精神医療に関する条文・審議(その120)

前回(id:kokekokko:20051206)のつづき。初回は2004/10/28。
ひきつづき、平成11年の成年後見制度制定・精神保健福祉法改正についてみてみます。

第146回参議院 法務委員会会議録第4号(平成11年11月18日)
【前回のつづき】
小川敏夫君 民主党・新緑風会小川敏夫でございます。今回、この法改正によりましてこれまでの禁治産、準禁治産制度といった後見制度に比べて相当に内容が改善された制度になるというふうに私も思っておりまして、大変にいいことだというふうに思っております。
 一般論といたしまして、この後見の制度、すべて当事者あるいはその周辺からの申し立てがありまして、その申し立てを受けて裁判所が後見なりに付するということになるわけでございます。ただ、一般の社会を見てみますと、後見の必要性があると思われるのだけれどもしかし実際には審判の申し立てがされないで、何となくその周辺の人にうやむやにされてしまって財産がなくなってしまうようなケースも決して少なくないように思います。ここは裁判所制度の根本的な問題、すなわち申し立てを受けて初めて動くんだということがあると思いますが、この後見制度という法律の解釈という意味じゃなくてもっと広い意味で、申し立てがあって初めて後見の制度が機能するということだけでなくて、申し立てがなくても本来保護しなければならない人たちがいる、そういうケースに対処するというような考えは、法務大臣、いかがでございましょうか。
国務大臣臼井日出男君) 社会の高齢化、少子化の進展に伴いまして、身寄りのない痴呆性高齢者、知的障害者及び精神障害者が増加しつつございますけれども、こうした身寄りのない方々につきましては親族等の関係者による申し立ては期待することはできません。必要な保護に欠けるおそれが委員御指摘のとおりあろうかと思います。
 そこで、今回の改正におきましては、身寄りのない痴呆性高齢者、知的障害者精神障害者に対しまして、迅速かつ適切に保護を開始することができるようにするため、市町村長に後見開始、保佐開始及び補助開始の審判等の申し立て権を付与いたしているわけでございます。
 これは市町村が各種の福祉サービスを行う過程におきまして、身寄りのない判断能力の不十分な方々が成年後見制度による保護の必要性を把握することができ、必要に応じて審判の申し立てを行うことが可能であるというふうに考えられるからであります。したがいまして、市町村長が民生委員等からの通報に基づきまして適切に必要な申し立てを行うことで十分な保護が図られるものと考えております。
 さらに、家裁の職権により開始する手続を設けることにつきまして御質問があったわけでございますが、この家庭裁判所の職権により開始する手続を設けることにつきましては、私的自治の尊重等の観点から本人の行為能力等に一定の制限を加えることとなること、手続を中立的な判断機関である裁判所がみずから開始することにつきまして制度上問題があるということ、判断能力の不十分な者に関して積極的に情報を探知することは裁判所の司法機関としての性質になじまないことなどの理由から、現行法と同様に採用していないということにいたしております。
小川敏夫君 地方自治体の長に申し立て権が認められることになりまして、民生委員等の情報によりまして、そういう身寄りがないケース等につきましてかなり機能することが期待されると思います。また、裁判所の制度からみずから職権で動くということがなかなか難しいということはよくわかるんですが、例えば悪意ある身内に取り囲まれているようなケースですと、これは身寄りがないわけではないので市町村長が申し立てできるわけじゃない。それから、悪意ある身寄りが後見制度を利用しないで財産を食っているというようなケースも間々あるわけでございます。こういう場合、答えは結構でございますけれども、確かに裁判所への申し立てを受けてから動くという根本的な制度の問題と、今の民生委員制度あるいは行政が申し立てる制度の限界というもののはざまにありまして、探して回れば逆にプライバシーを侵害する問題もありますから、大変に難しい問題があるかとは思いますが、なお今後の検討課題として考えていただければというふうに要望申し上げます。
 それから、今度は自主的に後見の申し立てがなされた場合でございますけれども、案外私が世上を見ましても、もちろん後見人のすべてが悪意ということではないんですけれども、後見人と本人の関係者あるいは本人が亡くなった後の相続人との間で紛争が起きることがよくございます。
 それで、これも後見人がすべて悪意というわけではないんですけれども、これまでの禁治産の申し立ての例を見ますと、どうも本人の保護というよりも後見人の利益のために申し立てをしているというようなケースがないわけではない。例えば本人が持っている預金ぐらいですと、特別後見の制度を利用しなくても勝手にやってしまえば動かせるんですけれども、不動産となりますと、なかなかその本人が心神喪失の状態にあったりすると売却できない。こういう場合、本人の利益よりも後見人がその不動産を処分して何らかの利益を得ようというようなケースで申し立てをするというケースもないわけではないというふうに思います。
 そういうような例も一つの例として、後見人が自分の利益のことを考えて後見の申し立てをするということもあり得る、悪意のある後見人というものがあり得るということもあって、それが原因で多くの紛争を招くことがあるとも思うんです。そういう中で、裁判所の方にお尋ねするんですが、まず審理に当たって、特に申立人がみずからを後見人とするということを求める申し立ても多いかとも思うんですが、そういった場合に、申立人の意見なり申立人が提出した資料だけで判定するとなると、本人の利益が害されるというケースもあり得ると思うんです。
 そういう中で、この審理のあり方として、申立人の意見あるいは申立人が提出した資料だけではなくて、裁判所がより積極的に本人に会うとか、あるいは本人以外、申立人以外の親族に会うとか、そういう積極的な審理の取り組みが私は望ましいとは思うんですが、その点、裁判所の方のお考えはいかがでございましょうか。
最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) 御説明申し上げます。
 現在の禁治産制度のもとにおける運用ということでまず御説明申し上げたいと思いますけれども、禁治産宣告等の事件を処理するに当たりましては、もとより申立人から出される資料、これは大変丹念に目を通させていただきますけれども、それだけではなくして、家裁調査官を活用するなどいたしまして、まず御本人との意思疎通が可能であれば御本人にお会いするなどいたしまして、その意向等を伺うことがあります。さらに、それに加えて、御本人の親族でございますとか、あるいは現実に御本人を看護しておる方などにお会いする、さらには主治医の方にお会いする、こういったその他の関係者からいろいろと面接等の方法によりまして事情を伺った上で、その当該事案の後見人の適格者はだれかということについての見きわめをしていくというのが現在の運用でございまして、今度の法改正が行われた後におきましても、その点については十分な配慮をしていきたいと考えている次第でございます。
 以上でございます。
小川敏夫君 個々的な判断は、進め方はもちろん個々の裁判官の判断となるわけでございましょうが、そういう方向でぜひ適正な的確な判断ができるということを期待しております。
 そして、今度後見人が選任された後のことでございますが、やはり悪意あるいは不注意な後見人から本人を守らなくてはいけないという問題がございます。そういう意味で、まず広い意味でこの後見人の事務を監督する、このあり方について、一般論としてちょっと説明していただければと思いますが、裁判所の方に。
最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) 後見人を監督する方法には二つあるかと思います。一つは、家庭裁判所が直接後見人を監督する方法と、いま一つは、後見監督人を選任いたしまして、この監督人によって監督を行っていただく方法と、二つあろうかと思います。
 家庭裁判所におきましては、当該事案を見ました上で、その後見人の方のお力、信頼性あるいは後見事務の内容、それから構成している財産の種類、内容、状況等、こういったことをあわせ考え、さらには御本人の意向もあれば御本人の意向を伺った上でどちらの方法で監督するのが適当かということを考えていくことになろうかと考えております。
 そして、その家庭裁判所が監督する場合におきましては、通常の形でございますと、家庭裁判所調査官がその後見事務について監督の目を配っていくわけでございますが、その事案に応じて後見人の方から報告書を出していただくとか、あるいは監督人、後見人の方に調査官がお会いするなどいたしまして、監督状況についての状況把握をしているという状況にあるところでございます。
 以上でございます。
小川敏夫君 裁判所が監督するケースについてお尋ねしますが、法によりますと、後見人は就任後速やかに財産の目録を作成するというふうに規定されております。ただ、作成した目録を必ず裁判所に提出するというふうには法律上なっておらないんですが、実際の裁判所の今の事務の運用では、後見人が作成した目録を裁判所に提出するようにさせておるんでしょうか。
最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) ただいまの点は委員が御指摘のとおりでございまして、家庭裁判所といたしましては、後見人に対して財産目録の提出を求めているのが一般的な扱いでございます。
 若干、その点を敷衍して申し上げますと、通常の事案でございますと、後見人を選任するまでの間に家庭裁判所において財産はどういったものがあるかということを調査いたします。そういったことから、事案によっては調査の過程において目録の原案等をお出しいただくこともありますし、また事案によっては、その後見人を選任した後に目録の様式等を家裁から送りましてそれに記入して提出していただく、こういった運用もされているところでございます。
 以上でございます。
小川敏夫君 その目録の点について、少し細かいことになりますが、例えば後見人とその後本人が亡くなった後の相続人との間で、相続財産の範囲などについて紛争が起きることがある。例えば、相続人から見れば、本来あるべき相続財産がないからこれは後見人が使ってしまったんではないかというふうに疑いを持つとか、本当の指摘なのかは別にしまして、そういう言い分がある。後見人の方から見れば、いや、それはないとか、あったけれどもこういうふうに使ったというような、いろんなことでトラブルがあり得るんです。
 そこで、相続人の方から見て、そもそも後見が始まったときにどのような財産があったのかということが把握できればまた相続人としてもある程度納得できる部分があるのかとも思いますが、この後見人が作成した財産目録は、本人が見れるとは思うんですが、それも含めて、本人あるいは相続人がその閲覧を求めた場合には閲覧できるような仕組みになっておるんでしょうか。
最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) 後見人が家庭裁判所に提出されました財産目録は、事件の記録の一部に属するというふうに理解されております。そういった観点から見ますと、家事審判規則に、記録について一定の条件のもとで閲覧、謄写を許すことができるという規定がございます。
 今御指摘のケースにつきましては、最終的な判断は個々のケースごとに裁判官が判断するものでございますけれども、例えば、親族の方が後見人の後見事務の適正さについて疑問を抱いて、そのための確認をしたい、こういった必要から閲覧を求めてこられたような場合には、一般的に考えれば閲覧が許可される場合が多いんじゃなかろうかと考えている次第でございます。
 以上でございます。
小川敏夫君 今回の法改正に当たって、この後見制度が広く利用されることになることが好ましいし、そうなってほしいと思うんですが、そうであればあるほど、やはり後見人の職務の責任の重要性というものも増してくると思います。そういう意味で、裁判所の監督というものももちろん適正かつ十分に行ってほしいわけでございます。それと同時に、後見監督人という制度もございます。質問通告をしていなかったので直ちに数字を答えられなければやむを得ないんですが、従前、後見人に対して後見監督人を付したという割合は、今わかりますでしょうか。
最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) ただいまお尋ねの点については、具体的数字は持っておりませんし、多分これは統計的にも把握が難しいことかと思うのでございますけれども、私が承知している範囲での実務の状況から申しますと、後見監督人を選任する事案は従来は比較的少なかったということは申せようかと思います。
 その理由の一つといたしましては、現行制度のもとにおきましては後見監督人に報酬が支払えないということになっていることから、なかなか人を得がたいという問題があったことも一因ではなかろうかと考えている次第でございます。
小川敏夫君 これからこの新しい制度に基づいて広く利用されることになりますと、後見人あるいは後見監督人に就任される方も幅広く数もふえてくるんではないかと思うんですが、先ほど塩崎委員の説明では、弁護士会司法書士会もそれに備えて十分勉強しているということでございますが、裁判所の方が、後見人はあらかじめだれがなるとわかっているわけじゃないから難しいにしても、広く後見人や後見監督人の事務のあり方等について、広報といいますか周知徹底といいますか、そういったことについて何らかの方策がとられておりますでしょうか。
最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) お尋ねの点の、まず一般的な関係からでございますけれども、私どもといたしましては、この成年後見制度が立ち上がることを前提にいたしまして、現在関係機関との打ち合わせ等を行っているところでございます。
 その主眼は、やはり今委員が御指摘ございましたように、今回の制度をうまく進めていくためには後見人あるいは後見監督人等に人を得ること、これが大きな要素だろうと考えている次第でございまして、そういった関係から、家庭裁判所が日ごろ行っております関係機関との協議会におきまして、本年はこの問題を中心に議論をいただいているところでございます。そういった意味合いにおいて、私どもといたしましても、この後見人、後見監督人の給源の確保について、私どもの立場において十分努力をしてまいりたいと考えている次第でございます。
 いま一つは、個々の事案においての指導という点も御趣旨にあったかと思うのでございますけれども、その点についてはまさに個々の事案ごとに、その事案を見て指導をさせていただくということになるわけでございますけれども、地方によっては、後見人が選任された時点でその後見事務の流れ等について説明した書面等を渡して、それをもとにして十分な説明をしているということでございます。もとより書面を渡さない地方においては冒頭口頭で御説明をするということでございまして、そういった仕組みをいろいろとあわせ考えながら、後見事務の適正については格段の努力をしてまいりたいと考えておる次第でございます。
小川敏夫君 後見人と後見監督人ですが、後見監督人の方は弁護士とか司法書士さんとかそういう専門家がなることが想像できるんですが、後見人の方は、そういう専門家ではなくて、むしろ本人の周辺にいる一般人で必ずしも法律的な知識とかいうものがある人とは限らない、むしろない人の方が多いのではないかとも思います。そういう人を、後見人になってもいない人を集めるのは不可能ですけれども、後見人になった後、話は少し変わりますが、例えば犯罪者の保護観察では保護司さんがいて、保護司さんが保護司会をつくって保護司さん同士が横の連絡をとり合って、それぞれの職務のあり方、あるいは技術というか指導力の研さんとか情報交換というようなことに努めて内容の充実を図っておるわけですけれども、後見人の場合には個々のケースで後見人を選任してしまえばそれで終わりということで、後見人同士が何らかの情報をとり合って、お互いに研さんするとか情報を交換するというような制度はこれまでも全然ないわけでございます。
 仮にこれから、そういう後見人の資質、いい人を後見人に迎えたいということでありますと、選任する段階での選考ももちろん重要でございますけれども、選任した後も裁判所が指導するということは、先ほどお伺いしました。それとともに、後見人同士も何らかの横の連絡をとり合えば、逆に裁判所の力ではなくて民間の力を使って、それぞれがいい意味で質的な向上とか、あるいはそういう情報を交換することで不正なことの防止とかいうふうなことについて効果があると私は思うのでございますが、このような後見人同士の横の連絡をとり合えるようなシステムづくり、こういったものについて裁判所は何らかのお考えなり、今なくても検討する考えがあるかどうか、ざっくばらんにお答えいただければと思います。
最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) 私どもといたしましては、今のところは委員御指摘のような後見人同士の横の連携ということについては具体的なことを検討している段階にはございません。やはり、基本的には後見人を出していただく団体等の母体との関係で、まずは私どもとしてはこの制度の趣旨を十分御説明して理解を得る、そしていい方を推薦していただく、こういった点について十分な力を注いでまいりたいと考えている次第でございますし、また、個々の事案において、やはりケースを通して適切な指導を行っていきたいと考えている次第でございます。
小川敏夫君 これまで裁判所からの審判の充実の問題とか後見の監督の問題、そうしたさまざまな問題について積極的に取り組むというお考えをいただきまして大変に期待しておるところでございます。これから件数もふえることが予想されるし、そうした仕事の重要性もさらに増して数もふえるという中で、裁判所の今の人的な構成の中で、新しい後見制度ができて制度はよくなったんだけれども、裁判所の方でこなし切れなくて事務的な処理に終わってしまうというような懸念もないわけではないんですが、この法律制定に伴って人的な体制を充実するという点について、これまでももう委員会の質問の中で出ておりますが、裁判所の取り組みの方はいかがでございましょうか。
最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) 成年後見制度は新しい制度でございまして、事件数の予測はなかなか難しい面があることは御理解いただきたいと思います。
 そういった意味で、私ども裁判所といたしましては、今後、社会の法的ニーズの高まりでございますとか、今回の法改正に伴って裁判所に提起されることになる事件数の動向でありますとか、新しい制度の具体的な運用状況を踏まえながら、家裁が今御指摘あったような意味でその特色である科学性、後見性といったものを十分に発揮して的確な事件処理を図れるよう、さらなる事務処理の効率化やOA化の推進について検討をする一方、家裁の人的体制のあり方についても検討してまいりたいと考えている次第でございます。
小川敏夫君 私の考えを言わせていただくだけで結構でございますけれども、件数の増加を見てから体制を組むというよりも、そういう必要性が予測されればあらかじめそういう枠をつくっておいた方がますます制度を利用する人がふえてよく回転するのではないかというような個人的な考えを持っております。
 あと、裁判所の後見の制度でございますけれども、今まで禁治産とか準禁治産といいますと比較的精神的な、意志薄弱とかそういう状態の方で時間的に長く続く方がこの禁治産制度を利用することが多かったと思うんです。この後見の必要性というのは、そうした長い期間後見の制度を利用するという人たちだけじゃなくて、突発的に脳梗塞とかその他さまざまな病状が起きてそういう後見を必要とするという状態になってから余り長くは存命されないという方もあって、ただ、その場合でもやはり後見の必要性というものはあると思われるんですが、要するに、そういう余り長く存命されないという方については、ほかのケースがどうでもいいというわけじゃないんですけれども、特に緊急を要するような場合もあると思いますが、緊急を要するような場合にその後見をどうするか、そういうようなケースでは裁判所としてどのようにお取り組みを考えているか、お聞かせいただければと思います。
最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) 私どもといたしましても、もとより委員御指摘のように提起された事案を見て、まさに緊急性を要する事案かどうかということを見きわめながら事件処理をしてまいってきているつもりでございますし、これからもその点については十分な配慮をしていかなきゃいけないと考えている次第でございます。
 ただ、その観点から見た場合に、従来の審理期間の多くの部分が鑑定に要する時間でございました。そういった観点から今制度の仕組みを私どもなりに考えている中で、例えば後見の事案につきまして、植物状態にあるというようなことでもう一見して明白にその方の能力の問題が明らかになるという場合につきましては、鑑定をしないで判断することもできるような仕組みを残してはどうだろうかということを考えているところでございまして、今御指摘のようなまさに緊急の事案についてはそういった方法での対処も考える余地があろうかと考えている次第でございます。
 一方で、本案の後見についての判断がなされるまでの間、暫定的な措置ということで保全処分という制度も、これは現在もあるわけでございますが、新制度のもとでもこれは維持することを考えておりますけれども、保全処分の形で当面の財産の問題等について財産の管理者等を選任するなどいたしまして、応急措置を講ずることも考えられようかと考えているところでございます。
 以上でございます。
小川敏夫君 どうも裁判所には早くやれと言ったり、中身を一生懸命やれと言ったり、いろいろ難しいことを言いました。
 やはり、この法律ができましても裁判所の取り組み次第で生きるも生きないもあると思いますので、ぜひこの法律の趣旨を生かして後見制度の充実に努めていただきますようお願い申し上げます。
 あと、最後でございます。これは念のための確認でございますが、法務大臣にお尋ねします。臓器移植に関することでございまして、この後見制度が本人の臓器に関して臓器移植の承認を代行するとかそういうようなことがあって、本人の臓器が何らかの形で本人の意思とは離れて提供されたりするということがまたあってはいけないとは思うんですが、この臓器移植との関係では後見の制度の後見人等が代行できるのかどうか、その点についてだけちょっとお聞かせください。
国務大臣臼井日出男君) 今、委員御指摘の、臓器移植に関する法律における自己の臓器を移植術に使用させるために提供する意思の表示は、本人の書面による意思表示であることを要件といたしておりますので、その性質上、成年後見人等が代行することはできないとされております。
小川敏夫君 終わります。
○魚住裕一郎君 公明党の魚住でございます。若干質問をさせていただきたいと思います。
 前回火曜日の日に、後見の禁治産の申し立てをしたところ準禁治産の宣告をできるか、またはその逆もあり得るかということで、ちょっと議論させていただいたんですが、私もよくわからない部分があるんですが、我妻栄さんという民法の大家の先生は積極説のようなんですが、裁判の実務例はどんなようになっているか、最高裁、お答えいただけますか。
最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) 御説明申し上げます。
 ただいま御指摘の禁治産宣告と準禁治産宣告、申し立てと認容の間をどう考えていくかということについては、御指摘のとおりいろいろ従来から議論がされていたところのようでございます。今は家裁の実務の扱いといたしましては、まず禁治産宣告の申し立てがあった場合に準禁治産の認定をすることについて大方異論はないと申し上げてよいかと考えておりますが、しかしながら準禁治産宣告の申し立てがあった場合に禁治産の認定ができるかということについては、申し立ての趣旨の変更などをしないまま当然にすることについては消極の考え方が強いようでございまして、運用といたしましては、趣旨の変更をさせるなどいたしまして、申し立ての意思の確認をした上で禁治産宣告をしているというのが実務の実態ではなかろうかと考えているところでございます。
 以上でございます。
○魚住裕一郎君 ただ、実際の審判例ではそれを認めたことはありますね。
最高裁判所長官代理者(安倍嘉人君) ただいま申し上げた二つの方向の問題について、幾つかの審判例がございます。
○魚住裕一郎君 実際、実務ではそういうふうに両方どちらでも、禁治産の申し立てに対して準禁治産、あるいはその逆というようなことがあるわけでありまして、要するにこれは一元的にやっぱり立てるべきではないか、そういうことで議論させていただいたところであります。この点の手当てがないわけですから、また同じような三類型の中で出てくる可能性があるなということでございまして、この点はまたこの程度にしておきたいというふうに思っております。
 そこで、法務大臣、今回新しく時代の推移を見た上でのこの新しい成年後見制度をつくるわけでありますが、この審議の中でも出てきたかと思うんですが、どうしても判断能力が弱い方の問題でございまして、悪徳商法、これに対してどの程度この新しい成年後見制度が役立つかということ、法務大臣としてはあるいは法務省としてはどのようにお考えなのか、ちょっとお教えいただきたいと思います。
国務大臣臼井日出男君) 今、委員御指摘の悪徳商法の被害に対してのことでございますが、改正法案では本人保護の実効性を図るために、後見、保佐、補助の各制度におきまして、必要な範囲で代理権とともに取り消し権の付与を可能にする仕組みといたしております。
 すなわち、一つとして、成年後見人は、成年被後見人の日常生活に関する行為以外の取引を取り消すことができること。二つ目には、保佐人は、被保佐人が保佐人の同意を得ないでした不動産その他の重要な財産の取引を取り消すことができます。三つ目に、補助人は、被補助人が同意権付与の審判の対象とされた特定の取引を補助人の同意を得ないで行ったときにはこれを取り消すことができるわけでございます。
 さらに、成年後見人または代理権付与の審判を受けた保佐人もしくは補助人が本人にかわって取引の相手方と交渉することによりまして、本人が詐欺等の被害に遭うことを事前に防止することも可能でございます。
 このように、新しい成年後見制度は消費者保護の機能をも果たすものと考えております。
○魚住裕一郎君 基本的には、現行の制度と余り変わらないのかなと思いますが、一歩前進といいますか、補助類型を特に定めたことによって前進かなというふうに思っております。
 悪徳商法の、そうやって本人側を保護するということはもちろん大事なんですが、この取り消し権とか考えた場合、一方でやはり取引の安全ということが大事になっていくんだろうというふうに思うわけでございまして、この点に関してはどのように計らっておるのか、法務省、じゃ民事局長。
○政府参考人(細川清君) 成年後見制度の改正によりまして、保佐人、補助人に対する代理権の付与が可能となりました。したがいまして、保佐人、補助人が本人を代理してする取引が増加するということになりますので、このことは、取り消されることがない取引がふえるということでございますので、取引の安全に資するものと考えております。
 また、任意後見契約が普及いたしますと、任意後見人が本人を代理してする取引が増加することも考えられるということで、これも取引の安全に資するものと考えております。
 それから、この後見、保佐、補助の各制度におきましては、いずれも日用品の購入その他日常生活に関する行為が取り消し権の対象から除外されていますから、取引の相手方としては、日用品の購入や光熱費の支払い等の少額の取引については取り消し権が行使される可能性を懸念する必要はないということになるわけでございます。
 また、日常生活に関する範囲を超える取引において、取引の相手方から御本人の法律上の行為能力に疑問があるということになれば、それはそのところを口頭で確かめられるということになりまして、後見あるいは保佐を受けているということを言われましたら、じゃそのところは本当に保佐の同意を与えられているかどうか、そういう点を確認するために証明書等を提出してもらうということができるわけでございます。
 そういうことで、今回の制度では取引の安全にも考慮、配慮したというふうに考えているところでございます。
○魚住裕一郎君 その取引の安全あるいは本人の保護も含めてなんですが、取引の安全を考えた場合、登記制度というのがやっぱり大きな意味をもしかしたら持ってくるかもしれない。本人の能力があるかないか、登記所の登記事項証明書を見れば一番わかりやすいと思うんです。
 今回のこの制度で成年後見登記制度ができますけれども、取引の相手方、これから家を貸そうかなという人、あるいは銀行であればお金を貸そうかなといった場合、取引の相手方である大家さんとか銀行がじかに指定法務局に行ってこの人は能力あるかないかのそういう証明書を発行してもらえるのかどうか。
 もしできないと仮定した場合に、具体的な取引の場において、あなた、その能力があることの証明書を持っていらっしゃいよというような場面が多く想定されるのではないかというふうに考えられるところでございまして、その場合はそんなことがまさに社会の中に蔓延してしまうと、個人のプライバシーも何もなくなってきちゃうなとちょっと懸念するところでございまして、この二点について法務当局がどのようにお考えか、教えてください。
○政府参考人(細川清君) まず、御本人と取引されようとする方が直接登記事項証明書をとれるかということですが、この点につきましては、今回の後見登記等に関する法律におきましては、これは請求することができないということになっております。
 これを認めていたしますと、これは結局のところ、すべての人が証明書を請求することができるということになります。
 ところが、人の能力に関する制限の記載でございますから、これは極めてプライバシーの要請が高いものだというふうに考えておりますので、やはりここは御本人や親族、あるいは後見人、あるいは保佐人、補助人になっている方等、一定の範囲の方に限るのが適当だというふうに考えているわけでございます。
 それから、もう一つの点でございますが、一般的に能力の問題があれば、私はそういう後見を受けていないという書面も出すことができるわけですので、それは御本人が、これは日本人だれでもいいわけですが、要するに私はこの後見登記に登記されていないという書面を出すことができるというふうに条文上なっておりますので、そういう請求をしていただければそれをお渡しするということになりまして、それを利用していただければ能力は証明できるということになるわけでございます。
○魚住裕一郎君 今、ないことの証明といいますか、そういう後見がないことの証明というような言葉が出てきましたけれども、ないこと証明と仮定しますと、私も弁護士に登録するときに区長さんに資格証明書というのを出してもらいました。それは、禁治産でも準禁治産者でもありませんよということと、破産宣告の通知は受けていないという、この二点の証明書だったというふうに思っております。
 そうしますと、欠格条項というんですか、百十六項あるよと。そうすると、いろんな申請とかにないこと証明をつけなきゃいけないことになってくるんだろうと。そうすると、全国、この欠格条項だけを考えてもかなりの数のないこと証明の申請が東京法務局に集まってくるんではないか。施設を増設するとかいってもかなり限度があるのじゃなかろうかなと思いますが、この点はいかがですか。
○政府参考人(細川清君) その点につきましては、私どももあらかじめシミュレーションをしてみたわけでございます。改正後に欠格条項の残る弁護士さん、お医者さん等の新規の登録者数、登録時期等を各団体から伺いまして、その数等を推計いたしました。これはコンピューターで証明書を打ち出すものですから、それと合わせますと十分対応できる数であろうと思っておりますし、また、こういう制度をつくります以上、私どもとしては完全に対応できるようにしなければならないと思っているところでございます。
○魚住裕一郎君 先般もちょっとお聞きしたことなんですが、とりあえずまず東京でやってみようというお話でございました。また利用者がどんどんふえてくるであろうということを考えると、例えば今回東京ですが、将来的には大阪とかということはあり得るというふうに思うんです。これはそうなった場合、将来の予測の観点からなんですが、これコンピューター同士をオンラインのようにつなぐというんですか、コンピューターは磁気ファイルでやるということなんですが、そういうことも考えておられるんでしょうか。
○政府参考人(細川清君) 当初、発足の段階では一カ所を大臣に御指定いただく予定でございますので、したがいまして、これは将来の問題でございますが、将来他の法務局でも直接証明書等を発行することができるようにするためには、御指摘のようにオンラインで結ぶということになるわけです。
 これが外部とつながっていない閉鎖的な回路ならばハッカー等の問題はないわけですが、それがつながるようなことになりますと、それは御指摘のとおり、ハッカー等の対策を十分しなければならないというふうに思っております。
 ですから、そういうときには十分御指摘のような問題が生じないように対策を講じてから始めたいと思っております。
○魚住裕一郎君 東京だけと限っても、要するに、日本の全人口一億二千五百万人ですか、それの各人の能力の有無についての磁気ファイルが東京にできるわけです。つまり、この人が後見を受ける人、この人は保佐を受ける人、この人は補助を受ける人、未成年を除けばほかの人はみんな能力があるよと、四種類の人間がこの磁気ファイルに載っかるわけです、概念的に言えば。
 つまり、百万人の磁気ファイルと仮定しても、それ以外の人はみんな能力者であるということの証明になるわけですから、そうすると、またこれは大変な私は電子情報が出現するというふうに見えるわけです。個人の能力の一覧表というのは、例えば銀行なら銀行で大変、何といいますか、有益な情報なんではないかと思うわけです。あるいは保険業界もそうかもしれません。経済界全体にとっても意味があるのかもしれません。また一方で、新聞紙上にもNTTの職員が云々どうこうとか、あるいはどこかの市役所の人が住民基本台帳の情報を出してしまった、漏らしてしまった、しかも二十万人分とか、そういう事例が出ておりました。
 磁気ファイルにするについて、法務局の職員は優秀だと私は思いますけれども、また倫理上もしっかりしているとは思いますけれども、その辺の手当てはどのようになっているんでしょうか。
○政府参考人(細川清君) この磁気ファイルは、後見、保佐、補助、任意後見が裁判所で審判があり、あるいは公証人役場で公正証書がつくられたときにそれぞれ嘱託で参りまして、そういう人ごとにつくられるわけです。
 ですから、ないこと証明を発行する場合には、要するに、人は本籍と氏名で特定しておりますから、住所等も入れますが、それでヒットすればプログラム上その方はこういう登録があるとわかるんですが、それがないということになればないこと証明を出すことになりますので、すべての日本人とか日本に住んでいる人がそのファイルに載るということではないわけでございます。
 それから、先ほどの、要するに秘密の漏えいの問題ですが、磁気ファイルの安全を図るための措置としましては、受付、調査、記入、それから最終的な校合という登記事務を行うに当たりましては、権限を有する者がそれぞれ識別カードとパスワードを用いなければならないということになっておりまして、それを用いなければ端末は作動しないということになっております。そして、それを用いますとだれがこの機械を操作したかというのが当然に記録されることになりまして、これは後から消去することができないということになります。これは、実は全国の動産あるいは不動産、例えば全国の不動産ですと二億七千万あるんですが、これの四割ぐらい今コンピューターに入っておりますが、これと同じシステムでやっておりまして、ですから、そういうことでやれば、これが後から第三者に改ざんされるおそれはないというふうに私どもは考えているわけでございます。
○魚住裕一郎君 私が言っているのは、改ざんとかそういう問題じゃなくて、持ち出された場合はどうするんだと。それはすぐ足つきますよ。だけれども、その情報を百万人の部分についての一覧表のファイルをコピーして持ってきてもらいたい、じゃ何億円出しましょうといった場合に、そのぐらいの価値ある情報じゃないですかと。
 今回、担当職員の秘密漏えいというか、そういうものについて加重罰則規定でも設けているんですか。このままなんでしょう。その辺が余りにもちょっとずさんじゃないですか。
○政府参考人(細川清君) 登記官が職務上知ることのできた秘密を漏えいした場合には、現行制度においても国家公務員法第百九条第十二号に罰則規定が定められており、法定刑は一年以下の懲役または三万円以下の罰金であります。また、公務員の懲戒処分に関する規定もあり、これらの規定により、登記官の守秘義務を含めた服務規律の遵守は担保できると考えております。
 また、戸籍情報についても、地方公務員が秘密を漏えいした場合には、地方公務員法第六十条第二号の罰則規定が適用され、同様の法定刑となっております。
 したがいまして、この既存の罰則がそのまま適用になりますので、今回につきましてはこの罰則について手当てをするということはしていないわけでございます。
○魚住裕一郎君 ただ、さきの国会で通過をいたしました住民基本台帳のこの辺の部分の罰則規定は、公務員の秘密漏えい罪よりもはるかに強化した形で立法しているんですね。住民票コード、番号を中心にしたコード、また住所と氏名、生年月日、この四情報でも加重している。
 今回は戸籍も載せ、そういう能力の判断、基準といいますか、そういうものも載る、しかもこれは全国版ですよ。そういうので私はちょっと足りないんじゃないかなと思うんですが、もう一度その辺、法務省の見解をお聞きしましょう。
○政府参考人(細川清君) 先ほどの情報を持ち出すというのは、これは刑法上の窃盗罪になりますので、十年以下の懲役ということになるわけでございます。
 それから、住民基本台帳法につきまして罰則の引き上げがあったということは承知しております。これは住民基本台帳法のオンライン化のときの措置というふうに了解しておりますので、今後、成年後見登記について将来的に利用件数が増大した場合には、登記所を複数指定して各登記所をオンライン化することも検討課題となるとは思いますが、そのときにはやはり罰則も再度検討しなければならないなというふうに考えているところでございます。
○魚住裕一郎君 もう時間がなくなってきましたから、あと一問だけ。
 今回、複数の後見人を認めるということなんですが、今まで、解釈上複数の後見人は認められない、解釈上というんですか、認められないという制度でやってきました。その理由は、後見人間において意見が分かれた場合困るからと。そういうようなことが教科書に載っておったわけでありますが、その辺について、今回複数の後見人を立てる場合どのように手当てされているか、あるいは法務省としてはどのように整理されてきたのか、教えてください。
○政府参考人(細川清君) 複数の成年後見人が選任された場合でございますが、この場合に各成年後見人の権限の行使の矛盾、抵触を防止するために、必要があるときは家庭裁判所は審判により複数の成年後見人が共同して、または事務を分掌してその権限を行使すべき旨の定めをすることができることとしております。これは改正する八百五十九条の二の第一項でございます。そして、権限の共同行使の定めがされると、複数の成年後見人は各自が単独で権限を行使することができなくなり、全員の意見が一致した場合にのみ権限の行使ができることになりますので、権限の矛盾、抵触は生じなくなります。
 また、権限の分掌の定めがなされますと、複数の成年後見人がそれぞれ別個の事務について権限を行使することになりますので、やはりこの場合にも矛盾、抵触は生じないということになるわけでございます。
○魚住裕一郎君 ということは、権限の分掌ということは、ある意味では特別代理人類型といいますか一元的な制度を立てるべきだと、そういう議論はありますけれども、その発想を取り入れたというふうに理解していいんでしょうか。
○政府参考人(細川清君) この点は、法改正の準備作業で各界の意見を伺った場合に、やはり複数の後見人等が必要な場合があるという御意見が多数ありましたのでこうしたわけですが、そこで述べられた理由といたしましては、やはり大変たくさん財産を持っておられる、あるいは遠隔地に財産があるとか、あるいは身上監護と財産管理とは別の人に、それぞれ専門家にお願いした方がいいとか、そういう事案が考えられると。そういう場合には、常に一人でなきゃいけないというのはちょっと硬直的過ぎるので複数でもできるようにした方がいい、そういう御意見でございましたので、私どももそれが適当ではないかと考えた次第でございます。
○魚住裕一郎君 終わります。
○橋本敦君 【略】
 次に、公費助成の問題についてお尋ねしたいと思います。
 きょうも参考人から、今回の法案を実際国民が利用しやすい方向で広まっていく、また広めていく、そういう観点から、費用の問題、公費助成ということが大事ではないかということが指摘をされました。
 日本社会福祉士会池田恵利子副会長から私のところにファクスが参りまして、成年後見制度の整備を理念的には結構、大変よいと思うとした上で、実際の運用面での心配事項として指摘をされておりますのが、この後見制度の利用費用が一切被後見人の自費によるというのが原則になっている、こういうことなどを挙げられているわけです。そして、厚生省が十月から進めている地域福祉権利擁護事業では、契約締結能力のない人は成年後見制度にすがると、こうなっているけれども、資力のない人はうまくそのことがソフトに進んでいくだろうか。実際上、費用の点でこの後見制度利用の門戸が事実上閉ざされるという心配はないのか、こういう指摘がここでもされているわけです。
 そういう意味で、今後、この運用については費用負担をどうするかということは、これは制度の根幹をなす問題に私はなってくると思うんです。というのは、恵まれた富裕な方、こういった関係での後見制度の運用というよりも、むしろ一般庶民を含めた、高齢化を含めた、そういうところに多くの期待がかかってくるからです。
 そこで法務省に伺いますが、諸外国で公費助成を積極的に行っている例があると伺っておりますが、わかっている範囲で簡潔に教えていただけますか。
○政府参考人(細川清君) ドイツにおきましては、世話人は被世話人に資力がないときはとりあえず国庫に報酬を請求することができるようにしておりまして、国庫が報酬を立てかえて世話人に支払ったときは被世話人に対する報酬請求権が国庫に移転するという立てかえ払いの制度があると承知をしております。
○橋本敦君 その他オーストリア、フランス、スウェーデンアメリカ等の資料が私の手元にもあるんですが、法務省はここらあたりをお調べになっていらっしゃいませんか。
○政府参考人(細川清君) すべてを詳細に承知しているわけではございません。
○橋本敦君 オーストリアでは、成年後見人の費用、報酬、この点は原則は無償ということで、裁判所の裁量によって本人の年収の五%以内ということにされている。そして後見人の選任費用の負担は連邦の立てかえ払い、こうなっております。
 フランスでは、裁判費用は無償ですから申し立てについては心配ありません。医師等の鑑定費用のみ原則として本人負担ですが、国が前払いをするということになっているんです。そして、後見人の費用、報酬等は、これは家族会というのがございまして後見人への報酬はここで決めるわけですが、実際には私人の後見人には原則として無償、法人の場合に有償になるという運用をやっているということでございます。
 それからスウェーデンの場合を見ますと、申し立てにつきましては本人または地方自治体、これが費用を地方自治体負担ということで申し立てがしやすいようにしております。そして報酬等につきましては、これは本人に財産がなければ地方自治体の負担ということで公費負担でカバーしておる。
 アメリカの場合は、申し立てについては、本人に資力がなければカウンティー、郡です、これが負担をするということになっております。そして後見人の費用等については、これは裁判所が後見人の実情を考えて申し立てに基づいて決定をして本人負担が過大にならないような配慮もする、こういう仕組みになっているわけです。
 こういうことが私の手元にあります資料で明らかなんですが、法務省は今ドイツのお話をされましたが、こういったところにまでまだ調べをしていらっしゃらないように思います。
 そこで、大臣に御見解を伺いたいのですが、公費助成制度を今後どう仕組んでどうつくっていくかというのはこの後見制度を運用していく国民課題として大事な問題として残っているわけです。我が国でもこういった諸外国の例を参考にしながらいいものをつくっていかなくちゃならぬと思いますが、大臣の御見解を伺いたいと思います。
国務大臣臼井日出男君) 今、私どもの方からドイツの例を出させていただきましたが、委員は各国の例をお引きになられまして、私どもも鋭意勉強させていただきたいと思います。
 いわゆる成年後見制度のあり方につきましては、公費助成が行われている例というものも含めまして、諸外国の制度やその運用の状況というものを参考にすることは大変重要なことだと思っております。もっとも、成年後見制度は本人の利益の保護の観点から本人の財産管理等を適切に行うために利用されるものでございますので、成年後見人等の後見事務に要する費用やその報酬等の経費につきましては基本的には本人がその財産の中から支弁すべきものと考えられます。したがいまして、公費助成の問題に関しましては、社会福祉の分野におきまして本人の日常生活に必要な援助を行うための利用者支援の取り組みにつきまして、成年後見制度との連携、補完を視野に入れながら国民的な広い立場で今後検討は進めていくということが必要だと思います。
○橋本敦君 参考人の御意見にもありましたが、法律扶助制度の拡充も含めて、今大臣がおっしゃる広い視野で、ぜひいいものにするように今後の検討を進めていただきたい、こう思います。
 次の問題に移りますが、前回の私の質問の際に、ちょっと正確でなかったということでお答えとの関係で問題がありましたので伺いますが、法人成年後見人制度の導入に関しまして、成年後見制度の改正に関する要綱試案に寄せられた関係者の意見です。この意見で、消極意見のほかに、本人と利益相反関係にある法人を除くべきだという意見が多数あった、こういうことで私が指摘をして聞いたわけですが、この点、改めて正確に紹介をしていただけますか。
○政府参考人(細川清君) 要綱試案に対する意見照会の結果、法人を成年後見人にすることにつきましては、積極意見が五十、慎重ないし消極意見は五でございました。
 この積極意見の中には、今先生御指摘のとおり、成年後見人になり得る法人の資格について何らかの規制をすべきであるとするもの、あるいは本人と利益相反関係にある法人及び法人の代表者、使用人を排除する明文の規定を設けるべきであるとするものが二十含まれておりました。
○橋本敦君 ありがとうございました。私もそれで正確だと、こう思います。
 そこで、これに関連をして、法人と本人との利益相反関係における契約ということでお伺いをしたいと思うわけですが、一つの問題は、民事局長に御答弁いただいたら結構なんですけれども、この対象となる法人に特定性があるのかないのか、限定性があるのかないのかということです。
 といいますのは、信託会社も含まれると私は思うんです。財産信託という関係があるわけですが、この信託銀行などはそういう意味ではノウハウ、専門知識を持っているわけですが、基本的にはあくまで営利法人ですね。
 したがって、そういう関係で日本経済新聞の十月三十一日号に出ている記事なんですが、信託銀行によって遺言信託のサービス内容や料金は余り差はないが、利用するにはいろいろ問題があるんだと。まず、契約の対象とする顧客を相続財産額の最低ラインとして一億円から八千万円程度、こういうハードルを設けているところが少なくないという報道があります。営利会社が財産のある人だけにやりますよということを勝手に設けているという報道がある。これでいいのかなと。そしてまたもう一つは、各銀行とも、信託銀行では、遺族間で係争がありそうな関係のところではこれは受けつけないということで、初めからそれは敬遠するということで、要するにスムースに自分のところの信託銀行としての利益がうまく確保できるような場合にだけ引き受けますよと言わんばかりの報道があるわけですね。
 私は、こういうことでこれを読みまして、こういう声が寄せられているんですが、以前は信託銀行でもよいと思っていたけれども、最近の銀行のモラルの低下を見ていると、あるいはこういう報道を見ていると、もっと信頼できる公的機関が国民にとっては必要じゃないか。今度のこういった成年後見制度の運用について、法人もこういうことで何らかのチェックをするということを家庭裁判所の方でやってくれるのか、あるいは地域の福祉協議会を通じあるいは行政を通じて何らかの住民に対するチェック機能を果たすようなサービスがあるのか、そういった不安が住民にあります。
 こういう点については、法務省としてはどういう判断でどうなさるのか。あるいは裁判所によるチェック機能が働くと考えていらっしゃるのか。そこらあたりのお考えを伺って、時間が来ましたから質問を終わりますけれども、こういう国民の心配にどうこたえるか、お答えをいただきたいと思います。
○政府参考人(細川清君) この改正案では法人の資格を限定しておりませんので、したがいまして観念的には信託会社もここの民法で言う法人に入るわけでございます。
 これは、多種多様な団体がございまして、私どもが想定しておりますのは、いろんな福祉関係の団体、社会福祉協議会とか福祉関係の公益法人とかあるいはいろんな弁護士会のセンター、司法書士会で設立しようとしている団体とか、そういうものが主として念頭にあるわけです。
 そういう営利会社が後見人として適切かどうかは、やはり裁判所が諸般の事情を考えて適切に御判断していただく必要があるというふうに考えておりまして、またそのことはきちんとやっていただけるものと期待しているところでございます。
○橋本敦君 結局裁判所の判断ということですが、そうすると、最高裁と今後この運用について、裁判所の中でこういった問題について、判断基準とか適当な判断の問題についての協議とか、それは法務省最高裁の間でこれから協議がありますか。全然協議なしに、今おっしゃったように裁判所に任す、こうおっしゃっているんですか、そこのところはどうなんですか。
○政府参考人(細川清君) これは立法の当初から最高裁の家庭局とは打ち合わせしながらやっている問題でございまして、ですから私どもから見れば改めて御協議することも必要ないほどによく意思を疎通しているつもりなんですが、必要とあれば、特に私どもとしてもいろいろ御助力申し上げ、いろんな資料等も差し上げたいというふうに思っているところでございます。
○橋本敦君 時間が来ましたので終わります。
福島瑞穂君 社会民主党福島瑞穂です。
 午前中にも聞いたのですが、家庭裁判所の関与、チェック機能について、まずお伺いいたします。
 私自身、不在者財産管理人、それから法定相続人不存在の場合の財産管理人をやったことがあるんですが、財産の処分については御存じのとおり裁判所の許可が必要です。ところが、新しくできた成年後見法の、八百五十九条の三は、財産上の処分について、一部の場合にしか家庭裁判所の関与を認めておりません。
 八百五十九条の三は、居住の用に供する建物またはその敷地について売却などを行う場合に家庭裁判所の許可を得なければならない旨規定をしております。そうしますと、例えば家は非常にかなり質素なものだけれどもほかに株券やさまざまな財産、別に不動産を持っているという場合に、後見人は家族がなったり赤の他人がなったりする場合もありますから、もし売却をしてもそれには家庭裁判所は関与をすることができません。
 そうしますと、実は成年後見制度は相続争いの前哨戦として行われる場合もあると思いますけれども、この本人の財産がいわゆる食い物にされる場合についての家庭裁判所の許可が弱いのではないかという点についてはどうお考えでしょうか。
○政府参考人(細川清君) 御指摘のとおり、居住用の財産の処分につきましては家庭裁判所の許可が要るということに今回したわけでございます。その趣旨は、居住用財産、まして住居が変わるということは御本人の心情に非常に影響があると。例えば痴呆性高齢者の場合には住居が変わると非常に痴呆の程度が進むんだというような場合もあるんだということで、ここは特に慎重にいかなければならないということがありまして、この規定を入れたことにいたしたわけでございます。
 その他の一般の財産についてでございますが、まず、従来は監督人の制度としては後見監督人しかなかったわけですが、今回の改正案では、既存の成年後見監督人に加えて、新たに保佐監督人、補助監督人の制度を新設しました。それから、法人もこれらの監督人となることができることを法文上明らかにしております。
 また、従来は監督人は当事者の申し立てがない限りはやれなかったんですが、監督人につきましては、今回の改正案では裁判所が職権で選べるということにいたしたわけでございます。
 それから、先ほどお話がございましたが、従来監督人には報酬を付与することができるという規定がなかったので、これも後見監督人等が適切な人を得ることが難しい理由だと指摘されましたので、その報酬を付与することができるという規定も置いたわけでございます。
 こういった制度をつくったわけですが、具体的な監督の仕方としましては、家庭裁判所や監督人等は後見人等に対しまして後見の事務の報告、財産目録の提出を求める、そして財産状況を調査することができるということになっています。それから、家庭裁判所は、本人の財産の管理その他の後見等の事務について必要な処分を命じることができるということになっていまして、さまざまな処分をすることができることになっています。さらに、家庭裁判所は、後見人等が不適任であると認めるときは後見監督人等の請求によりまたは職権で成年後見人等を解任することができるということになっています。
 特に、包括的な利権を有する成年後見人の場合につきましては、成年後見人が民法十二条一項の、つまり保佐人の同意の要るものですが、民法十二条第一項の所定の重要な取引の行為をするにはその監督人の同意を得なければならないということに従来からなっているので、したがいましてその監督人の同意を得ないときはその取引行為は後から取り消すことができる、そして、その解釈上、その同意はあらかじめ包括的に与えられることができないということになっています。こういった規定で権限の乱用を防止することができるであろうというふうに考えたところでございます。
福島瑞穂君 確かに後見監督人は付されるわけですけれども、なぜ成年後見制度の場合、不在者財産管理制度などに比べて裁判所の関与が弱いのかという点について、端的にいかがですか。
○政府参考人(細川清君) これは個人の財産等の処分についてどこまで国が関与していいかという問題だということだと思うんです。適切な後見人を選び、後見監督人があるということでございますので、その上にさらに国が関与するのは、いわゆる私的自治との関係で適当かどうかということが一番の原因であるというふうに考えております。
【次回へつづく】