精神医療に関する条文・審議(その115)

前回(id:kokekokko:20051201)のつづき。初回は2004/10/28。
ひきつづき、平成11年の成年後見制度制定・精神保健福祉法改正についてみてみます。

第146回参議院 法務委員会会議録第3号(平成11年11月16日)
【前回のつづき】
竹村泰子君 次も厚生省に少し介護保険との関係でお伺いしたいと思います。
 新しい成年後見制度の理念の一つとして身上監護の重視ということをうたっております。それは考え方として、財産の管理、保全だけではなくて、本人の営む生活支援、自己決定支援を重視するべきだということだと思いますけれども、ここで言う身上監護を行う適切な場合の身上監護のサービスの範囲といいますか、具体的にはどのようなことが想定されているのでしょうか。
 つまり、財産管理、財産処分以外の、例えば介護サービスの手配とかお買い物の支援とか、そういった身の回りの問題のどこまでに対応するつもりか。これも非常に多様だと思うんです。ある人は音楽会に行きたいと言うかもしれないし、ある人は本当に市場のにぎやかなところへ行きたいと言うかもしれないし、いろんなニーズがあると思うんですが、どこまで対応するつもりなのでしょうか。
○政府参考人(炭谷茂君) この地域福祉権利擁護事業の範囲でございますけれども、いわば現在議論になっております成年後見人制度との守備範囲の問題、成年後見人制度というのはいわば財産管理とか身上監護に伴う法律行為の援助ということになろうかと思いますけれども、私どもの地域福祉権利擁護事業というのは、いわば日常的、また頻繁に生ずるような福祉サービスへの適正な利用の援助、例えば契約の申し込みの手続の問題とか、また代行とか、それから具体的に申しますと、まず最初は情報の提供、助言、それから手続の援助、それから利用料の支払い、また苦情解決制度の利用援助というような福祉サービスの利用援助が該当いたしまして、いわば身上監護、具体的なホームヘルプサービスのようなことはここでは想定していないわけでございます。
竹村泰子君 そういうはっきりしないというか、非常に範囲の広い御要望がどう出てくるかということで、そのときに適切な判断をしなければならない問題も多々あると思いますので、余りここで今、この場合はどうするんだ、この場合はどうするんだと言っても仕方がないと思いますから、まだ試行錯誤の段階であるというふうに受けとめておきたいと思います。
 次に、費用の問題です。
 先ほど申し上げました厚生省の地域福祉権利擁護事業では、この制度の利用者と地区センターが契約を結んで、その契約に基づいて具体的にサービスを提供するのが生活支援でありますけれども、このサービスの利用料は私の住んでおります北海道では一時間千二百円、東京では千円となっております。その内訳は、北海道でいえば、生活支援員の報酬額九百五十円と総合賠償保険料百七十円に消費税を合わせたものということではじき出されているようなんですけれども、生活支援員の報酬は家事援助滞在型時間給ホームヘルパーの道内社会福祉協議会の平均報酬でありまして、東京の最低賃金をベースとしているというふうにお聞きしております。それにそれぞれ生活支援員の移動に係る実費が加算されるわけです。
 さて、この費用の面につきましては、はっきりと二つの側面があるというふうに思います。
 一つは、利用者というか請求者から見た場合、提供されるサービスの割には費用がかさむようではその制度利用に二の足を踏む人が出てくるでありましょうし、厚生省の事業の場合は、生活保護受給者は公費負担があるというので無料になっておりますけれども、そうでない人の場合には、やっぱり生活保護を受けておられない低所得の方たちの場合には大きな問題であるだろうと思います。
 もう一つの側面として、サービス提供者の報酬という面も大事な点であることを指摘したいと思います。この種のことをいわゆるボランティア的に考えるのは明らかに間違いでありまして、きちんとした職種として確立していないと先細りになってしまうのは目に見えております。これらのことはそのまま新成年後見制度に当てはまると思いますけれども、いかがでしょうか。
 法務大臣もお聞きになっていていただいて、こういった問題点もあるということで、すべて自己負担だとすれば、経済的に恵まれなくてもこの制度を利用できるような工夫や費用を考慮しなければならないと思いますけれども、制度の定着はこの点からは難しくなると思いますが、いかがでしょうか。
 誤解なきよう申し上げますが、私は厚生省の地域福祉権利擁護事業と成年後見制度とどちらがよいとかどちらが悪いとか、こうすればよかったとか言っているのではなくて、それぞれの制度、事業は本当にそれらを必要としている人たちのために使いやすく、相互に補完し合うようでなければ、四月から介護事業は始まりますから、やはりそういったリンクといいますか、そういったネットワークをどのように考えておられるかということで、厚生省にまずお聞きし、それから後ほど大臣に感想をお伺いしたいと思います。
○政府参考人(炭谷茂君) まず、地域福祉権利擁護事業の利用料の考え方でございますけれども、本来、利用者の利益のために行われる援助でございますので、援助を行う際の必要な実費等は自己負担をしていただくということを原則にいたしております。しかし、私どもといたしましては、できるだけ利用者の方々に対して利用しやすい制度でなければ意味がないわけでございます。
 そこで、公費として国庫補助の二分の一を入れまして、まず実施主体であります社会福祉協議会における職員、例えば実際に相談を受けた窓口の場合、また援助計画、支援計画をつくる場合の経費、そこは公費ですべて負担をするという形をとっております。実際、利用者の方々に負担していただくという部分は、例えば一緒に市役所に行って契約の手続を同行するというような実際のサービスの分については、これは利用者の方々に負担をしていただかざるを得ないだろうと思っております。しかし、低所得者の方、またそれぞれの利用者の経済状況がございます。それにおいては、それぞれの実施主体においてそれらの状況を勘案して料金を設定していただいてもよろしいという実施主体の裁量に任せております。
 ただ一方、提供者側、いわゆる実際に援助に当たられる生活支援員の生活の問題ということも御指摘されましたけれども、実際の収入の状況というものを勘案いたしますと、これだけで生活が成り立つということはなかなか今のところは難しいのではないかなと。ですから、したがって、私ども、実際に援助に当たっていただく生活支援員というのは、例えば社会福祉士として他の仕事を持っていらっしゃる方とか、また福祉施設に勤めていらっしゃってやめられたOBの方とか、このような方々にやっていただく。これを専業にするというのはなかなか今のところは、当面は難しいのではないのかなというふうに思っております。
国務大臣臼井日出男君) 介護保険が措置制度から利用契約制度に移行するということでございます。当然のことながら、これらのものをしっかりと利用していかなければならないわけでございますので、成年後見制度と今お話をいただきました厚生省の考えている地域福祉権利擁護事業との連携を密にするということによりまして、両者がお互いに相互に補完し合う形で、両方がよりよく機能を果たしていくということが必要であろうと考えておりまして、判断能力の不十分な者が地域で安心して生活することができるような仕組み、それをしっかりと完備していくことが必要である、このように考えております。
竹村泰子君 お聞きしておりますと、ボランティア的な力もかなり期待をしているように聞こえます。この成年後見制はこれからスタートするわけですから、実行してみないとわからない部分ももちろんありますし、なかなか予想のつかないこともあるわけでありますけれども、今厚生省と大臣のお話を伺った限りでは、さっき私が言っている人材育成とか、そういったこともそんなに考えてはいない。そして、御理解を賜った人たちに来ていただいて助けていただくというふうな感じで、報酬についてもボランティア的なところで、安いけれども我慢してこれでお願いしますというふうな感じにも聞こえますし、なかなか前途、うまく制度がスタートして、そしてどんな障害を持った人もどのような状況の中にある人も、一人の人間として尊厳を保ちながら生きていけるための手だてと支援ということにならなければならないと思いますけれども、心配な点が多々あるということを申し上げておきたいと思います。
 ここでちょっと視点を変えまして、この成年後見制度の利用者になるというか、今回の改正の特徴の一つであります補助類型の対象者になる知的障害者について少し申し上げてみたいと思います。
 さまざまな会合や会議などで日本を訪れる世界の知的障害者たち、札幌でもDPIの世界大会がやがて開かれるわけでありますけれども、この外国の知的障害者たちははっきり自分の意見を述べる人が非常に多い。もちろん、日本の知的障害者の方々にもそういう人はいるのですけれども、冒頭の札幌の詐欺にあったといって財産をだまし取られた人のように、すぐにはなかなか自分の意見をはっきりと言えない人々が多いのではないかと思っています。それはもちろん障害のせいもありますけれども、障害のためだけではないと私は思うんです。
 それは、彼ら、彼女らの多くは、小さいときには学校で落ちこぼれとして扱われ、職場では役に立たない存在として邪魔にされ、家庭では人に迷惑をかけないように服従を強いられたという、そういう結果も相当影響しているのではないかなと、社会的な受け入れ状態といいますか、私はそういうふうに考えています。
 ちょっとそれるかもしれませんけれども、日本の教育の中で自己主張というか、そういうことを重視した教育を意識し始めたのは最近のことでありまして、知的障害者でなくても、これまで綿々と続いてきた日本の初等中等教育の中ではこの問題はやはり問題点として存在しております。私たち女性もやはりいろいろなことを社会の中で感じているわけでありまして、女は黙って後についてこいとか、そういう因習的な考え方がまだまだ強い、この永田町の中にも強いということをよくわかっておりますけれども、それはちょっと横道でごめんなさい、余計なことですが。
 よく知的障害者の方は自分の意思を的確に伝えることの苦手な、いわゆる口の重い人が多いと言われます。その内実は、家庭などでなるべく余計なことは言わないように、あなたは黙っていなさいというふうにしつけられていたり、言えないような状況に置かれているからではないかと思っているんです。そして、その子のためにとの親心から、小さいときから他人に迷惑をかけないように、あるいは人からかわいがられなきゃだめよ、あなたは知恵おくれなんだからとか、そういうふうにその子に過度の忍耐を強いるといった結果が口の重い人、自分の意見を言えない人、表現ができない人、そういう場合も多くあるというふうに考えます。
 このような知的障害者の障害の程度や必要な援助、本人と相当密接に触れ合って初めてわかるものであり、私のこれまでの経験からいっても、一人一人の知的障害者を理解するには相当の時間が必要だということであります。
 そこで、この知的障害者が対象となる補助類型も含め、すべての成年後見制度では家庭裁判所がそれぞれの請求を受け対応するのですね。審判の開始に伴い、家庭裁判所では、例えば知的障害者やその周囲から出された補助人候補者について、本当にその知的障害者の財産の管理などを託して問題がないかの利害関係調査を含め、本人の状況、家族状況、資産や財産の管理状況など相当な範囲の調査を実施して、かつ本人に面談して同意取りつけを行うということになりますよね。三類型とも本人の陳述を必ず聴取し、そして補助、保佐では本人の同意が必要ということになります。
 そこで、本人の自己決定の尊重という理念、これを最大限生かすためにも、それこそじっくり面談し良好な関係を保っていかないと大変ではないかと、さっきから言っておりますように、そう私は心配しているわけであります。
 現在の全国の家庭裁判所における調査官、裁判官の人員でこの新成年後見制度を軌道に乗せていくのは可能かどうか、法務省のお考えもお聞かせいただきたいと思います。特に、調査官についてはどのようにお考えなのか、裁判所あるいは法務省のお考えをお聞かせ願います。
最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) 委員お尋ねの裁判官の数等の関係でございますけれども、裁判官は大きな庁においては地裁、家裁と分かれて担当しておりますけれども、御承知のとおり、地方庁においては地裁と家裁を兼ねている裁判官が少なくない関係から、厳密に家庭裁判所の裁判官の数というものを御説明することは難しいわけでございますけれども、全国の裁判官、合計今二千九百人ほどいるわけでございますが、そのうち地裁と兼ねている者も含めまして家裁事件を担当している裁判官は約六百人ということでございます。
 一方、家庭裁判所調査官につきましては、全国で千五百人いるわけでございますが、この調査官は家事事件と少年事件を担当しているということになるわけでございます。
 ただいまお尋ねの件でございますけれども、新しい制度が導入されるということを踏まえて種々体制の整備を検討しているわけでございますが、その中で人的体制の関係についてお尋ねでございます。最近における家庭裁判所の事件の動向を見てみますと、新受事件が全体的に増加傾向にあるということ、さらにあわせまして、少年事件につきましては社会的な関心を集める重大事件がある、さらに非行の理解が困難な事件が少なくない状況にございますし、またさらに家事事件につきましても、両親の間の子の奪い合いでございますとか深刻な事件がある、さらには遺産分割など事案が複雑な事件も少なくない、こういった状況にあるところでございます。
 こういった事件数の動向でございますとか社会の法的ニーズの高まりでありますとか、今回導入されようとしております新しい制度の具体的な運用状況といったものを踏まえながら、家庭裁判所がその特色であります科学性、後見性を十分に発揮して的確な事件処理が図れるように、まずは事務処理の中における効率化を図るとかあるいはOA化ということを進めていく、こういったことをあわせながら、さらに必要に応じて人的体制のあり方についても検討してまいりたいと考えている次第でございます。
 以上でございます。
竹村泰子君 運用面でも方向性なり疑問なりまだ多々あるのですけれども、それはこれから参考人の御意見もお聞きしますし、質疑も続きますので、また機会があればお聞きしてみたいというふうに思います。
 時間がなくなってまいりましたが、これはちょっと通告をしなかったので申しわけないと思うんですが、お答えになれたらお答えください。
 成年後見法案の中で社会参加の拡大が目指されているわけですが、これまでの禁治産、準禁治産とされた人に資格取得や選挙権を認めない欠格条項がこれまでの制度の中から百十六種も残るということになってしまった。これは法務省が法案提出に際して各省庁に撤廃を要請したにもかかわらず、選挙権、公務員、医師、公認会計士などの資格取得が欠格条事項として残っている。欠格条項を残すと、老人や障害者への偏見を助長し、社会参加が妨げられるという批判が出ていることは御承知のとおりであります。あと司法書士、税理士、行政書士介護福祉士土地家屋調査士など欠格条項が残っているというふうにお聞きしております。
 確かに、どの職業もどんな障害を持った人にも開放されるべきだという理想としてはわかるんですけれども、実際の問題としてはなかなかそうはならない。できるできないということは能力の問題もありますから、それは確かに国家試験も通らなきゃならないものがたくさんありますからわかるんですけれども、しかし障害者に平等の権利と社会参加を求める世界の風潮の中で、それをせめて本人が選べるという選択の自由を与えられるという、そういうふうにはならなかったのでしょうか。法務省が努力をされたにもかかわらず、各省庁からの反対が多くてすべての欠格条項を消去できなかったということについて、通告しておりませんで大変申しわけないんですが、最後にお伺いして、質問を終わりたいと思います。
国務大臣臼井日出男君) ただいま委員御指摘をいただきましたいわゆる欠格条項の件につきましては、各種法令中の資格等にふさわしい能力を担保するために設けられるものでございまして、資格等を付与する段階においてその資格等にふさわしい能力を有しているかについて審査を行うべきものであると考えております。
 そこで、個別的な能力審査手続が整備されている法律につきましては、成年後見人等をあえて欠格条項として存置しないこととしてございます。それ以外の当該法令中に十分な能力審査手続を有しないものなどにつきましては、欠格条項として存置をするとの方針で所轄の各省庁と協議し、改正案を取りまとめたものでございます。しかしながら、欠格条項の見直しの結果につきましては、最終的な判断は所轄の各省庁の判断にゆだねざるを得ないものでございまして、やむを得ないと考えているところもございます。
竹村泰子君 法務省が撤廃をお願いしたのに、各省庁からの反対が強くて実行できなかったという報道があるんですが、それは確かかどうかお伺いしたいと思います。
国務大臣臼井日出男君) 御質問の点につきまして、まだ確認を正確にとっているわけではございませんけれども、各省庁と個別の資格等について協議をした結果だと思っておりまして、特にそうした点について委員の御指摘のようなことがあったということは私ども考えておりません。
竹村泰子君 終わります。
○橋本敦君 今回の成年後見制度等の改正ということにつきましては、高齢化社会への対応という問題、それからさらに、それに見合った具体的な自己決定権の尊重をしながら必要な保護、援助を図るというそういった観点から多くの改善や新しい方向が示されておりますから、私どもとしてはこの法案には賛成する立場で議論をさせていただくわけであります。
 そういう立場に立っても、なおかつ、この改正法を方向づけとして円滑に運営していくために若干議論をしておく必要があると考える問題がありますので、そういう問題について質問をさせていただくつもりでございます。
 一つの問題は、北岡委員や竹村委員からも御指摘がありましたが、いわゆる一元的構成との関係で、人の能力は千差万別であり、判断能力も十分でないというその状況の程度もさまざまな段階があるわけですから、具体的にこれに対応するということで後見、保佐、補助の三類型に分けてしまうということで十分機能できるだろうかという問題がどうしても一つの問題として出てくるわけであります。
 これについて、法務大臣もあるいは政務次官も先ほどの御答弁で、そういった趣旨も十分踏まえながら、一元的対応ということも考慮に十分入れながらこれからの課題を進めていきたいという趣旨のお話もございました。
 日弁連はこの問題について、既に御存じと思いますけれども、意見としては、法制審に対して「成年後見制度の改正に関する要綱試案」に対する意見書ということで発表しております。それを見てみますと、「判断能力だけを基準に類型的に決定されるべきではない。」、こういう原則を考えた上で、「援助の必要性は、本人の財産状況、生活状況、健康状態等によって大きく異なり得るのであり、それに応じて後見の内容も、具体的な必要性に即して決定されなければならない。」、こういうことをはっきり言っているわけです。
 私は、この考え方はまさに具体的に正しい適用を図る必要がある考え方であって、制度利用者の個々の状況に応じて柔軟に対応できるという、そこのところはこの法の運用についても極めて大事な問題だというふうに考えておりますが、まずこの点について、大臣なりあるいは現実にこれを運用する裁判所の方で基本的なお考えとしてどうとらえていらっしゃるか、お伺いしたいと思います。
国務大臣臼井日出男君) 今回の成年後見法の制度のとり方につきましては、いろいろなお考えがあろうかと思います。
 委員御指摘をいただきました一元的なとり方、そういったものもあろうかと思いますが、先ほど来私がお答えをいたしておりますとおり、私どもといたしましては、我が国の実情に即した多元的な制度をとる、フランスなどのような多元的な制度というものをとった上で、類型的な内容を弾力的に考えるとり方、こうしたものをとっているわけでございまして、ドイツのような法定の類型を設けずに個別具体的な措置の内容を裁判所の裁量判断にゆだねる考え方というものはとっておらないのでございます。
 この私どもの改正案につきまして、個人の個別的な状況に即した柔軟かつ弾力的な措置の設定等を保障するという、その一元的な趣旨というものも取り入れるということにいたしてございます。
○橋本敦君 民事局長でもあるいは最高裁でも結構ですが、今、大臣がおっしゃった一元的なそういう考え方のいいところも取り入れるということの具体的な対応というのはあるんですか。
○政府参考人(細川清君) この問題は、法制審議会で議論を始めたときでも枠組みとしてどう考えるかというのが最も大事な問題であって、相当議論を尽くした点でございます。それで、私どもが三類型がよろしいのではないかと最終的に判断したのは、やはり従来の実務からの連続性ということも考えなきゃいけないということが一つございました。それから、当事者の予測というものがございました。
 その上で弾力的に使うにはどうしたらいいかということで、まず、今は禁治産と準禁治産が画然と分かれております。そのすき間が埋められないのじゃないかという問題がありますので、ですから保佐ですと、取り消し権の範囲を法定以上に拡大することもできる、それから代理権も与えることができる、それから保佐人に取り消し権も与えることができる、そういうことでそこを弾力化しよう。それから、補助については準禁治産以下のさまざまな態様に対応できるように、取り消し権の付与する対象あるいは代理権を付与する対象も当事者の申し立てによるということになっているわけです。
 ですから、私たちの考え方といたしましては、三類型に分けてもその間はずっとつながっている、そういうふうに考えておりますものですから、弾力的にできるだろうということです。
 もう一つ大事なことは、任意後見制度を導入しておりますので、これが相当幅広く使えるということなので、全体を通じて考えれば相当弾力的に運用できるんだ、一元制のよいところが取り入れられるのではないかということでございます。
 例えば、衆議院の法務委員会で参考人として意見を述べられました千葉大学の新井先生でございますが、あの方も当初は非常に一元制論の強い論者だったんですが、任意後見も含めた全体を見れば今回の制度は非常に一元制のよいところを取り入れた柔軟な制度になっているという評価を委員会でされておられます。
 そういうことで、私どもとしては一元制のよいところも十分取り入れているんだというふうに考えているところでございます。
○橋本敦君 そこで、そういった観点で具体的な適用ということになりますと、裁判所の判断ということが、これがやっぱり具体的な決め手になってくるわけです。
 先ほどからもお話がありましたドイツの世話法の関係でいえば、裁判官は具体的な対応として、医師に医学的な診断を依頼する、それから世話人支援センター、あれは日本でいえば福祉事務所のような行政組織になるんでしょうか、ソーシャルワーカー、こういった方々と一緒に日常の生活ぶりについて調査し、みずからも判断が必要な場合は、先ほどもお話がありましたように、出向いて本人に面接、住居や環境を検討する、そういったことで具体的な対応を図る、こういうことをやっているという報道があります。
 そこまでやるのは大変なことで、先ほども竹村委員から裁判官の体制整備は大丈夫なのかという質問がなされるのは当然でありますが、最高裁としては、本人の自己決定権の尊重あるいは具体的な補助、援助の必要性ということを具体的に判断するという、そういったことについてどういう考えで臨もうとしていらっしゃるか、最高裁にお伺いしたいと思います。
最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) 御説明申し上げます。
 今、委員から御指摘がございましたように、まさにさまざまな事案に柔軟に対応していくことが求められるわけでございまして、私どもといたしましても、今回の法改正が成立した場合には、まず家庭裁判所調査官ができるだけ本人にお会いする、関係者にお会いするという方向での調査を進めていくことになろうかと考えております。
 その方法といたしましては、現在、規則の改正も検討途上にあるわけでございますけれども、そういった中におきましても、できるだけ御本人の陳述を伺う、こういったことなどを明記することも一つの検討事項かと思って検討を進めている段階にございまして、御本人の陳述を聞くということになった場合には、裁判官が伺う場合もありますし、あるいは調査官が伺う場合もあるだろうということでございまして、まさにその点は運用の上で弾力的な運用を行っていきたいと考えている次第でございます。
 以上でございます。
○橋本敦君 では、今おっしゃった運用の面で、最高裁に一定の規則なりあるいは考え方なり、この法案の今後の運用を国民の期待にこたえられる方向でぜひ検討していただきたいということを言っておきたいと思います。
 次の問題に移りたいと思います。
 任意後見の問題なんですが、今回これが法制化されることになった。現在、自治体等が行っております財産保全サービス、あるいは病院や施設等で事実上行われている高齢者の財産管理等いろいろあるんですけれども、こういった問題については法的根拠に疑義があったり、あるいは監督体制の問題がございますから、そういう意味で今度のこの制度というのは大いに注目されるわけですね。
 そこで、この任意後見制度というのが改正の大事な眼目だと思いますので、この任意後見制度をつくった意義について、大臣からこの意義はどこにあるのかということを一点お聞かせいただきたいと思います。
国務大臣臼井日出男君) 現在の法制下におきましても、任意代理人を選任する委任契約については、本人の意思能力喪失後も代理人の代理権は存続するというふうに一般的に解釈をされているわけでございます。しかし、本人の判断能力が低下した後の任意代理人に対する監督の枠組みがない現行法のもとでは、このような場合の後見事務を任意代理人に委託する委任契約は実際には利用が困難であるという面が多く見受けられます。
 このような問題に対応するために、本人の判断能力が低下した後の任意代理人に対する公的な監督の枠組みを法制化することによりまして、従来、関係各界からその必要性が強く指摘されておりますこの問題についても解決ができるものと考えておりまして、特に現在、任意代理を活用いたしまして財産管理サービスを試みておられます地方自治体の社会福祉協議会弁護士会司法書士会、社会福祉士会等からは法制化に対する強い要望が寄せられております。
 この任意後見制度は、このような関係各界のニーズを踏まえまして、私的自治の尊重の観点から、本人がみずから締結した任意契約に対して本人保護のための必要最小限度の公的な関与、すなわち家庭裁判所が選任する任意後見監督人による監督の仕組みを法制化するものでございます。また、これは自己決定の尊重の理念に即した本人保護の制度的な枠組みを構築しようとするものである、このように私どもは考えております。
○橋本敦君 そこで、法人の問題についてちょっと検討させていただきたいと思うんです。
 法案によりますと、法人も成年後見人はもとより任意後見人、後見監督人、これに就任ができる、こうなっております。そこで、受任者である法人と本人との間に利益相反関係があるような場合はどうするか、そういう問題がやっぱり起こるんですね。法人はいずれの受任者にもなれないという制約がそこまで必要かということになりますと、これまたそれだけでいいのかという問題も出てきます。この点は法八百四十三条第四項によりますと、利害関係の有無を考慮するという規定になっております。ここで言う利害関係の有無を考慮するというのは、具体的にどういう場合にどういう判断がなされ、利益相反行為については何らかの基準ということを考えた、そういった基準というようなものがどこかにあるのかどうかという問題も一つは検討する必要があるかなという気もするんですね。
 ここらあたり、民事局長はどうお考えでしょうか。
○政府参考人(細川清君) これは、利益相反という用語が非常に幅広い概念でございます。したがいまして、少しでも利益相反がある場合にはすべて後見人あるいは後見監督人等になれないということになりますと、制度としては非常に硬直的になるだろうというふうに考えているわけなんです。
 それで、よく問題になりますのは、例えば施設に入所されている痴呆性高齢者の方がおられて、その方の後見人をする場合に、その施設の代表者がこれに適当かどうかという問題になりますと、後見人は包括的代理権を持っていますし、経営者は御本人と契約していて料金を徴収することになっているわけですから、そういう場合には明らかに不適当だということで、裁判所は後見人を選ばないと思います。
 ただ、そうでなくて、先ほど厚生省から若干お話しされましたが、例えば無料の介護サービスというのがございますね。そういう場合には必ずしも利益相反とは言えない場合もあります。それから、法定後見人が二人いるという場合で、それぞれ分掌すればその相反の問題は回避できる。それから、補助人の場合には権限が狭いものですから、その狭い範囲では利益相反が起きないということが言えると思います。
 ですから、そういうことで、やはりこれは裁判所の適切な御判断に期待するのが適当であるということで、それを考慮事項として挙げたわけでございます。
○橋本敦君 だから、そういう意味では、この利害関係の有無を考慮するという法の規定は、ある意味で言えば裁判所に包括的な権限を委任するということであるわけですね。だから、明確な基準というのはなかなか難しい。
 そこらあたり、最高裁としては、どういう姿勢でこの八百四十三条四項の運用をやっていくのが適当かというようなことで、検討、研究されているような状況がございますか。局長、いかがですか。
最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) ただいま御指摘の点は、まさに個々の事案ごとにおいて裁判所が判断すべき問題ということになろうかと思っております。その意味では、今、民事局長から説明があったようなことを個々の事案ごとに考慮しながら、まさに利益相反ということで後見人とするのはふさわしくないというふうに判断するか、さらにその利益相反の問題があるにいたしましても、後見監督人を選任することによって補完ができるとか、複数選任することによって分掌ができるとか、こういった措置がうまくとれるかどうかということも含めて検討していくことになろうかと考えているところでございます。
 以上でございます。
○橋本敦君 実際に施設で老人の財産を不当に占奪したというようなそういったケースも起こっているという状況があるものですから、国民的な不安と関心というものもこれについてはやっぱりあるんですね。
 九六年の関東弁護士会連合会の高齢者の財産管理に関するアンケート調査結果というのがありますが、これによりますと、福祉関係者が担当したケース一万二千九百一件中、預金通帳、権利証等を施設または職員が保管しているのが五千五百二十六件、福祉関係者が保管しているのが三百二十件、四五%にも上っているという実情があるという報告があります。
 法務省の民事局参事官室の要綱試案に対する意見照会の結果の概要というのが出ておりますが、ここでも、利益相反関係にある法人及びその代表者、使用人を排除する明文規定を設けるべきであるとする意見が多数と記してあります。これは事実だと思うんですね。排除する明文規定を設けるべきだという意見が五十、慎重ないし消極が五にとどまったというのが法務省の資料を見ると書いてあるんですけれども、日本障害者協議会、社会福祉協議会、このいずれも利益相反ということについて、成年後見人になることが適当でない場合があることに十分留意してほしい、あるいは福祉施設を経営する社会福祉法人については利益相反の問題から慎重に対応すべきという意見が出されている。
 こういう意見があったというのは、民事局長、これは間違いないですね。
○政府参考人(細川清君) 御指摘のとおりでございます。
○橋本敦君 そういう面で、こういう意見があったんですが、排除する明文規定を設けるべきだという意見が五十にも上っている。慎重意見、消極意見は五である。
 そこで、明文規定としてもう少しここのところをはっきりと規定する工夫がなかったのか。明文規定で厳格に禁止というところまで行かなくても、単に利害関係の有無を考慮するという八百四十三条四項程度じゃなくて、もう少し具体的な規定の仕方がなかったのか。そこらあたりの議論や結果はどうなんですか、民事局長。何か知恵があったように私は思うんですけれどもね。
○政府参考人(細川清君) いろいろな御意見を伺いまして、いろいろ審議会等でも御意見を伺いまして、やはり最終的には、民法という基本法なものですからある程度抽象的にならざるを得ないということで、これはやはり裁判官の英知に期待するのが、結果的には最も妥当な結果が出るのではないかというのが最終的判断であったわけでございます。
○橋本敦君 時間が来ましたからきょうは最後の質問になるんですが、家庭局長に、あるいは民事局長でも結構ですが、今言ったようなことの具体的担保をするという意味で、法人が後見人あるいは後見監督人に加わる場合は、単独じゃなくて複数にして、お互いにきちっと見合う、事情をよく検討し合うという相互の牽制及び抑制、そういったことを合理的にするために、こういう家事審判の方法、こういう規定を設けてもよかったんではないかと私は思っているんですが、それについての御意見を民事局長なり最高裁に伺って、きょうはこれで質問を終わります。
○政府参考人(細川清君) まず、法人の後見人の導入につきましては、これは、積極意見が五十で、慎重ないし消極意見は五でございます。これが要綱試案に対する意見の概要でございました。
 家庭裁判所の規則では、やはり法律ではございませんので手続事項に限られると、国会の御審議を経ていないものですから。そこで実体的な規定を書くのは難しいだろうというのは、従来から、憲法上の解釈からの問題にしても難しいであろうと言われております。
 そういうことで、私どもとしては、なかなか、繰り返しになりますが、実体的な規定は難しいかなというふうに思っておるところでございます。
最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) 先ほど申し上げたとおり、やはりこれは個々の事案ごとに考えていただくべき問題であろうと考えております。そういった問題については、やはり手続規則である家事審判規則に規定することも、これは適当ではないだろうと考えている次第でございます。
 以上でございます。
○橋本敦君 終わります。
【略】
阿部正俊君 さて、具体的に成年後見の問題に入ってまいりたいと思います。
 まず最初に、今回の成年後見制度を設ける、民法初め四本の法律を、新法もつくったり法律を改正したりということ、大変な作業でございますがここに至ったと、大変うれしい、喜ばしいことだと私は基本的に思っています。ただ、やはりこれからの成年後見の中身というものをよりいいものにしていくためには、今までの制度ではどこがどういうふうに悪かったのか、あるいは時代の変遷に応じてどこをどういうふうに手直しすべきなのかというふうなきちっとした問題認識が前提になければいけないのではないかなというふうな気がいたします。
 私もその端くれではございましたけれども、どうしても役所といいますのは、どちらかといいますと新しいことについては一生懸命やりますけれども、過去についてあるいは今までのことについてどこがどういうふうに悪かったのか、あるいはどこにどういうふうな問題があったのかということをきちっと整理しないままに新しいことを何か必要だからやるんだというようなことでやってくる傾向がございます。これは、ある種の、過去は悪かったとなりますとだれかが責任をとれみたいな話になるものですから、どうしてもそうなりがちなのでございます。
 でも、これからの行政といいますのは、やはりより客観的に、特に公務員というのはどなたかの部下でもありませんし、国民全体の奉仕者、こういうことでございますが、奉仕というのは別にサーバントというわけではありませんけれども、特定の人のためのものではなくて全体のことを考えてやろうということですから、今までの仕組みを直すのであるならば、全体の利益のためにきっちり過去の整理をして新しい形を整えていくということをその前提として、今までの、例えば今回のことでいえばいわゆる禁治産、準禁治産というふうなことを基本にした仕組みについてのいわば問題点はどこにあったのか、どこがまずいのか、少なくともこれから先このままではだめなのかということについてきちっとした整理が私は要るのではないかな、こんなふうな気がするわけです。
 そういう意味で、まず最初に、今までの禁治産、準禁治産というふうな制度を中心にした仕掛けではうまくいかない、だから手直しするんだ、こういうことなんでしょうけれども、今までの問題点の整理あるいは法改正に至った背景等について、わかりやすく要点を幾つかに絞って挙げていただきたいと思いますが、いかがでございましょうか。
政務次官山本有二君) 現行の禁治産、準禁治産の制度につきましては、一つには重度の精神上の障害により判断能力が不十分な方々だけしか対象とされていないこと、一つには内容も硬直的で利用しにくいこと、一つには戸籍への記載や広範な資格制限などによる抵抗感があることなどが指摘されております。また、後見人、保佐人につきましても、配偶者が事情のいかんを問わず必ず後見人等となるものとされていること、また法人や複数の者が後見人等になれないこと、さらには後見人等の監督体制が不十分であることなどの問題点を指摘されております。
 以上のような問題点は、高齢社会及び障害者福祉におけるノーマライゼーションの理念等の進展を背景として主として福祉の分野から指摘されるようになったものであり、今回の改正はそうした福祉の分野からの要請にこたえて成年後見制度をより柔軟かつ利用しやすいものにするためのものであると認識しております。
阿部正俊君 政務次官、ちょっと言葉じりをとらえるようで恐縮でございますけれども、今までのは私は成年後見制度だったとはちょっと思えないんです。法務省さん、何度か来ていただいて、お話聞いてこう言うと嫌な顔をされる方が多かったんですけれども、私は従来の禁治産あるいは準禁治産というのはむしろ取引安全の制度だったんじゃないのかな、こんな気がするんです。意思を尊重して、その意思に沿って、成年になっても本人の利害あるいは意思を大事にして物を処理していこうというふうな、意思を尊重した後見という制度ではなくて、取引するのに安全な仕掛けとして禁治産、準禁治産というのをつくってあったのではないかなというふうに邪推する人もいるんです。
 その辺から見ると、今までのは私は成年後見ではなくて、むしろ成年後見というのは今までとは違って新しくつくるんだというふうな理念ではないかなと思いますけれども、その点だけちょっともう一回お答えいただければありがたいと思います。
政務次官山本有二君) 阿部委員御指摘のとおりであろうと思います。
 百年前にできたこの制度の言葉も産を治する、すなわち財産を治めること相なりませんよという意味なわけでありますし、そういう言葉からもそれが類推できます。さらには、平成十年の利用率が禁治産で千七百九件、準禁治産で二百五十一件というこの利用の姿を見ましても、先生御指摘の弊があろうと考えております。
阿部正俊君 ありがとうございました。
 さて、それで今のをもう少し敷衍して申し上げますと、私は成年後見といいますのは、先ほど山本政務次官が高齢者の増加とか、あるいは障害を持った方々のノーマライゼーションというふうな観点も強く認識されて今回の制度をつくられるというふうなお話がございましたけれども、私はもう少し一歩踏み出して、その根底にあるものは何なのかということを考えてみたいなと。
 何かそういう特別な、あるいは意思表示がうまくいかない人がふえたから、あるいはその人たちを大事にするのだからということからもう一歩踏み越えて、これからの社会のありようとして、結果として何かしてあげるということ、結果としていいか悪いかじゃなくて、まず本人の意思を大事にする社会、そのためにどういう社会づくりをした方がいいのかということが、私は今回の成年後見もその一環であるというふうに思うわけでございます。
 本人の意思をまず確かめるということから物を考えていこう、結果的にうまいものが食えるとかあるいは何かのためになるとか、だれかが見るんじゃなくて、ぼろを着てても心はにしきじゃありませんけれども、やはりまず本人の意思というのが大事な社会にしていこうじゃないかということが今回の成年後見制度というものに結びついておるのではないかなというふうに思っておるわけでございます。やはり個人の意思を尊重する社会。
 ちょっと横道にそれますが、賛成、反対いろいろございましたけれども、いわゆる臓器移植法についても、脳死が死か死でないかさまざまな意見があるでしょう。だけれども、そうした脳死を死と認め、自分の肉体の一部であったものを他人にプレゼントしたいという方の意思、これをだめだという権利はだれもないはずではないかな。意思の尊重ということを前提にして、いわば脳死判定を受け、臓器提供を申し出た意思を持った人については、やはりその意思を尊重してということが今実行されております日本における臓器移植法だと思うんです。
 ということになりますと、やはり成年後見の根底にありますのは、いろんな場面で本人の意思というものを、自己決定というものをできるだけ尊重していくようにしましょうや、本人の意思からすべてが始まるということを、少し今までのあり方とは変えてつくっていこうじゃないかというのが基本的な理念になっているのではないかなというふうな気がするわけでございます。
 日本の場合はどっちかというといわゆる契約社会ではなかったということでもあるのかもしれませんけれども、本人の意思ではなくて結果平等主義みたいなことだけがどうしても表に出がちでございますけれども、やはり一番大事なのは、人間の尊厳にとって何が大事かということになりますと、結果として恵まれたか恵まれないかということではなくて、物と金ということももちろん大事でございますが、一番基本にあるのはやはり本人の意思ではないか、こんなふうに思うんです。そうしたふうな流れの中で今回の成年後見制度というのはできてきた。特に、先ほど山本政務次官がお触れになった意思決定が余り得意でない高齢者がふえてまいりますとか、あるいはノーマライゼーションとかいうのがむしろ後押しをした、こんなふうに認識すべきものではないかなと。
 成年後見制度というのは、私はそういう意味で日本のいろんな意味での仕組み、文化というものにこれから大きくかかわっていくことにつながっていくことではないかなというふうに思うわけですけれども、法というものをつかさどる法務省さん、大臣、政務次官としてどんなふうにお考えなのか、御意見がございましたらちょっとお聞かせいただければありがたいと思います。
国務大臣臼井日出男君) 今、委員御指摘をいただきました個人の意思を尊重する社会、いわゆる言ってみれば自分の責任というものもしっかりと大切にしていく社会であろうかと思いますが、大切な視点だと思っております。
 今回の成年後見制度の改正というものは、判断能力の不十分な成年を保護するために、高齢者への対応及び知的障害者あるいは精神障害者等の福祉の充実の観点から、自己決定の尊重あるいは残存能力の活用、今お話しいただきましたノーマライゼーション等の新しい理念と従来の本人の保護の理念との調和というものを旨として、柔軟かつ弾力的な利用しやすい成年後見制度を構築しようとしたものでございますけれども、これらの今回の改正の理念というものは、ただいま御指摘をいただきましたより大きな視点からとらえて位置づけるということも当然のことながら大切であろうかと思います。
阿部正俊君 ありがとうございました。
 そういう点から見ますと、私は日本といいますのはまだまだこれから変わっていっていただかなきゃならぬ点が多いのではないかなと。行政改革、政治改革というふうな制度的な改革がどうしても表に出がちですけれども、一番根底にあるのはやはりいわば個人の意思、あるいは別な面から見ると自立というものをもう少しどういうふうに考えるべきなのかということがこれから問われていく時代ではないか。そこのところについてもう少し、AさんとBさんの意思が違ったときに、本当は意思の方が大事なんだけれども、形の上で出た結果に差があるということだけ日本人というのはどっちかというと見たがる方なんですね。
 差というのを非常に許さない社会というものじゃなくて、それ以上に大事なのは個々人の意思がどういうふうに尊重されているのかという自己決定だとか個人の意思の尊重、例えば憲法で言えば憲法十三条、個人の尊重というものが私はこれからむしろ大事にされなきゃいかぬことなんじゃないか。どっちかというと、今まで社会保障なんかでも憲法二十五条が大きな支えであることはこれからも間違いございませんけれども、もう少し言えば、これからは選択だとか多様性とか自己決定だとかということになりますと、むしろ憲法で言えば憲法十三条というものがもう少し尊重される、生かされる社会づくり、仕組みづくりというのが要るのではないかなという気がするんです。
 となると、やはりそうしたふうな個人の意思の尊重というものがどの程度生かされようとしているかということは社会の一つの進歩の尺度になるのではないかなという気がするわけです。そういう意味からいうと、例えばサミット国、七つか八つか九つかいろいろ見方があろうかと思いますけれども、私の見る限り、ドイツの世話人法とかということも含めて、それぞれ戦後、ここ二十年ぐらいの間に大抵そうしたふうなさまざまな制度がつくられてきていると思うのでございます。それは一つの社会の進歩といいましょうか変化というものを基本に、障害者のためにとか福祉のためにということではなくて、むしろ社会の成熟度の尺度として私は見ていくべきではないかなと思うんですけれども、他のいわゆるサミット国なんかでは今申し上げたような成年後見制度に類するような制度がどんなふうになっているか、ひとつお答えいただければありがたいし、お考えをお聞かせいただきたいと思います。
政務次官山本有二君) 近年、欧米諸国においても、成年後見制度についての法改正が相次いでおります。例えばフランスにおいては、一九六八年の民法改正により、従来の禁治産、準禁治産の制度が後見、保佐、裁判所の保護の三つの制度に改められ、カナダのケベック州におきましては、一九九〇年に同様の改正が行われております。また、オーストリア、ドイツにおきましては、近年、民法の改正により、禁治産制度の大幅な見直しが行われております。
 これらの諸外国における禁治産制度の見直しは、いずれも自己決定の尊重、ノーマライゼーション等の新しい理念と従来の本人保護の理念との調和を旨として柔軟かつ弾力的な利用しやすい成年後見制度を構築しようとするものでございます。我が国における今回の改正も、この国際的な流れに沿うものであると考えております。
 また、イギリス、アメリカ、カナダ、オーストラリア等におきましても、近年、本人の判断能力が低下する前に、契約によりみずから信頼できる後見人と後見事務を事前に決めることができる継続的代理権制度を法制化する特別法の制定が相次いでおります。我が国における今回の任意後見制度の創設も、この国際的な流れをくむものであるということができようかと存じます。
阿部正俊君 ありがとうございました。
 日本においては、高齢化社会と通称されますけれども、何かお年寄りがふえて非常に荷物が重い社会になるんじゃないかというふうなことを言われます。むしろ私は、これは私流の言葉ですが、高齢社会というのは余り好きじゃありませんで成熟社会という言葉を使っておりますけれども、成年後見なんかも含めて考えますと、負担が多いか少ないか、あるいは物が豊かに利用できるかできないかということだけが、だけというか、それが福祉ということの一部ではありますけれども、その前にやはりそうしたふうな意思の尊重というものが、社会の成熟、高齢社会と言われる社会を想定しますと、そうしたふうな人間の意思が尊重される社会というものをつくっていくというのが本当の高齢社会対策なのではないかな、ちょっとおわかりにくいかもしれませんけれども、そんなふうにも思うんです。
 そういう意味で、負担が多いか少ないか、いただくものが多いか少ないかということも大事ですが、同時にそうした個々人がどういうふうに尊重されるかどうかというのがそれぞれの国の社会の成熟度であり、今の山本政務次官のお話のように、他国に比べてもその辺、日本は少しそういう面で立ちおくれていた面は否めないのかなというふうに思うし、そういう意味から今回こうしたふうな御提案があるということを大変うれしく思うし、むしろ遅きに失したのかなとすら思うんです。
 それはともかく、一歩前に進まれるということなので、特定の人間の保護というふうなものから、さらに進めてこれからの社会のあり方の大きな仕組み、枠組みを変えて新しい社会づくりの基本にしていくんだというふうな意識でひとつ成年後見制度のこれからの運用を行っていただきたいものだということを申し上げておきたいと思うわけでございます。
 さて、ちょっと自己宣伝あるいは我が自由民主党の宣伝にもなるのでございますが、実は自由民主党では社会部会の中に成年後見に関する小委員会というのをつくりまして、平成九年四月にいわば中間報告的に、こういったふうな問題点があるし、こういった方向で改正したらどうだろうかということをまとめまして、法務省さんあるいは成年後見制度を裏腹になって支えていくであろう厚生省さんの福祉サイドの仕組みなりもつくる必要があると思うんですが、後で申し述べますが、ということの意見を両省に申し上げたわけでございます。
 そのときに、私どもも参考にさせていただきましたが、もちろん障害者の関係の団体とか、あるいはお年寄りの関係の団体とか、あるいは高齢者や障害者を直接お世話しておる、あるいは利用施設を経営しておられる方々の意見とかというのもいろいろお聞きしました。
 幸い、法務省さんも聞くところによりますと、いろんな幅広い団体の意見も十分徴されて今回の制度改正に結びつけられたんではないかなと思うんですけれども、まず最初にどんなふうな団体の方々にどんなふうな形で御意見を聞かれたのか。片や専門的に御検討の場もあったと思うんですけれども、その辺の今回の制度を構築するに当たっての下ごしらえといいましょうか、そういうことについてちょっとお聞かせいただきたいと思います。
政務次官山本有二君) 成年後見制度の改正につきましては、制度の利用者の御意見を十分に反映させる必要がありますことから、法務大臣の諮問機関である法制審議会の民法部会に老人福祉団体、障害福祉団体、権利擁護機関、社会福祉協議会等の福祉関係者を含む一般有識者の幅広い参加を得た成年後見小委員会を新たに設置いたしまして、平成九年十月から平成十年十二月まで調査、審議を行いました。その検討の過程では福祉関係団体及び社会福祉協議会所属の各委員から多岐にわたる御意見をいただいております。
 また、成年後見小委員会での審議、検討の中間段階で、昨年四月、成年後見制度の改正に関する要綱試案を公表し意見照会を行いましたが、障害者の当事者団体を初めとする多数の福祉関係団体から意見を寄せていただきました。その数、百六十になんなんとしております。
 そしてまた、阿部委員は自由民主党社会部会の成年後見に関する小委員会の委員長として、この意見等についての報告をまとめていただいたことに法務省としましても大変感謝を申し上げている次第でございます。
阿部正俊君 感謝と、そんな大それたことじゃないのでございますけれども、やはりできればそうしたふうな制度が望ましいのではないかということで比較的早くから関心を持たせていただきましてやらせていただいたんです。
 同時に、私は別にエールの交換じゃございませんけれども、法務省さんにしてはと言っては大変失礼でございますけれども、この問題については本当に法制度を直す、特に禁治産、準禁治産あるいは契約その他かなりの制度の大きな改正なんです。これを数年の短期間の間にここまで持ってこられた関係者の御努力と、あとは小委員会等をやっておりまして非常に誠実にお答えいただき、かつまた今、山本政務次官から御紹介がございましたように、できるだけ多くの方々を、特にいわゆる福祉関係、精神障害者関係の団体あるいはぼけのお年寄りを抱える家族の会の代表の方とかあるいは知的障害の関係の育成会の方々からも意見をお聞きいただいたというふうなことで、私もその後でそんな方々に大変法務省さんは誠実にやっていただいたというふうに聞いております。そういう意味で、事務当局を含めまして大変私は前向きに考えていただいたんじゃないのかというふうに感謝し、かつまた特に民事法制を預かる法務省さんとしてはぜひそうあっていただきたい。
 法というのは、正邪を決めるだけではなくて、やはり人々の日常の生活を秩序立てて円滑に運営していくためのスタンダードだというふうな面も、十分そんなふうな考え方で一人一人の能力の違いはありましてもそんな方々が一緒に暮らせるような社会をつくる。ある意味では司法にもノーマライゼーションというのがあるということだと思うのでございます。どうかひとつそんなことを大事にしていっていただきたいというふうに思います。
 山本政務次官、もしおわかりになりましたら、いろんな御要望があったと思うんです。ただ、多くの団体、多くの方々ですからすべてのテーマを取り入れるということはできなかったのではないかと思うんですけれども、そういう意味で今回の改正ではまだ宿題として残った課題ということについてもしおわかりでしたらお答えいただければありがたいし、これからの検討といいましょうか、何かお考えがありますればお聞かせいただきたいと思います。
政務次官山本有二君) 制度の枠組みについての意見として多かったのは、まず軽度の精神上の障害のため判断能力が不十分な方々のための類型の新設、また任意後見制度の導入、そして能力の制限があることを戸籍に記載することをやめることなどでございます。これらの意見につきましては、今回の改正に盛り込まれております。そのほかにも、従来の禁治産制度において身上監護面の手当てが十分ではなかったとの御指摘もありましたが、そうした事項についても今回の改正に反映させております。
 一方、御意見をいただきました中で今回の改正法案に盛り込まれていないものとしては、この制度の利用者に対する公的な支援体制の問題でございます。しかし、これにつきましては、社会福祉分野において日常生活に必要な援助を行うための利用者支援の取り組みについて成年後見制度との連携、補完を視野に入れながら検討が進められていくことが必要であると考えられております。
 具体的には、厚生省で推進中の社会福祉基礎構造改革において判断能力の不十分な者に対する無料または低額の料金による福祉サービスの利用援助等を行う社会福祉事業の創設とそのための全国的な体制の整備を進めることとされておりますので、その検討が期待されるところでございます。
阿部正俊君 ありがとうございました。
 それでは、今挙げられました利用者に対する支援体制等につきまして後ほど、多分厚生省になるのかと思いますけれども、権利擁護事業のところで再びお聞きしたいと思っております。
 さて、もう午前中の質疑でも出たのかと思いますが、私いなくて大変恐縮でございましたけれども、ダブるかもしれませんけれども、改めまして少し法律的な改正の中身について御説明をいただければと思います。
 まず最初に、いわゆる禁治産、準禁治産というふうな従来の制度は廃止されまして、新しく後見の制度ができるわけでございますけれども、具体的にどの点が従来の禁治産、準禁治産というのと、新しくできますいわば類似といえば類似でございますが、後見、保佐という制度、いわゆる補助と任意後見はまたちょっと違うと思うのでございますけれども、禁治産、準禁治産と新しくできます後見、保佐、この二つの制度の違いといいましょうか、どういうふうな点がより後見制度の理念に近いことになるのかというような点について、かいつまんでポイントをお聞かせいただければと思います。
政務次官山本有二君) 従来の禁治産、準禁治産制度についての改正としましては、次のとおり制度の全般にわたって先生御指摘の自己決定の尊重の理念に沿った法律上の手当てをしているところでございます。
 まず、精神上の障害により判断能力が著しく不十分な方々を対象とする保佐の制度におきましては、本人の申し立てまたは同意が代理権付与の審判の要件とされ、本人の意思に基づいて代理権による保護が図られる仕組みといたしました。
 次に、成年後見等の選任に当たっては、本人の意見を考慮すべきものとされ、また成年後見人等は、後見等の事務を行うに当たっては、本人の意思を尊重しなければならない旨の明文の規定を設けました。
 第三に、後見、保佐の両制度において、日用品の購入その他日常生活に関する行為は、全面的に本人の判断にゆだねて、同意権、取り消し権の対象から除外いたしました。
 第四に、保佐人と本人の意見が食い違い、本人の不利益となるおそれのない行為について、保佐人が同意しない場合には、本人は家庭裁判所の許可を得て当該行為をみずから行うことができるものといたしました。
阿部正俊君 わかりました。
 後で述べますが、まだまだそういう仕掛けというのは全く未知な点がありますし、国民に使われてこそ初めて生きた制度だと思いますので、その辺どうかひとつ、むしろ大いに使われるようにしていっていただきたいと思うんです。
 そのときに、よく普通の人、普通の人というよりもむしろ意思決定能力が弱い方々が多いわけでございますので、そういう方々にも絵でもかいてわかりやすくお示しいただければありがたいものだなというふうに思いますので、今の山本政務次官のお言葉を絵にかいてお示しできるように、こんなにいい形になったんだよということで、ぜひ御工夫をお願いしたいなと、こんなふうに思います。
 さて、今回新しくいわゆる後見、保佐の制度に加えまして補助制度というのを導入されておられます。これは先ほど外国の例を申されましたけれども、似たような国もございますし、今回のいわゆる成年後見制度というふうに言い得るための大きな目玉といいましょうか、ポイントの一つではないかなというふうに思いますけれども、今回こうした新しく補助の制度というのを設けました趣旨と、どういう場合に利用されるのかというふうなことについてちょっと御説明を願えればと思います。
政務次官山本有二君) 新設の補助の制度は、軽度の痴呆、知的障害、精神障害等により判断能力が不十分な者、すなわち現行法のもとでは禁治産、準禁治産制度の保護の対象とならず、財産管理等に支障を生ずるケースが多々見られた軽度の精神上の障害がある者を保護の対象とする制度でございます。
 この制度においては、保護を必要とする本人のために補助人を選任し、当事者が選択した預金の管理、介護契約等の特定の行為について、審判により補助人に代理権または同意権、取り消し権を付与することが可能とされております。この制度の新設により、これまで財産管理等に支障を生じていた軽度の精神上の障害がある方々が本人の意思に基づいて必要かつ適切な範囲で弾力的な保護を受けることが可能となり、成年後見制度の利用価値を飛躍的に高めることになるものと考えております。
 例えば、補助人に特定の法律行為の代理権を付与することにより、適法、有効に法律行為を確実に行うことが可能になることから、介護契約や施設入所契約の締結などに利用されるものと考えられております。また、補助人に同意権を付与することにより、悪徳商法等による被害から本人の保護を図ることが考えられております。
阿部正俊君 ありがとうございました。
 これは感覚の問題でしょうから、あえて言うのはどうかなと思いますけれども、政務次官の答えに、法律上もそう書いてございますが、保護という言葉がございます。
 私は、今回の成年後見というのは、保護ということよりも本人の尊重というふうな意味だと理解しておりますけれども、従来の保護といいますと、本人の意思というよりも、いわばいい食事をして、いい布団に入れてやるのがいいじゃないかというふうなのが保護という、どっちかというととかくそういう方向に流れがちでございますので、できますれば、将来、成年後見制度をもう少し一般の方々に知ってもらうためには、保護という言葉を慎重にお使いいただきたいものだなというふうに思います。これは要望でございますので、特段のお答えは要らないと思っています。
 さて、今回の成年後見制度の全体を通じたポイントの一つといたしまして、従来の禁治産、準禁治産というふうな制度のときに、後見人、保佐人というのをつけていたわけでございますけれども、どうしてもお一人でやるというんでしょうか、お一人が後見する、お一人が保佐するというふうな仕掛けでございましたけれども、今度はどっちかといいますと、一人の人がすべてを担うということではなくて、例えば監督という者というのは非常に大仰な言葉ではございますけれども、少なくとも複数の方が御本人の意思の尊重、あるいは意思がそんたくされて本人の利害をきっちり実行されておるのかなということについて、いろんな形がございますが、少なくとも複数の目がそこに注がれるということが大きなポイントかなというふうに思います。
 例えば、従来、配偶者がいわば法定後見というんですか、よく詳しく知りませんけれども、まず配偶者がなるのが原則だというふうなことがあったやに聞いておりますけれども、それもやめるということ。もちろん夫婦でありますれば配偶者が片方の配偶者の意思をできれば代弁できればというのが理想ではございますけれども、なかなかそういかないケースが率直に言って多々ございました。
 というようなことで、今回、お一人残った配偶者の原則後見というのをやめまして、新たな後見人の選任及び複数の方の目がそこに行き届くというふうな形に変えてきたというのが一つの大きな全体に共通した後見人の選任及び後見の実施についてのチェックというものを入れたというのが一つのポイントかなというふうに思うんです。
 そうした後見人、保佐人あるいは補助人という方々の選任方法なりあるいは実施についてのチェックの仕方なりについて従来と違った点は、どういう点を変えたのか、特に配偶者の選任、原則後見というのをやめたというふうなことも含めて、考え方と中身のポイントをちょっとお聞かせ願いたいと思います。
政務次官山本有二君) これまでは夫婦の場合配偶者が必ず後見人、保佐人となるものとされておりますが、高齢者の場合には配偶者も高齢となっていて後見人等の役割を果たすことができないことも少なくないとの指摘があったところでございます。
 また、これまでは複数の後見人等を選任することができず、法人を後見人等に選任することの可否につきましても解釈上疑義があるので適切な対応ができない場合があると指摘されてまいりました。
 そこで、今回は配偶者が当然に後見人等となることをやめ、法人や複数の成年後見人等の選任も可能としております。そして、成年後見人等につきましては、家庭裁判所が本人の保護の必要性や本人と成年後見人等との関係等の事情を総合的に考慮した上で、個々の事案ごとに適任と認める者を選任することになります。具体的には、従来の後見人等の大多数を占めてきた親族、知人に加えて、弁護士、司法書士等の法律実務家、社会福祉士等の福祉の専門家、さらには社会福祉協議会等の法人も成年後見人等の候補となるものと考えられます。
阿部正俊君 ありがとうございました。
 さて、今回の成年後見制度においてもう一つのポイントだと思っているのでございますが、前の制度の禁治産、準禁治産というふうな表現から変わったということでもおわかりのように、御本人のいわば財産的な問題だけではなくて、どういう生活を組み立てていくのかということについてさまざまなことがあるわけでございます。
 例えば、施設入所、あるいはさまざまな福祉サービス等も受けるか受けないか、あるいはどういうふうな受け方をするかというふうなこともあるわけでございますが、言葉はまだこなれていないなという感じが、しようがないんですけれどもいい言葉がないのでそうなりますけれども、いわゆる身上監護というふうな表現でございますけれども、これについてどういうふうに成年後見制度の中に位置づけておくのかということが一つの大きなテーマではなかったかなというふうに思うのでございます。
 法律的に若干の手直しがなされているようでございますが、成年後見制度における身上監護の意味と、それから法律的な手直しの内容について御説明をいただきたいと思います。
政務次官山本有二君) 身上監護に関して、現行民法第八百五十八条第一項は後見人に禁治産者の療養看護義務を課しておりますが、対象行為が限定されていて、身上面の多様な職務における後見人の注意義務を含むことができないことなどについて批判があったところでございます。成年後見人の行う法律行為には、身上監護を目的とするものはもとより、財産管理に関するものであっても本人の身上に関連する事項が多く、成年後見人は本人の身上に配慮して事務を遂行すべき一般的な責務を果たすことが求められるところでございます。
 そこで、身上面の保護の重要性にかんがみ、成年後見人の後見事務遂行に当たって、身上配慮義務として本人の心身の状態及び生活の状況に配慮すべき義務に関する一般的規定を創設するとともに、自己決定の尊重の観点から、本人の意思を尊重すべき義務につきましてもあわせて規定することとしたものでございます。
 なお、この点は保佐及び補助制度における保佐人及び補助人につきましても同様でございます。
【次回へつづく】