汽車検疫

先日(id:kokekokko:20080505)のつづき。
汽車検疫規則が内務省令であることからもわかるとおり、検疫は内務省衛生局の所轄でした。

汽車検疫規則
第2条 汽車中ニ伝染病患者又ハ死者アリタルトキハ患者ハ之ヲ市町村立ノ伝染病院又ハ隔離病舎其ノ他適当ノ場所ニ収容治療シ死者ハ引受人ニ引渡シ若シ引受人ナキトキハ明治十五年(九月)布告第四十九号行旅死亡人取扱規則ニ準シ市町村長、区長(沖縄県ノ区長)又ハ戸長(戸長ニ準スヘキモノヲ含ム)ヲシテ其処置ヲ為サシムヘシ但該規則第二条末段ノ場合ニ於テハ発見地ノ府県税又ハ地方税ヲ以テ其ノ費用ヲ支弁スヘシ
【カッコは原文では小さい文字】

汽車検疫は府県知事(東京は警視総監)が内務大臣の認可を受けて行いました。官設鉄道で行う場合は逓信省にも申報することになっていました(第1条)。
実際には、当時の検疫対象は軍関係者が多かったので、宇品などで軍の関与のもとで行われた検疫が多かったようです。
伝染病法令をたどっていくと、政府機関から公布されたものでは明治12年の虎列刺病予防仮規則(太政官布告第23号)にたどり着くことができます。虎列刺はコレラです。ここではコレラ患者の移送についての規定があります。

第19条 虎列刺病者若クハ死者ヲ運搬シ或ハ病者若クハ死体ニ触レタル物品ヲ贈与受用スル等ノ事ハ検疫委員ノ許可ヲ得ルニアラサレハ行フ可ラス
第20条 虎列刺病者若クハ死者ヲ運搬スルニハ各地方官ニ於テ相当ノ手続ヲ定メ黄色ノ小旗ニコレラ」ノ三字ヲ黒記シテ之ヲ掲ケ世間公用ノ運送器ヲ用フルヲ許サス且其通路ハ捷近ニシテ人行ノ稀ナル所ヲ撰フヘシ又排泄物或ハ病毒ニ汚染シタル器具衣服ヲ消毒場或ハ焼却場ニ送ルモ同様ノ手続ニ随フヘシ

コレラ患者を移送するときには黄地に黒字で「コレラ」と書いて掲示せよ、となっていて、現行の規定と少し似ています。ただこちらのほうがトラ警戒色ですから目立ちます。
そしてよくみると、この仮規則では『「コレラ」ノ三字』という文言があります。三字なのは明らかなので書く必要がないはずなのですが、やはりコレラの脅威は大きかったのでしょうか、わざわざ文字数を強調した文言になっています。このあたりが、前回書いた伝染病患者鉄道乗車規程の『「伝染病者」ノ四字ヲ掲示スヘシ』のルーツなのでしょうか。だとすると、維新当時のコレラの脅威による法令文言の過剰強調が、現在にも受け継がれていることになるようです。