心神喪失者等医療観察法の条文・審議(その50)

前回(id:kokekokko:20060224)のつづき。
ひきつづき、法務委員会の質疑をみてみます。
【浜四津委員質疑】

第156回参議院 法務委員会会議録第13号(同)
浜四津敏子君 本日はお三方の参考人の皆様、お忙しいところ大変ありがとうございます。
 まず、藤丸参考人にお伺いいたします。
 今日いただきましたレジュメの中で、「3、触法患者の看護について」というところでございます。指定入院医療機関においては、特に患者さんに対しまして手厚い専門的な医療が提供されることになります。そこでは、看護師の方には大変ハードな仕事になるということが予測されております。司法精神科看護とでもいうべき分野の確立に向けた取組も同時に行われなければなりませんと先生御指摘になっておられますが、こうした看護師を支援する施策あるいは体制整備について、どのようなものが必要とお考えでいらっしゃいますでしょうか。
参考人(藤丸成君) 精神科司法病棟ができた場合といいますと、やはり十分なマンパワーというのは基本的な条件になりますが、やはり精神科看護の専門性、又はそういう司法精神科看護というべきものをやはり立ち上げて研究していかなくてはいけないという状況があります。
 で、我々も、団体も、アメリカ、カナダ、フランス等に職員を派遣して、実際にそういうようなところでの司法に当たっている看護師の状況を調査しておりますが、やはりそれなりの専門的な知識とそれから技術によってやはり対応しているということで、まだ日本においてはそういう分野を研究又は考えられておりませんので、今後は十分研究していかなくちゃいけない、司法病棟ができるまでの間になるべく早くそういうものを研究し確立していきたいと考えております。
浜四津敏子君 次に、同じく藤丸参考人にお伺いいたします。
 レジュメの「社会復帰に向けた取り組みについて」の点でございますが、この中に、社会復帰調整官のように、継続して地域ケアをコーディネートするマンパワーを確保することは重要なことですという御指摘がありました。また下の方に、現在、精神障害者の社会生活を支える方法として精神科訪問看護がありますと、こういうふうに述べておられますが、アフターケアの具体的なイメージとして総合的な取組が必要だろうと思うんですが、先生はこの社会復帰に向けたアフターケアの具体的なイメージとして、どのようなことをお考えでいらっしゃいますでしょうか。
参考人(藤丸成君) 司法におきまして社会復帰の困難性というのは、今現在、精神科においての社会復帰の困難性と同じような問題、それ以上の困難が生じるんじゃないかと考えております。
 で、今現在、私たちが現状の中で起こっております問題としまして、やはり受け入れる家族、御家族の方の問題が一つあります。御家族の高齢化であるとか又は経済的な問題、それから兄弟世帯への移行等によりまして、かなり入院前の状況のところに退院するということが難しい状況が起こっております。そうなりますと、やはり社会復帰施設というものが必要になるわけでございますが、現在のところ、まだ十分な社会復帰施設があるというわけではございませんし、ほとんど援護寮等、満杯になってなかなか空きがない、又は住居の問題も含めて、やはり社会復帰が難しいということがございます。
 そういうような状況の中で、退院後のアフターケアということになりますと、やはり、まず退院に向けての状況をどう作っていくのかというのが一つ大きな問題で、先ほども議論されていましたように、社会復帰調整官の数の問題というのは、これは絶対に必要なマンパワーでございますが、現在の状況、言われている状況では、到底そういう役割を担うことができないだろうという予測がされます。しかしながら、マンパワーが十分になったときには、やはり社会復帰調整官、精神保健福祉士が、その他が当たるということにはなってございますが、やはり精神科の看護師が同行して一緒に参るというのがいいんじゃないかと思います。で、業務としましては、病状の把握であるとか服薬の管理というような部分もありまして、やはり社会復帰調整官一人では少し難しいんじゃないか、マンパワーの確保とともに看護師もやはり同行した方が、訪問看護も同行した方がいいと私は考えております。
浜四津敏子君 最後に、また藤丸参考人にお伺いいたしますが、レジュメの6で、「今後の課題」の中に指摘されておられる問題でございます。事件は病気によって引き起こされたのであるが、本人の中で罪を犯したという自覚があり、罪の償いをしたいという思いがある人にとって、刑法三十九条の適応がいいのか疑問に思うという、医療ではなく司法を中心とした処遇を推進すべきとの意見もありますということが書いてございます。この医療ではなく司法を中心とした処遇を推進すべきというのは、具体的にはどういうことを指しておられるんでしょうか。
参考人(藤丸成君) アンケート調査の中でこういう意見が出てきました。で、実際に私たちも考えてみたところ、やはり、まず患者さんが裁判を受けるということは基本的人権じゃないかと私たちは考えます。その結果として、心神喪失又は耗弱という状況の中で、裁判の中で決まれば、次の段階として医療という形になろうかと思いますが、この方の意見からいいますと、まず最初に裁判を受ける権利を有する、まず裁判、どういう状況であっても裁判を受けるというのが基本ではないかという意見があったということで付け加えさせていただきました。
浜四津敏子君 次に、高木参考人にお伺いいたします。
 検察官の起訴前簡易鑑定の問題点について、先ほど後で質問があればお答えするということでございましたので、御説明いただければと思います。
参考人(高木俊介君) 質問ありがとうございます。
 我々から見ていますと、一つは、非常に起訴前鑑定に赴く精神科医というのが非常に限られておるんですね。京都ではほとんどを、例えば私のいる京都では、ほとんどの起訴前鑑定を一人の医者がやっております。で、非常に短い時間なわけです。そして、非常に、これは結果としてそうなっているということにすぎないかもしれませんが、検察寄りの検察の判断に沿った判断を出しておられるようなところがあります。これは実際に、ある起訴前鑑定をした医者が検察の意向と違う鑑定結果を出したところ、実際に圧力の電話があったという、エピソードですが、それもあります。
 それから、起訴前鑑定、起訴、不起訴につきまして、精神病質という診断があっても、一は、現在、犯罪白書の統計では二%程度は、心神喪失心神耗弱という中に精神病質という診断が二%ほど混ざって不起訴になっております。
 それから、非常に、統計取りますと、その他の事由による不起訴といいますか、理由が統計上表されていない不起訴というのが一番多いんですね。私どもの精神科の方の実感からしますと、これはやはり精神科の、心神喪失心神耗弱の問題というのがかなり入っているんじゃないかと予想しておるわけですけれども、そういうことに対して、この精神障害者の犯罪ということを言うんであれば、きちんとした資料を出していただきたいなと思っております。
 それから、今回この法律ができますと、審判が下されるまでは検察庁の身柄預かりになると思うんですけれども、私の理解だと。そうすると、犯罪は犯すけれども再犯の、犯したけれども再犯の可能性はないという、そういう方が検察に差し戻されますね。それが通報になると思うんですけれども、じゃ、その通報後がどうなるかということは、これまでも余り資料が出ておらぬのですね。非常に秘密の中に、主義の中に入っておるように思います。そういう問題が多々あると思うんですね。
 で、今回、法務省の方から出てきました検察関係の資料の中に前回の参考人の岩井氏が出した資料があるようなんですけれども、それの資料なんかにしましても、どうしてこういう資料を出すのかなというのがありまして、例えば三三%が再犯を犯すというようなことを数字として出しているような資料がありましたけれども、あれは措置入院全部が分母ですから、措置入院、五年間の措置入院というと二万五千人ぐらいいるわけですね。その二万五千人の中、退院すると半年以内に六人が重大犯罪を犯していたと。そういう数字を分母の説明なしに出してきていたりするので、こういうのはフェアじゃないなという感じがいたしております。
 いずれにしても、私は検察の問題というのは、まずはきちんと資料を出していただくべき問題だろうなと思っております。
浜四津敏子君 ありがとうございます。
参考人(高木俊介君) ついでに、浜四津議員さんに……
○委員長(魚住裕一郎君) 質問に聞かれたことに御答弁いただきたいと思います。
浜四津敏子君 先ほど精神病質の問題についても触れられましたが、精神病質に関しましては、これは医療ではなく司法の分野の問題という御指摘がありました。
 精神病質者による犯罪というのは、当然これは責任能力があるというのが原則でございます。しかし、例えば一時的な酩酊で心神喪失あるいは心神耗弱という判断を受けたという人につきましては、これはある精神科のお医者様のお話では、その背景にはアルコール依存症とかあるいは薬物依存症、これの多くが精神病質とかかわっているという御指摘もありました。
 この精神病質の犯罪者の処遇については、高木先生はどのようにお考えでいらっしゃいますでしょうか。
参考人(高木俊介君) 精神病質というのは、そもそも疾病ではなくて、ある正常からの性格の偏りというふうに定義されておるわけですけれども、そういう異常な、偏っているという意味で、異常な性格の中から本人が悩むもの、あるいはそれに社会が悩まされるものというふうに定義されています。その定義のために、これまで本人は病気として悩まないのに、周りが悩んでいるというだけで精神医療の対象となってきたという、精神医療のこれはずっと歴史があるわけですね。
 しかし、本来、医療というのは、本人がどのように悩むか、本人の苦痛を取り除く、それが本来の姿でありまして、もちろん私は、精神病質と言われる方が、本人自身悩まれて、不眠とかそういういろんな精神的な症状を来した場合にもちろん治療いたします。しかし、それは周りだけが悩んでいて、本人には治療の意欲がない場合、こういうのは医療の対象になり得ませんし、医療の対象としたとしても治療の可能性がないわけですね。それは、私は、やはりきちんと医療、精神医療の現場では医療の対象ではないと。あるいは一時的な、非常に緊急避難の問題だけとして預かっております。それを司法の方が、精神病質だからということで、もし精神病質だからということでこれは精神医療の範囲というふうにして精神医療の方に問題を持ってこられましたら、それは医療としては対処のしようがないわけです。それをこれまで日本の精神科医療は病床を埋めるために、三十二万床の病床が急激にできたときに精神病質に関してもどんどん強制治療の対象としてきたわけで、そこが今の精神医療の問題点を大きく生んでいると思います。
 それから、浜四津議員のおっしゃる、非常に難しいケースについては議論は非常にあります。例えば、精神病質の方の酩酊状態が、酩酊状態であった場合、しかしその場合の酩酊になる前提、飲酒をすれば酩酊するというようなことは本人は責任を持って分かっていたはずだという議論もあるわけです。そういう議論がまずはきちんと尽くされるべきだろうと思います。安易に精神医療の対象というふうにして、治療可能性のない者が精神医療の治療の中に入ってくるというのは混乱のもとになります。
浜四津敏子君 ありがとうございました。
 最後に、蟻塚参考人にお伺いいたします。
 精神医療の現場では、医師、看護師、精神保健福祉士等の専門職種の方々が連携して患者さんの社会復帰を図る、いわゆるチーム医療が重要であるというふうに伺っております。
 現状では、このチーム医療というのはどのように行われているのか。また、その現状及び問題点について何かございましたら、御指摘いただければと思います。
○委員長(魚住裕一郎君) 簡潔にお願いします。
参考人蟻塚亮二君) 私の病棟、病院ですけれども、各病棟で毎朝ミーティングをやりますね。それぞれのスタッフ、作業療法士だとかケースワーカーだとか医者だとかも含めてミーティングをやって、そしていろんな意見を出す、あるいはカンファレンスをやって、いろんな意見をまとめる。その際に大事なことは、医者が主導権を取らないことですね。私は、医者をやって給料をもらっていますけれども、私の給料というのは医者としてもらっているんじゃなくて、看護婦さんたちの情報と意見を得ることによって私は給料をいただいていると思っているんです。
 これは、例えばイギリス辺りでもいろいろ、さっき言いましたけれども、人口三十万辺りを一つの目安にしたキャッチメントエリアというのを作って、それに対応する地域のチームがあるわけですね。そのチームのリーダーというのは必ずしも医者でないです。サイコロジストである場合もあるし、ソーシャルワーカーである場合もある。それはだれでもいいんで、必ずしも医者でなくて、そういう他職種のチームが円滑に機能するのを助けるのが医者の仕事だと思っています。
浜四津敏子君 ありがとうございました。
 終わります。

【福島委員質疑】

第156回参議院 法務委員会会議録第13号(同)
福島瑞穂君 社民党福島瑞穂です。
 今日は本当にありがとうございます。
 私は、医療は医療、そして司法は司法としないと、お互いに責任をなすり付け合って、結局、長期入院に手助けをしてしまうのではないかというふうに思っているのですが、政府の案に関して裁判所をなぜ関与させるのかという点については、手続的な問題をきちっとクリアするためであるということを言われています。それは、なぜ手続的に手厚くしなければいけないかというふうに提案者が考えたかといえば、やはりそれは強制入院がどう考えても人権侵害の可能性があり得ると、身体に対する拘束は飛躍的に高まるわけですから、だから司法権の関与をしたんじゃないか。そうだとすると、やはり提案者の人たちも、強制入院、このようなことが非常にやはり人権侵害を高めるということを知っているんではないかということを思うんですけれども、この司法の関与について、改めて高木参考人、お願いいたします。
参考人(高木俊介君) レジュメに書かせていただきましたように、人権侵害の可能性、この法律が司法の関与を必要とするということを政府は認めているんではないかということについてですが、私は認めていると思うんですね。百五十四国会では既にこの人身の自由への干渉、制約が強いものとなると古田参考人はおっしゃっていますし、危険性の予測がないと成立しない法律なんですね。その成立、危険性の予測というのは誤る可能性があると、だから司法の関与が必要という論理になっていると思うのですが、ただ、その後がいけなくて、司法が、だからこそ司法が関与するのであるのに、これは不利益処分ではないから、もしも予測が間違って拘束されたことがあったとしても、ちゃんと治療するのだから補償は要らないと、そういう答弁もなされているわけです。
 私は、ここに医療と司法がお互いの責任を明確にしないまま、非常にごっちゃにしてしまった法律を作ったためにこのような矛盾が起こっているんじゃないかと思っております。
福島瑞穂君 修正で、「同様の行為を行うことなく、」というふうになりましたけれども、結局、これは再犯をしないかするかというのと言葉としては全く同じことであると。裁判官にしても、過去に起きたことの事実認定については訓練を受けているけれども、「同様の行為を行うことなく、」ということについては責任を持って判断し得る能力、資格はやはりないのではないかというふうに思っています。
 この点では、裁判官には無理な判断をさせるし、それから私は精神科医の皆さんにもお聞きをしたいのですが、治療を専念して行っているときに、同様の行為を行うか行わないかということが治療の中に入ってくると、この委員会の中でもこれは通常の治療と一緒なのか違うのか、ほかのと違うのかというと、同じですと言うんですが、ただ、その人の病気というものがもしあるとすれば、病気を治すというときに、同様の行為を行う行わないということが精神科医に、治療の中に組み込まれるというのは治療としてやっぱり非常に変ではないかというふうに思うのですが、蟻塚参考人、高木参考人、いかがでしょうか。
参考人蟻塚亮二君) おっしゃるとおりで、私、先ほどお話ししましたように、こういう制度を作れば新しいアイデンティティーを植え付けちゃう、要するに精神疾患を持っているというそういう負い目にプラスして、犯罪を犯したという負い目を重ねるわけですね。そのことが逆に、さっきもお話ししましたけれども、おれはどうせこういう犯罪、触法患者なんだから多少暴力振るってもいいんだというふうな役割、社会的な意識というものを持っていって、そのことが逆に長期入院化させて、そして長期入院することによってまたその自己規定が強まって、そして暴力がまた強くなってという、そういう止めどのない悪循環を下っていくんだろうというふうに思っています。
参考人(高木俊介君) ちょっと話がややこしくなるかもしれませんが、私は精神科医というものは鑑定人性と、精神科医のみならず医者ですね、医者というものには鑑定人性と治療者性の両方があるとは思っております。ですから、その鑑定人性という部分でいろんなおそれについて判断したりすることは、それ自体はあり得ることです。
 ところが、私がここで批判するのは、再犯のおそれというのがこれは医学的要件だけでは決してないと。それを、犯罪の再犯を犯す要素の多くは貧乏であるとか元々犯罪を犯す人であったとか、幾つか病気の症状と全然関係ない部分があるわけです。ですから、再犯の予測というのは鑑定人としての医者にはできる仕事ではないだろうと思います。それで司法の人を絡ませたのかと思いましたら、司法の方からはそれは司法にはできないとおっしゃられるので、じゃこの法律は一体だれが責任を持って予測をするんだというふうに思ってしまったわけですね。
 治療者としては、これはもう犯罪を犯した方であろうがそうでなかろうが治療としてのベストを尽くすのみで、治療者としては、それはこういう場合、いろんなおそれが自分の中にあります。やっぱり、これはもう正直に申し上げますけれども、私は治療の中断なんかについてもやはりありますし、蟻塚先生ほどは恐らくできていない身なんですけれども、この人がこの先何かどうなっちゃうだろうなということを非常に心配しながらやることもあります。
 しかし、治療というのは最終的にもう天の時、地の利、人の和でしかないところがあるんですね、理屈じゃないところがあるんですよ。それは、治療にとって私は、精神科であろうが医療であろうが、当然必然的なことだろうと思います。特に、社会復帰を含む精神医療、社会への復帰を含む精神医療の中では、この天の時、地の利、人の和というのは非常に大事だと思うんですが、それがこういう法案、こういう施設の中の治療というものでは制限されてしまって、非常に治療者としても不十分、鑑定人としては責任が負えないと、そういう立場に追い込まれてしまっている、する法律じゃないかなと思っております。
福島瑞穂君 かつての刑法改悪法では七年という上限がありましたけれども、今回は裁判所が更新の際に許可を出せば入院期間が幾らでも上限なく決められるという条文になっています。私は、これはどうなのかというふうに思っておりますが、藤丸参考人、例えば蟻塚参考人、この点についてはいかがでしょうか。
参考人(藤丸成君) 以前のときは七年という枠がありましたが今回はないということで、それが無限にということになると困りますが、やはり再犯というものが分からなくて、病状が改善したかしないか、そして改善したときの社会復帰というものを考えていけば、上限を設けることに本当に意味があるのかどうか。逆に、七年ということになりますと、七年間はいいということに逆になったりしますと私は思いますので、特に制限を設けなくても私自身はいいんじゃないかと。もっと、設けることによって逆に延びたりすることが起こるんじゃないかという考え方もあります。
参考人蟻塚亮二君) 私も同じでして、あえて上限を設ける必要は全くないんだろうというふうに思っています。
 私の経験したケースですけれども、いわゆる統合失調症の患者さんで、かつての成田空港反対闘争で火炎瓶闘争をやった方がいるんですね。この方と付き合ってもう十五年ぐらいになります。彼が非常に心の外傷になっているのは、自分が火炎瓶を投げた相手のお巡りさんがどうしているんだろうかということを非常に心配している、トラウマになっているんですね。私は彼に対して、インドの女の子に里親になって一か月五千円送る運動をやろうやというふうにして、そんなことをやって、彼が福祉的なものに傾いていって、今、臓器移植を登録したりしています。そこまで行くのに十五年ぐらい掛かっているんですよね。
 だから、ケース・バイ・ケースですけれども、実態として考えるべきであって、枠組みとして七年とかなんとかというのは考えられないんでないかという気がします。
福島瑞穂君 私がこの法案に非常に違和感を感ずるのは、他害行為を行った人間を集めるわけですよね。それが別に、ある種の集中病棟ではないかもしれませんが、国立の中のある一角の中にそういうある人たちを集めてしまうと。一緒に生きるとか病気が治るとか、この社会で生きていくというときは、いろんな人が交ざっていた方が基本的にはいいだろうというふうに思っているんですが、だから地域のケアみたいなことが大事だろうと思うのですが、他害行為を行った人だけを集めてしまうというような問題点、そのことについて、例えば高木参考人、いかがでしょうか。
参考人(高木俊介君) ちょっと、ただいまの御質問で誤解が生じるといけませんので一言最初にさせていただきますが、他害行為をした者だけを集める、ますます危ないじゃないかというふうに受け取られたら非常に困るので。
 実際には、他害行為を行ったとはいえ、それが心神喪失の状態であった、病気であった場合、本来は非常に穏やかな平和的な方が多いということは、これは経験上のこととして付け加えさせていただきます。
 その上でですけれども、これはやはりそういう方をそういうレッテルを張って集めるということになりますね。その点については私よりも蟻塚参考人の方が非常に丁寧に述べていただいたんですけれども、ある人に、特殊な一側面だけを見て、犯罪を犯したという側面だけを見たラベルを張ってしまうことになる、そのラベルによって治療者もその患者さんを診る、そういう悪循環が生じてますます社会復帰は難しくなると思うんですね。
 福島議員のおっしゃるように、やはりいろんな人がいてこそ治療のチャンス、立ち直っていく、犯罪という意味からいえば立ち直っていくチャンスというものがあるわけで、私はここにもやはり天の時、地の利と人の和というのは絶対に治療の上で必要なものだろうと、そのチャンスを奪ってしまうような収容の仕方は非常に問題だろうなと思っております。
福島瑞穂君 この委員会の中では、法務委員会の中では、刑務所の中の医療の問題なども随分取り組んできたように思います。過去十年間、約千六百人の人たちの死亡帳が出て、それを二百六十ぐらいに絞り、カルテや視察表を出してもらい、その中で問題があるケースについて六十五件ぐらい絞って、また問題にしたりしています。
 非常にショックを受けるのは、精神科医も非常に少ないですし、全国的に、それから保護房に入れると本当にすぐ、本当にすぐ亡くなってしまっている。拘禁反応がある人を保護房に入れて、本当に虫の息になって最後は死んでいるという人たちの数の多さに非常にやっぱりショックを受けています。
 ですから、まずそういうこともきちっと取り組むべきではないかというふうに思うのですが、その点について蟻塚参考人、高木参考人、済みません、私、あと一分しかないので、お二人から短くお願いします。
○委員長(魚住裕一郎君) 簡潔にお願いします。
参考人蟻塚亮二君) 何でしたっけ。
福島瑞穂君 刑務所における……
参考人蟻塚亮二君) 分かりました。
 やはり、刑務所の中においてもきちんとした医療というのは、必要であれば保障されるべきだと思います。
参考人(高木俊介君) 現在、受刑中の方の中に一%、精神障害の方がおられます。これは、法的身分が、まず精神障害だから心神喪失心神耗弱というわけではないので、私は精神障害の方が刑を受けていること自体については問題はないだろうと思います。
 しかし、どのような法的身分であれ、きちんとした医療を受ける権利というものはあるはずで、やはり今の刑務所での医療というのは問題ですし、医学的観点から見れば医療は保障されねばならないだろうと思っております。
福島瑞穂君 時間ですので。
 ありがとうございました。

【井上委員質疑】

第156回参議院 法務委員会会議録第13号(同)
井上哲士君 日本共産党井上哲士です。
 今日は、参考人の皆さん、ありがとうございます。
 最初に、地域ケアの問題について藤丸参考人と蟻塚参考人にお尋ねをいたします。
 初犯をなくすという点でも、そして不幸にも事件を起こした方の社会復帰という点でも、地域のケア、医療の、全体を引き上げることが必要だということは共通の声かと思うんですが、政府は暮れに新障害者プランというのも出しているわけですけれども、この水準でそういうことが達成をされるのかどうかというその評価の問題と、そして藤丸参考人には、やはり今の現状でいいますと、結果としてやはり指定入院機関から受入れ、受皿がないことによって退院できない、結果としてのやっぱり長期入院という懸念についてはどのようにお考えか、それぞれにお伺いいたします。
参考人(藤丸成君) 現在のところ、大変受皿の不足というものがございます。
 私の乏しい経験から申しますと、社会復帰施設等が近くにない、又はグループホーム、住居の問題が、ないというところに退院が大変難しくて長期化するというケースが多々ございます。
 実際に私どもがやってきたことというのは、私が勤めていた病院の付近には文化住宅、アパートというところがたくさんございまして、受皿としてはやはり文化住宅、アパートへの退院ということをまず基本的に考えてきました。
 そのときに、先ほどもチーム医療ということの質問がされていましたが、我々もやはり病院の中でソーシャルワーカー、心理、医師、看護、そういう人たちが集まって、どのようにしていくかということで退院に向けての取組をいたします。そのような場合にも、地域の保健所の精神保健相談員、それから福祉事務所のワーカーという人たちも病院の中に来ていただいて、その中で退院を進めていくということで、地域に帰るということがやはり一番じゃないかということで、家に帰れない場合はアパート等の単身生活という形で我々は進めました。
 そして、訪問看護という形等、地域のワーカーのフォローというようなもの又は病院のワーカーのフォローとかで何とか地域の中でという形で進めていったわけですが、やはり私の勤めていた病院のぐるりに三百人ぐらいそういう形で何とか送り出したんですが、やはり地域の自治会等の反対が起こってきまして、余り地域に入ることはもうこれ以上許してほしいというふうなことがありまして、その地域から少し離れた、それまでは一キロ以内ぐらいのところに、退院してきた人たちが二キロ、三キロという形で、ない場合にはやはりそういう形で地域の住宅を何とか利用させていただくということでやってきました。
 だから、これからは新障害者プランということになって地域の中での受皿的なものが大変整備されていくと思いますし、整備していただきたいという期待が大きいわけでございます。
参考人蟻塚亮二君) 地域の中で生活していくための必要な要件というのは、仕事、住居、仲間、医療という、とりわけ住居というのがないことには地域で生活していけない。その点でいうと、イギリスなどで見られる住居ケアという概念がありまして、いろんな団体が、国の補助を受けていますけれども、住居を精神科の患者さんに提供するための目的を掲げたいろんな団体が活動しているわけです。だから、家がない、帰るところがないというふうな方がおられても、大体三週間ぐらいすると住居はすぐ見付かるというのがイギリスの現状ですね。
 それから、日本ではその点は非常に単純、お粗末だと思うんですけれども、今のところ、グループホームだとか、それからいわゆる援護寮、生活訓練施設というふうなものしかないですね、住居は。福祉ホームもありますね。ところが、援護寮にしても、二年間又は三年間という期限がある。イギリスなんかは期限ないんですよ、全然。期限あるのは日本だけです。まるで受験競争みたいに期限付きで出ていけと言われるわけですね。
 そういう期限はやっぱり設けるべきじゃないというふうに思うのと、それからアメリカでもイギリスでもそうですけれども、そのケアの度合いに応じたグレードを付けた住居を、そういうバラエティーのある住居、例えばかなり自立度の高い人であれば管理人がほとんどいなくて全部自分たちでやるというところもあるわけですし、イギリスなんかで夕食のときだけコックさんが来て御飯作ってくれるというところもありますし、二十四時間スタッフが常駐しているというところもあります。そういういろんなグレードというか、バラエティーに富んだ住居が必要だろうというふうに思っています。
 それから、さっきの藤丸参考人のお話で地域の偏見云々ということが言われましたけれども、実際は地域の方々が精神科の患者さんをどう見ているかというと、医療の診断学の物差しで見ているわけではなくて、朝会ったときにおはようと言ったらおはようと返事が来るかどうか、違う診断学を持っているわけですね。そういう点でいいますと、私の病院での経験ですけれども、援護寮の人たちは一緒に町内会のどぶ掃除をやるとか、そうやって溶け込んでいきます。
 それから、そのために町会の人たちとの懇談会というのを私たち毎年ずっとやっていますけれども、あるとき、開放病棟の患者さんが病院の向かいの家に黙って入っていって、だれもいないところにいたんですね。そこの奥さんがびっくり仰天して、ところが、話してみて、あんたどこから来たのと、そういう話になって、そしたら、あら、精神科の患者さんというのは何と素直で純粋なんだろうとそこの奥さん思ったそうなんです。私、そろそろ帰りますからと患者さんが言ったときに、いやいや、そう言わないで御飯食べていきなさいよとその奥さんが言ったそうですね。そういうことが、女性の口というのは恐ろしいもので、町内会にわっと広がって、あっという間に町内会が変わってしまったんですね。
 だから、いかに触れ合うかということが大事ですね、障害を空論で論じるんでなくて、ということです。
井上哲士君 ありがとうございました。
 次に、簡易鑑定の問題について高木参考人と蟻塚参考人にお聞きをいたします。
 先ほど京都の例も出されて、一人の方がほとんどやっていらっしゃるということもありましたけれども、そういう体制上の問題、それから鑑定に非常に県によってばらつきがあるということも議論で出されているわけですが、どのように制度的、中身的に改善をする必要があるのか、蟻塚参考人は鑑定もやられているとお聞きをしているんですが、それぞれにその改善の方向についてお尋ねをいたします。
参考人(高木俊介君) まず、地域ごとのばらつきというのは非常に問題なんですね。つまり、鑑定結果のばらつき、非常に問題です。
 これは医療の責任でしょうけれども、こういう起訴前鑑定の基準というものが全くない、それぞれの精神科医の経験だけでやっているという面があります。それは医療の責任として是正しなければならないだろうと思います。そして、起訴前鑑定に限らず鑑定というのは非常に公正を期さないといけないものですから、やはり今のように一方的に司法の側から選ばれるという体制は良くないんじゃないかと思っております。基準ができたら、精神科医の一つの仕事として、そういう鑑定をする組織を作って、そこが医療が主体になって司法と連携していくべきではないだろうかと思います。
参考人蟻塚亮二君) 私も大体同じような意見なんですけれども、日本の精神科医のトレーニングの中で司法鑑定のトレーニングというのはないんですよね。医学教育の中でもほとんどない。それと、さっきの京都の例で、一人のお医者さんが百人やっているというふうな話もありましたけれども、なかなか鑑定をやりたがる人が少ないということもあるんですけれども、やはり各地域ごとに一定数の鑑定をやる精神科医のグループというのを集めて、そして一定の鑑定のトレーニングをやって、そして公正な鑑定をするべきだろうというふうに思っています。その辺りが、ばらつきがあるというのは、研修もやっていない、それからやる医者が限られている、その辺のところが問題なんだろうと思っています。
井上哲士君 もう一点、蟻塚参考人にお聞きをしますが、先ほど来、いわゆる人格障害の問題が幾つか議論になりましたけれども、参考人、医師としてそういう方々との対応もされているかと思うんですけれども、その点での少し御意見があればお願いをいたします。
参考人蟻塚亮二君) 人格障害というのは、多かれ少なかれ、親子の精神的な分離の問題、親離れの問題、そこのところがうまくいかなくて発生している、あるいは親子関係の中で十分な愛情が得られなかったとか、要するにいずれにしても親子の問題が関係しているわけです。
 これは私自身の体験なんですけれども、二年ぐらい前でしたかね、頼まれて、私の子供はみんな育っちゃったもんだから、かみさんがちょっと単身赴任しているもんだから独りでいたんですけれども、ある人に頼まれて、いわゆる引きこもりをやっている二十三歳ぐらいの青年と二人で一年間同棲したことあるんです、男と男で。これは、私というのは非常にずさんな男で、しょっちゅう遅刻するし、外国に行っても飛行機の乗り遅れというのは何回もある、国内でも何回もある、非常にちゃらんぽらんな男なんだけれども、そういう親の価値観とは違った私という変なおじさんと一緒に生活するという体験を通して彼は治ったですね、引きこもりが。そして、去年、東京に出てきて、写真学校を今年の三月に卒業して、今、写真家を目指して一生懸命頑張っている。
 つまり、でね、彼自身言うんですよ。つらい、つらい、つらい、つらいということを一生懸命言う。これは人格障害の人たちのその裏にあるつらさ、それをやっぱり分かってあげることをしなければいけないんだろうと思っています。
 例えば自殺の場合、自殺、話ずれますけれども、自殺する人は何で自殺するかというと、もっと良く生きたいという思いがあるから自殺するわけですね。それと同じように、人格障害の人の犯罪が不幸に起きたとしても、もっと良く生きたいという思いがそこにあるはずで、それを事前に我々のこの社会が受け止めれなかったということのツケだと思っています。
井上哲士君 最後に、高木参考人にもう一点だけ。
 今回のやつでは、法案では、いわゆる措置入院制度の改善というのは何もされないわけですが、その点で御意見があればお願いします。
○委員長(魚住裕一郎君) 簡潔に御答弁をお願いします。
参考人(高木俊介君) 措置入院制度に関しましては、非常に問題が大きいことは確かです。一つは、退院に際してやはりどうしても社会的、防衛的な性格を医師が引き受けてしまっている部分というのがあると思いますね。それに対して何らかの制度的な手当てが必要だろうと。そういう制度の問題以外に、現実の運用として、なぜ措置入院がこうも長期化しているのかというようなことがあると思いますし、それはもうこれまでの参考人が述べてこられたように、それだけの手厚い治療が要る措置入院、再犯、この法律の対象者と同じように手厚い医療が要るはずの方が現在の非常に手薄な医療の中でなされていると、処遇されているという問題は大きいと思います。ちょっと問題が大き過ぎますけれども。
井上哲士君 終わります。

【平野委員質疑】

第156回参議院 法務委員会会議録第13号(同)
平野貞夫君 三人の参考人の先生方から大変貴重なお話を、体験に基づく大事なお話をお伺いしまして大変勉強になりまして、質問というようなこと、形でお尋ねをするというより、本当に大事な問題を学んだなという気持ちでございますが、若干、自分の意見交えながら、お話の中でまだ言い足りなかったという面について説明していただければ有り難いんですが。
 私はなるほどと思ったことが二つありまして、この政府案の背景にあるものは、精神障害者の人権について、これをやっぱり全く分かっていないといいますか、むしろかつてのハンセン病患者の扱いだとか、あるいは最近起こっています刑務所でのいろんな事件と同じような感覚で精神障害者の人権を扱おうとしていると、こういうことが非常に明確に分かりました。
 それから二番目は、非常に今の日本の国で大事なことなんですが、日本の精神病医療の仕組みとかやり方とかそういうものが極めて劣悪であり、お話にありました精神病質あるいは人格障害、特に多くの日本人は現代のこの日本の元気のない社会の中でうつ病状態だというふうに加藤諦三心理学者なんかは指摘しておるんですが、ますますそういう憂うつな日本社会の中で精神病の専門のお医者さん等の役割というのが非常に過重になっているといいますか、あるいは政治も含めてよくそこの認識が分かっていないという部分が勉強になったんですが。
 最初に、藤丸参考人にお尋ねしますが、冒頭、司法の、この法律は司法の責任を医療の責任に転嫁するものだと、これは政治の責任を医療の責任に転嫁するものだという意味でもあると思いますが、ちょっとそこら辺、この法案の中で典型的にそういう部分をもう一回ちょっと御説明いただければ有り難いんですが。
参考人(藤丸成君) 医療の責任を、責任、医療の責任を押し付けているという意見を述べたわけですが、やはり基本的人権ということから考えますと、やはり裁判を受ける権利というのは、これは基本的な人権であろうと思います。だから、一番最初にそこから入っていくべきじゃないかと思いますが、起訴前鑑定という話も先ほどからございましたが、実際に措置入院のための鑑定ということになりますと、本当に短時間の中で措置入院が決まっていくという現状があります。だから、そうなりますと、起訴されるということがほとんどなくて、そのまま措置入院という形になっていくということは、やはり患者さんの基本的人権を十分認めているのかどうかというのは、やはり私としても疑わしい状況にあるということが思っております。
 それ以外にも、精神科医療というものがやはり一般の医療から比べてかなり問題があるというのはもう皆さん方御指摘のとおりでございますし、実際に現場の中で働いている私どもといたしましては、少しでもその現場の中が良くなるように、又は働きやすくなるようになればという期待をいつも掛けているわけで、やはり一つの法案ができるということになりますと、その中に期待を掛けていくということが我々の考え方でございます。
平野貞夫君 高木参考人にお尋ねをしますが、大変貴重な資料をいただいて勉強になるんですが、この懇話会の資料の中で政府案の立案経過が非常に、今後、我々もまだまだ審議十分尽くして、徹底的に審議していかにゃいかぬと思っておるんですが、この中で、第一点は、この法律のきっかけになったのは、平成十一年の精神保健及び精神障害者福祉に関する法案、この改正案の附帯決議だったと。ですから、ある意味でこの法案を引き金引いたのは国会だったわけでございます。重大な犯罪を犯した精神障害者の処遇の在り方については、幅広い観点から検討を行うこと。何言っているか分からぬ、実に無責任な附帯決議だったと思うんですが、この点については我々は十分反省をしなきゃいけませんが。
 私、非常に興味を引いたのは、与党の中で立案される過程で、高木先生作られた資料の中では、一時現状改革的な視点があったんだけれども、それが国会提出のわずか一か月前にすっかり外れて、十ページのところですが、与党案があいまいにしてきた法の目的と判定機関における判断基準を、それぞれ再犯防止と再犯のおそれと明言して、保安処分としての性格を強く前面に出した内容になったという、ここの私、そのことにちょっと注目して政府によく言おうと思っているんですが、何かアドバイスをしていただければ有り難いんですが。
参考人(高木俊介君) ちょっと済みません、十ページというのがどこか分からないのですが、プロジェクトチームの方は、やはり資料をきちんとそろえようということをやってきていたはずなんですね、この事件が起こるまでは。立法化は急がないということがあったんです。そして、本来、医療の側から何とかしようという、そういう姿勢があったはずなんです。それが今回はどうもやはり法の側からといいますか、司法の側から、裁判官が入ってくるというのが一番ですけれども、司法の側からの視点になってしまったと。それはやはり池田小事件がきっかけで、そのときに精神障害者の犯罪が増えている、何とかしろという、そういう小泉首相の意見が大きく反映したんじゃないかと思うんですけれども、ちょっとそこの経過は今すぐに資料を繰れませんので、申し訳ないけれども、そのような印象を持っております。
平野貞夫君 後日御指導していただくことにしまして、じゃ、最近の政府・与党の立法というのはこういうのが特徴でして、個人情報保護法、あしたに委員会採決になる可能性があるんですが、これだって規制すべきものを規制せずに規制しちゃいかぬものを規制したり、それから有事立法だって同じような傾向なんですよ。どうでもいいことを、しかも危ないことを規定して、きちっと締めておかにゃいかぬ部分を締まっていない。最近の非常に私、政府・与党の立法の共通した部分が一つあると思っていますが。
 そこで、もう一つ高木先生にお尋ねしたいのは、日本精神神経学会総会、これが二〇〇一年の五月、ここのシンポジウムが司法と精神科医療の抱える問題を包括的に提起したと言っていますけれども、簡単にどういう問題を提起されたのか。
参考人(高木俊介君) 結構幅広い問題を提起していたと思いますけれども、医療の側からの批判は、やはり起訴前鑑定の問題に集中していたと思います。済みません、そこも二〇〇一年の資料を持っているわけではありませんので、不正確かもしれませんけれども。
平野貞夫君 蟻塚先生のお話は、非常にもう実体験を踏まえた大変ためになった話でございますが、要するに日本での精神医療あるいは精神医学の扱いといいますか、これがもうちょっと、これに問題があるんだという御指摘だと思いますが、私ども考えますのに、そもそも先ほど申しました精神保健及び精神障害者福祉に関する法律案というのが問題ではないかと。要するに、現在の日本ということを考えた場合に、やはり日本人の心の病、そういったものも広く視野に入れながら、医療の部分と社会の部分と、あるいは政治の部分と、そういうものの区分け、あるいはやはり心の問題が非常に大事だという意味で、私は包括した基本法みたいなものが要るんじゃないかという意見を持っておるんですが、そういったことを含めて、蟻塚先生の御意見をいただきたいと思います。
参考人蟻塚亮二君) いろんなことを言いたいんですけれども、精神障害者という言葉はまずいんですよね、本当は。
 精神障害というのは、たまたまその方のごく一部の属性でしかないわけでありまして、そういうことを言うと、心筋梗塞がある人は心筋梗塞者、何か新型の消防の車みたいでしょう、糖尿病者とか心筋梗塞者とか。だから、精神障害者という言い方は、何か頭のてっぺんから足の先まで全部障害されているかのようなニュアンスなので、私はやめた方がいい。精神障害という、害というのも何か害悪の害みたいで、これも言葉としてやめた方がいいと思っています。
 それから、心と体というのが人間の基本であるわけですので、やはり心の問題、精神医学教育を医学部の中の柱の一つにするべきだと思っています。その点では、日本はずっと医学教育の中で精神科教育がほとんど、もう時間数でいうと四%ぐらいしかない、排除されてきたということがあるわけですね。それは変えなきゃいけない。
 それから、基本法でいうと、やっぱりアメリカのような差別禁止法みたいなものをすべてのいわゆる障害と言われるものを持つ人に対して作る必要があると思っています。
 それから、国際的に見ると、日本がこれだけ精神病者を一杯抱えて、要するに福祉に対して金出さぬということが日本たたきの原因になっているんだと思うんです。例えば、ヨーロッパはイギリス辺りに行くと、日本の自動車のセールスマンというのは日曜日も働くと、けしからぬ。わしらは日曜というのは教会に行くために休むんだ。ところが、あいつらは日曜日も働いて車売っていやがる。それで、しかも車の値段安いですから、何で安いかといったら、福祉に金投じないから安くできるわけですね、車が。これは公正な競争じゃないというふうに見られるわけですよ。で、日本たたきになる。
 そういうことも考えて、日本の精神医療というのをやっぱり国際的に直していかないと、日本というのは本当に妙な孤立した国になってしまうんじゃないだろうかということを心配しています。
○委員長(魚住裕一郎君) 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。
 参考人の方々に一言ごあいさつを申し上げます。
 本日は、大変お忙しいところ貴重な御意見をお述べいただきまして、誠にありがとうございました。当委員会を代表して厚く御礼申し上げます。(拍手)
 本日の審査はこの程度にとどめ、これにて散会いたします。