民法相続法

前回(id:kokekokko:20090420:p1)のつづき。家族法が終了したので、相続法(民法第5編)へ移ります。

1 相続

1 総則
・開始: (1)死亡、(2)失踪宣告による死亡擬制
・開始場所: 被相続人(死亡した者)の住所。
・効果: 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。
・取消権、損害賠償義務なども、被相続人が承継する。
被相続人一身専属権は、相続しない。例)身元保証人の地位
 
2 相続人
2−1 相続人の順位

・配偶者: 被相続人の配偶者は、常に相続人となる。
・内縁者や婚姻解消者は含まない。
 
・子: 被相続人の子は、相続人となる。
・(1)非嫡出子、(2)養子、(3)胎児も含まれる。
代襲相続: 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又はその相続権を失ったときは、その者の子が相続人となる。(子がいないときには孫が相続)
・相続の開始以前に死亡したとき: 子が先に死亡したとき、あるいは同時に死亡したとき。
・廃除や欠格は、代襲の原因となる。相続の放棄は、代襲の原因とはならない。
代襲相続できるのは、被相続人直系卑属に限られる。養親の直系卑属でない養子は、代襲相続できない。
・再代襲相続: 代襲相続人も先に死亡しているときには、その者の子が相続人となる。(孫がいないときにはひ孫が相続)
 
・子が相続せず、代襲相続もないときは、(1)被相続人直系尊属(親等の近い者から)、(2)被相続人の兄弟姉妹、の順位で相続する。
・相続人がいない場合には、家庭裁判所が認めた特別縁故者に財産を分与する。
特別縁故者: (1)被相続人と生計を同じくしていた者、(2)被相続人の療養看護に努めた者、(3)その他被相続人と特別の縁故があった者。
・分与されない財産は、国庫に帰属する。
 
2−2 欠格事由
・欠格事由に該当する者は、相続人となることができない。
・欠格事由は、相続能力の否定ではなく、当該被相続人を相続する資格だけを否定する。

(相続人の欠格事由)
第891条  次に掲げる者は、相続人となることができない。
 1  故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
 2  被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
 3  詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
 4  詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
 5  相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者

・殺人予備は欠格事由に該当するが、傷害致死は「故意」ではないため、欠格事由に該当しない(判例)。
・殺害者が自己の傍系血族(兄弟姉妹)のときには、告発・告訴しなければ、欠格事由に該当する。
・遺言書の廃棄では、相続に関して不当な利益を得ることを目的としたものでなければ、相続人となることができる(判例)。
 
2−3 廃除
・推定相続人: 相続が開始した場合に相続人となるべき者。被相続人の死亡により、推定相続人は相続人となる。
遺留分: 一定の相続人に対して認められる、遺言などでは奪うことができない、相続財産の割合。たとえば、配偶者は、相続財産の2分の1を遺留分として認められ、これは遺言などでは奪うことができない。
・廃除: 被相続人の意思により、推定相続人に対して、遺留分を含めた相続権を奪う制度。
遺留分をもつ推定相続人に対する制度。(遺留分がない者に対しては、遺言によって相続させないことができるから)
・要件: (1)被相続人に対する虐待・重大な侮辱、(2)その他の著しい非行、があったとき
被相続人は、推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求する。家庭裁判所の審判・調停により、廃除の効果が発生する。
・廃除事由は、相続能力の否定ではなく、当該被相続人を相続する資格だけを否定する。
 
3 相続の承認
3−1 承認・放棄

・相続人は、相続を(1)放棄、(2)単純承認、(3)限定承認することができる。
・相続の放棄: 相続人は、意思により相続を放棄することができる(負債が多い場合など)。
・相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
・単純承認: 相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。
・限定承認: 相続人は、限定承認をしたときは、相続財産の限度においてのみ被相続人の債務などを弁済する。
 例)債務の額が相続財産を上回っている場合、限定承認を選択すると、結局、相続人には何も残らない。
 
・共同相続人の限定承認: 相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同して行わなければならない。
・共同相続人の1人が単純承認すると、他の相続人は限定承認できなくなる。
・共同相続人の1人が相続放棄しても、他の相続人は限定承認できる。相続放棄した者は「初めから相続人とならなかった」ことになるから。
・混同: 債務者が債権者を相続した場合でも、債務者が限定承認すれば、その債権は混同により消滅しない。
 
3−2 承認・放棄の時期
・承認・放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から、3か月以内にしなければならない(熟慮期間)。
・この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
・相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から、3か月以内。
・熟慮期間は、相続人ごとに進行する。共同相続人の1人につき熟慮期間が経過しても、他の者は承認・放棄することができる。
・相続開始の前に相続を放棄することは、できない。
 
3−3 撤回・取消し
・撤回: 相続の承認及び放棄は、熟慮期間内であっても、撤回することができない。
・取消し: 一般規定による取消しはできる(詐欺・強迫など)。この取消しは、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
 
3−4 法定単純承認
・法定単純承認: 要件を満たすとき、相続人が単純承認したものとみなす制度。
・要件:(1)相続人が相続財産を処分したとき、(2)熟慮期間を経過したとき、(3)相続財産を隠匿等したとき。

(法定単純承認)
第921条  次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
 1  相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
 2  相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
 3  相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。

・相続財産である建物の不法占拠者に対して、明渡しを求めても、保存行為であり、単純承認とはみなされない(判例
・相続人が未成年者のときは、法定代理人の行為により、法定単純承認の要件が判断される。
 例)相続人の親権者が、相続財産を売却したときは、相続人は単純承認したものをみなされる。