心神喪失者等医療観察法の条文・審議(その32)

前回(id:kokekokko:20060124)のつづき。
ひきつづき、法務委員会と厚生労働委員会による連合審査会の第3号です。
【木島委員質問】

第155回衆議院 法務委員会厚生労働委員会連合審査会会議録第3号(同)
○坂井委員長 次に、木島日出夫君。
○木島委員 日本共産党の木島日出夫です。
 措置入院の決定要件と、政府原案と私は呼びますが、略称して心神喪失者の医療観察法案の治療処分の決定要件と、そして提出されております修正案における治療処分の決定要件と、大変議論が錯綜してわからなくなってきておりますので、私、議論を整理して質問をしたいと思います。
 最初に、政府原案の提出者である坂口厚労大臣と森山法務大臣にお聞きします。特に坂口厚労大臣です。
 政府原案に対して私が初めて質問したのが前国会の七月五日であります。精神保健福祉法措置入院の要件と、本法、政府原案の治療処分の決定の要件とが同じなのか違うのか、大変関心の大きなところでありますから、質問をいたしました。
 坂口厚労大臣も覚えておるかと思うのですが、基本的な答弁は、違うと。再犯のおそれと自傷他害のおそれ、何が違うかと言ったら、タイムスパンが違うんだ、措置入院自傷他害のおそれの判断をするのは比較的短いタイムスパンだ、そして本政府原案の入院、通院治療処分決定に当たる際の要件は非常に長いスパンで物を見るんだ、そういう答弁でありました。私は、大変説得力があるなと思って聞いておりました。
 本年六月二十八日の議事録、ここにありますが、当初坂口厚労大臣はそのような答弁をしていたこと、間違いございませんでしょうか。確認をします。
○坂口国務大臣 一〇〇%覚えておりませんけれども、そういう御質問を受けて、たしかそのようにお答えをしたというふうに記憶をいたしております。
○木島委員 ところが、この答弁がまずいと思ったかどうか、今修正案の提案者になっております漆原委員が、さきの通常国会の七月五日、その問題を取り出しまして、坂口厚労大臣に答弁の修正を詰めております。議事録がありますので、読んでみます。私が質問して答弁された、そのことを修正させるための質問だと理解します。
 平成十四年七月五日、法務委員会厚生労働委員会連合審査。「○漆原委員 この自傷他害のおそれと、再び対象行為を行うおそれの関係について、厚生労働省においても今の法務省の答弁と同じように考えていいのかどうか。」法務省は同じだという答弁なんですね。それでこういう質問になるんです。「特に、六月二十八日の当委員会におきまして、厚生労働省の方からは、自傷他害のおそれは短期的な予測であるのに対し、再び対象行為を行うおそれは長期的な予測であるという意味の答弁がなされたというふうに記憶をしておりますが、今の法務省の答弁」、その七月五日のこの質問の直前、法務省の当時の古田刑事局長の答弁があるので、それと違うんですね、それを意味しているわけです。「今の法務省の答弁と若干違うのかなという気がしているところでございますが、厚生労働大臣にお尋ねしたいと思います。」これが質問であります。
 それに対して坂口厚労大臣から、答弁。「自傷他害のおそれと、再び対象行為を行うおそれというのは、その判断過程でありますとか判断方法の基本的な部分は異ならないというふうに思っております。」非常に長い答弁があるんですが、基本的には、私が質問したのに対する答弁、長期的な視野で物を見ているか短期的な視野で物を見ているかで、違うんだという、比較的説得力あるかなと私が感じた答弁を根本的にここで修正してしまって、同じなんだという答弁に切り変わっているわけであります。
 もう御案内のように、漆原委員と坂口厚労大臣は同じ政党に属しておりますので、私の答弁をここでひっくり返してしまったのかなと思うんですが、どうなんですか。
○坂口国務大臣 そのときの答弁は、こういうことを答弁いたしております。自傷他害のおそれと、再び対象行為を行うおそれは、今おっしゃいましたように、その判断過程や判断方法等の基本的な部分は異ならず、いずれも一定の期間を想定して予測を行うものではなく、法務省と同様の考えでございます、こういうふうに言っているわけでございます。基本的な物の考え方は違いませんけれども、いわゆる自傷他害の部分というのは、一時的な、いわゆる瞬間のことではなくて、も含めてですけれども、もう少し長いスパンでやはり考えなければならないということを、私は一番最初御答弁申し上げたときに言ったと思うんです。
 したがいまして、判断過程だとか判断方法というのには変わりはないけれども、しかし、将来の予測ということをする場合には、これは私は少し長い期間で見なければならないというふうに思っているということを言ったというふうに思います。
○木島委員 森山法務大臣にお聞きします。
 思い出してほしいので、述べます。六月二十八日の同一の私の質問に対して、坂口厚労大臣の答弁に続いて、森山法務大臣の答弁はこういう答弁なんです。「厚生労働大臣から御説明があったとおりでございますが、精神保健福祉法が規定する自傷他害のおそれも、この法律案が規定する再び対象行為を行うおそれも、いずれも強制的な入院を認めるために必要とされる要件でありまして、また、精神障害を原因として生ずる病状から一定の問題行動が引き起こされる可能性の有無を判断するものであり、両者は基本的には同様のものでございます。」明確なる答弁なんですね。これが法務省の見解かと思うんです。
 ただ、違うのは、もう当然ですが、精神保健福祉法自傷他害のおそれは、決して、その他害の中身は殺人、放火等重大な問題だけじゃない、軽い罪であってもこちらの方は適用になると。しかし、政府原案の方は、御案内のような殺人とか傷害とか放火とか、これに、法律で特定した重大な犯罪を同じように再び行うおそれということで、その対象が違うのは当然、それは答弁しています。
 それから、森山法務大臣の答弁の中で、「このようなおそれの有無を判断する際の資料につきましても、自傷他害のおそれの判断に際しましては、実務上短時間の措置診察により判断されていること等から、判断資料には一定の限界があります」と。要するに、自傷他害のおそれの方は非常に、すぐにやらなければいかぬから判断材料は少ないんだと。それに対して、本法、政府原案の方は、「対象者を一定期間病院に入院させて鑑定や医療的観察を行うこととしていることに加え、検察官や対象者、付添人に資料提出や意見陳述の権利を認めるなど、より広範な資料が収集できるようにしておりますので、より的確にこのようなおそれの有無を判断することができるような仕組みとしております。」だから、判断材料は非常に大きい、広い、深い。しかし、タイムスパンの違いはないんだ、基本的には同じなんだ、こういう、これまた一つ筋の通った答弁をしているんですが、覚えていらっしゃるでしょうか。
 そして、今でも森山法務大臣は、自傷他害のおそれの要件と、本法、政府原案の再び対象となる行為を行うおそれ、再犯のおそれですね、その基本的な対象は同じなんだという答弁を維持されますか。
○森山国務大臣 先生がお読みくださいました以前の委員会で答弁申し上げました内容はそのとおりだろうと思いますし、現在も変わっておりません。
○木島委員 漆原提案者に質問したいんですが、提案者が実は七月五日には質問者になって、坂口厚労大臣の答弁が変更になったわけですが、提案者は現在も、精神保健福祉法自傷他害のおそれの要件と、あなた方は修正案を出していますが、政府原案の再犯のおそれの要件は、決してタイムスパンの長い、短いの違いはないんだという立場でしょうか。
○漆原委員 たしかあのときは、自傷他害のおそれは短いスパンだ、政府案の方はもっと長いんだというふうな私が受けとめた厚生労働大臣の発言があって、基本的には、私は、時間的な制約、時間的な長さの問題ではないのではないかという観点から質問させていただきまして、今でも同じ考えを持っております。
○木島委員 では、これは非常に大事なところですから、法務省刑事局長、どういう考えでしょうか。
○樋渡政府参考人 お答えいたします。
 精神保健福祉法におきます自傷他害のおそれも、本法律案、政府案でございますが、それにおける再び対象行為を行うおそれも、いずれもその者の意思に反してでも精神医療を行うために必要とされる要件であるという点は同じでございます。また、いずれも、その者の現時点の精神障害の有無、内容を診断した上で、このような精神障害を原因として現に生じている病状、または今後生じ得る病状を診断し、今後そのような病状により一定の問題行動が引き起こされる可能性があるか否かを判断するものでございまして、その判断過程や判断方法も同じでございます。
 このように、自傷他害のおそれの判断と再び対象行為を行うおそれの判断は、その基本的な部分に違いはないと思っております。
○木島委員 では、厚労省精神保健福祉法の所管は厚労省ですから。厚労省の、大臣ではなくて、部長、どうでしょうか。
○上田政府参考人 自傷他害のおそれについては、短期間の即時的な予測であるなどと言われることがありますが、精神保健福祉法においても、一定の期間を定めてこれを判断することとされているわけではなく、また、現実に目の前で自傷他害行為を及ぼそうとしているような場合のみこのようなおそれがあると判断しているわけでもございません。
 他方、本制度においても、一定の期間を定めてその間に同様の行為を行うことがあるかどうかを判断することとしているわけでなく、まして長期間の予測を求めているわけでもございません。入院患者についても、六カ月間の予測を行うこととしているわけではなく、指定入院医療機関の管理者が平素から常にこれを判断し、入院継続の必要性がなくなった場合には、直ちに退院許可の申し立てをしなければならないとしているのでありまして、六カ月間というのは、裁判所が指定入院医療機関の管理者の判断をチェックする期間を意味するものにすぎないものでございます。
 なお、現在の実務上、自傷他害のおそれの判断は主に短期間の措置診察の結果に基づいて行われておりますが、本制度においては、一定の期間病院に入院させて行われる鑑定や医療的観察の結果、検察官あるいは付添人等から提示された意見や資料、保護観察所による生活環境の調査結果等、より広範な資料により慎重に判断することができる仕組みとしているところでございます。
○木島委員 非常に整理された答弁になりました。法務省厚労省も、法務大臣も厚労大臣も、精神保健福祉法自傷他害のおそれも政府原案の再犯のおそれも、決してそのおそれの有無を判定するに際してのタイムスパンの長さで違いがあるのではないんだという統一見解になりました。
 修正案の提案者である塩崎提案者からお聞きします。先ほど同僚委員の質問に対して、なぜ今回修正案が政府原案にある再犯のおそれを削ったのか、そして字句の修正をしたのかという質問に対して、非常に長いスパンでそんな再犯のおそれがあるかどうかなんか判定できないじゃないかという厳しい批判があったので削ったんだという答弁をされました。その答弁を維持されますか。
○塩崎委員 政府案においては、本制度による処遇を行うか否かの要請は、何度も言われておりますけれども、心神喪失等の状態の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれの有無とされていたわけでありますけれども、これについては、再犯のおそれの予測の可否として議論がされていて、この点については、特定の具体的な犯罪行為やそれが行われる時期の予測は不可能と考えられ、また、漠然とした危険性のようなものを感じられるにすぎないような場合に、再び対象行為を行うおそれに当たるとすることはできないと考えられる、その限度で、そのようなおそれの予測はできないという批判も理解できるわけでございます。
 政府案の要件では、この点に関し、不可能な予測を強いたり、漠然とした危険性のようなものも含まれかねないというような問題があったことから、今回の修正案によりまして、このような表現による要件を改めたものであります。
 精神保健法措置入院においても自傷他害が今要件とされているというお話がありましたが、その判断が行われているわけであって、そのような判断方法によって、時間感覚ではない予測をしているというお話は、今あったとおりでございます。
○木島委員 そうすると、厚労省法務省も、自傷他害のおそれの判定と再犯のおそれの判定とは決してタイムスパンの長さで違いがあるんじゃないんだということなんです。
 そして、今、再答弁いただきましたが、修正案の提案者である塩崎提案者は、そういう比較的長いタイムスパンでなんかは再犯のおそれを判定しにくいんだということも理由の一つとなって、再犯のおそれという言葉を削り去ったと。
 そうすると、確認しますが、あなた方の立場ですと、精神保健福祉法自傷他害のおそれの判定も、ちょっとそれは根本的には問題だということに行き着かざるを得ないんですが、そう聞いてよろしいんですか。
○塩崎委員 精神保健福祉法措置入院においても自傷他害のおそれが要件とされておりまして、その判断が行われておりますが、それと同様な判断方法によって一定の他害行為の予測を行うことは不可能ではないというふうに考えております。
○木島委員 政府原案の再犯のおそれはだめだが、措置入院の方の自傷他害のおそれはいいんだという論が、全然私は理解できないんです。
 タイムスパンの長さ短さの問題じゃないんだということをさっき私は確認しました。根本的な問題提起なんですね、修正案というのは。自傷他害のおそれの精神保健福祉法を根本から破壊するような修正を提起されているんじゃないかと思うんですが、厚労省、そういう受けとめはないんでしょうか。
○漆原委員 今の点は、塩崎提案者から再三説明がありましたが、再犯のおそれというのを要件とする政府原案については、何々罪という特定の具体的な犯罪行為や、あるいはそれが何月何日に行われるかといった時期の問題の予測、これは不可能ではないかという批判がいっぱいあります。それは、ある意味ではそのとおりだなというふうに思います。もう一点は、漠然としたおそれということで、何か危険性のようなものが感じられるにすぎないような場合でも、再び対象行為を行うおそれに当たるという解釈が広がる可能性があるという指摘もなされております。
 したがって、そういう政府案の要件では、この点に関し、不可能な予測を強いたり、あるいは漠然とした危険性のようなものも含まれかねないという批判、問題点がありましたことから、私ども、今回の修正案では、このような表現による要件を改めて、必要性とその範囲を明確にさせていただいた、こういうことでございます。
○木島委員 そうしますと、だから、精神保健福祉法で言う自傷他害のおそれだって、自傷のおそれは自殺のおそれですから、それは今回議論から省きますよ、他害のおそれですよ、他害のおそれの他害だって、一般的な犯罪じゃないでしょう、具体的でしょう。火をつけるかもしらぬ、殺人するかもしらぬ、あるいは傷害をするかもしらぬ、暴行するかもしらぬ。同じじゃないですか。
 それから、精神保健福祉法自傷他害のおそれだって、タイムスパンが結構長いものもある。現に、比較的長いタイムスパンで判定して精神病院に送り込んでいる、措置入院をやっているわけですよ。
 そうすると、私は、精神保健福祉法自傷他害のおそれという措置入院の根本的枠組み、修正案はこれに根本的な疑問を突きつけている、そう受けとめざるを得ないんですが、そんなことでいいのかしらということを厚労省に問うたんですよ。修正案の提案者からそう突きつけられているんじゃないかと。答弁してください。
○漆原委員 もう一度確認させていただきますが、政府案に対しては、たくさんの人から先ほど申し上げましたような問題点が指摘をされておりました。また、当委員会でも、社会防衛するものじゃないか、あるいは保安処分ではないのかという観点からたくさんの批判、指摘がなされておりまして、私どもは、そこのところを誤解のないように要件を書いて明確にしたということでございます。
○上田政府参考人 政府案の「再び対象行為を行うおそれ」という文言が特定の具体的な犯罪行為やそれが行われる時期の予測と誤解されるのを防ぐ意味で修正されたというふうに認識しております。
○木島委員 質問はそうじゃないんですよ。だから、そういう根本的提起は、あなた方が厳然として守り貫いている精神保健福祉法自傷他害のおそれの認定による措置入院の根本を破壊する提起じゃないか、どう受けとめているんだと。これだと、措置入院の問題だってこれは修正を迫られますよ。なぜかというと、私は、措置入院について全部勉強してきましたよ、政府原案も勉強してきましたよ。法律のつくり方は、将来のおそれです。将来犯罪するんじゃないか、将来自傷他害するんじゃないか、将来同じような再犯をするんじゃないかという、将来のその精神障害者の行為をするおそれを現在あるかどうかを認定する、現在それが認定できるからこそ人身を拘束する行政処分ができるんだと。私、金曜日詰めましたね、これは憲法三十一条にもかかわる問題だ、だから単なる目的じゃだめですよと。現在認定できるかどうか。認定する対象は将来のおそれですよ。その将来のおそれが非常に批判にさらされて厳しいというので、それを葬り去ったんでしょう、修正案提案者は。その論理構造からいったら、措置入院、根本的に壊されますよ。厚労省はそういう認識ないのかと、そこを質問しているんです。
○上田政府参考人 先ほども申し上げたところでございますが、自傷他害のおそれについては、短期間の即時的な予測であるなどと言われていることはありますが、精神保健福祉法においても、一定の期間を定めてこれを判断することとされているわけではなく、また、現実に目の前で自傷他害行為に及ぼうとしている場合にのみこのようなおそれがあると判断しているわけでもございません。
○木島委員 もし厚労省がそんな立場で精神保健福祉法措置入院制度を考えているのなら、今回、与党の中から出てきた修正案ですよ。これ、受け入れられるんですか。精神保健福祉法措置入院の枠、仕組みを守れると思っているんですか。そこなんですよ。守れないというのなら、それで結構です。守れるというのなら、守れる理由を述べてください。これは本当に大変な修正の提起だと私は受けとめているからこういう質問をしているんです。
○漆原委員 修正案の提案者としては、精神福祉法で言うところのおそれというのを否定しているわけじゃない。要するに、政府案に言う「再び対象行為を行うおそれ」というこの要件では、いろいろな誤解を招く、あいまいさが残る、皆さんの指摘もある、そういうことで要件を明確にしようということで提案したわけでございまして、自傷他害のおそれという概念を私どもは、私個人に言わせていただければ、否定しているわけではない、こういうことでございます。
○木島委員 だから、その理由を説明してくれというんですよ。何で精神保健福祉法自傷他害のおそれは守れて政府原案の再犯のおそれの方は壊せるのかという、その理屈が全然わからないんですよ、私。
○漆原委員 先ほど申しましたように、たくさんの人が疑問を持っておられる、たくさんの人がいろいろな問題点を指摘しておられる、したがってその要件を明確にしよう、こういう観点で提案をさせていただきました。
○上田政府参考人 今回の修正案は、当初の政府案につきまして、先ほど来、誤解をなくす視点から修正したというふうにとらえておりまして、私どもの精神保健法による自傷他害のおそれ、この点についての指摘、批判というふうには我々はとらえておりません。
○木島委員 どうも説得的な答弁が出ていないと思います。これは非常に大変な問題ですからね。この二つの法案の根本にかかわる問題です。精神障害者の皆さんへの措置入院制度、また今回、犯罪を犯した精神障害者に対する入院、通院、強制的な治療処分制度という、基本的人権の根幹にかかわる問題の中核概念に関してこのような説得力を持った答弁ができないようなこと自体が、私は大変な問題だと思いますので、ほかの質問もしたいので、きょうのところはこれでとめておきます。
 それから、前回金曜日に私、それとの関係で質問した問題が、まだ決着がついていないと思うんですね。きょうの同僚委員の質問に対する塩崎提案者の答弁を聞いていますと、ますますそういう懸念を持つようになりました。
 いいですか、整理しますよ。私が金曜日に提起したのは、政府原案に対する修正案の根本は、政府原案では再犯のおそれが入院処分の要件である、しかしそれが削られて、治療をし、再び同じような行為をしないようにし、そして早期に社会復帰をする、そのために入院、通院の必要があるときというふうに修正しましたね。だから、私が金曜日に詰めたのは、前段は目的じゃないか、要件ではないではないかという質問で詰めたのです。それに対して漆原提案者は、そうじゃないんだと明確に答弁しました。治療の必要性ということが第一の要件である。第二の要件で、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会復帰をすること、これを第二要件にして絞り込んだんだと。要件は二つだと。治療の必要性の要件が第一の要件。そして、この治療の必要性に何々のためという修飾句をつけて、副詞句をつけて絞り込んだんだ、それも第二の要件なんだ、入院決定処分をする要件なんだと、明確な答弁ですね。
 しかし、先ほどの塩崎提案者の答弁を聞いていますと、いろいろ述べておりましたが、結局、再犯のおそれは将来のことに対する認定で、現在できないんだ、批判もされたから削ったんだという答弁なんですね。そうすると、塩崎提案者の方は、修正された後の治療処分の法的要件、それはもう入院の必要性だけということになりはしませんか。その前段は目的にすぎないという答弁だったんじゃないですか。だから、塩崎さんの答弁と漆原さんの先日の私の質問に対する答弁は根本的に違っていると私、きょう聞いたんですが、塩崎さん、どうですか。何々のためというのは要件なんですか、要件じゃなくて単なる目的にすぎないのか。塩崎さんの方から答弁を求めます。
○塩崎委員 政府提案の要件は、もう言うまでもなく「再び対象行為を行うおそれ」というのだけが要件だったわけですね、政府提案の場合は、有無は。それが、医療の必要性の有無については明記をされていなかったというところから、今回この医療の必要性というものを前面に出してきているわけであります。
 したがって、入院等の決定の要件は、まず一つは、さっきの、ためという木島先生のおっしゃっていることは、まず、精神障害を改善するためにこの法律による医療が必要であると認める場合であること、それに、精神障害の改善に伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するためにこの法律による医療が必要であると認める場合であることというのが、入院等の決定の今回の修正での要件ということでございます。
○木島委員 そうすると、塩崎提案者も、今回の修正案の文言である、ためというところまでの前段、治療をすること、再び同様の行為をしないようにすること、そして社会復帰を促進すること、それは一つ一つ全部要件なんだ、治療の必要性と同じような要件なんだという考えに立っている、そういう面では漆原提案者の答弁と同じなんだ、そう伺っていいですか。
○塩崎委員 結構でございます。
○木島委員 それでは、政府原案と修正案の法案第三十七条と五十二条の鑑定についてお聞きをいたします。
 これは大変重大な、治療処分を審判するために必要な鑑定の問題です。政府にお聞きしますが、政府原案では、鑑定の対象は何でしょうか。
○樋渡政府参考人 政府原案では、「再び対象行為を行うおそれ」でございます。
○木島委員 いわゆる再犯のおそれの有無ですね。正確に答弁してください。
○樋渡政府参考人 失礼いたしました。
 正確に言いますと、「の有無」でございます。
○木島委員 修正案提案者に聞きます。
 三十七条、五十二条の鑑定、いずれも修正されております。修正案提案者によりますと、そうしますと、その鑑定の対象は何でしょうか。
○漆原委員 三十七条で言う鑑定の対象は二つあります。一つは、精神障害を改善するため、この法律による医療を受けさせる必要があると認められるか否か、二つ目、精神障害の改善に伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、この法律による医療を受けさせる必要があると認められるか否かの二点でございます。
○木島委員 そうなんでしょうか。三十七条の「対象者の鑑定」、修正された文言を読んでみますよ。「裁判所は、対象者に関し、精神障害者であるか否か及び対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するためにこの法律による医療を受けさせる必要があるか否かについて、精神保健判定医又はこれと同等以上の学識経験を有すると認める医師に鑑定を命じなければならない。」
 そうすると、命じられる鑑定の対象というのは、この文章をよう読むと、つまるところ、この法律による医療を受けさせる必要があるか否かなんじゃないですか。
○漆原委員 再三、四十二条の要件は何かということで答弁させていただきましたが、二つあると申しました。同じ要件がこの鑑定の対象であるというふうに理解しております。
○木島委員 そうすると、二つあるとおっしゃられますから、では、その最初の方はいいでしょう。後の方です。この法律による医療を受けさせる必要があるか否か、これも鑑定の対象だということ、間違いないですね。
○漆原委員 そのとおりです。
○木島委員 しかし、この法律による医療を受けさせる必要があるかどうかは、鑑定事項じゃなくて、法的判断の部分じゃないでしょうか。
○漆原委員 おっしゃるように、まさに医療の観点からその判断をしていただくということでございます。
○木島委員 鑑定の本質にかかわるものですが、鑑定というのは、事実鑑定か法律鑑定か、いずれにしろ、専門的知識によって、ある一定の対象に対して事実を明らかにするか、国際法の難しい問題なんかこうですよという法的鑑定をするか、そういうものですね。この法律による医療を受けさせる必要があるか否かなんというのは、そういう面では、鑑定対象じゃなくて鑑定医の意見じゃないですか。
○漆原委員 そういう医学的観点に立って、医学的意見を聴取する。鑑定は、事実鑑定のほか、おっしゃったように、法律鑑定もあるんでしょう。そういう意味では、医療的観点に従ってその鑑定意見を述べてもらう、こういうことでございます。
○木島委員 あなた方の言うこの三十七条一項の鑑定の条文をつくりかえてしまいました。それが私は破綻していると見ているんです。
 それは、三項を読んでください。第一項の規定により鑑定を命ぜられた医師は、当該鑑定の結果に、当該対象者の病状に基づき、この法律による入院による医療の必要性に関する意見を付さなきゃならぬと三項にちゃんと書いてあるじゃないですか。この法律による入院による医療の必要性に関する意見をつけろと三十七条の三項に書いてある。
 ですから、この法律による医療の必要性があるかどうかは、まさに鑑定事項じゃなくて意見なんですよ。三項でそれを明示している。ところが、あなた方は、一項で、それは鑑定事項だなんということを言わざるを得ない。この矛盾、どう説明するんですか。
○漆原委員 この三項の場合は、まさに入院させるかどうか、入院させる場合には意見を付するという、医師の入院による医療の必要性に関する意見、こういうことでございます。
○木島委員 それは一項にだって書いてあるじゃないですか。この法律による医療を受けさせる必要があるか否かについて鑑定を命じなきゃいかぬと、同じことが書いてあるじゃないですか。一項の鑑定と三項は意見ですよ。整合性のある答弁できないんじゃないですか。
○漆原委員 一項の鑑定は、入院とは書いていないんです。「医療を受けさせる必要があるか否かについて、」が鑑定の対象でございまして、三項は「入院による医療の必要性に関する意見」、こういうことで、一項の鑑定と三項で言う内容は違っております。
○木島委員 いや、そうじゃないんですよ。医療の中に二つあるんですよ、入院と通院。たまたま三項は入院のことを言っているだけであって、それ以外の条文、これは入院以外の通院の必要性に対する意見というのはあるんじゃないですか、別のところで。だから、本当にこれは鑑定事項のところでももう完璧に破綻しているんじゃないですか。
○漆原委員 先ほど来申しましたように、一項の場合は入院か通院か、三項の場合は入院というふうに規定がなっておりますので、先生がおっしゃるような破綻しているということはないというふうに思います。
○木島委員 では、この皆さんの、政府原案でもいいでしょうが、入院以外の医療の必要性についての意見というのはどうなっているんですか。どこかに条文、あるんですか、ないんですか。――調べておいてください。
 要するに、なぜこんな質問をしているかというと、やはり鑑定対象は、政府原案のように、再犯のおそれの有無なんですよ。将来にわたって非常に難しい判定をしなきゃならぬ。非常に難しいでしょうけれども、再犯のおそれが現にあるかないかを鑑定人に命じるんですね。
 ところが修正案は、再犯のおそれじゃまずいというので削り込んじゃって、そういう部分は全部目的条項にして、治療を受けさせる必要があるかどうかが審判の対象であり鑑定の対象だとせざるを得なくなっちゃったから、本来、そんな治療を受けさせる必要があるかどうかなんというのは鑑定事項じゃなくて意見なんですよね、意見にすぎないようなものをこう書かざるを得なくなってしまった、そこでもやはり私は修正案提案者には無理があると。
 この鑑定というのは非常に大事です。現在の措置入院が簡易鑑定でずさんだ。まことにずさんきわまりない簡易鑑定によって、多くの精神障害者の皆さんが理不尽にも入院を余儀なくされている。十年、十五年、二十年、その根幹にあるのがずさんな措置入院、まともな鑑定もやられていないという、その非常に大事な鑑定を規定した部分が三十七条なんです。その三十七条の鑑定事項が何かという根本問題について、私は、鑑定というのは事実鑑定か法律鑑定じゃないか、あなた方の修正案は意見を求めるようなことを鑑定と平気で称している、法律的にもこれは成り立つものじゃないということを指摘しておきたいと思います。
 時間がありませんが、昨日当連合審査会にお呼びをいたしました多くの参考人の皆さんは一様に、法案に賛成する方も反対する方も一様に、今、日本の精神医療で大問題は、地域医療がないということだ、貧弱だということだと指摘をされました。法案に賛成する立場の松沢病院の院長先生も、しっかりいい医療をやって、入院医療をやって地域に帰そうとしても、現在の日本の精神医療、保健、福祉では地域に帰せない、恐ろしくて帰せないという趣旨のことを公述なされました。そこが私は根本問題だと思っております。
 そこで、塩崎提案者が再三答弁の中で、この法案が成立しないと、少なくとも現在の非常に不十分な精神医療を一歩前進させることができない、だから一歩前進させるためにも法案を通してくれという答弁を再三おっしゃいました。問題なのは、政府案ないし修正案が成立することによって本当に一歩前進になるかどうか。そこが根本だと思うんですね。確かに、入院は、お金を使って病棟をつくってお医者さんの数もふやして、重厚な入院になるかもしれません。それは私は否定しません。問題は、地域に帰ったときの手当てがあるかということですよ。政府原案、ありますか。
○坂口国務大臣 午前中にも議論になったところでありますが、まさしく一つの問題点はそこでありまして、そこも並行して行わなければならないというところに一つの問題点があるというふうに思っております。
 したがいまして、それはこれからひとつやらなきゃならない、そこをしっかりやるという決意表明をきょうもしたところでございますし、ただ単に決意表明だけではいけません、この省の中の体制も整えなければなりませんし、そして省だけではなくて、これは財政的にもかかわる話でございますから、各省にまたがる話、これは積極的にそこの対応もしなければなりません。そしてまた、これは地方自治体にも協力をしていただかなければならない問題でございます。そうした問題も含めて、前進をさせたいというふうに思っております。
○木島委員 坂口厚労大臣、ようおわかりになっていますから、口で言っただけじゃだめだという思いで今答弁されている。まさにそうなんですよ、だめなんですよ。しかし、政府原案には何も書いていない。余りにもひどいので、修正案の提案者が附則三項をつけたんでしょう。
 読んでみます。「政府は、この法律による医療の必要性の有無にかかわらず、」これは一般的な精神医療の問題に広げまして、「精神障害者の地域生活の支援のため、精神障害者社会復帰施設の充実等精神保健福祉全般の水準の向上を図るものとする。」
 ないよりは、法律に書いた方が一歩前進だと私は思います。しかし、これは何ですか、中身は。そして、これを実行する制度的担保はこの法律の中にありますか。予算をとってくる法律的な担保はありますか。一番大事なところなんですよ。ここが徹底的に本当に法律的にも担保を持って充実される、お医者さんたちが重厚な入院医療をして地域に帰せる、そうなったらちょっと質的に変わるかもしらぬ。ところが、それはあるかという質問で、私、時間ですから終わります。答弁してください、提案者。
○塩崎委員 今月末に障害者プランというのが新しく出てまいりますが、今やっている障害者プランを見ても、例えば福祉ホーム、進捗率はことしの四月で五六%、入所授産施設に至っては二五%、福祉工場は二五%、こういうおくれでありますから、今木島先生がおっしゃったとおり、どこに担保があるのかということを心配になるのはよくわかるところであって、そこが我々の附則をつけた理由の一つであるわけでありますし、もう一つは、この附則の中で五年後の見直しというのを私たちは入れさせていただきました。
 私たちも、正直言って、どこまで政府がやるのかということは大変心配であります。予算も限られている中でどれだけやれるのか。それから、きのう来いろいろと、例えば山井議員が繰り返しおっしゃっていた、アパートを探すことすらもできないという中で、では、今申し上げた入所の施設整備が進んでいない、二五%の進捗率ということは、これは民間に任せてもだめだ、私は個人的にはそう思っているんです。したがって、例えば刑務所から出てきたときには更生保護施設があるように、そういったものをこの精神障害者のためにも、特に今回のような対象者の場合には考えていかなければいけないんじゃないか。
 そんなことも考えながら、この五年後の見直しというのは、五年の間にできないならば、やはり立法府の責務としてこれはさらにもう一段考えなければいけないということで、担保があるのかということであれば、五年後の見直しというのを入れたということが立法府としての責任であろうというふうに思います。
○木島委員 時間ですから終わりますが、五年の見直しが担保だというのじゃ、ちょっといかぬですね。
 私は、地域精神医療、保健、福祉が本当に充実することは非常に大事だし、それが本当に盛り込まれていれば、賛成するにやぶさかじゃないんですよ。しかし、それがなくて入院だけが重厚になったら、私は安易に入院させると思うんです。そして、五年でも十年でもほうり込んでおくことにならざるを得ない。そうすると、本当に皆さん方、精神医療を前進させたいという思いでこの法律をつくったはいいが、思いはわかるけれども、地域に戻す担保がなければ、結局それは精神病院にほうり込む期間を長引かせるだけというふうに転化してしまう、皆さんの思いが逆になってしまうというおそれを非常に感じておりますので、その問題は次回たっぷりと私やりたいと思いますので、きょうは終わります。