心神喪失者等医療観察法の条文・審議(その51)

前回(id:kokekokko:20060225)のつづき。
第156回参議院においても、法務委員会と厚生労働委員会の連合審査会が開かれ、質疑がなされました。
【武見委員質疑】

第156回参議院 法務委員会厚生労働委員会連合審査会会議録第1号(平成15年5月26日)
○委員長(魚住裕一郎君) ただいまから法務委員会、厚生労働委員会連合審査会を開会いたします。
 先例により、私、法務委員長が連合審査会の会議を主宰いたします。
 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案、裁判所法の一部を改正する法律案、検察庁法の一部を改正する法律案及び精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案を一括して議題といたします。
 四案の趣旨説明及び衆議院における修正部分の説明は、お手元に配付いたしました資料により御了承願い、その聴取は省略いたします。
 これより質疑を行います。
 質疑のある方は順次御発言願います。
武見敬三君 大阪教育大附属池田小学校の乱入殺傷事件というのは、これはもう本当にいたたまれないショッキングな事件でございました。被告人の捜査段階と公判で行われた鑑定では、被告人は人格障害者であるとして完全責任能力、これを認めておりまして、検察は死刑を求刑をいたしました。この人格障害者や精神病質者については、その判定基準など難しい点もあるかと思いますけれども、基本的には、責任能力があって相応の刑事責任を負うべきであるというふうに考えます。
 そこで、まずこの本法案の新制度の適用を受けるかどうかの振り分けが重要となるわけでございますが、起訴前のこの精神鑑定を的確に行うという必要性、極めて大であります。この点、改めて検討すべき点、多々あると考えるわけでありますが、法務省、どのように考えておられるか、まずお伺いしたいと思います。
○政府参考人(樋渡利秋君) お答えいたします。
 検察当局におきましては、精神障害の疑いのある被疑者による事件の処理に当たりまして、犯行に至る経緯、犯行態様や犯行後の状況等について刑事事件として処理するために必要な捜査を尽くし、事件の真相を解明した上で犯罪の軽重や被疑者の責任能力に関する専門家の意見等の諸事情を総合的に勘案し、適切な処分を行うよう努めているものと承知しております。
 その際には、事案の内容や被疑者の状況等に応じまして行われるべき精神鑑定の手段、方法についても適切に選択しているものと承知しておりますが、事件の捜査、処理における責任能力の判断の重要性にかんがみ、更に適切な鑑定がなされるよう、専門家の意見等も踏まえつつ、まず一つといたしましては、捜査段階において精神鑑定が行われた事例を集積し、精神科医等をも加えた研究会等においてこれを活用すること、二つ目は、検察官等に対し、いわゆる司法精神医学に関する研修を充実させること、三つ目は、鑑定人に被疑者に関する正確かつ必要十分な資料が提供されるような運用を検討すること等の方策を講ずることを検討したいと考えております。
武見敬三君 そこで、本法案では、この精神科医による鑑定で、病状の改善及びこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り、もってその社会復帰を促進するために医療を受けさせる必要があるか否かの判断がなされることとなります。
 そこで、犯行当時の精神状態もさることながら、今現在の被告人の病状、そして将来にわたって再び同様の犯行を行う可能性の予測に至りましては、これはもう非常に高度な専門的知識と経験が必要となります。この鑑定の質を一定の高い水準に保つということは、非常にこれまた重要なポイントになるわけでありますけれども、これ、先進諸国の中を見てみますと、こうした精神鑑定のトレーニングを積みました司法精神医という専門医がおりまして、ある程度の確率で再犯を予測できるようであります。我が国はこの分野というのはかなり後れているようでございまして、司法精神医学教室として専門的研究を行っているところは二つくらいしかないというふうに聞いております。
 そこで、このたび国立精神・神経センターの精神保健研究所に司法精神医学のセクションが新たに設置されるそうでありますけれども、今までに厚生労働省所管のこのような研究機関というのは一体どのぐらいありまして、どういう研究やってこられたのか、また、これらが十分なかったということであると、それはまたどうしてなかったのかということ、改めて教えていただきたいと思います。
 そして、この本法案の円滑な運用のためにも、この機会にこの司法精神医学という分野の学問的基盤を我が国の中でしっかりと強化するということが非常に必要であると考えますけれども、その準備を進めるに当たってどのようなお考えをお持ちであるのか、厚生労働省に伺いたいと思います。
○政府参考人(上田茂君) お答えいたします。
 これまで厚生労働省には司法精神医学を専門に研究するような機関はなく、その研究についても必ずしも十分に行われてきませんでした。我が国の司法精神医学につきましては、責任能力の鑑定を中心にその研究が行われてきましたが、諸外国のような専門治療施設が未整備であったこともありまして、治療や社会復帰促進の観点からの研究が立ち後れていたものと承知しているところでございます。
 このため、厚生労働省におきましては、平成十一年度から司法精神医学に関する研究への助成を実施するとともに、平成十四年度からは医師、看護師、精神保健福祉士を司法精神医学の研修のため、海外に派遣しているところであります。今後、このような海外研修から帰国した方から、あるいは専門家により国内の医療関係者に対して研修を行うこととしております。また、今年度からは、国立精神・神経センターに司法精神医学に関する研究部を設置しまして、臨床疫学、社会学、心理学など、このように併せ持った総合的な観点から研究を進めていく予定でございます。
 なお、本法案が成立し、司法精神医学のフィールドともなる指定入院医療機関が整備されることによりまして、我が国にも治療と社会復帰を中心とした司法精神医学の基盤が強化されていくものと考えておるところでございます。
武見敬三君 御指摘のとおり、これ、円滑にこれから更に進んでいけばいいわけでありますけれども、この司法精神医学の新たなセクションができて、そしてそこが一つの拠点になって様々な今度はデータ等を集積をしていくことになるだろうと思います。
 そこで、問題になってくるのは、こうした鑑定等にも必要とされるようなこの司法精神医学で必要とするそういう研究データ、こういうのはもういずれもそれぞれ実はプライバシーにかかわるような資料ばかりであります。こういう資料というものは、これ、きちんとプライバシーを侵害しないように管理されることは当然でありますけれども、しかしそれらを必要とするこうした司法精神医学の研究者のためにはそれがきちんと整理をされて提供されるという、そういう一つのルールがまた確立をしていなければ、これを上手に発展させていくことはできないわけであります。こうした学問的な研究を進めていく上で、やはりこういう過去の事例をできるだけ多く分析をして判定の標準化というものを行うということが、その公平性の上からも常に必要と考えられるのはもう当然であります。
 そうなりますと、今申し上げたとおり、過去の事件の鑑定書等を、プライバシーの侵害にならないように配慮しつつも研究資料として入手できるようにするにはどうしたらいいのか、それから法務省やあるいは厚生労働省文部科学省などが連携をしてこうした学問的基盤強化のためのデータ集積というものをどのようにこれから進められようとするのか、この点についてのお考えをお聞かせいただきたいと思います。これは法務省にお願いします。
○政府参考人(樋渡利秋君) 鑑定結果のフィードバック等についての委員の御指摘につきましては、精神鑑定についてより一層適正な運用を図るとの観点から、被疑者のプライバシーに十分配慮しつつ、鑑定結果を分析、蓄積すべきではないかとの御趣旨だと思われますが、法務当局といたしましても、これまで精神鑑定についていただいている御指摘を踏まえ、そのより一層適正な運用を図るために、専門家の意見等も踏まえつつ、捜査段階において精神鑑定が行われた事例を集積し、精神科医等も加えた研究会等においてこれを活用することという先ほど申し上げたような検討を加えていきたいと考えております。
武見敬三君 局長、その正に研究会等を、それぞれ個別の事案に関して研究会を設けて、そしてそこで関連する過去のデータを活用されるというのは分かります。しかし、それとは別に、学問的な基盤強化という目的の中で、特に特定の事案ということとかかわりなく、研究上の目的としてこういう過去の事例についてそれぞれデータを集積をしてその学問的な基盤を強化するということが必要ではないかということを私、申し上げているんですが、この点についてはいかがでしょうか。
○政府参考人(樋渡利秋君) 御指摘のとおり、その精神医学の進歩のためにそういう過去のデータ、事例を利用することは大事なことだろうというふうに考えるわけでございますが、それを考えるに当たって、先ほど申し上げましたように、被害者のプライバシーに十分配慮しつつ、そういうような御指摘等も踏まえながら慎重に今後検討していきたいというふうに考えております。
武見敬三君 慎重に検討するのはこれ、当然でございますので、具体的にどのようにするかということを是非御検討いただいて、そしてこの際、この法律を通じて改めてそういう学問的な基盤というものを強化するということを是非真剣に取り組んでいただきたいと思います。そのことが、新たに我々が策定しようとしているこの法律を円滑に運用していく上で実は最も重要になってくる基盤だと思いますので、よろしくお願いをしたいと思います。
 それから、今度は最高裁の方にお伺いしたいんですけれども、新たな制度では、処遇の要否の決定を裁判官と精神科医がともに行うと。これ、裁判官と精神保健審判員の合議体で意見の一致したところにより決定するというふうになっているわけでありますから、裁判官にも一定水準の精神医学などの基礎知識を身に付けていただくということが当然必要になってくるわけであります。
 現在でも、司法修習生が精神医学のこうした研修受けているということを伺っているんですけれども、これ、精神科医の方々から伺ってみると、そこでの研修の内容というのはまだそれほど充実したものにはなっていないんじゃないかと、その程度で大丈夫かという心配の声を私、実は聞いております。
 そこで、本法案の審判に堪え得る程度の精神医学等の基礎知識というものをやはり裁判官がしっかりと身に付けて認定のトレーニングを行うような研修をこれから策定をし、実施していくということが極めて重要と考えるわけでありますけれども、どのようにお考えになっているのか。また、現状におけるこの研修の実態というものはどういうものであるのかということについての御説明を伺いたいと思います。
最高裁判所長官代理者(大野市太郎君) お答えいたします。
 この法案では、医師である精神保健審判員と裁判官とが合議をして処遇についての判定をするということになっております。正に、精神保健審判員につきましては医師としての知見に基づく判断が期待されているわけでありまして、一方、裁判官に対しましては、対象行為の内容ですとか当時の精神状況等を考慮しつつ、精神科医による鑑定結果の合理性や妥当性の有無を吟味するとともに、本人の病状や生活環境等を考慮して、治療の継続が確保されるかどうか、同様の行為を行うことなく社会に復帰することができるような状況にあるかどうかといった点を勘案した上で精神保健審判員と十分に協議して処遇の要否、内容を判断することが期待されていると承知しております。
 したがいまして、裁判官の判断は基本的には法律に関する学識経験に基づくものではありますけれども、委員御指摘のとおり、精神医学等に関する基礎知識も必要であることはおっしゃられたとおりであろうかと思います。
 現在のそれでは研修状況はどうかということをまず先にお話しいたしますが、現在におきましては、責任能力の有無等の判断という過程を経まして、精神鑑定の合理性や妥当性の判断を求められる場合が少なくありません。裁判官は、具体的な事件の処理を通じまして精神医学等に関する知識、能力をそこで養ってきているわけでありますが、さらにその能力向上のために、司法研修におきまして精神医学に関する研修等を行っておりますし、また各裁判所で鑑定研究会というものを催しておりまして、そこで精神医学の問題を取り上げているということもございます。
 今後でございますけれども、この法案が成立した場合には、さらに裁判官と今度、合議体を組むことになります精神保健判定員との間での研究会を考えております。それ以外に裁判官に対しましては、司法研修所におきまして本制度に関する研修を行いまして、その適切な運用に努めてまいりたいというふうに考えております。
 以上であります。
武見敬三君 研修の内容は更に充実させていただけるものと理解をしておりますけれども、実際に私もこうした精神疾患の患者の医療機関というものに、幾つも私、視察をさせていただいて私自身も勉強させていただいているわけですけれども、やはりそういった現場の状況等についても是非、実際に現地を視察して、そして研修の実を更に実らせるということを是非やっていただきたいと思います。
 実際、そういう現場でそうした精神疾患の患者の方々というのと会って、そしてその生活状況などを正に実際に自分の目で見てそして理解をするというのは、紙の上で文書を通じて論理的に理解することと全く違います。したがって、この違いというものをきちんと御理解をしていただくことが私はこうした裁判官の立場としても相当に重要になってくると思いますので、そういったことも含めてひとつ御検討をしていただけるようお願いを申し上げたいと思います。
 そこで、今度は坂口厚生労働大臣、少し一般的な精神疾患の患者についてのお話も伺ってみたいと思っているんですけれども、この精神疾患の患者というのをいかに的確に治療をして社会復帰をさせるかというのは、これはもう人道上極めて重要な問題でございます。
 先日、報告がございました精神保健福祉の改革に向けた今後の対策の中間報告の中で、受入れ条件が整えば退院可能な七万二千人の対策というのがございました、早期退院、社会復帰の実現でございますけれども。この七万二千人という数字、どういうふうに算定されたのかよく分かりませんけれども、しかし実際に多くの長期入院の精神疾患の患者の方々がいらっしゃることを私もよく存じております。こういった方々、また最近は高齢化というのも顕著でございます。しかし、実際にその御家族の方々とお会いをしてお話を伺ってみますと、もう御家族の方々は本当につらい思いをしながらそういう精神疾患の御家族のことを施設の外から見守っておられます。かといって、なかなか実際に自分の家に引き取るということも諸般の事情でままならないという複雑な経緯がある御家庭にもたくさん私は実はお目に掛かりました。したがって、この社会復帰というのは相当に難しい過程を経なければできないということもよく分かりました。しかし、そういう中においても社会復帰のための施設というものを実は着実にやはり作っていかなければなりません。
 私は、幾つか精神病院の近くで、隣接するところで、社会復帰のためのグループホームのようなところも見学をさせていただきましたけれども、そこはやはり一人一人の患者の生活空間というのがきちんと個別に確保されていて、それからまた公共の場所というのもその建物の中に上手に確保されて、そこでまた家族の方々とも接触をしたりボランティアの方々とも接触をしながら社会復帰のための準備を行っておられました。
 こういったことを更にきちんと進めながらも、今度はこういった方々が就業できるような支援センターといったものも充実させなければいけないわけでありますけれども、しかし実際に新障害者プラン等の財源の規模などを見ましても、カバーできる部分というのは本当、一部に限られているような気がいたしますけれども、こういった点、これから更に充実させていくことが必要だというふうに私は思います。この点について、厚生労働大臣の所見を伺っておきたいと思います。
国務大臣坂口力君) 今お話しいただきましたように、かつての統計を取りましたときに約七万二千人、これは社会的入院と言われる人たちの数として数字が挙がってきております。実際にもう一度、スタートいたしますときにはもう一度しっかりと統計を取り直す必要もあるというふうに思っておりますが、しかし、多くの皆さんがおみえであることだけは間違いがないわけでございまして、医療全体の中でこの精神医療の面がいわゆる制度として今までは大変後れていたというふうに思わざるを得ません。日本の場合に入院のベッド数は非常に多いというようなことを、諸外国に比べて多いというようなことが言われたりいたしておりますが、それならば地域で受け入れるようになっていたかといえば、それはそういうふうになっていなかったわけでございます。
 今お話をいただきますように、七万人ならば七万人の今、入院をなさっている皆さん方、この皆さん方を地域あるいは家庭に戻すと申しますか、地域でこの皆さん方とともに生活できるようにする、また御家庭と一緒に生活できるようにするというのは、言うのはなかなか簡単でございますけれども、これはかなりな努力の要ることだというふうに思っております。
 先ほど述べられましたように、いわゆるグループホームでありますとか、そうしたものも必要でございましょうし、あるいはまた、病院とそして家庭との間のいわゆる中間施設的なものもあるいは必要かもしれません。そして、一番大事なことは、そうした人たちを地域に迎え入れるためのいわゆる人材でございます。人材をどう、多くの人材をどれだけ作り出すかということだろうというふうに思っておりまして、そうしたことがやはり伴わなければ達成できないわけでございます。
 衆議院の段階のときに、たしか私は十年掛かってということを申し上げたわけでございますが、なぜそんなに掛かるのだというおしかりを受けたことがございましたけれども、やはり人材の育成というものを考えますと、一朝一夕にはいかないのではないかという気がいたします。無理に地域に引き取るというような形になりましてはいけませんので、これは日本の社会の全体の意識改革も含めてやっていかなければならない問題でございますので、着実に一歩一歩前進をさせるということでなければいけないというふうに思っております。
 今、入院をなさっている皆さん方にとりましては、一日も早くというお気持ちの皆さんもおみえだろうというふうに思いますので、できるだけ早くそういう体制を作り上げるということに我々は努力をしなければならない。そういう意味で、来年、平成十六年、少なくとも第一歩を踏み出せるような予算措置をお願いをしたいと考えているところでございます。
武見敬三君 以上で終わります。

【朝日委員質疑】

第156回参議院 法務委員会厚生労働委員会連合審査会会議録第1号(同)
○朝日俊弘君 民主党・新緑風会の朝日でございます。
 今日は、この関連する法案について連合審査会を設けていただきました。ただ、今日は余り十分時間が取られていないようで、ようやく始まったところですので、是非、連合審査の時間も十分に今後取っていただきたい、こんな思いを最初に申し上げておきます。
 その上で、実は私も臨床の精神科医を十五年ほど経験をしてきましたので、特にこの制度における鑑定と治療と社会復帰の問題について重大な関心を持っているわけですが、ただ、その話に入る前に、どうも幾つかどうしても気になるところがありますので、少し私の専門領域とは違いますけれども、一つ一つ疑問をできれば解決していきたい、こんな思いで質問をさせていただきます。
 まず最初に、ある精神障害あるいは精神障害の疑いのある方が一つの事件あるいは犯罪行為にかかわったときに、最初にかかわるのはやはり警察だと思うんですね。いきなり検察庁に行ったり裁判所に行ったりはしない。そこで、警察の方でこういう精神障害に関連すると思われる事例、事案が発生した場合にどういう対応をされているのかということで私も一度きちっと警察の方にお尋ねをしようと思っていましたら、五月の二十二日、皆さんもごらんになったかと思います、毎日新聞の朝刊の一面トップで、精神障害者の事件について送検前、つまり検察庁に送られる前の段階で現在の精神保健福祉法に基づく措置入院の適用を受けて入院しているという例があったと。つまり、検察庁に行かないで、警察の段階で既にこういう判断がなされている。とすると、こういう事例は今度の制度には全然乗っからない。なぜならば、今度の制度は検察庁から始まっているわけでして、警察段階では何も手続的な規定がないわけです。
 そこで、この法律に入る前に、警察段階でこのようなことが、毎日新聞の報道でされたようなことが実態としてまずあるのかどうなのか。毎日新聞の方の記事を見ますと、調査をきちっとして、それに基づいてこの記事を作った、しかも三面には解説の記事も含めて書いてあるということであります。私も精神鑑定の経験がございますが、現在の精神保健福祉法での措置入院の手続を見ると、こういうこともあり得ないことではないというふうに思うわけです。
 そこで、まず警察庁に、このような報道について事実関係があるのかどうか、認識の問題、まずお尋ねしたいと思います。
○政府参考人(栗本英雄君) 報道につきましては承知をいたしております。
 まず、この関係で御理解をいただくために、警察といたしましては、犯罪を認知いたした場合には法令にのっとりまして捜査を遂げて検察庁に送致、また送付をしておるところでございます。それから、今、委員御指摘のように、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の第二十四条に基づきまして、自傷他害のおそれのある精神障害者の方を発見いたした場合には、この法律にのっとりまして警察官の通報がなされているわけでございますが、このような通報の事案につきましても、警察といたしましては捜査を遂げて適切に送致、送付をしているところでございます。
 御指摘の報道につきまして、私ども、その報道がどのような根拠に基づくのかということについては承知をいたしていないところでございますが、今回のこの報道を踏まえまして、平成十四年中の殺人等の重大事件について緊急に調査をさせていただきました。その結果、今申し上げました第二十四条に基づき警察官通報がなされ、そのうちの殺人等の重大事件に係るものでございます、これは現在御審議いただいている法案の対象行為になる事案だろうと思われますが、そのような重大事件については、平成十四年中に二百七件の報告がなされております。そのうちの、二百七件のうちの百五十一件につきましては既に捜査を遂げ、検察庁に送致、送付をいたしておりますし、また残り五十六件のうち三十六件につきましては現在捜査中でございまして、この捜査を遂げ次第、検察庁に送致、送付をする予定でございます。
○朝日俊弘君 今、調査をしました、平成十四年度とおっしゃいましたね。
○政府参考人(栗本英雄君) 十四年度でございます。
○朝日俊弘君 十四。毎日新聞の調査は二〇〇一年度に少なくとも二百九十七件あったというふうな報道になっていますから、そこと合わせた報告をいただかないと、どっちが本当なのか私はにわかには信じ難いんですが、その二〇〇一年度、つまり平成で言うと十三年度ですか、その調査はなさいました。
○政府参考人(栗本英雄君) 時間の関係がございまして、平成十三年度という形では調査をいたしておりませんで、急遽、平成十四年ということで。
 いずれにいたしましても、報道の視点は、警察において、先ほどの二十四条に基づく警察官通報がなされた場合にその後の捜査をしているのか否かということが一番の論点だと思いまして、昨年の十四年中を取りあえず調べまして、しかもその中でもたくさんの通報があるわけでございますが、その中で殺人等の重大な事件についてどのような措置がなされたかということを緊急に調査した結果、先ほど申し上げましたように、既に、その二百七件中百五十一件はもう既に送致、送付をしておりますし、それから残りについても現在捜査中で、いずれ捜査を遂げ、送付すると。そういう観点でございますので、平成十四年ということに絞って調査した結果、今御報告を申し上げているということでございまして、十三年度という形では調査しておりません。
○朝日俊弘君 いや、もう先週の金曜日にこの問題をお尋ねしますと通告してありますから、この記事読んだら、調査するんだったらちゃんと二〇〇一年度をやってくれないと話が合わないじゃないですか。何で違う年度をやっているんですか。
○政府参考人(栗本英雄君) 何年度という形で平素から報告をいただいておりませんので、どこで切るかということが大変難しい判断だろうと思います。そういう意味で、平成十四年中に認知をし、先ほど申し上げた二十四条に基づく警察官通報がなされたもののうち犯罪となり得るようなものについての措置をどのような形で行ったかということを一つの例として今御報告を申し上げているということで御理解を賜りたいと存じます。
○朝日俊弘君 全然理解できません。
 ここで止めてもいいんだけれども、そういうやり方はあえてしないで、こうしましょう。この問題は、大変この法案の審議にかかわって入口のところで極めて重要です。ですから、毎日新聞の報道が事実ではないとすれば、それをきちっと反論する証拠というか、調査を出してください。それが出てこないと、私はこの法案の審議のすべてを審議尽くしたということにならないと思いますので、いつまでにということ、期限切りませんけれども、できるだけ早急に調査をし、報告をしてください。どうですか。
○政府参考人(栗本英雄君) ですから、今申し上げましたように、年度という形で、仮に十三年度ですか、平成十三年の四月以降認知し、平成十四年の三月末日までにということであれば、そういう形で絞って都道府県警察に調査をすることは可能かもしれませんが、ちょっと現時点におきまして、平素からそういう形では報告をいただいておりませんのを緊急に十四年中ということで分かりやすく調べたものでございますので、そういうことで御了解いただければ努力をするようにいたしたいと。
○朝日俊弘君 いや、だから了解できないと言っているんだ、それでは。これにきちっと反論するんなら、年度を合わせてちゃんと調査をしてどうですかとやらないと議論にならぬでしょう。当たり前の議論でしょう、これ。何で十四年度やっているの。
 この新聞記事見ているでしょう。じゃ、何で十三年度、きちんとやらないの。
○政府参考人(栗本英雄君) ですから、先ほど御説明申し上げましたように、報道がどのような根拠で何に基づいてなされているのかということが、私どもいろいろ調査をいたしましたけれども、よく分からないわけでございます。ですから、期間を絞って、その期間でどのような措置がなされたかということについてであれば、しばらく時間をいただければ、今回、平成十四年中ということで調査をさせていただいたと同じように調査をいたす所存でございますが、年度という形では、私どもそういう形で取っておりませんので、警察としてはちょっと把握しにくいのかなというように思っております。
○朝日俊弘君 全然分かりません。
 まず、一つの区切り方の問題なんだから、区切って調査すればできるはずじゃないですか。何でできないんですか。
 もういいですよ。ちゃんと調査をして、ここに、この委員会、できればこの連合審査会に、もしそれができなければ法務委員会にきちっと調査の報告をしてください。
 と同時に、毎日新聞の報道が事実かどうか、場合によっては毎日新聞の方からも参考に来ていただいて話を聞くと。両者突き合わせて、本当にこんなことがあるのということをまずきちっとしないとこの議論は始まりませんよ。どうですか。
○政府参考人(栗本英雄君) ですから、報道につきましてどのような根拠に基づいてなされたか分かりませんが、私どもは、先ほど申し上げましたように、責任を持って都道府県警察に緊急に調査をいたした結果、先ほど申し上げましたように、第二十四条に基づく通報をしたうち、私どもが犯罪として捜査したものについては先ほど御報告申し上げたとおりでございます。
○朝日俊弘君 それでは理解できません。
○政府参考人(栗本英雄君) そのほかについていろいろな報道内容はございますが、それらについても具体的個別の事件の指定がございませんので、似たような事案がないのかという、不適切な事案も含めてないのかという観点で首都圏を含めまして調べましたが、その中についても報道を、もちろん具体的な報道になっておりませんから何を打ち消したらよろしいかということがよく分かりませんが、同種のことも含めて視野に入れながら調査した結果、そのような報告はなされていないということで御理解を賜りたいと思います。
○朝日俊弘君 それは十三年度は入っているの、それじゃ。あなたは十四年度についてはとおっしゃったでしょう。
○政府参考人(栗本英雄君) 先ほど申し上げました、数字的に申し上げましたのは平成十四年中のものでございます。その他、何年というような指摘がない、また個別のどのような事案かという、ないような報道も先生御指摘の中にはございまして、そのようなものがあるかないかということも一応視野に入れてある程度しました。しかし、それは元々報道自体が何年のどの県におけるどのような事案かという具体的な報道が全くなされていないということを踏まえての調査でありますから、あくまでもそれを前提にした調査の上ではまだ把握に至っていないということで御理解を賜りたいということでございます。
○朝日俊弘君 もうこのやり取りをしていると時間がもったいないんでね、委員長、ちょっとお願いしますよ。必要なら、先ほども申し上げたように、毎日新聞の方を参考に来ていただくということも含めて、こういう事実があったのかどうか、あるとすれば今度の法律でどうなるのかということはきちんと議論しないと、この法案の審議の入口、スタートのところが始まらないと私は思いますので、それを是非、委員会として検討いただきたいと思いますが、いかがですか、委員長。
○委員長(魚住裕一郎君) 後刻、連合審査会理事会ないしは法務委員会理事会で協議いたします。
○朝日俊弘君 それでは、私の方からも警察庁には、きちんと調査をし、新聞報道に誤りがあるのであればきちんと誤りがあるということを示す調査結果を出してください。そうする義務があると私は思います。それができなければ、皆さん方が一体これまで何をやってきたのかということを言わざるを得ません。
 率直に言うと、かなり警察官レベルでいい加減な判断をしている場合があるんですよ、私、実態的に知っていますから。あえてどうこうは言いませんけれども、そういう意味でこの調査結果はそれなりに真実性があると思っている。あなたの答えの方がにわかには信じ難い。
 是非、きちっと説得できる調査結果を持ってきてください。そのことを求めておきます。
 さて、じゃ、この問題について法務省そして厚生労働省、それぞれどう受け止めていますか。
○政府参考人(樋渡利秋君) 御指摘のような報道があったことは承知しておりますが、精神保健福祉法第二十四条に基づく警察官による通報制度と刑事手続における司法警察員から検察官への事件送致の制度の関係について申し上げますと、精神保健福祉法第二十四条により、警察官には、精神障害のために自傷他害のおそれがあると認められる者を発見したときは都道府県知事等に通報すべき義務が課されておりますが、この通報義務は精神障害者に対して必要な医療を確保するためのものであると承知しておりまして、その者の責任能力の有無、程度とは関係がなく、また検察官送致の代替措置でもございません。刑事訴訟法二百四十六条は、司法警察員に対し、犯罪の捜査をしたときは原則として速やかに事件を検察官に送致しなければならない旨定めておりまして、警察においては、これに従って刑事事件の捜査、処理が行われているものと我々は承知しております。
○政府参考人(上田茂君) ただいま御指摘の新聞記事の基となりましたデータの取材、あるいはどのように収集されたかにつきましては私ども承知しておりませんので、事実であるかどうか、否かにつきまして、不明というか分からない状況でございます。
○朝日俊弘君 それだけ。ちょっと、現行の精神保健福祉法措置入院制度も含めて所管をしているのは厚生労働省のおたくでしょう。
 それで、何ですか、今の答えで十分だったと思いますか。
○政府参考人(上田茂君) データにつきましては今申し上げた状況でございますが、実は私ども、平成十四年度の厚生労働科学研究費の研究がございまして、この中で、精神保健福祉法第二十四条に基づく警察官からの通報のあった事例、これは平成十二年の五月と十一月でございますけれども、こういった事例につきまして関連資料を分析して、この研究の中で分析しております。
 そして、資料が得られました千百九件のうち通報の原因となった行為として、本法案の「重大な他害行為」に相当する行為が行われていた件数は、殺人との記載が一例、放火との記載が六例、強盗との記載が一例、強姦との記載が〇件、ゼロでございます。
 しかしながら、この調査はあくまでも保健所の調査に基づく資料でございますので、その行為の具体的な内容や通報後に検察へ送致されたか否か等の詳細につきましては不明ではございますが、今申し上げました研究の結果、このような状況がございます。
○朝日俊弘君 いや、その研究の結果は結果できちっとペーパーで示してもらいたいと思うけれども、私が聞いているのは、この毎日新聞の報道で、このような、本来であればこの今審議中の本法に基づいて対象となるであろう事例が、警察段階で措置入院制度で入院していたという事例がこれだけありますよと、こういう報道なわけですよ。これが本当ですかということを聞いているわけ。
 今、警察庁の方には、お聞きしたら、いや、十四年度がどうのこうのという話で、十四年がどうのこうのという話でちょっとかみ合っていないんだけれども、あなたも、この精神保健福祉法を所管している官庁として、この問題についてどう受け止めて、どう対応しますか。
 何を問われているのか分かりませんか。所管しているのはあなたのところでしょう、精神保健福祉法措置入院制度は。そこがそういう出来事を一切分からないということですか。でも、法務省の方はしかるべくちゃんとやられていると思いますと言っているじゃない。
○政府参考人(上田茂君) 失礼いたしました。
 精神保健福祉法第二十四条に基づく警察官による通報制度と刑事手続における司法警察から検察官への司法送致への制度の関係につきましては、申し上げますと、精神保健福祉法第二十四条により、警察官には、精神障害のために自傷他害のおそれがあると認められた者を発見したときは都道府県知事に通報すべき義務が課せられておりますが、この通報義務は精神障害者に対して必要な医療を確保するためのものであると承知しておりまして、その者の責任能力の有無、程度とは関係ないというふうに考えているところでございます。
○朝日俊弘君 それは、その部分的説明としてはそれでいいかもしれないけれども、私が聞いているのは、結局、そうするとこういうことですか、精神保健福祉法に基づく措置入院制度のその後のフォローアップは全然やっていないと、だから分からないと、この調査の結果は。こういうこともあるかもしれないし、ないかもしれないと、こういうことですか。
○政府参考人(上田茂君) ですから、私、申し上げましたように、二十四条に基づく警察官通報は、自傷他害のおそれがあると認められると、発見した、そういうような法の制度に基づきまして警察官の方で通報されているということで、私どもは、その通報を受けまして調査をし、そして指定医による鑑定を行って、要件が、自傷他害という鑑定の結果が出されましたら措置入院になる、そうでなければそうでないという、そういう法に基づきまして手続を進めているところでございます。
○朝日俊弘君 それで、この新聞記事の中では、例えば措置入院の鑑定申請があって、あるいは入院をしている事例の中にも証拠不十分で送検できなかったり、通報後に送検された事例もあるがということで書いてあるわけですよ。そういうフォローアップは全然やっていないということですか、そうすると、厚生労働省は。
 要するに、鑑定をし、例えばその日、非該当になったとか、該当して入院したとか、その後、いやいや、そうじゃなくて、入院したけれども送検されたとか、そういうフォローは全然していないということですね。そんないい加減なことでいいの。
○政府参考人(上田茂君) ですから、私ども、先ほど申し上げましたように、鑑定を行い、そしてその措置入院するかという決定を行って……
○朝日俊弘君 そこまでは分かった。その後。
○政府参考人(上田茂君) その後の経過につきましては確認してはおりません。
○朝日俊弘君 それが実態なんですね。
 そうすると、これはちょっと精神保健課にも宿題を出さなきゃいけませんね。一体ちょっとこれ、どうなっているのか調べてくださいよ。そして、警察庁の方の調べと突き合わせてくださいよ。それをやらないと、この問題、毎日新聞の報道についてのきちっとした答えになりませんよ。ちゃんと調査をして出してください。どうですか。
○政府参考人(上田茂君) お答えいたします。
 ですから、現在の精神保健福祉法におきましては、そういった、今、ただいま先生が御指摘の点について確認するということは法では求めていないものですから、あくまでも通報に基づいて措置入院する、それについての、ということでございます。
○朝日俊弘君 いや、そうしたら、いや多分そうだと思うんだけれども、今の法律の仕組みからいうと。そうしたら、この報道に対して、彼らは彼らなりに調査をしてこういう報道をしているわけだ、これに対して反論できないじゃない、皆さん。反論できないとすればこれ、認めざるを得ないじゃない、ということになりません。だから、この報道がそんなはずはないと思うんだったら、これにきちっと反論できるデータを警察庁厚生労働省とできちっと作ってくださいと言っているんですよ。私の言っていること、そんな無理なことを言っていないでしょう。どうですか。
国務大臣坂口力君) 都道府県から調査をすればできると思いますので、調査いたします。
○朝日俊弘君 是非、審議の経過がどうなるか分かりませんけれども、この審議に間に合うように調査結果を知らせていただかないとこの法案の審議が進みません、と思います。
 それでは、大臣の方からそういうお答えがありましたので、是非、警察庁の方にもお願いしたことと厚生労働省にお願いしたことを含めて、きちっと現状がどうなっているのか、そしてこういう場合にはこうなっているという、この新聞報道に対する答えを明確に示していただくことを改めて要求しておきます。やっと一番が終わりました。
 それでは、二番目の問題に入ります。
 私ども民主党の中では、司法と精神医療に関するプロジェクトチームを作りまして、いろんな方からヒアリングを行いました。そのときに、ちょっと紹介しますが、アメリカのイリノイ州ランバート市警察、市の警察ですね、ランバート市警察の、彼女の紹介では、知的障害者精神障害者専門捜査官、マリリン・ジョンソンさんという方をお招きしてお話を伺いました。非常に私自身、お話を聞いて目からうろこという体験だったんですが、この専門捜査官、元々は捜査官のようです。捜査官でありながら、精神医学とか心理学とか、それから様々なボランティアグループとかとフィールドワークをして、いろいろトレーニングを積んで専門捜査官という地位というか肩書を持って対応されているんだそうです。
 その方はなぜそういう肩書が必要だったかというと、事件や犯罪に障害者がかかわっている場合、かなり被害者としてかかわっている部分も多い。もちろん加害者としてかかわっている場合もある。だけれども、どうも全体的に見ると、彼女がおっしゃるには、むしろ被害者となっているのに、事件に巻き込まれた中でうまく自分の状況を説明できなかったがために被害としてきちんと取り上げられることもなしに、逆に場合によっては加害者側に立たされたりすることがある。つまり、こういう事例では、事件では、つまり障害者の方がかかわった事件では、最初の捜査段階での情報収集というか事情聴取というか、そこがすごく大事なんですと、こういうことをおっしゃった。全くそのとおりだろうと思うんです。
 日本での、こういう法律が今作られようとしているという話をしましたら、いや、それは誤りです、一方的に加害者になった場合だけを考えて法律を作ることは誤りですと、こうおっしゃった。もう一方で、被害者となった場合、なっている場合のどうするのかということもきちんと考えないと駄目ですよ、加害者としてかかわっている場合についてはどうしても保安処分的にというか施設収容的にというか、そういう方向に必ず動きますよということをおっしゃった。非常にいいお話を伺いました。
 そこで、さて日本はどうなっているんだろうかと。捜査段階で、例えば知的障害を持った方あるいは精神障害を持った方について、捜査段階でそのことを十分留意して、配慮してちゃんと事情聴取なりやっているだろうか。そういう専門捜査官というような人がいるんだろうか。専門捜査官がいなくても、そういう少なくともトレーニングをちゃんとやっているんだろうか。まず、そういう配慮があるだろうか、大変気になります。警察庁にお伺いします。
○政府参考人(栗本英雄君) 今、委員御指摘のような障害を持っておられる方が加害者とか又は被害者として警察としていろいろなお話を承るような機会、その際には障害者の方の特性というものを十分に考慮をさせていただきまして、例えば平易な言葉を使ったり、また時間を十分掛けて質問をさせていただいたり、適宜、休憩を取ったり、またそのお話の十分な裏付けを取るなど、こういうことに配慮いたしておるほかに、必要に応じましては福祉施設の女性職員や精神科医等の立会いを付けさせていただきまして、その上で事情聴取の意味、内容の十分な理解や精神的な負担の緩和等に努めているところでございます。
 また、それぞれの都道府県警察におきましては、例えば、社会福祉法人全日本手をつなぐ育成会などの関係団体のところで作成をしていただきました冊子や執務資料を配付をいたしましたり、また、それぞれの専門家の方に来ていただきまして講師としていろいろお話を聞く機会を設け、私ども警察といたしまして、知的障害者精神障害者の方についての我々警察官としての理解を十分深めるように努めているところでございます。
 また、委員御指摘の、そのような専門的な捜査官はということのお尋ねでございますが、そのような専門的捜査官につきまして、残念ながら現在、警察に配置しているという状況にはございませんが、そのような知見を十分に有する捜査官の育成につきまして今後特段の意を用い、そのような障害者の方への対応に遺憾のないように努めてまいりたいと考えておるところでございます。
○朝日俊弘君 今、御説明の中にあった、実はこのマリリンさんと一緒に全日本手をつなぐ育成会の方もおいでになって、今あちこちで権利擁護セミナーということで犯罪被害から知的障害のある人をどう守るか、こういうキャンペーンに取り組んでおられます。そういう意味では、是非、そういう皆さんからのお話を聞きながら、やっぱり今後の課題としては、そういうことに十分意を用いたスタッフを配置するとか、あるいは一定程度のプログラムをちゃんと工夫するとかいうことを是非やっていただきたいと思うんですね。
 私は、やはり知的障害あるいは精神障害の方が犯罪に不幸にしてかかわった場合、やっぱり最初の段階の接し方が非常に大事だと。もちろん、最初の段階から全部専門家を並べろと言うつもりはありませんけれども、しかしその最初の段階はやっぱり警察なんですよ。警察がどう受け止めるかによってその後の話の進み方というのは全然違ってくる可能性がある。例えば、まかり間違って被害を受けた側にいた人を加害というふうに認定してしまったときにどうなるのかということにつながっていくわけですから、是非ここは、今日はもうお答えは結構ですので、重要な検討課題であるということだけは確認させていただきたいというふうに思います。
 その上で、さて三番目に、今申し上げたように、ある犯罪行為にかかわったことが、その犯行あるいは他害行為にかかわったことが事実であるかどうかについて伺います。
 つまり、通常の犯罪の場合でしたら、その事実認定の段階から、例えば本人が否認をした場合、弁護士を隣に付けてきちんと弁護を受けながら、いやいやそれは事実じゃないと、あるいはそこのところは違うというふうに本人自身が弁護人の力をかりて否認あるいは疑義を指摘し、それにきちっと検察側が答える、あるいは裁判を通じて答えていくという仕組みになっていると思うんですね。
 私は、特に心神喪失の状態、精神障害を持った方が不幸にして加害者として警察なり、そして検察なりという段階に連れてこられたときに、むしろ通常の場合より以上に手厚いそういう配慮がなされなければならないと私は思う。
 ところが、今提案されている法律は、弁護士を付添人として付けることができますよと、こういう書き方になっているんですね。付添人と弁護人とは大分権限とか役割が違うようなんですね。つまり、簡単に言うと、付添人の方が文字どおり付添いで弱いんですよ。弁護人じゃないんですよ。付添人なんですよ。だから、じゃ証拠出せというようなことが、弁護人は権限を持っているけれども、付添人は持っていない。コピー取らせてください、いや、それも駄目と、こういうことになる。逆じゃないかと。
 一番表現をすることが不得手な場合が多いそういう障害を持った方たちの事実を認定する場合、他害行為を本当にその人がやったのかやらないのかということをする場合に、もし仮に本人が、いや、僕やってへんと言ったときに弁護、ちゃんとできるようにしなきゃ駄目じゃないかと私は思うんですが、この点については法務大臣に、お答えください。
国務大臣森山眞弓君) この制度におきましては、最初の処遇の要否、内容を決定するための審判におきまして、対象者に弁護士である付添人を必ず付すこととしております。そして、付添人に対しては、審判への出席権、意見陳述権、資料提出権、処遇事件の記録又は証拠物の閲覧権、決定に対する抗告権を認めるとともに、入院患者の退院許可や通院患者の処遇終了の申立て権を認めるなど、対象者の適正な利益を保護するため、様々な権利を保障しております。
 本制度は、刑罰に代わる制裁を科すということを目的とするものではなくて、その手続としては、裁判所が適切な処遇を迅速に決定し、医療が必要と判断される者に対してできる限り速やかに手厚い専門的な医療を行うことが重要であることから、刑事訴訟手続より柔軟で、十分な資料に基づいて適切な処遇を決定することができる審判手続によることが最も適当であると考えるわけでございます。
 そこで、本制度におきましては、裁判所が事実の存否を職権で探知する審判手続を採用することとしたのでございますが、弁護士である付添人には先ほどお答えしたような種々の重要な権利を認めておりまして、これにより対象者の適正な利益が十分保護されるものと考える次第でございます。
○朝日俊弘君 答弁は予想しておりましたが、弁護士さんから、どうもこれじゃやりにくいと、あるいはやれないと。要するに、何で裁判のときに刑事手続における弁護人と同等の権利を与えてくれないのだというふうに強く求められているんです。何とかここだけでも修正してほしいと、こうおっしゃっているんですが、なぜできないんですか。もう一遍説明してください。
国務大臣森山眞弓君) ただいまもお答え申し上げましたとおり、本制度におきましては、対象者の適正な利益を保護するため、付添人に種々の重要な権利を認めているわけでございますが、例えば処遇事件の記録や証拠物については、付添人に閲覧権は認めていますが、謄写については裁判所の許可を得なければならないということになっております。
 そもそも処遇事件の記録等の中には、対象者の精神の状態など、そのプライバシーに深くかかわる事実が含まれておりまして、これをみだりに明らかにするということになりますと、対象者の社会復帰の促進という本制度の最終的な目的を阻害することとなると考えられることから、本制度では、このような記録等については裁判所の許可を受けた場合を除いて原則として閲覧も謄写もすることができないこととしたものでございます。
 しかし、付添人については、本制度における役割にかんがみまして、一般の場合と異なりまして記録等の閲覧権を認めたものであり、また、謄写についても裁判所の許可を受けることによってこれを行うことが可能となっているわけでございます。
○朝日俊弘君 ここは溝が詰まりません。相手は弁護人ですからね、プライバシーをばっと広げる話と違うわけですから、十分に弁護するに十分な資料提供をされるのが当たり前であって、むしろ本人の表現能力や意思能力が多少とも劣っているとすれば余計そういうことが必要だと、逆だと私は思う。ちょっと意見が違う、ここは全然違うということを確認しておきましょう。
 次に、先ほど同僚の武見委員からもちょっとお話があった精神鑑定のことについてお伺いします。
 特に、いろいろ問題になっているのは、簡易鑑定、起訴前の簡易鑑定。起訴前の簡易鑑定がどうもちゃんとできているのかなという心配がずっとあって、たしか百五十四国会、去年の夏に、衆議院の方で参考人としておいでになった前田参考人は、簡易鑑定の実施状況について非常に地域差、個人差があるということを意見として述べられていました。私も実感としてそう思っていました。
 幸い、平成十四年度厚生科学研究、「責任能力鑑定における精神医学的評価に関する研究」という研究が行われていまして、その研究書の報告要旨ができ上がってまいりました。お尋ねすると、まだ、全体を取りまとめるので公表する段階になっていないというお話ですが、しかし分担執筆を担当した方としては、一定の報告書として取りまとめたというふうに伺っております。この中身について、もし差し支えなければその範囲で御説明をいただきたいし、できればその資料を提供していただきたい。
 非常に貴重な指摘になっています。結論のところだけ読みますと、今回の調査により、簡易鑑定の実施状況には、鑑定の精度や人権擁護の観点から無視できない地域差、精度差、正確な度合い、精度差、個人差のあることが判明したというのが結論です。
 この点について、厚生労働省として御説明できる範囲でお願いします。
○政府参考人(上田茂君) 私どもも正式な報告をいただいておりませんが、研究者から聞きましたところの状況につきまして御説明をしたいと思っております。
 ただいま先生の御指摘の研究につきましては、起訴前の簡易鑑定の実態を明らかにするという目的で、十二年度に実施されました二千百三十四件の起訴前鑑定に関する研究、また全国十七施設からの鑑定書、百四十六通の鑑定書を収集し、比較検討されております。
 結果でございますが、一つは、地検別データの解析で、少数の医師が多数の鑑定を行う地域と多数の医師が分担する地域があった。また、鑑定の結果、精神障害と診断される率、精神障害と判断される者が不起訴となった率には地域差があった。それから、先ほどの十七施設の百四十六通の鑑定書のうち五十八通について分析がされておりまして、鑑定場所ですとか、あるいは鑑定日数、それから作成日数ですとかの状況がまとめられておりまして、また家族歴、生活歴、既往歴等々、記載が不十分な鑑定書が見られたというような主な結果になっております。
 また、考察として、少数の鑑定医に依頼する地域では個人の偏りを反映しやすく、多数の鑑定医が交代で行う地域では基準の不均一を生ずるおそれが高い、あるいは精神鑑定について幅広い議論を展開することが必要、また精密性と迅速性のバランスの取れた簡易鑑定書の様式を作る必要がある等々、このような内容とお聞きしております。
○朝日俊弘君 もう時間になっちゃいましたので、四番の二番で止めます。四番の二番以降はこれからやらせていただきます。
 ただ、一つだけお願いします。
 この審議とも非常にかかわりのある研究報告ですから、できるだけ早急に公表していただけませんか。その点だけお伺いして、私の質問を終わります。
○政府参考人(上田茂君) 努力いたします。
○朝日俊弘君 終わります。