刑法施行法第3条の適用(後編)

前回(id:kokekokko:20070808)のつづき。
旧刑法では、同種の刑罰であっても、異なる種類の刑とされるものがありました。たとえば重懲役と軽懲役の差異は刑期の長さですが、それぞれ異なる刑であるとされ、各則でも「重懲役又ハ軽懲役ニ処ス」とされていました。

刑法旧刑法)(明治13年太政官布告第36号)
第22条 懲役ハ内地ノ懲役場ニ入レ定役ニ服ス但六十歳ニ満ル者ハ第十九条ノ例ニ従フ
2 重懲役ハ九年以上十一年以下軽懲役ハ六年以上八年以下ト為ス

また重罪につき、刑の重さに関しても、自由刑の種類にかかわらず刑期の長さを第一の判断基準としていました。

第100条 重罪軽罪ヲ犯シ未タ判決ヲ経ス二罪以上倶ニ発シタル時ハ一ノ重キニ従テ処断ス
2 重罪ノ刑ハ刑期ノ長キ者ヲ以テ重ト為シ刑期ノ等シキ者ハ定役アル者ヲ以テ重ト為ス
【3項略】

行刑法では、このような旧刑法での規定とはずいぶんと異なる方法で対照するわけですから、刑法施行法第3条のような規定が必要だったのも理解できるところです。
とはいっても、第3条は、刑法施行法のほかの規定のように「刑法施行前ニ犯シタル罪ニ付キ」であるとか「旧刑法ノ罪ニ付キ」といったような条件がつけられていませんから、対照の方法として採用せざるを得ません。特に、前回あげた判決は観念的競合についてのものであり、この場合については、重い刑種を比較してそれが重い罪を「重い罪」とする、という処理でも問題はなさそうです。
 
まとめると、刑法施行法第3条は「重キ刑ノミニ付キ対照ヲ為ス可シ」としていますが、これは、重い刑種の長期・短期がともに等しいときには軽い刑につき対照するなという旨ではなく(観念的競合の場合はそれでもよいのかもしれませんが)、旧刑法の刑期第一主義を改めて刑種第一主義を採用したものであるといえると思います。そうすると、なるほど確かに広く一般的に適用されるべきものではありますが、それは既に現行刑法第10条に織り込まれており、その意味では刑法施行法は「過渡期の規定」であるといえそうです。