心神喪失者等医療観察法の条文・審議(その30)

前回(id:kokekokko:20060122)のつづき。
ひきつづき、法務委員会と厚生労働委員会による連合審査会の第3号です
【五島委員質問】

第155回衆議院 法務委員会厚生労働委員会連合審査会会議録第3号(同)
○坂井委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。
 質疑を続行いたします。五島正規君。
○五島委員 民主党の五島でございます。
 午前中に引き続きまして、この法案について質疑を行いたいと思います。
 午前中、森山大臣もおっしゃっていたわけですが、我が国において、犯罪行為を犯した人に対する法的制裁でございますが、これは罪刑法定主義、行為主義、責任主義、この三つが原則になっている、これが我が国の刑法の基本であるというふうに理解しております。すなわち、言いかえれば、将来犯罪を犯すかもしれないということを理由として刑罰を処すことはできない、これは原則だろうと思います。まして、その人が危険な人物かどうかというふうなことを想定して処分することができないことは言うまでもありません。
 そういう意味において、心神喪失状態にあり重大な他害行為を犯した精神障害者に対してのみ、将来の犯罪行為を予想して行政処分あるいは何らかの処分を課すということは、いかなる理由において可能なのか、その点をまずお伺いしたいと思います。
○森山国務大臣 この制度による処遇は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対して、継続的で適切な医療を行うこと等によりまして、その社会復帰を促進するために行われるものでございまして、犯罪を行った者に対する制裁を本質とする刑罰とは全く性質が異なるものでございます。
 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者は、精神障害を有しているというハンディキャップに加えまして、人の命、体、財産等に被害を及ぼす重大な他害行為を行ったというハンディキャップをも背負っているということが言えます。また、このような者が有する精神障害は、重大な行為と結果を引き起こす原因となるものでございますから、一般的に手厚い専門的な医療の必要性が高いものであると考えられますし、仮にそのような精神障害が改善されないまま、再びそのために同様の行為が行われるようなこととなりますと、そのような事実は本人の社会復帰の重大な障害となるのでございまして、やはりこのような医療を確保することが必要不可欠でございます。
 そこで、このような者につきましては、国の責任において手厚い専門的な医療を統一的に行い、また、退院後の継続的な医療を確保するための仕組みなどを整備することにより、本人の円滑な社会復帰を促進することが特に必要であると考えられますことから、今回新たな処遇制度を創設することといたしたものでございます。
○五島委員 この法案自身がなぜ法務委員会に付託されたか、そのこと自身が私には理解できません。今の森山大臣のお話は、司法の問題を超えて、我が国において精神医療の問題、精神障害者の社会復帰の問題について不十分だから、法務委員会の方であるいは司法の方で手をかしてやるという、要らぬおせっかいでおっしゃっているにすぎない、そのように思います。そもそも、現状の中において、司法の分野において、精神障害者として犯した犯罪、あるいは、とみなされた犯罪行為、そのことにおいて不十分な点は何なのか。まさに簡易鑑定であり、警察官通報であり、それが必ずしも適切に処理されてこなかった、そこのところが法務委員会の最大の反省しなければいけない問題ではないでしょうか。
 現実問題として、今回のこの法案の大きな話題になった池田事件の問題につきましても、過去において数回、いわゆる精神障害者であるところの、心神耗弱状態にあるという形で刑が免除されたりしています。すなわち、人格障害によるそういう犯罪行為を司法の方においてよくきちっと整理しなかった、この反省に基づいたこの法の改正というのは、何らここには出ていないじゃないですか。
 司法、特に法務当局が反省しなければいけないのはその点であって、そして、精神障害者の医療あるいは社会復帰について、私は、大臣として森山大臣が現状を批判なさることは当然だと思いますし、大事な問題だと思います。しかし、それはそれとして、厚生労働政策の中においてきちっと筋道をつけていく、それが正しいあるべき姿だというふうに考えますが、法務大臣、どうお考えですか。
○森山国務大臣 この法案を御提案申し上げた趣旨は先ほど申し上げたとおりでございますが、確かに今までの法務行政、あるいは精神障害を持ちながら重大な他害行為を行った人に対する扱いが全く問題がなかったわけではない、私もそのように認識いたしております。
 ですから、特に精神障害を持つ方に対する処遇として、医療の面でさらにレベルの高い治療をしていただくということが必要であり、特に精神医療全体について、いろいろ問題があるようでございますので、それらの問題も含めて、その質の向上ということを考えていただかなければならないという考え方から、厚生労働省にも御協力をいただいて、医療の面で特に力を入れていただきたいというふうに思っているところでございます。
○五島委員 厚生労働大臣にかわっておしゃべりになる必要はないわけでして、現在の法務当局が現状において反省しなければいけない点をこの法律の中にどういうふうにきちっと書いているか、そこのところが全く書けていないということについて、これではだめじゃないかと。
 また、ちなみに申し上げておきますが、精神障害者が他害行為を行うということは精神医学的なことではありません。そういうふうな行為というのはあくまでも症状による二次的な結果です。精神障害を持っている人が他害行為を行うというふうなことにはなりません。あくまで症状による二次的な結果であることは言うまでもありません。二次的な結果としての行動は、症状以外に多くの外部条件によって左右されるものであり、また恒久的なものではありません。その意味では、精神の障害を来していない人であっても、外部条件によっては自傷事件や他害行為を起こし得るわけでございます。それにもかかわらず、あたかも精神障害者に特有な症状が他害行為であるかのように他害行為、他害行為とおっしゃっている。私は、これはとんでもない話だろうというように思っています。
 事実、既に数十年前から、医師の適切な指導と家族の協力があれば、自傷事件や他害事件の相当な部分は防ぐことができている、また短期間にその症状を消失させることが可能であります。例えば、近所の人に被害妄想がある、妄想幻覚があるというような場合でも、その人に妄言や暴行のおそれがあることを話し、その対策を具体的に家族に指示しておいたためにその危険を未然に防いでいくということは、日常の精神科医療の中において行われていることです。
 そういう意味において、この自傷、今回の場合は重大な他害行為というまだわけのわからない症状の二次結果というものの第三者に与える被害の大きさによって区別するわけですが、そういう重大な他害行為を行ったかどうか、そのことは症状の結果であり、いかにそういう症状を未然に防ぐかということが本来、基本でなければならないというふうに思います。
 ところが、この間の話を聞いていますと、いろいろな表現を使いながら、依然として、精神障害者は危険な存在、精神障害者は社会にとって邪魔なもの、そういうふうな疾病差別、人権無視、そういうものがどうもこの社会にもこの国会にも底流として根強く残っているというふうに思わざるを得ません。
 医療の立場においては、患者の症状の改善と治療、そして病状のコントロールによる症状の悪化の防止、そしてさらに言えば、その予防活動においてのみそうした安全というものが期待できるのではないかというふうに考えているわけでございますが、厚生労働大臣、他害行為をたまたま起こしてしまったその患者さんに対する治療処分をすることによって、そのことによって本当にそういう社会の安全というものは確保できるのかどうか、また、そのような手段が精神医学的に正しい手段とお考えかどうか、お伺いします。
○坂口国務大臣 先生が今御指摘になりました総論的なお話は、私もそのとおりと思って聞かせていただいているわけでございます。しかし、重大な他害行為を犯した人たちにとりましては、一般の精神医療に加えて、やはり治療をしなければならない分野があるのではないかというふうに思っております。
 午前中にも申しましたとおり、そういう皆さん方に対しましては、みずからコントロールすることを促す、あるいはまたみずからの行為についての認識を高める、そうした治療というものが必要であるというふうに思っておりまして、そうした皆さん方と一般的な精神治療を受ける皆さん方の問題を区別して、一般の精神病の皆さん方についてはどうでもいいことと思っているわけでは決してない、この皆さん方の治療も高めていかなければならないということは、きょう午前中にも申し上げたところでございます。そして、そこを高めていくためには、委員も御指摘のように、あらゆる角度から改善を加えていかなければならない。例えば、診療報酬なら診療報酬体系の中におきましてもそうした問題は改善を加えていかなければならない。人の配置の問題につきましても改善を加えていかなければならない。そうしたこともあわせて、これはトータルで前進をさせるということがなければならないというふうに思っている次第でございます。
○五島委員 今厚生労働大臣が、総論ではお認めになる、しかし各論のところではとおっしゃるわけですが、総論をお認めになった現状が、現実の精神医療の社会と比べてみると余りにも格差が大きい、これが現状ではないでしょうか。私も、重大な他害行為を行った人、その人の社会復帰というのは大変なんだというのはよく理解します。多くの場合は、その対象者が家族である場合もございます。症状が消失することによって自分の犯した症状の結果に対して大変な罪悪感を感じ、そのことによって社会復帰がおくれたり、あるいは、またまた症状が悪化したりするケースがあるということもよく聞かされるところです。
 そういう意味においては非常に慎重な治療行為が必要ですが、少なくても、それは総体としての治療体制の整備であって、急性期の病症という問題に限った問題ではありません。また、そもそもそういうふうな他害行為が起こることは予防できるかどうかといえば、今回のお出しになった法案、とりわけ、修正者の方がお出しになったPSWを中心とした方々による精神保健観察官というふうな制度、これがなぜこういう人たちにだけ必要なのかと思うわけですが、こういうふうな在宅における精神治療というものがスムーズに受けられるシステムを厚生省として採用していただければ、かなりの部分でこれは予防できることはおわかりいただけると思います。そういう部分が全く未整備の結果、結果として世間全般に、精神病患者は恐ろしい人、悪い人、そういうイメージが定着し、そして、今回の池田事件のようなことが起こった途端に、総理ともあろう人が精神病患者とそうでない人との区別もできないというような発言につながったのではないでしょうか。
 この点を考えますと、当然のことですが、こうした精神障害の患者さんに対して、司法が関与できない、すなわち責任能力がないと判断した段階で純粋医療の分野の中において手厚い介護がされるべきであって、そのことは、施設に閉じ込めるということによって決して解決できる問題ではありません。すなわち、精神病の患者さんを極力、一日も早く社会に復帰させ、社会の中で治療できる体制、完全治癒を求めるのではなくて、社会の中で治療できる体制を整備しない限りは、結果において、いかに言葉を飾ろうとも、そうした患者さんが不定期の拘束刑に処せられたのも同じようなものになる、そういう自由の束縛、拘束になってしまうことは明らかだろうと思います。
 今入院医療において期待できるのは、重大な他害行為を行うに至った心神喪失の状態、これを入院治療で改善することはできます。しかし、こうした患者さんの社会復帰の問題までを考えた場合は、この入院という手段において解決できるものではありません。その点につきまして、厚生労働大臣と、それから今回修正案をお出しになった塩崎議員の御意見をお伺いしたいと思います。
○坂口国務大臣 他害行為を行った人に対しましてどういう治療をするかということは先ほども申し上げたところでございますが、その人たちをいつまでもそこに入れておくというのではなくて、それは社会復帰をさせるためにどうするかという立場からやるわけでございますから、その人たちが間もなく地域やあるいは家庭に帰りましたときにその人たちを受け入れる、そういう施設というもの、あるいはまた家庭の環境といったようなものを整えなければならないわけでございますから、その入院の期間と、そして家庭に帰った、地域に帰ったときの問題と双方同時進行でやっていかなければならないというのは、もう御指摘のとおりでございます。
 それはPSWとか特定の皆さん方にも活躍をしていただかなければなりませんけれども、そういう人たちだけではなくて、やはり地域の保健婦さんでありますとか、あるいはまたその保健婦さんがおります保健所でありますとか、多くの皆さん方が御協力をいただいてこれはできることだというふうに思っております。そういう体制を整えていかなければならない。
 ここが不十分であるということを率直に私も認めているわけでありまして、こうした全体のかさ上げをしながら、その中で、しかしその全体のかさ上げをすればそれで一〇〇%できるかといえばそうではなくて、やはり他害行為を行ったような皆さん方に対して特別にしなければならない治療というものも存在するのではないか、こういうことを申し上げているわけでございます。
○塩崎委員 今五島議員の方からお話がございましたとおり、入院治療だけで事足りるというようなことは決してないわけであって、大事なことは、退院をした後の医療が継続をされること、そしてまた社会で受け入れる体制があること、この二つがなければいけないであろうと思いますし、また、社会が受け入れるということは、やはり差別意識をなくすということも大事であって、私は、この政府案に対する質問を私自身がしたときにも、文部科学省を呼んで、小学校の段階からでもこの差別をなくす教育をやるべきじゃないか、こういうことを申し上げたわけであります。
 今回の法律では、社会復帰調整官が中心となって、コーディネート役で地域での受け入れを進めるようにということで、いわゆる保健所などもいろいろ連携しながらやるということになっておりますけれども、今、その体系が全く不十分だというのがそもそもの認識であります。
 今回私たちも、きのうちょっと答弁で申し上げましたけれども、この医療の、特に高度な医療を行う今回の法律だけで終わってしまうんでは、二段ロケットの二段目に点火しないんでは、何のためにやったんだということになってしまうということで、やはりこの第二段目に確実に点火をするということが大事であります。
 今回の法律とそれから現状の措置入院制度で、一つあえてこちらの方が一番進んだかなと言えるのは、今回、PSWを中心としたそういった知見を持った人が治療を続けられるような体制をつくっていくということは、今の措置入院ではお医者さんが退院をさせてもその後帰ってこないということで悩んでいらっしゃるのを見て、ここは一つ進歩ではないのかなというふうに思っております。
○五島委員 今、坂口大臣とそれから修正案提出の塩崎議員のお話を聞きまして、思いのところにおいて一致する部分はかなりあるかと思いますが、そういう思いを具体的にあらわしたのが実は民主党の提案している法案ではないかと思っています。その点、今そこに我が党のエースである水島議員がこの法案の提出者の立場でお座りなんですが、法案の内容については結構ですが、今私がお伺いした点についてどうお考えか。
○水島議員 まさに五島委員のおっしゃるとおりでございまして、私たちがこの法案を考えるときに基本的な考え方として持っておりましたのは、やはり精神障害を持った方たちを社会的にもまた医療的にも地域で孤立させないということがあらゆる問題の解決につながっていくのだというふうに考えまして、この民主党案を提案させていただいたわけでございます。
 法案として提出しておりますのは民主党案でございますけれども、あわせて精神保健福祉十カ年戦略という政策文書を発表させていただいておりまして、このことによって、本当に差別や偏見なく、安心して、また働く権利も保障されながら、精神障害者の方たちが地域で暮らしていける仕組みを提案しておりますので、そのような趣旨でございます。
○五島委員 今、塩崎議員もそれから大臣の方も、必ずしも施設の中における治療だけではなくて、こうした患者さんの社会復帰の困難性、そこもきちっとサポートすることが大事だというお話でございます。
 事実、修正案の中には、再犯の将来予測に対する入院ではなくて、「社会復帰」という表現に変わっています。表現の上では確かに非常にマイルドでいいわけですが、現実を考えると、実はこのマイルドさというのが必ずしもどうなんだろうという不安を持たざるを得ません。
 というのは、二つございます。
 一つは、現状においても七万人を超す精神病患者が社会的入院として精神病院の中に入院しています。なぜこのような多数の社会的入院患者が存在しているのか。それは、かかって社会復帰が困難であるという状況にあるからではなかろうか。また、各国を見ましても、こうした重大な他害行為を起こした人の入院期間というのは、社会復帰に非常に時間がかかるというのが通例でございます。その理由は、先ほど私が申したような点も一つの理由になっています。
 そのことを考えますと、結果として、精神障害者が症状の結果二次的に起こしたそういう行為というものをいかに未然に防止していくかという体制に重点を置かない限りは、結局、刑法の世界からは何としても了解できない、しかし社会的防衛として何か要るのじゃないかという形で、限りなく保安処分の発想に入っていかざるを得ない問題をここは持っているというふうに思うわけです。それはやはり、一にかかって、現在の精神医療の貧困さ、そして、そうした障害者の社会復帰の制度の不整備、これは医療だけの問題ではありません、さまざまな社会保障体制全体の問題、社会の仕組み全体の問題、教育の問題、おっしゃるとおりあります、そういう全体の問題ではないか。そこのところをどうするのか。
 簡単に社会復帰と言われるけれども、現在七万人を超すこの社会的入院患者、なぜ社会的入院をしているとお考えなのか、厚生省にお聞きしたいと思います。これは、医療機関が強引に退院させないのか、それとも社会に復帰するにも復帰する手段がないからそうなっているのか、その点についてお伺いします。
○上田政府参考人 ただいま議員お尋ねの社会的入院に至る背景の問題でございますが、患者さん個人個人によってさまざまな状況があるというふうに考えております。
 一般的に、退院して地域で生活を行う際に、住まいの確保の問題ですとか、あるいは家事等の日常生活の遂行において困難がある場合ですとか、あるいは通院や服薬を中断し症状悪化を来すおそれがあることですとか家族等の協力が得られないこと、こういうような退院後の生活を営む上での不安や困難が指摘されているところでございます。
 また、もう一方では、諸外国に比べて精神病床数が多い、あるいはこれまで入院中心であった問題、あるいは入院中に、患者本人に対するリハビリテーションですとか早期退院に向けた家族等への働きかけ、また相談指導等、こういうことが十分に行われていない、いわば医療機関における問題点もあるわけでございます。
 また、退院後の地域での受け皿、社会復帰施設等々、こういった受け皿が不十分であったこと、こういう問題もあるわけでございまして、私どもといたしましては、やはりこういった課題について積極的に取り組んでいく必要があるというふうに考えているところでございます。
○五島委員 厚生労働省自身が現状をよく理解しておられるじゃないですか。それを解決しない限りだめなんですよ。それをどう解決するかということを先行させていかない限り、こういうふうな精神障害者がその症状の結果不幸な事件を起こすということを繰り返すわけですね。そこをどうするかという問題を置いておいて、今回この法律によって重大な他害行為を起こした人については濃厚な治療を施して社会復帰させるとおっしゃっている。本当にそういう重大な他害行為を起こした者だけが社会復帰が可能なんですか。厚生省はどうお考えなんですか。これができれば可能なんですか、その人たちは。
○坂口国務大臣 一般の精神病の皆さん方を地域においてどう治療するか、あるいは地域においてどう受け入れるかということが不備だという御指摘は、率直に言ってそのとおりというふうに思っているわけでございます。ここを改善していくということが大事でございますが、一方において、新しい施設をつくって、そしてそこからお帰りになる人も、同様にこれは現在の段階では無理でございます。これは今後ここを一般の病棟の皆さん方も含めて改善をしていかないといけない。
 一つは、これは住まいあるいは施設の問題だというふうに思います。もう一つは、人の問題だというふうに思います。人の問題といいますのは、それに携わる、手を差し伸べていただく専門的立場の人たちだというふうに思います。そういう養成も一緒に進行させなければならない。あわせまして、やはり社会全体の考え方というものも差別的な考え方を持つようなことがあってはならないわけでありまして、そうした面も改善をしていかなければならないということでございますが、いずれにいたしましても、これはやはり政府が動くということをまずやらないといけないんだろうというふうに思っております。
 そういう意味で、厚生省の中にも対策本部をつくりまして、各局がそこで協力をしてどうやっていくかということを考える、そして他の省庁の皆さん方にもできればお入りをいただいて、そして早急に前進させるためにはどういう手順でどういう方法でいくかということをやらないといけない。あらゆることがこれに絡んでくるわけでございますから、一つの機会がなければなかなかこういうことはできないわけでございまして、今回のこの法案が出ましたこの機会に、その機会をとらえて全体に前進をさせるということをやりたいというふうに決意をいたしております。
○五島委員 大臣自身が今重大な御発言をなされたわけです。やはり全体の体制ができない限り、この法案ができても無理だろうと。まさに認識しているではないですか。そうだとすれば、民主党が言っているように、この精神科医療の現状のありよう、それを変えていくことに対して、もちろん政府が率先してやる必要があるんですが、そこのところをやっていくということにおいて解決するしかない。
 司法の側からいえば、第三者に対して重大な他害行為を起こした人は責任が追及できないからといって刑罰を科すことはできない、ひょっとしたら残念なのかもしれません。しかし、これは我が国の法定主義の中においてそういう制度になっている、建前になっているんです。いつまでもそんなことにこだわってもらっては困る。その問題については、やはり医療なり社会福祉なり、そういう分野のところにおいて、これをいかに社会復帰させていくか、治療していくか、あるいはそれを未然に防止していくか、そこのところにお任せいただくしかない内容だろうと思っています。
 また、先日のこの質疑の中でも、大臣もお認めになられましたが、新たにつくられる病棟は他害行為を行った患者のための専用病棟であるかのように言われたわけですが、それ以外にもベッドがあいておれば急性期の精神病患者の入院治療も可能であるかのようなお話になっていました。恐らくそうだろうと思います。患者さんそのものの中に、重大な他害行為を症状の結果起こしたか、それとも起こさずに、未然に心神耗弱状態を回避するために入院してきたか、病状の上において差があるわけではありません。そうだとすれば、当然、そうした精神科の急性期の治療病床の整備が必要なことは言うまでもありません。
 今の精神科医療というのは、余りにも人的にもお粗末。結局収容するだけの機能しか持っていない精神科病院も数多く見られる。そういう状況の中からいえば、我々は、そういう急性期の医療病床を精神科医療の一環として整備することについては何ら反対していない。むしろ必要だと考えている。これが、何も他害行為を行ったかどうかということに限らずに、医学的に必要な人に対してはやっていけばいい。決して、重大な他害行為を行った人の数がこうだからこれだけでベッドが足りるというふうに考える必要もない。必要な病床の整備、そして一日も早くそういう急性期の病症から離脱させていく、その上で在宅において継続した治療ができる、その体制を整備すべきことは言うまでもありません。
 また、そのことに必要ないわゆる社会復帰のための体制、これはこれまで全然やられてこなかったことなんです。先ほどの大臣のお話ですが、この議論は、大臣、もう三十年以上続いている話なんですね。にもかかわらず、厚労省はいまだにこの問題にほとんど解決の方法をとっていない、とれていない。なぜこんなに精神科医療については改善に時間がかかるんでしょうか。
 そのことを含めて大臣の御意見をお伺いしたいと思います。
○坂口国務大臣 過去にさかのぼっていろいろ考えれば、それはそのときそのときのさまざまな要因もあったんだろうというふうに思いますが、しかし、他の医療が進んできたのと比較をいたしますと、この精神科の領域というのはおくれてきた。
 一つは、人の配備という問題につきましても非常におくれてきている。先生も医学の御出身ですからよくおわかりいただいているというふうに思いますが、なかなか精神科医になる人が少ない、これも事実でございます。一つのクラスからお一人、多くてもお二人というぐらいな程度でありまして、なられる方が少ない。しかし、一方におきまして、精神科の領域で治療を受けられる皆さん方の数というのはかなりふえてきていることも事実でございますし、最近とみにここが増加をしてきている。
 そうした環境の中で一つはおくれてきたということもあり得るというふうに思いますが、やはりそれだけではなくて、精神科領域の治療につきましては、先進的な諸国におきましては新しい治療方法というものがかなり進んできている。日本の国の中におきましても、一部分ではありますけれども部分部分ではそうした新しい医療というのも行われているんだというふうに思いますが、大変残念でございますけれども、それが全体的に広がりをまだ見せていない、そういう状況に現在あるわけでございます。
 そうした医療の側の問題もあるというふうに思いますが、そのほかに、やはり地域として、精神病で入院をなすっている皆さん方をどのように受け入れるようにするかといったような考え方が少なかったことも事実でございます。あわせて、行政の方もそうした面における積極性に欠けていた。そうしたことの複合的な原因の結果によって現状があるというふうに私は認識をいたしております。
○五島委員 おくれてきた理由についておっしゃったわけですが、ここに「歪められた日本の公衆衛生」という冊子があります。これは一九七二年に公衆衛生学会の若手研究者がつくった冊子でした。その時代、保安処分の問題で公衛学会も揺れ動いていました。そして、そのときにさんざん議論した話というのは、今の大臣のお話しになった内容も私が言っている内容も含めてほとんど議論されてきた。だけれども、三十年間たっても何ら変わっていないんです。
 やはりここは、保安処分といいますか医療処分でもって精神障害者の問題を考えていく、あるいは措置入院でもって社会から障害者を隔離していく、そういう発想ときっぱりと縁を切った障害者対策というものに厚生省自身が踏み切らないとまた三十年同じ状態が続くわけですよ。三十年前というのは、今私が大変尊敬している水島先生はまだ子供ですよ。それだけ長い間、ほかの医学はどれだけ変わったかということを考えた場合に、いかに精神医療の世界がその後変わっていないか。人材が少なかったというお話もございます。しかし、きのう来ておられた南さんを含めて、ちょうどあの世代の看護婦になられた方々、優秀な看護婦さんや保健婦さんは一斉に精神科医療に走って、これこそやはり日本の大事な問題だとして大変な形でそこへ走って、その中で学者になったりいろいろな形で経験してこられています。そのエネルギーも現実の社会の中にはほとんど実を結ばせていない。
 このことを考えた場合に、私はこのような法案というものは本来撤回していただきたいと思うんですが、議会の問題ですからそれは与党としては難しいでしょう。しかし、少なくても、民主党が出しています、医療を変えていくこの大綱的な法案、十分に御審議いただいて、これをやはり採用していただきたい。そうでない限り、大臣、こんな法案のために、結局、たまたま症状の二次的な結果として他害行為を行った、そのことだけにとらわれてその人たちを医療処分にし、そして最も困難な、すなわちその人たちを社会復帰させるために大変なエネルギーを割く。そのエネルギーを現在の精神衛生全般が抱えている問題の改善に割いていけば未然に防げる、そのことを考えた場合に、ぜひ我が党案を真剣に検討していただきたいと思います。
 いずれにいたしましても、障害者、特に精神障害の方々に対する人権無視に対する対応、先ほど法務大臣は、たしか金田君の質問に対してお答えになっておりました、人を拘束する以上法務がかかわるのは当たり前だと。私もそれはそうだと思います。そうであれば、この何十年間、精神科病院の中における人権無視、枚挙にいとまはありませんよ。それに対して人権擁護委員会なり法務省はどういうふうにこたえたんですか。そこのところをきちっとお考えいただかないと、一体法務大臣はどういう立場でもってこの問題にかかわろうとしておられるのか、厚生労働大臣はどういう形で対応しようとしているのか。さらに言えば、心神耗弱状態でない状態の犯罪人をあたかも心神耗弱、病気の症状の結果であることと取り違えて多くの措置をしてこられた、そういう法務の責任はどうなるのか。その点はこの法案では何ら明らかになっていないと思います。
 最後に、この点について再度、法務大臣厚生労働大臣、そして修正案の提出者、民主党の対案提出者、お一人ずつに御意見をお伺いして、私の質問を終わりたいと思います。
○森山国務大臣 この法案の提案をさせていただきました趣旨は、最初に御説明申し上げたとおりであり、またきょうの先生の御質問に対しましても冒頭で申し上げたとおりでございます。要するに、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対して継続的な適切な医療を行うということによってその社会復帰を促進するということが目標でございまして、精神障害の適切な治療というところは厚生労働大臣の主たる御責任でございますが、大臣も大変新たな決意を持って精神医療の内容の向上、充実を図るということを繰り返しお話ししていただいているわけでございますので、その成果を待ちたいと思いますし、また、私どもの方は、その方が治療を受けていよいよ社会復帰をしようというときに、社会復帰をなさるのに必要な、社会復帰の調整をする調整官というものを用意いたしまして、その方が環境を整え、そしてきちんと社会復帰ができるような条件を整備するという仕事をやりたいというふうに考えております。
 そのようなことで、私どもの方、法務省といたしましては、精神障害のために重大な他害行為をされたというような非常に大きなハンディキャップをお持ちの方の順調な社会復帰ということをいろいろな面でお手伝いをしたい、そういうことでこの法律は提案しているわけでございますので、そこのところを御理解いただきたいと思うところでございます。
○坂口国務大臣 何度かもう同じことを申し上げさせていただきましたので、特別につけ加えることはございませんけれども、我々の持ち場のところでいかにして現状を改革し前進させるかということがとりもなおさず現在問われている。そのことがこの法律とも大きなかかわりを持ってくるというふうに理解をいたしておりまして、言葉を多く申し上げますよりも、いかにしてここを実現していくかというそのプランニング、前進のためのスケジュールといったものを早く明らかにしていきたいというふうに考えております。
○塩崎委員 平成十一年に精神保健福祉法の改正がございまして、そのとき、これは衆参ともにでもございますけれども附帯決議がありました。そこに、「重大な犯罪を犯した精神障害者の処遇の在り方については、幅広い観点から検討を早急に進めること。」こういうふうになっているわけであります。
 今回、私たち、この法案を考えるに当たって、自民党の中でも、与党の中でもいろいろな意見が出ました。そもそも、措置入院制度と一般精神医療がうまく機能してさえいればこのような問題は起きないわけであります。
 では、どういうものをこれから新たに加えなきゃいけないんだろうかといろいろ考えた末に、そもそも司法が絡むべきかどうかというのは精神障害者の家族の皆さんや御本人たちからも提起のあったことでもあり、それから、今の措置のように都道府県が関与することだけでいいのか、あるいは司法が関与するのか、あるいは全国のネットが要るのか、厚生省なのか、法務省なのか。さまざま悩んだ結果、今回、このような形で一歩何しろ前進をして、そしてこの間、昨日ですか、木村副大臣が、現在の措置入院制度と、それから今回の観察制度とを有機的一体化する努力を今後していくんだということを答弁していたと思いますが、私たちとしては、当然これに先行して高度な医療を施すということを実現するというこの制度をつくりたいと思います。
 最終的には、先ほど申し上げたような、原点に立ち返って、一本化した中で、精神科の医療と、そしてまたこういった問題を起こした場合の処遇のあり方、そして何よりも大事なのは、社会復帰の体制づくりというものをどうつくっていくのか、そういう思いで今回この法律を出させていただいた、そしてまた修正をさせていただいたということでございます。
○水島議員 民主党といたしましては、先ほど御答弁申し上げましたように、精神医療の全般的な底上げはもちろんのこと、司法の役割ということで考えますと、司法と精神医療の連携の強化、これを今回の法案の中で提出しておりますのは、鑑定センターを設置して鑑定を適正に行っていくということを提案しておりますけれども、そのほかにも、司法と精神医療が関係する問題はたくさんございます。
 例えば、矯正施設における精神医療のあり方もそうでございますし、先ほど五島委員が御指摘なさったような、今現在、医療の現場で精神医療を受けているけれども人権が侵害されているようなケース、これについてはやはり精神医療審査会がもっときちんと実のあるものになる必要があると思っておりますので、いろいろな観点から、この司法と精神医療の連携というものを強化していけるように、さらに提言を続けてまいりたいと思っております。
○五島委員 それぞれの御答弁を聞いておりまして、何となく質疑がむなしいという感じがします。問題点は両大臣ともおわかりになっておりながら、そこに対して切り込むのでなくて、そして従来、三十年以上も前からあったそういう精神障害者に対する差別意識、これは病状の二次的な結果なんだ、症状の二次的な結果なんだ、それをどのように防ぐかというのは、未然の段階における医療の体制によってしか防げないよということ、おわかりいただけていると思うんですが、依然としてその結果にこだわって、結果的に将来の予測に対するそういう一定の医療処分的制度をつくろうとしておられる。我々としては、そういうふうなことに対しては到底同意できないということを申し上げまして、私の質問を終わります。