精神医療に関する条文・審議(その106)

前回(id:kokekokko:20051120)のつづき。初回は2004/10/28。
ひきつづき、平成11年の成年後見制度制定・精神保健福祉法改正についてみてみます。

第145回衆議院 法務委員会会議録第19号(平成11年6月11日)
【前回のつづき】
○杉浦委員長 次に、上田勇君。
○上田(勇)委員 公明・改革の上田でございます。
 初めに、公正証書遺言等の改正につきましてまず御質問させていただきたいと思います。
 今回の法案によりまして、聴覚あるいは言語機能に障害をお持ちの方が、口授にかえまして手話通訳や自書による公正証書遺言が認められることとなったわけでありますが、これはかねてから聴覚障害者の方々からも要望が出されていたことでございますし、本委員会におきましても、我が党を初め多くの委員の方がこの問題を取り上げて質問させていただいている事項でございます。また、これまでのいろいろ議論を伺う中で、手話通訳を認めない、あるいは自書を認めない合理的な理由も既になくなってきたのではないかということを常々感じていたわけでございますが、そういう意味で、今回、かかる改正が提案されたということは評価するものでありますし、むしろ遅きに失したぐらいのことではないかというふうに考えているわけでございます。
 そこで、最初に北岡次官に、今回の改正の意義、また趣旨、そしてこれまでなぜそういう口授に限られていたかなども含めて、今回の改正についての御見解をお伺いしたいというふうに思います。
○北岡政府委員 委員御指摘の、現行の民法上の公正証書遺言は口述主義をとっておったということで、手話通訳または筆談によることができないということで、いろいろな問題が指摘をされておったわけでございます。
 聴覚、言語機能に障害がある方々には、公正証書遺言をすることができないということで、それにかわりまして、自筆証書遺言あるいは秘密証書遺言という方式もございまして、こちらで大体、本来は処理できるであろうというような考え方があったわけでございます。
 しかしながら、最近、このような障害のある方々も、より安全で確実な方式とされております公正証書遺言を利用できるようにすべきであるという社会的な要請が高まりを見せておりまして、法務省といたしましても、このような方々の権利擁護の必要性、そしてまた近年の手話の発達や普及の状況等を総合的に考慮いたしまして、本法案においてこのような方々が手話通訳または筆談により公正証書遺言をする道を開いたものであります。
○上田(勇)委員 今の御答弁にもありましたように、やはり公正証書遺言が最も安全かつ確実である、それを今回、聴覚あるいは言語の機能に不自由な方々も利用できるようになったということについては大変評価するものでございます。
 その意味で、今御答弁の中にも、手話の発達といったことも理由として挙げられていましたが、そういった障害をお持ちの方にもできる限りいろいろな、あらゆる面での権利が的確に保障されるように、今後もぜひまた迅速な対応をしていっていただきたいというふうにお願いするものでございます。
 それで、次に、成年後見制度の質問の方に移らせていただきますが、初めに、ちょっと内容について、若干細かい点に及ぶ面もありますけれども、質問させていただきます。
 今回、現行制度のもとでは禁治産者の後見人にのみ付与されておって保佐人には付与されていない取り消し権や代理権を、後見人に限らず、保佐人、補助人にも付与することというふうに改正が提案されているわけでございます。これらは、こういう後見制度の実効を高めるという意味では理解できるものではありますが、同時に、被後見人等の権利の制約を伴う重要な事項でございますので、今回このように改正した理由をまずお伺いしたいというふうに思います。
○細川政府委員 ただいま御指摘がありましたように、保佐人、補助人に同意権と取り消し権を与えること。取り消し権を与える点につきましては、実は、本人の保護には適しているという面と、それから本人の能力を制限する面と、二つあるわけでございますので、この点について、実は、昨年四月に公表した民法改正要綱試案では、検討課題として掲げまして、各界の意見を伺ったわけでございます。その意見の照会の結果、日弁連とか多数の福祉関係団体からは、やはり保佐人、補助人に取り消し権を与えるべきだという意見が寄せられました。そういう意見が多数を占めたわけでございます。
 その理由は、まず、判断能力の不十分な御本人の保護の観点からは、保佐人、補助人にも取り消し権を付与する制度の方がより実効的になるということで、従来から、民法の教科書にも、取り消し権がないのは立法上の過誤だとまで書いてあるものがあったわけでございまして、そういう理由でございます。
 それから、代理権を与えるということにつきましては、代理権と取り消し権とでは、やはり私的自治に対する制約という点では本質的に性格は同じだというふうに考えられますので、補助人に代理権を与えるのであれば、取り消し権も与えても法制的には整合性があるものになるだろうということで、この二つの理由で、取り消し権というものを保佐人、補助人にも与えることとした案といたしたわけでございます。
 もっとも、本人の判断力が比較的ある補助類型の場合には、補助人が取り消し権を持つことを本人が望まない場合には、本人は同意権の付与に同意しないことによりそういう審判がなされることはないということになりまして、補助人には代理権のみを与えるということが可能になるわけでございます。
○上田(勇)委員 次に、現行の八百五十八条一項において禁治産者の後見人の身上監護義務が定められておりますが、今回の改正では、これを廃止いたしまして、新たに、成年後見人、保佐人、補助人すべてに身上配慮義務を設けることとしておるわけでございますが、その理由、それから、こうした変更に伴いまして、後見人、保佐人の役割にどのような変化が生じるのか、その辺の趣旨をお尋ねいたします。
○細川政府委員 御指摘のとおり、現行の八百五十八条第一項では、後見人に禁治産者の療養看護に努める義務を課しているわけですが、これは、対象が療養看護というものに限定されて、身上監護の多様な面の後見人の注意義務を規定していないということが一つ問題であります。
 それから、後見人自身が療養看護に努めなければならないような、要するに、事実行為との境界が不明確であったという指摘もあったわけでございます。成年後見人の行う行為には、身上監護を目的とするものはもとより、財産管理に関するものでありましても本人の身上に関する事項が多うございまして、成年後見人は、本人の身上に配慮してその事務を遂行すべき一般的な責務を果たすことが求められているところでございます。
 そこで、身上面の保護の重要性にかんがみ、この新しい規定では、後見事務の遂行に当たっては、本人の心身の状態、生活の状況に配慮すべき義務に関する一般的な規定を創設するとともに、その規定の中で、自己決定の尊重の観点から、本人の意思を尊重すべき義務についてもあわせて規定することとしたものでございます。したがいまして、成年後見人等は、この身上の配慮義務を負うことによりまして、本人の身上面の保護と本人の意思に配慮した後見の事務を遂行するということが責務となりまして、これまで以上に重要な役割を負うことになったということが言えると思います。
○上田(勇)委員 次に、今回の改正は、現行の禁治産、準禁治産制度が余り利用されていないという実態を踏まえまして、現行制度を柔軟かつ弾力的なものとするように、現行制度についていろいろと指摘されている問題点などを種々改めて改正したものというふうに承知しております。先ほど既に質疑が行われましたが、こうした改正によりまして、現行の制度に比べて、新たな成年後見制度の件数、これは相当増加するのではないかと想定されているというふうに先ほどお話があったと思います。
 ただ、そこで、今度はもう一つ考えなければいけないのは、この法定後見人制度等の利用者が相当増加するということになると、高齢者であった場合に、被後見人等でなくて、つまり、本人が十分な判断力を持っているという場合においても、何らかの契約を結ぼうとしたときに、契約の相手方から、むやみに、被後見人になっていない、したがって、その契約が有効であるということを明らかにするように求められるというようなことはないのだろうかということが懸念されるわけであります。
 これは、契約の相手方の立場になってみますと、そういうリスクを回避するという意味では、本当に本人との間の契約が有効であるかどうかということを確かめるというのは、そういう意図があるということも考えられると思うのですが、そういうことを通じて必要以上に高齢者等の経済活動とか社会生活を事実上制限するようなことがあってはならないというふうに思います。そのあたりについて、お考えを伺いたいと思います。
○細川政府委員 確かに、取引の相手方にとりましては、後で契約が取り消されるということは大変な事態ですから、そこは注意するのは当然でございましょうけれども、通常、従来からの継続的取引関係がある場合には当然そういった事実はわかると思いますし、また、取引の過程で相手方の判断能力に不審な点がなければ、特にお年寄りだということの一事をもって確認を求めるということは普通はならないのではなかろうかと思っております。
 取引の過程で相手方の判断能力について疑問を抱けば、本人とか御家族に成年後見等を受けているかどうか口頭で確認するということになろうかと思いまして、受けているということであれば証明書を出してもらって権限のある人に加わっていただく、受けていないということであればそれで取引をして差し支えないのだろうと思います。わざわざ、質問されて、成年後見等を受けているのに受けていないと答えた場合には、民法二十条のいわゆる詐術の規定がありまして、後から取り消すことができないということになりますので、一般的にはこれで対応できるのではないかと思っております。
 私どもも、この点については、例えば銀行取引はどうなるかということで、銀行協会の方々ともこの改正をした場合どうなるかというふうにいろいろ御相談いたしまして、例えば保佐人、保佐の決定があった、補助の決定があったということで制限がある場合には、あらかじめ取引銀行にその旨届けてもらうとか、それから、銀行が取引する場合には、相手方に成年後見があるかどうかということを契約書に書いておいてもらうということで、そのことによってそういった問題は防げるというふうな判断に達したわけでございます。
 したがいまして、こういう制度ができたからといって、一概にお年寄り一般が不利益を受けるということにはならないのではないかなというふうに思っているところでございます。
○上田(勇)委員 今大臣お見えでございますので、次官、御公務があるということでございますので、どうぞ御退席ください。
 そういったことが必要以上に制約になるというようなことはないという御見解でございましたけれども、そういうような配慮というのでしょうか、それは法務省だけのことではございません。政府全体として、高齢者あるいは障害をお持ちの方々が、こうした制度が設けられたがゆえに、もちろん今回の成年後見制度においては日常生活、日常の取引等については本人の意思でできることになっているわけでございますけれども、それでもいろいろな、先ほどちょっと銀行取引というような話もございましたが、社会生活や経済的な活動、そういったものに必要以上の制限が加わらないような御配慮をぜひとっていただきたいというふうにお願い申し上げる次第でございます。
 このことについてもう一つお尋ねしたいのですが、今、成年後見を受けているのかどうかという質問に対しては、それは口頭でお答えするということでありました。受けている場合には、それは登記を本人が請求することがあるのですが、受けていないことを証明するというようなことを求められた場合には、何か対応のしようというのはあるのでしょうか。
○細川政府委員 御提案申し上げております後見登記等に関する法律におきまして、自己が成年後見等を受けていないという証明書を請求すれば発行することといたしているわけでございます。
○上田(勇)委員 次にお尋ねいたしますが、現行の制度のもとで禁治産、準禁治産の宣告を受けている者は、今回の法案が成立しますとそういった制度が廃止になるのですが、現にそういう宣告を受けている者の今後の立場についてはどうなるのか、また後見登記の取り扱いや戸籍の記載についてはどのように取り扱われるのか、経過措置ということになるのかと思いますが、その辺の御説明をいただきたいと思います。
○細川政府委員 経過措置の問題でございますが、現在、禁治産、準禁治産の宣告を受けて後見人、保佐人がついている人につきましては、新しい法律の施行後は、基本的には新しい制度のもとでの後見、保佐を受け、後見人、保佐人となっているというふうにみなされることになるわけでございます。ただ、今回の法律では、浪費者については保佐の対象といたさないことにしておりますので、その人については従来の法律がそのまま適用になるという形での経過措置が設けられておるところでございます。
 それから、登記と戸籍の関係でございますが、附則に規定がございまして、従来、禁治産、準禁治産の宣告が戸籍に記載された方は、登記所に申請することによって、登記に移しかえることができます。そして、そうした場合には、最終的にはもとの戸籍を再製いたしますので、私どもとしては、その再製の際には、従来の禁治産や準禁治産のところは移記しないでいいという扱いにしたいと思っているのです。そういうことによって、新しい制度に戸籍から登記に乗り移っていくということになるわけでございます。
○上田(勇)委員 ありがとうございました。
 そういう意味で、せっかく今回、現行の制度のいろいろな問題点について改めて新しい制度を発足させるわけでございますので、そういった移行についても、円滑、また可能な限りそういったものがすべて行われるように、ぜひこれからもいろいろな形での取り組みをお願いしたいというふうに思うわけでございます。
 それで次に、この委員会では、今成年後見制度を審議しておりますが、聞くところによりますと、厚生省においては、本年の十月から地域福祉権利擁護事業というものの開始を予定しているということで、同事業においても、市町村の社会福祉協議会が窓口となりまして、生活支援員という方が高齢者の方々やその他障害をお持ちの方々を補助して、金銭管理を初めとしますいろいろな補助業務を行っていくということでございますが、同事業の生活支援員成年後見人、とりわけ今回設けられている任意後見人というのは、見た感じ、かなり仕事の内容とかは類似している部分もあるように思いますけれども、この生活支援員成年後見人、とりわけ任意後見人との関係性、そういったものはどのようにお考えなのか、御見解をお伺いしたいと思います。
○細川政府委員 御提案申し上げております成年後見制度は、財産管理及び身上監護に関する契約等の法律行為を援助するものでございます。これに対して、現在厚生省で進めております地域福祉権利擁護事業は、利用者ができる限り地域で自立した生活を継続していくために必要なものとして、比較的簡便な仕組みにより、福祉サービスの利用手続の援助や代行、それに付随した日常的な金銭管理等の援助を行うものとされているわけでございます。
 地域福祉権利擁護事業は、事業の実施主体が本人と契約を締結することにより援助を開始することとしております。したがいまして、御本人が判断能力がなく、契約締結能力がないという場合には、成年後見制度に選任された後見人等あるいは任意後見人がいれば任意後見人等がこれとの医療契約を締結することになるわけでございます。
 地域福祉権利擁護事業でいろいろ契約を締結いたした後に、本人の判断能力がなくなっている場合とか、あるいは援助の内容を変えたい場合には、これは適宜、成年後見等の制度につなげていく必要があるということになろうかと思います。
 こうしたことから、成年後見制度と地域福祉権利擁護事業とが連携を密にして、両者が相互に補完し合う形で機能を果たすことによって、判断能力の不十分な方が地域で安心して生活することができるような仕組みが完備されるのではないかというふうに考えているところでございます。
○上田(勇)委員 あともう一つ、後見人の選任に当たっての考慮すべき事情等について、先ほどちょっと質問で出ましたので省略させていただきますが、最後に、やはりこの成年後見制度、私は、高齢者、障害者の方々の生活、健康、財産上の権利を適正に守っていくという意味で非常に重要な制度であり、積極的な活用が期待されているものであるというふうに考えております。
 特に、現在このように少子高齢化社会ということが広く一般にも言われるようになって、これまで以上に成年後見制度についての関心は高まっているというふうには思いますけれども、それでも、いざ自分や近親者がこの制度を利用するというような事態が具体的に想定されるに至らない限りにおいては、やはり残念ながらなかなかそれほど関心を持っていることではないんではないかというふうに思うわけでございます。
 先ほどちょっと厚生省の地域福祉権利擁護事業のことについてもお尋ねをいたしましたが、これはやはり、福祉事業において、特に利用者の方々と最も多く接点を持っている部門が、例えば社会福祉協議会であったり福祉事務所であったりというようなことではないかというふうに思うわけであります。
 そういう意味で、ぜひ、この成年後見制度、非常に重要な制度でありますので、広く国民に周知をしていただかなければいけないわけであります。法務省としても、厚生省やその他関係行政機関また各種団体等の協力も得ながら、そして、この制度について国民に広く周知させるため、ぜひ広報活動等を積極的に行っていただきたいというふうに思いますけれども、その辺についての方針をお尋ねしたいと思います。
○細川政府委員 午前中の質疑で法務大臣からお答え申し上げましたとおり、成年後見制度の適切な運用に当たりましては、ただいま御指摘のありましたような、厚生省、自治体あるいは福祉関係の機関、それぞれのさまざまの団体との協力が不可欠でございます。私どもといたしましても、例えば、わかりやすいパンフレットをつくってそれらを関係機関に御送付申し上げるとか、あるいはこの制度の内容について周知徹底を図る、あるいは法務省のホームページにそれを掲載するとか、そういうさまざまな工夫を凝らしまして制度の周知徹底について努めてまいりたいと思います。
○上田(勇)委員 以上で質問を終わらせていただきます。
○杉浦委員長 次に、木島日出夫君。
○木島委員 日本共産党の木島日出夫でございます。
 いよいよ成年後見制度改正に関する関連四法案の審議が始まったわけでありますが、私どもも、現行の禁治産、準禁治産制度が非常に硬直的で使いにくい、そういう状況を、欠陥を是正して、痴呆性のお年寄りや精神障害のある方々が、自己決定権が尊重されながら、かつ必要な保護、援助が図られる、そういう法的制度をつくること、大賛成でありまして、ノーマライゼーション推進の立場から積極的に取り組んでいきたいと考えているわけであります。
 二つの観点が非常に重要だと考えております。一つは、利用しやすい、そういう方々が安心して利用できる制度であること。もう一つは、後見人や後見監督人等が代理権を濫用して、例えば痴呆性のお年寄りの方々の財産などを不当に侵奪する、それを防ぐ歯どめをしっかりかけるということ。一見相反する要請でありますが、この二つの観点が非常に大事だと思いますので、これからそんな観点から、政府から出されている法案について基本的なところから質問をしてみたいと思います。
 最初に、成年後見、保佐、補助、三類型の制度にしようとしているわけでありますが、午前中も質問がありましたが、民法上の行為能力の制限の制度については、抜本的に使い勝手のいい制度をつくるんであれば、むしろ、ドイツが一九九二年から進めている一元的制度、いわゆる世話制度、これの方がいいんではないか。裁判所が個々の当事者の身体的状況、財産的状況、親族の関係その他その他、一人一人しっかり判断をして、この当事者はこのぐらいの行為能力制限でいいんじゃないか、そして、こういう世話人をつけるのがいいんじゃないかという具体的な判断をするいわゆるドイツ型の一元的制度の方がいいんではないか。
 フランスのような三類型、日本の今回の法改正と同じですが、三類型だと型にはまってしまって、自己決定権の尊重という立場から見るとやはりよくないんじゃないか。現行日本の制度は禁治産、準禁治産の二類型ですね。三類型にしたことやら、幾つかの前進、是正はあるとは思うんですが、この際思い切って、使い勝手よくするにはドイツ型の一元的制度がいいんじゃないかという意見もたくさんあったと思うんです。
 法務省は、この法案をつくるに当たって十分にその辺は検討されたと思うんで、改めて、なぜドイツ型の一元的制度をとらずに多元的制度、三類型制度を提案されようとしているのか、詳しく述べていただきたいと思います。
○細川政府委員 ただいま御指摘の一元的制度か多元的制度かという問題につきましては、実は、この検討を法制審議会で始めた当初から基本的な問題として大変議論された問題でございます。最終的には、いわばフランス型の多元的制度をとりながら、各人の個別的な状況に即した、柔軟かつ弾力的な措置の設定を保障する一元的制度のメリットも取り入れるという方向でこの御提案をさせていただいているわけでございます。
 基本的に多元的制度をとる主な理由でございますが、まず第一に、我が国では、精神上の障害のある方の財産をめぐる親族間の紛争を背景とする禁治産等の申し立てがふえている実情にあります。そこで、重度の精神上の障害を有する方については、本人保護の観点から、一定の範囲の代理権、取り消し権等による保護をあらかじめ法律で定めておくことが必要であると考えられたわけでございます。
 これに対して、重度の精神上の障害を有する方について、申立人の請求に応じて特定の法律行為のみについて代理権を付与するということでは御本人の保護のためには不十分な場合があるだろうということでございます。判断能力の程度に応じて保護措置の内容を定めることとした上で、判断能力を全く欠く方については一定の範囲の保護の措置を法定し、次に、判断能力の著しく不十分な者については本人の選択にゆだねる部分と法定の範囲を併存させる。さらに、もう少し軽度な方については保護措置を本人の選択にゆだねる。そういう多元的な枠組みをとるのが適当であろうということが第一の理由でございます。
 第二の理由としましては、仮に一元的制度をとっても、これを実際に裁判所で運用していく場合にはある程度の類型化の必要が当然実務上生じてきますので、多元的制度をとって弾力的な制度とした場合と適用の結果においてはそんなに差異が生じないではないかということでございます。
 それから、多元的制度のもとで幾つかの法定の類型と基準を定めている方が、制度の利用者としても予測可能性があって利用しやすく、自己決定が容易であり、実務的にも運用しやすい、こういった点が考慮されて基本的には多元的な制度がいいということになったわけでございます。
 それからもう一つの点は、実は多数の法律で欠格事由として禁治産、準禁治産が定められているわけなんですが、それを一元的制度にした場合、軽い障害の方も入ってくるわけなんで、そういう方についても欠格制度が適用になるようなことになっては、これはかえって困ってしまうという問題もございまして、そういったことをさまざま考えまして、多元的制度が適当なのではないかという判断に達したわけでございます。
○木島委員 法務省日弁連の意見書は十分承知していると思うのです。日弁連は今もやはり一元的制度の方がいいという立場をとっているようであります。
 四つの理由を今法務省述べられましたが、重度の場合、中度の場合、軽度の場合という三つに分けるわけですね。しかし、障害を持った方々の立場からしますと、そう三つに分類されても、逆に言うと困る。障害の程度についていろいろなレベルはあると思うのですね。そして、財産をどのくらい持っているかについても、人によってまちまち。それから、兄弟がいる人、いない人。親子がいる人、いない人。親族がいる人、いない人。いろいろ本人を取り巻く環境は違う。
 そういうことを全般的に判断をいたしますと、私は、どちらがより本人の自己決定権が尊重される制度かといったら、やはり三つの型にはめないで、一人一人の置かれた条件をよく裁判所が見て、その人に一番合った後見制度といいますか、それを適用するという方がいいのではないかと思うのですよ、そのこと自体比較すれば。いろいろほかのことは別ですよ。それはお認めになりませんか。裁判所の能力とかいろいろあるでしょう。それは別の問題ですよ。どうですか。
○細川政府委員 立法する場合に、立法の上で尊重しなければいけないさまざまな価値というものがあると思うわけです。
 本件の場合には、一つは本人の自己決定の尊重という価値がある。それは、そのことだけ考えれば、あるいは御指摘のように一元的な制度の方がいいのかもしれません。
 他方、別の価値もあるわけで、本人の実質的な保護を図るにはどうしたらいいかという価値とか、そういう他の利益が絡むと、また別の考慮もあるということだと思っております。ですから、そういった異なる価値をどのように調整していくかというものが本件で問われているものだと思っております。
 なお、日弁連の意見書は私どもももちろん熟読玩味しておりますが、最終的に法制審議会で、日弁連の代表の方もこの改正案のもとになっております答申については御賛成になっているわけでございます。
○木島委員 私も、多元的制度はだめだと言っているわけじゃないのです。どちらの方がよりいいかという選択の問題だと思うのですね。
 それで、また逆の立場からちょっと質問してみたいのですが、日本で今一元的制度がドイツのようにとれなかった理由、それをお聞きしたいのですよ。
 今、四番目の理由として挙げたのは欠格制度ですね。いろいろ日本は残っていますね。今度の法改正によっても大分残るわけですね。それがあるからだというのはおっしゃるとおりだと思うのです。
 逆に言うと、そこが批判されているのではないでしょうか。全部それは取っ払ってしまう。行為能力の制限の制度と、選挙権初めいろいろな資格を付与できないという、その制度がリンクしているからドイツのような一元的制度がとれなかったのじゃないか、日弁連はそう指摘していますよね。
 むしろ、この際、行為能力の制限の規定と選挙権その他の欠格制度は切り離して、障害があるからといって資格を付与しないというのは全面的に廃止する、そういう基本的な姿勢に立てば、その制約は一つ取り除けるのじゃないかと思うのですが、それはどうでしょうか。
○細川政府委員 一元的制度か、いろいろ資格制限があるかというのは、必ずしもドイツにおいても結びついているわけではございませんで、ドイツでも一元的制度をとられていますけれども、さまざまな資格制限というのが残っております。これは私どもの出しました関係資料にも、かつて発表しましたものには載っているわけなのですが、ですから一概にそのことだけが問題ではないわけです。
 私が先ほど申し上げましたのは、いわば最後の理由として申し上げたわけで、新しく軽度の障害のある方を対象として保護の制度を設けるのですが、その方たちについて欠格条項等が適用されるようなことになっては本末転倒になってしまうということで申し上げたわけでございます。
 そして、一元的制度か多元的制度かという理由については、やはり現在までに培った実務の積み上げがあるわけですから、円滑に新しい制度に乗り移っていくためには、従来の制度とそんなに違わない制度の方が運用が円滑に行くということも大きな理由であったわけでございます。
○木島委員 今の答弁で、ドイツでも一元制度はとっているけれども、いろいろな形で資格制限の制度はあると、それはそのとおりなのですよ。しかし、それは、資格制限の制度はそっちの観点からつくっているのであって、民法上の行為能力がこの人たちにはないから即リンクするような形で資格制限をさせないという点では、ドイツの方が一歩前進しているのじゃないかなというふうに思うのですよ。
 これは非常に根本問題でありますし、それを論じますと時間がなくなりますから、この辺でやめますけれども、私は一定程度時間が来てから、やはり見直しのときには、一元的制度について改めて再検討する価値があるのじゃないかと思いますので、そのことだけ述べて次の質問に移っていきたいと思います。
 法務省の今度のように、三つの類型に区分いたしますと、やはり区分の基準というのは非常に大事になってくると思うのですね。事理弁識する能力を欠く場合と、著しく不十分な場合と、不十分な場合によって、後見か、保佐か、補助かに区分けされる。区分けされると、法律に従って、行為能力が完全に制限されるか、一部制限されるか、そういうふうに違いが出てくるわけですから、その区分の基準というのは非常に大事だと思うのですね。
 それで、まずお聞きしたいのですが、今度の民法改正によりますと、請求によって家庭裁判所が審判するという仕組みですね。そうすると、例えば補助の審判を請求したが、家庭裁判所がいろいろ調べてみたら、これは補助じゃなくて保佐が必要ではないかというふうな認定をしたときに、請求と違った類型の審判をすることができるのでしょうか。それは禁じられているのでしょうか。
○細川政府委員 現在の実務におきましても、準禁治産宣告の申し立てがあった場合で、これは準禁治産では不十分で禁治産宣告でやるべきだという場合には、改めて禁治産宣告の申し立てをしていただいて禁治産宣告をしているという実務の運用をしておるわけでございまして、改正後もやはり類型が異なっていれば、改めて適合する申し立てに付していただけるようにということで裁判所から勧告するということになろうかとは思います。
○木島委員 そうすると、職権で裁判所は申し立てと違う類型の審判はできないと聞いていいのですか。
○細川政府委員 民法の規定の上では、保佐の要件は、後見の水準に達している者は保佐にはできないという実体的要件ができておりますので、これは裁判所が自分の判断で申し立てと異なる判断をするのは適当ではないわけで、運用としては、本人にも言って、改めてそういう申し立てをしていただくということが適当であるというふうに考えているわけでございます。
○木島委員 申し立てをする方にはする方の理屈というのがあると思うんですね。私は大変障害が重度だから後見にしてもらいたいとか、あるいは、私の場合は中程度だから保佐の審判をしてもらいたい、あるいは、私はそんな状況じゃないから補助の審判をしてもらいたい。申し立てをする方には申し立てをする方の利益と考えがあって申し立てをするわけですね。
 しかし、裁判所は調べてみたらそういう認定じゃなかった。そういうときに、今のお話ですと、勝手にはやれない、そして改めて出し直してもらいたいという答弁でしょう。そうすると、私は補助の審判を求めたのに、裁判所が勝手に出し直せと。おまえはもっと重度だから、後見か保佐の方の申し立てをしろということだと思うんですよ。しかし、嫌だ、そんなのは応じたくないという場合には、これはやめてしまうと思うんですね。そういうことですか。
○細川政府委員 御本人の申し立てしたものより重いものを認定するのは適当でないということで、結局、軽い方に認定するのはいいだろうというのは、従来からそういう考え方もあるわけなんですが、重い方にやるのはやはり、少なくとも申し立ての趣旨を変更してもらわないといけない。それはやはり、御本人の申し立てを無視して審判をしない。すなわち、これは本人の行為能力の制限になるわけですので、申し立ての範囲を、ないのに超えて認定するのは適当ではないということでございます。
○木島委員 はい、わかりました。
 それでは、三類型ですが、重い方からいきますと後見、そして保佐、補助ですね。後見の申し立てをしたが、比較的軽いので保佐や補助にすることは可能、しかし逆は不可能と。本人の改めての申し出がなければ不可能。これが法務省の公権解釈だ、そう聞いてよろしいですね。
○細川政府委員 従来の理論から申しますと、こういう三段階の法律をつくりますとそういう解釈になるであろうというふうに考えております。
○木島委員 はい、わかりました。
 それから、本件制度は請求が前提になっているわけですね、今聞いたとおりであります。しかし、ドイツなどが非常に利用が多いという理由に、職権によってこの制度を発動することができるという仕組みになっているようですね。いろいろな情報あるいは福祉事務所あたりからの情報が裁判所へ来れば、裁判所は職権で調査して一定の発動をする。
 今回、法務省が、そういう成年後見制度を利用する場合に、職権を基本的に認めなかった、申し立て、請求を前提にしたその基本的な理念というのはどこにあるんでしょうか。
○細川政府委員 この点は現行法と同じでございます。
 現行法が職権により開始することをしていない理由は、やはり私的自治の尊重の観点から、本人の行為能力等に一定の制限を加えることとなる手続を、第三者で中立な判断機関である裁判所が職権で開始することには問題があるという理由が第一点。
 それから、判断機関として、司法機関としての性質上、判断能力の不十分な方に関する積極的な情報の収集探知といったことは裁判所の事務になじまないということで、これは職権でということにはいたさなかったわけでございます。
    〔委員長退席、山本(有)委員長代理着席〕
○木島委員 次の質問に移りたいと思うのですが、どういう人が後見人に選任されるか、決定的に重要だと思うんですね。被後見人等の財産が正しく守られるかどうかが、どんな人たちが後見人に選ばれるかによってある程度決められると思うからです。
 それで、民法八百四十三条第四項ですが、利益相反にある個人や法人をそういう後見人から排除するということが非常に必要だろう。この制度をつくるに当たって多くの団体や個人からも、ぜひ、利益相反にある個人や法人は後見人に選任してはならないという排除の明文上の規定が必要だということが意見として言われていたと思うのです。そういう事件も起こっているからだと思うんですね。
 ところが、この法案は、そこまでは明文の規定を置かずに、裁判所が後見人を選任する選任の理由の中の一つに利害関係の有無を判断材料にするという程度にとどめているんですね。これはぜひ、利益相反にある個人や法人は後見人にしてはならない、そのぐらいのきちっとした規定があってもいいんじゃないかと私は思うのですが、そこまで規定を置かなかった理由は何でしょう。
○細川政府委員 明確に利益相反の関係にある人を後見人等に選任することは、これは適当でないことは明らかでございます。
 ただ、この条文は、後見、保佐、補助すべてにわたって他の方でも準用されている規定でございますし、また、利益相反ということは非常に幅広い概念でございます。配偶者であっても、一定の例えば分割相続等に関しては利益相反する場合もあるわけですから、利益が相反する場合はこれを一切後見人にできないということにされてしまうと、これはやや硬直的な制度になってしまう。
 そこで、そういったものを重要な考慮要素として考慮していただいて、最終的には家庭裁判所の適切な判断をまちたいというのがこの規定の趣旨でございます。
○木島委員 そうすると、逆に、後見人選任についての規定、これを保佐人選任や補助人選任の場合に準用するという方がむしろ硬直的であって、後見人というのは大変な権力を持つわけですよ。代理権、取り消し権。代理権というのは不動産処分できるんですからね。そんなすさまじい権力を持つ後見人を選ぶ場合の条文と、そんな権力がほとんどない補助人を選ぶ条文を同じ条文でやるなんということの方がちょっと配慮が足りないんじゃないかと私思うんですよ。どうですか。
○細川政府委員 後見人にいたしましても保佐人にいたしましても補助人にいたしましても、権力というよりは、要するに御本人の利益を図る立場の方です。そういう方については、やはりここに書いていますように、共通な選任の事情というのがあるのではないか、権限の大小にかかわらず、ここに書いてある事情は当然に考慮しなければならない事情ではないかというふうに考えて立案したわけでございます。
○木島委員 ですから、すべての後見人や保佐人や補助人がまじめに忠実に、被後見人や被保佐人、被補助人の利益を図って一生懸命努力するという姿を想定しているんだろうし、私もそうあるべきだと思うんです。
 しかし、万が一という場合がありまして、その被後見人が多額の財産を持っていた、しかし痴呆性老人だ、親戚もいない、自分が後見人になった、土地を売れば何億という財産が手に入るなんというのが現実に出てきますと、やはり人間の心というのは変わってしまうわけでありまして、そういう場合にも、後見人になった者がふらちな考えを起こさない、代理権を濫用しないという歯どめがやはり必要だ、その歯どめこそ法律の中に規定しておかなきゃいかぬと思うのですよ。
 そんな観点から八百五十九条の三のところを見ますと、居住用不動産の処分についての許可という条文がありますね。「成年後見人は、成年被後見人に代わつて、その居住の用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。」これはある面では当然だと思うのです。
 しかし、この条文を見ますと、その居住の用に供する建物またその敷地の売却の場合にのみ裁判所の許可なんですね。そうすると、ある痴呆性老人が非常にたくさんの資産を持っていた、都内の一等地にたくさんの土地を持っていた、居住用じゃない、そういう場合には、裁判所の許可なくして、後見人が代理権で売却もできることになってしまうのじゃないでしょうか。
 だから、私はそういうのを歯どめをかけて防がなければいかぬと思うので、裁判所の許可は、その居住の用に供する建物、敷地だけじゃなくて、不動産はすべて、あるいは重要な動産についても、非常に高価な動産なんかについても、売却などをするときには裁判所の許可に係らしめた方がいいのじゃないか、当たり前じゃないかと思うんですが、そうしなかった理由は何でしょうか。
○細川政府委員 まず、居住用の不動産の処分について特に裁判所の許可に係らしめました理由でございますが、立案の過程でいろいろな関係の団体からしヒアリングの結果では、やはり住環境の変化は御本人の心情面に影響が極めて大きいということでございましたので、少なくともこれについては裁判所の許可を得なければならないということにいたしたわけでございます。
 その他の、いわば遊休といいますか、現に利用していない財産については、通常の監督の体制によるべきである。すなわち、多額の財産を持っておる場合には後見監督人が選任されるでありましょうし、後見監督人が選任された場合には、後見人は後見監督人の許可を得なければ不動産の処分はできないという制度になっておりますので、これを利用していれば問題は防げるのではないかというふうに考えた次第でございます。
○木島委員 しかし、後見監督人の選任は必ずやらなきゃならぬわけじゃなくて、裁判所が必要と思うときにやるだけでしょう。だから、連動していないのですよ。被後見人が物すごい資産家であって、遊休不動産をたくさん持っておる、あるいは何億という預貯金を持っておる、そういう場合には必ず後見監督人をつくらなきゃいかぬという、この法律はそういう連動をしていないでしょう。どうですか。
○細川政府委員 この法律案で新設することとしております第八百四十九条の二は、「家庭裁判所は、必要があると認めるときは、成年被後見人、その親族若しくは成年後見人の請求によつて、又は職権で、成年後見監督人を選任することができる。」ということになっております。ですから、御指摘のように、多額の財産を持っておられるということでありまして、仮に心配があるとすれば、裁判所は職権で後見監督人を付すことができるわけで、それも一人で足りなければ二人、複数を選任することも可能でございます。そういうことによって不当な権限の行使を防止することができるというふうに考えているわけでございます。
○木島委員 そうすると、八百四十九条の二の解釈の問題になると思うんですよね。「必要があると認めるとき」というのはどういう場合か。ではちょっと言ってください。
○細川政府委員 これは事案に応じてまさに必要があると認めるかどうかということでございますけれども、ただいま御指摘の財産が多額にあるというような場合も、それは誘惑が大きくなる場合でございますから、一つの例に挙げられると思います。
○木島委員 その辺の具体的な、家事審判規則等をつくる予定はあるのですか。
 やはり濫用を防止する、それが一番大事な観点だと私は思うんです、この法律がうまく運用されるかどうか。今事件が各地で起こっているのですよ。特別養護老人ホームに入所したお年寄りの預貯金二千万円がその職員によって横領されてしまったとか、勝手に不動産を売却されてしまったとか。ひとり暮らしの痴呆性のお年寄りなんかは、印鑑全部預けてしまうわけですからね。それをいかに防ぐかというのは、決定的なんですね、この法律が動くかどうかの。
 そこに不安がある以上は成年後見制度はうまく動いていかないのだろうと私は思うんです。その不安を完全に取り除く制度的保障があって初めて安心して、では後見の審判を求めようかということになると思うのでね。この「必要があると認めるとき」というのは、八百四十九条の二の解釈に任せたのじゃ、国民の皆さんは安心できないと思うんですよ。どうでしょうか。
○細川政府委員 最高裁判所におかれましては、現在、成年後見制度の法律が成立した場合に備えて家事審判規則の改正について検討されておられると聞いております。ただいま御指摘になった点は、手続等という面よりも実体法の解釈という面でございますので、規則には載りにくい問題なのかなという感じがしておりますが、少なくとも最終的な結論が出ておりません。当然、きょうの審議の様子は最高裁もテレビ等で見ていると思いますので、御参考にされるのではないかというふうに思っております。
○木島委員 時間の関係で、任意後見契約についてお聞きしたいと思うんです。これは新しい制度ですので、ちょっと具体的に幾つかお聞きしたい点があるのです。
 まず、基本問題として、私はこれは非常にすばらしい制度だと思うんです。高齢者等の自己決定権を十分に生かしつつ、財産の保全等も図りながら老後をしっかり面倒見てやるという、大変大事な、非常にいい制度だと思うんですね。それだけに、この制度を国民の皆さんがよく利用するということは非常に大事だと思うので、そんな観点からお聞きしたいのです。
 いい制度だけに、この制度が使われるようにするために一点だけ問題点を指摘しますと、この任意後見契約が今度の法律によって類型化されました。しかし、この法律を読んでも、現行民法上の委任契約は排除されないわけですね。そうすると、この任意後見契約に基づく任意後見制度と民法の委任が併存することになってしまうのじゃないかということですね。そこに一番問題点がある。
 千葉大学新井誠先生なんかのジュリストの昨年九月十五日号の論文を読みますと、それだけはやめてもらいたい、民法の委任なんかはやめて、せっかくこのいい制度をつくるんだから、任意後見契約に一元化させるべきではないかという大変辛らつな、厳しい指摘があるのですが、それはどうなんでしょうか。
○細川政府委員 確かに、御本人が通常の委任契約をして、かつその上で任意後見契約をするということは理論上は考えられるわけなんですが、私どもが法制審の審議の過程で多くの弁護士さんの方から意見を伺ったところでは、現実にはそういうことは起きないだろうということは言われておりました。
 それから、もう一点大事なことは、理論的に自己決定を尊重し、私的自治を尊重しようという制度が任意後見制度でございます。したがいまして、任意後見制度ができたから、もともと民法上、私的自治の原則上許されている普通の委任契約を結ぶことを禁止するとか、法律上当然無効にするということは私的自治の原則からも無理なのではないかというので、そういった結論になったわけでございます。
○木島委員 答弁はわかるのですが、任意後見契約の制度は大変すばらしい制度だと私は思うんですよ。公正証書できちっと契約の内容が公証人によってチェックされる、そしてさらに、この契約が発効する条件として裁判所が任意後見監督人を選任する、そこで最大のチェックが働くわけで、これはうまく回転すれば非常にすばらしい制度になると思うんですよ。
 逆に言うと、こういう契約を結ぼうとする人、被後見人じゃない方ですね、任意後見人になるような立場の人から見ると、これは大変な制約ですね。公正証書でやらなくちゃいかぬ、裁判所によって任意後見監督人が選任されて初めて発動するのですから、大変な制約になる。
 そうすると、悪いことを考える人にとってはそんな制約は嫌ですから、うまいこと言ってだましだまし痴呆症のお年寄りと契約してしまえ、民法上の私的契約をしてしまって、代理権を取得して、印鑑も印鑑証明も不動産登記権利書なども預かってしまって、ほしいままにするというような状況を考えてくると思うんですよ、ふらちなことを考えている人は。そういう連中は、民法上の委任契約を結んでほしいままにすることがあるのじゃないかと思うんですよね。そういうのを防止する。
 せっかくいい制度ができるのですから、任意後見の契約は大体これに一本化するような担保があってもいいんじゃないかと思うんです。千葉大学の新井先生はそこを指摘しているんだと思うんですが、どうなんでしょうか。
    〔山本(有)委員長代理退席、委員長着席〕
○細川政府委員 千葉大の新井先生がそういう御意見だということは承知しておりますが、法制審議会でもそういう御意見は少数意見だったように記憶しておりますし、それでは、任意後見契約ができたら正常な判断の人でも委任契約ができないということになってしまうわけなので、それは幾ら何でも私的自治の原則から難しいんではないかというのが今回の結論になった理由でございます。
○木島委員 では、次の質問に移ります。
 濫用を防止する最初の歯どめは、公証人によるチェックだと思うんですね。公正証書で任意後見契約を結ばなければいけないということであります。
 そこで聞くんですが、公証人はどの程度のチェック機能を持つのかということであります。後見契約の中身ですね。例えば、財産処分権を無制限に後見人に与えてしまうような契約とか、費用の契約があると思うんです、法外な後見費用を、一カ月百万とか五十万とか、乱暴な費用の約定なんか。あるいは、契約の中に、違法とまでは言えないけれども社会的に不当、不相当な条項などがあったときに、公証人はチェックしてそこは排除できるんでしょうか。
○細川政府委員 公証人は、基本的な責務は、嘱託人である任意後見制度を利用しようとする人が本当にこの契約の内容を理解してその契約を結んでいるかどうかということをまず確認する必要があるわけでございます。その次に、その内容について、あなたはこういう内容で本当にいいんですかというふうに、内容をよく説明して判断を求めるということも必要になってくるわけでございます。
 ただ、当事者が、任意の問題ですから、間違いなく真意の上でこの契約でいいと言えば、それは公正証書を作成しないということはできないわけでございます。
○木島委員 大体私想定しているのは、財産がたくさんあるけれども身寄りのない高齢者が、例えば特別養護老人ホームとか、いろいろな、信頼する自分の身の回りの世話をしてくれる方がいて、非常に信頼できる人だということで、そういう場合に、後を託してこういう任意後見契約を結んでいくんじゃないかと思うんですね。そうすると、任意後見契約を結ぶ段階では非常に人がよくて間違いない人だと思うわけだけれども、契約が成立してしまった後、心変わりもするわけでありまして、そういうのをやはりチェックする必要があると思うんですよ。
 それは、一つは裁判所が後見監督人を選任するときにチェックできるんでしょうけれども、その前段階で、公証人が、契約の内容にちょっと社会的に不相当なものがあるときには、ちょっとこれはやめた方がいいんじゃないかということで、やはりチェックしてもいいんじゃないかとは思っているんですが、それはできないということですね。
○細川政府委員 行為の問題といたしましては、法律家としての公証人が、これは問題ありますよというふうに当事者に勧告するのは、いわば当然の責務だと思うわけです。ただ、それを十分わかった上で当事者がそういうふうにされるというのをだめだと言うことは理論的にはできないんじゃないですかということを申し上げたわけでございます。
○木島委員 時間が来ましたから、終わります。まだ質問の機会があろうかと思いますので、引き続き幾つかの問題について質問をしていきたいと思うんです。
 最後に、ひとつ大臣の御所見をお伺いしたいんですが、非常にいい方向で法改正がなされると思うんですが、これが正しく運用されるというのは非常に大事だと思いますので、後見人等によって濫用されない、被後見人の財産が間違っても食い物にされるような仕組みになってはいかぬというふうに思うんで、その歯どめがいろいろな形で必要じゃないかというふうに私一般的には思っているんですが、どうでしょうか、御意見だけお聞きして、質問を終わります。
○陣内国務大臣 今御指摘になっております、そういう悪用されないということは、信頼されるということでありますし、また、この制度が発展していく基盤を築くわけでございますので、十分留意して取り組まなければならないと思います。
○木島委員 終わります。
○杉浦委員長 次に、保坂展人君。
○保坂委員 社会民主党保坂展人です。
 まず、今回新設された補助の類型についてお聞きをしたいんですが、本人が申し立てをした場合にどういった手続でこれは判断されていくのか、ちょっと簡単に説明いただきたい。
○細川政府委員 御本人みずからが補助を申請された場合ですね。その場合には、要するに、家庭裁判所の調査官がその方に面接し、あるいは、その方の主治医がおられれば主治医の関係の方から意見を聞き、あるいは、社会福祉の関係の人が関係しておられればその方から意見等を聞いて調査した上で、最終的に裁判官が御本人みずから審問する場合もございましょうし、そういう過程を経て、家事審判という形で補助の決定がなされるわけでございます。
○保坂委員 その場合、続きの質問ですよ、必ずしも裁判官が本人に会うということを必要の条件としているわけではないわけですね。
 そのあたりの基準がどういうふうになっているのか。例えば、書面によって本人が何かを出すとか、あるいはさっき診断書という話もありましたけれども、これまでのような精神鑑定という必要は、これはないということなんでしょうか。
○細川政府委員 補助の制度について、精神鑑定を要するかどうかという問題なんですが、この点につきましては、従来、禁治産、準禁治産については、家事審判規則で精神鑑定を必ずやらなきゃいけなかったんですが、その点について少し問題があるので、例外が考えられるかどうかということで今最高裁判所で検討中でございます。
 補助については、鑑定を経ないで、従来の主治医等の診断等から判断できるんではないかという観点から、鑑定を必要としない方向で最高裁判所で規則を制定することを今検討されているということを聞いております。
○保坂委員 それでは、裁判所にお聞きいたしますが、今の補助の部分で、鑑定を必要としない部分の基準づくりといいますか、どういったルールで判断をされていくのか、今の準備状況をお願いします。
○安倍最高裁判所長官代理者 御説明申し上げます。
 補助の類型につきまして、鑑定によるか、あるいは鑑定によらず診断によるかということでございますけれども、私ども、現在の考えているところでは、基本的には診断で賄えるという方向で考えたい、このように考えておる次第でございます。最終的には、規則の中でどう明文化するかという問題になろうかと考えているところでございます。
 以上でございます。
○保坂委員 それでは、先ほど同僚議員からも質問があった点なんですが、今回の新しく法人が後見人になれる、以前は論争があったところで、今回法人が後見人の資格を持つというふうになったわけなんですが、ここの部分、ちょっと重なるかもしれませんけれども、被後見者と利益が相反しない法人という限定がありますけれども、そこはもう少し積極的に、利益が相反しないというよりも、後見人になることによって利益を追求してくるような法人であると適格性を欠くんではないかというふうに私ども思うわけなんですね。
 要するに、企業としての利益をこの後見人法人をつくることによって追求しよう、そういう部分を排除する規定がちょっと見受けられないんで、運用においてどう考えられるのか。
○細川政府委員 後見人となることができる法人の資格については、確かに御指摘のとおり、法人の資格を制限していないわけです。実際には、社会福祉法人である社会福祉協議会とか、あるいは社会福祉関係の公益法人等が後見人になる場合もあろうかと思いますけれども、例えば株式会社とかそういうものでも必ずしも排除されないということになっております。
 最終的には裁判所が諸般の事情を考慮して、最も適切な後見人はだれかということを御判断されるわけでございますので、その点の判断に期待したいということでございます。
○保坂委員 では、まず一番目に、NPOというのは非営利法人ですよね。ただ、一般の事業法人だと利益を追求するのは当たり前で、利益を追求するために会社をつくっているわけで、そういう意味で、特に社会通念上度を越している云々という話ではなくて、一般の事業者がこの分野に新しいビジネスとして道を開きたいというふうに考えたといたしましょう。
 その場合に、例えば金融、保険業界などが地域でお年寄りの方と日々接触しているという状況があります。それで、その家族などから、例えば後見人としての報酬が目的ではなくて、その後の資産運用の部分でビジネス化したいなどの動機で後見人サービス会社などをつくるということは想定し得るのでしょうか。法務省の方から。
○細川政府委員 私どもは、株式会社等が法律上は営利法人とされているから不当な利益をむさぼるためにそういうことをするというふうに当然にはつながらないと思っているわけで、株式会社等の法人であっても、本人の利益のために一生懸命仕事をして、その見返りに正当な報酬を得るということで適切な後見人の仕事を果たせる場合もないではないというふうに思っているわけなんです。
 そこのところは、やはり今の段階で限定してしまうよりも、今後の実際の運用を見ながら、どういう方が後見人になるのが一番いいのかということを見きわめていく必要があるわけなんで、そこについては最終的には裁判所が慎重に御判断されて、適切な方が選ばれるのだろうというふうに期待しているところでございます。
○保坂委員 一種の社会事業として株式会社の形態をとっても、後見人というのはなかなか探しづらいということで、事業体として会社を発足させて、きちっと後見人の役割を果たしますということは別に何の問題もないのだろうと思う。
 問題は、別のところに目的がある場合。後見人としての資格を取得して、そしてまた、実際のところ金融商品であるとか、いろいろな商品がありますよね。ここのところの財産運用などをしていくということを主たる目的にして、しかし表側から見れば後見人会社というようなものが出てきたときに、やはりいろいろな問題が起こってくるのじゃないかという心配をしているわけですが、いかがでしょうか。
○細川政府委員 私、質問を誤解していたと思いまして、申しわけございませんでした。
 今の御指摘の場合は、いわば利益が相反する場合で、後見人と称しながらほかの方でもうけよう、こういう話です。そういう場合には、これは後見人としてはふさわしくないということになりまして、当然裁判所は、そのことが明らかであれば、そういう者は後見人に選任しないということになろうかと思います。
○保坂委員 私が言うまでもなく、豊田商事に始まって、数々の大型詐欺事件というのはお年寄りが犠牲になっているわけで、裁判所の方に伺いますが、彼らはやはり巧妙にカムフラージュをして、社会的な体裁を整えて法人などをつくって、非常に悪質な場合もそれほど悪質じゃない場合もあると思うのですけれども、いずれにしても、利益が相反する、資産の運用の方に目が行ったところで法人を組織するというものを見分けていくシステムというのをどのように裁判所の方は考えておられるのでしょうか。
○安倍最高裁判所長官代理者 その点につきましては、その当該法人についての各種の帳簿等を取り寄せるなりいたしまして、また、活動状況等を調査いたしまして、その法人の活動と当該財産の管理とが利害相反するのかどうかといったことを調査することになろうかと考えております。
○保坂委員 全般的な話をまず厚生省からお聞きしたいと思うのですが、いわゆる高齢者で痴呆症の症状の方々、あるいは寝たきりになってしまって植物状態になってしまっている方、あるいは知的障害者や精神病を患っておられる方など、全員が全員ということはないと思いますけれども、この成年後見制度の対象になる範囲の、大体今何人ぐらいの方が日本におられるかというのを、現在の数と、できましたら来年、十年後、二〇一〇年、二〇二〇年ぐらいの区切りで教えていただきたいのです。
○近藤(純)政府委員 六十五歳以上の高齢者の中で、どの程度の痴呆状態にあるかという調査があるわけでございますが、これは、平成七年の推定では約百三十万人でございます。それから、知的な障害者が、これも平成七年の調査でございますが、三十万人でございます。それから、精神病が、平成八年の調査で二百十七万人でございます。
 それで、痴呆性老人の将来推計でございますが、これは同じ研究者の推定でございますが、二〇〇〇年で約百六十万人でございます。それから、二〇一〇年で二百三十万人、二〇一五年で二百六十万人、二〇二〇年で二百九十万人ということで、これは若干軽い方も入っておりますけれども、こういう推計になっております。
○保坂委員 数字を聞くだけで、改めて驚くわけですけれども、わずかの間に倍増していくということが大体推定されているわけですね。
 法務省の方で伺いたいのですが、今回、新しく補助という類型も設け、そしてまた、今までの戸籍への記載だとか、あるいは名称の部分も変えて、幅広く国民に理解され、また利用される制度にしようという立法の趣旨だと思うのですが、大体、例えばここ五年ないし十年という幅で、どのぐらいの件数を受け入れていくというか、そういう一つのめどというか、見込みみたいなものがあったら教えていただきたいのです。
○細川政府委員 先ほど厚生省からお答えになったように、制度の対象者としては非常に多数の方がおられるわけでございます。他方、禁治産、準禁治産を合わせて、最近の数字では年間千七百件ぐらいが言い渡しされているにすぎないという状態がございます。
 今回、新しく補助の制度もでき、制度も改善され、任意後見制度ができるというようなことがございまして、相当利用者がふえるであろうというふうに予想しているわけですが、どのぐらいふえるかというのは、なかなか予測が難しいところでございます。
 外国の例で見てみますと、フランスが、ちょうど禁治産、準禁治産を後見、保佐、裁判所の保護という三つの制度に改めまして、その前は数百件程度しか利用されていなかったものが、十年後には二万件ぐらい利用されるようになったという報告がございます。ですから、そういう数字を見ましても、制度が改善されることによって、相当程度利用者がふえるであろうというふうには予測しているところでございます。
○保坂委員 ドイツでは、やはり介護保険が九五年に導入されて急増した。九七年に六十六万人、最近では八十万人近くにまで規模が広がっているそうなんですが、裁判所の方に伺います。
 現在、家裁の裁判官、三百五十人と聞きます。例えば、来年から日本も介護保険が導入されるわけで、この制度自体、やはり超高齢化社会の日本の新しい社会システムをどうつくっていくかという一つの大きな部分だと思います。今法務省からその予想の、数は出ないと思うのですけれども、例えば、今あるところの二千件というのがとりあえず十倍になる、二万とか、あるいはもう少しいって十万件とか、これは家庭裁判所の今の体制で大丈夫ですか。
○浜野最高裁判所長官代理者 ちなみに、平成十年度に我が国の家庭裁判所に提起されました禁治産宣告の申し立て事件あるいは準禁治産宣告申し立て事件、それからこれらの取り消し事件というものを合計してみますと約三千六百件余りでございます。
 ごく大まかにいいますと、今後、社会の高齢化の進展等に伴いまして、委員御指摘のような法的ニーズが高まることは予想されるところでございますけれども、委員御指摘のドイツにおけるような社会の制度や実情が我が国とは異なりますために、単純に比較する計数的な比較は困難ではないかと考えております。
 ところで、今回の御審議いただいております成年後見制度の改正でございますが、御審議いただいている結果、成立いたしまして新しい制度となりますと、現実に、この関係での事件数というのはやはり非常に予測が困難でございます。そういうところで、改正の成立を前提とした具体的な運用や事務処理体制のあり方というのは、やはり私どもも今後の課題であろうというふうに考えております。
 裁判所といたしましては、今回の成年後見制度の改正に伴いまして、裁判所に係属することになります事件数の動向や新しい制度の具体的な運用状況を視野に入れつつ、家庭裁判所がその特色でございます科学性とか後見性を十分発揮して的確な事件処理が図れるように、家庭裁判所の人的体制のあり方につきまして検討してまいりたいと考えております。
○保坂委員 多分、今の家裁の状態では、今ただでさえ忙しいのに、今回の制度が国民に余り知られることなくほとんど変わらなかったということだったら余り変更ないかもしれませんけれども、本来もっと幅広く使っていただくという趣旨であれば、場合によっては成年後見専門の裁判所であるとか、そういう仕組みもつくるべきではないかと思うのですね。その点はいかがでしょうか。
○浜野最高裁判所長官代理者 今、専門というところを委員御指摘でございますが、例えば東京地裁におきます知的財産関係事件専門部のように、まとまった数の同種事件があります場合には、専門部や集中部を置くという事務処理体制をとっている例があるわけでございますが、今後の家裁における事務処理体制につきましては、事件数の動向、それから成年後見制度の具体的な運用状況を見ながら、先ほども申し上げましたが、その特色であります科学性、後見性を十分に発揮して的確な事件処理を図れるような事件処理体制、そのあり方を検討してまいりたい、かように考えております。
○保坂委員 どんどん予算要求していただいて、国民にとって喜ばれる制度整備は遠慮なく、我々も一緒にやっていきたいと思います。
 ちょっと人権というテーマと、そもそも今回の改正が大きくやはり人権というところで抜本的な改正がなされたというふうに理解をしているのですが、極めてまれな例というふうに思われるかもしれないのですが、受刑者のことを考えてみたいと思うのですね。
 例えば、経済事件で有罪判決を受けた服役中の受刑者、間もなく刑が終わる。しかし、記憶の減退、心身の不調など、非常に自信がない。現在並びに刑期終了後の資産、不動産、家屋の管理など、要するに補助人という制度を使って請求をしたいといった場合に、被補助人となることはできるのでしょうか。
○細川政府委員 民法の適用の上では、受刑者であるからといって権利等に制限があるということはございませんので、適用関係は全く同じでございます。
○保坂委員 そうすると、裁判所に伺いますが、では具体的に服役中の受刑者から補助人請求があった場合、この手続はいかように進むのでしょうか。
○安倍最高裁判所長官代理者 受刑者から補助開始の申し立てがあった場合のことでございますけれども、通常、家庭裁判所の調査官が面接をするとか、さらに鑑定あるいは診断を行うということになりますと、調査官なり医師が面会することになるわけでございます。
 これにつきましては、家庭裁判所に出頭することができない関係者についての事件の取り扱いと全く同様でございまして、受刑者であるからといって何ら取り扱いを異にするものではないということと考えております。
○保坂委員 そうすると、今、補助と聞きましたけれども、それ以外の保佐人の請求あるいは後見人の請求についても変わりませんか。
○安倍最高裁判所長官代理者 同様でございます。
○保坂委員 それでは、今までの、禁治産者準禁治産者として請求をされた過去の受刑者の例あるいは死刑の確定囚の例などありましたでしょうか。
○坂井政府委員 これは統計をとっておりませんものですから確たることは申し上げかねるのですけれども、従来そのような例があったということは聞いておりませんし、最近五年間につきまして、少なくとも心神喪失によって禁治産になった例があるかどうかということも念のため調べてはみましたけれども、各施設からの報告では、そういう例はないというふうに聞いております。
○保坂委員 実は昨日、免田栄さんという、誤判事件で、十八年前でしょうか、三十四年の間死刑確定囚として過ごして、たび重なる再審請求を重ねて最後に無罪が確定したという方が訪ねてこられまして、やはり同じ誤判事件で赤堀政夫さんという方が、国民年金を受給、要するにそういうことも全然獄中で知らなかった、受給資格が今ないということで、いろいろ訴えをされているという話を聞きました。
 したがって、これは本委員会でもたしか二月に取り上げさせていただいているのですが、確定死刑囚の方で、多分こういう例は非常に少ないと思われる袴田巌さんという方がいらっしゃって、なかなか自己認識のところで揺らいでいる。お姉さんが面会に行ってあいさつをすると、おれはだれだと言って、袴田巌でしょうと言うと、おれは何とかの神だよ、そういう感じで、別人じゃないかと言って帰ってしまう。そういうような様相を呈している方がいて、大変心を痛めて、これは法務省の方も心配をしていただいていると思うのです。
 こういった場合に、新しい制度ができてきたときに、今までの二段階より三段階ということで、補助という部分で選択の幅がふえていくわけなんですけれども、要するに、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分ではないかというふうに私なんかは思うのですけれども、そういう場合、確定死刑囚の場合などはこの制度は具体的にはどうなるのでしょうか。
○細川政府委員 民法の適用におきましては、死刑囚であるから受刑者であるからということによっては差異は生じないわけでございまして、御指摘のこのような方についても、申し立てがあれば、裁判所は成年後見についての審判をされるということでございます。
○保坂委員 では、ちょっと今触れたので、矯正局長に。
 年金の受給などは、確かに確定死刑囚というのはやがて処刑されていく者ということで、特に年金がどうのという発想が多分現場になかったのだろうというふうに思いますけれども、しかし、中には誤判ということがあって、そういうことが起きてくるわけですね。これらについて、何かお聞きになっていることが今の赤堀さんの件についてはございますか。
○坂井政府委員 確かにそういう例がございまして、死刑囚ということで年金等について果たしていかがかという考慮が当時あったのだと思いますけれども、現在は通達も出しておりますし、それからその後各種の会同等におきまして、受刑者についても年金の制度がこういうふうになっているということを、新入時、つまり新しく入ってきたときとそれから出るときに受刑者に教示するような制度にしております。現に、死刑囚ではございませんけれども、そうでない人で、例えば受刑中に年金の免除願いを出す受刑者というのはかなりの数ございますので、現在では、その当時に比べれば改善されたものというふうに承知しております。
○保坂委員 費用の問題について、これが幅広く広がるのかどうか大変関連をすると思うので、お聞きいたします。
 例えば補助人を請求したときに、鑑定を要さないで診断書などで簡易にやるというお話も今裁判所の方からありましたけれども、大体幾らぐらいの費用を国民は考えたらいいのかというあたり。
 それから、現在、精神鑑定は非常に期間がかかるのと、費用が三十万円、四十万円という話も聞きますが、このあたりは変わるのかどうか。鑑定ですから大変だと思うのですよ。変わらないとすれば、そこのところを、経済的な理由によってあきらめてしまわざるを得ない人が多々あろうかと思うのですね。立法の趣旨からいって、こういった部分を公費や何らかの制度で賄うというようなことをお考えになっているのかどうか、お願いします。
○細川政府委員 成年後見の申し立ての費用でございますが、この費用の一番大きなものは鑑定の費用でございまして、そのほかは微々たるものだというふうに考えております。いずれにしましても、法律扶助の要件があります場合には法律扶助が可能であるというふうに考えておりますので、これによって対応可能であろうと思います。
○保坂委員 その微々たるものというのは大体どのぐらいなんですか。大体で結構です。
○細川政府委員 申し立てに必要な印紙は六百円だそうです。
○保坂委員 裁判所の体制について先ほど伺ったのですが、実は厚生省の方で、この新しい制度の発足をにらんで、生活支援員という人々を育成していこうという計画だと聞いております。具体的にどういう準備が進んでいるのか、また裁判所やこの立法の趣旨に照らしてうまくかみ合うようなスタートが期待できるのかどうか、そのあたりを御答弁お願いします。
○炭谷政府委員 厚生省で用意いたしております地域福祉権利擁護事業と申しますのは、ただいま御審議されております成年後見制度を補う制度として考えているものでございます。この準備状況でございますけれども、今年度予算の中にこれに要する経費を盛り込んでおります。
 この事業主体として考えておりますのは都道府県社会福祉協議会でございまして、そこが実施主体になりまして、そこで、今先生の御指摘になりました生活支援員が実際のサービスを実施するということになろうかと思います。
 そこで、重要なのはこの生活支援員の資質とか能力でございます。これについて、やはり研修というものが必要だろうということで、現在、弁護士また学識経験者、実務者の方々に集まっていただいて、どのような研修プログラムがよいのだろうかということについて鋭意検討していただいております。具体的な研修プログラムもそろそろでき上がってまいっております。
 これに基づきまして、今年秋には、まず全国でこの生活支援員の指導に当たっていただく方の研修会を厚生省並びに関係団体との共催で実施し、さらに、この指導員が各県に戻りまして研修をしていただこうとか、また、必要なハンドブックとかビデオというような制作も現在進めつつございます。
○保坂委員 最後にしますが、法務大臣に、この新しい制度を本当に定着させていけるかどうかは、既存の今までの仕組みに加えて、役所の側の動き、あるいは今までの団体だけではなくて、いわゆるNPOと言われているような、本当に自主的にこういうひとり暮らしのお年寄りを助けてきたような、そういう人たちが有機的に結合するということが必要だと思うのですが、その点の御所見を伺って、終わります。
○陣内国務大臣 御指摘のように、関係各方面と密接な連携協力を図ることによって、障害者による成年後見制度の主体的、積極的な利用が促進されるように取り組んでまいりたいと思います。
○保坂委員 以上で終わります。