精神医療に関する条文・審議(その114)

前回(id:kokekokko:20051130)のつづき。初回は2004/10/28。
ひきつづき、平成11年の成年後見制度制定・精神保健福祉法改正についてみてみます。

第145回参議院 法務委員会会議録第26号(平成11年8月6日)
○委員長(荒木清寛君) 民法の一部を改正する法律案、任意後見契約に関する法律案、民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案及び後見登記等に関する法律案を一括して議題といたします。
 政府から趣旨説明を聴取いたします。陣内法務大臣
国務大臣陣内孝雄君) 最初に、民法の一部を改正する法律案につきまして、その趣旨を御説明いたします。
 この法律案は、高齢社会への対応及び障害者福祉の充実の観点から、痴呆性高齢者、知的障害者精神障害者等の判断能力の不十分な者の保護を図るため、禁治産及び準禁治産の制度を後見及び保佐の制度に改め、これに加えて補助の制度を創設するとともに、聴覚または言語機能に障害がある者が手話通訳等により公正証書遺言をすることができるようにするため、遺言の方式を改める等の目的から、民法の一部を改正しようとするものでありまして、その要点は次のとおりであります。
 まず、禁治産及び準禁治産の制度の改正等につきましては、第一に、禁治産及び準禁治産の制度を後見及び保佐の制度に改め、本人の行為のうち日常生活に関する行為を成年後見人等の取り消し権の対象から除外するとともに、新たに保佐人に取り消し権及び代理権を付与することとしております。
 第二に、軽度の精神上の障害がある者を対象とする補助の制度を新設し、本人の申し立てまたは同意を要件として、当事者が申し立てた特定の法律行為について、補助人に同意権・取り消し権または代理権を付与することができることとしております。
 第三に、家庭裁判所が適任者を成年後見人等に選任することができるようにするため、配偶者が当然に後見人等となる旨を定める現行の規定を削除し、成年後見人等に複数の者または法人を選任することができるようにするための所要の規定の整備を行うとともに、その選任に当たり家庭裁判所が考慮すべき事情を明記することとしております。
 第四に、成年後見人等は、その事務を行うに当たり、本人の意思を尊重し、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならないこととしております。
 第五に、成年後見監督人に加えて、保佐監督人及び補助監督人の制度を新設することとしております。
 次に、遺言の方式の改正につきましては、現行の公正証書遺言の方式を改め、聴覚または言語機能に障害がある者が手話通訳または筆談により公正証書遺言をすることができるようにするとともに、秘密証書遺言、死亡危急者遺言及び船舶遭難者遺言についても、手話通訳によりこれらの方式の遺言をすることができるようにするため、所要の規定の整備を行うこととしております。
 続いて、任意後見契約に関する法律案につきまして、その趣旨を御説明いたします。
 この法律案は、高齢社会への対応及び障害者福祉の充実の観点から、痴呆性高齢者、知的障害者精神障害者等の判断能力の不十分な者の保護を図るため、任意後見契約の方式、効力等に関し特別の定めをするとともに、任意後見人に対する監督に関し必要な事項を定めることにより、任意後見制度を創設することを目的とするものでありまして、その要点は次のとおりであります。
 第一に、任意後見契約において、本人は、任意後見人に対し、精神上の障害により判断能力が不十分な状況における自己の生活、療養看護または財産の管理に関する事務について代理権を付与することができ、この契約は、家庭裁判所が任意後見監督人を選任したときからその効力が生ずることとしております。また、任意後見契約は、公証人の作成する公正証書によることを要することとしております。
 第二に、任意後見契約が登記されている場合において、精神上の障害により本人の判断能力が不十分な状況にあるときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族または任意後見契約の受任者の請求により、任意後見監督人を選任し、任意後見契約の効力を生じさせることとしております。
 第三に、任意後見人は、その事務を行うに当たり、本人の意思を尊重し、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならないこととしております。
 第四に、任意後見監督人は、任意後見人の事務を監督し、その事務に関して家庭裁判所に定期的に報告をするとともに、随時、任意後見人の事務について調査すること等を職務とし、家庭裁判所は、任意後見人に不正な行為その他不適任な事由があるときは、任意後見監督人等からの請求により、任意後見人を解任することができることとしております。
 第五に、任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができることとしております。
 第六に、任意後見人の代理権の消滅は、登記をしなければ、善意の第三者に対抗することができないこととしております。
 次に、民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案につきまして、その趣旨を御説明いたします。
 この法律案は、民法の一部を改正する法律の施行に伴い、公示催告手続及ビ仲裁手続ニ関スル法律外百八十の関係法律について規定の整備等を行おうとするものであります。
 最後に、後見登記等に関する法律案につきまして、その趣旨を御説明いたします。
 この法律案は、民法禁治産及び準禁治産の制度を後見、保佐及び補助の制度に改め、新たに任意後見制度を創設することに伴い、禁治産及び準禁治産の宣告を戸籍に記載する公示方法にかわる新たな登記制度を創設し、その登記手続、登記事項の開示方法等を定めるものであります。
 以上がこれらの法律案の趣旨であります。
 何とぞ、慎重に御審議の上、速やかに御可決くださいますようお願いいたします。
○委員長(荒木清寛君) 以上で趣旨説明の聴取は終わりました。
 四案の審査は後日に譲ることといたします。

第146回参議院 法務委員会会議録第3号(平成11年11月16日)
○委員長(風間昶君) ただいまから法務委員会を開会いたします。
 まず、参考人の出席要求に関する件についてお諮りいたします。
 民法の一部を改正する法律案外三案の審査のため、来る十八日、参考人の出席を求め、その意見を聴取することに御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○委員長(風間昶君) 御異議ないと認めます。
 なお、その人選等につきましては、これを委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○委員長(風間昶君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。
○委員長(風間昶君) 次に、政府参考人の出席要求に関する件についてお諮りいたします。
 民法の一部を改正する法律案外三案の審査のため、本日の委員会に内閣総理大臣官房参事官冨澤正夫君、法務省保護局長馬場義宣君及び厚生省社会・援護局長炭谷茂君を政府参考人として出席を求め、その説明を聴取することに御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○委員長(風間昶君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。
○委員長(風間昶君) 民法の一部を改正する法律案、任意後見契約に関する法律案、民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案及び後見登記等に関する法律案、以上四案を一括して議題といたします。
 四案につきましては先国会において既に趣旨説明を聴取しておりますので、これより質疑に入ります。
 質疑のある方は順次御発言願います。
北岡秀二君 おはようございます。
 大臣、政務次官におかれましては、政府委員制度廃止という本当に画期的な新しい制度の中で、連日委員会対応をされておられましてお疲れのことと思いますが、これから何点かの質問をさせていただきたいと思いますので、よろしく御答弁のほどをお願い申し上げたいと思います。
 まず、きょうのこの関連の法案についてでございますが、成年後見の改正、これは一般的に皆様方御認識のとおり、時代の流れとともにその社会が欲するニーズというか、当然社会環境も変わってまいりますし、要求される価値観というのも変わってくる、そういう状況の中で、私ども政治、行政に携わる人間というのは適宜的確にいろんな対応をしていかなければならないというのが大前提にあるだろうと思います。そしてまた、なおかつそういう状況の中でこのたびの法改正、一つの大きな引き金になったのは、介護保険制度の導入というのも引き金になった一つの要因というような状況でございます。
 そういう状況とはいえ、私は前段に申し上げました社会の状況変化に対応するという観点から申し上げますと、このたびの法改正というのはもっともっと早く取り組まなければならなかったのではなかろうかなというような思いも込めて、質問をさせていただきたいと思います。
 御承知のとおりの現行の禁治産、準禁治産制度、私の身の回りにも何名かこの制度を適用されていらっしゃる方も承知をいたしております。皆さん方も御認識をされていらっしゃるだろうと思いますが、現行の制度はともすると社会的にはマイナスのイメージでとられている、そしてまた、なおかつ本当に身近なところでは社会的にはちょっと隠しておかなければならないのではなかろうかというような、申請をするサイドからすると社会的に非常に申請しづらい制度であったということも一つの事実としてあるだろうと思います。
 そういう状況の中で、このたびの法改正に関連しては各界各層の皆様方から、本当に何とか早く改正をしていただきたい、そしてまた、なおかつ新しい時代に即した使いやすい制度をこしらえていただきたいという要望が非常に強いというような状況でございますので、前段にそのあたりの現実的な数字というのがどういうふうになっておるのか。今、現行制度の禁治産、準禁治産制度を利用されている方々がどの程度いらっしゃるのか。そしてまた、なおかつ法務省として掌握できておる範囲の中で、もし法改正があるとすれば潜在的にその必要性がある方がどの程度いらっしゃるのか。まず、政務次官にお伺いを申し上げたいと思います。
政務次官山本有二君) 現行制度の利用件数は、平成十年の時点で年間、禁治産宣告等の事件が一千七百九件、準禁治産宣告等の事件が二百五十一件と、宣告の取り消し事件を含めて合計で一千九百件余となっております。
 他方で、痴呆性高齢者の数は、推計によりますと、平成七年の時点で全国に約百二十六万人と推計されております。また、厚生省の調査によりますと、知的障害者の数は平成七年の時点で約四十一万人、精神障害者の数は平成八年の時点で約二百十七万人であるとされており、成年後見制度の潜在的な対象者はかなりの数に上っていると認識しております。
北岡秀二君 これはもう本当にどなたもが御理解をされておることであります。今の数字、千九百件余ですか、そういう状況と、実質すべての方が私は必要とされているとは思いませんが、百二十六万とかあるいは四十一万とかいう数字を今いただきましたが、かなりのそのあたりの需要というのはあるように思うわけでございます。
 その状況の中でのこのたびの法改正ということで、私は、こういう状況を前提にした中で新しく制度を変えるということは、潜在的な需要がたくさんある、そしてまた、なおかつこれから法改正後に多分いろんな意味で、新しく取り組まれるがゆえにいろんな問題が起こってくるだろうと思います。それだけに、細部にわたっての慎重さも必要でしょうし、いろんな周りの状況に対する配慮というのも必要になってくるだろうと思います。
 そういった意味で、大きな枠から順次ちょっとお伺いを申し上げたいんですが、このたびの法改正による新しい制度の枠組みを決める上では幾つかの選択肢の中から判断されたことと思いますが、この政策決定の内容について、いま一度再確認をさせていただきたいと思います。
 まず第一に、補助、保佐、後見の三類型のいわゆる多元的制度を導入される予定でございますが、一般的に諸外国の状況というのを見させていただきますと、例えばドイツのように、世話法による民法改正がなされており、法定の類型を設けない一元的な制度として、裁判所が全面的に裁量権を行使して保護の措置を決めるスタイルをやっております。
 今回の法改正において、法務省は諸外国の制度も十分検討された上で決めたと思いますが、補助、保佐、後見の三類型の制度を採用した理由について、まず大臣に確認をさせていただきたいと思います。
国務大臣臼井日出男君) ただいま委員がお話しいただきましたように、成年後見制度の枠組みにつきましては、フランスなどのように多元的な制度をとった上で類型の内容を弾力化する考え方と、御指摘のドイツのように法定の類型を設けずに個別具体的な措置の内容を裁判所の裁量判断にゆだねる考え方とがございます。
 今回の改正につきましては、基本は我が国の実情に即した多元的制度をとりつつ、各人の個別的な状況に即した柔軟かつ弾力的な措置の設定を保障するという一元的な制度の趣旨をも取り入れることといたしたものでございます。
 制度の枠組みにつきましては、基本的に多元的な制度をとるのは、重度の精神上の障害を有する方について、本人保護の観点から一定の範囲の保護を定め、以下、判断能力の程度に応じて、保護の措置について本人の選択にゆだねる部分を順次大きくする仕組みが妥当であるからでございます。
北岡秀二君 次に、成年後見制度の対象者の問題について、これもちょっと再確認をさせていただきたいと思います。
 検討段階でいろんな方面からの議論があったと思います。最終的に、新しい成年後見制度の対象者は精神上の障害により判断能力の不十分な者に限定されるということになっております。つまり、私が申し上げたいのは、身体障害者は対象とされていないのでありますが、成年後見制度の対象者をこういうふうな形で決められた政策判断の理由について、政務次官にお伺いしたいと思います。
政務次官山本有二君) 昨年四月、重度の身体障害により意思疎通が著しく困難であり適切な表示行為をすることができない者を補助の制度の対象に含めることの適否について意見照会を行いました。これに対しまして、身体障害者の関係団体の大多数が消極の意見でありました。今回は、身体障害者成年後見制度の対象とはしないというように、そのためしたものでございます。
 この点についての経緯をなお申し上げますと、昭和五十四年の民法改正において、準禁治産制度の対象者から聾者、唖者及び盲者を削除いたしました。これは、これらの文言の削除を求めていた視聴覚・言語機能障害者の諸団体の要望に沿うものでありまして、その主な理由は、第一に、これらの者が一般に判断能力の劣る者であると誤解を世間に与えやすいこと、第二に、当該障害のために判断能力が不十分な者の保護は心神耗弱を理由とする準禁治産宣告により可能であることなどでございました。このときの議論は身体障害者全般にそのまま妥当するものと考えられますので、今回の改正において、身体障害者全般をこの制度の対象にすることは妥当でないとされたものでございます。
 以上です。
北岡秀二君 今の御答弁の中での議論というのは、私はまだ多少今後の推移というのも当然見守っていかなければならない状況もあるだろうと思います。
 賛否両論いろいろある中で、最終的に今回の一つの方向に決着をしたということでございますが、私は、新しい制度がいろんな意味で非常に使い便利がいい、そしてまた、なおかつ社会的に非常に有効だという認知がされれば、多少周りの環境の御意見、物の見方というのも変わってくる可能性もあるだろうと思いますので、このあたり法務省といたしましても、できるだけ注意をしながら、もし法が通って施行される段階の中で、後々のフォローをぜひともしていただきたいと思う次第でございます。
 私が先ほど触れましたドイツの制度、これを点検しますと、成年後見制度の利用者やその家族などの関係者による申し立てを待つことなく裁判所が職権で手続を開始することができるようでございます。これは、裁判所の負担というのは非常に大きくなるという一面を持つものではありますが、一方で身寄りがない本人ということからすると、成年後見制度の利用を考えてくれる人のいないような方々が裁判所の職権開始によって保護を受ける機会が確保される、これは私は一つのすばらしい制度ではないかなというような感じがするんですが、こういう家庭裁判所が職権で後見開始の審判等をする制度としなかった理由をお伺いしたいと思います。
政務次官山本有二君) 先生御指摘のとおり、改正案は現行法と同様、家庭裁判所の職権により開始することとしていませんが、これは第一に、私的自治の尊重等の観点から、本人の行為能力等に一定の制限を加えることとなる手続を中立的な判断機関である裁判所がみずから開始するということに問題があるというように考えました。
 第二番目に、判断能力の不十分な者に関して、積極的に情報を探知することは裁判所の司法機関としての性質になじまないということでございます。
 なお、今回の改正では老人福祉法、知的障害者福祉法、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律を改正いたしまして、市町村長に後見開始の審判等の申し立て権を付与することとしております。これは、市町村が各種の福祉サービスを行う過程において身寄りのない判断能力の不十分な方々に対する成年後見制度による保護の必要性を把握することができ、必要に応じて申し立てを行うことが可能であるということを理由とするものでございます。
 したがいまして、市町村長が民生委員等からの通報に基づいて適切に必要な申し立てを行うことで十分な保護が図られるものと考えておる次第でございます。
北岡秀二君 続いて、制度の運用面にかかわる部分についてお伺いしたいと思います。
 このたびの改正では、制度の利用者本人の保護を図る立場に立つ成年後見人等の選任に関しては、現行法に対する指摘を踏まえたかなりの改正がなされております。しかしながら、この法律案が成立しても新しい制度が本当によかったかどうかは、実務における実際の運用によって決まってくるものであると思います。新制度の実効性を確保するためには、実際にどのような人が成年後見人等になるかが非常に重要なことであると思うのであります。特に、利用者本人の利益保護を考えると、本人と利益が相反する者を選任することは大変不適当であり、そのチェックが十分にされる必要があると思うわけであります。
 そこで、個々の事業において確実に適任者を選任するとともに、本人との利益相反のおそれのある個人や法人のような適任でない者を選任しないようにするためにどのような法律上の手当てがなされているのか、政務次官にお伺いしたいと思います。
政務次官山本有二君) 今回の改正では複数または法人の成年後見の選任を認めております。そして、配偶者法定後見人制度を廃止しております。家庭裁判所がこのように事案に応じて適任者を成年後見人に選任するというような建前をとっております。その上で、民法改正案の第八百四十三条第四項では、家庭裁判所成年後見人の選任に当たって考慮すべき事情を例示的に列挙して規定しております。
 ここでは特に、成年後見人等の候補者と本人との利害関係の有無を考慮事項として掲げ、その候補者が法人である場合には当該法人及びその代表者と本人との利害関係の有無も考慮すべきものとしているのは、本人との利益相反のおそれのない個人または法人が選任されることを制度的に担保する趣旨によるものでございます。この趣旨からしますと、本人が入所している施設を経営する法人については、利害関係の有無について特に慎重な審査が必要となるものと考えております。
 以上でございます。
北岡秀二君 次に、適任者を成年後見人等に選任し、成年後見が開始した後の問題についてお伺いしたいと思います。
 成年後見人等は、本人の身上に配慮しつつ財産管理等の事務を行うことになるわけでありますが、権限が広範になれば、それに伴ってその乱用のおそれも考える必要が大きくなると思います。幾ら適任者を選任したといえども財産管理を行う中で過ちが起こらないとも言えない。そうした権限乱用を未然に防ぐことが重要である。
 そこで、今回の改正では成年後見人等の権限を充実させることにより、本人保護の実効性を高める一方で、成年後見人等の権限の乱用により、本人が被害をこうむることのないようにするためにどのような対策が講じられておるのか、続いてお伺いしたいと思います。
政務次官山本有二君) 成年後見等の権限乱用の防止については、次のような方策を講じております。
 まず、成年後見人等に対する監督を充実させるため、既存の成年後見人に加えて新たに保佐監督人、補助監督人の制度を新設しております。また、法人もこれらの監督人となることができることを法文上明らかにしております。
 また、家庭裁判所の職権によりこれらの監督人を選任することもできるものといたしました。この点に関連して、適任者を確保するため、家庭裁判所はこれらの監督人に報酬を付与するということにしております。
 また、改正案では、成年後見人等の解任の請求権を後見監督人、被後見人もしくはその親族等に与え、家庭裁判所の後見事務等に関する必要な処分の請求権を本人にも付与するなど、家庭裁判所の監督機能をより一層充実させるための改正を加えることといたしました。
 以上でございます。
北岡秀二君 このたびの制度改正でもう一つ注目をしなければならない点の中に、現行の戸籍への記載という状況の中から新しく登記制度に切りかわるというようなことになっております。
 これはもう私も前段に申し上げましたとおり、戸籍に記載をされるということで、社会的に非常にいろんな部分で気を使っておった。そしてまた、なおかつ、それがあるがゆえにその適用を避けておられた方もいらっしゃることも事実だろうと思います。そういう状況の中で、このたび登記制度に変えようとすることは非常に私はすばらしいと思いますし、なおかつ各界からの反応というのもいいんじゃないかなというような感じがするわけでございます。
 その後見登記制度についてお伺いしますが、後見登記等に関する事務は法務大臣の指定する法務局等が登記所としてつかさどることになっており、当初は東京法務局のみを指定する予定ということを私はお伺いしております。なぜ東京法務局なのか、ちょっとお伺いしたいと思います。
政務次官山本有二君) 成年後見登記制度を運用するためには他の登記制度と同様、利用者に費用を負担していただくということになります。利用者の過度の負担を一方で避けなければなりませんが、経費をできるだけ抑える必要がございます。
 登記事務を取り扱うには所管庁ごとに新たにコンピューターシステムを備えなければならないため、大変膨大な経費がかかります。そこで、この経費をできるだけ抑えるために、制度の施行前に利用件数の正確な予測ができないというようなことを勘案して、制度発足当初については東京法務局のみを登記事務を取り扱う登記所として指定する予定でございます。
 以上です。
北岡秀二君 ある程度試行的に行われる部分もあるだろうと思います。
 ぜひともそのあたり、利便性等を考えてみると、当初のスタートが東京法務局ということであれば、地方に住んでおる方々にとりまして使い勝手が悪いんではなかろうか。あるいはいろんな面で、身近な役所でないばっかりに、ともすると大事な、これは後でもう一つ質問しますが、広報、PRという観点からしてもちょっと縁遠い存在になっていろんな障害が起こりゃせぬかなというような危惧を抱いておるわけでございます。
 そのあたりについて、利用を促進するという観点から申し上げると、今の東京法務局一カ所というのはどういうふうにお考えなのか、政務次官にお伺いしたいと思います。
政務次官山本有二君) 先生おっしゃるとおりでございますが、東京法務局に全国の登記事務を所管させたとしましても、当事者は登記及び証明書の取得の手続のために登記所に出頭する必要はありませんので、利用者にとって格別の不便とならないものと考えたいところでございます。
 そして、詳しく説明いたしますと、後見開始の審判等がされたとき、または任意後見契約に係る公正証書が作成されたときは、裁判所書記官または公証人からの嘱託によって登記されますので、この場合には当事者は関与することはございません。また、当事者が行う変更、終了の登記申請及び登記事項証明書の交付請求につきましては、政令等で郵送の方法によることもできることとする予定でございまして、この場合には当事者の登記所への出頭は不要となります。
 なお、郵送の方法による登記の申請、登記事項証明書の交付請求の手続を利用しやすいものとするために、申請書、交付請求書の定型書式、いわゆるひな形でございますが、手続等をわかりやすく説明した一般向けパンフレット等を作成し、これらを各法務局、地方法務局の窓口等に備え置くとともに、関係機関、関係団体に配布し、さらにはインターネットのホームページに掲載するなどしまして、関係各方面との連携を図りながら周知啓発の施策を講ずることとしております。
 以上でございます。
北岡秀二君 何でもそうなんですが、新しい制度ができるときに、一つの側面なんですが、ともすると地方に行けば行くほど新しい制度の普及というのはおくれがちの部分もございます。なおかつ、利用されるサイドからすると、そのあたりの利便性の享受、あるいは恩恵といったら変なんですが、恩恵を受けるというのは、社会的に新しいことに取り組む姿勢というのがともすると地方というのは弱いものですから、そういう状況の中で今のお話、これはもう社会のニーズということからすると大変すばらしい新しい制度でございますので、全国均衡のある形で普及ができるように、いろんな工夫もこれから引き続いてやっていただきたいと思います。
 このことに関連してなんですが、私もこの立場で地元の町村長さんによくお会いをします。私が法務委員会に所属をして、このたびこういう法律がありますよという説明もよくするんですが、成年後見制度の改正ということに対して余り行政サイドにいらっしゃる方々にとっても、直接の担当者は十分に承知しておるんだろうと思うんですが、行政に関係しておりながらまだまだ十分に認識されていないというような状況もあろうかと思います。そしてまた、なおかつ利用されるサイドの立場も、いろいろ世話をされていらっしゃる関係の方々にとりましては非常に認識は深いところもあるだろうと思いますが、本当に利用されるその末端の方々にとって、まだまだこの制度が新しく変わっていくということに対する認識というのは私は薄いような感じがする。
 そしてまた、これはもう本当に画期的な新しい制度でございますし、なおかつ非常に必要とされる部分もあるということからすると、このたび法改正が成ったら、そういう意味での周知徹底、そしてまた利用者が利用しやすい制度として広く国民の間に定着するようになるためには、いろいろな努力、工夫が必要だろうと思います。
 最後に大臣、このあたりの取り組む姿勢をお伺いして、私の質問を終わりたいと思います。
国務大臣臼井日出男君) 今、委員お話しいただきましたとおり、こうしたものの周知徹底、地方の普及がおくれるということはあってはならないわけでございまして、新しい成年後見制度が真に利用しやすい制度として運用するための方策といたしまして、先ほど政務次官からもお話しございましたが、一般の利用者にとってもわかりやすいパンフレットその他の説明資料等を作成いたしまして、今お話をいただきました地方公共団体等も含めた全国の関係機関、団体に配布するなど制度の周知や広報に努めてまいる予定でございます。また、新しい成年後見制度の利用のための相談体制の整備や、成年後見人等の制度の担い手の確保についても関係機関と連携協力を図ってまいりたいと考えております。
北岡秀二君 終わります。
竹村泰子君 おはようございます。民主党の竹村でございます。
 今回、百年ぶりの民法改正ということで少しく御質問を申し上げたいと思います。
 知的障害者精神障害者、痴呆性高齢者、いずれの方々も当然、どんな重い障害を持っておられても社会の構成員の一員として参加し得るはずでありますし、物事の判断能力が現代社会の複雑多様な制度や約束事を理解する上で不十分な状況にありますために、援助や社会的なサポートが必要であるにもかかわらず、実際には適切かつ十分な援助が得られない状況に置かれていることが多く見られます。それゆえ、これらの人々は人権を著しく侵害をされておられる事件が多々ございます。そして、犯罪事件に不本意ながら巻き込まれるケースも多いというふうにお聞きしております。
 私の地元札幌におきましても、両感音性難聴による聴力レベルが右が百十デシベル、左が百十デシベル及び言語機能障害という障害を持った方なんですけれども、身体障害一級の認定を受けている方なんですが、知的能力もIQ三二のハンディキャップを持って、そして小規模授産所に通所していた一人の成年がおります。この成年がその授産所の指導員から、これまでの生活の中でためてきた貯金一千万円をだまし取られるという詐欺事件がありました。その授産所を取り巻く関係者や警察、検察の努力によって、ことしの九月になって指導員らが詐欺容疑で警察に逮捕されました。十月に関係者二名が起訴され、ちょうどきょう第一回公判が開かれるということになっています。この事件を熱心にフォローし、また成年の代理人ということで警察に告訴状を出し、三年たってやっと逮捕、起訴というところまでこぎつけました私たちの仲間の弁護士は、この一連の経過の中で、特に検事との折衝の中で被害者本人の証言能力等に不安を抱く検事に対して、知的障害者は被害者にもなれないのかと強く迫って事に当たったというふうにお聞きをしております。
 このような事件を繰り返させないために、私は議論されている成年後見人制度が一日も早く成立し、実社会において具体的に使われやすく、そして法務省が言うように、高齢者や障害者の自己決定権を尊重し、残された能力をできるだけ活用できるという理念を生かした制度にすべきだと思い、そういった観点から以下御質問申し上げたいと思います。
 同僚議員からも今ありましたが、まず現行民法上、禁治産、準禁治産制度及び後見・保佐制度が設けられておりますけれども、家庭裁判所での既済事件の推移等を見る限り、現行法の成年後見制度の利用状況は極めて低調と言わなければならぬ。それはいろんな理由があると思いますけれども、その原因、要因をどのようにお考えになっておりますか。
国務大臣臼井日出男君) 現行の禁治産、準禁治産の制度につきましては、心神喪失心神耗弱といった重度の精神上の障害により判断能力が著しく不十分な方々だけにしか対象とされません。軽度の障害者が対象とされていないことが問題でございます。次に、二つの類型の間で大きく異なる効果が定型的に法定されていて、内容も硬直的で利用しにくいことが挙げられます。三つ目といたしまして、禁治産、すなわち治産を禁ずるという用語の問題や広範な資格制度などについて関係者に抵抗感があることが挙げられます。四つ目といたしまして、戸籍への記載について関係者に抵抗感があることが挙げられます。それら等々の問題が指摘されております。
 これらの問題点が御指摘の問題の要因として考えられるのではないかと思います。
竹村泰子君 そういったことがいろいろ原因、要因として考えられるために非常に低調であったということが言われると思いますけれども、現行の成年後見制度について少し立ち入って質問をいたしますが、現行の成年後見制度の申し立ての動機、目的はどのようなものになっているでしょうか。
最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) 御説明申し上げます。
 私どもが平成八年に行いました全国の実態調査の状況を見てみますと、申し立ての動機といたしましては、財産管理の必要からという事案が約四〇%を占めております。さらに、遺産分割を行うためというようなものが二六%、さらに訴訟手続を行うためというものが一三%等となっている状況にございます。
 以上でございます。
竹村泰子君 現在、援助、社会的サポートを必要としている痴呆性高齢者、知的障害者精神障害者等の判断能力の不十分な成年者の数、先ほど北岡議員にもお答えがありましたけれども、もう一度お願いいたします。
 知的障害者四十一万、精神障害者二百十七万、痴呆性高齢者七十万というふうにさっきお答えがあったかなと思いますが、それでよろしいでしょうか。
国務大臣臼井日出男君) ただいま御指摘の知的障害者の判断能力の不十分な方々の総数でございますが、まず痴呆性高齢者の数は、ある研究所が行った推計によりますと、平成七年度の時点で全国に百二十六万人と推計されております。また、厚生省の調査によりますと、知的障害者の数は平成七年の時点で約四十一万人、精神障害者の数は平成八年度の時点で約二百十七万人であるとされております。
竹村泰子君 失礼しました。百二十六万人であったわけですね。
 そうしますと、大体これを足した数、四百万以上の方たちが、今回の成年後見制に、全部ではないですね、この中できちんと御自分で判断能力をお持ちで、成年後見制のような制度は必要ないという方もあるいは入っているかと思いますけれども、大体四百万を出る方たちが該当するということですね。
 今お答えにありましたように、現行制度の利用の動機、目的から見ましても、財産管理、財産処分が一番多いと。そうしますと、その事案の内容あるいは現行制度上で審理する側の家庭裁判所として抱えている問題点、課題といいますか、困難な点はどのような点でしょうか。
最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) 財産管理に関する申し立てを行った事案の特色といたしましては、将来起こるであろう遺産分割のいわば前哨戦とも言えるような本人をめぐる財産関係のトラブルが背景にあるという事案が少なくないようにうかがわれるところでございます。
 こういった事案を見てみますと、三点ほど問題があろうかと思うわけでございますが、まず第一点は、その鑑定等を行うための医者の確保の問題でございますけれども、多くの場合主治医の方が鑑定等をされるわけでございますが、この主治医の方が鑑定をされますと、いわば親族間の財産争いに巻き込まれるというところから、鑑定を受けるについてためらう方が少なくないという状況にあるようでございまして、そういった場合は医者の理解を得るべく努力しなければいけないという点がございます。
 二番目の点は、後見人に適任者を選ぶことについての問題でございまして、親族が幾つかに分かれて相争っているような場合におきましては、その中立公平な立場で後見事務を行ってもらう方を的確に把握するということがなかなか難しい、慎重な判断が必要になってくるという面があろうかと考えております。そして、必要な場合には、後見人として親族以外の方、例えば弁護士さんでございますとか、そういった福祉関係の方でございますとかにお願いする場合も出てこようかと考えているところでございます。
 三番目には、後見事務を行うに当たりまして、その親族間の利害関係の対立からなかなか後見人が思うように後見事務を行いがたいという問題もあるようでございまして、こういった場合には、後見監督を通じまして関係者間の調整を図っていく必要があるという状況にあるところでございます。
 以上でございます。
竹村泰子君 今ちょっとはっきりしなかったんですが、後見事務を行いにくいというのは例えばどんなことがあるわけですか。
最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) 例えば、ある財産を処分するかどうか等につきましても、その親族の一つのグループは処分すべしと言い、他方はこれは残すべしと言う、そういった御本人の財産をめぐっての将来を見据えた思惑が入り組んでくるというような事案があるということでございます。
 以上でございます。
竹村泰子君 そういうときにはどういうふうにしていらっしゃるんでしょうか。非常に難しいケースの場合。
最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) 後見監督を家庭裁判所が行っていく過程におきまして、そういった親族間の厳しいトラブルがある場合には、家庭裁判所調査官等がその関係者に働きかけをいたしまして冷静な判断を行えるような環境づくりをするということが考えられますし、さらに必要があれば、親族間の関係調整という調停事件として事件を出してもらいまして、その場で調整を図ることも考えられるところでございます。
 以上でございます。
竹村泰子君 その調査官は御本人にもお会いになりますか。
最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) 必要に応じて御本人にお会いすることになろうかと考えております。
竹村泰子君 最近の禁治産・準禁治産宣告事件の特徴として、高齢者をめぐる紛争性のある事件の増加、鑑定人の選任に困難を来す事件の増加、後見人の認定に困難を来す事件の増加などが今おっしゃったとおりいろいろあるわけですね。これらのうちの幾つかは、今回の民法の一部を改正することによって対処しやすくなるとは思いますが、繰り返しになりますが、新たな成年後見制度の創設を求める世論なり社会の仕組みなりを求める背景事情とは別に、これまで現行制度を運用してきた側からの新制度への取り組みの姿勢というか、理念をお伺いしたいと思います。
国務大臣臼井日出男君) 今回の成年後見制度の改正は、判断能力の不十分な成年者を保護するために、高齢社会への対応及び知的障害者精神障害者等への福祉充実の観点から、自己決定の尊重、残存能力の活用、ノーマライゼーション等の新しい理念と従来の本人の保護の理念との調和を旨として、柔軟かつ弾力的な利用しやすい成年後見制度を構築しようとするものでございます。
 今回の改正につきましては、このような理念に基づきまして、成年後見制度の充実を求める福祉分野からの要請にこたえるべく鋭意取り組んでまいった次第でございます。
竹村泰子君 大臣、新制度への取り組みの姿勢とか理念ということで、今の御答弁でよろしいですか。──そうですか、はい。
 さて、新しい成年後見制度について、私は、痴呆性高齢者にしても知的障害者精神障害者にしても、非常に多様な症状というか一律ではないというか、症状はさまざま違うと思うんです。一人一人違うと言った方がいいかもしれないと思います。
 私がさっき触れました札幌の成年にしても、あるときはとてもしっかりとした本当に正しい意見を言うかと思うと、あるときは日によってあるいは時間帯によってはもう支離滅裂なことを言い出すというふうなことで、私が先ほど調査官は本人にもお会いになりますかとお聞きしたのはそういう意味もありまして、本当にさまざまな症状があり、さまざまな状態があるというふうに思うんです。
 これは大臣にお伺いいたしますが、こんなさまざまなケースがあるのに、今回、後見、保佐、補助、この三類型の制度にするのは私はいささか難があるのではないかというふうに思っているんです。
 理想としては、この種の制度の進んだ国のように、例えばさっきドイツのお話がありましたけれども、ドイツのようにあるいはヨーロッパのほかの国のようにタイプ分けをせず、それぞれのケースごとにきめ細かい支援内容を決定する。世話法というのがあって、さっきお話がありましたけれども、世話人支援センターというのがありまして、担当裁判官は本人の自宅に必ず出向き、住居や周辺環境などをその目で確認した上で、直接本人と面談をしていろいろな必要性について最終的に判断を下す。非常にある意味では、そんなことをしていられないよということもあるかもしれないし、ちょっと煩雑に見えるかもしれないんですけれども、世話人制度というのは、ドイツの場合世話人制度と言っているわけですが、一歩間違えると個人の自由をかえって束縛してしまう。その手続は厳格に行われなければならないという哲学のもとに、こういうきめ細かい面接あるいは調査といったことが行われているというふうにお聞きをしております。
 この三類型という方式の大きな問題点は、法務省が新たな制度の理念として掲げる残存能力の活用という言葉に反して型はめを優先させる、本人が自分でもできることにも介入する、ほっといてくれればいいところにも介入する。障害者の自立ということでもこれは言えることでして、お世話をする人たちが必要最小限度のケアにとどめるということは大変大事なことだというふうに思っていますが、いわば後見的補助介入、過剰的に生活すべてにかかわってしまうという問題点も含まれているというふうに考えます。
 改めて、後見、保佐、補助の三類型というふうにタイプ分けをしてしまった、しかも三類型にタイプ分けをしてしまったこの理由をお伺いしたいと思います。
国務大臣臼井日出男君) 成年後見制度の制度的枠組みにつきましては、比較法的にいきますと、一つとして、フランスのような多元的制度をとった上で類型の内容を弾力化する考え方がございます。また、ただいま委員がお話しいただきましたドイツのように世話人制度をとり、法定の類型を設けずに個別具体的な措置の内容を裁判所の裁量、判断にゆだねるという考え方もございます。
 今回の改正案におきましては、基本は我が国の実情に即しました多元的な制度をとりつつ、各人の個別的な状況に即応した柔軟かつ弾力的な措置の設定を保障するという一元的制度の趣旨をも取り入れておるものであります。
 制度の枠組みにつきましては、基本的に多元制度をとるのは、一といたしまして、重度の精神上の障害を有する方については、本人の保護の観点から一定の範囲の保護を定めて、以下、判断能力の程度に応じて保護の措置について本人の選択にゆだねる部分を順次大きくしていくという仕組みが相当であること。二つ目といたしまして、一元制度をとったといたしましても、裁判の実務においてはある程度の類型化の必要が生ずること。三つ目といたしまして、多元的制度のもとで法定の類型等、基準が示されている方が制度の利用者としても予測可能性があって利用しやすいことなどの理由によるものでございます。
 今回の補助、保佐、後見の三類型の考え方は、多元的制度をとりつつ、各人の個別的な状況に即した柔軟かつ弾力的な措置の設定を保障するという一元的な制度の趣旨をも取り入れておる、先ほど申し上げたとおりでございまして、御指摘のような、人を型に当てはめるようなことにはならないと考えております。また、本人保護や利用しやすさという面から見ても適当なものと考えております。
竹村泰子君 大臣、私は大臣の人間的ないろいろなことを尊敬いたしますけれども、やっぱりこういった法案の根幹になる部分というか、哲学というような部分というか、人間をそういうふうに三つの分類に分けてしまえるだろうかと。確かな判断力を少々失った人から非常に重い障害を持ってほとんど御自分の存在もわからないようないろんなタイプの人たちがいらっしゃる中で、そんなふうに分けてしまえるだろうかと本当にお思いでしょうか。
 役人の書いた答弁じゃなく、大臣のお思いをちょっと聞かせていただきたいと思います。
国務大臣臼井日出男君) 今回の改正は、従来の禁治産、準禁治産との考え方の問題点となっておったところをいかに改善するかということも考えた上で、それらの日本的な物の考え方の流れの中でもって保佐あるいは補助、後見という制度に新しくつくり上げたものでございまして、ただいま申し上げましたとおり、それぞれの成年後見あるいは多少本人の裁量を得ることができる保佐、そうした裁量の幅も持っておりまして、私は、今制度で新しく、いろいろな御不自由をしていらっしゃる方のために十分役目を果たし得る、このように考えております。
竹村泰子君 ありがとうございます。
 ちょっときょうは厚生省においでいただいていますので、介護保険との関係をお伺いしたいと思います。
 いろんな御意見が後から出てきてかなり迷走ぎみの、ダッチロールと言われていますが、来年四月から介護保険がスタートいたします。
 周知のように、これは行政庁が介在する措置制度ではなくて利用者と事業者とが直接契約を結ぶという仕組みであります。この措置から契約へというサービスの提供のあり方、この改革、これが介護サービスにとどまらず、社会サービス全般、福祉サービス全般が契約型へと移行し始めていると言っていいかと思います。これも新成年後見制度創設の一つの背景であろうと思うわけです。
 御承知のように、厚生省は国の補助事業として地域福祉権利擁護事業というのをスタートさせていらっしゃいます。私の地元北海道でも、十月一日から北海道社会福祉協議会が北海道地域福祉生活支援センター制度を開始しました。全道十五カ所に地域福祉生活支援センターというのができております。
 これを統括する本部を置いて事業を進めているわけでありますけれども、このような事業がより地域の中に浸透し、そしてその活動がもっと幅を広げてくれば、当然、順調にいって来年四月に始まる新成年後見制度との接点は多くなっていきますし、特に三類型のうちの補助類型と言われるタイプについては、福祉事務所からの助言の内容においてもふえてくることは間違いないのではないかと思われます。ある学者の方は、この補助類型がいかに柔軟に、いかに幅広く多様に運営されるかがまさに成年後見制度の成功か否かということのかなめであるとおっしゃるくらいであります。
 それは後見、保佐にも同様なことが言えるはずであり、そうだとすれば、現行制度の利用状況より確実に新制度の利用はふえるというふうに考えられますが、これは厚生省の御意見、それから法務省の御意見もお伺いしたいというふうに思います、その判断、体制づくりともに。
○政府参考人(炭谷茂君) ただいま先生が御指摘になられましたように、これからの社会福祉の基本というのは、現在の措置制度から利用契約制度へという方向が正しい方向だろうというふうに思っております。
 そうした場合、例えば痴呆性高齢者、また知的障害者精神障害者の方々などのように判断能力が不十分な方々が実際に利用契約制度で選択をするということがなかなか難しい場合がございます。しかし、そのような場合であっても利用契約制度が活用できるようにしなければいけない、いわばできる限り自己決定能力を確保するということが重要ではないかと思っております。
 したがいまして、これから、私ども既に十月から発足させておりますけれども、地域福祉権利擁護制度というのはこのような判断能力の不十分な方々を援助して自己決定能力を十分に活用していただくという制度でございまして、このような需要というのは先生御指摘のように高まっていくだろう、また私ども、それに応じた体制づくりに努力してまいりたいというように考えております。
政務次官山本有二君) 先生御指摘のように、この補助というのは今回の改正で新設をされた制度でありまして、いわば最も時代に即応した形の制度を創設したという考え方をとっております。
 特に、対象者を軽度の痴呆、知的障害、精神障害等により判断能力が不十分な者、こういうわけでありまして、一般的な見方では普通の人と変わらないというところを本人のいわば同意を必要とさせながら特定の法律行為に限ってだけ代理権を補助人に付与する、しかも申し立ての範囲の中で家庭裁判所が定めていく、こういうことでありますから、本人の意思も尊重しつつ、家庭裁判所等の後ろからの判断、後見的な判断ということも十分にできるわけでございます。
 特に、先生御指摘のように、利用される数がどうかということになりますと非常にこれだというように言いにくいわけでありますが、先ほど先生にお示しさせていただきましたような痴呆性高齢者が百二十六万いるということも一つだろうと思いますし、もう一つ言わせていただければ、フランスで、この補助制度導入時にわずか四百から六百件の申請しかなかったものが、導入後十年たちますと二万件になっているという飛躍的な活用の実態がございます。そう考えれば、我が国においても相当数この活用が見込まれるだろうというように思います。
 加えて、先生の御指摘は、補助人の担い手として一体どういうものがあるかというような点も御指摘いただきましたが、それは、親族、知人に加えて、弁護士、司法書士等の法律専門家、社会福祉士等の福祉の専門家等がこの補助人の候補者として考えられておりますし、それに加えて、社会福祉協議会、福祉関係の公益法人等の法人もその候補となると考えられております。
 これらの関係団体、機関等におきましては、新しい成年後見制度の施行に備えて成年後見人等の供給源としての体制を整備するため各種の研修や人材養成の検討、実施が進められており、法務省といたしましては、改正法の施行の前後を通じて関係各方面との緊密な協議、連絡を行いながら、これらの各種団体、機関における研修、養成等の体制の充実に協力していきたいと考えております。
 このように、成年後見人等の担い手の養成、研修は、各種の関係団体、機関等においてそれぞれの技能、特性等に応じた個別の体系に即して行われるものでありますので、これらの私的な各団体、機関の自主的な実施にゆだねつつ、その運用について、必要に応じて個別に連携協力していくのが相当であると考えております。
 以上でございます。
竹村泰子君 政務次官、ありがとうございます、次の質問も答えてくださったんですけれども。
 私は、これらの類型はみんな一様にさまざまな条件が絡み合って増加してくると、先ほども言ったように。しかし、請求要件がふえた制度がイコール利用できる制度では決してないと。家庭裁判所が事案に応じて適任者を成年後見人、保佐人、補助人に選任できることになっても、それが複数であることも認められても、また法人がそれになることを可能として、それらに該当する人材がいなくてはどうしようもないわけでございます。実際にふさわしく信頼できる後見人、保佐人、補助人及び監督人を養成することが急務であり、そのような人材育成のバックグラウンドはどう確立されるんですかという質問を申し上げようと思いましたが、政務次官が今詳しくお答えくださいました。
 この成年後見制度を初めて真に利用できる制度に一歩近づけるためにそういった人材育成が必要ではないかと思ったのですが、今お答えをお聞きしたところによりますと、弁護士会司法書士会等、それから福祉事業団とかこれまでのいろいろ社会福祉的な事業にかかわってこられた方たち、あるいは弁護士さん、司法書士さんのようにいろいろ法律的な問題に助け手としてかかわってこられた方たち、そういう方たちを考えておられるようで、新たに人材育成をしようとか、これは厚生省もどう考えておられるか、もしお考えがあったらお聞かせいただきたいですが、そういうふうにしっかりとした人たちを養成して人材をつくっていかなきゃならないというふうには考えておられないわけですね。
 法務省、もう一度お答えいただいて、そして厚生省もお伺いします。
国務大臣臼井日出男君) 今、御指摘をいただきました新しい成年後見制度が真に利用しやすい制度として運用されるようにするためには、成年後見制度の受け皿の整備というものが大変重要であると考えられます。
 そこで、これら受け皿の整備が法改正の前後を通じて円滑に推進されるように、諸関係団体、今申し上げました弁護士会でございますとか司法書士会でございますとか社会福祉士会、社会福祉協議会あるいは厚生省等を初めとする関係各方面と緊密な協議、連絡を行いながら十分な連携を図ってまいりたい、このように考えております。
 特に、成年後見人等の制度の担い手の確保につきましても、各種の団体、機関等における候補者の研修あるいは名簿のリストアップ、推薦等の体制の充実が円滑に進むように関係各方面と緊密な連携協力を図ってまいりたいと考えております。
○政府参考人(炭谷茂君) 地域福祉権利擁護事業は何分にも新しい事業でございまして、何よりもやはり先生の御指摘のように、それに携わる職員の資質、また能力というものが大変重要かと思っております。
 そこで、私どもといたしましては、まずこの事業を実施するに当たりましてどのように進めたらいいだろうかというマニュアルづくり、できるだけわかりやすいマニュアルづくりというものを始めたわけでございます。きょう、ちょうど持ってきてまいっておりますけれども、このように非常にわかりやすい分厚いものを一年、半年かけてつくらせていただきました。(資料を示す)この事業に関与をされておる弁護士の方、また実際にこれらの事業は東京都、大阪等の第一線で既に先行事例がございますので、そのような方々の御意見も入れながらこのようなわかりやすいマニュアルをつくらせていただいております。
 ただ、マニュアルをつくっただけでは意味が不十分でございますので、既に先月、これに携わっていただく職員の研修会というものを実施いたしまして、できる限り適切な事業を実施していただく人材というものを養成したところでございますけれども、またこれからもさらに不十分なところは足していきまして努力をしてまいりたいというように考えております。
【次回へつづく】