民事訴訟法・総則

前回(id:kokekokko:20090410#p1)のつづき。

2 移送

1 移送の拘束力
移送: いったん係属した訴訟を別の裁判所に移すこと。管轄違いの訴えの提起は、原則的には、移送される。
移送が確定すると、他の裁判所へ移送することはできない。

(移送の裁判の拘束力等)
第22条  確定した移送の裁判は、移送を受けた裁判所を拘束する。
2  移送を受けた裁判所は、更に事件を他の裁判所に移送することができない。
3  移送の裁判が確定したときは、訴訟は、初めから移送を受けた裁判所に係属していたものとみなす。

消滅時効前に訴えを提起したとき(時効は停止する)、移送によって消滅時効が完成することはない。
移送の決定に対しては、即時抗告をすることができる。

(即時抗告)
第21条  移送の決定及び移送の申立てを却下した決定に対しては、即時抗告をすることができる。

 
専属管轄の場合には、移送は認められない。ただし、合意管轄の場合を除く。

(専属管轄の場合の移送の制限)
第20条1項  前3条の規定は、訴訟がその係属する裁判所の専属管轄(当事者が第11条の規定により合意で定めたものを除く。)に属する場合には、適用しない。

 
2 移送の種類
(1)

管轄権のない裁判所へ、訴えの提起があった場合: 申立て又は職権で、必ず移送する。

(管轄違いの場合の取扱い)
第16条1項  裁判所は、訴訟の全部又は一部がその管轄に属しないと認めるときは、申立てにより又は職権で、これを管轄裁判所に移送する。

 
(2)
管轄権のある裁判所からの、遅滞を避ける等のための移送: 申立て又は職権で、移送することができる。
要件は、「訴訟の著しい遅滞を避ける」または「当事者間の衡平を図る」ため必要があると認めるとき。

(遅滞を避ける等のための移送)
第17条  第一審裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合においても、当事者及び尋問を受けるべき証人の住所、使用すべき検証物の所在地その他の事情を考慮して、訴訟の著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るため必要があると認めるときは、申立てにより又は職権で、訴訟の全部又は一部を他の管轄裁判所に移送することができる。

 
(3)
管轄権のある簡易裁判所からの、地方裁判所への裁量移送: 申立て又は職権で、移送することができる。
簡易裁判所に管轄権のある訴訟でも、簡裁の裁量により、地方裁判所へ移送することができる。
また逆に、簡裁に管轄権がある訴えの提起であっても、地裁は、申立て又は職権で、移送しないことができる。

簡易裁判所の裁量移送)
第18条  簡易裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合においても、相当と認めるときは、申立てにより又は職権で、訴訟の全部又は一部をその所在地を管轄する地方裁判所に移送することができる。

 
(管轄違いの場合の取扱い)
第16条2項 地方裁判所は、訴訟がその管轄区域内の簡易裁判所の管轄に属する場合においても、相当と認めるときは、前項の規定にかかわらず、申立てにより又は職権で、訴訟の全部又は一部について自ら審理及び裁判をすることができる。ただし、訴訟がその簡易裁判所の専属管轄(当事者が第11条の規定により合意で定めたものを除く。)に属する場合は、この限りでない。

 
(4)
当事者の申立て・相手方の同意による移送: 申立てにより、必ず移送する。
例外) 被告が本案について弁論をし、又は弁論準備手続において申述をした後では、実質的な訴訟手続きが開始されているので、移送しない。
さらなる例外) 簡易裁判所から、その所在地を管轄する地方裁判所へ移送する申立てのときは、当事者双方の「簡裁ではなく地裁で審理したい」という意思を尊重するので、実質審理開始後であっても必ず移送する。

(必要的移送)
第19条1項  第一審裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合においても、当事者の申立て及び相手方の同意があるときは、訴訟の全部又は一部を申立てに係る地方裁判所又は簡易裁判所に移送しなければならない。ただし、移送により著しく訴訟手続を遅滞させることとなるとき、又はその申立てが、簡易裁判所からその所在地を管轄する地方裁判所への移送の申立て以外のものであって、被告が本案について弁論をし、若しくは弁論準備手続において申述をした後にされたものであるときは、この限りでない。

 
(5)
特許権等に関する訴え: 申立て又は職権で、移送することができる。
専属管轄であっても、「審理すべき専門技術的事項を欠く」(審理するうえで専門技術的事項が不要である訴訟である)場合には、普通裁判籍などを有する他の裁判所に移送できる。

特許権等に関する訴え等に係る訴訟の移送)
第20条の2  第6条第1項各号に定める裁判所は、特許権等に関する訴えに係る訴訟が同項の規定によりその管轄に専属する場合においても、当該訴訟において審理すべき専門技術的事項を欠くことその他の事情により著しい損害又は遅滞を避けるため必要があると認めるときは、申立てにより又は職権で、訴訟の全部又は一部を第4条、第5条若しくは第11条の規定によれば管轄権を有すべき地方裁判所又は第19条第1項の規定によれば移送を受けるべき地方裁判所に移送することができる。
2  東京高等裁判所は、第6条第3項の控訴が提起された場合において、その控訴審において審理すべき専門技術的事項を欠くことその他の事情により著しい損害又は遅滞を避けるため必要があると認めるときは、申立てにより又は職権で、訴訟の全部又は一部を大阪高等裁判所に移送することができる。

 
(6)
簡易裁判所の不動産に関する訴訟: 申立てにより、必ず移送する。
不動産に関する訴訟(訴額が140万円以下)は、簡裁・地裁の双方に管轄が認められているので、原告と同じく被告にも、裁判所に関する選択権を与えている。
例外) 被告が本案について弁論をし、又は弁論準備手続において申述をした後では、実質的な訴訟手続きが開始されているので、移送しない。

(必要的移送)
第19条2項 簡易裁判所は、その管轄に属する不動産に関する訴訟につき被告の申立てがあるときは、訴訟の全部又は一部をその所在地を管轄する地方裁判所に移送しなければならない。ただし、その申立ての前に被告が本案について弁論をした場合は、この限りでない。

 
(7)
簡易裁判所の特則: 申立てにより、必ず移送する。
簡裁での訴訟に対する反訴が、地裁の管轄に属する請求に関するものである場合、本訴も、当該地裁へ移送される。
通常の移送では認められる不服申立て(即時抗告)が、ここでは認められない。

(反訴の提起に基づく移送)
第274条  被告が反訴で地方裁判所の管轄に属する請求をした場合において、相手方の申立てがあるときは、簡易裁判所は、決定で、本訴及び反訴を地方裁判所に移送しなければならない。この場合においては、第22条の規定を準用する。
2  前項の決定に対しては、不服を申し立てることができない。

 

3 送達

1 送達の原則
送達: 訴訟関係人に、訴訟上の書類を交付すること。

通常は、送達を受けるべき者(被告など)の住所等に、裁判所書記官が、送達すべき書類を郵便で送るなどでする。ただし、(1)住所が知れないとき、(2)その場所において送達をするのに支障があるとき、(3)本人がその旨の申述をしたとき、のいずれかの場合には就業場所(雇用により就業する他人の住所等)へ送ってもよい。

(交付送達の原則)
第101条  送達は、特別の定めがある場合を除き、送達を受けるべき者に送達すべき書類を交付してする。
 

(送達場所)
第103条  送達は、送達を受けるべき者の住所、居所、営業所又は事務所(以下この節において「住所等」という。)においてする。ただし、法定代理人に対する送達は、本人の営業所又は事務所においてもすることができる。
2  前項に定める場所が知れないとき、又はその場所において送達をするのに支障があるときは、送達は、送達を受けるべき者が雇用、委任その他の法律上の行為に基づき就業する他人の住所等(以下「就業場所」という。)においてすることができる。送達を受けるべき者(次条第1項に規定する者を除く。)が就業場所において送達を受ける旨の申述をしたときも、同様とする。
 
(送達場所等の届出)
第104条1項  当事者、法定代理人又は訴訟代理人は、送達を受けるべき場所(日本国内に限る。)を受訴裁判所に届け出なければならない。この場合においては、送達受取人をも届け出ることができる。

 
2 例外
例外として、以下の送達がある
出会送達: 送達を受けるべき者に出会った場所で、送達をすることができる。条件は、(1)住所が判明しない者、または(2)送達を受けるべき者が出会送達を拒まないとき。
就業場所以外での補充送達: 送達を受けるべき者に出会わないときは、「使用人その他の従業者」又は「同居者」(いずれも、受領について相当のわきまえのある者。幼児等は不可)に、書類を交付することができる。(受領義務がある)
差置送達: 送達を受けるべき者又は受領義務がある者が、正当な理由なく交付を拒んだときは、送達をすべき場所に書類を差し置くことができる。
就業場所での補充送達: 送達を受けるべき者に出会わないときは、「就業場所の使用人その他の従業者」(受領について相当のわきまえのある者。幼児等は不可)等が交付を拒まないときに、その者に書類を交付することができる。
 
書留郵便等に付する送達: 上記の送達ができない場合、裁判所書記官は、送達を受けるべき者の住所等にあてて、書類を書留郵便などに付して発送することができる。この場合には、発送の時に、送達があったものとみなす。書類の到着を確認しなくてもよい。被告には、擬制自白が成立する。

(書留郵便等に付する送達)
第107条  前条の規定により送達をすることができない場合には、裁判所書記官は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める場所にあてて、書類を書留郵便【その他の手段を省略】に付して発送することができる。
 1  第103条の規定による送達をすべき場合 同条第1項に定める場所
 2  第104条第2項の規定による送達をすべき場合 同項の場所
 3  第104条第3項の規定による送達をすべき場合 同項の場所(その場所が就業場所である場合にあっては、訴訟記録に表れたその者の住所等)
2  前項第2号又は第3号の規定により書類を書留郵便等に付して発送した場合には、その後に送達すべき書類は、同項第2号又は第3号に定める場所にあてて、書留郵便等に付して発送することができる。
3  前二項の規定により書類を書留郵便等に付して発送した場合には、その発送の時に、送達があったものとみなす。

 
公示送達: 被告が所在不明の場合には、裁判所書記官が、裁判所の掲示場に掲示する。2週間の経過によって、相手に送達されたものとみなされる。ただし、被告に擬制自白は成立しない。

(公示送達の要件)
第110条  次に掲げる場合には、裁判所書記官は、申立てにより、公示送達をすることができる。
 1  当事者の住所、居所その他送達をすべき場所が知れない場合
 2  第107条第1項の規定により送達をすることができない場合
 3  外国においてすべき送達について、第108条の規定によることができず、又はこれによっても送達をすることができないと認めるべき場合
 4  第108条の規定により外国の管轄官庁に嘱託を発した後六月を経過してもその送達を証する書面の送付がない場合
2  前項の場合において、裁判所は、訴訟の遅滞を避けるため必要があると認めるときは、申立てがないときであっても、裁判所書記官に公示送達をすべきことを命ずることができる。
3  同一の当事者に対する二回目以降の公示送達は、職権でする。ただし、第1項第4号に掲げる場合は、この限りでない。