心神喪失者等医療観察法の条文・審議(その15)

前回(id:kokekokko:20060106)のつづき。
ひきつづき、連合審査会での質疑をみてみます。
【瀬古委員質疑】

第154回衆議院 法務委員会厚生労働委員会連合審査会会議録第1号(同)
○山本(有)委員長代理 瀬古由起子君。
○瀬古委員 日本共産党瀬古由起子でございます。
 きょう、私がここに持ってまいりましたパンフレットがございます。これは実は「ビューティフルマインド」という映画がございまして、ことしのアカデミー賞を受賞した映画でございます。
 これは、実在の人物を映画化したもので、精神分裂病統合失調症の患者、ジョン・フォーブス・ナッシュという数学者が、三十年間精神病院の入退院を繰り返しながら、かなり危機的な状況まであったわけですけれども、病気と闘って、とうとうノーベル賞を受賞した物語です。その受賞会場でも幻聴や幻覚があらわれるが、彼はそれが現実でないことを冷静に判断して行動する。すなわち、病気とともに生きていく道を見つけたわけでございます。ナッシュを支える家族や職場の同僚の愛情、いざというときに直ちに駆けつける精神科医、重い精神病の病気があっても社会の中で生きていくというナッシュのこういう姿に多くの精神障害者や家族が勇気づけられたんではないかと思います。
 私自身は、民間の精神病院のソーシャルワーカーとして働いてまいりました。こうした流れが世界でも確かな流れになっていることに大変感動いたしております。
 そこで、具体的に政府の提出法案について質問いたします。
 この法律で、触法の心神喪失者に対する医療が向上するか、いかなる医療が行われるのか、これは大変重大な問題だと思います。そこで伺います。
 まず、触法精神障害者の捜査段階での治療なんです。私は、この治療は極めて不十分だということは大変問題だと思っています。我が党が提案していますけれども、必要に応じて拘置所から病院に通院させたり、警察や検察による被疑者取り調べが時間外に及ぶ場合は指定医師の同意がある場合に限るなど、病状悪化を招かない措置が必要だと思いますけれども、その点いかがでしょうか。
    〔山本(有)委員長代理退席、園田委員長着席〕
○鶴田政府参考人 お答えいたします。
 拘置所は勾留の裁判を執行する機関でございまして、したがいまして、勾留中の被疑者や被告人の逃亡や罪証隠滅の防止に十分留意することが要請されているところでございますが、ここに収容されております未決拘禁者につきまして精神科の治療を要する場合は、その者の身柄の確保を図るとともに、捜査中であるあるいは裁判中であるということから、その精神状態を安定させることにも配意しつつその処遇に当たっているところでございます。
 お尋ねの捜査段階における精神障害者の取り扱いにつきましては、精神科医の配置されている施設ではそのお医者さんが、あるいは、精神科医の配置のない施設では近隣の矯正施設や外部の精神科医の方に来ていただきまして、診察を行い、必要な投薬治療等の専門的な治療を実施しているところでありますけれども、今後とも一層適切に実施できるよう努めてまいりたい、そのように考えております。
 なお、拘置所では、どのような時間帯に行われるかにかかわらず、その取り調べが未決拘禁者の健康管理上悪影響を及ぼすおそれがあると拘置所の医師等が判断した場合には、従来からその旨を検察官等に連絡いたしまして適切な対応を行うよう配慮を願っているところでございます。
○瀬古委員 これは、現状は極めて不十分です。今言われたこともあるかもしれませんけれども、全体的には、今、触法精神障害者の捜査段階での扱いが大変不十分な状態に終わっている。この点は、制度的にきちんとその病状悪化を招かない措置というのが私は必要だというふうに思います。ぜひ御検討いただきたいと思うんです。
 そこで伺いますけれども、第八十一条で、指定医療機関の行う医療について、この医療は現在行われている医療と比べてどのように変わってくるんでしょうか。第八十三条では現行の診療方針や診療報酬にない治療を行える規定がありますが、それは例えば具体的にどんな医療が考えられるんでしょうか。その場合には別建ての診療報酬体系という形になるということなんでしょうか。いかがですか。
○高原政府参考人 本制度の指定入院医療機関における医療でございますが、医師や臨床心理技術者による精神療法を頻繁に行う、作業療法などを通じた社会復帰に向けた訓練を綿密に行う、患者の行動観察を入念に行いおそれの評価を行うなど、一般の精神病院で行う医療とは異なり、手厚い専門的な医療を行うこととしております。
 また、法案八十三条第二項でございますが、これらに関連しておりまして、「前項に規定する診療方針及び診療報酬の例によることができないとき、又はこれによることを適当としないときの診療方針及び診療報酬は、厚生労働大臣の定めるところによる。」と規定されております。
 これは、健康保険の診療報酬に記載のない検査や治療、手厚い人員配置などに対する入院料などを別に定めることを考えているからであります。
○瀬古委員 診療報酬体系にないような検査やそういう治療というものは、一体、具体的にどういうものがあるのでしょうか。
○高原政府参考人 診療報酬、いわゆる点数表に明らかに定めてないものにつきましては、類似のものが準用して適用されることが多いわけですが、これは、ある程度の治療手技もしくは検査といったものが定着されまして、そういったものが評価の対象になってくるというふうなプロセスを踏むわけであります。司法精神医学におきます心理判定ないしは心理検査、有名なものが幾つかありますが、こういったものについて、これが定着するのを待って定められるのを待つということもあるかとは思いますが、やはり積極的に定めて、定着を図って評価を確定していきたいと考えておるわけであります。
 それから治療法でございますが、例えば、精神療法とか心理療法とかというふうな形で一括されて表記されておったり、それから入院時における算定の回数制限とか、そういうふうなものもあるものもあるわけでございますが、こういったものについても、人員配置に応じて、頻繁な治療に即応した点数が算定できるように、そういった点数を定めていくという所存でございます。
○瀬古委員 例えば、外国の保安処分施設で使われていると言われております薬を、そういう日本では認可されていないけれども外国で使っているような薬を使うとか、それから、ある意味では強制的に記憶をなくしてしまうとか、それから電気ショック、これは一定まだやっているところもありますけれども、それから、大変大きな問題になりましたロボトミー、廃人にしてしまう、こういう、人権上に大変重要な問題になるやり方が、治療とか検査とかいう形でやられることはないんでしょうか。
 それから、濃厚なといいますか、頻繁な治療というふうに今言われましたが、幻覚などで例えば自分の家族を殺害してしまった場合、身内を殺害した例というのはかなり多いわけですけれども、そういう場合に、本人が一定そのことについて自覚が明確になった、それで、マンツーマンでさらに、先ほどから出ていますように、本人の責任をもっと自覚させるというようなことをやることによって本人を追い込んでいくという場合も実際にはあると思うのですね。そういう意味では、マンツーマンで濃密にやることが果たしていいのかどうかという問題もございます。
 そういう一つ一つのケースを十分考えなきゃいかぬと思うのですね。一体どんな治療が必要なのか。実際には、精神科医療の治療の到達点に立った研究やそういう体制も必要だと思うのです。そういうものが不十分な中で、ともかくやってみるという程度では私はだめだと思うのです。
 それから、そういう治療が本当に人権上問題ないのかということでも、きちんとした情報公開がされていくのかどうか。ある意味では、治療という中で閉じ込められないのかどうか。こういう面でのチェック体制は十分やれるという保証があるのでしょうか、いかがですか。
○高原政府参考人 委員御心配のような点につきましては、したがいまして、私どもといたしましては、この司法精神医療については国の責任でやる、そして厚生労働大臣が直接にその治療内容に、ある意味ではくちばしを入れることができるというふうな体系をとっております。
 御指摘のような新薬であるとか輸入薬であるとか、いわゆる薬事法の承認のないものにつきましては、一般の医療機関で行うのと同様の細心の注意を払う必要があると考えておりますし、ロボトミー等につきましては考えておりません。
 それから、心理療法とか精神療法につきましても、頻繁にやる、度が過ぎると、これはかえって追い込むことになるのではないか、ないしはマインドコントロールみたいなことになるのではないかということを御懸念かと思いますが、これは、人員とかなんとかにつきましても、せいぜい集団的なものとか、個別のものを一日に一、二時間というふうなものが限度でございましょう、準備等も入れて。それで、過度にわたることはもちろんないように留意するとともに、これは精神医療の専門医がみずから行う、ないしは心理の専門職に依頼して行うものでございますので、患者の状況を十分調査しながら、評価しながら、そういうことのないように努力する。これは一般の医療と同様でございます。
 次に、例えば自分の家族を殺した場合、それを自覚するということは、かえって追い込んでしまうことになるのではないかというお尋ねでございます。これにつきましては、御指摘のとおり、大変デリケートな問題があると考えております。しかしながら、逆にそれを忘れさせるとか意識の底に押し込めてしまうということによって症状というふうなものもまた変わってくるわけでございますので、その道の練達した精神科医が直接観察を行いながら、国の責任で行う。
 こういうふうな体制をとりながら、御指摘のように、プライバシーに触れない程度の情報公開は積極的に行いながら進めていく、こういうふうに考えております。
○瀬古委員 どういう治療が行われるかというのは、ここはまだ、私は大変難しい問題があると思うんですね。そういう点ではもっともっと研究しなきゃならないと思いますけれども、単なる注意をしますとか大臣がくちばしを入れるというだけじゃなくて、きちっと制度的な、人権をチェックするような体制も含めてつくっていかないと、私は大変心配だというように思っています。
 次に伺いたいのですけれども、退院した場合、特定医療機関から退院した触法精神障害者の地域社会におけるケアは保護観察所ではできない、そういう体制がないということは、先日の法務委員会で我が党の木島議員が明らかにいたしました。
 では、この特定医療機関から退院した人が戻ってきたところに通院する病院とかそれから社会復帰の施設がない場合、これはどうするんでしょうか。強制力を持って通院させるというふうに先ほど御答弁にありましたけれども、そういう継続的な治療や社会復帰施設が確保できないという場合は、また再入院という形になってしまうんじゃないかと思うのですが、いかがでしょうか。
○高原政府参考人 社会復帰の体制が整わないために退院ができないといたしましたとすれば、この法の目的自身が否定されるわけでございます。この法律は、まさに障害者の社会復帰のための法律でございます。したがって、そういった本末転倒のようなことが起こらないように最善の努力を払いたい、そういうふうに考えております。
○瀬古委員 実際には本当にそういうふうになるのかということなんですよ。私、実は、きょう皆さんにお配りしております資料の中に、ちょっと資料五というところから見ていただきたいと思うのですが、ここには、精神障害者の社会復帰施設等市町村別設置率というのがございます。
 これを見てみますと、全国で設置されている市町村は一〇%です。一割しかないんですね。九割の自治体はこの精神障害者の社会復帰施設が何にもないという、こういう状態なんです。そういうところに、こういう特定医療機関から退院して、通院も社会復帰もしなきゃならない人たちが出されて、実際に行くところないでしょう、どうするんですか。
 今でも、精神障害者の人たちが、これは後でお話ししますけれども、なかなかそういう受け入れ体制がないということで退院できないという状況になっている。ましてや、あなたたちが言う特定医療機関から出た方々、そういう人たちこそ、きちっとした社会復帰の体制が必要でしょう。それが全くない。
 例えばどこか離れた施設に、それはあるかもしれません。しかし、そうしたら、そこには家族も来ないような、ある意味では、自分の知人や友人、それを援助する人たちも、だれも来ないようなところに閉じ込めるか、どっちかになっちゃいますよね。
 こういう形で本当に通院が保障されるんでしょうか。いかがですか。
○高原政府参考人 通院医療につきましては、それぞれの対象者にとって社会復帰を図るにふさわしい居住地、環境において医療が行われることが適当であると考えられることから、指定通院医療機関については、そうした居住地からの通院が可能となるよう、民間の診療所等も含めて幅広く確保することを考えております。
 また、通院者については、精神保健観察官による精神保健観察に付されるとともに、保護観察所が指定通院医療機関都道府県と協議し、協力体制を整備することによって、その円滑な社会復帰を図ることとしております。
 精神障害者の社会復帰施設は、精神障害者が地域に自立して生活していくために必要な訓練や福祉サービスを提供するものでありまして、その整備は極めて重要な施策であると考えております。
 これは触法の精神障害者の方に限らず一般的に必要なわけでございまして、こうした認識のもとで、障害者プランに基づき、精神障害者社会復帰施設を設置運営するに必要な経費についての補助を行うなど、計画的に社会復帰施設の整備を図ってきているところであり、今後ともなお一層努力してまいりたいと考えております。
 また、御指摘の、いわゆる九割の市町村にないのではないかということでございますが、社会復帰施設の整備につきましては、例えば、生活訓練施設や通所授産施設といった基本的なものにつきましては、障害保健福祉圏域に少なくとも一施設設置することを目標に掲げておりまして、各種施設の整備を促進しているところであります。
 しかしながら、一方、精神障害者社会復帰施設の設置については、地域の方々の理解、協力を得るのに時間を要することも事実でございまして、整備が進んでいないということもございますが、今後とも全力を挙げて、理解と支援を求めるために地域交流スペースを整備するなど、精神障害者に対する理解の促進に努力してまいりたいと考えております。
○瀬古委員 努力するにしても、一割しか、市町村にこういう施設を持っているところがないわけですよ。
 この表を見ていただきますと、例えば、名前を挙げますと、高知県なんかは一つの市しかない。それから、佐賀県なんかも一つの町しかないんですね。福祉圏でといったって、一つの県にそれしかない。一体どこに帰るのかという問題があるわけですよ。
 これから努力すると言うんだけれども、まだ一割しかないわけで、まあ来年度で八割、九割までしますというなら少しは聞く耳持とうかなと思うけれども、一割しかないのに、これから努力しますといいながら、一方では、ある意味では、通院などを、社会復帰なども監視つきで強制的にやろうというわけでしょう。それならそれにふさわしいものがなきゃ、実際にはどうなるか。通うところがないということなら、戻らなきゃ仕方がないじゃないですか。こういう問題になってくると思うんですね。
 大変私は重要な内容と思うんですが、坂口厚生大臣、どうですか、それを聞いていただいて。本当に保障できるのかどうか。入院とか外来、それから社会復帰の体制ですね。本当に見通しがないと思うんですが、いかがですか。
○坂口国務大臣 今委員のお述べになりますこと、ずっと聞かせていただいておりまして、一般の精神病者の皆さん方にも現在一部ありますけれども、やはり中間施設のようなところも少し要るのかなというふうに思いながら今聞かせていただいていたわけでございます。
 いろいろのことを考えながら、本当にその人たちが回復をしていただけるような道筋というものを現実的にやはり組み立てていく以外にないというふうに思っております。
○瀬古委員 ですから、現実的にそういうものを組み立てた上でこの問題を考えないと、まず最初にそういう準備も十分整えないで、この法律だけひとり歩きしていくという問題になると、これは重大な問題になってくると思うんですね。その点をぜひ指摘しておきたいと思います。
 次に参ります。
 私は、日本の精神医療そのもののおくれという問題が大変深刻だと思うんです。そういう問題、この精神医療のおくれ、これを解決するということは、精神障害やそれから人格障害に起因する犯罪の防止、再発の防止にとっても極めて重要だと思っています。この基本的な問題についての認識をお伺いしたいと思うんです。
 まず、一九八八年施行の精神保健法は、入院中心医療から地域医療、地域ケアへの転換を示しました。一九八三年の厚生省実態調査では、受け入れ体制があれば退院できる患者は、困難であるが退院可能を入れて約五七%になっていました。
 一九九九年の、一番最新の調査なんですが、これは資料一を見ていただきたいと思うんですが、これを見ていただきますと、入院中の精神障害者の三十三万人のうち、受け入れ体制があれば退院できる患者は七万二千人、約二二%です。この二十年間で、受け入れ体制があれば退院可能者が、前は五七%、六割ぐらいあったんですが、半分に減ってきた。大変困難になってきているということをこの調査は示していると思うんですが、この点いかがでしょうか。
○高原政府参考人 委員御指摘の統計は、厚生労働省が実施いたしました患者調査において、精神病床入院者三十二・九万人のうち約七万二千人、二一・九%が条件が整えば退院可能であるという結果であろうと思います。
 また、過去に行われた類似の調査の例といたしましては、昭和五十八年に厚生省が実施いたしました精神衛生実態調査におきまして、精神病床入院患者の近い将来の退院の見込みは、「退院して社会生活ができる」が八・四%、「条件が整えば退院の可能性がある」が二二・〇%ございました。
 また、平成五年に日本精神病院協会が実施した精神病院在院者実態調査報告において、在院患者の重症度が、寛解及び院内寛解が合わせて一二・九%、軽度が一八・四%でございました。
 平成十一年に日本精神神経学会リハビリテーション問題委員会が実施した長期入院患者の退院可能性とリハビリテーションニーズに関する調査におきまして、退院可能とされた者は四%、一年以上在院患者のうち、通院服薬あるいは地域生活問題が改善されればという条件つきを含めますと二八・四%等でございました。
 これらの調査結果から見まして、いわゆる社会的入院と考えられる者の割合は入院患者の二割ないし三割程度で近似していると考えておりまして、そういった者を対象に諸施策を展開しているところでございます。
 また、各調査は、対象施設の選定方法、対象となる患者、調査項目等の実施方法が異なるため、比較を行うことは困難ではありますが、いずれにいたしましても極めて重要な課題だと考えております。
 したがいまして、定義、調査方法等が異なる点から、いわゆる社会的入院者が増加しているのか減少しているのかということについては、直接的にコメントはちょっと難しいかと考えております。
○瀬古委員 私は、厚生労働省、かつては厚生省のその実態調査について聞いているんです。最初は五七%、今は二二%、一体どうなっているのかと。
 まあ七万二千人というけれども、七万二千人どころじゃない、先ほど十万人というお話も出てまいりました。この資料一でも見ていただきますように、入院を必要とするという人が十九万七千人。本当にこの十九万七千人の方が精神病院にいなきゃならないのか、私はこれについてももっと正確な分析をするべきだと思うんですね。
 何で、必要もない、あなたたちが言うだけでも七万二千人の人たちがいつまでも精神病院に入っていなきゃならないのか。さらには十数万人、二十万人かもしれない、こういう人たちが何でいつまでも精神病院にいるのか、なぜ退院できないのか。私はもっと実態を正確に調査分析すべきだと思うんですが、その点いかがでしょうか。
○高原政府参考人 今年度、精神障害者社会復帰サービスニーズ調査を実施する予定でございまして、御指摘の実態調査の必要性もこの中で含めて検討してまいりたいと考えております。
○瀬古委員 では、厚労大臣に聞きたいんですけれども、患者の入院期間は、この資料二を見ていただきますと、三年未満が十五万人、四五%です。半数以上が三年以上の入院です。十年以上の入院は十万人もいる。それも、資料三を見ていただきますと、四十五歳から六十九歳がかなり占めている。受け入れ条件が整えば退院可能だという人々は、時間がたてばたつほど退院が困難になっていくんですね。
 私は、本当に急がなきゃならないと思うんです。少なくとも、あなたたちが言うなら、この七万人の人々の社会復帰はどのように保障されるんでしょうか。いかがでしょうか、大臣。
○坂口国務大臣 現在の医療の中で、科別に見ると、精神神経科と申しますか、この分野のやはりおくれというのは否めない、私も率直にそう思います。
 さて、ここをどう整備していくのか。これは病院の中の整備だけではいけない。やはり地域にこの人たちを受け入れるための整備をしていくということは、大変これは幾重にも行わなければならない、非常に時間とそれから財源のかかる話ではあるというふうに率直に思うわけですが、しかし、ここはやはり少しずつでもやっていかないと、入院しておみえになる皆さん方を受け入れていくことができ得ない。大変大きな問題だというふうに私も認識をいたしております。
 ですから、地域にお帰りをいただきますときには、その皆さん方にやはり働いていただくような場所をどうつくるかといったこともございますし、それからもちろん、先ほどから出ておりますように、地域における治療の問題、いわゆる医療機関の分散の問題もあるわけでございますし、全体として非常に少ないという問題点も存在する。そうしたことを、整備を一つ一つやっていかなければならないわけでございますので、その問題意識というのは十分に持っているつもりでございまして、今審議会でいろいろ御議論をいただきまして、ことしの秋には審議会の結論も出るというふうに聞いておりますから、そのことも十分に参考にさせていただきながら、やはり精神神経医療というものの改善というものを進めていかなければならない、そういうふうに思っております。
○瀬古委員 私は、大臣はそのおくれは認められたんですけれども、何でおくれたのかという分析が必要だと思うんですね。
 資料四を見ていただきますと、海外と比べて、ぐんとふえてきているのは日本だけで、あとはみんな七〇年代を契機にずっと減らしてきていますね、患者さんを。何でこうなったのか。何で日本だって外国と同じような道をたどらなかったのかというところに私はもう少しメスを入れなきゃならないと思うんです。世界の流れが、一九六〇年代から脱病院化、脱施設化の流れがあって、日本だけがふやしてきている。
 日本政府は、それに気づく、脱出するチャンスが幾つかありました。
 一九四七年、一九四八年には、厚生省が呼んだ二人のWHOの精神衛生顧問、ポール・レムカウ教授、アメリカ・カリフォルニア州の精神衛生局長のダニエル・ブレイン氏、彼らは地域医療保健の重要性を指摘して、病院中心の医療を批判する勧告書を残しました。しかし、日本はこれを取り入れませんでした。やがて患者狩りまでやって精神病院建築ブームが起きて、一九六三年にはライシャワー事件が起きてさらに精神病院建築ブームは高まったんです。
 日本は一九六九年に、WHOの顧問として、今度は英国からの派遣を要請して、ケンブリッジの精神医療で実績のあるD・H・クラーク氏が派遣された。クラークさんは三カ月間にわたって調査して、日本の政府に勧告をしたんですね。この勧告も、時間がもうございませんので言いますけれども、今の日本の精神医療、病院中心の精神医療から、やはり地域中心の精神医療に変えなきゃならないという勧告をしたわけです。それに対して日本の政府はどういう態度をとったのか。
 クラークさんが派遣された当時の日本側の責任者の加藤正明国立精神衛生研究所長は、日本社会精神医学会の講演で次のように述べておられます。この彼の勧告書はブレインやレムカウよりも鋭く、そして、厚生省に上位の精神科医がいない、精神病院に五年以上在院の若い患者が増加しており、今後三十年在院し続けるだろう、院主や看護婦が精神科に経験不足で、院主は収入を上げようと職員に圧力をかけている、一九八〇年から老人患者が急増する、こういうふうに言って勧告をした。しかし、これらの勧告が新聞記者に公表されたとき、行政の担当者が次のような発表をしたのには全く唖然とした。英国は何分にも斜陽国でありまして、日本がこの勧告書から学ぶべきものは全くありません、こういうふうに記者会見で言ったそうなんですね。これだけきちっと指摘していたんです。
 これは事実でしょうか。
○高原政府参考人 当時の厚生省の課長の発言については、発言録として残されたものがございませんし、また、当該課長は既に亡くなっておるため、そのような発言があったかどうかについては、事実は確認できておりません。
 なお、御指摘の文献が存在するということは事実でございます。
 また、そこで指摘された内容につきましても、その後、若干のおくれはございますが、着実にその実施に向けて取り組んできたということもございます。
○瀬古委員 四十年もおくれたんです。その結果、そのときの勧告を受け入れていたら本来とっくにもう退院できた人たちが、退院できないままこの間進んできたんですね。それだけじゃありません。
 一九八五年の五月には、国際法律家協会と精神科の専門家も入れた調査団が日本に派遣されました。この報告書でも、不適切な治療形態と重大な人権侵害を生み出す状況をつくっている、こういうふうに指摘されているわけです。このときにも、日本が依頼して来てもらったんですよ、そのWHOのこういう顧問の意見も聞かず、そして、こうした国際法律家協会の指摘もずっと無視し続けたんですね。
 こういう問題は、私は本当に、これから一生懸命やりますと言うのはやっていただければいいんですが、取り返しのない事態をつくってきたという点では、とりわけ、本来社会復帰できる人たちを病院の中に閉じ込めてきたという点で、私は重要な日本政府の責任は問われると思うんですが、その点、いかがでしょうか。大臣、お願いします。
○高原政府参考人 日本の病院数が人口に比べ、諸外国に比べて著しく多いこと、在院日数が長いことは事実でありまして、これらは早急に是正すべきものだと考えております。
○瀬古委員 四十年間もおくれてきた責任があるんですよ。ある意味では、単なる次をやりますというだけでは済まされない。それこそ、この加藤正明元国立精神衛生研究所の所長は、このクラーク勧告書を契機に変わっていたら、今日これほど日本が国際的な批判を浴びるようなことがないと思われて残念でたまらないと言っていらっしゃるんですね。こういうところにまで日本の精神医療を追い込んできたわけですよね。
 私は、なぜこうなったのかということについても分析しなきゃならないと思うんです。
 一つは、やはり外国と比べて民間依存の体質の問題だと思うんですね。外国では圧倒的に国や自治体が責任を持っているけれども、日本は民間で、病院数では八二%、病床数では八九%ですね。それで、精神医療というのは、もともと人手のかかる、本来採算の合わない分野です。この分野の国としての責任を放棄してきたと私は思うのです。そういう点で、私は、この反省をしっかりして、今後、やはり国が果たすべき役割というのはきちっとさせなきゃならないと思うのです。
 そういう点では、例えば医療を充実するという問題を言いましても、国立病院の統廃合が行われる、また、独立行政法人化。国が直接精神医療にかかわる、医療が今後後退しない、抜本的に改善できるなどということが言えるんでしょうか。いかがですか。
○坂口国務大臣 この精神科の医療がさまざまな面でおくれている点があることは先ほど申し上げたとおりでございますが、これは、国立が少なくて民間が多いからおくれているとは私は思っておりません。これは、民間は民間できちっとおやりをいただいているところもあるわけでございますしいたしますから、それは民間の病院にお任せできるところはお任せをしていかなければならない。ただし、まあ、非常に不採算部分がある場合には、それは国の方がやっていかなきゃならないということもございましょう。それが国であれ民間であれ、精神科の病院として存立できるような体制、そしてその中が改善をされるような体制をやはりつくり上げていかなければならない。
 必ずしも、日本はベッド数が少ないわけではなくて、ベッド数はかなり多いわけでありますから、ベッド数が多いというそのことよりも、ベッド数よりもやはり質的に上げていかなきゃならない。そこは、入院の部分も大事でございますが、地域におけるケアの問題も非常に大きい。だから、入院と地域のケアと両方の分野に目を配りながら、新しくそこは構築をしていかなければならない。
 ここまで来ているわけでありますから、ここをどう改革をしていくかというやはり手順の問題だというふうに、何から手をつけて何からやっていくかということを明確にしていかなければならないと私は今思っている次第でございます。
○瀬古委員 何でベッド数が多いのかという問題を私は考えなきゃいかぬと思うのです。一つは、やはり精神科特例という形で診療報酬を本当に低い形で押しつけてきた経過があるわけでしょう。民間病院は、これだけの看護婦やお医者さんの配置では結局患者さんを薬漬けにする、長期入院で採算を合わさざるを得ない、こういうところにあなたたちは追い込んできたんですよね。それは、私は民間病院だって民間病院で一生懸命やってきたと思うんです。しかし、それに見合うものを全然保障してこなかった。結果としてはこうした長期入院の患者さんをつくったというその責任にきちんとメスを入れなきゃならないと思うんです。
 そういう点では、具体的に、特別に精神科は医者が少なくていいなどという、こういうやり方が本当に改善されるという決意を示されるならいいですよ。具体的に、じゃ、お医者さんの配置は、改善は一体いつ行うんですか、いかがですか。
○坂口国務大臣 先ほど申しましたとおり、ことしの秋、審議会の結論も出ますし、そうした問題を踏まえて新しい精神科医療のあり方というもののいわゆる青写真というものをかきたい、そう思っている次第でございます。
○瀬古委員 私は、本当に一気にやらなければ、しかし、やったとしても本当に戻れるかどうかという大変重要な責任がやはり国に問われていると思います。
 社会復帰の問題についても、先ほど言いましたように、自治体の精神障害者の社会復帰施設の設置率は一〇%だ、九割の自治体では何にもない、こういう状態なんですね。手が全くついていないという状況なんです。
 それで、こういう社会復帰施設のおくれをカバーしてきたのが、実は無認可の小規模作業所や無認可の小規模グループホームなんです。
 資料六を見ていただきたいんですけれども、見ていただきますと、政府の進めてきた社会復帰の施設がなかなか進まない、ところが小規模作業所はどんどんふえてきているわけです。何でこれだけふえているんだ。これは何でこれだけふえているのかというと、やはり地域にきちんと根づいて活動している、それから、住民から十分理解されている。しかし、実際にはもう運営は火の車で、小規模通所授産施設ということで認可を受けると一千百万円に引き上げる、そういう制度はつくったんですけれども、例えば、私の住んでおります名古屋市などは、国が出した分名古屋市の分は減らしてしまってもらう金額は全然変わらない、実際にはこういうひどい実態になっているわけですね。
 よく、地域に偏見があるから施設ができないんだと言うけれども、一方では小規模授産所はどんどんふやしているんです。そうしたら、少なくとも一般授産所並みに、実際には補助額は、認可を受けても小規模通所授産施設は三分の一以下ですからね、うんと引き上げれば、それこそ社会資本でいえば今の一般の授産施設の三倍ぐらいの施設がうんとできるわけですから、そういう点での改善をやるべきだというように思いますが、いかがでしょうか。
○高原政府参考人 いわゆる小規模作業所は、家族会などによる自主的かつ地域に根差した取り組みとして創意工夫を凝らした活動を展開されており、障害者の自立や社会参加の促進を図る上で重要な役割を果たしていると認識しております。また、これに対し、国が団体を通じて補助金を出しているほか、交付税措置を背景に地方公共団体が中心的な支援の役割を果たしていると承知しております。
 小規模作業所の長所を失うことなく、経営基盤を強化するため、社会福祉法人等の認可を受けた法定施設に移行できるよう小規模通所授産施設の制度化を図っていることもまた御案内のとおりでございます。
 厚生労働省といたしましては、小規模作業所の運営の安定化を図るため、引き続きまして小規模通所授産施設への移行を促進することなどにより、小規模作業所の活動の支援に努めてまいりたいと考えております。
○瀬古委員 時間が参りました。
 実際に、今お話を聞いても、本格的に入院治療を十分充実したものにしていく、外来の治療やまた社会復帰をうんと一気に引き上げる、それもぼちぼち努力してなんという程度じゃない、五倍、十倍に引き上げるような取り組みがなければ、本当に今の国としての責任は持てないと思います。
 かつて、日本の精神医療の父、呉秀三が、我が国十何万人の精神障害者は実にこの病を受けたるの不幸のほかにこの国に生まれたる不幸を重ぬるものと言うべし、このように明治政府を告発いたしました。この病気になった上にこの国に生まれたる不幸、これをいまだもって語らざるを得ないということは、大変残念に思います。
 法案については、慎重な審議を求めるものです。
 以上、終わります。