民法親族法

中級者を対象に、知識の整理と定着をはかることを目的とします。民法第4編・親族について。
このノートの概要はid:kokekokko:20080610:p1参照。
親族法は、民法のなかでも、ルールを設定した分野であるという側面が強いです。親族についてのルールを規定する理由は、「扶養義務の範囲設定」と「相続ルールの前提」の2点が主なところです。相続では「嫡出子」と「非嫡出子」を区別して扱う、という規定があり、その前提として親族法の領域では「嫡出子」を「婚姻している夫婦からの子」と定義して、さらに、婚姻の要件を定めて婚姻取消しの規定を設定する、というような構造になっています。親族法の規定を眺めるときには、扶養義務と相続の2つを意識しておくとよいでしょう。親族法(相続法もそうですが)の場合では、条文レベルの知識は早めに押さえていた方がよいです。
6月までの月曜日に書きます。親族法の流れは、「総則(親族の定義など)」、「婚姻・離婚」「親子・養子」「親権」「後見・保佐・補助」「扶養」の順です。

1 総則

(親族の範囲)
第725条  次に掲げる者は、親族とする。
 1 六親等内の血族
 2 配偶者
 3 三親等内の姻族

・血族: 分類すると、血縁者(自然血族)と養子縁組者(法定血族)
・配偶者: 夫婦の一方から見た他方
・姻族: 配偶者の一方と、他方の血族との関係。分類すると、(1)配偶者の血族(義父母)と(2)血族の配偶者(兄嫁)
・親等: 親密さの等級。(例)叔母の子(4親等)の配偶者は、「三親等内の姻族」に該当せず、親族ではない

(縁組による親族関係の発生)
第727条  養子と養親及びその血族との間においては、養子縁組の日から、血族間におけるのと同一の親族関係を生ずる。

・法定血族関係(養親と養子)は、血族関係を創設しようとする制度。扶養義務と相続関係が、発生する。
・養親と、縁組前の養子の子とには、法定血族関係は生じない。
 

2 婚姻

2−1 成立
・婚姻は、双方に婚姻意思があり、その意思に基づいた届出がなされた時に成立する。
・届出がなされた時とは、婚姻届が受理された時(判例)。

(婚姻の届出)
第739条1項 婚姻は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる。

婚姻の成立について重要な例(判例)は以下。
・子に嫡出子としての地位を取得させるためにした届出は、婚姻の効力を生じない。
・実質上夫婦として生活している一方の者が、勝手に婚姻届を提出した後で、他方がこれを知り追認したときは、届出時にさかのぼって婚姻は有効になる。
・婚姻意思に基づいて婚姻届を作成すれば、それが受理される前にこん睡状態に陥り意思能力を失っても、届出の受理によって婚姻は有効に成立する。
 
2−2 効果
1)姻族関係の発生: 婚姻すると、配偶者の血族との間に姻族関係が発生する。
未成年者であっても、成年と扱われる。
被保佐人は、婚姻しても行為能力制限は解除されない。
2)氏: 婚姻が成立すると、夫婦は同じ氏を称する。
3)協力義務: 夫婦は、同居し、たがいに協力・扶助する義務が生じる。
4)夫婦間契約: 婚姻中は、婚姻が実質的に破綻していない限り、夫婦間の契約はいつでも取り消すことができる。
 
2−3 取消し
・婚姻障害事由があると、婚姻はできない。
婚姻障害事由があっても、届出が誤って受理されると、婚姻は有効に成立する。
しかし、この婚姻は、取り消すことができる。当事者の一方が死亡した後でも、他方配偶者は婚姻を取り消すことができる。
 
・婚姻取消は、家庭裁判所に請求する。
請求権者は、原則として、(1)各当事者(2)その親族(3)検察官。

(不適法な婚姻の取消し)
第744条  第731条から第736条までの規定に違反した婚姻は、各当事者、その親族又は検察官から、その取消しを家庭裁判所に請求することができる。ただし、検察官は、当事者の一方が死亡した後は、これを請求することができない。
2  第732条又は第733条の規定に違反した婚姻については、当事者の配偶者又は前配偶者も、その取消しを請求することができる。

 
・詐欺・強迫による婚姻の場合も、婚姻の取消しを請求できる。ただし(民法総則の取消し規定と異なり)、3か月の経過または追認により、取消権は消滅する。

(詐欺又は強迫による婚姻の取消し)
第747条  詐欺又は強迫によって婚姻をした者は、その婚姻の取消しを家庭裁判所に請求することができる。
2  前項の規定による取消権は、当事者が、詐欺を発見し、若しくは強迫を免れた後三箇月を経過し、又は追認をしたときは、消滅する。

 
・婚姻の取消しには、遡及効はない。
婚姻による成年擬制は、取消しによる影響がない。

(婚姻の取消しの効力)
第748条  婚姻の取消しは、将来に向かってのみその効力を生ずる。
2  婚姻の時においてその取消しの原因があることを知らなかった当事者が、婚姻によって財産を得たときは、現に利益を受けている限度において、その返還をしなければならない。
3  婚姻の時においてその取消しの原因があることを知っていた当事者は、婚姻によって得た利益の全部を返還しなければならない。この場合において、相手方が善意であったときは、これに対して損害を賠償する責任を負う。

 
・婚姻の取消しでは、離婚による復氏・財産分与などを準用する。
 
2−4 婚姻障害事由
(1)婚姻適齢: 男は18歳以上、女は16歳以上。
・届が誤って受理されても、婚姻は有効に成立する。この場合、取り消すことができる。

(不適齢者の婚姻の取消し)
第745条  第731条の規定に違反した婚姻は、不適齢者が適齢に達したときは、その取消しを請求することができない。
2  不適齢者は、適齢に達した後、なお三箇月間は、その婚姻の取消しを請求することができる。ただし、適齢に達した後に追認をしたときは、この限りでない。

 
(2)重婚の禁止: 配偶者のある者が、重ねて婚姻することはできない。
・後婚は、家庭裁判所に取消請求できる。取消権者は、後婚の各当事者、その親族、各当事者の配偶者、検察官。
 
(3)近親者との婚姻の禁止: 叔父と姪、叔母と甥などは、近親者であるから婚姻できない。

(近親者間の婚姻の禁止)
第734条  直系血族又は三親等内の傍系血族の間では、婚姻をすることができない。ただし、養子と養方の傍系血族との間では、この限りでない。
2  第817条の9の規定により親族関係が終了した後も、前項と同様とする。

特別養子による実親子関係の終了では、近親者間の婚姻の禁止のみが存続する。後述。
 
・養子と養方の傍系血族: 養子は、養親の兄弟姉妹、実子と婚姻できる。
・養子と養方の直系血族、養親と養子の傍系血族、養子と養親・直系尊属は、婚姻ができない。
 
(4)直系姻族との婚姻の禁止:直系姻族(義父母など)との婚姻は、姻族関係が終了しても禁止される。
・直系姻族:養親と養子の配偶者なども、該当する。

(直系姻族間の婚姻の禁止)
第735条  直系姻族の間では、婚姻をすることができない。第728条又は第817条の9の規定により姻族関係が終了した後も、同様とする。
(養親子等の間の婚姻の禁止)
第736条  養子若しくはその配偶者又は養子の直系卑属若しくはその配偶者と養親又はその直系尊属との間では、第729条の規定により親族関係が終了した後でも、婚姻をすることができない。

 
(5)未成年者や成年被後見人の婚姻:未成年者の婚姻には、父母の同意が必要。
・父母の一方が、同意しないとき・意思表示できないときには、他の一方だけの同意でよい。
・不同意は、取消原因ではない。
・届が誤って受理されたときは、婚姻は有効に成立する。
成年被後見人は、正常な判断ができる状態になったときには、自分の判断だけで婚姻できる。
 
2−5 婚姻の解消
婚姻の解消事由は、(1)配偶者の一方の死亡、(2)離婚。
・解消により、婚姻の効果は将来に向かって消滅する。
・配偶者の一方の死亡後に、他方がその離婚の訴えを提起することはできない。
 
離婚:離婚により、姻族関係は当然に終了する。
・氏を改めていた者は、当然に復氏する。
・離婚から3か月以内に届出をすれば、そのままの氏でありつづける。

第728条  姻族関係は、離婚によって終了する。
2  夫婦の一方が死亡した場合において、生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示したときも、前項と同様とする。

 
死別:死別によって、血族と生存配偶者の姻族関係は当然には終了しない。
・生存配偶者の意思表示によって、その姻族関係は終了する。
・氏を改めていた者は、復氏することができる。

(生存配偶者の復氏等)
第751条  夫婦の一方が死亡したときは、生存配偶者は、婚姻前の氏に復することができる。
2  第769条の規定は、前項及び第728条第2項の場合について準用する。

 
2−6 離婚
離婚の分類は、(1)協議離婚(2)裁判離婚(3)調停離婚(4)審判離婚。
 
(1)協議離婚: 夫婦間の協議によって、婚姻を解消させる。
成年被後見人でも、弁識能力を一時回復しているときは、後見人の同意を得ることなく離婚できる。
・父母は、その一方を子の親権者と定めなければならない。
・親権者の指定に、条件や期限を付けることはできない。
・定めた親権者の変更は、家庭裁判所の審判による必要がある。父母の協議で変更することはできない。
・監護者を定めることもできる。
・胎児の場合は、母親が単独親権者となる。
 
離婚意思に基づく届出が、協議離婚の要件である。
・届出の時点で、離婚意思がなければ、無効となる。
生活保護の受給を継続するために離婚の届出をした場合であっても、離婚の意思に基づく届出である以上は、離婚の効果は生じる(判)
・強迫によって離婚をした者は、強迫を逃れた後に、離婚の取消しを請求できる。
・ただし、追認をした場合には、取消しを求めることはできない。

(2)裁判離婚: 当事者の一方の請求に基づき、裁判所が判決手続によって婚姻を解消させる。
・判決の確定によって、離婚の効果が生じる。

(裁判上の離婚)
第770条  夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
 1 配偶者に不貞な行為があったとき。
 2 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
 3 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
 4 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
 5 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
2  裁判所は、前項第1号から第4号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

 
(3)離婚の際の請求権: 財産分与と慰謝料を、請求できる。
・財産分与請求権: 財産を清算し、離婚後の一方当事者の生計を維持するための権利
・慰謝料請求権: 相手方の有責行為により離婚せざるを得なくなった精神的苦痛を償うための権利
・両者の請求権は、いずれも選択的に行使できる。
・財産分与を受けていても、それでは精神的苦痛を償えない場合には、慰謝料も請求できる。
 
2−7 離婚
内縁とは、共同生活を営んでいる事実上の夫婦で、届出をしていないため法律上の夫婦ではないもの。
・姻族関係が発生せず、相続権もない。成年擬制もない。
・しかし、内縁関係を不当に破棄された者は、相手方に対して、婚姻予約の不履行を理由に、損害賠償請求できる。
不法行為による損害賠償請求ができる。たとえば、内縁の当事者でない者が、不当な干渉を行って内縁関係を破綻させたときは、不法行為責任を負う。
・内縁夫婦の一方が死亡して、内縁関係が解消しても、財産分与の規定は類推されない。