心神喪失者等医療観察法の条文・審議(その16)

前回(id:kokekokko:20060107)のつづき。
ひきつづき、連合審査会での質疑をみてみます。
【中川委員質疑】

第154回衆議院 法務委員会厚生労働委員会連合審査会会議録第1号(同)
○園田委員長 中川智子君。
○中川(智)委員 社会民主党市民連合中川智子です。
 私は、一九九六年、初めて衆議院議員に当選いたしましたときに、全くこういう世界、政治の世界というのを知らずに議員になってまいりました。そのときに、とても信頼している方が私に静かな声でこう言いました。中川さん、心を壊さないようにしなければならないよと。私はそのときよく意味がわかりませんでした。でも、たくさんの仕事をこの国会の中でする中で、私自身は、翌年に過労で倒れて入院しましたり、いろいろありました。
 私は、一つには、さまざまなストレス、過労、また生活不安、そして社会状況の中で、体を病んでがんになったり、さまざまな身体疾病が出るという方と、いま一つは、真剣に生きよう、一生懸命この中でまじめに生きていこう、そのような生き方と同時にさまざまな要因が重なったときに心にその疾病が出るという方があると思います。
 私の友人の中でも、精神疾患で、ずっと病気と闘いながら生きていらっしゃる方が多いわけですが、やはり生きることにある意味では真剣であり、不器用でありながら、でも懸命にその病気と闘いながら生きていらっしゃるということを痛感しています。地域の中で、友人たち、そして家族が支え合いながらともに生きていかなければというふうに私は痛感しております。
 私は、ちょっと坂口大臣と森山大臣に伺いたいんですけれども、やはり、みずからの精神状況の中で、不眠とかさまざまあります。そういうストレスの中で精神科のドアをたたこうと思われたことは、両大臣、それぞれ一度や二度おありなのか、全くそのようなことがなかったかどうか、まず最初に伺いたいと思います。
○森山国務大臣 私は、そのような経験はございません。
○坂口国務大臣 今まではそんなになかったわけでありますが、大臣にさせていただきましてからかなりストレスも多いものでございますから、正直申しまして、それは精神科の疾病といいますよりも、強度なストレスによります体の反応というのはございまして、精神科の先生に御相談を申し上げたこともございます。
○中川(智)委員 坂口大臣の今のお話というのはとても心に届きましたけれども、やはり、精神科の門をたたくときに、非常にそのことに勇気が要る。地域の中で信頼するカウンセラーやまた地域の相談の場所などがあり、そこに行くこと自体に対して何ら気楽に相談できるというものが整っていない、それが長い間続いてきたと私は思います。
 そして、なぜそういう差別や偏見が生まれたのか。依然としてその差別や偏見が、私たちが初期治療が大事だと言いながら囲い込んでいく、それが外に出せない。いやもう余り眠れないし、ちょっとおかしいから、体の状態もおかしいし、こうやって身体的にも表に出てきたから精神科に行ってきたのよということが気楽に言えない。
 これはやはり偏見だと思いますが、この差別、偏見というのがこの国にどの程度あると両大臣はお思いでしょうか。差別や偏見があるということをまずどのようにお考えか、そしてなぜこれほど強くあるのかということに対して、時間がございませんので、端的な御答弁をいただきたいと思います。どのようなことが原因か。
○坂口国務大臣 やはり精神病の皆さん方に対する差別、偏見というのは率直に言って私はあるというふうに思っています。それはやはり、一つは、病院等に入れて地域の皆さんとの、いわゆる患者さんとそして一般の皆さんとの交流が少ない、もう一つは、精神病というものに対する理解が少ない、私は、突き詰めていけばこの二つだというふうに思っております。
 これを取り除いていきますためには、やはり実際に交流をしていただくということが、差別、偏見を取り除くために一番大事。そうした意味では、地域で、先ほど小規模作業所等の話も出ましたけれども、精神病の皆さん方にも働く場をやはり与えていくということが私は大変大事になってくるというふうに思っております。
○森山国務大臣 坂口大臣のおっしゃったとおりだと思いますが、やはり、今までの長い間の社会的な偏見と申しましょうか、社会的に多くの人が思い込んでいたこと、その思い違いというものがなかなか改まらないのではないかというふうに思いますし、最近は大分よくなってきたように思いますが、まだまだ十分ではないというふうに私も感じております。
○中川(智)委員 今の御答弁で、特に森山大臣、最近よくなってきたという認識が私とは大いに違うということをまず申し上げたいと思いますが、今、両大臣、同じような形の答弁の中で、交流が大事だ、そして理解が少ないのではないかと。これは連動していると思うんですね。交流が少ないからこそ理解ができない、そして誤った情報が誤ったまま市民の中に、国民の中に根づいてしまう。
 これで思い起こすことは何でしょうか。ハンセン病違憲訴訟の問題であります。
 九十年間、あのらい予防法という法律があるからこそ、交流が遮断され理解が全くされずに、正しい情報を私たちは得なかった。そのことによって、人生被害、隔離被害を生んだわけです。私たちはあのハンセン病の訴訟で何を学んだのかと今回の新法を見まして思いました。何も学ばない。この国はまた誤った法律をつくろうとしている。私は、これを絶対にとどめなければ国会に来た意味がないとまで思いながらこの質問をしております。
 まず、坂口大臣、ハンセン病の解決に関しては大臣には本当に足を向けて眠れないぐらい感謝をしておりますが、あのような闘いをなされた方が、今回のこの法案に対しては、そこまでの人権意識、そして安易な治療というきれいごとの中で隔離政策を行おうとしていることになぜ気がつかれないのかということがとても残念です。
 あのハンセン病違憲訴訟の判決の中にこのような文章がございます。少数者の人権は多数決によって奪われてはならない。これが教訓でした。世論はあるでしょう。怖いという存在が植えつけられたならば、怖いと思うかもわからない。でも、そうじゃないんだと。
 きょうの私の資料にございますこの二枚ペーパーを見ていただきたい。刑法犯の検挙人員三十万九千六百四十九人のうち精神障害者の方は二千七十二人、〇・六七%です。殺人、強盗、傷害・暴行、放火と人数が書かれていますが、パーセンテージとしてはこれだけです。
 そして、二枚目の円グラフを見ていただきたい。この左側は、精神障害の方々が起こした犯罪の対象でございますが、親族が七〇%です。知人が一六・九%、第三者は一三・一%です。
 何を意味するのでしょうか。偏見、差別の中で行き場がなく、家族が抱え込み、その家族がぼろぼろになってしまう、そして結局身近な家族を傷つけ、殺していく。これが精神障害者の事件の実態です。
 なぜ、家族がぼろぼろになるまで抱え込まなければいけないのか。それは、この国の精神医療がいかにお粗末で、精神病の障害の方々を差別し、その偏見を助長するような施策ばかり繰り返し、それを払拭するためにしっかりとした政策を行ってこなかったか、このあかしではないでしょうか。
 そして、きれいごとで、高度な医療をする、きっちりと頻回に専門家たちが見て、この人たちがしっかり治るように国で面倒見ますよというのが今回の法律ですが、それは隔離です。正しい理解や交流ができない場に追い込むのです。
 そして、その被害は、隔離された、事件を起こした方々にとどまりません。三百万人と言われる、精神障害と懸命に闘いながら地域で生きようとしている人たちさえも、危険な存在だというレッテルで、あの人たちは何をするかわからない、無言の脅威の中で再び生きていかなければいけないという、そのようなまた新たな過ちをこの新法はつくり出すということを考えていただきたい。
 今のこの二枚の私のペーパーをごらんになってどのようにお思いか、坂口厚生労働大臣、森山大臣にお伺いいたします。
    〔園田委員長退席、山本(有)委員長代理着席〕
○坂口国務大臣 過ちを起こしてはならない、そういうふうに思えばこそこの制度を考えたわけでありまして、何も、この制度をつくって、その中に閉じ込めておこうという考え方をこの中につくっているわけではありません。再び同じ重大な過失を犯す、そのことがもしもあれば、精神障害者の皆さん方全体に対する影響が非常に大きくなる。一度大きな過ちを犯した皆さん方に対して、再び同じような過ちを起こさないようにするためにどうするかという発想の中で今回考えているわけでありますから、それはちょっと、中川先生のお考えには、少しお考えが違うんじゃないかと私は思っております。
 何もその中に生涯閉じ込めておこうとかそういうことを申し上げているわけではなくて、その人たちを健全な形にして、地域にそれを戻すためにどうするかということをやろうとしている。ただし、そこは、何事もなかった今までの一般の精神障害者の皆さん方とは一つ違うところがある。それは、たとえ過去であれ重大な犯罪を犯したという、たとえ一度であろうと犯したという現実が存在をする。
 もう一度その人たちに同じことを起こさせてはならない。そのことを起こさせるとしたら、それは大変な、地域に対しましてもあるいはまた国民に対しましても逆の効果を与えてしまうではないか。そう思えばこそ、我々はこの法案を提案している次第であります。
○森山国務大臣 この法律案による新しい処遇の制度と申しますのは、心神喪失等の状態で重大な他害行為が行われることにつきまして、被害者に深刻な被害が出るだけではなくて、精神障害を有する方にとっても大変不幸なことでございますから、特にこのような者につきまして、国の責任において必要な医療をきちんと確保して、不幸な事態を繰り返さないようにする、そして社会復帰を図るということが肝要であると考えてつくられたものでございます。
 そこで、この法律案におきましては、このような者の医療を確保するために、医師等の医療関係者を手厚く配置し、かつ十分な設備が整った指定入院医療機関を整備いたしまして、この指定入院医療機関において手厚い専門的な医療を行うとともに、通院患者につきましても、必要な医療を確保するために、保護観察所による精神保健観察にするということにしたものでございます。
 このようにして、対象者の早期の社会復帰を図るための適切な体制を整備するということは、長期的にはむしろ差別や偏見の解消につながっていくものと考えます。
○中川(智)委員 坂口大臣に伺います。
 ただいまの答弁の中で、坂口大臣が事実認識として、私は、一般受刑者の再犯率は三〇%、精神障害者の方の再犯率は一五%と聞いておりますが、この整合性というのはその中でどうなるんですか。
 精神障害者の方が罪を犯せば、二度とそのようなことがないようにそこに閉じ込めて、そしていつ出られるかわからない、でもそういうことはないようにするというところが非常にあいまいなまま隔離をしていく。再犯率が半分の精神障害者だけ、そのような形で、一般医療でせずに隔離をして、その中に閉じ込めて医療をしなければいけない理由は何でしょうか、わかりませんが。
○坂口国務大臣 それは、やはり御病気をお持ちだということでございます。そこが違うわけでありまして、病気があるがゆえにその皆さんも大変お気の毒だというふうに私は思うわけですね。病気なかりせばそういう罪は犯さなかったであろうと言われる人たちが、病気がありますがゆえに犯してしまった。
 その皆さん方に同じことを起こさせてはいけない。やはりその皆さん方に治療をし、そして地元にお帰りをいただいて、そうしたことがないようにしなければならない。また、これはそうすることによってなし得ることだというふうに思うわけです。そうした意味で我々は考えているということでございます。
    〔山本(有)委員長代理退席、園田委員長着席〕
○中川(智)委員 新たなハンセン病の方々のような隔離をというところが、じゃ、本当に今までの入院で、病院で治療することをもうやめて、そして一度でも犯罪を犯した人はすべてそっちにということで、五、六年たったら措置入院制度などもなくして、すべてそちらで犯罪を犯した人は治療しようということなんですか。
○坂口国務大臣 中にも具体的な例が書いてございますが、重大な過失を犯した人だけでありまして、わずかなことを犯した人までその中に入れるということは毛頭考えていないというふうに思いますし、そこは法務省の方からひとつお聞きをいただきたいと思います。
○中川(智)委員 傷害というのが入っておりまして、括弧して、軽微なものは除くという、そのような表現です。
 では、例えば、バットでちょっと殴りつけて、そして全治一カ月。それは個々の事例によって違うとおっしゃいますけれども、また大臣にちょっと個人的なことを伺って申しわけないんですが、大臣、この仕事とかいろいろやっていらして、温和な大臣でありますけれども、本当に腹に据えかねて、もう本当にどついたろかという形で、人を殴りたいと思われたことはありませんでしょうか。
○坂口国務大臣 私事にわたりますので、ここは控えておきたいと思います。
○中川(智)委員 私は、病気を持っている、持っていないとかということじゃなくて、本当に一般の、普通に生きている、病気を持っていないと言われるような方々でも、いわゆるキレるというような形でのさまざまな犯罪が今頻発をしています。そこで、通院の事実があったり、精神的な病でそのような入院歴があったりということ、そのようないわゆる先入観なり、その人をレッテル張りをして、精神病というふうにして、そして隔離をしていく。
 ずっとこの間の国会審議を伺っていますと、大臣は、一生ではない、長きにわたらないようにということをされるとおっしゃいましたが、いわゆる一般受刑者の再犯率は三割もあり、精神障害者の方たちはその半分であるにもかかわらず、病気を理由に、治療を理由に、隔離、病棟に入れられて、治療の名のもとに再犯のおそれのチェックをされて、社会復帰が、外に出られないかもわからない。ここが物すごく大変なところだと思うんです。
 ハンセンの元患者の方々もおっしゃっていました。三年だと。療養所に入って三年たったら、もう社会復帰はできないと自分があきらめてしまう。もうこの中の方が楽だ。療養所の中の方が楽。もう何も考えない。生まれてきたことの意味、生きていることの意味、そのようなことを考えないで、自分の中からどんどんそういうものに対するエネルギーをみずからがなくならせていく。
 三年が限度ですし、これは六カ月と書いていますが、例えばその当事者が、いや、もう本当に世間に出たら、あいつもこいつも憎たらしいからとかということを自分の本音で言う人と、やはり、ある意味では自分の症状というものを隠しながらというようなことで、私は、お医者さんと裁判官がそこで判断して、再犯のおそれを問われたときに、そのように正直に言ってしまう人の方が隔離されていくという状況は当然生まれると思います。
 大臣は、一生ということはないと。そうしたら、そのきっちりした根拠と、上限というのをどのあたりまできっちりと設定して治療をしようとしていらっしゃるのか。そこを伺いたいと思います。
○坂口国務大臣 私が治療するわけじゃありませんから、それは専門家にお任せをする以外にありませんけれども、その皆さんが再犯を起こすおそれはないというふうに判断をされたときには、それは地域に帰っていただいて、そして、しばらく観察を続けさせていただくということになるわけでありますから、二度と同じような過ちを繰り返させない、それが一番大事なことだというふうに思います。
 一般の方でありましたならば、それ相応の刑を受けられるわけであります。心神喪失という、その病気のために起こされた大きな誤りというものを、もう一度やはり犯させるようなことがあってはならないという配慮、これがやはり大事ではないかということを申し上げているわけです。
○中川(智)委員 私は、ともかく犯罪を犯さないような、本当に初期の段階での精神医療がこれほど貧弱な中で、その病気がゆえに他害行為を行った人を隔離することは、この法律ができた暁には、精神障害者の方々全体が怖い存在としてまた社会から偏見、差別の目で見られ、生きにくくしていき、そして、みずからを追い込んでいくことになる。それを強く懸念して、この法案に対しては断固反対した姿勢で、慎重な審議を改めてお願いしたいと思います。
 そしてまた、先ほど毎日新聞の鑑定の問題がございましたが、これに関しては、法務省は簡易鑑定の実態調査というのを一切していずに、毎日新聞の指摘によって、やっと単年度、平成十三年、やったわけですが、きっちりこれは、単年度、十三年分だけじゃなくて、五年分のデータを出していただきたいと思います。データも一切なくて、このようなことの改善がなされるわけではありません。
 そして、きのうシンポジウムがありました。そこでたくさんのこの法案に反対する方々のお話の中で、特におっしゃったことを最後に申し述べて終わりにいたします。
 私たちが望んでいるのは普通にしてほしいということです。医療法の精神科医療の差別基準をなくして他科並みにすること。欠格条項をなくしたり、福祉サービスを他の障害と同じようなシステムや中身にしてほしいということ。保護者制度をなくしてほしい。普通に市民として生きていきたい。このことが、犯罪を生まない、その一番大きな条件になると思います。
 質問を終わります。ありがとうございました。

【阿部委員質疑】

第154回衆議院 法務委員会厚生労働委員会連合審査会会議録第1号(同)
○園田委員長 阿部知子君。
○阿部委員 ただいま社会民主党市民連合中川智子の方から、本法案に対しての基本的な問題点についての指摘をさせていただきました。引き続いて、私、阿部知子ですが、特に、この法律、このスキーム自身が精神科医療の本来の姿をゆがめ、患者と医師との治療関係にも非常な不信の種をまくということにおいて、質問を続けさせていただきます。
 今、中川智子の方から申し入れをいたしました資料については御提示いただけるか否か、まず冒頭、担当部署からお伺いいたします。
 簡易鑑定について、日本全国かなり地域差があり、特定の医師がそれにかかわっているような実態もございますが、毎日新聞が新聞社の調査として一年をせんだって報道で出しておりましたが、これは当然所轄官庁としての厚生省から出されるべきと思いますが、担当部署の明確なお返事をまず伺います。
○古田政府参考人 検察庁におきます簡易鑑定の話でございますので、私の方からお答えいたしますが、先ほども申し上げましたとおり、逐年にわたってのそういう資料は網羅的にはございません。
 また、そういう資料につきましては、先ほどの、ある特定の年度についてだけの全般的なものはございますが、これの提出方については、委員会の方からのまた御指示等もありますれば検討させていただきたいと存じます。
○阿部委員 では、網羅せずしてかかる審議にかかること自身、非常に問題と思いますから、これは、この合同の委員会の方の資料として、本日の委員長から提出を求めていただきたいと思います。
 現状にあっても、簡易鑑定が非常に問題で、精神障害のある方たちへの冤罪、そこにだれも立ち会えませんから、クローズドな中で、混乱の中に、その精神障害のある方が犯罪を犯して立たされております。
 ここの出発点があいまいでは論議ができませんので、これはこの合同委員会として資料の請求を検討していただきたいと思います。
○園田委員長 理事会で諮って検討させていただきます。
○阿部委員 では、引き続いて質問に入らせていただきます。
 私は、先週の法務委員会のこの問題にかかわる審議の議事録と、きょう朝から現在までの皆様方の御審議をお聞きしながら、やはりこの法案、非常にねじれが生じている。
 そのねじれとは何かというと、本来法務省として、先ほど申しました解決すべき現在の精神障害のある方の触法、法を犯したような行為にかかわるいろいろな検察としての審議のあり方の不備、それから、そのことゆえにまた再犯も起こり得るやもしれない現状に対して、法務省自身がきちんとした点検をせずして、それを厚生省にボールを投げ渡した。厚生省としましては、極めて危なっかしい形のままにこのボールを受け取られようとしている。
 何が危なっかしいかと申しますと、一番大きな危惧、危うさの点は、坂口厚生労働大臣の御答弁にございましたが、再犯を予防するということが大前提である、この法案審議で再犯を予防するということが大前提であるという御答弁がございました。しかしながら、私が思います精神医療とは、それは結果であって大前提ではございません。精神医療に課せられた役割は、その患者さんが病から復帰し、それは、できれば通常の生活が送れるような支援をすることであって、再犯を予防することが大前提であるというような役割を精神医療が背負い込むことの中に実は今回の一番の大きな問題があると私は思っております。
 そして、坂口厚生労働大臣が、ふだんは大変に、人権的にも、ハンセン病問題でもそうです、私どもが敬服する坂口厚生労働大臣が、なぜあえてこの問題を背負い込もうとなさるのか、その背景をるる考えてみました。やはりこれも大臣のお言葉の中ですが、いわゆる再犯の危険性については予測し得るということを本会議でもこれまでの御答弁でも何カ所か引いておられますが、きょう御党の福島委員からも御指摘がありましたように、これは現在の精神医療現場でも結論の定まらぬ、あえて言えば、再犯の予測については精神医療はなし得ないという論の方が過半を占めている現状でございます。
 私は、このことを、きょうの討議で坂口厚生労働大臣がさらにどのように御認識あそばされたか、まず一点、お伺いいたします。
○坂口国務大臣 けさからの議論の中でも、さまざまな問題が提起されたところでございますが、やはり現在の精神科医療の中で再犯を予測することができ得るかどうかというのは、それはいろいろの御議論のあるところだというふうに私も思っております。しかし、そこのことについて、諸外国でかなりそこが研究を重ねられて、そして、再び犯罪を起こさないようにしていくという、そこはかなり進んできているわけでありまして、日本にもそこはでき得るというふうに思うわけでございます。
 したがいまして、この人が起こすか起こさないかの予測というのは、確かにそれは難しいところがあるだろう。他の疾病の予測の難しいのも当然でございますが、ここもまた難しい予測ではありますけれども、けさから何度か申し上げておりますように、さまざまな条件を考えましたときに、そうしたことが起こり得る可能性というものを予測することというのは、これはでき得るというふうに思うわけでありまして、そのことをどのように理解をし、そして、その人たちが実際、現実問題として起こさないで、そして社会復帰をしていただくようにしなければならないというふうに私は思っているわけでございます。
○阿部委員 ただいまの坂口厚生労働大臣の御答弁ですが、先日の御答弁の中に、オックスフォード精神医学教科書のページを引きましての御答弁がございます。二千六十六ページと二千六十七ページに、近年、今おっしゃったような再犯の可能性の予測について、再犯の予測の可能性についてでもいいですが、諸外国においてはある程度の知見が得られておるというお話でした。しかしながら、私は、この引用された文献についても、もう一ページ先の二千六十八ページ、ぜひとも坂口厚生労働大臣にお目通しいただきたいと思います。
 二千六十八ページには、逆に、そうした「精神保健の専門家によるリスク・アセスメントにおける債務の限界」、限界ということが繰り返し述べられております。「十分な量の経験的な事実が存在し、臨床的な意思決定を導くこと。」が、その一でございます。残念ながら、我が国における法を犯した方々、精神障害がなおかつおありな方々について、どのような援助がその方にとって一番望ましいかを十分な経験を積んでおるとは言いがたいその事象に、予測、予見性を立てるわけです。そして、「予測は潜在的に変動しやすいことを明白に述べること。」が四でございます。あわせて、最も強調しておきたいのは、五番目に述べられておりますが、「極めて例外的な状況を除き、彼らの刑期を引き伸ばしたりする立場にはない。」
 精神医療というものは、その患者さんとみずからの治療の関係において成り立つものでございます。極めて現在的な関係でございます。将来を予見、予測するということは、今回この法律の枠組みがそのようなものであるがゆえに、精神医療の現状を逸脱していると言わざるを得ない、これが繰り返し指摘されたところでございます。
 大臣が本会議で答弁なさいましたので、原文を厚生省から送っていただき、私も読んだばかりのところではございます。しかしながら、やはり医療にかかわる者はおのれの限界を知るべきです。おのれが医療の中に治療という名で取り込んだことの結果が、かえって患者さんの全人間的な発達を保証しない、あるいはその方の全人間的な人権を損なうことすらあるということが、医療者が知らねばならない出発点だと思います。
 私は、この点についてきょう坂口厚生労働大臣にお伝え申し上げましたので、物の読み方ではございますが、精神医療に、特に司法精神医療にかかわる方たちが何を限界と感じておられるかという点について、重ねて御検討をいただきたいと一点お願い申し上げます。
 引き続いて、森山法務大臣にお願いいたします。
 私はこの法案審議にあって、先ほど申しましたが、従来法務省の中で、例えば精神障害があり法を犯した方たちの処遇をいかにすべきか、七四年の、いわゆる世で言われておりますところの保安処分問題、八一年も同じような形の中で論じられておりますが、それが法制審議会等々にもかけられて、一連の法務省内での論議の過程があろうかと思います。
 先回の法務委員会においても、民主党の平岡委員が平成十二年の法務省の刑事局のメモを御参考に述べられましたが、このメモの中では、いわゆる再犯の予測ということについては極めて多々困難があり、これがまだ解決されておらないというメモがございました。そのことについて森山法務大臣は、先回の委員会では、基本認識は変わっておらないという御答弁でございましたが、再度確認をさせていただきます。
○森山国務大臣 御指摘のメモにつきましては、「試案・手持メモ」と書かれておりますように、法務省刑事局の確定的な見解を記載した文書ではなくて、これに関する記録がないため確定的なことはお答えできませんが、平成十一年十一月ごろ、この問題について関心を有する方々による議論、検討の場に参加した際の手持ちのメモとして非公式に作成されたものではないかというふうに思われますが、御指摘の部分は、危険性の予測につきまして、主に医療関係者から、そこに記載されているような問題が指摘されているところに困難な課題がある旨を記載したものと思われます。
 しかしながら、現代の精神医学によりますと、本法律案におきます再び対象行為を行うおそれにつきまして、精神科医が本法律案の第三十七条第二項に規定する事項を考慮して慎重に鑑定を行うことにより、その有無を判断することは可能であると考えており、精神保健福祉法による措置入院に際しても、精神保健指定医がその者の自傷他害のおそれの有無を診断しておりますし、諸外国におきましても、医師により、その精神障害に基づき再び他人に危険を及ぼす行為を行うおそれの有無が判断されているというふうに承知しております。
○阿部委員 今の御答弁、順次私の方からも論じさせていただきますが、一つは、精神医学界においてそのことが可能になったというふうに申されましたが、それは私が坂口厚生労働大臣にお尋ね申し上げました一点目ですので、あえて繰り返しません。
 精神医学の中に多々論議があり、むしろ我が国の精神医学においては、現時点ではない将来予測は不可能である、これは、触法精神障害者と括弧して呼ばれる方々の問題に一番深く携わってきた西山先生たちのコメントでもあり、これは森山法務大臣もお読みいただきたいと思います。
 そして、前回の審議の中では、そのような御答弁ではございませんでした。前回の審議の中では、これは高原政府参考人、あるいは古田政府参考人、御両者の意見を合わせた上で、医師のみでは再犯のおそれについては十分に予見、予測し得ないので裁判官を合わせて合議体で行うというのが、前回の法務委員会での御答弁を要約したものでございます。
 重ねて伺います。
 ここで合議体になさる意味は何か。前回は、再犯の予測ということについてるる、医師のみではできないと。これは議事録ですから、お読みいただければはっきりいたしますから。そこを、無理なことを強いるのではなくて、裁判官も合わせて判断のもととなさるという御見解でしたが、いかがでしょうか。
○高原政府参考人 そういうふうに御理解いただいたとしましたならば、かなり私としては残念でございます。
 第一番目は、大臣から申し上げましたように、この間、例えば、委員も日常お使いだろうと思いますが、MEDLINEとかMEDLARSという医学データベースに公表されている実証的な予測研究の論文の数は、九〇年代に入って、八〇年代から数倍の勢いで上昇いたしまして、八〇年代後期から二〇〇〇年にかけて、その予測能力につきましては広く受け入れられるに至ったと考えております。
 また、裁判制度をこの決定に関与させるとしたことにつきましては、そういった医学的な判断ではなくて、一定程度の自由に対する制約を伴う医療であるため、デュープロセスと申しますか、しっかりとした、きちんとした正式なプロセスを踏んで、患者さんの人権を必要以上に抑えるということがないよう厳重な制度としたものであるということでございまして、これにつきましては、本日も、法務大臣厚生労働大臣からお答え申し上げている点でございます。
 医師の予測が不可能であるため裁判手続によって予測を可能としたということは、全く私どもの意図しておるところとは異なりますので、賛否は別といたしまして、事実問題として訂正させていただきたいと思います。
○阿部委員 では、高原政府参考人にあっては、前回の議事録をよくお読みいただきまして御答弁願いたいと思います。
 そして、私から申し述べますに、今のような御答弁であれば、むしろこれは法務省サイドとしてきちんとした枠組みを、本来法務省の中でおつくりになるべきだと思います。
 先ほど私が森山法務大臣に伺いましたが、これを法務省サイドでつくる場合は、以前に問題になた保安処分制度、その中の特に治療的、矯正的な、社会復帰ということを念頭に置いた矯正的な保安処分のあり方の一つとなると思います。あえてそこに持っていかずに、半分医療サイドに投げ込んだ中で責任の所在をあいまいにして、このような枠組みをつくるということはいかがなものかとも思います。
 そして、きょう、もう一点だけお願い申し上げます。
 皆さんのお手元に参考資料で配らせていただきましたが、これは現在、措置入院という形で扱われている患者さんの現状でございます。御答弁は坂口厚生労働大臣にお願いいたします。
 きょうの委員会でも措置入院制度と今回の新たなスキームの違いが論じられておりましたが、ここもなかなか本日の御答弁では実は明確ではございませんでした。しかしながら、その点をさておきましても、皆さんにぜひとも御認識いただきたいのは、措置入院患者さんの受け入れ状況で、大学病院、国立病院、都道府県立病院、指定病院という区分けの中で、指定病院、いわゆる民間病院を主体とした指定病院が非常に多いという事実でございます。
 二段目に移りまして、では、そのおのおのの看護スタッフはどのようであるか。いわゆる三対一基準を満たしておるものは、国立病院、都道府県立病院では八、九割でございますが、指定病院と言われる民間病院ではほとんど三対一以上、三・五以上、一対六という形の手薄な看護。
 そして、その下でございますが、医師についても非常勤が多うございます。
 そして、その次のページを見ていただきたく思いますが、その次のページの二段目、措置入院患者の状況でございます。
 措置入院患者さんの中でも、大学病院、国立病院、都道府県立病院、指定病院の中で、とりわけ指定病院は、民間病院が九割ですが、見ていただければわかりますが、現状の措置入院でさえ、十年以上二十年未満という形で指定病院に措置入院で入院されている方が二百八十三、二十年以上の方が八百十七名とおられます。
 この数、坂口厚生労働大臣にあっては、三千二百四十七名の措置入院の患者さんのうち四分の一は、二十年以上も民間の病院で、看護婦数の少ないところにおる。私は、厚生省としてまず手をつけるべきは、この当たり前の現状をどう具体的に変えていくかにあると思います。抽象論議ではなくて、このような二十年以上に及ぶ患者さんの幽閉です、これが現実にある現状に手をつけるのがこのボールを受け取る前の厚生省の役割と思いますが、一言御意見を伺って、終わらせていただきます。
○坂口国務大臣 一般病院のあり方につきましても改革を加えていかなければならないというふうに思っていることは、先ほど中川議員の御質問にもお答えをしたところでございます。そして、それを行っていきますときに、まずどこをやるべきかという優先順位があるということも申し上げたとおりでございますが、御指摘をいただきましたところも十分尊重させていただきながら、我々、その改革に取り組んでいきたいと思います。
○阿部委員 私がお示ししたのは措置入院のデータでございますので、極めて重く受けとめていただきまして、よろしく前進していただきたいと思います。
 ありがとうございました。
○園田委員長 次回は、来る九日火曜日午前十時から連合審査会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。