心神喪失者等医療観察法の条文・審議(その31)

前回(id:kokekokko:20060123)のつづき。
ひきつづき、法務委員会と厚生労働委員会による連合審査会の第3号です。
【平岡委員質問】

第155回衆議院 法務委員会厚生労働委員会連合審査会会議録第3号(同)
○坂井委員長 次に、平岡秀夫君。
○平岡委員 民主党平岡秀夫でございます。
 きょうの審議ですけれども、昨日の参考人質疑に引き続いての審議ということでございますので、参考人の方々からいろいろお話を伺ったことも踏まえて、きょうは御質問させていただきたいと思います。
 今回の新法は、皆さん方政府あるいは修正案提案者の方々のお話を総合すると、心神喪失等の状態で重大な他害行為をした者の社会復帰を図っていく法律なんだというふうに言っておられます。確かに法律にもそういう文言が出てまいります。出てまいりますけれども、私はこの法律の実体は全く違うというふうに思っています。
 仮に修正案の提案者が修正した中身であったとしても、それは全く違う。私は、名づけてこれは赤ずきんちゃんのオオカミ法案というふうに呼びたいというふうに思っています。幾ら赤ずきんちゃんに登場してくるオオカミがおばあちゃんになろうと思ってお化粧をしたり仮面をかぶってみても、法案の実体は全くオオカミである。こういう法案になっているということを後で質問の中で皆さん方とともに立証していきたいというふうに思っています。
 仮に、皆さん方が言われているように、これが社会復帰を促進していくための法案であるということであったとしましょう。ただ、この法案については、多くの人たちが、新たな差別を生み、そしてむしろ社会復帰を困難にしていくというふうに評価をしています。
 昨日参考人として来られましたPSW協会の大塚さんも、この法案は目に見えない壁をさらに高く積み重ねていくような、そんな法案になっているような不安がするというふうに言っておられました。もう一方、日本看護協会の南会長さん、この方は、今精神保健福祉施策の方向性というのは、入院施設中心から在宅、地域で当たり前に暮らすことができる社会へ、こうした方向での精神保健福祉政策でなければいけないというふうに言っておられました。
 我々はいろいろな勉強会でも勉強いたしましたし、きのうの参考人質疑でも私質問させていただきましたけれども、例えばイタリアのトリエステなどでは、バザーリア法が制定されまして、地域の協力体制を構築しての開放医療ということが進められております。こうした精神医療の方向あるいは司法精神医療の方向というのが世界的な方向であるとも、そのイタリアの医師の方々から伺いました。
 そこで、まず最初に質問でございますけれども、今精神医療あるいは司法精神医療の進むべき方向性というのは、地域の協力体制を構築していく開放医療の方向にあるのではないかというふうに思っていますけれども、この法案はその方向に逆行するものではないでしょうか。
 法務大臣厚生大臣にお伺いいたします。
○森山国務大臣 私は精神医療の専門家ではございませんので詳細なことはよくわかりませんが、しかしいろいろな新聞の記事とか雑誌などを読みまして、おっしゃるような説が大変に有力になっているということも知識としては存じておるつもりでございます。
 しかし、そのような医療を行うという考え方が大変望ましいということが支配的であることはわかっておりますけれども、例えば、イタリアにおきましても、入院による医療はすべて放棄されたというわけではないようでございまして、その必要が認められる限り、入院による医療も行われているものと聞いております。
 この法律案によります制度は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者は、精神障害を有しているというハンディキャップに加えて、人の命、体、財産等に被害を及ぼすという重大な他害行為を行ったというハンディキャップをもあわせて持っている者でございますから、国の責任において手厚い専門的な医療を統一的に行うこと等によりまして、その円滑な社会復帰を促進することが特に必要であるというふうに考えられますので、そのために必要があると認める場合には、医療関係者を手厚く配置して、かつ設備の整った指定入院医療機関に入院させることによりまして、手厚い専門的な医療を行うことにしているものでございまして、これが現在の精神医療の方向に逆行するということはないと思います。
○木村副大臣 先生御指摘の点でございますけれども、欧米諸国の多くでは、司法精神医療を必要とする患者さんに対しまして、早くから専門的な医療を行う体制や専門の病院を整備いたしまして、適切な入院が行われているわけでございます。
 本法案は、司法精神医療の考え方を踏まえまして、こうした患者さんに対しましても、手厚い専門的な医療を行うことにより、早期の社会復帰を図ることを目的としたものと思うわけでございまして、あわせて、与党の修正案の附則にも明記されておられますように、一般精神医療の福祉の底上げを図ることにより、先生が今おっしゃっておられます入院中心から地域中心へ、地域での措置へという方向を目指しているところでございます。
○平岡委員 今言われた入院中心から地域中心へというような法案にどこがなっているかというと、全然そんなところないような気がしますけれども、そこはちょっと議論はさておいて。
 この法律は、今回、入院をさせるという要件をちょっと修正で変えたわけでありますけれども、この修正案の意図はどこにあるのかというのはもう何回もここで議論されていますから、その答弁を前提にして進めていきたいと思いますので特に質問はいたしませんけれども、この新しい判断要件、入院のためのあるいは医療のための判断要件という言葉、ちょっと見ますと、「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため」この法律による医療を受けさせてと、こういうふうになっているわけでありますね。
 そうしますと、この法律による医療というのがやはり一つの大きな判断要件のファクターになっていると思うのですけれども、この法律による医療と一般の精神医療との違いというのはどこにあるのですか。
○塩崎委員 今御質問の点につきましては、何度も申し上げておりますけれども、もともとこの法律の最大の目的は精神障害を治して社会復帰してもらう、したがって、そのための重厚なる医療ということであります。当然のことながら、精神科特例の話がこの間来、随分出ておりますが、この配置基準にしても手厚くすることが確実に必要でありましょうし、また、医療設備あるいは施設、病棟、それから技術面、スタッフ面、そういうものにおいて圧倒的に今までの医療よりもいいものをつくっていかないといけないということではないかと思いますし、また、今回は特に、これを全額公費で見るということで、一般の医療とはまた違うということではないかと思います。
 それから、何度かいろいろな議論がありましたけれども、司法精神医学というものが今までの日本というのは非常におくれていたということもあって、この辺についても、しっかりとした研究に基づいた医療というものを目指していくということで、今まだ随分おくれているわけでありますから、努力に努力を重ねていかなければならないというふうに思います。
○平岡委員 ちょっと参考までにお伺いしますけれども、今回、修正案で「再び対象行為を行うおそれ」というのを取ったわけでありますけれども、先ほど読み上げたような新しい要件になっているわけであります。ということは、これは、今まで原案にあった再犯のおそれあるいは「再び対象行為を行うおそれ」ということの判断ができないということを前提としてこのような条文になったのか、ここを確認したいと思います。
○塩崎委員 政府案において、本制度による処遇を行うか否かの判断要件というのは、先ほどの「再び対象行為を行うおそれ」の有無とされておったわけでありますけれども、これについては、広く再犯のおそれの予測の可否として、いろいろと批判を受けてきたところでございます。
 この点につきましては、特定の具体的な犯罪行為とか、あるいはそれが行われる特定の時期の予測とか、そういうものは不可能と考えられ、また、漠然とした危険性のようなものを感じられるにすぎないような場合に、「再び対象行為を行うおそれ」に当たるとすることはできないと考えられるわけであります。
 そういう限りにおいて、そのようなおそれの予測ができないという批判も我々としてもよく理解できるところでありまして、政府案の要件では、この点に関して、不可能な予測を強いたり、漠然とした危険性のようなものが含まれかねないという問題があったということで、今回の修正案によって、このような表現による要件を改めたということでございます。
○平岡委員 今の答弁は、端的に言えば、再犯のおそれの判断ができないというふうに修正案提案者としては判断してこういう提案をしたというふうに私には聞こえましたので、それを前提に話を進めていきたいと思います。
 ただ、新しいこの要件は、せんだっての木島委員の質問の中でも、要件になっていないじゃないか、将来のことばかり言っていて、現在、今判断しようとすることについて全く判断基準を示していないんじゃないかというふうに指摘がありました。私もまさにそのとおりだと思うのですね。
 先ほど読み上げました新しい修正案に基づくこの判断基準、判断要件というのは、具体的にはどういうことを言っているんですか。どういう具体的な基準というものがあるんですか。
○塩崎委員 繰り返しになりますけれども、この要件を新たにした理由は、先ほど申し上げておりますけれども、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者は、その精神障害のためにこのような行為を行った者でありますから、本人の社会復帰を促進するためには、まずもってこの精神障害を改善することが重要である。そして、そのような精神障害の改善のために医療が必要と認められる場合に本制度による処遇を行うのが適当だ、こういうことでございます。
 したがって、例えば、審判の時点で既に対象行為を行った際の精神障害がなくなっちゃっている、寛解しており、さらに医療の必要性が認められないような場合にはこの要件には該当しない。したがって、入院、通院の決定は行われないということになるわけであります。
 それから、修正案において、これに加えて、精神障害の改善に伴って同様の行為を行うことなく社会に復帰することを促進するため、この法律による医療を受けさせる必要があると認められる場合をも要件としたわけでありますが、この理由は、本制度が、本人の同意がなくとも入院等をさせるというものでありますから、医療の必要性が認められる者のすべてを本制度の対象とすることはまずいわけであって、これを限定することが適当であるところ、仮に、対象行為を行った際の精神障害のために同様の行為が行われることになれば、本人の社会復帰の重大な障害になってしまうという観点から、このような事態が生ずることがないように配慮をする必要があると認められる者に対象を限定するということが適当だろうと言っているわけであります。
 したがって、例えば、精神障害の程度が比較的軽くて、また、身近に十分な看護能力を有する人が、あるいは家族がおって、継続的な通院が十分期待できるような場合には、この要件には該当しないで、入院も通院も決定は行われないということになるわけでございます。
○平岡委員 今最後に言われたことはどこに書いてあるんですか。そんなことはどこにも書いてないですよね。
 今、精神障害がなければ、あるいは治っていればこの要件には該当しないというふうなことがありました。じゃ、精神障害がある場合、どんな症状を現在示していたらこれに該当するんですか。どういう精神障害の状態であるならばこの要件に該当して、入院して治療を受けさせなければならないということになるんですか。
○塩崎委員 それは四十二条の条文がすべてを語っているわけであって、この修正をいたしました「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、入院をさせてこの法律による医療を受けさせる必要があると認める場合」ということで今申し上げたような判断をしているわけでございます。
○平岡委員 全く答えになっていないじゃないですか。どういう精神障害の症状を示していればこの要件に該当するんですかと聞いているんですよ。今言われたのは、入院をさせる場合の目的、こういう目的で入院をさせる必要があるというその目的を言っているだけであって、こういう場合には入院させなきゃいけないんだという判断基準は全く示されていないんですよ。
 精神病でなければ、精神障害がなければ入院をさせなくていいというふうにさっき言われました。精神障害があることが必要であるということも認められました。では、どういう症状をその精神障害の人が示していたらこれは入院が認められるんですか、入院が決定できるんですか。
○塩崎委員 それはまさに今回の要件であって、今回のこの法律の医療が必要だと思われる場合に必要だということを言っているわけでございます。
○平岡委員 入院が必要だから入院させます、それじゃ全然基準を示していないですよ。みんな怒りますよ、そんな基準。どんな症状がある精神病患者がこの入院を決定するための要件に該当すると、これをちゃんと示してください。
○塩崎委員 この法律に定めて、社会復帰をするために、今申し上げた四十二条の、同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するために、この法律に定めた医療を受けてもらうために入院をさせるということでありますから、この条文で私たちは今の解釈をしているということでございます。
○平岡委員 これは何回繰り返しても仕方ないので、ちゃんと政府として、私が質問している、精神障害があることが要件だというふうに言われたんですから、ではその精神障害がどういう症状を示しているか、どういう状態であるならばこの法律の要件を満たすのかということについての政府としての統一見解というのを示してください。
 今やっても多分だめでしょうから、これは後からまた出してもらった上で質問させていただくということにさせていただきたいと思います。
 委員長、よろしいでしょうか。
○坂井委員長 また後で協議をしてください。
○平岡委員 では、その点の質問は留保させていただいて、ちょっとこれに関連してまた質問していきたいと思いますけれども、この新しい修正案に基づく入院決定の要件については、せんだって水島広子議員の質問の中で、塩崎委員の方からこういう答弁がありました。治療可能性のない者については処遇要件、医療入院要件に該当しないということで、入院ないしは通院のこの法律のもとでの決定は行われることはない、だから入院可能性だけではいけないんだということは言っておられました。
 逆に聞きたいんですけれども、精神障害が仮にあっても、一般の精神医療で治療可能な場合には、この法律による医療によらず、一般の精神医療で対処するということでいいんでしょうね。
○塩崎委員 基本的にそういう一般の精神医療による処遇が行われるということで結構だと思います。
○平岡委員 さっき五島委員の質問の中で、これは対象者が多分年間四百人ぐらいいて、そのうち措置入院が六十四から六十六ぐらいあるでしょう、この法律による対象となる入院患者というのは、これと全く同じじゃないけれども、これよりは少し少なくなるでしょうというようなことを言われました。
 さっき言った措置入院している方、既にこういう方々もおられるわけですよね。だから、この人たちは基本的にはこの法律の対象にならないというふうに今の塩崎さんの答弁では考えていいということになりますよね。それでいいですね。
○塩崎委員 あくまでもこの法律に基づく手厚い医療が必要かどうかということで判断をするわけでありますから、必ずしも今おっしゃったようなことにはならないとは思います。
○平岡委員 いや、それでさっきこの法律による医療と一般の精神医療、どこが違うんですかというふうに聞いたんですよね。
 いろいろ言われました。配置基準を手厚くする、施設をよくする、技術、スタッフ面をよくする。これは別にこの法律によらなくたって、一般の精神医療の世界だってその必要性は求められているんですから、一般の医療の世界の中でちゃんとやるべきなんですよ。それをやらないで、この法律だけちょっとかさ上げして、この法律による医療でなければこの人たちは社会復帰できないんだ、これはおかしいじゃないですか。そんなことはちょっと一般の人たちには理解できないですよ。どうですか。
○塩崎委員 何度か申し上げておりますけれども、さまざまな症状があり得るわけであって、審判をする際にその精神障害の状況を見て、そして判断をするということでありますから、いろいろなケースがあって、先ほど来お話し申し上げているように、最終的に対象行為を行った際の精神障害がもう既になくなっているというような場合にはやはり一般医療でということも十分ありますし、それから措置でいくということもあるわけでありますから、さまざまなケースがあるというふうに考えます。
 大事なことは、この新しい法律に基づく手厚い医療によって社会復帰が促進されるようになるかということが大事で、特に精神障害を改善をした上でそうなるということが大事だということだと思います。
○平岡委員 今の答弁、後でよく自分で読み直していただきたいと思うんですけれども、精神障害がなくなっている人は、これは措置入院だって別に入院なんかさせられないんですよね。そのなくなっている人は、さっきのこの新しい要件でもこの法律の対象にならない。法律の対象にならない人を出してきて答弁されたんでは、答弁は先に進まないですよね。この法律の対象になる人、そして精神保健福祉法の世界の中でも措置入院の対象になる人、この人たちを比べてみて物事を今議論しているんですからね。
 午前中の金田委員の質問の中にも、年間四百人ほどおられる中でどういうふうに振り分けられるんでしょうかという質問がありました。私もそれに加えて、四百人の方々の中で措置入院と今回の法案の対象になる人たちがどのように振り分けられることになるのか、これもあわせて政府からちゃんと説明をしていただきたい。きょうそれができるかどうかというのはわかりませんから、この質問はきょうの午前中の金田議員の質問を聞いていてちょっと新たに思いついたわけでございますので、その点を含めて、金田議員の質問に答えるのと同じときに私の方にも答えていただきたいというふうに思います。
 それで、とりあえず次の質問に移ります。
 先ほど社会復帰を目的とする法律であるというふうに言われました。精神保健福祉法の第一条を読んでいただければわかるように、精神病障害にかかった方々の社会復帰ということをうたっています。そうであるならば、一般の精神病院に入院している人たち、特に問題とされているのは社会的入院をしている人たちが問題になっていますけれども、この人たちの社会復帰についてはやはり促進していかなきゃいけない。そのためにどうしていくのか。皆さん方が、これだけの医療が必要だ、この法律に基づく医療というのが社会復帰のために必要だというなら、それと同等のレベルの医療をこの人たちにも提供するということができていなければおかしいじゃないかと思うんですね。皆さんがやろうとしていることと実際に生じてしまうことが、全く違うことが世の中で生じてしまう。
 どうでしょうか。一般の精神医療に入院している方々、社会的入院になっている方々も含めて、社会的復帰についての措置をこの法律が施行されると同時に、もしこれが成立するならですよ、やらなければいけないと私は思うんですけれども、その点についてはどうお考えでしょうか。
○坂口国務大臣 御指摘のように、一般の精神病院に入院をされている皆さん方の社会復帰というものも、これはあわせてやっていかなければならないというふうに思っております。
 ここをおくらすということは全体におくれることになりますから、社会復帰に対しますさまざまな要件がございます。地域におきましてオーケーをしなきゃならない問題もございましょうし、家庭において受けられるときにどうするかといった問題もあると思います。
 そうした問題に対しまして、地域において、お帰りになった皆さん方の御相談に乗れる体制、そしてその人たちが居住する場所、あるいはまた福祉施設等々も含めて居住する場所、その問題が大事だというふうに思います。そして、そうした居住するだけではなくて、もし仮にまた病気が、必要になったときには再度それが急に受けられるような体制というものも必要でございますから、それらのことをあわせた地域における体制を必要とするというふうに思います。
 そのための人の配置、人の必要性、やはりそうしたこともあわせて、これはぜひ緊急に進めたいというふうに思っております。
○平岡委員 今、私、質問の中で、ちょっと逆説的に質問したものですから、仮にこの法律が通ったらとかと言っちゃったので、訂正します。
 この法律は通るべきではないということをまず言いたかったわけでありまして、まず、一般的な精神医療の世界でちゃんとした手当てができない限りは、そういうことができていない段階でこんなものを持ち出すのはおかしいということを言いたかったんです。
 その同じような脈絡で、もう一つ、行刑施設内における精神医療の問題についても質問したいと思います。
 昨日も、富田参考人が、今、刑務所の中における医療というものの拡充とか質的転換が焦眉の課題であるというふうに言っておられました。私たちも、八王子の医療刑務所にも見学に行きまして、確かに、医療刑務所の中で行われている精神医療というのはかなり寂しいものがあるなというふうに感じました。
 やはり、この行刑施設の中にいる人たちの中でも精神病になっている方々がいるわけですね。例えば、ある人は、ある犯罪行為をしたときには決して心神喪失じゃなかったけれども、やはり精神病を患っておられて、判決を受けた。それで有罪になった、刑務所へ入った。だけれども、症状が悪化して、心神喪失と同様のような状態での精神障害に陥ってしまったという人もいるわけですね。そういう人たちも一応有罪は出るわけですね、後の刑の執行をどうするかという問題はありますけれども。医療刑務所の中には、そういう治療を受けている方々がおられる。こういう人たちも含めて、社会復帰をどうしていくかということを考えていかなきゃいけないわけですね。
 だから、さっきから言っているのは、今回、皆さん方がこの法律の対象としようとしている不起訴になったような人たち、それから実際には別の犯罪ででも実刑になった人たち、そして犯罪とは全く関係ないけれども精神病を患っていて非常に社会的復帰が難しい人たち、こういう人たちがいろいろなところにばらばらばらっとおられるわけですね。そういうときに、ここだけを取り出して、ここは社会復帰だと言ったって、だれが信用しますか。
 まず、行刑施設内における精神医療の問題について法務省としてどう取り組むか、こういうこともちゃんと示せない限りはこんな法律は信じられませんよ。先ほどは、皆さんが社会的復帰と法律に書いたらいかにも社会的復帰ができるような、言葉でごまかしているような気がします。既にあるところについてきっちりとした対応を政府が示してこそ、政府として信用してもらえるんじゃないですか。
 行刑施設内における精神医療の問題について、この法律が予定しているのと同等の医療というものがなぜ実現できないのか、実現すべきではないかという点について、御質問したいと思います。
○森山国務大臣 この法律案は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対して、その病状を改善し、社会復帰を促進することを目的としたものであることは、たびたび申し上げたとおりでございます。
 こういう者の社会復帰を図りますためには、重大な他害行為の原因となった精神障害を改善することが不可欠でございまして、そのために特に手厚い専門的医療が必要と考えられるわけでございます。
 これに対しまして、刑務所は、受刑者の健康を回復させ、心身ともに健全な状態で社会復帰を図ることを目的としておりまして、御指摘のような社会復帰を図るという点ではこの法案と共通するものがございますが、あくまで刑の執行機関という枠組みの中でございます。
 もとより、刑務所におきましても、その医療体制を整えまして、近隣の医療機関等の御協力を得ながら、できる限りその充実に努めることが重要でございます。そのために、矯正の医療体制に対するさまざまな御意見を考慮いたしながら、専門的知識や技術を有する医療機関の職員につき、海外への派遣や学会への参加等によって、その能力の研さんを図り、最新の知見を取り入れさせるなど、これまでにも増して精神科医療の質の向上に鋭意努めてまいりたいと考えております。
 また、関係する諸機関のさらなる御協力を得るなどいたしまして、その体制を強化して、矯正施設における精神科医療のなお一層の充実に努めなければならないと思っております。
○平岡委員 全く私の問題提起に対して直接的に答えていただけなくて、刑務所なんだからこれでいいんじゃないのというような答弁だったと思います。
 先ほど私、ちょっと冒頭申し上げました。この法案は赤ずきんちゃんのオオカミ法案である。今まさに、大臣の答弁の中にそのきっかけがあったと思います。
 例えば、七十六条にこんなくだりがあります。ちょっと質問が飛んでいますけれども、裁判所は、この対象者について、当該対象行為以外の行為について有罪の裁判が確定し、刑の執行が開始された場合には、この法律による医療を終了する旨の決定をすることができると書いてあるんですね。これはどういうことですか。
 皆さん、この法律で今対象者になっているような人たちに対しての社会復帰を図ろうと言っているのに、この人が別の事件で刑の執行を受けることになったら、もうその医療なんかは中止してしまって刑務所に入れちゃえばいいと。刑務所へ行ったら、先ほど大臣が言われたように、刑務所は、社会復帰はちょっとぐらいは考えていますけれども、刑の執行ですからそれ以上のことは考えていませんと。それじゃ、この法律は一体何を目指しているんですか。本当に社会復帰を目指していると言えるんですか。こんな赤ずきんちゃんのオオカミ法案はおかしいと思いますよ。
 大臣、これは通告しているところですから、なぜ七十六条にしてこんなことができるのか、御答弁願います。
○森山国務大臣 裁判所により入院または通院の決定を受けた者は、本制度による医療を受けるべき法的義務を負い、また、厚生労働大臣や指定医療機関も、これらの者に対して本制度による医療を行うべき法的義務を負うわけでございますが、当該対象行為以外の犯罪行為について有罪の実刑判決が確定した者につきましては、一定の期間刑務所に収容されて刑に服することとなりますので、当該対象者や指定医療機関の法的義務を免除することができることとするのが適当であると考えられますので、第七十六条第一項は、このような場合に裁判所がこの法律による医療を終了する旨の決定をできるということにしたものでございます。
○平岡委員 それは、書いてあることをただ単に解説しただけであって、私が聞いている、なぜこんなことができるんですかということには直接答えていないと思うんですね。
 次に、この質問に関連して言いますと、じゃ、これが終了したら次はどうするんですか。この人は、本来であれば、この法律に基づいたら、社会復帰をするために手厚い医療を受けなければならないというふうに裁判所が判断した人ですよ。その人に何をどうするんですか。その裁判所の決定を無視して、刑務所の寂しい医療、これをさせるんですか。どうですか。
○森山国務大臣 この法律による医療を終了する旨の決定をした後は、当該対象者について医療が必要な場合には、刑務所において医療が行われるわけでございます。
 刑務所における医療は監獄法等に基づいて行われておりまして、精神医療といたしましては、例えば、医療刑務所等に収容してカウンセリングなどの精神療法、作業療法または薬物療法等の専門的な治療が行われるほか、一般の刑務所等において薬物療法等の必要な治療が行われているわけでございます。
 この法律による医療を終了する旨の決定を受けた者が刑務所等に入所した場合、これまで受けていた医療に関する情報を入手し治療の参考にすることによりまして、引き続き刑務所等における精神科医療が適切に行われますように、今後ともその体制の整備を行ってまいりたいと考えております。
 なお、刑務所におきます精神科医療につきましては、刑の執行機関という枠組みの中でその医療体制を整え、近隣の医療機関等の協力を得ながら、できる限りその充実に努めることが重要であると考えております。そのため、矯正の医療体制に対する種々の御意見を考慮しながら、専門的知識や技術を有する医療関係職員につき、いろいろな研修の場を設け、あるいは知見を広げる機会を与えまして、これまでにも増してその質の向上に努力をしていきたいというふうに考えております。
 御指摘のさまざまな御意見を十分に考えまして、できるだけその質の向上に努めていかなければいけないと考えております。
○平岡委員 七十六条の対象になった人たちに対して、刑務所の医療施設の中でどういう医療が提供されるのか、これをちゃんと示していただきたいと思います。
 これもちょっと具体的には質問通告していませんから、すぐに答えられれば答えていただければいいんですけれども、すなわち、手厚い医療をしなければならないというふうに判断された人が、刑務所の中でやはり同じような手厚い医療を受けなければならない、そういうふうに処遇してもらわなければ困るんですよ。
 今大臣の答弁の中に、近隣の病院から手助けしてもらうと。近隣の病院というのは指定入院医療機関ですか。違うでしょう、普通の病院でしょう。普通の病院は、この法律に基づく指定入院医療機関よりももっと配置基準なんか劣っていて、施設も劣っていて、そういう病院ですよ。そういう病院から来てもらったって、この法律による医療の水準なんか受けられないでしょう。
 何か本当にこれは矛盾した法律ですよね。さっき言ったように、赤ずきんちゃんのオオカミ法案。この点について、さらに私はいろいろ聞いてみたいと思います。
 二十五条には、検察官が例えば三十三条の申し立てをしたような場合には意見を述べなければならない、「意見を述べ、及び必要な資料を提出しなければならない。」と書いてあるんですけれども、意見を述べなければいけないということはどういうことなんでしょうか。どういう意見を述べることになるんですか。
○樋渡政府参考人 この法律案は、心神喪失等の状態で殺人、放火等の重大な他害行為を行った者に対しまして、継続的に適切な医療等を行うことによって本人の社会復帰を促進することを目的とするものでありますことから、このような者に対して本制度による処遇の要否及び内容を決定する手続におきましては、その手続に関与する者の意見を聴取するとともに、十分な資料に基づいて適切な処遇を決定する制度とすることが肝要であると思います。
 このような観点から、本制度におきましては、検察官に限らず、指定医療機関の管理者または保護観察所の長につきましても、本制度上の処遇の申し立てをした場合には意見を述べなければならないとしております。この意見は、適切な処遇についての申し立て者の見解を述べるものでございまして、刑事罰として科すべき具体的刑罰に関する意見である検察官の論告またはそういう意見とは全く異なるものであります。
 具体的には、対象行為の存否、責任能力の有無について意見を述べるほか、処遇の事件につきまして、法律的な観点から意見があればこれを述べることができるというふうに思っております。
○平岡委員 三十三条では、四十二条第一項の決定をすることを申し立てなければならないということで、四十二条のどういう決定をしてくださいということを申し立てる仕組みにはこの法律はなっていないんですよね。
 これは二十五条で意見を申し立てるということは認められていますよね。それで、二十五条の意見の中で、こういう処遇をしてほしいということを検察官は申し立てられるんですか、できないんですか。
○樋渡政府参考人 法律的な観点から述べるべき意見であれば述べることもできるというふうに考えますが、必ずしもその処遇を、例えば入院治療が必要である、通院治療が必要であるという具体的なことまで述べなければならない義務を課しているわけではございません。
○平岡委員 述べることを認めているんですか。検察官は、どういう処遇をしてくれというふうに意見を述べてもいいんですか。
○樋渡政府参考人 おっしゃるとおりでございます。
○平岡委員 なぜそんな権限を検察官に与えるんですか。これは、裁判所で裁判官と精神保健審判員が二人で、この人に対してどのような処遇をしようかということを決めていくという仕組みですよね。何でこんなところで検察官が出てきて、この人については入院が適当であります、この人については通院が適当でありますというようなことを言うんですか。その意味がまずわからない。
 あわせて、六十四条の抗告のところですけれども、六十四条の抗告の中に、検察官が裁判所の決定に対して、処分の著しい不当があるということがあるならば、それを理由として抗告をすることができるとなっているんですよね。何で検察官がこの処遇について文句をつける必要があるんですか。
 これは、医療的判断、社会復帰のために医療が必要であるかないかということを判断するという仕組みになっているにもかかわらず、何か公器を代表する検察官が、このままほうっておいたら社会に不安を与える、このままであれば刑罰にかからないこの患者さんに対して、見せしめができない、そんなことで検察官がまるで意見を述べ、そして抗告をする、そういう仕組みになっているじゃないですか。これは大臣にお願いします。
○森山国務大臣 検察官は、第六十四条に規定するとおり、決定に影響を及ぼす法令の違反、重大な事実の誤認及び処分の著しい不当を理由として抗告することができるということになっております。
 このうち、「法令の違反」とは、実体法の適用の誤りまたは審判手続の法令違反を申しますし、「事実の誤認」とは、事実認定の誤りを申します。そして、「決定に影響を及ぼす」または「重大な」とは、そのような違法や誤認が最終的な結論に影響を与えるものであることを言うわけでございます。また、「処分の著しい不当」とは、通院期間の延長決定または鑑定入院期間の延長決定をした場合に、定められた延長期間が著しく不当に長い、または短い場合を申します。
 この法律は、心神喪失等の状態で殺人、放火等の重大な他害行為を行った者に対し、継続的に適切な医療等を行うことによって本人の社会復帰を促進することを目的とするものでありますから、検察官はこのような者について、この制度による適切な処遇を受ける機会を確保するため、裁判所に対し、原則として本制度により申し立てをしなければならないこととするとともに、その結果なされた裁判所の決定についても一定の場合に抗告することができることとして、その適正を確保しようとしたものでございます。
○平岡委員 修正案の提案者にお伺いしますけれども、こんなような構成になっていて、本当に胸を張って、この法律は社会復帰のための法案であるというふうに言えますか。
 今言ったように、検察官が、何かこれだけの継続した入院が必要であるというような判断を下して、抗告もできる、意見を述べられるという、そんな仕組みになった法律案、これは本当に社会復帰のための法律案と言えるんですか。
 塩崎さんは表面的なところしか見ていないんじゃないですか。オオカミの仮面とお化粧のところだけしか見ていないですよ。
○塩崎委員 検察官も当然医療的な判断は尊重しなければいけないということだと思います。
○平岡委員 それを言われたら、この法案はそうなっていないということを私は指摘せざるを得ない、先ほどから言っているように。だから、この法案は赤ずきんちゃんのオオカミ法案だと私は言っているんです。
 次に、三十三条の二項には、一定の場合には検察官の申し立てができないことになっているんですね。なぜ二項に書いてあるような場合には申し立てができないんですか。とりあえずは法務省でいいですけれども。
○樋渡政府参考人 三十三条の第二項は、検察官は、対象者が刑務所、少年院等に引き続き収容されることとなるときや新たに収容されるときは、本制度による申し立てをすることができない旨規定しておりますが、現行法上、措置入院よりも刑事手続を優先させることとなっている上、このような場合には、当該対象者に対しましては刑務所、少年院等において指導監督とともに必要に応じて精神医療を行われることなどから、これとは別にあえて本制度による処遇を行うこととすることは適当ではないと考えられますことから、本制度による申し立てを行わないこととしたものでございます。
 このように、同条項は、本制度による処遇を行う必要がない場合等に本制度の対象外とすることを規定したにすぎず、この法律による医療を刑事罰の代替としてとらえているものではございません。
○平岡委員 ここでもやはり、何か処分を受けて刑務所とかあるいは少年院に入っていたらこの法律の適用はないようにしよう、つまり、この法律による医療の提供はない、社会復帰をこの法律によって図っていく必要はない、そういう法律になっているんですね。
 全く違うじゃないですか。皆さんが、この法律は社会復帰を目的とする法案である、対象者になったら、この人たちに対して、できる限り早く社会復帰ができるように手厚い医療をしていこうと。どこで手厚い医療をこの人たちは受けられるんですか。また少年院とか刑務所の中の寂しい医療しか受けられない。
 やはり皆さんの気持ちの中に、この人は刑罰を受けているんだから、もうこの法律で処遇する必要はない、つまりこの法律は、刑罰を科せられない人に、そのかわりとして長い間入院してもらおう、そういう法案になっているとしか言えないじゃないですか。
 三十三条三項、ここで何かよくわからぬ条文があります。被害者の傷害が軽い場合で、いろいろなことを考慮して、その必要はないと認めるときには申し立てをしないことができる。これはどういう意味ですか。どういう場合に申し立てをしないことが具体的にできるんですか。
○樋渡政府参考人 本制度は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者を対象とするものでありますが、殺人や放火等と異なりまして、傷害につきましては比較的軽微なものもあり得るところでございまして、そのような場合については、あえて本制度の対象とするまでの必要のない場合もあると考えられるのでございます。
 そこで、第三十三条第三項におきまして、傷害のみを行い、他の重大な他害行為を行わなかった対象者につきましては、傷害が軽い場合に限り、当該対象者が行った行為の内容、当該対象者の病状、生活環境等を考慮しまして、当該対象者に対して本制度による処遇を行うまでの必要性がないと判断される場合には本制度の対象としないことができることとしたものでございます。
○平岡委員 どういう場合がその必要はないと認めるときかというのは明確ではありませんでしたけれども、この規定が何を意味しているか。
 今回の修正案では、三十三条の一項で、どういう場合に申し立てをしなければならないかということについても改正がされています。仮に三十三条の一項がそういう形であるならば、三十三条の三項なんか要らないんですね。明らかにここは、入院させてこの法律による医療を受けさせる必要があると認められる場合、申し立てをしなければいいんですから。
 この三項の規定はつまり何をしようとしているかというと、要は微罪ですね。傷害罪では微罪のときには検察官が起訴しない、そういうことが行われているわけですね。それと全く同じような構図ですね。社会復帰を図るために申し立てをしようとしているんじゃないんですよ。微罪だから勘弁してやろう。そうじゃないでしょう。微罪であっても、本当に社会復帰のために治療が必要な人ならば、本当に皆さんが社会復帰を目的とする法律であるというふうにこの法律を言われるのであれば、その人たちも手厚い医療をしてあげる、そして本当に社会復帰ができるようにしてあげなきゃいけない。これは微罪だから勘弁してやろうという規定じゃないですか。
 四十六条、却下の決定の効果、これは第一項の趣旨は何でしょうか。同じ対象行為について公訴を提起できないというふうにしていることは、この法律による処遇が刑事罰の代替である、言葉を返して言えば、社会復帰を目的としたものではないということをみずから認めている規定じゃないですか。どうでしょうか。
○樋渡政府参考人 本法律案第四十六条の第一項は、本制度における裁判所の終局決定が確定した場合は、検察官は当該決定にかかわる対象行為について起訴または再度の申し立てを行うことができない旨規定しております。
 本制度では、検察官におきましては、裁判所に対し資料を提出し、意見を述べ、あるいは審判期日に出席することができることとしており、また、決定に不服がある場合には抗告をすることもできることとしておりますことから、本来、本制度の審判により対象者に対する適切な処遇が決定されるべきであると考えられます。
 しかも、仮に、本制度の審判手続により決定がなされ、これが確定した後であっても、さらに当該対象者を起訴し、あるいは再度の申し立てをすることができることとしますと、法的安定性を害し、当該対象者の法的地位を不安定なものとすることになりますので、これを認めることは適当ではないと考えたものでございます。
 このように、本条は当該対象者の法的地位の安定性の見地から、本制度の再度の申し立てや刑事処分を制限するものでありまして、同一の犯罪について二重に刑罰を科されないことを保障する趣旨から規定するものではございません。
○平岡委員 いろいろと説明の仕方はあるかもしれませんけれども、五十九条を見ていただきますと、五十九条では、通院処分の対象者に対して、保護観察所長による入院の申し立てを認めています。つまり、一たんは通院処分という決定が行われて、その後保護観察所長が入院をさせた方がいいということで申し立てをする仕組みになっているんですね。
 先ほどの刑事局長さんの答弁では法的安定性のようなことを言っておられましたけれども、このように決定を受けた人に対して、さらに通院処分ではなくて入院処分に処置を、この前、意見の一致とかいうところで話がありましたけれども、入院処分と通院処分はどっちが処分が重いんですかと言ったら、入院処分だから、意見が一致しないときは通院処分だという答弁がありましたけれども、こういうように、皆さん方の頭の中では入院処分の方が通院処分よりも処分が重いというふうに思われているわけですね。こういう人に対して、何でまたこれは申し立てができるんですか。
 先ほどの刑事局長の答弁では、法的安定性に欠けるから公訴の申し立てはできないんだ、こんなことを言っておられましたけれども、何でこれは今度はまた、通院処分になっている人が入院処分になるように申し立てをしてもいいと、法的安定性に欠けるようなことを認めるんですか。
○樋渡政府参考人 本制度による処遇は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対し継続的で適切な医療を行うこと等により、その社会復帰を促進するために行われるものでありまして、犯罪を行った者に対する制裁を本質とする刑罰とは全く性質が異なるものであります。
 また、通院患者につきまして、その精神障害の状態等にかんがみ入院させる必要があると認める場合は、保護観察所の長が地方裁判所に対し入院の申し立てをすることとしていますが、これは、対象者に対する継続的で適切な医療を確保し、本人の社会復帰を促進するためのものでございまして、刑罰やこれにかわる制裁を科すことを求めるものではありません。
 このように、本制度による処遇を行うことは、対象者の刑事上の責任を問うものではございませんで、対象者を二重の危険にさらすことにはならないと思っております。
○平岡委員 通院処分を受けている人について言うと、百十五条の中に精神保健福祉法の規定により入院が行われることを妨げないという規定もあって、何も入院処分に切りかえなければ入院ができないというものじゃないんですよね。こっちの方でもうちゃんと医療的には対応できる仕組みになっているんですよね。そうであるにもかかわらず、あえて五十九条の規定を設けた趣旨というのは何ですか。やはり皆さん方は、社会復帰を促進するというんじゃなくて、できれば閉じ込めたい、閉じ込めたい、そういう意識がこの法律の中に脈々と流れているんじゃないですか。
 参考までに、この法律の附則で改正されている精神保健福祉法第二十六条の三についてちょっとお聞かせ願いたいと思うんですけれども、この中に「同法の対象者」、これは心神喪失医療観察法案の対象者であって「同条第五項に規定する指定入院医療機関に入院していないもの」というのがあるんですけれども、この対象者というのは、具体的に言うとどういう人ですか。
○樋渡政府参考人 通院患者のことでございます。
○平岡委員 通院患者というのは、通院処分を受けた人ですか、それとも、それを受けていなくて、何も処分を受けていないような人も含めてなんですか、どっちでしょう。
○樋渡政府参考人 最初から通院治療の決定を受けた者、それと、退院をして通院治療の決定を受けた者、両者を含んでおります。
○平岡委員 ちょっと細かい話になりますけれども、対象者というのは、一体いつからいつまでを対象者とこの心神喪失医療観察法案では言っているんでしょうか。これは、きのう一応質問通告を出して、きょうは取り消したんですけれども、何か話がこんがらかってきたので、そこを整理したいと思います。
 ちょっと時間がかかっているようですから。――委員長、何です、これは。こんな状態じゃ質問できないですよ。ちょっととめてください、これは。
○坂井委員長 ちょっと、速記をとめてください。
    〔速記中止〕
○坂井委員長 速記を起こしてください。
 平岡君。
○平岡委員 さっきの対象者、いつからいつまでがこの法律では対象者になっていますか。
○上田政府参考人 本法律案においては、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行ったと認められた者が不起訴処分または無罪の確定判決を受けたときに対象者として取り扱われることとなります。
 一方、これらの対象者は、この法律による医療を行わない旨の決定またはこの法律による医療を終了する旨の決定が確定した場合、また、通院による医療を行う期間が延長されることなく三年間が経過した場合には、もはや本法律案による処遇を行う余地がなくなりますので、その段階で本法律案の対象者としては扱われなくなります。
○平岡委員 精神保健福祉法の二十六条の三に書いてある対象者というのは、既に処分の決定を受けた人ですよね。処分の決定を受けた人も対象者なんですか、心神喪失医療観察法案では。既に決定を受けた人はもう決定を受けた人として、新たにこの法律の対象になる人じゃないんじゃないですか。
○上田政府参考人 先ほど申し上げましたように、通院医療という医療を受けている者でございますので、対象者でございます。
○平岡委員 二十六条の三の規定があるのならば、先ほど言いましたように、通院処分を受けている人について改めて入院処分の申し立てをしなければいけないという理由はないんじゃないか、これによって医療は確保されるんじゃないかというふうに私は思います。
 そういう意味においても、この法律の中に脈々と、心神喪失の状態で他害行為をした人については、刑罰を代替するようなものをかけたり、あるいは保安処分に該当するようなものをかけたり、そうしたことをしたい、そういう思想が脈々と流れているというふうに言わざるを得ません。
 これは例を挙げれば切りがないんですよね。百十四条第二項、ここでも、第四十三条で入院等をしなければならないというふうに決定された人たちについても、刑事事件等で身体を拘束されている間はその決定を適用しない、つまりこの法律による入院をさせない、そういう規定になっているんですよね。何でさせないんですか。入院をさせて、医療を行わせて、社会復帰を促進する必要があるなら、それはどんどん医療を提供して、社会復帰が進むようにしてあげなければいけないんじゃないですか。何でこれをとめるんですか。これも後から法務大臣にお答えいただくように追加した質問ですから、ちょっと答えていただければと思います。
○森山国務大臣 第百十四条第二項は、刑事事件に関する法令の規定により身柄を拘束されている者、または少年の保護事件に関する法令の規定により身柄を拘束されている者については、現行法上、措置入院よりも刑事手続を優先させることとなっている上、このような場合には、当該対象者に対しては刑務所、少年院等において指導監督とともに必要に応じて精神医療も行われることなどから、これらの法令の規定により身柄が拘束されている間は御指摘のような上記入院等の決定に基づく対象者の医療を受けるべき義務は生じないことといたしまして、この法律による処遇を行わない旨を明らかにしたものでございます。
○平岡委員 ここでも先ほど来からずっと指摘している問題が同じように存在しているわけですね。
 それで、さっきの対象者の話にちょっと戻しますと、さっき、この法律による医療が終了したような人とか、何年間たった人、こういうことで、そういう人は過去に重大な他害行為をした人であることには間違いないんですよね、過去にしたことについて言えば。
 この前坂口大臣が、七月五日の委員会で、一度犯罪を犯した人とそうでない人とを一緒に医療をするのは難しいんだ、こういうふうに答弁しているんですよね。そうだとすると、仮にこの法律の対象者でなくなったとしても、過去に一度犯罪を犯した人が今度病気になりました、また精神病にかかってしまいました、そうしたときに、その人と一般の人たちを一緒に治療させることは困難だということになるんですか。またこの法律の適用の対象にするんですか、この法律はそんな人を適用の対象にしていないでしょう。既に一度犯罪を犯した人であっても一般の人たちと一緒に医療を受けるということは当然あるんですよね。なぜそれが今回の法案では認められない、今回の法案では別に治療をさせなければいけないということになるんですか。その辺が全然わからない。
 先ほど来から言っているように、まるでこれは心神喪失の状態で重大な他害行為をした人たちに対して、刑罰が科せられないからその代替の長期入院、入院を強制する、あるいはその人たちを閉じ込めることによって社会の治安を保つ、こういう法案になっているとしか言えないじゃないですか。あらゆるところに皆さん方の論理の矛盾、社会復帰を促進するんだというまやかしというものがこの法律の中にいっぱいある。こんな法はとても認められないですよ。
 もう一遍出直して、本当に修正案提案者の塩崎さんが、こういう法案にしたいんだ、社会復帰を促進するための法案にしたいんだと言われるなら、我々と一緒になっても、政府と一緒になっても、そういう法案をつくって、もう一遍審議しようじゃありませんか。修正案提案者、どうですか。
○塩崎委員 先日来この議論を重ねて、先生方の御批判に同調したくなる誘惑を何度も覚えるわけでありますが、しかし、では仮に今この法律を全く通さない、全く成立させない、全く導入しないで今おっしゃっているような医療の底上げというものを、我々ももちろん言っていますし、厚労省も一応やっているわけでありますが、それをやった方が本当に全体が進むのかどうかというところで悩んだ末に私は、やはり一歩前進する方が大事だろう。
 そして、さっき申し上げたように、今回のこの法律により、医療というものが、今おっしゃっているような刑罰のかわりではなくて、本当の意味での重厚なる医療によって障害を治し、そして社会復帰ができるようにするような医療にし、なおかつ、先ほど来申し上げている、措置入院制度が不十分なものであるということであって、今回つくることによって二重構造にいわばなるわけでありますから、これを一日も早く一体化して、このような特殊な形じゃない形で一本のものになることが私は個人的には一番大事なんだろう。そのためにはやはり一歩前進することの方が、今ここで何もしないで、医療の、例えば精神科に診療報酬をもっと重厚に分けるということがどれだけ難しいかは大蔵省出身の平岡先生よく御存じのとおりでありまして、そういうことをあわせ勘案して、今回私たちの修正をあえてして、一歩でも前に進もうということにさせていただいたわけでございます。
○平岡委員 今二重構造と言われましたけれども、二重構造じゃなくて三重構造ですよね。行刑施設内における精神医療も、やはり同じように社会復帰の問題について考えていかなきゃいけない。措置入院もそう。今回皆さん方が言われているこの問題についても、やはり一緒になって考えなきゃいけないんですよ。これだけ取り出して、これだけやればあとはいい、知らぬ、それじゃやはり法律として不十分ですよ、制度として不十分ですよ。これから努力するというのなら、まずその努力を示してからこういう法案を出してくださいよ。
 きょうはたくさん宿題をお出しいたしましたから、その宿題をいただいて再度十分に審議をさせていただくということを私としてはお願い申し上げまして、時間が来ましたので質問を終わらせていただきます。

【石原委員質問】

第155回衆議院 法務委員会厚生労働委員会連合審査会会議録第3号(同)
○坂井委員長 次に、石原健太郎君。
○石原(健)委員 今回の法案の中に、精神保健判定医、精神保健指定医といったような言葉が使われておりますが、それぞれの定義づけ、また、この二つが別個になっている理由等について御説明いただけたらと思います。
○上田政府参考人 精神科医療におきましては、本人が病識を欠く場合があるという精神疾患の特性のために、患者本人の意思にかかわらない入院医療ですとかあるいは一定の行動制限を行うことがあります。精神保健指定医は、そのような入院あるいは行動制限の判定を行う者として厚生労働大臣から指定された者でございます。
 また、本制度による入院等の決定を行う合議体の構成員として精神保健審判員が設けられておりまして、精神保健判定医は、精神保健審判員の職務を行うために必要な学識経験を有する医師として厚生労働大臣が作成する名簿に掲載された方でございます。
○石原(健)委員 その名簿に登載される資格というか要件、そうしたことについて御説明いただけたらと思います。
○上田政府参考人 臨床経験ですとかあるいは措置鑑定の件数の実績というようなものが要件となります。
○石原(健)委員 指定医の最近の指定されたときの平均年齢というのは何歳ぐらいになるんでしょうか。また、他の診療科目にもこういう指定医とか判定医とか、そういったような肩書がつく診療科目があるんでしょうか。
○上田政府参考人 初めに、精神保健指定医の新規指定時の平均年齢について御説明申し上げます。新規指定時の年齢につきましては、これは平成十三年度の関東甲信地区における申請者についてその平均値を算出したところでございますが、三十五才でございます。
 次に、精神保健指定医のように、医師の資格に上乗せをしている、その資格を設けている理由についてのお尋ねでございますが、精神科医療におきましては、本人が病識を欠く場合があるという精神疾患の特性のために、患者本人の意思にかかわらない入院医療ですとかあるいは一定の行動制限を行うことがございます。したがいまして、こういった医療に従事する医師については、特に患者の人権にも十分配慮した医療を行うために、その必要な高い資質を備えていることが求められるわけでございます。
 このような観点から、一定の精神科実務経験を有し、そして、関連する法律等に関する研修を修了した医師の中から、患者本人の意思によらない入院あるいは行動制限の判定を行う医師として、厚生労働大臣精神保健指定医を指定する制度を設けているものでございます。
 このようなことで資格制度を設けているわけでございますが、類似の制度といたしましては麻酔科の標榜医の許可、このような医師の資格がございます。御参考まででございます。
○石原(健)委員 そうしますと、やはり精神科の医療というのは、他の医療分野と比較しても相当複雑で難しい分野というふうに理解してよろしいのでしょうか。
○上田政府参考人 先ほども申しましたが、精神障害者精神疾患を持っている方がかなり病状が悪化しますと、先ほど来病識がないというお話をさせていただきました。一般的には、患者さんはいろいろな症状を訴えてお医者さんに行かれるわけでありますが、今申し上げましたように、もちろん症状が軽い精神疾患の患者さんにつきましては病識をお持ち、しかし、悪くなった場合に、そういう状況がございます。そうしますと、そういう患者さんにいかに治療的にかかわるかという、ほかの医療にない特色が一つございます。
 それから、先ほど申し上げましたが、行動制限ですとか措置入院制度ですとか、こういういわば身体の拘束、自由の拘束というような面がございます。そういう意味で、やはり人権的な配慮を十分持った、そういった視点を持った医師ということが問われるわけでございまして、そういう観点から、先ほどの資格のお話ですとか特性について、このような状況だということでございます。
○石原(健)委員 次に、刑事局の方にお尋ねしたいんですが、簡易鑑定とか鑑定ということがありますけれども、そのお医者さんの選定はだれがどのように行っているのか、御説明いただけたらと思います。
○樋渡政府参考人 お答えいたします。
 各地方検察庁におきましては、精神保健診断室を設けましたり、都道府県内の精神保健指定医等の中から、鑑定実績のある医師やその紹介のある医師等に対し、適宜鑑定を依頼するなどいたしまして、鑑定医の確保に努めているところでございます。
 精神鑑定の嘱託に当たりましては、各検察官においてそのように確保された医師を鑑定人に選任しているところと承知しております。
○石原(健)委員 現行の簡易鑑定のあり方に対しては、いろいろな批判もあるようですけれども、どのように受けとめておいででしょうか。
○樋渡政府参考人 事件の捜査処理に当たって必要となる精神鑑定につきましては、事案の内容や被疑者の状況等に応じて適切な手段、方法を選択する必要があると考えております。この関係で、特に簡易鑑定のあり方につきましては、さまざまな御意見や御批判があることは十分に承知しております。
 当省といたしましても、それらの御意見等を真摯に受けとめまして、不十分な鑑定に基づいて安易な処理が行われているとの批判を決して招くことのないようにすることはもとより、一層その適正な運用を図るとの観点から、専門家の意見等をも踏まえつつ、まず一つは、捜査段階において精神鑑定が行われた事例を集積し、精神科医等も加えた研究会等においてこれを活用すること、二つ目は、検察官等に対しいわゆる司法精神医学に関する研修を充実させること、三つ目といたしまして、鑑定人に被疑者に関する正確かつ必要十分な資料が提供されるような運用をすること、等の方策を講ずることを検討したいと考えております。
○石原(健)委員 次に、修正案の提案者にお伺いしたいのですけれども、社会復帰ができる状態というのはどのような状態を考えておいででしょうか。
○塩崎委員 社会復帰が完全にできるという意味でしょうか、それとも退院をできるという意味でしょうか。
○石原(健)委員 修正案に使われている社会復帰という言葉について御説明いただければいいのですけれども。
○塩崎委員 今回の法律での枠組みは、退院をした後、社会復帰調整官が観察所を中心にコーディネーター役になって、いろいろな形で地域での医療を重ねながら社会に復帰をしていくということでありますから、医療を続けていようともやはり社会の中で暮らしていける、そしてもちろん、将来的にできるならば自立ができるような形になっていくということが社会復帰だと思います。
○石原(健)委員 何か、きのうの参考人のお話などを聞いておりますと、社会復帰というのは非常に難しいんだという話がありましたし、これまでのお話の中で、精神病院に既に七万二千人も滞留している人たちもいるということも聞かせていただいております。
 これまでの統計などから見て、対象者が社会復帰できる見込みというのはどのくらいあるものなんでしょうか。
○塩崎委員 当然のことながら、それぞれのケース・バイ・ケースで、いろいろな病状があって、医療の内容等で予測することはなかなか難しいわけでありますけれども、少し厚生労働省に、我々も正直言って難しいことはきのうの参考人のお話を聞いても実感としてよくわかったわけでありますが、改めて、少しデータを探してみましたところ、いわゆる対象者ですね、この対象者が措置入院となって、その方が大体どのくらいで措置が解除されるんだろうかというのをまず見てみますと、大体半数の方々が半年で一応は解除されているわけであります。しかし、その大半が入院を続けているという数字が出ておりまして、それを見てもなかなか難しくて、例えばちゃんと退院をしているというのがせいぜい一割という形になっておりますから、今おっしゃったように、相当これは頑張らないと社会復帰というのは難しいなということを私も改めて感じているわけでございます。
 しかし、さりとて何もしないで今のままでいくというわけにもいかないということで、今回、今の措置入院制度にはない、社会復帰調整官によるアフターケアというものを考えているということでございます。
○石原(健)委員 厚生省の方にお尋ねしたいんですけれども、今回、指定入院医療機関というのができるわけですよね。最初のうちは問題ないと思うんですけれども、そこに入院した人たちが、退院してもいいぞという状況になってもどこも行き場所がなくてそこに滞留する、今、一割ぐらいの人が退院だ、こう言っていましたが、残った人たちはどんどん滞留していくかもしれないんですよ。そうした場合、施設の建設というのは追いついていくものなんでしょうか。そういう見込みがあるんでしょうか。
○上田政府参考人 先生御指摘のように、社会復帰を進める、あるいは退院を進めるためには、やはり地域に住まいですとかグループホームですとか各種の相談支援サービスあるいは社会福祉施設等々の、いわゆる社会福祉対策が非常に重要になってくると思います。
 それで、私ども現在、精神保健の審議会におきまして、こういった全般的な精神保健福祉対策について御審議をいただいておりまして、近く報告をいただくことになっております。あるいは、障害者プラン、障害者計画におきまして、こういった精神保健福祉対策につきましても、そういった取り組み、具体的な目標を掲げながら取り組むことでまとめているところでございます。
 また、大臣の方からお話がございましたが、私ども、省を挙げて、対策本部をつくりまして、こういった精神保健福祉の総合的な取り組みについて、それぞれの局から成る幅広い分野で総合的に、積極的に進めてまいりたいというふうに考えております。
○石原(健)委員 そうしますと、対象者が退院できる状態になって、特に行く先もないというような対象者についてはそのまま病院に置くんですか。それとも、ほかの精神病院か何かに移動するというような考えなんでしょうか。
○坂口国務大臣 今、病院でお見えになりますいわゆる社会的入院というふうに言われている人の中はさまざまだと思います。
 例えば、御家族、御両親等が亡くなられた方もございましょうし、あるいは社会的な適応ができにくくなるほど長くお見えになった方もお見えでございましょう。そうした人々を受け入れますためには、やはりそれが福祉施設というふうにいった方がいいのか、あるいはまた、医療の中のいわゆる中間施設的なものがいいのか、これは専門家の御意見を少しお聞きしなければいけないというふうに思いますけれども、一度に御家庭にお帰りになるというのではなくて、やはり一度地域になれていただく場所というものが必要になるというふうに私は思っております。
 したがって、そうした、ある程度医療も行うことができ、そして生活環境になれていただくというようなところを一段落つくって、そしてその後、例えばどこかで働いていただくというような方は、そうしたことを踏まえて、そして雇用といったような問題にも結びついていく可能性はある。しかし、年齢の問題とかいろいろの問題でそういかない人たちもいるだろう、その人たちはしばらく福祉施設の中でお住まいをいただく以外にないのではないかというふうに思いますが、いわゆる病院の中で今までのようにお住まいをいただくというよりも、やはりもっと地域との接点の中で、さまざまな生活ができる環境の中でお過ごしをいただくということが大事ではないかというふうに思っております。
○石原(健)委員 大変いいお考えをお聞かせいただいて、ありがとうございました。
 次に、修正案の提案者にお伺いしたいんですけれども、保護観察所長とか社会復帰調整官などの業務内容が法律でいろいろ細かく決められておるわけであります。法律でそういうことが決められているということは、その人たちはそれなりの責任を感じて、かなり精神的な負担にもなると私は感じるんですけれども、どのようにお考えでしょうか。
○塩崎委員 先ほどの御質問にもお答え申し上げたように、データで見ても、今でも措置を解除されたときにほとんどが入院を続けているという状況を考えてみますと、社会復帰をするということは本当に難しいことだというふうに思います。
 そうしますと、当然のことながら、現場の最先端でお世話をすることになりますこの社会復帰調整官というのは、地域社会において、本当にハンディキャップを二重の意味で負った精神障害者の方の日常的な生活の中で接して処遇を実施していくわけでありますから、当然、専門家といえども、かなりこの業務は大変で精神的な負担も大きいだろうというふうに思うわけであります。
 保護観察所長を含めて、この人たちが単独でやるわけではないわけでありますから、コーディネート役というふうに何度も申し上げておりますけれども、指定医療機関あるいは精神保健福祉センター、保健所等々との連携をどううまくつくっていくのかということが、この人たちだけに重荷がかかるということを避ける道でありましょうし、関係者が協力をしていくという体制があって初めて社会復帰もできるわけでありますから、そういった調整官や所長の負担を軽くする意味でも、そしてまた本人の社会復帰をスピードアップするためにも、協力体制をつくっていくことが大事だというふうに思います。
○石原(健)委員 今回の法律で、保護観察所は、処遇終了の申し立て、通院期間の延長の申し立て、再入院の申し立て等を指定入院医療機関とか通院の医療機関の管理責任者と相談して行うのだと思うんですけれども、そういう、最初に申し立てるときにやはりそれなりの判断力とか責任というものも出てくると思うんですよ。そうすると、どうしても終了の申し立ては、もし万が一何かあったときマスコミにたたかれたり周囲からいろいろ言われたりということも考えたりすると、やはり慎重にならざるを得ないと思うんですよね。そして、再入院の申し立てなんというのは、そういう点からいうと積極的になりやすいんじゃないかと思うんですよ。
 そういうことが重なると、どうしても入院期間の長期化とかあるいは通院の長期化ということに結びつきやすいんじゃないかと思いますけれども、その点についてはどうお考えですか。
○塩崎委員 この新たな処遇制度におきましては、例えば保護観察所長は、通院中の対象者につきまして、処遇の終了、今お話ありましたとおり、通院期間の延長とか再入院、それぞれの必要性を認めるわけでありますけれども、その場合には指定通院医療機関の管理者の意見を聞いて地方裁判所にその旨を申し立てる、この場合、指定通院医療機関の管理者はこれらの必要性について医療的観点から意見を付すということになっているわけでございます。
 それから、保護観察所長あるいは社会復帰調整官それから本制度にかかわる医療関係者等には、本制度において継続的な医療を確保してその社会復帰を促進するためにさまざまな責務が規定されているということでございます。
 したがって、これらの所長あるいは関係者に求められている責務というのは、いずれも確かに大変で、慎重にならざるを得ないという傾向になりがちかもわかりませんが、その時々において、やはり法律に書かれているような適切な判断を行わなければならない。そして、その責任はまことに重いというふうに考えておりますけれども、本制度の最終的な目的が本人の社会復帰の促進にあるわけであり、そのために必要な仕組みが設けられたわけでございますから、保護観察所や指定医療機関においても、法の求めるところに従って対象者の社会復帰の促進を図るために適切に業務が行われなければならないというふうに思っております。
○石原(健)委員 法律によりますと、入院した後のこととか通院のときのこととかいろいろ細々と、手とり足とりふうに法律で決められているわけです。決められているからこそ、観察所の所長とか調整官はいろいろ動きやすい部分もあるのかもしれないのですけれども、反面、こういうことは法律で決めずに、むしろそれぞれの観察所や何かの自主的な判断にゆだねた方が将来の運営がやりやすいんじゃないかという感じもするのですけれども、その点についてはどうお考えでしょうか。
○塩崎委員 石原先生の今の御見解も一つのお考えだと思いますが、対象者の社会復帰を促進するためには退院後もやはり継続的な医療を確保するということが大変重要でございます。
 そのため、本制度におきまして、退院後の対象者については、精神保健観察等の処遇を実施する過程で保護観察所の所長が、処遇の終了とか、先ほど申し上げた通院期間の延長、再入院、それぞれの必要性を認めた場合は、指定通院医療機関の管理者と協議の上で地方裁判所にその旨を申し立てなければならないということになっているわけでございます。
 したがって、これらについて明確に法律に要件を定めなければ、本制度による処遇に携わる保護観察所や指定医療機関の判断の適正を必ずしも期しがたいということで、必ずしも妥当ではないのかなというふうに思っております。
○石原(健)委員 次に、保護局の方にお伺いしたいのですけれども、百九条に、対象者の円滑な社会復帰に対する地域住民等の理解と協力を得るよう努めなければならないとありますけれども、具体的には何をどのように努めるというふうに考えていらっしゃるのでしょうか。
○横田政府参考人 お答えいたします。
 この制度の対象者の地域社会における円滑な社会復帰を促進するためには、指定医療機関保護観察所地方公共団体等による取り組みだけではなく、精神障害者社会復帰施設はもとより、ボランティアとして精神障害者の社会復帰を支援している個人や民間団体等の協力を得ることが重要であると考えております。
 また、地域住民等の精神障害者に対する差別や偏見を取り除いてその理解と協力を得ることも、対象者の円滑な社会復帰を図る上で欠くことができないものと思います。
 そこで、第百九条におきまして、そのような民間の活動を促進するとともに、このような民間団体等と連携いたしまして地域住民等の理解と協力を得るよう努めなければならない、そういう義務、責務、そういうものを保護観察所の長に課したもの、これが百九条でございます。
 そこで、お尋ねの具体的な取り組みでございますけれども、これは、地域の事情によりまして異なる点があり、またさまざまな態様があると考えられますけれども、例えば精神障害者の社会復帰を支援するボランティア団体などの協力を得たり、またこれらの団体などと共同して本制度の対象者の社会復帰の必要性について理解と協力を求めるための啓発活動を実施したり、あるいは地域の実情に即して対象者や家族と地域住民との交流の機会を設けるなど、地道に息の長い活動を続けていくことなどが考えられます。
 さらに、新たな処遇制度におきまして対象者の社会復帰の実績を積み重ねていくことが、長期的に見れば、長い目で見れば地域住民等からの理解と協力を得ることにつながっていくものと考えております。
 以上でございます。
○石原(健)委員 これはプライバシーのことだと思うのですよ、入院していたとか通院していたということ。そのプライバシーのことが地域住民の理解と協力を得るようにということで表に出ると、かえっていろいろ難しい問題も出てくるのじゃないかということを危惧するわけですけれども、その点についてもさらに十分な御配慮をいただくようにお願いをして、質問を終わります。
 ありがとうございました。