精神医療に関する条文・審議(その111)

前回(id:kokekokko:20051126)のつづき。初回は2004/10/28。
ひきつづき、平成11年の成年後見制度制定・精神保健福祉法改正についてみてみます。

第145回衆議院 法務委員会会議録第21号(平成11年7月2日)
○杉浦委員長 内閣提出、民法の一部を改正する法律案、任意後見契約に関する法律案、民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案及び後見登記等に関する法律案の各案を一括して議題といたします。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。日野市朗君。
○日野委員 まず最初に、法務大臣にお伺いをいたしたい。
 この法務委員会、非常に多くの法案をいまだ抱えております。私は、これから一生懸命その法案に取り組んでいかなければならないと思っている。しかも、本日審議が行われる民法の改正案等、これらの法案については、もうこれは国民のコンセンサスである。これを一日も早く成立させてもらいたい、これは国民のコンセンサスである。一方において、参議院において非常に紛糾をしていること、これも私はよく知っております。そこで取り扱われている法案が、これは国民のコンセンサスはいまだに得られていない。こういう状況の中で、きょう私は、半ば挫折感に襲われそうになりながら、しかし、これではいかぬと自分自身を奮い立たせて、今この質疑に臨もうとしているのです。
 この民法等の法律案、これの次には、経済界が渇望している法律案、つまり、株式交換、株式移転、これらを含んだ商法の改正案が一刻も早い成立を求められている。このような状態にあって、法務大臣に伺う。きちんと答えていただきたい。これは通告も何もしなかったけれども、政治家であり法務大臣であるからには、当然答えられることだ。(発言する者あり)黙っておれ。法務大臣は、この法律案の成立、それからメジロ押しに来ている法案、これらについてどのようにお考えか。これを成立させたいと考えておられるのか、これらは流れてもしようがない、こう考えておられるのか。いかがですか。
【略】
○日野委員 何か、先ほどの質問で不穏当なところがあったとしたら、これは後で議事録を検討した上で、それを訂正していただく、そこの部分は削除をしていただくということにして、先ほどの質問について、これから法務省として、その責任の衝にある大臣として、現在、本院にかかっている諸法案、本委員会で取り扱っている諸法案、これはいかがお考えですか。これをきちんと成立させたいという熱意をお持ちかどうか、伺います。
○陣内国務大臣 今国会にお願いしております法律案につきましては、その成立を期して私ども努力しなければならないと思っておりますが、いずれにいたしましても、委員会でお取り計らいいただくわけでございますので、そのように考えておるところでございます。
○日野委員 委員会にげたを預けられましても、法務省からの提出ということで出されている法案でありますから、それについて、優先順位とかいろいろこれは法務省もお考えになるところはあると思うんですよ。そういうことについて、きちんと検討をされて、すべての法案の成立を図るというお考え、おありかどうか、いかがですか。
○陣内国務大臣 私どもといたしましては、衆参両法務委員会におきまして、私どもの提案しております各種法案、これを御審議、御決議いただきたいというふうな気持ちでいっぱいでございます。
○日野委員 では、どうも歯切れが悪いなと思いながら、この民法等の法案の質疑に入らせていただきます。
 私は、この法案に賛成の立場であります。ただ、私も法律の実務もいささか取り扱ってまいった経歴がございまして、この法律案というのはある意味で非常に野心的な法律案であろうというふうに思っております。
 私、この法案が、今までの、特に裁判所、一歩を踏み出したという印象を強く持つのであります。今まで司法といえば、どちらかといえば、これは回顧的な仕事をやってまいりました。特に後見という問題については、これはローマ法以来ずっと民法典の中に存在する一つの制度であります。しかし、いわゆるパンデクテンシステムですか、財産法と身分法との、そこのところをきちっと分けてつくられている民法典ということになりますと、どうしてもこの後見という問題については比較的軽く見られていたと言うと問題でありましょうか。
 しかしそれが、各国の事例は知りませんが、特に我が国においては余りうまく機能したとはちょっと言いにくいのではないかというふうに考えているわけですね。それは法典のつくり方もありましょうし、それから司法の性格ということもあるのだろうというふうに私は思っておりますが、これから裁判所はさらに一歩を踏み出そうとしている意欲がこの法律案に示されているのかどうかということについての裁判所のお考え方を伺っておきたいと思うのです。
 実は、来年の四月からは、御承知のように介護保険制度が実施されることになっていますし、厚生省あたりは、地域福祉権利擁護事業、これもかなり意欲的な事業であろうと思いますが、こういう事業を推進されようとしておられる。こういう中で、特に被後見者と言われる人たちの権利を全からしめていくために、裁判所の役割というものは非常に広がっていくだろうというふうに私は考えるのですが、裁判所のお考えはどうなのか。
 そして特に、これを広げていこうという意欲がおありなのかどうなのか。特に、「後見開始ノ審判ヲ為スコトヲ得」、こう民法には書いてあるわけですね。「コトヲ得」なのですね。しなければならないでもない。その条文の文言はそのまま引き継がれるわけですが、この点について、裁判所のお考えをお聞かせください。
○浜野最高裁判所長官代理者 お答えいたします。
 委員の御指摘は大変大局的な観点から、大きい御質問でございますので、まず大局的な観点からお答えをいたしますと、司法の使命は、公正な手続に基づきまして事件を法的に解決することにより、社会の法的ニーズに対応することにあるというふうに存じております。今後、社会構造の変化等に伴いまして多様化することが予想されます社会の法的ニーズに対応いたしまして、司法におきましても、訴訟手続以外のさまざまな解決の手法というものが重要性を増してくるのではないかということは委員の御指摘のとおりであろうというふうに考えております。
 特に家庭裁判所は、その科学性と専門性を発揮しまして、まさにただいま申し上げましたような手法を中心として事件を解決すべき役割を担ってきている機関でございまして、今述べましたように、社会構造の変化等によりまして高まる国民の家庭裁判所に対する期待にこたえ、より適正迅速な事件処理を図るために、その体制のあり方につきましてもさらに検討していく必要があろうというふうに考えております。
○日野委員 今のお答え、私、いささか抽象的かなというふうに実は思っているのです。裁判所あたりの答弁になるとこうなるのかなという点にも理解を示しながら、若干抽象的だなというふうにも考えたわけであります。
 ところで、さっきの民法七条の、「審判ヲ為スコトヲ得」、こう書いてあります。そして、これは被後見人にふさわしいな、被保佐人にした方がいいな、それから、被補助人にした方がいいなというようなことは、裁判所に出入りする人を見ておられてお感じになることはあるのだろうと思うのですね。そのとき、もちろん裁判所というのは申し立て権者ではありませんから、しかし、そういう人を見た場合、自分から進んでそれを、例えば今回申立人として新たに追加された検察官であるとか市町村長であるとか、そのほかにも任意後見人とかいろいろございますが、そういった人たちの方にそれをお知らせして、そして、これは申し立てをした方がいいよということを勧めるというような積極性をお持ちなのか。それとも、これは不告不理でござんすと、言ってきたらそのとき審判をしましょうということになるのか。そこいらの家庭裁判所の姿勢というものはどのようにあるべきか、いかがでしょう。
○安倍最高裁判所長官代理者 御説明申し上げます。
 委員御指摘のとおり、今回整備を図ろうとしている成年後見制度、大変重要な制度を予定しているわけでございまして、この制度においては、まさに被後見人となるべき方々の後見的な立場での権利の擁護といったことを考えていかなければいけないということはおっしゃるとおりだろうと考えておりますし、私どもといたしましても、その点については十分な配慮で進めていきたいと考えている次第でございます。その意味では、家庭裁判所の備えている諸機構を十分生かして、また、しかも地域の関係機関との連携を深めまして、その権利保護について必要な手当てを行うべく運用を円滑に進めていきたいと考えているわけでございます。
 ただ、しかしながら、今御指摘のありましたような、裁判所が不告不理の原則を踏み越えて、さらに積極的に事件というものをみずからの手で掘り起こしていく姿勢をとるべきかどうかという点でございますけれども、大変難しい問題をはらんだ御指摘かと思うわけでございますけれども、私どもといたしましては、裁判所の姿勢といたしましては、その利用を積極的に働きかけることまではいかがなものだろうかと考えているわけでございます。
 しかしながら、この制度については、十分な趣旨説明をして、御利用いただくについては、十分こちらの体制を整えた上で、御利用いただきやすいものにしていくということについては、さらに格段の工夫を重ねていきたいと考えている次第でございます。
○日野委員 好むと好まざるとにかかわらず、この法案が成立をいたしますと、こういう審判の申し立てというものはふえてくるんだろうと私は思います。それもかなりふえるんだろうなというふうに思うのですね。というのは、現在の禁治産、準禁治産等の中でカバーし切れていない部分が今度は表面化してくるということが随分ありますから、これはかなりふえるだろうと思います。
 そうすると、当然組織もいじっていかなくちゃいかぬのじゃないか。それから、予算的にもかなり増額せざるを得ない部分が出てくるのだろうと私は考えておりますが、そういうところに考えが及びますと、裁判所というのは予算のとり方が下手だし、余り組織もいじりたがらないということがございまして、その点が私は非常に不安なんです。この点はいかがでしょうか。
○浜野最高裁判所長官代理者 現在御審議いただいております成年後見制度についての法案が成立した後の具体的な裁判所におきます運用、これがどういうふうになっていくのかということは、今後裁判所内でも工夫して積み重ねていかなければならないところでございますし、また、新しい制度でございますので、この制度に係る事件数の動向というのは現在の時点では予測しがたいところでございますのですが、大局的に申し上げますと、高齢化の進展等に伴います法的ニーズが高まるということは予想されるところでございます。
 国民にとってより利用しやすい、親しみやすい裁判所という観点を持ちつつ、家庭裁判所が、特色であります科学性や後見性を十分に発揮して、的確な事件処理が図れるように、委員御指摘の家庭裁判所の人的、物的体制のあり方につきましてもさらに検討していく必要があろうというふうに考えておる次第でございます。
○日野委員 ひとつ、裁判所、余り弱気にならないで、私に言わせてもらえば、いわば行政の一部ともいうべきものを担っていくわけでありますから、どうぞ遠慮なさらないで、組織の改編、必要ならやっていただく、予算の要求も遠慮しないでやっていただく。そうやることが、この法案の本来望んでいるところを実現していく方策であろうかというふうに思いますので、一応、ここからエールを送っておきたいというふうに思います。
 それで、後見等の請求者の範囲が今度はかなり広がりました。任意後見人等が請求権者になりましたし、それから市町村長も請求権者になっているわけですね。ただ、市町村長の場合は、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律、それから知的障害者福祉法、老人福祉法、この三つの法律に限定されているわけですね。これをもっと拡大することは考えられないのか。
 それから、「請求をすることができる。」という規定になっておりますね。これが民法典であれば請求スルコトヲ得なんでしょうけれども、これは民法典じゃない法律ですから、「できる。」となっておりますが、これはもっと範囲を広げる、例えば民生委員というような制度なんかありますね。それから人権擁護委員などという制度もある。ここいらからちゃんとした情報を得て、そして市町村長あたりがきちんとしたもっと強い権限を持つということはできないかどうか、いかがお考えでしょう。
○細川政府委員 まず、御質問の第一点の申し立て権者の拡大についてでございますが、これは御指摘のとおり、従来の民法に比べて、市町村長等を加えることによりまして、拡大しているわけでございます。
 他方、後見でございましても保佐でも補助でも、一定の場合には、本人の行為能力を制限するということでございますので、言えば不利益的な面もあるわけでございます。したがいまして、そこのところは慎重に考えて、権限が濫用されないようにということも考えなくてはなりません。
 そこで、市町村長の場合であれば、これは政治的にも責任を負っておられる方でございますし、しっかりした自治体としての機構がございますので、そういうところならば安心だろうということで、民生委員等の方々がそういう事情を知ったらば市町村長に通知するという形で適切な行使を期待いたしたいと思っているわけでございます。
 現に、日常の介護サービス等は、市町村長が権限があるのですが、現実には民生委員とかヘルパーとかそういう方々がやっていて、それが行政的に伝わるようになっているということで、現時点では市町村長に限るのがよろしいのではないかという判断でございました。
 それから、御質問の第二点の、「することができる。」ということの意味でございますが、現在の民法では、相当多数の方を申し立て権者としております。そして、これはいわば権限の規定でございますが、その権限の規定は、当然のことながら、権限のある人が適切にそれを行使することが期待されているわけでございます。他方、しなければならないと義務的に書きますと、それでは、第一次的に義務者はだれなので、第二次的にはだれかというようなことで、大変複雑な問題が起こってまいります。
 そういうこともございまして、民法上は他の場合もすべてそうなんですが、スルコトヲ得、することができるという権限規定で書いておるわけでございます。しかし、その権限は適切に行使することが期待されているというふうにお答え申し上げたいと思います。
○日野委員 私、非常に心配をしているのは、いわゆる独居老人と言われる方々がかなりいるわけですね。よそとの連絡も十分にとれない、とろうともしないという方も多いのでしょうが、なかなか一般的な社会との接点を持たない。また、そういう人たちが結構お金を持っているということもよくあることでありまして、そういった財産の管理などをしてやらなければならないという人たちもかなり多い。また、民間福祉施設というようなところに入っている方もありまして、民間福祉施設なんというのは、そういった老人の方々なんかと非常に多くの接点を持っているわけであります。
 こういうことから、私、この法案で、かなり申し立て権者というのは拡大はされたけれども、民間福祉施設の長というような人なんかは、情報を提供するにとどまらず、ちゃんと申し立て権者に入れてもよかったのじゃなかろうかなというふうにも思いますし、それから、町内会長やなんかがきちんと市の方に連絡をするということなども必要なのではないかな、そんなふうに思っております。
 そういう、特に独居老人なんかで、町内会長なんか、あの人は危ないなというようなことを知っているのなんかは、ちゃんと市の方に通報をするというようなシステムを指導すべきではないかなという考え方を私は持っているのです。今すぐできるかどうかというと、これも今局長おっしゃられたようにいろいろな問題点があります。それはよくわかっていますが、そういうところを何とかカバーしてやらないといけないのではなかろうかというような感じもするのですが、御感想で結構です、ひとつお聞かせください。
○細川政府委員 ただいま御指摘のとおり、独居老人等につきましては、その方が成年後見等の保護が必要だという情報が適切に自治体、市町村長に伝わることが必要だと思っております。
 そういうことは、申し立て権者は市町村長に限っておりますが、その情報が適切に迅速に伝わることによって、この法案の適切な運用ができるというふうに考えておりますので、今後とも、関係の機関とも協議いたしまして、そういう体制になりますように努力してまいりたいと思っております。
○日野委員 それでは、実務の現状、それから、これからの展開がどうなっていくのかということについて少しお伺いをしたいと思います。
 現在は、これは禁治産に当たる、それで後見人をつけなくちゃいかぬ、こうなっていても、実際は、禁治産の申し立てをする申し立て権者がだれそれを後見人に、こう書いて出させるという方法をとっておられますね。今度は、職権でこれを付することになるわけでありますから、申し立て権者もだれを一体後見人にしたらいいかは実はわからぬ。私は申し立てはするけれども、私は嫌なのよという人だっているわけでありますね。そこいら、現状はどうなっているか。そして将来、どのように実務のやり方というのは進むべきか。お考えはいかがでしょう。
○安倍最高裁判所長官代理者 現在の禁治産制度、準禁治産制度のもとにおきます後見人、保佐人の選任の状況をかいつまんで御紹介申し上げますと、法定後見人、これは配偶者でございます、法定後見人となる者が一七%というのが調査の状況でございます。そして残り、選定後見人でございますが、裁判所が選任する後見人の大半が、約九割を超える数になりますが、これが親族によって後見人になっていただいているというのが実態のようでございます。
 今回の新しい制度のもとにおきましては、現行の配偶者法定後見人制度がなくなることがあり、他方でまた法人あるいは複数の後見人があり得る、こういうことになるわけでございますが、そういった形で選択の幅が広がるということになろうかと思います。
 そういった中で、個々の事案に応じた対応を考えていくしかないわけでございますけれども、一つには、御指摘のように、申し立ての際の候補者の推薦がある場合があろうかと思います。その推薦の方の適否を考えていくということがあります。推薦がない場合には、その地域社会における他の福祉関係機関等の方々でなっていただける方、いわば社会資源と申してよいかと思うのでございますが、こういった方々の中から、どなたになっていただくのが適当かということを考えていくことになろうかと思います。そういった意味では、法律の専門家等が一つの類型になろうかと思いますし、さらには福祉関係の団体や個人の方々もそういった候補者になろうかと考えております。
 私どもといたしましては、どういう方々がそういう候補者になり得るかということを十分把握できるような体制も組んでいきたいと考えている次第でございます。
○日野委員 今、後見人候補者、後見人になろうとする人たち、なり得る人たちについていろいろとお話がございました。そのとおりであろうというふうに私も思いますし、今までの実務でほとんどがいわゆる家族共同体と言われるものの中から後見人を選んできた。これは保佐人についても同じでしょう。
 ですから、後見人に絞った話をしますが、保佐人のことも頭に置きながらひとつお答えをいただきたいと思うのですが、この議論の中で、家族共同体が今まで果たしてきた役割というもの、私はこれは決して軽く見てはいけないと思います。そして、これについてはこれからもやはりしかるべき配慮というものをしていくべきだと思うのですが、人によっては、この家族共同体をもっと大事にして、これの中から後見人を選ぶべきというような論を立てる人もおいでになるようです。
 しかし、今の世の中の移り変わりを見ておりますと、もう家族共同体で面倒を見切れないという事例はいっぱいあります。少子化でございまして、核家族化しているものだから、親を田舎に置いて自分は東京で働いて、後見の事務をきちんとこなせないというような家族も多いわけでございますね。これをさらに縛りつけていく、後見人と被後見人、これを家族であるとか親族の共同体の枠に押し込んで縛りつけておくということは、私としてはまことに非建設的であると思っているわけですが、やはり情義を大事にすべきである、情理というものを大事にすべきである、そういう意見もございます。
 これについては法務省としてはどんな御意見をお持ちになりましょう。法務大臣としてはいかがですか。
○陣内国務大臣 新しい成年後見制度のもとでは、家庭裁判所が個々の事案に応じて、最も適任と認められる者を成年後見人等に選任することとなっております。したがいまして、家族が無私の愛情に基づいて後見事務を行うのが適当な場合もあれば、弁護士、司法書士社会福祉士、ボランティア等の第三者が専門的な知識や経験を活用して後見事務を行うのが適当な場合もあると思われるわけでございます。
 そのいずれが適当であるかということにつきましては、本人の意思や家族間の関係、後見事務の性質等を総合的に勘案して、個々の事案ごとに家庭裁判所によって適切に判断していただくことになると思っております。
○日野委員 そのとおりなんですよ、表面的に見ればそのとおりなんです。しかし、こういう制度が動いていくときは、いや、それは家庭裁判所の仕事でございますといっては済まない。やはり社会が後見の事務をちゃんと果たしていく、保佐の役割をやりやすくしていく、こういう全体的な雰囲気の醸成といいますか、そういうモラルの醸成といいますか、そういったものが必要なので、私が聞きたかったのは、それはどっちの役割だというような話じゃなくて、そういうものの醸成をやっていくというのは法務省の役割が非常に大きいだろうと思うので今伺ったのです。そんな考え方から、どうですか、気楽に答えていただいて結構です。
○陣内国務大臣 自助、共助、公助、こういうものの組み合わせの中で適切にこういう問題は取り扱っていかなきゃいかぬと思いますが、気持ちの上では、今委員がおっしゃるような気持ちを私も、大変同感でございます。
○日野委員 それでは、後見等の仕事が順調に進むための条件というようなものをひとつ考えてみたいと思います。
 一つは、今までこういう仕事はボランタリーなものといったらあれでしょうか、家族共同体の中で支えるという、今大臣のお言葉をかりれば、無私のという言葉を使われましたね。私もこれは非常に適切な言葉かなと思います。ところが、そればかりには寄りかかっていられないというのが現状であろうというふうに思うんですね。それには寄りかからないということになれば、報酬をきちんと支払っていく、その仕事に対してはきちんとした報酬を支払っていくというのが私は大切な観点ではなかろうかというふうに思っているんですね。
 そこで、現在の実務、家事審判法九条一項二十号から家事審判規則の八十九条の二項にいろいろ規定がありまして、裁判所がこの問題を処理してこられているわけですが、現在どうなっているのか、これをちょっと聞かせてください。私に言わせてもらえば、裁判所の人の仕事に対する評価というのは残念だが非常に低い。それは予算の都合ございましてと言われるのはよく存じておりますが、非常に低い、こういうふうに私考えております。その実務の現状をちょっと御報告いただけますか。
○安倍最高裁判所長官代理者 今御指摘の点については、民法上、相当な報酬を与えることができる、こういう規定になっていることでございますが、現在の運用といたしましては、報酬を付与すべきかどうか、その額をどうするかという点については、まさに個々の事案ごとに考えていくしかないという状況であろうかと思います。
 その際に考慮すべき事項といたしましては、後見人と被後見人の間柄、身分関係があるかどうかという点でございますとか、あるいは後見事務の内容、その後見事務の難易でございますとか、あるいは期間がどのくらいかかったかということになろうかと思います。さらには、後見人の有している財産の管理額、被後見人資力などを考慮いたしまして判断されているという状況にあると承知しているところでございます。まさに事案によっての判断となろうかと思います。
○日野委員 これはケース・バイ・ケースにならざるを得ない一面ございます。しかし私は、ボランティアの努力というのも限界があると思うんですね。やはりしかるべき報酬が払われて初めてこの制度というのは機能していくだろう、このように思っているわけですね。
 それで、これからの見通しということになります。現在までの報酬の状況なんというのは、見ておりますと、家族共同体の中でやっていくという場合は、仕事の難易もありましょうし、それから管理する資産の多寡もかかわってくるのでしょうが、家族や何かが後見の仕事をするときは、大体は払っていないというのが実情でございましょう。いかがでございますか。
○安倍最高裁判所長官代理者 後見人がどういう立場にあるかによって、報酬が払われているかどうかという点について、私どもといたしましては統計的に把握しているものはございません。その意味で御了解いただきたいと思うわけでございますけれども、ただ、御指摘のように、身分関係が近い場合には比較的その報酬の額は低くなるとかいう傾向があることは確かだろうと承知しているところでございます。
○日野委員 この間参考人質疑をやりまして、参考人の方々は、いろいろなボランティアの人たち、例えば弁護士会の中にもこういう仕事を引き受けてもいいよという、司法書士会なんかでも引き受けてもいいという人たちもいる、そのほかにNGOの人たちなんかもいるということを語っていかれました。こういう方々と家裁との間できちんとした連携をとり合っていくということが必要なことだと思うのですね。こういう方々と報酬なんかについての相談、これはある程度の基準を設ける必要があるだろうと思うのですが、そういう相談をなさるおつもりはおありか、そういう方々と相談をして報酬の基準なども決めていかれるおつもりがおありか、いかがでございましょうか。
○安倍最高裁判所長官代理者 御指摘のとおり、後見人となっていただく方々との間で家庭裁判所が十分な打ち合わせを行うことは必要だろうと考えております。とりわけ各種の福祉関係機関等も関心を持っておられるところでございますので、私どもといたしましては、この法律が成立した場合には、速やかに関係機関との間で各家裁が協議を持ちまして、後見人の体制をどうするかという点についての相談を始めてまいりたいと考えているところでございます。
 その中にありまして、どういう形で後見事務を行っていただくかということの検討があろうかと思うわけなのですが、その一環として報酬についての話題も出ることもあろうかと思います。ただ、しかしながら、そこにおいて明確な基準が立てられるかということは、これからの協議の推移を見守っていかなければ何とも言えないところがあろうかと考えている次第でございます。
○日野委員 その協議はきちんとやってもらいたいし、先ほども私、裁判所の、ほかの人たちに仕事を頼んだときのその仕事に対する評価が低い、まことに失礼だが、こう申し上げた。別に国選弁護人の報酬などを言い立てるつもりは私はないのですけれども、例えば調停委員の方々に対する報酬であるとか、そういうのを見ても、これはいささか時代離れしているな、それに参加してくださる方々の熱意というか、ボランタリーといいますか、そういったものにおんぶし過ぎてはいまいかというのが実は率直な私の感想なのです。
 このことについて、例えば弁護士さんに後見人をお願いしますということになって、これはかなり弁護士さんとしては犠牲的精神でやらざるを得ないということになるのだろうなと思うのですね。私は、犠牲的な精神でやるということは美しいことかもしれないが、決して長続きはしない、私自身の経験からしてもそう思いますし、いわゆるボランティアという形でいろいろな社会とのかかわりを持っておられる方々の姿を見ていても、これはどのくらい長続きするのかということを思わざるを得ないのですね。ここについて大きな変化を遂げなければならないと私は思うのですが、いかがでしょう。
○安倍最高裁判所長官代理者 大変難しい御指摘かと思うのでございますけれども、確かに、いい後見事務を行っていただくという観点からは、それなりの報酬をお払いしなければいけないという要請が一方にございます。他方では、その報酬の出どころである被後見人の財産、資力がどうであるかということも見なければいけないことでございまして、現在も、家裁の運用といたしましては、その後見事務の内容に見合う報酬を考える一方で、その御本人の資力等を見ながら、事案に応じた判断をしているものと思うわけでございまして、今後もその点については的確に事案の内容を見きわめていくような運用を考えていきたいと考えている次第でございます。
○日野委員 前進的な実務の積み重ね、これに期待したいところでございます。決して後ろ向きに物事を考えないということがこのシステムをきちんと生かしていく上では必要なことだというふうに思います。
 特に、私、もう一つ心配するのは、親族を選任した場合、どうなるのだろうということなのですね。親族であれば、より密度の濃い後見事務、後でまた話をいたしますが、身上監護もやらなくてはいかぬ場合も出てくるわけでありまして、身上監護の中に介護的な要素が入ってくる、これはもう避けられない、こんなふうに思いますので、特に親族が後見人になった場合はそこのところの密度が濃くなってしまう。そうすると大変だと思う。
 一方では、一般的な例で、何だ、あの財産をあそこの嫁がそんなに使うことはないのにとか、あの嫁は報酬をもらっているようだとか、少しくらい離れていたっておばあさんの面倒を見るのは当たり前じゃないかみたいな、こんな話がずっとささやかれるということも、これは十分考えられるところですね。
 そういう点から、親族についてもやはり正当な報酬、その正当性についてはいろいろ配慮すべき要素はあるだろうと思いますが、正当な報酬というのは必要だと思います。お考え、いかがでしょう。
○安倍最高裁判所長官代理者 確かに従来は、委員御指摘のとおり、親族であるがゆえに、いわばボランティア的あるいは無報酬で後見事務を行うべきである、こういう空気があったことも確かだろうと思います。それは親族とその御本人との人間関係のありようによって随分変わってくる点だろうと思うわけでございますけれども、今回、このような形で後見制度を整備しようというときには、やはり後見の事務について見合うものを考えていくということについては十分これから考えていかなければいけない点であろうと考えている次第であります。
○日野委員 それで、身上監護と介護の関係についてちょっと伺って、整理をしておいてもらいたいというふうに思います。
 私は、身上監護をやるということは容認すべきであろうというふうに思います。そこで、後見人の行うべき身上監護と介護、ここから先は介護の仕事でございます、ここまでは監護でございますといっても、これはなかなか線の引きにくい問題であろうというふうに思いますね。ここについてもいろいろ議論があるようですが、そこをきちんと整理してしまうという考え方は必要であろうと思いますね。どこまでが監護であって、どこから先は介護だというような線引きといいますか、そういったものについては、法務省は具体的に考え方、基準、そういったものをお持ちでしょうか。あったら明らかにしてもらいたい。
○細川政府委員 ただいま御指摘の問題は、大変重要な問題でございまして、法制審議会の審議の中でも相当議論された問題でございます。
 従来の民法におきましては、後見人は被後見人の療養看護に努めなければならないと規定しておりましたので、あたかも後見人自身がみずから介護しなければならないように読めないわけではなかったわけです。ただ、そこについては問題がありまして、そういうことがあるためにかえって適切な後見人を得ることができないという問題が指摘されておりました。
 したがいまして、今度の法案におきましては、その点を改めまして、身上監護についての事務については本人の身上を配慮しなければならないという規定にしておりまして、介護に関する事務、つまりどういう介護サービスを頼んでどういう契約をするかとか、そういう介護に関する事務については代理権はもちろん後見人にあるわけですが、後見人みずからが介護することはこの法律上要求されていないという考え方で整理したわけでございます。
○日野委員 そうはいっても、現実問題に直面をいたしますと非常に難しい問題が出てくるのだろうと思います。例えば高度医療についてどうするとか、それから延命治療についてどうする、リハビリをどうする、それから臓器移植なんという問題もこのごろありまして、そういう問題をどうする。これはかなり頭の痛い仕事にも直面をすることになっていくのでありましょう。
 そこはやはりいろいろ実例の積み重ね、それから、裁判所、法務省両方共同して、こういう場合はどんなふうな処置にすべきかというような指針の基準をきちんと決めて、そういう指針をつくっていくこと、これは非常に大事な問題であろうと思いますので、そこらは、各担当、各関係諸機関の努力を期待いたしたいというふうに思います。非常に困難な問題であります。しかし、そこのところがきちんとできておりませんと、画竜点睛を欠くようなことがあってもいけないというふうに思います。
 それで、次に、皆さんどうお考えになっておられるかということでちょっとあれなんですが、今度は法人が後見人等になれるわけでございますね。
 では、具体的な例で聞きましょう。
 具体的に、医療福祉法人に被後見人が入院をしているというようなケースで、その法人は、身上監護についてはもちろん、いろいろな看護の事務について被後見人を代理できるのかどうか。これは、実際実態を見た場合は、その法人にやらせた方が非常に的確に対処できるという例も多い、スピーディーに対処できるという例も非常に多いと思う。しかし一方では、利益相反という問題は常について回るわけでありまして、ここいらはどう考えておいでになりますか。
○細川政府委員 この問題は、そういう法人を家庭裁判所が後見人に選任していいかどうかということでございますので、最終的には裁判所が判断されるわけですが、法制審議会で審議したときの考え方を整理して申し述べますと、やはりそういう御本人が入院なり入所している施設と御本人との間では、金銭面の支払いをしなければならないという契約があるわけですから、基本的には利害が対立するという関係にあるわけです。したがいまして、後見人が一人だけ選任されている場合には、それは包括的な代理権を持つことになりますので、そういう場合には不適当ではないかというふうに考えられたわけです。
 他方、後見人が複数選任されて、金銭面に関してはこちらの、施設じゃない人がやる、それ以外の点については、例えば介護サービスを契約するというのは施設が後見人になる、そういう分掌を定めることも可能ですし、また、保佐とか補助の関係で非常に限られた範囲で代理権が与えられるような場合には、先生御指摘のとおり、かえって入所している施設の方が適当な場合もあるということになる、このように考えられております。
 そういう関係から、その点を適切に判断していただくために、利害関係を考慮した上で裁判所が適切に定めるという形の条文にしているわけでございます。
○日野委員 もし、私が後見人になった、そしてその被後見人はどこかのそういった施設にいる。こういう例は、特に弁護士だとか司法書士だとかそういう人たち、結構忙しい職務に従事しながらボランティアとしてやっているというときに、しょっちゅう施設に行ってみて、目配りをし気配りをしながらということは実際上はできないんだろうと思うんですね。実際上はできない。だから、その施設でやって、そして後でその報告をくれ、そしてそのときの帳簿関係もよく見せてよ、契約書関係なんかもよく見せてよという形に勢いこれはならざるを得ないのではないかなというふうに思うのですね。
 それで、私考えてみるんですが、これは必ずしも全部利益相反のおそれがある、だからこれはだめよということではなくて、しかるべき監督人を配置してきちんとした監督が行われる、それで不正はないというようなことが明らかになればいいのではないかと思われる場合も随分多かろうと思うのでございます。これは利益相反でございます、これは無効でございますということをしゃくし定規にやっていられない場合というのはかなり多いと思うのですね。こういう場合についてはいかがでしょうね。
○細川政府委員 御指摘のような問題もありますので、利益相反があるときには一切後見人になれないという条文になっていないわけでして、そこを裁判所がよく検討した上で選任するようにという条文になっているわけでございます。
 今御指摘のような場合、まず一つ考えられますのは、弁護士の方が後見人になった場合、特定の事項についてそれをさらに委任するということも考えられますでしょうし、また、濫用のおそれがなければ施設を後見人にして、しっかりした後見監督人も選任するということも考えられると思います。
 いずれにしましても、後見人に選任されますと、きちっと財産目録をつくりまして定時に報告しなければならないことになっておりますので、そういうことによって、利益相反が観念的には考えられるけれども、後見人にしていい場合もないとは言えないというふうに考えております。利益相反だから絶対してはいけない、必ずしもそれが常に正しいわけではないだろうというふうに考えているわけでございます。
○日野委員 次は、大臣のお考えを伺いますが、今のやりとりをお聞きになっておられたと思います。
 後見、保佐それから補助、こういったシステムは今までとは違ってしまって、私の表現で言わせていただければ、裁判所の枠を大きく超えた一つの方向に今発展しようとしているんだろうというふうに思います。私、このような方向性というものは正しい方向を見ているんだろうというふうに思います。裁判所も今までのようにぬくぬくはしていられないわけでございまして、こういった意味では、時代が大変大きく変わっていると言えるんですが、このような変化、これは法務省としてはこれからもずっと持続をしていかれるというふうに考えてよろしゅうございましょうね。これは、裁判所にこういうことをやらせるのは恐れ多いというか、裁判所には気の毒だということになって縮小したりなんかしないように、前に進めていただきたいと私は思うんです。いかがでございましょう。
○陣内国務大臣 我が国の家庭裁判所の特色というのを見てみますと、心理学とか社会学、教育学、こういうものに関する専門的な知識を備えたものでございます。その中には、調査官とか、あるいは事件の調査や人間関係の調整に重要な役割を果たしていただいているわけでございますので、こういった家庭裁判所の大変すぐれた特色を生かしながら、新しい後見制度がその目的に沿って利用されていくためには、制度の中核を担う立場で、家庭裁判所が今後とも大いに活躍していただきたい、このように期待しておるところでございます。
○日野委員 時間がそろそろなくなってきましたので、いろいろな議論があるところですが、結論だけ述べていただくような形になるかもしれません。
 法人を後見人適格といいますか、それから保佐人、補助人、こういう形になってまいります。これは、先ほどから私いろいろ裁判所との間で議論をしてまいりましたが、特に法人なんかになりますと、法人というのはボランティア的な要素というのは非常に少ないわけですね。法人の社会的貢献なんということを言われていますけれども、では、でっかいメーカー会社が、例えばNTTがどこかの後見人になるなんて、そんなことは考えられない。別個の、今社会福祉の仕事をやっている法人というのは一つ考えられるでしょう。それ以外に新たに、シルバービジネスという言葉はありますが、そういった事業、何もシルバーに限らないんですよ、いろいろな障害を持った方々でもいいでしょう、そういう後見事務をビジネスとしてやっていくという法人が出てくるかもしれない。
 ややもすれば、我が国のこういう問題に関する考え方というのは保守的だと私は思います。こういうのはボランティア的なところでやるのが本当じゃないのという考え方もこれあります。しかし、私はそうは考えないんだな。やはり、きちんとした仕事をきちんとやって、きちんと報酬をもらう、そしてそれがビジネスとして成り立っていく、こういうこともあっていいんだろうと私は思うんですが、この点についての大臣のお考えはいかがでしょうか。
○陣内国務大臣 今回の改正によりまして、弁護士、司法書士社会福祉士などの法律あるいは福祉の専門家が成年後見人となる場合がふえてくると思います。各種の法人が成年後見人等となる場合も出てくるだろうと思います。したがいまして、後見事務を事業として行う専門家や法人もあらわれてくると思われますが、要は、本人の保護のために良質で適正な後見事務の遂行が確保されるということであれば、そのような事業の発展というのは、社会のニーズにこたえる上で大変重要だと思っております。
○日野委員 時間が来たようでありますから、終わります。ありがとうございました。
○杉浦委員長 次に、坂上富男君。
坂上委員 坂上でございます。
 前回に引き続きまして、民法改正について質問をさせていただきたいと思います。
 少し基本的なこともお聞きをしたいのでございますが、官房長がまだお出かけいただいていないようでございまするから、少し各論的なことから質問をまずさせていただきまして、官房長お見えになりましたら、大臣と官房長にお聞きもさせていただきたい、こう思っておるわけでございます。
 そこで、まず一つでございますが、任意後見人が受任した事務に関して、裁判を起こしたり登記の申請をしなければならない場合も想定されると思うのでございますが、任意後見人にそのような権限は認めておるんでしょうか、どうなんでしょうか。
○細川政府委員 これは、御本人と任意後見人となる方との間の契約で、そのような事項を委任すればすることはできるわけです。ただ、任意後見人が弁護士さんでない場合には、それはその人はできませんので、弁護士さんに依頼するということの権限を与えればよろしいわけでして、また、任意後見人が弁護士さんである場合には、その方に、あれば訴訟等も依頼するという形の契約をしていただければそのことは可能でございます。
坂上委員 その次に、任意後見人に対する監督についてでございますが、任意後見人に対する監督は、専ら任意後見監督人が行い、家庭裁判所は、解任を除いて、任意後見監督人を介して間接的に関与するだけだと思われるのであります。一体こういうような監督の仕組みで、間接的な監督で果たして実効性があるんでございましょうか。
 それから、少なくとも家庭裁判所が直接に任意後見人から報告を受け、任意後見人に一定の事項を命ずることができるところの道筋というものを用意しておく必要があるのでなかろうかと思いますが、この点に対する法務省の見解はどうなんでございますか。
○細川政府委員 御指摘のとおり、任意後見人に対する直接の監督機関は任意後見監督人でございますが、この監督人は、任意後見人の事務を監督して家庭裁判所に定期的に報告することを職務としております。さらに、随時に任意後見人に対して事務の報告を求め、事務を調査する権限を持っております。
 したがって、常設の監督機関としてはこれで十分であろうかと思っておりますが、さらに、家庭裁判所は、必要があると認めるときは、任意後見監督人に対して、任意後見人の事務に関する報告を求め、財産状況等の調査を命じ、必要な処分をする権限を持っておるということになっておりますので、実質的には家裁が直接の監督を行うに劣らないような仕組みになっているというふうに考えております。
坂上委員 その次は、第十条の登記事項証明の請求についてでございますが、登記事項証明の交付というのは、御本人、その親族、成年後見人等から請求、それから公務員の職務上の請求、そういう場合に限られまして、取引の相手方とか利害関係人は請求できないことになるんじゃなかろうかと思うのでございますが、これは非常に二律背反でございまして、確かに、いわゆる被後見人の人権を保護するという意味において登記制度にしたということはわかるんでございますが、一面、取引の相手方というのはこれによって大変利害関係の影響を受けることになるわけでございますので、取引の相手方とかの利害関係人はこれについて請求できないということになりますと、私は不都合なんじゃなかろうかと思いますが、この人権上の調和と取引の安全性についてどういうふうにお考えになっているんでございましょうか。
○細川政府委員 この点は、確かに御指摘のとおり、本人の保護と取引の安全をどう調和させるかという問題でございまして、この立案の過程でも経済界の方々ともいろいろお話し合いもしたことがございます。
 そういうことで、現在の考え方を申し上げますと、まず、成年後見人がその立場で取引をしようという場合には、その権限を証明してもらうために登記事項証明書を出してもらうということになりますが、その場合には、後見人が自分で証明書をとってくるということになります。
 それから、本人がみずから取引をしようという場合には、相手方が疑問に思えば、あなたが成年後見等を受けているかどうかを確認するということになりまして、もし受けているということであれば、この取引は御本人ができるかどうか証明書を出してくださいと言って、御本人から出してもらうということでよろしいんではないか。他方、能力者を装ってうそをついた場合は、これは民法二十条の詐術が適用になります。
 そういうようなことを考えますと、これは、事項証明書を請求する人を一定の範囲の人に限るのでやむを得ないのではないかというのが結論でございまして、逆に、取引の相手方がだれでも事項証明書を請求できるといたしますと、結局だれでもそれを見られるということになってしまいますので、それは御本人のプライバシーの保護の上で適当ではない、そのような結論になったわけでございます。
坂上委員 詐術を用いた場合の法律上の効果についてはまた後から聞きますが、これはなかなか非常にデリカシーな問題なんですね。これは、いわゆる取引の安全の観点からいったらどう対応していいのか私もまだ結論づけることはできないのでございますが、一応問題として指摘だけさせていただきたいと思っておるわけでございます。
 あわせまして、今度は手数料のことですが、登記嘱託、申請の手数料並びに登記事項証明書それから閉鎖登記事項等の交付手数料は政令で定めるとされておるわけでございます。
 そこで、当事者に現行の戸籍制度における負担よりも大きな負担をかけるべきでないと私は前からそう言っているんですが、一体、具体的に本件の証明書等についてはどのくらいの金額を手数料として想定されておるのか。特に、登記事項証明書は、不動産登記、商業登記では現在一通千円とされておりますが、成年後見登記の登記事項証明は、取引ごとに求められて何通も必要となることが考えられるが、一通千円では相当な負担になる場合も想定されるわけでございます。
 特に、私はこれは前も何回も言ったことがあるのでございますが、いわゆる登記制度はコンピューターになる、コンピューターは独立採算制である、したがって、いわゆる手数料の引き上げは独立採算の観点から見てやむを得ないんだ、こういうようなのが法務省の答弁でございます。それはちょっといかないんじゃないかということを、私はしょっちゅう言っておったわけでございます。
 と申し上げまするのは、御存じのとおり、私は、登記関係は自治体における戸籍と同じでいいんじゃないか。人の戸籍についてはいわゆる戸籍、物の戸籍についてはいわゆる不動産登記。そして、今度は、これにかわるべきものとして、保護対象の皆様方を戸籍からこちらの方に移したわけであります。でありまするから、戸籍にすれば戸籍の方がはるかに安いのでございますが、今度は登記の方に移るということになりましたらこれが二倍になり三倍になるということになりますと、かえって結果的に、登記に移したために手数料が多くかかるということになりますと、果たしてその目的が達せられるんだろうかという点から考えますと、私はどうもここの点の手数料の問題は非常に問題があるのじゃなかろうか。
 したがって、私は、前から言っておるとおり、まず登記に関する手数料はいわゆる戸籍並みにするのが原則だと思います。官庁によってこうやって違ったのでは、私はいかぬと思っているわけでございます。それから、今度は戸籍から登記に移ったわけでございまするから、そのことのために値上げになるというようなことになったらこれまたいかぬことでございます。
 この点を法務当局は手数料の観点からどう考えておられるのかきちっと答弁をしていただきまして、これは余り金額が大きくなるようではいかぬと思いますので、私は、ぜひとも戸籍並みの手数料にしていただかなければならぬ、こう思っておりますが、この点どういうふうにお考えでございますか。
○細川政府委員 手数料の額は、法文にもございますが、登記に要する実費、登記事項証明書の交付に要する実費等を勘案して政令で定めることになっております。これは、法律案が成立した後に、財政当局とも協議して具体的な金額を定めるということになるわけでございます。
 したがって、今確定的な額をこういう公式な場で申し上げられることにはならないわけですが、御指摘はごもっともでございますので、その御指摘を体しましてできるだけ利用しやすい額にするように努力いたしたいと思っております。
坂上委員 これはひとつ法務省、手数料を決めるときは国会の方にも御相談をしていただきたい、こう私は思っているわけでございます。これは日常において大変大きな問題があるものでございまするから、政令で決まった、省令で決まったなんて言われますと、もうどうしようもならぬ、こういう状況でございますから、決める前にひとつぜひとも国会の方にお話ぐらいはしていただきたいな、こう思っておりますが、いかがですか。
○細川政府委員 政令は内閣の責任で定めるものでございますが、あらかじめこういうことになりそうだということをお知らせすることは当然可能でございます。
坂上委員 私たちは、十分関係者の意見も取り入れるようにひとつ強く要求をしておきたいと思っておるわけであります。
【略】
坂上委員 さて、有権解釈の方を続けさせていただきます。
 最高裁の方、鑑定についてでございますが、後見、保佐についてはその開始のためには鑑定を必要とされると思われるが、現行法においても鑑定人の確保は非常に難しい、あるいは鑑定費用が高いという批判もあります。また、鑑定人からすれば安いというようなことになるかもしれませんが、これに対してどういうふうに裁判所は考えておられるのか。確かに、私たち弁護料と比べてみますと、鑑定というのは結構高いのですね。しかしまた、鑑定人の先生からすれば安過ぎるぐらいにも思っておるわけでございますが、こういう点について裁判所はどうお考えになっておるのか。
 私は、その一例として、国において簡易迅速に、それから安価に鑑定を行う鑑定センターというようなものをつくるような考えでもないのでございましょうか。その辺、どう見たらいいか。このまま、ただ鑑定人を選任する、鑑定人の報酬は幾ら幾ら、そして裁判所から関係者に予納を命ぜられる、これはなかなか容易じゃありません。この辺、裁判所はどうお考えでございますか。
○安倍最高裁判所長官代理者 御説明申し上げます。
 鑑定につきましては、鑑定人の確保が難しいとか、あるいは鑑定費用が高い、こういう御指摘があることは承知しているところでございます。今回、成年後見制度に対する法的ニーズが高まると予想されることに加えまして、さらに利用しやすい制度を目指すという今回の法改正の趣旨を踏まえますと、私どもといたしましても、鑑定事務のあり方について検討していく必要があろうと考えている次第でございます。
 この観点からは、まず第一には、この分野に関係する医師、あるいは諸機関、諸団体に十分な御理解と協力をいただきたいと考えておるところでございますけれども、家庭裁判所といたしましても、適正迅速に鑑定が行われるようにするために、まず鑑定書を簡にして要を得たものにする、こういう運用面での工夫も必要であろうと考えておるところでございまして、現在、このような観点から、豊富な経験、実績を持っている医師等にも意見を伺いながら、円滑に鑑定が行われるための方策について検討を進めている段階にございます。
 以上でございます。
坂上委員 ぜひ現場の問題点も十分把握をいたしまして、鑑定もできるだけスムーズにいくような御努力をみんながしなければならぬとは思っておるのでございますが、特に裁判所、あるいは法務省もかかわるのでございましょうか。きちっとしていただきますこともお願いをしたいと思っております。
 私は、この問題は、根本は新制度の利用がふえることが望まれるわけでありますが、しかしまた、そうなりますと、成年後見人や成年後見監督人等、任意後見人、任意後見監督人などが多数必要になると思うわけでございます。これから、成年後見人等の確保、養成は、国が挙げて取り組む必要がある問題ではなかろうかとも思っておりますが、そういうような用意があるのでございましょうか。欧米では、後見は最終的には国の責任であるという考え方があると言われておるわけであります。適切な後見人を選任することのできない人のためには国家が最後の後見人になる制度が私は必要なんじゃなかろうか、こう思っておりますが、この点、法務省はどんな考えでございますか。
○細川政府委員 まず、後見人、後見監督人等の確保、養成についてでございますが、現在、先日の参考人質問でもお話がございましたように、第二東京弁護士会大阪弁護士会、あるいは東京都、大阪府、神奈川県等の社会福祉協議会等において、任意代理の委任契約を活用した財産管理サービスが行われているところでございます。また、司法書士社会福祉士の団体におきましても、こういった後見人、後見監督人の供給源としての法人の設立の準備を行っていると聞いております。
 こういったことに加えまして、各種団体、機関における候補者の研修、名簿の作成、推薦、相談等の体制の充実が図られますように、私どもといたしましても関係機関と十分協議を持ちながらさまざまな努力をしてまいりたいと思っているところでございます。
 それからもう一つの問題で、国が後見人になることは適当かどうかということでございますが、成年後見人は、判断能力が不十分な本人にかわって財産を管理したり、身上監護して本人の保護を図るわけですが、他方、これは本人の行為能力の制限という面もございます。したがいまして、私人の生活の要求に行政機関が深く介入することになりますので、この辺はもう少し運用状況を見ながら、今後慎重に検討していく必要があるのではないかというふうに考えております。
坂上委員 さて、その次でございますが、自己決定権の尊重ということについてお聞きをしたいのであります。
 成年後見制度の改正案においては、高齢者、障害者の自己決定の尊重という理念が貫徹されなければならないと思います。新制度が真に有意義なものとして定着するかどうかの生命線でもあると思うのであります。そこで、本人の自己決定の尊重という理念を担保するために、新制度ではどのような法律上の手当てがなされているのでございましょうか。
○細川政府委員 まず、任意後見制度という制度を新たに提案しているわけでございまして、これは、御本人がみずからの意思で自分の任意後見人を選ぶということになっております。そして、その契約は、基本的には法定の後見制度に優先するというのが原則でございますので、そこでまず自己決定が非常に尊重されるということになっているわけでございます。
 それから、法定後見制度におきましても、自己決定の尊重の理念に従いまして、まず、補助の制度におきましては、御本人の申し立て、または御本人の同意が開始の審判の要件でもございますし、代理権や同意権、取り消し権の付与の審判の要件でもございます。それから、保佐につきましても、保佐人に代理権を付与する審判をするには本人の同意が必要だということになっております。
 それから、成年後見人等の選任に当たっては、法律の明文に規定しまして、まず、選任については本人の意思を考慮するべきものとされておりますし、成年後見人等は事務の遂行をするに当たっては本人の意思を尊重しなければならないという明文の規定を置いているわけでございます。
 さらに、後見におきましても、日用品の購入等につきましては、取り消し権等の対象から除外いたしまして、御本人がみずから決定できるようにいたしているわけでございまして、ほかにまだございますが、大変長くなりますので以上にとどめさせていただきます。
【次回へつづく】