心神喪失者等医療観察法の条文・審議(その49)

前回(id:kokekokko:20060215)のつづき。
ひきつづき法務委員会が開かれ、藤丸成、高木俊介、蟻塚亮二の各氏の参考人招致、およびそれに対する質疑がなされました。
【藤丸参考人招致

第156回参議院 法務委員会会議録第13号(平成15年5月20日
○委員長(魚住裕一郎君) 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案、裁判所法の一部を改正する法律案、検察庁法の一部を改正する法律案及び精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案を一括して議題といたします。
 本日は、四案の審査のため、お手元に配付の名簿のとおり、三名の参考人から御意見を伺います。
 御出席いただいております参考人は、社団法人日本精神科看護技術協会会長藤丸成君、ウエノ診療所精神科医高木俊介君及び津軽保健生活協同組合藤代健生病院名誉院長蟻塚亮二君でございます。
 この際、参考人の方々に一言ごあいさつを申し上げます。
 本日は、御多用のところ本委員会に御出席をいただきまして、誠にありがとうございます。
 参考人の皆様方から忌憚のない御意見をお聞かせいただきまして、今後の審査の参考にいたしたいと存じますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
 議事の進め方でございますが、まず藤丸参考人、高木参考人、蟻塚参考人の順に、お一人十五分程度で御意見をお述べいただきまして、その後、各委員の質疑にお答えいただきたいと存じます。
 なお、念のため申し添えますが、御発言の際は、その都度、委員長の許可を得ることとなっております。また、各委員の質疑時間が限られておりますので、御答弁は簡潔にお願いしたいと存じます。
 なお、参考人の方の意見陳述及び答弁とも、着席のままで結構でございます。
 それでは、藤丸参考人からお願いいたします。藤丸参考人
参考人(藤丸成君) 日本精神科看護技術協会の藤丸です。
 本日は、このような機会をいただき感謝申し上げます。
 私どもの協会は、昭和二十二年、全日本看護人協会として発足し、昭和五十一年、法人として認可され二十八年が経過いたしました。全都道府県に支部を持ち、会員所属施設は公立・民間、単科・総合を問わず広く精神科医療全般にわたっており、精神科看護の向上と患者さんの社会復帰の促進を目標に活動を行っております。
 さて、これまでの法案につきましては多くの議論がされてきました。私は、四万名余りの会員を代表して、精神科医療の現状を踏まえ、当協会の調査等に基づき、現場で働く看護者の立場から意見を述べさせていただきたいと思っております。
 現状の精神医療について。
 本法案が対象としている患者さんは、現在、精神病院において他の患者さんと変わることなく処遇されております。御存じのように、精神科は他の科に比べて、少ないマンパワーの中で、私たちはどのような患者さんも一人の人としてとらえ、社会復帰に向け、できる限りの取組を継続的に行っております。
 看護を行う上での困難さ、退院に向けた取組の困難さは、この法案で対象となるような患者さんにとどまりません。現状の困難さを、本協会の調査を基に、医療、行政、地域の三つの側面から述べたいと思います。
 医療面では、病状が改善してもマンパワーの不足から生活範囲の拡大が困難で院内処遇となってしまった、症状がなかなか改善せず、他者に対する攻撃的傾向が続く難治性の患者さんが、適切な施設がないために長期の隔離を余儀なくされているなど、治療環境の不備を指摘する意見が多く寄せられました。
 行政面では、行政は入院にかかわるが退院に向けた取組にはかかわってくれない、地域におけるネットワークを作る必要がある、公的機関がもっとかかわるべきといった意見があります。
 地域に関することとしては、地域住民から退院させるなと匿名の電話が相次ぎ、スタッフの判断や士気に影響し、退院に消極的になった、患者さんの自宅近くの病院が受け入れてくれないため、自宅に帰すことができなかった、地域の反対から住所地の変更を行ったなど、地域住民、時には関係機関の消極的な姿勢によって退院が困難であることが分かります。
 看護スタッフについても、日常の看護や退院に向けた取組に努力しながらも、罪を犯したのだから、精神病院に入院するのではなく、その前に司法で適切な対応をするべきではないか、被害者の心情を考えると退院に戸惑いを感じ、看護する立場となると、退院可能にもかかわらず、入院が長期にわたると、患者の人権問題について考え、ジレンマに陥ってしまうといった気持ちを抱く場合があるなど、不全感を感じている者も少なくありません。
 専門治療病棟の必要性について。
 このような状況を改善していくためには、法律に触れる行為を行った精神障害者には、多大な看護力を必要とし、他の患者さんへの影響も大きいため、一般精神病棟での処遇は困難であり、専門治療病棟が必要という現場の声に耳を傾けるべきではないかと考えざるを得ません。
 また、専門治療病棟の設置に当たっては、現状の暴力行為に対する職員の安全確保体制が不十分であるという指摘も踏まえ、十分な看護職員の配置に加え、配置される職種についても、諸外国に例のあるセキュリティースタッフの導入など、幅広く検討されるべきではないでしょうか。
 さきに述べたように、現状でも看護者の不全感はかなり深刻なものがあります。専門病棟においても、看護スタッフが本来の看護業務以外にセキュリティーの役割も担うということになれば、看護職としてのアイデンティティー危機に陥る危険性が高いと考えられます。
 継続的な専門教育の体系とスーパービジョン体制を作り、医療・福祉チームの連携と連帯感の育成を含めた新たな専門性の確立が我が国独自のものとして必要とされます。
 触法患者の看護について。
 また、具体的な看護についても、症状に対する看護は行えても犯罪行為へはどのような看護をすればよいか分からない、アルコール治療プログラムのように本法案の対象患者の治療プログラムを作る必要があるといった会員からの提案に見られるように、対象がある程度絞られることにより、より専門的な治療プログラムが開発される可能性があります。触法精神障害者の中核となる治療プログラムは、怒り等の否定的な感情や問題行動のセルフコントロールに根差した生活再建の支援であるという報告もなされています。
 日本における初めての取組ということでありますから、十分な準備の下、司法精神科看護というべき分野の確立に向けた取組も同時に行われなければなりません。
 社会復帰に向けた取組について。
 地域支援システムの確立には、ケアマネジメント体制と社会資源の確保が不可欠であると考えます。
 精神疾患の場合、治療により急性期症状が消失したといっても完全に治癒したとは言えない場合が多くあります。患者さんは、社会生活を送る上での様々な困難によって気持ちが揺れ動き、場合によっては急性期の状態に戻ってしまうこともあります。したがって、長期にわたって服薬を継続しなければならないなど、医学的な管理の下にあることがその社会生活を支える上での大切なことになります。法案に規定された社会復帰調整官のように、継続して地域ケアをコーディネートするマンパワーを確保することが重要なことです。
 また、精神障害はコミュニケーション障害の側面を持っていますから、コーディネーターには一定の精神科医療や精神保健領域での経験に基づく十分な精神保健、医療、福祉に対する知識と精神障害者に対する理解が必要とされます。このような人材の育成をお願いしたいと思います。しかし、社会資源をコーディネートしようにも、必要とされる資源が手薄では何もできません。
 現在、精神障害者の社会生活を支える方法として精神科訪問看護があります。精神科看護師等が訪問し、精神障害者の状態の把握や服薬の管理など、医療継続のための有効なシステムとして認知されております。十分に整備されているとは言えませんが、地域支援システムの一つとして位置付けることによって、相互補完的に機能するのではないかと考えております。
 退院を阻害する因子として挙げられる住宅確保の問題、仕事の問題、保健、医療、福祉各機関の連携の問題などが触法精神障害者の場合にも同様に存在するものと考えられます。これらについては、専門病棟の開設と併せて何らかの対策が講じられることが必要と考えます。
 新たな差別を生み出さない対策について。
 精神疾患精神障害者に対する差別や偏見は一般社会の中に根強く残っております。精神医療施策の最も大きな課題はこの差別や偏見の解消ではないでしょうか。誤った施策によって、ハンセン氏病の患者さんたちは長く差別の中で隔離された生活を余儀なくされてきました。精神障害者についても、多年にわたって隔離収容政策が取られてきたことは事実であります。新たな行動制限を伴う施策の決定に当たっては、社会的差別や誤った認識による差別を生み出さないよう努力することが求められます。差別や偏見がこれまでの施策によるものである側面も否定できない以上、精神疾患精神障害者に対する差別や偏見をなくすための具体的な取組が幅広く行われることが必要です。
 私どもの協会では、精神衛生法から精神保健法へと改正された昭和六十三年七月一日を「こころの日」として位置付け、毎年七月一日に市民向け講演会などを開催してまいりました。国を含め、関係する団体がそろって精神障害者に対する差別や偏見をなくすための活動に取り組むことも必要ではないでしょうか。
 今後の課題。
 事件は病気によって引き起こされたのであるが、本人の中で罪を犯したという自覚があり、罪の償いをしたいという思いがある人にとって、刑法三十九条の適応がいいのか疑問に思うという、医療ではなく司法を中心とした処遇を推進すべきとの意見もあります。
 日本では、触法精神障害者の自己責任や訴訟能力に関する議論が十分になされてきませんでした。そのため、本来、司法の責任で取り扱われるべきものが全面的に医療に担うことを余儀なくされてきた経過があります。今回、一部、司法の関与が定められましたが、これを機会に、現状の精神医療体制の課題や矯正施設での医療の在り方についての検討を十分に行い、専門治療病棟の必要性に関する問題を明確化し、社会的合意に向けた継続的な取組も必要ではないでしょうか。
 最後に。
 本法案が成立いたしましても、私どもが懸案とする現在、精神病院に入院されている本法案の対象となる患者さんの問題は残されます。千人を超えると推測される現在入院中の触法精神障害者については、この法律による専門的な手厚い医療は受けることができません。現状のままで取り残されてしまうのです。患者さんの療養環境も医療提供システムも何一つ変わりません。
 本法案の修正案附則では、精神医療の底上げに関する事項と五年後の見直し規定が組み込まれました。また、国会への状況報告も行われることになっております。多くの課題、しかも専門病棟開設にまでに整えておくべきものも含めて、数多くの課題が示されたと理解しております。したがって、国への報告はその準備状況も含めて一年ごとに行われることが妥当と考えます。
 五月十五日、厚生労働省の精神保健福祉対策本部から中間報告が出されました。現状の精神医療の底上げに向けての状況は動いていると理解しますが、何をどう変えるのか、具体的かつ明確な、だれにでも分かる改革を望んでいます。
 私どもは、今後もより患者さんが必要とする適切な看護を提供し、患者さんの社会生活を支えていくための努力は惜しみません。どうぞ、これらの努力が報われるよう御検討をお願いしたいと思います。

【高木参考人招致

第156回参議院 法務委員会会議録第13号(同)
○委員長(魚住裕一郎君) ありがとうございました。
 次に、高木参考人にお願いいたします。高木参考人
参考人(高木俊介君) おはようございます。高木です。
 ごあいさつは抜きにして本論に入らせていただきたいのですが、私がこの問題を考えてきました精神科医療懇話会という非公式の勉強会の組織ですけれども、そこが出しました声明について、今日は資料一、二ですね、資料の一、二を持ってきましたので、またお読みください。ほかに、読売新聞の「論点」、これは後で使わせていただきます。それから、毎日新聞に私が精神科の統合失調症についての解説を家庭欄に連載させていただいた連載も入れました。精神科の病気について余りなじみのない議員さんに参考にしていただけたら幸いです。それと、オックスフォード精神医学教科書の翻訳も持ってきましたので、これも後で使わせていただきます。
 私のこの会の主張は、医療のものは医療に、司法のものは司法に、そして医療は迅速に、司法手続は慎重に、これを大きな点、軸として今回の法案の批判をしております。この法案が現実化するものはこの原則にすべて反するものだと考えております。
 そして、どの参考人の方も、賛成するにせよ反対するにせよ認めていること、これが三点あります。精神障害の問題は他人事ではないということですね。それから、精神障害者に対する根強い差別、偏見というものが現実に今の社会にはあるんだということ。そして、我が国の精神科医療の体制、福祉の体制というのは非常に貧困なものであるということ。これは、先ほどの参考人の藤丸氏もおっしゃっておられたようにどの方も認められる前提ですので、これを前提とした議論だとしてお聞きください。
 では、本論に入らせていただきます。
 資料の三番目は、私が去年、「論点」、読売新聞の「論点」に書きましたこの法案の批判に関しまして、先般の衆議院の方での議論の中で、審議の中で公明党福島豊議員が私のこの「論点」を取り上げまして、これの「論点」に対する、私が挙げた疑問に対して政府参考人の古田氏に聞いて回答を得るという形で、私の「論点」が間違っておる、あるいは杞憂であるという結論を出しておられたので、最初にここでそれの反論を二点させていただきます。
 まず、再犯予測の問題、これについて予測の誤りが起こる、これをどうするんだということですが、この点について、百五十四国会で福島豊議員は、誤りがあった場合、事後的に適切に対処される必要があると言っておるわけですが、古田氏の答えは、予測の基礎資料が多いから大丈夫、それから不服申立ての手続がちゃんとしているから大丈夫というものです。ですが、手続に関しては、前回の参考人、伊賀氏の、弁護士の方に任せたいと思いますが、予測の基礎資料が多いという点ですけれども、これは現在、実際の行政がやるよりもずっと基礎資料を多く整えた世界の先端の研究で、予測の誤りは必然であると、無視できないということが結論されているわけです。
 二点目、私は読売の「論点」で起訴前簡易鑑定の不十分さ、それから検察段階での責任能力判断の問題を指摘しましたが、この点はどうかという福島豊委員の質問に古田参考人は、現在の鑑定の在り方自体について特に重大な問題があるとは考えていないとおっしゃっています。これは森山法相の答弁も同じでした。ところが、さらに古田氏は、この制度ができれば起訴前鑑定はよりきちっと処理されるとおっしゃっているわけですけれども、このようなことはこの法案には何ら規定されておりません。これは推測、検察はこうするだろうという推測にすぎないわけですけれども、その推測に対して福島議員は厳密になるのですねと納得しておられますけれども、この程度で、国民の疑問を代表して質問される国会議員が納得されるのもどうしたものかと思われます。
 さて、これらの点について更に詳しく議論をあと進めていきたいと思います。
 今日は三点に絞らせていただきます。一つは再犯予測の問題、二つ目は起訴前鑑定の問題、三つ目は対象者としての心神喪失者の問題です。
 一点目ですが、再犯予測について、これはどのように修正案が変わろうと、百五十四国会の古田政府参考人の言を言いますと、この予測というのは、この法律が人身の自由への干渉、制約が強いものとなる、だから必ず行われなければならないんだとおっしゃっています。そして、坂口厚労相は、再犯を予防するということが大前提であると言っておられます。すると、やはり再犯予測の重要性は変わらないわけでありまして、これがもし変わったとするんであれば、坂口厚労相のはっきりした変わったのかどうかという明言を求めたいと思います。
 そして、絶対に必要で重要な再犯予測について、これは不可能であるということは世界的な趨勢です。予測対処、これは皆さんちょっと考えていただいたら分かります。予測というのは、起こる頻度が多いものについては当たりやすいんです。ところが、起こる頻度が少なくなると予測は当たりにくくなります。当然ですね。
 精神障害者の犯罪というのは、そもそも、レジュメの資料に挙げましたように、全刑法検挙人員に占める割合が〇・二%という数の少ないものです。その中に重大犯罪というのは更に数が少なくなります。したがって、予測は飛躍的に難しいものです。更に言いましたら、実は殺人、放火などの重大犯罪に関して、精神障害者の再犯と一般犯罪者の再犯率を比較いたしますと、精神障害者の場合は六・八%、一般犯罪者の場合は二八%と、重大犯罪の再犯に関しましては一般受刑者の方がはるかに多いわけです。したがって、一般受刑者の予測は精神障害者を予測するより簡単なわけですね。しかし、それはできないで、精神障害者にだけはその予測、しかもその予測の結果による予防拘禁が許されるとしたら、その根拠は何なのか、ここをはっきりさせていただきたい。
 それから、予測の誤りによってどのようなことが起こるか。
 レジュメの二ページ目の一番最後に表を簡単な数字で挙げさせていただきましたが、非常に正確な予測ができると仮定して、人口十万で百人に一人が起こす犯罪を見付けるのに八割の人が犯罪をしないのに犯罪をすると予測される結果が出るわけです。これについて、後の質問の方でありましたら、もっと詳しく説明させていただいて結構です。
 このようなものでありますのに、治療を行うから迷惑を掛けることはない、本人の利益になる場合を含むので補償の対象とはならないという答弁がなされています。つまり、不利益処分ではないということですね。ところが、一方で、先ほどの話のように、人身の自由への非常に強い制約が伴う法案であると。つまり、不利益処分ということです。医療だから不利益処分でなくて、司法の面から見たら不利益処分だと。こういう訳の分からない議論を一つの法律について皆さんなされているわけです。
 次に、再犯予測は措置鑑定と一緒だからできるんだという議論があります。
 措置鑑定に関しまして、精神科医自傷他害のおそれをやっておるやないか、だから再犯予測はできるんだという議論がまかり通っていますが、森山法相も言っていますし、塩崎議員もそう説明しています。ところが、その措置入院がうまくいっていない、措置の鑑定が全然うまくいってないから別の法律が必要なんだと一方で言っているわけです。措置入院では診断名一つ取っても一致率が高くない、運用ばらつき、前回の岩井参考人もおっしゃっていましたように、不当に早い退院がなされたり、措置入院になった後かなり早く退院して、その結果、再犯が行われるというようなことを述べています。議員の方もそれに賛同しておられました。
 一体、措置鑑定や入院が不備だからこの法律が必要なんですか、それとも措置鑑定や入院がうまくいっているからこの法律も大丈夫だというわけですか。一体どっちやねんと思います。こういう議論が国会で堂々となされているのがそもそもおかしいんですね。よく議員の方は、私は法律の専門ではない、私は医療の専門ではないとおっしゃいますが、皆さん国会議員は立法の根拠に対して責任のある立場だと私は思っております。
 次に、起訴前簡易鑑定の問題に移らせていただきます。
 法案は、起訴前の検察段階にある問題というのを無視しております。どのような問題かというと、非常にばらつきが大きいということですね、簡易鑑定の。それから、司法から医療への一方向性になっている。これは、法案推進の方である山上先生もおっしゃっています。八割は発病前から何度も事件を起こしているのに、一度精神病とされたら精神医療の側に送られてきてしまう。あるいは前田参考人も、鑑定は物すごくばらつきがあると。
 それらの批判に対して、政府は、先ほどの古田氏の弁のように、現在の鑑定の在り方自体について重大な問題はない。あるいは、この制度によって起訴前鑑定はよりきちっと処理される。それから、簡易鑑定の内容は新法で公表されるようになるだろうというようなことまでおっしゃっています。全くこれは法律の内容と関係のない推測あるいは期待、願望です。このような期待、願望を基に新法の立法の根拠にされてはたまったものではありません。まず、根拠を示すべきだと思います。
 これの妨げになっているのは、私は検察の秘密主義だと思っております。前回、法務省・検察が出した資料がここで参考人から提示されましたけれども、あの資料にも非常な誤りがあります。不備があります。それについてもしありましたら、次の質問で答えさせていただきたいと思います。
 こういう問題から生じていますのは、司法判断の方を先行させて、その後に生じる、つまり司法判断はもう終わったものとして、司法判断の後に完全に医療の問題としてすべて医療の側に投げられる。それが、その後に生じる問題の責をすべて精神科医療に属するような体裁を取られている現在のこの制度運用の問題なんですね。ここの改善に関して、この法案は何ら手当てをしておりません。幾ら期待や願望を言っても無駄だと思います。
 次に、いわゆる対象者の問題、これは精神病質の問題と言い換えさせていただいてもよろしいかと思います。
 精神病質あるいは人格障害は、一般的には医療では有責である、あるいは治療に関しても本人に行為の責任があると考えなければ治療にならない、そういうカテゴリーであります。したがって、政府は、この法案は心神喪失者、心神耗弱者に対するものであるから精神病質は含まないということを再三言っています。しかし、現実には覚せい剤中毒や精神病質で不起訴になっているもの、あるいは責任能力なしとされているものが多くあります。これらがどのような経路を通っているか、司法判断があった後にどのような医療のルートに乗っているかということについての資料は何ら出されておりません。そういう資料がきちんと出ることを要求いたします。
 そして、本法案の対象者として最初のころに述べられましたのは、重大事件を繰り返す者は精神障害者とともに強い犯罪傾向を併せ持っている、他害行為を繰り返す者の八割は発病前から何度も事件を起こしていると。つまり、この法案の対象の八割の方は精神病質という範疇に含まれる可能性があるということですね。しかも、再犯を繰り返す要因は、精神病じゃなくて精神病質の部分にあるということが答弁の中で明らかになっているわけです。
 結果として、ここでなされる議論が最初から混乱しています。その混乱をまともに被ったせいか、皆さんが時々見当違いな議論をされております。つまり、精神病質についての議論をここで、この法案の審議の中で延々とやっておられるわけですね。確かに、前回、伊賀参考人も最後に精神病質のことを触れていました。しかし、それは精神病の犯罪はこういう新法を作らなくても現行制度の運用でやっていけるよという、そういう主張の中で出た言葉なんですね。それでは不可能な対象として精神病質を挙げているわけですけれども、精神病質の再犯率の高さみたいなもの、この場の、この議論の場で、この法案の議論で延々として一体何になるんですか。誤って精神障害者は危険、精神病者は危険であると、そういう誤解を招いてしまうだけだと思います。
 法案について、精神病者への、精神障害者への偏見、差別全般をなくすものとしたいと言いながら、議論の中では再犯率の高い特殊な範疇、カテゴリーを挙げて議論されておられる。これ、おかしいです。そして、精神病質について何とかするとなると、これは日本では刑法の問題です。刑法自体の問題なので、医療の問題として語るべきでは今のところありません。
 時間が来ましたので、最後に一言させてもらいます。
 このように議論が混乱してしまったのは一体何が悪いのか。そもそも急ごしらえで作った法律であって、十分な調査、これまでの司法と精神医療の関係についての十分な調査やきちんとした数字は何にもないままに議論されて、精神医療の悲惨な現実というのは全くほったらかしにして、つまりその中で、現実が悲惨だから追い詰められた、そういう人をも対象にしてこんな法律を作るから分からなくなるんです。
 私はこう言っていますけれども、ここでは激しいことを言いますけれども、別にアナーキストでも何でもありません。社会の安全について考えることは非常に大事だと思います。社会の安全について考えるならきちんと議論してほしいんです。私が困るなと思うのは、それを言うのになぜ精神障害者から始めないといけないのか、そこについて私は非常な疑問を抱いております。こういう法案についてはやはり一から白紙にして考え直していただきたい。そして、ちゃんとした数字と資料、根拠を示していただきたいと思います。
 御清聴ありがとうございました。

【蟻塚参考人招致

第156回参議院 法務委員会会議録第13号(同)
○委員長(魚住裕一郎君) ありがとうございました。
 次に、蟻塚参考人にお願いいたします。蟻塚参考人
参考人蟻塚亮二君) 話の中身というのは大体書いておきましたので、これ、棒読みするのではつまらないので、幾つかキーワードごとにお話ししたいと思います。
 「はじめに」というところは飛ばしまして、そもそも、私、疑問に思うんですけれども、今の精神保健福祉法そのものが実態としては入院手続法でしかない。精神衛生法という昔の法律がありましたけれども、その中身というのは入院の手続でしかなくて、どこに衛生があるんだということです。その骨格をずっと今の法律も引きずっているわけで、今の精神保健福祉法も入院手続法でしかないわけです。
 私、精神保健法できるときに非常に期待したんですよ。というのは、精神保健法に衣替えするからには、例えば欧米でやっているような、人口三十万に対して、をキャッチメントエリアというふうに決めて、その中で救急からリハビリまでを全部システムとして整備するというふうな政策的なものが入るんだろうと思っていたら、全然入らなかった。たかだか三種類の社会復帰施設が規定されただけでしかない。がっかりしました。
 そういう点でいうと、今のこの法案に、今国際的な潮流になっている地域ケア、精神科地域ケア、これが全然担保されていない、そういうことが非常に問題で、だとすると、今回の法律を作ったとしても、地域に帰るということがないわけだから、やっぱり入院手続法になっちゃうんだろう。結局、この対象になる方は長期入院を繰り返す、悪循環を繰り返すことになってしまうんじゃないかというふうに思います。
 それから、(3)のところですけれども、これ、日本の政府の非常に犯罪的な問題だと思いますけれども、日本の精神科のベッドというのは三十三万あるわけですね、人口一億二千万で。イギリスは人口五千五百万に対して二万五千しかない。仮に、イギリスの人口を倍にすると、精神科のベッド数というのは五万ベッドあればいいわけですね、日本は。ということは、三十三引く五だから二十八万の人たちが理由もなく精神病院に抑留されているわけですよ。この責任はやっぱり政府が取らなきゃいけない。ハンセン氏病の問題と同じです。
 何でそうなったかというと、世界じゅうの国の中で精神医療を民間が主体となってやっているというのは日本しかないんです。かのサッチャーですらも、イギリスの民営化路線を一生懸命やったサッチャーですらも、精神と高齢者だけは民営化しちゃいかぬというふうにして絶対手を付けなかった。そこのところをずっと延々と民間にやらせてきたのが日本政府の歴史的な誤りだと思います。そのことが長期入院者を生み出してきた。
 民間病院というのは、私も民間病院ですけれども、一生懸命患者さんを、難しい患者さんを退院させようとするとベッドががら空きになりますね。がら空きになった分、収入は減るんですよ。そうすると人件費出せない、そういう仕組みになっています。だから、精神というものは民間でやっちゃいかぬのです。
 つまり、消防とか警察を民間にやらせたらどうなりますか。消防が人件費賄うために自分が火付けて走り回ればもうかる、それと同じですよ。そんなばかなことをずっとやってきたわけだ、日本の政府は。そういう民間依存体質ということを何としても変えなきゃいけない。
 それから、外来診療だけで食っていける診療報酬を保障せよというふうに六八年のクラーク勧告の中で指摘されています。これを厚生省が無視したわけですね。クラークさんというのは、私、彼が四冊書いた本の中の二冊翻訳して出版していますけれども、今でもメールのやり取りして友達なんですけれども、日本においてそのクラークさんが外来診療だけで食っていける精神医療を作れと言ったにもかかわらず、作られなかった。
 したがって、外来というのは地域ケアを視野に置いた最前線なんですよね、それが不十分だ。そうすると、ますます、更にそうすると地域で精神障害を抱えて生活している人たちに対する福祉的なサービスなんというものも全く進歩していない。全国でいわゆる社会復帰施設のある市町村というのは一割しかないわけですね。そこのところにどうやっていわゆる触法と言われる人たちを帰していけるのか。絶対無理ですね。
 ということは、今の精神保健福祉法というのは、例えてみると穴の空いたバケツですね。穴の空いたバケツから水が漏れるものだから、仕方なくてまたちょっと小さめの穴の空いたバケツで補おうというのが今回の法律だろうと思うんですよ。何やっておるのかと思いますね。
 高木先生も言われましたけれども、地域のサービスを充実させれば、コミュニティーケアを充実させれば初犯は減ります。保健婦さんが地をはうような努力でもって病院にかかわらない人を一生懸命説得して病院に連れてきてというケースを私、何回も経験しています。そういうふうな地域ケアを充実させることによって初犯を減らすことができる。再犯については高木先生が言われたように低いわけですから、何らこの法律は必要ないというふうに思います。
 結局、そうなってくると、この法律の目指すところというのは、相も変わらず安上がりの収容を続けることだろうかというふうに勘ぐりたくなりますね。
 それから、今度の法案では、これは坂口大臣が言うには、一つの県に一つか二つの特殊な施設を作るということなんですけれども、いろんな問題がある。一つは、手厚い医療をやるんだと言うけれども、医者が足りない。日本の精神科の医者というのは全医師数の中の四%でしかない。精神病床が三十三万あるわけですから、大体、全医療病床の中の二五%ぐらいですね。二五%のベッドを四%の精神科医がカバーしている。これが無理なんです、そもそも。
 何でそうなるのかというと、医学教育の中で精神医学に割かれる時間数というのが四%ぐらいしかないんですね。医師の国家試験の中でも、産科、婦人科、内科、外科、小児科、公衆衛生、そこに精神科は入っていないんです。精神科はメジャー科目でなくて、マイナー科目になっている。だから、精神科医になろうという人が少ない。そこの文部行政から直さなきゃいけない。それから、何とかして精神科の医者の数を一〇%から一二%ぐらいまで増やしてほしいというふうに思っています。
 それからもう一つ、そういう特殊なシステムを作りますと、私は恐らく、多分その対象になる人たちは暴力と長期入院の悪循環をらせん状に下っていくような関係が生まれるんだろうと思います。というのは、慢性、長期に入院している方たちがそうなんですけれども、いわゆるシックロールというのがあるんですね、患者としての役割というのが。──あと五分ですか。
 例えば、私たちが熱出して風邪引いたときには、早く帰って休んでもいいよと言われるのがシックロール、患者としての役割なんですね。これは急性の病気のときには非常にメリットになります、本人にとっては。ところが、慢性長期の人にとってはこのシックロール、患者としての役割というのはデメリットになるんですね。
 つまり、帰るべき家持たない、仕事もないという人たちが、精神病院に長期に入院しておられる方がたくさんいます。そのときに、もし治れば病院出ていかなきゃいけない、看護してもらえない、御飯食べれない。そうすると、彼らがやらなきゃいけないのは、より精神病らしく振る舞うことしかできないんですよ。私は、その辺見抜いて、何か問題起こしたときには直ちに強制退院にして、責任取れと言っています。
 今の精神病院の悪いところは、患者さんに対する責任とか自由とか権利とか、そういう人間としての尊厳の基本にかかわるものを、患者だということの名前でもって剥奪してしまっている、これが問題だというふうに思っています。同じようなことが、今回のこのいわゆる心神喪失云々の対象者に関しても言えるんではないか。
 つまり、社会的なよりどころがない精神科の患者さんに対して、新たに犯罪者というアイデンティティーが加わるわけです。そうすると彼らはどう思うか。おれはどっちみち犯罪者なんだから、多少暴力を犯したっていいやというふうに思っちゃう。そうすると、暴力と長期入院と、そして暴力と長期入院が悪循環を繰り返すだけですよ。そういう犯罪者の役割といいますか、オフェンダーロールという、そういうものを生み出すんではないかということを危惧しています。
 それから、いわゆる保安病院、イギリスで言うところの保安病院の問題ですけれども、イギリスにしてもノルウェーにしても、私、どっちも行きましたけれども、どこもかしこも保安病院というのはスタッフが先に沈殿して駄目になっちゃっている。いわゆる名古屋刑務所でこの前事件起きましたけれども、あれと同じようなことが保安病院のスタッフが犯しているわけですね。
 クラークさんたちが、かつてイギリスのいろんな優れた病院から医者と看護婦のチームを保安病院に派遣させて、国策として派遣させて、そして調査させて、自分たちの病院に何人かずつ連れて帰った。それで、自分たちの病院で治療して退院させたということがあります。
 そういうふうにして、別に保安病院、新しい施設も作らなくても、作ることの弊害の方が大きいわけであって、むしろ地域を中心にした医療に日本全体の精神医療を再編成し直すことの方が大事だ、そのことしか今回の問題というのは解決しないだろうというふうに思っています。
 それから、最後に、私の配付した資料の、「精神障害を持つ犯罪者のリハビリテーション」という、これ私、訳した本ですけれども、その百八十八ページのところの八行目のところを見てほしいんですけれども、「ある場合には二十人以上の担当ワーカーが彼女のケアに動員されることも珍しくなかった。」とあるんですね。一人のいわゆる犯罪を犯した患者さんのために、イギリスでは必死になって地域で頑張ってケアしているわけです。そのときに、二十人以上も寄ってたかって一生懸命やって走り回ってケアするということですよ。
 そのことが果たして日本でできるのか。できないですね、日本では、到底そんなシステムないんだから。まして、法務省の一般犯罪者の更生を目的にする保護観察所が今でさえも手一杯なのに、そこが拠点になるなんということはまず絶対無理だと思います。
 以上、足りない、まだ言いたいこと一杯ありますけれども、時間なので終わります。
 ありがとうございました。

【佐々木委員質疑】

第156回参議院 法務委員会会議録第13号(同)
○委員長(魚住裕一郎君) ありがとうございました。
 以上で参考人の意見陳述は終わりました。
 これより参考人に対する質疑を行います。
 質疑のある方は順次御発言願います。
○佐々木知子君 自民党の佐々木知子でございます。今日は三人の参考人の先生方、どうもありがとうございました。
 まず、藤丸参考人にお伺いしたいのですけれども、ペーパーの中で、現状の精神医療についてはかくかくしかじかの問題があって専門治療病棟を必要としているということで、興味あるアンケート調査の結果もここに付いております。私自身も、現場からこういうような問題点があるんだということを多々聞いておりまして、現在の精神保健福祉法による措置入院ではやはりまだまだ足りないところがあるのではないかという認識を持っているものでございますけれども。
 そこでお伺いしたいんですが、本制度が施行されますと、裁判所から入院の決定を受けた対象者の治療を行うために指定入院医療機関を新たに設置するということになっております。政府の答弁によりますと、そこでの医師や看護師等の人員配置は手厚いものとなるようでありますけれども、参考人のこれまでの経験を踏まえまして、患者の特性を考えますと、こうした施設における人員配置についての御意見をお聞かせ願いたいと思います。
参考人(藤丸成君) これまでも、今現在のところ、一般の精神病棟の中に措置入院患者さん、結構入っているわけですが、調査にもありますように、かなり基準が低いと思われる病院の中にも措置入院の方が入っていて、やはりマンパワーが少ないということが大変問題であるというのが我々の調査の結果です。やはり、そういうような中でマンパワーの十分充実した施設が必要であるという我々の意見がございます。
 どの程度のマンパワーが必要かということにつきましては、我々の団体も今現在煮詰めているところでございまして、現在、何人の患者さんに対して何名のスタッフが必要というところまではまだ進んでおりませんが、やはり今よりも十分、今の急性期病棟が二・五対一と、それからスーパー急性期と言われるところももう少し、二対一というようなことがございますが、やはりそれ以上のマンパワーが必要であるということは今のところ感じております。やはり、マンパワーの充実こそ大切な要素ではないかと、我々は今現状から考えます。
○佐々木知子君 精神障害者というのを社会復帰させるために、地域における医療的な支援や保健福祉的な支援が必要不可欠と考えられますけれども、その中で看護師の果たす役割は大変重要であると考えております。
 そこで、地域における精神障害者の社会復帰に関して看護師が果たすべき役割についてお考えがあれば伺いたいと思います。
参考人(藤丸成君) 現在、看護師といいますと、精神科看護師は病院を中心とした中で活動しているわけでございますが、それ以外に訪問看護という形で地域に向けても実際には活動しております。
 しかしながら、社会復帰施設であるとか支援センターというところでの施設基準の中には看護師は入っておりません。ということになりますと、病院の中ではチームとして行っていましても、地域に行きますと、どちらかいうと精神保健福祉士の方々が活躍されていて、やはりその中で我々が、看護師が地域の中に出向いていかないとならないんじゃないかという考えを強く持っております。
 だから、是非とも施設の中、社会復帰施設においてもまた支援センター等においても、施設基準の中に看護師を是非とも参加させていただきたいと考えております。
○佐々木知子君 このたび、神戸児童連続殺傷事件の犯人だったとされる少年が仮退院するということでマスコミが結構騒いでおります、御存じのように。
 それで、私のところにも、どう考えますか、これは危ないと思いませんかというようなことを、問い合わせがあったりするんですが、マスコミが騒ぐからいけないのではないかと私は答えるんですね。そっとしておいてやることが改善更生にもなるだろうということを申し上げるんですけれども、なかなか日本のマスコミはそういうふうな、ある意味では大人の対応ができないのではないかということを憂えているわけですけれども。
 藤丸参考人は、精神障害者に対する差別、偏見ということももちろん憂えておられることと思いますが、その解消のためには具体的にどのような取組が必要と考えられるか、もし御意見があればお伺いしたいと思います。
参考人(藤丸成君) 具体的な御意見と先生おっしゃいましたが、我々も一番困っておるところがその付近にございまして、例えば入院前の状況として、その家族の方に御迷惑を掛けたとか、又は近所の方に御迷惑を掛けたということで、新聞報道されるような大きな事件でなくても入院前にそういう問題がありますと、社会復帰するときに家族の方がやはり退院に向けてちゅうちょされるという状況が現実に起こっております。家族の方もその住所で住むことができなくて住所地を変更したというようなこともございまして、大変我々もそういうことに対して苦慮しているところでございまして、これに対してどのような方法がいいかということにつきましては今のところ答えがないと思っております。
○佐々木知子君 では、蟻塚参考人にお伺いしたいんですけれども、先ほど看護師としての立場から藤丸参考人にお伺いしたところですけれども、指定入院医療機関を新たに設置するということになりますと、そこでの医師、看護師等の人員配置というようなことについてはどのような御意見をお持ちか、お伺いしたいと思います。
参考人蟻塚亮二君) 私は、そもそもそういう施設は必要ないというふうに思っているんですよ。したがって、お答えできません。
○佐々木知子君 そうですか。はい、分かりました。
 現行の措置入院制度におきましては、退院後の継続的な医療を確保することが困難であるとの問題点が指摘されておりますけれども、精神医療の現場において退院後の継続的な医療を確保するために御苦労されている事柄やその改善策があればお聞かせ願いたいと思います。
参考人蟻塚亮二君) 私が見ている限りでは、退院した後に継続治療からドロップアウトするという人はまずほとんどいません。もしも御本人が来られなければ私は往診して出掛けていきます。
 外来やっていまして、予約台帳ってありますけれども、来ないときには電話するとか、電話しても来なけりゃ私、出掛けていきます。絶対ドロップアウトさせないです、私は。
 以上。
○佐々木知子君 分かりました。蟻塚参考人はそのようになさっておられるということで、ほかの精神科医の先生方もそのようにされれば問題はないだろうということでございますか。
参考人蟻塚亮二君) そうです。
○佐々木知子君 今回のような他害行為を行った者の処遇がどのようにして決定され、またその結果がどうなったのかを被害者や御遺族の方々が知ることができれば、被害感情を和らげ、ひいては社会がこのような他害行為を行った者の社会復帰を円滑に受け入れることができるような環境を整えることにも資するのではないかと考えているものですけれども、現在審議中のいわゆる心神喪失者等医療観察法案においてはそのような仕組みが定められております。
 処遇の決定過程や結果の被害者、御遺族への開示についてはどのように考えるか、それぞれの参考人の方々の御意見を伺いたいと思います。
参考人(藤丸成君) もう少し手短に質問内容をお願いしたいと思います。
○佐々木知子君 要するに、処遇の決定過程や結果を被害者や御遺族へ開示するということが今回定められているわけですけれども、それについてはどのように考えておられますかということです。
参考人(藤丸成君) 被害に遭われました御家族の方につきましては、どのような処遇がされ、どうなっているかというのは大変興味のあるところではないかと思いますし、やはりその以後のこととして自分たちがどう考えればいいのか、御家族の方の納得みたいなものがやはりそういうことによって少し緩和されるんじゃないかとは思います。全く知らない中で行われますとやはり緩和されることが難しいんじゃないかと考えます。
参考人(高木俊介君) 個々の事例については、私は法律でプライバシーをいかに守るか、人権をどのように守るかをきちんと定めた上で決めていけばいいと思います。私が危惧するのは、やはり一般の方が精神障害者について余りにも知らなさ過ぎることがかえっていろいろな不安を増幅しているのではないかということなんですね。そのためには、一つは、私はやっぱりこういう犯罪を犯した精神障害者が一体、今現実にどのようになっているのかということをもう少しきちんと知らしめてほしいと思います。
 私、今日のために佐々木先生の御著書も読ませていただきましたけれども、強大な力を持っている検察というふうにおっしゃっておられますけれども、強大な力を持っているところが秘密主義でいるとろくなことはありませんので、是非、先生、検察を愛しておられるようで、説得されて、是非資料を出すように持っていっていただきたいと思います。
参考人蟻塚亮二君) 私は、いわゆる精神疾患を持っている方たちを余りにも無能力だと思っているのではないだろうかという気がするんです。彼らにもきちんとした権利、責任を持たせる、持たせるという言い方は横柄ですね。きちんと手続に沿って裁判をやればいいんですよ。それは当事者の方たちも裁判を受ける権利をくれと言っているわけだから、そういうレベルで解決していけばいいことであって、殊更云々する必要はないんではないか。むしろ、何で精神障害を持っている人たちを、何かみんな能力がないかのように思っているのが問題だと思っています。
○佐々木知子君 大体時間が参りましたので、終わります。
 ありがとうございました。

【朝日委員質疑】

第156回参議院 法務委員会会議録第13号(同)
○朝日俊弘君 民主党・新緑風会の朝日でございます。
 三人の参考人の皆さん、大変御苦労さまです。
 短い時間で言い足りなかった点が多々あるんじゃないかと思いますが、私の持ち時間も十五分ですので、できるだけ問題を絞ってお尋ねしたいと思います。
 藤丸参考人には、先ほどのお話の中で是非、専門治療病棟を作ってほしいと、一般精神病棟の処遇ではとても困難だというお話があったんですが、それは現実から考えてよく分かるんですけれども、二つお尋ねしたいんですね。
 一つは、今の一般の精神病棟の配置基準が低過ぎるんじゃないか、ほかの一般医療と比べて。だから大変なんだという現実があるんだと思うんですね。そこをきちっとまず主張なさらないとまずいんじゃないか。一般の医療の水準は、一般の精神科医療の水準は、あるいは一般の精神科が看護の水準は今でいいのだという前提の上に、専門病棟が欲しいと言ってしまってはまずいんじゃないかと思うんですが、それはどうですかということと、もう一つは、触法精神障害者の専門病棟というふうにおっしゃった。しかし、私は、触法精神障害者という概念はまとまったきちんとした概念ではない。たまたま使われた言葉であって、治療法も病状も違うと、いろんな人たちがその中に入ってくる。だから、触法精神障害者のための専門病棟というと何か何が何だかさっぱり分からなくなる。その二点についてお尋ねします。
参考人(藤丸成君) まず、初めの御質問の、精神科医療が一般に比べて低いんではないかということを改善すればいいんじゃないかという御意見だったと思います。
 実際に、精神科医療は、皆さん方、既に今までいろんな方が述べられたように、精神科については医師の数が四十八対、患者さん四十八名に対して一人、それから精神科看護においても四対一又はそれまでの経過措置として五対一、六対一という状況が今現在あるわけですが、そのような中で精神科医療の低さをどうカバーするのかというのが一つの問題かと思います。
 これまでの話でいろいろと私たちも聞いてまいったわけですが、年間、精神科の医師を志望する方は大変少ないということを聞いておりますし、先ほど蟻塚先生もおっしゃっていましたが、やはり精神科を志向する先生方が少ないという一つの面があります。それと、やはり精神科看護においても基準が低いという中の一つには、やはり志向する人が少ないんじゃないかという話もあるわけですが、実際にそういうことがすべて全うされたときに、司法というそういう病棟が必要かどうかということになりますと、私たちも考え方が今のところ大変迷っておるところがございます。本当にそういう病棟が必要なのかどうか、それよりも現実的に、現実的というよりも、精神科医療全体が一般医療を超えるような医療になれば問題が解決するんじゃないかという話もございます。
 しかしながら、今現在、実際に問題となっている、又は現場で困っている状況を改善したいというのも我々の考え方でございます。その中で矛盾したこともあるかも分かりませんが、我々は、できればそういう方々の施設があればもう少し我々自身の問題が改善していくんじゃないか、もちろん今現在の精神医療の底上げがスムーズに進めばそれでも可能かとは思いますが、なかなか今までの経過から見ていまして、それは今のところ無理じゃないかと私は考えております。
○朝日俊弘君 ディスカッションしたいんですが、次に移ります。
 高木参考人に。一つは、衆議院で修正案が提案されて、その修正案の中でこの法律の対象者の要件として、「再び対象行為を行うおそれ」という部分が同様の行為を行うことなく、社会復帰を促進するための医療を受けさせる必要というふうに変わった。そこで、何かしら再犯の問題が、これでこううまく回避できたのように受け止めておいでになる方があるんですが、私はそうではないと思う。本質的にその法律の目的そのものは変わっていないというふうに私は思うんですが、この点、どうお考えかということが一つ。
 それからもう一つは、先ほどちょっと時間がなくてとおっしゃったんですけれども、結局、仮に、非常に難しい、再犯の、再び同じような行為を犯すおそれがあるのではないかというふうに判断する場合に、確かにある意味で、そうかもしれない、そうかもしれない、そうなるかもしれないというふうに広げていけば、どんどんその範囲を広げていけば、それなりに再犯のおそれをキャッチすることができるかもしれないけれども、逆に、その中にそういう対象者ではなかった人たちも多く含み込んでしまうという危険性、これがどうしても付きまとう。かなりその危険性は高いんじゃないかと私は思うんですが、この点について、先生のお考えを。
参考人(高木俊介君) 一番目についてお答えしますと、レジュメの第二項の一番上に書きましたように、修正案の趣旨説明で、「医療の必要性が認められる者」ということを前面に出してはおりますけれども、そのすべてを本制度による処遇の対象とするのではないと修正案の趣旨説明で言っていますから、医療の必要性以外の要件が必ずあるはずなんですね。それの明言を答弁の中で避けた形になっておられますけれども、「同様の行為を行うことなく社会に復帰できるよう配慮することが必要」という文言を見ますと、社会に復帰できるように配慮するのは一般の精神病者について当たり前のことですから、やはり重きは「同様の行為を行うことなく、」で、この「同様の行為」というのは六種の重大犯罪を指しますし、ここに心神喪失の状態であるのかどうかが入っているかどうかというのはこの法律から読み取れないので、そこは問題だとは思いますけれども、少なくとも再犯の予防に関してはこの法案の根本的な骨格、目的であるというふうに読み取れると思っております。
 ですから、「再犯を予防するということが大前提」とおっしゃった坂口厚労相の、その坂口厚労相の言がどうなのかということを是非、朝日さんの力で問いただしていただきたいと思います。
 二点目ですけれども、再犯のおそれの判断ですが、これは、この二項めの一番下に簡単な数字で表を挙げました。百人に一人が起こす犯罪について九五%の正確な予測ができるとして計算した場合、人口十万でも九百五十人の実際に犯罪を犯す人を選び出すために、四千九百五十人の実際には犯罪を行わないのに行うとされる人が出てくるわけです。
 これは分かりやすいようにこの数字にしましたけれども、念のために今現実の数字を挙げますと、これも法務省の方がきちんと数字を出していただけないので、こちらで山上先生の論文から算出した数字で、大体、精神障害者の場合、前向き研究、一番しっかりした前向き研究で八%なんですね、再犯率というのが。ですから、百人に八人が起こす犯罪を仮定します。
 その上で、予測については、今現在調べ得る限りの海外の文献を調べますと、これは精神病そのものじゃなくて精神病質も含むのでちょっと議論と外れますけれども、それでも六割から七割の間なんです、精度というのは。それもしっかりした枠組みを作った予測研究で六割から七割、それが一番最高なんですね。
 その数字、つまり六〇%の予測精度ということで計算しましても、結果は同じなんです。八割が偽陽性、つまり実際には犯罪を犯さないのに犯すとして拘禁される人になるわけですね。ですから、この問題は非常に大事だと思います。
 さらに、この予測によって間違って拘禁された場合、実際、拘禁されているから犯罪はほとんどできないわけですから、予測が間違いであったという立証ができなくなるわけですね。ところが、間違って犯罪をしないと予測された人が一人でもいた場合、これは責任が重大じゃないかと。やっぱり精神障害者は怖いということになってしまうわけです。そのような非常に重大な問題を含んでいます。
 これをなぜ、こういう問題を精神障害者にはする、しかしそういう問題があるから一般受刑者には、もちろん法律の問題がありましょうけれども、一般受刑者にはしないというのがおかしいのだと思います。
○朝日俊弘君 それでは、最後に蟻塚参考人にお尋ねします。二点お尋ねします。
 一つは、高木参考人と同じ質問で、政府の原案がありました。それに対して修正案が出されました。内容についてはある程度御存じだと思いますが、私は今も申し上げたように基本的に本質的に、この修正案でも本質は変わっていないというふうにとらえているんですが、その点について参考人のお考えをお聞かせいただきたいことが一つ。
 それからもう一つは、前回の参考人においでになった国立武蔵の浦田先生にもお尋ねしたんですが、社会復帰調整官という名前になったけれども、実は保護観察所にそういう人を置くと、果たしてこれで社会復帰のコーディネートができるのかしらというお尋ねをしたら、浦田先生は、違和感を感じないでもないけれども問題は人だと、こうおっしゃったんですが、その点について参考人の御意見をお聞かせいただければと思います。
参考人蟻塚亮二君) 修正案については、私の、今の高木先生のお話と同じで、何でこの精神科の患者さんにだけ再犯の予測云々というのを付けるのかと、これは偏見だと思うんですね。
 それから、保護観察所というのも、私もよく分からないんですけれども、一つの県に一か所ですよね。一つの県に一か所で果たして手が回るのかという問題があります。今ですらも忙しいと言われているのに、一つの県に一か所でしょう。これに対して、ヨーロッパあるいは欧米の世界的な流れとしてはキャッチメントエリア方式というふうになって、大体人口三十万でチームを組んで、医者とか福祉とか心理とかいろんな人がチームを組んで、そして地域の中でケアしていこうというのが主流なわけですよね。それを、例えば青森県、人口百五十万しかないですけれども、一か所で全体をコーディネートするなんてことはまず不可能だと思います。
○朝日俊弘君 ありがとうございました。
 もうあと時間がありませんから、一点だけ私の意見を蟻塚参考人のお答えに付け加えさせていただきますと、社会復帰の支援というのは様々な形で、例えば精神保健福祉センターがあるし、保健所があるし、市町村もあるし、これからは市町村も精神障害者の福祉についてはきちんとやっていこう、こういう形で障害者プランもできたし、障害者計画もできた。しかし、そこへ突如、保護観察所に所属する社会復帰調整官という人が現れて、さあ、やりますよというふうに声を掛けたってうまくいくはずがないと私は思っています。そういう意味では、非常に強い違和感を感じるということを付け加えて、私の質問を終わります。