刑法各論・財産犯

前回(id:kokekokko:20090403#p1)のつづき。

2 強盗罪

(強盗)
第236条  暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。
2  前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

1 成立要件
2項(利益)強盗がある。財物を奪い取る場合だけでなく、不正の利益を得る行為(契約書にサインさせる行為など)でも強盗罪が成立する。
暴行・脅迫は、被害者の反抗を抑圧する程度であり、また財物を強取する目的が必要。ただし、財物の被害者に向けられる必要はなく、窃盗の機会であればよい。被害者が財物強取に気づかない場合にも、強盗罪が成立。
強盗罪の実行の着手は、暴行・脅迫の開始時点。
 
・強盗を目的として暴行したが、財物を奪わず逃走: 強盗未遂罪成立。財物の強取がないので既遂に達していない。
・強盗を目的として住居に侵入したが、家人が不在なので財物を奪い逃走: 強盗罪不成立。実行の着手(暴行・脅迫)がない。
・怨恨目的で暴行した後で、財物を奪う意思が起きた: 強盗罪不成立。暴行・脅迫が強盗目的ではない。(暴行罪と窃盗罪の併合罪
・強盗を目的としてAの住居に侵入したが、Aが不在なので来客Bを暴行して、Aの財物を奪う行為: 強盗罪成立。暴行・脅迫の相手は財物所持者に限らない。
・強盗を目的としてナイフを突きつけ金品を要求したが、相手が武術の達人だった。しかし相手はケガをおそれておとなしく所持金を手渡した。: 強盗罪成立。「犯行を抑圧する程度」は客観的に評価され、相手が武術の達人だったとしても強盗罪での暴行・脅迫とされる(判例)。
・強盗を目的としてナイフを突きつけ金品を要求したが、相手が逃げ出した。そのとき相手は財布を落とし、後でそれを見つけて拾った。: 強盗未遂罪成立。暴行・脅迫と財物奪取との間の因果関係がない。
・タクシー代金を踏み倒そうとして、目的地でいきなり運転手の首を絞めて逃走する行為: 2項強盗罪成立。タクシー運転手の財産処分行為は不要。
・強盗の現場に出くわしたことを機会として、負傷している被害者の所持品を奪う行為: 強盗罪不成立。実行行為(暴行・脅迫)がない。(強盗犯人との共謀等があれば、強盗罪の共犯)
 
2 事後強盗罪

(事後強盗)
第238条  窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。

身分犯。行為者は、窃盗の実行に着手した者。
目的犯。(1)財物を得てこれを取り返すことを防ぐ、(2)逮捕を免れる、(3)罪跡を隠滅する、のいずれかの目的が必要。
暴行・脅迫は、窃盗の機会に行われることを要する。窃盗と、時間・場所が離れた暴行・脅迫の場合は、事後強盗とされない。
窃盗の財物窃取が未遂の場合は、事後強盗罪も未遂となる。
 
・Aの財物を奪った窃盗が、追いかけてきた通行人Bを暴行する行為: 事後強盗罪成立。暴行・脅迫の相手は、財物所持者に限らない。
・財物を奪った窃盗が直後に店員に取り押さえられ、財物を捨てて証拠を隠すために店員を突き倒す行為: 事後強盗罪成立。窃盗の既遂が成立しているために、事後強盗罪も成立する。
・窃盗を目的として住居に侵入したが、すぐに家人に見つかったので逮捕を免れるためにこれに暴行を加え逃走: 事後強盗罪不成立。窃盗の実行の着手がないために、身分がない。
・Aの住居で窃盗したが、家人が帰宅したので、これに暴行を行いさらに財物を奪う行為: 事後強盗罪不成立。通常の強盗罪が成立するから。(居直り強盗。最初の窃盗は後の強盗罪に吸収される)
・住居の一室で窃取を行い、隣室にいた家人に暴行を加えて金品を奪った: 事後強盗罪不成立。通常の強盗罪が成立。
・窃盗で得た盗品を、船で運び翌日の朝に他県で陸揚げする際に、警官に見つかりこれに暴行を加え逃走: 事後強盗罪不成立。窃盗行為と、時間・場所が離れている。
 
3 強盗致死傷罪

(強盗致死傷)
第240条  強盗が、人を負傷させたときは無期又は六年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。

240条の類型

傷害結果 死亡結果
故意なし 強盗致傷罪 強盗致死罪
故意あり 強盗傷害罪 強盗殺人罪

240条の既遂時期は、致死傷結果の発生の時点(財物強取の時点ではない)。240条の未遂(243条)に該当する典型は、「殺意をもって強盗したが、死傷しなかった」(強盗殺人未遂)のみをチェックすればよい。(それ以外の死傷結果不発生は、通常の強盗罪)
死傷結果は、強盗の機会に行われた行為によるものでよい(判例)。財物強取の手段の暴行・脅迫(これは強盗罪成立の要件)によらない暴行でもよい。
 
・強盗が財物を奪取できなかったが、相手が傷害を負った: 強盗致傷罪成立。240条では、財物奪取が成功したかどうかにかかわらず、致死傷結果の発生により成立する。
・事後強盗の機会の暴行で、相手が傷害を負った: 強盗致傷罪成立。事後強盗の機会による死傷結果発生は、240条による。
・強盗の目的で銀行員に拳銃を発射したところ、弾丸が通行人に命中し、この通行人が死亡: 強盗殺人罪成立。判例は、殺人における故意の数・対象を考慮しない。通行人に対する強盗殺人罪が成立する。
・強盗が、翌日に、犯行発覚を防ぐことを決意して強盗被害者を呼び出して殺害: 強盗殺人罪不成立。この殺害行為は、強盗の機会に行われた行為とはいえない。(強盗罪と殺人罪が成立し、併合罪)。
・強盗の目的で脅迫したが騒がれたため、何も取らずに逃げようとしたところ、相手に抵抗されたので殺害して逃走: 強盗殺人罪成立。240条では、財物奪取が成功したかどうかによらない。
・強盗の目的でナイフを持って脅迫したところ、相手がたまたまナイフを手で握って、手に傷害を負った: 強盗致傷罪成立。強盗の機会に生じた傷害といえる。
 
4 強盗強姦罪・致死罪

(強盗強姦及び同致死)
第241条  強盗が女子を強姦したときは、無期又は七年以上の懲役に処する。よって女子を死亡させたときは、死刑又は無期懲役に処する。

身分犯。行為者は、強盗の実行に着手した者(財物強取の手段の暴行・脅迫を開始)。
既遂時期は、強姦の時点(財物強取の時点ではない)。
 
・強姦の後で、犯人が被害者の畏怖に乗じて強盗しようとして、財物を強取: 強盗強姦罪不成立。強姦の時点で、強盗の身分がない。強姦罪と強盗罪が成立し、併合罪
・強盗の目的で相手に暴行を加えて、さらに強姦したが、財物を奪わずに逃走: 強盗強姦罪成立。既遂時期は、強姦の時点。
・強盗傷害の故意で暴行を加え、さらに強姦し、相手が負傷: 強盗強姦罪成立。傷害結果の有無は、241条の成立に無関係。
・強盗の故意で暴行を加え、さらに強姦し、その後に殺害の故意をもって相手を殺害する行為: 強盗強姦致死罪不成立(判例)。殺意がある場合には、241条は成立しない(傷害致死罪と同様)。強盗強姦罪と強盗殺人罪が成立し、観念的競合。