精神医療に関する条文・審議(その119)

前回(id:kokekokko:20051205)のつづき。初回は2004/10/28。
ひきつづき、平成11年の成年後見制度制定・精神保健福祉法改正についてみてみます。

第146回参議院 法務委員会会議録第4号(平成11年11月18日)
【前回のつづき】
○橋本敦君 ありがとうございました。
 次に、副島参考人にお伺いしたいんですが、先ほど副島参考人も費用の問題が大変大事な問題だという御指摘がございました。言ってみれば、社会的弱者という立場の人でもこの制度が現実的に利用できるようにするにはどうするかということでございますが、この点でまさに財産のある人だけに十分な介護、後見あるいは補助ができるということになってはいけないわけで、先ほどのお話でも諸費用含めれば百万近くかかる場合もあるというお話もございました。こういったことを国の公的補助としてどの程度までやれるのか、またやるべきなのか、また地域の福祉事業との関係での協力体制でどこまでやれるのか。今後の難しい課題だと思いますが、先生の具体的な御意見があれば伺わせていただきたいと思います。
参考人(副島洋明君) やはりこの制度は、私のレジュメの一ページの一番末尾にありますけれども、国家がやはり一定程度、ある面では保護制度であると同時に、しかし権利剥奪すると。つまり、あなたは無能力者ですから人間としての権利はここまででできませんという形で取る制度であるのだと。だから、国家が人間として持っているいわば基本的な人権の一つの自由なり可能性なりというものを制約するわけですから、奪うわけですので、それで国家がやっぱり福祉国家的な形で保護という形でかかわっていく制度であるわけですから、保護制度とそういう両面を持っているわけですので、僕はここの私法上の制度で、民法という形で、あとは私人の使い方のルールですよ、家族でよく考えて使うか使わないか決めなさいというふうに投げ渡して、私法上の制度だけであることが基本的に矛盾が今出てきたのだ。
 だから、本当にこれからの社会は、福祉社会は一人一人自立する一つの社会だというふうに我々が考えるならば、やはり一人一人社会が支えていける一つの条件をつくらなくちゃいけない。そのためには、一つは特別の、この制度かどうかわかりませんけれども、やはり法律扶助制度を通してでも、この申し立て制度は、申し立てする相談があった場合は、やはり法律扶助協会の中で、弁護士が申し立てし、かつ自分でやる場合においての手続費用と報酬はある程度持ちますよという指導と助成は早急にやっていただきたいというふうに僕なんかは思っていますけれども。
 以上です。
○橋本敦君 よくわかりました。それで先生が、全日本手をつなぐ育成会、社会福祉法人、ここが出しております「手をつなぐ」という月刊誌にも論文をお書きいただいておるのも資料としていただいて拝見させていただきました。
 この中で、先生が、私はどんな重い障害がある人にも人間としての尊厳があり、自己決定権があり、自己決定できるのだと考えていました。人は自己決定できるということを前提にして初めて私たちの目の前の重い障害者の意思を謙虚に受け入れる姿勢を持ち得るし、その人の意思をつかみ出すかかわりをつくれるのではないでしょうか。重い障害のある人の自己決定へのかかわりを切り捨てるのではなく、自己決定の行使を支援する成年後見制度が創設されるべきだと考えていました。こうおっしゃっています。
 私は全く同感でございます。この立場から見ますと、今度の成年後見法はこの点はどうか、あるいは将来こうすべきかという御意見が、先ほども若干述べられたんですが、もう一度具体的にお話しいただけますか。
参考人(副島洋明君) 私のレジュメの中にも書いていますけれども、地域福祉権利擁護事業は大変私は支持する立場だし、推進する立場で本当にいいと思っています。大体その制度の趣旨が、はっきり言って一元的な立場で必要性に応じてその人たちの地域での暮らしの中で支援員なり専門員がかかわってやっていこうという、その精神、その構造みたいなものを通して成年後見制度に、先ほど魚住先生を初め、一元的な形で統合していければ本当にもっとこの成年後見制度も僕は使えたなと、本当に福祉制度とつながった成年後見制度になれたのにと。
 一方はやっぱりどうしても類型論で、片方は一元論というような制度の中で、この重度の人たちがぽっとり落ちちゃう。だから、一元論をとっていれば、本当にその人の必要な、重いとか軽いとかという判断以前の形で対応というものが、地域福祉権利擁護事業と公的な成年後見制度の統合的なかかわり方というか支援とかできたのにと。
 だから、そういう方向にぜひ今後の見直しということを、福祉の制度をもっと一体化していくという方向で考えていただきたい。本来、家族法の領域はもういいのではないか。介護保険と同じように、ある面では社会化された一つの方向というものを、いろいろハンディを持った方々に対する権利擁護は、介護も社会化されるのであるならば、権利を守るということも社会化されたシステムというものを準備され、つくり出していく時期なのではないか。先進国はもうそういう形で突っ走っているではないか。だから本当にちょっと時代おくれだなと。だから、時代おくれがちょっとありますので、早急に取り返す次への準備に入っていただければと思っております。
○橋本敦君 大変よくわかりました。
 その問題、私も政府に対して、一元論ということで日弁連も言っているその主張の合理性もあるし、実態もそういう立場で積極的な検討、配慮が必要だということで指摘をしましたら、政府の側もそういったことも含めて十分に検討していくんだということで、類型化はやめるとは言いませんが、今後の運用での配慮は約束をしているわけで、先生の御指摘も踏まえて、今後一層運用が合理的になっていくように私たちも努めたいと思っております。
 もう一つの問題で、先生がこの論文で指摘されていることで、私もこの点は重要だなということで感じた点がございますが、知的障害者の財産が周囲の関係者との私的な関係のもとでだまし取られたり奪われたりする事件が頻発しています。また、知的障害者虐待事件も、その背景にはまず財産や金銭に対する私物化がありました。本来、他人の財産管理をなす権限というのは、その当事者間で対等な関係があり、社会的なチェックがあって初めて可能というべきものです。改めて人を支える、人の自立を支援する社会的支援制度の質のあり方が問われています。こうおっしゃっていますが、私もこれも大事な指摘だと思っておりまして、午後の質問でも指摘をしたいんですが、法人が今度かかわってくるということもございまして、具体的にこの点をどのように合理的にチェックをしていき、いいものにしていく、そういうことが可能なのか。
 ここの先生がお書きになった、まさに社会的チェックがあって初めて可能になるんだよというこの社会的チェックは具体的にどうしていけばいいのか、御意見があれば伺わせていただきたいと思います。
参考人(副島洋明君) やはりそこは成年後見制度だけですべてが、本当に弱者の人たちの権利擁護、人権保障が図れるというのはそもそも難しい。いろいろなやはり仕組みの中の一つとして、大きな基本的な柱の一つがやはり成年後見制度であろう。僕はそうなってほしいと思っています。
 最近の福祉の現場の中では、やはり最近も、つまり財産を横領する、奪う。年金を初め賃金とかそういうものが奪われていくというのは、ついこの前も四国で新聞記者が私どものところに飛んできましたけれども、四国の方で、ある作業所の知的障害者の人たちの今までの給料とか年金、四千万近くたまっていたものを全部使い込んでいた、それで警察に逮捕されたというのが新聞記事で、地元の記事で大きく騒がれていた。
 そういう記事を、私なんかは事件とかさまざまやってきていますけれども、本当にふだん、ある面じゃ言葉は悪いけれども、日常的にそういう社会的な弱者の、その新聞でも奪った横領犯の社長さんは、自分が一生面倒を見てやるんだから、何か反省余りなしという、自分が面倒を見ているんだ、お前のものはおれのもの、だからおれは親みたいなもんだ、だから取ってもいいというような、おれが苦しいときに金を使うのは勝手だ、それは許されているという理屈を述べておられましたけれども、やはりそういう背景というものは大変残念ながら福祉関係者の施設の中でもある。だから、年金管理におけるあり方というのが大変難しくなってきている。
 そういうものを含めても、やはり仕組みとして私的な制度の形だけでは不十分で、東京都なんかも以前から例えば「すてっぷ」みたいな形で苦情相談窓口、そしていろんな法的な形をつくり出してきている。今後も地域福祉権利擁護事業の中でも、と同時に、利用者の保護事業として施設やサービス提供者の人たちの苦情解決制度とか情報開示とか、いろんな意味で厚生省が介護保険に伴ってさまざまな権利擁護に附属する事業を展開してきております。
 だから、もっと例えばそれをオンブズマン的な形で地域の中できちっと保障していく、やっぱりそういう社会的ないろんな利用者の人たちの権利を守っていく仕組みの中でこの成年後見制度も本当に生かされていくのだというふうに思います。
 以上です。
○橋本敦君 それでは続きまして、河合参考人に御意見もお伺いしたいと思います。
 今回、民法九百六十九条の関係で公正証書遺言の問題が一定の前進をして解決に至りました。ここに来るまでには河合さんを初め皆さん方や、たくさんの皆さんの大変な運動がございました。例えば、東京弁護士会が九八年三月二十三日に法務大臣あてに人権救済申し立て事件ということでも提起をいたしまして、外国人については通訳によって遺言がなされている、ところが言語障害を理由にしてなかなか皆さんの要望にこたえないのは問題だ、聴覚・発語障害者等の身体的障害を理由にして公正証書遺言書の作成を拒否することは合理的理由のない差別であって、憲法十四条にも反するし、国際人権規約B二十六条にも違反すると考えられる、こういう見解も出していることもございまして、ようやく今回そういった方向が実現をしたわけでございます。
 このこと自体について、私たちは遅きに失した、もっと早くやるべきであったということで、政治家として反省もしながら今回の法案を迎えておるわけですが、この公正証書遺言の問題についてどういう御意見を今お持ちか、お話をいただければと思います。
参考人(河合洋祐君) 先生方の御尽力に対して私どもとしては心から感謝申し上げる次第でございますけれども、実は私どもは、一九七九年でございますか、民法十一条という準禁治産者の規定の聾盲の名前の削除につきまして運動して改正を成功させていったわけでございます。
 けれども、実は我々をめぐるさまざまなまだ差別的な法律がございまして、現在、署名運動をやっておりますのは資格制限の法律の撤廃運動でございます。それに二百万人の署名を集めて提出する準備を進めておりますが、医師法のように全く試験もさせないというような法律もありますし、薬剤師法のように試験は認めるけれども免許は別だというような法律もまだございます。
 また、御承知のことと思いますが、公職選挙法の百五十条においては、やっと手話通訳はつけるようになりましたが任意性になっております。義務ではないんです。これは公民権にかかわる問題と私どもは理解しております。
 また、著作権法の十条では、私たちが必要とする映画とかまたはテレビ番組のビデオに字幕や手話通訳をつけたいと思いましても、認められておりません。目の見えない方の場合は点訳文は適用が除外されておりますけれども、聾唖者につきましては字幕、手話通訳をつける自由は認められておりません。ですから、もしそれをつけたいと思う場合には、非常に高い著作権料を払わなければ我々は皆様と同じような文化を享受できないという立場に置かれております。
 そういう面で、私どもはなお先生方の御努力をいただきまして、本当に耳の聞こえない者たちが対等な人間としての扱いを受ける、特に憲法十四条が保障する「法の下に平等」ということが、ただ文字の上だけではなく、現実の社会において実現されてほしいと心から願っております。
○橋本敦君 今御指摘のような問題は山田裕明弁護士も具体的に前から指摘をされておる問題で、今回の民法改正を契機に、残された欠格条項の撤廃ということで、今お話がございましたので、私たちもそれを十分検討させていただいて努力したいということを申し上げて、終わりたいと思います。
福島瑞穂君 社会民主党福島瑞穂です。
 きょうは大変貴重な御意見、さまざまな経験、アドバイス、ありがとうございます。
 今、欠格条項の話がありました。公職選挙法上、今まで禁治産宣告を受けた人には選挙権、被選挙権が御存じのとおりありませんでした。今回、これを踏襲して成年後見に付された人にはやはり選挙権、被選挙権がありません。この点について河合参考人、御意見をお願いします。
参考人(河合洋祐君) 私は、聾重複障害者と申しまして、聾の上に知的障害を持った方々の入っている施設を運営する社会福祉法人の理事長もやっております。そういう立場で考えるのでございますけれども、どのような重い障害を持とうとも本人は主体的な意思ということを持っています。ただ、その主体的な意思をあらわすサインというものを我々の方が読み取れないんではないのかと考えております。
 ですから、後見人をつけることによって選挙権を認めないというのではなくて、どのようにサポートすることによってその権利を行使させるかが最も重要ではないのかと私は判断しております。
 障害者プランにおいても、冒頭に障害者の主体性、自立性ということの確立をうたっております。そういう立場からも、後見人をつけるのはどういう意味でつけるのか。これはかわいそうだから保護するためにつけるというのか、それともどこまでも障害を持った人たちの主体性を生かすためにサポートするのかという、その認識が基本になければ本当の意味の法律の有効性はあり得ないと私は思っております。
福島瑞穂君 ありがとうございます。
 今回、残念ながら百十六についてはまだ欠格条項が残っております。保護司、取締役、弁護士、司法書士など、これは欠格条項です。この点についても河合参考人、御意見をお願いします。
参考人(河合洋祐君) 私どもとしまして一番恐れておりますのは、障害を持つということがイコール無能力者という判断があるのではないのかということでございます。長い間、特に同じ障害者の中でも聾唖者の場合はどういうわけか障害の問題だけではなく必ず低脳というイメージがつきまとっていました。ですから、昔の差別的な言葉に、単におしつんぼと言うだけではなくて、ごろという言葉が使われていたんです。
 そういう意味でもって、私どもとしては障害者を本当に人間として認める、そういう法律であってほしい。そして、たまたま障害を持ったために自分の能力を十分に発揮できない場合には、それを発揮できる道筋をつくる、それが一番の基本ではないのか、そういう考え方を持っております。
福島瑞穂君 ありがとうございます。
 田山参考人にお伺いします。
 先ほど副島参考人からもありましたが、普通の人が使える制度ということで鑑定料のことなどが、費用の点が問題になっております。先ほど鑑定については慎重にしなくてはいけない場合もあるけれども、若干考慮が必要なのではないかとおっしゃったんですが、多分鑑定料の金額も、高い場合は五十万、八十万という場合も出るでしょうから、その費用の点についてもう少し教えてください。
参考人(田山輝明君) 古い法律なんですが、つまり人権の保護ということを重視していきますと、オーストリアの古い法律なんですが、第一審で昔流に言う禁治産宣告が相当という鑑定が出た場合に、本人がそれに対して異議があるという場合に再審査してもらう。そのときには別な鑑定人を要求できる、そういう権利が認められていたという制度もかつてはあったんです。人権の保護というところからいきますと、そのくらいにまで慎重にやるというのが一つの考え方だと思うんです。
 しかし、その制度は既になくなっておりまして、大体ドイツなんかですと鑑定の費用というのは数万円だろうと思います。数万円で、しかも期間はそんな何カ月なんということはまずないわけでして、何週間かで結果が出てくる。ということは、必要性ということを非常に重視しておりますから、必要な人がこうしてくれと言っているわけですから、鑑定でお金をかけて時間をかけて、今、日本では二、三年たっても結果が出ないという例もあるそうですから、これではどうしようもないわけです。
 ですから、そういうことでまいりますと、場合場合によって、軽度な人で本人の意思と矛盾するようなことになる場合にはこれは慎重じゃなきゃいけないと思うんです。しかし、そうではない場合については、最も簡易な場合は医師の診断書的な鑑定書でもいいかもしれませんし、それから本当にその人を長い間見ている方でもいいかもしれない。ただ、そのときに、長い間見ている人で絶対的にいいとは必ずしも言えないわけでして、長く見ている人が周りの親族と結託するということもなくはないんです。
 ですから、そういう意味でいうと、何らかのチェックは必要なんだと思うんですけれども、パーフェクトなことばかり考えていますと、どうしても時間、費用が高くなりますので、その辺は実態に即して簡易な方法も織りまぜて裁判所の責任において運用していただくというのが一番よろしいのではないかと思います。
福島瑞穂君 ありがとうございます。
 副島参考人のレジュメの中に、家庭裁判所がチェックをする、チェック機能をどう働かすかということが書かれています。例えば「本人の権利状況が厳しい場合などは、裁判官自身が本人のいる現場に出向いて行って、直接本人の意思と状況を確認するという手続と体制がとられることが必要です。」というふうに書かれていらっしゃいます。先ほども田山参考人から、ドイツの例で裁判官自身が出向く例ということも書いてあったと思います。調査官でもいい場合もあるかもしれませんが、ここの点についてちょっともう少し敷衍して話をしてください。
参考人(副島洋明君) 私なんかもかねてから言っていて、現行の禁治産宣告の手続、後見人選任の手続は恐らく憲法違反だというのは、やれば負けないなというのは前から話していたんです。つまり、本人の確認手続を一切とらずに事務手続を進めていくというふうな、申立人、代理人、第三者の言葉でこの人の権利が、つまり心神喪失という言葉にあらわれるように、まるで人間でなくなった、心と体と何かばらばらな人間になっちゃうような、どんな重い人でもそんな人はまずいないんだけれども、でも、心神喪失というように事理弁識能力に欠ける、欠く状況になる、そういう人間。ある面では本当に脳死みたいな、ある程度そういう状態にならない限り、通常あり得ないんだけれども、実際は例えば中度ぐらいの知的障害者で七歳ぐらいの精神年齢の人、つまり中度の知的障害者の人も禁治産宣告を今までは受けてきているわけです。
 だから、運用というのが現場の中では私から見れば本当にずさんだ。何で中度の人が心神喪失とか事理弁識能力を欠く状況にある人と。そんなんじゃない。その人は十分に人間としての自分の表現もでき、自分でコミュニケートもでき、自己決定もできる人たち。その人たちがどういうわけか禁治産宣告を受け、被後見人となっておられる。
 そして、僕なんかも取り消したいという相談を受けたこともあります。禁治産宣告を受けている、やっぱり自分だけ選挙権が来ない、何か役所の通知が来ない、銀行通帳も自分の名前でつくれない。やっぱりそれは大変社会人として、施設の中に入っていて本当に自分は寂しい、それで落ち込んでいて、取り消したいということで、先生、できるんですかと来られた。
 でも、やっぱりお母さんは子供の将来のために自分たちの財産をこの子に残したいということで成年後見人、禁治産宣告をとられていたんですけれども、それでもやはりだめでした。やっぱり取れない。取り消し事由というのに、基本的には直るというのはあり得ませんし。
 そうしますと、裁判における手続というのは、僕は裁判官自身が本当にその人を実際に見て、話して、通訳とか支援者の人を横に置いてもっと本当に話せばほとんど、コミュニケートができないのではない。支援者の、横に入った人によって、本当にいろんな可能性を持っている人だということがわかろうと思うんです。
 だから、僕は裁判官自身がやはり申立人──申立人なんて本人の代理人で、本人の権利擁護者だとは限りませんし、家族の擁護者でも早くこの人の後見人になって財産管理したいという人がたくさんいるかもしれませんから、だから本当に周りの状況、家族の状況で後見とか保佐とか、成年後見制度の判断をしないでくれ。やっぱりそれは裁判官がみずから、裁判所が本人の権利を守るという役所なんだ、裁判所なんだということを僕は実質的につくってほしい。
 その意味で、裁判官自身が、先ほどドイツではそうやっておられる、それが僕は原則になるべきだ。やはり書類面だけでは本当に私の詳しい知的障害者の分野で判断はできないよ、書き方一つでどうにでもなるというぐらいの形を感じますので、今裁判所の審判規則の改正作業がずっと進められていまして、どうも調査官の報告書の段階までは原則とするみたいですけれども、いや、僕とすれば本当に裁判官が、常にということはいけないでしょうけれども、施設にいる人とか病院にいる人とか、ある面では権利状況というのが厳しい、侵害とか、いろんな周りの人の利害とかかわりそうだ、財産も多額だとか、いろんなチェックの項目があれば、裁判官自身が面接して、出向いて現場を見て判断する。そして、そこで後見人の必要事項をつけ加えられるようになっていますので、指示事項として入れていくというふうにしないと、大変僕は危険だと。
 最初に言ったように、繰り返しますけれども、他人の財産、他人の財布を取り上げるということがこの成年後見制度だということを踏まえる必要がある。やっぱりそういう人権侵害をする手続なんだということを踏まえて、どう守っていくかということに入っていかないと、自分たちで抗議、文句を言えない人たちだけに、そこは本当に通常以上の裁判所自身の責任とか、かかわる人間の関与の責任、役割というのは重い、僕はそういうふうに思います。
福島瑞穂君 ありがとうございます。
 家庭裁判所は希望のあるというか、非常に役割の大きいところで、裁判所の充実ということが本当に望まれると思います。
 私自身も不在者財産管理人や相続人がいない場合の財産管理人をやったことがあるんですが、処分するときに御存じのとおり家庭裁判所の許可が要ります。ですから、非常に慎重になるわけですが、今回、八百五十九条の三で、家庭裁判所の許可を成年後見人が得るのは居住の用に供する建物だけです。としますと、例えば、私がいろいろ暗躍して成年後見人になったと、多額の、何十億という財産をどうか自分の財産にしたいと。居住用不動産については手をつけられないけれども、ゴルフの会員権はあるわ、株券はあるわ、リゾートマンションはあるわ、都内に土地を持っている、これを売り飛ばしてやれということは家庭裁判所の許可なくできるわけですね。この点についていかがでしょうか。
参考人(副島洋明君) 実は、そういう裁判、トラブルというのは今多いですね。たまたま新聞なんかでは、知的障害者の弁護士なんかが数年前、多額の財産、遺産を引き継いだ知的障害を持っている人に二人の弁護士とも何か悪いことをして、片一方は土地をだまし取る、片一方は現金をだまし取る。同業者として私もびっくりしました。相模原でしたか、一人の知的障害者、大きな財産を残された方に二人の財産管理する弁護士がついて、二人がかりで土地と現金をだまし取って、その弁護士たちは、当然裁判になっていまして、新聞に載りましたけれども。
 やはり後見人とかその権限のチェックというものは、ある面では本当にその人の良心にかかっちゃう。先ほど言いましたけれども、片方の人が、上下関係がある、対等な人間関係にやっぱり自分が、僕は性悪説に立つべきだと思っているんですね、法的制度は。人間だれだって悪いことを、僕だってするという立場に立ってチェックシステムをつくらなくちゃいけないと。ところが、この場合は上下関係で、自分で抵抗、いろんな意味で防御能力とかいろんな社会的な批判力とか、そういうものができない人たちですから、容易に手のひらなりコントロール下に入れやすい。それゆえに誘惑もまた私物化も容易に、誘惑にも駆られていく。
 だから、財産管理、家族みたいなつもりで手をつけていくという構造の事件がたびたび繰り返されているので、ここのチェックシステムは、単に保佐監督人とか後見監督人とか補助監督人というものをつけるということよりも、僕はやはり組織の、例えば後見裁判所的なやはり公的な組織が、せめて監督だけは責任を持って業務報告をさせ、そのお金の管理の状況は必ず半年に一度はせめて財産内容収支のあれを出させるとか、そういうチェックだけは公的な機関でやっていく、そのためにはやっぱり裁判所ということになろうか、そう思います。
福島瑞穂君 ありがとうございます。
 条文上、成年後見人が不在者財産管理人に比べて容易に財産を売却できるので、ですからチェック機能はでき上がった後も議論をしなくちゃいけないと思います。
 余り時間がなくなってしまったんですが、法務委員会なので、河合参考人に、先ほど刑事手続の中における障害者差別、特に聾唖の人に対する差別の問題をおっしゃったんですが、残り時間は余りありませんが、二、三分ありますので、その点についてぜひ教えてください。
参考人(河合洋祐君) 障害者の差別問題でございますけれども、まず一つは教育問題を考えていただきたいと思っています。それは、長い間日本の学校口話をとっておりまして、現在でも手話は正式な教科として取り上げていないという面がございます。けれども、北欧やアメリカの場合には教育の場における手話通訳というものをはっきりと制度として認めています。ところが、日本の場合は、大学で学びたいと思いましても、手話通訳とかノートテーカーをつける制度は全くないのでございます。これではせっかくの能力を持ちながら、その能力を十分伸ばしていく、果たさせていくだけの保障はつけられていないと思っております。そういう面で、私どもとしては大きな疑問を感じています。
福島瑞穂君 刑事手続の中における、例えば被疑者になった段階で家族が面会に行く、その場合に警察官の人はメモがとれないわけですね。そういう場合は両方に手話をつけろと言われるのか。例えばその点はどうですか。
参考人(河合洋祐君) 本来でしたらば、刑務所においても手話通訳が重視されるべきだと私は思っております。なぜかというと、看守に対しても、また同じ捕まった人たちに対してもコミュニケーションができないわけでございます。
 ここで御理解いただきたいのは、聾唖者の持っている国語力でございます。例えば障害者基本法によって市町村の障害者計画が進められましたときに、そのアンケート調査の中でもって日本語を十分読み書きできない人たちが四九%という報告をした町がございます、人口三万人ぐらいのところでございますけれども。そのように、筆談でもってできるとか口頭でできるとかという間違った見方がまだ残っていることが問題と思っております。
福島瑞穂君 あと一分ぐらいあるので、永島参考人に、先ほど周知徹底が必要ということでおっしゃいました。今回、制度が成年後見と地域福祉事業と両方あって、普通の人は一体どこに行ってどう相談してと、やっぱりわからないと思うんですね。その点についてのアドバイスがありましたら一言お願いします。
参考人(永島光枝君) どちらの制度にも乗り合いでPRの文書とかそういうものをつくられたらどうかなというふうに思うんです。
 それで、ちょっとさっき言いそびれましたけれども、私ども電話相談というのをやっておりますと、パンフレットをぱっとまくとすごく電話の件数が多くなるんですね。そういうことがあります。ですから、ちょっと件数が少なくなるとまたあちこち行ってパンフレットをまくと。
 そういうことを日常、例えば新聞なんかにこういううちの会の活動や何かが出たとすると、その新聞を黄色くなるまでとっておいて、そして自分のうちで本当に必要になったときに電話をかけてくださる、そういうようなこともありますので、例えば老人クラブとか何かいろんなそういうところの会合で、ありとあらゆるところで必ずこういうことはつけ加えると、新しい制度ですから。というようなことをしていって、やっぱり一般的に広く知らせるということが必要なのではないでしょうか。
福島瑞穂君 どうもありがとうございました。
中村敦夫君 中村敦夫でございます。よろしくお願いします。
 今回の法改正というのは、相対的に見て前よりは半歩前進とか一歩前進とか、どのぐらい前進かは別として、私たちの立場としてはただ反対というわけにはいかない。しかし、大変いろんな問題が含まれているわけです。
 一番大きな問題は、例えばこの法案が成立したところで、制度として本当に国民の間で普遍的に便利なものとして利用されるのかどうか。というのは、当てはまる事例というのは増加する一方ですから、それが使われなければ何の意味もないわけですね。しかし、この法案の性質上、これはどちらかといえば財産のある人を対象とした、そうした法律になってしまっている。それも、親族などで財産の分割をめぐってもめているというようなときに適用されやすくて、もめていないときは余り使わないで済むみたいな部分もありますね。それから、一般的にはこういう問題を裁判所に持ち込むのは嫌だという日本の国民気質というものがあります。そして何よりも、金持ちであろうとなかろうと、かなりこれはやっぱり費用がかかるのではないかということがあります。そうなると、実際には余りこれは使われないんではないかという想像もつくわけです。
 ですから、そうした需要というものはたくさんあるから飛躍的に伸びるだろうという予想と、余り伸びないだろう、もうほんのちょっとしか使われないだろうと。こうやって三段階に分けるのも変なんですが、そうすると、形だけの法律としてできたというままほうられてしまったんでは意味がないと思いますので、大変難しい御質問でございますけれども、A、B、C、飛躍的に伸びるか、まあまあ伸びるか、大して伸びないか。ふえることは間違いないわけですけれども、それを数字的にまでシミュレーションできるのか。できなくても結構ですから、それぞれのお立場、それぞれの分野で、この法案はどのぐらい普遍化するかという大ざっぱな感想を、ほんの短いお答えで結構ですから四人の方にお願いいたしたいと思います。田山先生からどうぞ。
参考人(田山輝明君) 大変難しいんですが、つまり運用の前提として、いろいろ希望させていただいたような費用をある程度負担して公的な負担の制度を用意してもらうとか、そういうような前提が実現された上でのことであれば、希望的にはぜひAであってほしいと思いますが、実際上はBぐらいかなという心配もしております。
 それは実際上、一番最初の発言の機会にも申し上げましたが、地域福祉権利擁護事業がどのぐらい受け入れられていくかということとの相対的な相関関係の中である種の結論が出てくるだろうと思いますので、私は、こちらの後見制度の方が法的な安定を求めることができる制度であることは間違いありませんので、そういう意味で、ぜひ少なくともB程度の活用ができるようなこれからの費用面での配慮などをしていただきたいというふうに考えております。
参考人(副島洋明君) 僕はCだと思っています。
 前進した意味は、これまではやっぱり奪うもの、剥奪というものが強過ぎましたので、資格制限とか本当にマイナス要素を確かにちょっと少なくして、言葉にしても準禁治産者とか、こういう言葉をなくしていくとか、大変差別的に、人権にマイナス、これがあるがためにマイナスだったことをなくしたという意味では大変いいんですけれども、権利擁護を大変利用するとか、このままではそういうところにはまずいかないだろうというふうな感じがしております。
参考人(永島光枝君) 先ほど言いましたように、私たちの会は、そういう問題意識がそもそも、問題意識というか、その禁治産とか準禁治産とかという制度を知らなくて新しくこの成年後見制度ができるんだというところから入っているものですから、かなり白紙状態でここにかかわっていて、ちなみに、これはまだ社会福祉権利擁護制度ができる前の話ですからちょっとデータとしては古いかもしれませんけれども、先ほど申しましたアンケートに、成年後見制度が実行された場合、実際に利用されるようになると思いますかというのは、思うが五九%、それほどとは思わないが二九%、わからないのも一二%というふうになっていて、現実に新設は非常に賛成、だけれども実際に自分が使うときになったら、五九%だから約六割の人が使うようになると思いますかということに賛成していると。
 それからあと、あなた自身について将来も含めて家庭裁判所が選任する家族等以外の第三者の後見人、例えば、これにもう出ているんですね、社会福祉協議会などの法人も含む、そういうのに要保護者の財産管理を任せたいと思いますかということで、任せたい二九%、一部分なら任せたい三二%、合わせて六一%、任せたくないが一二%、よくわからないが二二%と。
 これはまだこの後見制度が一番初めのころの話ですけれども、こういう数字が出ている。でも、これは実際に介護をしているほとんどの家族たちが、数はそう多くはありませんけれども、百二十人くらいですか、介護経験とか、それからただの介護経験じゃなくて、私どものように支部世話人たちでかなり相談に乗っている、いろんなケースを見聞きしている、そういう人たちの回答です。
参考人(河合洋祐君) 聴覚障害者の立場では、実は民法十一条の時代に非常に苦い経験を持っているんです。
 それは、準禁治産者の規定があったために生命保険も最高二百万円どまり、家を買いたいと思って銀行のローンの適用を受けますと断られる。両親が亡くなりますと、残された遺産につきまして、親戚が集まりまして、おまえは自分が持っている財産を処理ができないから聞こえる兄弟に全部財産を分ける、将来面倒を聞こえる兄弟に見てもらえばいいというようにして、すべての相続権を奪われてしまっていたわけです。
 ですから、この問題を法務省に持ち込んだときに、法務省の見解は、これはあべこべだ、裁判所に提起して鑑定を受けなければならないんだ、その上で決まることだから、逆に聞こえない人を保護する法律があると言われたわけです。
 ですから、場合によって法律といいますのは逆作用を生むんです。そういう意味でもって、後見法は私は必要な法律と思ってはおりますけれども、一歩間違えば障害者を対象とした幅広い網をかけることができる。逆に言いますと、障害者の本来持っているべき権利が損なわれてしまう、奪われてしまうという面も同時に考えられるわけです。
 ですから、その運用に当たっては、より慎重にしていただかないと危険性があるんではないかという意見です。ですから、我々としては、簡単に重い障害だから後見人をつけるというふうな一律の原則的な適用ということはぜひ避けていただきたいと思っております。
中村敦夫君 お答えは非常に多様で、これはやってみないとわからないものですから、難しい質問だったわけですけれども、実際問題としては、ゼロになることはなくて、ふえることは程度の問題はありますが確実なわけですね。そうしますと、これを所管する家裁というものの役割というのは物すごく重要になってくるということです。
 ところが、家裁が扱っている家事事件というのは一九八九年には約三十五万件、そして十年後の九七年には四十五万件というふうに十万件も増加しているわけですね。そして、その間、対応する人数、家事審判官である判事、判事補、家裁調査官、調査官補、書記官、事務官、この十年の間には一人も増員されていない。事件が十万件ふえていても一人も増員されていないということはもうこれは大変な状況だと思うんです。それで、おとといの法務委員会で質問しましたら、家裁調査官をやっと来年度に五人要求しているということなんですね。これはもう、例えばこの後見制度を実際に運用する意味でもほとんど討論のレベルになるような数字ではないということがあります。
 そこで、専門的に研究されている田山さんと副島さんに、大体成年後見制度を実現するためにもどのぐらい現状よりも人数が必要であるかというようなことをどういうふうにお考えになっていますでしょうか。
参考人(田山輝明君) ドイツのような感じで一元的に非常に幅広く使うということであれば、先ほど既に申し上げましたような感じの数字になるだろうと思うんですが、日本の場合にはそれほど守備範囲が広くないということを勘案して、なおかつこの制度が最初の御質問にありましたようにどのくらい使われるようになるのか、そういうこととの関連で出てくる答えになるわけでございますので、どのくらいという具体的なことはなかなか申し上げにくいんですけれども、とりあえず動き始めるときに若干の増員をして、非常によく使われるようになったら、それに対応して臨機応変にどんどん増員していってもらわないと動けないと思うんです。家裁も、家裁だけじゃなくてどこでもそうだと思うんですが、私どももそうですけれども、忙しいとどうしても、私自身も学生に対するサービスが低下しますので、そういうことを考えますと、やはり人的な側面での充実をぜひ臨機応変に図っていただきたい、それがこの制度の死命を制するぐらいに感じております。
参考人(副島洋明君) 例えばこの後見申し立て等、現行の禁治産申し立てにしても、そのやっている内容というのは大したことないんですよ、その手続は。ただ、では素人の人たちが、市民の人たちが自分たちで役所に行って聞きながらやれるか。それだけの家庭裁判所が、その受付の書記官の人が丁寧に、近所のパートの帰りなり勤め先の帰りなりという形でぽんと行って、いろいろな形で、ああここに判こを押すのねとかと聞きながらでもやって、その手続ができるのか。できないんですよね、今の裁判所の利用の形は。
 だから、今の裁判所のような形はやっぱり弁護士じゃないと対応ができない裁判の仕組みに構造的に、もうそれは弁護士の責任も大変重いですけれども、なってしまっている。どんなに内容的に易しいものでもそうなっちゃっている。窓口から動くのは、法的な何かの手続をするのは弁護士だ。
 そうすると、それは弁護士の方が、ある面じゃ弁護士はたくさんこういう事件を抱えているから、裁判所も大変やりやすいし、弁護士もお互いのルールみたいなので余りばんばん進められるとこちらも忙しいみたいなものがあるだろうと。だから、そういう意味でどうしてもなあなあの関係が今あるんですよね。
 だから、もっと本当に市民感覚のレベルで物事を進めてもらうというふうにするならば、私は三倍ぐらいの事務スタッフが必要だろうと思います。
 だから、僕はもう端的に一個分、これはあくまで期待でしかないけれども、もう一個分家庭裁判所をつくってくれ、それを後見裁判所なり、子供とかお年寄りとか障害者とか、そういうハンディとか、ある程度の弱者の人たちの後見なり権利擁護なりさまざまな監督なりというものをやるぐらいの裁判所をもう一つつくってください。そうじゃないと、本当に市民が駆け込んでいける、利用しやすいというふうにはならぬでしょう。まず、弁護士のところで敷居が高くて、お金を幾ら取られるんだろうなということから始まって、裁判所の門をたどるころにはもう淘汰されて、ニーズがあったところで、事件化、申し立て件数というのになるのかなという実態。
 だから、司法制度改革というのは本当に同時に進めないと、こういう弱者の人たちの福祉のニーズなんて掘り下げないと出てきやしませんよ。表に出てくるなんというのは、もう本当に出てこない。こういう弱者の人たちのニーズというのはもう出向いていって掘り下げて初めてニーズが出てくる。それだから、自然的にないから、表に出てこないからニーズがないんだという問題ではないのだと。でも、利用までには到達できないでしょうねというのが僕の率直な感じです。
中村敦夫君 ありがとうございました。
 質問を終わります。
○委員長(風間昶君) 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。
 参考人の方々に一言ごあいさつを申し上げます。
 本日は、御多用のところ大変貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。当委員会を代表して厚く御礼申し上げます。
【略】
○委員長(風間昶君) ただいまから法務委員会を再開いたします。
 休憩前に引き続き、民法の一部を改正する法律案、任意後見契約に関する法律案、民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案及び後見登記等に関する法律案、以上四案を一括して議題といたします。
○委員長(風間昶君) この際、政府参考人の出席要求に関する件についてお諮りいたします。
 民法の一部を改正する法律案外三案の審査のため、本日の委員会に厚生省社会・援護局長炭谷茂君及び自治省行政局選挙部長片木淳君を政府参考人として出席を求め、その説明を聴取することに御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○委員長(風間昶君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。
○委員長(風間昶君) これより質疑を行います。
 質疑のある方は順次御発言願います。
塩崎恭久君 自民党塩崎恭久でございます。
 けさほど参考人の四名の方々からそれぞれのお立場から御意見を聞かせていただいて、大変勉強をさせていただいたわけでございます。もともとこの法律は先国会に出ていたわけでございまして、世の中もこの成立を一日も早くしてほしいということで、期待が盛り上がっているわけであります。我々の国会としての責務は一日も早くこの法律を通すことではないかというふうに思っておるわけでございまして、これは与野党ともに努力をいたしまして上げなければならない、このように思っているところでございます。
 東京弁護士会でもオアシスという組織をつくり、また大阪の弁護士会も同じようにおつくりだというふうに聞いております。それから司法書士会も、全国一万七千人いる中で三千人が登録しているという新たに社団法人で成年後見センターリーガルサポートというのをやって、私の地元でも、友達などがもう繰り返し勉強会をして準備をしているわけでございます。弁護士さんあるいは司法書士さん以外の方々もいろんなことを考えているわけでございます。
 いずれにしても、この新しい制度、先ほどの参考人のお話では一世紀おくれたんじゃないかという話も中にはありましたけれども、ここでぜひ早く成立をさせて、またしっかりとした制度にしていきたいというふうに思うわけでございます。
 そこで、きょう私は十七分という、私も国会議員になって初めてこんな短いのをやるわけでありますが、若干余り聞かれていないこともあるのかなということで、一つは市町村長さんに今回開始の申し立て権を付与することにいたしました。このことはどういう状況を想定してかというと、身寄りのない独居老人とか、こういう方々のためにおつくりになったと思うわけですが、その辺について改めてその趣旨、目的、考え方、そしてまた今度取り消しの方は申し立て権を付与しなかったということでありますが、この理由は何だろう、この二点、まずお伺いしたいと思います。
政務次官山本有二君) 民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案により、老人福祉法、知的障害者福祉法及び精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正し、痴呆性高齢者、知的障害者精神障害者に対して迅速かつ適切に保護を開始するため、市町村長に法定後見の開始の審判の申し立て権を付与しております。
 これらの改正法は、いずれもその福祉を図るため、特に必要があると認めるときに市区町村長は後見開始等の審判等を申し立てることができると規定されていますが、その福祉を図るため特に必要があると認めるときとは、本人に配偶者または四親等内の親族がいない場合、これらの親族があっても音信不通の状況にあるなどの事情により後見開始等の審判の申し立てを期待することができず、市町村長が本人の保護を図るために申し立てを行うことが必要な状況にある場合というように解されております。
 次に、御指摘の審判取り消しの申し立て権を付与していないのはどうしてかという問いでございますが、法定後見の開始の審判の取り消しの審判の申し立て権を市町村長に付与していないのは、成年後見人、保佐人、補助人が申し立てを行うことが期待できるからであります。
 市町村長の役割としての申し立て事務は、保護を必要とする本人が成年後見制度を利用できるようにすることでありまして、成年後見制度による保護が開始された後は、本人の保護を責務とする成年後見人等が各種の申し立て事務を行うことができますので、市町村長に取り消しの審判の申し立て権を付与するまでもないと考えられたからであります。
塩崎恭久君 わかりました。
 後見人あるいは保佐人がそのお取り消しをすればいいということだという御説明だったかと思うわけでございます。
 この取り消し権について、これはまたちょっと細かい話でありますけれども、今回は日用品の購入とかその他日常生活に関する行為は除くということになっております。しかし、いろんな商売があって、日常的な日用品の売買で結構だまされたりいろんなことがあるわけでありますが、この辺に手落ちはないんだろうかということについてはいかがでございましょうか。
政務次官山本有二君) 先生の御指摘のように、例えば成年被後見人が通信販売、訪問販売等により高価な下着を購入した場合などその売買契約を取り消すことができるかどうかという問題につきましては、成年被後見人がした日常生活に関する行為につきましては取り消しの対象とはならないとされているのは申すまでもありません。これは、自己決定の尊重、ノーマライゼーション等の新しい福祉の理念から新たに設けられた規定であります。
 日常生活に関する行為については、基本的には民法第七百六十一条の日常の家事に関する法律行為の範囲に関する判例の解釈と同様、本人が生活を営む上において通常必要な法律行為を指すものと解されています。その具体的な範囲は、各人の職業、資産、収入、生活の状況や当該行為の個別的な目的等の事情のほか、当該法律行為の種類、性質等の客観的な事情を総合的に考慮して判断するのが相当であると考えられます。
 したがいまして、衣料品の購入であっても、本人の生活状況、資産等に照らして、およそ本人の日ごろの暮らしぶりに似つかわしくない高価な良品を購入した場合には、その行為は日常生活に関する行為には該当せず、取り消し権を行使することができるものと考えております。
塩崎恭久君 わかりました。
 今回、法律が成立してこの制度を導入する際に大事なことは、きのうの質問にも出ていましたけれども、やっぱり実効ある普及ということが大事なんだろうと思うんです。
 そういう中で、幾つか気になることもありますし、今後の課題というのが残っているんではないかと思うんですが、一つは開始の審判に当たって時間がかかるということと、コストがかかり過ぎるんではないかという御批判が前々から出ていたと思うわけでございます。
 鑑定のコストあるいは時間ということでありますけれども、これは前々から提案もされていますが、一番そういった判断能力の低下している人にとって身近でなおかつ何を思っておられるのかということがわかっているのはやっぱりかかりつけ医のケースが多いわけです、お医者さんにかかっている場合に。そういった場合に、かかりつけ医の判断というものをもう少し尊重して時間とコストを節約できないものだろうか、もっと短期間で後見人なり保佐人なりを選ぶことができないのかというようなことを御指摘されているわけであります。これは最高裁判所の方になるのかもわかりませんが、それについての考えと、それからもう一つは、家庭裁判所の方で今度調査をやる場合のその調査が、立ち入って調査するわけではなくて相手の同意があって初めて調査ができるわけでありますけれども、それで本当に十分なのかどうか。この辺、やっぱり実効ある制度の普及にとっては不可欠な問題ではないかと思いますので、その辺についてお答えをいただきたいと思います。
最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) 御説明申し上げます。
 今、委員御指摘のような鑑定につきましては、鑑定のコストが高いとかあるいは時間がかかる、こういう御指摘があることは十分承知しているところでございまして、今回、成年後見制度に対する法的ニーズが高まるだろうということに加えまして、利用しやすい制度を目指すという今回の法改正の趣旨を踏まえますと、裁判所といたしましても鑑定実務のあり方について検討していかなければならないと考えている次第でございます。
 この観点から、まずこの分野に関係する医師あるいは諸団体に十分な理解と協力をいただくことが必要だろうと考えるわけでございますが、家庭裁判所といたしましても、適正迅速に鑑定が行われるようにするために鑑定書を簡にして要を得たものにするといった観点での運用面の工夫をする必要があろうと考えている次第でございまして、現在、このような観点から豊富な実績のある精神科医の医師等にも御意見を伺いながら、例えばモデルの鑑定書等を作成するなど、円滑に鑑定が行われるための方策について検討を進めている段階にございます。
 さらに、補助類型、任意後見類型につきましては、本人の申し立てまたは同意を要件として制度設計されていることもあり、さらに利用しやすいものとするという関係各界の御意見もあるところでございますから、この類型につきましては鑑定を要することとはせずに、医師の診断等によることで差し支えない、こういった扱いを考えているところでございまして、この診断につきましても同様にそのモデル化等を考え、簡にして要を得た診断書をいただくような方法を考えていきたいと考えている次第でございます。こういった鑑定あるいは診断の面での運用の改善が図られますれば、時間の面、コストの面についても相応の改善効果が上がるものと考えている次第でございます。
 なお、委員の御指摘にございました後見、保佐についても、かかりつけ医の診断で賄うべきではないだろうか、こういう御意見でございますけれども、後見、保佐の類型につきましては、御本人の能力制限の面が大きいことからやはり慎重な判断を要する問題ではなかろうかと考えている次第でございまして、私どもといたしましては、後見、保佐については原則鑑定を要する、こういう考え方をとっているのが相当でなかろうかと考えている次第でございます。
 ただ、もとよりそのような場合におきましても、かかりつけ医の先生が鑑定をしようということで応じていただければ、実際の運用としてはかなり速やかな鑑定をいただけるものと期待されているところでございます。そういった面については、運用の面で十分な目配りをしてまいりたいと考えている次第でございます。
 それから、二点目の家裁調査官の調査権限の関係でございますけれども、私どもの考えているところでは、やはり家庭裁判所調査官の職務は家庭に関する問題にかかわることでございますから、事柄の性質上、これについて強制的な力をもって調査を行うことは適当ではないのではなかろうかと考えているところでございます。また一方、現実にも従来多様な困難な問題につきましても人間関係の知見を生かして家裁調査官がそれ相応に機能を果たしてくれているということを考えますと、今回の成年後見制度の施行後におきましても現在の調査の権限の範囲で十分対応できるんじゃなかろうかと考えている次第でございます。
 以上でございます。
塩崎恭久君 これから新しい制度のもとでいろんな人が多分後見人になろうということになると思いますので、いろいろな状況を想定した上でなお私はもう少し検討してもいいのかなというふうに思っております。
 時間がもういよいよなくなってきたので、最後に大臣に、けさほどの参考人の副島弁護士さんが夢のある家庭裁判所と、こういう話がありました。司法制度改革との絡みもこれあり、そういう立場から法務大臣にお答えをいただかなければならないと思うのでございます。今度介護保険が来年の四月から導入をされる。それにちょうど合わせてこれがスタートするということになって、我々としても、今いろいろと介護保険で世間をにぎわせておりますが、私は保険方式のままでちゃんとやるべきだと思っているわけであります。
 いずれにしても、この家庭裁判所の体制がきちっとしていないと、先ほどの鑑定の問題も時間と金がかかると。家庭裁判所も利用しやすさという面で、これは田山先生もおっしゃっておられましたが、やっぱりこの辺を工夫していかなければいけないし、体制を整えていかなければいけないんではないか、こう思うわけでありまして、司法制度改革との絡みも含めて、この辺についてのお考えと御決意のほどを最後にお伺いしたいと思います。
国務大臣臼井日出男君) 御指摘のとおり、新しい成年後見制度を実効かつ利用しやすい制度とするためには家庭裁判所の体制づくりが極めて大切だと考えております。法務省といたしましても、これにしっかりと協力していくということはやぶさかではございません。
 なお、法務省といたしましても制度の実施に向けまして、成年後見監督人等の候補である弁護士、司法書士社会福祉士等の各団体との緊密な連携を図るなどいたしまして、成年後見人等の受け皿を整備するとともに、成年後見登記システムの構築など体制づくり等に万全を期してまいりたいと考えております。
塩崎恭久君 終わります。
【次回へつづく】