精神医療に関する条文・審議(その112)

前回(id:kokekokko:20051127)のつづき。初回は2004/10/28。
ひきつづき、平成11年の成年後見制度制定・精神保健福祉法改正についてみてみます。

第145回衆議院 法務委員会会議録第21号(平成11年7月2日)
【前回のつづき】
坂上委員 その次に、後見人の権利濫用の場合についてお聞きをしておきます。
 現行制度においても問題とされているところでありますが、後見人等の権利濫用による不祥事がまた一面心配されるところでもあるわけであります。これを防止するための方策として後見人等の監督制度の充実が重要な課題だと思われますが、この点について、今回の改正案はどのような対策が講じられているのでございましょうか。
○細川政府委員 現在の民法では、監督人を置けるのは後見だけでございますが、ただいま御提案を申し上げております改正案におきましては、保佐、それから新設の補助についても監督人を置けることができるようになっております。
 それから、現行法では、監督人の選任は必ず申し立てが必要でございますが、今回の改正案では、家庭裁判所が職権で後見監督人等を選任することができるといたしております。それから、複数または法人の成年後見監督人等の選任も可能であるというふうにしております。
 こういったことで、監督体制の充実が図られているというふうに考えております。
坂上委員 それから、前回もちょっと質問をしたのだし、あるいはまたほかの関係の先生方からも御質問があったようでございますから、利益相反関係については今質問はいたさないということにいたします。
 そこで、今度は任意後見契約についてでございますが、契約によって自分の老後を決めておくということを可能とする任意後見制度は、広く国民に利用され普及しなければ、せっかくつくった制度の意味が廃れると思うのでございます。この点について、弁護士会や福祉団体との関係は、法務省はどのように立法者としてお考えになっておるのでございますか。
○細川政府委員 この任意後見制度は、そもそも日弁連や大多数の福祉団体から強い御要望があってこういう制度をつくったものでございます。したがいまして、その過程でさまざまな協議をしてまいったわけでございます。
 今後とも、こういった司法書士会、弁護士会社会福祉士会というようなところで適切な運用ができますように、私どもも随時意見を交換し、協力してまいりたいと思っております。
坂上委員 福祉団体というのは相当数あると思うのでございますが、ぜひひとつ、これまた差別があったりすることのないように、そしてまたできるだけ協力を密接にしていただきたいと思っておるわけでございます。
 それから、今度、任意後見制度においては、財産管理だけでなくして、本人の身上面の保護が後見人の重要な責務だと私は思っておるわけであります。そこで、任意後見法第六条に定める後見人の身上配慮義務、これは特約によっても減免することは許されないものだと思っておるわけでございます。私は、これは強行法規なのじゃなかろうか、こう思っていますが、これはどう解釈したらいいでしょうか。
○細川政府委員 これは、任意後見契約法において特に定めた責務でございます。受任者の善良な管理者としての義務に加えて定めたものですから、これは当事者の特約でも軽減することはできないというふうに考えております。
坂上委員 大変結構でございます。
 これは前の質問とあるいはダブるようになるかもしれません。新しい成年後見制度の実施に当たりましては、自己決定の尊重等の理念に基づいて、高齢者、障害者にとって利用しやすい制度の運用がなされる新制度の趣旨、内容を福祉関係者、司法関係者に十分周知徹底するとともに、各種の相談体制を整備することが重要だと思っておるわけでございます。さっき連絡はきちっとするとおっしゃいましたが、具体的な方策を一、二述べていただくとありがたいと思いますが、いかがでしょうか。
○細川政府委員 新しい制度でございますから、政府広報でこれを取り上げてもらいたいと思うのは当然でございますが、そのほかに、私どもとしては、専門家以外の方にもわかりやすいパンフレット等の説明資料、ポスター等を作成しまして、全国の家庭裁判所都道府県、市区町村、福祉事務所、社会福祉協議会社会福祉士会、その他の福祉関係団体、それから弁護士会司法書士会、公証役場、法務局等に配布して、これを国民の皆さん方にさらに配布していただきたいと思いますし、制度の内容に関する解説書等を出版し、あるいは関係団体等に対する説明会を開催して説明して、制度の周知広報を図ってまいりたいと存じます。
坂上委員 例の、さっき問題が出ましたところの詐術の問題でございます。
 民法第二十条におきましては、無能力者が法律行為をするに当たりまして能力者たることを信じさせるために詐術を用いた場合は、その行為を取り消すことができないとされております。
 今回の民法二十条の改正では、無能力者という言葉を制限能力者と修正するのみで同条文を存置することとされております。そこで、民法第二十条が適用されるケースの大部分は未成年者と浪費者であり、今回の制度改正では、浪費者を要保護制度の対象外としております。さらに、取り消しの範囲は保佐人等の同意が留保された場合に限られておるわけであります。
 そういたしますと、現実に民法第二十条が適用されるケースというのは非常に少なくなるんじゃなかろうか、このようなことから、民法二十条は成年の要保護者には適用しないとする考え方があってもしかるべきと考えますが、検討の段階でどのような議論がなされたのか、そのいきさつもお聞きをしたい、こう思っております。
○細川政府委員 御指摘の民法第二十条は、この成年後見制度による本人の保護と取引の安全の調和を図るために、これはやはり必要であるというのが法制審議会等の議論の大勢でございまして、特にこれは削除するとかそういう御意見はなかった、かえってこれがあるために調和が図れるのだという御意見だったと思っております。
坂上委員 前の質問とダブりになるかもしれません。
 任意後見契約における任意後見人と取引する相手方は、どのような方法で任意後見人の代理権の有無、代理権の範囲等を確認すればいいのでございましょうか。任意後見契約の解除等において代理権が消滅していることを知らずに取引をしたために相手方が損害を受けるというおそれはあるんじゃなかろうかと思いますが、この点、どういう認識でございますか。
○細川政府委員 まず、代理人である任意後見人と取引する相手方は、任意後見人または本人に対して代理権を証明する登記事項証明書の提出を求めて代理権の範囲を確認することができます。それから、二番目の御質問の、代理権が消滅した場合ですが、この法律第十一条では、取引の安全の観点から、任意後見人の代理権の消滅は、その登記をしなければ善意の第三者に対抗することはできないものと規定しております。したがいまして、消滅の登記を申請しないままにされておりまして、それを信用した第三者はこれによって取り消されることはないということになりますので、このような制度で取引の安全が図られるというふうに考えております。
坂上委員 後見登記制度ですが、この間私が質問した中で、後見登記法第二条で指定する登記所は東京法務局の一カ所を考えておられるようでございます。将来はその事件数等を考慮して指定登記所をふやすという可能性もあると言われたように覚えております。
 そこで、複数の登記所が指定された場合、後見登記法では登記管轄に関する規定がないのでありますが、このような法律で、実務上あるいは利用上混乱を生ずる可能性はないのでございましょうか。例えば、債権譲渡に関する特例法においても登記管轄の規定がないのと同じように、そもそも管轄の概念はないものと理解したらいいのか、これはどういうふうに解釈したらいいのでしょう。
○細川政府委員 これは、管轄の概念がないとお考えいただければいいと思います。
 なぜかと申しますと、これはコンピューターで処理しますので、登記簿等はたった一つしかない、コンピューターで管理されている登記ファイルが一カ所にありまして、それをオンラインでアクセスするという形になります。したがいまして、登記所がふえても管轄という問題は生じないということでございます。
坂上委員 それから、任意後見契約の関係でございますが、任意後見契約に関する法律第十条では、家裁が本人の利益のために特に必要としたときは後見開始の審判等を行えることになっておりますが、これはどのような場合を想定しているのでございましょうか。また、同条第三項では、後見開始の審判を受けたときには任意後見契約が終了するとありますが、自己決定尊重の観点からも任意後見を優先すべきでないかと思いますが、いかがでございましょうか。
○細川政府委員 先ほど御説明申し上げましたとおりに、基本的には任意後見が優先するという考え方で立案されておりますが、まず、十条の、本人の利益のために特に必要なときにはという趣旨は、任意後見人に授与した代理権の範囲が狭過ぎて本人の保護を図れない、あるいは、後から本人の間違った行為を取り消しすることが必要だ、そういう同意・取り消し権を与える保護が必要だという場合には任意後見契約では賄えません。そういう必要が生じた場合には、先ほど申しましたように、法定後見ができるということになっておるわけでございます。
 それから、任意後見契約がされている場合に、例えば後見の審判がなされるということは、従来の任意後見契約では不十分である、本人の保護のためには足りないという場合になされるわけですから、そういう場合には、任意後見契約を残存しておきますとかえって重複、抵触が生じますので、後見なら後見に一本化する、こういう趣旨でございます。
坂上委員 それから、今度は補助人の同意権付与の対象行為の範囲についてでございます。民法十六条第一項、補助人の同意権付与の対象行為は、保佐人の同意権付与行為を準用することとなっております。同意を得ることを要する行為は第十二条第一項に定める行為の一部に限るとされております。
 個別の状況に応じて柔軟に対応するためにも、特に限定する必要はないのではないかと思いますが、この点はいかがなのでございますか。
○細川政府委員 この点も立案の過程で相当議論された問題でございますが、理由を申し上げますと、今度の改正案では、判断能力の程度に応じて、後見、保佐、補助という制度を設けまして、必要な保護の内容、範囲を定めております。
 こういった全体の枠組みのもとで、補助における同意権の範囲が、補助より障害の重い保佐における同意権の範囲を超えるということになりますと、制度の均衡がとれない。より障害が重い場合には、補助ではなくて保佐を使っていただく、そういう意味で御指摘のような条文になっているわけでございます。
坂上委員 時間が参りましたようですから終わらせていただきますが、私は、久々に二時間法案の質問をさせていただきまして、よく勉強させていただきました。繰り返しになりますけれども、やはり法案成立に当たって質問できないというのはなかなか寂しいものでございます。
 特に、私はこの法案については、いち早く法案の成立を強く強く期待をしておるものなのでございまして、幸いにいたしまして、きょう夕方には、この法務委員会に法案が成立する御協力をいただくことになっておるわけでございまして、もちろん法務省の方といたしましても、これに対しましては一日も早い成立を期待をされているんだろうと思っておるわけであります。
 したがいまして、参議院のことを言うことは余計なことになりますが、私は、一日も早く法務委員会、本会議でこれが可決成立して、参議院の方でもまた成立することも期待をいたしたい、こう思っておるわけであります。
 そこで、最後に法務大臣、この民法改正、いわゆる成年後見法関係、それから手話による公正証書遺言等、本当に百年来の民法改正問題で大変重要なものに私たちは関与させていただいたわけでございまして、非常に意義深いものだと実は私は思っておるわけでございます。私は、これは一にかかりまして運用いかんにかかわると思うのでございますので、国民が喜ばれる法案にしていただきたい、こう思っておりますけれども、そういう点についての大臣の最後の御決意を賜りまして質問を終わりたい、こう思います。
○陣内国務大臣 御審議いただいておりまして、本当に感謝申し上げます。
 この新しい成年後見制度が成立した場合には、これが真に利用しやすい制度として運用されるように、法務省といたしましても、一般の利用者にとってもわかりやすいパンフレットその他説明資料等を作成いたしまして、全国の関係機関、団体等に配布するなど、制度の周知や広報に努めていく所存でございます。ありがとうございました。
坂上委員 どうもありがとうございました。
○杉浦委員長 次に、達増拓也君。
【略】
○達増委員 さて、民法一部改正法案等に関して質問をいたします。
 私も二回目の質問でございまして、前回の質問の際は、既存の制度の問題点を中心に質問をいたしましたので、きょうは、日程としては採決も予定されております、新しく導入される制度、改正されて新しくなる点についての最終チェックという観点から質問をさせていただきたいと思います。
 まず、前回は取り上げませんでした公正証書遺言等の作成への手話通訳の導入に関してであります。
 これは参考人質疑も行われまして、参考人として、実際そういう手話通訳を介してお話をされる方、私もそういう手話通訳を介してのやりとりというものを本格的にやったのは初めてでございましたけれども、手話通訳というものの有効性、また、それが持つ、コミュニケーションの形として、非常に感情豊かで、人間の持っている新しい可能性を引き出すような、そういう非常にすぐれたものだということを実感いたしました。
 そういう手話通訳を公正証書遺言等の作成に導入することは極めて至当と思うわけでありますが、一つ確認したいんです。
 これは手話に限らず外国語のケースでもそうですが、通訳を介した場合に、もともとメッセージを発したい人の頭の中に自分の言葉としてあったものが、最終的に同じ言葉で再現されるのかどうか、違った言葉として再現される可能性があるのではないかと思うわけであります。
 この点、手話通訳についてまだ私も詳しく知らないので、特に気になっているということがあるのかもしれないとも思うわけでありますけれども、法案では、閲覧あるいは読み聞かせで最後確認するということで、できれば必ず閲覧するようにした方が、本人の頭の中にある言葉がそのままきちんと再現されているかを確認しやすいと思うのですけれども、その点について伺いたいと思います。
○細川政府委員 御指摘のとおり、公証人は、作成した遺言書の内容を「読み聞かせ、又は閲覧させる」ということになっておるわけでございまして、これは、目の不自由な方もおられますから、必ず閲覧が要件といたしますとまた問題が生じますので「又は」ということになっておるわけですが、通常の場合は、見ていただいた上で、さらに読み聞かせているというのが実情でございます。御指摘のような方法が適当であろうというふうに考えております。
○達増委員 次に、船舶遭難者遺言の場合であります。
 法案では、証人二人以上立ち会いのもとで、手話通訳、通訳人を介してそういう遺言が認められるということでありますけれども、この場合は緊急事態でありますから、なかなか人を集めるのが難しい。そういう場合、通訳者も証人の一人として数えることができれば二人で済むということになるのですけれども、法案の趣旨としては、これは証人二人プラス通訳者ということなんでしょうか。
○細川政府委員 法律の条文といたしましては、御指摘のように、証人と通訳人は別であるという前提でございます。ただ、全員が手話を理解する方であれば、場合によっては、証人と通訳人が兼ねていても、今度の法律に違反していると言えないであろうというふうに考えております。
    〔委員長退席、橘委員長代理着席〕
○達増委員 よくわかりました。
 次は、後見制度について質問をいたします。
 今までの禁治産者制度と大きい違いの一つとして、日用品の購入その他日常生活に関する行為については取り消し権の対象から除外することによって、より柔軟で弾力的な制度にするということであります。これは、特に一般の国民の皆さんにもわかりやすくイメージするために、例えばどういう行為が「其他日常生活ニ関スル行為」として想定されているのか、伺います。
○細川政府委員 「日常生活ニ関スル行為」の意味でございます。具体的に申し上げますと、本人が生活を営む上において通常必要な行為を指すものと解されていまして、具体的には、職業、資産、収入、生活の状況等を考えるとは思いますが、典型的な例としましては、日用品、食料品、衣料品の購入のほか、電気・ガス代、水道料の支払い、そしてそれらの経費の支払いに必要な範囲での預金の引き出しというものがこれに該当いたすと考えております。
○達増委員 次は、保佐制度に関連して質問いたします。
 今までは、禁治産者そして準禁治産者という二つの枠組みがある制度だったわけでありまして、この準禁治産者の方には浪費者が入ってきて、浪費者であることを要件として準禁治産者になる。新しい制度では、浪費者であることだけでは保佐制度の中に入ってこないようになっているのでありますけれども、新しい後見、保佐、補助、そういう三段階とはまた別な角度から、従来、浪費者問題として準禁治産者の制度があったわけですけれども、新しい制度の中で、浪費者についてはどういった手当てがなされるようになるのでしょうか。
○細川政府委員 まず、浪費者を保佐の対象者から除外した理由でございますが、これは、精神上の障害により判断能力が不十分であるということであればそれは対象になるわけですが、精神上の障害がない、したがって判断能力も欠けるところがない、なのに浪費をするという人を新しい成年後見制度の対象に入れますと、本人の保護のためという全体のスキーム上、扱いが非常に難しくなるということがございまして、これを削除することにいたしたわけでございます。外国の立法例でもそういうものがございます。
 それでは、浪費があって、家族の人が非常に迷惑する、婚姻費用も払ってもらえないというふうに配偶者の方が心配する、あるいは子の扶養義務を履行していないというような場合どうするかということでございますが、これらについては、それぞれ婚姻費用の分担の請求、子の監護費用あるいは扶養料の請求ということで家事審判を申し立てまして、必要がある場合には、審判前の保全処分ということで確保できる。さらには、履行勧告、履行命令等によって、家庭裁判所で適切に家族の人たちに損害が及ばないような対応をすることができるということになっておりますので、これを削除したわけでございます。
○達増委員 次は、補助制度について伺います。
 今回、補助制度という枠組みが導入され、かなり成年後見制度が柔軟に弾力的に使いやすくなるということであります。高齢社会が進んでいくわけでありまして、レーガン元大統領もアルツハイマー宣言をして、いわば天下の大統領でもこうした成年後見制度が必要になってくる。天下万民にとってこの補助制度というものは非常に身近な、関心の高いものだと思うわけであります。
 ここで、補助人に対して代理権、同意権、取り消し権、これを当事者が特定するものというふうにされているわけでありますけれども、これも国民の皆さんに具体的にイメージしてもらえるように、どういった事柄についてそういう権限が与えられる、特定されるのか、伺いたいと思います。
○細川政府委員 改正案の十二条では、保佐の対象者が同意を要する行為が列挙されておるのですが、そういう中の一つ一つが、保佐人の場合、特定の場合に特定の事項が同意権の対象になる、あるいは代理権の対象になるというふうにお考えいただけばいいと思いまして、一番想定されますのは、やはり不動産とか重要な財産がある、それの処分について判断を間違うといけないので、同意権と取り消し権を付与する、そういうことになるだろうと思っております。
○達増委員 この補助制度の導入によって、かなり幅広く利用しやすい制度になる。また、三段階に分けることによって、弾力的に柔軟に対応できる、そういう新しい成年後見制度。ただ、これは念のための確認なんですけれども、本来、後見あるいは保佐が適当な者が、弾力的柔軟に使えるということで、簡単に補助の制度を利用してしまう、そういう一種の弊害が生じるようなことはないのでしょうか。
○細川政府委員 補助の申し立てがございまして、そこで家庭裁判所が補助の要件があるかどうかを判断されるわけですが、その調査の過程で、やはりこれは補助では不十分である、あるいは保佐である、あるいは後見が必要だということになりますれば、改めて申立人に、必要な保佐、後見の申し立てをしていただきまして、そこで必要な審判をするという扱いになろうかと思います。
○達増委員 次に、法人による後見の導入についてであります。
 法人が後見人になることができることが法文で明らかに規定されるわけでありますけれども、この法人、具体的に想定されるのはどういうものがあるのでしょうか。
○細川政府委員 現在、さまざまな団体が法人後見人になる団体の設立を考えておられます。例えば、社会福祉士会が後見センターというものを設けたい、あるいは、司法書士会が司法書士を社員としてそういう法人を設けたいというようなことを考えておられます。そういったさまざまな法律的あるいは福祉の専門家の団体といったものが、考えられる法人であると認識しております。
○達増委員 次に、身上監護についてであります。
 身上配慮義務が明文化されて規定されたわけであります。これは非常に関心が高く、ほかの委員からも質問が出ているところでありますけれども、具体的にどのような義務が想定されているのでしょうか。
○細川政府委員 これは、財産的な管理をする場合でも御本人の身上を配慮しないと適切なものにはならないわけでございます。よく言われておりますのは、老人の場合に、住居環境が変わりますといろいろぼけが進行したりするというのは聞いておりますので、そういった財産管理につきましても、そういう身上を配慮しつつ行わなければならないということでございます。
○達増委員 次は、監督人についてであります。
 成年後見制度を後見、保佐、補助という三段階に分け、弾力的で柔軟な対応ができるようにする一方で、監督人の制度をまたきちっと定めて、適正な運用が担保されるように法案はなっているわけであります。この監督人という人も、今後かなりその需要といいますか、大勢求められてくることになると思うのですけれども、いかなる人たちが監督人として想定されているのでしょうか。
 また、もう一つ。法人が監督人になることができるとなっているわけでありますけれども、これは一体どういうケース、どういう法人が想定されているのでしょうか。
○細川政府委員 まず、後見監督人になる方々ですが、前回の参考人の陳述の中で久保井参考人が言っておられましたけれども、弁護士さんとか司法書士さんとかいった法律の専門家がなることが十分予想されるわけでございます。それから、法人といたしましては、社会福祉協議会とか、福祉関係の公益法人社会福祉士会とか、そういうところが後見監督人になることも考えておられますので、そういう可能性が大きいものというふうに考えております。
○達増委員 では最後に、この法改正の大きい目玉と言ってもいいと思うのですが、任意後見について伺いたいと思います。
 これは、先ほどレーガン大統領の例も引きましたけれども、今後高齢社会が進展するに伴って、本当にすべての国民にとって、この成年後見制度は自分の問題として考えるべき問題だというふうに思うのですね。
 そういう中で、自分の意思で、自分でいろいろ決められる間に任意後見契約をしておくということ、これは、先ほど、いろいろな手段でこの新しい制度について国民にも広く紹介、説明していくということだったのですけれども、かなり複雑な制度でもあります。どういう時期にそういう契約をすることが想定されているのか、また、その中で、どういう人を後見人にして、また、時至った場合にだれが請求し、だれが監督人になるのか、そうしたところの全体のイメージ、法文を見ているとかなり複雑ですので、すべての人に開かれた制度にしていくためにも、きょう、この場で具体的なイメージがわくように説明をお願いしたいと思います。
○細川政府委員 これは、知的障害者精神障害者あるいはぼけ老人を抱えておられる家族の方がおられるわけですが、そういった人の意見を伺いますと、やはり将来に不安があるという段階になった時点で専門家にいろいろ相談するということになりまして、その時点で、例えば社会福祉協議会の相談に行っていろいろアドバイスされて、では社会福祉士会でやっている任意後見契約をしよう、そういうような運びになるのではなかろうかと思っておりますが、これは将来の事柄ですから、断定的なことは申せませんが、やはりさまざまな場面で自分の将来に不安を持ったというときに実際に使われるようなことになるのではなかろうかと想像しております。
○達増委員 以上で私の質問を終わります。
【略】
○杉浦委員長 質疑を続行いたします。上田勇君。
○上田(勇)委員 公明党改革クラブの上田でございます。
 今回審議している法案につきましては、成年後見制度の改正もまた公正証書遺言等の方式の改正も、長年にわたりまして関係者からの要望も出されてきた重要な制度改正でございまして、特に成年後見制度のあり方につきましては、法制審におきましても平成七年以来議論を重ねてきたものでございまして、当委員会においてもしばしば話題に上ってきた重要な議題だというふうに承知しております。昨年の四月には、当委員会の質疑におきまして、私もこの成年後見制度につきまして、早く確立していただきたいという観点から、状況等につきまして質問させていただいたところでございますが、本日、ようやく当委員会で可決の見通しとなったことは大いに多とするところでございます。
 四法案とも私ども賛成の立場でございますが、背景や内容につきまして、何点かにわたりまして御質問をさせていただきたいというふうに考えております。
 まず初めに、現行の禁治産、準禁治産の制度についてお伺いをいたします。
 それらの申し立て件数が近年相当な割合での増加傾向にはありますが、それでも、いただきましたいろいろな資料を見てみましても、禁治産、準禁治産の新受件数というのは年間二千ないし三千件程度にとどまっているわけであります。これは諸外国におきます同様の制度と比較をいたしましてもかなり少ないというふうにも言われております。そこで、初めに、欧米諸国など諸外国の実情がどのようになっているのか、まず法務省の方から御説明をいただければと思います。
○細川政府委員 外国の実情でございますが、まず今回の改正案と同様に、一九六八年に禁治産、準禁治産の制度を後見、保佐、裁判所の保護の三類型の制度に改めましたフランスでございますが、フランスにおきましては、旧法下では、禁治産、準禁治産の宣告の合計で年間四百件から六百件前後でありましたが、改正後の新しい法律の施行後、七年後では一万五千件、それから十年後では二万件を超える増加を示しているというふうに承知しております。
 また、今回の任意後見制度と同様の継続的代理権制度を導入したイギリスでございますが、一九八五年に新法が施行されまして、施行後七、八年後の統計では約三千三百件の登録があった、その後毎年増加しまして、一九九七年の統計では七千七百件の登録がなされたということになっております。
 以上でございます。
○上田(勇)委員 今の御報告を見てみますと、日本の制度の利用の状況というのが、欧米諸国の同様の制度に比べましてかなり少ないというふうになっているわけでございますけれども、その理由はどの辺のところにあるとお考えか、その辺をお聞かせいただければと思います。
○細川政府委員 これについてはさまざまな理由が指摘されておりますが、やはり一番大きいのは、制度が硬直的でございまして、軽度の障害のある人に対応できるものがなかったということ、それからさまざまなマイナスイメージがつきまとっていた、あるいは戸籍に記載されることによって家族がこれを嫌うというようなこともありまして、こういったいろいろな要因がありまして、禁治産制度の利用を妨げられていたと思われます。
 また、判断能力が不十分な方々の面倒は家族が見るものであるという、家族意識が影響しているというふうに指摘される方もあるというふうに承知しております。
○上田(勇)委員 今の御説明を伺いまして、そういう意味では、今回の法改正におきましては、軽度の方々の制度として新たに補助の類型が追加された、また、戸籍記載につきましても登記で対応するというような改正が行われたということでございますので、その辺は相当改善されたというふうに思います。
 それで、そうしたことも踏まえまして、さらに近年、人口の構成がやはりかなり高齢化が進んでいる、また、家族や地域のあり方なども変化しているわけでございまして、必ずしも家族だけが面倒を見ていくというような意識ではなくなってきているわけでございます。とりわけ来年の介護保険などというのは、まさしくそういうような意識の上に立った制度ではないかというふうに思いますので、今回そうした制度的な点が改まったこと、また、そういうような人口構成や家族や地域のあり方の変化などを考えますと、これからそうした申し立て件数というのは相当程度ふえてくるのではないかというふうに思われます。そうしたことについての見通しというんでしょうか、お考えがあればお伺いしたいと思います。
○細川政府委員 冒頭に御指摘がありましたように、現在の禁治産、準禁治産の制度については、人口に比べて利用されていない、あるいは高齢者の数に比べては利用されていないということはどなたも指摘されるところでございます。今回さまざまな改善をいたした改正でございますので、相当程度利用が増加するのではなかろうかと思っております。
 先ほどのフランスの例を見ましても、同じような改正をして相当増加しておりますので、相当程度増加するであろうとは言えると思いますが、具体的にどのぐらいになるかというのは、今直ちに具体的な数字でちょっと申し上げられないことで、お許しいただきたいと思います。
○上田(勇)委員 もちろん、制度発足前にどの程度になるかというのは予測がしがたいというのはよく理解できますけれども、当然のことながら、これは申し立てが増加していけば、それに対応するための家庭裁判所なりの体制整備といったことも必要になってくるというふうに思いますので、一つには、先ほどからいろいろ質問出ておりましたが、制度についての周知徹底を図るとともに、あわせて、制度発足によりまして、そうした今後の予測などについても調査をしていただきまして、今度は逆に、制度は発足したけれどもそれを支える体制が十分でないというような事態にならないように、ぜひ適宜そういった御努力をしていただきたいというふうに思う次第でございます。
 次に、非常に根本的な話で一つお伺いをしたいと思うのです。
 欧米諸国の事例を、法務省さんや調査室などの方でつくっていただきました資料等で拝見させていただきますと、やはり成年後見に係る制度というのは、各国それぞれの国情によりまして相当異なった制度になっているというのがよくわかります。これは、それぞれの国の文化や価値観、家族のあり方など多種多様であるということを考えれば当然のことなんだというふうに思いますが、その中で一つ、日本は現行では多元的制度になっております。禁治産、準禁治産の二つの類型がある。今回の改正におきましても、後見、保佐、補助の三類型の多元的な制度になっている。
 諸外国を見てみますと、一つには、我が国の民法のモデルとなったと言われているフランスにおいてはやはり多元的な制度が使われております。ただ一方、ドイツにおきます世話法というんですか、あるいは英国におきます継続的代理権法、またアメリカは、州によって法律の構成が異なるようでありますが、大体一元的制度が多いというふうに承知しております。
 今回の法案作成に至る過程におきましても、我が国でもドイツやイギリスのような一元的な制度にするべきだという意見も伺ったわけでありますが、そういった意見がある一方で、今回の法改正におきましてもなお多元的制度とした理由と、あわせまして、一元的な制度、それと多元的な制度の特徴やそれぞれの利害得失も含めて、御見解を伺いたいと思います。
○細川政府委員 制度の設計を一元的なものにするか多元的なものにするかというのは、この問題の検討を始めた当時、非常に重要なものとして大変議論された問題でございます。
 それで最終的に、後見、保佐、補助の多元の制度とし、かつ任意後見制度を取り入れる制度といたしました理由を申し上げますと得失もおのずからわかると思いますので、その理由をまず御説明申し上げたいと思います。
 まず第一点ですが、我が国では、本人の財産をめぐる親族間の紛争を背景とする申し立てがふえているという実情にございます。そこで、重度の精神上の障害を有する方については、本人の保護の観点から、一定の範囲の代理権、取り消し権等による保護を法律で定めておくことが必要であり、そのような者について、申立人の請求に応じて特定の法律行為のみについて代理権を付与するということでは、本人の保護としては不十分ではなかろうかということでございます。
 第二点としては、仮にドイツのように一元的制度をとっても、家庭裁判所で実務的に運用する場合にはある程度類型化する必要が生じてくるであろう、したがって、多元的制度をとった場合と結果においてはそれほど変わらないのではなかろうかということが二番目の理由でございます。
 第三点目は、多元的制度のもとで幾つかの法定の類型と基準が示されている方が、利用者にとっても予測可能で利用しやすく、自己決定が容易になる、また実務的にも運用しやすいということが言えるであろうということであります。
 以上が、その理由でございます。
 ただ、今度の改正案では任意後見制度も提案したりしているわけですが、これはドイツにはないわけでして、多元的制度をとりましても、任意後見制度を同時に発足させますと、任意後見はドイツの世話法のように相当広い範囲もカバーできるものですから、これは千葉大学の新井先生が言っておられましたけれども、やはりこれで相当程度一元的制度の利点も取り入れているという評価ができるのではないかというふうに考えております。
○上田(勇)委員 次に、成年後見制度の法案につきまして、前回本委員会での質疑が行われましたし、またその後、参考人の方々からもいろいろな意見を聴取いたしました。それを通じまして私なりに考えますと、今回の成年後見制度に関しまして課題が二つ浮き彫りになってきたのではないかというふうに考えております。
 先ほど来の質問でも触れられていることではございますが、一つには、資産のない、資力のない方々の成年後見が極めて難しい、そういう金銭的な問題。もう一つが、家族以外の成年後見人の受け皿というんでしょうか、その対象となるような方々が必ずしも十分ではないという点がこれまでの審議の中で指摘されてきたのではないかと思います。そこで、ちょっとそれぞれ別にお伺いをしたいと思うのです。
 最初に、先ほどの質問では、家族の後見人にもそれ相応の報酬が必要というような御見解もございましたけれども、少なくとも家族以外の後見制の場合には、当然後見人等の報酬が必要となってくるわけでございますし、また後見の事務にかかわるさまざまな費用もかかってまいります。これらはすべて現行制度のもとでは被後見人等の負担となるわけでございます。そうなりますと、資産、資力のない被後見人というのはどうもこの制度はなかなか利用しにくいのではないかということも考えられます。
 例えば、そうした点につきましては、弁護士会であるとかあるいはさまざまな団体などからも、国の責任として、国などによる公的な負担や助成が必要ではないかというようなお話もございますけれども、まずそれにつきましてのお考えを伺いたいと思います。
○細川政府委員 私人間の権利義務の関係を定めます民法におきましては、成年後見人の報酬というものは、本人の保護のために行うものですから、その本人が支払うということにならざるを得ないわけでございます。
 そこで、その先に、さらに低所得者でもこの制度を利用するためにはどうしたらいいかという問題は、これは社会保障の問題になってくるわけでございます。そこで、この点につきましては、従来厚生省とも十分協議してまいりましたが、現在厚生省で社会福祉基礎構造改革というものを検討しておりまして、この中で、判断能力の不十分な方に対する無料または低額の料金による福祉サービスの利用援助等を行う社会福祉事業の創設と、そのための全国的な体制整備を進めることとされております。この検討の中で、廉価で良質な成年後見の事務の供給体制が検討されるものと期待しているところでございます。
○上田(勇)委員 次に、もう一点で、この新しい成年後見制度、せっかく新しい制度が発足をいたしまして、それをぜひ定着させていきたいというふうに考えるわけですが、これは当然のことながら、この後見人等には実態としては配偶者や家族、親族等がまず選任されるということが多いということになろうかと思いますけれども、それらの家族や親族以外でこの制度を担う適切な成年後見人もあわせて確保する必要が出てくるというふうに思っております。
 今回は特に、法人につきましても後見人等に選任することができることを法文上明らかにしているところでございまして、当然のことながら、法律の専門家でございます弁護士会司法書士会等の取り組みも期待されるわけでございますが、やはりこれでも絶対数というのは、弁護士さんや司法書士さんだけということでは不足することでございますし、特に地域的な偏在もあるので、どうしてもさらに、各種社会福祉法人であるとかその他のいわゆるNPO法などの法人も含めた組織的な取り組みが必要になってくるのではないかというふうに思います。
 ちょっと包括的な問いかけで申しわけないのですが、こうした事情の中で国や地方公共団体としてどのような対応があるのか、その辺のことについてお考えを伺いたいと思います。
○細川政府委員 成年後見制度が導入された後の御指摘の受け皿の問題につきましては、従来からある団体が法の施行に向けてさまざまな取り組みをされておられます。久保井参考人も言っておられましたが、弁護士会でも既にそういうサービスをしておられますし、その取り組みを始めておられます。司法書士会でもそういう取り組みを始められております。さらには、社会福祉士会では後見センターあるいは後見監督人センターというものをつくるという構想を持っておりますし、各地の社会福祉協議会社会福祉法人では現在でもさまざまな財産管理等のサービスをされておりますので、そういうところが受け皿になろうかと思います。
 私どもといたしましては、地方自治体とも協力をとりつつ、こういった団体が良質な後見人の供給源となりますように連携をとりながら、あるいは協議をしながら、制度が充実するように努力してまいりたいと思っております。
○上田(勇)委員 次に、民法第八百四十三条第四項に、家庭裁判所が後見人を選任するに当たって考慮する事情が定められております。その規定に基づきますと、被後見人が入所している病院や施設または直接福祉サービスを提供しているような事業者は、被後見人と利害関係があるものとして、原則としては成年後見人に選任することは難しいということが言えるのではないかというふうに思います。このことについては、これまでの審議の中でも、いろいろケース・バイ・ケースで判断されることであるけれども、原則的にはそのような考え方ではないかというふうな御見解であったと承知しております。
 私も、高齢者や障害者の方々の権利を守るという上からは、こうした運用というのがむしろかなり厳格に、的確に行われることが必要ではないかというふうには思っているところであります。ただ、しかし、現実を見てみますと、特に病院や施設等に入られている高齢者や障害者の方は、日常的な生活支援だけではなくて、事実上財産管理まで含めてそういった施設などにゆだねているケースが多いというふうにも聞きます。
 例えば、ここに弁護士会、一つは関東弁護士会連合会のアンケート調査、九六年のものでございますが、この調査によりますと、福祉関係者が担当したケースのうち、預金通帳や権利書等を施設またはその職員が保管しているといったケースが四四%だそうでございます。また、東北弁護士会連合会のアンケート調査、これは九七年のものでありますが、多分若干設問が違っていたのでしょうが、九〇%の施設が権利書や預金証書等を預かっていることもあるというような調査が出ております。
 成年後見制度が整備されて、特に使いやすくなって補助類型などが活用されていきますと、こうした法的根拠のない事実上の財産管理はそういった制度に移行していくというようなことが予想されますし、これは多分高齢者や障害者の方々の権利にとってもいいことであるというふうに思います。同時に、法的な根拠がないまま、事実上はやむを得なく施設等で管理を行っているというようなことであると思いますので、そちらの方々にとっても、過度な負担を軽減されるという意味ではいいことなんだというふうに思います。
 しかし、いわゆる病院や施設等が事実上そういう財産権まで管理しているということがこれほど大きくなっている中で、法案が成立いたしまして法定の後見人や保佐人、補助人等が選任されますと、実際には、現在の実態を大きく変えることになる。あるいは、現状との移行期においては必ずしもスムーズにいかない部分も出てくるのではないかというふうに思います。
 そのあたりにつきまして、今回のこの法案成立、施行によりましてどのような影響が出てくるのか、その辺を何か想定されているのであればお伺いをしたいと思います。
○細川政府委員 特別養護老人ホーム等に収容されている方の財産の管理をその収容施設を運営している法人が事実上しているという場合に、成年後見人が仮に選任された場合には、その成年後見人は、本人の財産上の権利義務を一切行使することができるわけでございます。
 したがいまして、そういう場合には、その権利書等を預けているのが適当ではないということになれば、それは後見人の判断で、後見人がその施設に対して引き渡しを要求して引き継いでもらうということになろうと思うわけでございます。あるいは、補助人や保佐人が選ばれた場合でも、その権限次第によってはそういうことになるわけでございます。ですから、よく本人の意思を確かめながら、適切な措置をとってもらうということが必要であろうと思っております。
 以上でございます。
○上田(勇)委員 ちょっと今の点に関しまして、そういった財産管理、例えば預金通帳であるとか権利書等を施設に預けている、あるいは施設の職員の方に預けているというのは、これは私は、入所されている高齢者や障害者の方々が、必ずしもそれは望んでそういうことになっているんではないんだと思うんですね。ただし、それは身近に家族の人がいなかったり信頼できる親族がいないとか、あるいはそれにかわって職務をしてくれる信頼すべき方々がいないというような現状があるので、結局は、最も身近で世話になっているそういう施設に預けざるを得ないということがあるんじゃないか、それが実態なんではないかというふうに思います。
 もちろん、今回のこの成年後見制度の中でも、利害関係の有無というところまで基準として設けているわけであります。施設に入っている高齢者や障害者の方々とその施設というのは、当然のことながら利害関係がある部分があるわけですので、決してそれが望ましい関係ではないというのはよくわかるんですが、事実上はほかにやってくれる人がいないので預かってもらっている。それは、例えば日常的な生活必需品の買い物とかそういうことであればわかるんですが、それが預金通帳であるとか権利書等までそこに預けないと、実際にはほかにかわってくれる人がいないというのが実態なんじゃないかというふうに思うわけであります。
 そうした場合に、この法案が成立しまして成年後見制度がスタートしたとしましても、では、今までそんなに身近なところに人がいなかったのがすぐに来てもらえるのかというと、なかなかそれは難しいんじゃないのかなというふうに思います。私は、制度的には正しい方向の改正だとは思うんですが、その法律の精神が事実上生かされるんであろうか。その辺の、実態的にはどのようになるのかというようなことについて、私はちょっと疑問があるんですけれども、御見解、いかがでしょうか。
○細川政府委員 そういった実態が新しい法律の施行後どうなるかということについて、私たちも必ずしも確信を持ったことは申し上げられないんですが、施設だからすべてが問題があるということにはならないわけでございます。
 例えば、成年後見人が選ばれた場合であっても、管理権は、要するに法律上の権限は後見人にあるんだけれども、従来の状況から見て、事実上施設にやってもらっても差し支えないということであれば、その後見人の判断で、その施設に、ではこれだけはおたくでやってくださいというふうに頼むこともできると思うわけです。それは法律上何ら妨げることはありませんのですから。そういうふうに個別具体的に判断していただければ、一つ一つの問題も解決できるんではなかろうかなというふうに想像しているところでございます。
○上田(勇)委員 ぜひ、せっかく制度的にいろいろな要件が課せられて整備されるわけでありますので、事実上もそれが的確に運用されるような形になってほしいなというのを期待するものでございます。ただ、ちょっと今の福祉の現場等を考えますと、とはいってもなかなか難しい問題が多いのかなというのが正直な感想でございます。
 それで、もう一つ、話は変わりますが、今度は任意後見制度について若干お伺いしたいと思います。
 先ほどの御答弁にもございましたけれども、自分の将来のことはやはりできるだけ自分で決める、そういった自己決定を尊重するという意味で、今回のこの任意後見制度、なおかつこれはかなり弾力的な運用のできる制度だというふうに承知しておりますので、この制度が法制化された意義というのは私も大変大きいものだというふうに考えております。
 そこで、その中身について実は何点かお伺いしたいんですが、まず第一に、法案の第四条で、家庭裁判所は任意後見監督人を選任することとなっておりますが、この任意後見監督人の必要性、意義は何なのか、あわせまして、この任意後見監督人の責任といったものはどうなってくるのか、その辺を御説明いただければと思います。
○細川政府委員 この任意後見契約に関する法律は、民法の委任に関する規定の特則になっているわけでございます。通常の委任でございますと、本人は、受任者が委任した権限を濫用しないように監督することができるわけですが、任意後見のような場合におきましては、その契約の効力が生ずる時点では、御本人の判断能力が不十分な状況になっておるということになります。したがいまして、御本人自身が任意後見人を監督することができないために、任意後見人が権限を濫用する危険というものが指摘されておるわけでございます。そこで、本人にかわって任意後見人を監督し、本人の利益を保護する者としての任意後見監督人を選任する必要があるということでございます。
 したがいまして、任意後見監督人の職務、ただいま申し上げたとおり、本人の利益を保護する者として、任意後見人を監督するということがその職務になるわけでございます。
○上田(勇)委員 それでは最後に、この任意後見制度に関してもう一つお伺いをしたいと思うんです。
 この法案の第十条第一項に、「家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができる。」ということになっております。この中で、「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」というのはどういう場合を想定しているのか、もう少し具体的に御説明をいただければというふうに思います。
○細川政府委員 この十条で言っております「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」と申しますのは、要するに、任意後見人に与えられた代理権の範囲が狭過ぎて、それでは本人の保護が図れないという場合が一つございます。
 もう一つは、任意後見契約というのは代理権を与える契約でございますので、本人の行為能力を制限することはできないわけでございます。そこで、御本人が例えば悪徳商法等にだまされやすいという問題が生じてきたという場合には、任意後見契約ではどうしても対応できない、したがって、取り消し権や同意権を付与する必要があるという場合には、任意後見契約では対応できないので、通常の保佐とか後見になるということでございます。ただ、原則的には、私的な自治、本人の意思を尊重して、任意後見契約が優先するということでございます。
○上田(勇)委員 以上で質問は終わらせていただきますが、この成年後見制度、これまで長年にわたりまして各方面からいろいろな関心を集めて議論もされてきたことでございます。法制審におきましても、この成年後見制度の研究会を設けて非常に密度の濃い議論がされたというふうに伺っております。ただ、議論の過程におきましては、いろいろな観点から意見の違いといったものも結構あって、それが大変な議論の結果としてここに集約されてきたものだというふうに承知しているところでございます。
 きょう、これで衆議院の当法務委員会におきます審議が議了するわけでございますけれども、要は、こうした制度ができて、これからこうした制度が本当に高齢者また障害をお持ちの方々の権利の保護のために実効あるものとして役立っていかせるということが重要であるというふうに考えているところでございます。
 もちろん、法務省はその基本法を所管しているという立場であって、実際のいろいろな福祉の現場における活動というのは、先ほどもちょっとお話にありましたけれども、厚生省等の所管の部分が多いんだというふうには思いますけれども、この辺につきましては、ぜひ政府全体として、せっかくこれまでの制度を大きく改めまして、新しい制度として発足いたしまして、まさにこれからさらに進みます高齢化社会の中におきましては必要不可欠な制度だというふうに思っておりますので、これがさまざまな課題も乗り越えまして、ぜひ適切、円滑に運用されることを御期待申し上げまして、質問を終わらせていただきます。
 ありがとうございました。
○杉浦委員長 次に、木島日出夫君。
○木島委員 日本共産党の木島日出夫でございます。
 前回に続きまして、成年後見制度創設に係る四法案について質問をいたします。
 最初は、被後見人の欠格条項問題であります。
 今回の成年後見制度創設に関する法改正に伴いまして、これまで禁治産者につけられていたいわゆる欠格条項、禁治産宣告を受けただけで、それ自体当然に排除されてしまう諸資格でありますが、その欠格条項のうち、今回、遺言の証人など四十二件については廃止になります。大変すばらしい改正だと思います。しかし、百十六件については引き続き、依然として欠格条項が存置されます。
 そこで、最初に法務省にお伺いしたいのですが、今回の関連法案の諸改正によりまして、欠格条項を削除したのと存置をしたのと、仕分けの基準、何だったのか、それを明らかにしていただきたい。今回、どういう手順でこのような仕分け結果になったのかも、あわせ答弁願いたいと思います。
○細川政府委員 欠格条項は、各種法令中の資格にふさわしい能力を担保するために設けられているものでございまして、資格を付与する段階において、その資格にふさわしい能力を有しているかどうかについて審査を行われるべきものであります。
 そこで、個別的な能力審査手続が整備されている法律については、禁治産宣告等をあえて欠格事由として存置しないこととし、それ以外の、当該法令中で十分な能力審査手続を有しないものなどにつきましては欠格条項として存置する、そういう方針で私どもは所管の各庁と協議して、今回の改正案に至ったわけでございます。
 それで、手続ですが、これはほとんどすべての省庁にまたがっておりますので、私どもの担当者が各省に伺いまして、相手方の担当者に対して、この新しい民法ノーマライゼーションの理念等を御説明して、改めて欠格条項を残すかどうか御検討願いたいというふうにお願いいたしまして、各省庁が御検討された結果が現在の整備法の内容となっているわけでございます。
○木島委員 個別的な資格に係るものは存置しない、それ以外は、十分な能力審査がある部分については残したということですか。
 よくわからないのですが、今度、欠格条項をなくした、いい方の改正の中に、公証人法十四条三号による公証人の欠格事由を外しました。大変すばらしいことだと思うのです。禁治産者でも、それ自体で公証人になれないということはやめた。大変いいことです。
 ところが、残した方の百十六件の中を見ますと、例えば弁理士、例えば司法書士、例えば薬剤師、例えば弁護士、例えば公認会計士社会保険労務士行政書士不動産鑑定士不動産鑑定士補、これらは禁治産宣告を受けた禁治産者ということのみをもって、そもそもこういう職業につけない。私は全く意味わからないのですよ。どうしてこういう違いが出てくるのですか。
○細川政府委員 先ほど私の言葉は不適切であったかもしれませんが、個別的に能力を審査することができる手続になっているものについてはそれにゆだねる、そうでないところについては欠格条項として残さざるを得ないというのが基本的な考え方でございます。
 ただいま御指摘の二十一の士師業でございますが、これにつきましては、資格試験の中では、学識は試されるかもしれませんけれども、禁治産になるかどうかという問題については必ずしもその能力を試されていないという問題と、大変多様な多数の件数を一時に処理しなければならないという問題、あるいは個別的な審査手続が整備されていないという問題がありまして、そういうところにつきましてはそれぞれの所管省庁で判断されまして、最終的にはそれを欠格条項として存置するという結論になったわけでございます。
○木島委員 どうもわかりませんね。
 私は弁護士ですから言いますが、弁護士なんかになるには、司法試験に受かって修習を終わって、しかも、さらに弁護士会が加入を認めて、それでなれるのでしょう。日本の弁護士法にも、こういう場合は弁護士になれないという個別審査はありますよ。厳しい審査がありますよ。だから、本当に当該禁治産者がふさわしくなければ、十二分に、弁護士としてあなたはふさわしくないよとチェックできる仕組みは弁護士法にはあります。あるのにもかかわらず、何で弁護士法から、禁治産者は欠格だとはなから排除するのでしょうか。
 公証人の方は今度外したわけですよね。禁治産者は公証人になってはいかぬか、公証人に選任していいか、非常に個別的な厳しい、厳密なチェックをやるでしょう。それは、公証人、はるかに数少ないし、公証という国家にとって大変大事な役割を果たす公証人ですから。
 公証人になれて、何で弁護士になれないのか、全く私わからないのですよ。説得力ある説明してください。
○細川政府委員 公証人は法務大臣が任命いたします。その任命の上では、極めて厳格に個別的審査をいたしますので、それで不適当な人は任命されないという担保があるということでございます。
 一方、弁護士の場合は、試験を通って修習を終われば、どなたでもそのままなれるということが前提でございます。そして、登録した後に禁治産、準禁治産になった場合でも、当然には連合会等にはわからないという問題がございます。そういうことである上、やはり弁護士さんは非常に権限が大きいものですから、不適当な方がなられますと、依頼者に対する損害が非常に大きいということを考えまして、やはり弁護士と公証人とは違うのであろうという判断にいたしたわけでございます。
○木島委員 全然わからないです。わからないですが、もうやめます。
 これには非常に厳しい批判があったと思うのです。前近代的な、禁治産宣告ゆえをもって、それだけである職業から排除するということはやめにしたらどうか。個別的に、弁護士になっていいかどうかは弁護士法の中にあるのですから、弁護士会がきちっとチェックできるのですから。また、社会保険労務士なら社会保険労務士法の中に、ふさわしくない人はつけないような条項がやはりあるのですから。
 それできっちり個別審査して、ふさわしくない人はできないという、それぞれの法律、それぞれの業法の中にきちんとあるわけです。なければつくればいいのですから、禁治産宣告それのみではなから排除してしまうというような前近代的な発想は、本当はこの法改正によって全部取っ払って、観点を変えてもらいたいと私は思ったのですが、残念ながら百十六項目が残りましたので、次の見直しのときにはひとつ再検討していただきたいということを希望いたしまして、次の質問に移ります。
 特に問題は、今回欠格条項が残った公職選挙法十一条一項一号の選挙権、被選挙権であります。なぜ、禁治産宣告、あるいは法改正によって被後見人ですが、被後見人は選挙権、被選挙権が受けられないという欠格条項を公職選挙法で残したのでしょうか。残した理由を自治省法務省に答弁願いたいと思います。
○片木政府委員 ただいま御指摘のとおり、公職選挙法第十一条におきまして、選挙権及び被選挙権を有しない者を規定しておるわけでございますが、禁治産者は「心神喪失ノ常況ニ在ル者」であるということから、選挙権及び被選挙権を有しないと現行法でされているところでございます。今回の民法改正案では、禁治産者成年被後見人と呼称が変わるということでございます。
 定義につきましては、「心神喪失ノ常況ニ在ル者」という従来の考え方から、「精神上ノ障害ニ因リ事理ヲ弁識スル能力ヲ欠ク常況ニ在ル者」というふうに改めることとされていると聞いております。しかしながら、その対象者は一致するものであるというふうに承知をいたしておるところでございます。
 そのようなことから、従来の禁治産者と同様、成年被後見人につきまして、選挙権及び被選挙権を有しないこととしたところでございます。
○細川政府委員 先ほど申し上げましたように、基本的な方針は、個別的な能力審査手続があるものは存置する必要はないけれども、そうでないものは一般的な欠格条項として残さざるを得ないという方針で自治省に御検討いただいた結果、ただいま自治省から御説明いただいたような結論になったわけでございます。
○木島委員 確かに、自治省の答弁にあるように、禁治産者あるいは今回の法改正によりまして被後見人、後見開始の要件を見ますと、「精神上ノ障害ニ因リ事理ヲ弁識スル能力ヲ欠ク常況ニ在ル者」が後見開始の審判の要件であります。
 しかし、この法体系をずっと精査いたしますと、「精神上ノ障害ニ因リ事理ヲ弁識スル能力ヲ欠ク常況ニ在ル者」でありますが、二十四時間、一カ月、一年、永久に完全にその者が一〇〇%事理弁識能力を欠くということがこの法案の前提になっておりません。そうではなくて、精神の状況は変動する、事理弁識能力が時には生まれてくるということをこの法体系は当然に想定をしているわけでございます。どんなことからそれが言えるかというと、例えば七条に、後見開始の審判の請求がだれができるか。本人ができるのです。
 それから、民法八百四十三条第四項に成年後見人選任に当たっての考慮事項、これは裁判所が考慮するのですが、その裁判所がこの者に成年後見人を選ばなければならぬかどうかの判断をする大事な材料の考慮事項の中の一つに「成年被後見人の意見」というのがあるのですよ。自治省の答弁、また本法によりますと、「事理ヲ弁識スル能力ヲ欠ク常況ニ在ル者」、しかし、そういう常況にあるといえ、「成年被後見人の意見」を聞くという条文があるのですよ。意見が言える状況にあるということ、そういう状況が生まれることもあるということをこの法律は想定しているのですね。
 もう一つ言います。
 八百四十九条の二、成年後見監督人の選任。成年後見人がどうもいかがわしいことを考えているかもしらぬ、私に成年後見監督人をつけてもらいたいという選任の請求を裁判所にするわけですが、請求権者の中に成年被後見人本人を入れているのですね。私は精神上の障害によって事理弁識能力を欠くと裁判所によって結論づけられて被後見人にされたけれども、どうも後見人が危なっかしいことを考えているから後見監督人をつけていただきたいという選任請求を本人ができるという条文があるのですね。
 ということは何を意味するか。全然意識がなくて物を考える力がなくなったときもあるでしょうけれども、そうじゃないときもあるのだということをこの法体系は前提にしているのですよ。
 そうしますと、この法体系の中だって、そういう重要な請求権、あるいは裁判所が意見を聞かなければならない、そういう大事な意見を言う能力がある、そういう人に、参政権の一番大事な選挙権を奪ってしまう。何とも私は理解できないですね。本当に理解できないです。禁治産宣告、あるいは本法改正による成年後見制度創設によって、せめて選挙権を欠格条項から外すなんというのは当たり前じゃないかと私は思ったのですが、残念ながら残ってしまいました。
 法務省、どうですか。選挙権に対する欠格条項を外すのは私は当たり前だと思うのです。事理弁識能力がなかったら選挙に行けないだけだからいいじゃないですか。事実上、選挙権が行使できないだけだからいいじゃないですか。事理弁識能力が生まれることをこの法律は想定しているのですから、たまたま選挙のときに意識がはっきりして、だれが公職の候補者として適当か判断能力があるのでしょうから、選挙権を与えたらいいじゃないですか。どうですか。
○細川政府委員 選挙権、被選挙権の問題は公職選挙法の問題でございますので、法務省としてお答えすることができない問題で、必要であれば自治省からお答えいただきたいと思いますが、民法の考え方を申し上げますと、これは基本的に改正前後に変わっているわけではないわけでして、「心神喪失」、今度は「精神上ノ障害ニ因リ事理ヲ弁識スル能力ヲ欠ク常況」というのは同じ意味合いでございます。
 二つの意味合いにおきましても、通常では判断能力を欠く常況であっても、たまたま本心に復する場合があるということを前提にしております。たまたま本心に復した場合に、本人に申し立て権を与えてもよいのではないか。本心に復していない、したがって意思能力がないという場合には、申し立て権が仮に法律に書いていても行使できないだけでございます。
 したがいまして、たまたま本心に復しているときにその件の申し立て等から排除するまでの必要はないのではないかということが今回の改正案の考え方でございます。
○片木政府委員 御指摘ございましたとおり、常況でございます。一〇〇%、二十四時間ずっと事理を弁識する能力を欠く状態にあるというわけではないということは御指摘のとおりかと存じます。
 ただ、先ほども申し上げましたように、また、ただいま法務省の方から御答弁ありましたように、民法の考え方自体は変わっていないということでございますので、先ほどの答弁になりますけれども、従来の禁治産者と同様、成年被後見人につきましても選挙権及び被選挙権を有しないこととしたところでございます。
○木島委員 理解できませんね。
 禁治産あるいは後見制度というのは、正常な財産上の行為をなす精神能力を欠く場合に、本人並びに取引の相手方の財産上の利益を保護するための制度であります。自分の財産を守る、あるいは取引の相手方の利益を守る、そういう財産管理能力をないと見て、行為能力を制限したわけです。そういう制度です。ある面では高度な行為能力がないから、それを剥奪するという制度ですよ。
 しかし、それに比べますと、選挙権、あえて被選挙権と言いましょうか、選挙権は市民の財産保護と全く関係ありません、国民の基本的権利、参政権の一つであります。しかも、今自治省もお認めになりましたが、事理弁識能力を欠く常況にある者とはいえ、法務省の答弁にあるように、たまたま心神の状況が回復することもあるし、そのことをこの法体系は想定しているんでしょう。自分の財産管理能力も生まれてくることもあるんだということをこの法体系は前提にしている。日本国民に対して、そんな大事な選挙権を剥奪する理由は何にもないじゃないですか。
 だから、私さっき言ったんですよ。後見開始審判の請求という非常に重い、大変重大な行為をする請求権が本人にある。あるいは、成年後見監督人選任の請求という非常に難しい、重い請求権すら本人に与えられている。さらに言えば、成年後見人選任に当たっての考慮事項として裁判所ですらが本人の意見を聞く、そういう条項もこの法律は持っている。これはもう普通の状態にあることを想定しているわけですよね。そんな人に、はなから選挙権を剥奪する理由、私は一〇〇%ないと思うんですよ。
 法務大臣、どうでしょうか、せっかくの改正ですよ。今改正で四十二件については欠格条項を廃止したんですから。百十六件残ったんですが、せめてその中の公職選挙法だけは欠格条項を外すべきだと私は思うんです。これは民主主義の基本の問題です。法務大臣、答弁を。
○陣内国務大臣 先ほど事務当局からも御説明申し上げましたけれども、各省庁と協議を続け、最終的な判断は各省庁にゆだねざるを得なかったということでございますので、このような結果だと思います。
○木島委員 では、自治省にお聞きします。
 先進七カ国、日本を除く先進六カ国の状況、今わかりますか。
○片木政府委員 先進七カ国の状況というお尋ねでございますが、ただいま承知いたしておりません。
○木島委員 私も不正確なんですが、きょう急遽図書館で調べてもらったら、アメリカは、欠格事由として重犯罪と意思無能力者、多くの州のことでありますが、そのようです。みんな公職選挙法の選挙権ですよ。イギリスは、欠格条項、刑を受けている者、精神病院入院中の者、選挙犯罪で刑を受けている者、しかも上院議員、そういう状況になります。
 これも不正確な調べですが、ドイツは行為能力の剥奪もしくは制限の宣告を受けた者。ドイツも法が変わりましたけれども、禁治産宣告を受けた者は選挙権がないという感じでしょうか。フランスには禁治産者は選挙権がないとあるようです。カナダはそういうのは全くない、選挙権があるということでしょうか。
 私、問題なのはイタリアなんですが、よくわからないんですが、これまではどうも精神病による禁治産者及び無能力者は選挙権がないという条文があったらしいんですが、きょう図書館に聞いても、九二年に削除されたということをおっしゃる図書館の調査員もいる。イタリアは九四年に大改正があったので、わかりません。削除してしまったのかもしれません。自治省、それはわかりますか、イタリアの話。イタリアがもし、これまでは禁治産宣告を受けた者は選挙権はないというんだが、九二年か九四年にそういうのはもう古くさいから削除してしまったというのであれば非常に参考になるなと思うので聞くんですが、わかりますか。
○片木政府委員 承知いたしておりません。
○木島委員 全然理屈ないですね、選挙権を剥奪するという理屈は。精神が回復することを認めているんですから、そういう状況が生まれてくるということを認めているわけですから、私は、ぜひこれは英断をもってその欠格条項だけは外すように、自治省、再検討してもらいたいと思うんです。自治省の意を受けて法務省も再検討してもらいたいんですが、どうでしょうか、再検討を約束してもらえませんか。
○片木政府委員 先ほど申し上げましたとおり、これらの対象者の方は「事理ヲ弁識スル能力ヲ欠ク常況ニ在ル」ということでございますので、選挙権、被選挙権を有しないこととしておるところでございますので、御理解を賜りたいと存じます。
○木島委員 全然わかっちゃいないですね。成年後見監督人を選んでくれという請求権すら与えているんですよ、この民法は。そういう判断能力があるということなんですよ、この法律の前提は。そんな重大な判断能力が生まれてくることを想定している人物に対して、選挙権を与えないというのは全然理屈が通らぬ。大変不満でありますが、時間がなくなっていきますから、次の質問に移ります。自治省、お帰りいただいて結構です。
 厚生省をお呼びしておりますので、順序を変えまして厚生省にお聞きします。
 後見、保佐、補助制度を創設、そしてまた任意後見制度創設、非常に大事で、ますます高齢化が進展する我が国において大きな役割を果たすことが期待されておりますし、私も期待しております。そのために、この制度が広く利用されるように、資力の少ない者でもこの恩恵に浴する、それが大事だと思うので、それで、財政的な援助、補助制度を充実してほしい。
 先ほど午前中にも、例えば裁判所の鑑定費用が高過ぎるという問題も指摘されましたが、そういう問題もあります。また、後見人に対するいろいろな費用負担の問題もございます。それで、財政的な援助、補助制度を充実してほしいという声が、この成年後見法成立過程において、例えば東京都の高齢者施策推進室とか主婦連とか日弁連などから出ているわけでございます。こういう声にやはりこたえていくことが非常に大事だと思うので、法務大臣の御見解、それから厚生省の決意といいますか、どんな政策を検討しようとしているのか、お答えいただきたい。
○炭谷政府委員 まず、成年後見人制度につきましては、本人の利益の保護の観点からなされるものでございますので、本人の財産の中から支弁するということが基本になろうかというふうに考えているわけでございます。
 しかしながら、先生御指摘のように、低所得者の方々を初め、福祉サービスの利用等、日常生活に密着した援助を必要なときに確実に受けることができるようにするということも、私ども厚生行政を担当する人間にとっても重要な課題であるというふうに認識しているわけでございます。
 このため、私どもといたしましては、痴呆性高齢者、知的障害者精神障害者等判断能力が不十分な方々ができる限り地域で自立した生活を継続して、安心して生活を送っていただくようにするため、無料または低額な料金で福祉サービスの適切な利用などを援助する地域福祉権利擁護事業を社会福祉事業として創設することを検討いたしております。この制度化によりまして、例えば障害者の団体などもその中に入ろうかと思いますけれども、地域福祉権利擁護事業への幅広い福祉団体の取り組みを期待いたしておりますし、また、全国的な基盤整備の観点から、都道府県社会福祉協議会が全国であまねく事業を展開していただこうということで、今年十月から、当該事業の運営について一定の国庫補助を行うことを予定いたしております。
    〔委員長退席、橘委員長代理着席〕
○陣内国務大臣 成年後見制度は、本人の財産管理等を適切に行うために利用されるものでございますので、後見事務に要する費用等の経費につきましては、基本的には本人がその財産の中から支弁すべきものだ、このように考えております。
 ただ、委員御指摘のように、低所得者でもこの制度を利用することを可能にするため、福祉分野における廉価で良質な後見事務の供給体制について検討する必要がある、このように考えます。この点につきましては、今厚生省からお話がございましたけれども、具体的には、今般、社会福祉基礎構造改革において、判断能力の不十分な者に対する無料または低額な料金による福祉サービスの利用援助等を行う社会福祉事業を創設することとされておられますので、その中で十分な検討が進められることを期待いたしております。
【次回へつづく】