心神喪失者等医療観察法の条文・審議(その33)

前回(id:kokekokko:20060125)のつづき。
ひきつづき、法務委員会と厚生労働委員会による連合審査会の第3号です。
【中川委員質問】

第155回衆議院 法務委員会厚生労働委員会連合審査会会議録第3号(同)
○坂井委員長 次に、中川智子君。
○中川(智)委員 社会民主党市民連合中川智子です。
 私は、議員になって六年余りたちます。小さな党ですから、いろいろな委員会を兼務いたしまして、たくさんの法案審議に意見を述べさせていただき、たくさんの質問もしてまいりましたが、この法案ほど審議に値しない法案はなかった、初めてです。提案された根拠さえ成立していません。そして答弁は矛盾だらけ。全く有事法制論議と一緒で、審議をすればするほど矛盾が出てきます。予測や、おそれや、何かわけのわからないところでまた新たな差別法ができるのかと思いますと、本当に身の毛がよだつ思いがいたします。
 まず最初に、法務大臣と坂口大臣に、基本的なところで、大臣みずからの言葉で一言、御答弁をいただきたいことがございます。
 一つには、この法律というのは本末転倒。この国の貧弱な精神科医療はそのままで、本来そこをきっちりやって、それからこのような法案の議論というのを進めなければいけない、そこを放置したまま、そして、これらの貧弱な政策によって生み出された差別や偏見を今以上に、それを解決する方向に向かう法律ではなくて、今以上に、当事者の方も、そしてまた国民すべてが生きにくくなる悪法であると断じます。
 私は、森山大臣にまず伺いたいのですが、きのうも雨降る中、この何日、患者団体の当事者の方々が座り込みをして、この法案の廃案を訴えていらっしゃいました。当事者、患者団体は、もうこれ以上私たちを生きにくくするような法律はつくらないでほしい、仲間のために、顔が出せる自分たちがやっとの思いでここに来たと言って座り込み、そして、いろいろな訴える文書を手渡していらっしゃいました。
 当事者、そして心ある精神科医、また人権をしっかりと見据えたならば、これは絶対成立させてはならないという日弁連の意見書、さまざまな要望書、そしてこの議論の中でも、この法律はもうやめてほしい、審議さえストップしてほしい、大臣はやはりそのようなさまざまな声にしっかりと耳を傾けるべきであると思います。
 特に、患者、当事者が反対している声をどのように受けとめていらっしゃいますか。
    〔坂井委員長退席、宮腰委員長代理着席〕
○森山国務大臣 この法案について、いろいろな方がいろいろな御意見をお持ちだということは私も知っております。また、国会の中でも、さまざまな党で、さまざまな議員によって、いろいろとお考えがあるということもよくわかっております。
 しかし、重大な他害行為をした、それが精神的な問題のためにそのようなことになってしまったという人々を、何とかその治療をして状況を改善して、そして立派に社会復帰をしていただくということはとても大事だと私は思います。
 そのために、いろいろな手段、手だてを講じて努力しようというこの法案は大変必要だと私は思いますので、いろいろな御意見があって、それらを受けとめて、また、議員の中から修正案も出していただいておりますので、それらをあわせ考えまして、精神障害と、それから重大な他害行為をしてしまったという大きなハンディキャップを背負った方々の社会復帰のために、ぜひこの法律を役に立てたいというふうに私は考えております。
○中川(智)委員 大臣の心に二百万人の心を病んでいる人たちの声が届いていないということがはっきりいたしました。そのような声を受けとめる心を持った人に法務大臣をやっていただきたい、そのように私は思います。
 続きまして、坂口大臣に伺います。
 私は、なぜらい予防法を教訓とできなかったのかということを痛切に思います。らい予防法は、らいという疾病を持った人たちを医療の名において強制的に療養所に入所という法律をつくりました。しかし、それは、医療の名において社会と隔絶させて、社会復帰をできなくする中身のものでした。文字どおり、最初は療養所の中に高い壁がありました。それは、昨年の五月十一日、その壁は取り払われましたが、心の壁を取り払うことはいまだに困難な状況です。
 医療の名において、また高い壁をつくってしまう。見た目はきれいな病院であるかもしれないけれども、社会復帰ができなくなる、そのような中身だということを私たちは訴え続けています。
 大臣、あの方たちは、ハンセン病の元患者の人たちは、亡くなってお骨になってもふるさとに帰れなかったじゃありませんか。このように、強制隔離をするということは、ふるさとも奪い、家族も奪うことなんです。そのことがなぜ大臣におわかりになっていただけないのか、本当に私は理解に苦しみます。らい予防法の反省、それを大臣にも一回伺いたいと思います。
○坂口国務大臣 まあ、中川先生にぼろかすに言われるのも、大分なれてまいりましたから。決してきょうだけの話じゃございません。もういつもしかられておりますから、なれておりますが。
 今、ハンセン病との比較で言われましたけれども、ハンセン病の場合は、確かに長い間隔離を続けてまいりました。今回、我々が考えておりますのは、そういう隔離を長い間させるということではなくて、早く治療をして、早くもとへ戻そうということを言っているわけで、そこは全然違うというふうに私は思います。
 そこのところの違いというものがありますし、そして、一般の精神病院あるいは患者さんの皆さん方の施設というものを充実させなければならないことは、先ほどから申し上げているとおり。しかし、他害行為を行った皆さん方に対する施設はなくていいかといえば、私は、これはやはり何らかの形でつくり上げていかないといけないというふうに思っております。
 そういう双方のことを考えながら、この法律は提案をされたというふうに理解をいたしておりまして、ハンセン病のときのあの問題とこの問題とは全く別次元の問題だと思っております。
○中川(智)委員 大臣らしからぬ答弁でした。
 大臣、ハンセン病の療養所の人たちは、皆さん、元患者でしたよ。皆さん、治って、療養所の中にいらしたんですよ。そうだったでしょう。治っていたんですよ、皆さん。だけれども、本当に、その法律があることによって、出たくても出られなくなったんですよ。
 だから、このような法律は、治ったって再び出られない、出ることに大きな縛りをかける、八〇%の人たちがいわゆる予防拘禁的なものになってしまうというのは、さまざまなデータの中からはっきりしているじゃありませんか。私はやはり、もうちょっと大臣らしい答弁がいただけるまでこの審議は続行するというお約束をしていただきたいと思います。
 では、次に移りますが、関連いたしまして、再犯のおそれの修正案に関しては、先ほどの木島委員のお話の中で、同じ答弁かと思いますので、いわゆる出口ですね。
 これは、大臣は先日、御答弁の中で、措置入院の場合は六カ月で措置解除になる者が五〇%いるというような御発言がありました。確かに、重大な他害行為を行った人が六カ月後に措置解除になるのは五二・九%ございます。しかし、そのうち、措置解除後に、約八〇%の人が何らかの形で入院を継続しています。それは資料によって明らかです。これでは、五〇%も措置解除になっているから、だれもが長期になるということではないという説明の理由にはなっておりません。
 大臣は、本当に治ったら出ていただく、そのように今もおっしゃいました。やはり、心配しているのは、きっちりと退院という姿をどのような形で私たちは確認すればいいんでしょうか。出口が非常に不明確。上限はどこなのか、それに対しての御答弁をお願いします。
○坂口国務大臣 現在の一般精神病院に入院をしておみえになる皆さん方の中で、長い方もおみえになります。これは、やはりすべてが社会的入院というわけではないんだろうというふうに思います。
 私は、初期の段階での治療というものが大変大事であった、そこが、初期の段階での治療が怠られたと申しますか十分でなかったがために、これが長期になってしまったのではないかというふうに思います。したがいまして、これは早期に判断をし、そして早く治療することによって、以前のことを思いますと治療方法も非常に改善をされたわけでございますから、私は早く復帰をしていただけるようになるというふうに思っております。
 ハンセン病のときには、あれは隔離をするという法律でございました。これは早く社会復帰をしてもらうということを書いてある法律であるということを御理解いただきたい。
○中川(智)委員 やはり隔離法としか受け取られない中身なんですよ。ですから、本当に、新たな差別法、人権侵害を新たに生み出すものだということを声をからして言っているわけです。
 では、関連しまして、現行の措置入院制度の場合は、症状の改善というのが見られたときに医療保護入院に切りかえられるという制度があります。しかし、今回のこの法案では、指定入院医療機関以外に選択肢がないと読み取れます。みずから病院を選ぶことができない、そんな中で、症状の改善が見られ、医師がそろそろ外出、外泊をして退院のための準備治療をと判断した場合、その医療体制が整っているとは思えないのですね。つまり、一般の精神医療で言う医療保護入院に切りかえる方法がこの法案にはないと思います。
 そこで伺いますけれども、症状が改善された場合、患者はどのような体制での医療が考えられていますか。これは障害保健部長で結構です。
○上田政府参考人 本制度における通院患者さんにつきましては、本人が希望されるような場合に精神保健福祉法による入院を行うことができます。したがって、この法律による入院医療の必要がないものとして指定入院医療機関からの退院が認められ、通院医療を受ける者が、精神保健福祉法に基づき地域の病院に入院することも、制度上、可能であります。
○中川(智)委員 そこの具体的なプロセスが見えないんですけれども、可能であるということの中身をもう少しきっちりと御答弁ください。
○上田政府参考人 法百十五条に、こういった医療を妨げるものでないという規定がございます。
○中川(智)委員 では、それに関連して伺いますけれども、例えば、これは通信の手段なども制限されると思うんですね。その場合、入院患者さんは、密室の中でさまざまな治療が行われ、社会復帰をするならば、やはり社会復帰に備えた外部との交流、ボランティアの方でもいいです、友達とか、そして外部の精神科のお医者さんというのは自由にきっちりと交流できるというふうに理解してよろしいんですね。
    〔宮腰委員長代理退席、坂井委員長着席〕
○坂口国務大臣 指定入院医療機関に入院をされました場合の処遇の基準でございますけれども、これは社会保障審議会の意見を聞いて一応定めることになっておりますが、精神保健福祉法における基本的な考え方と変わらないというふうに私は思っております。
 精神保健福祉法におきましては、例えば精神病院入院患者の院外における人との通信、あるいは来院者との面会は、患者と家族、地域社会との接触を保つことが医療上の重要な役割を果たすというふうに思っておりますし、そうした人権は守られるというふうに理解をいたしております。
 原則として、自由に行われるというふうに思っております。
○中川(智)委員 そこは非常に大事なことだと思います。今の大臣の御答弁に対しまして、もう少し具体的に、また次回、質問したいと思います。
 また、高度な医療ということが非常に目玉になっているわけですが、高度な医療という中に精神外科手術なども含まれるのでしょうか。これは大臣に質問通告してありますが、例えばロボトミー手術とか、ロボトミーなどは医療の一部でございますけれども、精神外科手術というのもこの高度な医療の中には入りますか。
○坂口国務大臣 端的にお答えを申し上げれば、そういうものは想定いたしておりません。そして、ロボトミーといったことは、もう現在ほとんど行われてもおりませんし、たとえよそのところで行われていることがあったとしても、この指定病院におきましてそうしたことは考えておりません。
○中川(智)委員 大臣、それは、行われていないということを私たちはどのように知ることができるでしょうか。
○坂口国務大臣 それは、御家族の方だとかお友達だとかというようなことが面会をされましたらすぐにわかる話でございまして、そういうことは一切行わない。皆さんをいかに回復させるかというものは、精神科的に回復させるか、いわゆるもう少し、精神科的にと言いますと言葉は悪いかもしれませんが、手術などというようなことではなくて精神科的にとしかちょっと言いようがないですけれども、回復をしていただくようにするということでございます。
○上田政府参考人 ただいまの精神外科手術につきましては、私ども、専門家の、あるいはそれぞれの医療の状況を聞く範囲におきましては、我が国において実施されていないというふうにお聞きしております。
○中川(智)委員 今の局長のは、大臣と一緒ということですね、中身は。
○坂口国務大臣 一緒です。
○中川(智)委員 そうですね。
 次に、附則の第三条二項で、精神病床の人員配置基準が書かれておりますが、医療刑務所の実態というのが非常に問題が多い。北九州医療刑務所は、収容者数二百五十七人に対しまして、精神科のお医者さんは非常勤を含めてたった三人ですね。岡崎の医療刑務所は、二百二十人に対しまして、精神科のお医者さんは三人。やはり拘禁されたことによる精神的な疾病というのは、もっと医療体制をきっちりしないと、それは附則の中でうたわれているわけですけれども、この見直し、精神病床の人員配置基準の見直しは具体的にいつまで、どのような内容で見直しをするのか、それに対してお答えを願いたいと思います。
○中井政府参考人 お答えいたします。
 現在、全国の行刑施設には、平成十四年四月一日現在で、医師三百六名が配置されておりまして、内訳を申しますと、常勤が二百十七名、それから非常勤が八十九名でございます。このうち精神科医は四十八名でございまして……(中川(智)委員「ちょっと済みません。現状はいいです。いつまでにきっちり見直すのか」と呼ぶ)今後とも状況を見まして、適宜検討させていただきたいと思います。
○中川(智)委員 ちょっと、大臣、余りにひどいですよね、今の御答弁。附則に書かれているんですよ。附則というのは法律と一緒ですよ。具体的なものはこれからなんということで、よくもこんなことを書きましたね。
○坂口国務大臣 今の御質問は、精神病院の精神病床のお話でしょうか。(中川(智)委員「はい」と呼ぶ)それならば私の方でございますので。
 この病床の機能にふさわしい人員配置というものをしなきゃならない。急性とか重症ですとか、あるいは高度で集中的な医療を必要とする患者さんですとか、そうしたことも考えながらこれは配置をしなきゃならない。
 現在のところ、御承知のとおり、大学病院等の場合にはかなり、医師の数も十六対一とか、看護婦さんの場合にも四対一でございましたか、そういうことになっておりますが、一般のところは医師の数も四十八対一といったようなものになっている。ここの見直しを行わなきゃならない。ここの見直しに早急に着手しますから。
 ただし、これを着手しようと思いますと、精神科の先生なり看護婦さんなり、足りなくなってくるということだってあり得るわけでありますから、これはあわせて、地域にいかに福祉施設なりなんなりをつくって、そして地域にその入院している人を戻すという話と並行してやらないといけないというふうに思っている次第でございます。
○中川(智)委員 ちょっと質問が混乱しまして、申しわけございませんでした。
 坂口大臣の御答弁で結構ですが、やはり早急に、この附則の中に書かれていることですから、具体的に数も示し、予算も合わせないと、これは法案としてのていをなしていないと思います。
 最後に、もう一問だけ。袴田巌死刑囚がいわゆる精神的に病んでいるということで、緊急に医療が必要だと私は考えております。
 先日、社民党保坂展人氏が質問いたしましたけれども、そのとき森山法務大臣は、やはり少し常軌を逸し始めた精神状態なのかもしれないと思いますということで御答弁くださいました。私は、医療刑務所なり、医療をしっかり受けれるところに、ましてや、確定死刑囚でありましても再審請求をしています。せめて、再審請求をしている死刑囚に対しましての医療は必要だと思います。
 袴田さんは冤罪を訴えていて、二年余りは一生懸命手紙を出して無実を訴えてきた。ところが、判決の後、精神的に徐々に病んできた。それはそれは長い毎日の獄中で、きょう執行されるかもわからないという、その恐怖の中で精神が病んでしまった。でも、冤罪を訴え、そして再審請求をしているんですね。このような受刑囚に対しては、医療刑務所に移すべきだと思います。
 最後に一言、法務大臣の御答弁を伺って、質問を終わります。
○森山国務大臣 特定の被収容者の具体的な状況については、プライバシーに関する事柄もございますので、余り詳しくお答えするのはいかがかと思いますが、お尋ねの死刑確定者が親族との面会を望んでいないとか、その他のことについては報告を聞いております。
 この人が現在どのような状況にあるかなど、このような国会の場で余り具体的にコメントすることは本人のプライバシーへの配慮から適切ではないと思いますが、せっかくのお尋ねでございますので、その後の、現在の状況につきまして、収容先の施設に確認させるなどいたしました上、必要があれば適切に対応させたいと考えます。
○中川(智)委員 ありがとうございました。

【阿部委員質問】

第155回衆議院 法務委員会厚生労働委員会連合審査会会議録第3号(同)
○坂井委員長 次に、阿部知子君。
○阿部委員 引き続きまして、社会民主党阿部知子ですが、残りの二十五分をよろしくお願いいたします。
 先ほど中川智子も申しましたように、きょうも大変冷たい雨の中を、連日、精神に障害を持つという病歴をお持ちの方、あるいはその方たちと一緒にこの日本の差別多き社会を何とか変えていこうという方々が、外での行動あるいは傍聴を行っておられます。そうした方々の気持ちに本当にこたえ得る法案なのか否かということをめぐって、きょうもまた連合審査が行われましたが、私の拝聴いたしますところ、論議は大きく食い違い、また思いも食い違っているように思います。
 そこで、まず修正案の提案者である塩崎先生に伺わせていただきますが、そもそもこの法案はだれのためのものでしょうか。
○塩崎委員 当然のことながら、不幸にして法に触れる行為をした精神障害者の方々の社会復帰のためでございます。
○阿部委員 塩崎先生も御存じのように、措置入院においては自傷他害。一人の精神を病んだ患者さんが自分を傷つける場合と相手を傷つける場合は実は紙一重でございます。本当に紙一重です。その中にあって、この法律の枠組みは、他害ということをとりわけ際立たせた法律の内容となっておりますが、そのことはお認めになりますでしょうか。
○塩崎委員 精神障害のもとでの行為についての同様の行為ということでございますから、他害行為ということが前提でございます。
○阿部委員 恐縮ですが、今のは御答弁ではなくて、私の聞いたのは、精神障害ゆえに自傷他害というのは紙一重である、ここでとりわけ他害ということを取り上げられた意図、目的、これは私は明確にした方がいいと思うんです。そして、そうならばそうで、私が申し上げるようなセーフガードが必要ですから、ここを明確にしていただきたい。なぜ自傷は含まれず、他害のみこの法律の骨格であるのかという点です。
○塩崎委員 重大な他害行為を行ったことが今回問題になって、社会復帰を妨げてしまうということであるわけでありますから、そこのところに焦点を当てているということでございます。
○阿部委員 そうであるならば、この法案のもともとの骨格は、塩崎先生がおっしゃったような御本人のためということを超えて、他害という行為が社会に及ぼす影響をまず大きくクローズアップしているという、この基本的な構造をまず確認していただきたいと思います。いかがでしょうか。
○塩崎委員 その他害行為が精神障害によって起こされ、そしてそれがゆえに社会復帰ができないということは、御本人にとっても大変不幸なことでありますから、その精神障害を治すための医療でもあり、そして、先ほど来ずっと議論をしていた、限定的な要件のもとでの高度な医療を受けて社会復帰をしていただこうということでございます。
○阿部委員 そういうのを強制医療と申すわけであります。そして、木島委員の御質問もその点を極めて鮮明に投げかけられましたが、先生方には一切お答えがございませんでした。
 例えば措置入院とどこが違うのかということも、もうこの委員会、二回の連合審査も含め、あるいはさきの国会での委員会も含めて、木島委員が明確におのおのの大臣の御発言、あるいは今回の修正提案の方々の御発言をなぞられながら確認をいたしましたが、そもそも、この法案がなぜ措置入院というものと違って、何を目的としておるのかということも実は半分隠されたまま、そでの下になったまま審議が進められております。そして、このような形で本当に精神を病む方たちが隔離されていくのではないかという不安が強いからこそ、雨の中も皆さんお立ちなのだと思います。
 そして、私は、この法案を考える場合に、塩崎先生とある意味で出発点は一緒の部分があります。この方たちは、精神に病を得るという不幸と、かてて加えて、他をあやめる、あるいはこれはさっきも申しましたように自分の命をあやめるかもしれない、そうした状況に追い込まれた二つの不幸を背負っております。問題を原点に立ち返ったならば、私は、三点にわたって、このことはこの審議の前にぜひとも準備されなければならない分野のおのおのの総括があると存じます。
 一人の方が精神に障害を持ち、そのことと関連して犯罪を犯されたといたします。塩崎先生、申しわけございませんが、この方たちには一体どういうコースがこれからございますでしょうか。お願いします。
○塩崎委員 現在の制度でのお話でございますね。(阿部委員「この法案が成立してからでも結構です、どちらでも」と呼ぶ)
 現在の法律でいけば、措置の手続に検察から行くということが常識的なことだと思っております。
○阿部委員 実は、精神に障害をお持ちでも刑に服することができるというふうに判断されれば刑務所に、それなりの裁判の過程を経て刑に服する方もおられます。それから、先生がおっしゃるように措置入院の方もおられます。であるならば、その双方、先ほど中川智子が質問いたしましたが、刑に服しながら精神を病む方もおられます、この方たちの現状はどうであるのか。そして、もっと広げれば、刑に服する拘禁下に置かれた方たちの医療がどうであるのか。そして、もう一方で、措置入院という形で、これは治療という形の時間を精神病院で受ける方たちがおられます。また、この背景には精神病院の現状がどうであるのかがございます。
 私は、以下、この二つを分けて、そして今度の法案は新たな第三のグループをつくる法案ですが、第三をつくる前に一と二の現状の問題点がきっちり認識されなければ、第三は割れなべにとじぶたになってしまいます。一と二のおのおのに重大な問題があり、おのおのが解決していくべき、物事には手順というものがございますので、そのことからなすべきだと私は思います。
 そこで、森山法務大臣に伺います。
 私は、精神を病む方も含めて何らかの御病気をお持ちで刑に服している方、あるいは刑に服しておって精神の病を含めて御病気になられた方たちの取り扱いについて、せんだってもお伺いいたしましたが、どうしてもかかる人権侵害は座視し得ないと思う事態が次々と生じております。
 せんだっての質疑の継続をやらせていただきたいと思いますが、実は、九九年から二〇〇二年九月までの三年間で、刑務所の中で保護房に収容中の五人の受刑者の死亡がございました。この五名の死亡に至る過程で、いつ医師の診察を受け、死因についてはどのように分析、判断されておるか。これは恐縮ですが、実務者サイドでも結構です。お願いいたします。
○中井政府参考人 最初に、矯正当局からお答えできる範囲で申し上げたいと思います。
 今お尋ねの五件のうち、実はこれは司法解剖が行われておりますので、死因の点はそちらの方を御確認いただきたいと思いますけれども、司法解剖が行われていなかった事件について申しますと、二件ございます。この二件につきましてはいずれも、医師によりまして急性心不全であるという診断がなされたとの報告を受けているところでございます。
 内容についても申し上げましょうか。よろしいですか。
○阿部委員 いつ医師の診察を受けたかということを教えてくださいというのが一点です。
 そして、内容については福島瑞穂の方にお答えいただきましたので、私から読みますので結構です。
 おのおの亡くなられた五名は、いつの時点で医師の診察を受けておられますか。
○中井政府参考人 それでは、順次お答えいたします。
 平成十一年の府中刑務所の案件でございますけれども、十一年の八月十日、これは九日に保護房に収容されたわけでありますけれども、十一年の八月十日の時点で、本人の様子がおかしいということから医師が急行いたしまして診察を実施しておりまして、直ちに病舎の集中治療室へ搬送し、所要の治療をしたものの、同日中に死亡した、こういう流れでございます。
 続きまして、第二件目の横須賀刑務所の平成十二年の案件でございますけれども、平成十二年十二月三日に保護房に収容いたしましたところ、翌四日に、動きが少なく、呼びかけたが反応がないというようなことがございましたので、外部の病院へ救急車で搬送いたしまして、当該病院で診察、検査等を受け、所要の治療をしたわけでありますが、同日、死亡が確認されたという案件でございます。
 続きまして、三件目の平成十三年の名古屋刑務所の案件でございますけれども、これは平成十三年十二月八日に舎房で大声を発するというようなことがございまして、保護房に収容いたしました。その後、暴行等のおそれがございましたので革手錠も使用いたしましたけれども、十三日に革手錠の使用を解除しております。しかし、その後におきましても、やはり大声を発するなど一般房に収容できなかったことから、保護房への収容自体は継続しておったわけでございますが、同月の十四日でございますけれども、着衣の一部に血の跡がちょっと認められましたので、直ちに保護房収容を解除いたしまして、医師が診察いたしまして、当該部分の縫合手術等を行いましたけれども、よく十五日に容体が変わりまして死亡したという案件でございます。
 平成十四年の府中刑務所の案件でございますが、平成十四年の三月十四日、やはり大声を出したりあるいは騒音を立てるといったようなことから保護房に収容されたわけでございますけれども、四月の二日に保護房の収容は一たん解除されまして、さらに同じ日にまた大声を出したり騒音を出すということでもう一度保護房に収容されております。
 そのような経緯を経まして、四月十三日に至りました段階で、本人に声をかけても反応がないというようなことで、保護房をあけまして様子を見たところから医師が関与いたしまして、同日、府中刑務所の医務部でございますけれども、そこに搬送されまして医師が診察しておる。そのほか救命措置等を講じたけれども同日中に死亡が確認された、こういう時系列でございます。
 最後が、平成十四年の名古屋刑務所の案件でございますが、十四年五月二十七日に暴行のおそれがあるということで保護房に収容し、あわせて革手錠を使用したわけでありますが、その後、急に静かになり応答がなくなったということで、同日中に医師により診察がされ、さらに救急措置を講じたけれども同日中に死亡した、こういう時系列になっております。
○阿部委員 五例を全部言っていただきましたのでお聞きの委員には印象が薄れたかもしれませんが、私が指摘したい点は、ほぼ、医師の診察は呼吸がもうほとんど停止状態ないし心不全といって心臓がとまったような状態、心停止に近い状態、あるいは十時に容体が急変、十一時に死亡と言われるような府中刑務所の事例。そして、本当に、おっしゃいませんでしたが、横須賀の事例は、診察したところもう冷たい状態、急変で診察して脳腫瘍であったことがわかった。私は、医師としてこれを読みますと、この方たちは日ごろどんな治療を受けていたんだろうか、どんなふうに医療にアクセスしていたんだろうかと本当に身も震える寒い、怖い思いがいたします。
 そして、このおっしゃいました名古屋での事例は、七日間保護房に収容されて、診察があったのが七日目で、直その日に亡くなっておられます。死因が腹膜炎ということです。もし数日早ければ、もちろん革手錠もしました、腹部を締め上げたでしょう、それゆえに腹膜炎はひどくなったものと思われますが、剖検書を見せてくれと言っても出していただけません。だれも本当のこの人の死を解明できない中で、実はもう一例ありますが、六名が亡くなっておられます。
 そこで、森山大臣に伺いたいと思います。
 大臣には、今名古屋刑務所の受刑者で大臣に情願、直接に自分の受けている暴行について法務大臣に対して自分の現状を訴えた受刑者があり、現在彼は裁判を起こしておる途上でありますが、この情願について、受刑者たちの辛うじて開かれた窓口ですが、実は却下というか、取り上げられずに終わっておりますが、こうした事態をどのようにお考えでありましょうか。
○森山国務大臣 名古屋刑務所におきまして発生いたしました一連の問題につきましては、まことにとんでもないことと私も考えておりまして、何とも御説明の申し上げようがない、甚だ遺憾だ、申しわけなかったと申し上げるほかございません。
 今、その真相は検察、また矯正局自身の、また人権擁護局等の手によってそれぞれの立場で調査をいたしておりますので、それらが明らかになったところでしかるべき処置、処分もしなければならないと考えております。
 矯正施設の被収容者の人権保障とか被収容者に医療を受けさせるための権利保障に関しまして、名古屋のあの一連の事件とはまた別に一般的にいろいろな御意見や御指摘があるということもよく承知しております。また、これらを真摯に受けとめなければいけないというふうに考えております。被収容者の人権保障という視点が大変大事だということも肝に銘じているところでございます。
 被収容者の健康管理や病気になった場合の医療措置につきましては、矯正施設が一方において刑や拘留等の執行機関であるという大きな枠組みはございますが、被収容者の申し出に対してより一層適切に対応すること等を含めまして、矯正医療がさらに充実し、人権を損なうというようなことが決してないように鋭意努めてまいりたいと考えております。
○阿部委員 私が伺いたいのはもっと具体的な二点で、例えば、この方たちの本当の死亡原因。普通は病院で病死されたら解剖いたします。そして、そこから、よく最近のはやりですが、遺体は語るとか死体は語るとか言われて、そこから真実がわかる場合もございます。だがしかし、この方たちの解剖の所見は、私どもが幾ら要求しても今の仕組みの中では検察庁の情報公開という形での提示はいただけません。この方たちの死に至る本当の原因をどういう形で検証し得るのか、その点についてもう少し明確に、一点。
 それから、私があえて、法務大臣に情願、要するに、自分に起きた人権侵害について何とか対処してほしいという申し出をした方が却下されておる。この事態を踏まえて、具体的にどう改善していかれるのか。今回の法の枠組みが、司法と医療とのかかわり、その両方のよいところを寄せてのように言われますが、おのおのの問題点を解決しておかなければ合わさったものは絶対よくなりません。
 責任のなすりつけ合い、キャッチボールのようにきょうも本当にむなしい論議が行われました。一つ一つ、一点一点改善しないと、人の生命と本当に一生がかかった問題は安易に私たちが法律化したときに大きな被害を生みますので、恐縮ですが、私の時間はもうほとんど、残余の質問は申しわけなかったですが、今の、大臣の二点の御答弁をお願いしたいと思います。
 剖検書は見せていただけますか、一点。それからもう一つ、情願、大臣に対して直接なされた、受刑者の自分の権利保護を願うものはなぜ棄却されたか。二点、お願いします。
○森山国務大臣 個別の具体的なことについてはお答えいたしかねますけれども、今大変厳しく御指摘いただいたさまざまな問題点につきましてしっかりと受けとめて、改善に努力したいと思います。
○阿部委員 私は見せていただけなければ納得できませんし、人が死ぬとはそれだけ重いことです。自由を奪われた中で起こるさまざまな事態に、本当に日本の法務省はみずからの存在をかけて立ち向かってほしいと思います。
 また次の連合審査で厚生省サイドの問題は指摘させていただきたいと思います。ありがとうございました。
○坂井委員長 本日は、これにて散会いたします。