祉士の方がなるとか、そういうふうに分掌を定めることによって権限の衝突を防ぐことができるというふうに考えておるところでございます。
○達増委員 後見人の決定については、配偶者がいる場合は現行制度では原則配偶者というふうに民法にあるわけですけれども、今回、それを配偶者じゃなくてもよいとした。配偶者がいれば配偶者じゃなければならないということの弊害、先ほどの答弁にもあったのですけれども、もう一度、配偶者じゃなくてもよいとした理由について具体的に伺いたいと思います。
○細川政府委員 御指摘のとおり、現行民法では、配偶者がある方については必ずその人を後見人なり保佐人にしなければならないということになっているのですが、これは、福祉関係の実務の方々に聞きますと、特に痴呆性高齢者の方の場合には、配偶者の方も大変高齢で、現実に後見人としての役割を期待することができない場合があるということを聞いておりますので、そこの点はやはり法律上に例外を許さないようにしておくのは適当ではないだろうという判断に至ったわけでございます。
 もっとも、この法律の義務づけを取りましても、実際の運用上では、多くの場合は配偶者の方が適任であろう。それは、やはり愛情に基づいて御本人の面倒を見るということが最も適切なものが期待できるからということでございまして、したがって、最終的には、法律上で義務づけることはやめるということにいたしたわけでございます。
○達増委員 今の点、もともとこうした成年後見が問題になるようなケース、伝統的には血のつながりとか家族制度とかいうものが重視されて、そもそも、この後見制度について、民法では親族編の中に入っていて、また戸籍に公示されるといったところも、伝統的には非常に家族の問題として考えられていたからなのかなと思うわけでありますけれども、今や、高齢社会の問題、介護保険の問題などでも議論されているように、もう家族だけでは大変で、もっと社会的な広がりの中でこうした問題に取り組んでいかなければならないということで、配偶者でなくても後見人になれるようにしたところは非常に革新的な部分の一つだと思うのです。
 並行して、今回の改正で、さまざまな団体、施設等、そういった法人が後見人になることが、そういった事態が家族の問題というところから、より社会的な広がりの中で解決していくということで取り入れられていると思うわけですけれども、その辺について伺いたいと思います。
○細川政府委員 確かに御指摘のとおり、家族だけの問題にとどまらず、地域全体の問題として考えていくということが従来指摘されておるところでございます。
 実際に、後見人にだれを選ぶかという場合でも、私どものヒアリングをした結果では、例えば自治体が設立した福祉関係の公益法人、多くの場合は福祉公社とかいう名前がついておりますが、とか、社会福祉協議会というところ、これは社会福祉法人でございます、あるいは、弁護士さん等の法律の専門家が集まってつくられた法人というものがございまして、こういうところが障害者の支援の事務を現実にされておられるのでございます。
 そういったところが、この法律ができますと、公式に後見人となることができるということで、社会資源として新たなものが加わるということになるものと考えております。
○達増委員 そのように、後見人のあり方について、大分柔軟に、かつ社会的広がりの中で手当てしていくような方向での今般の制度改革になっておりまして、それによって、かなり利用が伸びたり、活用が広まったりすることが予想されるわけでありますけれども、それは一方で、後見制度を監督していくことがまた非常に重要になり、かつ、いろいろ複雑また専門的な知識も要求されるようになってくると思うのですけれども、そうした監督体制の整備については、今回、どのように考えているのでしょうか。
    〔山本(幸)委員長代理退席、委員長着席〕
○細川政府委員 まず、現行の制度では、後見人については後見監督人を選任できるわけですが、そのほかについてはなかったわけです。今回は、保佐人それから補助人についても後見監督人を選任できるようにいたしたわけでございます。それで、この監督をまず期したいということでございます。
 第二点目としては、当然、家庭裁判所が公的な監督もしなければならないわけでして、その点については、裁判所が後見人に対して、例えば後見事務の状況を家庭裁判所に報告させる、それから、必要な場合には、どういう処分をするべきかということを命ずることができるようにいたしました。
 それからまたもう一つ、御本人が現に居住している家屋を後見人が処分しなければならないと考えた場合には、これは御本人に対する影響が大きいものですから、裁判所の許可を得なければならないということにもしておるわけでございます。
○達増委員 以上で私の質問を終わりたいと思います。
 現行制度の不備な点について、今非常に困って、すぐにでも新しい制度を求めている、そういう方々がいらっしゃいますし、他方で、冒頭述べましたように、これは決して一部の人の問題ではなくて、今や全国民、すべての国民の共通の問題ということでありまして、国全体、社会全体として取り組んでいかなければならない、そういう問題でもあるわけであります。一日も早くこの法案を成立させることで、そうした国民全体のニーズにこたえていくことを希望いたしまして、質問を終わりたいと思います。
 ありがとうございました。
【次回へつづく】