精神医療に関する条文・審議(その109)

前回(id:kokekokko:20051123)のつづき。初回は2004/10/28。
ひきつづき、平成11年の成年後見制度制定・精神保健福祉法改正についてみてみます。

第145回衆議院 法務委員会会議録第20号(平成11年6月15日)
【前回のつづき】
○杉浦委員長 ありがとうございました。
 次に、佐藤参考人にお願いいたします。
○佐藤参考人 公証人をいたしております佐藤でございます。こういう機会をお与えいただきまして、ありがとうございました。
 私は、今回御審議いただいております民法の改正案のうちで、聴覚・言語機能障害者の公正証書遺言の方式に関する改正部分について、現場で公正証書を作成しております実務の立場から意見を申し上げさせていただきたいと存じます。
 新聞などでも時々報道されますように、近年は遺言に対する社会的関心が非常に高い、このことは公正証書遺言についても数字の上によくあらわれているように思っております。
 お手元に差し上げましたレジュメに、平成元年以降二、三年おきに全国の公証役場で作成いたしました公正証書遺言の件数を書いておきましたけれども、これでもおわかりいただけますように、大体年に三ないし四%ぐらいの割合でふえている、昨年は約五万五千件という数になっております。
 公正証書遺言の作成を希望する方も、必ずしも高額な財産の所有者ではありません。ごく普通の、言ってみれば庶民の方がふえておりますし、また年代的に見ましても、高齢者とは限らず、中年世代などにもどんどん広がっているという感じでございます。
 遺言の中身としましては、事の性質上、財産に関することが主であるのはもちろんでありますけれども、それ以外にも、例えば自分のこれまでの生き方とか家族に対する思いだとか、あるいはまた自分の亡くなった後の菩提寺の管理あるいは墓の管理、そういった非財産的な事項について、ぜひやはり書面で言い残しておきたい、こういうような御希望を述べられる例が非常にふえております。これはやはり、最近のような社会の高齢化とか核家族化といったような中で、自分の人生に関することは自分で決めておきたいという、広い意味での自己決定の意識というのが国民の間に非常に強く広がっているあらわれであろうと私どもは思っております。
 こういう遺言に対する社会的ニーズの高まりを考えますと、遺言に関する制度とかあるいはその運用というのは、遺言者の真意を確保できるものである限りはできるだけ遺言をやりやすいようにしてやる必要があると考えております。遺言につきましては適正の確保ということが一番大切でありますが、それを確保しながら、できるだけ遺言を容易にするような方向を目指すのが正しいのではないかというのが私どもの基本的な考え方でございます。
 こういう観点からいたしますと、現在問題になっております聴覚・言語機能障害者の遺言につきましては、現行法のもとでは随分厳しい制約があるなということを感じます。この点はもう委員の諸先生には十分御理解いただいていることだろうと思いますし、先ほども久貴参考人の方から言及されましたので、ごく簡単にさせていただきますが、なお、実務の立場から、一つ、二つ、申し上げさせていただきたいと思います。
 公正証書遺言について必要とされております口頭によるという方式は、これは健常者を対象としたもので、聴覚・言語機能障害者の場合にはもっと緩めてもいいのではないかという考え方は、公証実務家の中にも以前からございます。そういうことで、文字盤を使って一つ一つ文字を指示して公正証書遺言をつくろうと試みた例も、ごくごくわずかでございますが、かつてはあったようであります。
 ただ、今も久貴先生からお話がありましたように、日本の判例あるいは学説では、この口頭方式という要件を大変厳しく理解しておりますものですから、そういう中で、公証人だけがぎりぎりの法律解釈をして、口頭によらない公正証書遺言をつくりましても、後でそれが裁判で争われて無効だということになりましたのでは、かえって混乱を招くことになる、紛争予防という公証業務の本来の目的にも反する結果になる、こういうようなことで、公証業務の現場では、需要のあることはわかりつつも、なかなか踏み切れないで来たというのが実情でございます。
 私どもとしましては、公正証書遺言は無理であるにしても、自筆証書遺言とか秘密証書遺言とか、そういうものについては御相談があればできるだけの協力はしてまいりましたけれども、これも先ほどお話が出ておりましたように、内容は本人が作成するというのが建前であるものですから、公証人が手をかすということにもおのずから限度がございますし、遺言証書の原本の紛失あるいは改ざんというような危険もある、さらには家庭裁判所での検認を受けなければならないという手続上の制約もあるわけであります。
    〔委員長退席、橘委員長代理着席〕
 それから、これは遺言そのものではありませんけれども、遺言に非常に似た機能を果たすものとして、民法死因贈与契約という制度がございます。これは、財産を譲ろうと思う者がその相手方との間で生前に贈与契約をいたしまして、ただ、その効力の発生を自分が死亡したときにするという条件をつけるものであります。一応これで似たような結果は実現できるのでありますけれども、これは第一には、財産以外のことについては契約の対象とすることができません。それから第二番目には、生前の契約でありますものですから、財産を譲ることを自分の死亡のときまでは内密にしておきたいという場合にはこの契約は使えないわけであります。それから第三番目に、一番困るのは、譲る契約をした後に考えが変わって、財産を譲ることを取りやめたいということを考えましても、一たん契約をした以上は自由にそれを撤回することはできないのではないかという大きな問題があるわけであります。こういうようなことで、死因贈与契約というのはとても遺言のようにはまいらないわけであります。
 こういういろいろなことを考えますと、聴覚・言語機能障害者の遺言というのは、制度上も、また実際上もなかなか不自由だなというのが私ども公証の現場におります者の実感でございます。
 公証人会の方には、現在でも年間に何回か、聴覚障害者の関係の方々から、どうしても公正証書遺言をつくることはできないのかという御相談あるいはお尋ねがございます。時にはおしかりを受けることもございます。実例としまして、例えば、御夫婦とも障害者で子供さんのいらっしゃらない方が、もしどうしても遺言ができないということになると、自分たち夫婦が大変苦労してやっと手に入れた家の四分の一の権利が法定相続によりまして兄弟の方に行ってしまう、それは非常に困るのだが何とかならぬかというようなお話なども伺うことがありますが、そういうお話を伺うと、やはりこれは随分深刻な問題であるなということを思うわけであります。
 それから、遺言者の中には、聴覚・言語機能障害者ということで正式の認定を受けているわけではないけれども、老衰とかあるいは病気等によりまして、発語機能あるいはまた聞き取る機能が非常に減退して難渋をするという方がいらっしゃいます。そういう方でも、無理をして何回もしゃべってもらう、あるいは耳元で大きな声を出して尋ねるということをいたしますれば、どうやら辛うじて会話にはなるんですけれども、御本人の病気の症状などによりましては、そういうことをするのがただただ本人を苦しませたり、あるいは本人をいら立たせたりするだけで、大変気の毒だなと思うようなことがございます。現行法のもとで公正証書遺言をつくろうとすれば、そうするしかないのかもしれませんけれども、こういうときに手話通訳とか筆談というものが許されていれば随分役に立つんだがなということを常々思ってまいりました。
 こういったような現場のさまざまな経験から、私ども公証人会としましては、以前から、聴覚・言語機能障害者につきましても、健常者と同じように公正証書遺言をつくる道を開くべきである、そのための方法としては、やはり手話通訳あるいは筆談というものが認められるように法律の改正をお願いしたいということを、機会のあるたびに法務省等に要望してきたところでございます。今回の改正は、そういう意味で公証人会としては全面的に賛成でございまして、ぜひひとつ早急な実現をお願いいたしたいと思っているわけでございます。
 実務家の立場から見まして、手話通訳を導入した場合に一番問題だと思いますのは、通訳の正確性あるいは信頼性の確保ということでございます。この点は公証人会でも従前からいろいろ議論をしておりました。その点につきましては、現在の公証人会の受けとめ方といったようなものを最後にごく簡単に御説明をさせていただきたいと思います。
 まず、遺言には難しい法律用語がいろいろございますので、通訳が技術的にこれは対応できるかという問題でありますけれども、これについては、これまでの裁判所の法廷通訳の実績とかあるいは一般社会の普及度、さらには通訳技術のレベル、こういったことから考えまして、結論的に申しますと、技術的には全く心配がないだろうというのが私どもの認識でございます。後ほど他の参考人からもこの点についてお話があろうかと存じます。
 私どもとしましては、できるだけレベルの高い通訳者を得ることができますように、県や国の試験に合格した、資格のある通訳士の方の団体、あるいは従前から公的な活動を続けていらっしゃる通訳者派遣団体と連携をとりまして、いろいろ協力関係を深めていくということが必要であろうと思っておりまして、実はつい先日も、公証人会とこういった団体の方々の関係の者が若干集まりまして、非公式ながら、いろいろな問題の検討といいますか、意見交換をしたところでございます。
 もう一つ。実務の現場としましては、公正証書遺言をつくる場合には証人二人を立ち会わせなければならないということになっておりますので、この証人として手話通訳のできる方に立ち会ってもらう、そしてその証人の方に通訳の正確性をチェックしてもらう、そういうことが一番有効なのではないか、運用に当たってはこの点はぜひ実行してまいりたいと思っているわけであります。
 あと、そのほかには、手話通訳を入れる場合でも、筆談を適宜併用しまして、公証人が直接遺言者から意思確認をとるというのも有効な手段ではないかと思っております。
 最終のチェック方法としては、今回の改正で遺言証書を遺言者本人に閲覧してもらうということができますので、本人にできるだけ慎重に読んでもらって内容の正確性を最終的に担保してもらう、これができるようになったと言ってよろしいのではないかと思います。
 こういったような実務的な対応を、改正の趣旨に即してしっかりと行えば、手話通訳を導入することによって遺言内容の正確性が損なわれるということはまずないだろうというのが私ども公証人会の認識でございます。ほかにもあるいは述べるべきことがあるのかもしれませんが、とりあえず、以上のようなことであります。
 今回の改正が公証人会の年来の要望をかなえていただいたものであるということを体しまして、この制度が円滑に利用され、大いに実績が上がるように、私どもとしては、これからもいろいろ工夫をし、努力を重ねてまいりたいと思っております。この点をつけ加えさせていただきまして、私からの意見陳述を終わらせていただきます。ありがとうございました。(拍手)
○橘委員長代理 ありがとうございました。
 次に、山田参考人にお願いいたします。
○山田参考人 山田でございます。本日は、発言の機会を与えていただきまして、まことにありがとうございます。私も、今までのお二方と同じように、民法改正をお願いしたい、そういう立場からお話をさせていただきます。
 まず、簡単に私のこれまでの経歴を話させていただきますと、私は昭和二十四年に生まれましたが、そのときは耳は聞こえておりました。ただ、五歳のときに、はしかの高熱のために失聴いたしました。しかし、学校は普通の学校を出ておりまして、発音の方もまあまあ普通の人に近いのではないか、そういうふうに考えております。それで、司法試験には昭和五十五年に合格いたしましたが、そのときまではコミュニケーション方法はずっと筆談でありました。そのころから手話を勉強し始めまして、今では大体、裁判所でもお客との相談のときなどでも手話でやっておりますが、ただ、後の野沢参考人とは違いまして、まだまだ手話歴が浅いものですから、手話の読み取りなどにはちょっと、私としては下手なところなどもございます。その点はよろしくお願いいたします。
 私、耳が聞こえないということから、やはり相談者の中には聴覚障害者が多くございます。そういう人たちの中からいろいろと遺言の問題などについても相談を受けることがございました。そのときに、私はそれまでにもやはり聴覚障害の問題を研究しておりましたので、現在の公正証書遺言は聴覚障害者は利用できないというふうになっている、そのあたりは勉強しておりました。もちろん、それに対して不満は持っておりました。
 少し話が順序してしまうのですけれども、聴覚障害者のコミュニケーション手段ということからまず申し上げておいた方が、後々わかりやすくなるのではないかと思います。聴覚障害者のコミュニケーション手段といたしましては、先生方もよく御存じかと思いますが、まず補聴器、それから少し変わったものとして人工内耳、これはコンピューターを使ったものですけれども、そういったものを使いまして普通の人のように会話できる、そういう方もいます。それはそれでよろしいかと思います。
 しかし、そのようにして音声言語では話すことのできない人としては、まず筆談、文字でやりとりをする方法でございます。それから手話、これは、先生方もただいま通訳者の手話をごらんになって大体おわかりいただいたと思うのですけれども、手の動きを文字として読み取るというようなものでございます、余り正確ではございませんけれども。それから口話法というのがありまして、口話法というのは、読唇術などとも言われておりますように、口の動きを読んで、それで相手の言わんとすることを理解する、そういうような方法もございます。さらにまた、身ぶりだけで簡単に意思を伝達するというようなこともあります。ただ、身ぶりとか、それからまた口話法ですと、余り長い話、複雑な話などは、これは理解ができないようなのです。
 それからまた、私は中途失聴者、つまり、生まれてからしばらくして、言葉を覚えた後に失聴した者ですけれども、生まれつきの聴覚障害者、先天性聴覚障害者といいます、これらの人たちの中には、聴覚障害のために言葉を覚えることもできなかった、いわゆる言語障害者という人たちもおります。聴覚・言語障害者とまとめても言うわけなんですけれども、これらの先天性の聴覚障害者の人の中には、その障害のためか、文章力も十分ではない、そういう人もやはりいるわけなんです。文章力が十分ではない人の場合は、長い文章、複雑な文章を書いたりすることがなかなかうまくいかない。ここのところは、実は大事なことなのでございます。
 それから、次に公正証書遺言のメリットですけれども、これはもうお二方がお話しになりましたように、私などが強調するまでもないのですけれども、後で無効にされるおそれというものが非常に少ない、また隠匿、改ざんのおそれもない、総じてこれを、私は安全性が高いという言葉で一括してもいいのではないかと思います。それで、私は、遺言をつくりたいとの相談をお客から受けましたときには、まず第一に公正証書遺言をお勧めしております。
 ところが、聴覚障害者は、残念なことには今の公証人の実務では、先ほども佐藤公証人がお話しになりましたように、ちょっとその利用ができないような状態になっているのです。実際に公正証書遺言を作成しようとして断られたという例を、平成八年の十一月ごろまでは存じなかったのですけれども、平成八年の十一月ごろになりまして、聴覚障害者の人から、公証役場へ行って公正証書遺言を作成しようと申し込んだのだけれども、耳が聞こえない人にはできませんといって断られた、どうしましょうか、そういう相談を受けたわけでございます。
 それで、そのときに、実務の方もそうなっているのかどうか確認しようと思いまして、私も知っている公証人、実はこれも佐藤公証人と同じ神田公証役場の方なんですけれども、そこに電話で問い合わせましたら、その方が日本公証人連合会の方に問い合わせてくださいまして、やはり今の実務ではそれは難しいようだという返事でした。
 私としては、どうもこれはおかしいのじゃないかな、そう思っておりましたら、その後になりまして、平成九年の一月に、この次にお話をする予定の野沢参考人からも相談を受けまして、自分もやはり公証役場公正証書遺言の作成を断られた、そういったお話がありました。人に差別を設けるわけではありませんが、野沢参考人というのは、いろいろな著書もあり、身体障害者問題の指導者ともなっている、人格識見ともにすぐれた立派な方なのです。大学も出ていまして、それで文章力もある。ところが、そういう方でも公正証書遺言をつくってもらうことができない。これはおかしいのじゃないかと思うのですね。
    〔橘委員長代理退席、委員長着席〕
 聴覚障害者というものは特殊な世界かといいますと、決してそういうことはないわけなのです。例えばですけれども、人工内耳の手術を受けている人には、突発性難聴といいまして、急に聞こえなくなったという人がかなりいるわけなんです。また、のどにがんができてその手術を受けますと、発音することができなくなる。そうすると、今の法律で、口授ができないから、だから公正証書遺言はつくってもらうことができない、そんなようなことになってしまうわけなのであります。これはいかにしてもおかしいのじゃないか、私、そう思いまして、いろいろな方面で運動をさせていただいたわけなんです。
 それで、今までそういった例がないか、実例を調べてみましたら、大阪の例ですけれども、ここでも松本晶行弁護士という聴覚障害者の弁護士が活躍しているのですけれども、この人に聞いてみたところでは、大阪の場合には聴覚障害者が遺言者本人として公正証書遺言を作成してもらった例はあるようだ、あるようだということですけれども、どこのだれかということは、残念ながら御本人にも記憶がなくて、教えていただけませんでした。また、聴覚障害者が公正証書遺言作成の証人となるということも大阪では断られているんだそうです。
 そういうような状況にありましたから、これは何としてもおかしい、やはり私の立場からしますと、今の扱いは、法律の解釈上はなかなか難しいのかもしれないけれども、端的に申しますと、憲法第十四条の法のもとの平等に反してしまうのではないか、そのように感じられるわけなんです。また、国際人権規約B規約ですけれども、その第二十六条の方にもやはり法の前の平等ということがありまして、それに反するのではないか、そのように思いました。
 翻って考えてみますと、聴覚障害者は、コミュニケーションの手段さえ確保してもらえれば何でもできるんです。コミュニケーションを確保してもらうこと、そのもとに権利もあり、また義務も負う、そのように私は考えております。
 ところで、今回まで民法にこのような規定が残置されていたのはなぜなのか、そのことを考えてみますと、今の民法のもとになっておりますのは明治時代でして、世間の聴覚障害者に対する意識も低かったのではないかと思います。聴覚障害者は耳が聞こえないからコミュニケーションが十分ではなかろう、そういう素朴な疑問がもとになって今のような規定ができたという面もあるのではないでしょうか。そしてそれが現在まで続いてきた。
 残念なことには、聴覚障害者の側の意識の方もそれほど高いものとは言えなかった。しかし、戦後になりまして、憲法上も聴覚障害者は平等であるべきだ、そういうような意識が高まってきたと思うのであります。そしてまた、手話の制度も普及してきた、手話だけでなく筆記、要約筆記の通訳という制度も充実してまいりまして、聴覚障害者に対してのコミュニケーションの保障ということがかなり充実してきた、それが背景にあるのではないかと思うのです。
 そして、先ほど佐藤公証人がおっしゃいましたように、一般の方は、手話で果たしてその正確性が担保できるのかどうか、そういうようなことに疑問を持っておられる方が多いのではないかと思います。しかし、公証人法第二十九条ですけれども、ここのところでも、耳の聞こえない人間には通事、つまりは通訳を付す、そういうような制度がございます。これは、手話通訳でも十分なコミュニケーションを図ることができる、そのあたりを根拠に置いているのではないかと思います。また、実際にも、民事訴訟法にも刑事訴訟法にも、聴覚障害者に対しては通訳を付すという規定がございまして、それで聴覚障害者が裁判を受ける権利が保障されているわけなんです。
 さらにまた、第五十期の司法修習生に田門浩という人がおりまして、この人は先天性の聴覚言語障害者でしたので、最高裁判所司法研修所が公費で手話通訳を付して、修習を終えておりました。それで全く問題はなかった、むしろいい成績だったというように聞いております。研修所も、手話通訳についてはその有効性を十分に認めていたと思います。
 それで、私どももいろいろ運動し、また法務省にもお願いしまして、民法改正案をつくっていただきました。手話通訳、筆記通訳つきの遺言ができるという法律改正案でございます。
 実は、午前中のこの委員会の様子をインターネットで拝見しておりましたら、千葉大学の先生でございましたか、成年後見法は今後世界のモデルになるようなものである、そのようにおっしゃっておられました。この今回の遺言法の改正も、実はヨーロッパ各国でも余り例のない、障害者のためにとてもよろしいものだと思います。ドイツでも、フランスでもここまですぐれたものではないように承っております。法務省のおかげで、やっとここまで案をつくっていただきました。ただ、法律を改正するということは立法府の専権でございます。ぜひ皆様のお力で、今度の法律案、法律改正案を成立させて、聴覚障害者の真の平等の実現のために一歩を踏み出すようにお願いしたいのであります。
 どうもありがとうございました。(拍手)
○杉浦委員長 ありがとうございました。
 次に、野沢参考人にお願いいたします。
○野沢参考人(手話通訳) 野沢と申します。きょうは、参考人としてお招きをいただきましてありがとうございます。
 私は、七歳のときに聞こえなくなりましたが、山田参考人と違いまして、補聴器は全く利用できませんでしたので、自分の声をコントロールすることができませんので、初めての方にとってはわかりにくいと思いますので、田中通訳にきょうは私の発語を、発声を代読してもらいます。
 手話通訳の役割について申し上げますと、手で普通の人の声を表現するということではなく、私たち聾唖者の手話を読み取る、そういった面での正確性も要求されている仕事であります。先ほど、山田参考人が、手話はちょっとおかしいというようなこともおっしゃっていたようですが、そういうことは全くございません。これからそれを証明するようにお話を進めていきたいと思います。
 初めに、日本の手話の概要についてお話をさせていただきたいと思います。
 レジュメというか、資料をお持ちいたしましたが、我が国の歴史の中で初めて聾唖者の教育が開始されたのが一八七八年、これは京都です。その次に、一八八〇年に東京でも聾学校が設立されました。ここで初めて聾唖者の集団が形成されました。その集団の中から共通性を持った手話が生まれてまいりました。手話については百二十年の歴史がございます。この手話が、全国の聾唖者集団に限らず、健聴者に広がり、高度な言語となってきたのは、一九四七年、現在の全日本ろうあ連盟が設立され、また一九七四年に全国手話通訳問題研究会が設立された以降です。
 また、一九六九年、全日本ろうあ連盟から「わたしたちの手話」の第一巻が発行されました。一九九六年までに全部で十巻、二百三十五万部以上が全国に普及しております。そして現在、一九九七年には、このような「日本語―手話辞典」というものが発行されております。ここには八千三百二十語の手話が収録されております。
 ただ、現実の手話の語彙の数ということを考えますと、八千三百二十語にとどまらず、さらに大きなものがあることは間違いがありません。言語の原則としては、語彙に不足なしということが明らかにできるかと思います。聴覚障害者の言語として見る限り、言語に過不足はないということが言えます。今私たちがいつも読んでいる新聞の場合には、一万語前後によって構成されていると言われております。八千三百二十語というのは、新聞を読むのとほぼ同じ語彙数、日常生活の中で全く不足はございません。
 ただ、問題は、聴覚障害者、音声言語として、日本語の社会に生活しておりますので、そのために、手話と日本語の翻訳関係が問題になってまいります。音声言語に対応する手話語彙の問題が問題になっていると思います。その結果、社会で生活をする上で、実際の問題として、言語に対応する手話の語彙の少なさが課題として出ているかと思います。これは、歴史的に聴覚障害者が疎外され、手話が疎外されてきたことの結果であると考えております。
 この課題について、全日本ろうあ連盟は、厚生省の委託を受けまして、日本語に対応する新しい手話の造語の努力を続けております。それは現状の手話、日本語の語彙に対応する手話単語をつくることを目的としております。そのための手話研究も、大学も含め今進んできております。手話語彙の増加は、今のところ組織的、意識的な努力によっての成果をまつことが多くありますので、聴覚障害者の社会参加の進展とともに、自然に手話の語彙は増加をしていくということは間違いないと信じております。
 次に、山田参考人も申し上げましたが、聞こえない者のコミュニケーションの手段。聞こえない人は、障害手帳を持っている人の数が三十六万五千人おります。そのうちで、手話をメーンとしたコミュニケーションを使っている聞こえない人は八万人から十万人ぐらいだと言われています。ですから、当然、文字、口の読み取り、補聴器、身ぶり、指点字、そういったさまざまな手段は幅の広いものがございます。
 公正証書遺言の作成を委嘱するような場合にでも、手話だけに限るというのは不適当であると考えております。そういう意味で、手話通訳と言わずに、通訳人あるいは自書するという言葉で九百六十九条が新しく加えられ、改正されるということ、これは非常に正しい御判断だと思いますし、我々も全面的に賛成をしているところです。どういうような方法をとる場合にしても、それに応じた通訳を派遣してもらう、その体制はもう既に十分つくられております。
 国の手話通訳支援の状況についてですが、国としては、公的に手話通訳養成をしてほしいという全日本ろうあ連盟の要請を受けまして、一九七〇年、手話奉仕員養成事業をスタートさせました。さらに、一九七三年には手話通訳設置事業、一九七六年には手話奉仕員派遣事業というように、手話通訳に関する事業を国として少しずつスタートさせてまいりました。これらの事業は、予算的には身体障害者社会参加促進事業の中の一つとして、手話通訳奉仕員、まあ手話通訳奉仕員というふうに位置づけているという問題はありますが、全日本ろうあ連盟などの積極的な取り組みによって、多くの聞こえる方々の中に手話が広がっております。
 そういう中で、一九七九年から、厚生省が標準手話研究事業として、日本ろうあ連盟に委託するようになりました。また同時に、手話通訳指導者研修事業、手話通訳養成ができる指導者の研修も開始されております。
 その中で、一九八二年、厚生省は、手話通訳制度調査検討事業を日本ろうあ連盟に委嘱いたしました。全日本ろうあ連盟は、三年間の月日をかけましてさまざまな調査をした結果を報告しております。内容としては、五つの面がございます。
 一つは、今まで社会一般で理解されなかった聾唖者の生活実態、家族関係、医療関係、労働問題、文化の問題、教育の問題等々、さまざまな分野について明確にいたしました。二番目は、聾唖者の生活にとって手話は絶対に必要であるという手話の意義が明らかにされ、手話を言語として位置づけたことだと思います。三番目は、手話通訳の必要性を認め、手話通訳制度をつくる責任が国にあるということを認めたということです。四番目は、結論として、手話通訳制度の内容は、手話通訳の養成、認定、設置、派遣であることを整理いたしました。
 これを受けて、さらに二年間、厚生省によって手話通訳士の認定基準の検討をいたしまして、平成元年、一九八九年、厚生大臣公認の手話通訳士試験が開始されました。平成十年現在、全国で九百六十四名の手話通訳士が誕生しております。数の目標としては二千人ですので、まだ半分に至らないという状況ですが、今後間違いなくふえていくものと考えられます。
 その一つの立場として、手話がどのぐらい一般に普及しているかと申しますと、テレビの手話もございますが、手話サークルという組織が、一九九五年の全日本ろうあ連盟の調査によりますと、全国で千六百八十七サークルがございます。大体四万人の人が手話サークルで活動をしております。また、手話の講習会につきましては、ほとんどの地方自治体が主催をしておりますが、一九九五年現在、都道府県の手話講習会が四十二カ所、そこで学んでいる人の数が一万四千人、また、市区町村レベルの手話の講習会では三百十カ所、学んでいる人の数が二万八千六百四十人。手話はこのように大変すそ野も広がってきております。
 私たちも、実際に、裁判ですとか刑事場面あるいは高度医療の場面でも、今は安心して通訳を頼んで協力をしてもらっております。また、それだけではなく、我々に合う健聴者の手話通訳がいることは、安心して我々とコミュニケーションができるということです。それはきょう先生方も十分御理解いただけたものだと考えております。
 その中で、公正証書遺言に通訳人あるいは自書が認められるということは非常にうれしいことであります。この前の六月十一日から十三日、鳥取県で開催されました全日本ろうあ者大会でも、聾唖者のみんなは非常に喜んでおりました。
 そういうことで、私の方の御報告を終わらせていただきます。
 済みません、実は、あと一分でちょうど時間になるのですが、そうしますと、今、私、机の上に置いております時計が振動いたします。あと十五秒ほどお待ちください。こういったものもできております。
 今、ちょうど、二時半きっかりに振動するようにしておきました。こういったものもございます。(拍手)
○杉浦委員長 ありがとうございました。
 以上で参考人の意見の開陳は終わりました。
○杉浦委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。河村建夫君。
○河村(建)委員 自由民主党河村建夫でございます。
 きょうは、参考人の皆様には、大変お忙しい中を貴重な時間を割いて本委員会に御出席をいただきまして、ありがとうございました。また、ただいまは、貴重な御意見、また御提言を賜りました。感謝にたえません。
 今回のこの民法改正、午前中は成年後見制度の問題も質疑をしたわけでありますが、自己決定権の尊重、あるいはノーマライゼーションの精神を生かしていく、あるいは残存能力の活用等、こうした抜本的な改革が成年後見制度によってなされる。そして、あわせて、これはノーマライゼーションの精神に合致すると思うのでありますが、聴覚・言語機能障害者が不可能であった公正証書遺言への道も開いていく、意義ある画期的な改正ができるということ。また、きょうおいでをいただきました参考人の皆さん方にもいろいろ御要請をいただいたことが今まさに実現しようとしている。立法府の一人といたしまして、法務委員といたしまして、この質疑に参加できますことに大変な喜びと誇りを持っておるところでございます。
 さて、限られた時間でございますから、簡潔な質問になるかと思いますが、一、二、各参考人の皆さんにお聞きをしたいと思います。
 久貴参考人にまずお聞きをいたします。
 我々のこの日本の民法は、母法といいますか、フランス民法フランス法からきているというふうに聞いておるわけでございます。先ほど来お話しのように、ドイツ、オーストリアにおいては既に手話による公正証書遺言の道が開かれておるのでありますが、フランスではそれがまだできていないということで、そのことから日本の法律もそうなったのかなと素人考えに思いながらおるわけでありますが、ドイツ、オーストリアでは現実にもうそういうことができておる。
 この辺の事情といいますか、同じヨーロッパでありますが、どうしてそういうことになっておるのかなと。大変基本的な、初歩的な質問でございますが、まずその辺からお聞かせをいただきたいと思います。
○久貴参考人 十分なお答えになるかどうか存じませんけれども、少し申し上げさせていただきます。
 フランスでは、確かに先生御指摘のとおり、認められてはおりません。
 なぜだろうということは、実は法制審議会の民法部会身分法小委員会の審議の中でも話題になりまして、そのときのお話では、フランスでは、最近まで聾教育の中で手話が、排除という言葉が適切かどうかわかりませんが、しかし、排除されてきたという経緯があって、手話が余り発達、普及していないということによるのではないだろうかということが話題になっておりました。
 フランス法に詳しい、長年留学しておりました若い研究者に実は私は聞いたこともあるんですけれども、公正証書遺言につきまして手話通訳を認めようというふうな動きは、一般にも、あるいは、研究者の書いた本とか論文の中にも見たことがないというふうなことを申しておりました。
 フランスの特殊性といいますか、割に非常に頑固なところのある国と私は思うんですけれども、何かそういったことがあるいはあるんだろう、伝統的な何かにこだわっているのかもわからないというふうに思っております。
 それから、ドイツそれからオーストリーの方では認めているというのは先生御指摘なさったとおりでございますが、実は、民法典の中には規定しておりません。証書作成法あるいは公証人法と呼ばれるような、それぞれの国によって名前のつけ方は違いますが、一般には、普通、公証人法とよく呼んでいるようなんですが、その中の規定の解釈とか運用として手話を認めているということのようでございます。
 御質問の趣旨、つまり、これがどのような事情によるのかということは、私つまびらかではございませんですけれども、これもドイツの法律に詳しい研究者に聞きましたところでは、先ほどおっしゃいましたノーマライゼーション、障害のある方たちも一般の人たちと同じように同じ社会の中で活躍していただこう、そのノーマライゼーションという考え方が、ドイツでは大体一九六〇年代後半から出てきたんじゃないかと思うと当人が申しております。改正法がちょうど六九年、七〇年施行ですので、何かそういった国全体の空気といいますか、公正証書遺言だけではなくて、広くいろいろな問題についてドイツとしては取り組もうとした。
 オーストリーのことは細かく私存じませんが、オーストリアは隣の国でございますので、ドイツの影響を恐らく受けているだろうというふうに思っております。
 以上でございます。
○河村(建)委員 ありがとうございました。
 人権尊重の国フランス、こう言われるのでありますが、私も不思議な感じはするのであります。幸い日本では、遅きに失したかもわかりませんが、この時点でこういう改正ができるということは、意義のあることだというふうに思います。
 さて、佐藤参考人は、日本公証人連合会の法規委員長というお立場でもいらっしゃるわけでございます。先ほどのお話、御説明の中でも、公証人連合会としても、いよいよ手話通訳による公正証書遺言が実現できる方向だということで意見交換もされたというふうに伺いました。
 公正証書遺言が可能になるということで、これから公証人連合会としても本格的にPR等々いろいろお取り組みになろうとされるわけでございますが、その辺についてはどういうふうな形で今から取り組んでいかれるか、改めてお聞きしたいと思います。
○佐藤参考人 お答えをいたします。
 聴覚・言語機能障害者が手話通訳を利用して公正証書遺言をつくる、そういう新しい制度が非常に円滑に利用される前提として、まずは何よりも、公証役場なり公証制度というものがそういった障害者の方たちにとっても利用しやすいものでなければならないだろうと思います。
 恐らく、多くの障害者の方にとりましては、公証役場って一体何なんだ、どこにあるのか、どんなことをしているのか、用事があるときはどうすればいいのだろうか、遺言公正証書というのは一体どういう手順でつくるんだろうか、そういったような事柄についても必ずしも十分な御理解を得られていない面があるのではないかと思います。そういう点で、今回の制度をまずとにかく円滑に動かすためには、何よりもまず公証役場へのアクセスを容易にする必要があるであろうと考えます。
 そういう点から、私どもとしましては、全国にあります公証役場の名称、名前とか所在地、電話、ファクス番号、それからその役場に所属しております公証人の氏名、そういったものを一覧性よくまとめた名簿をつくる、それからまた、公証役場の利用についての利用手順などをごく簡単に記載したパンフレットのようなもの、さらには、公証役場を利用した場合の手数料がどうなっているか、これは法令で定まっておるわけでありまして、そういう定まっている手数料令の内容など、そういった関係の資料を障害者団体あるいは通訳者団体等にできるだけ早い機会に提供申し上げようと考えております。
 それに関連して、例えば、そういった団体から法律制度あるいは公証制度についての説明を求められたような場合には、講師派遣などにも喜んで応ずるつもりでございます。
 その次には、先ほど、信頼できる通訳者の確保のために派遣団体と連携するということを申しましたが、その関係で、各県にあります公証人会と地域の通訳者団体とでできるだけ早急に意見交換をして、各地の実情を把握してもらうように、これは各地の公証人会の方に指示するように考えております。
 あるいはまた、実際問題としては、聴覚・言語機能障害者の方は、御自分で通訳者を帯同して公証役場にお見えになることが多いんだろうとは思いますけれども、いろいろな事情で、自分の方では通訳者を確保できないから公証役場の方でどうにかしてほしいというような御要望がある場合もあろうと思いますので、現在、私どもの方としては、全国にあります通訳者派遣センターの一覧表なども入手いたしまして、これを各県の方にも連絡をして、その辺の対応に手抜かりがないようにしております。
 あるいはもう一つ実務的に考えられますのは、この制度が実施されまして、手話通訳による公正証書が徐々につくられるようになった場合には、そういった作成事例を早速全国的に集めまして、運用上の問題点などを検討して、できるだけその運用に地域差などが起きないようにする、これも必要ではないかということを今内部で話しして、方策を検討しておるところでございます。
 あとは、個別の問題としては、先ほどちょっと申しましたように、立ち会い証人に通訳者の方を入れるとか、あるいは筆談を活用して、その筆談のメモを残しておいて後日の紛争に備えるとか、そういった事案に即した実務的な工夫はいろいろあるのではないか、こういうことを今内々に検討しているところでございます。
 大変大ざっぱでございますが、そんな程度でございます。
○河村(建)委員 ありがとうございました。ぜひ公証役場のPRをしっかりやっていただいたらと思います。私自身も国会議員になるまでよくわからなかったわけでございまして、職業安定所なんというのは最近ハローワークという名前をつけておりますが、そういうことでしっかりPRしていただいて、この遺言の公正証書がうまく行き渡るようにお願いしたいというふうに思います。
 時間が非常に差し迫ってまいりましたが、山田参考人には聴覚障害者、野沢参考人もそうでいらっしゃいますが、この場にお出をいただいて、私も大変びっくりしたという言葉はあれでございますが、難しい司法試験をお通りになった。しかも、司法研修等も手話通訳で受講された。素人で考えてみても、あの難解な法律用語をどのような形で手話で通訳し、それをきちっと理解されたかということ、現実にそういうことをやってこられておるわけでありますから、そんなことをお聞きするのも大変失礼なんでありますが、先ほど来のお話のように、公正証書を作成する場合には、法律用語あるいは難解な、非常に複雑な事実関係を伝えていかなきゃいかぬ。先天性の方には複雑な文章をうまく書けない人も中にはあるんだということでございますが、そういう場合のこれからの支障ということについては大丈夫なんでしょうか。
○山田参考人 山田でございます。私から簡単にお答えさせていただきます。
 これは多分、少し本論から外れるのだろうと思いますけれども、実は私の場合は、そのころは手話の勉強中でございまして、大体は友達の筆記通訳でやってもらっておりましたが、司法修習を通訳つきで受けたという田門修習生の場合は、通訳たちのチームをつくりまして、いろいろと専門的な言葉を手話であらわす場合もどうすればいいか、そういうようなことを勉強しておりました。
 次に、これが本論だろうと思いますが、なかなか難しい言葉など理解してくれないような人ということの問題ですけれども、実はこれは健聴者の中にもたくさんおりまして、遺言という言葉は大抵知っているんですけれども、それに関係する遺留分とかそういった言葉などは知らない人が多うございます。そういう人たちに対しては、遺留分というのは一定の範囲の相続人に対して与えられた権利です、自分たちの生活を守るため残された財産なのです、そういうふうに説明しております。
 聴覚障害者の場合で難しい言葉など知らないような人たちもやはりたくさんいると思いますけれども、そういう人たちに対しては、一つ一つ手話通訳をつけて、また私自身が手話で説明しまして、そのようにすると結局はわかってもらった、そういう例が多うございます。そうするとやはり時間はかかるのですけれども、そのように一つ一つ丁寧にやっていきますと、大抵の聴覚障害者は理解してくれますので、それで遺言などもつくることができるのではないかと思います。このあたりでよろしいでしょうか。
○河村(建)委員 ありがとうございました。聴覚障害者、そして弁護士として御活躍でございます。後輩の方もお出になっているようでありますが、どうぞひとつ、そういう方々に希望と夢を与える存在として、さらに御活躍を御期待申し上げます。
 ちょっと時間が参ったのでありますが、せっかくでありますから、野沢参考人、この手話通訳の歴史等を説明いただきまして、大変勉強になりました。日本のこの制度というものは、国際的に見ても非常に高いレベルにあるのではないかというふうに感じておりますが、手話通訳者の今後の確保の問題、諸外国、特にオーストリア、ドイツあたりは進んでいるそうでありますが、日本は大丈夫なのかということをもう一度確認させていただきたいと思います。
○野沢参考人(手話通訳) 野沢でございます。
 御存じの先生もいらっしゃるかと思いますが、日本でも一九九一年、世界聾者会議が開催されました。日本の手話通訳のレベルも十分上がってきております。国際的にも全く、おくれているということはございません。むしろ、アジアの中では一番進んでいるということが言えます。JICAの協力をいただいて、日本にアジアの聾唖者リーダーを招いて手話通訳養成などをやるぐらいのレベルに日本はございます。
 今後も、厚生省がことしの四月から、手話の奉仕員、そして手話通訳者というふうに事業を二つに分けて都道府県に指示を出しております。私どももそれを受けて、全国一律の方法で、同じ技術レベルの通訳者が誕生できるように頑張るということで計画をつくっております。ということでよろしいでしょうか。
○河村(建)委員 どうもありがとうございました。
 まだ一、二聞きたいこともございましたが、時間が参りましたので、これで終わります。ありがとうございました。
○杉浦委員長 次に、坂上富男君。
坂上委員 坂上富男でございます。
 参考人の先生方、本当に感銘深いお話をお聞きしておりました。ありがとうございました。また、手話通訳の先生方、大変御苦労さんでございます。本当にこの法務委員会で、私たち、また聞いておる皆様方も、深い感銘を覚えておられることだろうと思っておるわけでございます。私はほとんど質問することはありませんが、特に山田弁護士さん、それから野沢先生に、最高の、最大の賛辞を送らせていただきたいと思っているわけです。
 私も、ささやかでございますが、この手話通訳による公正証書遺言等について少しかかわらせていただきました。最初は、平成九年の三月十八日の法務委員会でこの問題をまず取り上げさせていただきました。その動機となりましたのは、平成九年三月十四日の朝日新聞の夕刊でございました。そこに大きい囲み記事で、何という表題だか忘れましたけれども、次のようなことが書かれておりました。
 聴覚障害の方々が公正証書遺言をつくることができないということでございます。一体こんなことで、法律と常識から考えていいのだろうかという指摘がここに書かれておったわけであります。聴覚障害者の方々は、では何をすればいいんだろう。自筆遺言をおつくりになったらいいだろうとか、秘密遺言をおつくりになったらいいだろう、こういうように言われておりますと。「しかし、ここで、自筆を使うことのできない聴覚障害者の方があったら、これは一体どうなるのか。遺言ができないということになるわけです。これは一体どういうふうに法務省、考えておりますか。」、こういう質問から私はかかわらせていただきました。
 法務省の方も、まじめに、真剣に、精いっぱいお答えをいただきました。当時、濱崎政府委員でございましたが、「今御指摘のありました、聴覚障害者で自分で字も書けないという方については、結論的に申しますと、御指摘のような問題があるというふうに承知をいたしております。そういう場合には、遺言という形でない死因贈与公正証書でつくるという形で、同じような目的を達することができるというふうに考えております。」一応こういう答弁でありました。これも本当に法務省がまじめに、今の民法の、現行法の中で、どうすれば障害のある皆様方がその目的を達成するかということについてのお話だったろうと思っております。
 さて、そこで、この報道によりますと、全国の聴覚・言語障害者は四十万近くいるという。そして、「この経験をした聴覚障害者の方は、同じく聴覚障害者の弁護士さんがおられるそうでございますが、この方々と一緒になりまして、手話によって意思伝達ができるのだから、これはもう公正証書、手話によっても認めるべきだという運動が始まっているそうでございます。」と。
 このとき、まだ山田弁護士さんを知りませんでした。野沢先生のことも私は知りませんでした。これを書かれた論説委員の先生と、私がこの発言をしてからお会いする機会がありました。そして、山田弁護士さんや野沢さんたちが真剣に、これらの皆様方のために、公正証書遺言ができるようにと必死の運動をなさっているということを私はお話を聞いて知ったわけでございます。私に山田先生らを御紹介をいたしますというふうにおっしゃいまして、御紹介をいただいたわけでございます。
 まあそんなことで、私は、差別そのものではないか、そうだとするならば、法務大臣、どうもどこか変じゃないですか、大臣、突然ですが御所感をお聞きをしたい、こう言いましたところ、大臣は、当時松浦大臣でございましたが、率直にお答えになりました。「いきなりでございますので、私は余りよくわかりません、率直に申し上げておきますが。しかし、矛盾があれば検討しなきゃならない問題だと思っております。」と。私は、「ぜひこういう人たちの差別のないように、そしてこれらの人たちも安心して遺言ができるような、そういうやはり法律でなければならぬと思っておるのです。」、こういうように結んだわけでございます。私は、この大臣の答弁をお聞きをいたしまして、何とかなりそうだな、あるいは法務省民法改正に乗り出してくれるかもしらない、そんな気持ちも持ちました。
 そして、山田先生らとお会いをすることになったわけでございます。そして、当時、山田先生は、公証人の先生方に公正証書遺言の依頼をなさいましたけれども、これはできませんということで、まあ戦術上でございましょうか、行政不服審査法でございましょうか、それをもとにいたしまして手続をなさったのかどうだったか忘れましたが、そういう努力もなさっておったわけでございます。
 そして、皆様方がいろいろの努力を重ねられまして、昨年の一月、下稲葉法務大臣になりましてから、記者会見で、手話通訳等による公正証書遺言を認めたいと思います、民法を改正したいと思いますという言明がなされたわけであります。関係者の皆様方、大変お喜びになったろうと思いますし、私自身も大変うれしゅうございました。そして自後、先生方が法制審議会等でいろいろと御議論をなさいまして、その成果が今回の民法改正というような法案となって提出されたんだろう、こう思っておるわけであります。
 そんなような意味におきまして、山田弁護士さん、あるいは野沢先生、本当に今日ここに至るまでの大変な御努力に私は、まあ私はいつも言うんでございますが、社会的弱者のために頑張りますなどと偉そうなことを言っておるわけでございますが、やはりその立場に立ちませんとなかなか思うようにまいらぬものでございまするし、思ったことの百分の一も実現できないことでございます。たまたまこういう問題に遭遇をいたしまして、ささやかでございますけれども、私はこの法案をこうやって法務委員会で審議をし、いずれ近くこの国会の中で法案が成立するであろうというふうに思いますと、まさに感慨無量でございまして、このお二人に私は最高の賛辞を送りたいというのはそういう意味でもあるわけでございます。本当に感謝をいたしたいと思っておるわけでございます。
 また、山田弁護士さん。先生が今弁護士という立場、ここに至るまでの大変な御努力をなさったんだろうと思うんであります。本当にいろいろの困難を乗り越えられまして、難関と言われる司法試験に合格をされ、そしてまた研修期間の二年間、大変御苦労をなさって実務修習をなさったんだろうと思っておるわけでございます。それがそれで終わらないで、あなた自身がこうやってみずからの仲間の皆様方の、障害のある人たちのために必死の御努力をなさっておる、そういう献身的な姿に、私はさらにまた山田先生の御活躍に大変な敬意と賛辞を送りたいと思っているわけでございます。どうぞひとつ、健康に留意をくださいまして、頑張っていただきますことも御期待をいたしたいと思っておるわけでございます。
 さて、そこで一、二点質問させていただきますが、口唇術、何か唇でもって読むという方法があるんだそうでございますが、これは公証人の先生でございましょうか、一体これは、民法の場合、口唇術でやった場合はどういう条文の取り扱いをしたらいいのか。何か御意見があったら、あるいは久貴先生でもどちらでも結構でございますが、ちょっとお聞かせをいただければありがたいと思いますが、どうでしょう。
○久貴参考人 的確なお答えができないような気も実は私いたしておりまして、民法自体は、基本的には発音、つまり音を口から声に出してということを基本に、口頭主義と言ったりしておりますが、それを考えておりますので、今先生、読唇術というのをどのようにこれまで扱ったか。少なくとも学説の中では、私自身不勉強かわかりませんが、余り読んだことはないような気がいたします。かえって公証人の先生御自身の御経験を聞かせていただく方があるいはいいのかと存じます。
 以上でございます。
坂上委員 先生、どうでしょうか。
○佐藤参考人 私どもも、公証の現場で口唇術で対話、コミュニケーションをとったという例はございません。私、裁判所にもおりましたけれども、口唇術でもって法廷の仕事をしたという経験もございませんので、恐らく法曹関係者の間では、口唇術で意見陳述あるいはコミュニケーションがとられたという例は非常に少ないのではないかと思っております。
坂上委員 山田先生、どうぞ見解をちょっとお答えください。
○山田参考人 山田でございます。
 やはり、今の法解釈からいたしますと、音声言語という、単に読み取るというだけではなくて、言葉として耳から聞こえるかということを重視していると思いますので、なかなか遺言を作成してもらうことは難しいのではないかと思います。
 ただ、実際に聞こえて理解しているのか、それとも全く表情だけから読み取っているのか、少し耳の悪い人、完全に聞こえないというわけではございませんけれども、そういう人の中には音と口の動きと両方から見ている人がやはりいると思いますので、そのあたり、どこで理解しているかは第一義的には公証人の御判断になるのではないかと思います。やはり、音声から聞こえない場合は今の解釈では難しいかなと思いますね。
 私自身としては、とにかくコミュニケーションができれば、それで公正証書遺言をつくっていただいてもいいのではないかというふうに考えているわけですけれども、多分これは、公証人連合会の考え方、全体の取り扱いとは違っているのではないか、そういうふうに思われます。
 なお、これは御参考ということになるかと思うのですけれども、人工内耳という手術を受けている人もいまして、これは、人工内耳で聞くのと口の動きを読み取るのと両方合わせますとほとんど聞こえる人と違いがないという方がいまして、そういう場合は今の法解釈のもとでも公正証書遺言をつくってもらうことができるのではないかと思います。よろしいでしょうか。
坂上委員 お話によりますと、聾学校等では口唇術といいますか、唇で読み取るという教育が大変中心になされているという話も実は聞いておるわけでございます。
 また、いろいろの問題もたくさんあるのだろうと思いますが、満足な質問もしませんでしたが、私は、ただただ皆様方の御努力に敬意を表しながら、今後ますますこういうような、いわゆる社会的な弱者の皆様方のために私たちがやることがあれば一生懸命やることを誓いながら、私の率直な気持ちを表明をいたしまして、参考人質問にならない質問をさせていただいたわけでございますが、皆様方の御活躍を期待をいたしたいと思います。ありがとうございました。
【次回へつづく】