津田雅也『Geoffrey R. Watson「消極的属人主義」について』東北法学27号180ページ

 また、学説にも、今回の改正によってTAJIMA号事件において見られたような国際司法共助の手続の遅延に伴う関係者の負担が解消されることを指摘するものや、国際化の進展い伴い海外で日本人の被害者が増加しており自国民保護の観点から歓迎すべきことであるとするものがある。このように、学説の評価は概ね肯定的であり、今回の改正そのものに対して反対する見解は見当たらない。
 平成一五年改正によって三条の二が追加されたことは、国外における国民保護という目的を達成するための合理的な処置であると思われる。何故ならば、国外において日本人の生命・身体を侵害した行為者が日本に逃亡してきた場合にこれを逮捕・処罰できないのは不当であるし、国外で処罰されてもそれが日本から見て到底許容できないものである場合に犯人の引渡を求める根拠を創設しておくことは、国民の保護を具体的に実現するための手段を提供するものであるからである。このように、三条の二は、国外にある日本国の重要な利益を保護するという点において、他の国外犯処罰規定と同一の意義を有するものである

しかし、「他の国外犯処罰規定」のうち、たとえば通貨偽造罪は、「国外にある」日本国の重要な利益を保護するというわけではないですよね。また、積極的属人主義の場合、その本質は日本国の利益保護というよりは代理処罰でしょう。
個人的には、それがよいかどうかはともかく、刑法第3条の2は他の国外犯処罰規定とは異なり、同胞保護としての規定であると考えています。