心神喪失者等医療観察法の条文・審議(その19)

前回(id:kokekokko:20060111)のつづき。
ひきつづき、連合審査会の審議です。参考人に対しての質疑がなされました。
【木島委員質疑】

第154回衆議院 法務委員会厚生労働委員会連合審査会会議録第2号(同)
○森委員長 次に、木島日出夫君。
○木島委員 日本共産党の木島日出夫でございます。
 五人の参考人の先生には、大変貴重な御意見、ありがとうございました。
 今回出されてきた政府案を総体としてどう見るか。政府案は、現行措置制度の中から、殺人とか傷害とか重大な犯罪を犯した精神障害者で再犯のおそれのある者を一部えり分けて、そして別の審判手続、判定手続に置き、そして別の処遇体系のもとに置く、そういう仕組みですね。
 ですから、私ども、賛成意見、反対意見、勉強しているんですが、大まかに言うと、賛成の皆さん方は、これは現在の非常に貧困な、余りにも貧困な措置制度の一歩前進になるんだという見方に立たれているようです。反対の皆さんは、いや、そうじゃない、この一部を切り分けて別の仕組みに置くことは、現状の貧困な仕組みを固定化するものじゃないか、そして一部えり分けられた皆さんに対する差別になるのではないか、そういうふうにお見受けするわけであります。
 いろいろな視点でこの政府案をどう見るかというのを、観点がたくさんあるので、私に与えられたわずか十五分で五人の先生から意見を聞くことはできないんですが、一つだけ、きょうはその中で共通の質問を五人の皆さんにしたいと思うんです。それは、この法案に賛成するか反対するかの一つの分岐点に、再犯のおそれを判定できるのか否かという論点が持ち出されているということなんです。
 大体、賛成する皆さんは、再犯のおそれは判定できるという立場であります。
 いろいろな論の中に、再犯のおそれと再発のおそれ、再犯のおそれは犯罪を再度犯すおそれ、再発のおそれは病気がもう一度出てきてしまう、それを再発のおそれという言葉に、非常に厳密に使い分けて、再発のおそれは医療判断であり、これは可能であり、現行の措置入院制度の自傷他害のおそれはまさにこの再発のおそれを判断しているんだという考え方に立つ。再犯のおそれというのはそうじゃない。これは法的判断であり、社会防衛的観点での判断であり、これが今回政府から出されてきた、裁判による再犯のおそれの審判なんだと。そういうふうに概念的に二つに切り分けて、そしてその結果、だから賛成、だから反対というような見方があるやに私承っているんです。
 私は、そういう見方でこの政府案に賛否を投ずるべきではないんじゃないかと思っているんです、個人的には。政府案が、本当に対象者の医療を充実し、社会復帰の体制が本当に保障されて目的どおりにいくのか、そうではなくて審判手続や処遇手続に相変わらずの人権侵害的な部分が色濃く残っているのか、それを見分けてやはり賛成すべきか反対すべきか考えるべきであって、再犯のおそれが可能かどうなのかというところ、余りそれで反対、賛成えり分けるべきではないのではないかというような個人的な立場には立っているんですけれども、しかし非常に重要な論点になっております。
 そこで、重ねて、端的に五人の先生に、持ち時間全部お与えしますから、再犯のおそれと再発のおそれの違い、また、措置入院における判定と本政府案の再犯のおそれの判定は違うのか、違うとすればどうなのか、可能なのか不可能なのか、それぞれの所見を、一人三分しゃべっていただくと終わってしまうんですが、よろしくお願いをしたい。
○前田参考人 端的にお答えしますけれども、再犯と再発を分けること自体が一つのお立場だと思うんですけれども、病気が再発することによって同じまた犯罪を犯すおそれ、今度の政府案も、単純にこの人間がもう一回犯罪を犯すかどうかを聞いているわけではないわけですね。この病気を治療しなければ再犯するかどうかということを問題にした要件なわけですね。ですから、その再発と再犯の差は非常に小さい。
 また、もう一つ申し上げたいのは、現行の措置入院制度の中で、直前の、検察官通報で送られて暴れている人間ではなくて、ある程度落ちついてとか無罪になった人間について、将来どうなるかということをお医者さんがやっている判断の中には、先生がおっしゃった、分けた意味での再犯のおそれ的なものがかなり含まれて、それを現実にやっているじゃないか、それで日本はうまくコントロールしてきた。それを最近の医学の世界では、再発に極端に限定して、これしかやれませんよという議論をし過ぎているんだと思いますね。そこに誇張がある。
 法律の世界でも、そういう意味であいまいなものは、責任能力があるかどうかの判断とか、もっと言えば刑の重さをどのくらいにするかというのだって、みんなある部分アバウトです。それについて一定のガイドラインをつくりながらやってきたのが今までの考え方ですから、再犯のおそれというもの、ここで示されているものが判断できないとは考えないということです。
 ただ、この賛否の切り分けの仕方についての先生の御整理というのは私は全く同感です。この問題だけで決まるのではないという御指摘はそのとおりだと思います。
○足立参考人 私は、ちょっと別の視点を考えております。
 というのは、この法案では、最初行った重大な他害行為と、その原因となった精神障害がそのままさらにまた続いていて、そしてそれのゆえに再び対象行為を行うことがいわゆる再犯のおそれという言葉になっております。これは法律的に厳格に言いますと、精神障害と対象行為を再び行うおそれというのは、因果関係が証明されなければならないはずでございます。果たしてこの判断ができるのだろうか。私は、これはできないと。医学的判断として考えた場合、精神神経学会の理事会の声明でも出ておりますし、医学的にできないという方が正しいのではないかと僕は思っております。
 ただ、日医の常務理事の人ができると書いてありました。そのできると書いてある、そのできる理由は、異常行動は予測できると書いてあるだけでありまして、再び対象行為を行うおそれの判定ができるとは書いてありません。
 とすれば、再犯のおそれができないのに法律家ができると言うことはどういうことかといいますと、それは先ほど前田先生がいみじくもおっしゃっておりましたけれども、司法的判断、規範的判断としてできるということで、この司法的判断、規範的判断でできるということは何を示すかといいますと、やはり先ほどから出ております、被害者の立場などを強調した国民世論のあり方によって、裁判官がそれをいかに加味しながらそこに判断として加えるかということにならざるを得ないと思います。それは結局のところ、裁判所による正義の回復という意味しかなくなってしまう。ですから、再犯のおそれは絶対に判定できないというのが私の立場でございます。
 それからもう一点の、措置入院との違いの問題がございました。
 措置入院の方は、先ほど池原先生が答えておりましたけれども、急性期の症状でございます。ところが、法案では、鑑定入院で三カ月間かけて判定すると言っています。三カ月かかって何を判定するんでしょうか。つまり、それこそ、この病気がさらにまた数年後に再発して、そして同じような行為を、つまり規定されている五罪種の行為をまた行うおそれがあるんだよということを言う。
 やはり措置入院はあくまでも患者本人の、当事者本人のためにつくられているものだと私は思っております。
    〔森委員長退席、園田委員長着席〕
○川本参考人 お答えいたします。
 再犯のおそれと再発のおそれの違いですけれども、これも、先ほどから申し上げている精神医療審査会の退院請求のときにそういうような区別はほとんどいたしておりません。つまり、再発すればまた同じような行動を起こすであろう、そういう判断がつながっていると思います。ですから、再発と再犯というふうな分け方というのは通常行われていないし、私もその方が適当だと思っております。
 あと、措置入院の場合と本法案の違いというお尋ねですけれども、先ほどこれも申し上げたように、今回の場合は、鑑定をして丁寧に判断をするというところが大きな違いだろうということと、あと、やはりチェックが大事なんだというふうに考えております。
 よく長期的な判断とかそういうような御議論がございますけれども、結局、先ほどの精神医療審査会の退院請求の判断でも、退院請求が出てきて、患者さんを精神科医の方と私が二人で訪ねていってそこで意見聴取をして、実際オン・ザ・ジョブ・トレーニングみたいなことを私はしているわけですけれども、そういうときにどういう判断をされているのかというのは、先ほど申し上げたような判断をしているわけでして、つまり、今これで退院をすればまた同じようなことをするのではないかという場合は退院請求は認められない、そういう判断をしているわけですね。
 したがって、そこのところはある程度共通なんだろう、ただ、今回の場合はそこを丁寧に判断されるんだろうという理解をしております。
 それとあと、今、裁判官の判断で、規範的判断でほかの要素が入るのではないかというふうな御疑問もあろうかと思いますけれども、私の基本的な立場は、先ほど申し上げたように、この問題は福祉の問題だと思っております。そういう理解がふえるのは私は非常に好ましいことだろうと。もし裁判官の方が、私は裁判官の方は判断できると思っておりますけれども、中にはそういう知識が不足している方があるとすれば、それはそういう理解をちゃんとしていただきたい。
 精神医療審査会でも、当然、そういう関係者の方が世論に後押しされて、危険だから閉じ込めよう、そういう発想を持っていること自体が間違っているわけでして、それを正していくという点では、精神保健観察官の方とか裁判官の方とかあるいは検察官とか、そういう方たちがやはり皆関心を持っていただくというのが非常に必要なことなんだろう。今までは余りにもそれを見捨ててきたんじゃないのかというのが私の正直な思いでございます。
○池原参考人 再発のおそれと再犯のおそれということですけれども、精神保健福祉法の方の措置入院制度というのを純粋に医療のための法律であるというふうな理解から考えるとすると、再発のおそれということで措置入院させるということは基本的には許されないんだろうと思います。
 むしろ、措置入院自傷他害のおそれがあって医療及び保護の観点から入院の必要性があると言っているのは、あくまでも現在の症状を見て、現在症状から治療の必要性があるんだと。今は治っているけれども将来もう一回再発するかもしれないから入院させておこうとか治療しようということではなくて、現に症状を持っている、あるいは一見症状が治まっているように見えても、極めて近接した日時に、例えばきょうの夜とかあしたの朝とかここ一週間の間とか、そういうところで病状が再燃する、だから、それはある意味では再発したというよりは、ただ一時的に病状が隠れたというだけのようなときに本来の措置入院が行われるべきなんだろうというふうに思っています。
 これに対して、再犯のおそれというのは、そういう現在症状を問題にしているのではなくて、やはり短くても三カ月とかあるいは一年とか二年とか、そういう長さで問題を考えているだろう。実際に皆さんが、この法案をどう運用されるかということを想像してみられたときに、殺人行為を行って責任無能力だということで審判手続に回されてきた場合に、例えばここ一週間とか一カ月の間には再犯の可能性がないですからということで裁判所が却下の決定をするということを果たして想像できるでしょうか。
 あるいは、入院した後数カ月たった段階で、六カ月間は幾ら再犯のおそれが減っても退院はできないことになっていますが、六カ月たったので、全く再犯のおそれがないというふうに指定入院機関が考えたので、入院の継続をさせないという判断をした場合に、半年で出てくるということが果たして想像できるんでしょうか。
 恐らく、この法案を運用する、あるいは想像してみたときに、やはり殺人行為を行ったなら少なくとも五年とか七年は入院していてほしいという漠然とした期待がこの法案に込められていないかということを危惧しているわけです。
 そういう意味では、再犯のおそれというのと再発、あるいは病状が現に、一見隠れているけれどもすぐに今夜、あした、一週間先に出てくるぞという状態は、明らかな違いがあるというふうに考えます。
○菱山参考人 まず、少なくとも、今回、再犯予測ができるかできないかなんということがこの法律が必要か必要でないかを決定する原因とは余り考えるべきじゃないという前提のもとで言いますが、医学的にいいますと、再発につきましても、先ほど初めに言いましたように、病状形成には、その人のかかっている疾病とか障害のみじゃなくて、その方がどのような状況にあるかという状況反応的な面というのがありますから、そういう点全体を含めて考えたときに、現在再発しやすい状況がまだ残っているか残っていないかはわかりますが、再発そのものは、明らかに半年後、一年後にするかどうかはできません。しかし、それを近づけようとする、これが医療の立場だと思います。そういう点で、ある面では不十分だけれどもできる。しかし、再犯のおそれというのは、これはあくまで犯罪ですから、医学、医療の面では、私は、再犯があるかどうか、再犯のおそれ、あるいは再犯予測はできません。
 ただ、以前にこのような症状のもとに犯罪を犯した、それと同じような症状が現在起こりやすいか起こりにくいか、そのためにはどのような処遇、治療が必要か、サポートが必要かどうかという判断はできます。しかし、再犯の予測は医学的な面ではできないんです。再犯と再発とは、そこでは一定のつながりがありますが、これは別の次元の問題として考えるというのが臨床の立場でございます。
○木島委員 ありがとうございました。
 再発のおそれと再犯のおそれ、違うのか、因果関係の有無、非常に重要な論点が提起されたと思うんですが、残念ですが、時間が来ましたので終わらせていただきます。ありがとうございました。

【阿部委員質疑】

第154回衆議院 法務委員会厚生労働委員会連合審査会会議録第2号(同)
○園田委員長 次に、阿部知子君。
○阿部委員 社会民主党市民連合阿部知子です。
 参考人の皆様には、長時間御苦労さまでございます。私が最後ですので、よろしくお願い申し上げます。
 きょう、五人の参考人の皆様のお話を伺ったうち、わけても前田参考人に私は中心的にお話を伺いたいと思っております。
 と申しますのも、今回、この法案の直接の立法根拠となるか否かはまた判断の分かれるところでございますが、世上あるいは政府の一部の方々にも、池田小学校事件との関連、池田小学校事件がある意味でこうした法案の審議を後押ししたということも私は否めないと思いますし、そのことをある意味で言及されておられたのが前田参考人ですので、極めて大事なことと思いますので、お伺いいたします。
 ここでは、参考人、池田小学校事件の意味とお書きでございましたが、果たして、池田小学校事件の問題点は何でございましょうか。
○前田参考人 先ほど御説明しましたように、私の発表した内容というのは、マスコミ等で池田小学校事件が直接の原因でこの法律案が動いているように言われるけれども、実質的な意味でこの法律案をつくっていった日本の社会的状況といいますか事情を三つ申し上げて、ノーマライゼーションが発展してきたこと、それからそれに付随して措置入院制度の変質があったこと、さらに、それを支えるものとして司法精神医療関係者の少なさというか手薄さがあった、こういう問題を解決しなきゃいけないという実質的な問題に対してこの法律案がこたえているという意味で、私は合理性があると。
 ただ、こういうノーマライゼーションの動きの中で新しい法律案がぱっと出てくるというのは非常に難しくて、外国でもそうですし、日本の今までの立法でもそうだと思うんですが、例えばストーカー防止法なんかでもそうなんですが、きっかけとなる事件はある、ただ、でき上がった法律案が、きっかけとなる事件の問題解決に対して即対応するものであるかどうかというミクロの因果性というのは全く別だと思っております。
 私は、池田小事件がきっかけになった、その意味でとうとい犠牲の上に成り立つということを否定するものではありませんが、ただ、そこに近視眼的に引きずられて法案の中身を持っていくのは問題だということを申し上げたんですね。
○阿部委員 私は、逆に、近視眼的に引きずられるという意味ではなくて、きちんと事実を踏まえることが精神医療の改善並びに皆さんのきょう御指摘の司法精神医学のあり方の改善にも結びつくと思いますので、あえて指摘させていただきます。
 私は、池田小学校事件は、やはり極めてずさんな起訴前の簡易鑑定にまず第一、起因しておると思います。今、この犯人とされる方は、いわゆる精神障害ということではなくて、普通の刑法の中での裁判という過程を踏んでおるわけです。この方が、経緯の中で、以前に簡易鑑定を受け、措置入院を受け、そうした病歴、繰り返されているがゆえに、社会的には、精神障害が起こす事件であるというふうな過剰なイメージを持たれて、差別、偏見を助長いたしました。私ども法にかかわる者は、逆に言うと、きちんとどこから手をつけたらこういう間違ったイメージが広がっていかないかということに一義的にまず任を置きたいと思うのです。
 二番目の質問ですが、前田参考人のレジュメの中に、「措置入院制度の変質」という一項がございまして、確かに、以前六万人おられた患者さんが現在三千人、措置入院制度で措置されている方の数は減っておりますが、なおどのような点が問題とお考えでしょうか。二点目、お願いいたします。
○前田参考人 先ほどの池田小の問題については、私も先生と基本的な考え方は違わないということを申し上げた上で、措置入院制度についてお答えしたいと思うんですけれども、やはりこの六万が三千に減ったというのは医療の変化が一番基本にあるんだと思います。その意味で、減ったということ自体はノーマライゼーションの一つの象徴であって、また経済的措置というような、ある意味で不透明な部分というものを純化したというのは合理的だと思うんですが、ただ、現在でも、非常に重大な犯罪を犯して措置入院になるときに、審判を行うことの地域的な格差とか、それから時間的に与えられている余裕とか、不十分な面はあろうかと思います。そういう問題をある意味で解決するために、この法律案というのは一定の合理的な道をつけているというふうに私は評価しているということでございます。
○阿部委員 私は、それがそのような役割を果たさないゆえにこの法案に実は反対の立場をとるものです。
 先生も既に御承知おきかもしれませんが、措置入院で現在三千人の方が措置されておるうち、二十年以上の期間病院に幽閉されている方が八百人余、四分の一は現行の措置入院制度でも二十年余を病院でお過ごしでいらっしゃいます。
 また、簡易鑑定について申せば、川本参考人の京都を例にとりますと、今ほとんどお一人のお医者様、簡易鑑定はお二人でなさいますが、お一人で百人なさっております。こうした簡易鑑定のあり方、やはり一人の判断あるいは限られた精神科医の判断は極めて問題をはらむ。それゆえに、例えば千葉県で行っております簡易鑑定では、グループ制にいたしましてなるべく多くの医者が、司法精神医学の発達のためにも、この司法鑑定の中に、簡易鑑定の中に加わって改善をしていくというふうな道を歩んでおります。
 やはり手をつけるべきは現行の措置入院制度と簡易鑑定。そして、その道がいかに遠く見えようとも、ここから切り込まない限り現状の措置入院の長期入院の方も安易な鑑定で、逆に言えば、こういうふうに池田小学校事件を起こすような方たちの問題も解決されないし、逆に、鑑定の問題性ゆえに、恣意的な鑑定によって裁判を受ける権利すら奪われている方も出てくると思います。
 私はその点きょう、参考人のお話を伺いながら、もしも問題意識を共有していただけるなら、先生方のお知恵をもってまず措置入院、簡易鑑定に切り込んでいただきたい。このことを改善せずして日本の三十三万人という膨大な入院患者さんの未来ももちろんないのですが、まず司法精神医学を言うならば、この点を私は強調したい。
 そして、最後に前田参考人と川本参考人にお伺いいたしますが、お二方とも、医者と裁判官の合議体をとるというお考えでございました。もしも合議体をとってこの二者の意見が食い違った場合はどうされますのでしょうか。前田参考人にお願いいたします。
○前田参考人 その前に一言、措置入院の適正化というのはもう御指摘のとおりで、川本先生と私も同じ学会で法と精神医療をやっているわけですが、千葉のその先生に来ていただいて研究はやっております。措置入院制度の合理化というのは本当に喫緊の課題だと思っておりますが、こういう法律案の形でやるべき解決の仕方のほかにいろいろな方策があろうかと思っております。
 時間がありませんのでお答えしますけれども、要するに、合議体で議論をするというのは、これは食い違うと言いますが、話し合って結論を出していくということでして、先ほど川本先生が何度も御指摘になっていますように、現実から出発して考えますと、医療の側と法律の側が正面からぶつかり合うというのは非常に考えにくい。お互いに相補完し合いながら一番合理的な障害者の対応を考えていく、それがひいては国民の安心感、安全感、被害者の側の安心感にもつながる、そういうシステムとしてかなりいいものとしてでき上がっているという評価を私はしているということでございます。
○川本参考人 私も同様でございます。
 もし万が一といいますか、どうしても結論が出なければ、それはまた別のメンバーで検討するとかそういうことは考えられるだろうと思っておりますが、今前田先生がお答えになったのと基本的には同様でございます。
○阿部委員 私は、きょうのお二方のお話を伺いながら、やはりそのような合議体にすることによって逆に、どちらが最終責任をとるかが明らかでない体制がここに生ずると思うのです。
 例えば、医者の方は、再犯か再発かもさっき木島委員が極めていい質問をしてくださいましたので私はあえて言及いたしませんが、措置入院で要求されているもの、主にはその方の自傷他害で、それは再発ではございません。要するに、私は医者ですが、今私ども医療現場に課せられているものは、現在その患者さんをこのままで放置したらその方が危険であるかどうか、その方自身が危険であるか。それは、自分がだれかをけがさせることによっても生ずる危険ですが、そのようなものについて患者中心に判断する役割であって、再発して再犯を犯すか等々は、現在医者に課せられた任務ではございません。
 そこをリスク連続性という形で川本参考人はおっしゃられましたが、それはある程度認めた上で、デンジャラスかどうかを裁判官が研修も含めて学んだ上で判断すれば合議になると。言葉の上ではリスク連続性、デンジャラスネスとかいう形で極めてクリアカットに言われますが、実は、ある方がある状態に置かれて犯罪を犯すかどうかということは、極めてこれは刑法の上でも判断が難しい。そして、医療にはそのような判断スキームを持っておりませんので、ここで相違が生じた場合という例を挙げました。
 いずれにしろ、前田参考人に最後にお願いいたしますが、例えば先生がお引きになったイギリスでは、いわゆる保安処分とは申しませんが、こうした治療処分に対して再犯予測要件はございません。保安処分とは呼びませんが、イギリスの治療的な取り扱いの中では、再犯予測要件というのは述べられておりませんし、またドイツでは、むしろ司法の場で起訴が原則になり、すべてが公判で扱われて、むしろ裁判官の判断が主になっております。
 こうしたことについて、先生は、日本の精神医療の、ある種の精神科の医師たちの判断が再犯ということをがえんじないというふうに当初おっしゃいましたが、精神医学協会も反対声明を上げております折から、諸外国においても、私は先生の御認識のもう一歩先をお教えいただきたいと思います。
○前田参考人 イギリスの御専門は川本先生ですので、私はちょっとあれなんですけれども、ただ、やはり、医療の側と法律の側が対立するのではなくて、その中で合理的な、この手の連続的な危険の量があったときにどこで切るかという判断は、お医者さんの側からも考えていただかないと困るんだと思います。
 それは医者の問題ではないとおっしゃいますけれども、やはり法律家と議論しながら、そこで新しいガイドラインをつくっていっていただかないと困るし、こういう法律案をつくるつくらないにかかわらず、私は、ノーマライゼーションが進んでいく中でこういう問題は別の形で必ず起こってきますので、そういう国民一般の、被害者の側も含めた規範意識をくみ上げた形での評価、そこに医者の側もコミットしていっていただかないと困ると申し上げたいと思っております。
○阿部委員 済みません、一言だけ。
 ノーマライゼーションの基本は、お互いの信頼でございます。再犯の予測云々は、医師と患者の信頼関係に大きな亀裂を生みますので、その点で申し上げましたが、貴重な御意見ありがとうございました。
○園田委員長 以上で午前中の参考人に対する質疑は終了いたしました。
 参考人の皆様方、きょうは、国会に出向いていただいて貴重な御意見をいただき、まことにありがとうございました。法務、厚生労働両委員会を代表して、心から御礼を申し上げます。
 午後二時より連合審査会を再開することとし、この際、休憩いたします。

午後の審議では、山上皓、中島直、仙波恒雄、伊藤哲寛の各氏が参考人として意見を述べ、それに対する質問がされました。
【山上参考人招致

第154回衆議院 法務委員会厚生労働委員会連合審査会会議録第2号(同)
○園田委員長 休憩前に引き続き連合審査会を開会いたします。
 内閣提出、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案、平岡秀夫君外五名提出、裁判所法の一部を改正する法律案及び検察庁法の一部を改正する法律案並びに水島広子君外五名提出、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案の各案を議題といたします。
 本日は、各案審査のため、参考人として、東京医科歯科大学難治疾患研究所教授山上皓君、多摩あおば病院精神科医中島直君、社団法人日本精神科病院協会会長仙波恒雄君、北海道立精神保健福祉センター所長伊藤哲寛君、以上四名の方々に御出席いただいております。
 参考人の方々、大変御多用のところを国会に出向いていただいて、それぞれの立場で忌憚なき御意見をいただきたいと思います。私どもの審査の参考にさせていただきたいと思いますので、どうかよろしくお願い申し上げます。
 次に、議事の順序について申し上げます。
 まず、山上参考人、中島参考人、仙波参考人、伊藤参考人の順に、各十分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。
 なお、念のため申し上げますが、発言の際は委員長の許可を得ることになっております。また、参考人は委員に対して質疑をすることができないことになっておりますので、あらかじめ御承知おきいただきたいと存じます。
 それでは、まず山上参考人にお願いいたします。
○山上参考人 限られた時間ですので、端的に意見を述べさせていただきます。
 私は、本法案を、困難な条件のもとでつくられたものとしては最善の案と評価して、不幸な事件の続発を防ぐために、一日も早く成立させていただきたいと思います。
 何よりも高く評価される点は、我が国の触法精神障害者に対して、初めて責任ある処遇が国の手によって行われることになることであります。
 触法精神障害者、中でも重大な事件を繰り返す人たちは、精神障害とともに、強い犯罪傾向をあわせ持っております。私の調査では、他害行為を何度も繰り返す精神障害者の約八割は、発病する前から何度も事件を起こしていた人たちです。すなわち、それまでは、事件を起こすたびに罪の大きさに応じて刑務所に入れられるなど厳しく罰せられていた人たちが、受刑中に発病するなどして一度精神病と診断されると、次の事件からは罪を問われることなく、司法の手を離れ、一般の患者として精神医療の側に送られてくるのです。このカラーの資料の図一の左上、濃く示した部分、そこに相当する人たちであります。
 欧米諸国は皆、このような一群の患者たちのために専門の処遇制度、施設を用意し、彼らを安全にかつ適切に治療するための努力を重ね、質の高い司法精神医療を確立してきました。右の図二―三のところにイギリスの例を示しておりますが、司法精神科の病床数が精神科病床数全体のほぼ一割を占め、患者一人当たりで見れば、一般病床に倍するスタッフや資金が投じられています。
 御承知のように、一般精神医療は今、ノーマライゼーションを目指す流れのもとで、患者に対する強制や制限を最小限にとどめる努力を求められていて、強い犯罪傾向を持つ人たちに適切に対応できるところではありません。そこに重大な事件を繰り返す精神障害者を送り込むことには最初から無理があるのです。そこで、触法精神障害者が司法の手を離れ、医療の側に送られてくる過程で、さまざまな混乱と悲惨な事態が生ずることになります。
 図二―二、右の上の図でありますけれども、ここに矢印で示しますように、Aとされた人は、一部の自治体立病院で試みられている司法精神医療を受けられますが、それはまだごくわずかです。Bのように、重大事件を起こしながら、入院すら拒否される人もいますし、Cのように、殺人の罪を犯しながら、一、二カ月で退院して再犯に至る者もいます。そこには詐病を演じて病院に逃げ込む人たちも含まれています。Dのように、入院中に職員を傷つけるなどして強制退院させられ、再犯に至る人もいます。Eのように、病院内で他の患者を殺害し、退院させたくてもさせられない事情があるということで、生涯おりのような保護室に閉じ込められている人たちもおります。
 矢印の経路を点線で示しましたが、我が国では行く先が相手次第でどこになるかわからず、それをフォローするシステムも全くないので、あえてそうしたものであります。
 このように、触法精神障害者に対しては、現在、およそ法治国家とは思えないような無責任な対応がされているのです。これに対し、新法では、処遇の決定は裁判所で行われ、退院後のケアについては保護観察所が責任を負います。私が、国の責任の明確化が最も評価に値すると考えるのは、このような認識に基づくものです。
 評価すべき第二点は、この法案の中で、おくれている我が国の司法精神医療の確立に必要な二点がしっかりと押さえられている点であります。
 一つは、専門治療施設の整備です。英国の司法精神医療をモデルとして充実した治療環境が整えられ、スタッフについても、困難な治療に取り組むのに十分なだけのスタッフの配置が国費によって保障されることになります。
 もう一つは、退院後のアフターケア体制の整備です。これには保護観察所が精神保健観察官を配置して当たり、専門治療施設のスタッフとの連携のもとで、従来にない責任あるフォローアップができるようになります。
 本法案では、そのほかにも、触法精神障害者への弁護人の付き添いや、被害者、遺族の傍聴権の保障など、懸案であった人権面への配慮もされており、改善される点は少なくありません。また、対応の難しい触法精神障害者を治療する司法精神医療の進歩は、一般精神医療にもさまざまな好影響を及ぼすものと思われます。
 ところで、この法案については専門家の間にも大きな意見の対立が見られます。具体的問題に入る前に、まずその背景について一言触れたいと思います。
 先ほど図の二のところの説明でも触れましたように、我が国の触法精神障害者の多くは、三十三万床という膨大な数の一般精神科病床の間に拡散していって、一般の患者として扱われ、その跡をたどることさえできません。触法精神障害者を司法精神医療の場に集めて診る欧米諸国とは異なって、我が国では、精神科医であっても触法精神障害者の全容を知る機会を持つ人は少なく、自分がたまたま経験した範囲でしかこの問題を知ることができない人が多いのです。全国調査に参加したり、触法精神障害者の治療を積極的に引き受けたりしている一部の医師はある程度実態を把握しているのですが、その数はまだごく少数です。また、欧米の司法精神医療の実情を正しく知る人も少ないことから、我が国の精神科医の中には司法精神医療の必要性についてさえまだ気づいていない人たちも少なくないのです。
 これに加え、この問題には、二十数年前に激しく争われた保安処分論争が暗い影を落としております。
 私は、平成十年から三年間、日本精神神経学会で精神医療と法に関する委員会の委員長を務めるなどして、触法精神障害者問題をタブー視する風潮を解消する努力をしましたが、三年前に学会でシンポジウムを開催したときに、保安処分反対を叫ぶ患者集団と称する人たちに壇上を占拠され、以来、彼らの攻撃の対象とされております。我が国の精神科医の間には、国による触法精神障害者対策を必要と感じている人がたくさんいるのですが、そのような事情もあって、公の場でそういう発言をできる人は少ないのです。
 最後に、争点の一つとなっている危険性の評価をめぐる問題についても一言触れたいと思います。
 本法案では、対象者が入院をさせて医療を行わなければ再び対象行為を行うおそれがあると認めた場合に入院命令を下すことにされていて、再び対象行為を行う可能性についてのリスクアセスメント、危険性の評価が問題とされるわけです。
 欧米の司法精神医療においては、危険性の評価は、患者の治療目標の設定や治療効果の判定あるいは社会復帰に向けての処遇基準の変更などに際して日常的に行われており、これを日本の司法精神医療の場で活用することには何の問題もありません。
 危険性の評価は、それほど厳密ではありませんが、精神科臨床の場で我々精神科医が日常的に行っていることでもあります。措置診察における自傷他害のおそれの判定や、事故を防ぐ目的での保護室への隔離、閉鎖病棟への収容も、しばしば危険性の評価に基づいてなされています。精神科医が日常の診療行為の中でみずからの責任を全うしようとすれば、これを避けることは許されないのです。
 レジュメに示しましたように、触法精神障害者の事件を繰り返している人たちの経過を見ると、今の一般精神医療では対応し切れないとみなされる事例がたくさんあることは否定できない事実であります。したがって、危険性の評価は、できるできないの問題ではなく、どのような評価基準をつくっていくかという問題なのです。ちょうど刑事責任能力の評価基準が精神科医と裁判官との間で長年かけてつくられてきたように、これから危険性の評価基準を両者の間でつくっていくことになるのです。
 最後に、もう一言だけ述べさせていただきたいと思います。
 触法精神障害者問題は制度的欠陥から来ているもので、処遇の責任を負うべきところがどこにもなかったために対応がおくれにおくれてきたことが問題であります。この状況に対して最も強く抗議の声を上げたいという気持ちをお持ちの方は被害者、遺族の方々なのですが、その方々も声を上げられないような事情がございます。
 私は、新法ができても不幸な事件を完全になくすることはできないと思うものですが、せめてそれを最小限にとどめる努力を尽くす責任が我々にはあるのではないかと思うものです。この制度的欠陥のもとで今も日々新たな犠牲者が生まれております。これを是正することができるのは立法府の皆様だけなのです。一日も早く法案を成立させてくださるよう心よりお願いして、私の意見陳述を終えさせていただきます。(拍手)

【中島参考人招致

第154回衆議院 法務委員会厚生労働委員会連合審査会会議録第2号(同)
○園田委員長 ありがとうございました。
 次に、中島参考人にお願いいたします。
○中島参考人 中島でございます。発言の機会を与えていただいたことに感謝いたします。レジュメに沿って話をしていきたいと思います。
 まず、前提として前置きをさせていただきたいと思いますけれども、医療は本来、本人のため、患者さんのために行われるべきものであるということ、これがまず大前提であるというふうに思います。措置入院等を含む強制入院においても、この視点を忘れてしまっては医療としての本質を失うことになるだろうと思います。この点を前置きさせていただきまして、本論に入っていきたいと思います。
 問題点として大きく二つ挙げました。一つは、今山上先生も触れられましたけれども、再び対象行為を行うおそれというのがこの法案の一番根幹になっているわけなんですけれども、その判定は不可能です。欧米の研究をもとにしても、真の対象者より多くの本当は対象でない者を拘束することになります。再犯率が低いと考えられる本邦においては、さらに問題が大きく拡大されます。
 これについて若干述べていきますが、多数の偽陽性者が生まれるという問題があります。再び対象行為を行うおそれの判定は、これはもう原理的に一〇〇%行うことはできません。偽陽性、すなわち、本当は解放しても対象行為を起こさないにもかかわらず、おそれがあるというふうに判定されて拘束される人が必ず生ずるということになります。私は、この方々が少数であってもこれは許容されないと考えるものですが、実際にどのぐらいの数に及ぶかというのを考えてみます。
 英米の研究では、的中率、これは種々の研究によって異なりますけれども、およそ五〇から八〇%といったばらつきがあります。方法によってもいろいろなばらつきがあります。どういう方法でこの再犯予測を行うかによってもばらつきがありますけれども、どの集団にその方法を適用するか、どういうところを出てきた人、どういう犯罪を犯した人たちに適用するかによっても非常にばらつきがあります。このように、英米のように非常に多数の研究があるところでも未確立の問題です。本邦の集団には非常に研究が乏しいという状況がありますので、これがどのように適用されるのが適切であるのかということが全く白紙の状態です。
 それと、この的中率というのは、非常にわかりにくいんですが、予測がそれだけ当たるということを示しているわけではありません。すなわち、的中率七〇%というと十人に七人当たるというふうに思われるかもしれませんけれども、そうではありません。感受性、特異性が仮に両方とも七〇%だというふうに考えた場合、母集団の再犯率を二〇%とします。百人の母集団にこのテストを適用すると、百人の母集団で再犯率が二〇%ですから、実際に再犯を犯す人が二十人いるということになります。二十人のうち七〇%が正確に判定されるということになりますので、すなわち十四人が再犯を犯すと予測されることになります。そして、百人のうち八〇%は実際には再犯を犯さないわけですから、八十人のうち三〇%、一〇〇引く七〇で三〇%が誤って判定されるということになりますので、二十四人が再犯を犯すというふうに予測されることになります。すなわち、このテストを行うと、合計三十八人が再犯を犯すと予測されるわけなんですけれども、そのうち二十四人は、実は解放しても再犯を犯さない人です。六三%、十人に六人は誤った拘束ということになります。
 こうした問題は、実際にこのような制度が実践されている英米等でも非常に大きく指摘されている問題なんです。
 精神障害者であっても、その必要がないのに強制的に拘禁され治療を加えられることはあってはなりません。精神障害者が対象であっても、不必要な強制入院は損害賠償請求等の対象になります。自発的入院で済む人はそのようにすればいいし、外来治療で済む人は外来治療をしたらいいと思います。新法案では、強制入院の必要がない人を今述べたように多数強制入院させるということになります。
 それから、おそれの判定にまつわる別の問題、これは種々の議論があります。臨床の現場で経験則に基づいての判断は当たるか当たらないかの論争が、これはもう活発に行われています。これは治療効果の判定の難しさを反映します。
 そして、あと、精神病というふうにされると一般に暴力のリスクが小さくなるというデータが、これは非常に多数出ています。それから、再犯の予測因子として幾つかの因子が抽出されていますけれども、精神病者もそれ以外もこの予測因子の内容は変わらないという研究も多数あります。精神障害者のみを問題として取り上げることが合理的な根拠が非常に薄いことを示しています。
 それから、母集団の再犯率が低いと的中率が下がります。先ほどの計算を反復していただければわかると思います。再犯率は、これもいろいろな計算があるので一概に言えませんけれども、英米では十数%程度というふうにされていて、日本でも、これははっきりしたデータがありませんけれども、先ほど御意見をおっしゃった山上先生たちのグループの一つの例として七・一%というのがあります。重大犯罪はもっと低いと思われますけれども、日本の再犯率が単純に低いと言うことはできませんけれども、こういうデータからも、日本の場合には的中率がもっと下がるということが予測されます。
 そして、長期を予測しようと思えば、さらに不正確になります。これはアメリカの研究ですけれども、マキシマム・セキュリティー・ホスピタルズという、非常に危険な人であるということで拘束された人たちが、ある判決が出て九百六十六名が解放されたという事態がありました。その九百六十六名の方々がどんなふうになっていくかということが非常に注目されたわけなんですけれども、その中で二〇%しか実は再犯がなかったという研究があります。しかも、その二〇%の再犯も、大多数は非暴力的な犯罪であったというような研究があります。危険というふうにされていても、実際には危険でない人が非常に多いんです。しかも、その事実は解放してみないとわからないという、その誤りは解放してみないとわからないという問題があります。
 これは、逆に、本来は危険な人を危険じゃないと誤って判定して出された場合には、そこで何か、例えば犯罪を犯したということがあると非常に大きく報道される、そういうようなことがあることに対比して考えていただければすぐわかると思います
 それから、措置入院の「おそれ」と本法案の「おそれ」の問題に関して若干触れますけれども、措置入院における自傷他害のおそれというのと本法案の再び対象行為を行うおそれというのが混同して論じられる場合が多いので、それについて若干述べておきます。
 まず理念的なことを申しますと、措置入院は現在の症状に基づくおそれを判断するものです。法案は、これは将来のおそれを判断するものです。それから、実践的な面の問題があります。措置入院の大半は急性症状の消退とともに解除されています。ただ、現在の措置入院の判定も、問題がないというふうには私は考えておりません。現行の措置入院の運用も非常に問題があります。不当な長期入院の報告が少なからずあります。これには、私は精神医療審査会の機能を強化していくこと、それから実態調査が急務、とにかく急いで、必要な事態だと思います。
 それから、ここにオックスフォード精神医学教科書の記載というのを載せました。坂口大臣が判定可能の根拠としてオックスフォード精神医学教科書を引かれたと思いますけれども、このオックスフォード精神医学教科書は、むしろ予測の難しさ、あるいは予測にまつわる問題を真剣に検討したものです。精神科医が社会的にそれを求められることについて、精神科医の側の苦悩を示しているというふうに考えられます。ぜひ、記載を読んでいただければと思います。
 問題点の二点目としまして、新法案では、迅速な医療が保障されず、また医療の継続性が寸断されるという問題があります。
 (1)としまして、迅速な治療開始が不能になるということを述べました。時間の関係ではしょりながらお話ししますが、現在では二十三日間という逮捕、勾留期間の中で入院治療が始められる場合が多いわけなんですけれども、新法では、鑑定入院という二、三カ月の入院をさらに経て、この鑑定入院の期間には本格的な治療が始められないというふうに私は考えております、治療開始が遅くなります。
 それから、(2)として、退院が非常に困難になるという問題があります。現在でも、例えば私どもの病院に入院していてその方々が病状がよくなって退院するという場合に、精神病院からの退院であるというふうに言うと、非常に退院が難しい、アパートを借りるのが難しいという問題があります。
 そして、(3)として述べました、長期フォローは手探り状態になります。一番病状が重い時期、その時期が一番治療の取っかかりがしやすい時期なんですが、その時期を鑑定入院という形でみすみす逃すということになります。
 (4)でも述べましたけれども、基本的に、今の法案ですと、うまくいっている実践すらも破壊するという問題になります。対象行為を行った者に限らず、適切な精神科医療というのは、適切な人的資源及び施設の保障に裏打ちされた多様な実践と、それが適切に情報公開されて、選ぶ権利も保障されたところで成立すると思います。それこそがまず実現しなければなりません。詳しくは述べませんが、日本の精神科医療はこの状況からははるかにおくれたところにあります。
 本法案は、本来拘禁されるべきでない人を多数拘禁に追い込み、また治療をかえって悪化させるという問題があります。拙速な議論あるいは拙速な制度の構築は禍根を残します。慎重な御討議をぜひお願いしたいと思います。私も、もし必要があれば幾らでも協力する用意があります。
 それから、この問題に関して当事者の方々の御意見もぜひ聞いていただきたいというふうに思います。我々専門家も専門家としていろいろ意見を申し上げますけれども、例えば退院をめぐるいろいろな問題、地域でいろいろな苦労をしているというような実態に関しては、当事者の方々の意見の方が切実だろうと思います。
 御清聴ありがとうございました。(拍手)

【仙波参考人招致

第154回衆議院 法務委員会厚生労働委員会連合審査会会議録第2号(同)
○園田委員長 ありがとうございました。
 次に、仙波参考人にお願いいたします。
○仙波参考人 日本精神科病院協会の会長の仙波でございます。
 初めに、昭和四十九年の改正法案を初めとしまして、三十年近く紆余曲折の年月が流れております。ようやく、平成十三年に法務省、厚生省がこの問題の検討を開始された。そのやさきに、十三年六月に池田小学校事件が発生したわけでございます。
 この課題については、過去の確執やこの法律の複雑さ、困難さはあります。今回、新法は、触法患者に対する適切な処遇を決定し、症状の改善並びにこれに伴う再犯の防止を図り、社会復帰を促進することを目的として提案されております。我々は、現状解決の一歩前進のため、この法律の成立に賛同し、期待するものであります。
 今回、精神医療の底上げこそ必要という論がありますが、触法精神障害者対策を精神保健福祉法で実施することには無理があると考えております。私は、まず医療と司法の関与するこの新法を制定し、一方で精神保健福祉法の充実により精神医療改革に取り組む必要を感じております。二者択一ではなく、両方のことをやらなければならないと考えておるところでございます。
 問題点を申し上げます。現状であります。
 措置入院制度だけでは対応には限界があると我々は考えております。
 毎年、司法から措置入院制度で医療側は約八百人の患者さんを受けております。民間精神科病院で、新法の対象者である六罪に限りましても、措置指定病院である四百四十一会員病院、これは我々の会員病院でございますが、十三年九月一日現在で千九十三人が入院しております。
 現行制度には多くの問題があります。年々不備が目立ちます。医療の対応だけではもはや限界で、新たな手を打たなければ池田小学校のような事件が発生することは避けられない現状にあると認識しております。
 理由を申し上げます。
 措置入院は、精神障害者自傷他害のおそれを基準として一律に適用される治療形態、行政処分であります。重大な違法行為を行った事実や他害の危険性が高度であることを基準にする特別な治療方式、治療環境、特別な入院費用も定められておりません。
 二番目。触法患者が不起訴となり、措置入院として現在受け入れておりますが、近年、措置入院制度は医療の視点で運営され、措置入院期間も極めて短くなっております。その結果、昭和六十年の措置率は九・〇%、三万人でございましたが、平成十二年ではその十分の一の一%、三千二百四十七人と減少しております。このように、かつての運用と著しく変わっております。
 三番目。しかし、一方において、現在、入退院の判断が事実上医師に任せられておりまして、病院管理者、精神保健指定医は過剰な責任を負わされていると言わなければなりません。また、これらの方の入院中の行動について、全例ではございませんが、暴力行為、威嚇的言動等医療管理上問題も少なくありません。一般の精神科病院の看護体制では、これを受けとめることは困難であります。
 次に、四番目。一般の入院者と触法患者が同じ病棟で治療を受けている現状でございます。これは早急に改善し、機能分化し、国公立に触法の専門病棟をつくるべきであります。
 五番目。現在の触法患者の対応は、司法から医療に丸投げされ、以後すべて責任を医療側で負っております。一切司法のかかわりのない現状であり、我々はかねてから医療と司法が相互補完する制度を要望したところであります。これが新法では大幅に解決されることを期待しております。
 新法について述べます。
 措置入院制度の問題を解決する幾つかの新しい制度が取り入れられております。
 一つは、裁判官と精神保健審判員という合議体で処遇を決定するということ、新しい制度であります。二番目、専門的治療施設をつくる。三番目、措置入院の管理者は裁判所に原則六カ月ごとの審査の申請を行う、そこでもう一度レビューするというところでございます。それから、退院後の問題でございますが、指定通院医療機関に通院し、かつ保護観察所の精神保健観察官から三年の観察を行うことになっております。私は、これからの事件を防ぐには、やはり医療中断を防止し、緊急入院必要時の手続等が具体的に極めて重要であると考えております。
 以上の項目につきまして、実務的な、円滑な運営をするためには、具体的な検討がなおこれから必要であろうと思っています。
 三番目に、再び対象行為を行うおそれについて述べたいと思います。
 法三十七条一項において、医師に依頼される鑑定事項として、その対象者が精神障害者であるか否か、二番目に、対象者が治療を受けなければ、どのような病状が持続し、人の生命、身体に危険を生じさせる問題行動を起こすかという可能性についてであります。これについては、専門家としての意見を求められているわけでございますが、その場合、特定の具体的な犯罪行為の厳格な種別、その時期について求められておるものではないと解釈しております。
 多くの精神科医は、症例によりますが、病状に関しては何らかのこれらの同等な対象行為の起こる予測は可能であると考えています。同様な予測は長年措置入院において行ってきましたし、なお、今回は病歴その他の資料を参考にできるので、精度が一層高まると思います。措置入院の予測と今回のものは、本質的には同一のものであろうと私は考えております。
 六カ月ごとの審査制度がそれに設けられ、裁判官と精神保健審判員の意見が一致したところで判定されるということになり、一方的に傾かない措置が図られているところは評価されると思います。
 四番目。国民の目から見てこの法はどうであろうか。
 国民は一般に、精神障害者は罪を犯しても罰せられない、だから危険な人々であると考え、精神障害者を避け、危険視する傾向にあります。これが心の病を持つ人々すべてに対する偏見につながります。新法により、犯罪を犯した者に対する国の対応が示され、専門の施設で治療を受け、退院後も観察される。このことにより国民の不安が解消され、同時に犯罪に関係ない大部分の精神障害者への見方も変わり、広く精神障害者が社会に受け入れられる素地が高まることを期待できます。
 このように、新法への期待でございますが、処遇が大幅に改善され、社会復帰が促進され、措置入院制度の問題点が改善されることは間違いないところであります。
 新法の制定によりまして、先進国から三十年おくれていると言われる我が国の司法精神医学が急速に進歩すると考えますが、進歩をした司法精神医学の知見、新法の運用の実態を踏まえて、よりよい制度にするための見直しも必要ではないかと思います。
 以上でございます。(拍手)

【伊藤参考人招致

第154回衆議院 法務委員会厚生労働委員会連合審査会会議録第2号(同)
○園田委員長 ありがとうございました。
 次に、伊藤参考人にお願いいたします。
○伊藤参考人 私は、一精神科医として精神病院の現場で精神障害を持つ人々の治療に携わった経験から、今回の法案について反対の立場から意見を述べさせていただきます。
 私のこの法案に対する基本的な考え方については、資料四に示しましたように、全国自治体病院協議会常務理事を務めている時点で既に公表しておりますので、後ほどごらんいただければ幸いです。
 この法案には大きく分けて三つの問題があります。一つは、今なぜこの法案だけが優先して提出されなければならないのかという疑問です。もう一つは、この法案が成立しても、そのねらいである精神障害者による重大な事件の防止にはそれほど役に立たないということ、対象者の医療や社会復帰はむしろ後退するだろうということです。それから、最後のもう一つの問題は、これまで各方面から指摘されている簡易精神鑑定の問題、責任能力判断の問題、医療と司法の弾力的な連携、留置所や刑務所の医療の問題、これらの問題に対して解決の道筋が示されていないということです。
 以下、順次説明させていただきます。
 現在、国に最も解決が迫られている優先課題は、他害行為を行った患者も含めて、どんな重症な精神病患者さんにも十分な医療を提供できる体制を整備することです。
 我が国の精神保健施策は、長い間その姿がゆがめられております。収容という政策が長い間とられたからです。精神障害者の自立と社会参加の機会を奪ってきたと言えます。現在、三十三万人が精神病院に入院し、欧米諸国の二倍から六倍の方が入院しております。入院期間も非常に長くなっています。精神病院と一般の病院には、資料一に示したように、医師や看護婦で非常に大きい格差があります。そして、精神病院の個室に隔離されていたり、あるいは拘束されたりしている方が合わせて一万人以上おります。
 この法案が提出される過程で、過去に重大な他害行為を起こした患者さんが精神病院の隔離室の中に終日閉じ込められ、数年後にそこで亡くなった、特別な病棟をつくって専門的な治療を行えばこのような悲惨な例が救えるという主張がありました。しかし、過去に他害行為を起こしていない患者さんも適正な医療を受けられず、長期間隔離室から出られないまま保護室で亡くなることもあります。資料二は新聞等で明らかにされた精神科医療機関で起こった不祥事です。詳細な調査を行って、実態を明らかにする必要があります。もっと多数の患者さんがつらい状況の中で不慮の死を遂げている可能性もあるのです。
 それから、重大な他害行為を行った患者を一般の精神病院が受け入れることが非常に重荷になっている、あるいは、措置解除の判断が精神保健指定医に任されていて、解除後に事故があっても責任が負えないという意見があります。それは、現在の精神科の医療体制が十分整っていないためなのです。条件さえ整えば、重症な患者さんの治療に取り組むことができ、治療の途中で投げ出すようなことはしないはずです。
 現在、千葉の精神科医療センターでは、全病室が個室でできている病棟を持っており、千葉県の措置患者の相当数、少なくても四分の一以上の措置患者さんを受け入れています。このような病院が各地にできることによって、他害行為を行った患者さんだけを受け入れる特別な病棟をつくるということは要らなくなるはずです。
 六月七日の法務委員会で古田刑事局長さんは、確定的とは言えないが、精神障害者による事件は長期的には減少する傾向にあるという趣旨の答弁をいたしました。それならば、重大な事件を起こした患者さんの処遇にだけ焦点を置いた法律をなぜ今拙速につくる必要があるのかという問題があります。今、国が優先して取り組むべきことは、精神科医療の構造改革を行い、重症な患者さんもきちっと治療できる体制を組むことです。
 次に、二つ目の問題点ですけれども、仮にこの法案が成立しても、対象者の医療が円滑に行われ、社会復帰が進むとは思われないのです。また、この法案ができても、重大な事件の発生をほとんど減らすことができないのではないかということです。
 これまで集められたデータによりますと、精神障害による重大な他害事件の七〇から八〇%は初犯の方です。再犯の予防を目的とするこの法案では、重大事件全体を減らす効果は極めて限定されます。その上、再犯のおそれのある人を確実に選び出すことは不可能です。再犯防止効果を確実に上げるためには、おそれの判定基準を大幅に緩め、大きな網をかけなければなりません。多くの人が拘束される可能性があります。
 また、治療と社会復帰が順調に進むとは考えられません。入院命令あるいは通院命令のもとでは、医師と患者の関係の間に、常に再犯のおそれがあるかどうかという視点が入り込みます。効果的な信頼関係がそこではなかなか生まれないはずです。
 政府の答弁によりますと、指定入院医療機関では、対象者に対して認知療法、行動療法などを通して感情のコントロールや行動修正をするという技法を採用し、社会復帰を図るとのことです。しかし、それらの技法は心神喪失と判定された重度の精神病患者さんには効果がないと言われています。一方、人格障害には使用条件によっては効果があると言われていますが、人格障害の多くは通常責任能力があるとされるので、この法案の対象にならないはずです。
 さらに、この法案の欠点は、対象者の治療を特定の閉鎖回路の中に完結させようとしています。私たちは殺人を犯した措置入院患者さんの治療にも携わってきましたが、その場合でも、急性症状が軽快した段階でできるだけ早く措置を解除し、開放病棟に移ってもらうようにしてきました。被害妄想や幻聴が残っていて、時にはほかの患者さんとトラブルを起こすこともないわけではありませんが、それでもできるだけ自由な環境の中で信頼関係を築き、退院後も看護師や精神保健福祉士が支援し続けるようにしています。
 結婚して地域の人々や病院に支えられ生活している人もいます。たとえ重大な他害行為を行った患者さんでも、症状の移り変わりや本人の希望に合わせて治療環境を弾力的に変えていくということが最も社会復帰につながることです。
 この法律案では、処遇が終了したと判定されるまでは治療者も患者さんも再犯のおそれという枠組みから逃れることができず、本当に必要な治療条件を整えることができないのです。措置入院よりも長い期間指定入院医療機関にとどめ置かれることになります。このようなことで、治療上から見ても、本当に重大な事件を犯した方の治療が円滑に進むということは、この法律案では考えられないと思います。
 それから、もう一つ大事なことは、この法案によって精神障害に対する差別や偏見が助長されて、精神障害を持つ方の肩身がさらに狭くなるんではないかということを恐れます。
 この法案の三つ目の問題ですが、簡易鑑定、責任能力判断、医療と司法の弾力的な連携、留置所や刑務所の医療などにかかわるいろいろな問題の解決がこの法案では触れられていないということです。私たちは、資料三に示しましたけれども、重大な他害行為を行った患者さんの治療のあり方を考えるに際しては十分な調査をしていただきたいということを精神科医の団体全体として出しました。実証的なデータに基づいて検討していただきたいと思います。
 最後になりますけれども、一昨日、私は北海道の精神障害者の方たちが主催するシンポジウムに参加しました。約三百名の精神障害の方が集まっておりましたけれども、口々に自分たちの精神病院の入院体験のつらさを訴えておりました。国の収容政策が多くの人々の心を傷つけてきたのです。国はまず、これまでの精神保健施策の誤りを認めて謝罪して、先進諸国が持っているような差別禁止法を制定すべきです。その上で、重大な事件を起こした患者さんも含めて、すべての精神障害者に適正な医療とリハビリテーションを保障する精神保健・医療・福祉計画を立てなければなりません。それが今私たちに求められている最優先課題だと思います。
 以上です。(拍手)
○園田委員長 ありがとうございました。
 以上で参考人の御意見の開陳は終わりました。

【長勢委員質疑】

第154回衆議院 法務委員会厚生労働委員会連合審査会会議録第2号(同)
○園田委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。長勢甚遠君。
○長勢委員 大変専門的なお話を聞かせていただきまして、ありがとうございました。極めて専門的なお話でありましたけれども、こんなにも意見が違うことに戸惑いを正直言って覚えております。
 世の中には、理論というか方程式は合っておるけれども答えが違っておるということはよく起こる事象でございますけれども、この問題は相当長い間議論になってきておって、特に十一年の改正の際には、「重大な犯罪を犯した精神障害者の処遇の在り方については、幅広い観点から検討を早急に進めること。」ということが当委員会、あるいは参議院でも、附帯決議もされておるわけです。こういうことが長年社会的に議論を迫られておったというのは、我が国において、心神喪失などによって不起訴あるいは無罪となった方々については、刑罰を受けることなく措置入院制度等によって処遇されている、この現状について、先ほど来参考人の方々からもお話がございましたが、医師に過剰な負担が負わされておるとか、あるいはこうした対象者と一般の精神障害者が一緒に処遇されておるための治療上の問題点だとか、また、重大な犯罪行為を行った方々についての処遇が明らかでないために、国民の間に何らかの、すっきりしないといいますか、そういう印象があるというか不安があるといったようなことが根拠になってこういう議論がなされてきたんだと思います。
 こういう中で今回この法案が出ておるわけでございますが、特に中島参考人あるいは伊藤参考人は、精神医療体制の強化というか改善ということを強調されておられるように伺いましたけれども、特に重大な精神障害をお持ちの方々について、今回の法律でも専門的な治療体系を統一的にやろうということも入っておることなどもありまして、今回の法案の問題点はよく御主張されておることは理解をした上でのお話でございますが、それでは具体的に、今の附帯決議等にもあったような問題点について、どうやったらどうなるのかということを少し教えてもらいたいな、また、司法と医療との関係についてどういうことがいいのかということを少し教えていただきたいと思います。
○中島参考人 意見が違っているというのは全く御指摘のとおりでして、私は個人的には、例えば山上先生とは精神神経学会の法委員会等の場で議論を闘わせる機会を持ちましたし、私の、最後の方に参考文献を挙げましたけれども、「触法精神障害者の問題をいかに捉えるか」というこの論文において、山上先生のきょう御発言になった論点に関しては、すべてもう既に論理的に批判をしております。その論拠はすべて現行の制度の問題ではなくて運用の問題であるということを明らかにしております。
 そして、山上先生が挙げられた事例Aは、精神神経学会の法委員会として、これは検察庁の方の運用の問題であるということで、検察庁に対して抗議といいますか、少し運用に関して改めてもらいたいということを申し入れた事例でもあります。それは、山上先生が法委員会の委員長であったときになされたものであるというふうに記憶しております。ですから、これをもって制度の問題というふうに考えられるのは、私は誤りだというふうに考えております。
 そして、具体的な問題点ということに関しては、本当にいろいろな問題点があります。まず、いわゆる触法精神障害者の大多数は実は刑務所に入っているという問題があります。年間八百から千ぐらいはいわゆるM級、精神障害者として刑務所に入っております。
 刑務所の中での、例えば刑務所から出ていくときに、出た方の再犯という問題に関して、刑務所からのケアはほとんどなされていません。皆さん御記憶に新しいところもあるとは思いますが、例えば、覚せい剤によるフラッシュバックで、刑務所から出てすぐ、もう数日以内に再犯をするというような方々は多数おられます。そういう方々に対する刑務所のきちんとした医療的なケア、刑務所から出所するときにきちんと、例えば病院を紹介するであるとか投薬を行っていくとか、そういったことなんかが一つ行われていく必要があります。数の上でいうと、そういった問題が非常に大きな問題としてあります。
 そして、これは時間もありませんので繰り返しませんが、いわゆる精神科医療における底上げの問題。精神科医療、もう少し人的な問題を非常に大きくしていけばもっとはるかに、対応できることはもっともっとふえてくるというふうに思います。
 それから、司法と医療との関係についても簡単に触れますけれども、私どもは、基本的には、まず医療は迅速に、そして司法手続は慎重にというのが原則であるというふうに思っています。逮捕して、まず刑事手続に乗ります。その中で精神症状が出る方がおられます。そういう方たちの治療をまず優先してやったらいいと思います。例えば外科の治療なんかはそうですね。例えば、殺人を行った人が、その人もけがをしているような場合があります。そういうときには、外科の治療がまず優先されます。それで、外科の治療が終わった段階でまた逮捕されて、それで刑事手続に乗っていくというようなことがあります。
 精神科医療も同じです。急性期症状は迅速な治療を要します。まず治療して、その後ゆっくりと、刑事手続は慎重に行う必要があります、事実認定の問題がありますから。それをしっかり行っていく。今は、医療の方に押しつけられて、それっきり司法の方には戻せない。これは制度上そうなっているのではなくて、運用上そうなっているんですね。そこを改めていくということが必要だろうというふうに考えております。
○伊藤参考人 この問題に関して、現在多くの問題があるということは認識しております。何らかの新しい対応が必要だろうというふうに思っております。その条件というのは三つ考えられます。
 一つは、司法と医療の間で判定をきちっとするということです。それは、現在、簡易鑑定とか起訴便宜主義で、検察官の判断で病院に送るかあるいは起訴するかというようなことが考えられているんですけれども、その場合に、簡易鑑定が非常にあいまいな形といいましょうか、ばらつきがあって、きちっと鑑定が行われていないということなんです。これは医療の問題です。医師の判定の問題です。それのためには、やはりきちっと鑑定センターというのを私はつくるべきだと思います。
 鑑定のところまでは司法の領域だと思いますけれども、そこはよろしいんですが、もしそこで医療が必要か司法の処遇が必要かという切り分けがきちっとなされた場合には、医療が必要な方は医療で、司法が必要な方は司法できちっとやる。中間的な施設は必要ないと思っています。それで、医療刑務所の医療をきちっと行う。それから、重症である病気のために犯罪に至った方は医療が責任を負うべきだ。その切り分けをきちっとすべきだと思っております。
 それから、もう一つの大きな問題は、司法施設の中に入っているときに精神病の症状が重くなったときに、執行停止をして医療機関に専門的な治療を受けるために送るようなことは、現在も運用上できるわけですけれども、ほとんどなされていない。そこに大きな問題があると思っております。
 それから、どんな重症な患者さんでも、本当に精神病が重くて医療的な配慮が専ら必要である場合には、今の措置入院制度をもう少しきちっと整備して、重装備できちっとできる医療体制を組めば、新たな処遇システムをつくらなくてもできるんじゃないか、そういうふうに考えております。
○長勢委員 どうもありがとうございました。
 簡易鑑定等の問題点は、我々、党内で議論したときも問題になりましたが、その問題だけとおっしゃったわけではございませんが、そういう運用だけで国民全般が思っておるこの問題の解決になるのかなという疑問は私自身は持ちますが、ちょっと時間がございませんので次の質問に移らせていただきます。
 論点の一つは、おそれの問題が大変対立したお考えのように聞こえました。
 山上先生にお伺いをいたしたいと思いますが、中島先生、伊藤先生からは、こういうことをやるということを予測をするということ自体、大変間違いが多くて、大変危険なことであるという御趣旨だったと思いますが、山上先生とはそこら辺が大分違うような気がいたしました。そういう御意見についての御見解を改めてお伺いしたいのと、先生のお説の中に、司法精神医療が日本ではおくれておるということをおっしゃっておられました。司法精神医療ということは、我々は余りよく概念がつかめないのですが、一般精神医療というものとどういうふうに違って、これからどういうふうにしていけばいいのか、また、この法律によってそれがどうなっていくのかということについて教えていただきたいと思います。
○山上参考人 司法精神医療というのは、先ほど紹介いたしましたけれども、事件を起こして、刑罰よりも医療に適しているという人たちがいるわけで、それを欧米諸国では一般の患者とは区別して、一般患者はできる限り短期間の入院で、地域で支える。イギリスですと一般の精神病床が全国で二万五千床ぐらいしかないわけですが、地域で見るけれども、事件を繰り返すような人は、きちんとしたもっと長期の、より根深い問題を持っているものですから、精神療法を中心とした、あるいはそういう問題行動を起こしやすいところとか、そういう特徴に注目した、そして本人が小さいころから学んでこなかった人間関係や生活の基本的なことまで教育、治療していくような経過の中で社会復帰させていく、問題行動を起こし続けた人をそうさせていくような治療システムを構築しているわけです。
 イギリスですと大体全精神医療ベッドのうちの一割ぐらいがその人たちによって占められて、そこに専門的な司法精神医療の医師、看護者、ソーシャルワーカーなどが活躍していて、日本でしたら、とても医療の対象にならない、あるいは医療刑務所に行ってしまうような人たちも、そこで治療して立ち直って社会復帰していっているという状況がございます。
 それから、今、おそれの評価の問題も質問の中にあったかと思いますけれども、先ほど少し詳しくお話しいたしました。言いかえればこれは危険性の評価の問題なわけでありますけれども、これは、精神科医療が決して避けられない、日常の診療の中で、本人が自分の責任をとり切れない状況で事故を起こす危険性がありますので、それは常にチェックしなければならないことで、それで開放病棟に入れるか閉鎖病棟に入れるか、時には一時的に保護室に入れるかとか、常に精神科医はそういう危険性の評価をしながら活動しているわけですし、退院の決定もそうです。そういうことで、日常的にされていることですし、特に司法精神医療の領域では、そういう安全の問題もありますから、特にそれは常にチェックをされることなので、司法精神医療の領域ではそういう危険性の評価というのはむしろ日常的に当然されることになっております。ですから、日本でそれを取り入れることに何の問題もないと思います。
 また、実際に、その危険性がどうなるかということに関しては、日本でも既に矯正の領域で、例えば無期囚が社会復帰、仮出所するときにその危険性をチェックして、こういう条件が改善されていればとか、そういう治療の目安にもなって、チェックしながら退院を目指すということで使われています。精神障害の場合には、それに少し違った、医療にかかわる問題を加味したチェックの必要が出てくると思いますけれども、それはどこの国でもされていることであります。
○長勢委員 仙波先生にもおいでいただきまして、現場での御苦労の具体的な話も聞かせていただければと思ったんですが、時間になってしまいましたので、ひとつお許しをいただきたいと思います。ありがとうございました。