心神喪失者等医療観察法の条文・審議(その46)

前回(id:kokekokko:20060210)のつづき。
前回にひきつづき、法務委員会での質疑です。
【佐々木委員質疑】

第156回参議院 法務委員会会議録第11号(同)
○委員長(魚住裕一郎君) これより参考人に対する質疑を行います。
 質疑のある方は順次御発言願います。
○佐々木知子君 自民党の佐々木知子でございます。
 今日は三人の参考人の先生方、貴重な御意見を賜りありがとうございました。
 まず、岩井参考人が法総研にお勤めだったということで、私の先輩であることが分かりましたので、岩井参考人からお聞きさせていただきます。
 現行の精神保健福祉法措置入院では多々問題点があると。その二番目の、ペーパーの二ですけれども、現行の制度の問題点、問題性ということで、一ないし四を御説明になりました。私も現場に携わっていた者としてそのとおりというふうに思っております。
 そして、新たな法案に御賛成をしてくださるということなんですけれども、新たな処遇制度が円滑かつ効果的に機能するためには、医師と司法関係者の連携が円滑かつ緊密に行われることが重要であって、特に医師の立場から司法と医療との連携の必要性が強調されてきたというふうに承知しているんですけれども、そのための具体的な方策としてはどのようなことが考えられるか。ちょっと時間が足りなかったようですので、もし御意見があれば伺いたいと思います。
参考人(岩井宜子君) 精神医療と法の問題、これまでも犯罪学の領域などは精神医学のお医者さんたちで始められるということが多くて、そして刑事裁判ではやはり精神鑑定が精神科にゆだねられますので、その領域でかなり精神科医の方たちは司法精神医療というものに非常に関心を持っていらっしゃるというふうに私自身はずっと昔からそういうふうに思っていたんですけれども、最近になって割合精神科のお医者さんのお話を聞きますと、一般の精神医療において、余りショック法といいますか、他害行為を行ったような人の治療を行うというふうなことはなくて、一般の精神科の方たちはほとんどそういう司法精神医療というふうなものに関心がないというふうなお話を伺うことがありまして、この犯罪学の分野から見ていたのとまた違うんだなという感じがしております。
 外国などにおきましては司法精神病棟などがあって、そこではかなり犯罪性と精神障害との関連というふうなものの研究が進んでいるわけですね。ですから、どうもそういう他害行為を行った人たちが集中的に治療されるというふうなシステムがないために、余りそういう領域に携わることが少ないというそういうことが生まれてきているのではないか。そこでかなり精神鑑定を行うお医者さんたちも限定された数になってきているような気がいたします。
 ですから、大学などでももちろん精神鑑定という問題を広く教育システムの中に取り上げていただいて、この領域の研究もこれからますます進むようにというふうに願っております。
○佐々木知子君 心神喪失になったケースを見た場合に七〇%とおっしゃっておりましたけれども、家族の方が被害者になっていると。退院されてきた場合もやはり家族が保護をするということになりますと、やはりそういう被害の対象になるかもしれないということで、家族だけで引き受けるのはやはり非常に心身ともに大変だろうと思うわけです。そういう意味で、社会復帰調整官というのが今度設けるというのは私は非常にいい試みだというふうに思っているわけですけれども、退院後のアフターケアというのは、必要な医療保健福祉が円滑に行われるように関係機関が連携してこれに取り組んでいくことが重要であるというふうに考えられます。
 新たな処遇制度におきましては、保護観察所にその社会復帰調整官を新設して、これら関係機関相互の連携を確保することとされておりますけれども、このアフターケア体制の整備に当たって新設される社会復帰調整官に期待することがあれば、岩井参考人、御意見をお伺いしたいと思います。
参考人(岩井宜子君) そうですね、今までそういうシステムがなかったために、結局検察官が通報を行って入院措置が取られなければ家庭に帰されて、もうそのまま自分の責任で通院をするということだったわけですね。それに対して、ある程度、執行猶予者で保護観察を受けたりとか社会内処遇システムで保護観察を受けている人たちは、いろんな形での補導援護、指導監督というものを受けているわけで、そこのところの、今病院に入院させるほどではなくても、投薬などで行動をコントロールできるというふうな場合には、そういうものを確保するという、そういう援助を行う地域調整官がいるということで、非常にこれからのフォローアップが可能になるというふうに思います。
○佐々木知子君 では、浦田参考人に現場の立場でお伺いしたいんですけれども、同じ質問になろうかと思いますけれども、社会復帰調整官のことについてお述べになっておられましたけれども、アフターケア体制の整備に当たって、関係機関相互の連携を確保するためにこの社会復帰調整官に期待されていることというのを御意見を賜りたいと思います。
参考人(浦田重治郎君) 答えになるかどうか分かりませんが、大変期待しております。
 まず、これは法務省厚生労働省と協力してこの制度の対象になる患者様を社会復帰までこぎ着けようという、こういう姿勢だと感じております。
 もうちょっと細かいことになりますが、社会復帰調整官というのはコーディネーター役でございまして、扇のかなめという感じを持っております。例えば、入院となりました患者様を想定いたしますと、入院後の早い時期から病院スタッフとともに社会復帰の道筋を作っていただくような検討会をしていただく、それから同時に、地域でも受け入れるために関係者とやはり準備の検討をしていただくというのが大事かと思います。
 そして、退院されましたら、治療や社会的支援の活動を展開しつつ、その結果を常に検討するための検討をしていただくと。この検討をしていただく中に、先ほど申し上げましたような様々な地域精神医療体制あるいは地域の社会資源というその機関がこの対象になると思います。そうしていただきますと、かなり社会復帰が可能になると思います。
 これは、現在、英国で行われている手法を我が国流に取り入れればいいんじゃないかと、そのように考えております。
○佐々木知子君 新たな法案では、指定入院医療機関を充実させるということで、十分な専門性の確保と同時に、十分な人員の配慮が必要ということでお述べになりましたけれども、日本は従来、司法精神医学というものの観点というのが私は非常に後れていたというふうに思うわけですけれども、諸外国では、今、英国の例をお述べになりましたけれども、こういう方たちに対する治療の実態というのはどのようなものになっているのでしょうか。
参考人(浦田重治郎君) 諸外国のこと、それほど詳しいわけではありません、英国に三度ほど行きましたので少しだけ存じておりますが。
 英国について申しますと、これは大変古い歴史を持っておられまして、戦後かなりのところまでは、いわゆる特殊病院による収容型でございました。一九八〇年代からは、治療的対応をするために、比較的小規模な地域保安病棟が造られました。これは大変手厚い人員でなされています。最近は、更に社会復帰体制を強化しておられます。このように、そして社会復帰のための病棟とか地域での居住施設に力が注がれております。英国は、自ら学び、自らの状況を学びながら、司法精神医学の、臨床的に着々と進化させているなと思っています。
 英国での施設を見学いたしまして感じたことですが、まず一つは、薬物の使い方が日本のようにべらぼうではありません。昔の私の頭ですと、こんなんで治療ができるんかいなというくらいです。
 第二は、精神療法を活用しているということです。これは非常に大切なことで、精神科治療の基本的技法であります。特に、困難な患者様ほど重要な治療であろうと感じております。
 それから第三は、作業やレクリエーションが活発に取り入れられまして、そのための治療的空間も十分にセットされておりました。今回の制度で行われます治療施設には、是非この点は御考慮いただきたいと思います。
 それから、先ほど申しましたように、社会復帰のための地域システムが大変進歩しております。そのために、医師、ソーシャルワーカー、それから看護師等の地域の専門チームが編成されておりまして、このチームが地域の様々な機関と連携して患者様の社会復帰を推進しようとしておられました。これが私の印象です。
 ちょっと付言いたします。
 英国では、一般精神医療でも大変充実しております。病床数は人口比で日本の五分の一くらい、しかし病棟では人員の配置も手厚くなされております。開放的で、隔離も極めて少なく、たとえやられるときでも数時間です。それから、拘束はございません。拘束やったら、人権問題で大変なことになるという話でした。
 そのように、治療が多彩で手厚くなされておりまして、また社会生活を支える地域医療が司法精神医療と同様に活発でした。つまり、我が国とは一般精神医療の分野でも格段の差があると。この点では、英国に少しでも追い付く努力をしなければならないと、そのように考えております。
○佐々木知子君 では、時間の関係上、伊賀参考人に最後の質問をさせていただきます。
 弁護士会なり伊賀参考人の御意見としては、政府案ないし修正案あるいは民主党案にも反対というふうに理解したわけなんですけれども、このペーパーの最後ですけれども、精神医療の中心は、二十五条措置入院につき措置入院審査会を新たに設置し、措置入院の要否、解除の決定、解除後のケアにつき権限を行使できるようにするということのようにありますが、この措置入院審査会というのに司法関係者というのは関与しないということなんでしょうか。要するに、司法の関与というのは必要ないとお考えになるのか、いかにして関与させるべきだというふうに考えておられるのか、御意見をお伺いしたいと思います。
参考人(伊賀興一君) お読みいただいたら御理解いただけると思いますが、検事、弁護士の参加を予定をしています。裁判官を入れなかった理由は事後審査、いわゆる救済制度との関係で裁判官は入らない方がいいという立場です。
 その意味では、現在のお医者さん二名で入院を決定する、退院は一名で決定するという制度で、お医者さんに掛かる負担は様々な病気、医療の範囲だけではなくて、事件を起こした、それから家族が面倒を見ないという状況などなど、社会的要因も含めてお医者さんに影響が出てまいります。それを全部担わせているというのが現行措置入院制度の問題点だろうと。
 もう一つ問題は、その退院決定をする際に、先ほどの社会復帰の問題と関連するんですが、退院後のケアの体制が家族にゆだねられるという状態はいまだ見受けられます。そういう状態の中では、退院を決定できないというお医者さんのジレンマが、症状からは退院した方がいいのに退院する条件が整わないという状態がたくさんあるという、そのために社会的入院が七万人とも十万人とも言われているわけですね。そういうことを、退院後のケアも、その措置入院審査会は権限を持って知事若しくは本省に対しても勧告をすることができると。
 私、実は今、兵庫で福祉工場の建設に携わってやっております。率直に申し上げて、各県で保護観察所に一名若しくは多くても数名しか配置されない調整官ができれば、我々の建設しようとしている福祉工場、退院後の仕事を提供する場所がスムーズにできるかどうかという点では疑問です。
 そういう人員よりも、予算が欲しい、そういうことを主にした政策が欲しいと、そんなふうに考えていますので、社会復帰を現在家族にみんな任せているという制度だというふうにおっしゃるのはちょっと違うのではないかと。社会復帰のために、家族も、それから地域の保健婦さんもソーシャルワーカーもみんな頑張っているけれども、それに対してスポットを当てる政策、予算が付いていないというところに問題があるのであって、重大な事件を起こした人だけにそれが付いて、それが進むということにはならないのではないかというふうに衷心思うわけです。
○佐々木知子君 じゃ、ちょうど時間が参りましたので、終わらせていただきます。

【朝日委員質疑】

○朝日俊弘君 民主党・新緑風会の朝日でございます。
 三人の参考人の皆さん、御苦労さまです。限られた時間ですので、私は、大変失礼をお許しいただいて、伊賀参考人と浦田参考人に絞って御質問をさせていただきます。
 まず、伊賀参考人には二つ。
 一つは、衆議院に提出された政府原案と衆議院で修正された修正案と、それが一つになって参議院に回ってきたわけですけれども、この政府の原案と修正案とをどう評価したらいいのか、いささか意見がばらついています。先ほどちょっとお述べになったと思いますが、もう少し詳しく、伊賀参考人としては、政府原案と修正部分を比較をして、どこがどう良くなったのか、逆にどこがどう悪くなったのか、その評価をお聞かせいただきたいというのが一つ。
 それからもう一点は、原案、修正案共通部分で、この新しい法律では確かに裁判所がかかわるわけですが、裁判ではなくて、裁判と精神科の審判員がかかわったある種の裁判所を使った審判という制度になっていて、そういう意味では通常の裁判で保障される権利というかが必ずしも十分担保されていない。とりわけ、弁護士が、弁護人が付添人という形で付くことになっているわけですが、裁判のときの弁護人のような役割を果たせないような仕組みになっていると思えるんですが、その点についての御意見。この二点をお願いします。
参考人(伊賀興一君) まず一点目の政府原案と修正案の関連といいますか、その位置付けをどう見るかという御質問ですが、私は三点においてお話をさせていただきたいと思います。
 一つは、修正案の主要な修正部分は明らかに処遇要件を変えられたというところであります。政府案は、再犯のおそれ、再び対象行為を行うおそれということが判断対象でありました。それが修正案では、この法律による医療の必要ということにその要件が明らかに変わりました。この要件の違いは、二つ目の問題として、そのよって立つ法律の理念の違いにつながるのかどうかというところを見なければならないと思っています。それは、三つ目に、構造上、じゃその理念を支える構造になっているのかという点で見なければならないと思っています。
 まず、一つ目の処遇要件ですが、処遇要件だけを見ますと、再犯のおそれという要件は明文からは消えています。しかしながら、この法律の第一条、対象行為の再発防止、それから、何条でしたっけ、四十条でしたか、処遇要件についても、この法律による医療の必要の前に再びという言葉は消えたんですが、対象行為を行うおそれと、行うことなく社会復帰できるという用語が残っています。このことからすると、この処遇要件が再犯のおそれといういわゆる社会防衛的観点、若しくは将来の危険性除去という理念を全く排除したものと言うことは法律上はできないのではないかというふうに考えています。そうしますと、処遇要件は変わったけれども理念は共通するというふうに言わざるを得ないというふうに日弁連としては考えています。
 それが構造上どうなるかということですが、裁判官が審判に加わって精神科医と一緒に判断をすることになりますが、私も裁判官の経験ありませんが、同じ司法の関係者として申し上げますと、司法部というのは大体保守的で、治安維持を軽視しません。大変重視をする職、仕事柄持っています。裁判官がこの法律による医療の必要という修正案による処遇要件を判断せよというふうに言われた場合に何を判断するかというと、結局、生活状況であるとか家族の受入れ状況であるとか、それが事件を起こしかねない条件があるのではないか、そういう環境なのかどうかということを判断するということになりまして、結局、政府原案と修正案とは構造上も同じになると。我々は、裁判官の関与もまるっきり変えられるということが修正案の処遇要件からは可能であったと思うのですが、そこがなされていないのが若干問題であるというふうに考えています。
 二つ目の御質問ですが、審判制度の中において付添人に何ができるかという御質問がありました。
 我々も、この法律案がもし通りましたならば、日弁連は総力を挙げて付添人の仕事をさせていただくことになろうかと思いますが、刑事事件では適正手続の保障というのが憲法三十一条から定められており、弁護人は被告人の利益と社会の利益のためにも全力を挙げてその権限を行使する、その権限も刑事訴訟法に規定をされています。ところが、今回の審判では、付添人は事実調べにおける証人の申請とか様々な付添人活動について権利がどこまで規定されているかというと、実は権利はないのですね。刑事訴訟法を事案の性質に反しない限り準用するとあって、証人申請権であるとか鑑定申請権であるとか様々な権利性は認められていない。
 ただ、私どもは、このような事案の性質上、重大な事件が起こったか否かということをどうしても審理しなければならない制度を構築されているということの方が問題なのではないかと。そのための無理が、こういう付添人の権限を制限したり、早く、刑事事件なら三か月、六か月掛かるやつを一か月や十日で審理をできるようなシステムを考えられた。そこに無理があるのではないかというふうに考えています。
 もう一点、付け加えさせていただきます。
 裁判官の関与との関係で処遇要件をどう見るかということで実は重大な問題があるなというふうに思っています。
 例えば、付添人が家族と協力をして、従前通っていたお医者さんなり、新しく信頼を置けるお医者さんとの間で医療契約を結んで、本人も病識を持ってその病院に行くというふうに契約ができた場合、この審判においてその資料を提出したら、裁判所は、この法律による医療の必要という判断の中で、そこまで医療の準備ができているんならこの法律による医療の提供を却下して自主的な医療を受けなさいというふうにするのか、何ぼ自主的に確保してもこの法律による医療しか駄目なんだというふうになるのか、ここがこの法律では全く明らかではないんです。これは大問題だというふうに考えています。
○朝日俊弘君 ありがとうございました。今後の審議の中で明らかにしていきたいと思いますが。
 次に、浦田参考人に二点に絞って、三点ですね。
 一つは、参考人も意見陳述の前半でおっしゃいました、患者さんがある意味ではきちんと裁判を受ける権利というのを求めているんじゃないかと。確かに、そういう思いを私も聞くことがあります。ただ、その場合、こうした今の法律案のようなあいまいな審判ではなくて、きちんとした裁判を受けたいという気持ちなのではないかと私は察しますが、この点はどうでしょうかというのが一点。
 二点目は、先ほども伊賀参考人にお尋ねしましたが、今回、政府の原案と修正案とで、特にこの対象となる要件についての表現が変わりました、規定ぶりが。当初は、やはり再び対象行為を行うおそれという、明確に書かれていたわけですが、それが今度は、修正案では、対象行為を行った際の精神障害を改善し、同様の行為を行うことなく社会復帰を促進するためにと、こういうふうに変わりました。この点について、臨床に携わっている先生としてはどういうふうに受け止めておられますか、どう評価されていますか。これが二点目。
 三点目。社会復帰調整官が設置された。しかし、その所属は保護観察所である。保護観察所にいる社会復帰調整官が本当に地域における社会復帰のコーディネーターとなり得るか。この三点。
参考人(浦田重治郎君) 今の朝日先生のお話ですが、審判と裁判では違うんじゃないかということでございますが、少なくとも私は、今の例えば措置入院制度、こういうところにおけるそういう判定が司法の側では下されないまま検察庁で、検察のところでいわゆる不起訴になったりして、そして精神保健法に入ってきて行政でなされている、そういうシステムとはやはり基本的に違って、司法の中での、裁判ではありませんが、裁判官と精神科医の合議体によって審判がなされるということは、それはそれなりに司法の中でなされていると私は考えてよろしいんではないかと思っております。これは、だからこれ、私の意見でございます。ですから、これが正式な裁判じゃないから駄目だと言われると、それは私はどういうふうに答えていいかは分かりません。
 それから、原案と修正案の違いです。
 確かに、原案ではおそれということではっきりしておりました。基本的には私、こういうことを言うとしかられるかもしれませんが、原案でもそれほど大きな違和感は持たなかったのが私の考えです。なぜかというと、おそれというか、再犯性の予測ということについては随分いろいろと議論されております。そんなことはできやしないという意見もあちこちから上がっております。これについては、必ずしもどうなのかという私は疑問を持っておりました。
 医師というのは、いわゆる見立てをするという仕事をします。この見立てというのは、現在どうなのかということと同時に、これからどうなるのだろうかということです。この中に、この場合ですと、やはり精神症状の、病状がどうなっていくのか、それと同時に行動はどうなるんだろうというような変化を読まなければいけません。ただしかし、これは私はただただ読むということだけではないと思っております。読んだ上で、どういう問題が起こりそうなのだから、どういう問題の可能性があるから、それに対してどうするのかというような対策も同時に出していきます。つまり、問題があることに対する対策を出して、そしてそれで対応するわけですから、最近のリスクマネジメントの手法みたいなものでやっていくのがこのやり方かなと思っておりました。
 また、その予測性を少しでも高めたりするために、私ども今、松沢病院の松下先生が、松下院長が班長となられました研究班がございまして、そこで様々な検討をしておりますが、その中で、こういう予測をどうするかということについての評価を更に詳細にできるようなことも検討しております。
 ですので、そういう意味では、今まで我々は余りにもこの点を避け過ぎていて、議論を避け過ぎていたんではないかと。もう少し突っ込んできちんとやれば、その点については、それは胸を張ってできますとは言えませんけれども、かなり我々努力すればやっていけるのではないかと、そのように考えております。
 それから、ですので、修正案になりましたので、私、ちょっと自分の頭がむしろ混乱したくらいですが、ただ修正案になりまして、ああ、そうかそうか、もっと治療とか社会復帰の企ての方に重心を置けということなのかなと。しかし、基本的なベースはそれほど私は変えておりません。
 それから、社会復帰調整官についてです。
 社会復帰調整官が確かに保護観察所というところでやられるということについて違和感はありました。よく、じゃ、保健所がやればいいじゃないか、精神保健センターがやればいいじゃないかというような御議論もございます。
 しかし、実は、私、この前の精神保健法の法律の移送問題のときの体験を申しますと、大変実はあれは保健所の方でギブアップされておりました。今でもされております。ということは、こういう問題について新たなる問題、困難な問題が生じますと、保健所でも、あるいはそういうところですら相当お困りになる、困難であると。私は、だからどちらがいいのかと言われたら、社会復帰調整官が、じゃない、保護観察所がいいのか保健所がいいのかと言われたら、どちらがいいとも私は分かりませんと、むしろ中身ですと答えたいです。社会復帰調整官が何をやっていただけるかだと思います。
 先ほども申し上げましたように、社会復帰調整官がコーディネーターとしてしっかりやっていただくということが大事で、そのための社会復帰調整官の私は修練といいますか、これが非常に大事だと思います。
 それからもう一つ申し上げておきたいことは、その社会復帰調整官に、やはり先ほどから言いましたように、地域のいろいろな機関、それから、そういう社会復帰のためのいろんな生活支援のための、我々、社会資源と呼んでおります、こういうものが積極的に協力していただくことだと思います。これは司法の側でやっていることだから、おれら手を出さぬよというんじゃなくて、是非、私、この問題については両者が連携していわゆる縦割りをなくしてやっていただきたいと、それが大事なことだと思っております。
○朝日俊弘君 ありがとうございました。

【浜四津委員質疑】

浜四津敏子君 公明党の浜四津でございます。
 本日は参考人の皆様、大変貴重な御意見をありがとうございます。
 まず、岩井先生にお伺いいたします。
 日本の刑法は、責任なければ刑罰なしという一元制を、責任主義、一元制を取っております。責任能力者には刑罰を、責任無能力者には治療処分をという二元制を取ってはおりませんが、ヨーロッパ諸国ではこの二元制を取っている国も多く、また、実際に社会復帰の実効性等を上げているという国も数多くあります。
 今回の制度というのは、あくまでこの刑罰一元制を崩していないわけですけれども、それは日本の社会の実情を考慮したものとも理解できますが、ある方からは不徹底ではないかという批判もありますが、これについてはどうお考えでしょうか。
参考人(岩井宜子君) 私自身も、もし、その二元制を採用して刑事裁判所で治療処分というふうな対応を取るという、刑法改正草案で提案されたものですけれども、そういうシステムがきちんと実現するならそういう対応でもよかったんではないかというふうに思うんですけれども、ただ今回の法案は、ある程度イギリスの制度、病院収容命令というふうなものをむしろモデルとして導入しようということを考えられた。
 これまで、措置入院制度というもので、精神医療の領域で犯罪を行ったといいますか、他害行為を行った精神障害者も治療を行ってきたわけで、その実績からいたしましても、特に新たに治療処分というふうなものを設けることなく、そして精神、責任無能力の方にはやはり治療と、精神医療における治療というふうなものが必要だということで、それを今までの措置入院制度とそう違わない医療優先の領域で実現する、そして適切な手続の下に行うという、そういう折衷案のようなところでこういう案が提案されたというふうに考えておりまして、そういうふうに精神医療と刑事司法というものがそういう形で協働していくという、そういうシステムもいいのではないかというふうに考えております。
浜四津敏子君 本制度の審判手続において、処遇の要否、これも岩井先生にお伺いしますが、処遇の要否、内容の判断に、医師だけではなく法律家も加わるということにつきましてはどのようにお考えでしょうか。
参考人(岩井宜子君) やはり、今までも刑事責任能力の判定というのは、医師、精神科医の精神鑑定に基づいて裁判官が刑事責任能力の判定は行うんだということですね。
 やはり、精神医療に、精神病院に強制的に入院させるという、そういうシステムにおきましては、本人に同意能力がないという、そういうことは前提になりますので、本人の能力の問題が関連してきます。
 そういう能力がどの程度まで備わっていれば本人の意思を無視しても強制的に入院し得るのかという、精神的な能力の場合、責任能力だけに限らず、同意能力などについても、やはり裁判官の判断というふうなものが適切に今までの基準などを参考に判断し得るものではないかというふうに考えております。
浜四津敏子君 次は、お三方それぞれにお伺いさせていただきます。
 まず伊賀先生は、レジュメの中で、最後のところで、いわゆる人格障害者問題と覚せい剤患者の問題についてお述べになっておられます。
 私も、精神病者ではなく、精神病質あるいは人格障害と言われる人で犯罪を犯したという人たちへの処遇というのがこれから大変大きな問題になってくるんだろうと思っております。ドイツでは、既に社会治療処分が行われております。一時ストップしてまた復活いたしましたけれども、重大な性犯罪に限って復活いたしましたが、日本で、社会治療処分はできませんが、社会治療的処遇というのは必要になってくるのではないだろうかと思っております。いわゆる九州モデルと言われておりますように既に実施されているところもありますけれども、日本では大変この部分が非常に後れていると言われております。
 この人格障害犯罪者あるいは薬物依存者の犯罪者に対する処遇についてどう取り組むべきとお考えなのか、お伺いしたいと思います。
参考人(伊賀興一君) 大変難しいところで、日弁連の中でもどのような施策がいいか模索をしています。
 例えば、オランダのTBRとかいうのは、収容処遇だけじゃなくて非収容処遇も含めて公務員がその生活援助、教育援助をしながら、日常生活の中でそういう暴発なりというのを防いでいくというような処遇がなされているように聞いていますし、覚せい剤患者の問題も、実は精神病院の中で生活歴がやくざであるとかいうことで患者さんが看護婦さんやお医者さんの意見を聞かないために困難であるとか、そういう問題がありますから、私は、この問題は具体的にこうするべきだという日弁連の意見は現在のところ申し上げるところまでは至っていません。
 ただ、イギリスの現在の司法精神医学も、事件を起こしたか否かにかかわらず、いわゆる人格障害者に対してどのような治療若しくは施策が妥当かということが法律案を伴いながら検討されているというふうに聞いていますので、日本も、後れたヨーロッパの保安処分に追い付こうとするよりは、最先端の理論に検討を、そのスタンス、変えた方がいいんじゃないかというふうには実は思っています。
 一点だけ付け加えさせていただきますと、司法精神医学といいますか、保安処分制度、治療処分制度というのが収容処遇、いわゆる閉じ込めるということを主にした制度として世界的にもできてき、今日あるわけですけれども、必ずしも成功していない理由は、精神医療の発展とタイアップできていないからだと思います。閉じ込めてしまった中では、事件を起こした人の危険性だとかいうところに注目が集まって、人員の配置なども刑務官が物すごいですね。私も行ってびっくりをしましたが、やはり刑法理論というのは社会の力量に規定されざるを得ない側面を持っていますので、閉じ込めの医療の時代にそういう施設ができたのはやむを得ないかと思いますけれども、現時点で、精神医療の開放化、地域化というふうに言われている中で、一般医療が改善されないまま重大な事件を起こした人だけの収容処遇策を立てることは、これはもう一度再検討いただきたいというところです。
浜四津敏子君 同じ質問ですが、岩井先生、よろしくお願いいたします。
参考人(岩井宜子君) 薬物使用者や人格障害者の場合には責任能力ありというふうにされまして、なかなかこの対象にはならないんじゃないかというふうに思うわけですね。
 ですから、心神耗弱という判定の下にもしそういう治療体制というふうなものが整えば、そちらの方にゆだねた方がいいという判断がされるかもしれないんですけれども、その場合、かなり処遇は難しいだろうというふうに思うわけですね。
 しかし、社会治療処遇というのがスイスやオランダなどかなり工夫されておりますので、そういう処遇システムというふうなものもかなり研究が進められて対応はなし得るようなものが、刑事責任能力ありとするならば、刑務所における処遇の中でそういう処遇が入れられるように体制を整えるべきだというふうに考えております。
浜四津敏子君 ありがとうございます。
 同じ質問ですが、浦田先生、お願いいたします。
参考人(浦田重治郎君) まず、人格障害の問題ですが、純粋に人格障害である場合にはほぼ私は責任能力ありというふうに考えております。これは、私、今まで実は鑑定もさせていただいておりますが、自分のそういう今までの経験に立って、そのように考えております。
 もちろん、実は精神病状態とこれが合併することがあります。ここがこれから大変難しいところになると思います。こういう中で、私どもはやはり人格障害の部分にどう対応していくかというのが、多分これからの我々の一番難儀する課題でもあるし、どうしてもやっていかなきゃならない課題であろうと思っております。
 それから、覚せい剤問題です。これはちょっとこの議論から、議論というかこの法の議論から外れるかもしれませんが、覚せい剤の問題につきましては一点、覚せい剤を使っての精神病状態、結果として、これについてはきちんと治療しなきゃいけないと思っております。
 ところが、ただ覚せい剤を使用したと、これが覚せい剤依存であるということでよく問題になります。それから、そういう方では、精神病状態がすっかり収まった後も、覚せい剤の使用があるんだから、その依存があるんだから、乱用があるんだからということで問題があります。
 しかし、これはよく考えてみますと、覚せい剤というのは覚せい剤取締法というのがございますよね。この点はしっかりした運用をしていただきたいというのが割に現場の考えです。こういうことは、例えば幾つかの自治体では、かなりこの問題については司法というか警察や検察と話し合ってしっかりした対応をしてくださいと、覚せい剤使用ということで罪に問われますから、そういうことをやっております。
 ですので、そういう観点からいきますと、例えばこの法で重大な犯罪ということになってこの方々が来られるにしましても、精神病状態の治療はかなり可能だと思います。しかしながら、使用ということ、いわゆる依存ということになると、かなり困難な部分がまた先ほどの人格障害の問題と同様に起こってくるだろうと。これについてどうするかというのは、かなりこれから早急に議論を詰めていかなきゃいけないと思っております。
浜四津敏子君 最後に、浦田先生にお伺いいたします。
 今回の新たな処遇制度は、日本における司法精神医学の向上発展にどのような意義を有することになるとお考えでしょうか。
 また、どのような教育システム、まあ教育システムのモデルとしては例えばドイツのようなきちんとした整備されたものもありますけれども、日本ではどういう教育システムを作り、またどういった専門家を育成するべきとお考えでしょうか。
参考人(浦田重治郎君) 司法精神医学の向上ということでございますが、原則的に言いまして、我が国の司法精神医学につきましては、今までフィールドのない研究で、すそ野の広さも持っていなかったというふうに、こういうことを申し上げますときっと権威の先生方からおしかりを受けるかもしれませんが、やはりそのように感じております。
 この制度が立ち上がりますと、一つには指定入院医療機関が作られまして、そこでさらにまた指定通院医療機関とか保護観察所の社会復帰調整官による地域社会と密着した体制が作られますので、言ってみればこれは司法精神医学が一つのフィールドを持つことになると、そのように感じております。
 今言われたようなことが具体的にはちょっとなかなか答えにくいんですが、こういうシステムの中で、しかももう一方で、実は今の厚生労働省の流れの中で精神医療も改善しようとしておられます。ということから、非常に、先ほどちょっと孤立ということを言われましたが、むしろ他の精神医療の分野と密接に交流した、あるいは他の精神医療、医学の分野から学べる司法精神医学が構築できるのではないか。実際に指定医療機関を単独でどこかにぽつんと作るわけではなく、今ある医療機関の中に置こうという構想ですから、そういうように考えております。
 それから、他の精神医療の分野に、こちらからも実はかなり、先ほどから私申し上げておりますように、このシステムでの医療機関は充実したものを作っていただかなければならないと思いますが、そうすることによって得ました成果を、逆に他の一般の精神医療の分野に発信できるのではないか、そのように考えております。
 それからもう一つ、教育とか研修の問題、専門家の育成のことを今御指摘になっておりますが、これも余り、私もまだ具体的なことを議論したことはそれほどありません。ただ、一つ、実は私どものおります精神・神経センターの研究所にこの秋から司法精神医学の研究部が立ち上がります。これは非常に重要なことで、要するにこの制度の、まだ法律も成立していないのにこんなことも申し上げたら怒られるかもしれませんが、この制度が立ち上がっていく、その立ち上がりと一緒に司法精神医学を立ち上げられると、そのように考えて、今、私ども臨床の方からも研究所の方へいろいろとお願いをしているところであります。
浜四津敏子君 ありがとうございました。

【井上委員質疑】

井上哲士君 日本共産党井上哲士です。
 三人の参考人の皆様、本当にありがとうございます。
 最初に、起訴前鑑定の問題について伊賀参考人と岩井参考人にお聞きをいたします。
 法案への態度は全く逆なわけですが、起訴前鑑定に問題ありという点では同じような御意見だったかと思います。
 衆議院参考人の議論の中でもこの問題は随分質疑でも出ましたが、例えば、重大な他害行為を起こした場合は必ず本鑑定にする、ないしは必ず裁判まで行く、こういうことも必要ではないかというような御意見もありました。こういう御意見に対して、それが果たして本人の利益になるんだろうかと、例えば本鑑定にしますと非常に長い時間が掛かるというようなことも含めて、ありました。
 現状の起訴前鑑定の問題点と、こういう必ず本鑑定ないしは裁判にするという意見について、それぞれどのようにお考えか、お願いをいたします。
参考人(伊賀興一君) 起訴前鑑定でやっぱり問題になるのは、簡易鑑定がある意味で一般から見てルーズというふうな面があると、そういうところだろうと思います。その意味では、それを是正するためには、数時間でやっぱり初診に毛が生えた程度の判断で鑑定結果を得るというより、少なくとも二、三日、留置場、留置場所も医師が都合のいい場所に移るなどして鑑定をできるように、これは本鑑定でなければならないということではなくて、早期に、逮捕勾留期間中に判断を検察官ができるようにするということと、それを安易に、軽易にするということを避けるということと、この二つの側面からやるべきではないか。
 最近でいいますと、我々も実務やっていますと、法務省の方で、検察庁、相当程度そういう努力をされていて、鑑定人も個別に絞っていたのが徐々にいろんな人に頼んでいくとか、そういう努力をされていますので、その点の是正は進んでくるのではないかと。しかし、もっと明確にそういう議論を国民的にも起こしていってやる必要があるのかなというふうに思っています。
参考人(岩井宜子君) 私、少しやった調査によりますと、かなり、殺人のような重大な行為が行われている場合には、現在でも本鑑定が依頼されているケースが多かったわけですね。
 ただ、この前少し法務省の出された資料を見ますと、簡易鑑定のみで措置入院がされたケースというふうなものには、やはり親族間の殺害行為というふうなケースがあったようで、そういう場合にはやはりもう起訴をすることなく、病院での治療にゆだねた方がいいという判断がされやすいのかなという感じがいたしましたけれども、検察官がやはり、この法案ができましても検察官がこの審判を提起するかどうかということを判断するわけで、起訴するか、そしてこちらの審判にゆだねるかというふうなことの判断をするわけで、かなり責任能力判断にとって重大なわけですね。
 ただ、簡易鑑定を行った段階で、かなり責任能力に問題があって病院治療が適当であるというふうに判断されるような場合には、今度の、審判というふうなものが手続がなされて、そこでの鑑定も期待されるということですと、それでもいいのではないか。ただ、一日、半日だけでの問診というふうなもので決定されるというようなものは少し安易過ぎるので、もう少し慎重な手続が必要ではないかというふうに考えております。
井上哲士君 次に、浦田参考人に医療の問題でお聞きをいたします。
 この重大な法に触れる行為を行った対象者について、普通の患者と同じ病棟にいることが大変医療にとっては障害だというお話がございました。一方で、そういう行為を行った人を逆に一般の人から隔離をする医療を行うことは、その人の病状回復にとってはかえって良くないんだという議論もあります。
 浦田参考人も、地域に戻るときには地域にある一般精神病院機関に大いに掛かっていくということの重要性も指摘をされているわけですが、こういう言わば重大な他害行為を行った人だけを隔離をした治療を行うということがその人の治療にとってどうなのかという、そういう御議論についてはどういうお考えでしょうか。
参考人(浦田重治郎君) まず、この法律、一応読ませていただきましたが、これ、すべての方を、重大な犯罪行為があって、すべての方を入院治療するとは書いていないように私は思いました。通院もあると書いてありました。どのくらいその比率がどうなるのかは分かりません。ですので、まずもってそこは少し区分けしておいた方がいいだろうなと思います。
 それから、私は、最初に意見陳述で申し上げましたように、一つは、大きな専門性の問題というか、重大な他害行為を行った方の場合のやっぱり心理・社会的問題というか、この辺はかなり重視しなければいけないだろうと。今までというのは、どうもそういうことは必ずしも、さらっと表面的にしかやってこなかったんじゃないかと、そういう点を私ども痛感しております、自分たちでも。ですので、やはりそういうところは少しもうちょっときちんと突っ込んでカバーしていかなきゃいけないと、それが一点です。
 それから、もちろん、そういう人ばかり集めたらまた大変なことになりますよという話も決して私は無視いたしません。しかし、そのためには、じゃ、どういうようなセッティングをすればいいかということもこれから考えなければいけないと。
 イギリスの例えばそういう地域保安病棟等を見させていただきましたが、かなり、一つの病棟を幾つものユニットに分けられた、細かいセッティングをされております。それから、そういう中でやはり病状に応じた対応をされております。例えば入院の評価、それから重症状態、重症な時期、それから、そこからある程度回復してきたとき、それから社会復帰直前というふうに、割に少人数でユニットを分けられております。これは、割にやっぱり、今言われたようなあつれきの問題から考えますと非常によろしいのではないかと、そのように考えております。そういう点では避けられるだろうなと思います。
井上哲士君 今のに続けてお聞きをするんですが、伊賀参考人の陳述の中でも、そういう人たちに対する医療はイギリスの場合でも特に変わらない、医療内容としては一緒なんだというお話もありました。
 先ほど、先生の陳述では、心の傷、そういう重大な他害行為を行ったことに対する心の傷なんかに配慮するということは一つ言われたんですが、医療内容としては、そのほかにそういう特別な医療としてはどういうことをお考えなんでしょうか。
参考人(浦田重治郎君) 一つは、今、心の傷の問題を言われましたので申し上げますが、そういう心理社会的な問題から考えた精神療法的なものをきちんとこれから取り入れていかなければならないと。この間、この二年間ほど、この問題が出てきましてから、主に私は英国ですが、英国の司法精神医学の方々と意見を交換しましたが、やはり精神療法的なアプローチが非常に重要であるということを指摘されております。この辺は私は同意でございます。
 それからもう一つ、私の経験から申しまして、先ほども申しましたが、御本人に対してもそうなんですが、もう一つは周囲に対する、特に御家族、関係者に対するアプローチも必要であろうと。これは、最近、心理社会的介入と呼ばれております。
 例えば御家族、先ほど言われたように、非常に近親者のところで事件が起きたりしていますから、御家族の抵抗性というか、非常にいろんな心の葛藤があります。それから、もちろん病気ということに対する御家族の構えもございます。こういうものをどういうようにやはり改善していくかというような家族療法的なものを、我々、心理社会的介入と呼んでおりますが、そういうことをやはり取り入れていく必要もあろうと、そのように思っております。
 私、正直言って、ただ、最初に申し上げましたように、一精神科の臨床医でございますのでこれが専門ではございませんが、そういう議論の中で様々な手法があると、そのように、今言ったようなのが一例でございます。
井上哲士君 次に、社会復帰調整官の問題で伊賀参考人にお聞きをいたします。
 先ほどの質問の中で、浦田参考人は、保護観察所に置くことでも、問題は中身だというお話がありましたけれども、伊賀参考人の中では問題だということがございました。保護観察所に置くということがどういうような懸念をお持ちなのか、お願いをいたします。
参考人(伊賀興一君) 保護観察所は、我々も、弁護士としても大変親近感のある場所のように見受けられていると思いますが、実際には保護観察所に我々が行くことは一度もありません。少年事件で保護司さんが、全国で子供たちの更生のために頑張っておられるそういう保護司さんを通じて保護観察所を知るという程度で、実際には姿の見えないところです。
 刑務所を仮釈放された方が社会復帰をする上で保護観察所が関与される、それから恩赦などの申請を保護観察所が受けてその人の家族状態や被害者への慰謝状態を調査をするとか、そういう業務をされているというふうに伺っていますが、それぞれの対象者の退院後の通院状態や家族の大変微妙な動きや、時として起こる治療に対する拒否から出てくる症状の悪化などを、調整官という名前が付された方が一県に多分お一人、もしくは大きなところでも数人しかできないのに、それで果たして浦田先生のおっしゃるような内容を伴うことが可能なのだろうかということが一点ですね。
 もう一つは、現在でも精神病院に三十三万人という方が入院されていますが、その中で、厚生労働省がおっしゃるのでも七万人、他の統計によれば十万人もの患者さんは、退院の条件さえ整えば退院した方がいいという方が入院を継続されているというふうに伺っています。これは一体何なのか。これは社会復帰が、ある調整官という方が設置されたからといって、それでできるほど日本の社会、精神医療を取り巻く環境というのは簡単ではないということを示しているのではないだろうか。
 私ども、患者さんが社会復帰できる、いわゆる退院をして社会生活を営むようになるということを大変重視をしますが、それができていない方が七万人も十万人も。これ、比較しますと、日本の刑務所で、入っている方の七万人と比較しても、事件を起こしていない患者さんがそれ以上に入院という拘束状態から抜けられない、この状態が一方であるのに、社会復帰調整官ができたからといって重大な事件を起こした人が社会復帰ができるというようなことは言えないと私は思っています。
井上哲士君 ありがとうございました。
 終わります。

【福島委員質疑】

福島瑞穂君 社民党福島瑞穂です。
 今日は、お三方、本当にありがとうございます。
 この法案によって強制隔離されて、長期入院する人が増えてしまうのではないかという懸念をちょっと持っているのですが、イギリスのインディペンデント紙、二〇〇二年六月十六日号に、最高度保安病院に拘禁されている人たちは、公共の安全のためと本人のためにいったんは病院に収容された人たちではあるが、その中には、今は治療に成功し病院から移動する準備ができたと本人はもちろん、家族、そして医療当局も確信しているにもかかわらず拘禁され続けている人たちもいると。記事は、その後、審査に参加する知識のある専門家が不足していることと、地域でのケアが不足しているために、回復しても出口のない高度保安病院という記事をイギリスのインディペンデント紙が書いております。
 このように、結局、社会の中から見えなくなってしまう、あるいは強制長期隔離されてしまう、こういう懸念を非常に思うのですが、伊賀参考人にお聞きをします。
 この法案と全然別に、精神医療の問題について課題山積でしょうが、どういうことをやればもっと本当に解決できるでしょうか。
 なぜこういう質問をするかというと、私自身は、厄介な問題を非常に司法と精神科医に押し付けて国立病院にどっと収容してしまうような、そんな制度にちょっと見えてしまうので、こういう質問をさせていただきます。
参考人(伊賀興一君) そうですね、一言で、私、先ほどからの議論をお伺いしていて申し上げたいなと思っていたことは、今やっぱり日本の社会で精神障害のゆえに重大な事件が起きて、それに対して耳目が集まっているということだろうと思うんですね。その際に、重大な事件を起こした原因が医療にある。その医療の、根本的に多方面の課題がある中で、私はやっぱり治療の中断という事態を日本の医療は起こしている。これは入院中の患者さんにも起こっているというふうに考えています。重大な事件を起こす原因が医療にあるのに、その医療の改善をしないで、重大な事件を起こした人だけの治療や、だけの社会復帰というのを検討されているのがこの法律案という意味で、私は精神医療の専門家ではありませんが、大変寂しい思いを今しています。
 やはり事件を起こす原因が医療にあるならば、医療のどこを改善しなければならないかということを医療の側がもっと明確にすべきなのではないだろうかというふうに実は考えています。そこは、僕は、最終的には医療の中断を防ぐような、だれでもいつでも安心して掛かれる精神医療にすることなんだ。安心が今の医療にはない。入院したらいつ出れるか分からないという不安を持つ。入院したら電気ショックを無承諾でやられる。様々な精神医療が、閉じ込められた中で、人目がない中で行われる不祥事等も報道されていますが、そういうところを本気で変えれば、国民が心配している、病気によって事件が起こるということも防げるし、事件を起こした人もそういう医療の下で再び事件を起こすことは実際にはほとんどなくなるのではないか、そんな感じでおりますが。
福島瑞穂君 私も、司法が関与するということが、逆に法律家、特に裁判官は客観的事実の認定という訓練を受けた人たちなので、同じような犯罪を今後犯す可能性があるかどうかということについては判断の訓練を受けていないし、精神医療については全く素人なわけですね。そうしますと、結局、裁判官が入院、退院についての判断を最終的に下すとすれば、問題が起きない方向に、自分の立場を守る方向にしか動かないとすると長期入院になってしまうのではないかというふうに思うのですが、伊賀参考人、この点についてはいかがでしょうか。
参考人(伊賀興一君) おっしゃるとおりではないかと思います。
 処遇要件からしましても、この法律案の修正案では、法律家として裁判官は何を判断していいのか。結局、法律全体の中にちりばめられている、事件を再び起こすことがないかどうかを判断を求められると。そうすると、事件を再び起こすか否かというのを、一年後、三年後起こるかどうかなんて判断を求められても、法律家としたら、起こったら自分の責任だというふうになりますから、どうしても起こるということを懸念する。そのための長期化というのは、イギリスのブロードモアなんというのはもう典型例ですね、入って出れない。そのために出せる場所として中間保安ユニットというのが作られてきたという実情があるようです。
 そういう意味で言いますと、僕は、裁判官が、医療の必要というのを精神科医が仮に判断された場合に、それが本人の環境状態から見て適切な判断なのかどうかという事後審査というのなら我々は裁判官にゆだねることは可能だろうと思うんですが、入院医療をしなければ再び事件を起こすかどうかということを判断を求められたら、それはもしかして起こしたらえらいことやから入院しておってちょうだいというふうな、退院に消極、入院に積極というふうに、これは率直に申し上げて、法律の仕事をしている人は必ずそうなると思います。
福島瑞穂君 浦田参考人にお聞きをします。
 私も精神医療については本当に素人なんですが、治療が必要な人、あるいは何かのケアが必要な人はそれをきちっと様々な形でやるのがいいんじゃないかと。この法案についての私の違和感は、他害行為をかつて行った人間のみを閉じ込める国立の施設を作ってしまうので、例えば警備が頑丈になるんじゃないかとか、共生社会ではありませんが、いろんな人といろんな人が接する方が人間の精神状況にはいいわけで、特別な人を特別に集めるという形を取るとますます良くないではないか。あるいは病院に家族が面会に行ったりするときも負担ですし、本人が社会に復帰するときも、遠い病院から地域に戻ってくるということで本人の負担もあるんじゃないかというふうに思うのですが、その点についていかがでしょうか。
参考人(浦田重治郎君) まず、確かに特別な施設だけを作るんであれば問題であろうと思います。しかし、今度の場合はそういうような特別な施設だけ、国立何々指定入院医療機関というのを特に作る、特別に作るんじゃなくて、現在ある中でそこに設置していくというようにお聞きしております。つまり、現在私どもが一般精神医療を行っているそういう施設の中に、病棟としては多分新たなものになるでしょうけれども、そこに作られていきます。ですので、孤立した存在ではそういう意味ではないと思います。確かに患者さんはそこへ集まります。
 それから、そういう点で、そういう人だけを集めるのは良くないんじゃないかという懸念は、それは絶対否定はしません。そんなのゼロじゃないと言われたら、それは、例えば逆に言うと、非常に重症の状態の人を集中治療ユニットなんかに集めていくのも同じようなことですから、そういう若干の損得勘定はあると思います。
 しかし、もう一方では、治療を進めていく上で、先ほど申しましたようないろんな専門性の集約だとか、そういうものを、専門性を投入できるとか、それから今の専門性の問題から言いましても、私はメリットもあると思っております。そういうバランスの問題であろうと思います。
 それから、家族とかそういう人たちが近づきにくいかどうかということになりますと、これも一つの今ある医療機関の中に作られていくわけですから、それは、これはちょっとした例えですけれども、私はよく病院に、総合病院におりましたときに、精神科におりますと、非常に総合病院というのは患者さんが集まるんですね。なぜかというと、全体の中で精神科が隠れてしまうからです。ということは、今度の施設も、一般の精神科の施設の中に作られればそういう中に言ってみれば隠れてしまうので、今言われたように家族が来にくいとか、そういう問題というのはそれほどないんじゃないかと、そのように思います。
福島瑞穂君 私が申し上げたのは、例えば全国に三十個、そういう施設、新しく建物を建てて仮に入院してもらうとすると、やはり分散というか、今まで行っていた精神病院に通院するということができなくなるんじゃないかと思ったんですが。ただ、いいです、対政府質疑じゃないので、これ。こちらの意見を述べて、済みません。
 あと、ちょっとこれも私は素人なので教えていただきたいんですが、治療は治療で徹底をすべきで、その人間が将来同種の犯罪を犯すかどうかというのは別問題であると思うんですね。
 浦田参考人にちょっとお聞きをしますが、確かにその人間は他害行為を行ったという客観的事実はあるので、それが治療の中に入ってくるのは当然だと思うんですが、治療はその人のために、患者のために医者が一緒に共同行為として行うのであって、その人間が将来何かのことを犯す可能性があるということは治療とは別なわけですよね。ですから、私自身は、なぜ他害行為を行った人間のみほかと違う治療をするのか、あるいは全くほかの患者さんと同じ治療であれば、なぜそれのみ何か特記した形になるのかというのがちょっと分からないので教えてください。
参考人(浦田重治郎君) これはお答えになるかどうか分かりませんが、今言われた他害行為の問題が他害行為だけ独立して起こっているのであれば、それは先生のおっしゃったような御理解でいいと思います。しかし、これは病気が発生した中で、それゆえに起こっている。もちろんそれだけとは言いませんけれども、例えば周りの状況も影響するかもしれません。しかし、そういう中で起こった他害行為ですから、そういう起こしやすさの問題だとかいろんな条件があります。ですので、独立した行為では私はないと思っております。
 だから、他害行為だけを判定、将来再発するかどうかというそれだけを判定するんじゃなくて、病気がどうなのかと。つまり、治療をして病気が良くなっているのか。そうすれば、病気が良くなっておれば、そういう問題行動の発生もなくなるだろうというような考えで他害行為の問題は理解しております。
福島瑞穂君 今の点について、治療とその将来ということについて、伊賀参考人、いかがでしょうか。
参考人(伊賀興一君) 浦田先生、お教えいただきたい、僕も教えていただきたいんですけれども、病気が良くなったからもう治療しなくてもいいという状態になって、しかしながら、それで治療が継続しなくなったがために病状が悪化して、時として事件が起こるという場合もございますよね。
 だから、私は、問題なのは、今、他害行為を行った、重大な事件を行った人をある一定の指定機関で治療して、それで通院も保護観察所が管理してというふうなルートに乗せて、果たして福島先生が御質問のように、病気も良くなった、もう他害行為を起こすおそれもなくなったというふうなことが、逆に言えば、この法律の趣旨から言うと、いつまでもおそれがなくならないということを言い続けることになりはしないか。
 つまり、治療というのが医療との間での信頼関係でもって、それの上でその治療が継続し、必要なときには自分が治療を拒否しても医療の介入が受けられるということで重大な事件というのは防げる。そういう意味では、病状が重いから必ず事件を起こすとか、病状が軽いから必ずや事件を起こさないというようなことではないという意味で、再犯のおそれなどという概念で人を閉じ込めるか閉じ込めないかを区別するというのは、結局その理由にならないものなんだということをこれまで申し上げてきたのですが、病気が良くなっていったから、もうこの人はそういう行為はしないだろうというふうな因果関係というのは言えるのですか。
○委員長(魚住裕一郎君) 参考人から参考人への御質問は控えていただきたいと思います。
福島瑞穂君 この条文では心神喪失者等となっておりまして、心神耗弱も入るのですが、心神耗弱者も入ることについて、伊賀参考人、どうお考えでしょうか。
参考人(伊賀興一君) これは大変問題で、心神耗弱でまず判決で実刑になった場合に、刑務所に行くことになります。その際には、この法律は、その方が心神耗弱であったとか精神病であったということについて一切考慮をしない、もう実刑の方でどうぞということになっています。執行猶予になった場合に、今度はこの法律で、鑑定入院を受け、審判を受けて指定医療入院に、入院するかどうかを判断され、そして入院することになります。これは、一度刑事裁判を受けて執行猶予になったのに、またその手続的不利益を課されるということになるのですね。
 私は、そもそも治療が必要な人が刑務所に行って治療を受けられない、若しくは不十分な治療しか受けられないという状態の現状が果たしていいのだろうかというふうな意見も強いのですが、実刑にならない人はこちらの法律で受け止める、だから実刑になった人は治療ができようができまいがそちらに任せるというところにこの法律案の一つの問題点、本当に重大な事件を起こした人を治療するということで徹底するのではなくて、刑務所に行く、少年院に行く、その人がこの法律で治療するという、しかも手厚い医療をするということから、もう射程距離から離してしまうというところに問題が実はあるのかなというふうに、耗弱の問題が入っていることについては感じています。
福島瑞穂君 時間ですので、終わります。
 ありがとうございました。
○委員長(魚住裕一郎君) 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。
 参考人の方々に一言ごあいさつ申し上げます。
 本日は、大変お忙しいところ貴重な御意見をお述べいただきまして、誠にありがとうございました。当委員会を代表して厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。(拍手)
 本日の審査はこの程度にとどめ、これにて散会いたします。