民事訴訟法・管轄

中級者を対象に、知識の整理と定着をはかることを目的とします。民事訴訟法第1編第2章「裁判所」について。
このノートの概要はid:kokekokko:20080610:p1参照。
資格試験や検定試験では、民事訴訟法には「大きな論点」は少ないです。むしろ、手続きの流れを押さえることによって理解できる分野です。法科大学院や司法試験の場合はともかくとして(その場合はこのサイトの[受験]タグをつけた記事は、あまり役に立ちません)、ここでは大雑把に規定を眺めていくことにします。
6月までの隔週金曜日に書きます。ここで扱うのは管轄・移送についてです。
【やや詳細な内容をid:kokekokko:20090522:p1へ移しました。ここでは、おおまかな規定趣旨のみを残しています。】

1 管轄

1 管轄の種類
■ 裁判は、被告の住所を管轄する裁判所で行う(原則)。不意打ちで訴えられる被告を保護するため。
・管轄: 裁判所間の裁判権の分掌に関する定め。「訴えの提起をどこの裁判所で行うべきなのか」という問題。
・管轄権: 裁判所が裁判権を行使できる権限の範囲。

(職権証拠調べ)
第14条  裁判所は、管轄に関する事項について、職権で証拠調べをすることができる。
(管轄の標準時)
第15条  裁判所の管轄は、訴えの提起の時を標準として定める。

管轄権の問題については職権主義が採用される。これは、民事訴訟の原則である「当事者主義」「当事者の主張による裁判官拘束」に対する例外である。
また、訴えの提起の後で被告が住所を変更しても、裁判所の管轄権はかわらない。
 
2 土地管轄
・土地管轄: 「一定の区域の事件をどの裁判所の管轄とするか」についての定め。(1)普通裁判籍、(2)特別裁判籍、などの種類がある。
 
2−1.普通裁判籍

(普通裁判籍による管轄)
第4条1項 訴えは、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所の管轄に属する。

原則は、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所の管轄である。(被告の保護)
普通裁判籍は、住所地である。住所がない場合などでは、居所である。
 
2−2.特別裁判籍
・特別裁判籍: 事件の類型ごとに、普通裁判籍と異なる裁判籍も、競合的に認められる場合がある。
■ 不法行為による損害賠償請求権の場合、被告の住所地による管轄だと被告に有利になるので、不法行為があった地や原告の住所での裁判も、認められる。
損害賠償請求権の場合、財産権上の義務履行地は、通常は原告の住所となる。金銭債権は持参債務であるから。

(財産権上の訴え等についての管轄)【一部】
第5条  次の各号に掲げる訴えは、それぞれ当該各号に定める地を管轄する裁判所に提起することができる。
 1  財産権上の訴え 義務履行地
 2  手形又は小切手による金銭の支払の請求を目的とする訴え 手形又は小切手の支払地
 9  不法行為に関する訴え 不法行為があった地
 12  不動産に関する訴え 不動産の所在地
 13  登記又は登録に関する訴え 登記又は登録をすべき地

2号(手形・小切手)は1号と同趣旨。
12号(不動産に関する訴え)は、売買代金・賃料についての訴訟ではなく、物権的請求権などによる請求をいう。13号(登記に関する訴え)も含めて、不動産に関する例外は重要。
 
3 例外的な管轄
3−1.事物管轄
事物管轄: 第一審における地裁と簡裁の分担についての規定。
訴額が140万円を超えない場合には、簡易裁判所の管轄となる。
 
3−2.専属管轄
・専属管轄: 一定の条件の場合に、特定の裁判所にのみ管轄を認めること。
専属管轄に違反した裁判は、控訴・上告理由となる。ただし、再審事由ではない。
 
特許権等に関する訴えでは、東日本は東京地裁、西日本は大阪地裁が専属管轄となる。裁判所に専門的知識が要求されるから。
控訴審の高裁は、東京高裁が専属管轄となる。

特許権等に関する訴え等の管轄)
第6条1項  特許権実用新案権、回路配置利用権又はプログラムの著作物についての著作者の権利に関する訴え(以下「特許権等に関する訴え」という。)について、前二条の規定によれば次の各号に掲げる裁判所が管轄権を有すべき場合には、その訴えは、それぞれ当該各号に定める裁判所の管轄に専属する。
 1  東京高等裁判所名古屋高等裁判所仙台高等裁判所又は札幌高等裁判所の管轄区域内に所在する地方裁判所 東京地方裁判所
 2  大阪高等裁判所、広島高等裁判所、福岡高等裁判所又は高松高等裁判所の管轄区域内に所在する地方裁判所 大阪地方裁判所

  
3−3.合意管轄
■ 「この契約に基づく訴訟の第一審裁判所は、東京地方裁判所とする。」という文言を、契約書に入れることができる。
合意管轄: 当事者が合意によって管轄を定めるもの。
合意管轄ができる要件は、(1)第一審に関するものであること、(2)一定の法律関係に基づく訴え、(3)書面によること、(4)裁判所が特定されていること。
専属管轄の規定があれば、合意管轄はできない。
「一定の法律関係」に基づく訴えに関するものでなければならない。当該契約に関する争訟というように特定する必要がある。
合意管轄は契約書に規定されることが多いが、当該契約を解除しても合意管轄は遡って無効になることはない。
合意管轄のうち専属的合意管轄(「訴えの提起は〜地裁にのみ」)は、普通裁判籍・特別裁判籍を排除して、合意管轄の裁判所のみに専属する。
 
3−4.応訴管轄
管轄と異なる裁判所に訴えを提起された被告は、管轄違いの抗弁を提出することができる。
応訴管轄: 被告が、管轄違いの抗弁を提出しないで応訴(裁判に対応すること)すれば、その裁判所に管轄権が生じる。
「本案について弁論をし、又は弁論準備手続において申述をしたとき」に、応訴管轄が発生する。訴え却下の申立ては、本案についての弁論にあたらない。

(応訴管轄)
第12条  被告が第一審裁判所において管轄違いの抗弁を提出しないで本案について弁論をし、又は弁論準備手続において申述をしたときは、その裁判所は、管轄権を有する。

なお、専属的合意管轄については応訴管轄が生じるが、専属管轄については、応訴管轄は生じない。
 
3−5.併合請求と共同訴訟 
■ 被告が2人いるときには、そのうちの1人の被告の管轄となる裁判所に、被告全員の請求を訴えることができる(原則)。
併合請求(請求が複数): 1つの訴えで数個の請求をする場合には、それらのうちの1つの請求について存在する管轄の裁判所に、全部の請求を訴えることができる。
共同訴訟(原告・被告が複数): 原告が数人を訴えるときは、「権利又は義務が数人について共通であるとき」または「同一の原因に基づくとき」に、数人のうちの1人について存在する管轄の裁判所に、全員の請求を訴えることができる。