司法と行刑

刑事訴訟と行政との関係についての一つの例として、死刑執行の際の法務大臣の命令があります。旧刑訴にはこれに対応する規定がありましたが、旧々刑訴には、制定当時はこの規定はありませんでした。というのも、この規定は、かつては旧刑法にあったからです。

刑法明治13年太政官布告第36号)
第13条 死刑ハ司法卿ノ命令アルニ非サレハ之ヲ行フコトヲ得ス

これについては、鶴田文書でのボアソナードの説明があります。

仏国ニテハ死刑ヲ宣告シ上告ノ期限ヲ了シタレハ其一件書類ヲ悉ク司法卿ノ一覧ニ供シ其罪状ノ次第ニ因テ赦典ヲ行フヘキヤ如何ノ批可ヲ受ケタル上其死刑ヲ執行スルコトト為セリ
其執行ノ時間ヲ猶予スルハ何故ナラハ司法卿ヨリ赦典ヲ行フヘキモノヲモ已ニ殺シタル後ニ至テハ之ヲ如何トモスヘカラサルノ不都合アルヲ恐ルゝ故ナリ

またボアソナードはこのとき、別の条文の説明の部分で何度か「刑ノ執行ニ関スル行政上ノ【ルビ「アトミニストラチーフ」】規則」という表現を使用しています。ということは、当時から刑の執行については行政の管轄下にあるという意識があったと思われます。
 
行刑と刑の執行との関係につき、団藤重光の説明では、「行刑は行政的活動であって合目的性を原理とする。一方、刑の執行は訴訟法的活動であって法的安定性を原理とする。」とされます(「刑法と刑事訴訟法の交錯」63ページ)。ですから、刑の執行指揮への不服申立は異議申立(刑訴502条)によるのに対し、行刑への不服申立は行政不服審査法を準用した審査(受刑者処遇112条以下)によります(高田「注解刑事訴訟法(下)」434ページなど)。